3種のカバークロップにおける播種密度の違いが群落被覆率および雑草抑制に与える影響 内野 宙*・杉浦 恵理・岩間 和人・寺内 方克・実山 豊 (北海道大学大学院農学研究科) The effect of sowing density in three cover crops on their canopy coverage and weed control ability H. Uchino*, E. Sugiura, K. Iwama, T. Terauchi and Y. Jitsuyama (Graduate School of Agriculture, Hokkaido University) 近年、除草剤に頼らない雑草抑制手段の一つとしてカバークロップの利用が注目されている。しかし、カバーク ロップは雑草だけでなく主作物の生育も抑制するという事例も報告されており、その利用法にはまだ課題が残って いる。これまでに本研究室では、主作物との混作に適したカバークロップの特性を明らかにするために10種のカ バークロップの比較試験を行い、生育初期におけるカバークロップの被覆率が雑草乾物重に強く影響し、カバー クロップの出芽種子重(=播種粒数×種子重×出芽率)と密接に関係することを明らかにした(内野ら,2004)。本 年度は、2003 年度の実験で雑草抑制能力が高いと評価された3種類のカバークロップを用い、3水準の播種密度 を設け、播種密度の違いが被覆率および雑草抑制効果におよぼす影響について検討した。 材料と方法 実験は 2004 年に北海道大学北方生物圏フィールド科学センター生物生産研究農場において行った。2003 年 度の実験において、雑草抑制能力が高いと評価された秋播き性ライムギのふゆ緑(以下、ライムギ)、秋播き性コム ギのマルチムギ(以下、コムギ)およびヘアリーベッチのまめ屋(以下、ベッチ)の3種のカバークロップを用い、そ れぞれ3水準の播種密度で 7 月 5 日に裸地に散播した(第1表)。区制は4反復の乱塊法とした。肥料として、播種 の 71 日前に完熟牛糞稲わら堆肥(窒素含有率 0.762%)3t/10a を土壌にすき込んだ。播種後 10 日目(以下、DAS) にカバークロップ出芽率を、28 および 72DAS にカバークロップ被覆率および雑草乾物重を測定した。また、 81DAS にイネ科カバークロップの分げつ数と枯死個体率を測定した。なお、被覆率の測定では、各区3ヶ所の 40 ×20cm コドラート内の雑草を採取してカバークロップのみの群落にした後、上方からデジタルカメラで撮影し、こ の画像を用いて 5cm四方の格子内ごとにカバークロップの占有率を肉眼により判定し、40×20cmの範囲における 平均値を被覆率とした。 結果と考察 雑草乾物重にはカバークロップ種間および播種密度間で有意な差異が認められ、ベッチ区および密植区で雑 草が少なかった(第2表)。カバークロップ被覆率においてもカバークロップ種間および播種密度間で有意な差異 が認められ、ベッチ区および密植区で高かった(第2表)。特にベッチ区はライムギ区,コムギ区に比べ 28DAS か ら高い被覆率を維持していた。ライムギ区は28DASから72DASにかけて被覆率が増加した一方、コムギ区では減 少したが、これは、本実験で供試したコムギがライムギと比較して分げつ数が少なく、枯死個体率が高かったこと (第3表)に起因するものと考えられた。28DAS におけるカバークロップ被覆率と 72DAS における雑草乾物重には 有意な負の相関関係(r=-0.845**)が認められたことから、28DAS におけるカバークロップ被覆率が高いほど雑 草の発生量が小さくなることが再確認された。出芽種子重と 28DAS におけるカバークロップ被覆率との間には高 い正の相関関係が認められ(第1図)、出芽種子重を高めることが 28DAS における被覆率を高める上で重要である ことが明らかになった。さらに、出芽種子重の構成要素である出芽率と種子重との間にも有意な正の相関関係 (r=0.878**)が認められた。種子重は、それ自体が出芽種子重の構成要素の一つであると同時に、出芽率とも高い 相関があったことから、出芽種子重に強く影響を与えていると考えられた。しかし、種子の大きさはカバークロップ 種間での差異は大きいものの種内における差異は小さく、容易に変えることが難しい。そのため、比較的容易に変 えることのできる要素である播種粒数を増やすことによって出芽種子重を大きくし、その結果 28DAS におけるカバ ークロップ被覆率を高めることによって雑草を抑制できると考えられた。 引用文献 内野ら 2004. 日作紀 73(別2):204-205 秋播き性コムギ (マルチムギ) 疎植 標準植 密植 100 200 400 3.7 7.4 14.8 64.8 bc 55.9 c 51.4 c ヘアリーベッチ (まめ屋) 疎植 標準植 密植 100 200 400 4.1 8.1 16.3 91.4 ab 100.0 a 92.6 ab ***3) 1) 各値は4反復の平均値を示す。 2) 各列の同じ英文字 間にはTukeyの多重検定(P<0.05)で有意差がないことを 示す。 3) ***は0.1%水準で有意であることを示す。 ANOVA 100 28DASカバークロップ被覆率(%) 第1表 供試カバークロップの播種密度および出芽率(%) 処理区 播種密度 出芽率 カバークロッ プ種 播種密度 粒/ ㎡ g/ ㎡ 100 3.3 57.81)c2) 秋播き性ライムギ 疎植 200 6.6 47.3 c (ふゆ緑) 標準植 400 13.2 55.5 c 密植 R2=0.810*** 50 0 0 第3表 81DASにおけるライムギとコムギの 分げつ数および枯死個体率 分げつ数 枯死個体率 ( 本/ 個体) ( %) 10.11) 10.0 ライムギ 6.6 46.7 コムギ 10 20 出芽種子重(g/㎡) 第1図 出芽種子重と28DASにおける 被覆率との相関関係 出芽種子重=播種重量(g/㎡)×出芽 率(%)/100。 ***は0.1%水準で有意 であることを示す。 ***2) *** 1) 第1表の1)と同じ。 2) ***は0.1%水準 で有意であることを示す。 ANOVA 第2表 28DASおよび72DASにおける雑草乾物重(g/㎡)およびカバークロップ被覆率(%) 処理区 カバークロッ プ種 播種密度 ライムギ 疎植 標準植 密植 雑草乾物重 28DAS 72DAS 1231)a2) 1178 a 103 abc 742 abc 103 abc 391 bc カバークロッ プ被覆率 28DAS 72DAS 19.9 e 32.7 cd 44.1 cd 61.1 ab 55.2 cd 71.1 ab コムギ 疎植 標準植 密植 118 a 875 ab 88 abc 1142 a 60 cd 682 abc 19.0 e 35.4 de 57.6 bc 22.7 d 19.7 d 48.2 bc ベッチ 疎植 標準植 密植 106 ab 70 bcd 38 d 811 ab 477 abc 76 c 60.6 bc 77.6 ab 87.0 a 72.2 ab 68.8 ab 82.5 a 110 a 88 b 71 b 770 a 900 a 454 b 39.8 b 37.3 b 75.1 a 55.0 b 30.2 c 74.5 a 116 a 87 b 67 c 954 a 787 a 383 b 33.2 c 52.4 b 66.6 a 42.5 b 49.9 b 67.3 a カバークロッ プ種の平均値 ライムギ コムギ ベッチ 播種密度の平均値 疎植 標準植 密植 ANOVA カバークロップ種 ***3) ** *** *** 播種密度 *** *** *** *** n.s. n.s. カバークロップ種×播種密度 n.s. * 1),2) 第1表の1),2)と同じ。3) ***,**,*はそれぞれ0.1%,1%,5%水準で有意であることを示す。
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