被災者の事例 - 一般社団法人 社会的包摂サポートセンター

第4章 第1節 被災地での相談事例
第4章 第 1 節
被災者の事例
●被災したための悩み
年代
80代
性別
女性
相談内容
震災で1人みなし仮設で避難生活して
被 災 地 か ら の 典 型 的 な 相 談 事 例 3 9例
年代
50代
性別
女性
相談内容
震災で津波に娘と共に巻き込まれ九
死に一生を得た。その後体調不良で
心 療内科受診、うつと診断された。
いる。インフルエンザになり外出でき
夫は津波で職場を失い、関東方面に
ない。食べ物がない、助けて欲しい。
対応
出稼ぎに行っており相談する人がいな
体調を確認し、物資支援をしながら
地域包括支援センターにつなぐ。
い。
対応
傾聴し、被災者サポートの団体を情
報提供。
年代
70 代
性別
女性
相談内容
津 波で家を流され仮設住宅暮らし。
年代
40代
以前から複数の病気を抱えていたが、
性別
男性
相談内容
震災で仕事を失い、自宅は半壊にな
仮設暮らしのストレスから病気がさら
り家族が離散しそれぞれ親戚や知人
に増えてしまった。遠方の病院に通っ
宅で生活している。テレビ等で前向き
ているため、持病での突然の症状が
な被災者をみると自分自身が情けなく
不安である。高齢者向けの見守りシス
なる。亡くなった友人や職場の恩人の
テムを付けて欲しいと、支援相談員に
対応
折り返し電話対応。行政等にコーディ
ネーターから確認後、支援窓口につ
残っていいのかと思う。
対応
性別
女性
相談内容
震災時ガソリンがなく、両親がいる避
難所になかなか行けなかった。再会
援の実施と面談支援体制をつくった。
年代
80代
性別
女性
相談内容
公営住宅に住んでいて震災に遭い家
が半壊状態になった。しかし、罹災
したのは震災後しばらくしてからだっ
証明がなく今年になり住めないと言わ
た。父は脳梗塞で倒れ、
障がいが残っ
れた。免除も引越費用の補助もない。
た。父は壊れた家しか財産を残せず
仮設住宅にも入れず公営住宅もない。
すまないと泣いた。親が他界すると自
分は天涯孤独だ。一人で生きていく自
信がない。余震が起こる度に精神的
自分で探せと言われ困っている。
対応
きる団体につなぐ。
傾聴、気持ちの整理を行いながら障
がい支援にたどり着いていることを確
認。
被災者サポートの団体を情報提供し
ながら折り返し対応し、住居探しがで
に不安定になる。
対応
1
30代
傾聴。グリーフケアについて情報提供、
医療機関の受診を提案、折り返し支
なげ、その後も状況確認を行った。
年代
第4章
顔が浮かんで涙がでる。自分だけ生き
お願いをしたが、断られてしまった。
年代
20代
性別
男性
第4章 被災地報告
291
第4章 第1節 被災地での相談事例
相談内容
対応
震災が起こる前は、仕事も順調で彼
相談内容
女もいて毎日が充実していた。震災後、
か助け出された。現在は内陸のみな
職場が倒産。彼女も他県へ自主避難
し仮設で子どもと暮らす。夫は震災の
して会えなくなり自然消滅した。自分
ため職を失い、新たな職で単身赴任
の人生が狂ってしまった。人と会うの
中。1 年目は多忙のなか興奮状態で
が嫌になり、外に出なくなった。何も
物事をすすめたが、被災後 2 年目か
したくない。親に病院に行くよう言わ
ら体調を崩し、震災うつと診断された。
れ診て貰うと、鬱になりかけていると
子どもも不登校になり心療内科受診
言われた。自分が鬱になるとは思い
中。復興支援センターの集まりに参加
もよらなかった。
しても、本当の気持ちは話せないとの
気持ちの整理と傾聴
こと。
対応
傾聴し、子どもの支援団体へつなぐ。
年代
70代
性別
女性
年代
20 代
震災後、仮設住宅で一人で生活してい
性別
男性
る。最近、仮設住宅から新居地を見
相談内容
自営農業を手伝っている。福島で風
相談内容
つけて引っ越しをしていく人が多く寂
評被害もあり、精神的にしんどいが、
しくなってきた。仮設住宅も半分近く
休んでいると家族の目が痛い。父親
空いている。自分は身寄りがなくたぶ
は自分の精神的な病気を理解してくれ
ん一番最後まで仮設住宅に残るだろ
ない。借金もある。
うなと考えると死んだ方がよかったの
第4章
対応
対応
金については、法テラスを情報提供
気持ちの整理と傾聴、仮設外の語ら
しながら、債務整理の方法の説明を
いの場を情報提供した。
し、生活再建できることを伝える。
1
年代
不明
性別
男性
相談内容
津波で両親を亡くし、 新築の家も流さ
●家庭の中で起きていること
年代
70代
性別
女性
相談内容
原発のため避難区域となり家族がバ
ラバラとなり避難していた。ようやく
つぎ込んでも借金はなくならず、債務
避難解除となり自宅へ帰れるように
整理をしたが、それが原因で、妻は
なったが、息子夫婦は帰らないと言う。
体調不良になり喧嘩も絶えず、家族
やっとまたみんなで暮らせると思った
全体がうまくいかなくなってしまった。
それが日に日にひどくなる。
対応
県の精神保健センターにつなぐ。借
かなあと最近、考えるようになった。
れ、生命保険や、保証金などすべて
妻の体調不良を医療につなげるようア
ドバイス。相談できる機関の情報提
供
292
子ども共々津波にのまれたが、なんと
年代
60 代
性別
女性
被災地報告 第4章
のにがっかりだ。
対応
気持ちの整理と傾聴
年代
30 代
性別
女性
第4章 第1節 被災地での相談事例
相談内容
夫の DV で下の子だけ連れ離婚した
年代
20 代
が、夫のもとにいる子ども達に会わせ
性別
女性
てもらえない。今更だがおいてきた子
相談内容
小学生の息子に ADHD があることが
ども達のことが気になって辛い。地元
分かった。再婚した夫は、息子への
の相談機関や弁護士には相談してい
理解がなく暴力を振るう。夫と別れ、
たが、自分の気持ちを理解してもらえ
息子と 2 人で生活していきたいと思う
が、決心がつかない。
ない。
対応
DV に詳しい内陸部の女性弁護士につ
対応
状況を把握。さらに問題整理とDV
相談機関および子どもの支援機関を
なぎ、女性支援団体につなぐ。
情報提供
年代
40代
性別
女性
年代
50 代
相談内容
震災で夫は職を失った。原発の損害
性別
女性
賠償金が入っているので今は生活が
相談内容
公営住宅の家賃が払えず滞納。管理
事務所に相談することがこわくてでき
るか分からない。夫は最初の頃はハ
なかった。人が多いところに行くとパ
ローワークに通っていたが中々思うよ
ニック発作で、動悸、手の震えが止ま
うな仕事がなく昼からお酒を飲んだり
らない。成人した息子と同居だが、引
パチンコをしたりとダラダラとした生
きこもり、自殺未遂もある。お金もな
活をしている。何か自分が意見すると
く生活が苦しい。何とかしなくてはい
怒鳴られ、人が変わってしまったよう
けないが、不安感が強く相談に行くこ
だ。前の夫に戻って欲しい。
とが出来ない。
問題の整理と傾聴
対応
第4章
対応
出来ているが、いつまで賠償金が入
折り返し電話対応から同行支援対応、
支援団体と連携し、食糧支援、滞納
10 代
金の解決方法を伝え、健康状態をみ
性別
男性
ながら、弁護士相談を行っていくこと
相談内容
震災で両親が他界、祖母と暮らすが
にした。
1
年代
去年祖母も亡くなり現在親戚の家に
居候。そこの家族に嫌味を言われ、
時には公園などで寝ることもある。
対応
●死別のかなしみ
年代
30代
子どものサポート団体や児童相談所
性別
女性
を情報提供
相談内容
津波で婚約者とその家族が流された。
原発のため警戒区域だったためすぐに
年代
40 代
捜索活動が出来ず彼が発見されたの
性別
女性
はとても遅かったので、彼の遺体は見
相談内容
家庭内暴力のある家庭で育った。長
るも無残な状態だった。彼に会いた
年、身体症状 ( 頭痛、不眠、腹痛等 )
が続いている。親を許せない。親を
い。
対応
気持ちの整理と傾聴
傾聴しながら、専門的な心理支援を
年代
20 代
情報提供
性別
男性
訴えて、慰謝料請求をしたい。
対応
第4章 被災地報告
293
第4章 第1節 被災地での相談事例
相談内容
学生時代からの友達を 2 人亡くした。
1 人は、職務遂行中に津波で命を落
対応
●放射能被害に対する悩みや怒り
年代
40 代
とした。もう1人は、震災後に、何の
性別
男
前触れも遺書もなく自死した。友人関
相談内容
震災後うつ病になり、会社を一時解
係は一生続くものだと思っていたが、
雇となり現在療養中。東電からの賠
そうでなかった。なんで生きているの
償金や失業保険などで生活維持して
か、わからなくなった。今は、毎日が
いるが、親戚や友人が理解のない言
むなしい。
葉をかけてくる
気持ちの整理と傾聴
●転居等住居にかかわる悩み
年代
60代
性別
女性
相談内容
震災で家を流され役所に相談すると、
対応
気持ちの整理と傾聴
年代
40代
性別
女性
相談内容
避難地域から1キロ以内に住んでいる
が避難した人との差が激しい。賠償
災害公営住宅が出来るまでは数年か
金額や待遇があまりにも違っており、
かるというので、新しく自宅を購入す
る事にした。手続きが煩雑でしかも
災害復興融資を利用したいと言うと、
生活困窮者は引っ越しも出来ない。
対応
期間を紹介。
銀行が真剣にやってくれないように感
じている。
対応
制度説明と傾聴し、弁護士相談等を
第4章
情報提供。
1
年代
不明
性別
女性
相談内容
今回の震災で、自宅前まで津波で水
年代
30 代
性別
女性
相談内容
福島では子どもの手が届く所に、除染
廃棄物が放置され、線量も高い。外
で子どもを遊ばせられない状態が続
いている。県外に避難できた人はい
いが、この状態がいつまで続くのか、
没した。今後、何が起こるかわからな
うんざりする。原発事故の影響でスト
いため転居を決めたが、自分も夫も
周囲に気兼ねして、話せずにいる。高
台の新居に入居予定。親戚にも打ち
レスたまって辛い。
対応
問題整理と傾聴
年代
不明
女性
放射線の高い中で子どもたちに気を
年代
20 代
性別
性別
男性
相談内容
相談内容
震災で賃貸アパートが被災した。義
遣いながら生活することにつかれた。
援金の対象になるが、管理している
学校の放射線対応の仕方に不信感が
不動産屋が、手続きに協力的ではな
募る。教育委員会の対応も納得でき
い。どうしたらよいか。
ない。
対応
294
原発被害者の社会資源の情報提供と
傾聴
明けられず、夫もずっと迷っている。
対応
気持ちの整理と傾聴賠償問題の対応
法テラスの震災無料相談を情報提供
被災地報告 第4章
対応
問題整理と傾聴
第4章 第1節 被災地での相談事例
年代
40 代
性別
男性
人仮設住まい。昨年心臓の手術をし
相談内容
福島は原発の影響でひどい状況が続
て、体力も万全でないまま原発関連
いている。それなのに、原発が再稼
の仕事で再就職を果たしたが、やは
働される。首都圏等に住む人たちに
り体調を悪くし退職してしまった。も
は、福島県民の苦しみは分からない
う少し身体に負担のかからない仕事
のか。
を探したい。母親も高齢で持病があ
気持ちの整理と傾聴
るため自分が自宅で介護をしている。
対応
相談内容
津波で自宅を流され現在は母親と2
何とか収入を安定させて生活の基盤
●仕事に関する悩み
年代
30 代
性別
男性
相談内容
震災後より統合失調症。仕事がきつ
を立て直したい。
対応
就労支援団体の情報提供と介護者の
つどいの情報提供や、地域包括支援
センターにつなぐ
くて、人間関係のトラブルもあり、就
労支援施設に通っているが、円満に
年代
40 代
辞めて他の施設に移りたい。どこかで
性別
男性
近くで相談できるところを教えて欲し
相談内容
震災復興による、がれき処理作業の
仕事に就いていたが、終了してしまっ
い。
対応
た。自分自身では勤労意欲は有るの
応と面接を実施。本人の同意を得て
だが、雇用先は、
「予算が成立する 4
地域の社会資源と一緒に支援してい
月まで、再雇用は難しい」と言われて
く事に。
しまった。がれき処理作業の仕事に
第4章
支援状況の把握を行い、折り返し対
就いた矢先は「資格取得支援もあり」
30 代
性別
男性
相談内容
震災で津波にのまれたが何とか救出
と言っていたのに、方針が変わったと
の一言で、結局何もなし。仕事もなく
なり、資格も取れずじまい。復興処
理作業の仕事の対応の曖昧さに不満
された。現在はアルバイトで生計を立
てているが、未だにテレビで震災時
の津波の映像等をみてしまうと、気持
を感じる。
対応
既に何事も無かったように日常の生活
を送っているのに、自分だけどうして
こんな風なんだろうか、と自分自身を
年代
40 代
性別
男性
相談内容
管理職であったが震災の放射能汚染
で職場が閉鎖になり仕事ができなく
責めてしまう。
対応
なった。今はただ家にいるようになり
気持ちの整理と専門家のカウンセリン
うつ状態で通院しているが薬ばかり増
グを情報提供
えている。家族もいるので不安。
対応
年代
50 代
性別
男性
問題整理、他の就職方法情報提供、
就労問題の相談窓口も伝えた。
ちが高ぶり、仕事も手につかず、眠れ
ない日が続いてしまう。周りを見ると、
1
年代
気持ちの整理と傾聴、話せる場や集
会などを情報提供。
第4章 被災地報告
295
第4章 第1節 被災地での相談事例
年代
30代
性別
女性
て、生きていくために、生活のために
相談内容
幼稚園の子どものクラスの半分以上
この仕事をしているが、とてもつらい。
の子どもが他県に自主避難してしまっ
精神疾患があり、死にたいと思う。ど
た。自分も自主避難したいが、農家
うやって死ぬかいつも考えている。大
で祖母などの介護があり避難出来な
量に薬を飲んでしまうこともある。
い。子どもに申し訳ないと思う。なぜ
相談内容
対応
自分は水商売をしている。子どもがい
折り返し電話対応しながら、体調に
小さい子どもがいるのに避難しないの
ついて、子ども支援制度、資源、女
かと周囲に思われているのではないか
性センターも連携した。
と思うと辛い。
対応
気持ちの整理と傾聴
年代
30 代
性別
男性
相談内容
うつ病に罹患、なかなか眠れなくて
年代
20 代
性別
男性
病院から眠剤を処方してもらってい
相談内容
勤めていた会社を震災で失い、震災
る。アルバイトで働いているが、生活
雇用で再就職し、ひとり暮らしとな
が苦しい。サラ金に借金している。1
る。初めは頑張っていたが今までと全
人暮らしで、これからどうやって借金
く違う仕事で大きな仕事を任され精神
を返していけば良いのかわからない。
的にまいり病気を発症。震災さえな
死にたい気持ちになる。
ければいつも話の中心で元気だった
対応
自立支援医療、障がい者手帳取得、
第4章
1
自分なのに恥ずかしくて人に会えなく
生活保護の申請等支援が受けられる
なってしまった。
内容について情報提供し、面談・同
対応
気持ちの整理と傾聴。
行支援の体制をつくった。
年代
70 代
年代
40 代
性別
女性
性別
男性
相談内容
40 代の息子はコミュニケーションがう
相談内容
無職、生活保護受給中。ギャンブル
対応
まく取れず、職場の人間関係が円滑に
依存あり、借金を返済したらお金が
いかない。そのため、仕事も長続きし
無くなり、食料を購入できずしばらく
ない。引きこもりがち。どこか支援先
なにも食べていない。このまま死んで
はないだろうか。
しまおうかとも思う。
折り返し対応にて、状況を確認し、若
対応
近隣の生活支援団体につなぎ、本人
者支援、民間団体、中間就労につい
の了解を得て担当かと情 報 共 有し、
て情報提供。
金銭管理支援についても情報提供し、
実行へつなげた。
●自殺念慮
296
年代
30 代
性別
女性
被災地報告 第4章
第4章 第2節 被災地から
第4章 第2節
被災地から
人と支援と地域をつなぐ被災地の「よりそいホットライン」
つなぐ・支える
よりそいホットラインが被災地に1本の電話を設置し 3 年目を迎えた。以来一日も休まず、今この時も被
災地の人々とつながり続けている。
復興を目指しながらも、生きづらさを抱え支援につながらない、立ちすくんだまま、話せる誰かがいない人々
の数は減るどころか、増加の一途をたどっている。
いつでも誰でも、なんでも 24 時間無料で相談ができるこの電話相談は折り返し・継続・同行・面談支援
を行いながら、地域の多種多様な人材のネットワークを構築し、必要な支援につなぎ「地域づくり」を行う
という困難かつ欲張りな取り組みだ。それが今の社会のニーズに、そして被災地の地域づくりに合致している。
また「本当にしんどい人々の多くは複数の問題を抱え、既存の相談窓口に行くことができないでいる」とい
う現場感覚が可視化できる取り組みでもある。
声なき声を拾い、つながっていくこの事業のもう一つの大きな役割は、様々な支援分野で活動する民間支
援団体・個人・社会資源を発掘し 「地域ネットワーク」を確立することである。そのネットワークこそが地域
第4章
のセーフティーネットとなっていく。これまでの実施期間にどれほどのネットワークが出来たのか、出来つつ
あるのか。正にその地域の地域力・協働力が求められ、試されている。
またその作業を担う「なんでも相談」ができる団体、個人は全国でも極めて少ない。被災地のセンターに
2
は豊かな価値観、スキルを持った多様な支援分野の相談員やコーディネーターがおり、そのスタッフ全員をこ
れからの社会に必要な「よりそいワーカー」
(※1)と位置付けている。次の一歩へつなげる支援を試行錯誤
しながら検討し、よりそいホットラインの理念「誰も排除しない社会の実現」を目指す、まさに全国規模の
人材育成でもある。
被災地の体制 279338から279226へ
◎ 10 回線確保
25 年度の被災地回線は被災 3 県(岩手・宮城・福島)に特化し、復興予算による事業と被災地外の電話
回線と区別するために電話番号を変更した。さらに被災地だけで毎日昼 10 回線、夜 5 回線を 24 時間稼働
させることとなり、大幅な回線増となった。
法人が直接運営するセンターである盛岡センターは被災地のバックアップ機能として事業開始時から唯一
昼夜無休で稼働してきたが、今年度は更に2倍の体制が必要となった。また宮城と福島の地域センターにお
いて、2 回線 24 時間毎日稼働する体制をとるために、相談員の大幅な増員と育成体制、同行・面談支援体
制の再構築が求められ強化された 1 年だった。
もともと人材、社会資源が少なく、被災した地域にとっては厳しい状況であったが、実施内容に合わせて
第4章 被災地報告
297
第4章 第2節 被災地から
新体制を構築し、被災 3 県の接続率(かけた電話がつながった率)は 24 年度 8%から、25 年度は 18.8%
を越え大きく伸びた。
◎多様な人材の参画
被災地回線を稼働させているセンターはすべて、特定の団体に片寄らず多様な支援者で構成されている。
その被災地回線の本部機能をもつ盛岡のセンターでは、他地域センターからの研修生や、大学生のインター
ンシップを受け入れ、当事者による OJT 研修などを行っており、多くの人が参加している。
◎同行・面談対応員の配置
さらに 25 年度は地域につなげる同行・面談支援の充実を図り、具体的には、緊急性のある方に限らず、
電話対応だけでは困難な相談者についても同行・面談担当者とコーディネーターがコーディネート支援を行っ
た。
同行・面談担当者を各県数ヶ所に配置し、地域への丁寧な周知活動と関係機関への協力要請を行い、相
談者の了承のもと関係者を集め、ケース会議を開催しネットワークをつくった。それがそのまま相談者のセー
フティネットとなり、つないだ後は相談者の支援の方向性について地域内全スタッフでフォローしている。ま
た何度も電話をかけてこられる相談者にも顔の見える関係性の構築、面談支援を行っており、同様に効果も
表れている。
◎教育委員会の協力と子ども支援
また子ども・若者からの相談が増加していることから、岩手県・宮城県・福島県の教育委員会の協力をい
ただき、よりそいホットラインのチラシを被災 3 県内すべての小・中・高等学校を通して、全児童・生徒へ
の配布を行った。
第4章
◎被災地からの情報発信
被災者の当事者目線から全国3 紙、
被災地地元5紙から毎日休まずに生活関連・被災関連記事をピックアッ
プし、全国のよりそいスタッフに発信している。これによって、被災の風化を防ぎ、全国のスタッフで意識や
2
知識を共有し、被災地の現状、情報、全国の社会情勢を学ぶ機会を提供し続けている。
このように被災地ラインの取り組みは、3 県のスタッフが一丸となって復興に向けて「優しく生きやすい社
会」を目指す、その思いと努力に支えられている。
被災地が抱える問題「医、職、住、そして家族と貧困」
あれから 3 年。被災地の抱える問題は解決されておらず寄せられる声の内容もここへ来て変化を見せてい
る。昨年度までは全国集計と同様、一番多い相談は、
「心と体の悩み」次に「人間関係の悩み」
「
、家庭の問題」
であった。しかし今年度は「家庭の悩み」が 2 位に上がっている。
これは震災後、生き方や家族形態の変容によって様々な問題が発生、表面化し、年月を経るとともに深刻
化していることを表している。
「震災で夫が職を失い、賠償金で暮らしている。仕事が見つからずイライラを家族にぶつけ人が変わってし
まい、家族も怯えている」
「震災で倒産し借金だけ残った。精神疾患になり、妻の実家で暮らすも環境の変化についていけず辛い」
「放射能汚染で職場が閉鎖。自宅から離れたところに仕事を見つけ、一人暮らしを始め、新しい仕事や環境
に慣れるよう頑張ってきたが精神的に参って病気を発症。前の職場ではスキルを積んでうまくいっていたの
298
被災地報告 第4章
第4章 第2節 被災地から
に、震災さえなければ・・・今は自分が情けなく人に会えなくなった」
「妻と子どもが避難し、自分は残って仕事を続けている。離れていると意見の違いが起き気持ちが通じな
くなる。子どもたちは避難先に馴染み、帰りたくないと言っている。もう昔のように一緒に暮らせないのか」
放射能・地震被害による家族離散によってそれぞれの生き方が変わり、前のような暮らしに戻れないという
声が象徴的だ。震災は地域のみならず、最小単位の家族をも分断している。
「子どものクラスの半分以上が、他県に自主避難し、自分も避難したいが農家の祖母の介護がありできない。
子どもに申し訳なく思っている上に、なぜ小さい子がいるのに避難しないのかと言われ辛い」という周囲との
価値観の違いによって、放射能問題を人と話すことも憚られている。
「震災で家が半壊、家族離散で生活してきたが、ようやく金銭的にめどがついて新築して皆でくらせるよう
になった。今まで辛い時によりそいホットラインに電話して話をすることで何とか立ち直ってきた」
「津波ですべてを失い、仮設にいる。ストレスも多く、高齢で心疾患も悪化。仮設は隣の音が聞こえる。
知らない人、挨拶も交わさない人が多い。話すようになってもみな次々と仮設を出ていき、取り残されている。
よりそいホットラインは頼れる、助かっているのでずっと続けてほしい・・・」
電話だからできることがある。その出会いと真摯に向かい合い、地域で共に生きるつなぐ支援を行ってい
る。究極に敷居の低い一本の電話から展開された3章5節「つなぐ支援」の効果をご覧いただきたい。
そして、自殺対策
寄せられる相談内容から、変わらぬ被災地の状況と必要とされている支援が見えてくる。
第4章
今求められているものの一つは震災後の生き方の変容を支えるしくみづくりだ。今を生きるための家族の
カタチの多様化、ライフスタイルの多様性に対する支えあい、支援の在り方が復興の試金石となる。
「震災後必死に生きているつもりだが、精神疾患が悪化。仕事も見つからず先が見えない。誰とも話すこ
2
とがない日が続く。自分もあの時、死んでしまえばよかった・・・」直近の行政のアンケート調査では「復
興を実感できている」と答えたのはわずか16%にとどまっている。
25 年度の大きな特徴として自殺予防のダイヤルを選択する人が増えており、全国集計の約 3 倍となってい
る。これらの集計結果からみても、また過去の災害の例から示される事態に陥らないよう、これから困窮者
対策、自殺対策、孤立死防止支援が重要であることが示唆されており、今後も長期的に寄り添い続けること
が求められている。
対話とエンパワメント
よりそいホットラインは従来の電話相談という括りでは収まらない。究極的に敷居の低い入り口をつくり今
までつながれなかった人とつながり、共に考え、その人がそこでその人らしく生きる居場所、地域づくりを視
野に入れ、ネットワークを作って必要な支援につなげることが目的だ。
しかし、つながることのハードルが高い人たちもいる。今までの人生や様々な背景から、匿名性という枠
の中から出ることへの抵抗や、不安を抱えつながることを拒否することもある。また地域性も大きく関係して
いる。電話をかけること、その一言を発すること自体勇気のいることなのだと被災地の私たちにはわかる。
地域コミュニティの濃さ、従来の家族の在り方、性差に対する固定観念の強さ、震災によるコミュニティの
第4章 被災地報告
299
第4章 第2節 被災地から
希薄化、支援格差による分断、転居のたびに繰り返される新しい関係構築の難しさが孤立を深めている。
問題整理や、エンパワメントに必要な時間、タイミングは人それぞれだ。
よりそいホットラインはその過程に寄り添う場でもあり、通過点でもあるが、終着点ではない。よりそいホッ
トラインの目的と対応の限界を伝え、率直で誠実な粘り強い信頼関係の構築と、具体的な解決に向かうよ
うな対応を心掛けていきたい。誰もが生まれながらにして「自己決定」を行う力を持つ。その解決の力を弱
めたり、依存の引き出しや、強化に陥らないよう “ 対話 ” を実践している。
よりそいホットラインが目指すのは相談者自身のエンパワメントであり、相談者本人が主体性をもって問題
解決に向かうことだ。被災地の声をただ聴くだけではなく、またよりそいワーカーが解決するのでもない。
「共
に考える」その協働作業の共有こそが電話でつながっている双方の世界の排除を包摂に変えている。
これからの被災地に必要な “ 人が人を支えるしくみ ”
3 年目に入ったよりそいホットラインのつなぐしくみの可能性はまだまだ未知数であり、そこには被災地に
一番必要な「希望」がある。そして、このアクセス数は、社会がよりそいホットラインを必要としているとい
うゆるぎない事実である。 相談の切り口は、被災、病気、障がい、お金の問題など様々であっても、その奥にあって共通して人の力
を奪うのは
「社会的孤立」だ。厳しい状況にあっても人は誰しもが持つ内的な力によって立ち直れる。しかし、
それは「ひとり」では困難であり、人とつながっていると思えることが最大の力となる。たとえば、障がいや、
家庭環境などはそれ自体が生きづらさに直結するのではなく、適切な支援に結びつかないことで問題を誘発
第4章
している。
よりそいホットラインを利用する人と、利用しない人との違いは何か。相談の内容分析からみても、被災
の影響の深さ、抱える問題の重さ、苦労体験が多いから電話をするのではなく、支えあえる関係性がないと
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いう点なのではないか。排除の克服には「人と人が支えあうしくみ」が必要なのだ。今、その「しくみ」がま
だまだ足りない。
よりそいホットラインのスタッフの中で、必要な資源がないときに自ら新しい支援団体をつくる力が次々に
生まれ育っている。無いものは創る、しなやかな力だ。被災地にもその力が芽吹いている。真のニーズを相
談者に教えられるからできることだ。寄せられる「電話をかける勇気」を真摯に受け止め、自立と尊厳を真
ん中に据え、早期に包括的支援を実践している。
被災地支援に万能薬などない。困難を抱えたすべての人によりそう誰かが必要で、その力によって支え、
支えあえる。それは専門家でなくとも、家族でなくともよいのだと被災地が伝えている。
ともに “ ここ ” で生きてゆく。ある人は被災地であり、ある人は避難地域であり、どんな生き方を選択した
としても、支えあうために多様な支援が必要ですべてが試行錯誤だ。決してあきらめず、その小さな積み重
ねにより困難、貧困の連鎖を断ち切る他はない。
心は流されない
今、発災後 3 年目に起こるであろうと予測されている「落ち込みの二番底」の傾向が顕著に表れている。
いじめの件数は岩手、宮城、福島の被災3県では前年の4〜6倍になり、不登校の割合も全国平均よりも高
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被災地報告 第4章
第4章 第2節 被災地から
くなり、児童生徒のストレスの大きさ、窮屈な生活が意欲の低下や将来の不安を招いている。離婚相談の増
加、先の見えない放射能問題、
「3 年たっても何も変わらない」という声も届く。これからが正念場だ。いつ
かどこかでまた災害は起こる。生きにくさを抱えることもある。その時に「あってよかった」といわれる仕組
みをつくることが私たちの使命だ。震災は天災だが、震災後に浮かびあがった諸問題、震災以前から潜在
化していた問題は明らかに人災である。
不測の事態に負けない、倒れても立ち上がれる力を信じ支え、支えあい誰もが生きやすい社会にしていき
たい。
「家は流されても、心は流されない」
「大人になったら、自分が街を守っていく」寄せられる声に私た
ちも支えられながらよりそいホットラインがその一助となるよう取組み、被災地から発信し続けていきたい。
この新しいカタチの相談システムは、動けば動くほど、つながればつながるほど付加価値がどんどん増し
てゆき、社会的包容力が構築されていく。
またこの取り組みは相談者だけでなく携わる個人、団体、地域の在り方を見直す機会になる。家族や、地域、
ライフスタイルがこうあるべきだという懐古的な規範意識は、現代社会の実態にもはやそぐわず、被災地が
抱える問題は日本社会の課題や矛盾の映し鏡でもある。
私たちは人と支援と地域をつなぎながら常に「何のために、何を、どこまで担うか」という問いをたて、そ
の問いを検証しながら動いていく想像と創造の支援を実行し、寄せられた声から今被災地で求められている
ものは何か、課題は何か、必要なものが無いときはどうすればよいのかを提言し、創り出し、どんな小さな
声も聞きもらさず共に復興に向かっていきたい。
(※1)よりそいワーカーとは
第4章
従来の各分野の電話相談員を含む専門性に配慮しつつもこれからの日本社会を包摂社会に変革するため
の総合的で人間的な新たな固有性をもつ専門職とする。
・今の日本の社会的排除の課題意識を基盤に持ち、一人ひとりの課題や悩みを個人的な問題に押し込めず、
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社会的な課題としてとらえる。
・従来の特定の各分野のサポートに固執せず、人間をトータルに捉える視点をもつ。
・どんな状況にある人にも「敬意」をもつ
・ 相談者も相談員同士も、また相談を通じて出会い、連携する関係者なども同様に「協働者」としてとらえ、
あらゆる人たちと「対等」な関係性を構築するようとらえる。
・プロセスを重視し、多様な人たちとの双方向「対話」と「協働」によって課題の解決を図る姿勢をもつ。
第4章 被災地報告
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政策提言
第5章