387 登山での酒とタバコ 私はかねてから登山愛好者には飲ん兵衛が多いのではないか…、と思っていた。 正確な統計はないけど、飲めない人が少なくないのも事実である。ただ自然を愛するヒトは人間も 愛する習性があり、シャイなヒトが多いと思われる。登山愛好者が自然や人間と向き合い、 心を合体させるツールとして酒がとても適しており、そのため飲ん兵衛がしばしば目立つのかも知 れない。それ故か単独行の人が大酒を飲んでいるのを見かけたことがない。 同様に正確な統計は知らないけど、私は登山愛好者は子沢山なのではないか…、と密かに思って いる。 適量な飲酒は善玉コレステロール HDL を増やし、血圧を下げるなどして生活習慣病を改善し、 精神面でもリラックス効果をもたらし、寿命を伸ばすことがよく知られている。 まさに酒は「百薬の長」である。しかし、これらが登山に直接的効果を発揮するのかはよく分かっ ていない。 山頂での軽い乾杯ぐらいは許しほしいと思うが、ふわくでは禁止されている。 山小屋では、他人の迷惑にならないように、離れて喫煙したり飲酒することは困難である。 年に一度くらいは、二日酔いにならない程度に、星空を見上げながら山仲間と痛飲する、テント登 山も悪くはない。ふわく山の会では山行中アルコールは絶対に禁止。飲むのは下山してからである。 これがなかなか厳しいルールだ。夏の山では汗だくでノドはカラカラ、じっと辛抱して降りてくる。 そして冷えたビールのうまいこと、これぞ最高の極楽と思う瞬間である。この誘惑に、負けるとひ たすら下山を急ぐ。それが事故を招きかねない。名古屋に帰ってからも反省会のハシゴとなり、体 調を損ねる原因になってしまう。お互いに自己管理をしたいものである。 一方のタバコの影響は悪いことばかりである。 自然と向きあう点からみても肯ける。ある登山者のブログに書かれた嘆きを引用すると 「あの夏の日、15時間も登ってやっと頂上についた。誰もいない、少し安心してタバコ に火を付けた。そのとき私の後ろから声がした。振り返ると中高年男性と若い女性だ。 顔は笑っているが私のタバコに強烈な非難めいた眼差しなのだ。私はそくさくと火を もみ消し、逃げるように山頂を後にした」 自分だけと思ってタバコに火を付けた登山者に落ち度はない。 だがタバコを吸わない人にとっては、かすかな煙のニオイが、美しい自然や清浄な空気も、 すべてを台無しにしたと思ったのだろう。 あの大自然の中でも人に迷惑をかけない喫煙が難しい。まして山小屋ではほぼ不可能であろう。 タバコの成分の一酸化炭素(CO)とニコチン。ことに CO は酸素よりも250倍もヘモグロビ ンとの結合力があり、酸素の運搬を邪魔する。ヘビースモーカーは2500m の高山に住んでる のと同じといわれ、高さの影響をより強く受けることになる。ニコチンは末梢神経を収縮し、 血圧や心拍数を増加させ循環器系の負担が大きくなる。 愛煙家の登山者はとくにご注意を。 大野秀樹 著「医療コラムⅧ」より
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