第18回 米国企業の年金問題の新たな局面 (PDF / 33.4 KB

米国の年金・会計最新事情
第18回:米国企業の年金問題の新たな局面
中立系年金コンサルタント会社 IICパートナーズ
執筆:内田 一郎
監修:中村 義正
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● 進む年金会計のディスクロージャーの拡大
しばらく冬眠をさせていただいておりましたが、春が近づいてきましたので、米国の年金・
会計最新事情を再開させていただきます。
昨年は、株式市場が3年ぶりに堅調に転じ、米国企業も、懸案の年金積立て不足問題にも
一息いれることができました。とはいえ、2003年の年金会計は、市場の好転にもかか
わらず、年金費用の計上、拠出金の増大、また年金債務の拡大といったネガティブな計上
を余儀なくされた企業が多かったと思われます。
年金会計の処理が複雑で、投資家によく理解されないという問題が存在します。株式市場
が悪いときなのに、年金収益を営業利益に上積みできたり、逆に今回のように、市場が回
復したのに、いっそう年金会計が悪化しているような印象を与えかねません。
こういった状況の中で、米国の財務会計基準審議会(FASB)は、昨年年間を通して、
年金会計制度の改訂、また年金会計のディスクロージャーの拡大を目指してきましたが、
ようやく年末になって、進展をみせました。今後、企業年金の開示が進み、投資家の理解
が進むようになりましょう。一方、企業にとっては、より明白な年金会計のディスクロー
ズを要請されるようになってきました。
米国企業は12月末が決算期。3月になるとアニュアル・レポートが出回ってきます。も
っとも、すでに、昨年度の決算数字が発表されています。全般に景気の好転を受け、事業
の収益は良い結果が出ていますが、年金会計については、一過性のことではありませんの
で、いろいろなことわりが、企業から発せられています。
例えば、機械・ハイテクの大手である2社、ハネウエルとユニシス、それと何と言っても
年金債務、積立不足最大のゼネラル・モーターズ、これら3社の状況についてみてみまし
ょう。
● 事業の利益が伸びても年金費用に食われそうなハネウエル
ハネウエルは、年金債務が100億ドルを超える大企業ですが、2002年に積立不足(年
金債務の13%)に陥りました。この積立不足が昨年はどうなったか、です。また、ハネ
ウエルは、2002年も期待運用収益率を10%の高さに維持して〝がんばり〟、02年
の株式市場の下落にもかかわらず、引き続き年金収益を事業の利益に上乗せできた、
「高期
待運用収益率組」の一社でした。昨年はこれがどう変わったのでしょう。
昨年度は、さすがに期待運用収益率を9%に引き下げたため、株式市場の実際の好パフォ
ーマンスにもかかわらず、年金収益でなく年金費用の計上となりました。事業再編費用が
なくなり、税引利益は黒字化しましたが、3億2500万ドルの年金費用の計上により、
年金費用がなかった場合に比べて、税引利益は17%ほどへこんだ計算になります。
そして、会社によりますと、今2004年は、本来なら事業の利益の拡大で13%ほど増
益となるはずが、年金費用がさらに5億8300万ドルほどに拡大する見通しから、税引
利益は結局増えないだろうという見通しです(昨年度の当社の税引利益は13.2億ドル
ほどでした)
。
● 年金収益がついに年金費用に転じるユニシス
コンピュータのユニシスも同じような問題を抱えています。ユニシスも、2002年には
期待運用収益率9.5%(米国トップ企業平均は8.9%)という高さで、1億4500
万ドルの年金収益を記録、昨2003年も8.75%で、3000万ドルながら、年金収
益を引き続きあげました。
しかし、今2004年は、期待運用収益率は8.75%と変わりませんが、金利低下が続
いたため、割引率を昨年の6.75%から今年は6.25%に引き下げます。割引率の引
き下げは、年金債務および年金費用の増加要因となりますので、2004年はついに年金
〝費用〟の計上(税前で8500万ドル)に転換する見通しです。
このため、昨2003年のユニシスの税引利益は2億5870万ドルと16%増益だった
ものの、ことしは年金費用の負担で、事業利益の2割増益が消えてしまうだろうというこ
とで、昨年末この見通し発表の日、ユニシスの株価は一日に9%値下がりしました。
なお、ユニシスは年金会計の開示に熱心で、以下の表のように、年金収益がなかった場合
の利益を、年金収益込みの発表利益と対比させて見せています。年金収益(費用)の企業
の損益計算に与える影響度合いが一目ですね。今後は、このような判りやすいディスクロ
ージャーが増えてくることでしょう。
表. ユニシス社の損益計算と年金収益(費用)の影響対比表
2002年
単位:百万ドル
2003年
税前利益
税引当額
税引利益
一株当り利益(ドル)
公表利益 年金収益 年金ない場合 公表利益 年金収益 年金ない場合
332.8
143.5
189.3
380.5
22.6
357.9
109.8
47.4
62.4
121.8
7.2
114.6
223.0
96.1
126.9
258.7
15.4
243.3
0.69
0.30
0.39
0.78
0.05
0.73
(出所:ユニシス)
株式市場の回復にもかかわらず、米国企業は、過去の高い期待運用収益率がもたらした年
金収益計上という〝つけ〟がようやく回ってきたというところです。また、低金利のもた
らす年金債務、年金費用評価の増大という後遺症が、予想通り、この2004−2005
年頃まで、収益面で尾を引くという状況が出ているということです(もっとも、ここがピ
ークになりそうですが)
。
ことに、損益面で2002年までずっと、トップ100企業トータルで年金収益(年金費
用ではありませんよ)を計上し、利益を押し上げてきたことから、今年と来年、年金費用
が事業の利益の伸びを押さえる可能性が高そうです。
● 巧みに積立不足を乗り切った最大年金債務企業GM
米国最大の年金債務企業ゼネラル・モーターズの様子も見ておきましょう。GMは、昨年
6月末、前年末時点で254億ドル、3兆円近くまで広がった年金の積立不足を埋めるた
め、176億ドル、2兆円近くという米国企業最大の起債を行ない、世の中をあっと言わ
せました。さて、その結果、昨年末のGM本体のバランスシートはどうなったでしょう。
GMは、前年には、株主資本から控除される最小年金債務(Minimum pension liability
adjustment)計上の増加により、バランスシートは、債務超過一歩手前になっていました。
GMの事業自体は、GMAC事業(住宅ローン貸付が中心)の好調さと中国での合弁事業
が貢献し、北米や欧州での自動車販売の厳しさにもかかわらず、税前継続事業ベースで、
予想を上回る28%増益を達成しました(税引利益では38億ドル)
。
キャッシュフローの流れを見ますと、営業キャッシュフローの流入168億ドルと大型フ
ァイナンスによる資金調達による148億ドルの資金流入により、320億ドルほどのキ
ャッシュの流入を果たせました(前年は184億ドル)
。
これにより、年金費用138億ドルという巨額なコストを払い、さらに185億ドルを年
金資産に拠出し、年金積立不足を大きく埋めることができました。
この結果、GM本体のバランスシートは、前年末の株主資本わずか68億ドルという債務
超過一歩手前の状態から、253億ドルの株主資本へと改善しました。最小年金債務の計
上を、一年で232億ドルから25億ドルに大幅に改善させることができたからです。
表. 2003年 GM の資金の調達と使途
(単位:十億ドル)
(資金の出所)
(資金の使途)
営業キャッシュ他
11.5 年金への拠出
18.5
防衛部門の売却
1.1 医療保険ファンドへの出資
3.3
ヒューズ社の売却
4.2 配当支払い
1.1
クラス H 株より
1.2
起債での資金調達
14.5
キャッシュ発生計
32.5 資金使途計
キャッシュ等の増加
22.9
9.6
(出所:GM)
年金会計の詳報はまだ発表されていませんが、GMのCFO(財務担当役員)は、事業の
改善に加えて、この年金債務の改善を誇らしげに思っているに違いありません。ことに、
昨年6月末の大型起債は結果的に、低金利の最後を捕らえ抜群のタイミングだったことに
加え、年金資産の運用においても、この資金調達平均利回りを上回る期待運用収益率9%
を上回って運用できたことです。
GMの運用担当者は、
「長期債を中心に据えた保守的なポートフォリオでは、9−10%の
リターンを出すことはできない。ヘッジファンドやジャンクボンド、また途上国市場や不
動産を組み込み、かつリスク分散したポートフォリオを組んだがゆえに高いリターンを得
られた」と述べていると報じられています。
確かに、昨年の債券・株式市場の変化振りでは、債券中心だと値下がり損を記録したかも
しれません。ポートフォリオの組成は、静態的なリスク評価だけでなく、動態的に価格変
動リスクを考えて組むことが、こういった変動が大きい時代には要求されましょう。
(以上)