科学技術振興調整費 成果報告書 - 「科学技術振興調整費」等 データベース

科学技術振興調整費
成果報告書
目標達成型脳科学研究
Brain attack から脳を守るための研究
平成12年度~13年度
平成 14 年 6 月
文部科学省
Brain attack から脳を守るための研究
研究計画の概要
p.1
研究成果の概要
p.18
研究成果の詳細報告
1. 脳機能及び脳の病態生理に関する研究
1.1. 新たな脳機能と脳病態の画像化に関する研究
1.1.1. 脳の高次機能画像化に関する研究
1.1.1.1. MRSI 法を用いた脳代謝マッピング技術の確立
p.63
1.1.1.2. fMRI 技術を用いた言語や視覚刺激に対する脳高次機能の
応答性あるいは局所賦活状態の解析
p.74
1.1.1.3. MR 脳潅流画像法/拡散係数画像法を用いた脳潅流状態の画像評価による
脳活動に伴う局所脳循環の変化の解析
p.87
1.1.2. 脳血管障害超急性期診断法と病態画像に関する研究
1.1.2.1. Diffusion MRI と harmonic imaging 法(神経超音波技術による脳循環画像化)
による超急性期脳血管障害病態迅速評価法の検討
p.99
1.1.2.2. Animal PET による霊長類大脳での spreading depression (SD)の
発生確認とその虚血脳に及ぼす影響の検討
1.1.2.3. PET、SPECT、3T-MRI を用いた潜在的脳循環障害と知的機能初期障害の評価
p.118
p.132
1.2. 脳神経細胞生存能調節機構の解明に関する研究
1.2.1. 外因子による脳保護機能の評価と脳神経生存能強化機構に関する研究
1.2.1.1. 脳梗塞耐性機能発現動物モデルの確立
p.139
1.2.1.2. 神経栄養因子および脳低温状態の有する脳保護効果の解析
p.149
1.2.1.3. TRX super family 等生体内防御因子の脳神経細胞保護効果の評価
p.160
1.2.2. 低脳温の果たす神経保護効果の至適条件解明と臨床応用技術開発に関する研究
1.2.2.1. MRS を用いた虚血巣温度測定技術の評価と虚血後高脳温の検討
p.171
1.2.2.2. 低脳温の脳保護機構の解明及び低脳温療法の有効性と安全性の評価
p.180
1.2.2.3. 重症脳血管障害患者の低体温療法時における PET による脳循環代謝の評価
p.193
1.2.3. 虚血の神経細胞における死および生存へのシグナル伝達機構の解明
1.2.3.1. 神経細胞アポトーシス解析による神経細胞死の分子機構の解明
p.203
1.2.3.2.
p.213
神経細胞の生存能促進による脳保護効果の検討
1.2.4. 神経栄養因子様低分子化合物の開発と創薬への応用
1.2.4.1. 神経栄養因子様化合物の細胞および個体レベルでの評価
p.223
1.2.4.2. 神経栄養因子様化合物の細胞内受容体の探索
p.233
1.3. 中枢神経再生能解明に関する研究
1.3.1. 機能的神経伝導路の再構築機構解明に関する研究
1.3.1.1. 神経突起マーカーを用いた神経再生至適グリア環境の解析
p.243
1.3.1.2. 神経線維の離断後の新たな架橋及び神経シナプス形成の解析
p.250
1.3.1.3. 神経移植を用いた神経線維再生誘導実験及び機能的回復の証明
p.257
1.3.2. 神経幹細胞を用いた中枢神経機能再生に関する研究
1.3.2.1. 神経幹細胞の自己複製と分化に関する分子機構の解析
p.264
1.3.2.2. 神経幹細胞を虚血脳へ移植した際の移動・分化の解析
p.273
Brain attack から脳を守るための研究
1.3.3. 損傷神経の生存・再生促進因子の同定と遺伝子導入による治療法の開発に関する研究
1.3.3.1. 損傷神経の生存・再生促進因子の遺伝子検索
p.278
1.3.3.2. 遺伝子導入による損傷神経の生存・再生促進の評価
p.285
2. 脳神経障害の原因となる脳血管障害発生機構の解明に関する研究
2.1. 脳血管の病態成立機構に関する研究
2.1.1. 脳血管障害に於ける炎症性内因子の病態成立に果たす役割に関する研究
2.1.1.1. モノサイト系細胞の活性化と血管収縮能の獲得に関する作用機序の解明を行う
p.291
2.1.1.2. 脳血管障害の成因において細胞外マトリックスの果たす役割の評価を行う
p.301
2.1.2.
閉塞性脳血管障害の病態解明と新たな治療技術開発に関する研究
2.1.2.1. 閉塞性血管病変に於ける脳血管保護(傷害)因子の解明と
新たな治療法基礎技術の開発
2.1.2.2. 脳血管壁障害における増殖(修復)機構に関する研究
p.311
p.329
Brain
attackから脳を守るための研究
研究計画の概要
(田中
忠蔵)
①MRスペクトロスコピー技術に基づいて、脳内アミノ酸・神経伝達物質の各々の物質についての脳
全体の代謝マッピングを測定可能にし、脳代謝からみた脳損傷・変性・加齢の機序を明らかにする。
1) MRSI法を用いた脳代謝マッピングは、高速測定法の改善とこれを用いた脳活動に伴う代謝変
化の観察を行う。また、MRSIの各ボクセル内のスペクトルの評価を各種神経疾患についてシ
ングルボクセル法との比較を行い、スペクトルの臨床評価を確立する。
2) 高速測定法による全脳の代謝マッピングを臨床実用化した上で、グルタミン酸などの神経伝達物
質の定量化の画像化、および脳代謝による脳機能画像法の開発を行い、神経組織の可塑性を代謝
マッピングとして検討する。
3) 実験的な脳代謝マッピングは、ラット脳虚血急性期におけるアミノ酸や乳酸代謝の基礎的な検討
を用いて行う。なお、脳虚血の画像評価としては 1.1.1.3 における拡散強調画像を用いて虚血障
害の拡がりを評価し、この領域における乳酸の信号とアミノ酸の信号変化から虚血障害について
の代謝による解析を行う。また、実験的に 13C化合物による脳虚急性期における糖やグルタミン
代謝の基礎的検討をラットを用いて行う。
4) この基礎的な検討から臨床用装置では、1HーMRSによる半定量的なグルタミン/グルタミン
酸および糖の測定を行うことから、脳血管障害におけるこれらの代謝物質の変化を検討し、脳血
管障害とその後の経過におけるこれらの代謝物質のマッピングをおこなう。これには、拡散強調
画像/潅流画像と 1HーMRSによる急性期脳虚血の penumbra 領域の検討を合わせて行う。
定量的な代謝マッピングを検討する。臨床用装置では、通常用いる長いエコー時間(Te)では、S/N
比が低いために Te の短いシーケンスにより MRSI を測定する。また、定量に用いるソフトウェアは、
LCモデルを基にして、独自に短い Te の定量的な処理を可能とする。また、脳虚血病巣の嫌気性代謝
を反映する乳酸の測定は、乳酸と同じ化学シフトの脂肪の信号の混入があるために正確な測定が困難
であった。そこで、エディテイング法を用いることから、これも定量的な代謝画像とする。
②脳の高次機能を画像として評価できる技術開発を行い、脳損傷の程度・局在に係わる脳機能の変化
を明らかにする。また、加齢に伴う高次機能変化、例えば記憶についての脳循環の反応速度などから
半定量的な評価法を開発し、高次機能訓練や脳機能の老化の阻止が行えるようにする。
1) 臨床用MRI/S装置を用いて、高速な画像構成装置を導入し、運動・体性感覚・聴覚・視覚系
の機能局在を超高速撮像法であるEPIを用いて短時間に測定し、統計学的な画像処理法から 3
次元脳機能マッピングとして立体的に把握できるようにする。
2) 賦活によるそれぞれの中枢の反応性をより詳細に検討する。例えば、複雑な運動に関与する補足
運動野と一次運動中枢の反応性の違いを抽出することから中枢の相互の働きを解析する。これを
基にして、単一の脳賦活系からより複雑な賦活系の組み合わせやイメージによる脳賦活パラダイ
ムにより、脳の高次機能と呼ぶにふさわしい賦活系の解析を行う。
3) 脳高次機能のfMRIでは、臨床応用可能な高次脳機能検査法としてfMRIに実際に用いるパ
ラダイムの決定と同時に臨床応用を行う。
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Brain
attackから脳を守るための研究
4) BOLD法による高次脳機能画像の成果の上に、より直接的な機能画像法として脳循環機能画像、
および興奮した神経組織を直接画像化する neural activity 画像の開発を行い、より詳細な高次
脳機能検査法として臨床応用・診断が可能となるように検討する。
5) 前期に確立した event-related fMRI の方法から、高次脳機能として確立した一次運動野と補足
運動野の賦活の時間的な違いを賦活領域のダイナミックな広がりとして画像化する。さらに、こ
の過程が脳血管障害の脳損傷によるさまざまな種類の麻痺の状態において、どのような影響を被
るかについての検討を行う。また、前期の検討から、臨床用装置で言語中枢の賦活画像が可能と
なり、これを用いて、聴覚性の言語処理の過程を脳血管障害の患者に行い、損傷による脳賦活の
状態とその予後可能性について検討する。さらに、血管障害後にもみられる脳の機能障害である
脳波異常の局在と機能異常をfMRIで画像化する予備的な検討を行う。これは、脳波のスパイ
クをトリガーとしてfMRI測定をエコープラナー法で行い、脳は異常に伴う局所脳血流の異常
を検出する試みである。本法から、非発作時期のてんかん疾患の局在診断が行える可能性がある。
6) MRI 装置内で測定を可能とした脳波をトリガーにする脳機能画像法の臨床応用をすすめる。この
方法では、まず、てんかんに伴う焦点のスパイクをトリガーにして、スパイクに伴う局所脳循環
の増加を fMRI 法を用いて画像化し、てんかん焦点の画像化を行う。さらには、脳損傷に伴う各
種の異常脳波をトリガーとすることから、脳損傷に伴う血流以上を fMRI のかたちで画像化する
ことが可能となるまた、)event-related fMRI の方法から、高次脳機能の機能画像の臨床応用を
行うが、臨床患者では、能動的な検査法に限界があるために他動的な検査法として昨年に確立し
た感覚刺激を応用し、様々な感覚刺激の脳内処理過程を明らかにすることから、脳損傷が生じた
場合の変化について検討する。この場合、一次感覚野、二次感覚野、頭頂葉と前頭葉が機能的に
関連すると考えられ、これらの部位の損傷に伴う変化が観察可能となる。さらに、高次脳機能の
観察では、記憶に関係するとされている pre-frontal 領域(area10 など)が注目されている。血
管障害後にもみられる脳の機能障害である記憶障害をfMRIにて検討する。この際、短期記憶
としていわゆるワーキングメモリの encode と decode に分けて検討することが可能となる。
③脳組織の血液・組織液の動きをMR脳灌流画像・拡散係数画像法により画像評価するが、これによ
って傷害が脳におよぼす灌流・拡散状態を捉えることは勿論、脳の活動に伴う循環動態の画像解析が
可能となり、脳循環からみた脳活動の維持・傷害予防を明らかにする。
1) 臨床用MRI/S装置を用いて、やはりEPI法によって脳灌流画像・拡散強調画像法を用いて、
超早期ー発症 3 時間以内の虚血性脳障害の検出、ならびに脳循環動態の検討を行う。
実験的には、
定量的な脳灌流画像法の開発を行い、測定シーケンスのリファインを行う。
2) MR脳灌流画像/拡散係数画像法では、臨床的には大脳全体の脳灌流画像を撮影できるようにす
るとともに、半定量的な評価が可能となる条件を決定する。一方、拡散強調画像を利用して、脳
波と同期した測定法を開発し、脳傷害に伴う神経細胞の興奮異常を画像化する試みを行う。また、
実験脳虚血では、定量的な parameter として拡散係数と脳循環量から、虚血や損傷脳の周囲ー
penumbraーの検出・可逆性について検討する。
3) MR脳灌流画像/拡散係数画像法では、MR脳灌流画像法のうち造影剤法は、臨床経験を積み重
ねて急性期脳循環検査法として確立するとともに、一方では、MRSI法と同時期に検査するこ
とから脳循環と代謝変化の関係について検討する。また、これらをパラメータとした治療効果を
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Brain
attackから脳を守るための研究
合わせて検討する。
4) 拡散強調画像法では、前年度、脳波の配線から生じるアーチファクトの混入を除去できず、十分
に検討できなかった脳波と同期した拡散係数画像の測定法を確立する。この方法では、脳障害に
伴った神経細胞の興奮異常を拡散強調画像を用いた脳機能画像法として画像化する試みを行う。
また、
5) 実験的には、神経細胞の興奮に伴って細胞内に取り込まれるカルシウムイオンのかわりに Mn イ
オンを用い、興奮した神経細胞に特異的な造影剤としてこの Mn を用いた脳機能画像法の開発を
行い、グルタミン酸や刺激を用いて神経興奮画像を得る試みを行う。
6) 拡散強調機能画像をより発展させることから、テンソル画像を実用化し、脳障害部位の局在を機
能的、形態的に捕らえ画像化する
急性期脳虚血においてそのコアとなる領域、その周辺の梗塞巣、さらにはその周囲に可逆性が期待
できるいわゆる penumbra 想定されている。しかし、未だ明らかな画像によるこれらの領域の描出は行
われていない。ここでは、まず、中心部のコアの存在をMn造影法による実験的脳虚血を用いて行い、
虚血病巣の詳細を画像化する試みを、前期に確立した方法で行う。実際には、suture model による中
大脳動脈閉塞(MCAO)による脳虚血を作成する。虚血のコアではアシドーシスが生じて脱分極を
起 こ し 、 そ の 結 果 voltage-dependent Ca チ ャ ン ネ ル が 開 き 、 C a + + が 流 入 し 、 ま た 、
receptor-operated gate も開き、さらなるCaの流入をもたらす。このMCAOの操作直前にMn+
+を投与すると、CaのかわりにMnが細胞内に流入し蓄積することからMRI上に造影効果が認め
られると考えられる。また、拡散強調画像のテンソル画像を用いて、脳血管障害に伴う皮質性のダメ
ージばかりでなく、白質の障害を画像化し、解剖学的、機能的な神経線維の走行と検討することから、
皮質と白質を合わせた神経単位そのものの機能画像を得ることから、新たなブレインアタックによる
脳損傷に伴う障害の解析を可能とする。さらに、MR-hyperpolarized gas 法を用いた新しい定量的脳循
環画像を実験的に検討し、全く新たな脳循環測定法の基礎を確立する。MR-hyperpolarized gas 法のH
eガスによる肺の画像化をはじめとして、Xeガスを用いた脳潅流画像の検討を実験動物を用いて行
う。この方法から、全く非侵襲的な定量的脳循環測定法が可能となり、また、本法は、直ちに臨床応
用可能となる。また、拡散強調画像のテンソル画像を用いた Nerv-tracking 法を昨年開発した。本法
を用いて、脳血管障害急性期からの白質損傷の経時的な変化を観察し、脳血管障害の予後判定や、リ
ハビリテーションによる機能回復の程度との相関を検討し、脳血管障害の早期の機能回復の可能性を
画像化し、新たなブレインアタックによる脳損傷に伴う障害の解析を可能とする。
(峰松
一夫)
虚血性脳障害の未知の病因・病態の解明と新たなる治療戦略の確立に資することを目標として、先
進的脳機能・病態画像技術の開発と応用、虚血性脳血管障害の超急性期病態の解明、脳高次機能に及
ぼす潜在的脳虚血の長期的影響の検討を行う。研究は、大きく以下の 3 つの分野について遂行する。
1)Diffusion MRI と harmonic imaging 法(神経超音波技術による脳循環画像
化)による超急性期脳血管障害病態迅速評価法の検討
研究開始時において、超急性期虚血性脳血管障害の新しい MR 診断技術として注目されていた拡散
強調 MRI (diffusion MRI)に着目した。これを、臨床例に応用し、超急性期脳血管障害の新たな病態
を発見し、治療に応用することを目的とした。また、ベッドサイドにおける脳血管病変ならびに脳循
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Brain
attackから脳を守るための研究
環動態評価法である神経超音波技術の超急性期虚血性脳血管障害診療における意義を明確にすること
も目的とした。研究第 2 期には、新たな神経超音波技術として harmonic imaging 法が登場したため、
本法による脳循環画像化の可能性を追求することとした。
2)Animal PET による霊長類大脳での apreading depression (SD) の発生確認と
その虚血脳に及ぼす影響の検討
小動物実験モデルを用いた研究によって虚血性脳損傷の発生機序に深く関ることが示されていた
spreading depression (SD) 発生時の脳循環代謝病態を animal PET を用いて検討することとした。SD
の発生はヒトを含む霊長類では確認されていなかった。そこで、サルの脳虚血モデルの確立、サル大
脳における SD 発生の有無の確認と、関連する分子生物学的病態の検討を行うこととした。
3) PET, SPECT, 3T-fMRI を用いた潜在的脳循環障害と知的機能初期障害の評価
PET, SPECT を用いて脳循環予備力障害とその知的機能、脳機能賦活パターンの長期的変化に及ぼす
影響を解明することを目的とした。研究第 2 期には、国内で数少ない超高磁場(3Tesla)の MRI 装置
が利用可能となったことから、従来は不可能であった高時間・空間分解能の fMRI を実施し、上記の
研究目的を深めることとした。
(柳本
広二)
1) 脳梗塞耐性機能発現動物モデルの確立
虚血に対する抵抗性を神経細胞に生じさせる虚血耐性現象は、基本的に脳の中でも特に虚血に対
して脆弱である神経細胞群(海馬 CA1)に対して認められた。しかしながら、同様の前処置による虚血
耐性誘導をその他の部位に存在する神経細胞群に対して場合、脳梗塞に対する抵抗性となり得る耐性
とまでは至らない。すなわち、臨床で問題となる脳梗塞性の強度虚血に対する耐性とはなり得ない。
この虚血耐性能を何らかの手法を用いて増強させることで、脳梗塞にも耐えうる生存能を脳へもたら
すことを目的に、独自に開発した脳皮質型局所脳虚血モデルを用いて、あらかじめ様々なストレス性
前処置を脳へ負荷し、様々な待機期間を設けた後、一定の局所脳虚血負荷を与え、その後の脳梗塞巣
進展に対する抵抗性を脳梗塞体積を解析することで判定する。(以上第 1 期)
耐性現象の確認後は、その成因を解明するために脳内で発現変化するペプチドに関して、マイクロ・
アレー法を用いた遺伝子発現解析法を用いて、網羅的に検索し、増減の示唆されたそれぞれの因子に
対し、さらに定量的な解析を加える。一方、ラットで観察された脳梗塞耐性能が他動物種、マウスに
おいても再現可能か否かを一過性脳虚血ラット脳梗塞モデルを作成し、それを用いて検討する。ラッ
トあるいは、マウスに脳を用いた定量的な解析にてストレスによる前処置後に増加あるいは、減少が
確認された因子群に対しては、それぞれの抗体による免疫組織化学法を用いて、時間的、空間的分布
を検討する。さらに、脳梗塞耐性期と時間経過が一致した場合は、実際にその物質の増減が脳虚血に
対する脳の変化を誘導るいは、消失させるか否かを確認するため、それに対するトランスジェニック、
あるいは、ノックアウト動物を用いて、その後の脳梗塞性虚血負荷に対する反応、および脳梗塞耐性
能の出現に関する影響を観察する(以上第 2 期)。
2) 神経栄養因子および脳低温状態の有する脳保護効果の解析
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Brain
attackから脳を守るための研究
虚血に対し最も強力な脳保護作用を有している可能性があるとされる外因性因子あるいは環境因子
として、神経栄養因子の投与および低体温状態への誘導がある。しかしながら、 vivo の実験系にお
いて、これら因子あるいは、条件の脳梗塞に対する真の脳保護作用は依然、明らかでない。脳保護効
果の vivo での有無および、程度を明らかとするためにラット脳皮質型脳梗塞モデルを用いて、神経栄
養因子および低体温療法の有する脳保護効果を検討する。神経栄養因子は、血小板由来成長因子およ
び脳由来神経栄養因子を用いる。それぞれ血液脳関門を通過しないペプチドであるため、全身投与で
はなく、微量注入ポンプを用いて、直接ラット脳へ注入投与を行う。様々な用量、注入速度を用いて、
組織学的手法を用いたその後の脳内での分布状況と共に脳の虚血に対する抵抗性の有無および、虚血
後の投与による効果を検討する(以上、第 1 期)。一方、摂氏 33 度の軽度低体温の有する脳保護効果
を検討するためにラット脳梗塞モデルに対する治療実験を行う。軽度低体温は、虚血中、虚血後の短
時間、虚血後の長時間、および、虚血中と虚血後の併用療法を用いて検討する。脳保護効果の検討に
は、2 日後あるいは、1 ヶ月後の脳梗塞体積を計測し、さらに、脳機能保護に対する影響の観察には、
ラット、マウスに対する神経脱落兆候判定スケールを用いて行う。一過性局所脳虚血に対する軽度低
体温の効果が実証された場合、さらに永久局所脳虚血に対する軽度低体温の脳保護効果を検討する。
独自に開発した(第 1 期)長期に生存可能なラット永久局所脳皮質型脳虚血モデルを用いて脳梗塞巣
に対する効果ならびに脳機能に対する効果を組織学的、脳機能学的に検討する。
(淀井
淳司)
多機能蛋白チオレドキシンは自身の持つチオール基を介した直接の酸化還元反応のほか、転写因子
の活性化などにより細胞内外の酸化還元環境の維持(レドックス制御)に重要な役割をはたしている。
また虚血や機械的な傷害によって脳細胞、血管にチオレドキシンが発現され、細胞保護的な役割をし
ている証拠が蓄積されてきている。本研究では、このチオレドキシンをはじめとするレドックス制御
蛋白によるレドックス制御と脳組織保護との関連について詳細を明らかにし、発現誘導や投与療法な
ど脳卒中治療に応用可能か否かを解析することを目的とする。
第 1 期の計画としてはレドックス制御蛋白であるチオレドキシンを脳内にて高発現するトランスジ
ェニックマウスの作成を目指し、チオレドキシンの脳虚血に対する役割を解析する。第 2 期の計画と
しては、チオレドキシンの細胞保護作用機序を明らかにすると共に、チオレドキシンが脳卒中治療に
応用が可能か否かを検討するというものであった。
以下に、各年度に掲げた具体的な目標計画を列記する。
H9 年度
マウス、ラットの局所一過性、あるいは永久脳虚血モデルを用い、内因性チオレドキシンの発現、
分布を解析する。その方法としては免疫染色、western blotting、northern blotting の手法を用いる。
H10 年度
チオレドキシン高発現トランスジェニックマウスの作成を目指す。その発現の確認には RT-PCR 法、
および western blotting 法にて確認する。またこのトランスジェニックマウスを用いて局所永久虚血
モデルを作成し、虚血脳障害の程度を野生型マウスと比較検討する。
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Brain
attackから脳を守るための研究
H11 年度
チオレドキシンが(虚血後の)神経幹細胞の活性化に果たす役割を解析する。方法としてはチオレ
ドキシンを高発現するトランスジェニックマウスやチオレドキシン・ヘテロノックアウトマウスを用
い野生型マウスとの比較検討を行う。また、同様の手法を用いて、チオレドキシンの抗動脈硬化作用
の解析を行う。
H12 年度
虚血ストレス下での、チオレドキシンをはじめとするレドックス制御蛋白の神経細胞保護作用の仕
組みを遺伝子レベルで解明する。またリコンビナント・チオレドキシンの脳室内投与あるいは静脈内
投与など、細胞外からの投与による脳細胞保護効果の有無について検討する。
H13 年度
脳虚血の新たな治療開発のため、チオレドキシンの発現誘導が可能か否かを検討する。またチオレ
ドキシン・スーパーファミリー遺伝子の発現誘導機構を解明する。
(成冨
博章)
(1) MRS を用いた虚血巣温度測定技術の評価と虚血後高脳温の検討
重症脳梗塞から脳を守る方法の一つとして低体温療法が有用視されている。低体温療法は全身麻酔
下に駆幹を冷却することにより脳の温度を 33-34℃程度に下降させる治療法であるが、その際、一般に
全脳平均温度(鼓膜温、内頸静脈球温、膀胱温等の測定による)が駆幹冷却の目標温度として用いら
れている。しかし、全脳平均温度は必ずしも虚血病巣部位の温度を反映していない可能性があり、病
巣温度不明のまま駆幹冷却を行わなければならないことが低体温療法の弱点となっている。そこで本
研究では(1)ヒトの脳局所温度を非侵襲的に測定できるとされている 1H 磁気共鳴スペクトロスコピー
(1H -MRS)法が脳梗塞患者の脳温度測定に有用であるか否か、(2)脳梗塞患者の局所脳温度が虚血部位
と健常部位で異なるか否か、(3)低体温療法に際する駆幹冷却により虚血部位の温度が期待通り低下す
るか否かの三点を明らかにすることを目的として検討を行うこととした。
第 I 期(平成 9-11 年度)の計画:臨床用磁気共鳴(MR)装置 (1.5 Tesla) を用いた 1H –MRS により
温度測定が可能であるか否かを確認するためファントーム実験を行い、ファントーム実験において温
度測定が可能となった後に正常ボランテイアおよび急性期脳梗塞患者の脳局所温度を行うこととした。
急性期脳梗塞患者の脳温度測定は、通常治療中の例のみならず低体温療法中の例についても行うこと
とした。研究実施を急ぐために、第 I 期には、まず MR 装置を容易に可動できる美原記念病院および慶
應義塾大学脳神経外科の研究協力により計画をスタートさせることとした。
第 II 期(平成 12-13 年度)の計画:国立循環器病センター敷地内のビーエフ研究所の MR 装置は 3.0
Tesla の高磁場を有しており、同装置を用いれば 1.5 Tesla 装置よりもさらに解像度の高い温度測定が
可能と思われる。そこで、第 II 期には、ビーエフ研究所との共同研究により 3.0 Tesla の高磁場装置
による脳温度測定を行うよう計画し、同研究所に計画書を提出し、同研究所の倫理委員会、国立循環
器病センターの倫理委員会の承認を得たのちに計画を実行することとした。
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Brain
attackから脳を守るための研究
(2) 低脳温の脳保護機構の解明及び低脳温療法の有効性と安全性の評価
低体温は虚血性侵襲から神経細胞を保護して梗塞巣を縮小させることが実験的に知られているが、
脳機能への影響、血管系への影響、アストロサイトへの影響等は未だ必ずしも明らかではない。低脳
温の脳保護機構を明らかにするためには、(1)低脳温が機能の面からも脳保護作用を発揮するか否か、
(2)低温が神経細胞のみならず血管系を保護するか否か、(3)虚血に際して出現するアストロサイトが
急性期に脳保護作用を発揮するか否か等を明らかにする必要がある。一方、脳梗塞急性期にはしばし
ば体温上昇が認められて不良な転帰と密接に関係することが知られている。臨床例における低脳温の
脳保護効果を推察するためには体温上昇の機序、病態への影響を明らかにする必要があり、(4)いかな
る例において体温が上昇しやすいか、(5)どのような機序により体温が上昇するか、(6)体温が上昇し
た場合脳梗塞例の病態がどのように変化するか、等を明らかにする必要がある。また、低脳温療法が
有効であるとしたら、体温上昇を阻止するだけでも治療効果が得られる可能性がある。この点を明ら
かにするために、(7)脳梗塞急性期の体温上昇を阻止する治療(平温療法)が臨床的に有用であるか否
かを明確にする必要がある。本研究の最終課題は、(8)低脳温療法は急性期脳梗塞の治療として有効で
あるか否か、有効であるとしたらどのような例が対象となるべきか、また治療法として安全であるか
否か、を明らかにすることである。低脳温療法は全身麻酔下に駆幹を冷却して低脳温を導く治療法で
あるが、安全性の上からできれば全身を麻酔することなく頭部局所だけの冷却により低脳温を得るこ
とが望ましい。そこで(9)頭部冷却のみにより脳の温度を下降させることができるか否か、を検討する
ことも重要である。
第 I 期(平成 9-11 年度)の計画:以上の点を明らかにするため、第 I 期には、先ず上記(1)を明ら
かにする目的で、低脳温下にラットに高度な虚血を作成し、脳虚血後に組織障害の軽減のみならず機
能障害軽減がみられるか否かを実験的に検討することとした。また(2)を明らかにするため、培養ウシ
脳血管内皮細胞の虚血性障害が低温により保護されるか否かを検討する実験、(3)を検討するため、ラ
ット脳虚血後に出現するアストロサイトが脳保護作用を発揮するか否かを検討する実験を行うことと
した。さらに、上記(4)、(5)、(6)を検討するために、脳梗塞急性期患者を対象とした臨床的な検討を
行うこととし、上記(5)を明らかにする目的で、ラットの視床下部に限局した小梗塞を作成して体温上
昇がみられるか否かを検討する実験、体温上昇を示した脳梗塞剖検例を対象とした病理組織学的検討
を行うこととした。次いで上記(7)を追求するために、脳梗塞急性期患者を対象とした体温阻止療法(非
ステロイド系抗炎症鎮痛薬ロキソプロフェンを 5 日間経口投与:平温療法)の有用性を検討するパイ
ロット試験を開始することとし、また上記(8)を検討するために超急性期重症脳梗塞患者を対象とした
低脳温療法のパイロット試験を行うこととした。平温療法、低脳温療法のパイロット試験の結果をふ
まえて、これら治療法の臨床的有効性を明らかにする目的で、第 I 期末から二カ年計画で多施設共同
の無作為化比較対照試験 (Japanese Acute Stroke Hypothermia Trial: JASH)を開始した。
第 II 期(平成 12-13 年度)の計画:第 I 期末に立ち上げた多施設共同の無作為化比較対照試験 (JASH)
を続行させ、さらにパイロット試験結果と合わせて、平温療法の臨床的有用性、低脳温療法の臨床的
有用性、安全性、限界等を明らかにしていくこととした。また、上記(9)を明確にする目的で、急性期
重症脳梗塞例を対象に頭頸部冷却装置を用いた局所低脳温療法を試み、局所冷却により脳温度を下降
させることが可能であるか否かを検討することとした。
7
Brain
attackから脳を守るための研究
(安井
信之)
脳低温療法施行中の脳血管障害症例で PET による脳循環酸素代謝の測定を行ない,脳低温療法のメ
カニズムを明らかにするとともに(ア. PET による脳循環代謝の測定により脳低温療法の脳保護効果の
解明),重症脳血管障害症例に対して脳低温療法を施行して実際の臨床効果についても明らかにする
(イ. 重症脳血管障害例に対する脳低温療法の有効性の評価)ことを目指す。臨床的な研究と平行して,
ラット脳虚血モデルを用いて脳低温療法の脳保護効果を検討するとともに,組織学的,免役組織学的
検討からも,脳低温療法の効果のメカニズムを明らかにすること(ウ. 脳虚血モデルに対する脳低温療
法の評価)を目指した。
(名村
尚武)
近年の細胞死機構に関する知見の集積と分子細胞生物学的手法の発展は著しく、脳梗塞動物モデル
においてもアポトーシスの関与が示唆され、アポトーシスを標的とした新しいアプローチによる脳梗
塞急性期治療法開発の基盤が整いつつある。本研究では、最近の細胞死に関する基礎研究から得られ
た知見と分子生物学的手法を虚血性神経細胞死に応用し、新たな急性期脳保護治療法開発の基礎に資
するため、神経細胞傷害に関与する可能性のある分子を探索し、動物実験レベルでの脳保護効果を確
認することを目的とする。
細胞死シグナル伝達機構として最近注目されている MAP キナーゼファミリーの虚血負荷による活性
化をマウスの中大脳動脈閉塞モデル、およびスナネズミの前脳虚血モデルを用いて個体レベルで解析
する。さらに、その生物学的意義を検討するため、それぞれの経路に対する選択的阻害剤の脳傷害に
及ぼす影響を評価する。
さらに、脳保護効果の認められた経路に関しては、その経路活性化による神経細胞死誘導のメカニ
ズムを解明する。
(後藤
由季子)
神経細胞において、様々な神経栄養因子や神経伝達による脱分極等が、生存シグナルとして働くこ
とが良く知られている。脳虚血による神経死も、神経栄養因子の注入により部分的に抑制されること
が報告されている。しかしながら、脳血管障壁のため、神経栄養因子を直接脳に投与することは難し
い。我々は、神経栄養因子のような細胞外から働く分子ではなく、細胞内生存促進シグナル伝達につ
いて、その生存促進機構を検討した。神経栄養因子 Brain-derived neurotrophic factor (BDNF)の下
流で生存促進に働く分子として PI3 kinase-Akt 経路・MAPK 経路・cAMP-PKA 経路が独立に働くことを
示したので、中でも Akt と PKA の生存促進に働く際のターゲットの同定を行う。
(佐藤
託実)
日本は世界史上類を見ない高齢化社会に入ろうとしており、虚血性神経細胞死が引き起こす神経機
能障害に如何に対処すべきかが重要な社会問題になりつつある。これらは、本人のみならず、家族へ
の負担も大きく、社会的な損害は甚大であることから、低分子の治療薬の開発は、緊急の課題である。
8
Brain
attackから脳を守るための研究
現在、神経細胞死を司る分子群が次々に明らかになり、神経細胞死のメカニズムの解明は急速に進み
つつあるが、神経細胞を保護する低分子化合物の開発はあまり進んでいない。かかる状況を鑑み、本
研究では、抗腫瘍性プロスタグランジン(PG)の一種である 7-PGA1 を基本骨格として、神経細胞を保
護する低分子化合物を創造することを目標にする。PG を用いることの利点は、1)3 成分連結法により、
誘導体を容易に化学合成できること、2)脳血液関門を通過させる方法論が確立していることである。
(平成 12 年度)抗腫瘍性プロスタグランジン(PG)に分類される PGA 及び PGJ の神経細胞内での役割は
不明であったが、1998 年頃に 7-PGA1 誘導体が顕著な神経突起伸展促進作用があることを発見した。
さらに一部の誘導体は HT22 細胞(海馬由来の神経細胞芽腫)や大脳皮質ニューロンにおいて神経細胞
死抑制作用があり、神経突起伸展促進作用と神経細胞死抑制作用を併せ持つ「神経栄養因子様低分子
化合物」としての性質をもつことが明らかになった。
「神経栄養因子様低分子化合物」化学構造の最適
化を行うとともに細胞死のメカニズム(細胞死のどの phase で抑制しているか、またはどのような遺
伝子が誘導されているかなど)の探求を行う。ビオチン化した化合物を用いて「神経栄養因子様低分
子化合物」結合蛋白質の性質を明らかにする。またマウスの局所脳虚血モデルを用いて個体レベルで
どのような作用があるのかを明らかにする。
(平成 13 年度)細胞死抑制のメカニズムを分子レベルで明らかにすることを目標にして、DNA チップ
により、遺伝子発現の解析を行い、細胞死抑制に関与する遺伝子の同定を行う。
また「神経栄養因
子様低分子化合物」の細胞内受容体を同定することを目標にして、Drug-western や Photo-affinity
labelling のためのリガンドを合成し、
「神経栄養因子様低分子化合物」と結合する細胞内蛋白質を同
定する。また虚血性脳障害からの保護効果の詳細な解析を行う。
(川口
三郎)
19 世紀末以来、「哺乳動物の中枢神経系では再生は起こらない」ということが広く信じられてきたが、
ここ 20 年ほどの研究成果は、それが間違いであることを明らかにし、その結果、神経修復、すなわち、
外傷、血管障害、変性疾患によって失われた神経回路を再構築する可能性を開いた。本研究の目標は
脊髄損傷によって引き起こされる対麻痺や四肢麻痺の神経修復による治療法の開発に向けて展望を切
り開こうとするものである。この目標を達成するためには,ラットで脊髄損傷モデルを作り,そのモ
デルについて十分な機能的意義を有する脊髄伝導路の再構築ができることを証明することが必要であ
り,それができれば,臨床的応用は可能になるというのが,現在、この領域の研究者の共通の認識に
なっている.しかし、現在の研究状況から一挙にこの証明にいたることはできないので、一歩一歩段
階的に確証を積み上げて行くことが必要である。それにはアメリカの NINCDS (National Institute of
Neurological and Communicative Disorders and Stroke)の特別委員会が脊髄伝導路の再生の判定基
準 (Exp. Neurol. '69)として,証明することを要求している以下の 5 項目,すなわち,1)損傷によ
る神経突起の離断,2)中枢神経細胞の突起による離断部の架橋,3)再生した神経突起による接合部
形成,4)再生した神経線維による後接合部応答,5)再生した結合に起因する機能の変化に確証を与
えることが重要と考えられる。研究計画として、<1>自然再生が起こる幼弱ラットの脊髄部分切断標
本を用い、上記 1∼3 項目の確証を挙げ、それをもとに、<2>成熟ラットで脊髄の部分的切除を行い、
胎児ラットの相同組織を切断部に移植することにより、脊髄伝導路の再生を誘導し、上記 1∼3 項目の
9
Brain
attackから脳を守るための研究
証明を行う。 一方、<3>新生ラットの脊髄髄節の置換標本を作り、軸索再生の最適グリア環境を解
明する。これらの研究の進展に応じて、<4>成熟ラットの脊髄の完全切断標本を作成し、上記 1∼5
項目の証明を行う。その手順として、<1>生後 3 週齢までのラットの脊髄の過半側を鋭利に切断し,
切断後,自然に起こる錐体路,赤核脊髄路,後索路の再生についてアメリカの NINCDS の要求している
5 項目のうち、第 1∼第 3 項目の証明を行う。順行性トレーサーを用いて切断部を架橋する線維の連続
性を明かにし(第 2 項目)
、隣接切片で Fink-Heimer 変性神経鍍銀法による Waller 変性が切断部を境
として尾側に起こることを示し(第 1 項目)
、電子顕微鏡で再生したシナプス終末の存在を明らかにす
る(第 3 項目)。<2>成熟ラットで脊髄の部分的切除を行い、胎児ラットの相同組織を切断部に移植
することにより、脊髄伝導路の再生を誘導し、同じ方法を用いて上記 1∼3 項目の証明を行う。<3>
新生仔期に脊髄髄節の置換(Nature 367)を行ったラットについて, 宿主の髄節と移植髄節の境界部
のグリア環境を解明する。これは、伝導路の再生が成功するか,失敗に終わるかは切断部近傍のグリ
ア環境の差異が鍵を握ると予測されるので、そのことを明らかにするためのよいモデルと思われる髄
節置換標本を用い、グリア細胞の各種マーカーを使って解明しようとするものである。<4>新生ラッ
トの脊髄髄節置換標本を用いて、再構築された神経路と機能回復の相関を明らかにする(第 5 項目)
。
逆行性標識法により、大脳皮質、赤核、前庭神経核、縫線核から脊髄への投射細胞を逆行性標識法に
より、標識してその数を数えることにより、再構築された投射を定量的に評価する。一方、機能評価
には BBB スケール(Basso, Beattie, Bresnahan 1996, Exp. Neurol. 139)を用いる。 脊髄損傷の神
経修復についてすでに世界各国でいろいろな試みがなされ、現在、それらの優劣を比較しなければな
らない段階を迎えている。比較しなければ、どの試みが優れているかを知ることも、それに改善を加
えたり、あるいは新たな方法を開発することもできず、したがって臨床応用に結びつけることもでき
ないと思われる。しかし、これまでの研究報告は比較できるような形で出されていないので、現状で
の比較は極めて困難である。アメリカでは多施設の参加する研究(multicenter study)で BBB スケー
ルが使われているので、本研究でもこの評価法を用いることにする。この評価法は、荷重落下法によ
る成熟ラットの脊髄坐滅標本のために開発されたものであるが、我々は予備実験により、新生ラット
の髄節置換標本や成熟ラットの脊髄完全切断標本にも使用可能であることを確かめている。<5>成熟
ラットの脊髄完全切断標本を作成し、切断部に胎仔ラット脊髄組織を移植することにより、脊髄伝導
路の再生が促進されることを順行性・逆行性標識法により明らかにし、再生した脊髄伝導路によって、
機能回復が起こることを証明する。機能評価には BBB スケールを用いて、国際的にデファクトスタン
ダードになるような研究報告を出したいと思う。
<6>成熟ラットの脊髄完全切断標本に胎仔ラットの脊髄組織を移植することにより、脊髄伝導路の
再生を促進することが可能であることを見出しているので、胎仔ラットの脊髄組織に含まれる細胞が
有効か分子が有効かを明らかにし、有効成分の分離同定を進める。
(高橋
淳)
現在、脳損傷や変性疾患で失われた中枢神経機能の再生のために、神経幹細胞を利用することが注
目されつつある。しかし、神経幹細胞の自己複製や分化に関与する分子、また、表面特異マーカーは
まだまだ知られていないのが現実である。我々は、ラット海馬由来神経幹細胞を用い、シグナルシー
クエンストラップという方法を用いてこれらの因子を単離することを目標としている。また、この細
胞が細胞移植療法の材料となりうるかどうかを明らかにするために、神経幹細胞から誘導したニュー
10
Brain
attackから脳を守るための研究
ロンのシナプス形成能および脳虚血モデルへ移植したのちの効果を検討する。
ラット海馬由来神経幹細胞(AP14 細胞、 PZ5 細胞)から mRNA を抽出し、シグナルシークエンスト
ラップ cDNA ライブラリー を作製、スクリーニングする。シグナルシークエンストラップ法を行いシ
グナルシークエンスをもつ cDNA クローンを単離し、それらのクローンを解析する。特に未知のものに
注目して、in situ ハイブリダイゼーションを行い、脳組織内での発現を検討する。また、抗体を作成
し、細胞、脳組織での免疫染色をおこなう。単離された分子が自己複製や分化に関与する可能性があ
る場合、タンパクを精製して培養培地に加えることによって細胞への影響を確認する。また、脳室内
に投与して内在性の幹細胞に対する影響を検討する。表面特異マーカーと考えられる場合は、この抗
体を用いて FACS ソーティングにより細胞を分離し、得られた細胞が幹細胞としての性質を持つか検討
する。
シナプス形成能に関しては、神経幹細胞から誘導したニューロンをラット胎仔初期培養ニューロン
と共培養し、パッチクランプで生理学的検討を行う。
脳虚血モデルは成体ラットを用いて 4-vessel occlusion によって作成し、脳虚血モデル作成 2 週間後
に、ラット海馬由来神経幹細胞(PZ5 細胞)を海馬に移植する。移植後の行動解析は water maze test
によって行い、終了後に還流固定を行って脳固定をする。脳切片を免疫染色し、移植細胞の生着・分
化を検討し、行動解析の結果と関連づけて考察する。
(木山
博資)
神経損傷に脆弱な中枢神経の生存と再生の促進をめざし、将来の新たな治療法や予防法の開発のた
めの基礎的な研究を行う。このため、神経損傷に耐性のある末梢運動神経の損傷モデルや、我々が作
成した損傷運動神経特異的な cDNA ライブラリーを用いて、損傷・再生に関連する遺伝子群を抽出する
とともに、そのなかで損傷に対して脆弱な中枢神経に欠損している生存・再生因子の同定を試みる
(ア:新規生存・再生因子の遺伝子検索)。また、将来の遺伝子治療を視野に入れ、得られた生存・再
生因子を実際に実験動物に導入することにより、損傷神経の生存や再生の促進が可能であるかどうか
を検討する。このため、ウイルスベクターを用いた遺伝子導入法の確立と評価法についても検討する
(イ:遺伝子導入による損傷神経の生存・再生促進の評価)。
(眞崎
知生)
【平成 10 年度の研究実施内容】
ウサギ摘出血管の収縮張力の発生を指標として,マクロファージを活性化する内因性物質をウサギ
酸化赤血球膜の構成成分の中から検索し精製する。また,酸化 LDL およびその受容体との関連も併せ
て検討する。研究実施内容は以下の通りである。
1) ウサギ酸化赤血球膜を可溶化した後,それをゲル濾過などの方法を用いて分画し,その各分画で処
理したマクロファージが血管の収縮能を有するかどうかを調べる。
2) 酸化赤血球膜のタンパク質成分(あるいは他の成分)を標識化アミノ酸にてラベルし,これを各分
画に分けた後,マクロファージへ結合させ,結合した成分を精製する。さらに,これらの結合する成
分の中で,マクロファージに血管収縮能を与える物質を検索する。
11
Brain
attackから脳を守るための研究
3) 酸化 LDL についても 1)および 2)と同様な実験を行う。
いずれの場合も,反応陽性な分画を精製し,必要であれば cDNA クローニングを行う。
【平成 11 年度の研究実施内容】
1) マクロファージおよび酸化赤血球膜が in vivo でも脳血管攣縮を引き起こすことを確かめるために,
酸化あるいは非酸化赤血球膜だけあるいは赤血球膜とマクロファージの混合物をウサギクモ膜下腔へ
投与して脳血管撮影を行う。同時に,病理組織学的な検討を行い,脳血管周囲へのマクロファージの
浸潤の有無の解析を行う。
2) マクロファージによる血管収縮のメカニズムを明らかにするために,我々の発見した種々のカルシ
ウムチャンネル阻害剤や代謝阻害剤の血管収縮に対する影響を検討する。
3) 前年度はウサギ腹腔内から回収したマクロファージを使用したが,マクロファージを活性化する物
質をはじめとする今後のスクリーニング実験のために,マクロファージの大量調整法(培養マクロフ
ァージを含む)を検討する。
【平成 12 年度の研究実施内容】
1) これまでは,チオグリコレート培地を腹腔内に投与したウサギ腹腔内から回収したマクロファージ
を使用してきた。我々の実験系では異なる個体に由来するマクロファージを混合して使用することが
できないため,この方法では今後の精製およびクローニングの実験に使用する予定のマクロファージ
の数に比べ,回収できるマクロファージの数が不足していると考えられる。そこで,今後のスクリー
ニング実験のために,マクロファージの大量調整法,特に培養マクロファージ(マウス由来のもの)
の使用を検討する。
2) この細胞系を用いて,これまでの in vitro および in vivo の実験が再現できるかどうかを検討す
る。
3) 再現できる場合には,この実験系を用いてマクロファージによる血管収縮のメカニズム,特にカル
シウムチャンネルの関与を中心に検討する。この実験では,我々の発見した種々のカルシウムチャン
ネル遮断薬,ラジカルスカベンジャー,マクロファージの機能阻害剤の血管収縮に対する作用につい
て検討を加える。
4) 再現できる場合には,この実験系を用いてマクロファージを活性化する物質の単離・精製を行う。
もしペプチドであれば,cDNA クローニングを行う。
【平成 13 年度の研究実施内容】
1) 酸化赤血球膜によるモノサイトの分化・遊走・活性化のメカニズムの解明:マクロファージ/アス
トログリアの前駆細胞であるモノサイトの分化・遊走・活性化に対する酸化赤血球膜の作用機構を明
12
Brain
attackから脳を守るための研究
らかにするために,培養血管内皮細胞での接着因子の発現,migration chamber でのモノサイトの遊走,
形態変化,および酵素活性の変化などを検討する。さらに,酸化赤血球膜の構成成分の中から原因物
質を精製し,その cDNA クローニングを行う。
2) マクロファージによる脳血管攣縮のイオン機構の解明と治療薬の開発の試み:我々は,これまでに,
マクロファージによる脳血管攣縮の発症にはエンドセリンが関与していること,また,エンドセリン
による末梢血管収縮に関与する Ca チャンネルとその遮断薬を発見した。本研究では,脳血管平滑筋細
胞を用いて,エンドセリンにより活性化される Ca チャンネルを明らかにするとともに,これらのチャ
ンネルに対する上記の遮断薬の効果を検討する。さらに,実験的脳血管攣縮に対するこれらの遮断薬
の作用を検討する。
(橋本
信夫)
脳卒中における血管病変の病態解明の一助として、脳血管障害の成因において細胞外マトリックス
の果たす役割の評価を行う。脳卒中の中でも最も予後が悪いとされるクモ膜下出血の大部分は脳動脈
瘤の破裂が原因であるが、その形成機序は未だ不明である。この脳動脈瘤の発生機序を分子レベルで
明らかにし、その破裂の発症を効果的に予防、治療することは現代医療にとって急務である。本研究
は脳動脈瘤発症における主要分子機構および関連因子を特定し、それを標的とした新たな非侵襲的治
療開発を目的とする。
我々はすでに人間の脳動脈瘤と相同性の高い自然誘発型脳動脈瘤モデルをラットを用いて作製して
いる。そして脳血管分岐部近傍における shear stress の変化が(1)内弾性板の消失、(2)中膜平滑
筋層の浅薄化、(3)外膜の変性、といった脳動脈瘤形成過程における主要な形態的変化を誘導する可
能性があることを病理学的見地から報告してきた(Stroke;1997,398-403、Stroke;1990,1722-6 他多数)。
本研究では新たに、先にあげた脳動脈瘤主要変化の分子メカニズムを解析する。まず血管の最大主
要構造物である中膜平滑筋層の浅薄化に注目し、平滑筋細胞の減少を誘導する分子機構の解明を、特
に平滑筋細胞自身のアポトーシス変化および iNOS を介する NO の誘導、MAPK カスケードの活性化の観
点か検討する。次に、内弾性板、平滑筋細胞層の細胞骨格、外膜といった血管構造物全般の主要構成
成分である細胞外マトリックスの分解が脳動脈瘤形成に大きく関与する可能性があることに注目し、
主要血管結合組織であるエラスチン、コラーゲンの主要分解酵素である Matrix Metalloproteinases
(MMPs)-2、-9 の動脈瘤形成時における発現変化とその役割について解析を行う。
1) ラットを用いて様々な形成段階の脳血管分岐部動脈瘤を誘発し、同病変切片を用いて断片化 DNA
ラべリング法(TUNEL 染色)およびα-smooth muscle actin 抗体を用いた免疫染色との二重染色、
透過電顕鏡的観察を行いアポトーシスの関与を検討する。
2) 同じ中膜平滑筋層においてアポトーシス誘導の機能を有する誘導型 NO 合成酵素(iNOS)、MAPK の
免疫染色を行い、iNOS 阻害剤の腹腔内投与による動脈瘤形成の抑制効果を確認する。
3) 細胞外マトリックスの局在変化については従来より血管壁主要構成成分と考えられているエラ
スチンおよびコラーゲン 4 型の分解酵素であるマトリックスメタロプロテナーゼ(MMP-2、-9)
に注目し、免疫染色、zymography にて解析する。
4) マウスを用いた脳動脈瘤モデルを確立し、脳動脈瘤形成に関与する可能性のある因子についてト
ランスジェニック、ノックアウトマウスを作成し、脳動脈瘤形成に関与しているリモデリング関
13
Brain
attackから脳を守るための研究
与因子を解析する。
(永田
泉)
クモ膜下出血後の脳血管攣縮は、脳血管の遅発性の狭小化であり、重篤な虚血性合併症・後遺症を
生じさせることで知られる。クモ膜下出血後の脳血管攣縮の病態を解明し、臨床へ通じる新たな治療
法の開発を目指す。まず、治療実験として、アデノウイルスを用いた実験動物脳内塩基性繊維芽細胞
成長因子(bFGF) の遺伝子導入を行い、髄液内での bFGF の有意な増加確認の後、局所脳血流量を測定
する(前期)
。一方、クモ膜下出血後の脳血管攣縮発現におけるセリンプロテアーゼ活性化の関与を調
べる目的に家兎クモ膜下出血モデルを用いて、合成広域作用型特異的セリンプロテアーゼ阻害剤、お
よび選択特異的合成スロンビン阻害剤をクモ膜下出血作成後より、持続的に全身投与行い、その後の
脳血管攣縮の進展に与える影響を観察する。さらに脳血管平滑筋肥厚におけるスロンビン活性化の果
たす役割を調べる目的にラット頸動脈肥厚モデルを用いて、広域セリンプロテアーゼ阻害剤全身投与
による血管壁肥厚抑制効果を解析する。頸動脈および脳血管平滑筋細胞の分裂刺激あるいは、脳血管
攣縮で見られる持続的狭小化の過程において、セリンプロテアーゼの一種であるスロンビン活性化お
よびその下流に存在する細胞内機構の活性化に関する検討として、成長因子のクモ膜下出血後あるい
は、バルン傷害後の血管壁肥厚過程における発現変化を解析する。また、ヒト内頸動脈剥離術で得ら
れた動脈硬化試料を用いて、血管壁肥厚原因成長因子を同定する(以上後期)。
(寒川
賢治)
Brain attack による虚血は、脳組織のみならず脳血管系にも大きなダメージを与える。血管傷害と
その修復は、虚血後の脳組織の修復やホメオスタシスの維持に大きく影響する。しかしながら、虚血
による脳血管の損傷及び修復のメカニズムは、ほとんど明らかになっていない。一方、我々が発見し
たナトリウム利尿ペプチド(ANP, BNP, CNP)、アドレノメデュリン及び PACAP(pituitary adenylate
cyclase activating peptide)
等の血管作動性ペプチドは、血管拡張作用のみならず、血管細胞の
保護、平滑筋細胞の遊走や増殖調節などにも大きな役割を担っていると考えられている。しかし、脳
血管系は末梢血管とはかなり異な性質を有すると考えられており、これらのペプチドの脳血管に対す
る作用は明らかでない。さらに PACAP については、中枢神経系に広く局在し、ニューロトランスミッ
ターとしての機能を有するほか、培養神経細胞及びアストロサイトにおいて vasoactive intestinal
polypeptide (VIP)の千倍強力に cyclic AMP 産生刺激活性を示し、中和抗体の添加により培養海馬ニ
ューロン死が引き起こされることが知られている。さらに一過性全脳虚血後の遅発性海馬ニューロン
死や、HIV・gp120 やグルタミン酸などによる種々の神経細胞死を抑制することなどから PACAP の神経
栄養因子としての機能が注目されている。そこで本研究では、内皮細胞にて主に産生されるアドレノ
メデュリン及び多彩な神経栄養作用を有する PACAP に焦点を絞り、脳血管の傷害及び修復における血
管作動性ペプチド役割と血管壁における情報伝達機序の解明により、脳を守る血管におけるペプチド
性因子の機能を明らかにすると共に brain attack の予防および attack 後の血管修復, 神経細胞の
保護法の確立を図りたい。具体的には、内皮細胞、平滑筋細胞など血管系細胞及びアストロサイトの
細胞増殖におけるこれら血管作動性ペプチド(アドレノメデュリン及び PACAP)の作用機序を明らかに
する。次にこれらの血管作動性ペプチドの分泌動態、遺伝子発現などその産生調節機序を明らかにす
る。そうして明らかとなったこれら血管作動性ペプチドとしての生理機能から、血管系細胞と脳細胞
14
Brain
attackから脳を守るための研究
の機能的連関性に着目し、これらの細胞間クロストークにおける役割を明らかにすることにより、
Brain Attack における脳血管障害修復の新たな治療原理を発見することを目指したい。
・リエゾン会議
委
員
所
属
菊池
晴彦
国立循環器病センター
名誉総長
眞崎
知生
大阪成蹊学園
永田
泉
(前、国立循環器病センター 研究所長)
国立循環器病センター 脳血管外科部門 部長
峰松
一夫
国立循環器病センター
内科脳血管部門
部長
成冨
博章
国立循環器病センター
内科脳血管部門
部長
名村
尚武
国立循環器病センター研究所
放射線医学部
柳本
広二
国立循環器病センター研究所
脳血管障害研究室長
安井
信之
秋田県立脳血管研究センター
センター所長
田中
忠蔵
明治鍼灸大学
センター長
淀井
淳司
京都大学ウイルス研究所
高橋
淳
京都大学大学院医学研究科
脳神経外科
川口
三郎
京都大学大学院医学研究科
認知行動脳科学講座
橋本
信夫
京都大学大学院医学研究科
脳神経外科
後藤
由季子
東京大学分子細胞生物学研究所
佐藤
託実
(PREST さきがけ研究員)
岩手大学工学部福祉システム工学科
木山
博資
大阪市立大学大学院医学研究科
機能細胞形態学
(前、旭川医大
教授)
常務理事
MRセンター
生体応答学研究部
解剖第一講座
15
室長
教授
助手
教授
教授
細胞工学研究分野
助教授
助教授
教授
Brain
attackから脳を守るための研究
3. 年次計画および所用経費
研究項目
9年度
(単位:千円)
10年度 11年度 12年度 13年度
合計
1. 脳機能および脳の病態生理に関する研究
1.1. 新たな脳機能と脳病態の画像化に関する研究
1.1.1 脳の高次機能画像化に関する研究
1.1.2 脳血管障害超急性期診断法と病態画像に関する研究
1.2. 脳神経細胞生存能調節機構の解明に関する研究
1.2.1 外因子による脳保護機能の評価と脳神経生存能強化機構に関す
る研究〈その①〉
1.2.1 外因子による脳保護機能の評価と脳神経生存能強化機構に関す
る研究〈その②〉
1.2.2. 低脳温の果たす神経保護効果の至適条件解明と臨床応用技術開
発に関する研究〈その①〉
1.2.2. 低脳温の果たす神経保護効果の至適条件解明と臨床応用技術開
発に関する研究〈その②〉
1.2.3 虚血の神経細胞における死および生存へのシグナル伝達機構の
解明〈その①〉
1.2.3 虚血の神経細胞における死および生存へのシグナル伝達機構の
解明〈その②〉
1.2.4 神経栄養因子様低分子化合物の開発と創薬への応用
1.3. 中枢神経再生能解明に関する研究
1.3.1 機能的神経伝導路の再構築機構解明に関する研究
1.3.2 神経幹細胞を用いた中枢神経機能再生に関する研究
1.3.3 損傷神経の生存・再生促進因子の同定と遺伝子導入による治療
法の開発に関する研究
12,995
12,639
12,467
19,384
7,874
19,572
7,763
19,463
6,085
17,056
79,235
24,657
25,123
23,888
20,213 173,116
5,853
8,021
6,279
5,032
3,519
28,704
9,576
12,143
12,107
11,641
9,573
55,040
4,242
3,741
2,968
10,951
9,923
9,822
8,885
28,630
3,165
4,512
2,848
2,696
6,013
7,208
7,417
9,907
5,932
7,925
40,172
27,986
5,900
5,310
11,210
11,458
7,689
7,676
10,154
47,184
88,114
2. 脳神経障害の原因となる血管障害発生機構の解明に関する研究
2.1. 脳血管の病態成立機構に関する研究
2.1.1 脳血管障害に於ける炎症性内因子の病態成立に果たす役割に関
する研究〈その①〉
2.1.1. 脳血管障害に於ける炎症性内因子の病態成立に果たす役割に関
する研究〈その②〉
2.1.2 閉塞性脳血管障害の病態解明と新たな治療技術開発に関する研
究〈その①〉
2.1.2 閉塞性脳血管障害の病態解明と新たな治療技術開発に関する研
究〈その②〉
(H11年度で終了)脳機能障害における脳の可塑的変化に関する研究
3.研究管理
16
11,929
8,019
7,870
6,998
3,499
26,386
13,420
13,650
12,669
10,125
61,793
27,179
27,154
28,996
25,385 108,714
9,166 11,813 6,502
27,481
7,031 8,350 4,452
19,833
5,426 13,615 18,000 19,280 17,194 73,515
165,308 166,757 180,578 180,194 149,213 842,050
Brain
attackから脳を守るための研究
4. 実施体制
研究項目
担当機関等
研究担当者
国立循環器病センター
田中 忠蔵
1. 脳機能および脳の病態生理に関する研
究
(1) 新たな脳機能と脳病態の画像
化に関する研究
① 脳の高次機能画像化の技術開
発
② 脳血管障害超急性期診断法と
明治鍼灸大学 MR センター(委託)
国立循環器病センター
峰松 一夫
国立循環器病センター
柳本 広二
病態画像に関する研究
(2) 脳神経細胞生存能調節機構の
解明に関する研究
① 外因子による脳保護機能の評
価と脳神経生存能強化機構に
関する研究
② 低脳温の果たす神経保護効果
の至適条件解明と臨床応用技
京都大学ウイルス研究所
淀井 淳司
(一部委託)
術開発に関する研究
③ 虚血後の神経細胞における生
国立循環器病センター
と死のシグナル伝達機構の解
秋田県立脳血管研究センター
明に関する研究
(一部委託)
成冨 博章
安井 信之
④ 神経栄養因子様低分子化合物
の開発と創薬への応用に関す
る研究
(3) 中枢神経再生能解明に関する
国立循環器病センター
東京大学分子細胞生物学研究所
名村 尚武
後藤 由季子
(一部委託)
研究
① 機能的神経伝導路の再構築機
構解明に関する研究
② 神経系幹細胞を用いた中枢神
国立循環器病センター
佐藤 託実
岩手大学工学部
(委託)
経機能再生に関する研究
③ 損傷神経の生存・再生促進因
子の遺伝的検索
2. 脳神経障害の原因となる血管障害発生
機構の解明に関する研究
(1) 脳血管の病態成立機構に関す
る研究
① 脳血管障害における炎症性内
因子の病態成立に果たす役割
に関する研究
② 閉塞性脳血管障害の病態解明
国立循環器病センター
川口 三郎
京都大学大学院医学研究科
(委託)
国立循環器病センター
高橋 淳
京都大学大学院医学研究科
(委託)
国立循環器病センター
大阪市立大学大学院医学研究科
(委託)
と新たな治療技術開発に関す
る研究
17
木山 博資
Brain
attackから脳を守るための研究
研究成果の概要
総
括
これまで、脳の血管異常に基づき発症する脳の突発性な疾患、脳卒中(脳梗塞、脳出血、クモ膜下
出血)に対しては代謝を妨げる非生理的な循環環境の改善こそが急性期治療戦略のすべてであると考
えられ、そのためには循環器病制圧という基本的概念に基づく治療戦略が進められてきた。そして、
血栓溶解療法による超急性期での血管の再開通による超急性期脳卒中治療が開発された。これは、循
環器病制圧を目指した国策としての研究開発への推進が功を奏した一つの証である。しかしながら、
循環器、血管系のみではなく、神経科学をも巻き込んだ脳卒中領域を対象とする研究開発は遅れてい
る。すなわち、脳保護を目指す画期的な急性期および慢性期での有効な治療法は、未だ開発されてい
ないのが現状である。平成 11 年時点で、脳血管疾患は死因別第 3 位、全死亡者の 14%に達している。
現在 170 万人にも達する脳血管疾患有病者数は、2020 年には、300 万人に達すると予測されている。
にもかかわらず、突然に発症する脳卒中という病気に対しては、現在も尚多くの症例において回避不
可能な脳の永久的な機能傷害が限りなく発生している。本研究では、脳卒中・ブレインアタックに対
する予防・診断/治療・再生/再建法の開発に関る先端研究を幅広く強力に推進し、ブレインアタッ
クから脳を守るための新たな防衛戦略を確立させることを目標とした。
本研究において用いた先端科学領域の中には、神経科学領域として、神経幹細胞の分裂およびシナ
プス形成能の検討、傷害・断列神経突起の再生能の検討、虚血性ストレスに対する脳神経保護剤の開
発、虚血性神経細胞死の細胞内機構の解明、虚血性ストレス下での神経細胞生存能増強機構の解明な
らびに脳梗塞耐性モデルの確立とその生体内機構の解明、低体温の果たす脳保護の基礎的、臨床的評
価、そして、脳血管領域として、脳動脈瘤形成機構、脳血管攣縮発生機構の解明、さらに脳神経画像
領域として、脳神経機能画像および脳循環画像化がある。
脳循環画像領域(田中)では、わが国で初めて拡散強調画像を用い、発症直後からの超急期脳梗塞
の臨床画像診断が可能となった。脳灌流画像法では、実験的に定量的脳循環測定が可能となり、臨床
的には定性的な 6 スライスの脳灌流画像を造影剤によるダイナミック法として撮影できるようにし、
脳灌流計算画像のなかで Time to Peak (TTP) 画像が、慢性期の主幹動脈閉塞症においても PET, SPECT
のデータと良く一致し、発症急性期における脳循環の低下を優れて反映することを見いだした。
神経科学領域での神経幹細胞に関しては(高橋)、培養系において、神経幹細胞由来ニューロンの神
経突起上でシナプス関連蛋白の発現が確認され、形態的には神経幹細胞由来ニューロン同士あるいは
それらと初期培養ニューロンとの間にシナプス様微小構造の形成が認められた。電気生理学的解析で
は、シナプス活動電位、後シナプス電流が記録された。これらの結果から、神経幹細胞から分化した
ニューロンはシナプス形成能を有することが明らかとなった。虚血中の脳保護に関しては(名村)、ERK
を基質とし、活性化するタンパクキナーゼMEKの選択的阻害剤PD98059の脳梗塞モデル虚血前投与が脳
保護作用を有することが明らかとなった。さらに、新規MEK阻害剤U0126の虚血中投与も強力な脳保護
効果があることが同じく脳梗塞モデルにおいて確認された。これまで、ERKはアポトーシスを抑制し、
脳保護に働くと考えられていたが、MEK/ERK経路が少なくとも虚血による神経細胞死においては、死の
促進経路として働いている可能性あり、今後、MEK/ERK経路阻害による新たな脳保護療法が開発される
可能性がある。一方、細胞内細胞死と生存の制御機構の解明に関しては(後藤)
、BDNF(脳由来神経栄
18
Brain
attackから脳を守るための研究
養因子)による生存促進が、古典的 MAPキナーゼとAktの両方の経路を介していることを明らかにした。
また、生存促進因子の一つと考えられているAkt がBaxのミトコンドリアへの移行を抑制し、また、Akt
がp53のユビキチン化・分解を促進し、これによってp53依存的細胞死を抑制、さらにAktがカスペース
9のリン酸化を介してアポトーシスを抑制することが明らかとなった。これらのことは、虚血性神経細
胞から神経を守る上においては、細胞死のひとつのステップをターゲットにした細胞死阻害剤よりも、
今後、細胞内に本来存在する生存促進シグナルを活性化するという手法が、より確実で効率的に細胞
死を抑制できる可能性を示した。新規合成化合物による脳保護の検討(佐藤)では、NEPP11が神経突
起伸展促進作用と神経細胞死抑制作用において顕著な作用を示した。この「神経栄養因子様低分子化
合物」結合蛋白質の細胞内局在では、神経細胞核内へ集積し、そのことが細胞死を抑制する可能性が
ある。NEPP11により誘導される遺伝子群の解析では、Heme oxygenase-1(HO-1)の発現が誘導された。
HO-1は細胞内のヘムより神経細胞死抑制作用を有するビリベルジン、ビリベルジンを産生する。すな
わち、HO-1を誘導する低分子化合物は、神経生存能を増強することで、今後の新たな神経細胞保護剤
として期待される。損傷神経の生存・再生促進因子の同定と遺伝子導入による治療法の開発に関する
研究(木山)では、神経損傷後のcDNAライブラリーを用い、約100クローンにのぼる神経損傷関連遺伝
子を同定した。この中には、神経栄養因子受容体やその下流に見られる細胞内情報伝達系の分子群、
チオレドキシンやグルタチオン系の活性化による酸化蛋白の還元的修復など細胞死防御のためのメカ
ニズムが作動していることが明らかになった。また、新規遺伝子として、神経損傷に特異的に応答す
るメタロプロテアーゼDamage induced neuronal endopeptidase (DINE)が得られた。アデノウイルス
ベクターを改変して神経特異的な発現系が得る試みでは、DINEのプロモーターが高い神経特異性を有
していることが明らかとなり、細胞特異的に発現する系が確立した。また、神経突起伸展能力の評価
は、標的組織に逆行性トレーサーを注入し、逆行性に取り込まれ標識される神経細胞の数を計測する
ことで可能とした。さらに、運動神経を評価系に用いる場合には、アセチルコリン小胞トランスポー
ターを用いることで、神経損傷後標的の骨格筋に再投射した時期を同定できることも明らかになった。
虚血下レドックス制御に関する研究(淀井)では、脳梗塞モデルの梗塞巣周囲において、チオレドキ
シンの発現が増加し、そのチオレドキシン高発現神経細胞の30%で、チオレドキシンの核内移行が認め
られた。すなわち、チオレドキシンが単なる細胞内抗酸化物質としてのみではなく、核内に移行し、
転写因子の制御を介した脳保護作用を示している可能性がある。一方、チオレドキシントランスジェ
ニックマウスでは、脳梗塞巣が40%に抑えられた。ラットの舌下神経切断モデルにおいてはチオレドキ
シン、チオレドキシンが高発現し、チオレドキシンが末梢神経傷害後の修復にも関わっている可能性
を示した。リコンビナント・チオレドキシンの静脈内投与では、脳梗塞体積および神経脱落症状の軽
減が認められた。すなわち、リコンビナント・チオレドキシンは脳卒中治療に有効である可能性があ
る。脳の有する脳虚血に対する抵抗性(耐性能)発現に関する研究(柳本)では、正常脳においてcortical
spreading depression (CSD)を長期にわたり負荷することで、その後に生じた虚血後の脳梗塞体積が
半減する脳梗塞耐性が誘導されることが実験モデルにおいて明らかとなった。また、脳機能評価系に
おいてもCSD前処置を加えた群で有意に神経脱落症状発現に対する抑制があった。さらに、この脳梗塞
耐性能発現の細胞内機構に関する研究では、脳由来神経栄養因子(BDNF)様因子の高発現とその後の
神経細胞核内への移行が、神経生存能の増強に関連することが明らかとなった。
この因子は、未知
の転写因子の制御を介し、強い脳保護作用を示している可能性がある。また、CSD後の脳内遺伝子発現
変化の解析により、多数のストレス関連因子の増加あるいは減少を確認した。中でも、未だに脳内で
19
Brain
attackから脳を守るための研究
の機能が明らかではない神経一酸化窒素合成酵素(nNOS)の脳内での増加が、脳梗塞耐性能の獲得時
期に一致することが明らかとなった。この因子は微量にコントロールされた一酸化窒素を産生し、そ
れにより、虚血性負荷時および負荷後の活性酸素産生による脳傷害から脳を守る可能性がある。
以上、様々な神経保護を目指す脳卒中ブレインアタックに関する研究では、それぞれ独自性を有す
る新たな予防、診断・治療、再生・再建法開発への有望な戦略が示された。数年前までは、まだ広く
受け入れられていなかったともいえる中枢神経系神経突起の再生再建が、決して特殊な現象ではない
ことが認知されつつあり、また、神経幹細胞の存在とその脳卒中治療応用への道(可能性)が示され
たことは画期的である。また、神経保護に関する研究成果においては、独自性を有する個々の一見異
なる研究成果の中に一つの共通する脳神経機構の存在が明らかにされている。すなわち、細胞内分子
機構の解明、神経培養系での生存能研究、実験動物による病態モデル治療実験、それぞれ脳保護機構
の解明とその応用を目的とする全く異なったアプローチを用いた研究成果の中に、
”神経細胞は、その
生存能力を増強することが可能であり、そのことが、脳卒中、脳虚血という致死的なストレス状態か
ら脳を守る上で、重要な戦略となり得る”という共通の認識が浮かび上がっている。神経は、元来、
虚血という侵襲に対して非常に脆弱ではあるが、なんらかの環境、刺激あるいは、外的な操作により
その本来の脆弱な生存能を増強することが可能であり、すくなくとも実験的レベルでは生存能を増強
し、脳卒中に打ち勝つことが可能であることが証明された。脳卒中、ブレインアタックに対する医学
医療的防衛機構を発展させるためには、今後もさらなる研究支援、病気の深刻性、疾病有病者数に見
合った予算の投入による国家戦略的目的達成型研究推進は必要であると考える。
これら脳卒中を対
象とした専門的かつ総合的医療技術開発のためのトランスレーショナルリサーチの推進は、近い将来、
現在の脳卒中治療を全く違ったものとするであろう。
20
Brain
attackから脳を守るための研究
サブテーマ毎、個別項目毎の概要
1. 脳機能及び脳の病態生理に関する研究
1.1. 新たな脳機能と脳病態の画像化に関する研究
1.1.1. 脳の高次機能画像化に関する研究
1.1.1.1. MRSI 法を用いた脳代謝マッピング技術の確立(田中忠蔵)
MRSI法を用いた脳代謝マッピング技術の確立は、臨床用MRI/S装置によるMRSI法を行
い、健常及び脳神経疾患における脳内の代謝情報を 4 スライスの代謝画像で描出することができた。
例えば、脳腫瘍では、腫瘍の中心と周囲とでは、コリンやクレアチンの含有量に違いを見いだし、正
常脳では、大脳と小脳の代謝産物に違いを見いだした。
1) MRSI法を用いた脳代謝マッピングでは、従来の測定に 32 分を要していたが、測定法を改良
することから約 17 分間で測定が可能となった。これを用いて、各種の疾患について検討し、小
児の原因不明の変性疾患では、N-アセチルアスパラテートの減少などを捕らえることが出来た。
また、MRSIの各ボクセル内のスペクトルの評価を各種神経疾患についてシングルボクセル法
との比較を行い、シングルボクセル法とほぼ同じ結果を得るとともに、MRSIでは、シングル
ボクセル法で確認できなかった多数のボクセルでの代謝変化を観測することが出来きた。
2) 実験脳代謝マッピングにおいて、エコープラナー法によるMRSIを可能とし、ラット MCAO モ
デルの脳虚血の検討を拡散強調画像と併せて行い、虚血中心部では早期に乳酸の信号の上昇が見
られるが、その周辺では、虚血中心部に比べて乳酸信号の変化と組織拡散係数の変化が穏やかに
推移することを見いだした。また、これらの所見は組織学的な所見と一致した。一方、13C化合
物による糖代謝、グルタミン酸代謝の検討は、対照例、虚血群ともに可能であったが、13C-NMR
の感度の問題から、ほぼ全脳の測定となり、MRSI の各ボクセルとの比較検討は行えなかった。
3) 臨床的な MRSI のスペクトルによって、絶対定量は技術的な問題から困難であったが、半定量的
な検討はLCモデルの手法を用いて可能となった。しかし、絶対定量臨床的に脳代謝から見た
penumbra の検討を、MRSI と拡散強調画像から行ったが、通常の臨床診断としての MRI/A さらに
は、拡散強調画像を測定し、その上で MRSI の検討を行ったが、全検査過程に時間を要するため
に、統計学的な手法を用いることが出来る例数を充分行えなかった。
1.1.1.2. fMRI 技術を用いた言語や視覚刺激に対する脳高次機能の応答性あるいは局所賦活状態の解
析(田中忠蔵)
脳機能の機能局在を 3 次元機能マッピングとして表示することができた(脳と神経)
。また、機能の
左右差の検討から、SPMソフトウェアの群間検定を応用することから聴覚刺激(音と単語)におい
て左側脳の変化が右側に比べて有意に上昇することを見いだした。
また、脳高次機能のfMRIでは、複雑な刺激による脳の反応性を補足運動野で検討した。従来から、
複雑な運動では、一次運動野のみならず補足運動野が賦活されることが知られているが、これをさら
21
Brain
attackから脳を守るための研究
に進めて、運動準備状態について検討した。この結果、臨床用 1.5T装置にて、指の複雑な運動につい
てカウントダウンを行う場合と行わない場合を比較し、カウントダウンの間に、補足運動野のみがカ
ウントダウンに従って賦活状態となることを見いだした(ISMRM, Sydney, 1998)。
fMRIの臨床応用では、神経脱落症状を有する患者では手指の運動のような能動的な賦活課題が
ふさわしくなく、感覚刺激を中心にした受動的な賦活が適していることを見いだした。さらに、MRI画
像による解剖学的な中心溝の位置と感覚刺激によるsensorimotor cortexが矛盾することなくマッピン
グ出来ることを示した。さらに、実際の臨床例で、脳動静脈奇形や脳腫瘍などの術前の臨床検査に応
用し、解剖学的な中心溝の位置と脳賦活による感覚運動野が良く一致し、臨床に用いられる手法であ
ることを確認し、術後に障害を残さない実際の手術範囲の決定に有用であった。
計算と記憶のfMRIでは、九九の暗算が単純な計算に比べて、前頭葉のワーキングメモリの領域(前
頭連合野)
、頭頂葉以外に側頭葉の後部に特有な賦活野を認めた。これは視覚提示による計算における
視覚記憶とのつながりを示唆していると考えられた。一方、EEGトリガーfMRIは、脳波上の異常波をト
リガーにするために、検査者に大きな負担がかかることや、非常に長い時間を検査に必要とするため
に、臨床要用がきわめて困難と考えられた。さらなる自動化技術が必要である。
神経興奮画像では、Mn投与によって、MnをCaのかわりに興奮した神経のトレーサーとして用いるこ
とに成功した。しかし、Mnの毒性からヒトへの応用は直ちに波開始できず、基礎実験が中心となった。
この手法を、MCAOモデルに応用することから、虚血中心部のCaの流入をMnに置き換えてischemic core
の描出が可能となった。
1.1.1.3. MR 脳潅流画像法/拡散係数画像法を用いた脳潅流状態の画像評価による脳活動に伴う局所
脳循環の変化の解析(田中忠蔵)
わが国で初めて拡散強調画像を用いることから、発症早期(直後)からの超急性期脳梗塞の臨床画
像診断が可能となった。また、この方法では、虚血と出血性病変との鑑別が行え、その経時変化の所
見を確立した(Radiology)。
1) 脳灌流画像法では、実験的に定量的脳循環測定が可能となり、臨床的には定性的な脳灌流画像が
測定できるようになった(97ISMRM)。臨床的には、6 スライスの脳灌流画像を造影剤によるダイ
ナミック法として撮影できるようにした。この結果、脳灌流計算画像のなかで Time to Peak (TTP)
画像が、脳循環の低下を優れて反映することを見いだした。この画像は、慢性期の主幹動脈閉塞
症においても PET, SPECT のデータと良く一致した(ISMRM, Sydney, 1998)。また、実験脳虚血
ではスピンラベリングによる定量的脳循環測定法を行い、虚血直後に CBF:20ml/100g/min 以下の
領域で、拡散係数の低下が持続的にみられ脳梗塞に陥り、これは従来の報告と一致していた
(ISMRM, Sydney, 1998)。
2) 臨床的脳灌流画像として造影剤によるダイナミック法とスピンラベリング法を比較検討し、両者
の特徴を明らかにした。また、実験脳虚血ではスピンラベリングによる定量的脳循環測定法と造
影剤法による検出感度の測定加減を検討し、これらの方法が虚血病巣を描出する充分な感度を有
していることを見いだした。
22
Brain
attackから脳を守るための研究
3) Mn造影法を急性期実験的脳虚血に行い、これを拡散係数画像と対比することから、Mnが急性
期脳虚血のコアを中心にCaイオンのかわりに取り込まれ造影効果を有することを明らかにし
た。また、この部分は、拡散係数の変化部位に比べて小さく、それ以外の部分がいわゆる penumbra
である可能性が示唆された。
4) 実験的脳虚血を permanent および transient MCAO モデルを用いて検討し、permanent モデルにお
いて、拡散係数の変化する領域が組織学的な虚血性変化とよく一致することを報告した。この経
過中、虚血の周辺部では、拡散係数が穏やかに変化する部位が認められ、さらにこの部位が、MRSI
方によって乳酸が穏やかに経時的に上昇する部位と一致することを見いだした。この部位が
penumbra であると考えられた。一方、Transient モデルでは、拡散係数画像と定量的な脳潅流画
像、組織学的な所見を比較することから、脳潅流の中等度低下領域が急性期拡散係数のほとんど
変化市内領域に合致し、この部位が penumbra と考えられ、その領域を画像として描出すること
に成功した。
5) MR-hyperpolarized gas 法は、ガスの生成が可能となったが、生成率が低く、in vivo の実験に
用いる量の回収が困難であった。従って、期間中の MR-hyperpolarized gas を用いた脳循環画像
の測定が出来なかった。
1. 脳機能及び脳の病態生理に関する研究
1.1. 新たな脳機能と脳病態の画像化に関する研究
1.1.2. 脳血管障害超急性期診断法と病態画像に関する研究
(サブテーマの概要)
1.1.2.1. Diffusion MRI と harmonic imaging 法(神経超音波技術による脳循環画像化)による超急
性期脳血管障害病態迅速評価法の検討(峰松一夫)
最先端のヒト脳虚血病態解析技術とされる diffusion MRI を臨床現場に導入した。虚血性脳血管障
害超急性期における無症候性病巣の多発、病巣の遅発性拡大現象などこれまで未知の現象の存在を明
らかにした。これらの現象の本態解明のために、心臓・大血管評価や PET/SPECT による脳循環代謝測
定なども平行して実施した。従来、small vessel disease によるものと考えられていたこれら皮質下
小梗塞の多くが、large vessel disease や心由来の塞栓により形成されていることを明らかにした。
脳虚血診断法としての神経超音波法を急性期に本格導入し、血管病変や循環動態の動的病態に関す
る数々の知見を明らかにした。超音波造影剤を用いた contrast harmonic imaging (CHI) 法をいち早
く脳領域に応用し、さらに脳循環評価に試みた。本法によるベッドサイドでの脳循環定性評価は可能
であること、しかしながら PET, SPECT と並ぶ定量評価法とはいえず、解決すべき技術的問題が少なく
ないことを明らかにした。
1.1.2.2. Animal PET による霊長類大脳での apreading depression (SD) の発生確認とその虚血脳及
ぼす影響の検討(峰松一夫)
脳虚血超急性期病態に悪影響を及ぼすことが示唆されている伝播性脱分極波 spreading depression
23
Brain
attackから脳を守るための研究
(SD) をネコ非虚血脳において誘発し、animal PET により広汎な皮質領域における脳血流量の一過性
増加後の持続的低下、糖代謝との mismatching を確認した。また、イヌの自家血餅脳塞栓モデルを確
立し、animal PET による経時的脳循環動態評価を行った。
サル脳虚血モデルの開発は当初計画になかったものである。近年の専門学会において、小動物(ラ
ットなど)の脳虚血モデルを用いた実験成績がヒト脳虚血例に必ずしも適合しないことが問題とされ、
本研究でもヒトに近い動物での実験が必要であると判断された。本研究によって、ヒト脳塞栓症と同
一機序の、低侵襲的かつ再現性のあるサル脳虚血モデルの確立に成功した。本モデルにおける虚血中
心部と周辺部の循環動態や分子生化学的病態を明らかにした。さらに、サルの非虚血大脳において、
SD が生じうることを世界で初めて証明した。サルにおける SD は誘発が困難で、かつ伝播範囲も狭い
ことが示された。
1.1.2.3. PET, SPECT, 3T-fMRI を用いた潜在的脳循環障害と知的機能初期障害の評価(峰松一夫)
脳主幹動脈閉塞例における潜在的脳循環不全(acetazolamide-SPECT 法にて判定)のその後の再発、
白質病変の進展、認知機能低下に及ぼす影響を、長期予後によって明かにした。また脳病巣のない成
人、無症候性脳梗塞例、深部白質病変合併例などを対象として、高次認知機能障害と潜在的脳循環不
全との関連を明らかにした。評価には、PET, SPECT, 3T-fMRI などの先進の画像診断技術を用いた。
(個別項目別の概要)
1.1.2.1. Diffusion MRI と harmonic imaging 法(神経超音波技術による脳循環画像化)による超急
性期脳血管障害病態迅速評価法の検討(峰松一夫)
最も鋭敏な超急性期虚血病巣検出法である diffusion MRI と PET による脳循環代謝評価を併用し、
遅発性病巣拡大現象の背景に酸素摂取率の著しい増加があることを確認した。
Diffusion MRI 技術を、症候性の半卵円小梗塞や皮質・皮質下小梗塞の診断に応用した。塞栓症の
直接的証拠となる microembolic signal (MES、transcranial Doppler で検出)や心臓・大血管病変
との関係を retrospective, prospective に検討した。その結果、diffusion MRI がこうした小病変
の検出感度・精度に優れること、従来、samll vessel disease(脳実質内小動脈の病変)によると考
えられていた症候性の半卵円小梗塞や皮質・皮質下小梗塞は、むしろ large vessel disease(脳実質
外の比較的大きな動脈の病変)や心由来の塞栓と関連することを明らかにした。本研究については、
次の「詳細報告」にて論ずる。
また、神経超音波診断が、脳血管病変の超急性期ベッドサイド評価法として高い正診率を示すこと、
血管病変や循環動態変化のモニター法として優れていることを明らかにした。新たに transoral
carotid ultrasonography を開発し、これまで不能であった遠位内頸動脈の評価を行った。
超音波造影剤を用いた contrast harmonic imaging (CHI) 法をいち早く脳領域に応用し、健常人の
脳循環評価に試みた。その結果、本法によるベッドサイドでの脳循環定性評価は可能であること、し
かしながら PET, SPECT と並ぶ定量評価法とはいえず、解決すべき技術的問題が少なくないことを明ら
かにした。これについても、次の「詳細報告」にて論ずる。
1.1.2.2. Animal PET による霊長類大脳での apreading depression (SD) の発生確認とその虚血脳に
及ぼす影響の検討(峰松一夫)
24
Brain
attackから脳を守るための研究
脳虚血超急性期病態に悪影響を及ぼすことが示唆されている伝播性脱分極波 spreading depression
(SD) をネコの非虚血脳において誘発し、animal PET により脳循環病態を検討した。すなわち、ネコ
脳表に一定濃度の KCl を滴下し、単数回及び複数回の sprading depression (SD) を誘発し、animal
PET を用いて局所脳血流量の推移と局所糖代謝の変化を検討した。単回 SD 誘発により一過性の皮質
血流量の増加後の遷延性血流低下が生じた。皮質糖代謝には変化がなく、flow-metabolism mismatching
の状態が初めて確認された。複数回 SD 誘発時には、皮質血流・糖代謝とも増加した。
また、イヌの自家血餅脳塞栓モデルを確立し、animal PET による経時的脳循環動態評価を行った。
サル脳虚血モデルの開発は当初計画になかったものである。近年の専門学会において、小動物(ラ
ットなど)の脳虚血モデルを用いた実験成績がヒト脳虚血例に必ずしも適合しないことが問題とされ、
本研究でもヒトに近い動物での実験が必要であると判断された。
サルにおける局所脳虚血は、従来経眼窩的中大脳動脈閉塞するという侵襲的方法で作成され、また
PET を用いた病態研究はわずかしか行われていなかった。今回、上記イヌ・モデルの発展型として、
自家血餅をサル内頸動脈より注入、中大脳動脈領域に再現性の高い梗塞巣を作成することに成功した
(本法は覚醒下でも実施可能)
。本モデルに対する神経症候評価スケールを作成し、最終梗塞サイズと
よく相関することを確認した。虚血作成 1 時間以内のウロキナーゼ動注により、梗塞サイズが有意に
縮小した。本モデルは、ヒト脳塞栓症の急性期病態解析や治療薬開発の上で極めて有用であると結論
した。
上記モデルに対し、animal-PET による脳循環、糖代謝測定を行った。基底核、側頭葉には持続的な
高度虚血が生じ、周辺部(頭頂葉)脳血流は一旦低下した後、回復する経過をとった。周辺部の糖代
謝はむしろ亢進した(flow-mtabolism mismatching)。虚血中心部脳微小血管での vascular endothelial
growth factor 受容体 neuropilin-1 の発現、虚血側皮質部での血管反応性の key enzyme である
cyclooxygenase-2 の遺伝子、蛋白発現を検討した。
最後に、サルの非虚血大脳において、SD が生じうることを世界で初めて証明した。サルにおける SD
は誘発が困難で、かつ伝播範囲も狭いことが示された。SD に伴う脳循環変化を animal PET を用いて
検 討 し た 。 当 初 予 想 さ れ た 低 灌 流 領 域 の 伝 播 や 持 続 ( spreading hypoperfusion, persistent
hypoperfusion)ではなく、限局性かつ一時的な血流増加が観察されたのみであった。この研究につい
ては、次の「詳細報告」で詳述する。
1.1.2.3. PET, SPECT, 3T-fMRI を用いた潜在的脳循環障害と知的機能初期障害の評価(峰松一夫)
脳主幹動脈一側性閉塞性病変例における循環予備力障害(acetazolamide-SPECT による)の再発、
認知機能低下に及ぼす影響を長期追跡調査によって明らかにした。循環予備力障害は再発、認知機能
低下などの長期予後に有意の影響を及ぼさなかった。
上記の結果を説明しうる原因病態の一つとして循環予備力障害の自然回復現象を発見した。
また脳病巣のない成人、無症候性脳梗塞例、深部白質病変合併例などを対象として、高次認知機能
障害と潜在的脳循環不全との関連を明らかにした。すなわち、脳卒中既往のない例でも重度白質病変
を伴う場合は、一定レベルの認知機能障害を示すこと、その背景には脳深部循環障害があるが、血管
拡張刺激(炭酸ガスや acetazolamide による)に対する反応性には異常が見られないこという
paradoxical な結果を得た。評価には、PET, SPECT, 3T-fMRI などの先進の画像診断技術を用いた。
研究第 2 期に使用可能となった 3.0T-MRI を用いて知的機能初期障害の早期診断を試みた。まず正
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Brain
attackから脳を守るための研究
常ボランティア 10 名による試験を通じて、stroop 干渉試験を利用した適切な試験方法を確立した。
正常では賦活部位が右帯状回に限局する本課題に対して、大脳白質病変を有する患者では両側前頭葉
前方の広い範囲で賦活されることを明らかにした。
さらに、Tensor imaging 法による初期白質病変検出を試みた。本法は過去のいかなる方法でも不可
能であった大脳白質神経線維異常の定量的評価を可能とする技術として注目されている。健常人及び
脳梗塞症例による検討から、高い b-値による Tensor imaging が、大脳白質神経線維密度の減少を反
映する異方向性の低下を鋭敏にとらえうることを確認した。
1. 脳機能及び脳の病態生理に関する研究
1.2. 脳神経細胞生存能調節機構の解明に関する研究
1.2.1. 外因子による脳保護機能の評価と脳神経生存能強化機構に関する研究
1.2.1.1. 脳神経生存能強化機構に関する研究の概要(柳本広二)
様々な臓器は、ある種の病的ストレスを受けた後、ある一定の期間をおいて同様のストレスに対す
る抵抗性(耐性)を獲得することが知られている。脳梗塞の原因となる強度の局所脳虚血に強い脳、
すなわち、脳の一部の栄養血管が突然に閉塞してもその後に生じるであろう脳梗塞になりにくい、す
なわち、脳卒中になりにくい強い脳(脳梗塞耐性能)の状態が有るか否かを検討した。様々な前処置
によるストレス負荷とその後の耐性能を検討した結果、cortical spreading depression を 48 時間と
いう長期にわたり、ラット脳に負荷することで最終的に形成される脳梗塞体積がおよそ通常の半分の
体積に減少することが明らかとなった。また、その後に行った他動物種であるマウス脳梗塞モデルに
おいても同様の cortical spreading depression(24 時間)を予め脳皮質へ塩化カリウムの持続投与
により負荷し、その後に与えた局所脳虚血後に生じる脳梗塞巣体積を解析した。その結果、処置後脳
における有意な脳梗塞体積の減少を確認した。前処置後の待機期間の検討では、6− 9 日後に最も耐性
能が増強し、その後徐々に減弱することが明らかとなった。しかしながら、この脳梗塞巣の体積が減
少する時期には、脳血流量における変化は観察されなかった。すなわち、脳血流の改善効果により脳
梗塞巣が縮小するのではないことが確認された。また、脳機能評価においても前処置を加えた群で有
意に神経脱落症状が軽度であることが明らかとなった。さらに、この脳梗塞耐性能の細胞内機構に関
する研究では、GFAP あるいは、HSP27 の前処置後、急性期における高発現が確認された。また、脳由
来神経栄養因子(BDNF)が耐性の時間経過中に脳内にて、高発現することが明らかとなった。さらに、
組織免疫学的観察では、脳由来神経栄養因子様因子の神経細胞核内への移行が、神経生存能の増強に
最もよく関連することが明らかとなり、この因子は、未知の転写因子の制御を介し、強力な脳保護作
用を示す可能性がある。また、マイクロ・アレーによる発現遺伝子に関する解析手法を用いた研究に
おいては、cortical spreading depression 後の脳内において、多数のストレス蛋白の増加あるいは減
少(未発表)を確認した。中でも、未だに脳内での機能が明らかではない神経一酸化窒素合成酵素の
脳内での増加が、脳梗塞耐性能の獲得に一致していることが確認された。この因子は、脳内で虚血中
に一酸化窒素を低濃度で放出するが、近年、一酸化窒素の有する抗活性酸素能が報告されており、虚
血時に生じる酸化性ストレスに拮抗することにより、脳梗塞耐性能を有する脳においては、虚血性負
荷時および負荷後の活性酸素による脳傷害から直接的に脳を守っている可能性がある。
26
Brain
attackから脳を守るための研究
1.2.1.2. 外因子による脳保護機能の評価に関する研究の概要(柳本広二)
現在、最も有力な脳保護因子あるいは、脳保護環境とされている神経栄養因子、および脳低温療法
に関して、脳梗塞モデル動物を用いた研究を行った。脳虚血時の神経栄養因子の有する脳保護作用に
関する研究では、虚血時のみあるいは、虚血後の投与では、治療効果としての脳保護作用は示されな
かったものの、血小板由来成長因子あるいは、脳由来神経栄養因子の長期にわたる持続的脳内注入に
よる前投与が、vivo において、強力な脳保護効果をもたらすことが明らかとなった(虚血耐性の誘導)。
何故、長期に神経栄養因子に接することで脳が虚血耐性を獲得するかに関しては、未だ明らかではな
いが、最近、他研究施設からも他の神経栄養因子を用いた同様の報告がなされている。Vitro の系では、
知ることの困難な神経栄養因子刺激後の極めて緩徐に進行する生体内シグナル伝達とそれによる生存
能の増強機構の存在が示唆された。
さらに、低体温の有する脳保護効果を明らかとするために、ラットに脳梗塞性虚血を負荷し、低体
温下での梗塞巣の進展、および、脳機能の変化を観察した。その結果、軽度(摂氏33―34度)の低 体
温は、24時間(ヒトでは約3日に相当)という長期に用いた場合において、永続する脳保護効果を有す
ることが明らかとなった。その後、一過性の局所脳虚血のみではなく、永久型局所脳虚血に対しても、
急性期、慢性期ともに脳梗塞巣体積の有意な減少が確認され、すなわち、軽度長期低体温療法の永続
する脳保護効果が明らかとなった。尚、低体温群においては、急性期の脳浮腫率が有意に低値であり、
低体温の有する虚血性脳傷害後の抗浮腫作用が明らかとなった。低体温療法(低脳温療法)を用いた
これら一過性および永久脳虚血に対する有効性を証明した一連の基礎的研究成果は、今後の必要とな
る脳卒中の治療研究を進めていく上において、重要な理論的裏付けとなり得る。さらに、臨床におい
て、重症クモ膜下出血患者に軽度低体温療法を行った場合、副作用の一つである血小板の減少が摂氏
33度と34度では明きからに異なること、すなわち、34度では、血小板減少の副作用の発現が認められ
ないという結果を得た。
1.2.1.3. TRX super family 等生体内防御因子の脳神経細胞保護効果の評価(淀井淳司)
H9 成果
ラット中大脳動脈閉塞モデルにおいてチオレドキシンの発現、分布を検討したところ、虚血中心部
では、チオレドキシン, チオレドキシン mRNAは虚血後減少が見られ、虚血後16時間までに消失した。
一方梗塞周囲の部分ではチオレドキシン, チオレドキシン mRNAは虚血後増加が認められた。さらに、
チオレドキシン高発現神経細胞の約30%で、チオレドキシンの核内移行が認められた。これらより、チ
オレドキシンが単なる細胞内抗酸化物質としてのみではなく、核内に移行し、転写因子の制御に関る
ことによって、神経細胞保護効果をもたらしている可能性を示した。
ヒトの頚動脈動脈硬化巣、およびラットの頚動脈肥厚内膜においてチオレドキシン、チオレドキシ
ンmRNAが高発現することを見出した。また、in vitroにおいて、チオレドキシンが、peroxynitriteの
細胞障害抑制作用を持つことを明らかにした。これにより動脈硬化病巣形成においてチオレドキシン
が防御的役割をもつ可能性を示した。
H10 成果
チオレドキシンが脳内をふくめ全身に高発現するトランスジェニックマウスを作成し、中大脳動脈
閉塞モデルにおいて、脳梗塞巣の大きさを比較検討した。虚血24時間後の評価において、チオレドキ
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Brain
attackから脳を守るための研究
シントランスジェニックマウスにおける脳梗塞巣はwild typeと比較し約40%に抑えられた。また、チ
オレドキシントランスジェニックマウスにおいて脳梗塞巣周囲のc-fos発現がwild typeと比較して増
強しており、チオレドキシントランスジェニックマウスの神経細胞保護効果は転写因子AP-1を介した
ものである可能性が示された。
ラットの舌下神経の切断障害およびその修復過程において、チオレドキシン、チオレドキシン mRNA
が共に強く発現していることを明らかにし、チオレドキシンが末梢神経傷害後の修復に関る因子であ
る可能性を示した。
H11 成果
マウスを用いた癲癇モデルにおいて、チオレドキシン高発現マウスでは、癲癇の頻度、程度の軽減
が認められ、また、海馬領域における遅発性神経細胞死が抑制されることを明らかにした。
マウス一過性前脳虚血後に、海馬領域において神経前駆細胞の活動性が上昇することを明らかにし
た。
H12 成果
虚血脳障害のモデルのひとつである、ラット胎児仮死モデルにおいて、脳梗塞巣辺縁部でのチオレ
ドキシン発現の誘導と、脳梗塞巣での発現減少を明らかにし、成熟脳のみならず、未熟脳においても
チオレドキシンが虚血神経細胞傷害に対し保護的に作用する事実を明らかにした。
H13 成果
マウスの一過性中大脳動脈閉塞モデルを用い、リコンビナント・チオレドキシンの静脈内投与を行
った。チオレドキシンの投与により脳梗塞体積の軽減、および神経脱落症状の軽減が認められた。こ
れらにより、チオレドキシンが脳卒中治療に応用の可能性を持つことが明らかにされた。
PC12培養細胞株を用いて、チオレドキシンがゲラニルゲラニルアセトンにより細胞内に発現が誘導
されること、また発現誘導により細胞傷害が軽減することを明らかにし、チオレドキシン発現誘導療
法への端緒を開いた。
1. 脳機能及び脳の病態生理に関する研究
1.2. 脳神経細胞生存能調節機構の解明に関する研究
1.2.2. 低脳温の果たす神経保護効果の至適条件解明と臨床応用技術開発に関する研究
(個別項目毎の概要)
1.2.2.1. MRS を用いた虚血巣温度測定技術の評価と虚血後高脳温の検討(成冨博章)
最初に施行したファントーム実験では、1.5 Teslaの臨床用MR装置を用いた1H-MRS測定により
N-acetyl aspartate(NAA)を含む混合溶液 (10 mM NAA8 mM Creatinine 2 mM Choline)のスペクトルが
明瞭に検出された。混合溶液の温度を32℃から40℃まで変化させて測定を行ったところ、NAAの化学シ
フト値 は温度の上昇と比例して低下し、両者の間に高い相関が得られ (R2= 0.994)、温度(℃) =
320.268 – 106.299 x化学シフト値という関係が得られた。この基礎実験結果は、1H-MRSにおけるNAA
の化学シフト値が温度依存性に変化することを示している。したがって、脳局所の1H-MRSを測定してNAA
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Brain
attackから脳を守るための研究
の化学シフト値を計測すれば、同部位の局所温度を間接的に計測することが可能である。次に、正常
ボランテイアを対象とし、後頭葉に40x60x80 mm3の関心領域を設定し、48領域の1H-MRSマッピングを行
って各部位のNAAの化学シフト値測定を行った。同時に全脳温度の平均値を反映するとされる鼓膜温の
測定も行った。得られたNAAの化学シフト値を上述の溶液温度—NAAの化学シフト値回帰直線にあては
めて正常脳の温度を計算したところ、脳温度は駆幹温よりもかなり低い値を呈した。一般に脳温度は
駆幹温とほぼ同程度ないしはやや高いことが知られているので、この結果は溶液温度—NAA化学シフト
値直線を作成する際の温度計測等が不正確であることを示唆している。一方、低体温中の症例、高温
を呈する症例を含めた脳梗塞患者において1H-MRSマッピングと鼓膜温の測定を行い、健常部位のNAA化
学シフト値と鼓膜温の関係を検討したところ、両者の相関は良好であった。そこで鼓膜温を用いてNAA
化学シフト値のキャリブレーションを行うという考え方のもとに、正常ボランテイアにおけるデータ
と脳梗塞例健常部位のデータから鼓膜温—NAA化学シフト値の関係を検討したところ、両者には高い相
関が認められ (R2 = 0.908)、温度(℃) = 241.439 – 76.398 x化学シフト値という関係が得られた。こ
のキャリブレーション直線をもとに正常ボランテイアの脳温度を計算したところ、正常脳の脳温度は
36.5±0.3℃と駆幹温とほぼ等しい値を示した。正常脳では脳局所部位間の温度差は僅かであった。一
方、脳梗塞例の急性期(第0-3病日)における局所脳温度は部位によって大きく異なり、健常部位では
37.0±1.0℃とほぼ正常値に近い値を示したが、虚血領域では38.3±1.1℃と高温を示し、虚血周辺部
位においても37.6±1.2℃とやや高い温度を示した。しかし急性期を過ぎた第4-7病日には虚血領域の
局所脳温度は35.3±1.2℃と低温に移行した。急性期の虚血領域の高温は、脳代謝と脳血流のアンカッ
プリングの結果、比較的多く産生される熱を低下血流が十分に洗い出すことができないために生じる
現象ではないかと考えられ、急性期を過ぎた時期の虚血領域の低温は代謝・血流ともに著明に減少す
るためと考えられる。一方、一例だけではあるが低体温療法中(鼓膜温 34.5℃)に脳温度の測定を行
い得た。この症例においても局所脳温度は部位によって大きく異なり、健常部位は中等度の低温を示
しているものの、虚血領域では高温を示す部位が認められた。一例だけの測定ではあるが、この結果
は、低体温療法により全脳平均温度(鼓膜温)が目標温度に低下していても、虚血領域は必ずしも目
標の低温に達していない場合があることを示唆している。脳梗塞の低体温療法の効果をあげるために
は全脳平均温度ばかりでなく脳局所温度を測定する必要があると考えられる。なお、以上の結果は第I
期に得られたものであり美原記念病院、慶應義塾大学脳神経外科の研究協力によって得られたもので
ある。第II期には、ビーエフ研究所の3.0 Tesla装置を用いてより温度分解能の高い測定を行う予定で
あったが、研究計画が同研究所の優先順位の下位にランクされてしまったため、研究期間中にこれを
実施することができなかった。
1.2.2.2. 低脳温の脳保護機構の解明及び低脳温療法の有効性と安全性の評価(成冨博章)
低温下にラットに 5、10、20、40 または 80 分間の全脳虚血を導入し、その後血流を再開させて、1
カ月後または 3 カ月後に受動的条件回避学習を行って脳機能の変化を検討した。5-40 分間虚血ラット
は 1 カ月後、3 カ月後いずれにおいても受動的条件回避学習において正常の回避反応を示したが、80
分間虚血ラットでは 1 カ月後、3 カ月後いずれにおいても受動的条件回避学習における回避能力の障害
が認められた。これらの結果は、低体温が比較的高度な虚血性侵襲から脳を保護し機能障害を回避さ
せる効果があることを示している。ただし、低体温の脳保護効果には限度があり、超高度な虚血性侵
襲に対しては脳保護効果を期待できないことが確認された。
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Brain
attackから脳を守るための研究
培養脳血管内皮細胞を常温下(37℃)または低温下(31℃)に 2 時間虚血に曝し、培養液中の乳酸
脱水素酵素 (LDH)レベルを測定することにより細胞障害の程度を比較検討した。低温下の虚血では常
温下に比較して有意な LDH 低下が認められ、低温が虚血性障害から内皮細胞を保護することが明らか
にされた。
ラットの中大脳動脈を閉塞して反応性アストロサイトを誘発し、3 日後または 14 日後に一過性全脳
虚血を負荷してアストロサイト出現領域の神経障害の程度を観察した。梗塞 3 日後の反応性アストロ
サイトは脳保護効果を発揮して同部位の神経細胞死を阻止したが、梗塞 14 日後の反応性アストロサイ
トには脳保護効果はみられなかった。アストロサイト機能は低温下でも大きく障害されないことが知
られており、低体温療法は、一部、反応性アストロサイトを介して脳保護作用を発揮する可能性があ
ると考えられた。
発症後 24 時間以内に入院した心原性脳塞栓症における急性期体温の変化を検討したところ、小サイ
ズ梗塞群の体温は終始 36.5℃前後で上昇しないが、中サイズ梗塞群の体温は 37.0-37.1℃に上昇し、
大サイズ梗塞群の体温は発症 1 日目より平均 37.7℃に上昇し、上昇が数日間持続した。一方、視床下
部に限局する小梗塞を作成したラットの実験では、少なくとも 3 日間にわたる 0.7-1.0℃の体温上昇が
認められた。また急性期に体温上昇を示した大梗塞例の剖検結果では全例に同側の視床下部に虚血性
変化が認められた。これらの結果は、脳梗塞急性期に視床下部に虚血が及ぶと中枢性の体温上昇が起
きることを示唆している。ヒトの視床下部は後脈絡叢動脈から血流供給を受けているため、内頸動脈
系の虚血では虚血性変化を免れるのが通常である。しかし広範囲な脳梗塞が生じた場合は、脳浮腫な
どの影響を介して視床下部に虚血が及び、結果的に中枢性の体温上昇が起きるのではないかと考えら
れた。
脳梗塞急性期の体温上昇が脳梗塞の病態にどのような影響を与えるかを画像を用いて検討したとこ
ろ、急性期に体温上昇を示す脳梗塞群では体温正常群に比べて出血性梗塞を生じる頻度が有意に高く、
また高度な脳浮腫を合併する頻度が有意に高かった。この結果は、急性期の高体温が神経障害を悪化
させるのみならず血管系障害をも悪化させることを示唆している。高温と低温の影響が逆に作用する
と仮定すると、この結果は、低体温が神経障害の悪化のみならず血管系障害の悪化を阻止するであろ
うことを示唆している。
脳梗塞急性期の体温上昇が神経・血管系障害を悪化させて出血性梗塞や高度脳浮腫をもたらし不良
な転帰を導くとしたら、体温上昇を阻止するだけでも良好な結果を得られる筈である。そこで発症後
24 時間以内に入院した重症脳梗塞例に対し、非ステロイド系抗炎鎮痛薬ロキソプロフェン(180 mg/
日)経口投与と氷枕による表面冷却を 5 日間行って体温上昇を阻止する治療(平温療法)のパイロッ
ト試験を行った。同薬剤投与により重症脳梗塞例の体温上昇は阻止され、これらの例の体温は 36.5℃
前後に維持された。年齢、重症度の等しい対照群と比較すると、平温療法群の CT 上の出血性梗塞の頻
度は約半分に低下し、CT 上の脳浮腫の程度は明らかに軽度であった。また発症 3 カ月後の機能良好例
の頻度は対照群に比較して有意に多かった。これらの結果は、脳梗塞急性期の体温上昇を阻止するだ
けでも神経保護効果、血管系保護効果が得られる可能性を示している。
そこで発症後 6 時間以内に入院した年齢 75 歳以下の重症脳梗塞例 16 例に対し低体温療法(33℃、
3-5 日間)を行って、その安全性と有用性および有効性の限界を検討した。低体温療法中に肺炎等の感
染、血小板減少、低 K 血症などの合併症が高頻度に認められたが、いずれも軽度で治療可能であり、
合併症のために治療中断を余儀なくされた例は皆無であった。低体温療法中の画像所見は特徴的であ
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Brain
attackから脳を守るための研究
り、著明な脳浮腫抑制効果、出血性変化抑制効果が認められた。発症後 6 時間以後に入院したため通
常治療しか受けなかった 42 例の重症度の等しい対照群と比較すると、発症 3 カ月後の機能良好例の頻
度が有意に多かった。これらの結果から、低体温療法は比較的安全に施行可能であることが確認され、
また超急性期に治療を開始すれば良好な転帰が得られる可能性が示された。しかしながら、低体温療
法により良好な転帰が得られた例の解析を行ってみたところ、大半は入院時の重症度が NIHSS スコア
25 未満の症例であり、また年齢 65 歳以下の症例であった。入院時の重症度が NIHSS スコア 30 を越え
る超重症例では転帰良好な例は皆無であり、また年齢 70 歳以上の高齢者で転帰良好な例も皆無であっ
た。以上の結果は、低体温療法の効果には限界があり、あまりにも重症な例や年齢の高い例に対して
は十分な脳保護効果を発揮し難いことを示唆している。
低体温療法、平温療法の有効性を明らかにする目的で第 I 期末(平成 11 年 9 月)から第 II 期(平
成 13 年 9 月)にかけて多施設共同の無作為化比較対照試験(Japanese Acute Stroke Hypothermia
Trial:JASH)を行った。同試験は、発症後 5 時間以内の重症脳梗塞に対する低体温療法単独の効果検討
(JASH-A)、発症後 5 時間以内の重症脳梗塞に対する局所線溶後低体温療法の効果検討(JASH-B)、発症
後 24 時間以内の重症—中等症脳梗塞に対する平温療法の効果検討(JASH-C)を行うものである。しかし
ながら、これらの治療の有効性の有無を評価できるだけの症例を集積できないうちに研究期間が終了
した。症例集積が不十分であった理由としては、(1)低体温療法を開始する前に各施設において倫理委
員会の承認を受ける必要があるが、承認を受けるまでに長期間を要する施設が多かった、(2)低体温療
法は比較的高額医療費を要する治療であるにもかかわらず保険認可を得ておらず、一方、超急性期重
症例を数多く扱っている第一線病院の多くは医療費保証のない治療を行うことが困難である、(3)低体
温療法を行うには低体温ブランケット、ベッドサイドでの全身麻酔など特殊な装置が必要であるが、
脳梗塞超急性期例の診療を行っている内科施設の大半はこれらの特殊装置を有していない、(4)一般に
低体温療法は特殊な効果のある治療法であると考えられているので、医療現場ではこの治療法と通常
治療法を無作為に振り分けること自体が困難な場合が多い、(5)発症後 6 時間以内に来院し低体温療法
を要するような重症例の数が限られている、等があげられる。低体温療法のような重装備治療の臨床
効果を検討する多施設共同無作為化比較対照研究を実施するにあたっては、無作為振り分け方法に工
夫をこらすことが最も重要であると考えられ、例えば豪州の心停止後脳症に対する低体温療法試験で
採用された偶数日と奇数日によって低体温療法群と対照群を分けてしまう等のやり方を採用する必要
があると考えられた。
第II期の末に、重症脳梗塞例を対象に無麻酔下で頭頸部を冷却する治療法(局所低温療法)を試み、
脳温(内頸静脈球温)が下降するか否かを検討した。マックエイト社の頭頸部冷却装置を用いたとこ
ろ、駆幹温は低下しないが内頸静脈球温は駆幹温よりも1.0-1.5℃低い値を示した。、全身冷却による
低脳温療法時にしばしばみられる感染、血小板数減少、低K血症などの合併症は全く出現せず、画像を
用いた検討では平温療法時と同様の出血性変化出現頻度減少、高度脳浮腫出現頻度減少がみられた。
局所低温療法は全身冷却による低脳温療法に比較すると脳保護作用は弱いが、安全性、簡易性の点で
優れており、平温療法と組み合わせると有用性が増すであろうと考えられた。
1.2.2.3. 重症脳血管障害患者の低脳温療法時における PET による脳循環代謝の評価(安井信之)
ア. PET による脳循環代謝の測定により脳低温療法の脳保護効果の解明(1.2.3.1)においては,まず,
脳低温療法中に PET,CT 等の神経放射線学的検査の施行を可能とするために低体温ベッドを開発した。
31
Brain
attackから脳を守るための研究
これにより脳低温療法中においても安全に脳循環酸素代謝の測定が可能となった。脳低温療法中に CT
検査と同時期に PET による測定を行なった。PET の測定は以下の方法によった。C15O2 と 15O2 の持続的な
吸入により局所脳血流量と局所酸素摂取率,局所酸素消費量を測定した後,C15O 吸入を追加して局所脳
血液量の測定を行なった。orbito-meatal line に平行に 3.1 mm スライスのスキャンを 31 断面作成し
た。放射線活性,ヘモグロビン,ヘマトクリット,動脈血ガス分析を行ない定量した。解剖学的な位
置の同定のために CT を同時に行ない,関心領域を設定して各値を求めた。
イ. 重症脳血管障害例に対する脳低温療法の有効性の評価(1.2.3.2)は以下の適応基準を設けて臨
床例に施行した。虚血性心疾患のない 70 才以下の患者を対象とし,脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血
では,発症後 6 時間以内に入院し,自発呼吸があり,手術前重症度が World Federation of Neurological
Surgeons (WFNS)分類で IV-V の患者とした。脳出血では発症後 6 時間以内に入院し,意識レベルが半
昏睡以上に低下しているが,対光反射,脊髄毛様体または人形の目現象といった脳幹反射が保たれた
症例とした。脳塞栓症では発症 24 時間以内に入院し,内頚動脈または中大脳動脈の塞栓製閉塞で大脳
皮質症状があるが自発開眼が見られないものとした。
CT,MRI・MRA,脳血管撮影などによる確定診断を行なった後,患者の家族からインフォームドコン
セントによりこの治療法の了解を得てからくも膜下出血患者では根治手術,脳出血では血腫除去を行
なった。手術中は冷却ブランケットを用いて膀胱温で 35-35.5℃まで下降させた。くも膜下出血患者で
は術後の脳圧管理のために脳槽または脳室ドレナージを挿入した。術後,低体温ベッドに移し,集中
治療室にて低体温療法を行なった。脳塞栓患者では低体温療法単独の効果を見るために血栓溶解療法
は施行しなかった。
ウ.脳虚血モデルに対する脳低温療法の評価(1
..
2.
33)
は臨床例での適応症例が少ないため,脳低温療
法のメカニズムを明らかにするために追加して行なった。ラット中大脳動脈閉塞は 3-0
ナイロン糸を頚
部外頚動脈から前大脳動脈まで挿入して作成した。手術操作中は直腸温をモニターし,常温群(NT)
で
は 37
℃,低温群(HT)
では閉塞開始から 33
℃に 1時間維持した。閉塞 1時間後にナイロン糸を除去して
血流を再開通させ,HT群では体温を徐々に復温した。各グループ共に 1時間,3時間,5時間,24時
間,4日,10日生存させた。ペントバルビタール麻酔下に 4% pa
raf
ormal
dehy
de0.
1M リン酸緩衝液で
還流固定後,脳を取りだし 24時間侵潤固定後,冠状切片を作成し組織学的および免疫学的評価を行な
った。病変が最大の面積を示す視交叉のレベルの冠状面を H&E染色を行ない,梗塞の組織像を観察,
病変の面積を計測,形態学的評価も行なった。免役組織化学は一次抗体として抗 Bcl-2
,抗 Bax,抗チ
トクロームC,抗 Fas,
抗カスペース-3を用いて行なった。組織内での DNA断片化の検出は TUNEL法
を用いた。
(各研究の概要)
ア.
PET による脳循環代謝の測定により脳低温療法の脳保護効果の解明(1.2.3.1)
低体温療法が脳循環代謝に及ぼす影響をまとめると,破裂脳動脈瘤と同側の中大脳動脈領域の脳血
流量は 35.7±7.6 ml/100ml/min,酸素代謝量は 1.76±0.39 ml/100ml/min であったのに対して,その
対側においては夫々32.3±5.6 ml/100ml/min と 2.28±0.34 ml/100ml/min であった。これは正常値に
比較すると,患側では脳血流量が 35.7±14.1%,酸素消費量が 54.3±9.9% (p<0.01 で有意差あり)低下
32
Brain
attackから脳を守るための研究
しており,健側では夫々41.8±10.1%,41.2±8.6%の低下であった。これらの結果は臨床例においても
低体温療法により脳血流量と酸素消費量が抑制されることを示した。くも膜下出血および脳出血例に
おける血流酸素代謝動態をまとめでは,患側では主に血腫合併例では酸素代謝に比べ脳血流が相対的
に高い luxury perfusion を示し,健側では血流と代謝が均衡するか酸素代謝が相対的に高値を示す
misery perfusion の状態を示した。脳塞栓例は病巣部で脳血流量と酸素代謝が著明に低下した症例で
広範な梗塞と脳浮腫を来して死亡した。
イ. 重症脳血管障害例に対する脳低温療法の有効性の評価(1.2.3.2)
低体温療法を脳血管障害重症例 11 例に対して施行した。7 例はくも膜下出血,3 例が脳出血,1 例が
脳塞栓であった。くも膜下出血 7 例のうち 3 例は中大脳動脈瘤,2 例が内頚動脈瘤,1 例が末梢前大脳
動脈瘤,1 例が脳底上小脳動脈瘤であった。その内 5 例はマスを伴う脳内血腫を合併していた。脳出血
のうち 2 例は高血圧性で 1 例は右頭頂皮質下の脳動静脈奇形の破裂による血腫であった。脳塞栓例は
心原性塞栓による内頚動脈閉塞症例であった。殆どの症例は発症 2 時間以内に入院し,脳出血の 1 例
を除き 6 時間以内に低体温療法を開始した。入院時の意識障害は Glasgow Coma Scale で 8 以下の症例
であった。くも膜下出血の 3 例と脳出血の 2 例は Glasgow Outcome Scale で GR または MD,Barthel Index
で 55 以上に改善した。
ウ. 脳虚血モデルに対する脳低温療法の評価(1.2.3.3)
梗塞巣は視交叉レベルの断面で最大であった。虚血病変部位では染色性が明らかに低下し,神経細
胞の障害と神経繊維網の海綿化を伴っていた。NT 群では病変は基底核のみならず大脳皮質外側部にも
及んでいた。HT 群では基底核に小型の海綿状病変が認められたが,その程度は NT 群より軽度であり,
殆どは梨状皮質に限局していた。梗塞面積比は 24 時間群および 10 日群何れでも HT 群の病変が有意に
小さかった(24 時間,p<0.05;10 日,p<0.05)。組織学的には NT 群の虚血中心部では殆どの神経細胞
が広範に障害されていた。再開通 24 時間ではこれらの神経細胞は抗酸性の胞体,核の濃縮化と断片化
といった明らかな壊死性変化を示した。HT 群では病変部の神経細胞には選択的な細胞死が見られ,致
死的変化と形態が保たれた細胞が混在していた。再開通 4 日では NT 群の病変には多数のマクロファー
ジと増生した血管が出現していたが,HT 群にはこれらの反応性変化は見られなかった。再開通 10 日で
は NT 群の病変は明らかな萎縮を示していたのに対し,HT 群では致死的変化を示す細胞がなお残存し,
反応性細胞の侵潤は認められなかった。
免役組織学的には両群共に反対側の半球や一次抗体を除いた切片での反応は見られなかった。Bcl-2,
Bax, チトクロームCおよび Fas に対する免疫反応性は再開通 5 時間から少数の神経細胞に出現し,24
時間では陽性細胞が明らかに増加していた。陽性細胞の分布は,組織の脆弱性および低体温効果によ
ると考えられるが,虚血の中心部と境界部では異なっていた。Bcl-2 陽性細胞は NT 群でも HT 群でも
境界部に局在するのに対し,Bax, チトクロームC,Fas およびカスペース-3 は NT 群の中心部と境界
部に分布し,HT 群では陽性細胞が減少していた。TUNEL 陽性細胞は HT 群よりも NT 群に多数出現して
いた。AIF は両群で陰性であった。
1. 脳機能及び脳の病態生理に関する研究
1.2. 脳神経細胞生存能調節機構の解明に関する研究
33
Brain
attackから脳を守るための研究
1.2.3. 虚血の神経細胞における死および生存へのシグナル伝達機構の解明
1.2.3.1. 神経細胞アポトーシス解析による神経細胞死の分子機構の解明(名村尚武)
細胞死シグナル伝達機構として最近注目されている MAP キナーゼファミリーの虚血負荷による活性化
をマウスの中大脳動脈閉塞モデル、およびスナネズミの前脳虚血モデルを用いて個体レベルで解析し、
その生物学的意義を検討した。マウス局所脳虚血モデルで 2 時間虚血プラス再潅流 5 分後に虚血領域
脳内において ERK2 が一過性に顕著に活性化されることを明らかにした。MEK は ERK を基質とし、活性
化するタンパクキナーゼである。MEK の選択的阻害剤 PD98059 を虚血前に脳室内投与すると、中大脳動
脈閉塞(2 時間)から 24 時間後の脳梗塞体積がコントロルに比べ濃度依存的に減少し、この脳保護効果
は少なくとも 3 日間持続し、神経症状改善効果も伴うことを明らかにした。さらに、一過性前脳虚血
後の海馬で ERK2 が一過性に顕著に活性化されることを示した。さらに、新規 MEK 阻害剤 U0126 に、培
養神経細胞において低酸素や一酸化窒素などによる酸化ストレスに対する細胞保護効果があることが
明らかになった。この保護効果は MEK/ERK 経路の阻害効果と関連していた。さらにネズミを用いた動
物実験で、虚血後(再潅流前)に U0126 を静脈内に単回投与すると局所脳虚血モデルでも前脳虚血モデ
ルでも脳傷害に対する強力な保護効果があることがわかった。これまで、p38 MAP キナーゼや c-Jun
N-terminal キナーゼがアポトーシスを促進するのに対して、ERK1/2 はアポトーシスを抑制すると考え
られていた。しかしながら、この結果は、MEK/ERK 経路が少なくとも虚血による神経細胞死においては、
重要な役割を果たしていることを示唆するものである。さらに、これらの知見は MEK/ERK 経路阻害に
よる新たな脳保護療法開発の可能性を強く示唆している。
1.2.3.2. 虚血後の神経細胞における生と死のシグナル伝達機構の解明に関する研究(後藤由季子)
小 脳 顆 粒 細 胞 の 初 代 培 養 系 に お い て 、 神 経 栄 養 因 子 の 下 流 で 生 存 促 進 に 働 く 分 子 と し て PI3
kinase-Akt 経路・MAPK 経路・cAMP-PKA 経路が独立に働くことを示した。次に、Akt がアポトーシスシ
グナル伝達のいずれのステップを阻害しているかを検討し、(1) Akt が Bax のミトコンドリアへの移
行を抑制すること (2) Akt が Mdm2 のリン酸化を介して、p53 のユビキチン化・分解を促進し、これに
よって p53 依存的細胞死を抑制すること (3) ミトコンドリアの下流のステップにおいては、Akt はカ
スペース 9 のリン酸化を介して Apaf-1 との複合体形成を阻害し、アポトーシスを抑制すること、を見
いだした。このように細胞内で働く生存シグナルは、細胞の生存を保証するためにアポトーシスおよ
びネクローシスの複数のステップを阻害し、何重にも細胞を守るメカニズムを有している。このこと
は、細胞死のひとつのステップをターゲットにした細胞死阻害剤よりも、細胞内に本来存在する生存
シグナルを活性化した方がより確実で効率的に細胞死を抑制できる可能性を示唆している。また、以
上で明らかになった Akt のターゲットの知識を応用し、有効な細胞死抑制方法の開発にも結びつけた
いと考えている。成果の概要を以下簡略に述べる。(1) アポトーシスシグナル伝達において、Bax のミ
トコンドリアへの移行ステップは、低酸素・高グルタミン酸刺激を始め様々な神経障害刺激で共通に
起こる重要な事象であるが、これを PI3kinase-Akt 経路が阻害していることを明らかにした。(2) Bax
依存的細胞死、あるいは虚血による神経死に p53 の活性化が貢献していることが数多く報告されてい
る。Akt がアポトーシスシグナル伝達を抑制する機構の一つとして、我々は Akt が p53 の分解を促進し、
p53 依存的細胞死を抑制することを見いだした。 Akt は、p53 の mRNA 量には影響しなかったが、p53
の分解を促進することにより蛋白質レベルを低下させた。Akt が p53 の分解を促進するメカニズムにつ
34
Brain
attackから脳を守るための研究
いて調べるにあたり、p53 の分解において中心的な役割を果たす Mdm2(p53 のユビキチンリガーゼ)が、
Akt のターゲットとなっている可能性を検討した。Akt は in vitro, in vivo ともに Mdm2 の Ser166,
Ser186 をリン酸化した。活性型 Akt を発現しても Mdm2 の細胞内局在は変化せず、また Ser186 の変異
Mdm2 の局在は野生型 Mdm2 と同じであったので、このリン酸化は Mdm2 の細胞内局在には影響を与えな
いと結論した。一方、活性型 Akt の発現は、Mdm2 と相乗的に p53 のユビキチン化を促進した。Ser186
を Ala に置換した Mdm2 は、p53 ユビキチン化活性が低下しており、さらに Akt により活性化を受けな
かったので、Akt による Ser186 リン酸化が Mdm2 の p53 ユビキチン化活性を促進することが強く示唆さ
れた。また、Mdm2 の p53 分解促進活性に関しても同様に、Akt により促進され、Ser186 変異によって
阻害された。(3) Bax がミトコンドリアに移行すると cytochrome c の放出が誘導され、Apaf-1 による
カスペース 9 の活性化を引き起こす。我々は、Akt が cytochrome c によるカスペースカスケードの活
性化を抑制すること、Akt がカスペース 9 を in vitro の基質とすることを見いだした。in vitro の再
構成系で、Akt によりリン酸化されたカスペース 9 は Apaf-1 との結合能が低下しており、その結果と
して Apaf-1/カスペース 9 の cytochrome c/dATP による活性化が抑制されという結果が得られた。
(各研究の概要)
(1) BDNF による生存促進経路の解析
小脳顆粒細胞の初代培養系において、まず BDNF(脳由来神経栄養因子)による生存促進が、古典的 MAP
キナーゼと Akt の両方の経路を介していることを明らかにした。また、細胞内 cAMP 濃度の上昇も様々
な神経の生存を促進するが、これが protein kinase A (PKA)を介在することを明らかにした。さらに、
インスリンによる生存促進には、PI3 キナーゼ - Akt 経路が必要であるが、MAP キナーゼ経路や PKA
は必要ないことを示した。神経細胞において、Akt と PKA は独立に生存促進に関与していることを示し
た。
(2) Akt による Bax のミトコンドリア移行の抑制
PI3K-Akt 経路は、アポトーシスシグナル伝達において、Bax のミトコンドリアへの移行ステップを阻
害していることを明らかにした。生存因子刺激により Bax のミトコンドリア移行が抑制されるが、こ
れは PI3K 阻害剤、あるいは優性阻害型 Akt の発現により抑制された。また活性型 Akt の発現は、Bax
のミトコンドリア移行を抑制するのに十分だった。Bax のミトコンドリア移行ステップは、低酸素・
高グルタミン酸刺激を始め様々なアポトーシス刺激で共通に起こる重要な事象であり、このステップ
が PI3K-Akt 経路により阻害される機構を更に調べることにより、アポトーシスを有効に阻止できる可
能性が考えられる。
(3) Akt による p53 依存的細胞死の抑制とその機構
虚血による神経死に p53 の活性化が貢献していることが数多く報告されている。Akt がアポトーシス
シグナル伝達を抑制する機構の一つとして、我々は Akt が p53 の分解を促進し、p53 依存的細胞死を抑
制することを見いだした。 DNA 損傷刺激も p53 を介して細胞死を抑制するが、この場合も活性型 Akt
の発現で抑制された。Akt は、p53 の mRNA 量には影響しなかったが、蛋白質レベルを低下させた。p53
の半減期を調べたところ、Akt が p53 の分解を促進していることが明らかになった。逆に、PI3 キナー
ゼの阻害剤を細胞に添加し、Akt の活性化を阻害すると、内在性 p53 の寿命が延び、タンパク質分解が
35
Brain
attackから脳を守るための研究
阻害されたことが示唆された。
Akt が p53 の分解を促進するメカニズムについて、まず p53 が Akt の直接の基質となっている可能性
を検討したが、in vitro で Akt は p53 をリン酸化しなかった。そこで、p53 の分解において中心的な
役割を果たす Mdm2(p53 のユビキチンリガーゼ)が、Akt のターゲットとなっている可能性を検討した。
まず、精製した活性型 Akt は in vitro でリコンビナント Mdm2 をリン酸化した。Mdm2 には、Akt の基
質コンセンサス配列(RXXRXS/T)が 2 カ所存在する。そのうち、human Mdm2 の Ser186 に相当する配列は、
種間で高度に保存されていた。そこで Akt が Mdm2 の Ser186 をリン酸化するかを検討するために、リ
ン酸化 Ser186 を特異的に認識する抗体を作成した。この抗体は Akt でリン酸化された Mdm2 を認識し
たが、Ser186 を Ala に置換した Mdm2 はリン酸化しなかった。また、in vivo においても活性型 Akt の
発現は、Mdm2 の Ser186 リン酸化を誘導した。
次に Akt による Mdm2 のリン酸化による活性等に対する影響を調べた。活性型 Akt を発現しても Mdm2
の細胞内局在は変化せず、また Ser186 の変異 Mdm2 の局在は野生型 Mdm2 と同じであったので、このリ
ン酸化は Mdm2 の細胞内局在には影響を与えないと結論した。一方、活性型 Akt の発現は、Mdm2 と相乗
的に p53 のユビキチン化を促進した。Ser186 を Ala に置換した Mdm2 は、p53 ユビキチン化活性が低下
しており、さらに Akt により活性化を受けなかったので、Akt による Ser186 リン酸化が Mdm2 の p53
ユビキチン化活性を促進することが強く示唆された(図 4)
。また、Mdm2 の p53 分解促進活性に関して
も同様に、Akt により促進され、Ser186 変異によって阻害された。
(4) Akt によるカスペース 9 の阻害
Bax がミトコンドリアに移行すると cytochrome c の放出が誘導され、Apaf-1 によるカスペース 9 の
活性化を引き起こす。今回我々は、Akt が cytochrome c によるカスペースカスケードの活性化を抑制
すること、Akt がカスペース 9 を in vitro の基質とすることを見いだしている。in vitro の再構成系
で、Akt により Apaf-1/カスペース 9 の cytochrome c/dATP による活性化が抑制される結果が得られ、
(i) Akt がカスペース 9 の Apaf-1 による活性化のステップを抑制している、あるいは(ii) Akt がカス
ペース 9 のプロテアーゼ活性そのものを抑制している、などの可能性が考えられた。これらの可能性
を区別するために、リコンビナントカスペース 9 をあらかじめ Akt によりリン酸化させ、リン酸化型
と非リン酸化型カスペース 9 で、リコンビナント GST-Apaf-1 (1-530)に対して結合能に差があるかを
検討した。その結果、非リン酸化カスペース 9 が GST-Apaf-1 に良く結合したのに対し、あらかじめ Akt
でリン酸化されたカスペース 9 は GST-Apaf-1 に殆ど結合しなかった。従って、少なくとも Akt のリン
酸化によりカスペース 9 の活性化に重要なステップである Apaf-1 との結合が阻害されることが示唆さ
れた。このことが、結果的に Akt によるカスペース 9 活性化阻害に貢献している可能性が高いと考え
られる。一方、in vitro の Akt によるカスペース 9 リン酸化部位を今回 2 カ所同定した。今後、リン
酸化部位の変異によって Akt による阻害効果がなくなるか、また in vivo で神経栄養因子・サイトカ
インの存在下でこの部位がリン酸化を受けるかを検討したい。
1. 脳機能及び脳の病態生理に関する研究
1.2. 脳神経細胞生存能調節機構の解明に関する研究
1.2.4. 神経栄養因子様低分子化合物の開発と創薬への応用
36
Brain
attackから脳を守るための研究
1.2.4.1. 神経栄養因子様化合物の細胞および個体レベルでの評価(佐藤託実)
1.2.4.2. 神経栄養因子様化合物の細胞内受容体の探索(佐藤託実)
(平成 12 年度の研究成果)
7-PGA1 誘導体が、HT22 細胞(海馬由来の神経細胞芽腫)や大脳皮質ニューロンにおいて細胞死抑制
作用があり、神経突起伸展促進作用と神経細胞死抑制作用を合わせ持つ「神経栄養因子様低分子化合
物」としての性質をもつことが明らかした。
「神経栄養因子様低分子化合物」の化学構造の最適化を行
った。NEPP10 は神経突起伸展促進作用が顕著でなおかつ細胞毒性が弱く最適は神経突起伸展促進剤で
あることがわかった。さらに NEPP10 は脊髄後根神経節細胞からの神経突起や大脳皮質ニューロンから
の神経突起伸展促進作用も示し、培養細胞株のみではなく、初代培養ニューロンにおいても神経突起
伸展促進剤として作用することがわかった。NEPP11 が神経突起伸展促進作用と神経細胞死抑制作用に
おいて顕著な作用を示し、最適な化合物であることがわかった。さらに NEPP11 はマウスの局所脳虚血
モデルを用いて脳室内投与による個体レベルで評価しとところ、顕著な抑制効果が認められた。
「神経
栄養因子様低分子化合物」結合蛋白質の性質を明らかにするため、ビオチン化した化合物を用いて免
疫蛍光を行ったところ細胞核への集積が細胞死の抑制作用とよく相関することから、薬物受容体が核
内に存在することを示唆した。
(平成 13 年度の研究成果)
ビオチン化した化合物を用いてウエスタンブロッテイングをおこなったところ、核フラクションの蛋
白質に特異的に結合する蛋白質の存在が示された。また DNAchip を用いて NEPP11 により誘導される遺
伝子群を解析した。その結果、Heme oxygenase-1(HO-1),
-B-crystallin, tissue inhibitor of
metalloproteinase 3 をはじめとした種々のシャぺロン分子などの発現が誘導されることがわかった。
そのうち過去の報告から HO-1 に注目して実験を行った。NEPP11 は時間及び濃度以前的に HO-1 蛋白質
を顕著に誘導する作用を HT22 細胞及び大脳皮質ニューロンにおいて有する。HO-1 は細胞内のヘムを分
解してビリベルジン、鉄イオン、一酸化炭素を産生し、ビリベルジンはさらにビリベルジン還元酵素
によりビリルビンにまで代謝されるが、ビリベルジン及びビリルビンは神経細胞死抑制作用があった。
さらに HO-1 遺伝子を導入すると酸化ストレスによる神経細胞死が顕著に抑制された。これらの実験結
果は、NEPP11 が HO-1 を誘導し、細胞内のビリベルジン及びビリルビンの濃度を増加させ、ニューロン
に長期的なストレス耐性を付与することができると考えられる。またストレス条件下での神経細胞の
生存にはミトコンドリアに存在するヘムプールが重要であることを示唆する。また HO-1 を誘導する低
分子化合物は新たなタイプの神経細胞保護剤であることが示唆される。
1. 脳機能及び脳の病態生理に関する研究
1.3. 中枢神経再生能解明に関する研究
1.3.1. 機能的神経伝導路の再構築機構解明に関する研究(川口三郎)
(サブテーマの概要)
機能的神経伝導路の再構築機構解明に関する研究
中枢神経系の再生に関しては、かつての再生不能説が間違いであり、再生可能であることを多くの
人々が認めている。しかし、再生不能説に随伴していた「哺乳動物の中枢神経系のグリアや細胞外基
37
Brain
attackから脳を守るための研究
質が再生軸索の伸長に対して非許容的(non-permissive)な環境を形成している」との仮説は、現在、
ドグマとして広く浸透している。この仮説が正しければ、再生を導くためには環境を許容的
(permissive)に変えなければならない。実際、世界各国で中枢神経系の環境を許容的に変える試み
がなされている。しかし、環境を許容的に変える試みによって修復できる神経投射は、量が少なく距
離(軸索の延長)も短い。その多くは異所性投射と考えられるものであり、機能回復は僅かである。
著明な機能回復を期待するならば、正常な投射に匹敵するような量と延長と体部位局在の再現性をも
った神経投射を再構築することが必要であろう。それは可能か? 私達は可能であると考えている。私
達は、上記のドグマは間違いであり、中枢神経の環境は再生軸索の伸長に対して全体として許容的で
あり、再生を妨げるのは損傷部の局所的条件であり、局所的条件を良好に保つか、改善すれば、正常
な投射と同様な投射を再構築し、その投射によって著明な機能回復を達成できるとの仮説に立って研
究を進めてきた。仮説を検証するために、ア)神経突起マーカーを用いた神経再生至適グリア環境の
解析、イ)神経線維の離断後の新たな架橋及び神経シナプス形成の解析、ウ)神経移植を用いた神経
線維再生誘導実験及び機能的回復の証明を行った。ア)では、再生は個体発生過程の繰り返しと考え
られるので、まず正常な個体発生過程での分子の動態を明らかにすることを目的に、神経突起マーカ
ーであるGAP-43の個体発生過程における時空間分布を検索した。その結果、胎生13日目から白質に強
く発現し、その後、時間の経過につれて、灰白質に強く発現するようになることが判明した。次いで、
再生が成功する場合と失敗に終る場合の損傷部局所の細胞組織学的検索、発現する分子の免疫組織学
的検索を行い、再生が成功する場合には白質にグリア瘢痕や空洞の形成がないこと、損傷の初期に損
傷部にGFAP陽性、Vimenntin陽性の反応性アストロサイトが出現すること、シート状の構造をもつ4型
Collagen陽性の細胞外基質が白質に出現しないことを見出し、一方、再生が失敗に終る場合には、損
傷の初期に損傷部にはアストロサイトが消失し、astrocytic free area が出現すること、シート状の
構造をもつ4型Collagen陽性の細胞外基質が白質に出現すること、損傷の後期に白質にグリア瘢痕や空
洞が形成されることを明らかにした。イ)では幼若ラットの皮質脊髄路、赤核脊髄路、後索路、前庭
脊髄路、聴覚路が鋭利な切断後に著明な再生を起こし、切断部を架橋して伸長し、正常な終止部位に
終止すること、皮質脊髄路と赤核脊髄路についてはシナプス形成を電子顕微鏡で確認した。ウ)では
新生ラットの脊髄髄節置換標本と成熟ラットの脊髄完全切断標本を用いて、神経移植により、神経線
維の再生が誘導できること、再生した脊髄伝導路によって著明な機能回復を達成できることを証明し
た。
(個別項目毎の概要)
1.3.1.1. 神経突起マーカーを用いた神経再生至適グリア環境の解析(川口三郎)
ラット脊髄の個体発生過程におけるGAP-43の時空間分布:交配日を確定したSD系妊娠ラットから取
り出した胎生10、11日、12日、13日、14日、15日、16日、18日、20日齢の胎仔と生後0日、4日、7日、
10日、14日、17日、21日、28日、42日、63日、84日、105日齢の同系ラットを用い、GAP-43(growth-associated
protein 43)の免疫活性を脊髄の部位を分けて検索した。すなわち、白質では前索の内側(W1)と外
側(W2)、灰白質では前角の内側(G1)と外側(G2)の4点で免疫活性を測定し、その比をとって調べ
た。GAP-43免疫活性は胎生10日齢の脊髄には認められなかったが、胎生10日齢になると、神経管の
lateral exit zoneと後根神経節に出現した。しかし後根には検出されなかった。胎生12日齢になると
前角運動神経細胞、前根、lateral exit zone、後根、背側辺縁帯、後根神経節に発現した。胎生13日
38
Brain
attackから脳を守るための研究
齢には背側辺縁帯で活性が強くなり、前角では弱くなった。胎生15日齢には脊髄上行路、下行路に活
性を示す成長円錐樣の構造が出現した。胎生16日齢には背側辺縁帯は白質の形を成すようになり、こ
こに強い活性が認められた。胎生18日齢には、後索、とりわけ薄束が強度陽性となり、後角に免疫活
性を示す細胞体や線維が確認された。胎生18日齢には、灰白質における神経突起や神経線維の活性が
増加した。生後0日齢になると白質における活性が目立つようになった。生後1週齢の間に、腹外側索、
背外側索と後角、前角の灰白質で活性が増強し、楔状束や薄束では減弱した。生後2∼3週齢には灰白
質での活性がさらに増強した。4週齢には白質では活性は減弱し、皮質脊髄路のみで残存する成熟ラッ
トのパターンとなった。このようなGAP-43の個体発生過程における時空間分布の解明は再生過程をよ
く理解するために重要なデータとなるものと思われる。
神経再生至適グリア環境の探索:反応性アストロサイトやcollagen type 4が神経再生を促進するか、
妨げるかについて古くから議論があり、決着がついていない。また、古くからグリア瘢痕が再生を妨
げると考えられてきたが、再生の失敗が先かグリア瘢痕の形成が先かについては明らかにされていな
い。我々は幼若ラットの脊髄を鋭利に、あるいは鈍的に半側以上(過半側)切断した標本を作成し、
皮質脊髄路を蛍光色素で順行性に標識し、再生成功例と再生失敗例について、損傷部局所の反応性ア
ストロサイトと関連分子の発現をを免疫組織学的に検索し、上記の問題に対して解答を与え、神経再
生至適グリア環境を明らかにしようとした。鋭利に切断すれば再生が起こり、その際、再生線維は
collagen type 4の発現した脈管樣構造物に侵入した。損傷部にはGFAP陽性、vimentin陽性の反応性ア
ストロサイトが出現する。鈍的に切断すれば、再生は失敗に終るが、その際、損傷初期には損傷部か
らアストロサイトが消失した。その後collagen type 4 陽性のシート状細胞外基質が現れ、グリア瘢
痕が形成された。反応性アストロサイトと関連分子の時空間分布から、反応性アストロサイトや
collagen type 4は発現のタイミングと発現の場によって再生促進的にも抑制的にも働き得ること、グ
リア瘢痕やcollagen type 4 陽性のシート状細胞外基質は再生失敗の原因であるより、結果であるこ
とが判明した。反応性アストロサイトが損傷部に損傷の早期に出現するか否かが再生が成功するか失
敗に終るかを決める決定的な要因であり、神経再生至適グリア環境を作るのは反応性アストロサイト
であろうと考えられた。
1.3.1.2. 神経線維の離断後の新たな架橋及び神経シナプス形成の解析(川口三郎)
幼若ラットにおける皮質脊髄路の再生:生後 3 週齢までの幼若ラットを用い、傍咽頭的アプローチ
で頭蓋底を開き、橋と延髄の間で皮質脊髄路を離断し、順行性標識法によって離断後の線維による新
たな架橋ができているか否かを検索し、できていれば再生が起こったと判定し、できていなければ再
生が失敗に終ったと判定した。切断には安全カミソりの刃を折って作ったナイフを使用した。鋭利な
切断を行うと、切断部には僅かな出血はあっても浮腫を生じることはなかった。そのような切断では
切断後にグリア瘢痕や空洞形成は起こらず、大脳皮質感覚運動野に注入した小麦胚芽凝集素結合ホー
スラディッシュペルオキシダーゼ(Wheat germ agglutinin conjugated horseradish
peroxidase,
WGA-HRP)で標識された線維は切断部を架橋して、伸長しているのが観察された。著明な再生が起こっ
た例では再生線維は密な線維束を形成して延髄腹側を下行し、錐体交叉で完全に交叉して対側の脊髄
背側に入り、後索深部を仙・尾髄まで下行し、その間、頚髄、胸髄、腰髄、仙髄の各髄節で Rexed の
III-VII 層に終末を分布していた。すなわち、正常な投射と区別し難い投射が再構築されることが判明
39
Brain
attackから脳を守るための研究
した。一方、鈍的に切断した場合には、切断部の出血も多く、浮腫を生じ、後にグリア瘢痕や空洞形
成が認められた。このような場合には標識線維は切断部の手前に留まり、切断部を架橋することはな
かった。
幼若ラットにおける後索路の再生:皮質脊髄路の再生については、いくつかの報告が出されている
が、後索路は再生しない経路と云われてきた。現在、世界的に見れば、脊髄の神経修復の研究は専ら
運動神経路、とりわけ皮質脊髄路の再生に焦点が絞られている。しかし、感覚神経路、その中でも触
覚や深部知覚を伝える後索路の再構築なしには充分な機能回復は期待できない。本研究は生後 3 週齢
までの幼若ラットを用い、脊髄を胸髄下部で両側の後索路を切断し、神経節越え標識法によって離断
後の線維による新たな架橋ができているか否かを検索し、できていれば再生が起こったと判定し、で
きていなければ再生が失敗に終ったと判定した。切断は上記の方法と同様に行った。結果は皮質脊髄
路の場合と同様に、鋭利な切断では、正常な投射と同様な神経路の再生が起こり、正常な終止部位で
ある薄束核に終止することが判明した。再生が起こったことは、薄束核へトレーサーを注入し腰髄の
後根神経節を標識する逆行性標識法によっても確認した。
再生線維によるシナプス形成:新生ラットの脊髄髄節置換標本において皮質脊髄路のシナプス形成
を、また成熟ラットの脊髄切断標本において赤核脊髄路のシナプス形成を電子顕微鏡を用いて観察し
た。再生した線維は成長円錐を先端に伸長したが、術後 2 週間以内に成長円錐から未熟な粗な神経終
末から、さらには成熟した微小な神経終末へと形を変えるのが観察された。その間に、当初は無髄で
あった神経線維は有髄線維になった。これらの過程は個体発生過程で起こることの繰り返しであると
考えられた。
1.3.1.3. 神経移植を用いた神経線維再生誘導実験及び機能的回復の証明(川口三郎)
新生ラットの脊髄髄節置換標本における神経線維の再生と機能回復:新生ラットの脊髄を下部胸髄
で 1.5∼2 髄節を切除した空所に、同長の胎仔ラット脊髄髄節(3∼4 髄節に相当する)を切り出して正
常な吻尾・背腹方位をとるように移植した。移植髄節を越えて伸長する神経路を順行性・逆行性標識
法により調べると共に、機能回復の程度を BBB スケールで評価した。対照実験には胎仔ラット脊髄髄
節の代わりに坐骨神経を移植したもの、何も移植せず空所のまま放置したものを作成した。移植が成
功した例では、宿主の脊髄と境界なしにつながり、移植髄節を越えて正常と同様な神経路が再構築さ
れ、動物は上手に前肢・後肢の協調性をもって歩き、走り、金網を登ることができた。オープンフィ
ールドでの動きをビデオに録画し、BBB スケールを当てはめてみると、胎仔脊髄髄節移植群の BBB スケ
ールは移植が成功しなかった例を含めて、全体では 15.3 4.13、非常にうまく移植できた例の中には
スコア 20 を示したものがあった。BBB スケールというのは完全麻痺をスコア 0、正常をスコア 21 とし、
スコア 1∼8 は下肢は動くが体重を支えることができない段階、スコア 9∼13 は体重を支えて歩ける段
階、スコア 14∼20 は前肢-後肢の協調性のある歩行ができることを示す。スコア 20 というのは、一見
しただけでは正常なラットと区別できないような運動をするが、ビデオ録画で仔細に分析すれば歩く
ときのつま先や尻尾の位置、躯幹の安定性に僅かな異常を認めることができるという状態である。対
照実験には胎仔脊髄髄節の代わりに、末梢神経を移植するか、あるいは移植せず空隙のまま放置した。
40
Brain
attackから脳を守るための研究
末梢神経移植群の BBB スケールは 9.8 1.64、移植しなかった群の BBB スケールは 3.3 2.05 であった。
機能回復の程度は移植せず空隙のまま放置した群に比すれば、末梢神経移植群の方が有意に高く、末
梢神経移植群に比すれば胎仔ラット脊髄髄節移植群の方が有意に高かった。これらの動物については、
筋電図によっても機能回復の程度を評価した。すなわち、トレッドミル上を歩かせて歩行中に四肢か
ら筋電図を記録し、前後左右の協調性を調べた。その結果、BBB スケールのスコア 14∼20 は筋電図の
記録とよい対応を示すことが判明した。例えば、スコア 19 のラットはほとんど正常なラットと同様に
左前肢、左後肢、右前肢、右後肢という順序で筋電図が生起したが、時に前肢の筋電図は生起するが、
対応する後肢の筋電図が欠落する odd step を示した。スコアが下がるほど odd step の起こる頻度が
増し、前肢と後肢の対応が不明確となった。
再生した神経結合と機能回復の程度との相関を明らかにするため、BBB スケールによる機能評価を行
った動物において、逆行性標識法により、上位脳から脊髄の腰膨大へ下行する神経路の起始核の細胞
数を縫線核、前庭神経核、赤核、大脳皮質について計測した。これらの部位に細胞が標識されなかっ
た、すなわち上位脳と腰膨大に直接の神経連絡がないと判断された例では、前肢-後肢に協調性は認め
られなかった。標識細胞が縫線核、前庭神経核、赤核に認められたが、大脳皮質には認められなかっ
た例では、いろいろな程度に前肢-後肢の協調性が認められたが、その程度は標識細胞数とよい相関を
示した。BBB スケール 18 以上の例では、標識細胞は脳幹諸核に加えて大脳皮質にも認められた。これ
らの結果は、機能回復が再構築された神経結合の量ならびに質によって決まることを示している。
成熟ラットの脊髄完全切断標本における神経線維の再生と機能回復:成熟ラット脊髄における神経
線維の再生については世界各国で研究が進められているが、その多くは脊髄の部分的な切断標本を用
いている。しかし、ラットでは脊髄の白質の一割程度が残存していれば、対麻痺は起こらず、歩行は
可能なので、部分切断による機能回復の証明は信頼性が高いとは云い難い。それゆえ、私達は脊髄の
完全切断標本を作成し、対麻痺にした動物で神経路を再生させ、機能回復を証明することを試みた。2
ヶ月齢のラットの胸椎(T10-12)の椎弓切除を行って、胸髄を広く露出し、安全カミソリの刃を折っ
て作ったナイフで完全に切断した。術後ランダムに選んだ 10 匹の動物を灌流固定し、完全に切断され
ていることを確認した。切断後、切断部に胎仔ラット脊髄組織を移植した。対照群は切断のみで、移
植しなかったものを対照群とした。再生が起こったか否かの検索には、WGA-HRP の順行性、逆行性標識
法を用いた。機能回復についてはオープンフィールドでの行動をビデオ録画して、BBB スケールを当て
はめた。実験群では切断部を架橋する再生が起こることを確認できた。一方、対照群では切断部の近
傍に多くの新しい神経突起を認めたが、切断部を越えて伸長する線維を認めることはなかった。対照
群では全て BBB スケール 8 以下であったのに対して、実験群では BBB スケール 15 に達するものがあっ
た。この結果は胎仔ラット脊髄組織に再生を促進するのに有効な因子が存在することを示している。
その有効因子は、大きく分けて二つの可能性がある。すなわち、一つはグリアなどの細胞成分であり、
他の一つは拡散性分子である。そこで、これらの可能性を検証するため、一方ではグリア細胞を培養
し、他方では胎仔ブタ脳脊髄細胞質分画を調整して、それぞれを成熟ラット脊髄切断モデルに対して
投与して再生が促進されるか否かを検討した。その結果、両者とも有効であることが判明した。この
ことから、再生を許容する損傷部の軸索環境にはグリア細胞が重要な働きをし、胎仔ブタ脳脊髄細胞
質分画に存在する拡散性分子は損傷部のグリア細胞に働いて有効性を示すことが推測された。現在、
損傷部の軸索環境におけるグリア細胞の役割の解明と胎仔ブタ脳脊髄細胞質分画に存在する拡散性分
41
Brain
attackから脳を守るための研究
子の分離精製を勧めている。
1. 脳機能及び脳の病態生理に関する研究
1.3. 中枢神経再生能解明に関する研究
1.3.2. 神経幹細胞を用いた中枢神経機能再生に関する研究(高橋淳B)
(サブテーマの概要)
成体ラット海馬由来神経幹細胞を用いたシグナルシークエンストラップ法においては、シグナルシ
ークエンスを有する新規遺伝子が 11 個単離された。このうち、一つは神経幹細胞の生存維持活性を、
別の遺伝子はニューロンの神経突起形成に関与しているという予備データが得られている。現在、こ
れらの解析を進めている。
神経幹細胞由来ニューロンは胎仔グリア細胞上でシナプスを形成することが電気生理学的に証明さ
れた。また、神経幹細胞の移植によって脳虚血ラットの空間認識能が改善することが明らかとなった。
(個別項目毎の概要)
1.3.2.1. 神経幹細胞の自己複製と分化に関する分子機構の解析(高橋淳B)
我々は、神経幹細胞に関連したこれらのタンパクをコードする遺伝子をシグナルシークエンストラ
ップ法という方法を用いてクローニングしようとしている。この方法は、シグナルシークエンスを有
する遺伝子をクローニングする方法で、受容体、細胞接着因子等の細胞表面分子および、サイトカイ
ン、神経ペプチド等の分泌タンパクが得られると予想される。ラット海馬由来神経幹細胞より cDNA ラ
イブラリー を作製し、シグナルシークエンストラップ法で得られたクローンを解析したところ、11
種類の未知の遺伝子が得られた。RT-PCR によってこれらの遺伝子の発現部位、発現時期などの検討を
おこなったところ、いくつかの遺伝子は脳に多く発現しており、分化過程においてその発現量が変化
することがわかった。そのうち、そのシークエンスモチーフから分泌タンパクであることが予想され
るクローンについて、全長シークエンスの決定、抗体作成を行っている。これらの新規遺伝子のうち、
一つは神経幹細胞の生存維持活性を、別の遺伝子はニューロンの神経突起形成に関与しているという
予備データが得られている。現在、これらの解析を進めている。
また、我々は神経幹細胞の分化をシナプス形成という観点からも解析している。神経幹細胞を胎仔
海馬由来グリア細胞上で胎仔海馬由来初期培養ニューロンと共培養をしたところ、神経幹細胞由来ニ
ューロンの神経突起上でシナプス関連蛋白の発現が確認された。電子顕微鏡による観察では、神経幹
細胞由来ニューロン同士あるいはそれらと初期培養ニューロンとの間にシナプス様微小構造の形成が
認められた。パッチクランプ法を用いて電気生理学的解析を行うと、培養 14 日頃から活動電位が観察
されるようになり、30 日頃に後シナプス電流が記録されるようになった。これらの結果から、神経幹
細胞から分化したニューロンはシナプス形成能を有することが明らかとなり、移植後の新たな神経回
路形成が期待される。
1.3.2.2. 神経幹細胞を虚血脳へ移植した際の移動・分化の解析(高橋淳B)
我々は、神経幹細胞移植による脳神経損傷の治療開発を最終目標としている。そこで、神経幹細胞
移植後の生着、分化、脳機能への効果を検討する実験として一過性脳虚血モデルラットを作製し、こ
のラットの海馬に神経幹細胞を移植し検討を行った。
42
Brain
attackから脳を守るための研究
4 vessel(両側総頸動脈、椎骨動脈)occlusion によりラット脳虚血モデルを作成。モデル作成 2
週間後に BrdU および LacZ 遺伝子でラベルした神経幹細胞を海馬に移植した。移植された細胞の 1∼3%
が海馬 CA1 領域に生着し、うち 3∼9%がニューロンへと分化していた。移植 3 週間後から開始した水
迷路テストでは、8 日目から移植群が非移植群にくらべて有為な空間認識能の改善を示した。これらの
ニューロンはシナプス関連蛋白を発現し、空間認識能の改善時期はこの神経幹細胞を海馬グリア細胞
上で分化誘導を行った際のシナプス形成時期に一致していた。これらの結果は移植された神経幹細胞
が新たな神経回路形成に寄与しうることを示唆する。この結果は Neuroscience Letters (316:9-12,
2001)に報告した。また、これらの結果はてんかんで神経の脱落した海馬においての神経回路再構築の
可能性を示唆し、てんかん治療にも応用できると考えられる。
1. 脳機能及び脳の病態生理に関する研究
1.3. 中枢神経再生能解明に関する研究
1.3.3. 損傷神経の生存・再生促進因子の同定と遺伝子導入による治療法の開発に関する研究(木山博
資)
(サブテーマの概要)
1.3.3.1. 損傷神経の生存・再生因子の遺伝子検索においては、cDNA ライブラリーを用い、ランダムに
クローンを選択し、in situ ハイブリダイゼイション法による 2 次スクリーニングを行った結果、約
100 クローンにのぼる神経損傷関連遺伝子を同定した。この中には新規なものの他に既知の遺伝子も多
く含まれていた。既知の分子で比較的機能が明らかな分子を中心に、神経損傷により発現が上昇する
ものを分類すると、(1)神経栄養因子受容体やその下流に見られる細胞内情報伝達系の分子群、(2)
グルタミン酸トランスポーターに見られるグルタミン酸毒性の除去機構、(3)チオレドキシンやグル
タチオン系の活性化による酸化蛋白の還元的修復、
(4)スーパーオキシドディスミューテース(SOD)や
グルタチオンペルオキシダーゼ(Gpx)などによる活性酸素の消去系、などの細胞死防御のためのメカニ
ズムが作動していることが明らかになった。また、新規もしくは今までに機能が全く判っていなかっ
た 遺 伝 子 と し て 、 神 経 損 傷 に 特 異 的 に 応 答 す る メ タ ロ プ ロ テ ア ー ゼ Damage induced neuronal
endopeptidase (DINE)、セリンプロテアーゼインヒビターの SPI-3、Rho ファミリーに属する TC10、が
得られた。このはか、NOS の活性を抑制すると考えられる dimethylarginine dimethylaminohydrolase
(DDAH)、エンドセリンコンバーティングエンザイムなどがあった。以上により損傷神経が再生する過
程で作動している分子群の多様性が明らかになるとともに、再生の分子メカニズムがかなり浮かび上
がってきた。これらの遺伝子のうち、新規の DINE や SPI-3、グルタミン酸トランスポーターなど一部
については、中枢神経系を含む神経損傷後の応答について検討した。また、DINE についてはその遺伝
子発現応答がきわめて神経損傷に関係しているので、プロモーターの解析も合わせて行った。また、
脳梗塞など中枢神経系で損傷御細胞死が起こる場合、上述の遺伝子の複数が、損傷に対して発現応答
してこないことから、末梢運動神経系で見られる再生の分子メカニズムが中枢神経系の再生では作動
していないことが明らかになった。
1.3.3.2. 遺伝子導入による損傷神経の生存・再生促進の評価においては、アデノウイルスベクターを
改変して神経特異的な発現系が得られるよう試みた。このため、SCG10 のプロモーターをベースに神経
43
Brain
attackから脳を守るための研究
特異的サイレンサーエレメントを複数付加あるいは位置を変えることにより、プロモーターの改良を
試みた。その結果比較的高い神経特異性が得られる発現プロモーターが得られた。また、
(ア)で得ら
れた DINE のプロモーターも高い神経特異性を有していることが明らかになった。このようなプロモー
ターを Cre リコンビナーゼの発現に用い、Cre-loxP を介して神経細胞特異的に発現する系がほぼ確立
した。また、得られた遺伝子をウイルスベクターを用いて動物に導入する際、その評価系の構築につ
いては、幼若ラットの舌下神経損傷モデルが有用であった。この系では損傷を受けた神経細胞が徐々
に細胞死を起こすが、ここに遺伝子を導入することで細胞死防御活性を同定することが可能である。
また、神経突起伸展能力の評価には、標的組織に逆行性トレーサーを注入し、トレーサーが逆行性に
取り込まれ標識される神経細胞の数を計測することで、可能になった。また、運動神経を評価系に用
いる場合には、アセチルコリン小胞トランスポーターを用いることで、神経損傷後標的の骨格筋に再
投射した時期を同定できることも明らかになった。
(個別項目別の概要)
1.3.3.1. 損傷神経の生存・再生因子の遺伝子検索(木山博資)
損傷神経の生存・再生因子の同定には、確実に神経の再生が見られる末梢運動神経の損傷モデル(舌
下神経損傷再生モデル)を用いて行った。そこから得られた遺伝子が中枢神経系の再生においてどの
ように作動しているかを解析し、中枢神経系の再生が上手く行かない原因を探ろうと試みた。遺伝子
の探索には、cDNA ライブラリーを用い、ランダムにクローンを選択し、in situ ハイブリダイゼイシ
ョン法による 2 次スクリーニングを行った。その結果、約 100 クローンにのぼる神経損傷関連遺伝子
を同定した。この中には新規なものの他に既知の遺伝子も多く含まれていた。既知の分子で比較的機
能が明らかな分子を中心に、神経損傷により発現が上昇するものを分類すると、(1)神経栄養因子受
容体やその下流に見られる細胞内情報伝達系の分子群、(2)グルタミン酸トランスポーターに見られ
るグルタミン酸毒性の除去機構、(3)チオレドキシンやグルタチオン系の活性化による酸化蛋白の還
元的修復、(4)スーパーオキシドディスミューテース(SOD)やグルタチオンペルオキシダーゼ(Gox)な
どによる活性酸素の消去系、などの細胞死防御のためのメカニズムが作動していることが明らかにな
った。また、新規もしくは今までに機能が全く判っていなかった遺伝子としては、神経損傷に特異的
に応答するメタロプロテアーゼ Damage induced neuronal endopeptidase (DINE)、セリンプロテアー
ゼインヒビターの SPI-3、Rho ファミリーに属する TC10、が得られた。このほか、NOS の活性を抑制す
ると考えられる dimethylarginine dimethylaminohydrolase (DDAH)、エンドセリンコンバーティング
エンザイムなどがあった。以上により損傷神経が再生する過程で作動している分子群の多様性が明ら
かになるとともに、再生の分子メカニズムがかなり浮かび上がってきた。また、新規の DINE や SPI-3、
グルタミン酸トランスポーターなど一部の遺伝子について、中枢神経系を含む神経損傷後の応答につ
いて検討した。新規のプロテアーゼとして、クローニングされた DINE は脳梗塞や外傷などさまざまな
神経傷害時に発現し、細胞死防御の役割があることが明らかになった。特に、本遺伝子の発現により
SOD をはじめ活性酸素の消去にかかる遺伝子群の発現を抑制することが明らかとなった。このほかセリ
ンプロテアーゼインヒビター(SPI-3)は炎症に応答して特定の細胞に発現することが明らかになった。
障害に対して耐性のある運動神経細胞では、SPI-3 はニューロンで発現したが、軸索障害に対して脆弱
な網膜神経節細胞などの中枢神経障害では発現応答が見られなかった。この他軸索伸展に関与する分
子群として Rho ファミリーの TC10 や Rho キナーゼの基質となる CRMP なども得られた。DINE のプロモ
44
Brain
attackから脳を守るための研究
ーター活性については LIF などのサイトカインが重要であることが明らかになりつつある。
1.3.3.2. 遺伝子導入による損傷神経の生存・再生促進の評価(木山博資)
本研究では、アデノウイルスベクターを用いて急性期に遺伝子導入することにより損傷神経細胞の保
護や軸索伸展能の向上をめざすことと、それらの評価系を確立することが目的である。アデノウイル
スベクターを用いて神経細胞特異的な発現系が得られるよう試みた。このため、SCG10 のプロモーター
をベースに神経特異的サイレンサーエレメントを複数付加、あるいは位置を変えることにより、プロ
モーターの改善を試みた。その結果、比較的高い神経特異性が得られる発現プロモーターが得られた。
また、
(ア)で得られた DINE のプロモーターも高い神経特異性を有していることが明らかになった。
このようなプロモーターを Cre リコンビナーゼの発現に用い、Cre-loxP を介して神経細胞特異的に発
現する系が確立しつつある。LaxZ の発現を指標にして本ウイルスベクターの作動動態を脳内注入で検
討した。その結果、比較的良好な神経細胞特異的発現が得られた。ウイルスベクターによる動物への
遺伝子導入の評価系としては、2 つの系が考えられる。すなわち、損傷神経細胞の温存または保護効果
と再生軸索の伸展能であり、これらを別々に評価する系が求められていた。得られた遺伝子が神経保
護効果を有するかどうかについて評価するには、幼若ラットの舌下神経損傷モデルが有用であった。
この系では損傷を受けた神経細胞が徐々に細胞死を起こすが、ここに保護作用のある遺伝子を導入す
ることで、神経細胞死を有意に抑制することができる。これにより、神経細胞死防御の活性を同定す
ることが可能である。また、神経突起伸展能力の評価には、やはり舌下神経損傷モデルが有効であっ
た。成熟ラットの軸索損傷後、再生軸索は標的組織に再び投射するが、ここに、新たに遺伝子を発現
させることにより、再生の速度に変化が見られる。これを定量化することにより、軸索再生能を評価
することが可能である。逆行性トレーサーを標的の舌に注入した時、舌に神経終末が存在すればトレ
ーサーが逆行性に取り込まれ起始細胞が標識される。したがって標識された神経細胞の数を計測する
ことで、ある時点での再生神経細胞の数を計測することができる。また、舌下神経をはじめ他の運動
神経を評価系に用いる場合には、アセチルコリン小胞トランスポーターの免疫染色を用いることで、
神経損傷後標的の骨格筋に再投射した時期を同定できることも明らかになった。これも、遺伝子の軸
索再生能を評価するうえで有効な方法であることが明らかになった。
2. 脳神経障害の原因となる脳血管障害発生機構の解明に関する研究
2.1. 脳血管の病態成立機構に関する研究
2.1.1. 脳血管障害に於ける炎症性内因子の病態成立に果たす役割に関する研究
2.1.1.1. モノサイト系細胞の活性化と血管収縮能の獲得に関する作用機序の解明を行う(眞崎知生)
脳血管攣縮は,クモ膜下出血患者の予後を左右する重篤な病態であり,これまで多数の物質が脳血
管攣縮の原因因子候補として考えられてきた。しかしながら,いずれの物質も遅発性の発症機構を説
明できるだけの十分な証拠を欠いており,脳血管攣縮の発生機序はもちろんのことその治療法につい
てもいまだに不明であった。本研究の特徴の一つとしては,従来の研究とは異なり,脳血管攣縮のト
リッガーがクモ膜下腔に出た赤血球の酸化的傷害であるという仮説を立てた点である。いま一つの特
徴としては,酸化的傷害を受けた赤血球が直接に脳血管に作用するのではなく,この赤血球(に由来
する酸化細胞膜)によりマクロファージが動員および活性化され,その結果マクロファージが血管収
45
Brain
attackから脳を守るための研究
縮物質を遊離するという「マクロファージ介在」仮説を組み立てた点にある。従って,本研究では,
酸化的傷害を受けた赤血球およびマクロファージという観点から,この病態の発症機構の解明と新し
い治療戦略の開発を試みた。
実験系としては,生体から採取したマクロファージの一次培養,摘出ウサギ胸部大動脈を用いた張
力測定および生体ウサギにおける脳血管撮影による脳底動脈の内径測定を用いた。また,脳血管平滑
筋細胞において血管収縮物質により活性化される Ca チャンネルを同定するために,パッチクランプ法
の全細胞記録および単一細胞における細胞内 Ca 測定を用いた。その結果,1) クモ膜下出血により,
血液がクモ膜下腔に出ると,赤血球が酸化されて傷害されるとともに溶血がおこり,酸化赤血球膜お
よび細胞内成分であるヘモグロビンが出現する,2) それらの老廃物特に酸化赤血球膜を処理するため
に,血管内から単球が動員され,マクロファージに分化する,2) マクロファージはこの酸化赤血球膜
を認識・貪食する結果,活性化される,3) その結果,マクロファージは強力な血管収縮物質であるエ
ンドセリン-1 を放出し,脳血管攣縮を誘発する,4) エンドセリン-1 は脳血管平滑筋細胞において,
合計 3 種類の Ca 透過性を有するチャンネル―2 種類の Ca 透過性非選択的陽イオンチャンネルおよび 1
種類のストア作動性 Ca チャンネル―を活性化し血管収縮を誘発する,5) 脳血管攣縮の発症が遅いのは
マクロファージの血管内からの動員・活性化に時間がかかるためである,6) 活性化マクロファージは
血管収縮物質とともに血管拡張物質である一酸化窒素(NO)も遊離するが,クモ膜下出血では溶血に
より産生されたヘモグロビンが NO を吸着してその作用を阻害するために収縮反応が増強される,こと
が明らかとなった。さらに,これらのエンドセリン-1 により活性化されるおのおのの Ca 透過性チャン
ネルの遮断薬を発見するとともに,これらの薬物を使用することにより脳血管攣縮が抑制されること
も示した。
2.1.1.2. 脳血管障害の成因において細胞外マトリックスの果たす役割の評価を行う(橋本信夫)
脳卒中の中でも最も予後が悪いとされるクモ膜下出血の大部分は脳動脈瘤の破裂が原因であるが、
その形成機序は未だ不明点が多い。この発生機序を分子レベルで明らかにし、脳動脈瘤破裂の発症を
効果的に予防、治療することは現代医療にとって急務である。本研究は脳動脈瘤発症における主要分
子機構および関連因子を特定し、それを標的とした新たな非侵襲的治療開発を目的とした。
この問題を解決するために、我々は人間の脳動脈瘤と相同性の高い自然誘発型脳動脈瘤モデルをラ
ットを用いて作製した。そして脳血管分岐部近傍におけるシエアストレスの変化が(1)内弾性板の消
失、(2)中膜平滑筋層の浅薄化、(3)外膜の変性といった脳動脈瘤形成過程における主要メカニズム
を誘導する可能性があることを病理学的見地からこれまで報告してきた(Stroke;1997,398-403、
Stroke;1990,1722-6 他多数)。
本研究では新たに、先にあげた脳動脈瘤主要変化の分子メカニズムを解析した。まず血管の最大主
要構造物である中膜平滑筋層の浅薄化に注目し、平滑筋細胞の減少を誘導する分子機構の解明を行っ
た。その結果、平滑筋細胞自身ののアポトーシス変化(Stroke1998;181-89)および hemodynamic stress
の変化から iNOS を介して誘導される NO の 存在(Circulation2000;2532-38)がこの血管リモデリング
に深く関与していることを報告し、特に NO に関してはその阻害剤が脳動脈瘤の発達と抑制のいずれに
も有意に機能することを明らかにした。また、アポトーシスにおける MAPK カスケードの関与について
も言及した。
次に、内弾性板、平滑筋細胞層の細胞骨格、外膜といった血管構造物全般の主要構成成分である細
46
Brain
attackから脳を守るための研究
胞外マトリックスの分解が脳動脈瘤形成に大きく関与していることに注目し、主要血管結合組織であ
るエラスチン、コラーゲンの主要分解酵素である Matrix Metalloproteinases(MMPs)-2、-9 の動脈
瘤形成時における発現変化とその役割について解析を行った。その結果、MMP-2,-9 とも動脈瘤の発達
と共に発現の増加を認め、特に MMP-9 は脳動脈瘤形成に重要な役割を果たす炎症細胞マクロファージ
と非常に相同性のある発現をきたすことを明らかにした。また機能面でも新たにマウスモデルを作製
し、MMP-9-/-マウスでは Wild-type マウスと比較して脳動脈瘤の成長が有意に抑制されることを明ら
かにした。さらに MMP-2 および-9 を含む MMP 阻害薬を用いると有意に脳動脈瘤の発達が抑制されるこ
とも確認した。
以上の結果より我々は、脳動脈瘤の形成には、細胞外マトリックスの分解と平滑筋細胞の変化が大
きなトリガーとなっていることを分子メカニズムレベルで明らかに示した。特にこれらのメカニズム
の主要因子である NO、MAPK や細胞外マトリックス分解酵素の阻害剤が脳動脈瘤発達の抑制を導くこと
を実験的脳動脈瘤モデルにおいて示したことで、今後の脳動脈瘤新治療法に新たな方向性を示した。
2. 脳神経障害の原因となる脳血管障害発生機構の解明に関する研究
2.1. 脳血管の病態成立機構に関する研究
2.1.2. 閉塞性脳血管障害の病態解明と新たな治療技術開発に関する研究
2.1.2.1. 閉塞性血管病変に於ける脳血管保護(傷害)因子の解明と新たな治療法基礎技術の開発(永
田
泉)
実験動物クモ膜下腔にアデノウイルスを用いた酸性繊維芽細胞を導入することで、脳内での分泌増
加によると考えられる髄液内での有意な濃度上昇が確認された。また、この遺伝子導入により、脳内
での血管新生が誘導された。一方脳血管攣縮治療実験として、家兎クモ膜下出血モデルに対し、合成
広域作用型特異的セリンプロテアーゼ阻害剤、あるいは選択特異的合成スロンビン阻害剤の全身投与
を行ったところ、2 日後に脳血管撮影にて観察される脳血管攣縮の進展が有意に抑制された。さらに、
こららの成果に基づき、両薬剤に共通し活性阻害されたセリンプロテアーゼの一種であるスロンビン
活性化に着目し、その下流に存在する成長因子の発現を調べた結果、クモ膜下出血後の脳血管壁にお
いて、血小板由来成長因子(B-chain homodimer, -BB)の発現が増強することが確認された。さらに、
ラット頸動脈肥厚モデルにおいて、同様に合成広域作用型特異的セリンプロテアーゼ阻害剤、あるい
は選択特異的合成スロンビン阻害剤の全身投与を行ったところ、2 週間後の内膜肥厚が有意に抑制され
るという結果を得た(未発表)
。ヒト動脈硬化巣を用いた検討でも、セリンプロテアーゼの一種である
補体の活性化と同部位に、前述動物モデルの結果と同様に血小板由来成長因子(-BB)の発現が増強し
ていることが示された。
2.1.2.2. 脳血管壁傷害に於ける増殖(修復)機構に関する研究(寒川賢治)
アドレノメデュリンについてまず、血管内皮細胞における産生調節機序を検討したところ、トロン
ビン、TNF,IL-1、LPS などの因子がその分泌及び合成調節に関与することを明らかにした。そしてそ
の遺伝子の転写調節機序を解析するため、アドレノメデュリン遺伝子のプロモーター領域をルシフェ
ラーゼベクターに組み込み、ヒト培養血管内皮細胞に導入し、その発現活性を検討したところ、NF-IL6
及び AP2 が転写因子として関与することを明らかにした。アドレノメデュリンがアストロサイト細胞
47
Brain
attackから脳を守るための研究
において血管平滑筋細胞と同程度産生され、オートクリン、パラクリンとして機能することが示唆さ
れた。しかもアストログリア細胞の増殖に及ぼす効果を検討したところ、血清刺激による細胞増殖を
アドレノメデュリンは濃度依存的に抑制した。
PACAP については、まず、血管系組織には 3 つの受容体サブタイプ全てが発現しているものの、平滑
筋細胞においては PACAP と VIP 共通のレセプターである VPAC2 のみが発現していること。そして血管
平滑筋細胞の細胞増殖に対して細胞周期依存的に正と負の細胞内シグナルを介してデュアルモードに、
その細胞増殖を制御することが明らかとなった。また、血管平滑筋細胞における一酸化窒素産生に対
して、誘導型一酸化窒素合成酵素を、インターロイキン 1 依存的に誘導することにより、その産生調
節に関与することを明らかにした。
PACAP の産生調節機序を明らかにする目的でマウス PACAP 遺伝子をクローニングした。単離された本
遺伝子はおよそ 6.5kbにわたり 5 つのエクソンからなること、また第 17 染色体の E5 に局在すること
を明らかにした。PACAP が培養神経細胞だけでなく astrocyte 及び microglia にても発現しており、TPA,
Forskolin の刺激で誘導されることを明らかにした。そして脳においては、エクソンⅠとⅡの
alternative スプライシングにより少なくとも 4 種類の 4’非翻訳領域が存在する。そして本遺伝子の
5’上流には少なくとも 3 カ所の転写開始領域があり、そのうち最上流に位置する開始点の上流には
TATA が存在する。後の 2 つには TATA の代わりに、ハウスキーピング遺伝子によく見られる Inr 配列が
観察された。従って脳において PACAP 遺伝子は誘導型発現に関わるプロモーターと構成的発現に関わ
るプロモーターの 2 種類により、その転写が制御されていることが明らかとなった。さらに神経選択
的サイレンサーのエレメントに相同性の高い領域が、5’上流域に存在し、非神経細胞における PACAP
の遺伝子発現を抑制しており、PACAP の神経特異的発現に神経選択的サイレンサーが関与することを明
らかにした。
48
Brain
attackから脳を守るための研究
波及効果、発展方向、改善点等
1. 脳機能及び脳の病態生理に関する研究
1.1. 新たな脳機能と脳病態の画像化に関する研究
1.1.1. 脳の高次機能画像化に関する研究
1.1.1.1. MRSI 法を用いた脳代謝マッピング技術の確立(田中忠蔵)
脳代謝マッピングを行える臨床用装置は、従来、限られており、全てのメーカーで行えるわけでは
なかったが、研究を通じて、この方法が普及し、最新の主要国外メーカー3 社の装置では可能となって
いる。ただし、まだ、全脳を対象としての測定が可能となってはいない。
本研究を通じて、脳虚血における治療対象領域である penumbra の画像化が脳代謝マッピング、脳潅
流画像、拡散係数画像を組み合わせることから可能になった。一方、臨床応用では、急性期脳虚血の
状態に測定可能な検査が増えることから、いかに少ない時間で有効な情報を得るか、が問題となって
きている。急性期の状態では、出来るだけ短時間に多くの情報を得ることを考えると、脳代謝マッピ
ングは未だ充分完成された検査法とは言えず、今後さらに高磁場装置を用いるなどして、S/N比の
改善からさらに短時間での測定が期待される。
脳代謝産物の定量測定の試みは、現在のところ決定的な方法のコンセンサスは得られていない。定
量測定に必要な各代謝産物の緩和時間の情報を得るのが困難なことや、可能であっても長時間を要す
るためである。これに対して今回提案したLCモデルによる半定量解析は、一度基準物質を決定する
とその後は自動処理により短時間で可能である。この方法が今後の研究方向となると考えられ、より
高磁場装置での試みも行われていて期待ができる。この方向性は、今回求めようとしたグルタミン酸
代謝に関しても同じことが言える。脳内のグルタミン酸類は、比較的多く含まれているものの、スペ
クトル上カップリングが激しく今回の測定でも確実性のあるデータを提示できなかった。3T装置では、
確実な信号として観測できるため、大いに期待できる。
1.1.1.2. fMRI 技術を用いた言語や視覚刺激に対する脳高次機能の応答性あるいは局所賦活状態の解
析(田中忠蔵)
この研究機関におけるfMRIによる高次脳機能解析の進歩には著しいものがあり、米国を中心と
して神経科学研究の主要なツールとしての位置を確実なものとしている。実際、米国では、ここで用
いた 1.5 テスラ装置は用いられているものの、より高磁場装置を用いた研究に移行している。この間、
我が国にも数台導入されている 3∼4 テスラ装置は勿論のこと、MRによる研究が進んでいるNIHや
ミネソタ大学、スタンフォード大学、ハーバード大学などでは、すでに 7,8 テスラ装置が稼働あるい
は設置が進んでいる。我が国においてもより高いレベルでの研究体制が必要と考えられる。
fMRIの臨床応用は可能であるものの、脳神経外科領域では皮質電極などのより詳細な検討が行
え、無麻酔での刺激確認の上で手術摘出範囲を決定するなど、極めて繊細な方向に進んでいて、現在
の臨床用装置では、この分野においても限界がみられる。是非ともより高分解能な装置を用いた検討
が、非侵襲的な検査法として検討してゆく必要がある。しかし、今後、神経の機能再生を中心とした
分野では、まだ現在のfMRIや、ここでは触れる余裕がなかった拡散テンソル画像の応用を進める
ことから可能であると考えられる。
49
Brain
attackから脳を守るための研究
一方、Mn を用いた機能画像は、神経細胞に取り込まれたMnが軸索輸送を受け、神経路を移動するこ
とがわかってきた。この方法を用いると神経路の機能画像が行える。今回我々がこの方法に使用した
実験用MRI/S装置は、4.7 テスラであった。米国では、この分野でも高磁場装置による検討が進
んでいて 11 テスラ装置の稼働と導入が行われている。本研究でこの分野では、優れた成果が得られた
ものの、この分野も短時間で最先端の研究を行えなくなる可能性を有している。
EEGトリッガーによるてんかん焦点のfMRIは、自動化が十分に行えず、予期された以上の成
果を挙げることができなかった。この分野では、英国の 1 グループが優れた成果を報告しているが、
方法上の問題を有しているせいか、いまだ一般的な方法となっていない。これについては、今後も、
是非フォローして行きたい。
1.1.1.3. MR 脳潅流画像法/拡散係数画像法を用いた脳潅流状態の画像評価による脳活動に伴う局所
脳循環の変化の解析。(田中忠蔵)
研究開始時にいまだ一般的ではなかった拡散強調画像の臨床応用は、この研究が進むにつれて極め
て一般的な方法として普及した。現在なお装置性能の制限を受ける以前のMR装置や、低磁場装置で
は行えないものの、ブレインアタックの救急センターでは、必要欠くべからざる急性期の診断方法と
なっている。拡散強調画像で超急性期から強い信号を示す虚血領域は、現在のところほとんど回復可
能性が少ない領域と思われている。反対に超急性期に拡散強調画像で変化が少なく、灌流量が保たれ
ている領域は治療反応性を有していて、これらが本研究で示したように短時間で確認できるために優
れた臨床的な方法であるといえる。今後は、本研究で示した penumbra の臨床画像が臨床用装置で比較
的簡単に表示できる方向へと向かうと考えられる。
組織拡散のもう一つの方向性は、テンソル画像である。拡散強調画像が虚血病変や出血性病変の描
出に優れていたように、テンソル画像では白質の方向性とその大きさを表示することができる。この
ため、臨床的にはリハビリテーションの客観的な評価法として期待できる。
灌流画像法の臨床応用は、Gd—造影剤を用いた方法が短時間で測定でき優れたS/N比を有して
いるために用いられるようになった。本研究でも示したようにこの方法の測定下限は、約
15ml/100g/min 程度なので十分実用的である。ただし、非拡散性物質としての限界もまた有しているこ
とに注意する必要がある。造影剤を用いず、定量測定が行える理想的な方法である arterial spin
labeling 法は、実験的には十分な実用性を認めたものの、臨床的にはその低いS/N比のために臨床
応用の試みの段階となってしまった。しかし、なお現在も改良を行っているために、完全に用いられ
ない方法というわけでも無い。また、磁場が高くなるとS/N比も改善されるので、これからの高磁
場装置の普及とともに十分臨床有用性が認められると考える。
MR-hyperpolarized gas 法は、理想的な灌流測定法となりうる可能性を有しているものの、現在のと
ころ物理学的な生成方法の限界から実用的な方法とならなかった。しかいs、この方法もまた、work in
progress の状況であり、さらに国内外で試みられているのでこれからの方法として期待できる。
1.1.2. 脳血管障害超急性期診断法と病態画像に関する研究(峰松一夫)
先進の画像診断技術を軸に虚血性脳血管障害の新たな治療戦略を確立することを目的に開始した本
研究は、当初目的の 7∼8 割を達成することができた。さらに、研究計画当初にはなかった contrast
50
Brain
attackから脳を守るための研究
harmonic imaging (CHI) 法による脳循環評価、サル大脳を用いた実験、3.0T の超高磁場 MRI による
機能的 MRI (fMRI)、diffusion tensor imaging などにより、予想しなかった成果をあげることがで
きた。
本研究グループの行った研究「1.1.2.1. Diffusion MRI と harmonic imaging 法(神経超音波技術
による脳循環画像化)による超急性期脳血管障害病態迅速評価法の検討」の成果のうち、超音波によ
る血管病変診断基準は既に内外の診療現場で利用され、ベッドサイドでの迅速かつ非侵襲的納血管病
変評価に役立っている。Diffusion MRI による脳深部小病変の原因検索結果は、従来の常識を覆すも
のであり、今後の急性期治療、再発予防対策を講ずる上で大きな意味をもつと予想される。ただし、
当初の期待に反して、CHI による脳循環評価には一定の限界があることが示された。PET や SPECT に
匹敵する精度のベッドサイド脳循環評価法の確立のためには、なお多くの技術的問題の解決、PET や
SPECT 等との比較試験が必要と思われる。
「1.1.2.2. Animal PET による霊長類大脳での apreading depression (SD) の発生確認とその虚血
脳に及ぼす影響の検討」では、霊長類大脳での SD 発生を世界で初めて確認するという画期的なもの
となった。しかも、SD の発生頻度や伝播範囲、これに伴う脳循環動態は従来の小動物実験で得られた
結果と大きく異なっていた。SD は脳虚血損傷の発生、進展に大きく関与していることはほぼ間違いの
ないところである。また SD を抑制する薬物が、すなわち脳保護薬として期待されてきた。しかしなが
ら、ラットなどの小動物モデルでは著しい脳保護効果を示した薬物が臨床試験ではことごとく失敗し
てきた。この失敗を説明しうるものとして、今回明かとなった小動物とサルでの SD の違いが注目さ
れている。今回の研究は、今後の脳保護薬を巡る前臨床試験(動物実験)と臨床試験の乖離を埋める
極めて重要な研究と位置付けられるであろう。本研究プロジェクトは、現在遺伝子発現や蛋白生成レ
ベルを主眼として進行中であり、今後も大きな成果に繋がるものと期待される。
「1.1.2.3. PET, SPECT, 3T-fMRI を用いた潜在的脳循環障害と知的機能初期障害の評価」について
も、脳循環障害と知的機能の関連を一定レベル明らかにすることができた。知的機能初期障害は、あ
らゆる痴呆性疾患の診断、治療のターゲットとして、現在世界中で研究対象となっている。我々の PET
や SPECT を用い、かつ一定基準で評価した脳循環予備力障害に関する長期追跡調査はこれまで行われ
てこなかった研究であり、極めて価値が高いものとされている。本研究の追試研究は、現在国内外で
実施されている。
3.0T の MRI を利用した fMRI や diffusion tensor imaging 法の研究は端緒についたばかりであ
る。これらの先進の画像診断技術による潜在的脳循環障害と知的機能初期障害の評価研究は、今後も
大きな収穫をもたらすものと思われる。
1.2.1. 外因子による脳保護機能の評価と脳神経生存能強化機構に関する研究
1.2.1.1. 脳梗塞耐性機能発現動物モデルの確立(柳本広二)
1.2.1.2. 神経栄養因子および脳低温状態の有する脳保護効果の解析(柳本広二)
本研究は、脳に本来内在する生存能の調節機構、生存能増強機構、虚血性ストレス防御機構を解明
することにより、脳卒中等による脳の傷害から脳を守るための新たな医療あるいは生活スタイルを構
築することを目指している。本研究で示されたごとくに、脳卒中に強い脳では、脳内にて神経由来栄
養因子の発現が長期にわたり増強し、特殊な細胞内分布を行うことが明らかとなった。文献上は、全
51
Brain
attackから脳を守るための研究
身を使ったエクササイズやランニング、あるいは、脳神経の活動などが、実験動物脳内での神経栄養
因子の発現を高めると言われている。すなわち、これら身体、精神の発育発達にとって必要であると
されてきた運動や学習が一方では、脳神経の生存能をも高めている可能性がある。神経栄養因子発現
の高められた脳においては、成長発達終了後にわずかながら内在する持続的な神経新生をも高める可
能性があり、これらは、機能的に長期記憶向上によい効果を与えている可能性もある。脳の生存能を
高めるための研究の中で、脳機能と脳の生存能とは、密接に関連していることが明らかとなりつつあ
り、これらの内在性分子機構を人為的に制御することで、近い将来、脳の機能および生存能を高める
ことが可能、あるいは、そのための具体的な生活習慣が明らかとされる時代が到来するであろう。今
後、さらに脳の生存能および機能を高めるための内在性制御機構の解明を進めていく計画である。
1.2.1.3.
TRX super family 等生体内防御因子の脳神経細胞保護効果の評価(淀井淳司)
脳卒中に対する新たな治療戦略の開発という、本プロジェクトの趣旨に照らせば、チオレドキシン
が、単なる抗酸化作用に止まらないレドックス制御という、従来にない全く新しい切り口から、虚血
脳組織損傷を軽減させる作用を持つという結果が導かれたことは非常に有意義な成果であったといえ
る。
世界的にみても、スーパーオキサイドジィスムターゼをはじめとする種々の抗酸化剤が、実験的に
は虚血脳細胞保護効果を認めながら、臨床応用の点でほとんどすべて失敗に終わっている現状を鑑み
てもそれは明らかであろう。
臨床応用に向けた今後の発展性としては、脳卒中発症後の脳損傷軽減としてのみならず、脳組織に
チオレドキシン発現を誘導させることによる、発症予防への領域への一歩進んだ進展が見込まれる。
ただし、これらの具体化に向けては、チオレドキシンの作用機序、発現機構について分子生物学的
にさらに詳細に解析されるべきである。また副作用や、薬物動態解析には大型動物を用いたin vivoの
実験が不可欠である。
現在、我々は細胞外チオレドキシンが細胞内へと働きかける作用機序について解析を進めている。
また酸化ストレスに応答し、チオレドキシンが発現誘導される機構についても遺伝子レベルで解析中
である。これらよりもたらされる情報をフィードバックし、さらなるチオレドキシンの治療応用へむ
けての発展を期したい。
1. 脳機能及び脳の病態生理に関する研究
1.2. 脳神経細胞生存調節機構の解明に関する研究
1.2.2. 低脳温の果たす神経保護効果の至適条件解明と臨床応用技術開発に関する研究
1.2.2.1. MRS を用いた虚血巣温度測定技術の評価と虚血後高脳温の検討(成冨博章)
波及効果:本研究の結果は必ずしも十分な結果を導き出したとは言い難いが、急性期の虚血領域温
度がむしろ高温を呈すること、低体温下においても虚血領域は必ずしも低温に至っていない可能性が
あることを指摘した点で大きな意義があると思われる。今後、動物実験で虚血領域の温度変化を検討
しようとする動きがみられると思われるが、小動物における麻酔下の実験では虚血領域の高脳温を捉
えることは困難とも思われる。大型動物を用いた無麻酔下の実験が必要になると思われる。また、虚
血領域の高脳温の機序を解明するために、脳梗塞例においてPETと1H-MRSを用いて局所脳代謝・局所血
52
Brain
attackから脳を守るための研究
流・局所脳温度の関係を明らかにする検討がなされていくであろうと思われる。一方、低体温療法の
効率をあげるために、低体温療法施行中の症例の病巣部位温度をモニターしようとする動きが今後み
られるようになると思われる。
発展方向:本研究は、脳梗塞の病態をより明らかにするうえで脳局所温度の測定が重要であること
を示している。現在、ヒトの脳局所温度を非侵襲的に測定できる方法はMR装置を用いた方法しかない
が、MR装置による測定法は経時的変化を追うには適していない。MR以外の方法を用いて脳温度の経時
的変化をより簡易に測定できる方法が発達することが望ましい。
改善点:本研究で用いた1H-MRS法は、現時点ではヒトの脳局所温度を非侵襲的に測定しうる唯一の
方法であり実用性もあるが、二つの欠点を有している。一つはNAA化学シフト値の測定精度に限界があ
ることから約1℃単位での温度測定しかできない点である。この温度分解能を改善させる必要がある。
もう一つは、虚血領域ではNAAピークが低下するので、同領域ではピークの同定が困難となり化学シフ
ト値の計測が不正確になる点である。NAAではなくCholineなどの化学シフト値の温度変化を利用すれ
ばこのような問題を回避できると思われるので、今後、Choline化学シフト値を用いた検討を試みるべ
きであろうと思われる。
1.2.2.2. 低脳温の脳保護機構の解明及び低脳温療法の有効性と安全性の評価(成冨博章)
波及効果:本研究では、先ず、虚血範囲の広い脳梗塞例では急性期に視床下部等を介する中枢性の
体温上昇が起こりやすいこと、体温上昇は出血性変化や高度脳浮腫をもたらして転帰を悪化させるこ
とが示された。急性期脳梗塞例の脳温度は健常部位よりも虚血領域の方が約1.0℃高いという1H-MRS測
定結果を併せると、急性期の全身体温が1.0℃上昇することにより虚血領域は2.0℃程度上昇すること
になり、その脳障害悪化作用は無視しがたいものがあるといえる。一方、本研究では体温上昇を阻止
するだけでも出血性変化や高度脳浮腫抑制効果が得られ転帰が改善することが示唆された。低体温療
法ではさらに強い脳保護効果が得られることも示唆されたが、必ずしも脳温を33℃まで下降させなく
ても、脳温を少しでも下げる努力をすることが脳保護に結びつくといえる。本研究結果は、今後、脳
梗塞のみならず頭部外傷、心停止後脳症、くも膜下出血等の治療戦略に影響を与え、低体温療法を行
わない場合でも体温上昇を阻止するか少しでも体温を下降させようとする努力を行うべきであるとい
う考え方が波及していくと思われる。
発展方向:脳梗塞急性期治療を行っている第一線病院では二、三名の内科医が診療に当たっている
場合が多く、低体温療法などの重装備治療を行いたくても人手不足で実施不可能なことが多い。簡便
で人手を要しない治療法が第一線病院では必要であり、そのような治療法の一つとして本研究で有効
性が示唆された平温療法が推奨される。また、もう少し脳温を下げうる治療法として局所低脳温療法
が推奨される。十分な人手と装置を有する大病院では今後も低体温療法の有効性が追求されていくべ
きであるが、人手の少ない病院ではこれに代わるものとして平温療法や局所低脳温療法が用いられる
べきであると考える。
改善点:本研究では、低体温療法の効果が入院時NIHSSスコア25以上の超重症例や年齢65歳以上の高
齢者では殆ど認められないことが明らかとなった。入院時NIHSSスコア25以上の超重症例は虚血の低下
が極めて高度であり極めて早期に不可逆性変化が生じる可能性が強いので、発症3-5時間後の低体温療
法開始は遅すぎるのであろうと考えられる。本研究によって立ち上がった低体温療法の多施設共同研
究は今後も続けていく予定であるが、その際、入院時NIHSSスコア25以上の例は対象外とするか、また
53
Brain
attackから脳を守るための研究
は発症後2時間以内に低体温療法を開始できる場合にのみ適応とするか、いずれかの形でプロトコール
を改変する必要があると思われる。また、年齢についても70歳以上の例は対象外とし、65歳以上の場
合は発症後3時間以内に低体温療法を開始可能な例に限る等のプロトコール変更が必要と思われる。
1.2.2.3. 重症脳血管障害患者の低体温療法時における PET による脳循環代謝の評価(安井信之)
本研究によって臨床例においても脳低温療法中に脳循環酸素代謝が抑制されることが示されたこと
で,臨床的にも脳保護効果が期待できることが確認できたため,今後,臨床的な取り組みが広がるこ
とが期待される。脳循環代謝の抑制が,既に存在している脳血流と酸素代謝の相対的な関係が維持さ
れたまま抑制されることが示されたが,治療効果の面から考えると,脳損傷の原因となっている血流
障害や脳圧迫といった病態を低体温中に改善させることの必要性を示唆しているのかもしれない。今
回は低体温中に脳循環代謝の測定を一回行なったのみであるが,低体温中と復温直前に再度測定を行
なうことが出来れば,脳低温療法有効例と無効例の間で循環動態の相対的な関係に変化がでる可能性
があり,それにより復温前に有効性の判定が出来る可能性がある。例えば,脳主幹動脈閉塞症例では
脳底体温療法中に血流再開を追加することでより臨床効果を挙げられる可能性がある。今回の検討に
おいては臨床例において脳低温療法が有効であることを示すに至らなかった。その大きな原因は,適
応症例が限られたことであり,この治療法を実際に臨床応用するうえでの困難さを示す結果となった。
今回,ラット虚血モデルにおいて脳低温療法が有効性を示すことが出来た事は,臨床例においても
より短時間で低体温を導入する方法の開発や安全に患者管理が行なえるシステムを構築することが出
来れば,低体温療法に新たな展開が期待出来る事を示している。重症脳血管障害例に対する有効な治
療法が存在していない現在,これらに注目した新たな研究が望まれる。
1.2.3. 虚血後の神経細胞における生と死のシグナル伝達機構の解明に関する研究
1.2.3.1. 神経細胞アポトーシス解析による神経細胞死の分子機構の解明(名村尚武)
1.2.3.2. 神経細胞の生存能促進による脳保護効果の検討(後藤由季子)
細胞内で働く生存シグナルは、細胞の生存を保証するためにアポトーシスおよびネクローシスの複
数のステップを阻害し、何重にも細胞を守るメカニズムを有している。このことは、細胞死のひとつ
のステップをターゲットにした細胞死阻害剤よりも、細胞内に本来存在する生存シグナルを活性化し
た方がより確実で効率的に細胞死を抑制できる可能性を示唆している。本研究ではPI3'K-Akt経路が神
経生存促進を効率よく促進し、p53の活性化およびBaxのミトコンドリア移行・caspase-9活性化という
複数のステップを阻害する事を示した。これらの知識を応用し、有効な細胞死抑制方法の開発にも結
びつけたいと考えている。現在活性型Aktを発現するadenovirusの系を立ち上げており、虚血モデルで
Aktが神経死を効率的に抑制できるかを検討する予定である。
1.2.4. 神経栄養因子様低分子化合物の開発と創薬への応用
1.2.4.1. 神経栄養因子様低分子化合物の細胞及び個体レベルでの評価)(佐藤託実)
1.2.4.2. 神経栄養因子様化合物の細胞内受容体の検索(佐藤託実)
神経栄養因子は分子量が大きく、脳血液関門を通過できないから、脳へのターゲッテイングに関し
54
Brain
attackから脳を守るための研究
て難点がある。低分子化合物で神経栄養因子の生理作用を mimic するか、ないしは enhance すること
を目指すのが最も現実的である。神経栄養因子様の作用をもつ低分子化合物は世界中で 3 種類が主な
ものである。中枢ニューロンに対して神経栄養因子様の作用を発現させようとすれば、神経突起伸展
促進作用を神経細胞生存維持作用をあわせ持っている必要があるが、これを満足するものは、1)スタ
ウロスポリン様アルカロイド、2)イムノフィリンリガンド、3)シクロペンテエノン型プロスタグラ
ンジンの 3 種類である。これのうち培養中枢ニューロンに明らかな神経突起伸展促進作用と神経細胞
生存維持作用をもつものは我々が報告したシクロペンテエノン型プロスタグランジンのみである。
NEPP11 はその最適化された低分子プローブとして有効である。すなわち神経栄養因子様低分子プロー
ブがどのような適用範囲をもつのかを解析するためのツールとなりうる。
神経栄養因子は神経細胞死の抑制とは関係のない高次神経機能の保護作用を有している。bFGF は脳
虚血開始後 24 時間後に脳室内投与しても全く神経細胞死の抑制作用はないが、行動レベルのスコアは
顕著に回復する。虚血反対側の皮質領域において、神経栄養因子が神経回路の組み換えを顕著に促進
すると考えられるのである。すなわち神経栄養因子はニューロンの生存維持作用の他に、神経回路を
保護/再生することにより高次神経機能保護/再生に関与するのである。もし低分子化合物によりこ
のような神経回路の再生機能を持たせることができればいままでにないタイプの神経細胞保護剤の創
製が可能である。NEPP11 はその有力な候補物質である。すなわち神経細胞死を抑制するのみならず、
さらに神経回路の再生を促進することにより、高次神経機能の再生を可能にする道を開いた。
また本研究から、NEPP11 の神経細胞生存維持機構としてヘムオキシゲナーゼー1(HO-1)の誘導作用を
介していることを明らかになった。HO-1 はヘムを一酸化炭素、cGMP、ビリベルジンに分解するが、特
にビリベルジンはさらに還元酵素によりビリルビンに代謝さる。ビリベルジン及びビリルビンは抗酸
化剤としての作用や、リン酸化阻害剤としての作用があり、また最近中枢ニューロンにおいて細胞死
抑制作用を有することが示された。ビリベルジン及びビリルビンの細胞内濃度を増加させることが、
NEPP11 が保護因子として作用するためには重要である。HO-1 の誘導が肝臓の種々の疾患に対する創薬
ターゲットになることを提唱していた Immenschuh and Ramadori は・12-PGJ2 に注目したが、NEPP11
はまさに・12-PGJ2 の HO-1 の誘導作用を、非増殖細胞でも発現できる画期的な低分子プローブであり、
彼らの要求を満たすものである。ニューロンでの HO-1 誘導の生理的な意義を探究するための分子プロ
ーブとして、また HO-1 誘導する低分子プローブの創薬展開の可能性を探るリード化合物として有効で
ある。
1.3. 中枢神経再生能解明に関する研究
1.3.1. 機能的神経伝導路の再構築機構解明に関する研究
1.3.1.1. 神経突起マーカーを用いた神経再生至適グリア環境の解析(川口三郎)
1.3.1.2. 神経線維の離断後の新たな架橋及び神経シナプス形成の解析(川口三郎)
1.3.1.3. 神経移植を用いた神経線維再生誘導実験及び機能的回復の証明(川口三郎)
現在、我が国には約 10 万人の脊髄損傷者がおり、毎年新たに 5,000 人の患者が出るという。世界保
健機構(WHO)は、全世界で毎年新たに 92,000 人の患者が出ていると推定している。高位頚髄損傷で
は呼吸障害と四肢麻痺、低位頚髄損傷では四肢麻痺、胸髄損傷では対麻痺が起こり、それらに加えて
排尿排便、性機能、発汗、血圧の急上昇や急低下など自律神経系の障害が起こり、人間としての尊厳
55
Brain
attackから脳を守るための研究
が冒されており、本人だけでなく、その家族にも精神的・肉体的、経済的に大きな負担がかかってい
る。脊髄損傷者の医療費について、我が国では統計がとられていないので、以下にアメリカで公表さ
れている統計を示すが、それを見れば、国民経済にとっても大きな負担になっていることは推察に難
くない。
高位頚髄損傷による四肢麻痺
初年 7200 万円
以後 1300 万円/年
低位頚髄損傷による四肢麻痺
初年 4700 万円
以後 530 万円/年
対麻痺
初年 2700 万円
以後 270 万円/年
不全麻痺
初年 2100 万円
以後 150 万円/年
生涯医療費
高位頚髄損傷による四肢麻痺
受傷時年齢
25 歳 2 億 8 千万円
50 歳 1 億 6 千万円
低位頚髄損傷による四肢麻痺
25 歳 1 億 6 千万円
50 歳 9 千 9 百万円
対麻痺
25 歳 9 千 2 百万円
50 歳 6 千 3 百万円
不全麻痺
25 歳 6 千 2 百万円
50 歳 4 千 5 百万円
脊髄損傷を神経修復により治療することが可能になれば、福祉という観点からだけでなく、社会的
負担の軽減という観点からも大きく益することは明らかである。本研究の成果によって、臨床応用の
展望は切り開かれたと考えている。現在、基礎研究から臨床応用に向けて translation の方法を探っ
ており、早ければ、数年の内に、遅くとも 10 年以内には、臨床応用に持ち込みたいと考えている。
本研究が明らかにした神経修復の方法は脊髄損傷にとどまらず頭部外傷、さらには脳卒中による片
麻痺の治療に発展するであろう。我が国の頭部外傷の患者数は、統計が存在しないので、アメリカ、
オランダ、オーストラリアの統計から人口比で外挿すると年間 120,000∼450,000 人と推定される。脳
卒中は我が国では年間 23 万 4 千人に起こっており、死因の第 3 位を占めている。平成 11 年の厚生労
働省患者調査では脳卒中の患者数は 147 万人に達しており、総医療費の 8%(2 兆 4 千億円)
、高齢者
医療費の 13%が脳卒中に費やされ、医療費・介護費という観点からも社会的負荷の極めて大きな疾患
となっている。これらが、治療し得ることになれば、人類の福祉と経済に大きく貢献することは言を
待たない。本研究の成果はその可能性が高いことを示したと思う。
1.3.2. 神経幹細胞を用いた中枢神経機能再生に関する研究
1.3.2.1. 神経幹細胞の自己複製と分化に関する分子機構の解析(高橋淳B)
1.3.2.2. 神経幹細胞を虚血脳へ移植した際の移動・分化の解析(高橋淳B)
神経幹細胞の存在が明らかとなりその分離・培養が行われるようになって、神経幹細胞は細胞移植
治療の新たな材料として期待を集めている。と同時に、成体脳においても神経幹細胞が存在しニュー
ロン新生が起こっているという事実も明らかとなっている。このことから神経幹細胞を用いた神経機
56
Brain
attackから脳を守るための研究
能再生には細胞移植による方法と内在性神経幹細胞からのニューロン新生を促す方法の二種類が考え
られる。神経幹細胞による神経再生のもっとも大きな特長は、新たな神経回路形成が期待できるとい
う点であろう。
我々は、神経幹細胞から誘導したニューロンを胎仔グリア細胞上で培養することによってこれらの
ニューロンがシナプスを形成することを明らかにした。このことは、神経幹細胞によって神経回路が
形成されうることの理論的根拠となる。また、神経幹細胞移植によってラットの空間認識能が改善さ
れたことは、移植によって高次脳機能の改善まで期待できることを意味する。残念ながら、移植実験
において直接のシナプス形成を確認することはできなかったが、in vitro で後シナプス電流が記録さ
れ始める時期と移植後に行動改善が見られ始める時期とが一致することから、この行動改善には新た
な神経回路形成が関与している可能性があると考えられる。ただし、神経幹細胞から神経保護作用の
ある物質が分泌されている可能性もあるので、今後のさらなる検討が必要である。
今回の移植実験では海馬 CA1 領域に生着した神経幹細胞は移植した総数の約 1∼3%と少数であった。
また、グリオーシスが顕著なラットにおいてはむしろ空間認識能の悪化がみられた。これらのことか
ら、移植のタイミングも含めて移植の方法を改良してグリオーシスの少ない生着率の高い方法を開発
する必要があると考えられる。
神経幹細胞関連の新規遺伝子クローニングに関しては、期間内に論文発表を行うことが出来なかっ
たが、すくなくとも 11 個のクローンが得られ現在これらの解析を進めている。これらの中から神経幹
細胞の特異的マーカーや神経幹細胞の生存や増殖に関与する遺伝子が得られれば、神経幹細胞の生物
学やそれを利用した神経再生医療の発展に寄与するところは大であろう。
1.3.3. 損傷神経の生存・再生促進因子の同定と遺伝子導入による治療法の開発に関する研究
1.3.3.1. 損傷神経の生存・再生促進因子の遺伝子検索(木山博資)
1.3.3.2. 遺伝子導入による損傷神経の生存・再生促進の評価(木山博資)
本研究における、損傷神経の生存・再生因子の遺伝子検索により、神経が損傷を受けた後、生存す
るためにいかなる分子メカニズムが作動しているかが明らかになりつつある。神経の再生にはグルタ
ミン酸毒性やフリーラジカルの毒性を低下させるためのメカニズムが働くほか、ミトコンドリアや小
胞体のストレスによる細胞死へ向けてのシグナルカスケードを多段階でブロックする生存のための応
答が明らかになった。一方、神経損傷に脆弱である中枢神経系では、脳梗塞などの後この細胞死を引
起すシグナルと生存のためのシグナルのバランスが細胞死の方へ傾くことが細胞死に至る主要な理由
と考えられる。損傷の激しさに応じてバランスの傾きが大きくなると考えられる。すなわち、生存の
ための応答が一部見られなかったり、細胞死へのシグナルがあまりにも強すぎる状況が浮かび上がっ
てきた。したがって、本研究結果から今後の方向性として、このバランスをいかに戻すかが重要であ
り、細胞死の荷重をどうやって減らすか、また生存の荷重をいかに大きくするかをめざせば良いと考
えられる。このような観点から、遺伝子導入のターゲットが絞り込まれると考えられる。また、同時
に研究を展開している、
「遺伝子導入による損傷神経の生存・再生促進の評価」で得られた効率良い遺
伝子の導入法をうまく組み合わせることにより、効果的な神経保護・軸索再生が得られることが期待
される。また、神経軸索伸展のメカニズムにおいても、アクチン線維や微小管のダイナミクスが重要
57
Brain
attackから脳を守るための研究
であることが明らかになってきており、軸索伸展の促進におけるターゲットもかなり絞られてきたと
考えている。一方、
「遺伝子導入による損傷神経の生存・再生促進の評価」においては、ある遺伝子が
神経の温存や再生に実際に作用するかどうかを評価する実験動物系として、2 つの系が確立された。生
存活性を評価するには幼若ラットの舌下神経損傷モデルが、また、軸索伸展活性を評価するには成熟
動物の舌下神経損傷モデルが有用であることが明らかになった。今後、この系を用いることにより、
培養系でなく実際の動物を用いて神経再生を評価できると考えている。このような評価系は、系の単
純な末梢神経系を用いることにより達成されたが、中枢神経系を用いた評価系も今後検討する余地が
あると考えられる。遺伝子導入のためのアデノウイルスの開発については、神経細胞特異的に導入す
る系はかなり有用であり、培養系やラット脳でいずれも良好な結果を得ている。今後は霊長類などの
より高度な動物でも同様の系が作動するかどうかを検討する必要があると考えられる。
2. 脳血管障害の原因となる脳血管障害発生機構の解明に関する研究
2.1. 脳血管の病態成立機構に関する研究
2.1.1. 脳血管障害に於ける炎症性内因子の病態成立に果たす役割に関する研究
2.1.1.1. モノサイト系細胞の活性化と血管収縮能の獲得に関する作用機序の解明を行う(眞崎知生)
「個別項目毎の概要」でも述べたように,本研究により,脳血管攣縮の発症機構に関して,赤血球
の酸化→マクロファージの活性化→血管収縮物質エンドセリンの遊離という全く新しい展望が開けた。
その結果,治療に向けた新しい視点が浮上した。すなわち,1) クモ膜下腔に出た赤血球の酸化的傷害
の予防,2) マクロファージの活性化の阻害,すなわちマクロファージの異物受容体活性化の抑制,3)
活性化マクロファージから遊離される血管収縮物質エンドセリンの作用の阻害(これには,マクロフ
ァージにおけるエンドセリン生合成の阻害およびエンドセリン受容体遮断の 2 種類が考えられる),4)
血管平滑筋においてエンドセリン受容体により活性化されるカルシウムチャンネルの阻害,という 4
つの新しい薬理学的介入点が明らかとなった。従って,今後これらの介入点に対する特異的な薬物を
開発することにより,脳血管攣縮の新しい治療方法を確立することができるものと期待され,波及効
果は大きいと考えられる。また,脳血管攣縮という攣縮性疾患の発症機構に関して全く新しい視点が
得られた結果,冠血管攣縮をはじめとする他の攣縮性疾患の発症機構の解明および治療法に関しても
展望が開けた。このような視点で,これらの未解明の病態にアプローチすることにより,これらの病
態の発症機構および原因療法が可能になるものと考えられる。また,上記 4 つの作用点の中で,マク
ロファージの異物受容体,カルシウムチャンネル分子については,各個人の遺伝子変異が存在しこれ
ら分子の発現量や機能が異なる可能性が考えられる。そこで,これら分子の遺伝子変異と脳血管攣縮
の重症度を臨床的に比較検討するという臨床研究も将来的に是非発展させなければならない方向であ
る。
2.1.1.2. 脳血管障害の成因において細胞外マトリックスの果たす役割の評価を行う(橋本信夫)
100 人に 1 人が脳動脈瘤を有していると言われており、その破裂によるくも膜下出により 2 人に 1
人は命を失うと言われている。今回の研究成果は、ラットやマウスにおける脳動脈瘤モデルにおける
脳動脈瘤の発生、増大、破裂における分子メカニズムの 1 端を解明しており、ヒト脳動脈瘤に対する
新たな、従来の手術による治療法とは異なった予防医学からの観点に基づく治療法の開発を示唆する
58
Brain
attackから脳を守るための研究
ものである。今後はラットやマウスなどの微小資料では困難な遺伝子発現レベルでの研究をサル脳動
脈瘤モデルを用いて進める必要がある。また、マウスにおける脳動脈瘤形成の条件を設定し、関連因
子の解析モデルとして確立する。
2.1.2. 閉塞性脳血管障害の病態解明と新たな治療技術開発に関する研究
2.1.2.1. 閉塞性血管病変に於ける脳血管保護(傷害)因子の解明と新たな治療法基礎技術の開発(永
田
泉)
脳卒中の一つであるクモ膜下出血に対し、現在、外科手術による再出血の防止は可能であるが、そ
の後に合併する脳血管攣縮は、一部の患者において未だに深刻な合併症を生じている。本研究におい
て、使用したセリンプロテアーゼ阻害剤は、使用目的は違うものの、すでに日常の臨床領域で使用が
許可されている薬剤である。これらのヒトでの安全性をすでに確認された薬剤が、実験的脳血管攣縮
および内膜肥厚を抑制したことより、臨床治療試験へと発展させ、それに基づく用途拡大に関するデ
ータを今後集積することにより、これらの脳血管攣縮あるいは、狭窄性病変に対する血管拡張術後の
再狭窄(restenosis)等の閉塞性血管障害へと治療対象を拡大できる可能性がある。尚、病的血管壁
の肥厚を生じる因子として、血小板由来成長因子の関与はすでに指摘されていたが、中でも B-dimer が
実験動物ならびにヒト血管病変形成に大きく関与することが示された。この成果は、血管病変の治療
を目的とする薬剤開発において大きな指針となり得る。脳血管攣縮および血管拡張術後の再狭窄の病
態解明に大きく貢献し得たと考えている。
2.1.2.2. 脳血管壁障害における増殖(修復)機構に関する研究(寒川賢治)
アドレノメデュリンは血管内皮細胞にて作られる血管内皮由来弛緩因子の一つであり、本研究によ
って、血管内皮細胞におけるアドレノメデュリンの生合成・分泌を制御する因子が明らかとなること
により、脳血管障害におけるアドレノメデュリンの分泌動態解明が飛躍的に進むと思われる。PACAPは
中枢神経系に広く局在し、ニューロトランスミッターとしての機能を有するほか、培養神経細胞及び
アストロサイトにおいてVIPの千倍強力な cyclic AMP 産生刺激活性を示し、中和抗体の添加により培
養海馬ニューロン死が引き起こされる。さらに、PACAPが一過性脳虚血後の遅発性海馬ニューロン死や、
HIV・gp120やグルタミン酸などによる種々の神経細胞死を抑制することからPACAPの神経栄養因子とし
ての機能が注目されている。PACAPは、そのhomologueであるVIPとともに脳内に広く分布し、そして両
者に共通なレセプター及びPACAP特異的レセプターが混在する。神経栄養作用についてはVIPにおいて
も従来より報告されているが、PACAPの方が100分の1の極微量で作用を発揮する。そしてPACAPの神経
栄養作用は神経細胞への直接作用とグリア細胞を介した間接作用が考えられており、さらには血管系
細胞における作用も関与してくると思われるが、その詳細は不明である。しかしながら、PACAPは38個
のアミノ酸からなり、他の神経栄養因子に比べ、小さなペプチドであり、血液脳関門を容易に通過し、
しかも超微量で効果があることから、将来的に脳梗塞を初めとする脳卒中の治療や痴呆の予防・治療
薬としての臨床応用が大いに期待されており、本研究において明らかとなる脳細胞及び血管系細胞両
方に作用するPACAP個有の生理機能、細胞内シグナル、そして生合成調節及び分泌動態は、PACAPの脳
卒中治療薬としての臨床応用への基盤となる重要な知見を提供する。さらには神経疾患の重症度及び
予後を診断する指標、或いは生合成、代謝に関わる酵素のインヒビターの開発から新しい神経疾患治
59
Brain
attackから脳を守るための研究
療薬の開発へと繋がる可能性が期待される。
研究成果の発表状況
(1)研究発表件数
原著論文による発表
国
国
合
内
際
計
左記以外の誌上発表
口頭発表
合
計
第Ⅰ期
45
件
第Ⅰ期
58
件
第Ⅰ期
201
件
第Ⅰ期
304
第Ⅱ期
45 (1)
件
第Ⅱ期
71(1)件
第Ⅱ期
254
件
第Ⅱ期
370 (2) 件
第Ⅰ期
106
件
第Ⅰ期
13
件
第Ⅰ期
84
件
第Ⅰ期
203
第Ⅱ期
153(5)件
第Ⅱ期
35(3)件
第Ⅱ期
93
件
第Ⅱ期
281 (8) 件
第Ⅰ期
151
第Ⅰ期
71
件
第Ⅰ期
285
件
第Ⅰ期 507
第Ⅱ期
198 (6) 件
第Ⅱ期 106(4)件
第Ⅱ期
347
件
第Ⅱ期 651 (10) 件
件
*論文件数は、既発表論文数を記載し、投稿中の論文数については括弧書きで併記すること。
*原著論文については、査読制度のある論文のみとし、その他の論文については、
「左記以外の誌
上発表」に含めて記載すること。
(2)特許等出願件数
第Ⅰ期
0
件(うち国内
0
件、国外
0
件)
第Ⅱ期
3
件(うち国内
3
件、国外
0
件)
合計
3
件(うち国内
3
件、国外
0
件)
(3)受賞等
第Ⅰ期
1
件(うち国内
1
件、国外
・日本神経内分泌学会川上賞(平成
0
件)
10 年 10 月)
第Ⅱ期
0
件(うち国内
0
件、国外
0
件)
合計
1
件(うち国内
1
件、国外
0
件)
60
宮田
篤郎
件
件
件
Brain
attackから脳を守るための研究
(4)主要雑誌への研究成果発表
第Ⅰ期
期
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
Journal
Acta Otolaryngol
Am J Neuroradiol
Anesth Analg
Ann NY Acad. Sci
Atherosclerosis
Biochem. Biophys. Res. Commun
Biomaterials
Br J Pharmacol
Brain Res Protoc
Brain Res
Cardiovasc Drug Rev
Circ Res
Circulation
Eur Arch Otorhinolaryngol
Eur J Pharmacol
FEBS Lett
J Biol Chem
J Cardiovasc Pharmacol
J Cereb Blood Flow Metab
J Clin Neuroscience
J Hypertension
J Neurosurg
Laboratory Investigation
Molecular Brain Research
Nature
Naunyn-Schmiedeberg's Arch Ph
Neurol Med Chir
Neurology
Neuroreport
Neurosci Res.
Neuroscience
Neuroscience Letter
Proc Natl Acad Sci USA
Radiology
Stroke
Surg Neurol
Ultrasound Med Biol
サブテーマ
IF値 1-1-1 1-1-2 1-2-1 1-2-2 1-2-3 1-2-4 1-3-1 1-3-2 1-3-3 2-1-1 2-1-2 合計
0.587
1
1
2.358
2
2
2.509
1
1
0.964
1
1
2.877
1
1
3.161
1
1
2
1.486
1
1
3.722
5
5
2.302
1
1
2
2.302
3
1
4
0.950
1
1
8.281
1
1
9.903
1
1
1
3
0.476
1
1
2.047
1
1
3.720
1
1
7.666
1
1
1.989
2
2
5.714
1
2
3
0.144
1
1
3.039
1
1
3.346
2
2
4.530
1
1
2.539
1
1
29.491
1
1
2.869
1
1
0.378
1
1
5.232
1
1
2.682
1
1
1.726
3
3
3.924
1
1
2.085
2
5
7
10.260
1
1
2
4.621
1
1
5.528
2
4
1
1
4
12
1.040
2
2
2.124
1
1
61
合計
0.587
4.716
2.509
0.964
2.877
6.322
1.486
18.610
4.604
9.208
0.950
8.281
29.709
0.476
2.047
3.720
7.666
3.978
17.142
0.144
3.039
6.692
4.530
2.539
29.491
2.869
0.378
5.232
2.682
5.178
3.924
14.595
20.520
4.621
66.336
2.080
2.124
Brain
attackから脳を守るための研究
(4)主要雑誌への研究成果発表
第Ⅱ期
期
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
Journal
Acta Cytologica
Acta Neurochir
Acta Otolaryngol
Am J Phys
Am J Neuroradiol
Am J Physiol-heart
Angiology
Ann NY Acad. Sci
Biochem Biophys Res Comm
Biol Pharm Bull
Brain Res
Brain Res Protoc
Chem BioChem
Circulation
Curr Biol
Diabetrogia
Eur J Pharmacol
Eur J Neurosci
Eur Neurol
Exp Neurol
Exp Physiol
FASEB J
Gene Therapy
Genes to Cells
Hypertension
Inv Ophth Vis Sci
J Biochem
J Biol Chem
J Cardiovasc Pharmacol
J Cell Biol
J Cereb Blood Flow Metab
J Neuro chem
J Neurocytol
J Neurol Sci
J Neurosci
J Neurosci Meth
J Neurotrauma
J Pharmacol Exp Ther
J Neurosurg
Jpn J Pharmacol
Magn Reson Imaging
Magn Reson Med
Mol Brain Res
Nature
Naunyn-Schmiedebergユs Arch Ph
Neuropathology
Neuroradiology
Neuroreport
Neurosci Lett
Neurosci Res.
Neuroscience
Neurosurgery
NMR Biomed
Proc Natl Acad Sci USA
Redox Report
Stroke
合計
サブテーマ
IF値 1-1-1 1-1-2 1-2-1 1-2-2 1-2-3 1-2-4 1-3-1 1-3-2 1-3-3 2-1-1 2-1-2 合計
合計
1.295
1
1
1.295
1.040
2
1
3
3.120
0.587
1
1
0.587
0.884
1
1
0.884
2.358
5
5 11.790
2.747
1
1
2.747
0.776
1
1
0.776
0.964
1
1
0.964
3.161
1
1
3.161
0.844
1
1
0.844
2.302
2
1
3
6.906
2.302
1
1
2.302
0.294
1
1
0.294
9.903
1
1
9.903
8.733
1
1
8.733
5.177
1
1
5.177
2.047
1
1
2.047
3.899
1
1
3.899
1.379
2
1
3
4.137
3.260
1
1
3.260
1.170
1
1
1.170
11.880
1
1 11.880
5.237
1
1
2 10.474
4.869
1
1
4.869
4.913
1
1
4.913
4.858
3
3 14.574
2.191
1
1
2.191
7.666
5
5
1
11 84.326
1.989
2
2
3.978
12.880
1
1 12.880
5.714
2
1
3
2
8 45.712
4.906
1
2
1
4 19.624
1.860
1
1
1.860
1.685
2
1
3
5.055
8.955
2
3
5 44.775
1.362
1
1
1.362
3.404
1
1
3.404
3.300
1
1
3.300
3.346
1
1
3.346
1.210
1
1
1.210
1.389
1
1
1.389
3.757
1
1
3.757
2.539
2
2
5.078
29.491
1
1 29.491
2.869
1
1
2.869
0.413
1
1
0.413
1.287
1
1
1.287
2.682
1
1
2.682
2.085
1
1
3
2
1
2
10 20.850
1.726
1
1
1.726
3.924
2
2
7.848
2.821
1
2
3
8.463
2.176
2
2
4.352
10.260
2
1
1
4 41.040
1.581
1
1
1.581
5.528
2
2
1
1
3
9 49.752
5
24
26
8
24
6
16
2
21
25
38
195 839.133
62
Brain
attackから脳を守るための研究
1.1. 新たな脳機能と脳病態の画像化に関する研究
1.1.1. 脳の高次機能画像化に関する研究
1.1.1.1. MRSI法を用いた脳代謝マッピング技術の確立
明治鍼灸大学附属MRセンター
田中
要
忠蔵、恵飛須
俊彦、梅田
雅宏、青木
伊知男、渡辺
康晴、森
勇樹
約
H-MR Spectroscopy は、N-アセチルアスパラギン酸(N-acety aspartate)を始めとするアミノ酸、クレアチン
(Cr)、コリン(Cho)、乳酸(lactate)などの脳代謝産物が測定できる方法として知られている。しかし、い
まだ広く臨床応用されていない。その理由のひとつは、single voxel 法と呼ばれ、一度に脳内の 1 領域しか測定
ができない方式にある。本研究では、H-MRS の multi voxel 法である MR Spectroscopic Imaging (MRSI)法を高速
測定法として可能とし、これによる脳代謝マッピングおよび代謝による ischemic penumbra の検討を行った。
研究目的
a)臨床研究は、MRSI法を用いて脳全体の代謝マッピングを目指すが、測定法の改善を行い、高速に
MRSIを測定し、得られた各ボクセル内のスペクトルの評価を各種神経疾患についてシングルボク
セル法と比較検討し、スペクトルの臨床評価を確立する。さらに、半定量的なグルタミン/グルタミ
ン酸および糖の測定を行うことから、脳血管障害におけるこれらの代謝物質の変化を検討し、脳血管
障害とその後の経過におけるこれらの代謝物質のマッピングをおこなう。また、スペクトルの定量化
を進め、グルタミン酸などの神経伝達物質の定量化の画像化、および脳代謝による脳機能画像法の開
発を行い、神経組織の可塑性を代謝マッピングとして検討する。
b)実験研究:脳虚血の検討に拡散強調画像の有用性は広く知られている[1]。一方、MR Spectoscopy
は、脳内代謝産物の測定が行える優れた方法であり、NAAは神経細胞のマーカーとして、乳酸(lactate)
は嫌気性糖代謝の存在を示し、虚血性変化のマーカーとなることが知られている[2,3,4,5]。本
研究では、ラット脳虚血急性期における治療可能性領域(mismatch,penumbra)の検討を行った。虚血
領域の代謝性変化を脳代謝マッピングを用い、脳虚血病巣の詳細な画像評価は拡散強調画像による拡
散係数画像を用いて行った。
研究方法
a)臨床研究:装置はSigna advantage 1.5T(GE社製)に画像用ヘッドコイルを用い、撮像シーケンスは、
Duynらによって報告されたMulti-slice MRSI法を用いた[6]。この方法では、4スライスのMRSI
の測定が一度に可能である。パラメータは、スライス厚:15mm、スライスギャップ:3.5mm、Tr
/Te:2300/280ms、フェーズエンコード:32、FOV:24cmである。測定時間は、オリジナル
63
Brain
attackから脳を守るための研究
では、約34分であったが、これを改善し、17分とした。水抑制 (Water suppression)は、CHES
Sパルスを用い、頭皮を中心とした脂肪組織に対しては、立体的な6角形の脂肪抑制 シーケンス
(presaturation pulse)を用いた。脳底部の副鼻腔や錐体骨に接した部分では磁化率の変化が著しく、
この部の測定はほとんど不可能である。従って、MRSIでは、脳底部を含まないような斜位での撮
像(MRIと同じように)を行った。
b)実験研究:5尾のSDラット(体重280-320g)を対象に、ペントバルビタール(50mg/Kg腹腔内投与)
とウレタン(1.5g/Kg皮下投与)麻酔下に酸素と空気の混合ガスによる人工呼吸を行った。PE-50カテ
ーテルを左大腿動脈に留置し、血圧と血液ガスのモニターを行った。体温は、循環式コントローラー
で37℃に維持した。脳虚血は右側の中大脳動脈閉塞(MCAO)モデルに右頚動脈結紮を加えて作成した。
MRSI測定は、40cm口径の4.7テスラ磁石に内径11cmのsctive shield gradient(傾斜磁場強度75m/Tm、
rise time;200μs)を使用し、直径4cmのコイルで撮像した。測定条件は、エコプラナー拡散強調画像
法としてDWEPI; TR/TE = 3000/90 ms, FOV = 40 x 40 mm, matrix = 64 x 64 pixels,
slice thickness
= 5 mmを、エコープラナーMRSIとしてTR/TE = 4000 / 180ms, FOV = 40 x 40mm, slice thickness = 5mm,
number of accumulations = 16を用いた。虚血後20,70,120分にDWEPIを測定し、続いて25,75,125
分にMRSI測定を行った。脳の領域は、20と170分のDWI画像に基づいて3種類に分類した。エリア1は、
両者の画像正常を示した領域、エリア2は、20分で正常だが170分で拡散係数(ADC)が減少した領域、
エリア3は、両者でADCが減少を示した領域とした。MR測定終了時にラットは4%パラフォルムアルデヒ
ドで還流固定され、MR測定と同じ冠状断で2mmごとに2,3μmの切片としてヘマトキシリン・エオジン
染色の上で組織学的に検討した。すべての整理学的データは平均±SDで表示され、a paired t test
with Bonferroni correctionを行った。ADC,乳酸、NAA信号強度は、ANOVA with Scheffe testを行い、
P<0.05を有意とした。
研究成果
a)臨床研究:神経学的に異常のない健常人のMRSIの1例を図1に示す。MRSIで得られる画像は、
NAA画像、Cr画像、Cho画像が一般に用いられている。この方法では、OVSによる影響のた
めに脳表に近い部位の信号が得られにくい。脳内の解剖学的な変化は、脳室の描出をみる限り良好で
ある。解剖学的な特徴として、小脳にはCre/Choの含有量が大脳と異なっていることが知られ
ており、MRSIを用いると、大脳と小脳のNAAの濃度差が少ないのにも関わらず、Cr/Cho
画像で大脳に比べて小脳が高信号領域として描出される(図1)。この画像から、小脳のCr/Cho
の含有量が多いか、あるいはこの測定条件では、分子の緩和の影響が無視できないために、緩和時間
が異なるかのいずれか、あるいは両方を意味することになる。臨床例では、比較的良性の星状膠細胞
腫(low grade astrocytoma; grade II)の1例を示す(図2)。T1強調画像では、左の後頭葉を中心
に、低信号域がみられる。NAA画像では、同部に信号の欠損がみられ、この部に神経細胞の脱落が
生じていることを示している。Cr/Cho画像では、腫瘍の中心部に高信号がみられないが、その
周囲に沿って一部高信号域が認められた。Lac画像では、腫瘍に高信号がみられず、乳酸の産生の
少ない腫瘍である考えられた。腫瘍の悪性度をMRSで一概に述べることはできないが、転移性脳腫
瘍や膠芽腫などの悪性腫瘍には、乳酸の高信号とコリンの高信号が一般的に知られている[7、8]。
この例では、乳酸の信号がみられず、また、クレアチン・コリンの信号がさほど大きくなかった。手
術の組織標本からgradeIIの比較的良性タイプと診断された。従来のMRSや1スライスのみのMRS
Iでは、測定したボクセルやスライスの範囲外に得られた所見と異なった領域を有する可能性を否定
64
Brain
attackから脳を守るための研究
できなかったが、マルチスライスのMRSIよりこれらの懸念が少なくなり、臨床実用性に一歩近づ
いていると言える。次に、陳旧性脳梗塞の1例を図3に示す。この例は、9カ月前の右中大脳動脈領域の
脳梗塞例で、MRSIでは、この梗塞部位に対応した部位でNAA画像では信号をほとんど認めず、
広範囲な神経障害が生じたことを示している。一方、Cr/Cho画像では、梗塞の内部に比較的高
信号領域を認める。一般的に、グリア細胞は、NAAをほとんど含んでおらず、Cr/Choはほと
んどの細胞でみられることから、この部の組織がグリオーシスであると推定された。
NAA
MRI
Cho
Cerebellum
Cr/PCr
図1
Lac/Lipid
健常成人の小脳を含むスライスのMRSI
Nーアセチルアスパラギン酸画像では、大脳と小脳に区別がないが、コリン/クレアチン画像では、小脳が高信号
となり、これらの物質が小脳で多く含まれているか緩和時間が異なることを示している。
65
Brain
attackから脳を守るための研究
Low grade astrocytoma
T1-w MRI
T2-w MRI
図2
Cho
NAA
Cr/PCr
Lac/Lipid
脳腫瘍(low grade astrocytome)のMRSI
左後頭葉を中心に、Nーアセチルアスパラギン酸(NAA)画像では、無あるいは低信号を示し、神経細胞の脱落
が示唆される。一方、コリン・クレアチン画像では、このNAA画像ので欠落した周囲で信号強度の増強がみられる。
乳酸画像では、乳酸がほとんどみられない。
66
Brain
attackから脳を守るための研究
Cerebral infraction (9 M after stroke)
NAA
MRI
Cr/PCr
図3
Cho
Lac/Lipid
脳梗塞のMRSI
発症9カ月の脳梗塞で、Nーアセチルアスパラギン酸(NAA)画像では、側頭・頭頂葉に信号の欠落がみられる。
しかし、コリン・クレアチン画像では、この中に一部信号がみられ、グリオーシスと考えられる。この時期の乳酸画
像では、信号はノイズレベルであった。
b)実験研究:生理学的条件に有意差は見られなかった。すべての虚血側において、20 分後の拡散強調画像で信
号強度の増加(ADC の減少)した領域が認められ、この変化は 170 分まで増強した。エリア 2 は、虚血病巣である
エリア 1 の周辺部にみられ、この領域は NAA が正常値を示したが乳酸は増加を示しした(図 4)。エリア 2 の ADC
値は、はじめほぼ正常領域と同じ値を示した後徐々に減少した(図 5)。一方、乳酸はこの領域では徐々に増加し
た。この乳酸の変化は、統計学的に有意でなかったが、値としてはエリア 1 より大きくエリア 3 より小さい傾向
を示した。NAA はいずれの領域においても有意な変化を示さなかったが、エリア 2,3 では、いずれもエリア 1 に
比べて小さな値を示した(図 6)。組織学的には、エリア 2,3 に虚血性の変化とされる microvacuolation, shrinkage
of the neuropil, および presence of dark neurons and eosinophilic neurons が認められた。しかし、2 と 3
に本質的な組織学的な差違はみられなかった。
67
Brain
attackから脳を守るための研究
A
B
C
Area 1
Area 2
Area 3
図4
ADC 画像(A)と MRSI(B)による領域指定(C)
(A) The ADC images from DWEPI at 20 minutes and 170 minutes after MCA occlusion.
(B) The lactate images from EPSI at 25 minutes and 125 minutes after MCA occlusion.
(C) The subtracted color map between 20-minutes and 170-minutes ADC images.
The Area 1 (yellow), Area 2 (green), and Area 3 (red) indicate normal tissue, progressive border zone,
and ischemic core, respectively.
ADC (x10 -3 mm 2 /s)
0.8
0.7
0.6
0.5
*
*
H
H
H
H
H
H
20
50
70
100
120
150
*
H
0.4
0.3
0.2
0.1
0
図5
170 minutes
ADC の経時変化を図4の領域区分であらわした
The ADC in Area 1 (filled square), Area 2 (filled circle), and Area 3 (filled triangle) plotted as a function
of time after MCA occlusion. Data marked with an asterisk indicate a significant change from the initial ADC
at 20 minutes after MCA occlusion. The error bars refer to the means ± SD at each indicated time point.
* P<0.01. A broken line demonstrates the mean value of pixels in a normal rat.
68
Brain
attackから脳を守るための研究
lactate integral (arbitrar y unit)
7000
6000
H
5000
4000
H
H
3000
2000
1000
0
25
75
125
minutes
図 6. MRSI による乳酸信号の経時変化を図4の領域区分であらわした。
Lactate integral in Area 1 (filled square), Area 2 (filled circle), and Area 3 (filled triangle) plotted
as a function of time after MCA occlusion. Data marked with an asterisk indicate a significant change from
the initial lactate integral at 25 minutes after MCA occlusion. The error bars refer to the means ± SD at
each indicated time point. A broken line demonstrates the mean value of pixels in a normal rat.
考 察
a)臨床研究:Multi-slice MRSIが臨床応用可能な高品質の画像やスペクトル解析を実現するようになっ
てきた。しかし、測定に時間を要する問題がある。今回の検討では、34分の測定をを17分に短縮した
が、しかし、急性期の血管障害患者を対象とするには、なお時間が長すぎていて、充分な臨床応用に
至らなかった。最近、エコープラナー(EPI:Echo Planar Imaging)やスパイラルスキャン(Spiral Scan)
などの超高速撮像法を用いた方法が行われるようになり、実際実験研究では我々も試みて成果を上げ
ているが、しかし、臨床応用には充分でない。将来の1H-MRSは、通常のMRIと同じ測定時間(少な
くとも数分)内に、multi-slice法で脳内のほぼ全ての部位のNAA, Cr, Cho, Lacの画像が得られ、必
要に応じて関心部位のスペクトルが表示・解析できることが望まれる。さらに、今回の検討では、定
量的な卒底は困難であったが、LCモデルを用いて半定量的な腱様が可能となっていて、今後、この
スペクトル解析では、脳内代謝産物の定量性をもった情報が得られることが望まれる。
b)実験研究:本研究では、虚血周辺部に虚血20分後にはADCの変化をみないが170分後にはADCの低下する
領域が示された。この領域は進行性に虚血状態になっていて、虚血のはじめに嫌気性代謝産物の乳酸
がみられないものの、その後乳酸の増加が認められたが、その増加もはじめからの虚血領域に比べる
と少なかった。また、神経組織に特異的に多く含まれるとされるNAAの信号は虚血2時間ではほとんど
変化しなかった。従って、今回のMCAOモデルでは、虚血20分後に虚血領域の周辺部にADCがほとんど変
化を示さずに嫌気性代謝産物の乳酸の増加するミスマッチ(mismatch)領域が観察された。この領域
は治療されないと170分後には虚血中心部に含まれていくと考えられた。乳酸は、虚血性変化の優れた
インジケーターとして知られ、虚血実験では虚血数分で著名な増加が知られている[9、10]。一方、
超急性期の虚血病巣ではADCの低下が組織学的な虚血性変化とよく対応することが知られており、我々
69
Brain
attackから脳を守るための研究
のpreliminary実験においても同様の結果を得ている[11,12]。従って、虚血後20分に虚血周辺部に
みられるこれらADC-lactate mismatch領域は、超急性期の脳虚血における積極的な治療が必要とされ
る領域を反映していると考えられる。ここで示した結果にはADCの変化を引き起こすとされる脳循環の
変化については同時に測定していない。虚血の実験に定量的な脳循環測定が必要であることは論を待
たないが、この脳循環とADCのmismatchについては1.1.1.3項で検討を行っているので、そちらを参照
していただきたい。
引用文献
1. Moseley ME, Cohen Y, Mintorovitch J, Chileuitt L, Shimizu H, Kucharczyk J, Wendland MF, Weinstein
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T2-weighted MRI and spectroscopy. Magn Reson Med 1990; 14: 330-346.
2. Petroff OA, Prichard JW, Ogino T, Shulman RG. Proton magnetic resonance spectroscopic studies of agonal
carbohydrate metabolism in rabbit brain. Neurology
1988; 38: 1569-1574.
3. Decanniere C, Eleff S, Davis D, van Zijl PCM. Correlation of rapid changes in the average water diffusion
constant and the concentrations of lactate and ATP breakdown products during global ischemia in cat
brain. Magn Reson Med 1995; 34: 343-352.
4. Birken DL, Oldendorf WH. N-acetyl-L-aspartic acid : a literature review of a compound prominent in
1H - NMR spectroscopic studies of brain. Neurosci Biobehav Rev 1989; 13: 23-31.
5. Ebisu T, Rooney WD, Graham SH, Weiner MW, Maudsley AA. N - acetylaspartate as an in vivo marker of
neuronal viability in kainate-induced status epilepticus: 1H magnetic resonance spectroscopic imaging.
J Cereb Blood Flow Metab 1994; 14: 373-382.
6. Duyn JH, Gillen J, Sobering G, et al: Multisection proton spectroscopic imaging of the brain. Radiology,
188:277-282, 1993.
7. Bruhn H, Frahm J, Gyngell ML, et al: Noninvasive differentiation of tumors with use of localized H-1
MR spectroscopy in vivo: initial experience in patients with cerebral tumors. Radiology 172:541-548,
1989.
8. Luyten,P.R., Marien,A.J.H., Heindel,W., et al. : Metabolic imaging of patients with intracranial
tumors;H-1 MR spectroscopic imaging and PET. Radiology, 176:791-799,1990
9. Rehncrona S, Rosen I, Siesjo BK. Brain lactic acidosis and ischemic cell damage, 1 : Biochemistry
and neurophysiology. J Cereb Blood Flow Metab 1981; 1: 297-311.
10. Combs DJ, Dempsey RJ, Maley M, Donaldson D, Smith C. Relationship between plasma glucose, brain lactate
and intracellular pH during cerebral ischemia in gerbils. Stroke 1990; 21: 936-942.
11. Minematsu K, Li L, Fisher M, Sotak CH, Davis MA, Fiandaca MS. Diffusion-weighted magnetic resonance
imaging: rapid and quantitative detection of focal brain ischemia. Neurology 1992; 42: 235 ‐ 240.
12. Dardzinski BJ, Sotak CH, Fisher M, Hasegawa Y, Li L, Minematsu K. Apparent diffusion coefficient mapping
of experimental focal cerebral ischemia using diffusion-weighted echo planar imaging. Magn Reson Med
1993; 30: 318 ‐ 325.
成果の発表
1)原著論文による発表
70
Brain
attackから脳を守るための研究
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
1. 田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、成瀬昭二:
「Multi-slice 1H-MRSI による脳代謝マッピングと脳神経疾患
の病態解析」、〔日本臨床、55、(1997 年)
〕
イ)国外誌
1. Takegami T, Ebisu T, Bito Y, Hirata S, Yamamoto Y, Tanaka C, Naruse S, Mineura K:「Mismatch between
lactate and the apparent diffusion coefficient of water in progressive focal ischemia」
、〔NMR Biomed、
14、(2001 年)〕
2. Bito Y, Ebisu T, Hirata Y, Takegami T, Yamamoto Y, Tanaka C, Naruse S:「Lactate discrimination
incorporated into echo-planar spectroscopic imaging」、〔Magn Reson Med、45、(2001 年)〕
2)原著論文以外による発表(レビュー等)
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
1. 田中忠蔵:
「MRIの展望」、〔核医学技術、18、(1998 年)〕
2. 梅田雅宏、田中忠蔵、恵飛須俊彦:「1. MRIの原理と撮像法
基礎から高速撮像まで」、〔現場で役立つ
臨床 MRI シリーズ、(2000 年)〕
3. 梅田雅宏
:「MR 撮像技術の原理」、〔放射線技術学シリーズ
MR 撮像技術学、(2001 年)〕
イ)国外誌
1. Bito Y, Ebisu T, Hirata T, Takegami Y, Yamamoto Y, Tanaka C, Naruse S:
「Fast lactate-discriminating
spectroscopic imaging using J-coupling in lactate and the broad spectral bandwidth of lipid」、
〔Ultrafast Magnetic Resonance Imaging、
(1999 年)〕
3)口頭発表
ア)招待講演
1.
田中忠藏:「MRI/Sの臨床と最新の話題について」、〔柔道整復師会全国大会特別講演、(1999 年 9
月)〕
イ)応募・主催講演等
1.
M.Kitamura, C.Tanaka, T.Ebisu, M.Umeda, I.Aoki, M.Fukunaga, S.Naruse, T.Higuchi, H.Satoh:
「 Effects of Glucose in Portal Blood Flow using Greth Holding 2D Phase Contrast MRI 」、
〔International Society for Magnetic Resonance in Medicine, Fifth Scientific Meeting and
Exhibition、(1997 年 4 月)
〕
2.
梅田雅宏、田中忠蔵、恵飛須俊彦、福永雅喜、青木伊知男、渡辺康晴、染谷芳明、竹上徹郎、成瀬昭
二、樋口敏宏、堀川義治、上田
聖:「Short TE シーケンスによる Na-MRI の試み」
、〔第 25 回日本磁
気共鳴医学会大会、(1997 年 9 月)
〕
3.
竹上徹郎、青木伊知男、恵飛須俊彦、尾藤良孝、田中忠蔵、梅田雅宏、平田智嗣、小野寺由香里、樋
口敏宏、福永雅喜、成瀬昭二、上田
聖:
「実験的脳虚血における定量的 perfusionMRI, diffusion -
MRI および spectroscopic imaging を用いた検討-」、〔第 26 回日本磁気共鳴医学会大会、(1998 年 9
月)〕
4.
梅田雅宏、田中忠蔵、恵飛須俊彦、福永雅喜、青木伊知男、渡辺康晴、染谷芳明、成瀬昭二、樋口敏
宏、佐藤博司:「Multi-slice CSI による代謝物質の定量化の検討」
、〔第 26 回日本磁気共鳴医学会大
71
Brain
attackから脳を守るための研究
会、(1998 年 9 月)
〕
5.
Y. Bito, T. Ebisu, S. Hirata, T. Takegami, Y. Onodera, C. Tanaka and S. Naruse :「 Fast
Lactate-Discriminating Spectroscopic Imaging Using J-Coupling in Lactate and the Broad Spectral
Bandwidth of Lipid」、〔International Symposium on Ultrafast Magnetic Resonance Imaging in
Medicine、(1999 年 1 月)
〕
6.
T. Takegami, T. Ebisu, Y. Bito, C. Tanaka, T. Hirata, Y. Onodera, T. Higuchi, S. Naruse and
K. Mineura:
「Spectroscopic Imaging and Diffusion-weighted Echo Planar Imaging」、
〔International
Symposium on Ultrafast Magnetic Resonance Imaging in Medicine、(1999 年 1 月)
〕
7.
服部憲明、高森信岳、梅田雅宏、 田中忠蔵、恵飛須俊彦、成瀬昭二、樋口敏宏、永井康雄、澤田徹、
Robert T Engelhardt:「3TMR 装置によるヒト脳 proton
MRS
の使用経験」
、〔第 27 回日本磁気共鳴
医学会大会、(1999 年 9 月)
〕
8.
梅田雅宏、田中忠蔵、恵飛須俊彦、福永雅喜、渡辺康晴、染谷芳明、青木伊知男、成瀬昭二、樋口敏
宏、澤田徹、永井康雄、服部憲明、高森信岳:
「3.0T と 1.5T の領域選択 1H-MRS の比較」
、
〔第 27 回日
本磁気共鳴医学会大会、(1999 年 9 月)
〕
9.
竹上徹郎、恵飛須俊彦、尾藤良孝、平田智嗣、田中忠蔵、成瀬昭二、峯浦一喜:
「実験的脳虚血におけ
る MRI/MRS を用いた penumbra 領域の検討」
、〔第 27 回日本磁気共鳴医学会大会、
(1999 年 9 月)
〕
10.
原田雅史
瀬昭二
大塚秀樹
西谷弘
田中忠蔵
梅田雅宏
恵飛須俊彦
永澤清
高橋良行
松尾洋司
成
吉川宏起:「多施設共同臨床試験による MRI に対する proton MRS の臨床有用性の検討」
、〔第
27 回日本磁気共鳴医学会大会、(1999 年 9 月)
〕
11.
梅田雅宏:
「臨床用高磁場装置を用いた領域選択 1H-MRS について」、
〔第 12 回磁気共鳴代謝研究会、
(1999
年 7 月)
〕
12.
梅田雅宏、田中忠蔵、恵飛須俊彦、福永雅喜、渡辺康晴、染谷芳明、青木伊知男、成瀬昭二、樋口敏
宏、服部憲明、高森信岳、永井康雄、澤田徹:
「ヒト用 3.0T 装置による 1H-MRS の波形分離について」
、
〔MR 脳機能研究会、(1999 年 8 月)
〕
13.
竹上徹郎、恵飛須俊彦、尾藤良孝、平田智嗣、成瀬昭二、峯浦一喜:
「実験的脳虚血における MRI/MRS
を用いた penumbra 領域の検討」
、〔第 58 回日本脳神経外科学会総会、
(1999 年 10 月)
〕
14.
梅田雅宏、田中忠蔵、恵飛須俊彦、青木伊知男、福永雅喜、染谷芳明、渡辺康晴、樋口敏宏、成瀬昭
二:
「MRS の 2 つの簡易定量法について」
、〔MRS クラブ、(1999 年 4 月)
〕
15.
Hattori N, Inoue N, Yoshikubo S Umeda M, Fukunaga M, Tanaka C, Naruse S, Sawada T, R. T.
Engelhardt:
「Quantitative analysis of human and macaque brain metabolites using 3 Tesla system」、
〔International Society for Magnetic Resonance in Medicine, Eighth Scientific Meeting and
Exhibition、(2000 年 4 月)
〕
16.
梅田雅宏、田中忠蔵、恵飛須俊彦、福永雅喜、渡辺康晴、染谷芳明、青木伊知男、森 勇樹、成瀬昭二、
樋口敏宏、澤田徹、服 部憲明、 井上典子、R..T. Engelhardt:
「3T-MR 装置における領域選択 高次
シムによる T2*の延長」、〔第 28 回日本磁気共鳴医学会大会、
(2000 年 10 月)
〕
17.
服部憲明、井上典子、福永雅喜、染谷芳明、梅田雅宏、田中忠蔵、恵飛須俊彦:
「3T MR 装置によるヒ
ト脳 proton CSI の使用経験」、〔第 28 回日本磁気共鳴医学会大会、
(2000 年 10 月)
〕
18.
R. T. Engelhardt、L. T. Beek、佐藤博司、服部憲明、井上典子、福永雅喜、染谷芳明、梅田雅宏、
田中忠蔵、恵飛須俊彦、成瀬昭二、樋口敏宏、澤田徹:「A 1H and 31P dual-tuned surface coil for
3T and initial 31P results」、〔第 28 回日本磁気共鳴医学会大会、
(2000 年 10 月)
〕
19.
梅田雅宏、田中忠蔵、恵飛須俊彦、福永雅喜、森勇樹、成瀬昭二、澤田徹、服部憲明:
「3.0T の MR に
よる 1H-ケミカルシフト画像による高分解能脳代謝物質分布画像」、〔第 20 回医療情報学連合大会、
72
Brain
attackから脳を守るための研究
(2000 年 11 月)
〕
20.
Hattori N, Thomas MA, Naruse S, Umeda M, Tanaka C, Inoue N, Fukunaga M, Someya Y, Sawada T:
「Differentiation of Choline and Ethanolamine in Human Brain」、〔9th ISMRM 、(2001 年 4 月)
〕
21.
田中忠蔵:「運動性とイメージング」
、〔日本磁気共鳴医学会第 23 回MR基礎講座、
(2001 年 8 月)
〕
22.
服部憲明、梅田雅宏、田中忠蔵、澤田徹、Thomas ER:「1H Chemical Shift Imaging 法による下腿筋
の筋繊維の方向性の検討」、〔第 29 回日本磁気共鳴医学会大会、
(2001 年 9 月)
〕
73
Brain
attackから脳を守るための研究
1.1. 新たな脳機能と脳病態の画像化に関する研究
1.1.1. 脳の高次機能画像化に関する研究
1.1.1.2. fMRI技術を用いた言語や視覚刺激に対する脳高次機能の応答性あるいは局所賦活状態
の解析
明治鍼灸大学附属MRセンター
田中
要
忠蔵、恵飛須
俊彦、梅田
雅宏、青木伊
知男、福永
雅喜、染谷
芳明、渡辺
康晴
約
脳の局在機能の反応性を運動、体性感覚、言語、視覚刺激によってfMRIを用いて検討することから、脳高
次機能の応答性や反応性について解析した。特に、event-related パラダイムにより、補足運動野が運動準備に大
きな役割を果たしていることを見いだした。また、fMRIの臨床応用を行い、解剖学的な中心溝の同定とfM
RIによる中心前回の同定が矛盾しないことを示した。また、臨床的には感覚刺激のパラダイムが最適であるこ
とを見いだした。さらに、計算と記憶の課題から、視覚提示された九九の想起に関する機能が側頭葉後下部に関
係する可能性が示唆された。
研究目的
a)event-related fMRIによる補足運動野の検討:補足運動野が関心や準備状態に関係するとの報告
がなされているが、人を対象としては明確なパラダイムでこれを明らかにした報告は少ない。
Event-relatedパラダイムを用い[1]、カウントダウンに伴う準備とそれに続く手指の対立運動を付
加することから、運動野、運動前野および補足運動野の賦活を検討し、運動野以外に複雑な運動を準
備する機能の局在について検討した。
b)fMRIの臨床応用:fMRIを運動野の同定に用いるための試みが報告されていて、術前のfMR
Iと術中皮質脳波や他の解剖学的な指標から中心溝を画像的に求める方法などとの対比がなされてい
る[2,3]。運動や感覚刺激によるfMRIでは、感覚運動皮質(sennsoriomotor cortex)に賦活領
域がみられるが、これらの報告ではfMRIが他の方法と比べて間違った位置を示したとの報告はな
く、きわめて安定した結果が得られている。ここでは、fMRIの臨床応用についてのパラダイムの
最適化や実際の臨床応用の有用性について検討した。
c)fMRIによる記憶と計算の検討:神経学的症状として失計算が見られる場合、一桁の掛け算(九九)
は保持されていることが多い。一桁の掛け算(九九)は、小学生低学年に九九の表を暗記しているこ
とによって記憶として保持されている可能性がある。fMRIを用いて、高次脳機能の検討が可能と
なってきている。また、計算のfMRIの報告も改善が見られ、ほぼコンセンサスの得られる報告が
行われている[4]。そこで、簡単な計算と九九による記憶に関する脳賦活部位の局在検討を行った。
74
Brain
attackから脳を守るための研究
研究方法
a)event-related fMRIによる補足運動野の検討:装置は、臨床用1.5テスラMRI(Signa Lx; GE)
に標準のヘッドコイルを用いた。賦活デザインは、10秒間の安静期間の後に、運動の開始の言葉のあ
とで5秒間の賦活刺激とその後の15秒間の安静で、1セット30秒を要した。刺激は全て右手を対象とし
た。手指の運動刺激は、第1指と他の4指との対向運動を次の順序で行った。第2指は5回、第3指は4回、
第2指は3回、第5指は2回の対向運動をくり返して行うパラダイムとした。一方、カウントダウン課題
では、安静5秒の後、運動の開始5秒前に時に「5,4,3,2,1」とカウントダウンを指示し、「スター
ト」と同時に同じ運動刺激を行わせた。この際、カウントダウンの間に被験者には運動の準備を意識
するように前もって説明した。fMRI撮像は、グラディエントエコー・エコープラナー法を用いて、
Tr/Te:2s/50ms、64 x 64マトリックス、スライス厚/枚数:7mm/20枚、FOV:20cmの測定パラ
メータを用いた。また、前もって手指の運動負荷をblook paradigmで行い、補足運動(SMA)、感
覚運動野(M1)、運動前野(PM)の位置の同定を行った。これらの部位を含む6スライスについて
撮像した。この他に、3D撮影とT1強調画像を撮影し、解剖学的な位置あわせに用いた。撮影は、安
静(カウントダウン)ー運動刺激ー安静の同じデザインを8セット連続してくり返し加算した。得られ
た画像から前述した領域についてstudent t testを用いてp<0.01の領域をT1強調画像に重ね合わせ
た。
b)fMRIの臨床応用:対象は、健常成人(5名)、脳腫瘍(6)、脳梗塞(3)、脳動静脈奇形(2)で、
装置は、1.5 T Signa Horizon (GE-YMS)に Standard head coilを用いた。測定条件は、Gradient Echo
Echo Planar Imaging (single shot)、TR / TE / FA = 1500ms / 50ms / 90o、128x128 or
96x96 matrix,
FOV = 24cm、Slice thickness = 5mm, Slices= 5-7、その他に、解剖学的な画像としてSpin Echo画像
をTR / TE = 550ms / 9ms, FOV = 24cmおよび3D-SPGR 、TR / TE / FA = 11.4ms / 2.1ms / 15o、256x256
matrix, FOV = 24cm, Slice thickness
= 1mmで得た。統計学的画像処理は、SPMソフトウェアに
てCross-correlation method (r>0.3)を用いた。中心溝の同定は、解剖学的手法を用いた。脳賦活課
題は、手指対立運動、スポンジによる手掌擦過刺激、チェッカーボード視覚刺激を用いた。統計学的
画像処理はcross correlation法にてr<0.3を有意とした。
c)fMRIによる記憶と計算の検討:5名の健康な大学生を対象とし、計算の表示をMRI室内に設置した
スクリーンにプロジェクターで投影し、測定コイルのミラーにより視認した。単純な計算として足し
算(14+7=21)が表示され、計算が正しければボタンを押す。正しくないときは(15+6=23)ボタ
ンを押さないことで、計算を行っていることを確認した。同様に九九(7x6=42)が表示され、正し
ければボタンを押し、誤りではボタンを押さない。これらを経時的にモニターし正答を確認した。(安
静30秒—計算課題30秒)x4回—安静30秒を1セットとして、たし算と引き算のそれぞれについて行っ
た。装置は、1.5TSigna Lx(GE-YMS)に標準の頭部用コイルを用い、EPI法により全脳を連続した
スライスで測定した。測定条件は、GRE-EPI;Tr/Te/FA=2s/60ms/90°、スライス厚:5mm、スライス数
=20で、解剖学的な画像として3D画像を3D-SPGRで撮像した。解析はMEDx(Sensory systems Inc.)お
よびSPM99(Welcome Department of Cognitive Neurology) ソフトウェアを用いて、Z score=5∼20,
t=2.6∼15 (p<0.01)を有意とした。これをT1wと3次元画像に重ね合わせた。
75
Brain
attackから脳を守るための研究
研究成果
a)event-related fMRIによる補足運動野の検討:手指対立運動の開始に伴って、感覚運動野や運動
前野に信号変化が認められ、運動の停止に伴って緩やかに元に戻った。この変化は、カウントダウン
の無い場合もある場合も変わりなかった。一方、補足運動野では、カウントダウンの無い場合は、感
覚運動野と同じ信号の変化が認められたが、カウントダウンを行った場合には、カウントダウンと同
時に信号の変化が見られ、この変化の始まりはカウントダウンの開始とほぼ一致した(図1)。
Event-related fMRI
1次運動野
補足運動野
1.06
1.03
1.04
1.02
J!!
!! B
B
BJ
BJ
BJ
JJJ
BJ
J
J
B
J
BBBB
1 JBJBB J
0.98
1
6
11
J!!
B
!
J
!
B
J!!
B
JJ
BB
B J
B
J
16
B
J
B
JB
J BB
B
J B BJ
BJ
JJJ
21
J
é} J
B
é} B B
Jé}é} J
B
é} B
JB
J
é}
J
é}
JB
Jé} B
1.01
é}
J B
JB
J
é}
JJ B
J
J
B
B
B
J
BJ
J
BJ
BB
BJ
JJ
BJ
BBBB
J
B
BJ
BJ
BB
BJ
JJ
0.99
1
26
カウント
6
11
16
21
26
カウントあり
運動
カウントなし
図1 Event-related fMRI
補足運動野では、運動を伴わないカウントの開始に伴って信号強度の上昇がみられるのに対して、運動野では運動
の開始まで変化がみられなかった。
b)fMRIの臨床応用:fMRIでは、対照の全例で運動負荷による感覚運動野(sensorimotor cortex)
が検出できた(図2)。臨床例では、感覚運動野(sensorimotor cortex)の描出は、全例で行えたが、
神経脱落症状を有する被験者では、1度で検出できず、2,3度繰り返して測定が必要な例が3例あった。
感覚刺激では全例に一度でsensorimotor cortexの描出が行えた。一方、解剖学的手法による中心溝の
描出は、対照で全例で可能であったが、臨床例で3例が検出ができなかった。これらは、中心溝の近傍
に2例に腫瘍、1例にAVMを認めており、fMRIでも正常側に比べて感覚運動野が偏移していた(図
3)。
76
Brain
attackから脳を守るための研究
fMRIの臨床応用:健康成人左手の手指対立運動
中心溝
図2
手指対立運動によるfMRIの賦活領域の3次元表示
健康成人を対象に行った。fMRIと同時期に3次元グラディエントエコー画像を撮影し、SPMを用いて、この
3次元画像にfMRIの画像を貼り付ける形となる。画像上で解剖学的な指標によって求めた中心溝の位置を青色の
線で示している。fMRIで得られた賦活領域は、この中心溝を挟んだ形でオレンジ色に描出されている。感覚運動
野(sensoriomotor cortex)と呼ばれ、感覚野と運動野にまたがった賦活がみられる。手指対立運動でも感覚野が賦
活されるためと考えられている。
fMRIの臨床応用:右手の触覚刺激(左前頭膠芽腫)
腫瘍
図3
感覚刺激によるfMRI:左前頭葉脳腫瘍
図2と同じ方法での臨床応用である。負荷は感覚刺激を行っていが、臨床例では運動負荷を行うと動きのアーチフ
ァクトが生じやすく、感覚刺激が適している。腫瘍はグラディエントエコー画像のために周囲の浮腫も含まれている。
この例のように、fMRIを用いると腫瘍と感覚野や運動野の位置関係を明瞭に確認できる。
77
Brain
attackから脳を守るための研究
c)fMRIによる記憶と計算の検討:たし算の結果では、1.両小脳半球、虫部、2.後頭葉
弁蓋前部(下部;右>左、中部:右<左)、4.右中前頭回前部
の後方部の下)、6.SMA
、3.前頭葉
、5.両側前頭葉premotorの前(SMA
、7.左premotor、、8.右頭頂>左、、9.右前頭葉(SMA上方レベル)に賦
活を認めた。一方、九九課題では、1.両小脳半球、(虫部がない)、2.後頭葉(>足し算)
頭葉弁蓋前部(<足し算)
(下部;右>左、中部:右<左)、4.右中前頭回前部
の前(SMAの後方部の下)、6.SMA
、3.前
、5.両側前頭葉premotor
、7.左premotor、8.右頭頂葉>左、9.右前頭葉がない(SMA上
方レベル)、10.左側頭葉後下部(BA21∼37)、に賦活が見られた(図4)。
足し算(Addtion)
掛け算(Multiplication)
BA:2
1,3
7
図4
たし算と九九(かけ算)のfMRI
左がたし算のfMRIで、視覚提示による後頭葉の賦活以外には、前頭葉と左頭頂葉に著しい賦活領域が認められ
た。一方、九九課題では、たし算とほぼ同じ1に賦活がみられ、それ以外に左側頭葉後部(BA: 21, 37)に賦活領域
が認められた。
考
察
a)event-related fMRIによる補足運動野の検討:従来、猿を用いた報告などから、補足運動野の賦
活が複雑な運動のみならず、運動の準備や関心がある場合などに見られることが知られていた[5、6]。
fMRIを用いた検討では、補足運動野が運動準備にかかわっていることが推測されていた[7]。
Event-related fMRIを用いた本研究結果から、補足運動野がきわめて正確に運動準備(運動に対
する関心も否定できないが)にたいして賦活されることを初めて明らかにした。補足運動野の中にも
機能の局在が知られているが、今回の手法を用いることから、さらに詳細な補足運動野の機能解析が
可能となった。
78
Brain
attackから脳を守るための研究
b)fMRIの臨床応用:fMRIを運動野の同定に用いるための試みが報告されていて、術前のfMR
Iと術中皮質脳波や他の解剖学的な指標から中心溝を画像的に求める方法などとの対比がなされてい
る[2,3]。運動や感覚刺激によるfMRIでは、感覚運動皮質に賦活領域がみられるが、これらの
報告ではfMRIが他の方法と比べて間違った位置を示したとの報告はなく、きわめて安定した結果
が得られている。実際、今回のMRI画像による中心溝の同定による結果とfMRIとを比較した症
例においても一致していた(図3,4)。しかし、脳腫瘍などの脳浮腫を伴った例では、中心溝の同定
が困難であったがfMRIでは、問題なく描出できた。また、術前評価と手術結果の比較から、fM
RIによる感覚運動野の位置が摘出腫瘤から2cm以上離れていると神経脱落症状を来さない報告が
ある[3]。今回の例でも、述語に新たな神経脱落症状を示した例はない。また、AVMの例では、対
側だけでなく同側に賦活領域を示した例が認められていて、早い時期から障害を有すると機能の両側
支配が行われる可能性を示唆していた。臨床例におけるfMRIの実際は、運動負荷では動きによる
アーチファクトが生じることが多く、確実性では感覚刺激がもっとも適していて、かつ今回の例では
なかったが、意識障害例でも検査ができて、安定した結果が得られると考えられた。
c)fMRIによる記憶と計算の検討:両課題ともに両側の小脳半球、後頭葉視覚野、頭頂葉、前頭葉前
部に賦活が認められた。これらの賦活は、従来の計算に関するfMRIの報告とほぼ一致していた[4]。
一方、九九の課題では、さらに側頭葉後方(Broadmann area21,37)に賦活領域が認められた。側頭回
のこの部位の局在機能は明らかでないものの、記憶や視覚関連の機能と考えられており、視覚課題と
しての九九による脳賦活部位として妥当性を有していると考えられた。
引用文献
1.
Bandettini PA, Wong EC, Hinks RS, Tikofsky RS, Hyde JS. Time-course echo-planar imaging of human
brain function during task activation. Magn Reson Med 25:390-397 (1992)
2.
Mueller WM, Zetkin FY, Hammeke TA, et al.: Functional magnetic resonance imaging mapping of the
motor cortex in patients with cerebral tumors. Neurosurgery 39: 515-520, 1996
3.
Yetkin FZ, Mueller WM, Morris GL, et al.: Functional MR activation correlated with intraoperative
cortical
4.
mapping. AJNR
18 : 1311-1315, 1997
Menon V, Rivera SM, White CD, Glover GH, Reiss AL.:Dissociating prefrontal and parietal cortex
activation during arithmetic processing. Neuroimage. 2000 Oct;12(4):357-65.
5.
Tanji J : The neuronal activity in the supplementary motor area of primates. Trends Neurosci,
27:282-285, 1984.
6.
Tanji J : The supplementary motor area in the cerebral cortex, Neurosci Res, 19: 251-268, 1994.
7.
pDavis KD, Taylor SJ, Crawley AP, et al : Functional MRI of attention-related activations in the
human cingulate cortex. J Neurophysiol, 77:3370-3380, 1997.
成果の発表
1)原著論文による発表
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
1.
田中忠蔵、福永雅喜、梅田雅宏、恵飛須俊彦:
「Functional MRI の原理と臨床応用」、
〔日本臨床、55、
(1997
年)〕
79
Brain
2.
attackから脳を守るための研究
樋口敏宏、福永雅喜、梅田雅宏、恵飛須俊彦、田中忠蔵、成瀬昭二、上田聖:
「運動負荷と知覚刺激による
fMRI」、〔日本臨床、55、(1997 年)〕
3.
福永雅喜、田中忠蔵、梅田雅宏、恵飛須俊彦、青木伊知男、樋口敏宏、成瀬昭二:
「Functional MRI による
三次元脳機能マッピング」、〔脳と神経、49、
(1997 年)〕
4.
福永雅喜、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、染谷芳明、青木伊知男、渡辺康晴、樋口敏宏、成瀬昭二:
「機
能的 MRI による補足運動野領域の活動の経時的変化に関する検討」、〔認知神経科学、2、(2000 年)〕
5.
福永雅喜、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、染谷芳明、渡辺康晴、森勇樹、青木伊知男、成瀬昭二:「機
能的磁気共鳴画像を用いた脳機能の計量 2
-Event-related design-」
、〔日本行動計量学会第 28 回大会、
発表論文抄録集、(2000 年)〕
2)原著論文以外による発表(レビュー等)
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
1.
田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、福永雅喜、青木伊知男、北村
真、佐藤博司:
「頭部 Perfusion Imaging」
、
〔GE-YMS 共同研究年報、(1997 年)〕
2.
成瀬昭二、古谷誠一、田中忠蔵:
「脳卒中に使われる画像診断の色々― 簡単な原理と疾患別の適応 ― 脳の機
能診断」、
〔脳卒中の画像診断、(1998 年)〕
3.
田中忠蔵:「MRIの展望」、〔核医学技術、18、
(1998 年)〕
4.
田中忠蔵:
「EPI およびファンクショナル MRI の脳疾患への応用」
、
〔分光学の医学応用−病態に対する分光学
的アプローチ−、(1999 年)〕
5.
田中忠藏、恵飛須俊彦、梅田雅宏、福永雅喜、成瀬昭二:
「fMRI」、〔画像診断、19、(1999 年)〕
6.
成瀬昭二,古谷誠一,田中忠蔵:「機能的 MRI」、〔脳科学大辞典、(2000 年)〕
7.
田中忠藏、福永雅喜:「Event-relate fMRI」、〔臨床精神医学講座、(2000 年)〕
8.
梅田雅宏、田中忠蔵、恵飛須俊彦:
「1. MRIの原理と撮像法
基礎から高速撮像まで」、
〔現場で役立つ臨
床 MRI シリーズ、(2000 年)〕
9.
田中忠藏、福永雅喜、恵飛須俊彦、梅田雅宏、青木伊知男、染谷芳明、渡辺康晴:「Functiona MRI の基礎
と臨床」、〔脳神経外科ジャーナル、9、(2000 年)〕
10.
田中忠蔵、樋口敏宏、恵飛須俊彦、梅田雅宏、福永雅喜、青木伊知男:
「MRI による脳の機能画像
-BOLD 効
果による fMRI 時の局所脳酸素飽和度の検討-」
、〔明治鍼灸医学、25、(2000 年)〕
11.
福永雅喜、田中忠蔵、梅田雅宏、恵飛須俊彦、青木伊知男、染谷芳明、渡辺康晴、森勇樹、成瀬昭二:「脳
の functional MRI」、〔日本磁気共鳴医学会雑誌、6、
(2001 年)〕
イ)国外誌
1.
Tanaka C, Fukunaga M, Ebisu T, Umeda M, Aoki I:
「Clinical application of functional MRI」
、〔Proceeding
of 11th International Conference on Biomagnetism、(1999 年)〕Fukunaga M, Tanaka C, Ebisu T, Umeda
M, Someya Y, Aoki I, Watanabe Y, Higuchi T, Naruse S:
「Clinical application of functional MR imaging
localization of the central sulcus」、
〔Ultrafast Magnetic Resonance Imaging、(1999 年)〕
2.
C Tanaka, T Ebisu, M Umeda , I Aoki , M Fukunaga, Y Watanabe, Y Someya , Y Mori, and S Naruse
and Analysis of Brain Attack Using MR Functional Imaging
“Strategic medical science against brain
attack” ed. by Kikuch H. Springer, Tokyo pp. 269-292, 2002
3)口頭発表
ア)招待講演
80
Evaluation
Brain
attackから脳を守るための研究
1.
田中忠藏、恵飛須俊彦、梅田雅宏:「Functional MRI」
、〔日本脳神経外科コングレス、(1999 年 5 月)
〕
2.
田中忠藏:「MRI による脳の機能画像」、〔明治鍼灸大学学術集団会
3.
田中忠蔵:「Functional MRI」、〔第 97 回日本精神神経学総会精神医学研修コース、
(2001 年 5 月)
〕
特別講演、(1999 年 7 月)
〕
イ)応募・主催講演等
1.
M. Fukunaga, C. Tanaka, M.Umeda, T. Ebisu, I. Aoki, T. Sato, T. Higuchi, S. Naruse:
「Three-dimensional
brain mapping using fMRI」
、〔3rd international conference on functional mappingof the human brain、
(1997 年月)
〕
2.
T. Higuchi, M. Fukunaga, M.Umeda, T. Ebisu, C. Tanaka, I. Aoki, S. Naruse:「Functional brain mapping
by MR perfusion imaging」
、〔3rd international conference on functional mappingof the human brain、
(1997 年月)
〕
3.
田中忠蔵:「脳の EPI」、〔第 25 回日本磁気共鳴医学会大会、
(1997 年 9 月)
〕
4.
福永雅喜、渡辺康晴、青木伊知男、恵飛須俊彦、梅田雅宏、田中忠蔵、青木美穂、新井正恵、江頭容子、染
谷芳明、利森有香:
「ローラー鍼刺激による局所脳活動の検討−脳灌流画像法を用いて−」、
〔第 46 回全日本鍼
灸学会学術大会、(1997 年月)〕
5.
染谷芳明、田中忠蔵、福永雅喜、恵飛須俊彦、梅田雅宏、青木伊知男、渡辺康晴、樋口敏宏、成瀬昭二、佐
藤博司:
「聴覚刺激による Functional MRI の検討」
、〔第 25 回日本磁気共鳴医学会大会、
(1997 年 9 月)
〕
6.
樋口敏宏、福永雅喜、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、竹上徹郎、徳満拓明、堀川義治、成瀬昭二、上田
聖:「Perfusion imagin による脳機能マッピング」、〔第 25 回日本磁気共鳴医学会大会、
(1997 年 9 月)
〕
7.
福永雅喜、田中忠蔵、染谷芳明、恵飛須俊彦、梅田雅宏、青木伊知男、渡辺康晴、成瀬昭二、樋口敏宏、佐
藤博司:
「FMRI における信号強度変化の多様性について」
、
〔第 25 回日本磁気共鳴医学会大会、
(1997 年 9 月)
〕
8.
青木伊知男、田中忠蔵、竹上徹郎、梅田雅宏、恵飛須俊彦、福永雅喜、渡辺康晴、染谷芳明、福田耕治、樋
口敏宏、成瀬昭二:
「Arterial Spin Labeling を用いた Echo-planar Perfusion MRI」
、〔第 25 回日本磁気共
鳴医学会大会、
(1997 年 9 月)
〕
9.
田中忠蔵、恵飛須俊彦、樋口敏宏、成瀬昭二、堀川義治、上田 聖:「MR 脳灌流画像:Spin Labeling 法と
Gd-投与法との比較」、〔第 56 回日本脳神経外科学会総会、
(1997 年 10 月)
〕
10.
M Fukunaga, C Tanaka, T Ebisu, M Umeda, Y Someya, I Aoki, Y Watanabe, T Higuchi, S Naruse, T Takegami:
「The supplementary motor area is associated with the initiation of the motor task using event related
fMRI」、〔International Society for Magnetic Resonance in Medicine, Sixth Scientific Meeting and
Exhibition、(1998 年 4 月)
〕
11.
Tanaka C, Fukunaga M, Ebisu T, Umeda T, Aoki I:「Clinical application of functional MRI」、〔11th
International Conference on Biomagnetism、(1998 年 8 月)
〕
12.
Fukunaga M, Tanaka C, Ebisu T, Umeda M, Someya Y, Aoki I, Watanabe Y, Naruse S, Higuchi T, Takegami
T:「Functional analysis of supplementary motor area using event related fMRI」、〔11th International
Conference on Biomagnetism、(1998 年 8 月)
〕
13.
H Yamamoto, M Fukunaga, C Tanaka, T Azukawa, S Takahashi, T Ebisu, M Umeda,
Y Takanashi and Y Ejima:
「A FMRI study of multisltbe visual perception for necker-cube-like patterns」、〔28th Annual Meeting
Society For Neuroscience、
(1998 年 11 月)
〕
14.
樋口敏宏、福永雅喜、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、竹上徹郎、徳満拓明、堀川義治、成瀬昭二、上田
聖:「Perfusion MRI による新しい Functional imaging」
、〔第 21 回日本脳神経CI研究会、
(1998 年 2 月)〕
15.
馬場俊輔、福永雅喜、田中忠蔵、大薮秀昭、梅田雅宏、恵飛須俊彦、北村
康二、堀
真、廣田明人、金村成智、築谷
亘孝:
「下顎運動負荷における functional MRI」、
〔第 52 回日本口腔科学学会総会、
(1998 年 4 月)
〕
81
Brain
16.
attackから脳を守るための研究
藤岡秀樹、荒木雅也、小林美紀、福永雅喜、染谷芳明、渡辺康晴、青木伊知男、梅田雅宏、恵飛須俊彦、田
中忠蔵:
「体性感覚刺激による局所活動の検討
-脳機能 MRI を用いて-」、
〔第 47 回全日本鍼灸学術大会、
(1998
年 6 月)
〕
17.
青木伊知男、竹上徹郎、田中忠蔵、梅田雅宏、恵飛須俊彦、福永雅喜、渡辺康晴、染谷芳明、福田耕治、樋
口敏宏、成瀬昭二:「Activation Induced Manganese dependent contrast 法を用いた rat 手掌電気刺激に
おける脳神経賦活画像の検討」、〔第 26 回日本磁気共鳴医学会大会、
(1998 年 9 月)
〕
18.
染谷芳明、梅田雅宏、福永雅喜、青木伊知男、渡辺康晴、恵飛須俊彦、田中忠蔵、
樋口敏宏、成瀬昭二:「補足運動野に於ける fMRI の検討」
、〔第 26 回日本磁気共鳴医学会大会、
(1998 年 9
月)〕
19.
福永雅喜、染谷芳明、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、青木伊知男、渡辺康晴、成瀬昭二、樋口敏宏、竹
上徹郎、佐藤博司:「Event related fMRI による手指運動時の補足運動野活動の検討」、〔第 26 回日本磁気
共鳴医学会大会、(1998 年 9 月)
〕
20.
吉川健治、外山敬介、高梨芳彰、大谷芳夫、山本洋紀、江島義道、岡村昇一、福永雅喜、田中忠蔵、恵飛須
俊彦:「Grating、Random-dot 刺激、3 次元脳磁図計
- 空間フィルターシステム、機能的 MRI によるヒト
視覚領野のマッピング」、〔第 21 回日本神経科学、第 41 回日本神経化学合同大会、
(1998 年 9 月)
〕
21.
山本洋紀、福永雅喜、阿津川智洋、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、高梨芳彰、江島義道:「ヒト視覚皮
質 fMRI 応答に見られる色文脈効果」
、
〔金沢ニューロサイエンスシンポジウム
-脳のイメージング-、
(1998
年 11 月)
〕
22.
阿津川智洋、山本洋紀、福永雅喜、田中忠蔵、高橋成子、恵飛須俊彦、梅田雅宏、高梨芳彰、江島義道:
「局
所特徴抽出から 3 次元形態視に至る脳内視覚経路:fMRI による解析」
、〔視覚学会 98 年夏季大会、
(1998 年
7 月)
〕
23.
青木伊知男、竹上徹郎、田中忠蔵、梅田雅宏、恵飛須俊彦、樋口敏宏、成瀬昭二:
「Arterial Spin Labeling
MRI 法による定量的 rCBF 測定の評価」
、〔第 10 回脳循環代謝学会総会、
(1998 年 11 月)
〕
24.
田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、福永雅喜、青木伊知男、北村
真、佐藤博司:
「頭部 Perfusion Imaging」
、
〔97 年度 GE-YMS 共同研究発表会、
(1998 年 1 月)
〕
25.
梅田雅宏、田中忠蔵、恵飛須俊彦、福永雅喜、染谷芳明:
「fMRIのデータ処理について」、
〔第 11 回臨床
MR脳機能研究会、(1998 年 8 月)
〕
26.
福永雅喜、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、青木伊知男、染谷芳明、渡辺康晴:
「event related fMRI に
27.
Aoki, C. Tanaka, T. Takegami, T. Ebisu, M. Umeda, M. Fukunaga, Y. Someya, Y. Watanabe and S. Naruse:
よる捕捉運動野の検討」、〔第 11 回臨床MR脳機能研究会、
(1998 年 8 月)
〕
「Dynamic Activity-induced Manganese Dependent (DAIM) MRI」
、〔International Symposium on Ultrafast
Magnetic Resonance Imaging in Medicine、(1999 年 1 月)
〕
28.
M. Fukunaga, C. Tanaka, T. Ebisu, M. Umeda, Y. Someya, I. Aoki, Y. Watanabe, T. Higuchi and S. Naruse:
「Clinical Application of Functional MR Imaging- Localization of the Central Sulcus-」
、
〔International
Symposium on Ultrafast Magnetic Resonance Imaging in Medicine、(1999 年 1 月)
〕
29.
T. Azukawa, M. Fukunaga, C. Tanaka, H. Yamamoto, S. Takahashi, T. Ebisu, M. Umeda, Y. Takanashi and
Y. Ejima:「Relation between Perceptibility of 3-D Objects and Activity in Extrastriate Cortex」、
〔International Symposium on Ultrafast Magnetic Resonance Imaging in Medicine、(1999 年 1 月)
〕
30.
I. Aoki, C. Tanaka, T. Takegami, T. Ebisu, M. Umeda, M. Fukunaga, Y. Someya, Y. Watanabe and S. Naruse:
「Experimental Functional MRI using Dynamic Activity-Induced Manganese Dependent Contrast (DAIM)」
、
〔International Society for Magnetic Resonance in Medicine、(1999 年 5 月)
〕
31.
M. Fukunaga, T. Azukawa, H. Yamamoto, C. Tanaka, T. Ebisu, M. Umeda, S. Takahashi and Y. Ejima:
82
Brain
attackから脳を守るための研究
「 Activities of moion-sensitive areas in extrastriae cortex for perceptual figure-ground
segmentation caused by motion cue」
、〔Society for Neuroscience 29th Annual Meeting、
(1999 年 10 月)〕
32.
Y. Ejima, M. Fukunaga, T. Azukawa, H. Yamamoto, C. Tanaka, T. Ebisu, M. Umeda and S. Takahashi:
「Higher-order areas related to processes of perceptual organization of visual forms in human
extrastriate cortex」、〔Society for Neuroscience 29th Annual Meeting、(1999 年 10 月)
〕
33.
H. Yamamoto, M. Fukunaga, T. Azukawa, C. Tanaka, S. Takahashi, T. Ebisu, M. Umeda, and Y. Ejima:
「Color induction in human visual cortex measured with fMRI」、〔Society for Neuroscience 29th Annual
Meeting、(1999 年 10 月)
〕
34.
田中忠藏:
「MRI でみる脳機能−現状と将来の展望−
特別発言」、
〔日本放射線学会秋季大会、
(1999 年 10 月)
〕
35.
青木伊知男
梅田雅宏
田中忠蔵
竹上徹郎
恵飛須俊彦
福永雅喜
広瀬昭二:「脳神経細胞の賦活を検出する新しい脳機能画像の試み
染谷芳明
渡辺康晴
福田耕治
-Mn2+の動的エンハンスメント
(DAIM)MRI を用いて-」、〔第 27 回日本磁気共鳴医学会大会、
(1999 年 9 月)
〕
36.
福永雅喜、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、青木伊知男、染谷芳明、渡辺康晴、山本洋紀、江島義道、樋
口敏宏、成瀬昭二:「Event
related
fMRI による手指運動時の補足運動野活動の検討(第 2 報)」、
〔第 27
回日本磁気共鳴医学会大会、(1999 年 9 月)
〕
37.
染谷芳明、福永雅喜、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、青木伊知男、渡辺康晴、樋口敏宏、成瀬昭二:
「言
語性聴覚刺激による脳賦活領域の左右差の検討」
、〔第 27 回日本磁気共鳴医学会大会、
(1999 年 9 月)
〕
38.
福永雅喜、染谷芳明、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、青木伊知男、渡辺康晴、樋口敏宏、成瀬昭二:
「Event
related fMRI による運動準備状態の脳活動の検討- Independent Component Analysis を用いて-」、〔MR 脳
機能研究会、(1999 年 8 月)
〕
39.
染谷芳明、田中忠蔵、福永雅喜、恵飛須俊彦、梅田雅宏、青木伊知男、渡辺康晴:
「補足運動野における fMRI
の検討」、〔第 1 回ヒト脳機能マッピング研究会学術集会、
(1999 年 3 月)
〕
40.
阿津川智洋、福永雅喜、山本洋紀、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、高梨芳彰、江島義道:「色知覚空間
比較機構に関与する脳内過程の fMRI による解析」
、〔第 1 回ヒト脳機能マッピング研究会学術集会、
(1999
年 3 月)
〕
41.
阿津川智洋、福永雅喜、山本洋紀、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、高梨芳彰、江島義道:
「V8 は色覚中
枢か?:fMRI による解析」、〔日本視覚学会 1999 年冬季大会、
(1999 年 1 月)
〕
42.
福永雅喜、染谷芳明、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、青木伊知男、渡辺康晴、樋口敏宏、成瀬昭二:
「機
43.
阿津川智洋、山本洋紀、福永雅喜、高橋成子、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、江島義道:
「fMRI による
能的 MRI による運動準備状態の補足運動野活動の検討」、〔第 22 回日本神経科学会、
(1999 年 7 月)
〕
視知覚 3 次元構造検出過程の解析」
、〔第 22 回日本神経科学会、
(1999 年 7 月)
〕
44.
山本洋紀、福永雅喜、阿津川智洋、高橋成子、田中忠蔵、江島義道:「主観的運動とヒト MT+野との関連性
の解析:fMRI 研究」、〔第 22 回日本神経科学会、
(1999 年 7 月)
〕
45.
染谷芳明、福永雅喜、 田中忠蔵、 恵飛須俊彦、 梅田雅宏、青木伊知男、渡辺康晴、 樋口敏宏、 成瀬昭
二:「言語性聴覚刺激による脳賦活領域の検討」、〔第 4 回認知神経科学会、
(1999 年 7 月)
〕
46.
福永雅喜、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、染谷芳明、青木伊知男、渡辺康晴、山本洋紀、樋口敏宏、成
瀬昭二:「機能的 MRI による補足運動野領域の活動の経時的変化に関する検討」、〔第 4 回認知神経科学会、
(1999 年 7 月)
〕
47.
阿津川智洋、福永雅喜、山本洋紀、高橋成子、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、江島義道:「ヒト大脳視
覚皮質における運動情報の統合過程」、〔電子情報通信学会ニューロコンピューティング(NC)研究会、(1999
年 6 月)
〕
48.
阿津川智洋、福永雅喜、山本洋紀、高橋成子、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、江島義道:「ヒト腹側視
83
Brain
attackから脳を守るための研究
覚経路における色知覚形成過程」
、〔電子情報通信学会ニューロコンピューティング(NC)研究会、(1999 年 6
月)〕
49.
福永雅喜、山本洋紀、阿津川智洋、田中忠蔵、恵飛須俊彦、江島義道:「運動知覚の文脈依存性と脳内活動
の関係」
、
〔日本心理学会第 63 回大会、
(1999 年 9 月)
〕
50.
阿津川智洋、福永雅喜、山本洋紀、田中忠蔵、恵飛須俊彦、江島義道:
「3 次元構造検出に関わる脳内活動」
、
〔日本心理学会第 63 回大会、
(1999 年 9 月)
〕
51.
梅田雅宏、福永雅喜、染谷芳明、田中忠蔵、恵飛須俊彦、青木伊知男、渡辺康晴、樋口敏宏、成瀬昭二:
「Event
related fMRI による補足運動野活動の研究」、〔98 年度 GE-YMS 共同研究発表会、
(1999 年 7 月)
〕
52.
Fukunaga M, Someya Y, Tanaka C, Ebisu T, Umeda M, Aoki I, Watanabe Y, Hattori N, Inoue N, Itoi S,
Sawada T, Naruse S:「Brain activation under electro-acupuncture stimulation using functional MRI」
、
〔Sixth Annual Meeting of the Organization For Human Brain Mapping、(2000 年 6 月)
〕
53.
Yamamoto H, Fukunaga M, Takahashi S, Tanaka C, Ebisu T, Umeda M, Ejima Y:
「FMRI Reveals Neural Activity
in Human Retinotopic Visual Areas Correlates with Physical and Induced Brightness」
、〔Society For
Neuroscience, 30th Annual Meeting、
(2000 年 11 月)
54.
Tanaka C, Fukunaga M, Ebisu T, Umeda M, Someya Y, Hattori N, Inoue , Sawada T, Naruse S:「Brain
activation under electro-acupuncture stimulation -A fMRI study」、〔Society For Neuroscience, 30th
Annual Meeting、
(2000 年 11 月)
〕
55.
Fukunaga M, Yamamoto H, Takahashi S, Tanaka C, Ebisu T, Umeda M, Ejima Y:
「Computational Neuroimaging
of Color Induction in Human Retinotopic Areas: An fMRI Study」
、〔Society For Neuroscience, 30th Annual
Meeting、
(2000 年 11 月)
〕
56.
福永雅喜、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、染谷芳明、渡辺康晴、青木伊知男、山本洋紀、阿津川智洋、
江島義道、成瀬昭二:
「fMRI 測定における脳賦活パラダイムデザイン」
、
〔第 2 回ヒト脳機能マッピング研究
会学術集会
57.
プレシンポジウム、(2000 年 3 月)
〕
福永雅喜、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、染谷芳明、渡辺康晴、森勇樹、青木伊知男、服部憲明、井上
典子、澤田徹、成瀬昭二:
「磁気共鳴画像法による脳の機能イメージング」
、
〔第 28 回日本磁気共鳴医学会大
会、(2000 年 10 月)
〕
58.
福永雅喜、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、染谷芳明、渡辺康晴、森勇樹、青木伊知男、成瀬昭二:「機
能的磁気共鳴画像を用いた脳機能の計量 2
-Event-related design-」、〔日本行動計量学会第 28 回大会、
(2000 年 10 月)
〕
59.
浦田繁、恵飛須俊彦、梅田雅宏、福永雅喜、染谷芳明、渡辺康晴、田中忠蔵、成瀬昭二:
「fMRI における脳
波同時測定の影響」
、〔第 28 回日本磁気共鳴医学会大会、
(2000 年 10 月)
〕
60.
青木伊知男、田中忠蔵、恵飛須俊彦、勝田清貴、藤川昭彦、梅田雅宏、福永雅喜、染谷芳明、渡辺康晴、森
勇樹、福田耕治、成瀬昭二、A. C. Silva、A. P. Koretsky:
「急性期ラット中大脳動脈虚血モデルにおける
賦活誘発マンガン造影法(AIM MRI)の試み」、〔第 28 回日本磁気共鳴医学会大会、
(2000 年 10 月)
〕
61.
田中忠蔵、恵飛須俊彦:「Mn ion flux と拡散係数画像による脳虚血の検討」、〔第 59 回日本脳神経外科学会
総会、(2000 年 10 月)
〕
62.
福永雅喜:「磁気共鳴画像法による脳機能マッピング」、〔第 12 回 radiological today、
(2000 年 1 月)
〕
63.
福永雅喜、染谷芳明、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、青木伊知男、渡辺康晴、服部憲明、井上典子、糸
井誠司、澤田徹、成瀬昭二:
「fMRI を用いた鍼通電刺激による脳賦活の検討」、
〔第 2 回ヒト脳機能マッピン
グ研究会学術集会、
(2000 年 3 月)
〕
64.
福永雅喜、染谷芳明、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、青木伊知男、渡辺康晴、服部憲明、井上典子、糸
井誠司、澤田徹、成瀬昭二:
「鍼刺激の脳高次機能に及ぼす影響の検討 -fMRI を用いて-」
、〔第 5 回認知神
84
Brain
attackから脳を守るための研究
経科学会、
(2000 年 7 月)
〕
65.
福永雅喜、山本洋紀、江島義道、梅田雅宏、恵飛須俊彦、田中忠蔵:
「Functional MRI による視覚野の同定」、
〔京滋てんかん懇話会、(2000 年 10 月)
〕
66.
福永雅喜、山本洋紀、高橋成子、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、江島義道:
「機能的 MRI による明暗対
比現象の解析」、〔第 23 回日本神経科学大会、
(2000 年 9 月)
〕
67.
山本洋紀、福永雅喜、高橋成子、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、江島義道:「ヒト脳内色表象の計算論
的ニューロイメージング」
、〔第 23 回日本神経科学大会、
(2000 年 9 月)
〕
68.
竹田真己、小林真之、福永雅喜、服部憲明、井上典子、笹部哲也、今村一之、梅田雅宏、田中忠蔵、澤田徹、
渡辺恭良:
「味覚想起によって賦活される脳領域の機能的マッピング」、〔第 23 回日本神経科学大会、(2000
年 9 月)
〕
69.
山本洋紀、阿津川智洋、高橋成子、福永雅喜、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、江島義道:
「機能的 MRI に
よるヒト視覚野の解剖学的及びレチノトピック構造の解析」、〔ME とバイオサイバネティックス研究会、
(2000 年 9 月)
〕
70.
田中忠蔵:「運動性とイメージング」、〔日本磁気共鳴医学会第 23 回MR基礎講座、(2001 年 8 月)
〕福永雅
喜:「fMRI の視覚研究への応用」
、〔第 1 回日本生理学会
71.
生理学若手サマースクール、
(2001 年 8 月)
〕
山本洋紀、福永雅喜、高橋成子、郷田直一、田中忠蔵、江島義道:「脳活動のサンプリング・皮質点拡散・
側抑制」
、
〔日本視覚学会 2001 年夏季大会、
(2001 年 7 月)
〕
72.
田中忠蔵、恵飛須俊彦:「fMRIによる記憶と計算の検討」、
〔第 60 回日本脳神経外科学会総会、
(2001 年
10 月)〕
73.
恵飛須俊彦、浦田繁、田中忠蔵:「EEG-triggered functional MRI における基礎的検討」
、〔第 24 回 CI 学会
総会、(2001 年 3 月)
〕
74.
福永雅喜、山本洋紀、高橋成子、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、江島義道:「ヒト視覚野の最尤確率分
布マップの構築」
、〔日本視覚学会 2001 年夏季大会、
(2001 年 7 月)
〕
75.
前田青広、松野響、福永雅喜、山本洋紀、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、江島義道:「視覚マスキング
事態におけるヒト視覚野の活動特性」
、〔日本視覚学会 2001 年夏季大会、
(2001 年 7 月)
〕
76.
成田泰士、福永雅喜、山本洋紀、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、江島義道:「両側性・片側性運動刺激
に対する脳活動部位の検討」
、〔日本視覚学会 2001 年夏季大会、
(2001 年 7 月)
〕
77.
山本謙一郎、福永雅喜、山本洋紀、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、江島義道:「運動知覚における空間
78.
谷内勇介、山本洋紀、福永雅喜、郷田直一、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、江島義道:
「ヒト視覚野に
統合過程の fMRI による解析」
、〔日本視覚学会 2001 年夏季大会、
(2001 年 7 月)
〕
おける色・明暗情報処理の視野片震度依存性 -fMRI 研究-」
、
〔日本視覚学会 2001 年夏季大会、
(2001 年 7 月)〕
79.
福永雅喜、梅田雅宏、染谷芳明、服部憲明、井上典子、澤田徹、恵飛須俊彦、田中忠蔵、成瀬昭二、椛沢宏
之:「3.0T 高分解能頭部 MRI における FSE および FRFSE の検討」、〔第 29 回日本磁気共鳴医学会大会、
(2001 年 9 月)
〕
80.
山本洋紀、福永雅喜、高橋成子、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、江島義道:
「fMRI によるヒト視覚野の
受容野特性の解析」、〔第 24 回日本神経科学会、
(2001 年 9 月)
〕
81.
郷田直一、福永雅喜、山本洋紀、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、高橋成子、江島義道:
「ヒト視覚野応
答における方位依存的な空間相互作用:fMRI 解析」、〔第 24 回日本神経科学会、
(2001 年 9 月)
〕
82.
福永雅喜、山本洋紀、高橋成子、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、江島義道:「ヒト視覚野の最尤確率分
布マップ」、〔第 24 回日本神経科学会、
(2001 年 9 月)
〕
83.
福永雅喜:「脳の functional MRI」、〔日本磁気共鳴医学会 第 5 回 MR 先端・実践講座、
(2001 年 12 月)
〕
84.
染谷芳明、福永雅喜、渡辺康晴、森勇樹、青木伊知男、梅田雅宏、恵飛須俊彦、田中忠蔵、服部憲明、井上
85
Brain
attackから脳を守るための研究
典子、澤田徹:
「灸刺激の中枢作用の検討−灸刺激及び熱刺激の fMRI による解析」
、
〔第 29 回日本磁気共鳴医
学会大会、(2001 年 9 月)
〕
85.
染谷芳明、福永雅喜、渡辺康晴、森勇樹、青木伊知男、梅田雅宏、恵飛須俊彦、田中忠蔵:
「灸刺激の中枢
作用の検討」、〔臨床脳機能 MR 研究会、
(2001 年 8 月)
〕
86
Brain
attackから脳を守るための研究
1.1. 新たな脳機能と脳病態の画像化に関する研究
1.1.1. 脳の高次機能画像化に関する研究
1.1.1.3. MR脳潅流画像法/拡散係数画像法を用いた脳潅流状態の画像評価による脳活動に伴う
局所脳循環の変化の解析
明治鍼灸大学附属MRセンター
田中
忠蔵、恵飛須
福永
雅喜、染谷
俊彦、梅田
芳明、渡辺
雅宏、青木
康晴、森
伊知男
勇樹
1.1.1.3.1. 拡散強調画像を用いた脳血管障害の検討
要
約
脳活動に伴う神経組織の水の分子拡散状態の変化により微細環境を解析できる拡散強調画像法を用いて、脳血
管障害の超早期の臨床診断を確立した。
研究目的
超高速 MR 撮影法であるエコープラナー法が臨床装置で可能となって、従来先駆的な試みとして急性期脳梗塞の
診断に極めて有用である報告されてきた拡散強調画像の臨床応用が報告され[1,2、3,4]、その有用性が再確
認されるようになった。しかし、急性期脳梗塞の診断に有用であっても臨床的には急性期脳血管障害に有用でな
ければならない。そこで、虚血性、出血性血管障害の区別なく拡散計数画像を臨床応用し、その有用性について
検討した。
研究方法
19 名(36∼88 歳、平均 68.6 歳)の 27 虚血性病変と、6 名(51∼80 歳、平均 69 歳)の 7 出血性病変に合計 118
回の検査を行った。装置は、Signa Horizon(GE 社製)に標準の頭部コイルを使用した。エコープラナー法による
拡散強調画像とT2 強調画像を single shot type, TR = 6500 ms, TE =120 ms, field of view (FOV) = 40 cm, matrix
= 128x128 pixels, slice thickness = 7 mm, and 15 to 20 axial multislices with no gap の条件で撮像し、
その他に臨床的に汎用されているT1 強調画像と FSE のT2 強調画像も合わせて撮像した。拡散強調画像に用いら
れるb値は、0, 108, 434, 976, and 1736 s/mm2 の 5 段階として前後方向に傾斜磁場を変化させた。みかけの拡
散係数(ADC: apparent diffusion coefficient)はこの 5 種類のb値から算出した。見かけの拡散係数は、絶対
値で表示されるが、個々の被験者の磁場の不均一性の影響が大きいので、病変の ROI とその対側の比で補正した
値を ADC、T2 強調画像ともに算出し、その平均値と誤差で表して Mann-Whitney rank-sum test による統計処理
を行った。
87
Brain
attackから脳を守るための研究
研究成果
すべての虚血性病変は、もっとも早く検査された 2.5 時間を始めとして rADC の低下を示した。これは、拡散強
調画像では高信号を示したことを意味する(図 1)
。しかし、T2wEPI では、20 例中 6 例に、T2wFSE では、19 例中
4 例に対側との変化が見られず、等信号となった。特に、発祥 15 時間以内では、それぞれ 5 例中 4 例、4 例中 3
例で変化を認めなかった。一方、脳内出血や出血性脳梗塞例は、急性期から亜急性期にかけて、もっとも早く検
査された 4 時間の例を始めとして、拡散強調画像で高信号や不均一な高信号を示し、ADC 画像では中心部に低信号
を有する病変として認められた。T2 強調画像では、この中心部は梗塞病変と異なって低信号を示した(図 2)
。
脳梗塞発症 2 週間から 1 ヶ月で、拡散強調画像は 25 例中 14 例で高信号を示したが、30 日以降では全例で高信
号を示さなくなった。30 日以内の T2wEPI では、24 例中 22 例は高信号を、T2wFSE では全例に高信号を示した。30
日以降はT2w全例に高信号が見られた。反対に、出血性病変は、拡散強調画像にて 30 日以内でも急性期と変わ
らない高信号や不均一な信号変化が持続し、30 日以降でも 13 例中 9 例に同じ所見が持続して認められた(図 3)
。
a 13 hours
b 7 days
図1
c 90 days
脳梗塞の拡散強調画像とT2強調画像
a, b, c Time course of cerebral infarction in images of DWI (upper) and T2w (lower). In the super acute
(a 13h after onset) and subacute (b 7 days after onset) stages, the infarcted area exibits high signal intensity
in the DW images (arrow), however in the chronic (c 90 days after onset) stage, the area shows isointensity.
On the other hand, T2w images did not show this area in the super acute stage but showed the high intensity
area in the subacute and chronic stages (arrow).
88
Brain
attackから脳を守るための研究
a
b
c
d
e
f
図2
脳内出血の拡散強調画像、拡散係数画像
a, b, c, d, e, and f Images of left thalamic hemorrhage were obtained in an 80-year-old female patient
at 4 hours after the onset of sudden right hemiplegia and gait disturbance without loss of consciousness.
a Diffusion-weighted EPI (b=1736) indicated hyperintensity, together with some hypointensity (arrow) in the
upper part of the left thalamus and deep white matter, although the outer zone of this area may include
hyperintensity due to white matter anisotropy. This finding was also observed on the other side of the deep
white matter. Markedly atrophic hemispheres were also evident. b T2-weighted EPI showed heterogeneous signal
intensities including hypointensity (aroow), probably due to deoxyhemoglobin-induced magnetic susceptibility
in acute hemorrhage. c ADC image: The area with a decreased ADC and diffusion-weighted hyperintensity included
both hypointensity and (arrow) hyperintensity areas on T2-weighted EPI. d T2-weighted FSE showed heterogeneous
hyperintensity, not specific for the hemorrhagic condition, in this lesion. e No abnormal intensity was evident
on T1-weighted SE. f A CT scan, just after the MR examination, showed high density spots in this lesion. A
similar distribution was observed between areas of high density on CT and decreased ADC.
89
Brain
attackから脳を守るための研究
図3
脳梗塞病変と出血性病変の ADC 画像と T2 強調画像における信号の経時変化
脳血管障害の発症1週以内で信号強度の低下(拡散の制限)を示す ADC 画像の特異性が極めて良好である。出血性
病変では、梗塞に比べて長期間(3ヶ月)この所見が持続する。
考
察
本研究では、1)急性期出血性病変において梗塞病変と同様に ADC の低下がみられる。2)拡散強調画像で、梗
塞病変が高信号を示すのに対して、出血性病変では低信号領域がみられる。3)出血性病変の低下した ADC は、梗
塞病変よりはるかに長く気鋭家中に持続する。ことを見いだした。
一般的な MRI 診断では、24 時間以内の出血性病変の確認が困難であると知られている[5]。この時期の MRI の
診断能がCTに比べて劣っている。しかし、今回の結果から、たとえ発症 4 時間後においても、拡散強調画像を
用いることから診断が容易になり、急性期脳血管障害患者の検査を MRI のみで行えるようになった。一方、拡散
係数画像で低信号を示す理由として、急性期の血腫に含まれる障害されていない血球成分やフィブリンの析出に
伴う血腫内の成分濃度が上昇し、ゲル状の血腫の形成が考えられる[6]
。また、T2wEPI では、急性期の血腫の中
心部に低信号を示すのが梗塞病変と比べて特徴的であった。この所見は、T2wEPI が、磁化率の変化に極めて敏感
であり、血腫中心部における細胞内デオキシヘモグロビン(deoxy-Hb)の存在を反映していると考えられた。以
上より、拡散強調画像と T2wEPI の測定が、超急性期脳血管障害の鑑別診断を極めて短時間に可能とした。実際、
臨床的には不穏状態で通常の MRI 検査が困難であった被験者においても、両者の測定は可能であり、すぐれて臨
床的な検査法であるといえる。また、最近、超急性期における治療選択が重要と考えられるようになって、本検
査法の有用性がますます発揮されると思われる。
引用文献
1. Moseley ME, Cohen Y, Mintorovitch J, et al.
Early detection of regional
cerebral ischemia in cats:
Comparison of diffusion- and T2- weighted MRI and spectroscopy. Magn Reson Med 1990; 14: 330-346.
2. Moseley ME, Kucharczyk J, Mintorovitch J, et al.
90
Diffusion-weighted MR imaging of acute stroke:
Brain
attackから脳を守るための研究
correlation with T2-weighted and magnetic susceptibility-enhanced MR imaging in cats. AJNR 1990; 11:
423-429.
1992; 42: 1717-1723.
3. Warach S, Gaa J, Siewert B, Wielopolski P, Edelman RR.
Acute human stroke studied by whole brain echo
planar diffusion-weighted magnetic resonance imaging.
4. Sorensen AG, Buonanno FS, Gonzalez RG, et al.
Ann Neurol 1995; 37: 231-241.
Hyperacute stroke:
evaluation with combined
multisection diffusion-weighted and hemodynamically weighted echo-planar MR imaging.
Radiology 1996;
199: 391-401.
5. Bradley WG.
MR appearance of hemorrhage in the brain.
Radiology 1993; 189: 15-26.
6. Clark RA, Watanabe AT, Bradley WG, Roberts JD. Acute hematomas:
and fibrin-clot formation and retraction on T2 shortening.
effect of deoxyhemoglobin, hematocrit,
Radiology 1990; 174: 201-206.
1.1.1.3.2. MR 脳灌流画像/拡散係数画像法を用いた ischemic penumbra の画像化:
要
約
脳活動に伴う脳循環を非侵襲的な方法である MR 脳灌流画像法や脳虚血急性期の細胞障害を画像化する拡散係数
画像を用い、さらに組織学的な変化に基づいて、実験的脳虚血モデルを用いた ischemic penumbra の画像化を行
った。
研究目的
ラット MCAO(middle cerebral artery occlusion)脳虚血モデルを用いた検討から、permanent ischemia にお
いて虚血 3 時間後の拡散強調画像から計算されたみかけの拡散係数画像(ADC 画像: apparent diffusion
coefficient)で変化のみられた制限された拡散の領域は、24 時間後に得られた組織標本の虚血性変化の領域にほ
とんど一致していることを見いだした[1、2]。この所見に基づいて、MCAO—虚血 1 時間後再開通の一過性脳虚血
モデルを用いて、脳灌流量の測定と ADC 画像の変化から ischemic penumbra の画像化を行うこととした。
研究方法
約 300gの雄性 Wistar ラット 6 尾を 1 時間再開通 MCAO モデルの対象とした。ラットは、気管内挿管後、
1.5%Isoflurane にて維持し、血液ガス:iSTAT(iSTAT 社製)により pH, PO2, PCO2 を、Pre, 2hr 後, 24hr 後に測
定した。血圧は、大腿動脈より連続モニターし、体温は、直腸温で 37-38℃に温風ヒーター・温水チューブで維持
した。MCAO 再開通には、suture モデルを使用した。4.7T 実験用 MRI 装置(CSI-II Omega,Bruker 社製)に 65mm 径
Shielded Gradient Coil と、画像用に 25mm 径 Surface Coil を、灌流画像の spin labeling は 10mm 径 8 の字型 Spin
Labeling Coil を作成し用いた。撮像パラメータとして、拡散強調画像(DWI)と T2 強調画像(T2WI)には、エコープ
ラナー法により TR = 4000ms, TE = 80ms、Matrix = 64 x 64, na = 12、b factor = 0, 104, 416, 936, 1665(s/mm2)
を用い、脳灌流画像(PI)として Arterial Spin Labeling (ASL) 法を TR = 4000ms, TE = 80ms、Matrix = 64 x 64,
na = 8 で使用した。測定は、灌流画像と拡散強調画像を連続して撮影したが、虚血中、再開通直後、再開通 30 分、
60 分、および 24 時間後に撮像した。24 時間後の MRI 撮影後、4%リン酸緩衝ホルマリン液にて灌流固定し、断頭
した。H&E 染色により虚血性変化として necrosis, microvacuolation, shrinkage of neuropil, presence of dark
neurons, eosinophilic neurons が認められた領域を含めて、脳断面を、虚血障害皮質領域、虚血障害線条体領域、
91
Brain
attackから脳を守るための研究
虚血障害その他、非虚血障害部位に区分した(図 1)
。画像処理は、UNIX 上の MRVision (MRVision 社製)を用いて、
各ラットから得られた DWI から ADC Map を作成した。PWI, T2WI の計算、およびマッチ・ミスマッチの計算には
PowerMac G3 上で IDL ver.5.5 (Research Systems 社製)を用いて算出した。マッチ領域が ADC<0.6 の領域とし、
かつ灌流量が対側比 40%未満と 40∼60%の領域とした。一方、ミスマッチ領域は、ADC>0.6 で、灌流量の対側比
が 40%未満、40∼60%、60∼80%の領域として表示した。結果はすべて平均±標準偏差で表した。統計処理は、
StatView5.0 (SAS Institute 社製)を用い、repeated measure ANOVA による分散分析のあと、Post-hock 検定に
は Scheffe 法を用いた。
研究成果
T2w の信号変化の結果を図 2 に、それぞれの個体の変化を図 3 に示した。CBF の結果を図 4 に示した。また、ADC
の結果を図 5 に示した。これらの結果から、1)M 強度による各領域内の経時的病態解析結果から、ADC が十分に
低下した領域(マッチ領域)、
また ADC がほとんど変化しない(ミスマッチ領域)で、かつ対側比 60%未満の血
流帯で、24 時間後に T2WI 信号値の有意な上昇が認められた。2)ミスマッチ領域内かつ対側比 60%以上の血流帯
では、24 時間後に T2 信号値の有意な上昇が見られなかった。3)各個体の T2 信号強度の比較では、マッチ領域:
全例で 24 時間後に著明な上昇が認められた。また、4)ミスマッチ領域において、CBF40%以上 60%未満の領域は
全例で T2WI 信号強度の上昇は軽度であり、CBF40%未満の領域では、2 例を除いて信号の上昇は軽度であった。こ
れらの軽度の上昇にとどまる領域は、組織学的に虚血性変化を認めなかった。
虚血障害皮質領域
黄色
虚血障害線条体領域
水色
虚血障害その他
青色
非虚血障害部位
緑色
図4
組織学的所見による領域区分
92
Brain
attackから脳を守るための研究
T2WI 信号強度
n=6
2
Mat<40
Mis<40
Mis<80
1.8
1.6
1.4
Mat<60
Mis<60
* p < 0.05
* *
*
*
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
虚血60分
図5
考
reflow30分
60分
24hr後
時間
Mat:マッチ領域、Mis:ミスマッチ領域の対側比の CBF による T2 強調画像の信号強度の推移
察
ADC、CBF ともに著名に低下したマッチ領域は、24 時間後の T2WI 信号が有意に上昇し、組織学的に虚血性変化
が認められ、この領域は、不可逆的な梗塞巣となると考えられた。一方、ADC に変化が少ないミスマッチ領域のう
ち、CBF が対側比 60∼80%の領域は、T2WI ・病理組織ともに 24 時間後に変化がなく、CBF 40∼60%の領域では T2WI
信号値に有意差があるが、上昇は軽度であり組織学的変化は認めらず、
ischemic penumbra の可能性が示唆された。
加えて、CBF <40%の領域でも 24 時間後の T2WI 信号値の上昇が軽度で、組織学的な虚血性変化も見られない例も
認められ、個体によっては、治療可能性を有していることを示唆された(図 6)。また、今回得られた結果は、ADC、
CBF ともに従来の報告の値から大きな逸脱はみられなかった。しかし、今回の評価では、delayed necrosis に代
表される急性期以後の障害の評価が行われておらず、現在検討を行っているところである。以上、MR 脳灌流画像
/拡散係数画像法を用いて、ラット MCAO 再開通モデルの 1 時間虚血、24 時間後の組織所見から Ischemic Penumbra
領域の画像化が可能となり、個体ごとの評価の重要性が示された。Brain Attack 急性期治療の可能性が示唆され
た。
引用文献
1. Ebisu T, Katsuta K, Fujikawa A, Aoki I, Umeda M, Naruse S, Tanaka C:Early and delayed neuroprotective
effects of FK506 on experimental focal ischemia quantitatively assessed by diffusion-weighted MRI、
Magn Reson Imaging、19、2001
93
Brain
attackから脳を守るための研究
2. Takegami T, Ebisu T, Bito Y, Hirata S, Yamamoto Y, Tanaka C, Naruse S, Mineura K:Mismatch between
lactate and the apparent diffusion coefficient of water in progressive focal ischemia、NMR Biomed、
14、2001
成果の発表
1)原著論文による発表
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
1.
成瀬昭二、恵飛須俊彦、田中忠蔵、樋口敏宏、堀川義治、古谷誠一:「拡散強調エコープラナー画像」、〔日
本臨床、55、(1997 年)〕
2.
恵飛須俊彦、田中忠蔵、梅田雅宏、青木伊知男:
「Diffusion weighted echo planar imaging を用いた臨床
応用」、〔日本臨床、55、(1997 年)〕
3.
北村
真、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏:「Cine-mode 3D MRA による脳の拍動血流動態の観察と血流ベ
クトルの測定」、〔日本臨床、55、(1997 年)〕
4.
恵飛須俊彦、田中忠蔵、梅田雅宏、成瀬昭二:
「中枢神経系における拡散強調画像」、
〔日独医院報、42、
(1997
年)〕
5.
恵飛須俊彦、田中忠蔵、梅田雅宏、福永雅喜、青木伊知男、樋口敏宏、成瀬昭二、上田
聖、佐藤博司:
「Isotropic
diffusion-weighted echo planar MR imaging を用いた脳梗塞急性期・亜急性期の診断」、
〔CI 研究、20、
(1998
年)〕
イ)国外誌
1.
T.Ebisu, C. Tanaka, M.Emeda, M.Kitakura, M. Fukunaga, I. Aoki, H. Sato, T. Higuchi, S. Naruse, Y.
Horikawa, S. Ueda:「Hemorrhagic and nonhemorrhagic stroke: Diagnosis with diffusion-weighted and
T2-weighted echo planar MR imaging」、〔Radiology、203、(1997 年)〕
2.
Ebisu T, Katsuta K, Fujikawa A, Aoki I, Umeda M, Naruse S, Tanaka C:
「Early and delayed neuroprotective
effects of FK506 on experimental focal ischemia quantitatively assessed by diffusion-weighted MRI」、
〔Magn Reson Imaging、19、(2001 年)〕
3.
Takegami T, Ebisu T, Bito Y, Hirata S, Yamamoto Y, Tanaka C, Naruse S, Mineura K:
「Mismatch between
lactate and the apparent diffusion coefficient of water in progressive focal ischemia」
、〔NMR Biomed、
14、(2001 年)〕
2)原著論文以外による発表(レビュー等)
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
1.
田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、福永雅喜、青木伊知男、北村
真、佐藤博司:
「頭部 Perfusion Imaging」
、
〔GE-YMS 共同研究年報、(1997 年)〕
2.
田中忠蔵:「MRIの展望」、〔核医学技術、18、
(1998 年)〕
3.
田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏:「拡散強調画像と脳灌流画像」
、〔脳神経外科の最先端、(1999 年)〕
4.
田中忠藏:「Diffusion MRI 高信号の意味するもの」、〔医学の歩み、191、(1999 年)〕
イ)国外誌
1.
Ebisu T, Tanaka C, Umeda M, Fukunaga M, Aoki I, Watanabe Y, Someya Y, Naruse S:
「Can diffusion-weighted
and perfusion-weighted echo planer imaging provide any information about reversibility in inchemic
94
Brain
attackから脳を守るための研究
damage?」、〔Ultrafast Magnetic Resonance Imaging、
(1999 年)〕
2.
Takegami T, Ebisu T, Bito Y, Tanaka C, Hirata T, Onodera Y, Higuchi T, Naruse S, Mineura K:
「The
relationship between decreased apparent diffusion coefficient of water and increased lactate during
acute focal ischemia in the rat studied by proton echo planar spectroscopic imaging and
diffusion-weighted echo planar imaging」
、〔Ultrafast Magnetic Resonance Imaging、(1999 年)〕
3)口頭発表
ア)招待講演
1.
恵飛須俊彦:「Diffusion imaging の臨床応用」、〔千葉MR研究会、(2000 年 2 月)
〕
イ)応募・主催講演等
1.
T. Higuchi, M. Fukunaga, M.Umeda, T. Ebisu, C. Tanaka, I. Aoki, S. Naruse:「Functional brain mapping
by MR perfusion imaging」
、〔3rd international conference on functional mappingof the human brain、
(1997 年月)〕
2.
T.Ebisu, C.Tanaka, M.Umeda, M.Kitamura, M.Fukunaga, I.Aoki, S.Naruse, T.Higuchi, Y.Horikawa, S.Ueda,
H.Sato:「Diagnosis of Hemorrhagic and Nonhemorrhagic Stroke by Diffusion- and T2-weighted Echo
Plannar Imaging」、
〔International Society for Magnetic Resonance in Medicine, Fifth Scientific Meeting
and Exhibition、
(1997 年 4 月)
〕
3.
T.Ebisu, C.Tanaka, M.Umeda, M.Kitamura, M.Fukunaga, I.Aoki, S.Naruse, T.Higuchi, Y.Horikawa, S.Ueda,
H.Sato:「Discrimination of Cerebral Infarction from Unidentified Bright Objects (UBOs) by the
Combination of Diffusion-weighted Echo Planar Imaging and Fluid-attenuated Inversion Recovery
(FLAIR)」
、〔International Society for Magnetic Resonance in Medicine, Fifth Scientific Meeting and
Exhibition、
(1997 年 4 月)
〕
4.
C.Tanaka, M.Fukunaga, T.Ebisu, M.Umeda, I.Aoki, S.Naruse, T.Higuchi, Y.Horikawa, S.Ueda, H.Satoh:
「 Cerebral Perfusion Imaging using FAIR: Acetazolamide Effects and Clinical Application 」、
〔International Society for Magnetic Resonance in Medicine, Fifth Scientific Meeting and Exhibition、
(1997 年 4 月)
〕
5.
山木垂水、恵飛須俊彦、松本圭吾、梅田雅宏、樋口敏宏、田中忠蔵、成瀬昭二、村上陳訓、岩本芳浩、榊原
毅彦、上田
聖:
「脳外傷、脳虚血に伴う脳浮腫のMRI分子拡散強調画像による病態解析」、
〔第 25 回日本
救急医学会、
(1997 年月)〕
6.
田中忠蔵:「脳の EPI」、〔第 25 回日本磁気共鳴医学会大会、
(1997 年 9 月)
〕
7.
樋口敏宏、福永雅喜、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、竹上徹郎、徳満拓明、堀川義治、成瀬昭二、上田
聖:「Perfusion imagin による脳機能マッピング」、〔第 25 回日本磁気共鳴医学会大会、
(1997 年 9 月)
〕
8.
青木伊知男、田中忠蔵、竹上徹郎、梅田雅宏、恵飛須俊彦、福永雅喜、渡辺康晴、染谷芳明、福田耕治、樋
口敏宏、成瀬昭二:「Arterial Spin Labeling を用いた Echo-planar Perfusion MRI」
、〔第 25 回日本磁気共
鳴医学会大会、(1997 年 9 月)
〕
9.
竹上徹郎、田中忠蔵、青木伊知男、梅田雅宏、恵飛須俊彦、福永雅喜、樋口敏宏、成瀬昭二、上田
聖:
「定
量的 Perfusion および DIffusionMRI を用いた rat focal ischemia model における rCBF と ADC に関する検
討」、〔第 25 回日本磁気共鳴医学会大会、
(1997 年 9 月)
〕
10.
恵飛須俊彦、田中忠蔵、梅田雅宏、福永雅喜、青木伊知男、樋口敏宏、堀川義治、成瀬昭二、上田
聖、佐
藤博司:「Isotropic diffusion-weighted echo planar imaging の臨床応用における有用性」
、〔第 25 回日
本磁気共鳴医学会大会、(1997 年 9 月)
〕
95
Brain
11.
attackから脳を守るための研究
恵飛須俊彦、田中忠蔵、梅田雅宏、福永雅喜、青木伊知男、樋口敏宏、堀川義治、成瀬昭二、上田
聖、佐
藤博司:「脳梗塞と白質高信号域の MRI 鑑別診断 ‐Diffusion-weighted EPI と FLAIR を用いて-」
、〔第 25 回
日本磁気共鳴医学会大会、(1997 年 9 月)
〕
12.
田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、青木伊知男、福永雅喜、北村
田
13.
真、樋口敏宏、成瀬昭二、堀川義治、上
聖:「MR Perfusion Imaging」、〔第 25 回日本磁気共鳴医学会大会、
(1997 年 9 月)
〕
田中忠蔵、恵飛須俊彦、樋口敏宏、成瀬昭二、堀川義治、上田 聖:「MR 脳灌流画像:Spin Labeling 法と
Gd-投与法との比較」、〔第 56 回日本脳神経外科学会総会、
(1997 年 10 月)
〕
14.
T. Ebisu, C. Tanaka, M. Umeda, M. Kitamura, M. Fukunaga, I. Aoki, Y. Watanabe, Y. Somya, S.Naruse,
T.Higuchi, S.Ueda, H.Sato:「Can diffusion-weighted MRI provide any information of the reversibility
in human cerebral ischemia?」、〔International Society for Magnetic Resonance in Medicine, Sixth
Scientific Meeting and Exhibition、(1998 年 4 月)
〕
15.
I.Aoki1, T.Takegami, C.Tanaka, M.Umeda, T. Ebisu, M.Fukunaga, Y.Watanabe, Y.Someya1, T.Higuchi,
S.Naruse, K.Fukuda,
K. Shinohara :「 Lower Limitation of Cerebral Perfusion Measurement using
Arterial Spin Labeling and Gadolinium Dynamic Study」、〔International Society for Magnetic Resonance
in Medicine, Sixth Scientific Meeting and Exhibition、(1998 年 4 月)
〕
16.
T.Takegami,
I.Aoki,
C.Tanaka,
M.Umeda, T.Ebisu,
M.Fukunaga,
T.Higuchi, S.Naruse, T.Tokumitu,
Y.Horikawa, S.Ueda :「 Pathophysiological analysis of rat middle cerebral artery occlusion
by
measuring rCBF and ADC」、〔International Society for Magnetic Resonance in Medicine, Sixth Scientific
Meeting and Exhibition、
(1998 年 4 月)
〕
17.
恵飛須俊彦、田中忠蔵、樋口敏宏、成瀬昭二、堀川義治、上田
聖、佐藤博司:「脳虚血急性期における
Diffusion-weighted echo planar MR imaging」、〔第 21 回日本脳神経CI研究会、
(1998 年 2 月)
〕
18.
樋口敏宏、福永雅喜、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、竹上徹郎、徳満拓明、堀川義治、成瀬昭二、上田
聖:「Perfusion MRI による新しい Functional imaging」
、〔第 21 回日本脳神経CI研究会、
(1998 年 2 月)〕
19.
竹上徹郎、田中忠蔵、青木伊知男、梅田雅宏、恵飛須俊彦、樋口敏宏、成瀬昭二、上田
聖:
「定量的 Perfusion
および Diffusion MRI を用いた実験的脳虚血の検討」
、〔第 21 回日本脳神経CI研究会、
(1998 年 2 月)
〕
20.
青木伊知男、田中忠蔵、竹上徹郎、梅田雅宏、恵飛須俊彦、樋口敏宏、成瀬昭二:
「Arterial Spin Labeling
法および Bolus Tracking 法を用いた Rat Brain Perfusion 評価の試み」
、〔第 21 回日本脳神経CI研究会、
(1998 年 2 月)
〕
21.
恵飛須俊彦、田中忠蔵、樋口敏宏、成瀬昭二、堀川義治、上田
聖、佐藤博司:
「Isotropic diffusion-weighted
echo planar MR imaging を用いた脳梗塞急性期の診断」、〔第 21 回日本脳神経CI研究会、
(1998 年 2 月)
〕
22.
竹上徹郎、青木伊知男、恵飛須俊彦、尾藤良孝、田中忠蔵、梅田雅宏、平田智嗣、小野寺由香里、樋口敏宏、
福永雅喜、成瀬昭二、上田
聖:「実験的脳虚血における定量的 perfusionMRI, diffusion
- MRI および
spectroscopic imaging を用いた検討-」、〔第 26 回日本磁気共鳴医学会大会、
(1998 年 9 月)
〕
23.
田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、青木伊知男、福永雅喜、北村
真、樋口敏宏、成瀬昭二、 堀川義治、
佐藤博司:
「マルチスライスFAIR法の検討」、〔第 26 回日本磁気共鳴医学会大会、
(1998 年 9 月)
〕
24.
恵飛須俊彦、田中忠蔵、梅田雅宏、福永雅喜、青木伊知男、北村真、渡辺康晴、染谷芳明、樋口敏宏、成瀬
昭二:「Diffusion-weighted echo planar imaging によるヒト脳虚血急性期の検討」、〔第 26 回日本磁気共
鳴医学会大会、
(1998 年 9 月)
〕
25.
田中忠蔵、恵飛須俊彦、樋口敏宏、成瀬昭二、堀川義治:
「MR脳灌流画像による急性期脳血管疾患の検討」
、
〔第 57 回日本脳神経外科学会総会、
(1998 年 10 月)
〕
26.
竹上徹郎、恵飛須俊彦、田中忠蔵:「実験的脳虚血における MRI を用いた perfusion と diffusion の定量的
検討」、〔第 57 回日本脳神経外科学会総会、
(1998 年 10 月)
〕
96
Brain
27.
attackから脳を守るための研究
恵飛須俊彦、田中忠蔵、樋口敏宏、成瀬昭二、堀川義治、上田
聖:「Diffusion -weighted MRI によりヒ
ト脳虚血急性期における reversibility の情報が得られるか?」
、
〔第 57 回日本脳神経外科学会総会、
(1998
年 10 月)
〕
28.
青木伊知男、竹上徹郎、田中忠蔵、梅田雅宏、恵飛須俊彦、樋口敏宏、成瀬昭二:
「Arterial Spin Labeling
MRI 法による定量的 rCBF 測定の評価」
、〔第 10 回脳循環代謝学会総会、
(1998 年 11 月)
〕
29.
田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、青木伊知男、福永雅喜:「Diffusion/Perfusion MR Imaging による急性
期脳虚血病態の検討」
、〔第 10 回脳循環代謝学会総会、
(1998 年 11 月)
〕
30.
田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、福永雅喜、青木伊知男、北村
真、佐藤博司:
「頭部 Perfusion Imaging」
、
31.
T. Ebisu, C. Tanaka, M. Umeda, M. Fukunaga, I. Aoki, Y. Watanabe, Y. Someya, and S. Naruse:
「Can
〔97 年度 GE-YMS 共同研究発表会、
(1998 年 1 月)
〕
Diffusion-weighted and Perfusion-weighted Echo Planar Imaging Provide Any Information about
Reversibility in Ischemic Damage?」、
〔International Symposium on Ultrafast Magnetic Resonance Imaging
in Medicine、(1999 年 1 月)
〕
32.
T. Takegami, T. Ebisu, Y. Bito, C. Tanaka, T. Hirata, Y. Onodera, T. Higuchi, S. Naruse and K. Mineura:
「Spectroscopic Imaging and Diffusion-weighted Echo Planar Imaging」、〔International Symposium on
Ultrafast Magnetic Resonance Imaging in Medicine、(1999 年 1 月)
〕
33.
恵飛須俊彦:「拡散強調画像の臨床応用」
、〔第 27 回日本磁気共鳴医学会大会、
(1999 年 9 月)
〕
34.
竹上徹郎、恵飛須俊彦、尾藤良孝、平田智嗣、田中忠蔵、成瀬昭二、峯浦一喜:
「実験的脳虚血における MRI/MRS
を用いた penumbra 領域の検討」
、〔第 27 回日本磁気共鳴医学会大会、
(1999 年 9 月)
〕
35.
渡辺康晴、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、青木伊知男、福永雅喜、染谷芳明、竹上徹郎、成瀬昭二:
「運
動後の骨格筋に対する電気刺激の影響」、〔第 27 回日本磁気共鳴医学会大会、
(1999 年 9 月)
〕
36.
恵飛須俊彦、田中忠蔵:「脳虚血診断における Diffusion-weighted MRI 読影上の Pitfall」
、〔第 58 回日本
脳神経外科学会総会、(1999 年 10 月)
〕
37.
竹上徹郎、恵飛須俊彦、尾藤良孝、平田智嗣、成瀬昭二、峯浦一喜:「実験的脳虚血における MRI/MRS を用
いた penumbra 領域の検討」
、〔第 58 回日本脳神経外科学会総会、
(1999 年 10 月)
〕
38.
Ebisu T, Katsuta K,
Fujikawa A,
Aoki I, Umeda M,
Naruse S,
Tanaka C:「Neuroprotective effects
of FK506 on experimental focal ischemia quantitatively assessed by diffusion-weighted MRI 」、
〔International Society for Magnetic Resonance in Medicine, Eighth Scientific Meeting and Exhibition、
(2000 年 4 月)
〕
39.
Ebisu T, Tanaka C, Umeda M, Fukunaga M, Aoki I, Watanabe Y, Someya Y, Naruse S:
「Diffusion-weighted
MRI indicates that both vasogenic and cytotoxic edema contributes to human brain contusion 」、
〔International Society for Magnetic Resonance in Medicine, Eighth Scientific Meeting and Exhibition、
(2000 年 4 月)
〕
40.
Aoki I, Tanaka C, Ebisu T, Katsuta K, Fujikawa A, Umeda M, Fukunaga M, Watanabe Y, Someya Y, Takegami
T, Naruse S:
「Mismatch between the manganese ion influx and decreased apparent diffusion coefficient
of water in the focal ischemia」、〔International Society for Magnetic Resonance in Medicine, Eighth
Scientific Meeting and Exhibition、
(2000 年 4 月)
〕
41.
Ebisu T, Katsuta K, Fujikawa A, Aoki I, Umeda M, Fukunaga M, Watanabe Y, Someya Y, Naruse S, Tanaka
C:「Neuroprotective effects of FK506 on experimental focal ischemia assessed by diffusion-weighted
MRI」、〔第 28 回日本磁気共鳴医学会大会、
(2000 年 10 月)
42.
福永雅喜、田中忠蔵、梅田雅宏、染谷芳明、服部憲明、井上典子、恵飛須俊彦、渡辺康晴、森勇樹、青木伊
知男、浦田繁、澤田徹、R. T. Engelhardt、椛沢宏之、成瀬昭二:
「3 テスラ MR による高空間分解能 diffusion
97
Brain
attackから脳を守るための研究
tensor imaging の測定経験」
、〔第 28 回日本磁気共鳴医学会大会、
(2000 年 10 月)
〕
43.
渡辺康晴、浦田繁、森勇樹、染谷芳明、福永雅喜、青木伊知男、梅田雅宏、恵飛須俊彦、田中忠蔵、成瀬昭
二:「骨格筋の運動における ADC 変化」
、〔第 28 回日本磁気共鳴医学会大会、
(2000 年 10 月)
〕
44.
青木伊知男、田中忠蔵、恵飛須俊彦、勝田清貴、藤川昭彦、梅田雅宏、福永雅喜、染谷芳明、渡辺康晴、森
勇樹、福田耕治、成瀬昭二、A. C. Silva、A. P. Koretsky:
「急性期ラット中大脳動脈虚血モデルにおける
賦活誘発マンガン造影法(AIM MRI)の試み」、〔第 28 回日本磁気共鳴医学会大会、
(2000 年 10 月)
〕
45.
田中忠蔵、恵飛須俊彦:「Mn ion flux と拡散係数画像による脳虚血の検討」、〔第 59 回日本脳神経外科学会
総会、(2000 年 10 月)
〕
46.
恵飛須俊彦、田中忠蔵:
「実験的局所脳虚血に対する FK506 の有用性に関する検討−拡散強調画像を用いて−」
、
〔第 59 回日本脳神経外科学会総会、
(2000 年 10 月)
〕
47.
福永雅喜、田中忠蔵、梅田雅宏、服部憲明、井上典子、恵飛須俊彦、染谷芳明、渡辺康晴、森勇樹、澤田徹、
R. T. Engelhardt、椛沢宏之、成瀬昭二:
「3.0/1.5T 装置による diffusion tensor imaging」
、〔第 13 回臨
床 MR 脳機能研究会、(2000 年 8 月)
〕
48.
Watanabe Y, Tanaka C, Ebisu T, Umeda M, Someya Y, Mori Y, Fukunaga M, Aoki I, Naruse S:
「The new
approach of skeletal muscle contraction imaging」、〔9th ISMRM 、(2001 年 4 月)
〕
49.
Ebisu T, Takegami T, Bito Y, Hirata S, Yamamoto Y, Umeda M, Naruse S, Tanaka C:「Mismatch between
lactate and the apparent diffusion coefficient of water in progressive focal ischemia」
、〔9th ISMRM 、
(2001 年 4 月)
〕
50.
Thomas ER, Umeda M, Hattori N, Tanaka C:「Correlation of human keg muscle fiber orientation by
Diffusion Tensor Imaging with creatine spectra by 1H-CSI at 3T」、〔International workshop on non
inversive investigation of muscle function、(2001 年 10 月)
〕
51.
田中忠蔵:「運動性とイメージング」、〔日本磁気共鳴医学会第 23 回MR基礎講座、
(2001 年 8 月)
〕
52.
渡辺康晴、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、青木伊知男、福永雅喜、染谷芳明、森勇樹、成瀬昭二:
「The
new approach of skeletal muscle contraction imaging」、
〔第 14 回磁気共鳴代謝研究会、
(2001 年 7 月)〕」
、
〔第 29 回日本磁気共鳴医学会大会、
(2001 年 9 月)
〕
53.
渡辺康晴、田中忠蔵、恵飛須俊彦、梅田雅宏、染谷芳明、森勇樹、福永雅喜、青木伊知男、成瀬昭二:
「The
functional imaging of muscle fiber contraction」
、〔第 29 回日本磁気共鳴医学会大会、
(2001 年 9 月)〕
98
Brain
attackから脳を守るための研究
1.1. 新たな脳機能と脳病態の画像化に関する研究
1.1.2. 脳血管障害超急性期診断法と病態画像に関する研究
1.1.2.1. Diffusion MRIとharmonic imaging法(神経超音波技術による脳循環画像化)による超
急性期脳血管障害病態迅速評価法の検討
国立循環器病センター内科脳血管部門
木村
要
和美、松本
典子、米村
公伸
約
目的は、MRI を用いて症候性の半卵円小梗塞の発症機序を明らかにすることである。方法は、初め retrospective
に従来の MRI および diffusion MRI (DWI)で検出された半卵円小梗塞を 1)ラクナ梗塞、2)大梗塞に伴う小梗塞例
と比較し、さらに、transcranial Doppler (TCD)を用い microembolic signals (MES)と小梗塞との関係を検討し
1)DWI の有用性、2)半卵円小梗塞の発症機序をあきらかにした。次に、prospective に皮質および皮質下の小梗
塞患者を登録し retrospective
study の仮説が正しいか否かを検証し、さらに、急性期の神経症候増悪の病態を
DWI を用い解明した。結果は、以下の通りであった。1)DWI は、急性期半卵円小梗塞の検出には従来の MRI 法や
CT と比べ優れていた。2)症候性の半卵円小梗塞は、small-vessel disease を主病因とするラクナ梗塞とは異な
り、多くは large-vessel disease や心原性塞栓と強い関連がみられた。3)急性期の神経症候増悪と梗塞の再発
との関連が示唆された。以上より、DWI は症候性の半卵円小梗塞の描出に優れており、症候性梗塞を有する患者で
は急性期の神経症候増悪を予防する上でも、動脈病変及び心疾患を検索すべきであると考えられた。
近年、超音波造影剤を使用した contrast harmonic imaging(CHI)法が経頭蓋超音波に応用されている。そこ
で、harmonic imaging 法を用い健常人 12 人の脳灌流の評価を行った。harmonic imaging 法で定性的に脳灌流を
評価できる可能性が示されたが、その定量化にはなお解決すべき問題点が多い。
研究目的
1. Diffusion
MRI(DWI)による超急性期脳血管障害病態迅速評価法の検討
大脳半球皮質下の白質には大きく 2 つの血管支配要域がある。基底核、内包、放線冠、尾状核頭、視床などの
深部穿通枝領域と、半卵円中心として知られる表在穿通枝、つまり MCA の表在枝より起始する白質髄質動脈の領
域である。前者の領域の小梗塞は small-vessel disease を主病因とするラクナ梗塞とする考えが一般的である。
後者(半卵円小梗塞)は大きさや形状がラクナ梗塞に類似していることからラクナ梗塞と混同されがちであるが、
その原因については不明な点が多い[1-3]。
DWI は、従来困難であった新しい虚血病変の検出に威力を発揮し、新鮮梗塞と陳旧性病変との鑑別に有用である
[4,5]。一方、超音波を用いることにより、中大脳動脈に流れている微小血栓を microembolic signals(MES)とし
て検出できる [6,7]。MES の存在は、塞栓性機序による脳梗塞の診断の根拠となり得る。半卵円小梗塞の急性期症
例で、神経症候の増悪する例が存在する。
今回の研究は、DWI で検出される症候性の半卵円小梗塞を、1)基底核及び内包の小梗塞(ラクナ梗塞)
、2)大
梗塞に伴う半卵円小梗塞例と比較し、また MES とこれら小梗塞の関連を調べることにより症候性半卵円小梗塞の
99
Brain
attackから脳を守るための研究
原因を明らかにすることを目的とした。さらに、神経症候増悪例に DWI の再検を行い、神経症候増悪の原因を追
及した。
2. Contrast harmonic imaging による brain perfusion 迅速評価法の検討
近年、超音波造影剤を使用した contrast harmonic imaging(CHI)法が経頭蓋超音波に応用されている[8,9]。
これは、照射された超音波パルスによって、組織灌流中の超音波造影剤(微小気泡)が共振して、その際に発生
する高調周波数成分(ハーモニック)のみを受信し、画像化するものである。本法では、造影剤による脳組織の
増強効果を視認できるばかりでなく、任意の関心領域(ROI)を設定することで、局所脳組織灌流状態を評価し得
る可能性がある。本研究の目的は CHI 法の脳灌流評価における有用性と問題点を検討することである。
研究方法
1. Diffusion
MRI(DWI)による超急性期脳血管障害病態迅速評価法の検討
まず、症候性の半卵円小梗塞の発症機序を 1)ラクナ梗塞、2)大梗塞に伴う小梗塞例を retrospective に比較し、
さらに、MES と小梗塞との関係を DWI 施行例で検討した。次に、皮質および皮質下の小梗塞患者を prospective に
登録し、retrospective
study の結果が正しいか否かを検証し、急性期の神経症候の増悪の原因を追求した。
1) Retrospective study :DWI による半卵円小梗塞の発症起序についての検討
A
基底核及び内包の小梗塞(ラクナ梗塞)と比較
1996 年 10 月から 2000 年 9 月までに、
発症 7 日以内に当院へ入院した急性期脳梗塞もしくは TIA 患者連続 582
例から、MRI 上半卵円小梗塞(半卵円中心群)もしくは基底核のラクナ梗塞(ラクナ群)が確認された患者を選
んだ。半卵円小梗塞は、MCA の表在穿通枝領域に限局した径 15mm に満たない MRI 上の単発梗塞と定義した。ラ
クナ梗塞は、MCA の深部穿通枝領域(被殻、淡蒼球、内包)に限局した径 15mm 未満の MRI 上の単発梗塞と定義
した。以下の臨床的事項について 2 つの患者群で比較検討した。1)患者の年齢及び性、2)発症形式及び入院
時の NIHSS、3)高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、喫煙などの血管危険因子、4)塞栓源心疾患、5)患
側頸動脈系の有意な動脈病変。検討した MRI は通常のT1 強調、T2 強調、FLAIR 画像、及び DWI である。T2 と
FLAIR 画像で高信号かつ T1 強調画像で等からやや低信号、もしくは DWI で高信号を呈する病変を新しい梗塞巣
と判断した。DWI と従来の MRI の病巣の検出率を比較した。
危険因子は以下の様に定義した。1)降圧薬の服用、または入院時の収縮期血圧>160mmHg もしくは拡張期血
圧>95mmHg を高血圧;2)血糖降下薬もしくはインスリンの使用、または HbA1C>6.4%を糖尿病;3)高脂血症
用薬の服用、または血中コレステロール>220mg/dL を高コレステロール血症とした。
塞栓源心疾患を検出する目的で、全患者に 12 誘導心電図、24 時間心電図モニター、経胸壁心エコーを施行し
た。非弁膜性心房細動(nonvalvular atrial fibrillation, NVAF)、僧帽弁狭窄、左心室瘤、人工弁、洞不全
症候群、心内膜炎、拡張型心筋症を塞栓源心疾患とした。
患側頸動脈系の動脈病変の評価には、頸部血管エコー、脳血管造影、MRA を用いた。頸部血管エコーは全例に
施行した。また全例に MRA(82 例)または脳血管造影(27 例)のいずれかを施行した。動脈の狭窄度は NASCET
の criteria に従い、患側頸動脈系における 50%以上の狭窄、閉塞、潰瘍形成を有意な動脈病変とした。
統計解析には市販の software package(Stat-View, version 5.0)を使用した。単変量解析には 2 群間で
χ2 検定と t 検定を行った。さらに 2 群で多変量の logistic regression 解析を行った。独立変数として年齢、
性、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、喫煙、塞栓源心疾患、有意な動脈病変を挙げた。p<.05 を統計
学的有意とした。
100
Brain
B
attackから脳を守るための研究
大梗塞に伴う半卵円小梗塞例との比較
対象は、2000 年 1 月 1 日より同年 12 月 31 日までに虚血性脳血管障害にて当センターに入院し、発症後 7 日
以内に DWI が撮像された症例のうち、テント上に多発性の急性脳虚血病巣を有する連続 39 例(男性 32 例,女
性 7 例,平均年齢 73 歳)である。多発性の急性脳虚血病巣とは、DWI 上の急性虚血病巣が解剖学的に離れてい
る(2 つの病巣が空間的に離れている、または DWI の連続スライスで病巣の連続性がない)ものとした。
入院時 DWI の画像所見より、散在性病変のみの群(小梗塞群:28 例)と皮質下∼皮質を含む 1/2 脳葉以上の
大病変に散在性病変を合併した群(大梗塞群:11 例)の 2 群に分類した。
2 つの患者群で以下の臨床的事項を比較検討した。1)患者の年齢及び性、2)発症形式及び入院時の NIHSS、
3)高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、喫煙などの血管危険因子、4)塞栓源心疾患、5)患側頸動脈系の
有意な動脈病変。血管危険因子、塞栓源心疾患。
統計解析は、群間比較のノンパラメトリック検定としてχ2 検定および Mann Whitney の U 検定、パラメトリ
ック検定として unpaired t 検定を用いた。p<.05 を統計学的有意とした。
C
MES と小梗塞との関連
1998 年 6 月から 1999 年 8 月までに、発症 2 日以内に当院へ入院した急性期脳梗塞で transcranial
Doppler(TCD)を施行できた 28 人である。MES 陽性群(10 例)と陰性群(18 例)とに分けて、以下の項目につい
て比較検討した。1)患者の年齢、2)発症形式及び入院時の NIHSS、3)高血圧、糖尿病、高コレステロール血
症、喫煙などの血管危険因子、4)塞栓源心疾患、5)患側頸動脈系の有意な動脈病変、6)DWI 所見。血管危険
因子、塞栓源心疾患。DWI 所見は、病巣の部位(皮質、皮質下、穿通枝領域)
、大きさ(<10mm、10-30mm、
>30mm)、梗塞巣の数を検討した。
統計解析は、群間比較のノンパラメトリック検定としてχ2 検定および Mann Whitney の U 検定を用いた。p
<.05 を統計学的有意とした。
2)Prospective study:DWIを用い皮質を含む半卵円中心における小梗塞の発症機序、および、急性期神経
症候増悪の病態についての検討
2000 年 1 月から 2002 年 2 月までに、発症 7 日以内に当院へ入院し DWI を施行された患者のうち、皮質および半
卵円中心に径 15mm以下の小梗塞を有する例を、prospective に登録した。
対象患者については、以下の項目を検討した。1)患者の年齢、性、2)入院時の NIHSS スコア、3)退院時の modified
Rankin score (mRS)、4)入院前 7 日以内の TIA の有無、5)血糖値、フィブリノーゲン、ヘマトクリット値、6)
凝固線溶系(AT III,TAT)7)高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、喫煙などの血管危険因子、8)塞栓源心
疾患、9)患側頸動脈系の有意な動脈病変、10)大動脈弓部複合粥腫病変。なお、11)神経症候が増悪(NIHSS が
2 以上増加)した場合は、DWI 再検査を行った。
統計解析は、群間比較のノンパラメトリック検定としてχ2 検定および Mann Whitney の U 検定を用いた。p<.05
を統計学的有意とした。
2. Contrast
harmonic imaging による brain perfusion 迅速評価法の検討
対象を健常人 12 人(男性 9 人、女性 3 人、平均 30.4±2.4 歳)とした。Harmonic imaging に使用した機種は
Hewlett Packard 社製 SONOS 5500 で、探触子には送信/受診が 1.8/3.6 または 1.3/2.6MHz のセクタープローブを
用いた。Integrated backscatter モードで、側頭骨ウィンドウより第 3 脳室、視床、側脳室前角が 1 断面上に描
出されるようにプローブを固定した後、超音波照射による微少気泡の崩壊後に充分な還流を得るために、心電図
同期下で 2∼4 心拍に設定した間欠照射(triggered)モードを追加し、造影剤投与後の脳組織の増強効果を観察
した。超音波造影剤にはガラクトース・パルミチン酸 999:1 混合物(レボビスト)を使用し、被検者の右肘静脈
101
Brain
attackから脳を守るための研究
に確保したルートから 300mg/ml×4ml(1/2 バイアル)をボーラス静注した。Acoustic densitometry(AD)機能
を用いて両側の視床、レンズ核、側頭葉皮質下に設定した各 ROI から time-intensity 曲線を算出し(図 1、2)、
各々について peak intensity(PI)、peak intensity までの時間(TP)、曲線下の面積(AUC)を測定し、左右で
比較した。
図 1 : 健常人を対象とした超音波造影剤による contrast harmonic imaging
健常人の右肘静脈より超音波造影剤のボーラス静注前後で、経頭蓋超音波検査を施行した。造影剤投与後、視床、
レンズ核、皮質下での増強効果が観察された。
102
Brain
attackから脳を守るための研究
図 2 : Contrast harmonic imaging 法におけるパラメータ算出法
脳灌流評価を目的に、皮質下、レンズ核、視床に関心領域(ROI)を設定し(左)、各 ROI における超音波造影剤投与
前後での time-intensity 曲線を算出した(右)。左右の各 ROI における peak intensity(PI)、peak intensity ま
での時間(TP)、曲線下の面積(AUC)を測定した。
研究成果
1−1)Retrospective study:Diffusion
MRI による超急性期脳血管障害病態迅
速評価法の検討
A
基底核及び内包の小梗塞(ラクナ梗塞)と比較
半卵円中心梗塞 38 例(6.5%)
、ラクナ梗塞 68 例(11.7%)で、男性 68 名、女性 38 名、平均 67.4±10.1 歳で
あった。
38 例の半卵円中心梗塞患者のうち、通常の MRI で梗塞巣が確認されたのは 18 例(47%)のみであった。残り
の 20 例(53%)では、通常の MRI 上半卵円中心梗塞と同等の信号強度を呈する多発性あるいはびまん性の白質
病変が共存するために、DWI によってのみ半卵円中心梗塞を同定可能であった。これに対してラクナ梗塞患者で
は、59 例(87%)が通常の MRI 単独で同定できた。
2 つの患者群の臨床的背景の特徴を表 1 に示す。突発型の発症様式をとったのは、半卵円梗塞群 24 例(63%)、
ラクナ梗塞群 18 例(26%)で、統計学的に有意な差があった(p < .0005)
。年齢、性、入院時の NIHSS、そして
血管危険因子については 2 群間で有意差を認めなかった。全体で 21 例(20%)に塞栓源心疾患が検出された。
半卵円梗塞患者 38 例中 13 例(34%)に対し、ラクナ梗塞患者では 68 例中 8 例(12%)であった(p < .01)
。
計 33 例に有意な動脈病変が検出された。有意な動脈病変は、半卵円梗塞患者 20 例(53%)、ラクナ梗塞群 13
例(19%)に検出され差があった(p < .0005)
。5 例(半卵円中心梗塞患者 3 例とラクナ梗塞患者 2 例)は塞栓
源心疾患と有意動脈病変の両者を有していた。従って、計 30 例(79%)の半卵円中心梗塞患者には塞栓源心疾
103
Brain
attackから脳を守るための研究
患もしくは有意な動脈病変が潜在していたが、ラクナ梗塞患者では 19 例(28%)であった。
半卵円梗塞の多変量 logistic regression model を表 2 に呈示する。年齢、性、血管危険因子で補正後も、
塞栓源心疾患(OR
5.41, 95% CI 1.74-16.9, p < .005)と有意動脈病変の存在(OR 6.75, 95% CI 2.46-18.5,
p < .0005)は半卵円梗塞と有意な関連を示した。
表 1. 半卵円小梗塞群とラクナ群の臨床背景
半卵円小梗塞群
ラクナ梗塞
n = 38
n = 68
p
男
28 (74)
40 (59)
0.1260
年齢
67 ± 10
68 ± 10
0.8811
高血圧
24 (63)
47 (69)
0.5315
糖尿病
12 (32)
21 (31)
0.9408
高脂血症
14 (37)
28 (41)
0.6617
たばこ
23 (61)
41 (60)
0.9813
突発発症
24 (63)
18 (26)
0.0002
NIHSS スコア
3.7 ± 2.1
4.3 ± 2.4
0.2374
ラクナ症候群
19 (50)
55 (81)
0.0009
Pure motor
14 (37)
39 (57)
0.0428
Pure sensory
0
0
Sensorimotor
3 (8)
12 (18)
0.2467
Ataxic hemiparesis
2 (5)
2 (3)
0.6166
Dysarthria clumsy-hand
0
2 (3)
0.5357
非ラクナ症候群
19 (50)
13 (19)
0.0009
Monoparesis
10 (26)
3 (4)
0.0017
4 (11)
3 (4)
0.2467
2 (5)
3 (4)
>0.9999
-
Hemiparesis with major
hemispheric symptoms
Pure dysarthria
104
Brain
attackから脳を守るための研究
Other symptoms
3 (8)
4 (6)
0.6993
塞栓源心疾患
13 (34)
8 (12)
0.0054
心房細動
7
4
心室瘤
2
2
僧房弁狭窄
2
0
置換弁
2
0
洞不全症候群
0
1
拡張型心筋症
0
1
閉塞性動脈
20 (53)
13 (19)
狭窄 > 50%
12
5
閉塞
2
0
MCA 狭窄 > 50%
6
8
ICA
0.0004
表 2. 半卵円梗塞の多変量 logistic regression model
B
OR
95% CI
p
男
2.23
0.73-6.82
0.1607
年齢
0.99
0.94-1.03
0.5409
高血圧
0.80
0.26-2.50
0.7021
糖尿病
0.45
0.15-1.35
0.1527
高脂血症
0.92
0.35-2.39
0.7633
たぼこ
0.76
0.26-2.24
0.6245
塞栓源心疾患
5.52
1.61-18.9
0.0065
動脈病変
8.13
2.83-23.3
<0.0001
大梗塞に伴う半卵円小梗塞例と比較
小梗塞巣群、大梗塞群の 2 群間には性別、年齢に有意差はなく、危険因子、心房細動、虚血性心疾患合併の
有無にも有意差は見られなかった(表 3)。主幹脳動脈病変の合併は、小梗塞群 17 例、大梗塞群 2 例に見られ、
小梗塞群で有意に高率であった。主幹脳動脈病変と心房細動の重複は小梗塞群の 4 例に見られたが、大梗塞群
105
Brain
attackから脳を守るための研究
ではなかった。大動脈複合粥腫病変は、TEE を行った小梗塞群 14 例中 6 例、大梗塞群 5 例中 3 例に認められた。
小梗塞群のうち、病巣が分水嶺や終末領域に存在したのは 12 例で、このうち主幹脳動脈有意狭窄性病変を合
併したのは 8 例(頸部内頸動脈 3 例、頭蓋内動脈 5 例)であった。残る 4 例中 1 例は心房細動、1 例は大動脈複
合粥腫病変と心房細動を合併していた。病巣が皮質・皮質下(うち 5 例は深部白質にも病巣を合併)に存在し
た 16 例中 9 例(56%)(頸部内頸動脈 8 例、頭蓋内動脈 2 例、重複 1 例)は主幹脳動脈有意狭窄性病変を合併
した。
入院時の NIHSS スコアの中央値は大梗塞群 4 点、大梗塞群 16 点であり、小梗塞群で有意に軽症であった。退
院時 mRS スコアの中央値は、小梗塞群 1 点、大梗塞群 4 点であり、小梗塞群で有意に転帰が良好であった。
表 3 : 患者背景
小梗塞群
大梗塞群
p
症例数
28
11
NS
性別(M/F)
24/4
8/3
NS
年齢(歳)
72±11
74±9
NS
高血圧(%)
20(71)
8(73)
NS
糖尿病(%)
12(43)
2(18)
NS
高脂血症(%)
8(29)
2(18)
NS
喫煙(%)
15(54)
4(36)
NS
虚血性心疾患(%)
9(32)
1(9)
NS
8(26)
6(55)
NS
動脈病変(%)
17(61)
2(18)
<0.05
頸部内頸動脈(n)
11
2
狭窄/閉塞
9/2
1/1
頭蓋内動脈狭窄(n)
6
0
狭窄/閉塞
5/1
0/0
心房細動
(%)
年齢:平均値±SD
C
MES と小梗塞との関連
表 4 に、MES 陽性と陰性群間の臨床背景を示す。年齢、危険因子、塞栓源となり得る心疾患の有無に有意差は
見られなかった。主幹脳動脈有意狭窄性病変は、17 例(頸部内頸動脈 7 例、頭蓋内動脈 10 例)に見られ、MES
陽性群で多かった。DWI 所見は、小梗塞(<10mm)が 18 例に見られ、MES 陰性群に比べ MES 陽性群に多かっ
た(図 3)。中梗塞(10-30m)、大梗塞(30mm<)の数は、両群間で差がなかった。
106
Brain
attackから脳を守るための研究
表 4 : 患者背景
MES 陽性群
MES 陰性群
p
症例数
10
18
NS
年齢(歳)
61±15
70±10
NS
高血圧(%)
7(70)
13(72)
NS
糖尿病(%)
3(30)
8(44)
NS
高脂血症(%)
4(40)
9(50)
NS
喫煙(%)
7(70)
12(67)
NS
塞栓源心疾患(%)
0(0)
5(28)
NS
動脈病変(%)
9(90)
8(44)
0.018
入院時 NIHSS
8.5±4.7
8.9±2.5
NS
年齢:平均値±SD
図 3 : 急性期脳梗塞例における微小血栓シグナル (MES)有無別の小梗塞巣数
急性期脳梗塞例(発症2日以内)に対して経頭蓋超音波検査を施行し、微小血栓シグナル(microembolic signal, MES)
検出の有無と diffusion MRI (DWI) 所見とを比較検討した。DWI 上、18 例に小梗塞(径<10mm)が見られ、MES 陽性群
が陰性群に比べて小梗塞の数が有意に多かった。
107
Brain
attackから脳を守るための研究
1−2)Prospective study:DWIを用い皮質を含む半卵円中心における小梗塞の発症機序、および、急性期神
経症候増悪の病態についての検討
虚血性脳血管障害患者連続 404 例中 356 例(85%)に DWI が施行され、46 例(男 35 例、女 11 例、平均 70.3 歳)
に皮質および半卵円中心小梗塞がみられた。脳動脈病変は 23 例(50%)、塞栓源となり得る心疾患は 22 例(48%)
、
大動脈弓部複合粥腫病変は 17/30 例(57%)であった。結局、46 例中 41 例(89%)が塞栓源のなり得る病変を
有していた。
発症 7 日以内に神経症候の増悪を認めたのは 6 例(増悪群;13%)で、残る 40 例(非増悪群:87%)では増悪
は認められなかった。表 5 に、両群の患者背景を示す。入院時の血圧のみが増悪群で高値であったが、その他の
因子には 2 群間で有意な差がなかった。神経症候増悪後に DWI を施行した増悪群 5 例中 4 例に新たな虚血巣が認
められた(図 4)
。
表5
患者背景
p
増悪群
非増悪群
n=6
n=40
72.2 ± 9.0
70.1 ± 10.7
0.65
5/1
30/10
0.66
0
6 (15)
0.58
32.7 ± 20.6
40.4 ± 42.4
0.76
入院時 NIHSS score (median±SD)
6 ± 2
3 ± 4
0.10
退院時 modified Rankin scale (mean±SD)
2 ± 2
1 ± 1
0.73
36.8 ± 0.6
36.3 ± 0.5
0.061
収縮期血圧, mmHg
169.3 ± 22.1
146.4 ± 19.9
0.027
拡張期血圧, mmHg
90.7 ± 6.4
77.1 ± 10.0
0.0023
血糖, mg/dL
109.0 ± 20.9
106.0 ± 21.1
0.74
フィブリノゲン(mg/dL)
384.2 ± 140.2
312.9 ± 70.7
0.22
41.3 ± 6.9
40.3 ± 4.4
0.68
91.0 ± 14.3
88.1 ± 13.6
0.55
D-dimer, (g/mL)
3.0 ± 6.4
1.4 ± 1.7
0.29
TAT, (g/mL)
2.9 ± 2.3
5.9 ± 11.0
0.94
高血圧
5 (83.3)
33 (82.5)
0.96
糖尿病
2 (33.3)
14 (35.0)
0.94
年齢, 歳 (mean±SD)
性別 (男性 /女性)
発症前7日以内のTIA前駆, n (%)
発症∼DWI撮像までの時間, 時間 (mean±SD)
入院時体温, C
。
血液生化学検査
ヘマトクリット(%)
凝固・線溶系検査
ATIII, %
血管危険因子
108
Brain
attackから脳を守るための研究
高コレステロール血症
2 (33.3)
16 (40.0)
0.76
喫煙
3 (50.0)
17 (42.5)
0.73
虚血性心疾患の既往
4 (66.7)
13 (32.5)
0.11
閉塞性動脈硬化症 (ASO)
1 (16.6)
2 (5.0)
0.20
心疾患, n (%)
1 (16.6)
21 (52.5)
0.10
動脈病変, n (%)
4 (66.7)
19 (47.5)
0.38
4/5
13/25
0.25
大動脈複合粥腫病変, n
図 4 : 神経症候増悪例(発症7日以内)の代表例
神経症候増悪後に撮像した diffusion MRI では、皮質、皮質下に散在性の小梗塞巣が見られ(A, B)、血管造影に
て右内頸動脈の高度狭窄性病変ありと診断された(C)。
2.Contrast harmonic imaging による brain perfusion 迅速評価法の検討
PI 値(dB)は、視床(右 4.7±2.1、左 3.2±1.2)
、レンズ核(右 8.6±2.8、左 8.5±2.6)
、皮質下(右 13.1
±3.5、左 13.1±2.6)のいずれも絶対値のばらつきが大きかったが、左右ともに視床、レンズ核、皮質下の順
に PI 値の増加がみられた(p < 0.0001、Friedman 検定)
(図 5)。PI 値の左右相関は、レンズ核(r = 0.933、p
< 0.0001)、皮質下(r = 0.899、p < 0.0001)で良好であったが、視床では有意差を認めなかった。
AUC 値(dB×cc)においても、視床(右 391.8±282.7、左 340.7±355.6)
、レンズ核(右 554.2±402.3、左
693.3±420.7)、皮質下(右 907.2±496.6、左 1119.8±517.6)の各々で絶対値のばらつきが大きかったが、PI
値同様、両側ともに視床、レンズ核、皮質下の順に値の増加がみられた(右 p = 0.0131、左 p = 0.0002、Friedman
検定)。しかし左右相関は皮質下でのみ有意で(r = 0.765、p = 0.0037)、視床及びレンズ核ではみられなかっ
た。TP 値は、左右で比較的ばらつきが少なく、8 から 24 心拍内であった。
109
Brain
attackから脳を守るための研究
図 5 : 健常人を対象とした Contrast harmonic imaging 法による脳灌流評価
造影剤投与後の増強効果を左右の視床、レンズ核、皮質下で比較した。左右いずれも視床、レンズ核、皮質下の順
に PI 値の増加がみられた(p < 0.0001、Friedman 検定)。PI 値の左右相関は、レンズ核(r = 0.933、p < 0.0001)、
皮質下(r = 0.899、p < 0.0001)で良好であった。
考
察
今回の研究より、半卵円小梗塞は、動脈病変および塞栓源となり得る心疾患の合併が多く、MES の多く見られる
症例で、皮質および皮質下に小梗塞が多かった。半卵円小梗塞を含む皮質および皮質下の小梗塞巣は、塞栓性機
序により梗塞が生じているものと考えられた。
Bogousslavsky らは、症候性半卵円小梗塞は高血圧、糖尿病に関連するものの、頸動脈狭窄や塞栓源心疾患には
関連なく、MCA の深部穿通枝領域のラクナ梗塞と同様に表在穿通枝に起こる small-vessel disease が主な病因で
あると結論している[1]。しかしながら彼らの研究では、脳血管造影や MRA 等の頭蓋内動脈の評価が限られた患者
にしか施行されていないという問題点がある。さらに、半卵円小梗塞患者の 12∼19%に large-vessel disease、8
∼28%に塞栓源心疾患が検出されており、small-vessel disease 以外の機序も否定できない。ECST からの研究で
は、半卵円小梗塞患者 29 例中 19 例(66%)が患側頸動脈の 50%以上の狭窄を有しており、深部穿通枝領域の小梗
塞に比べ半卵円小梗塞は頸動脈の large-vessel disease と高頻度に関わっていた。Waterston らは、閉塞性頸動
脈病変による深部の小梗塞患者 10 例について報告し、うち 7 例が単独の半卵円小梗塞を呈していた[10]。更にま
た Lammie と Wardlaw は、半卵円小梗塞の連続 12 剖検例において、10 例が心臓もしくは脳血管に塞栓源となる病
変 を 持 っ て い た と 報 告 し て い る[11] 。 彼 ら は、半卵円小梗塞が病理学的かつ病態学的に多様性を持ち、
small-vessel disease を主病因とするラクナ梗塞とは異なることを強調している。
今回の我々の研究では、半卵円小梗塞とラクナ患者群間には年齢、性、血管危険因子の差はみられなかったが、
半卵円小梗塞群で有意に突発型の発症形式が多く、また半卵円小梗塞はラクナ梗塞に比べ有意な動脈病変と塞栓
源心疾患により関与していた。これらの所見から、多く場合 large-vessel disease や心原性塞栓が半卵円小梗塞
を引き起こしていると考えられた。
110
Brain
attackから脳を守るための研究
さらに、TCD を用いた検討より MES が観察される症例に、皮質と半卵円小梗塞を主とする皮質下に DWI で小梗塞
が多くみられた。このことより、上記の仮説をより強く支持される。
これまでの脳梗塞急性期に神経症候が増悪する割合は、アテローム血栓性脳梗塞や心原性脳塞栓症では 20∼
40%、ラクナ梗塞で 24∼36%と報告がある[12-15]。今回の prospective な研究では 13%であった。またこれま
で、神経症候増悪因子として、血糖値、体温上昇、入院時重症度、入院時の early CT サインが挙げられている[16-18]。
しかしながら本研究では、増悪群と非増悪群との間にこれらの因子の有意な差はみられなかった。本研究では、
増悪群は非増悪群に比べ有意に入院時血圧が高値であったが、この理由は不明である。
本研究で明らかなったことは、神経症候の増悪群で DWI 上の新たに小虚血巣が描出されたことである。これは、
再発が神経症候の増悪の主な原因であることを意味している。故に、皮質や皮質下の小梗塞巣による症候性脳梗
塞患者の症候増悪を予防するには早期再発を予防することが重要である。
健常人を対象とした欧州からの CHI に関する報告[8,9]によると、良好なエコーウィンドウが得られさえすれば、
全て脳実質の増強効果が観察され、その程度は白質やレンズ核に強く、視床など深部で弱い。視覚的に脳実質の
増強効果が確認できる特性から、超急性期の大脳半球梗塞における脳灌流障害の評価に有用だったという症例が
実際に報告されている[19]。
従来 positron emission tomography(PET)でのみ可能であった脳灌流の定量的評価が CHI でも期待されている。
しかしながら、側頭骨厚の個体差、深度依存性のエコー減衰、空間分解能の低さなどから、実際に測定された各
パラメーターの絶対値にはばらつきが大きく、現時点では PET に代わる定量的検査法にはなり得ないとの結論に
至っている[8,9]。本研究における健常人の検討からも同様の考察ができる。一方で、PI と AUC 値でいずれも視床、
レンズ核、皮質下の順に値が増加し、一部有意な左右相関がみられたことから、CHI 法による脳灌流の定性評価の
可能性は残されている。
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18. Kimura K, Minematsu K, Koga M, Arakawa R, Yasaka M, Yamagami H, Nagatsuka K, Naritomi H, Yamaguchi
T.
Microembolic signals and diffusion-weighted MR imaging abnormalities in acute ischemic stroke.
Am J Neuroradiol 22;1037-1042, 2001
113
Brain
attackから脳を守るための研究
19. Yonemura K, Kimura K, Minematsu K, Uchino M, Yamaguchi T. Symptomatic small infarcts in centrum ovale
on diffusion-weighted MRI. Stroke (in press) 2002
20. Yonemura K, Kimura K, Minematsu K, Uchino M, Yamaguci T:Small centrum ovale infarcts on
diffusion-weighted imaging.Stroke (in press)
21. Koga M, Kimura K, Minematsu K, Yamaguchi T. Relationship between findings of conventional and
contrast-enhanced transcranial color-coded real-time sonography, and angiography in patients with
basilar artery occlusion. Am J Neuroradiol (in press)
22. Koga M, Kimura K, Minematsu K, Yamaguchi T. Ultrasonographic prodiction of popetent's outcome in
hyperacute ischemic stroke.European J Ultrasound (in press)
2)原著論文以外
ア)国内誌
1. 峰松一夫,山口武典:Diffusion MRI による急性期脳梗塞診断.
2. 峰松一夫,和田邦泰:CT と MRI.
脳と循環 2: 237-240, 1997
内科 79: 678-83, 1997
3. 峰松一夫:脳虚血と diffusion-perfusion MRI.
循環進歩 18: 121-129, 1997
4. 峰松一夫:脳梗塞治療の therapeutic time window.
5. 長谷川泰弘:脳卒中診療の実際
Progress in Medicine 17: 3009-3012, 1997
トピックス 3「diffusion MRI」.
6. 長谷川泰弘:診断法のトピックス
臨床医 23(1): 105-107, 1997
diffusion MRI, perfusion MRI. medicina 34: 2341-2344, 1997
7. 長谷川泰弘:脳梗塞の病態と診断技術の進歩
脳梗塞超早期の画像診断.
Progress in Medicine 17:
2974-2978, 1997
8. 長谷川泰弘:循環器疾患の検査法
年記念改訂版) pp461-463, 1997.
特殊な MRI.
国立循環器病センター(編).
循環器疾患の治療指針(20 周
丸善
9. 数井誠司:脳出血の増大;頻度、時間的経過および関与する因子. 循環器病研究の進歩 18: 77-84, 1997
10. 藤本茂,木村和美:経頭蓋ドップラーによる微小塞栓の検出意義について. 血栓と臨床 5: 102-104, 1997
11. 峰松一夫:拡散 MRI.
岩田誠,寺本明,清水輝夫(編).
キーワードを読む脳・神経.
1997.
医学書院,東
京
12. 山上宏,数井誠司,角田亘,成冨博章,峰松一夫:MELAS の Gd-DTPA 造影 MRI.神経内科 48: 404-405, 1998
13. 峰松一夫,山口武典:超急性期脳梗塞の CT 所見.
脳と循環 3: 323-328, 1998
14. 井口保之,木村和美,峰松一夫,山口武典:両側内頸動脈遠位部高度狭窄の 1 例−経頭蓋カラードプラ検査の
有用性−.
脳と循環 3: 235-238, 1998
15. 高田達郎,秋山仁美,森安秀樹,峰松一夫,山口武典:経頭蓋ドプラ法で抗血小板療法に伴う栓子シグナル
の消失が確認された一過性脳虚血発作の 1 例.
臨床神経 38: 329-332, 1998
16. 長谷川泰弘:Diffusion MRI, perfusion MRI. 臨床科学 34: 665-672, 1998
17. 米村公伸,木村和美:卵円孔開存. Mebio 15: 45-50, 1998
18. 長谷川泰弘:新しい MRI 技術.
山口武典,内山真一郎,松本昌泰,峰松一夫,高木誠(編).
Fronttiers of Strokology pp162-170, 1998.
19. 長谷川泰弘:新しい MRI 技術.
脳卒中学
The
医学書院,東京
山口武典,橋本信夫(編).
脳卒中の画像診断 pp25-31, 1998.
中外医学社,
東京
20. 藤本茂,峰松一夫:臨床医が画像診断に求める事項.
画像診断 19: 648-658, 1999
21. 米村公伸,長谷川泰弘,峰松一夫:拡散強調画像による脳梗塞超急性期診断の有用性と問題点.
CURRENT
THERAPY 17: 1531-1536, 1999
22. 古賀政利,木村和美:頸部血管超音波検査.
藤井清孝,岡田靖(編).
114
ブレインアタック−超急性期の脳卒中
Brain
attackから脳を守るための研究
診療− pp66-73, 1999.
中山書店,東京
23. 長谷川泰弘:diffusion MRI, perfusion MRI.
中診療− pp49-55, 1999.
藤井清孝,岡田靖(編).
ブレインアタック−超急性期の脳卒
中山書店,東京
24. 松本典子,木村和美,峰松一夫:Embolic encephalopathy−両側性多発性脳梗塞による acute confusional state
−. 神経内科 53(Suppl.2): 252-253, 2000
25. 木村和美:超音波検査−脳血管障害の画像診断:最近の進歩−.臨床画像 16: 549-562, 2000
26. 荒川竜樹,古賀政利,大坪亮一,木村和美,矢坂正弘:Microembolic signals 検出方法の実際. Neurosonology
13(3): 96-99, 2000
27. 峰松一夫,松本典子,有廣昇司,松本省二,山口武典:脳虚血急性期診断における Perfusion MRI.脳と循環 6:
151-155, 2001
28. 湧川佳幸,峰松一夫:CT, 3D-CTA.
脳血管障害の臨床−脳血管障害の検査法−日本医師会誌 125: S96-S99, 2001
29. 松本典子,峰松一夫:MRI,MRA. 脳血管障害の臨床−脳血管障害の検査法−日本医師会誌 125: S100-S102, 2001
30. 松本典子,峰松一夫:diffusion MRI と perfusion MRI. Mebio 19: 17-22, 2001.
イ)国外誌
なし
3)口頭発表
ア)招待講演
1. 峰松一夫:脳梗塞急性期の治療:血栓溶解及び脳保護法による虚血性脳血管障害の内科的治療戦略.
回日本脳卒中学会総会.
1998.
第 23
札幌,北海道
2. 峰松一夫,木村和美,和田邦泰,長谷川泰弘,山口武典:超急性期脳虚血:脳神経超音波法による超急性期
脳循環動態の評価.
第 10 回日本脳循環代謝学会総会.
1998.
豊中,大阪
3. 木村和美,峰松一夫:超急性期治療における画像診断の役割:超急性期の神経超音波診断. 第 14 回ブレイ
ン・ファンクション・イメージング・カンファレンス.
1998 年.
東京
イ)応募・主催講演等
1. 木村和美,矢坂正弘,長束一行,峰松一夫,山口武典:経頭蓋カラードプラによる脳血管病変の診断.
回日本超音波医学会.
1997 年 11 月 4 日.
第 70
仙台,宮城
2. Kazui S, Minematsu K, Yamaguchi T: Predisposing factors to enlargement of spontaneous intracerebral
hematoma.
23rd International Joint Conference on Stroke and Cerebral Circulation.1998. Orland,
U.S.A.
3. Kimura K, Yasaka M, Wada K, Hasegawa Y, Kazui S, Otsubo R, Minematsu K, Yamaguchi T: The duration
of symptoms in transient ischemic attack.
23rd International Joint Conference on Stroke and Cerebral
Circulation. 1998. Orlando, U.S.A.
4. Otsubo R, Yasaka M, Nagatsuka K, Minematsu K, Yamaguchi T: The role of the aortic arch atherosclerosis
in embolic stroke.
23rd International Joint Conference on Stroke and Cerebral Circulation. 1998.
Orlando, U.S.A.
5. Otsubo R, Yasaka M, Nagatsuka K, Minematsu K, Yamaguchi T: Screening for complicated atherosclerotic
lesions in the aortic arch by plain chest rediography: Comparison with TEE. 23rd International Joint
Conference on Stroke and Cerebral Circulation. 1998. Orlando, U.S.A.
6. Wada K, Kimura K, Yasaka M, Hasegawa Y, Minematsu K, Yamaguchi T: Spotty cortical enhancement detected
115
Brain
attackから脳を守るための研究
with magnetic resonance imaging: A sign of embolic TIA/Stroke? 23rd International Joint Conference
on Stroke and Cerebral Cirsulation.
1998. Orlando, U.S.A.
7. 神田直昭,大坪亮一,木村和美,矢坂正弘,長束一行,長谷川泰弘,峰松一夫,山口武典:経頭蓋ドプラ検
査による右左シャントの診断−経食道心エコー図検査との比較−.
第 39 回日本脳神経超音波学会.
1998 年.
神戸
8. 脇田政之,矢坂正弘,木村和美,伊佐勝憲,古賀政利,長束一行,峰松一夫,山口武典:内頚動脈系閉塞症
例における内頚動脈血流速度の解析.
第 39 回日本脳神経超音波学会. 1998 年. 神戸
9. 伊佐勝憲,矢坂正弘,木村和美,大坪亮一,長束一行,峰松一夫,山口武典:内頚動脈遠位部閉塞症例にお
ける内頚動脈血管内腔の経時的変化.
1998 年.
経口腔頚部超音波検査法による検討.
第 39 回日本脳神経超音波学会.
神戸
10. 大坪亮一,矢坂正弘,峰松一夫,山口武典:経食道心エコー図検査における大動脈病変評価の意義.
日本栓子検出と治療研究会.
第2回
1999 年 12 月 5 日,東京慈恵会医科大学,東京
11. 木村和美,和田邦泰,矢坂正弘,長束一行,峰松一夫,山口武典:経頭蓋カラードプラによる後大脳動脈血
流速度の評価.
第 24 回日本脳卒中学会総会.
1999 年 4 月 21 日,パシフィコ横浜,神奈川
12. 矢坂正弘,大坪亮一,木村和美,長束一行,峰松一夫,山口武典:総頸動脈の内径、内中膜複合体の厚さ、
平均血流速度および血流量における左右差の検討.
第 18 回日本脳神経超音波学会.
1999 年 6 月 3 日,高知
市中央公民館,高知
13. 古賀政利,木村和美,矢坂正弘,長束一行,峰松一夫,山口武典:頸部血管エコーによる内頸動脈狭窄診断−
脳血管撮影 NASCET 方式との対比−第 40 回日本神経学会総会.
1999 年 5 月 19 日,東京国際フォーラム,東京
14. 古賀政利,木村和美,矢坂正弘,長束一行,峰松一夫,山口武典:内頸動脈狭窄例における総頸動脈血流速
度の検討.
第 18 回日本脳神経超音波学会.
1999 年 6 月 3 日,高知県民文化ホール,高知
15. 有廣昇司,木村和美,矢坂正弘,和田邦泰,長束一行,峰松一夫,山口武典:頸部血管エコー検査における
内頸動脈起始部閉塞例の椎骨動脈血流速度の検討.
第 24 回日本脳卒中学会総会.
1999 年 4 月 21 日,パシ
フィコ横浜,神奈川
16. 和田邦泰,木村和美,矢坂正弘,峰松一夫,山口武典:神経超音波検査の虚血性脳血管障害における診断精
度−脳血管撮影との比較−第 18 回日本脳神経超音波学会総会.
1999 年 6 月 3 日,高知市中央公民館,高知
17. Koga M, Kimura K, Minematsu K, Yamaguchi T: Ultrasonographic findings to predict patients' outcome
in hyperacute ischemic stroke. 25th International Stroke Conference. Feb 10-12, 2000. New Orleans.
18. 藤本茂,長谷川泰弘,山田直明,峰松一夫,山口武典:完成型脳梗塞における拡散強調 MRI の梗塞巣検出感
度と病巣非検出例の臨床的特徴.第 41 回日本神経学会総会.
2000 年 5 月 24-26 日. 松本,長野県
19. 米村公伸,木村和美,古賀政利,峰松一夫,山口武典:Contrast harmonic imaging を用いた脳灌流評価の試
み.第 25 回日本脳卒中学会総会.
京王プラザホテル,東京. 2000 年 4 月 28 日
20. 米村公伸,木村和美,和田邦泰,峰松一夫,山口武典:Diffusion MRI を用いた大脳皮質下小梗塞の検討. 第
41 回日本神経学会総会.
長野県松本文化会館,長野県. 2000 年 5 月 24-26 日.
21. 米村公伸,木村和美,古賀政利,矢坂正弘,峰松一夫,山口武典:Contrast harmonic imaging を用いた脳
灌流評価の試み−健常 12 人での検討−.第 19 回日本脳神経超音波学会.
東京慈恵会医科大学中央講堂・南講
堂,東京. 2000 年 6 月 24-25 日.
22. Yonemura K, Kimura K, Yasaka M, Minematsu K, Yamaguchi T: Small centrum ovale infarcts on diffusion
MRI.4th World Stroke Congress. Melbourne, Australia. Nov 25-29, 2000.
23. 松本典子,峰松一夫,山口武典:両側性多発性脳梗塞による acute confusional state を呈し、embolic
encephalopathy と考えられた一例.日本神経学会第 73 回近畿地方会.
日.
116
京都テルサ,京都.
2000 年 11 月 25
Brain
attackから脳を守るための研究
24. 大坪亮一,矢坂正弘,長束一行,峰松一夫,山口武典:心原性脳塞栓症患者における大動脈弓部複合粥腫病
変.第 42 回日本老年医学会学術集会.
仙台国際センター,仙台.
2000 年 6 月 15-17 日.
25. 藤本茂,横田千晶,脇田政之,長谷川泰弘,峰松一夫,山口武典:大脳白質病変例における認知機能と脳循
環予備能.第 42 回日本老年医学会総会.
仙台国際センター,仙台.
2000 年 5 月 25 日.
26. Fujimoto S, Yasaka M, Otsubo R, Nagatsuka K, Minematsu K, Yamaguchi T:Stroke recurrence in patients
with aortic arch atheroma.4th World Stroke Congress. Melbourne, Australia. Nov 25-29, 2000.
27. Hasegawa Y, Tagaya M, Fujimoto S, Hayashida K, Minematsu K, Yamaguchi T. Effect of double filtration
plasmaphresis on cerebral blood flow and early reperfusion in acute atherothrombotic brain in farct.
20th International Symposium on Cerebral Blood Flow, Metabolism and Function. Taipei, Taiwan. Jun
9-13, 2000
28. 長谷川泰弘,多賀谷昌史,藤本茂,横田千晶,林田孝平,峰松一夫,山口武典:Extracorporeal rheopheresis
による Penumbra rescue は可能か?−Diffusion MRI, O-15 水静注法 PET による検討−.第 12 回日本脳循環代
謝学会総会.
仙台国際センター,仙台.
2000 年 12 月 5-6 日.
29. 古賀政利,木村和美,峰松一夫,山口武典:造影経頭蓋カラードプラによる頭蓋内動脈の検出.第 19 回日本
脳神経超音波学会.
東京慈恵会医科大学,東京.
2000 年 6 月 24 日.
30. 松本典子,峰松一夫,横田千晶,山口武典:Diffusion MRI による acute multiple brain infarction の検討.
第 26 回日本脳卒中学会総会.
大阪国際会議場,大阪.
2001 年 3 月 15-16 日.
31. 松本典子,横田千晶,長谷川泰弘,山口武典,峰松一夫:MRI 拡散強調画像(diffusion weighted imaging)
による急性多発性脳梗塞の検討.第 13 回日本脳循環代謝学会総会.
新横浜プリンスホテル,横浜.2001 年 10
月 18-19 日.
32. 松本典子,長谷川泰弘,横田千晶,山口武典,峰松一夫:脳梗塞の臨床病型と急性期脳虚血病巣体積の拡大、
Diffusion MRI による検討.第 13 回日本脳循環代謝学会総会.
新横浜プリンスホテル,横浜.
2001 年 10 月
18-19 日.
33. 米村公伸,木村和美,峰松一夫,山口武典:Diffusion MRI を用いた半卵円中心の小梗塞の検討.第 26 回日本
脳卒中学会総会.
大阪国際会議場,大阪.
2001 年 3 月 15-16 日.
34. 長谷川泰弘,多賀谷昌史,藤本茂,横田千晶,松本省二,池野幸一,林田孝平,峰松一夫,山口武典:
Extracorporeal Rheopheresis による脳梗塞治療:脳血流増加と血管再疎通について.第 42 回日本神経学会総
会.
東京国際展示場,東京. 2001 年 5 月 13 日.
35. 池野幸一,有廣昇司,白石淳,高田達郎,矢坂正弘,長谷川泰弘,峰松一夫:頭部 MRI 検査で経時的変化が
観察された子癇の 1 症例.日本神経学会第 75 回近畿地方会.
大阪国際会議場,大阪.
2001 年 12 月 8 日.
36. Matsumoto N, Yokota C, Hasegawa Y, Kimura K, Minematsu K, Yamaguchi T:Analysis of acute multiple brain
infarets on diffusion-weighted MR imaging.27th International Stroke Conference. San Antonio, Texas.
Feb. 7, 2002.
37. Arihiro S, Yasaka M, Ikeno K, Kimura K, Minematus K, Yamaguchi T:Influence of ultrasonic contrast
agent on the evaluation of intracvanial artery by transcranial Doppler sonography: Diagnosis of middle
cerebral artery stenosis. 27th
International Stroke Conference.San Antonio. U.S.A. Feb.7, 2002
117
Brain
attackから脳を守るための研究
1.1. 新たな脳機能と脳病態の画像化に関する研究
1.1.2. 脳血管障害超急性期診断法と病態画像に関する研究
1.1.2.2. Animal PETによる霊長類大脳でのspreading depression (SD)の発生確認とその虚血脳
に及ぼす影響の検討
国立循環器病センター研究所脳血管障害研究室
横田
千晶
国立循環器病センター研究所内科脳血管部門
多賀谷
昌史、長谷川
泰弘
北海道大学大学院医学研究科トレーサ情報解析学講座
久下
要
裕司
約
ヒト脳卒中病態に類似した塞栓性脳虚血モデルサルを開発し、同モデルにおける急性期脳循環代謝の変化を PET
にて解析した。同モデルサルでの脳梗塞が生じる血流閾値は 12-15ml 100g-1 min-1 であり、虚血周辺部の脳血流
低下領域は、虚血後ダイナミックに変化していた。ネコを用いた SD 誘発実験を行い、SD の誘発頻度により脳循環
代謝の変化(PET)が異なることを見いだした。サルを用いて SD 誘発と SD に伴う脳血流変化を PET で解析すること
に世界で初めて成功した。サルの SD 誘発は、小動物に比べて困難であり、SD 波の伝搬は限局性であった。これに
伴う脳血流量の変化は、局所的かつ一過性の脳血流量の上昇であり、小動物モデルや偏頭痛患者で報告されてい
るのとは異なっていた。SD 誘発側皮質の神経細胞に Cyclooxygenase-2 の発現が増強していた。
研究目的
われわれは、次の 3 点を目的として研究を行った。
1.
ヒト脳卒中病態に類似した塞栓性脳虚血モデルサル(カニクイザル)を開発し、同モデルサルの急性期脳循
環代謝変化を PET により解析し、虚血脳組織の分子生物学的検討を行う。
2.
非虚血ネコの SD の脳循環代謝に及ぼす影響を PET にて明らかにする。
3.
カニクイザルを用いて、SD の誘発と PET による SD に伴う脳血流変化の解析し、SD 誘発動物脳組織の分子生
物学的検討を行う。
研究方法
1.
塞栓性脳虚血モデルサルの実験
1)モデルの作成
対象は、雄性カニクイザル 4 匹である。塞栓性脳虚血モデルサルは、左内頸動脈に挿入したカテーテルより自
118
Brain
attackから脳を守るための研究
家血血餅を注入して作成した。
2)脳循環代謝測定 (PET)
PET(ECAT EXACT HR/47; Siemens/CTI, Knoxville, TN, U.S.A)を用いて、塞栓性脳虚血モデルサルの脳循環代
謝測定を行った。脳血流量(CBF)は、[15O]H2O を用いて血餅注入前、1、2,4,6,24 時間後に測定した。脳糖代
謝率(CMRglc)は、[18F]FDG を用いて血餅注入 24 時間後に測定した。
3)脳組織の TTC 染色と分子生物学的検討
実験終了後、動物を瀉血、冷水灌流を行い、脳組織を取り出した。脳組織の TTC(2,3,5-triphenyl-tetrazolium
chloride)染色を行い、組織障害部位を調べた。分子生物学的検討として cyclooxygenase-2 (COX-2)と vascular
endothelial growth factor (VEGF)の発現を調べた。
2.
非虚血ネコを用いた SD 実験
1)SD の誘発
対象は、非虚血ネコ 8 匹である。SD 検出のための direct current (DC) potential は、側頭部皮質内に刺入固
定した電極よりとらえた。SD 誘発は左後頭に作成した骨窓より、KCl を滴下にて行った。対象を低濃度 KCl 滴下
群(0.15M, n=4)と高濃度 KCl 滴下群(3.3M, n=4)の 2 群に分けた。
2)脳循環代謝測定 (PET)
CBF は[15O]H2O を用いて、KCl 滴下直後、30-60 分後、60-90 分後に、CMRglc は[18F]FDG を用いて 90-180 分後
に測定した。
3.
非虚血カニクイザルを用いた SD 実験
1)SD の誘発
対象は、雄性カニクイザル 10 匹で、麻酔後、左頭頂骨に KCl 滴下用に 1 個、SD 波検出用に 2-3 個の骨窓を、一
直線上に作成した。SD 誘発は、3.3M KCl 滴下により行った。
2)脳循環代謝測定 (PET)
6 匹に対して、15O-H2O 静注 PET による経時的な CBF 測定を試みた。KCl 滴下前後の CBF は、両側大脳半球皮質
に左右対称の関心領域(ROI, 28 個)を設定し、KCl 滴下側の各 ROI における対側比 asymmetry index(AI)で求めた。
3)脳組織の分子生物学的検討
SD 誘発および脳循環代謝測定終了後、動物を瀉血、冷水灌流を行い、脳組織を取り出し、凍結およびパラフィ
ン固定を行った。分子生物学的検討として cyclooxygenase-2 (COX-2)の発現につき検討した。
研究成果
1. 塞栓性脳虚血モデルサルの実験
1)
TTC 染色より、血餅注入側の側頭葉皮質、基底核では、明かな組織障害が見られ、虚血中心部と考え
られた。一方、血餅注入側の頭頂葉では組織障害は見られず、虚血周辺部と考えられた。
2)
血餅注入 1 時間後、虚血中心部(側頭葉皮質、基底核)の CBF は対側の 40%以下(12-15ml 100g-1 min-1)
に低下した(図 1、2)。
119
Brain
attackから脳を守るための研究
3)
虚血周辺部の皮質の CBF 低下領域は、虚血後中等度低下し、その後回復傾向を示した(図 2)
。
4)
虚血中心部では、CBF は経時的に低下し、24 時間後の CBRglc も低下していた(図 1、2,3、4)
。
5)
虚血周辺部の皮質の CBF は、
経時的に緩やかに回復し、
24 時間後の CMRglc は上昇しており、CBF-CMRglc
uncoupling が見られた(図 1、2,3、4)
。
6)
脳組織における COX-2 の発現は、虚血 24 時間までは主に神経細胞に発現し、虚血 2 時間後では虚血
中心部およびその周囲(ペナンブラ)
、24 時間後では脳糖代謝率が保たれているペナンブラ領域での
発現が増強していた。
7)
脳組織では、虚血側の微小血管に VEGF およびその受容体(Neuropilin-1)の発現が見られた。
図 1 : 塞栓性脳虚血モデルサルにおける経時的な CBF 変化。
CBF は、asymmetry index (AI)で表されている。CBF は、塞栓 1 時間後より低下したが、頭頂葉では、4 時間後より
緩やかに回復した。
*: 塞栓前の CBF に比べて有意差(p<0.05)あり。
120
Brain
attackから脳を守るための研究
図 2 : 塞栓性脳虚血モデルサルにおける経時的な CBF 画像(PET)。
線状体レベルでの PET 冠状断イメージである。虚血周辺部の CBF 低下領域が経時的に変化した。
図 3 : 塞栓性脳虚血モデルサルにおける塞栓 24 時間後の CBF-CMRglc の関連。
虚血周辺部である頭頂葉では CBF-CMRglc uncoupling が見られた。
121
Brain
attackから脳を守るための研究
図 4 : 塞栓性脳虚血モデルサルにおける塞栓 24 時間後の CBF と CMRglc 画像(PET)。
A: CBF, B: CMRglc, a: 水平断、b: 冠状断、c: 矢状断
虚血周辺領域での CBF-CMRglc uncoupling が見られた。
122
Brain
attackから脳を守るための研究
2. 非虚血ネコを用いた SD 実験
1)
高濃度 KCl 滴下群では、KCl 滴下直後から実験終了までの間に不規則に 13 回以上の SD が検出された。
2)
低濃度 KCl 滴下群では、KCl 滴下直後から約 15 分までの間に 1∼3 回の SD が検出された。
3)
高濃度 KCl 滴下群では、SD 誘発後、滴下側皮質において明らかな CBF の上昇が見られ、その上昇は持
続的であった。CMRglc は、CBF 上昇とほぼ対応した部位において増加していた(図 5)
。
4)
低濃度 KCl 滴下群では、滴下側皮質において一過性に CBF の増加が見られた。CMRglc には、明らかな
変化は見られなかった(図 5)。
図 5 : 非虚血ネコにおける SD に伴う CBF,CMRglc の変化
高濃度 KCl 滴下群での多数回 SD 発生例(A)では、SD 誘発後、
滴下側皮質において持続的な CBF の上昇が見られ、CMRglc
は、CBF 上昇とほぼ対応した部位において増加していた。低濃度 KCl 滴下群での単回 SD 発生例(B)では、SD 誘発後、
滴下側皮質における一過性の CBF 上昇が見られたが、CMRglc は変化なかった。
123
Brain
3.
attackから脳を守るための研究
非虚血カニクイザルを用いた SD 実験
1)
10 匹中 8 匹に SD が誘発された。
2)
SD の伝搬がとらえられたのは 1 匹のみであり、伝搬速度は 4mm/min と計算された(図 6)
。
3)
SD の検出回数は、滴下点より前方への回数が 0 回が 4 匹、1 回 3 匹、2 回 2 匹、6 回 1 匹であった。対
側半球では、SD 波は検出されなかった。
4)
SD が誘発された動物では、誘発直後に KCl 滴下点近傍の特異的な CBF 上昇が見られた。持続性の血流
低下(persistent hypoperfusion)、あるいは拡延性低潅流(spreading hypoperfusion)はいずれも見ら
れなかった。対側半球の CBF は、KCl 負荷前後で有意な変化はなかった(図 7、8)
。
5)
SD 誘発側皮質では、神経細胞に COX-2 の発現が増強していた。
図 6 : サルにおける SD 波
KCl 滴下によってとらえられた脱分極波の伝搬を示す。赤の波は、KCl 滴下点より前方の近位部、青の波は遠位部で
検出された脱分極波である。この脱分極波は Leao が報告した SD 波の特徴と一致していることから、
SD 波と判断した。
124
Brain
attackから脳を守るための研究
図 7 : PET でとらえたサルの SD に伴う CBF 変化
前方への SD 波が 2 回検出された動物の CBF 変化を示す。Pre は KCl 滴下前、CBF1∼6 は滴下後 10-20 分毎の画像で
ある。SD 波が検出された直後に滴下側の側頭葉に局所的な脳血流増加が生じた。
125
Brain
attackから脳を守るための研究
図 8 : サルの SD 誘発後の経時的な CBF 変化
前方への SD 波が 2 回、後方へ 6 回検出された動物の CBF 変化を示す。(A) は CBF の変化を計算するために設定した
関心領域(ROI)を表す。青は、滴下点前方、黄色は KCl 滴下点、ピンクは滴下点後方の ROI である。 (B) は、各々の
ROI における局所脳血流量の変化を示したグラフである。青、黄色、ピンクの線はそれぞれ同色の ROI における局所
脳血流量の変化である。X 軸上の矢頭は KCl 滴下、垂直線は SD 波検出のタイミングを表している。CSD 誘発後に一過
性の CBF の上昇が見られたが、持続する血流低下領域はなかった。滴下側の反対側での有意な CBF 変化も見られなか
った。
考
察
脳梗塞急性期治療の主眼は、虚血により機能は障害されていても、脳細胞がなんとか生存している領域
(ischemic penumbra)をできる限り温存し、梗塞巣を最小限にとどめることにある。これまでの実験的研究から、
神経機能障害の生じる血流閾値は 20-22ml 100g-1 min-1 、不可逆的な形態学的損傷が生じる閾値が 15ml 100g-1
min-1 と報告されている[1, 2]。この両者の間の虚血域が、すなわち、虚血性ペナンブラ Ischemic penumbra であ
る。ペナンブラの可逆性は、明らかに時間依存性であり[3]、この現象の本態として、エネルギー過剰消費現象で
ある拡延性抑制 spreading depression (SD)の役割の重要性が注目されている[4]。 SD は、小動物を中心とした
局所脳虚血モデルより、虚血性脳損傷の進展に深く関連する [5]。しかし霊長類での SD 誘発の報告はなく、ヒト
の虚血病態と SD との関連は明かではない。
われわれが開発した塞栓性脳虚血モデルサルでの脳梗塞が生じる血流閾値は 12-15ml 100g-1 min-1 であり、従
来報告されている血流閾値と矛盾しない値であった。塞栓性脳虚血モデルサルにおける急性期脳血流代謝変化よ
り、虚血周辺部では CBF-CMRglc uncoupling が見られ、ischemic penumbra と考えられた。経時的な PET 撮像によ
り、この領域の CBF は、ダイナミックに変化していることが示された。サルモデルにおいて、こうした CBF-CMRglc
uncoupling の存在を証明したのは、われわれの報告が初めてである [6]。
塞栓性脳虚血モデルサルの脳組織における COX-2 発現の検討では、虚血半球における COX-2 の発現増強が見ら
126
Brain
attackから脳を守るための研究
れ、ラットモデルでの報告[7, 8]と矛盾しない結果であった。しかし、従来 COX-2 発現と脳循環代謝との関連を
分析した研究はなされていない。今回の我々の研究より、脳血流、脳糖代謝共に低下している虚血中心部と
CBF-CMRglc uncoupling が生じている ischemic penumbra では、COX-2 発現の経時的な変化は異なっていた[9]。
虚血後 24 時間までの COX-2 の発現は、主に神経細胞に見られ、細胞障害および組織修復いずれの病態に対しても
作用している可能性があると考えられた。また、虚血脳組織の微小血管に VEGF およびその受容体(Neuropilin-1)
の発現が見られたことから、これらが虚血脳組織における血管新生に関わっていると推察された[10]。
非虚血ネコを用いた SD 実験より、高濃度 KCl 滴下群ではいずれも 13 回以上の多数回の SD が誘発され、CBF は
持続的に上昇し、CMRglc も増加していた。一方、低濃度 KCl 滴下群での SD 誘発回数は 3 回以下であり、CBF は一
過性に上昇、CMRglc には変化が見られなかった。SD に伴う CBF の変化は、従来報告されている、オートラジオグ
ラフィー法やレーザードプラー法を用いた研究結果と一致していた[11, 12]。SD による糖代謝率の変化について
は、増加するという報告[13]と、変化しないという報告[14]があり、この違いは麻酔薬、SD の誘発方法、糖代謝
率測定のタイミングなどによるものと推測されていた。今回の我々の研究から、SD の誘発頻度により脳循環代謝
の変化が異なることが明かとなった[15]。
サルを用いた SD 誘発実験より、霊長類においても SD は誘発可能であることが証明された[16]。但し、同様の
実験方法で行ったネコの SD 誘発実験では、3.3M KCl 滴下にて前方へ 13 回以上の SD が検出されたが[15]、サルで
は 6 回以下でありネコに比べて誘発は困難であった。またラットの SD 実験より、SD 波は、KCl 滴下側の大脳半球
全体に伝搬することが知られているが[17]、今回のサルの SD 実験では、SD の明かな伝搬がとらえらえた動物は 1
匹のみであり、霊長類の SD は遠隔部には伝搬しにくいと考えられた。
SD に伴う脳血流変化は、ラットやネコのモデルより、一過性の CBF 上昇にひき続く、持続性の CBF 低下
(persistent hypoperfusion)と報告されている[7, 8, 11]。SD は虚血病態の他に、偏頭痛や頭部外傷などの脳疾
患の病態と密接に関連していると推測されている。SD の診断には、SD 波に特徴的な電位変化をとらえる必要があ
るため[18]、ヒトにおける SD の直接的な証明は極めて難しい。
現在、片頭痛患者の発作中に single photon emission
tomography (SPECT)、 PET、MRI などで観察された spreading hypoperfusion が、ヒトにおける SD に伴う脳血流
変化と見なされている[19, 20]。今回の我々の研究より、霊長類の SD に伴う脳血流変化は、SD 誘発側における一
過性の脳血流量の上昇であり、従来報告されている persistent hypoperfusion や spreading hypoperfusion のい
ずれでもなかった。動物種によるこうした違いの原因を遺伝子レベルより解明するため、現在、分子生物学的手
法を用いて、霊長類とラットにおける SD 誘発脳組織での遺伝子発現の差異についての研究を進めている。
今回、われわれは、急性期虚血性脳血管障害に対する新たな治療戦略の開発を目標に、虚血性脳障害の未知の
病因・病態の解明のため、主にサルのモデルを用いて、PET による病態解析を試みた。現在、小動物を中心とした
局所脳虚血モデルより開発された多くの脳保護療法は、いずれも臨床試験でその有効性が証明されていない。小
動物とヒトの脳は、解剖学的に大きな差異があり、小動物から得られた研究成績はそのままヒトにあてはめるこ
とは困難である。今回、霊長類とネコを用いた PET 研究より、両者の違いが明らかになっただけでなく、PET 研究
が、急性期脳病態解析に極めて有用であることが示された。
引用文献
1.
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Jones TH, Morawetz RB, Crowell RM, et al: Thresholds of focal cerebral ischemia in awake monkeys.
J Neurosurg 54:773-782, 1981
3.
Heiss WD: Experimental evidence for ischemic thresholds and functional recovery. Stroke 23:1668-1672,
1992
127
Brain
4.
attackから脳を守るための研究
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5. Takano K, Latour LL, Formato JE, et al: The role of spreading depression in focal ischemia evaluated
by diffusion mapping. Ann Neurol 39:308-318, 1996
6.
Kuge Y, Yokota C, Tagaya M, et al: Seriai changes in cerebral blood flow and flow-metabolism uncoupling
in primates with acute thromboembolic stroke. J Cereb Blood Flow Metab 21:202-210, 2001
7.
Nogawa S, Zhang F, Ross ME, Iadecola C. Cyclo-oxygenase-2 gene expression in neurons contributes to
ischemic brain damage. J Neurosci 17:2746-2755, 1997
8. Nagayama M, Niwa K, Nagayama T, Ross ME, Iadecola C. The cyclooxygenase-2 inhibitor NS-398 ameliorates
ischemic brain injury in wild-type mice but not in mice with deletion of the inducible nitric oxide
synthase gene. J Cereb Blood Flow Metab 19:1213-1219, 1999
9. Yokota C, Kuge Y, Tagaya M, Inoue H, Nishimura A, Kito G, Yamaguchi T, Minematsu K: Cyclooxygenase-2
expression and cerebral blood flow and metabolism during focal brain ischemia in the primates. J Cereb
Blood Flow Metab 21(suppl):S375, 2001
10. Tagaya M, Kuge Y, Yokota C, Inoue H, Abumiya T, Nishimura A, Kito G, Hasegawa Y, Yamaguchi T, Minematsu
K: Induced VEGF and neuropilin-1 expression in focal brain ischemia in primates. J Cereb Blood Flow
Metab 21 (suppl):S223, 2001
11. Lauritzen M, Jorgensen MB, Diemer NH, et al: Persistent oligemia of rat cerebral cortex in the wake
of spreading depression. Ann Neurol 12:469-474, 1982
12. Piper RD, Lambert GA, Duckworth JW: Cortical blood flow changes during spreading depression in cats.
Am J Physiol 261:H96-H102, 1991
13. Shinohara M, Dollinger B, Brown G, et al: Cerebral glucose utilization: local changes during and after
recovery from spreading cortical depression. Science 203:188-190, 1979
14.
Lauritzen M, Diemer NH: Uncoupling of cerebral blood flow and metabolism after single episode of
cortical spreading depression in the rat brain. Brain Res 370:405-408, 1986
15. Kuge Y, Hasegawa Y, Yokota C, et al: Effects of single and repetitive spreading depression on cerebral
blood flow and glucose metabolism in cats: a PET study. J Neurol Sci 176:114-123, 2000
16. Yokota C, Kuge Y, Hasegawa Y, et al: Unique profile of spreading depression in a primate model. J
Cereb Blood Flow Metab, 2002 (in press)
17. Hasegawa Y, Latour LL, Formato JE, et al: Spreading waves of a reduced diffusion coefficient of water
in normal and ischemic rat brain. J Cereb Blood Flow Metab 15:179-187, 1995
18. Leao AAP: Spreading depression of activity in the cerebral cortex. J Neurophysiol 7:359-390, 1944
19. Woods RP, Iacoboni M, Mazziotta JC: Bilateral spreading cerebral hypoperfusion during spontaneous
migraine headache. N Engl J Med 331: 1689-1692, 1994
20. Hadjikhani N, del-Rio MS, Wu O, et al: Mechanisms of migraine aura revealed by functional MRI in human
visual cortex. Proc Natl Acad Sci USA 95:811-817, 2001
J Neurol Sci 176:114-123, 2000
al blood flow and metabolism after single episode of cortical spreading depression in the rat br
成果の発表
1)原著論文による発表
128
Brain
attackから脳を守るための研究
イ) 国外誌
1.Kuge Y, Minematsu K, Hasegawa Y, yamaguchi T, Mori H, Matsuura H, Hashimoto N, Miyake Y: Positron
emission tomography for quantitative determination of gulcose metabolism in normal and ischemic brains
in rats: An insoluble problem by the Harderian gland.
J Cereb Blood Flow Metab 17: 116-120, 1997
2.Kuge Y, Kawashima H, Hashimoto T, Imanishi M, Shiomi M, Minematsu K, Hasegawa Y, Yamaguchi T, Miyake
Y, Hashimoto N: Preliminary evalution of [1-11C] octanoate as a PET tracer for studying cerebral
ischemia: A PET study in rat and canine models of focal cerebral ischemia.
Ann Nucl Med 14: 69-74,
2000
3.Kuge Y, Kawashima H, Minematsu K, Hasegawa Y, Yamaguchi T, Miyake Y, Hashimoto T, Imanishi M, Shiomi
M, Tamaki N, Hashimoto N:[1-11C] octanoate as a PET tracer for studying ischemic stroke: Evaluation
in a canine model of thromboembolic stroke with positron emission tomography. Biol Pharm Bull 23:
984-988, 2000
4.Kuge Y, Hasegawa Y, Yokota C, Minematsu K, Hashimoto N, Miyake Y, Yamaguchi T, Effect of single and
repetitive spreading depression on cerebral blood flow and glucose metabolism in cats: A PET study
J Neurol Sci 176:114-123, 2000
5.Kuge Y, Yokota C, Tagaya M, Hasegawa Y, Nishimura A , Kito G, Tamaki N, Hashimoto N, Minematsu K,
Yamaguchi T : Serial changes in cerebral blood flow and flow-metabolism uncoupling in primates with
acute thromboembolic stroke:J Cereb Blood Flow Metab 21:202-210, 2001
6.Kito G, Nishimura A, Susumu T, Nagata R, Kuge Y, Yokota C, Minematsu K: Experimental thromboembolic
stroke in cynomolgus monkey. J Neurosci Meth 105:45-53, 2001
7.Yokota C, Kuge Y, Hasegawa Y, Tagaya M, Abumiya T, Ejima N, Tamaki N, Yamaguchi T, Minematsu T: Unique
profile of spreading depression in a primate model. J Cereb Blood Flow Metab (in press)
2)原著論文以外による発表
ア)国内誌
1. 長谷川泰弘:脳虚血、Spreading depression とカルシウム. Therapeutic Research 20: 2838-2846, 1999
2. Nishimura A, Fukuzaki K, Nagata R, Kuge Y, Yokota C, Kito G : Characteristics of experimental
thromboembolic stroke in cynomolgus monkeys. Jpn Phamacol 79: 237, 1999
3. 多賀谷昌史:脳血管と血管増殖因子.脳と循環 6: 77-81, 2001
2. 横田千晶:Cortical spreading depression と偏頭痛. 臨床成人病 32, 6, 2002 (in press)
イ)国外誌
1.
Kuge Y, Minematsu K, Hasegawa Y, Yamaguchi T, Miyake Y: Letter to the Editor. Effects of extracranial
radioactivity
on
measurement
of
cerebral
glucose
metabolism
by
rat-PET
with
[18F]-2-fluoro-2-deoxy-D-glucose. J Cereb Blood Flow Metab 17: 1261-1262, 1997
2.
Kuge
Y, Kawashima H, Ejima N, Miyake Y, Hashimoto N, Hashimoto T, Imanishi M, Shiomi M, Minematsu K,
Hasegawa Y, Yamaguchi T, Tamaki N:Animal PET study in development of novel PET tracer. In: Tamaki
N, Tsukamoto E, Kuge Y,et al(eds). Positron Emission Tomography in the Millenium pp297-303, Elsevior
Science B.V., Amsterdam, 2000
3.
Yokota
C, Kuge Y, Tagaya M, Inoue Y, Nishimura A, Kito G, Yamaguchi T, Minematsu K: Cyclooxygenase-2
expression and cerebral blood flow and metabolism during focal brain ischemia in the primates. J Cereb
Blood Flow Metab 21(suppl):S375,2001
129
Brain
attackから脳を守るための研究
4.
Tagaya M, Kuge Y, Yokota C, Inoue H, Abumiya T, Nishimura A, Kito G, Hasegawa Y, Yamaguchi
T, Minematsu
K: Induced VEGF and neuropilin-1 expression in focal brain ischemia in primates. J Cereb Blood Flow
Metab 21 (suppl):S223,2001
5.
Yokota
C, Kuge Y, Tagaya M, Hasegawa Y, Abumiya T, Kito G, Yamaguchi T, Minematsu K: Brain ischemia
and spreading depression in a primate model. In Kikuchi H(ed). Strategic Medical Science against Brain
Attack. Springer Verlag, Tokyo, pp. 127-144, 2002
3)口頭発表
ア)招待講演
1. 偏頭痛における最新の知見: Cortical Spreading Depression.
第 13 回日本脳循環代謝学会総会イブニング
セミナー, 2001 年 10 月 l8 日, 新横浜プリンスホテル, 横浜
イ)応募・主催講演等
1. 多賀谷昌史,Gregory J del Zoppo,長谷川泰弘,峰松一夫,山口武典:脳微小血管における integrin α1 β
1 の局在と虚血再灌流後の変動.第 10 回日本脳循環代謝学会. 1998 年.豊中
2. 多賀谷昌史,Gregory del Zoppo,峰松一夫,長谷川泰弘,山口武典:脳微小血管での内皮細胞・基底膜・グ
リアの関わり−インテグリンの発現による検討−. 第 40 回日本神経学会総会. 1999 年 5 月 19-21 日、秋田ビュ
ーホテル、秋田
3. 多賀谷昌史,峰松一夫,久下裕司,横田千晶,鐙谷武雄,長谷川泰弘,山口武典:脳虚血によるニューロピ
リン-1 発現.
第 11 回日本脳循環代謝学会.
1999 年 10 月 5 日,秋田ビューホテル,秋田
4. 多賀谷昌史,Gregory del Zoppo,峰松一夫,長谷川泰弘,山口武典:脳微小血管での内皮細胞・基底膜・グ
リアの関わり−インテグリンの発現による検討−.第 40 回日本神経学会総会.1999 年 5 月 19-21 日,秋田ビュー
ホテル,秋田
5. 横田千晶、久下裕司、多賀谷昌史、峰松一夫、山口武典: サル局所脳虚血モデルにおける cyclooxygenase-2
の発現:PET で計測した脳循環器代謝諸量との関連.第 25 回日本脳卒中学会, 2000 年 4 月 27 日∼28 日,京王
プラザ, 東京
6. 横田千晶、久下裕司、長谷川泰弘、多賀谷昌史、峰松一夫、山口武典:Animal-PET による拡延性抑制(Spreading
depression)現象の画像化. 第 12 回日本脳循環代謝学会, 2000 年 12 月 6 日, 仙台国際センター, 仙台
7. Kuge Y, Yokota C, Tagaya M, Minematsu K, Hasegawa Y, Nishimura A, Kito G, Hashimoto N, Tamaki N,
Yamaguchi T:Presistent flow-metabolism uncoupling in a primate model of thromboembolic stroke: a PET
study.25th International Stroke Conference. New Orleans, Louisiana, USA. Feb 10-12, 2000
8. 多賀谷昌史,峰松一夫,久下裕司,横田千晶,鐙谷武雄,長谷川泰弘,山口武典:局所脳虚血における VEGF/VEGF
受容体.第 12 回日本脳循環代謝学会総会.
仙台国際センター,仙台.
2000 年 12 月 5-6 日.
9. 横田千晶、井上裕康、久下裕司、多賀谷昌史、長谷川泰弘、鐙谷武雄、山口武典、峰松一夫:拡延性抑制(spreading
depression)現象が誘発された霊長類における脳の組織学的検討.第 26 回日本脳卒中学会, 2001 年 3 月 15 日
∼16 日,大阪国際会議場, 大阪
10. 鐙谷武雄,多賀谷昌史,横田千晶,峰松一夫:脳虚血再灌流後の病態の及ぼすVEGFの影響.第26回日本
脳卒中学会総会.
大阪国際会議場,大阪.
2001年3月15-16日.
11. Tagaya M, Kuge Y, Yokota C, Inoue H, Abumiya T, Nishimura A, Kito G, Hasegawa Y, Yamaguchi T,
Minematsu K:Induced VEGF and neuropilin-1 expression in focal brain ischemia in primates.20th
International Symposium on Cerebral Blood Flow, Metabolism and Function. Taipei, Taiwan. Jun
130
Brain
attackから脳を守るための研究
9-13, 2001.
12. Yokota C, Kuge Y, Hasegawa Y, Tagaya M, Abumiya T, Ejima N, Yamaguchi T, Minematsu K: Spreading
depression in the primates:a PET study. XXth International Symposium on Cerebral Boold Flow,
Metabolism and Function, 2001.6.9-13, Taipei, Taiwan
13. Yokota C, Kuge Y, Tagaya M, Inoue Y, Nishimura A, Kito G, Yamaguchi T, Minematsu K:
Cyclooxygenase-2 expression and cerebral blood flow and metabolism during focal brain ischemia
in the primates. XXth International Symposium on Cerebral Boold Flow, Metabolism and Function,
2001.6.9-13, Taipei, Taiwan
131
Brain
attackから脳を守るための研究
1.1. 新たな脳機能と脳病態の画像化に関する研究
1.1.2. 脳血管障害超急性期診断法と病態画像に関する研究
1.1.2.3. PET、SPECT、3T-MRIを用いた潜在的脳循環障害と知的機能初期障害の評価
国立循環器病センター内科脳血管部門
長谷川
要
泰弘、横田
千晶、木村
和美、湧川
佳幸
約
研究の第一期には、粥状硬化に基づく主幹脳動脈閉塞性病変例における潜在的脳循環障害(アセタゾラミド負
荷 SPECT による)が、その後の再発、白質病変進展、認知機能低下におよぼす影響を長期追跡調査によって明ら
かにした。その結果、潜在的脳循環障害循の存在が、再発、白質病変進展、知的機能低下に主要な役割を演じて
いるという可能性は低いことが示された。この結果を説明しうる病態の一つとして循環予備力障害の自然回復現
象を発見した。研究の第二期には、主に穿通動脈の硝子様変性に基づく cerebral microangiopathy に基づく潜在
的脳循環障害例を研究対象とし、その白質病変初期変化、知的機能初期障害の診断法を確立した。
研究目的
脳動脈のアテローム硬化性病変や穿通動脈の硝子化(lipohyalinosis)が進展した症例では、炭酸ガスやアセ
タゾラミドなどに対する脳血管反応性の障害、局所脳潅流圧の低下や酸素摂取率の増加などの脳循環障害が、PET
や SPECT 等の三次元脳血流代謝測定法により証明されることが多い。このような潜在的脳循環障害を有する症例
では、MRI によって大脳皮質下白質を中心とする白質病変がしばしば検出され、白質病変の成因として潜在的脳循
環障害の重要性が推測される。一方、白質病変の程度と ADL(日常生活動作)低下、知的機能低下の程度には関連
があり、これら脳機能の低下は、皮質下白質の神経線維脱落に起因するものと推定されている。このように現在、
潜在的脳循環障害、白質病変、知的機能障害の各々の関連について断片的な証拠が得られてはいるが、潜在的脳
循環障害が、如何にして白質病変を進展させ、どのように知的機能障害の進展に関与しているか、そのメカニズ
ムは未だ明らかとなってはいない。この最大の原因は、白質病変の初期段階での診断法、知的機能障害の初期段
階での診断法が確立していないことにある。本研究の目的は、PET、SPECT、3T-MRI などの先進の画像診断技術を
応用し、潜在的脳循環障害、白質病変、知的機能初期障害の新たな評価法を確立することにある。
研究方法
研究は、下記の 4 つの段階に分けて遂行した。
1)
主幹脳動脈閉塞症例における潜在的脳循環障害が、再発、白質病変の進展、知的機能障害の発症におよぼ
す影響:粥状硬化に基づく脳主幹動脈閉塞症例の脳循環予備力障害(潜在的脳循環障害)を PET、SPECT に
より評価し、脳梗塞再発、大脳皮質下白質病変の進展、知的機能障害進展との関連を明らかにする。
2)
白質病変の重症度と神経心理学的異常(case control study):明らかな大脳皮質下白質病変を有する症例
における高次脳機能障害の特徴、もっとも白質病変と関連する神経心理学的検査法をケースコントロール
132
Brain
attackから脳を守るための研究
スタディーにより明らかにする。
3)
機能的 MRI による知的機能初期障害の早期診断:上記 case control study で得られた神経心理学的検査を
もとに、3.0T-MRI 装置による機能的 MRI(BOLD 法)用の新たな心理課題を作製し、知的機能初期障害を客
観的に評価する方法を開発する。
4)
Tensor Imaging による初期白質病変の早期診断:EchoPlanner 法を用いて、脳を構成する分子の拡散運動
の情報を画像化することにより、初期白質病変を診断する新たな方法を確立する。既にアルツハイマー病
では大脳白質の拡散異方向性の低下が報告されているが、脳血管性痴呆や知的機能初期障害の段階におけ
る白質変化については知られていない。本研究では、3.0T-MRI を用いた Tensor imaging により、拡散係
数の計測と、様々な撮像条件での拡散テンソルの異方向性の定量化(Fractional Anisotropy;FA)を行い、
脳虚血症例における初期白質変化の検出法を確立する。
以上 4 段階の研究から得られた潜在的脳循環障害の脳血流診断法、機能的 MRI、初期白質病変の新たな MRI 診断
法をもとに、最終的には慢性的脳循環障害が脳に与える機能的、器質的変化の初期像を明らかにする方法を確立
する。
研究成果
1) 主幹脳動脈閉塞症例における潜在的脳循環障害が、再発、白質病変の進展、知的機能障害の発症におよぼす
影響
脳主幹動脈の粥状硬化に基づく閉塞症例を対象に、潜在的脳循環障害の存在が、その後の脳梗塞発症、白質病
変進、知的機能障害に与える影響を検討した。従来、脳循環予備力障害を呈する症例の脳組織はすでに危機的状
態に有り、容易に脳梗塞再発を来し、再発を起こさない場合でも慢性的脳循環障害により白質の変性ひいては知
的機能障害を来すと想像するものが多かった。本研究において我々が行った SPECT を用いた前向き研究の結果、
脳循環予備力障害を有するものの予後が必ずしも不良とは限らない事が明かとなり [1] [2]、白質病変や知的機
能の急速な進展増悪にもつながらないことが明かとなった[3]。この原因は、アテローム血栓性脳梗塞の梗塞再発
は血行力学性ばかりでなく、塞栓性あるいは血栓性、プラーク内出血など様々な機序により生ずることに起因す
ることと、更には脳循環予備力障害が自然寛解する場合があることに起因すると思われた[4]。Prospective に
SPECT で潜在的脳循環障害の有無を観察されてきた 65 例の主幹動脈閉塞性病変例について、自然寛解現象を予測
し得る因子を logistic regression analysis により検討したところ、初回の予備力障害が軽度なもの、完全閉塞
より高度狭窄症例で、自然寛解が観察され安いことが明らかとなった。25 例の脳循環代謝予備力障害の程度を、
PET を用いて評価し、平均 2.2 年後に PET 検査を再検し、脳血管拡張予備能改善に関わる PET パラメータの変化の
特徴を明らかにした。[5]脳血管拡張予備能改善は、局所灌流圧の改善が関与することが明らかとなり、側副血行
が長期に亘り改善していくダイナミックな経過が明らかとなった。これまで、PET パラメータと局所脳血管拡張予
備能には良い相関が見られることが知られていたが、血管拡張予備能の程度からどの程度の脳循環代謝予備力障
害がどの程度の感度特異度で診断できるかについては明らかではなかった。54 例について、PET と acetazolamide
負荷 SPECT をほぼ同時期に行い、検討したところ、対側に比し、13%以上拡張予備能が低下すると貧困灌流症候
群が 85%の感度特異度で検出できることが明らかとなった。[6]
2) 白質病変の重症度と神経心理学的異常(case control study)
ラクナ梗塞が単発で起こるとき、知的機能に障害が起こるか否かを検討するため、高血圧を有する初発ラクナ
梗塞患者と高血圧のみで脳疾患を有さない患者を対象とした case controlled study を行ったところ、認知機能
に差は認められず、ラクナの単発が知的機能障害の成因となる可能性は少ないことが明らかとなった。MRI 上の白
133
Brain
attackから脳を守るための研究
質病変の重症度を Fazekas の分類で、PVH、DWMH のいずれかが grade2 以上を重度白質病変として、これらの群を
重度白質病変あり群と重度白質病変なし群の 2 群にわけ、認知機能検査(Mini-mental state examination, Raven
colored progressive matrices, Digit span, Word fluency, Stroop interference condition, Rey’s complex figure,
Rey’s auditory-verbal learning test, Geriatric depression scale)を行った。重度白質病変あり群では、Rey’s
auditory-verbal learning test と Stroop interference condition の有意な障害が確認された[7] [8] [9]。
3) 機能的 MRI による知的機能初期障害の早期診断
Case control study の結果、大脳白質病変に基づく知的機能初期障害を検出しうる神経心理学的検査として、
Rey’s auditory-verbal learning test と Stroop interference condition の 2 つが有望と思われた。このうち機
能的 MRI の心理課題に移植しやすい、stroop 干渉試験を取り上げることとし、刺激には視覚的干渉を用いること
とした。Stroop 課題はいわゆる mental shift を測定する高次機能検査法であり、その課題で誤答率の高い場合
や所要時間が長い場合は、前頭葉機能障害が疑われる。まず、正常ボランティア(10 名)に対し MRI 装置内に文
字を提示し、ボタンを押す作業を中心に、stroop 干渉試験を組み立て、適切な試験方法を確立した。解析には SPM99
を用い、10 例の健常人の標準化データから、本課題により右帯状回の小領域が賦活されることが確認された。大
脳白質病変を有する患者で同様の試験を行うと、両側前頭葉前方の広い領域が賦活され、健常人と異なるパター
ンが検出された。[10]このことは、正常者と大脳白質病変を有する患者では、mental shift を要する課題の遂行
時には別の部位が賦活されていることを示唆するものであり、機能的 MRI(BOLD 法)により、より鋭敏に前頭葉機
能障害の初期変化をとらえ得る可能性が高いと思われた。
4) Tensor Imaging による初期白質病変の早期診断
3.0T-MRI 装置(GE 社製 Signa VH/I)を用い、まず健常人を対象として Tenor image 撮像条件の最適化を行った。
256*256 matrix、SE-EPI 、TR 8000、TE 97、encoding 90*200、thickness 7mm、MPG 6-axis、b=100, 3000, 500,
700, 900, 1100, 1300, 1500, 1700, 1900, 2100, 2300, 2500, 2700, 2900, 3100, 3300 で、大脳白質の良好な
描出を得た。正常例白質では, 高い b-値による Tensor image ほど、高い異方性を示し, 灰白質/白質間に高いコ
ントラストを得ることができることを見い出した。線維密度の異なる領域での異方性の違いも描出されたことか
ら、初期白質病変をとらえ得る方法と思われた。次に脳梗塞症例での Tensor image を検討したところ、放線冠, 内
包での虚血側の異方性低下が、高い b-値による画像で明瞭に示されたことから、高い b-値による Tensor imaging
は、神経線維密度の減少を反映する異方性の低下を鋭敏に捉え得ることが確認された。
考
察
MRI の進歩により、大脳白質病変や無症候性脳病変を有する症例が多数発見されるに至っている。これらの背景
に脳循環障害があることは間違いないと思われるが、その成因については明らかではなく、潜在的脳循環障害か
ら脳を守る方法も確立されてはいない。研究の第一期においては、粥状硬化に基づく脳主幹動脈閉塞に基づく潜
在的脳循環障害に注目して検討を加えた。粥状硬化に基づく比較的大径の脳血管病変に基づく潜在性脳循環障害
は、その後の再発、白質病変の進展、知的機能障害の進展に大きなインパクトを与えているとは言えない事実が
示された。これは、このタイプの脳血管障害の成因の多様性と脳循環障害の自然寛解現象の存在によるところが
大きいと思われた。そこで研究の第二期では、潜在的脳循環障害がより大きな意義を示す可能性の高い、穿通動
脈の硝子様変性を特徴とする cerebral microangiopathy を研究対象として、この病型の初期白質病変の早期診断、
知的機能初期障害の新たな診断法開発を主な目的として研究を進めた。白質病変の早期診断として拡散強調 MRI
を用いた Tensor imaging の有用性が明かとなり、機能的 MRI(BOLD 法)を用いた Stroop 干渉試験により、知的機
能初期障害(前頭葉機能的障害)を客観的かつ鋭敏にとらえ得ることを見い出した。今後、MRI を用いない通常の
134
Brain
attackから脳を守るための研究
Stroop 干渉試験をベッドサイドや外来で施行し、異常を検出し得た症例に対して我々の開発した Tensor imaging
および機能的 MRI による Stroop 干渉試験を 3.0T-MRI で同時に行い、初期白質病変の三次元分布と機能障害の領
域を同時に評価することが可能となる。これらの経時的観察により、はじめて潜在的脳循環障害と、初期白質病
変、知的機能初期障害との関連が明らかになり、血管性痴呆の早期診断、早期治療開発が可能となるものと思わ
れる。
引用文献
1. 横田千晶、峰松一夫、長谷川泰弘、山口武典.
SPECT を用いた前向き長期追跡調査.
脳循環予備力障害と慢性期血圧管理:acetazolamide 負荷
脳卒中 18:388-393、1997
2. Chiaki Yokota, Yasuhiro Hasegawa, Kazuo Minematsu, Takenori Yamaguchi: Effect of acetazolamide
reactivity and long-term outcome in patients with major cerebral artery occlusive diseases Stroke
29: 640-644, 1998
3. 横田千晶、長谷川泰弘、峰松一夫、山口武典:「主幹動脈病変例における脳循環予備力障害と大脳白質病変、
無症候性脳梗塞の進展」、 脳卒中 21:225-231、1999
4. Bingzhen Cao, Yasuhiro Hasegawa, Chiaki Yokota, Kazuo Minematsu,
Takenori Yamaguchi: Spontaneous
improvement in reduced vasodilatory capacity in major cerebral arterial occlusive disease.
Neuroradiology 42:19-25, 2000
5. 藤本茂,横田千晶,脇田政之,長谷川泰弘,峰松一夫,山口武典:大脳白質病変例における認知機能と脳循
環予備能.第 42 回日本老年医学会総会.
仙台国際センター,仙台.
2000 年
6. Fujimoto S, Hasegawa Y, Tagaya M, Hayashida K, Minematsu K, Yamaguchi T. A long-term follow-up study
of cerebral hemodynamic in patients with atherosclerotic occlusive lesions in the major cerebral
arteries., 25th International Stroke Conference, New Orleans, Louisiana, USA, 2000
7. 脇田政之,数井誠司,大坪亮一,多賀谷昌史,峰松一夫,成冨博章,山口武典:高血圧を有する患者の白質
病変と認知機能の関連.
認知神経科学 1: 69-70, 1999
8. 脇田政之,多賀谷昌史,数井誠司,大坪亮一,峰松一夫,成冨博章,山口武典:大脳白質病変に伴う認知機
能障害−STK による検討−.
認知神経科学 2: 36-38, 2000
9. 湧川佳幸,脇田政之,数井誠司,峰松一夫,成冨博章,山口武典:ラクナの認知機能に及ぼす影響について
の検討.第 26 回日本脳卒中学会総会.
大阪国際会議場,大阪.
2001 年
10. 湧川佳幸,松本省二,松本典子,数井誠司,長谷川泰弘,峰松一夫,福永雅喜,染谷芳明,服部憲明,井上
典子,澤田徹:Stroop 課題を用いた機能的 MRI による前頭葉機能に関する研究.第 6 回認知神経科学会.
京大学山上会館,東京.
東
2001 年
成果の発表
1) 原著論文による発表
ア) 国内誌
1. 横田千晶、峰松一夫、長谷川泰弘、山口武典.
SPECT を用いた前向き長期追跡調査.
脳循環予備力障害と慢性期血圧管理:acetazolamide 負荷
脳卒中 18:388-393、1997
2. 長谷川泰弘、峰松一夫、数井誠司、井上 剛、和田邦泰、今北
哲、林田孝平、山口武典:「急性期脳虚血病
巣の拡大と脳循環代謝:Diffusion MRI、PET による検討」、脳卒中 20:562-566, 1998
3. 横田千晶、長谷川泰弘、峰松一夫、山口武典:「主幹動脈病変例における脳循環予備力障害と大脳白質病変、
135
Brain
attackから脳を守るための研究
無症候性脳梗塞の進展」、 脳卒中 21:225-231、1999
4. 脇田政之,数井誠司,大坪亮一,多賀谷昌史,峰松一夫,成冨博章,山口武典:高血圧を有する患者の白質
病変と認知機能の関連.
認知神経科学 1: 69-70, 1999
5. 脇田政之,多賀谷昌史,数井誠司,大坪亮一,峰松一夫,成冨博章,山口武典:大脳白質病変に伴う認知機
能障害−STK による検討−.
認知神経科学 2: 36-38, 2000
イ)国外誌
1. Yokota C, Hasegawa Y, Minematsu K, Yamaguchi T. Effect of acetazolamide reactivity and long-term
outcome in patients with major cerebral artery occlusive diseases Stroke 29: 640-644, 1998
2. Cao B, Yasaka M, Kimura K, Nagatsuka K, Minematsu K, Yamaguchi T. Side-to-side differences of the
common carotid artery diameter in presence of asymmetry of the circle of Willis or different
vasculopaties.
Eur J Ultrasound 8: 221-223, 1998
3. Cao B, Hasegawa Y, Yokota C, Minematsu K, Yamaguchi T. Spontaneous improvement in reduced vasodilatory
capacity in major cerebral arterial occlusive disease. Neuroradiology 42:19-25, 2000
4. Kimura K, Minematsu K, Yonemura K, Koga M, Yasaka M, Yamaguchi T. Hypertension and neurovascular
compression of the left lateral medulla oblongata in ischemic stroke. Eur Neurol 46:70-74, 2001
5. Kimura K, Minematsu K, Koga M, Arakawa T, Yasaka M, Yamagami H, Nagatsuka K, Naritomi H, Yamaguchi
T. Microembolic signals and diffusion-weighted MR imaging abnormalities in acute ischemic stroke.
Am J Neuroradiol 22: 1037-1042, 2001
2)原著論文以外による発表(レビューなど)
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
1. 井上勲,峰松一夫,山口武典:頭蓋内主幹動脈閉塞性病変による慢性貧困灌流症候群の 1 例. 脳と循環 2:
61-64, 1997
2. 峰松一夫,長谷川泰弘,山口武典,横田千晶:閉塞性脳主幹動脈病変例の脳循環予備力障害と慢性期血圧管
理.血圧 5: 780-783, 1998
3. 伊佐勝憲,木村和美,峰松一夫:脳出血.
medicina 35 : 214-216, 1998
4. 藤本茂,峰松一夫,山口武典:TIA の発作時に脳循環動態を評価しえたもやもや病の 1 例.
脳と循環 4:
263-265, 1999
5. 長谷川泰弘:1 抗リン脂質抗体症候群
1 血液疾患 XIV 特殊な原因による脳梗塞.
郎,長尾哲彦(編). 脳梗塞 pp305-307, 1999.
メディカルレビュー社,東京
6. 長谷川泰弘,
山口武典:低灌流例での Diamox test による経時的変化.
1999.
藤島正敏(監),井林雪
上村和夫(編).
脳の SPECT pp139-146,
南江堂,東京
イ)国外誌
1. Yokota C, Hasegawa Y, Minematsu K, Yamaguchi T. Letters to the Editor: Response Effect of acetazolamide
reactivity on long-term outcome in patients with major cerebral artery occlusive diseases.Stroke 29:
1743-1744, 1998
3)口頭発表
ア)招待講演
1. 山口武典,長谷川泰弘:脳循環代謝計測法の進歩.
第 25 回日本医学会総会.
136
1999 年 4 月 3 日,東京国際フ
Brain
attackから脳を守るための研究
ォーラム,東京,
イ)応募・主催講演など
1. 井上剛、長谷川泰弘、峰松一夫、松岡秀樹、横田千晶、林田孝平、山口武典: 脳血管拡張予備能の変
化は、15O-gas吸入法PETによる脳循環代謝諸量の如何なる変化を反映するか?
脳循環代謝
9、56-57,
1997
2.
Hasegawa Y, Minematsu K, Matsuoka H, Tanaka Y, Imamura T, Hayashida K, Yamaguchi T: CBF responses
to acetazolamide and CO2 for the prediction of hemodynamic failure: A PET study. Stroke 28, 242, 1997
(abstract)
3.
脇田政之,数井誠司,峰松一夫,成冨博章,山口武典:初発ラクナ梗塞患者と脳卒中の既往のない高血圧患
者における認知機能障害の比較.
4.
第 40 回日本老年医学会学術集会.
1998.
札幌,北海道
第 11 回日本脳循環代謝学会総会.
1999 年 10 月 5 日,秋田市民文化会館,秋田
脇田政之,多賀谷昌史,峰松一夫,成冨博章,山口武典:大脳白質病変に伴う認知機能障害−SKT による評価
−.
7.
第 23 回日本脳卒中学会総会.
藤本茂,長谷川泰弘,多賀谷昌史,林田孝平,峰松一夫,山口武典:閉塞性主幹脳動脈病変例の脳循環代謝
障害の長期追跡.
6.
福岡
長谷川泰弘,峰松一夫,数井誠司,井上剛,和田邦泰,今北哲,林田孝平,山口武典:急性期脳虚血病巣の
拡大と脳循環代謝:Diffusion MRI,PET による検討.
5.
1998 年.
第 41 回日本老年医学会学術集会総会.
1999 年,京都
長谷川泰弘,藤本茂,多賀谷昌史,有廣昇司,米村公伸,林田孝平,峰松一夫,山口武典: 貧困灌流状態と
脳卒中の再発:PET による脳主幹動脈完全閉塞例の追跡 第 24 回脳卒中学会総会, 1999 年 4 月 21 日、パシフ
ィコ横浜,神奈川
8.
脇田政之,多賀谷昌史,大坪亮一,峰松一夫,成冨博章,山口武典:大脳白質病変に伴う認知機能障害−STK
による評価−.第 4 回認知神経科学会,東京,1999 年
9.
長谷川泰弘,藤本茂,多賀谷昌史,有廣昇司,米村公伸,林田孝平,峰松一夫,山口武典:貧困灌流状態と
脳卒中の再発:PET による脳主幹動脈完全閉塞例の追跡.
第 24 回日本脳卒中学会総会.
1999 年 4 月 22 日,
パシフィコ横浜,神奈川
10. 藤本茂,長谷川泰弘,多賀谷昌史,有廣昇司,林田孝平,峰松一夫,山口武典:IMP-SPECT 定性画像による
acetazolamide 負荷試験は PET 上の貧困灌流状態をどの程度正確に診断しうるか?
総会.
第 24 回日本脳卒中学会
1999 年 4 月 20-22 日,パシフィコ横浜,神奈川
11. 藤本茂,長谷川泰弘,多賀谷昌史,有廣昇司,林田孝平,峰松一夫,山口武典:閉塞性主幹動脈病変例にお
ける脳循環代謝障害の自然寛解.
第 40 回日本神経学会総会.
1999 年 5 月 19 日,東京国際フォーラム,東
京
12. Fujimoto S, Hasegawa Y, Tagaya M, Hayashida K, Minematsu K, Yamaguchi T. Spontaneous improvement of
hemodynamic failure in major cerebral arterial occlusive disease without surgical revascularization.,
19th International Symposium on Cerebral Blood Flow, Metabolism and Function (Brain99 and Brain PET'99),
Copenhagen, Denmark,1999
13. Fujimoto S, Hasegawa Y, Tagaya M, Hayashida K, Minematsu K, Yamaguchi T. Predictive role of 123I-IMP
SPECT imaging with acetazolamide challenge on stage II hemodynamic failure. 19th International
Symposium on Cerebral Blood Flow, Metabolism and Function (Brain99 and Brain PET'99), Copenhagen,
Denmark, 1999
14. 藤本茂,横田千晶,脇田政之,長谷川泰弘,峰松一夫,山口武典:大脳白質病変例における認知機能と脳循
環予備能.第 42 回日本老年医学会総会.
仙台国際センター,仙台.
2000 年
15. Fujimoto S, Hasegawa Y, Tagaya M, Hayashida K, Minematsu K, Yamaguchi T. A long-term follow-up study
137
Brain
attackから脳を守るための研究
of cerebral hemodynamic in patients with atherosclerotic occlusive lesions in the major cerebral
arteries., 25th International Stroke Conference, New Orleans, Louisiana, USA, 2000
16. Fujimoto S, Hasegawa Y, Tagaya M, Kimura K, Hayashida K, Minematsu K, Yamaguchi T. Spontaneous
improvement of hemodynamic failure in occlusive disease of Major cerebral arteries; Importance of
contralateral vascular lesion., 25th International Stroke Conference, New Orleans, Louisiana, USA,
2000
17. 湧川佳幸,脇田政之,数井誠司,峰松一夫,成冨博章,山口武典:ラクナの認知機能に及ぼす影響について
の検討.第 26 回日本脳卒中学会総会.
大阪国際会議場,大阪.
2001 年
18. 湧川佳幸,松本省二,松本典子,数井誠司,長谷川泰弘,峰松一夫,福永雅喜,染谷芳明,服部憲明,井上
典子,澤田徹:Stroop 課題を用いた機能的 MRI による前頭葉機能に関する研究.第 6 回認知神経科学会.
京大学山上会館,東京.
東
2001 年
19. Fujimoto S, Hasegawa Y, Tagaya M, Hayashida K, Minematsu K, Yamaguchi T. Chronic hemodynamic failre
in vertebrobasilar territory in patients with basilar artery occlusion.20th International Sympojium
on Cerebral Blood Flow, Metabolism and Function. Taipei, Taiwan. Jun 9-13, 2001.
138
Brain
attackから脳を守るための研究
1.2. 脳神経細胞生存能調節機構の解明に関する研究
1.2.1. 外因子による脳保護機能の評価と脳神経生存能強化機構に関する研究
1.2.1.1. 脳梗塞耐性機能発現動物モデルの確立
国立循環器病センター研究所
柳本
要
広二
約
虚血耐性現象とは、非致死的な虚血負荷を前処置として用いることでその後 1−4 日の待機期間の後に誘導され
る神経生存能増強減少であった。しかしながら、耐性を増強するためにこの負荷を長期に用いることは、細胞死
を引き起こすため、不可能である。本研究では、虚血中の神経脱分極現象である cortical spreading depression
を前処置として用いることで、長期、すなわち、48 時間におよび前処置を施すことが可能であった。一方、虚血
時間にも生じると考えられる 3 時間の短期のみの前処置では、脳梗塞に対する抵抗性は誘導されなかった。この
長期の cortical spreading depression の負荷を与えた後に脳は、脳梗塞性血管閉塞に基づく虚血に対し抵抗性
を獲得した。この脳梗塞に耐え得る脳の状況、脳梗塞耐性能の本態を解明するために様々な脳内物質発現の増減
を検討した結果、脳由来神経栄養因子が耐性能の獲得時期に一致し、その免疫活性が神経細胞核内で徐々に増加
することが明らかとなった。神経栄養因子の細胞内分布より、新たな核内へのシグナル伝達様式、その後の神経
細胞へ対する機能誘導に関する新たな知見であった。さらに、その後の解析により、神経一酸化窒素合成酵素が
前処置後の脳梗塞耐性能獲得時に脳内で増加することが明らかとなっている。この酵素は、組織内において、広
範囲に分布しており、虚血中および虚血後に低濃度の一酸化窒素を産生することで組織傷害の原因となり得る酸
化ストレスから脳神経を保護している可能性がある。
目
的
1980 年代すでに摂氏 41 度以上の一過性高温ストレスによる前処置が脳内海馬にてその後、虚血に対する抵抗性
を誘導することが知られていた[1]。しかし、1990 年になり、高温性ストレスではなく、短時間の非致死的な脳虚
血(全脳虚血)による前処置がその後 1-3 日を経て脳内(海馬)に虚血に対する抵抗性を誘導することを北川ら
[2]らが報告した。この現象は虚血耐性現象(ischemic tolerance phenomenon)と名づけられて注目を集めた。そ
の後、川原らにより非致死的虚血による前処置でなくともその虚血性ストレスに随伴する脱分極性脳皮質性抑制
波(cortical spreading depression)のみが虚血耐性現象を誘導することが示された[3]。すなわち、塩化カリ
ウムに浸したコットンを脳表に 2 時間置くことで 2 時間の連続する cortical spreading depression を生じさせ、
その 3 日後に海馬にて神経細胞が虚血に抵抗性を有していることが示された。この脱分極性ストレスは、エネル
ギー枯渇等で生じる細胞内陰性直流電位の喪失方向への変位である。これは、波紋のごとく脳表を拡がり、その
波が通過する 1-2 分の間、局所脳波は、全周波数領域にわたり抑制される現象である。細胞外カルシウムが細胞
内へ流入することで何らかの細胞内カスケードを惹起すると考えられる。これらの報告により、脳(海馬)には
虚血に対する抵抗性を自ら増強する機構が存在することが示され、脳保護開発への新たな手がかりとなり得ると
期待された。しかしながら、虚血耐性現象のみで、臨床上問題となる様々な領域に一塊として傷害する脳梗塞巣
139
Brain
attackから脳を守るための研究
を(実験的)に縮小させることは不可能であった。そこで、本研究は、脳卒中の臨床上の問題である脳梗塞性の
脳虚血性脳傷害から脳を守る程度の強度の耐性現象が存在することを証明することを目的とした。
研究方法
脱分極性ストレス,cortical spreading depression を長時間にわたり用いることで、脳皮質での虚血耐性現象
の増強を試みた。雄性 Spraque-Dawley ラット(8-9 週令)を用いて、体内埋め込み型小型浸透圧ポンプの装着によ
り、微量の塩化カリウム溶液をラット脳内へ持続的に 48 時間にわたり注入した。Direct current potential によ
り、ラット脳における KCl 微量注入時の CSD 発生を確認した。また、断続的に生じる脳波上の抑制減少も EEG-trend
monitor により、確認した。その 24 時間におよぶ CSD 前処置の後に、1 日から 24 日間にわたる様々な待機時間を
置き、全身麻酔を用いて、均一の一過性局所脳虚血を左中大脳動脈領域へ負荷し、その後に生じる脳梗塞体積を
測定しすることで、脳組織の局所脳虚血に対する抵抗性の変化を観察した[4]。その結果(後述)として得られた
脳梗塞耐性は、一過性現象であり、その発現誘導には、組織内での何らかの蛋白質の一過性発現増加あるいは、
減少が関与している可能性がある。従って、脳梗塞耐性現象確認の後(第 2 期)は、その未知の蛋白の同定を目
指した細胞内機構の検討を試みた。CSD により誘導されることが知られるあらゆる蛋白に対する解析を進めるとと
もにマイクロ・アレー法による網羅的遺伝子発現プロファイリング手法により、増減の示唆される蛋白群を検出
した。CSD による前処置の後の待機期間において脳内でその発現が増加あるいは減少が示唆される物質に関しては、
生理食塩水脳内注入群を対照群として用い、前処置後脳内特定の mRNA の定量、および特定の蛋白の定量により行
った。さらに、それらの定量的解析により、増減が確認された物質に対しては、それぞれに対する特異抗体によ
る免疫組織化学的手法を用い、組織内、細胞内分布を経時的に観察した。
研究成果
CSD 前処置後、様々な待機期間をおいて負荷した一過性局所脳虚血の後に測定した脳梗塞体積は、待機期間が長
くなるに従い、徐々に縮小傾向を示し、12,あるいは 15 日の待機期間の後には、およそ半減することが観察され
た[4]。前処置に用いた塩化カリウム注入による脳の障害程度に関する観察の結果、針に近接した部位以外への細
胞死の拡がりはなく、また、梗塞に抵抗性を有する時期(CSD 負荷、12 日後)に測定した虚血前および虚血中の
局所脳血流では、KCl 注入群も生食注入群も差はなく、また、前処置により局所脳血流および虚血深度が変動する
こともなかった。すなわち、観察された脳梗塞巣体積の減少は、明らかに脳の生存能の増強によりもたらされた
ものであるということができる。長期間にわたり加えられた脳での脱分極性ストレスが、その後長期間の待機期
間を置いて、内在性未知の機構を動員し、強度虚血性ストレスに対する抵抗性をもたらした。かつて、最も虚血
に対して脆弱な海馬の CA1 細胞集団に初めてその存在が確認されていた”虚血耐性現象”を基礎として、それを
発展させた新たな耐性の存在、脳に本質的には無害な CSD を長期に用いた前処置によるストレスの負荷が、その
後に増強した耐性能を誘導させることが示された。この耐性(脳梗塞耐性)は、脳梗塞を生じる程度の強度虚血
性ストレスにも耐えうるまでの抵抗力を獲得させることが明らかとなった。その後の研究において、新たなマウ
ス脳梗塞モデルを作成し、それを用いてこの現象の証明が試みられ、その結果、待機期間は違うものの同様に有
意な脳梗塞巣体積の減少をもたらすことが明らかとなった(未発表)
。
さらに脳梗塞耐性能の細胞内機構の解明において、脳由来神経栄養因子が、CSD 直後より脳内にて増加しており、
その核内免疫活性の増強は、耐性能獲得の時期に一致していた[5]。脳由来神経栄養因子が、如何なる細胞内機構
を動員したかに関しては、未だに不明であるが、これに基づく細胞内シグナルが脳を梗塞性致死的虚血に耐えう
る能力を誘導した可能性がある。さらに、網羅的な原因物質検索に関する研究の結果、増加を示した脳内ペプチ
ドの一つとして、神経一酸化窒素合成酵素の発現が長期 CSD 前処置の後に長期にわたり、増加し、その時間経過
140
Brain
attackから脳を守るための研究
が耐性獲得に酷似することが明らかとなった。
考
察
高温によるストレス負荷が脳に対する虚血抵抗性を誘導することが示された後[1]、非致死的前脳虚血という軽
度な虚血性ストレスによる前処置が、その語に虚血耐性現象を生じさることが報告された[2]。しかしながら、こ
れらの前処置はいずれも致死的ストレスとなる以前に終了させ、前処置に内在するストレスから受ける細胞障害
を免れる必要があった。したがって、それ以上ストレス負荷を増強し、耐性をも増強させることは不可能であっ
た。しかしながら、その後の虚血耐性に関する報告の中で、虚血を用いずとも塩化カリウム溶液に浸したコット
ンを脳表に 2 時間置くことで誘導した cortical spreading depression (CSD)を前処置として用いることで、その
後、3 日間の待機期間の後に海馬にて同様に神経細胞が致死的前脳虚血に抵抗性、すなわち虚血耐性現象を発現す
ることが明らかとなった[3]。この脱分極性ストレスである CSD は、エネルギー枯渇等で生じる細胞内陰性直流電
位の喪失方向への変位であり、波紋のごとく脳表を拡がり、その波が通過する 1-2 分の間、局所脳波は、全周波
数領域にわたり抑制されるので、spreading depression(拡播性抑制)と名づけられた[6]。CSD は、機械的脳傷害、
虚血、高温等で生じ、正常脳に用いた場合、脳組織障害を生じさせないことが知られている[7]。これら、CSD を
併発するストレスは、それぞれ、虚血耐性現象を誘導することが報告されていることより、虚血耐性誘導の本態、
必要条件は、CSD であると考えられる。すわわち、すでに示された虚血耐性現象の前処置として用いられた様々な
ストレスの中の一因子として CSD が含まれていたと考えることができる。そして、この正常脳には無害な CSD を
長期に脳に加え続けることで強固な虚血耐性が誘導された。この虚血耐性現象が初めて報告された当初、この虚
血耐性獲得と時期を同じくして、脳内では、heat shock protein (hsp) 70(72)が高発現していることが認識され、
このシャペロン機能を有する熱ショック蛋白が虚血耐性現象発現に何らかの役割を果たしているものと推測され
た。しかしながら、CSD による脱分極のみでは、hsp70 は誘導されず、虚血による脱分極により初めて hsp70 が誘
導されることが報告された[8]。その後、川原ら[3]により短期間 CSD を前処置として用いて生じた虚血耐性時に
は、脳内 hsp70 の高発現は観察されなかったことより、hsp70 の高発現は虚血耐性現象の必要条件ではない可能性
が示された。さらに本研究において示した脳梗塞耐性現象において用いた長期 CSD 後の観察においても hsp70
(inducible)は誘導されないことが確認された[5]。すなわち、これまで神経細胞生存能を高めるための中心的細
胞内機構であると期待されていた hsp70 の高発現は、脳梗塞耐性能獲得過程においては、全く関与しないことが
本研究においても示された。その他、本研究後期において検索した因子群の中では、GFAP あるいは、hsp27 は、
CSD 後の脳内において著明に増加したが、その時期は、脳梗塞耐性能の発現より明らかに早く、生存能との関与は
明らかではなかった。また、CSD 後の脳内の発現変化として捉えられたものとして GADD45 あるいは、PCNA がある
[9]。これらの発現意義は現時点で明らかではないが、GADD45 に関しては、CSD 時の酸化ストレスとDNA傷害修
復機構が活性化された可能性があり、これらDNA傷害への耐性と虚血耐性能との関連が示唆される。また、PCNA
においては、DNA傷害―修復機構への関与が報告されている一方、cell replicationのマーカーでもあり、長
期にわたる CSD 後に神経あるいは、グリア系細胞の fenotype に変化が生じた可能性があり、現在詳細を検討中で
ある。
神経一酸化窒素合成酵素(nNOS)は、一酸化窒素合成酵素群の中で脳内のみに存在する一つの isoform である。
その生体における機能は、不明であるが、nNOS 遺伝子のノックアウト動物が、虚血性ストレスにより抵抗性を示
したこと[10],あるいは、nNOS の特異的阻害剤がある種の脳虚血から脳を保護したことより[11]、虚血性神経細胞
死に対し一つの増悪因子であると信じられてきた。しかしながら、近年、酸化的ストレスによる hydroxyl radical
の発生を高発現した nNOS が抑制するという報告があり、これまで得られた成果と照らし合わせ、脳内において高
発現した nNOS は虚血性ストレス時に神経毒性ではなく、神経保護作用をもたらしている可能性がある。
141
Brain
attackから脳を守るための研究
引用文献
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成果の発表
1)原著論文による発表
ア)国内誌
1.
Cortical spreding depression(CSD)負荷後の脳内 GADD45 および PCNA の発現誘導
永田
2.
張
泉、藤内
謙光、飯原
弘二、村尾
志文、柳本
広二、永田
泉、薛
健一、菊池
菁暉、村尾
晴彦
薛
菁暉、柳本
広二、
脳循環代謝 14(1), 33-34, 2002
健一、飯原
弘二、菊池
晴彦
Trapidil による脳
血管攣縮緩解効果及び血小板由来成長因子による脳血管の持続的狭小化に関する研究
脳循環代謝 in
press, 2002
3.
張
志文、柳本
広二、永田
阻害剤、FUT-175
4.
中原
橋
一郎、坂井
淳、大田
泉、坂井
信幸、薛
菁暉、菊池
及び Arratoroban の予防効果―実験的検討
信幸、永田
元、石澤
泉、柳本
錠二、間中
広二、下鶴
浩、森実
晴彦
脳循環代謝 13(4), 306-307, 2001
哲朗、酒井
飛鳥、川端
血管攣縮に対する serine protease
秀樹、東
康弘、新堂
登志夫、名村
敦、安栄
尚武、高
良悟、菊池
晴彦
頸部頸動脈狭窄に対する stenting 脳神経外科ジャーナル(Jpn J Neurosurg) 10:445-453, 2001
5.
間中
浩、酒井
尚武、高橋
秀樹、永田
淳、大田
泉、中原
元、石澤
一郎、坂井
錠二、新堂
信幸、柳本
敦、森実
142
広二、下鶴
飛鳥、川端
哲朗、東
康弘、菊池
晴彦
登志夫、名村
脳血管撮影に
Brain
attackから脳を守るための研究
よる微小塞栓の検討
6.
柳本
広二、永田
CT研究 22:217 ー 222、2000
泉、名村
尚武、藤内
虚血後脳梗塞進展に対する抑制効果
7.
柳本
広二、西崎
順也、水田
謙光、中原
森実
飛鳥、中原
依久子、永田
高橋
淳、西崎
一郎、坂井
順也、石澤
信幸、柳本
錠二、間中
伴う未治療破裂脳動脈瘤の血管内治療
9.
中原
中
一郎、坂井
泉、中原
11.
浩、林
広二、永田
泉、菊地
晴彦、橋本
義典、酒井
誘導
脳循環代謝 10、374-375、1999
信夫
晴彦
虚血中および虚血後軽度低
義典、酒井
秀樹、東
泉、菊池
晴彦
登志夫、名村
尚武、
症候性脳血管攣縮を
27:941-1317, 1999
晴彦,
第 17 回 Mt. Fuji Workshop on CVD ed: 小川
柳本
低体温療法による永久局所脳
11(3), 304, 1999
直樹、永田
脳神経外科
広二、秋山
一郎、菊池
脳循環代謝
広二、秋山
浩、林 直樹、森実 飛鳥、永田 泉、菊池
Stenting
10.
信幸、柳本
晴彦
脳循環代謝 11, 420-421, 2000
体温の実験的脳梗塞に対する抑制効果の比較検討
8.
一郎、菊池
秀樹、東
登志夫、高橋
淳、石澤
錠二、間
鎖骨下動脈および椎骨動脈起始部狭窄に対する
彰、ニューロン社、東京、17, 53-57,1999,
Cortical spreading depression を用いた脳梗塞耐性の
Yanamoto H, Tsukahara T, Goto Y, Iwama T, Nishi S, Akiyama Y, Yamamoto S, Suzuki S, Tanaka M, Todaka
T, Morimoto M, Sawada M, Nomura M, Hashimoto N.
重傷くも膜下出血患者において術後軽度低体温療法
の脳血管攣縮に及ぼす影響. 脳血管攣縮, 12, 414-419, 1997
イ)国外誌
1.
J-H Xue, N Tohnai, I Nagata, Z Zhang, K Iihara, H Kikuchi, H Yanamoto
Cortical Spreading
Depression up-regulates DNA damage-inducible gene GADD45 and prpliferating cell nuclear antigen
(PCNA) in rat brain
2.
Soc. Neurosci. 27,205.12, 2001
H Yanamoto, I Nagata, J-H Xue, Z Zhang. K Iihara, H Kikuchi Infaract tolerance induced by cortical
spreading depression in mice
3.
Soc. Neurosci. 27, 208.11, 2001
Yanamoto H, I Nagata I, Niitsu Y, Sakai N, Zhang Z, Xue J-H, Kikuchi H
neocortical infarct caused by temporary focal ischemia.
A new mouse model of
J. Cereb. Blood Flow Metab. 21(S1), S516,
2001
4.
Yanamoto H, Nagata I, Niitsu Y, Zhang, Z, Xue J-H, Kikuchi H
to permanent focal ischemia by prolonged
Suppression of cerebral injury due
hypothermia therapy in rats.
J. Cereb. Blood Flow Metab.
21(S1), S448, 2001
5.
Xue J-H, Yanamoto H, Nagata I, Zhang, Z, Kikuchi H
Cortical spreading depression up-regulates the
growth arrest and DNA damage-inducible gene (GADD45) in rat brain. J. Cereb. Blood Flow Metab. 21(S1),
S240, 2001
6.
Zhang, Z, I Nagata I, Kikuchi H, Sakai N, J-H Xue, H Yanamoto
Effect of specific thrombin inhibitor,
Argatroban, on experimental cerebral vasospasm and PDGF-BB expression.
21(S1),
7.
J. Cereb. Blood Flow Metab.
S202, 2001
Z Zhang, I Nagata, H Kikuchi, J-H Xue, N Sakai, H Yanamoto
Broad-spectrum and selective serine
protease inhibitors prevent expression of platelet-derived growth factor-BB and cerebral vasospasm
after
subarachnoid
hemorrhage:
Vasospasm
caused
by
cisternal
injection
of
recombinant
pletelet-derived growth factor-BB, Stroke, 32, 1665-1672, 2001
8.
H Yanamoto, I Nagata, Y Niitsu, Z Zhang, J-H Xue, N Sakai, H Kikuchi
Prolonged mild hypothermia
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H Yanamoto, I Mizuta, I Nagata, Z Zhang, J.-H Xue, H Kikuchi: Enhanced BDNF-like immunoreactivity
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H Yanamoto, I Nagata, H Kikuchi, Recent Advances in Brain Protection for Ischemic Stroke, Recent
Advances in Cardiovascular Disease, Eds, T Yamaguchi et al. Osaka Publication, Osaka, XXI pp35-46,
2000
(柳本
広二、永田
泉、菊池
晴彦、脳保護療法への新たな道、循環器病研究の進歩、山口武典
他編、大阪書籍、21, PP35-46, 2000)
イ)国外誌
1.
H Yanamoto, J-H Xue, M Sakata, I Mizuta, N Tohnai, I Nagata , N Hashimoto, H Kikuchi
Infarct
tolerance induced by repetitive cortical spreading depression is reproduced by prolonged
intracerebral infusion of recombinant brain-derived neurotrophic factor.
“Strategic medical
science against brain attack” ed. by Kikuch H. Springer, Tokyo pp. 145-167, 2002
2.
J-H Xue, H Yanamoto, I Nagata, Z Zhang, H Kikuchi Increased expression of nNOS following cortical
spreding depression in rat brain
Ischemia,
3.
5th International Workshop on Maturation Phenomenon in Cerebral
Metabolism and Function
in press
2002
H Yanamoto, I Nagata, J-H Xue, Z Zhang, H Kikuchi
Persistent neuroprotection against focal
cerebral ischemia by cortical spreading depression in mice
Maturation Phenomenon in Cerebral Ischemia,
5th International Workshop on
Metabolism and Function
145
in press
2002
Brain
attackから脳を守るための研究
3)口頭発表
2. 応募・主催講演等
1.
J-H Xue, H Yanamoto, I Nagata, Z Zhang, H Kikuchi
spreding depression in rat brain
Ⅴth International Workshop on Maturation Phenomenon in Cerebral
Ischemia, Metabolism and Function April
2.
Increased expression of nNOS following cortical
28-May 1, 2002, Banff, Canada
H Yanamoto, I Nagata, J-H Xue, Z Zhang, H Kikuchi
Persistent neuroprotection against focal
cerebral ischemia by cortical spreading depression in mice
Ⅴ th International Workshop on
Maturation Phenomenon in Cerebral Ischemia, Metabolism and Function April
28-May 1, 2002, Banff,
Canada
3.
柳本
広二、薛
菁暉、永田
泉、張
脳梗塞耐性脳での nNOS 発現増強
4.
柳本
広二、薛
菁暉、藤内
志文、菊池
第 27 回
晴彦
Cortical spreading depression(CSD)負荷後、
日本脳卒中学会総会
謙光、永田
泉
4 月 24-5 日
2002
仙台市
Cortical spreading depression (CSD)負荷後、脳梗塞耐
性脳での Gadd45, PCNA, および nNOS の発現増強
5.
柳本
6.
薛
広二
第 5 回ブレインアタックから脳を守る研究セミナー
菁暉、柳本
広二、永田
泉、藤内
謙光、飯原
弘二、村尾
depression(CSD)負荷後の脳内 GADD45 および PCNA の発現誘導
18-19 日
7.
張
1月
2002 年
健一、菊池
第 13 回
豊中市
晴彦
Cortical spreding
日本脳循環代謝学会総会
2001 横浜市
志文、柳本
広二、永田
泉、薛
菁暉、村尾
健一、飯原
弘二、菊池
晴彦
Trapidil による脳
血管攣縮緩解効果及び血小板由来成長因子による脳血管の持続的狭小化に関する研究
循環代謝学会総会
8.
張
志文、柳本
10 月 18-19 日
広二、永田
2001
10 月 24-26 日 2001
柳本
広二、永田
泉、村尾
柳本
広二、永田
谷口
歩、薛
流の自然緩解
11.
日本脳
健一、飯原
弘二、薛
菁暉、菊池
晴彦
血小板由来成長因
第 60 回日本脳外科学会総会
岡山市
泉、新津
陽一、村尾
なマウス一過性局所脳虚血モデルの開発
10.
第 13 回
横浜市
子による脳血管の持続的狭小化および trapidil による脳血管攣縮緩解効果
9.
10 月
泉、村尾
菁暉、張
健一、飯原
菁暉、張
第 60 回日本脳外科学会総会
健一、酒井
志文、菊池
弘二、薛
晴彦
秀樹、飯原
弘二、長嶺
志文、菊池
10 月 24-26 日 2001
知明、安栄
晴彦
新た
岡山市
良悟、副田
明男、
永久局所虚血に対する軽度低体温療法の有効性と局所脳血
第 4 回日本脳低温療法研究会学術集会
7 月 6-7 日
2001
宇部市
J-H Xue, N Tohnai, I Nagata, Z Zhang, K Iihara, H Kikuchi, H Yanamoto
Cortical Spreading
Depression up-regulates DNA damage-inducible gene GADD45 and prpliferating cell nuclear antigen
(PCNA) in rat brain
12.
31st Annual Meeting Society for Neuroscience Nov. 10-15, 2001, San Diego, USA
H Yanamoto, I Nagata, J-H Xue, Z Zhang. K Iihara, H Kikuchi
spreading depression in mice
31
st
Infaract tolerance induced by cortical
Annual Meeting Society for Neuroscience
Nov. 10-15, 2001, San
Diego, USA
13.
H Yanamoto, I Nagata, Y Niitsu, Z Zhang, J-H Xue, N Sakai, H Kikuchi
Suppression of cerebral injury
due to permanent focal ischemia by prolonged hypothermia therapy in rats
XXth International
Symposium on Cerebral Blood Flow, Metabolism and Function June 9-13, 2001, Tipei, Taiwan
14.
H Yanamoto, I Nagata, Y Niitsu, N Sakai, Z Zhang, J-H Xue, H Kikuchi
A new mouse model of neocortical
infarct caused by temporary focal iscehmia XXth International Symposium on Cerebral Blood Flow,
Metabolism and Function June 9-13, 2001, Tipei, Taiwan
15.
J-H Xue, H Yanamoto, I Nagata, Z Zhang, H Kikuchi
Cortical spreading depression up-regulate the
growth arrest and DNA damage-inducible gene (GADD45) in rat brain
146
XXth International Symposium
Brain
attackから脳を守るための研究
on Cerebral Blood Flow, Metabolism and Function June 9-13, 2001, Tipei, Taiwan
16.
Z Zhang, I Nagata, H Kikuchi, N Sakai, J-H Xue, H Yanamoto
Effects of specific thrombin inhibitor,
Argatroban on experimental cerebral vasospasm and PDGF-BB expression
XXth International Symposium
on Cerebral Blood Flow, Metabolism and Function June 9-13, 2001, Tipei, Taiwan
17.
安栄
良悟、坂井
高橋
淳、大田
信幸、永田
元、長嶺
泉、柳本
知明、副田
FUT-175, アルガトロバン併用療法へ
18.
張
志文、柳本
広二、酒井
広二、永田
明男、谷口
柳本
広二、水田
泉、坂井
衣久子、永田
歩
弘二、阪井田
脳血管攣縮に対する治療
信幸、薛
泉、薛
菁暉、菊池
晴彦
登志夫、
塩酸ファスジルと
ラット頸動脈バルン損傷後新生
第 26 回日本脳卒中学会
菁暉、張
志文、坂井
2001
信幸、酒井
塞耐性発現脳のおける GFAP, HSP27, HSP70, BDNF の発現および局在変化
20.
博司、東
第 17 回スバズムシンポジウム、3 月 14 日、大阪、2001
内膜肥厚に対するプロテアーゼ阻害剤の抑制効果
19.
秀樹、飯原
秀樹、菊池
晴彦
第 26 回日本脳卒中学会
梗
2001
Hiroji Yanamoto, Izumi Nagata, Yohichi Nitsu, Zhi-wen Zhang, Jing-Hui Xue, Nobuyuki Sakai, Haruhiko
Kikuchi
Postischemic hypothermia provides additional neuroprotection to intraischemic
hypothermia in rat focal ischemia model
The fifth annual joint meeting of the American Association
of Neurological Surgeons/ Congress of Neurological Surgeons and the American Society of
International and Therapeutic Neuroradiology, Feb 9-12, 2001, Hawaii
21.
張
志文、柳本
広二、永田
泉、坂井
信幸、薛
菁暉、菊池
晴彦
脳血管攣縮に対する serine protease
阻害剤、FUT-175 および Argatroban の抑制効果第 12 回日本脳循環代謝学会総会
22.
H Yanamoto, I Mizuta, I. Nagata, Z Zhang, J-H Xue, H Kikuchi
12, 5-6, 2000 仙台
Enhanced BDNF-like immunoreactivity
in neuronal nuclei in the brain of infarct tolerance Society for Neuroscience, Neworleans, November
4-9, 2000
23.
坂井
信幸、永田
泉、柳本
広二、酒井
ルと FUT-175, アルガトロバン併用療法へ
秀樹、他
24.
張
志文、柳本
広二、永田
泉、坂井
スパズムの治療成績は向上したか?塩酸ファスジ
第 16 回スバズムシンポジウム、2000
信幸、薛
菁暉、菊池
晴彦
阻害剤、FUT-175 および Argatroban の抑制効果ー実験的検討ー
7 月 21ー22 日、京都
脳血管攣縮に対する serine protease
第 59 回日本脳神経外科学会(福岡)2000、
10・24 ー 26
25.
柳本
広二、永田
泉、張
志文、薛
菁暉、坂井
所脳虚血モデルに対する軽度低体温療法の効果
26.
柳本
広二
28.
2000 年
信幸、永田
晴彦
スパズムの治療成績は向上したか?
志文、柳本
泉、柳本
9月
坂井
張
秀樹、高橋
淳、菊池
広二、永田
広二、酒井
泉、名村
晴彦
永久局
第 59 回日本脳神経外科学会(福岡)2000、10・24 ー 26
一過性および永久局所脳虚血に対する軽度低体温療法の脳保護効果
ックから脳を守る研究セミナー
27.
信幸、酒井
第4回
ブレインアタ
豊中市
秀樹、東
登志夫、高橋
淳、大田
元、安栄
良悟、菊池
スパズムシンポジウム(京都)7 月 21 ー 22 日、2000
尚武、坂井
信幸、薛
菁暉、菊池
に対するセリン蛋白分解酵素阻害剤、FUT-175 および Argatroban の抑制効果
晴彦
実験的脳血管攣縮
スパズムシンポジウム(京
都)7 月 21 ー 22 日、2000
29.
柳本
橋
広二、永田
淳、菊池
晴彦
泉、新津
陽一、張
志文、中原
一郎、坂井
信幸、酒井
永久局所脳虚血に対する急性期軽度低体温療法の長期予後
秀樹、下鶴
哲朗、高
第 25 回日本脳卒中学会
総会、東京、2000, 4, 27-28
30.
張
志文、柳本
の抑制効果
31.
広二、永田
泉、名村
尚武、菊池
晴彦
脳血管攣縮に対する thrombin 阻害剤, MD-805
第 25 回日本脳卒中学会総会、東京、2000, 4, 27-28
Yanamoto H, Nagata I, Tohnai N, Zhang Z, Kikuchi H.
Prolonged hypothermia therapy suppress the
extension of cerebral infarction following permanent focal iscehmia. Joint Meeting of the Section
147
Brain
attackから脳を守るための研究
on Cerebrovascular Surgery (AANS/CNS JSCVS) , 2000 Feb 6-9, New Orleans
32.
33.
柳本
広二
実験的脳梗塞耐性脳の作成に関する研究
ナー
9月
1999 年
第3回
ブレインアタックから脳を守る研究セミ
豊中市
Yanamoto H, Nagata I, Nishizaki J, Mizuta I, Nakahara I, Inoue A, Kikuchi H. A new model of temporary
focal ischemia using a three-vessel occlusion technique in rats. XIXth International Symposium on
Cerebral Blood Flow, Metabolism and Function 6.13-17, 1999, Copenhagen
34.
Yanamoto H, Nagata I, Nishizaki J, Nakahara I, Inoue A, Kikuchi H.
Expression of glial fibrillary
acidic protein, heat shock protein and neurotrophic factor during the infarct tolerance.
XIXth
International Symposium on Cerebral Blood Flow, Metabolism and Function 6.13-17, 1999, Copenhagen
35.
Yanamoto H, Nagata I, Nakahara I, Inoue A, Tohnai N, Kikuchi H.Prolonged moderate hypothermia
suppresses the extension of cerebral infarction for 48 hours following severe permanent focal
ischemia.
36.
柳本
29th Annual Meeting of Society for Neuroscience, 1999 Oct. 23-28, Miami Beach.
広二、西崎
順也、水田
依久子、中原
一郎、永田
泉、菊池
血後長期軽度低体温の実験的脳梗塞に対する抑制効果の比較検討
晴彦
虚血中、虚血後短期、虚
第 24 回日本脳卒中学会総会
1999
4 月 20 ー 22、横浜
37.
H Yanamoto, I Nagata, I Nakahara, I Mizuta, J Nishizaki, H Kikuchi,
Postischemic hypothermia
provides additional neuroprotection to intraischemic hypothermia in rat focal ischemia model Joint
Meeting of the Section on Cerebrovascular Surgery (AANS/CNS JSCVS) , 1999 Jan31-Feb.3, Nashville
38.
柳本
実
広二、石澤
飛鳥、永田
錠二、中原
泉、
一郎、下鶴
哲朗、坂井
信幸、酒井
秀樹、高橋
淳、間中
浩、森
虚血中および虚血後長期軽度低体温合併療法の実験的脳梗塞進展に対する強度な
抑制効果(シンポジウム)第 2 回日本脳低温療法研究会、平成 11 年 7 月 22 ー 23 日、札幌
39.
H Yanamoto, I Mizuta, J Nishizaki, H Kikuchi, Combination of intra-and postischemic hypothermia
exerts profound neuroprotection against temporary focal ischemia in rats.
28th Annual Meeting of
Society for Neuroscience, 1998 Nov.7-12, Los Angeles
40.
柳本
広二、
永田
泉、名村
尚武、藤内
所脳虚血後脳梗塞進展に対する抑制効果
41.
42.
柳本
広二
43.
9月
柳本
信夫、菊池
広二、永田
泉、橋本
1998 年
第 23 回日本脳卒中学会総会
柳本
広二、
44.
西崎
順也、水田
1998
柳本
柳本
低体温療法による永久局
第2回
ブレインアタッ
豊中市
晴彦
Cortical spreading depression による脳梗塞耐性の
6 月 24 ー 25、札幌
依久子、永田
泉、中原
一郎、菊池
晴彦
虚血中および虚血後軽
第 10 回日本脳循環代謝学会総会、1998、11、17
吹田
広二、永田
の誘導
45.
晴彦
第 11 回日本脳循環代謝学会総会、1999、10、4-5、秋田
度低体温の実験的脳梗塞に対する抑制効果の比較検討
ー 18、
一郎、菊池
外因子による脳保護機能の評価と脳神経生存能強化に関する研究
クから脳を守る研究セミナー
発現
謙光、中原
泉、橋本
信夫、菊池
晴彦
Cortical spreading depression を用いた脳梗塞耐性
第 10 回日本脳循環代謝学会総会、1998、11、17 ー 18、
広二
吹田
外因子による脳保護機能の評価と脳神経生存能強化に関する研究
クから脳を守る研究セミナー
9月
1997 年
豊中市
148
第1回
ブレインアタッ
Brain
attackから脳を守るための研究
1.2. 脳神経細胞生存能調節機構の解明に関する研究
1.2.1. 外因子による脳保護機能の評価と脳神経生存能強化機構に関する研究
1.2.1.2. 神経栄養因子および脳低温状態の有する脳保護効果の解析
国立循環器病センター研究所
柳本
要
広二
約
神経栄養因子は、神経細胞培養下において神経細胞の生存を維持あるいは、増強させることのできる蛋白であ
る。培養下では、神経栄養因子の投与が様々なストレスに対する抵抗性を高めることが知られている。それらの
ことをふまえて生体内 in vivo で生じる虚血性ストレス負荷に対し、神経栄養因子の一種である、神経由来神経
栄養因子および血小板由来成長因子を脳内直接投与し、これら神経栄養因子の有する脳保護効果を観察した。そ
の結果、一定量の長期にわたる持続的投与が脳梗塞の原因となる虚血性ストレスの一種である一過性局所脳虚血
に対する抵抗性を脳へもたらした。さらに前述の脳梗塞に耐える程度の虚血耐性能(脳梗塞耐性)の機構を解析
する中で、筆者らは、長期の cortical spreading depression 後、局所(ラット脳皮質)での脳由来神経栄養因
子(brain-derived neurotrophic factor: BDNF)の発現増加を観察した[1]。直接脳内投与と塩化カリウム注入に
よる CSD の誘導は、実質的に同様の細胞内機構を動員し、脳梗塞耐性を誘導している可能性がある。
一方、低体温の有する脳保護効果を明らかとするために、ラットに脳梗塞性虚血を負荷し、低体温下での梗塞
巣の進展、および、脳機能の変化を観察した。その結果、軽度(摂氏 33―34 度)の低体温は、24 時間(ヒトでは
約 3 日に相当)という長期に用いた場合において、永続する脳保護効果を有することが明らかとなった。その後、
一過性の局所脳虚血のみではなく、永久型局所脳虚血に対しても、急性期、慢性期ともに脳梗塞巣体積の有意な
減少が確認され、すなわち、軽度長期低体温療法の永続する脳保護効果が明らかとなった。尚、低体温群におい
ては、急性期の脳浮腫率が有意に低値であり、低体温の有する虚血性脳傷害後の抗浮腫作用が明らかとなった。
低体温療法(低脳温療法)を用いたこれらの基礎的研究結果は、今後必要となる脳卒中の治療研究を進めていく
上において、プロトコール作成上、重要な意義を持つ。
目
的
神経培養系にて、神経栄養作用が報告されている脳由来神経栄養因子および血小板由来成長因子の局所脳虚血
下における脳保護作用を検討する。脳保護作用の評価において、局所脳血流量を測定し、脳血流に対する改善効
果によるものではないことを確認する。いづれかに脳梗塞巣縮小、すんわち、保護効果が見られた場合は、それ
ぞれの栄養因子の脳組織内、および、神経細胞内分布状況を組織学的に解析する。また、軽度低体温の一過性局
所脳虚血ならびに永久局所脳虚血による神経傷害に及ぼす効果を組織学的にまた、運動機能学的に検討する。
研究方法
神経栄養因子の有する脳保護効果の検討
149
Brain
attackから脳を守るための研究
雄性 Sprague-Dawley ラット(300-350g) 一過性局所脳虚血モデルを用い、虚血後の脳梗塞巣体積を計測し、栄
養因子投与による脳保護効果を解析する。リコンビナント脳由来神経栄養因子およびリコンビナント血小板由来
成長因子は、それぞれペプチドであり、血液内投与では、血液脳脊髄関門を通過しない。したがって、脳皮質内
への直接注入法によりの投与とする。それぞれ一定量を小型浸透圧ポンプに充填し、2 日から 14 日間までのさま
ざまな注入速度・期間を用いた。尚、対照群との間に明らかな脳梗塞の縮小効果が認められた場合は、同投与法
後の局所脳血流を測定し、脳血流に対する影響のないことを確認する。対照群としては同等の注入速度での PBS
投与群を用いた。
虚血中と虚血後再灌流時を含む長期軽度低体温療法(前期)
実験では、雄性 Sprague-Dawley ラット(300-350g) の一過性局所脳虚血モデルである 2 時間虚血モデルを用い
た[2]。ラットを 5 群に分けた。第 1 群は、常温で脳虚血負荷後、2 日間常温放置とした。第 2 群は、虚血中のみ
を摂氏 33 度の軽度低体温とし、虚血後は、常温下にて放置した(虚血中のみ低体温)。第 3 群は、虚血中は 2 群
と同様の低体温とし、虚血後も 22 時間に渡り、低体温を持続した(虚血中および虚血後 22 時間低体温)
。第 4 群
は、虚血中は、2 群と同様の低体温とし、虚血後は 3 時間のみ短期間低体温を維持した(虚血中および虚血後 3 時
間のみ低体温)。第 5 群は、虚血中は、常温とし、虚血後のみを 22 時間に渡り低体温とした。長期の低体温導入
には、術直後よりラットを覚醒状態にて、低温室に置くことで達成した。脳梗塞巣の体積は、2 日後、および 30
日後に判定した。さらに、神経機能脱落の程度を解析するため、独自の neurological deficit score を用いて、
脳運動機能を 30 日間にわたり、追跡調査する。
永久脳虚血に対する低体温の効果(後期)
再灌流が達成される一過性局所脳虚血に対しては、軽度の長期にわたる低体温療法が有効であることは、実験
的に示された(後述)。しかしながら、臨床の場での虚血性脳梗塞は動脈硬化に基づく永久局所脳虚血に基づく病
型が一般的である。そのため、ラット永久局所脳虚血モデルに軽度低体温療法を施し、その後の脳梗塞巣ならび
に脳神経機能脱落症状に与える影響を観察する。軽度低体温は、核温にて、摂氏 33 度とし、24 時間の長期にわた
り用いた。脳梗塞巣の判定は、1,2 日後、および 21 日後に判定した。さらに、neurological deficit score を
用いて、神経機能の評価も併せて行った。尚、永久型脳虚血として、我々が新たに開発した脳皮質に病巣が限局
し、長期生存が可能なモデルを用いた。
研究成果
神経栄養因子の有する脳保護効果の検討
リコンビナント血小板由来成長因子を一定速度(0.22―0.44 マイクログラム/24 時間)にて、脳内に直接投与
したところ、1 週間あるいは、2 週間におよぶ持続的注入がその後の脳梗塞性虚血に対し、耐性を誘導することが
示された[3]。また、リコンビナント脳由来神経栄養因子の一定量(8 マイクログラム)を持続的に様々な注入速
度を用いて投与した結果、投与期間が長くなるにつれて、その後に負荷した局所脳虚血による脳梗塞巣の体積は、
縮小し、2 週間かけて投与した群(0.54 マイクログラム/24 時間)では、コントロールに比し、およそ 30%の脳
梗塞体積となった[4]。
さらに、脳由来神経栄養因子 2 週間注入後の組織内分布を観察してみると、脳由来神経栄養因子様の免疫反応
が、時間の経過と共に神経細胞の核内へ徐々に集積していく様子が観察された[4]。
虚血中と虚血後再灌流時を含む長期軽度低体温療法(前期)
治療群の脳梗塞体積は、対照群の第 1 群に比し小さく、第 3 群と第 4 群では有意差を持って有効と判断された。
150
Brain
attackから脳を守るための研究
すなわち、軽度の低体温は、虚血中あるいは虚血後のみではなく、その双方にわたり用いることでそれぞれの効
果が加算された。また、虚血後は 3 時間という短時間ではなく、22 時間という長期にわたる低体温治療が持続し
た効果を得るために必要であった。
さらに、一過性局所脳虚血に対する軽度低体温療法後の長期予後を検討した結果、(第 1 群の対照群と有効で
あることが判明した第 3、4 群を同様に再度作成し、1 カ月間の待機期間の後、脳梗塞巣体積に与える効果を観察し
た。さらに脳機能テストを用いた機能予後も 1 週間間隔にて虚血後 1 カ月にわたり判定した。)一ヶ月後の
cresyl-violet 染色を用いた脳梗塞体積の判定結果では、
虚血中および虚血後 22 時間低体温群では、対照群(100%)
に比し、50%の脳梗塞体積であり、有意差を示した。これに対し、虚血中および虚血後 3 時間低体温群では、対
照群に比し、69%の脳梗塞体積であり、有意差には至らなかった。この実験の経過中観察した脳機能評価に関す
る結果では、脳虚血 1 週間後より、常温群での脳機能脱落スコアは低体温群(虚血中および虚血後長期低体温群)
に比し、有意に大きい値を示した。この差は、時間と共に減少傾向を示したが、一ヶ月後の判定においても有意
差が認められた[5]。以上、摂氏 33 度という軽度低体温療法は、一過性局所脳虚血の急性期より長期にわたって
用いた場合、永続する形態的並びに機能的脳保護効果を示すことが示された。
永久局所脳虚血に対する軽度低体温療法の効果(後期)
最灌流を伴わない永久局所脳虚血モデルにおいて、軽度(摂氏 33-34 度)の長期低体温療法は、脳梗塞巣の拡
大伸展を 48 時間に渡り抑制することが明らかとなった[6]。
考
察
神 経 栄 養 因 子 ( BDNF ) が 受 容 体 と 結 合 の 後 、 一 体 (complex formation) と な り 細 胞 内 へ 取 り 込 ま れ
(internalization)、神経突起から細胞内を核に向かい移動することはすでに報告されているが、その後に核内へ
到達するという報告はかつて無い。しかしながら、その基質の一つである ERK1/2 の核内移行は報告されており、
リガンドの一部がその基質とともに核内へ移行する可能性が示唆された。この脳由来神経栄養因子様の免疫活性
を保ちつつ核内に集積する脳由来神経栄養因子様の未知の蛋白は、いまだ同定されていないが、脳梗塞耐性の獲
得時期に一致しており、神経細胞の生存能力増強に密接に関係している可能性がある。一方、神経栄養因子注入
後に見られた神経細胞核内集積と同様の所見は、塩化カリウムによって誘導した CSD 後(前述研究成果)にも確
認された。すなわち、これらの実験系で見られた脳梗塞耐性現象は、ともに神経栄養因子の下流に存在する細胞
内カスケードの活性化によりもたらされた可能性がある。
50 年代にすでに試みられた低体温治療あるいは、低体温(摂氏 30 度以下)麻酔が近年、約 30 年の年月を経て
再び注目される様になった主な理由は、軽度から中等度(30 ー 34°C)低体温の有する実験的脳保護効果の報告
である。1987 年、Busto ら[7]が、わずかな温度差(低温)が海馬での遅発性虚血性脳障害に大きな影響を与える
ことを報告して以来、1990 年、Buchan ら[8] や Welsh ら[9]が相次いで低体温の持つ同様の脳保護効果を報告し
た。しかしながら、これら初期に報告された脳保護効果は、虚血後 1 週間程度の待機期間の後に海馬にて判定さ
れたものであり、虚血性神経細胞障害の完成に比し、待機期間の長さが不十分であるという指摘が成された。そ
の後、この疑問に対し、Colbourne
[10,11]らは明確な結論を出した。彼らは、テレメトリーシステムを用いて
覚醒マウスでの長期間(24 時間)脳温コントールを行うことに成功した。そして、虚血後の海馬障害において 1
カ月から 6 カ月の待機期間を置いて効果を判定した。それによると虚血後 12 時間のみ行われた短期軽度低体温療
法では、神経傷害(CA1 の遅発性神経細胞死)を遅らせるのみの結果になるが、虚血後 24 時間持続させる長期軽
度低体温療法では、6 カ月後の効果判定においても強力な脳保護効果があることを報告した。すなわち、1994 年
に初めて脳低体温療法は、全脳虚血に対して強力な脳保護効果があることが明らかとなった。それでは、本研究
で取り組んだごとくの脳梗塞に近似する一過性局所脳虚血モデルに対する低体温療法の効果に関しては、Xue ら
151
Brain
attackから脳を守るための研究
[12]が、1992 年、摂氏 31 度の中等度低体温が、3 時間局所脳虚血に対して保護効果を有することを報告した。し
かしながら、彼らの効果判定は、高い死亡率のため、虚血終了後 3 時間から 21 時間後という早い時期に行わざる
を得なかった。そして、その後の実験モデルの改善により、特に本研究に用いた脳皮質型梗塞モデルでは、梗塞
領域を皮質のみに限定し、虚血中の呼吸器管理を厳密に行うことで術中、術後の呼吸器機能不全による死亡を克
服し、さらに脳皮質のみに限局した脳梗塞を生じさせるため、ほぼ 100%の長期安定した術後生存率を保つことが
可能となった。
軽度低体温療法の一過性局所脳虚血後の脳傷害に対する脳保護効果に関する研究では、虚血性の脳障害が、エ
ネルギー源が枯渇している虚血中のみならず、虚血再灌流後もその障害が持続して進行し、さらに、その虚血再
灌流後に進行する脳障害が虚血後の長期軽度低体温により阻止されることを示している。局所脳虚血に起因する
脳傷害においては、超急性期に進行する一次的な脳傷害に引き続き、亜急性期にも進展する、2 次的な脳傷害が存
在するといえる。
軽度低体温療法の永久型局所虚血性脳傷害に対する脳保護効果に関する研究では、永久局所脳虚血病態に関す
る新たな知見が得られた。すなわち、永久に持続する致死的ストレスに対し、通常、一過性の脳保護療法は通用
しないはずである。この実験プロトコールで用いた軽度低体温は、初期の 24 時間のみであり、その後の 24 時間
は、虚血後常温放置と同様である。もし、永久閉塞による局所脳血流が神経細胞生存可能な閾値以下で 24 時間以
上持続していたとすると、その常温に戻された後半の 24 時間に脳梗塞は速やかに進展し、低体温療法の効果は、
消失するはずである。我々の得た脳梗塞の進展抑制を示したという結果は、すなわち、永久結紮による局所脳虚
血は虚血導入初期の強度虚血が永続するのではなく、24 時間後あるいは、それ以前に致死的血流低下閾値を上回
るまで側副血行の増加によって虚血深度が回復するということである。すなわち、永久型局所脳虚血においては、
低体温療法による therapeutic time window が存在する。また、永久局所脳虚血後、超急性期の一過性致死的虚
血状態とその後の 2 次的脳損傷から脳を守ることが重要である。
引用文献
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152
Brain
attackから脳を守るための研究
attenuates neuronal damage in gerbils subjected to transient global ischemia.
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infarction.
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成果の発表
1)原著論文による発表
ア)国内誌
1.
Cortical spreding depression(CSD)負荷後の脳内 GADD45 および PCNA の発現誘導 薛
永田
2.
張
泉、藤内
謙光、飯原
弘二、村尾
志文、柳本
広二、永田
泉、薛
健一、菊池
菁暉、村尾
晴彦
菁暉、柳本
広二、
脳循環代謝 14(1), 33-34, 2002
健一、飯原
弘二、菊池
晴彦
Trapidil による脳
血管攣縮緩解効果及び血小板由来成長因子による脳血管の持続的狭小化に関する研究
脳循環代謝 in
press, 2002
3.
張
志文、柳本
広二、永田
阻害剤、FUT-175
4.
中原
橋
信幸、薛
菁暉、菊池
及び Arratoroban の予防効果—実験的検討
一郎、坂井
淳、大田
泉、坂井
信幸、永田
元、石澤
泉、柳本
錠二、間中
広二、下鶴
浩、森実
晴彦
血管攣縮に対する serine protease
脳循環代謝 13(4), 306-307, 2001
哲朗、酒井
飛鳥、川端
秀樹、東
康弘、新堂
登志夫、名村
敦、安栄
尚武、高
良悟、菊池
晴彦
頸部頸動脈狭窄に対する stenting 脳神経外科ジャーナル(Jpn J Neurosurg) 10:445-453, 2001
5.
間中
浩、酒井
尚武、高橋
秀樹、永田
淳、大田
よる微小塞栓の検討
6.
柳本
広二、永田
泉、中原
元、石澤
錠二、新堂
柳本
泉、名村
広二、西崎
敦、森実
尚武、藤内
順也、水田
森実
飛鳥、中原
高橋
淳、西崎
謙光、中原
依久子、永田
一郎、坂井
順也、石澤
信幸、柳本
錠二、間中
伴う未治療破裂脳動脈瘤の血管内治療
9.
中原
中
一郎、坂井
浩、林
Stenting
10.
11.
広二、下鶴
飛鳥、川端
哲朗、東
康弘、菊池
晴彦
登志夫、名村
脳血管撮影に
信幸、柳本
泉、中原
広二、秋山
晴彦、橋本
義典、酒井
誘導
脳循環代謝 10、374-375、1999
信夫
虚血中および虚血後軽度低
11(3), 304, 1999
秀樹、東
泉、菊池
晴彦
登志夫、名村
尚武、
症候性脳血管攣縮を
27:941-1317, 1999
晴彦,
第 17 回 Mt. Fuji Workshop on CVD ed: 小川
泉、菊地
低体温療法による永久局所脳
晴彦
義典、酒井
直樹、永田
脳神経外科
直樹、森実 飛鳥、永田 泉、菊池
広二、永田
晴彦
一郎、菊池
脳循環代謝
浩、林
広二、秋山
柳本
一郎、菊池
脳循環代謝 11, 420-421, 2000
体温の実験的脳梗塞に対する抑制効果の比較検討
8.
信幸、柳本
CT研究 22:217 ー 222、2000
虚血後脳梗塞進展に対する抑制効果
7.
一郎、坂井
秀樹、東
登志夫、高橋
淳、石澤
錠二、間
鎖骨下動脈および椎骨動脈起始部狭窄に対する
彰、ニューロン社、東京、17, 53-57,1999,
Cortical spreading depression を用いた脳梗塞耐性の
Yanamoto H, Tsukahara T, Goto Y, Iwama T, Nishi S, Akiyama Y, Yamamoto S, Suzuki S, Tanaka M, Todaka
T, Morimoto M, Sawada M, Nomura M, Hashimoto N.
153
重傷くも膜下出血患者において術後軽度低体温療法
Brain
attackから脳を守るための研究
の脳血管攣縮に及ぼす影響. 脳血管攣縮, 12, 414-419, 1997
イ)国外誌
1.
J-H Xue, N Tohnai, I Nagata, Z Zhang, K Iihara, H Kikuchi, H Yanamoto
Cortical Spreading
Depression up-regulates DNA damage-inducible gene GADD45 and prpliferating cell nuclear antigen
(PCNA) in rat brain
2.
Soc. Neurosci. 27,205.12, 2001
H Yanamoto, I Nagata, J-H Xue, Z Zhang. K Iihara, H Kikuchi Infaract tolerance induced by cortical
spreading depression in mice
3.
Soc. Neurosci. 27, 208.11, 2001
Yanamoto H, I Nagata I, Niitsu Y, Sakai N, Zhang Z, Xue J-H, Kikuchi H
neocortical infarct caused by temporary focal ischemia.
A new mouse model of
J. Cereb. Blood Flow Metab. 21(S1), S516,
2001
4.
Yanamoto H, Nagata I, Niitsu Y, Zhang, Z, Xue J-H, Kikuchi H
to permanent focal ischemia by prolonged
Suppression of cerebral injury due
hypothermia therapy in rats.
J. Cereb. Blood Flow Metab.
21(S1), S448, 2001
5.
Xue J-H, Yanamoto H, Nagata I, Zhang, Z, Kikuchi H
Cortical spreading depression up-regulates the
growth arrest and DNA damage-inducible gene (GADD45) in rat brain. J. Cereb. Blood Flow Metab. 21(S1),
S240, 2001
6.
Zhang, Z, I Nagata I, Kikuchi H, Sakai N, J-H Xue, H Yanamoto
Effect of specific thrombin inhibitor,
Argatroban, on experimental cerebral vasospasm and PDGF-BB expression. J. Cereb. Blood Flow Metab.
21(S1),
7.
S202, 2001
Z Zhang, I Nagata, H Kikuchi, J-H Xue, N Sakai, H Yanamoto
Broad-spectrum and selective serine
protease inhibitors prevent expression of platelet-derived growth factor-BB and cerebral vasospasm
after
subarachnoid
hemorrhage:
Vasospasm
caused
by
cisternal
injection
of
recombinant
pletelet-derived growth factor-BB, Stroke, 32, 1665-1672, 2001
8.
H Yanamoto, I Nagata, Y Niitsu, Z Zhang, J-H Xue, N Sakai, H Kikuchi
Prolonged mild hypothermia
therapy protects the brain against permanent focal ischemia, Stroke, 32, 232-239, 2001
9.
H Yanamoto, I Mizuta, I Nagata, Z Zhang, J.-H Xue, H Kikuchi: Enhanced BDNF-like immunoreactivity
in neuronal nuclei in the brain of infarct tolerance. Soc. Neurosci. Abstr. 26 (Part I), 12.5, 2000
10.
Yanamoto H, Mizuta I, Nagata I, Xue J-H, Zhang Z, Kikuchi H: Infarct tolerance accompanied enhanced
BDNF-like immunoreactivity in neuronal nuclei.
11.
Brain Res, 877, 331-334, 2000
H Yukawa, JC Takahashi, S-I Miyatake, M Saiki, N Matsuoka, M Akimoto, H Yanamoto, I Nagata, H Kikuchi,
N Hashimoto, Adenoviral gene transfer of basic fibroblast growth factor promotes angiogenesis in
rat braina, Gene Therapy 7, 942-949, 2000
12.
Yanamoto H, Nagata I, Sakata M, Z Zhang, Tohnai N, Sakai H, Kikuchi H: Infarct tolerance induced
by intra-cerebral infusion of recombinant brain-derived neurotrophic factor.
Brain Res. 859,
240-248, 2000.
13.
Yanamoto H, Nagata I, Tohnai N, Zhang Z, Kikuchi H: Prolonged hypothermia therapy suppress the
extension of cerebral infarction following permanent focal ischemia.
14.
J Neurosurg., 92, 219, 2000
H Yanamoto, I Nagata, I Nakahara, A Inoue, N Tohnai, H Kikuchi: Prolonged moderate hypothermia
suppresses the extension of cerebral infarction for 48 hours following severe permanent focal
ischemia. Soc. Neurosci. 25, 235.6, 1999
15.
H Yanamoto, I. Nagata, I Nakahara, N Tohnai, Z Zhang, H Kikuchi Combination of intra-and postischemic
154
Brain
attackから脳を守るための研究
hypothermia provides potent and persistent neuroprotection against temporary focal ischemia in rats,
Stroke, 30, 27, 2720-2726, 1999
16.
Yanamoto H, Nagata I, Nishizaki J, Mizuta I, Nakahara I, Inoue A, Kikuchi H A new model of temporary
focal ischemia using a three-vessel occlusion technique in rats. J. Cereb. Blood Flow Metab. 19(S1),
S603, 1999
17.
Yanamoto H, Nagata I, Mizuta I, Nishizaki J, Nakahara, Inoue A, Kikuchi H
Expression of glial
fibrillary acidic protein, heat shock protein and neurotrophic factor during the infarct tolerance.
J. Cereb. Blood Flow Metab. 19(S1), S658,
18.
1999
Yanamoto H, Nagata I, Nakahara I, Mizuta I, Nishizaki J, Kikuchi H.
Postischemic hypothermia
provides additional neuroprotection to intraischemic hypothermia in rat focal ischemia model. J
Neurosurg. 90, 205A, 1999
19.
Sawada M, Yanamoto H, Nagata I, Hashimoto N, Nakahara I, Akiyama Y, Kikuchi H.
Prevention of
neointimal formation by a serine protease inhibitor, FUT-175 following carotid balloon injury in
rats.
20.
Stroke, 30, 644 ー 650, 1999
Todaka T, Yokoyama C, Yanamoto H, Hashimoto N, Nagata I, Tsukahara T, Hara S, Hatae T, Morishita
R, Aoki M, Ogihara T, Kaneda Y, Tanabe T. Gene transfer of human prostacyclin synthase prevents
neointimal formation after carotid balloon injury in rats.
21.
Stroke, 30 (2), 281-479, 1999
Yanamoto H, Nagata I, Higashi T, Mizuta I, Nishizaki J, Kikuchi H.
Combination of intra- and
postischemic hypothermia exerts profound neuroprotection against temporary focal ischemia in rats.
Soc. Neurosci. 24, 852.19, 1998
22.
Yanamoto H, Nagata I, Hashimoto N, Kikuchi H. Three-vessel occlusion using a micro-clip for the
proximal left middle cerebral artery produces a reliable neocortical infarct in rats. Brain Res
Brain Res Protoc, 3, 209 ー 220, 1998
23.
Yanamoto H, Hashimoto N, Nagata I, Kikuchi H. Infarct tolerance against temporary focal ischemia
following spreading depression.
24.
Brain Res., 784, 239-249, 1998
Sakata M, Yanamoto H, Hashimoto N, Iihara K, Tsukahara T, Taniguchi T, Kikuchi H.
Induction of
infarct tolerance by platelet-derived growth factor against reversible focal ischemia.
Brain Res.,
474, 250-255, 1998
25.
Iihara K, Hashimoto N, Tsukahara T, Sakata M, Yanamoto H, Taniguchi T. Platelet-derived growth
factor-BB, but not -AA, prevents delayed neuronal death after forebrain ischemia in rats.
Blood Flow Metab. 17, 1097-1106,
26.
J. Cereb.
1997
Yanamoto H, Tsukahara T, Hashimoto N.
Delayed ischemic tolerance against temporary focal ischemia
following spreading depression in rat neocortex. J. Cereb. Blood Flow Metab. 17, S1, S551, 1997
27.
Solenski NJ, Kwan A-L, Yanamoto H, Bennet JP, Kassell NF, Lee KS. Differential hydroxylation of
salicylate in core and penumbra regions during focal reversible cerebral ischemia.
Stroke, 28,
2545-2551, 1997
28.
Lee K, Yanamoto H, Fergus A, Hong S-C, Kang S-D, Cappelletto B, Toyoda T, Kassell NF, Bavbek M, Kwan
A-L.
Calcium-activated proteolysis as a therapeutic target in cerebrovascular disease.
Slikker W, Tremblay B ed.
29.
In
Annals of the NY Aced. of Science, NY, 1997, PP 95-103
Tsukahara T, Sakata M, Hashimoto N, Iihara K, Taniguchi T, Yanamoto H Platelet-derived growth factor
limits the volume of cerebral infarction in focal temporary ischemia.
17, S1, S374, 1997
155
J. Cereb. Blood Flow Metab.
Brain
30.
attackから脳を守るための研究
Yanamoto H, Hashimoto N, Sakata M, Taniguchi T.
Brain protection by direct cerebral injection of
brain-derived neurotrophic factor against focal temporary ischemia. Soc. Neurosci. 23: 948.1, 1997
31.
Sakata M、Yanamoto H、Tsukahara T、Hashimoto N、Taniguchi T: A neurotrophic factor limits the
volume of cerebral infarction against focal temporary ischemia.
32.
Yanamoto H, Tsukahara T, Hashimoto N.
ischemia following spreading
J Neurosurg., 86, 402A , 1997
Delayed ischemic tolerance against temporary focal
depression in rat neocortex.
J Neurosurg., 86, 403A, 1997
2)原著論文以外
ア)国内誌
1.
H Yanamoto, I Nagata, H Kikuchi, Recent Advances in Brain Protection for Ischemic Stroke, Recent
Advances in Cardiovascular Disease, Eds, T Yamaguchi et al. Osaka Publication, Osaka, XXI pp35-46,
2000
(柳本
広二、永田
泉、菊池
晴彦、脳保護療法への新たな道、循環器
病研究の進歩、山口
武典他編、大阪書籍、21, PP35-46, 2000)
イ)国外誌
1.
H Yanamoto, J-H Xue, M Sakata, I Mizuta, N Tohnai, I Nagata , N Hashimoto, H Kikuchi Infarct tolerance
induced by repetitive cortical spreading depression is reproduced by prolonged intracerebral
infusion of recombinant brain-derived neurotrophic factor.
“Strategic medical science against brain
attack” ed. by Kikuch H. Springer, Tokyo pp. 145-167, 2002
2.
H Yanamoto, I Nagata , H Sakai, Y Niitsu, Z Zhang, J-H Xue, and H Kikuchi Neuroprotection by mild
hypothermia for temporary or permanent focal ischemia
“Strategic medical science against brain
attack” ed. by Kikuch H. Springer, Tokyo pp. 202-220, 2002
3.
Izumi Nagata, , Zhiwen Zhang, , Motoshi Sawada, , Nobuo Hashimoto, Haruhiko Kikuchi, Hiroji Yanamoto,
Systemically administered thrombin inhibitors can prevent neointimal formation and cerebral
vasospasm: The possible role of thrombin and PDGF-BB in vascular pathogeneses “Strategic medical
science against brain attack” ed. by Kikuch H. Springer, Tokyo pp. 234-253, 2002
4.
J-H Xue, H Yanamoto, I Nagata, Z Zhang, H Kikuchi Increased expression of nNOS following cortical
spreding depression in rat brain
Ischemia,
5.
5th International Workshop on Maturation Phenomenon in Cerebral
Metabolism and Function
in press
2002
H Yanamoto, I Nagata, J-H Xue, Z Zhang, H Kikuchi
Persistent neuroprotection against focal
cerebral ischemia by cortical spreading depression in mice
Maturation Phenomenon in Cerebral Ischemia,
5th International Workshop on
Metabolism and Function
in press
2002
3)口頭発表
2.
1.
応募・主催講演等
J-H Xue, H Yanamoto, I Nagata, Z Zhang, H Kikuchi
Increased expression of nNOS following cortical
spreding depression in rat brain Ⅴth International Workshop on Maturation Phenomenon in Cerebral
Ischemia, Metabolism and Function April
2.
28-May 1, 2002, Banff, Canada
H Yanamoto, I Nagata, J-H Xue, Z Zhang, H Kikuchi
156
Persistent neuroprotection against focal
Brain
attackから脳を守るための研究
cerebral ischemia by cortical spreading depression in mice
Ⅴ th International Workshop on
Maturation Phenomenon in Cerebral Ischemia, Metabolism and Function April
28-May 1, 2002, Banff,
Canada
3.
柳本
広二、薛
菁暉、永田
泉、張
脳梗塞耐性脳での nNOS 発現増強
4.
柳本
広二、薛
菁暉、藤内
志文、菊池
第 27 回
晴彦
Cortical spreading depression(CSD)負荷後、
日本脳卒中学会総会
謙光、永田
泉
4 月 24-5 日
2002
仙台市
Cortical spreading depression (CSD)負荷後、脳梗塞耐
性脳での Gadd45, PCNA, および nNOS の発現増強
5.
柳本
6.
薛
広二
第 5 回ブレインアタックから脳を守る研究セミナー
菁暉、柳本
広二、永田
泉、藤内
謙光、飯原
弘二、村尾
depression(CSD)負荷後の脳内 GADD45 および PCNA の発現誘導
18-19 日
7.
張
1月
2002 年
健一、菊池
第 13 回
豊中市
晴彦
Cortical spreding
日本脳循環代謝学会総会
2001 横浜市
志文、柳本
広二、永田
泉、薛
菁暉、村尾
健一、飯原
弘二、菊池
晴彦
Trapidil による脳
血管攣縮緩解効果及び血小板由来成長因子による脳血管の持続的狭小化に関する研究
循環代謝学会総会
8.
張
10 月 18-19 日
志文、柳本
広二、永田
2001
10 月 24-26 日 2001
柳本
広二、永田
泉、村尾
健一、飯原
柳本
広二、永田
谷口
歩、薛
流の自然緩解
11.
日本脳
弘二、薛
菁暉、菊池
晴彦
血小板由来成長因
第 60 回日本脳外科学会総会
岡山市
泉、新津
陽一、村尾
なマウス一過性局所脳虚血モデルの開発
10.
第 13 回
横浜市
子による脳血管の持続的狭小化および trapidil による脳血管攣縮緩解効果
9.
10 月
泉、村尾
菁暉、張
健一、飯原
菁暉、張
第 60 回日本脳外科学会総会
健一、酒井
志文、菊池
弘二、薛
秀樹、飯原
晴彦
弘二、長嶺
志文、菊池
10 月 24-26 日 2001
知明、安栄
晴彦
新た
岡山市
良悟、副田
明男、
永久局所虚血に対する軽度低体温療法の有効性と局所脳血
第 4 回日本脳低温療法研究会学術集会
7 月 6-7 日
2001
宇部市
J-H Xue, N Tohnai, I Nagata, Z Zhang, K Iihara, H Kikuchi, H Yanamoto
Cortical Spreading
Depression up-regulates DNA damage-inducible gene GADD45 and prpliferating cell nuclear antigen
(PCNA) in rat brain 31st Annual Meeting Society for Neuroscience Nov. 10-15, 2001, San Diego, USA
12.
H Yanamoto, I Nagata, J-H Xue, Z Zhang. K Iihara, H Kikuchi
spreading depression in mice
31
st
Infaract tolerance induced by cortical
Annual Meeting Society for Neuroscience
Nov. 10-15, 2001, San
Diego, USA
13.
H Yanamoto, I Nagata, Y Niitsu, Z Zhang, J-H Xue, N Sakai, H Kikuchi
Suppression of cerebral injury
due to permanent focal ischemia by prolonged hypothermia therapy in rats
XXth International
Symposium on Cerebral Blood Flow, Metabolism and Function June 9-13, 2001, Tipei, Taiwan
14.
H Yanamoto, I Nagata, Y Niitsu, N Sakai, Z Zhang, J-H Xue, H Kikuchi
A new mouse model of neocortical
infarct caused by temporary focal iscehmia XXth International Symposium on Cerebral Blood Flow,
Metabolism and Function June 9-13, 2001, Tipei, Taiwan
15.
J-H Xue, H Yanamoto, I Nagata, Z Zhang, H Kikuchi
Cortical spreading depression up-regulate the
growth arrest and DNA damage-inducible gene (GADD45) in rat brain
XXth International Symposium
on Cerebral Blood Flow, Metabolism and Function June 9-13, 2001, Tipei, Taiwan
16.
Z Zhang, I Nagata, H Kikuchi, N Sakai, J-H Xue, H Yanamoto
Effects of specific thrombin inhibitor,
Argatroban on experimental cerebral vasospasm and PDGF-BB expression
XXth International Symposium
on Cerebral Blood Flow, Metabolism and Function June 9-13, 2001, Tipei, Taiwan
17.
安栄
良悟、坂井
高橋
淳、大田
信幸、永田
元、長嶺
泉、柳本
知明、副田
広二、酒井
明男、谷口
157
秀樹、飯原
歩
弘二、阪井田
脳血管攣縮に対する治療
博司、東
登志夫、
塩酸ファスジルと
Brain
attackから脳を守るための研究
FUT-175, アルガトロバン併用療法へ
18.
張
志文、柳本
広二、永田
第 17 回スバズムシンポジウム、3 月 14 日、大阪、2001
泉、坂井
信幸、薛
内膜肥厚に対するプロテアーゼ阻害剤の抑制効果
19.
柳本
広二、水田
衣久子、永田
泉、薛
菁暉、菊池
晴彦
ラット頸動脈バルン損傷後新生
第 26 回日本脳卒中学会
菁暉、張
志文、坂井
信幸、酒井
塞耐性発現脳のおける GFAP, HSP27, HSP70, BDNF の発現および局在変化
20.
2001
秀樹、菊池
晴彦
第 26 回日本脳卒中学会
梗
2001
Hiroji Yanamoto, Izumi Nagata, Yohichi Nitsu, Zhi-wen Zhang, Jing-Hui Xue, Nobuyuki Sakai, Haruhiko
Kikuchi
Postischemic hypothermia provides additional neuroprotection to intraischemic
hypothermia in rat focal ischemia model
The fifth annual joint meeting of the American Association
of Neurological Surgeons/ Congress of Neurological Surgeons and the American Society of
International and Therapeutic Neuroradiology, Feb 9-12, 2001, Hawaii
21.
張
志文、柳本
広二、永田
泉、坂井
信幸、薛
菁暉、菊池
晴彦
脳血管攣縮に対する serine protease
阻害剤、FUT-175 および Argatroban の抑制効果第 12 回日本脳循環代謝学会総会
22.
H Yanamoto, I Mizuta, I. Nagata, Z Zhang, J-H Xue, H Kikuchi
12, 5-6, 2000 仙台
Enhanced BDNF-like immunoreactivity
in neuronal nuclei in the brain of infarct tolerance Society for Neuroscience, Neworleans, November
4-9, 2000
23.
坂井
信幸、永田
泉、柳本
広二、酒井
ルと FUT-175, アルガトロバン併用療法へ
秀樹、他
24.
張
志文、柳本
広二、永田
泉、坂井
スパズムの治療成績は向上したか?塩酸ファスジ
第 16 回スバズムシンポジウム、2000
信幸、薛
菁暉、菊池
晴彦
阻害剤、FUT-175 および Argatroban の抑制効果ー実験的検討ー
7 月 21ー22 日、京都
脳血管攣縮に対する serine protease
第 59 回日本脳神経外科学会(福岡)2000、
10・24 ー 26
25.
柳本
広二、永田
泉、張
志文、薛
菁暉、坂井
所脳虚血モデルに対する軽度低体温療法の効果
26.
柳本
広二
28.
2000 年
信幸、永田
晴彦
スパズムの治療成績は向上したか?
志文、柳本
泉、柳本
9月
坂井
張
秀樹、高橋
淳、菊池
広二、永田
広二、酒井
泉、名村
晴彦
永久局
第 59 回日本脳神経外科学会(福岡)2000、10・24 ー 26
一過性および永久局所脳虚血に対する軽度低体温療法の脳保護効果
ックから脳を守る研究セミナー
27.
信幸、酒井
第4回
ブレインアタ
豊中市
秀樹、東
登志夫、高橋
淳、大田
元、安栄
良悟、菊池
スパズムシンポジウム(京都)7 月 21 ー 22 日、2000
尚武、坂井
信幸、薛
菁暉、菊池
に対するセリン蛋白分解酵素阻害剤、FUT-175 および Argatroban の抑制効果
晴彦
実験的脳血管攣縮
スパズムシンポジウム(京
都)7 月 21 ー 22 日、2000
29.
柳本
橋
広二、永田
淳、菊池
晴彦
泉、新津
陽一、張
志文、中原
一郎、坂井
信幸、酒井
永久局所脳虚血に対する急性期軽度低体温療法の長期予後
秀樹、下鶴
哲朗、高
第 25 回日本脳卒中学会
総会、東京、2000, 4, 27-28
30.
張
志文、柳本
の抑制効果
31.
広二、永田
泉、名村
尚武、菊池
晴彦
脳血管攣縮に対する thrombin 阻害剤, MD-805
第 25 回日本脳卒中学会総会、東京、2000, 4, 27-28
Yanamoto H, Nagata I, Tohnai N, Zhang Z, Kikuchi H.
Prolonged hypothermia therapy suppress the
extension of cerebral infarction following permanent focal iscehmia. Joint Meeting of the Section
on Cerebrovascular Surgery (AANS/CNS JSCVS) , 2000 Feb 6-9, New Orleans
32.
33.
柳本
広二
実験的脳梗塞耐性脳の作成に関する研究
ナー
9月
1999 年
第3回
ブレインアタックから脳を守る研究セミ
豊中市
Yanamoto H, Nagata I, Nishizaki J, Mizuta I, Nakahara I, Inoue A, Kikuchi H.
A new model of temporary
focal ischemia using a three-vessel occlusion technique in rats. XIXth International Symposium on
Cerebral Blood Flow, Metabolism and Function 6.13-17, 1999, Copenhagen
158
Brain
34.
attackから脳を守るための研究
Yanamoto H, Nagata I, Nishizaki J, Nakahara I, Inoue A, Kikuchi H.
Expression of glial fibrillary
acidic protein, heat shock protein and neurotrophic factor during the infarct tolerance.
XIXth
International Symposium on Cerebral Blood Flow, Metabolism and Function 6.13-17, 1999, Copenhagen
35.
Yanamoto H, Nagata I, Nakahara I, Inoue A, Tohnai N, Kikuchi H.Prolonged moderate hypothermia
suppresses the extension of cerebral infarction for 48 hours following severe permanent focal
ischemia.
36.
柳本
29th Annual Meeting of Society for Neuroscience, 1999 Oct. 23-28, Miami Beach.
広二、西崎
順也、水田
依久子、中原
一郎、永田
泉、菊池
血後長期軽度低体温の実験的脳梗塞に対する抑制効果の比較検討
晴彦
虚血中、虚血後短期、虚
第 24 回日本脳卒中学会総会
1999
4 月 20 ー 22、横浜
37.
H Yanamoto, I Nagata, I Nakahara, I Mizuta, J Nishizaki, H Kikuchi,
Postischemic hypothermia
provides additional neuroprotection to intraischemic hypothermia in rat focal ischemia model Joint
Meeting of the Section on Cerebrovascular Surgery (AANS/CNS JSCVS) , 1999 Jan31-Feb.3, Nashville
38.
柳本
実
広二、石澤
飛鳥、永田
錠二、中原
泉、
一郎、下鶴
哲朗、坂井
信幸、酒井
秀樹、高橋
淳、間中
浩、森
虚血中および虚血後長期軽度低体温合併療法の実験的脳梗塞進展に対する強度な
抑制効果(シンポジウム)第 2 回日本脳低温療法研究会、平成 11 年 7 月 22 ー 23 日、札幌
39.
H Yanamoto, I Mizuta, J Nishizaki, H Kikuchi, Combination of intra-and postischemic hypothermia
exerts profound neuroprotection against temporary focal ischemia in rats.
28th Annual Meeting of
Society for Neuroscience, 1998 Nov.7-12, Los Angeles
40.
柳本
広二、
永田
泉、名村
尚武、藤内
所脳虚血後脳梗塞進展に対する抑制効果
41.
42.
柳本
広二
43.
9月
柳本
信夫、菊池
広二、永田
泉、橋本
1998 年
第 23 回日本脳卒中学会総会
柳本
広二、
44.
西崎
順也、水田
1998
柳本
柳本
低体温療法による永久局
第2回
ブレインアタッ
豊中市
晴彦
Cortical spreading depression による脳梗塞耐性の
6 月 24 ー 25、札幌
依久子、永田
泉、中原
一郎、菊池
晴彦
虚血中および虚血後軽
第 10 回日本脳循環代謝学会総会、1998、11、17
吹田
広二、永田
の誘導
45.
晴彦
第 11 回日本脳循環代謝学会総会、1999、10、4-5、秋田
度低体温の実験的脳梗塞に対する抑制効果の比較検討
ー 18、
一郎、菊池
外因子による脳保護機能の評価と脳神経生存能強化に関する研究
クから脳を守る研究セミナー
発現
謙光、中原
泉、橋本
信夫、菊池
晴彦
Cortical spreading depression を用いた脳梗塞耐性
第 10 回日本脳循環代謝学会総会、1998、11、17 ー 18、
広二
吹田
外因子による脳保護機能の評価と脳神経生存能強化に関する研究
クから脳を守る研究セミナー
9月
1997 年
豊中市
159
第1回
ブレインアタッ
Brain
attackから脳を守るための研究
1.2. 脳神経細胞生存能調節機構の解明に関する研究
1.2.1. 外因子による脳保護機能の評価と脳神経生存能強化機構に関する研究
1.2.1.3. TRX super family等生体内防御因子の脳神経細胞保護効果の評価
京都大学ウイルス研究所生体応答学研究部門
淀井
要
淳司
約
細胞内蛋白チオレドキシンには、自身の持つ酸化還元能を介することにより生体内、外において多彩な機能を
持つことが知られている。我々は、脳卒中の局面においてチオレドキシンが果たす役割を検討すると共にチオレ
ドキシンの脳卒中治療応用の可能性につき解析を行った。その結果、中枢神経系において神経細胞にチオレドキ
シンが存在し、虚血脳組織において細胞保護的に働いていることを明らかにした。また、チオレドキシン高発現
あるいはチオレドキシン投与により虚血による神経細胞障害を軽減させることが可能であることを明らかにした。
これらにより、チオレドキシンの脳卒中治療への応用の可能性が示された。
研究目的
我々が HTLV-1 感染細胞株培養上清中より分離精製した ATL 由来因子(ADF)は大腸菌の還元補酵素チオレドキシ
ンのヒト相同体であった。チオレドキシンは 104 個のアミノ酸からなる約 13kD のたんぱく質であるが、その活性
部位には原核生物から高等生物に至るまで種を超えて保存された -Cys-Gly-Pro-Cys- のアミノ酸配列を有して
おり、この中の 2 つのシステイン残基を介した酸化還元反応により細胞内外の酸化還元環境の維持(レドックス
制御)を行っている。チオレドキシンは紫外線、放射線、酸化剤などの酸化ストレスやウイルス感染などの種々
の細胞ストレスで発現が誘導されるストレス誘導性の分子であり、レドックス制御系において TRX はその還元活
性で AP-1, NF-kappaB などの転写因子の活性化を制御していることを報告してきた。また、AP-1 に対する hydrogen
供与体である Ref-1 の制御に TRX が関与していることを報告している。さらに我々は、アポトーシスの際に活性
化される Caspase の活性が、チオレドキシンなどのレドックス制御蛋白によって調節を受けることを明らかにし
ている。このようにチオレドキシンは細胞内外において様々な作用を有している証拠が蓄積されてきている。
これまで我々は in vitro においてチオレドキシンが過酸化水素刺激でアストロサイトより分泌され培養神経細
胞死を防御すること、砂ネズミ一過性前脳虚血モデルにおいて海馬 CA-1 領域のアストロサイトに TRX が誘導され
ることを報告してきた。さらに、ラット中大脳動脈閉塞モデルにおいてもチオレドキシンが神経細胞に誘導され
ることを見出した。本研究ではチオレドキシンをはじめとする細胞内チオールによるレドックス制御機構と脳組
織保護との関連についてさらに詳細に検討し、将来的に脳卒中予防、治療に応用可能かを解明することが目的で
ある。
研究方法
培養細胞として、ラット PC12 細胞株、ラット血管内皮細胞株、実験動物としてはマウス永久または一過性中大
160
Brain
attackから脳を守るための研究
脳動脈閉塞モデル、マウス一過性前脳虚血モデル、ラット中大脳動脈閉塞モデルなどを用いた。チオレドキシン
をはじめとする蛋白、mRNA の評価には免疫組織染色、in situ hybridization, Western blotting, Northern
blotting の手法を用いた。
マウス、ラットの一過性、あるいは永久中大脳動脈閉塞モデルを用い、内因性チオレドキシンの発現、分布を
解析した。その方法としては免疫染色、western blotting、northern blotting の手法を用いた。
チオレドキシン高発現トランスジェニックマウスを作成した。その発現は RT-PCR 法、および western blotting
法にて確認した。またこのトランスジェニックマウスを用いて中大脳動脈閉塞モデルを作成し、虚血脳障害の程
度を野生型マウスと比較検討する。その方法としては、脳梗塞巣の体積の比較、神経脱落症状の程度の比較、c-fos
蛋白の発現の定量的比較、酸化たんぱく質の定量的比較により行なった。
リコンビナント・チオレドキシンを静脈内投与し、細胞外からの投与による脳細胞保護効果の有無について検
討する。その方法としては、脳梗塞巣の体積の比較、神経脱落症状の程度の比較、酸化たんぱく質の定量的比較
により行なった。
脳虚血の新たな治療開発のため、チオレドキシンの発現誘導が可能か否かを検討した。方法としては、培養細
胞にはラット PC12 細胞株を用い、Geranylgeranylacetone を投与し、発現を western blotting にて定量した。
研究成果
1) ラット中大脳動脈閉塞モデルにおいて、虚血中心部では、チオレドキシン, チオレドキシン mRNAは虚
血後減少が見られ、虚血後16時間までに消失した。一方梗塞周囲の部分ではチオレドキシン, チオレ
ドキシン mRNAは虚血後増加が認められた(2)(図1A-D)。さらに、チオレドキシン高発現神経細胞の
約30%で、チオレドキシンの核内移行が認められた(1)(図1E,F)。これらより、チオレドキシンが単な
る細胞内抗酸化物質としてのみではなく、核内に移行し、転写因子の制御に関ることによって、神経
細胞保護効果をもたらしている可能性を示した。同様の傾向は脳虚血損傷の一モデルである胎児仮死
モデル(11)や、代謝毒素である3ニトロプロピオン酸負荷モデル(8)においても示され、成熟脳のみな
らず、未熟脳においてもチオレドキシンが神経細胞保護に重要な役割を果たしていることを明らかに
した。一方、チオレドキシン以外のレドックス制御蛋白であるグルタレドキシンは脳虚血時に減少し
て行くことを明らかにした(6)。
161
Brain
attackから脳を守るための研究
図1
2) ヒトの頚動脈動脈硬化巣、およびラットの頚動脈肥厚内膜においてチオレドキシン、チオレドキシン
mRNAが高発現することを見出した(4)。また、in vitroにおいて、チオレドキシンが、peroxynitrite
の細胞障害抑制作用を持つことを明らかにした(4)。これにより、脳卒中の病態と関与の深い動脈硬化
病巣形成においてチオレドキシンが防御的役割をもつ可能性を示した。
3) ラットの舌下神経の切断障害およびその修復過程において、チオレドキシン、チオレドキシン mRNA
が共に強く発現していることを明らかにし、チオレドキシンが末梢神経傷害後の修復に関る因子であ
る可能性を示した(3)。
4) TRXが脳内をふくめ全身に高発現するトランスジェニックマウスを作成することに成功した(5)(図2)。
このトランスジェニックマウスを用いた中大脳動脈閉塞モデルにおいて、脳梗塞巣の大きさを比較検
討した。虚血24時間後の評価において、TRXトランスジェニックマウスにおける脳梗塞巣および脳内た
んぱく質の酸化はwild typeと比較し約40%に抑えられた(図3、4)。また、TRXトランスジェニックマウ
スにおいて脳梗塞巣周囲のc-fos発現がwild typeと比較して増強しており、チオレドキシントランス
ジェニックマウスの神経細胞保護効果は転写因子AP-1を介したものである可能性が示された(5)。また
癲癇モデルにおいても、チオレドキシン高発現マウスでは、癲癇の頻度、程度の軽減が認められ、ま
た、海馬領域における遅発性神経細胞死が抑制されることを明らかにした(9)。また今回我々は、一過
性前脳虚血後のマウスの海馬領域で神経細胞へと分化する前駆細胞の分裂が亢進することを明らかに
しており(7)、先述のトランスジェニックマウスを用いることによって今後、チオレドキシンと神経前
駆細胞の分化、増殖との関係解析に発展させることが出来ると考えられる。
162
Brain
attackから脳を守るための研究
図2
図3
163
Brain
attackから脳を守るための研究
図4
5) 抗潰瘍剤として臨床でも広く用いられているGeranylgeranylacetone(GGA)がPC12培養細胞に、内因性
のチオレドキシンを誘導すること、またチオレドキシンを誘導することによりパーキンソン病をひき
おこすMPTPによる神経細胞障害を抑制できることを明らかにした(10)。これらは、チオレドキシン発
現誘導療法への端緒を開くものである。
6) マウスの一過性中大脳動脈閉塞モデルを用い、リコンビナント・チオレドキシンの静脈内投与を行っ
た。チオレドキシンの投与により脳梗塞体積の軽減、および神経脱落症状の軽減が認められた。これ
らにより、チオレドキシンが脳卒中治療に応用の可能性を持つことが明らかにされた(図5)。
注:()内数字は(7)成果の発表から、原著論文の番号を示す。
図5
164
Brain
考
attackから脳を守るための研究
察
酸化ストレスにさらされた種々の病態において、細胞内にチオレドキシンが誘導されることはこれまでにも報
告してきたが、本研究に関する[1-6]によると、チオレドキシンが単なる細胞内抗酸化物質としてのみではなく、
核内に移行し、転写因子の制御に関ることによって、虚血をはじめとする様々な生存を脅かすストレスから神経
細胞を保護する効果をもたらしている可能性を示した。
チオレドキシン高発現トランスジェニックマウスはチオレドキシンの性質の解析において非常に有用である。
本研究に関する[7,8]で明らかにした、内因性のチオレドキシンをあらかじめ高発現させておくことによって、
虚血脳障害や遅発性神経細胞死を軽減させることが可能という事実は、チオレドキシン誘導療法という発想につ
ながるものである。本研究に関する[9]は、in vitro の段階ではあるが、実際にある種の薬剤がチオレドキシン
誘導療法的作用を示したものであり、薬剤の選択や、効果、作用機序につき今後注目されると考えられる。また
リコンビナントチオレドキシンの投与により一過性脳虚血障害が軽減されることを我々は見出しており(投稿準
備中)、チオレドキシン投与療法の可能性についても端緒を開いた。一方、本研究に関する[10]により、脳内
に存在する神経幹細胞の活動性が虚血負荷により高まることを明らかにした。またチオレドキシンが細胞分化、
増殖に重要な役割を持つ証拠を現在我々は持っている(投稿準備中)。今後神経幹細胞の動態とチオレドキシン
の関係を解析することが、虚血神経障害後の神経再生による修復という大きなテーマへと繋がるものであると信
じている。
結論として、我々は、旧来の概念とは異なる、全く新しいレドックス応答のメカニズムをベースとした脳卒中
治療の可能性を示した。
引用文献
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成果の発表
1)原著論文による発表
イ)国外誌
1.
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of redox regulatory protein, thioredoxin during transient forebrain ischemia in the rat. Neurosci.
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2.
Y. Takagi, T. Tokime, K. Nozaki, Y. Gon, H. Kikuchi, J. Yodoi. Redox control of neuronal damage after
middle cerebral artery occlusion in the rat: immunohistochemical and hybridization studied of
thioredoxin. J. Cereb. Blood Flow Metab. 18:206-214, 1998.
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8.
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Bai,
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Nakamura,
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11.
I. Hattori, Y. Takagi, K. Nozaki, N. Kondo, J. Bai, H. Nakamura, N. Hashimoto, J. Yodoi. Hypoxia-ischemia
induces thioredoxin expression and peroxynitrite formation in newborn rat brain. Redox Report in press.
2) 原著論文以外による発表(レビュー等)
ア) 国内誌(国内英文誌を含む)
1.
淀井淳司
2.
淀井淳司・谷口直之
立出版
編
生体応答学の新展開
編
別冊・医学の歩み
医師薬出版
酸化ストレス・レドックスの生化学
1999
シリーズ
バイオサイエンスの新世紀
共
2000
イ) 国外誌
1.
H. Nakamura, H. Masutani, J. Yodoi
Thioredoxin-dependent redox regulation in biological responses
In “Free Radicals in Chemistry, Biology and Medicine”edited by T. Yoshikawa, S. Toyokuni, Y. Yamamoto,
Y. Naito. OICA International, London, pp172-181, 2000
2.
H. Masutani, A. Nishiyama, Y. Kwon, Y. Kim, H. Nakamura, J. Yodoi.
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In “Environmental
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3.
I. Hattori, H. Nakamura, H. Masutani, Y. Nishinaka, J. Yodoi. Thioredoxin-dependent redox regulationimplication in aging and neurological diseases. In “Oxydative Stress and Aging: Advances in Basic
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4.
Y. Nishinaka, H. Nakamura, H. Masutani, J. Yodoi. Redox control of cellular function by thioredoxin;
New therapeutic direction in host diffence. In “Archivum Immunologiae and Therapeutiae
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5.
H. Nakamura, N. Kondo, K. Hirota, H. Masutani, J. Yodoi
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Thiols and thioredoxin in cellular redox
In “Redox Genome Interactions in Health and Disease”edited by J. Fuchs, M. Podda, L. Packer.
Marcel Dekker Inc. New York, in press
6.
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7.
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Redox Regulation in Neuronal Damage During
Brain Ischemia -The Role of Thioredoxin in Ischemic Neuronal Death-
“Strategic medical science
against brain attack” ed. by Kikuch H. Springer, Tokyo pp. 45-56, 2002
167
Brain
attackから脳を守るための研究
3) 口頭発表
ア) 招待講演
1)
J. Yodoi
Redox
regulation by thioredoxin/TRX family; New direction of host diffence and health care.
Elimiston Puolustusmekanisit-Defence Mechanisms of the Body Symposium and Workshop, Finland, October,
1999
2)
J. Yodoi
Reox regulation by thioredoxin superfamily; Protein against oxidative stress and aging.
International Symposium Free Radicals in Life Science Tokyo, Japan, March,
2000
3)
J.Yodoi, H. Masutani, H. Nakamura
Molecular mechanism of oxidative stress and host defense –redox regulation and disease.
Kyoto University-University Louis Pasteur 10th anniversary symposium, Kyoto, Japan, February, 2001
4)
J. Yodoi, H. Masutani, H. Nakamura
The role of thioredoxin in regulatory cellular functions.
Cellular Implications of Redox Signaling, Padova, Italy, February, 2001
5)
J. Yodoi, H. Masutani, H. Nakamura
Overview of redox signaling; TRX-dependent redox regulation
Oxygen Club of California, Santa Barbara, CA, March, 2001
6)
J. Yodoi, I. Hattori, H. Nakamura, H. Masutani, Y. Nishinaka, A. Mitsui
Thioredoxin-dependent redox regulation in aging and neurological diseases.
Second International Conference on oxidative stress and aging, technologies for assessment and
intervention strategies, Maui, Hawaii, April, 2001
7)
J. Yodoi, H. Masutani, H. Nakamura
Thioredoxin system and redox signaling; Defence against Stress and
Toxicity
International Symposium on “Signal transduction in Toxicity”, Seoul, Korea, May, 2001
8)
J. Yodoi, H. Masutani, H. Nakamura
Redox regulation by human thioredoxin system
Meeting of Society for Free Radical Research Europe, Rome, Italy, June,
2001
9)
増谷弘、中村肇、淀井淳司
細胞機能のレドックス制御メカニズム
10th forum in Dojin, 生体と酸化還元、平成11年11月
熊本
10 ) 淀井淳司、上田修吾、三井彰、高木康志
チオレドキシン遺伝子導入マウスの長寿傾向と細胞死抑制機構
第72回日本生化学会大会
11)
平成11年10月
横浜
淀井淳司
レドックス制御分子TRX/ADFの生体防御能
島根免疫セミナー –免疫学最新の話題-、平成11年10月
12)
淀井淳司
新しい健康科学への道;ストレス疾患とレドックス制御
168
島根
Brain
attackから脳を守るための研究
次世代産業ナビゲーターフォーラム
13)
平成12年4月
東京
淀井淳司
チオレドキシン・ファミリーとレドックス制御
第22回グアニジノ化合物研究会
14)
平成12年10月
新潟
中村肇
酸化ストレスとレドックス制御蛋白チオレドキシン
第32回日本臨床化学会近畿支部例会
15)
平成12年10月
大阪
中村肇、増谷弘、淀井淳司
チオレドキシンファミリーと細胞内・細胞外レドックスシグナルカスケード
京都大学ウイルス研究所コロキウム
16)
平成13年2月
京都
中村肇
レドックス制御蛋白チオレドキシンの基礎と臨床
第2回バイオレドックスセミナー
17)
平成13年3月
熊本
淀井淳司、増谷弘、中村肇
酸化ストレスと防御系の分子機構
–レドックス制御と病態
日本薬学第121年会
札幌
平成13年3月
イ) 応募・主催講演等
1)
S. Ueda, H. Nakamura, H. Masutani, T. Sasada, Yonehara. S, A. Takabayashi, Y.Yamaoka, J. Yodoi
Redox regulation of caspase-3 protease activity during apoptosis signal.
International symposium for Oxidative Stress, Redox Regulation and Signal Transduction; Clinical
implications, Kyoto, Novenber, 1999
2)
J.Yodoi, H. Masutani, H. Nakamura
Thioredoxin-dependent redox regulation in intra- and extracellular
environment.
SFRR2000, Kyoto, Japan, October, 2000
3)
A. Mitsui, H. Nakamura, N. Kondo, Y. Hirabayashi, S. Ishizaki-Koizumi, T. Hirakawa, J. Hamuro, T.
Inoue, J. Yodoi
Transgenic mice overexpressing human thioredoxin display a phenotype indicative of resistance
against oxidative stress.
The first Okinawa International Conference on Longevity (OICL), Nago, Japan, Novenber, 2001
4)
I. Hattori, Y. Takagi, K, Nozaki, H. Nakamura, J. Yodoi, N. Hashimoto
Intravenous infusion of thioredoxin decreases brain damage of transient focal ischemia in mice.
Hawaii, USA, February, 2002
5)
高木康志、時女知生、野崎和彦、菊池晴彦、淀井淳司
ラット中大脳動脈閉塞モデルにおけるチオレドキシンの免疫組織学的検討
第22回日本脳卒中学会総会
6)
平成9年4月
福岡
高木康志、野崎和彦、曽野弘士、吉岡達樹、西山晃、淀井淳司
レドックス制御蛋白Thioredoxinの発現の虚血性神経細胞死における意義
第23回日本免疫学会総会
7)
平成9年11月
札幌
高木康志、野崎和彦、戸高健臣、橋本信夫、淀井淳司、菊池晴彦
ラットバルーン傷害後内膜およびヒト動脈硬化巣におけるレドックス制御蛋白チオレドキシンの誘導
169
Brain
attackから脳を守るための研究
第56回日本脳神経外科学会総会
8)
平成9年10月
大阪
高木康志、野崎和彦、戸高健臣、橋本信夫、淀井淳司
局所脳虚血モデルにおけるレドックス制御蛋白Thioredoxin mRNA, Glutaredoxin mRNAの発現
第23回日本脳卒中学会総会
9)
平成10年5月
札幌
高木康志、野崎和彦、橋本信夫、淀井淳司
レドックス制御蛋白チオレドキシントランスジェニックマウスにおける脳梗塞縮小効果
第57回日本脳神経外科学会総会
10)
平成10年10月
札幌
服部伊太郎、高木康志、野崎和彦、三井彰、淀井淳司、橋本信夫
チオレドキシン・トランスジェニックマウスにおける興奮性アミノ酸毒性に対する防御効果
第59回日本脳神経外科学会総会
11)
平成12年10月
福岡
谷戸正樹、白潔、中村肇、増谷弘、出来谷寛、廣田喜一、淀井淳司
Geranylgeranylacetoneによるチオレドキシン誘導
第30回日本免疫学会総会
12)
平成12年11月
仙台
増谷弘、Kim Yong-Chul, Kwon Yong-Won, 西山晃、西中由美子、中村肇、
淀井淳司
Thioredoxin(TRX)による細胞機能調節とヘムによるTRX遺伝子活性化機構
第73回日本生化学学会
13)
平成12年10月
横浜
服部伊太郎、野崎和彦、淀井淳司、橋本信夫
ラット胎児仮死モデルにおけるチオレドキシン発現の検討
第26回日本脳卒中学会総会
14)
平成13年3月
大阪
服部伊太郎、野崎和彦、高木康志、淀井淳司、橋本信夫
マウス一過性中大脳動脈閉塞モデルにおけるチオレドキシン投与効果
第60回日本脳神経外科学会
15)
平成13年10月
岡山
Jie Bai, Hajime Nakamura, Yong-Won Kwon, Itaro Hattori, Masaki Tanito, Junji Yodoi
Protective role of thioredoxin against MPP+-induced cytotoxicity
第74回日本生化学学会
平成13年10月
京都
170
Brain
attackから脳を守るための研究
1. 脳神経細胞生存調節機構の解明に関する研究
1.2.2. 低脳温の果たす神経保護効果の至適条件解明と臨床応用技術開発に関する研究
1.2.2.1. MRSを用いた虚血巣温度測定技術の評価と虚血後高脳温の検討
国立循環器病センター内科脳血管部門
成冨
博章、
国立循環器病センター脳循環研究室
山脇
健盛
慶應義塾大学脳神経外科
河瀬
斌、菅
貞郎
美原記念病院内科
美原
要
盤
約
近年、重症脳損傷例を低体温により治療する試みが盛んに行われているが、低体温療法中の病巣部位の脳温度
が目標の低温に達しているか否かは不明である。本研究では 1H 磁気共鳴スペクトロスコピーを用いて正常者およ
び急性期脳梗塞患者の局所脳温度測定を試みた。脳梗塞例の虚血領域温度は急性期には高温を示し、後に低温に
移行した。低体温療法中に測定を行った 1 例では虚血領域の脳温度は必ずしも目標の低温に達していなかった。
虚血脳の温度は部位によって大きく異なり、鼓膜温などによる脳温度平均値測定では病巣部位の温度を正確に評
価しえないと思われる。低体温療法の効果を上げるためには、病巣部位の局所脳温度を測定しながら体温管理を
行う必要があると思われる。
研究目的
脳損傷下では脳の温度が 1-2℃上昇または下降しても脳損傷の程度が著明に増悪または軽減することが実験的
に知られている[1]。脳梗塞の臨床においても体温の上下は転帰を左右する重要な因子であることが知られており、
急性期に体温が上昇した例の生命予後、機能予後は正常体温例に比較して不良であることが報告されている[2]、
[3]。近年、急性期脳梗塞例の体温を軽度下降させて脳保護効果を得ようとする試みが行われるようになってきた
[4]、[5]。その際、脳温度を目標レベルまで下降させることができたか否かを確認するために脳温度を測定する
必要があり、通常、脳温度の指標として内頸静脈球温または鼓膜温が測定されている。従来知られている脳温度
測定法は数種あるが[6]、[7]、[8]、このうち内頸静脈球温測定[6]または鼓膜温測定[7]が比較的侵襲の少ない方
法として臨床で用いられている。しかし、内頸静脈球温、鼓膜温はいずれも脳全体の温度を反映するだけであり、
脳虚血部位など局所の温度を反映しないという欠点を有している。低体温治療に際して温度を低下させる必要の
ある目標部位は脳虚血領域であるが、脳虚血領域が脳全体ボリュームの 20%を越えることは稀であることから、内
171
Brain
attackから脳を守るための研究
頸静脈球温や鼓膜温は脳虚血領域の温度を殆ど反映していない可能性が高い。低体温療法を安全かつ効率よく施
行するためには脳の局所温度を測定する必要があることは明らかである。残念ながら、現在、ヒトの脳の局所温
度を正確かつ非侵襲的に測定できる方法は殆どないといってよい。しかし、近年、1H –磁気共鳴スペクトロスコ
ピー (1H-MRS)を用いて脳の温度を測定する方法が報告され[9]、[10]、[11]、[12]、ヒトにおいて測定を行った
報告もみられる[12]、[13]。同方法は N-acetyl aspartate (NAA)の化学シフト値が温度と相関することから NAA
化学シフト値測定により脳温度を間接的に測定しようとするものである。本研究の目的は、1H-MRS を用いて、急
性期脳梗塞例における虚血領域、健常領域の局所脳温度がどのように異なるかを明らかにし、低体温療法技術を
向上させることである。
研究方法
ファントーム実験
測定は全て美原記念病院において行い、ファントーム実験および脳局所温度の測定は美原記念病院所有の 1.5
Tesla の臨床用磁気共鳴装置 (Siemens Magnetom Vision)を用いて行った。CP head coil を使用し Chemical Shift
Imaging (Multi-voxel Methods)を用いて 1H-MRS 測定を行った。撮像条件は SE 法、TR 1500 ms、TE 135 ms、FOV
160x160 mm、VOI 40-60x80x10 mm3、Voxel size10x10x10 mm3 である。付属のファントームを用い、補正用のアセ
テート溶液 (100 mM CH3COONa)または脳内 1H 化学物質を含む NAA 混合溶液 (10 mM NAA、8 mM Creatinine、 2 mM
Choline)で満たしてた測定対象の温度を 32-40℃に変化させ 1H –MRS 測定を行った。得られた 48 Voxels のデータ
を平均し、アセテート溶液では水—アセテート、NAA 混合溶液では水—NAA の化学シフト値と溶液温度との関係を
検討した。
局所脳温度測定
正常ボランテイア 5 名、急性期脳梗塞患者 10 例(63-84 歳)を対象に測定を行った。急性期脳梗塞患者のうち
5 例では第 0-3 病日に第 1 回目の測定、第 4-7 病日に第 2 回目の測定を行い、他の 1 例では低体温療法前に第 1 回
目測定、低体温療法中に第 2 回目測定を行った。上述の 1.5 Tesla の磁気共鳴装置を用い、ファントーム実験と
同様の撮像条件で 1H-MRS マッピング測定を行った。1H-MRS マッピング測定と同時に鼓膜温測定を行い、鼓膜温と
水—NAA 化学シフト値(後頭葉)の関係を検討した。さらに鼓膜温と水—NAA 化学シフト値の回帰直線をもとに脳
梗塞例における脳内各部位(健常部位、虚血周辺部位、虚血部位)の局所脳温度を測定した。
研究成果
ファントーム実験の成果
ファントーム実験で得られたアセテート溶液における水—アセテートの化学シフト値(CS) は溶液温度と高い
相関 (R2 = 0.898)を示し、温度 (℃) = 326.055 – 104.583xCS の関係が得られた。 NAA 混合溶液 における水
—NAA の化学シフト値 も溶液温度と良好な相関 (R2 = 0.994)を示し 温度 (℃) = 320.268 – 106.299xCS の関係
が得られた(図 1)。
172
Brain
attackから脳を守るための研究
温度(℃)
41
40
39
38
37
36
35
34
33
32
31
2.63
2.65
2.67
2.69
2.71
2.73
NAA化学シフト値
図 1 ファントーム実験における温度と NAA 化学シフト値の関係
NAA 混合溶液の温度 (T)と NAA 化学シフト値 (CS)の間には高度な相関が認められる (r=0.994、T= 320.268 ‐ 106.299CS)。
局所脳温度測定の成果
正常ボランテイアの後頭葉 1H-MRS では顕著な NAA ピークが認められた(図 2)
。正常ボランテイアにおける脳の
各部位における水—NAA の化学シフト値はほぼ均一であり、局所部位間の化学シフトの差は 0.02 程度であった(図
3)。脳梗塞例では、健常部位の 1H-MRS における NAA ピークは正常であり、虚血周辺部位では NAA ピークの低下傾
向が認められたものの、水—NAA 化学シフト値の測定に障害をきたすほどではなかった。しかし虚血部位では NAA
ピークの低下がみられ、水—NAA 化学シフト値の測定が困難な場合もあった。鼓膜温と水—NAA の化学シフト値は
良好な相関 (R2=0.908)を示し、温度 (℃) = 241.439-76.398xCS の関係が得られた(図 4)
。この式より求めた正
常ボランテイアの後頭葉の局所脳温度は 36.5±0.3℃であり、駆幹温度 36.6±0.7℃とほぼ類似の値を示した。一
方、急性期脳梗塞例における脳局所の水—NAA 化学シフト値は極めて不均一であり、局所部位間の化学シフト値の
差は 0.4-1.0 に及んだ。脳梗塞例の第 0-3 病日における局所脳温度は、健常部位では 37.0±1.0℃と正常ボランテ
イアとほぼ同様であったが、虚血部位では 38.3±1.1℃と高値を示し、虚血周辺部位においても 37.6±1.2℃と比
較的高い値を示した(図 5)
。しかしながら、虚血部位の局所温度は第 4-7 病日には 35.3±1.2℃に低下した。低
体温療法施行中 (鼓膜温 34.5℃)に 1H-MRS を行った脳梗塞の 1 例では左大脳半球に広範な虚血巣が認められた(図
6)。低体温療法中の 1H-MRS マッピングでは、水—NAA 化学シフト値が全般に高値を示して平均脳温度は 34.8℃に
低下していた。しかし、脳の各部位間の水—NAA 化学シフト値の差はヤハリ大きく、化学シフト値が 2.72 (33.6℃)
と高値を示す部位もあれば、2.64 (39.7℃)と低値を示す部位もあった(図 7)。虚血半球の化学シフト値は健常部
位ではほぼ均一で高値(低温)であったのに対し、虚血部位では化学シフトが著明な低値(高温)、虚血周辺部位
では著明な高値(低温)を示す傾向があった。
173
Brain
attackから脳を守るための研究
鼓膜温(℃)
38
37
36
35
34
2.65
2.66
2.67
2.68
2.69
2.7
2.71
2.72
NAA化学シフト値
図2
鼓膜温度と NAA 化学シフト値の関係
鼓膜温 (T)と NAA 化学シフト値 (CS)の間には高度な相関が認められる (r=0.908、T = 241.439 ‐ 76.398CS)。
NAA
Cr
Cho
VOI
11
図3
H MRS
正常ボランテイアにおける測定領域設定と 1H-MRS
対象は正常ボランテイア(23 歳、女性、鼓膜温 36.6℃)
左:測定領域 (VOI)を後頭葉に設定。
右:後頭葉における代表的な 1H-MRS。NAA ピークが明瞭に認められる。
174
Brain
attackから脳を守るための研究
図4
正常ボランテイアの後頭葉における NAA 化学シフト値分布
局所部位間における NAA 化学シフト値の差は殆ど認められない。
脳温 ℃
40
*
39
38
37
36
35
健常部位
虚血周辺部位
図5
虚血部位
脳梗塞急性期の部位による局所温度の違い
健常部位の温度に比べて虚血部位の温度は有意に高い (p<0.05)。
175
Brain
attackから脳を守るための研究
図6
低体温療法施行中の脳梗塞例における測定領域設定
症例は 62 歳男性、左大脳半球に広範な虚血病巣が認められる。低体温療法施行中で鼓膜温は 34.5℃に低下してい
る。測定領域は後頭葉で健側後頭葉、病側後頭葉健常部、虚血部位を含む。
図7
低体温療法施行中の脳梗塞例の NAA 化学シフト値分布
左方は健側半球、右方中央よりは病側半球健常部位、右方外側上部は虚血領域に相当する。NAA 化学シフト値は局
所部位間で大きく異なり、虚血領域では異常低値(高温)、虚血周辺領域では異常高値(低温)が認められる。
176
Brain
考
attackから脳を守るための研究
察
体温は脳損傷の病態を左右する重要な影響因子であり、体温が 1-2℃上昇または下降すると脳損傷が増悪または
軽減することが実験的に知られている[1]。低体温が強力な脳保護作用を有することは古くから知られているが、
体温を 30℃以下に低下させるような本格的低体温は重篤な感染や不整脈をきたしやすく脳損傷例の治療には不向
きである。しかし、上述のように軽度の体温下降でも十分な脳保護効果が得られることが実験的に明らかになっ
てから、重症脳損傷例を軽度低体温により治療しようとする動きがみられるようになり、重症頭部外傷[14]、心
停止後脳症[15]、[16]、急性期脳梗塞例[4]、[5]に対する軽度低体温治療が国内外で試みられている。低体温療
法の臨床効果に関する評価は、現在、大きく二つに分かれており、重症頭部外傷の多施設共同無作為化比較対照
試験では無効[14]、心停止後脳症の多施設共同無作為化比較対照試験では有効[15]、[16]という結果が得られて
いる。何故に低体温療法が頭部外傷では無効で、心停止後脳症では有効なのか、その理由は明らかではないが、
そこには両疾患の病態の違いに関連した低体温療法施行技術の差が関与している可能性がある。低体温療法に際
しては、頭部外傷、心停止後脳症いずれの場合も、駆幹を冷却して膀胱温または鼓膜温を目標の低温まで下降さ
せるような冷却プロトコールが組まれており[14]、[15]、[16]、これにより脳全体の平均温度はある程度の低温
に達すると考えられる。心停止後脳症の場合は全脳が均一に障害されており脳血流は回復しているので、駆幹を
冷却すれば脳全体はほぼ均一に低温状態になると考えられ、膀胱温や鼓膜温を測定すれば目標部位が低温状態に
至っているか否かを把握することができる。一方、頭部外傷では、脳の一部のみが障害されるのが常であり障害
部位の循環は不良になっている可能性が高い。そのような状態では、駆幹を冷却しても脳全体が均一に低温状態
に至っているか否かは明らかではなく、膀胱温や鼓膜温を測定しても目標の障害部位の温度がどのようなレベル
にあるかを知ることは困難である。すなわち頭部外傷例の低体温療法に際しては、駆幹を冷却しても脳の障害部
位は低温状態になっていない可能性があると思われる。これは脳梗塞においても同様であり、駆幹を冷却しても
虚血領域は低温状態になっていない可能性があると考えられる。このような理由により、頭部外傷例や脳梗塞例
の低体温療法を行うに際しては、病巣部位の局所脳温度を測定してみる必要があるといえる。
本研究で用いた 1H-MRS 法は、水の共鳴周波数が温度変化に対して敏感であり種々の化学物質の化学シフト値が
温度に相関することを利用して脳温度を測定する方法である。既に同様の方法を用いて、ヒトまたは動物の脳の
局所温度を測定した報告がいくつかなされているが[9]、[10]、[11]、[12]、病態下でヒトの脳の局所温度を測定
した報告は極めて僅かである[13]。本研究のファントーム実験では、水—NAA 化学シフト値は溶液温度に比例して
低下し、両者の間に高い相関が認められた。これは従来の報告と同様である。しかし、ここで得られた回帰直線
をもとにヒトの脳温度を計算すると、脳温度は駆幹温よりもかなり低い値を示すことになった。一般に脳温度は
駆幹温とほぼ同程度またはやや高いことが知られているので、これはファントーム実験に際する溶液温度の測定
値に問題があるかまたは他の実験要因に問題があるかいずれかの原因によると考えられた。一方、正常ボランテ
イアおよび脳梗塞例健常部位の水—NAA 化学シフト値は同時に測定した鼓膜温と高い相関を示した。そこで本研究
では鼓膜温をキャリブレーション値として、鼓膜温—NAA 化学シフト値回帰直線から脳温度を計算することとした。
得られた脳温度は正常ボランテイアでは駆幹温とほぼ同じ値を示したので、脳温の絶対値としてある程度信頼で
きると思われる。
興味あることは、正常ボランテイアの脳では局所部位間の温度差が比較的小さかったのに対し、脳梗塞例の局
所温度は部位により大きく異なり、特に急性期には虚血部位において高温状態を示したことである。虚血部位で
は脳血流が低下しており温かい血液の流入が低下しているうえに脳代謝が低下しているので脳温度は低下してい
る筈であると一般に考えられている。しかし、Cadoux-Hudson は頭部外傷例の脳局所温度を 1H-MRS を用いて測定
し、重症例では病巣部位近辺の局所温度が異常高値を示したと述べている[13]。本研究では、このような虚血領
域の高温状態は急性期だけに認められ、発症数日後には虚血領域の局所脳温度は低温状態に移行していた。何故
177
Brain
attackから脳を守るための研究
に虚血領域の局所脳温度が急性期に高値を示すのか、その理由は明らかではない。しかしながらこのような奇異
性現象は脳代謝と脳血流のアンカップリングにより生じるのではないかと推測される。脳梗塞急性期には脳代謝
と脳血流のアンカップリングがしばしば認められ、脳血流低下の程度に比して脳代謝が比較的高めに維持されて
いることが少なくない。相対的に高い脳代謝によって組織エネルギー代謝が営まれた結果比較的大量の熱が産生
され、一方、血流が比較的少ないために熱の洗い出しが低下しているとしたら、そのような部位の局所温度は上
昇すると考えられる。血流と代謝のアンカップリングは急性期を過ぎると消失し、脳代謝は血流と同様に高度に
低下するのが常である。脳代謝の高度な低下の結果、虚血領域の熱産生は大きく低下し、血流も同程度に低下し
ているので、結果的に急性期を過ぎた時期の虚血領域の局所温度が低下するのではないかと考えられる。本研究
では、低体温療法中の脳局所温度測定は 1 例において行ったのみである。しかしながら、極めて興味あることに、
低体温療法中の脳温度は健常部位では駆幹温と同程度の低温を示したが、虚血領域ではむしろ高温を呈する部位
が認められた。低体温療法にもかかわらず何故に虚血領域の局所脳温度が高値を示すのか、その理由は不明であ
るが、ここでも代謝と血流のアンカップリングが関与している可能性が高い。すなわち低体温によって保護され
た虚血部位の代謝は血流に比して相対的に高めに維持されており、血流による熱の洗い出しが低下しているため
に結果的に局所温度が上昇するという可能性である。ただし、低体温中の脳温度測定は 1 例で行ったのみであり、
このような現象が例外的なものであるのか一般にみられるものであるのかは明らかではない。今後さらに同様な
検討が必要である。重要なことは、脳梗塞例に低体温療法を行った場合、虚血領域の脳温度は必ずしも低温にな
っていなかったことであり、今後、脳梗塞例の低体温療法を行う場合はこのような可能性を考えた体温コントロ
ールを行う必要があると思われる。
本研究は、最初は、主として美原記念病院、慶応義塾大学脳神経外科の研究協力により美原記念病院の装置を
用いて行い、後に国立循環器病センターにおいても同様な測定を行う予定であった。国立循環器病センターでは
主として同敷地内のビーエフ研究所における 3.0 Tesla の磁気共鳴装置を用いた脳温度測定を行う予定であった。
しかしながら、本研究が同研究所における共同研究順位の下位にランクされてしまったため、研究期間内に脳温
度測定を実施することが不可能となった。結果的に、本研究におけるデータの全ては美原記念病院、慶応義塾大
学脳神経外科の力によって得られたものである。慶応義塾大学脳神経外科の菅博士、河瀬教授、美原記念病院の
美原博士に心から深謝する次第である。
引用文献
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[16] The hypothermia after cardiac arrest study group: Mild therapeutic hypothermia to improve the
neurologic outcome after cardiac arrest. N Engl J Med 346:549-556, 2002
成果の発表
1) 原著論文による発表
ア) 国内誌
[1] 菅貞郎、小林正人、高山秀一、美原盤、山脇健盛、成冨博章、河瀬賦:脳梗塞急性期における脳代謝と脳温
分布―1HMRSによる検討―。脳循環代謝 11:452-453, 1999
3) 口頭発表
ア) 応募・主催講演等
[1] Suga S, Kobayashi M, Takayama H, Mihara B, Yamawaki T, Naritomi H, Kawase T: Brain temperature mapping
by proton MRS: In vivo study and clinical application. 19th International Symposium on Cerebral
Blood Flow, Metabolism and Function, Copenhagen, June 13-17, 1999
[2] Suga S, Kobayashi M, Takayama H, Mihara B, Yamawaki T, Naritomi H, Kawase T: Brain temperature and
metabolism mapping by proton MRS after cerebral ischemia in the acute stage. 20th International
Symposium on Cerebral Blood Flow, Metabolism and Function, Taipei, June 9-13, 2001
179
Brain
attackから脳を守るための研究
1.2. 脳神経細胞生存調節機構の解明に関する研究
1.2.2. 低脳温の果たす神経保護効果の至適条件解明と臨床応用技術開発に関する研究
1.2.2.2. 低脳温の脳保護機構の解明及び低脳温療法の有効性と安全性の評価
国立循環器病センター内科脳血管部門
成冨
博章、長束
一行、宮下
光太郎、森脇
博、大江
洋史
国立循環器病センター研究所脳循環研究室
山脇
要
健盛
約
低体温が虚血性侵襲に対する脳保護作用を有することは実験的によく知られているが、脳梗塞の治療に有用で
あるか否かは未だ明らかではない。我々は、実験的および臨床的研究を行い以下の点を明らかにした。(1)脳梗塞
急性期の体温上昇には、一部、視床下部を介する中枢性機序が関与する。(2)体温上昇は神経系損傷のみならず血
管系損傷を助長する。(3)抗炎解熱薬経口投与による体温上昇阻止療法(平温療法)は脳梗塞例の転帰を改善する
可能性がある。(4) 発症後 6 時間以内の重症脳梗塞例に対する低体温療法は安全であり、転帰を改善する可能性
があるが、超重症例や高齢者に対しては無効である。低体温療法、平温療法の有効性を確認する目的で多施設共
同の無作為化比較対照試験を行ったが十分な症例を集積するには至らなかった。その理由の一つに我が国脳卒中
診療システム上の問題が関与すると考えられた。
研究目的
低体温が強力な脳保護作用を有することは古くから知られており、近年の実験的脳梗塞モデルを用いた検討で
は軽度低体温(30-33℃)であっても梗塞病巣を著明に縮小させることが報告されている[1]、[2]。しかし、低体
温の脳保護機構は未だ必ずしも明らかではなく、低体温をヒトの脳梗塞の治療に用いた場合有効性を発揮しうる
か否かは不明である。一方、脳梗塞急性期に体温が上昇する例は少なくなく、体温上昇例の生命予後、機能予後
は不良であることが知られている[3]
、
[4]。体温上昇は感染徴候のない例にみられることも多く、中枢性機序が
関与すると推定されているが、その詳細は未だ明らかでない。本研究では、(1)低体温が形態学的異常のみならず
機能的異常からも脳を保護するか否か、(2)脳梗塞急性期の体温上昇がどのような例にいかなる機序を介して生じ
るのか、(3)体温上昇が脳梗塞病態の何を悪化させるのか、(4)体温上昇を阻止した場合脳保護作用が得られるか
否か、(5)低体温を脳梗塞の治療に用いた場合の安全性および有用性はどうか、等の点を明らかにすることを目的
に、主として臨床的な検討、一部実験的な検討を行った。
研究方法
虚血に対する低体温の脳機能保護に関する研究
低体温が虚血から脳を保護して機能維持をもたらすか否かを明らかにするため、麻酔下にラット(n=35)に体外
180
Brain
attackから脳を守るための研究
循環装置を設置して右心房から上行大動脈へと血液を灌流させ、18℃の低温下に 5、10、20、40 または 80 分間全
身循環を停止させた。その後循環を再開させて体外循環装置を除去し、1 カ月後または 3 カ月後に受動的条件回避
学習(群大式条件回避学習装置を使用)を行って脳機能の変化を検討した。また 1 カ月後または 3 カ月後に脳を
摘出して海馬の虚血性変化の有無を検討した。これとは別に、低体温が血管内皮細胞を保護するか否かを明らか
にするため、培養ウシ脳血管内皮細胞を 31℃低温下または 37℃の常温下で 2 時間の虚血性侵襲(無酸素、無ブド
ウ糖液使用)に曝し、二群の内皮障害の程度を乳酸脱水素酵素 (LDH)を用いて比較検討した。また低体温は虚血
から神経細胞のみならずアストロサイトを保護すると思われるが、虚血後早期に出現する反応性アストロサイト
が急性期、亜急性期に脳保護作用を発揮するか否かをラットを用いて検討した。
虚血後の体温上昇機序に関する研究
脳虚血後の体温上昇に中枢性機序が関与するか否かを明らかにするため、ラット(n=36)の総頸動脈から血管閉
塞用カテーテルを挿入し中大脳動脈の直前で分枝する視床下部動脈を選択的に閉塞して視床下部に限局する小梗
塞の作成を試みた。上記血管閉塞後 1、3、24、48、72 時間に無麻酔下で直腸温を測定し、体温変化を観察した。
また発症後 24 時間以内に入院した中大脳動脈(MCA)領域の心原性脳塞栓症 45 例を慢性期の CT 所見から、小梗塞
群(梗塞範囲が MCA 領域の 1/2 以下、n=25)
、中梗塞群(梗塞範囲が MCA 領域の 1/2 以上、n=11)
、、大梗塞群(梗
塞範囲が MCA 全領域以上に及ぶ、n=9)、の三群に分類し、各群の発症後一週間における体温を比較検討した。ま
た剖検を行った例(体温上昇 3 例、非上昇 3 例)の視床下部の病理組織学的検討を行った。
高体温が脳梗塞の病態に与える影響に関する研究
脳梗塞後の体温上昇が脳虚血の病態に与える影響を検討するため、発症後 24 時間以内に入院し 1 カ月以内に少
なくとも 3 回の CT 検査を施行した心原性脳塞栓症 60 例を対象として検討を行った。これらの例を入院後 1-3 日
間の体温平均値により正常体温群(36.9℃以下、n=49)
、高体温群(37℃以上、n=11)の二群に分類し、発症 3 週
間後までの CT 所見をもとに出血性梗塞の出現頻度、高度脳浮腫(脳浮腫による正中部変位が 3 mm 以上)出現の
有無を比較検討した。
体温上昇阻止の脳保護効果に関する研究
脳梗塞後の体温上昇を阻止することにより脳保護効果が得られるか否かを検討する目的で、発症後 24 時間以内
に入院した重症脳梗塞例(National Institute of Health Stroke Scale:NIHSS スコア 10 以上)のうち年齢 80 歳
以下で胃潰瘍の既往のない 20 例に対し、非ステロイド系抗炎鎮痛薬ロキソプロフェン(180 mg/日)経口投与と
氷枕による表面冷却を 5 日間行って体温上昇阻止を試みた。同様に発症後 24 時間以内に入院し年齢、重症度の等
しい脳梗塞症例 63 例を対照群とし、入院後 5 日間の体温(腋下温)
、CT 上の出血性梗塞の頻度、CT 上の脳浮腫の
程度(正中部変位の程度)、発症 3 カ月後の機能良好例(Barthel Index:BI 75 以上)の頻度を比較した。これと
は別に、発症後 6-24 時間に入院した重症脳梗塞例(NIHSS スコア 15 以上)に頭頸部冷却装置(マックエイト社)
を 5 日間装着し(局所脳低温療法)
、脳温(内頸静脈温)の変化、CT 所見の変化を検討した。
低体温治療の安全性と有用性に関する研究
低体温療法の安全性と有用性を検討する目的で、
発症後 6 時間以内に入院した年齢 75 歳以下の重症脳梗塞例
(脳
主幹動脈の塞栓性閉塞で意識障害 JCS10 以上、明らかな片麻痺を有する例)16 例に対し低体温療法(33℃、3-5
日間)を行って、合併症の有無、転帰を検討した。発症後 6-24 時間に入院し低体温療法、平温療法などの特殊治
療を受けなかった年齢、重症度の等しい 42 例の重症脳梗塞例を対照とし、発症 3 カ月後の機能良好例(BI 75 以
上)の頻度を比較検討した。また低体温治療中は脳障害の程度を画像で判断する以外に、脳障害をモニターする
方法がないので、血中 S-100 蛋白が脳損傷のマーカーになりうるか否かについて血液サンプルを用いた検討を行
181
Brain
attackから脳を守るための研究
った。
低体温療法と平温療法の多施設共同研究
低体温療法、平温療法の有効性を明らかにする目的で平成 11 年 9 月から平成 13 年 9 月にわたり多施設共同の
無作為化比較対照試験(Japanese Acute Stroke Hypothermia Trial:JASH)を行った。同試験は、発症後 5 時間以
内の重症脳梗塞に対する低体温療法単独の効果検討 (JASH-A)、発症後 5 時間以内の重症脳梗塞に対する局所線溶
後低体温療法の効果検討(JASH-B)、発症後 24 時間以内の重症—中等症脳梗塞に対する平温療法の効果検討
(JASH-C)を行うものである。
研究成果
虚血に対する低体温の脳機能保護に関する研究の成果
ラットの低体温実験では、5-40 分間の循環停止ラットは 1 カ月後、3 カ月後いずれにおいても受動的条件回避
学習において正常の回避反応を示した。これらのラットでは海馬の虚血性変化は認められなかった。一方、80 分
間の循環停止を行ったラットでは 1 カ月後、3 カ月後いずれの受動的条件回避学習においても回避能力の障害が認
められた。これらのラットでは有意な海馬神経細胞の脱落が認められた。培養ウシ脳血管内皮細胞を用いた実験
では、常温 (37℃)虚血時の LDH が 41±6%であったのに対し、低温 (31℃)虚血時の LDH は 22±5%と有意に低い値
を示し (p<0.05)、軽度低温が内皮細胞を保護することが示された。ラットを用いたアストロサイトの脳保護効果
に関する実験では、虚血 24 時間後の反応性アストロサイトは脳保護作用を示したのに対し、2 週間後の反応性ア
ストロサイトにはこのような脳保護効果はみられなかった。
虚血後の体温上昇機序に関する研究の成果
ラットの視床下部虚血実験では、一側総頸動脈への血管閉塞用カテーテル挿入により 36 匹中 13 匹のラットに
おいて視床下部動脈が選択的に閉塞され、視床下部に限局した小梗塞巣が作成された。これら視床下部梗塞ラッ
トの虚血前体温は平均 37.6℃であったが、虚血後体温は有意に上昇した(0.7-1.0℃)。体温上昇は虚血 3 時間後
に最大となり、72 時間後においても明らかな上昇が持続した(図 1)
。
直腸温 ℃
39
control
infarct
38
37
36
0
1
3
24
48
72
h
図 1 視床下部虚血ラットにおける直腸温の経時的変化
視床下部虚血ラット(○ n=13)では虚血 1-72 時間にわたり正常対照ラット(● n=11)に較べて有意な体温上昇
(p<0.05)が認められる。
182
Brain
attackから脳を守るための研究
心原性脳塞栓症における急性期体温変化の検討では、小梗塞群の体温は発症 1 日目 36.5±0.7℃、2-4 日目 36.4
±0.7℃、5-7 日目 36.6±0.6℃と明らかな変化を示さなかった。中梗塞群の体温は発症 1 日目 37.0±0.8℃、2-4
日目 37.1±0.5℃、5-7 日目 37.1±0.5℃と軽度上昇を示した。大梗塞群の体温は発症 1 日目 37.7±0.8℃、2-4 日
目 37.5±0.8℃、5-7 日目 37.1±0.7℃と明らかに上昇し、1-4 日目の体温は小梗塞群に較べて有意に高かった。
急性期に体温上昇を示した大梗塞 3 例の剖検結果では全例に同側視床下部の虚血性変化が認められた。一方、体
温上昇を示さなかった中梗塞 3 例では視床下部の変化は認められなかった。
高体温が脳梗塞病態の病態に与える影響に関する研究の成果
正常体温群では発症後 1 カ月以内の CT において 49 例中 18 例 (36.7%)に出血性変化が認められた。一方、高体
温群では 11 例中 9 例 (81.8%)に出血性変化が認められ、その頻度は正常体温群と比較して高い傾向があった。正
常体温群では、正中部が 3 mm 以上変位するような高度脳浮腫は 49 例中 2 例 (4.1%)に認められたのみであったが、
高体温群では高度脳浮腫が 11 例中 8 例 (72.7%)にみられ、その頻度は正常群より有意に大であった(p<0.05)
。
体温上昇阻止の脳保護効果に関する研究の成果
平温療法を試みた検討では、通常治療を行った対照脳梗塞群の年齢は 71±11 歳、ロキソプロフェンを投与した
平温療法群の年齢は 72±8 歳と有意差はなく、入院時の NIHSS スコアも対照群 18.3±4.9、平温療法群 18.3±3.8
と両群間に差はなかった。対照群の体温は発症 24 時間後から 37.0℃以上に上昇し、上昇は発症 5 日後まで持続し
た。平温療法群では発症 24 時間後に体温上昇傾向がみられたものの、その後は体温は 36.5℃前後に維持された。
この間の両群の体温の差は有意であった。CT 上の出血性梗塞の頻度は、対照群 33.3%、平温療法群 15.0%と平温療
法群において低い傾向がみられた。また CT 上の正中部変位は対照群 8.2±6.4 mm に対し、平温療法群 3.7±2.9 mm
と有意に小さい値を示した。発症後 3 カ月までの死亡率は対照群 14.3%、平温療法群 10.0%と両者に差はなかった
が、発症後 3 カ月後の機能良好例の頻度は対照群 35%、平温療法群 12.7%と平温療法群で有意に高い値を示した
(p<0.05)。局所脳低温療法を試みた検討では、脳梗塞発症後 2-6 日間の腋下温が常時平均 37.0℃以上に上昇して
いたのに対し、内頸静脈球温は 35.5-36.5℃と低い値を示した。CT 上の出血性梗塞の頻度は 10%、高度脳浮腫の頻
度は 30%と低い値を示した。
低体温治療の安全性と有用性に関する研究の成果
低体温治療を行った 16 例の内訳は内頸動脈(ICA)閉塞 10 例、MCA 起始部閉塞 5 例、脳底動脈閉塞 1 例で年齢 60
±10 歳、入院時 NIHSS スコアは 23.6±7.9 であった(表 1)
。そのうち 9 例において線溶療法を併用した。線溶療
法は、低体温開始前に t-PA 静脈内投与(7 例)または動脈内投与(1 例)を行い、症状改善が認められないため
に低体温療法を開始したか、または低体温療法開始後(1 例)に行ったものである。他の 7 例では線溶療法の併用
は行わなかった。低体温期間中に肺炎などの感染、血小板減少、低 K 血症等が認められたが、いずれも軽度であ
り、低体温治療の続行が妨げられた例は皆無であった。また重篤な不整脈が出現した例はなかった。低体温治療
例の CT 所見の特徴は一般に脳浮腫像が軽度なことであり、
正中部変位が 3 mm を越すような高度脳浮腫は 4 例(25%)
にみられたのみであり、他の 12 例では脳室圧排像も認められない例が少なくなかった。発症後 6 時間以後に入院
し低体温療法、線溶療法、平温療法などの特殊治療を受けなかった 42 例の対照群の内訳は ICA 閉塞 29 例、MCA 起
始部閉塞 19 例、脳底動脈閉塞 3 例で、年齢 66±7 歳、入院時 NIHSS スコアは 20.2±5.4 で低体温療法群との間に
有意な差はなかった(表 2)
。発症後 3 カ月までの死亡率は対照群 28.6%、低体温療法群 18.8%と両者に差はなかっ
たが、発症 3 カ月後の機能良好例の頻度は対照群 9.5%、低体温療法群 37.5%と低体温療法群で有意に高い値
(p<0.05)を示した(表 2)。図 2 に低体温療法群における入院時 NIHSS スコアと発症 3 カ月後の生活機能度 (BI) の
関係を示す。発症 3 カ月後に BI 75 以上の良好な機能を獲得しえた例は大半が入院時 NIHSS スコア 25 未満の例で
183
Brain
attackから脳を守るための研究
あった。入院時 NIHSS スコア 25 以上の例で良好な機能を獲得した例は 1 例しかなく、入院時 NIHSS スコア 30 以
上の例で良好な機能を得た例はなかった。図 3 に低体温療法群における年齢と発症 3 カ月後の生活機能度 (BI) の
関係を示す。発症 3 カ月後に BI 75 以上の良好な機能を獲得しえた例の大半は年齢 65 歳未満の比較的若い例であ
り、年齢 65 歳以上の症例のうち良好な機能を獲得した例は 1 例しかなかった。また 70 歳以上の症例では機能良
好例は皆無であった。線溶療法の有無による転帰の違いは明らかでなかった。血中 S-100 蛋白を用いた検討では、
S-100 蛋白測定値は CT 上の梗塞巣の広がりと良好な相関を示し、脳損傷の良好なマーカーとなることが明らかに
された。低体温療法施行例の血中 S-100 蛋白値は、通常治療群に比べて有意に低い値を示した。
表1
低体温療法と通常治療の比較
低体温療法
例数
年齢
入院時NIHSS
スコア
閉塞血管
内頸動脈
中大脳動脈
脳底動脈
3カ月後の転帰
死亡率
機能良好例の頻度
16
例
60
±10
歳
23.6
±7.
9
10
例
5例
1例
18.8%
37.5%*
* 通常治療例と比して有意に大(P<0.05
)
184
通常治療
42
例
66
±7歳
20.2
±5.4
20
例
19
例
3例
20.8%
9.5%
Brain
attackから脳を守るための研究
B.I.
100
開頭減圧
80
60
40
20
0
10
15
20
25
30
35
40
入院時NIHSS
図 2 低体温治療例における入院時重症度と発症 3 カ月後の機能
機能良好例( Bar
thel
Index:BI
75以上)の大半は入院時重症度が NIHSS 25
未満の例である。NIH
SS 2
5以上の例の大半
は機能不良( BI 74
以下)である。死亡例は BI 0
とした。BI 75
以上であっても外減圧治療を要した例(●)は機能不良に分
類した。
B.I.
100
開頭減圧
80
60
40
20
0
才
30
40
50
60
70
80
年齢
図 3 低体温治療例における年齢と発症 3 カ月後の機能
機能良好例( Barthel Index:BI 75 以上)の大半は年齢が 65 歳未満の比較的若い例である。年齢 65 歳以上の例
の大半は機能不良( BI 74 以下)である。死亡例は BI 0 とした。BI 75 以上であっても外減圧治療(●)を要した
例は機能不良に分類した。
185
Brain
attackから脳を守るための研究
低体温療法と平温療法の多施設共同研究
多施設共同研究の結果、2001 年 9 月までに、低体温療法単独 (JASH-A)では 11 例、局所線溶後低体温療法
(JASH-B)では 4 例、平温療法 (JASH-C)では 23 例が登録された。これらの登録例は当初の目標症例数を大きく下
まわっており、結果を解析してそれぞれの治療の有効性を評価するには至らなかった。
考
察
低体温が虚血性侵襲から脳を保護することを報告した実験的な研究は多いが、その大半は脳の組織学的な変化
を検討したものであり[1]、[2]、機能への影響を観察したものは殆どない。本研究では、低体温下に 5-80 分間
の全脳虚血をラットに導入したところ 5-40 分間の虚血では明らかな脳保護作用が認められ、その後の学習能力が
正常に維持されることが明らかになった。この実験は 18℃という高度低温下に行ったものであるが、低体温の脳
保護効果が単に形態学的異常を阻止するだけではなく機能的異常を阻止することを明らかにした点で意義が大き
いと考えられる。低体温は虚血性侵襲から神経細胞のみならず血管系をも保護することが知られているが、具体
的に血管組織の何を保護するかは不明である。本研究では、低体温が虚血性侵襲から内皮細胞を保護することを
培養実験で明らかにした。この結果は、平温療法、低体温療法施行例において出血性変化が少なかったこととよ
く一致しており、低体温療法の脳保護機序を考えるうえで極めて重要である。また本研究では、急性期に出現す
る反応性アストロサイトが脳保護作用を示すことを明らかにしたが、アストロサイトを介する機序も低体温療法
の脳保護機序を考えるうえで重要と思われる。
ラット等を用いた脳虚血実験は正常体温下で行われるのが常である。しかし、臨床における脳梗塞急性期では
発熱がみられることが多く、その頻度は 61%にも達するという[3]。発熱のみられた脳梗塞例の転帰は不良である
という点で報告者の結果は一致しており[3]、
[4]
、またラットを用いた実験においても軽度な体温上昇が梗塞巣
を拡大させることが報告されている[5]。体温上昇が脳虚血を悪化させる重要な因子であることは明らかである
が、これが気道感染、尿路感染によるものであるならば早期の抗生物質投与等により阻止可能である。しかし、
感染徴候のない脳梗塞例にもしばしば発熱がみられることから、脳梗塞急性期の発熱には、一部、中枢性機序が
関与すると指摘するものは多い。我々はラットの視床下部動脈を選択的に閉塞することにより視床下部に限局す
る小梗塞を作成することに成功した。その結果、視床下部虚血後に 0.7-1℃程度の体温上昇が認められ、体温上昇
は少なくとも 3 日間持続した。この結果は、視床下部虚血が脳虚血後の体温上昇に関与することを強く示唆して
いる。一方、臨床的な検討では、小脳梗塞例の体温はほぼ不変であるが、MCA 領域全体またはそれ以上に及ぶ大梗
塞例では 0.7-1℃程度の体温上昇が数日間持続した。この体温上昇の程度および持続期間は視床下部梗塞ラットの
それと極めて類似している。また体温上昇が認められた例の剖検による検討では同側視床下部に虚血性変化がみ
られることが確認された。以上の結果から、脳梗塞急性期の体温上昇機構の一部には視床下部虚血が関与してい
る可能性が高いと考えられる。ヒトの視床下部は後脈絡叢動脈の血管支配を受けており、ICA 系の梗塞では虚血性
変化を免れるのが通常である。しかし、ICA 系の虚血範囲が広大である場合、圧迫性変化等の影響を受けて視床下
部の血流が低下する可能性があり、結果的に全身の体温上昇が起きるのではないかと考えられる。
急性期に体温上昇がみられた脳梗塞例の転帰は不良であることが知られているが、転帰不良がいかなる機序に
より生じるのかその詳細は明らかではない[3]
、[4]。本研究における CT 画像の検討では、体温上昇例は出血性
変化を示す頻度が有意に高く、また高度脳浮腫を伴う頻度が有意に高かった。この結果は、体温上昇が虚血性神
経障害のみならず虚血性血管障害をも増悪させることを示唆している。高体温が虚血性血管損傷を助長すること
は実験的にも確認されている[6]。
本研究では、抗炎鎮痛薬ロキソプロフェン投与により重症例の体温上昇を阻止できることが明らかとなった。
ロキソプロフェン投与群では、出血性変化の頻度減少傾向、高度脳浮腫の頻度減少が認められ、発症 3 カ月後の
186
Brain
attackから脳を守るための研究
転帰改善が認められた。ロキソプロフェンは体温上昇阻止作用のみならず抗炎症作用も有しているので、これら
の結果が抗炎症作用によりもたらされたものである可能性は否定できない。しかし、体温上昇を阻止するだけで
虚血性脳障害が有意に改善することが実験的に報告されており[7]、また臨床的にも体温上昇例に較べて体温正
常例の転帰は良好であることが知られているので[3]、
[4]、上記の改善が、一部、体温上昇阻止の結果もたらさ
れたものであることは疑う余地もないであろう。一方、本研究では、頭頸部冷却装置を頭頸部に装着することに
より脳温度を 1.0℃近く低下させることが可能であることが示された。同装置を用いた局所低脳温療法は簡便であ
り、人手の少ない施設においても容易に施行可能という利点を有している。今後、平温療法と併用した低体温療
法簡易版としてその有効性が追求されるべきであると思われる。
本研究では、16 例の重症脳梗塞例に低体温療法を行った結果、対照群に較べて発症 3 カ月後の有意な転帰改善
が認められた。低体温療法施行例では高度な脳浮腫を呈する例が少なく、転帰改善作用に脳浮腫抑制が重要な役
割を演じることが示唆された。低体温は脳の代謝要求抑制[8]、グルタミン酸放出抑制[9]、細胞内 Ca イオン流
入抑制[10]、フリーラジカル産生抑制[11]、組織アシドーシス抑制[12]などにより神経細胞を保護すると考
えられ、また内皮への白血球粘着を阻止して血管を保護すると考えられる[13]。これら神経・血管保護の結果、
虚血性脳浮腫が著明に抑制されることが実験的にも確認されている[14]。しかしながら、この脳浮腫抑制作用は
神経・血管の障害が未だ軽度な脳虚血早期に低体温療法を開始しなければ得られない可能性が高い。Schwab らは
発症後平均 14 時間を経過した重症脳梗塞例に低体温療法を行っているが、低体温期間中脳浮腫抑制による頭蓋内
圧下降が認められたものの、復温後は再び脳浮腫増悪、頭蓋内圧上昇が認められたと報告している[15]。虚血後、
神経細胞が可逆性を維持できるのは精々3-6 時間後までであると考えられていることから、発症後平均 14 時間と
いう遅い時期に低体温療法を開始しても十分な脳保護効果、脳浮腫抑制効果が得られないのは当然であるともい
えよう。本研究では全例発症後 6 時間以内に低体温療法を開始したのでより明らかな脳保護効果、脳浮腫抑制効
果が得られたものと思われる。しかしながら、本研究では、低体温療法の転帰改善効果は入院時 NIHSS スコア 25
以上の超重症例では殆ど認められなかった。このような超重症例は虚血が高度でありおそらく発症後 1 時間ぐら
いの極めて早い時期に神経系、血管系は可逆性を失ってしまうのではないかと推測される。これら超重症例を治
療するためには発症後 1 時間以内の超早期に低体温療法を開始する必要があると考えられるが、これは現実には
実施困難である。また本研究では、低体温療法の転帰改善効果は高齢者では明らかでなく、65 歳未満の比較的若
い例において顕著であった。その理由の一つは、高齢者に超重症例が多く、比較的若い例に超重症例が少なかっ
たことであると思われる。しかしそのような理由が一部関与するとしても、年齢が若いということは低体温療法
の脳保護効果を得るうえでに重要な条件であるとも考えられる。前述の Schawab らは平均年齢 49 歳の若い脳梗塞
例を対象に低体温療法を行っており、発症後平均 14 時間という遅い時期に治療を開始しているにもかかわらず、
生存例の機能転帰は比較的良好であった。低体温が梗塞巣を著明に縮小させたとする実験的報告はいずれも若年
ラットを対象として実験を行ったものである[1]、
[2]。比較的若い例ほど虚血に対する神経・血管の抵抗力が強
く比較的遅い時間に治療を開始しても保護効果が得られやすいという可能性はあると思われる。本研究では、低
体温療法中に重篤な副作用は認められず同療法が安全であることが確認されたが、若い例ほど低体温の侵襲に対
する抵抗性が強く、これが良好な転帰に結びつく可能性もあると考えられる。
本研究では低体温療法、平温療法の有効性を明らかにする目的で多施設共同研究を施行したが、研究期間中に
十分な症例を集積することができなかった。症例集積が不十分であった理由としては、(1)低体温療法を開始する
前に各施設において倫理委員会の承認を受ける必要があるが、承認を受けるまでに長期間を要する施設が多かっ
た、(2)低体温療法は比較的高額医療費を要する治療であるにもかかわらず保険認可を得ておらず、一方、超急性
期重症例を数多く扱っている第一線病院の多くは医療費保証のない治療を行うことが困難である、(3)低体温療法
を行うには低体温ブランケット、ベッドサイドでの全身麻酔など特殊な装置が必要であるが、脳梗塞超急性期例
の診療を行っている内科施設の大半はこれらの特殊装置を有していない、(4)一般に低体温療法は特殊な効果のあ
る治療法であると考えられているので、医療現場ではこの治療法と通常治療法を無作為に振り分けること自体が
187
Brain
attackから脳を守るための研究
困難な場合が多い、(5)発症後 6 時間以内に来院し低体温療法を要するような重症例の数が限られている、等があ
げられる。本研究をキッカケとして多施設共同研究 JASH が立ち上げられたので、研究期間終了後もこの多施設共
同研究を別の形で持続させていきたいと考えているが、その際、上記 5 点をふまえてプロトコールを改変する必
要があると思われる。特に、無作為振り分け方法に工夫をこらすことが最も重要であると考えられ、豪州の心停
止後脳症に対する低体温療法試験で採用されたような偶数日と奇数日によって低体温療法群と対照群を分けてし
まう方法 [16]等を採用する必要があると考えられた。
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[12] Chopp M, Knight R, Tidwel C, et al: The metabolic effects of mild hypothermia on global cerebral
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Flow Metab 9:141-148, 1989
[13] Ishikawa M, Sekizuka M, Sato E, et al: Effects of moderate hypothermia on leukocyte-endothelium
interaction in the rat pial microvasculature after transient middle cerebral artery occlusion.
Stroke 30:1679-1686, 1999
[14] Dempsy RJ, Combs DJ, Maley ME, et al: Moderate hypothermia reduces postischemic edema development
and leukotriene production. Neurosurgery 21:177-181, 1987
[15] Schwab S, Schwarz S, Spranger M, et al: Moderate hypothermia in the treatment of patients with severe
188
Brain
attackから脳を守るための研究
middle cerebral artery infarction. Stroke 29:2461-2466, 1998
[16] Bernard SA, Gray TW, Buist MD, et al: Treatment of comatose survivors of out-of-hospital cardiac
arrest with induced hypothermia.
N Engl J Med 346:557-563, 2002
成果の発表
1) 原著論文による発表
ア) 国内誌
[1]
寺谷禎真、宮下光太郎、柳本昌子、角田亘、清水隆雄、林田孝平、山脇健盛、衣川秀一、成冨博章:
軽微低体温療法の長期予後に関する検討—PET による脳循環代謝の側面からー。脳循環代謝 10:86-87,
1998
[2]
山脇健盛、成冨博章、長束一行、宮下光太郎、森脇博:超急性期の重症心原性脳塞栓症に対する低体
温療法。脳卒中 22:440-446, 2000
[3]
成冨博章:脳保護による治療戦略。臨床神経学 42:2002
イ)国外誌
[1]
Kawaguchi AT, Yamano M, Naritomi H, Ishibashi-Ueda H, Yamatodani A, Koide S: Neurological
function after deep hypothermic circulatory arrest in the rat. Circulation 98:II:385-390,
1998
[2]
He Z, Yamawaki T, Yang S, Day AL, Simpkins JW, Naritomi H: Experimental model of small deep
infarcts involving the hypothalamus in rats. Changes in body temperature and postural reflex.
Stroke 30:2743-2751, 1999
[3]
He Z, Yang S-H, Naritomi H, Yamawaki T, Liu Q, King MA, Day AL, Simpkins JW: Definition of
the anterior choroidal artery territory in rats using intraluminal occluding technique. J
Neurol Sci 182:16-28, 2000
2) 原著論文以外による発表
ア)国内誌
[1]
前川剛志、成冨博章、野崎和彦:急性重症脳障害に対する軽度低体温療法の臨床応用。日本集中治療
学会雑誌
4:199-206, 1997
[2]
成冨博章、清水隆雄、角田亘:急性期の軽微低体温療法。臨床医 23:102-104,
1997
[3]
成冨博章:軽微低体温療法。医学のあゆみ 181:735, 1997
[4]
平田隆彦、大西佳彦、畔政和、赤松哲也、清水隆雄、坂口学、大谷良、大江洋史、成冨博章、澤田徹:
急性期脳塞栓症に対する軽微低体温療法。循環制御 17:412-417, 1997
[5]
山脇健盛、清水隆雄、成冨博章:脳卒中急性期の全身管理(低体温も含めて)
。脳と循環 2:311-316,
1997
[6]
清水隆雄、角田亘、成冨博章:脳塞栓症の低体温療法。集中治療 9:659-666, 1997
[7]
長束一行、成冨博章:低体温療法。Brain
Attack 超急性期の脳卒中診療、藤井清孝、岡田靖編:中
山書店、東京、1999
[8]
成冨博章 :脳 低温療法 —脳 梗塞に対 する 脳低温療 法の 有効性: 積極 的な立場 から 。集中 治療
11:1153-1157, 1999
[9]
成冨博章:脳卒中の新しい治療。日本内科学会雑誌 88:2052-2056, 1999
189
Brain
attackから脳を守るための研究
[10] 成冨博章:脳梗塞急性期の低体温療法。カレントテラピー17:119-123, 1999
[11] 成冨博章:脳卒中の低体温療法。治療学 33:580-581, 1999
[12] 成冨博章:急性期脳梗塞における低体温療法。神経内科 52:185-191, 2000
[13] 大江洋史、成冨博章:脳梗塞急性期治療の現状と低体温療法。集中治療 12:759-769, 2000
[14] 成冨博章:脳卒中の治療はここまで進んだー低体温。脳と循環 5:530-536, 2000
[15] 成冨博章:脳卒中の低温療法は有効か。からだの科学 216:62-66, 2001
[16] 北川純子、伊藤淳子、矢野路子、吉田麻衣子、伊藤恭子、大江史、成冨博章:脳梗塞急性期の脳低温
療法。看護技術 47:154-161, 2001
[17] 大江洋史、成冨博章:低体温療法。カレントテラピー19:605-607, 2001
[18] 成冨博章:脳梗塞急性期治療の現状と未来。 Pharma Medica 1977-81, 2001
[19] 大江洋史、成冨博章:低体温療法と脳代謝。カレントテラピー19:632, 2001
[20] 成冨博章:治療方針の決め方:低体温療法。臨床医 27:2266-2267, 2001
[21] 成冨博章:低体温療法。杉田秀夫、福内靖男、柴崎浩(監)神経筋疾患の最新医療、先端技術研究所、
東京 pp83-86, 2001
[22] 成冨博章:心原性脳塞栓症超急性期における低体温療法。成冨博章(監)脳梗塞超急性期—Brain Attack
時代の診断と治療、医歯薬出版、東京、pp1-2, 2001
[23] 山脇健盛:心原性脳塞栓症超急性期における低体温療法。成冨博章(監)脳梗塞超急性期—Brain Attack
時代の診断と治療、医歯薬出版、東京、pp110-115, 2001
[24] 成冨博章:脳卒中急性期の低体温療法。Clinical Neuroscience 20:159-160, 2002
[25] 成冨博章:低体温療法。分子脳血管病 1:141-145, 2002
イ) 国外
[1]
Naritomi H, Shimizu T, Kinugawa T, Sawada T: Protective effects of mild hypothermia on the
brain and endothelium in acute embolic stroke. In Neurochemistry: Cellular, Molecular and
Clinical Aspects, Eds:Teelken A, Korf J, Plenum Press, New York, pp91-95,
[2]
1997,
Naritomi H, Hirata T, He Z, Yamawaki T: The role of astrocytes in the pathophysiology of cerebral
ischemia.
Proceedings for the third asian congress for microcirculation, Eds: Bunnag SC,
Srikiatkhachohoron A, Patumraj S, Monduzzi Editore, pp145-149, 1997
[3]
Spiss CK, Illevich UM, Shimizu T, Clifton G: Update in intensive care and emergency medicine.
Emergency Management and Critical Care, Eds: Steiner T, Hacke W, Danley DF, Plenum Press, new
York, pp106-107, 1998
[4]
Naritomi H, Nagatsuka K, Yamawaki T, Miyashita K, Moriwaki H, Watanabe Y: Treatment of
hyperacute embolic stroke with major cerebral artery occlusion by mild hypothermia. In Brain
Hypothermia, Ed: Hayashi N, Springer-Verlag, Tokyo, pp169-174, 2000
[5]
Naritomi H, Nagatsuka K, Miyashita K, Moriwaki H, Oe H, Yamawaki T: Effects of hyperthermia
and hypothermia on ischemic vascular damages. In Ischemic Blood Flow in the Brain,
Springer-Verlag, Tokyo, pp 448-454, 2001
[6]
H Naritomi, K Nagatsuka, K Miyashita, H Oe, H Moriwaki, Zhen He, T Yamawaki The Importance
of Thermal Changes in The Pathophysiology of Stroke: Post-stroke Fever and Hypothermia Therapy
“Strategic medical science against brain attack”ed. by Kikuch H. Springer, Tokyo pp. 171-185,
2002
190
Brain
attackから脳を守るための研究
3) 口頭発表
ア) 招待講演
[1]
Naritomi H: The pathophysiology and treatment of acute ischemic stroke with mild
hypothermia.
’97 International Symposium on Clinical Aspects of Cerebrovascular Disease,
Taegu, Nov 8, 1997
[2]
成冨博章:心原性脳塞栓症における軽微低体温療法。第 56 回日本脳神経外科学会総会、大阪、1997
[3]
成冨博章:心原性脳塞栓症における軽微低体温療法。第 1 回日本低脳温研究会、大阪、1997
[4]
Naritomi H: Mild hypothermia therapy for the treatment of acute stroke.
[5]
Naritomi H: Mild hypothermia therapy for the treatment of hyperacute embolic stroke. The 2nd
Australia Joint Conference on Cerebrovascular Diseases.
Hallym University International Meeting Conference on
[6]
The 3rd Japan and
Osaka, 2000
Stroke, Seoul, 2000
山脇健盛:重症心原性脳塞栓症に対する低体温療法.モーニング教育セミナー,第 21 回日本脳神経外
科コングレス総会,山形,2001
[7]
成冨博章: 脳卒中の治療は超急性期なら有効か.ランチョンセミナー,第 50 回日本救急医療学会関
東地方会,東京,2001
[8]
成冨博章:脳保護による治療戦略。第 42 回日本神経学会総会、東京 5 月 11 日—13 日、2001
イ) 応募・主催講演等
[1]
Shimizu T, Naritomi H, Kakuda W, Kinugawa H, Yanagimoto S, Teratani S, Sawada T: Mild hypothermia
is effective for the treatment of acute embolic stroke, if induced within 24 hours after onset
but not in the later phase.
18th International Symposium on cerebral Blood Flow and Metabolism,
Baltimore, June 15-19, 1997
[2]
Hirata H, Naritomi H, Ishibashi-Ueda H, Kuribayashi Y, Sawada T: Glial cells in early ischemic
stage have neuroprotective actions but those in late stage have no such actions. 18th
International Symposium on cerebral Blood Flow and Metabolism, Baltimore, June 15-19, 1997
[3]
Kakuda W, Naritomi H, Shimizu T, Kinugawa H, Sawada T: Body temperature increases following
embolic stroke correlating with the size of infarction. 18th International Symposium on Cerebral
Blood Flow and Metabolism, Baltimore, June 15-19, 1997
[4]
森脇博、長束一行、宮下光太郎、渡邊吉将、大槻美佳、寺井正、山上宏、宇野久一、小村江美、山脇
健盛、成冨博章:急性期脳梗塞に対する脳平温療法:pilot study。
第日本脳循環代謝学会総会、東京、1999
[5]
森脇博、長束一行,宮下光太郎,大江洋史、山脇健盛,成冨博章:急性期脳梗塞に対する平温療法。
シンポジウム,第 3 回日本脳低温療法研究会,札幌,2000
[6]
Naritomi H, Uno H, Oe H, Yamawaki T, Yutani C: Post-stroke fever in patients without infectious
diseases: The involvement of hypothalamus confirmed by autopsy.
26th International Stroke
Conference, Fort Lauderdale, Feb 14-16, 2001
[7]
Yamawaki T, Nagatsuka K, Miyashita K, Watanabe Y, Otsuki M, Naritomi H: Mild hypothermia for
the treatment of severe cardioembolic stroke in the hyperacute phase.
17th World Congress of
Neurology, London, June 15, 2001
[8]
Moriwaki H, Nagatsuka K, Miyashita K, Yamawaki T, Naritomi H: Reliable serum marker S-100
protein for prediction of acute stroke outcome.
20th International Symposium on Cerebral Blood
Flow, Metabolism and Function, Taipei, June 9-13, 2001
191
Brain
[9]
attackから脳を守るための研究
大江洋史,長束一行,宮下光太郎,森脇
博,渡邉吉将,大槻美佳,永金義成,大村真弘,永野恵子,
小林潤也,梶本勝文,山田健太郎,山脇健盛,成冨博章:重症脳塞栓症に際する Early CT sign と予
後についての検討.シンポジウム「脳卒中」,第 4 回日本脳低温療法研究会,宇部,2001
192
Brain
attackから脳を守るための研究
1.2. 脳神経細胞生存の得調節機構の解明に関する研究
1.2.2. 低体温の果たす神経保護効果の至適条件解明と臨床応用技術開発に関する研究
1.2.2.3. 重症脳血管障害患者の低体温療法時におけるPETによる脳循環代謝の評価
秋田県立脳血管研究センター脳神経外科学研究部
安井
信之、川村
伸悟、波出
石弘、鈴木
明文
秋田県立脳血管研究センター放射線医学研究部
畑澤
順
秋田県立脳血管研究センター病理学研究部
吉田
要
泰二
約
脳血管障害に対する低体温療法による脳保護機構の解明とその有用性を明らかにするために,脳血管障害重症
例に対する低体温療法および動物モデルでの検討のまとめを行なった。脳低体温療法中の脳循環酸素代謝の測定
では,脳血流,酸素代謝ともに抑制されたが,患側においては血流の低下よりも酸素代謝の抑制が高度であった
が,それらは原疾患における脳血流酸素代謝の相対的なパターンを維持しているものと考えられた。特に,血腫
の周囲では luxury perfusion が持続していた。何れにしても代謝の抑制が脳保護の機構と考えられるが,臨床効
果への結びつきを明瞭には示すことは出来なかった。ラット虚血モデルにおいては低体温療法の治療効果が有意
に示された。虚血巣の広がりは著明に抑制され,組織学的にも虚血壊死の範囲が著明に縮小し,致死的変化と形
態が保たれた神経細胞が混在していた。免役組織学的検討では,低体温によりアポトーシスによる細胞死のうち,
エネルギー依存性のミトコンドリア経路および Fas 経路が抑制されていたが,アポトーシス誘導因子(AIF)とは無
関係であることが示唆された。臨床例においても,より短時間で低体温を導入する方法や安全に患者管理が行な
えるシステムを構築することが出来れば,低体温療法に新たな展開が期待出来る。
目
的
脳低体温療法が重症脳血管障害の治療法として有用かどうかを明らかにすることが本研究の目的である。有用
性を検討するために,脳血管障害重症例に対する治療効果を検討するとともに,低体温療法中の脳血流酸素代謝
を positron emission tomography (PET)を用いて測定するとともに,ラット脳虚血モデルにおいて低体温の効果
を病理学的に検討した。なお,この治療法実施に当たっては,秋田県立脳血管研究センター倫理委員会の許可を
得た。
研究方法
1. 低体温ベッドの開発と低体温療法の実施法
193
Brain
attackから脳を守るための研究
低体温療法を臨床例で施行し,PET や CT 等の神経放射線学的検査をその条件下で測定するために,[1]のよう
な移動可能な低体温ベッドの開発を行なった。ベッドは冷却器 (Cool Bath NCB-3100; Tokyo Rikakikai, Tokyo),
水循環ブランケット,人工呼吸器(a Servo Ventilator 900C, Siemens-Elema AB; Life Support System Division,
Solna, Sweden)
,酸素・笑気・圧縮空気のボンベ,温度自動制御用のハンドヘルド・コンピュータ (PC-9821 Np®;
NEC Corporation, Tokyo),温度モニター (Coretemp CTM-205®; Terumo, Tokyo),心電図モニター,経皮的酸素
飽和度モニター (Dynascope DS-5100E®; Fukuda-Denshi, Tokyo),移動用の充電式バッテリー,静注用の注射用
ポンプ等から構成した。
低体温は冷却ブランケットを用いて行い,患者はミダゾラン(Dormicum®; F.Hoffmann-La Roche Co., Ltd.,
Basle, Switzerland)の 0.125 mg/kg/hr 持続静脈投与で麻酔を行ない,パンクロニウムの 0.05 mg/kg/hr 静脈投
与による筋弛緩下に,空気と酸素による人工呼吸器による呼吸管理を行なった。体血圧は動脈圧の観血的測定法
により持続測定,動脈ガス分析も定時的に行なった。低体温中の心機能および血行動態は Swan-Ganz catheter と
Vigilance®モニター (Baxter, Irvine, Calif., U.S.A.)により行なった。
体温測定は膀胱温,肺動脈温および直腸温を経時的に測定した。冷却水温度は 5-40℃の間に維持し,ダイキン
製体温調節プラグラムを用いて膀胱温を基準として温度設定を行なった。体温は急速に 33-34℃に低下させ,約
48 時間その温度に維持した後,48 時間以上をかけて徐々に復温を行なった。低体温の全経過は 4-5 日間とした。
膀胱温で 36.5℃になった時点で,患者を通常のベッドに移動した。発症 2 週間は体温が 38℃を越えないように調
節した。放射線学的検査は低体温中に PET による脳循環代謝の測定と同時期に CT 検査も行なった。この間,体温
を目的温度に維持した。放射線検査に伴う合併症は経験しなかった。
2. 脳血管障害重症例に対する低体温療法の適応と実際
低体温療法は虚血性心疾患のない 70 才以下の患者を対象として行なった。脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血で
は,発症後 6 時間以内に入院し,
自発呼吸があり,手術前重症度が[2]の World Federation of Neurological Surgeons
(WFNS)分類で IV-V の患者とした。脳出血では発症後 6 時間以内に入院し,意識レベルが半昏睡以上に低下してい
るが,対光反射,脊髄毛様体反射または人形の目現象といった脳幹反射が保たれた症例とした。脳塞栓症では発
症 24 時間以内に入院し,内頚動脈または中大脳動脈の塞栓製閉塞で大脳皮質症状があるが自発開眼が見られない
ものとした。
CT,MRI・MRA,脳血管撮影などによる確定診断を行なった後,患者の家族からインフォームドコンセントによ
りこの治療法の了解を得てからくも膜下出血患者では根治手術,脳出血では血腫除去を行なった。手術中は冷却
ブランケット (Medi-Therm@; Gaymer Industries, Inc., Orchard Park, N.Y., U.S.A.)を用いて膀胱温で 35-35.5℃
まで下降させた。くも膜下出血患者では術後の脳圧管理のために脳槽または脳室ドレナージを挿入した。術後,
低体温ベッドに移し,集中治療室にて低体温療法を行なった。脳塞栓患者では低体温療法単独の効果を見るため
に血栓溶解療法は施行しなかった。
3. ラット虚血モデルでの実験法
ラット中大脳動脈閉塞 (MCAo)は[3]の Zea Longa らの方法に準じ,3-0 ナイロン糸を頚部外頚動脈から前大脳
動脈まで挿入して作成した。手術操作中は直腸温をモニターし,常温群(NT)では 37℃,低温群(HT)では MCAo
の開始から 33℃に 1 時間維持した。閉塞 1 時間後にナイロン糸を除去して血流を再開通させ,HT 群では体温を徐々
に復温した。各グループ共に 1 時間(n=10),3 時間(n=10),5 時間(n=10),24 時間(n=20),4 日(n=10),10 日(n=10)
生存させた。ペントバルビタール (50 mg/kg)麻酔下に 4% paraformaldehyde 0.1 M リン酸緩衝液で還流固定後,
脳を取りだし同じ液に 24 時間侵潤固定後,3 mm厚の冠状スライスにし,パラフィン封埋後に 3 µm の切片を作
成し組織学的および免疫学的評価を行なった。病変が最大の面積を示す視交叉のレベルの冠状面を H&E 染色を行
い,梗塞の組織像を観察,病変の面積を画像解析装置 (Leica Q500: Leica Cambridge Ltd., UK)で計測した。形
194
Brain
attackから脳を守るための研究
態学的評価は[4]の Gracia らの報告に従った。
免役組織化学は一次抗体として抗 Bcl-2 (Dako 社), 抗 Bax (Upsate 社), 抗チトクロームC (Upsate 社), 抗
Fas (Dako 社), 抗カスペース-3 (Dako 社)を用いて行なった。反応はアビディン・ビオチン複合体法を行い,一
部では CSA (Dako 社)で増強法も取り入れ,ジアゾベンチジンで可視化した。組織内での DNA 断片化の検出は[5]
の Gavrieli らによる TUNEL 法を用いた。反応はストレプトアビディン・ビオチン複合体法 (Apop Tag キット;
Intergen, USA)を用いジアゾベンチジンで可視化した。DNA の抽出は 1 時間虚血ラットを虚血後 2 時間 (NT, n=3;
HT, n=3)および 24 時間 (NT, n=3; HT, n=3)に断頭,速やかに脳を取りだし,ホモジネートを DNA 抽出キット (Sepa
Gene, Sanko Junyaku Co., Ltd. Tokyo, Japan)で分離した。DNA ラダーは 1.5%および 0.5%アガロース・ゲルで
電気泳動して測定した。
研究成果
1. 低体温療法の臨床効果および脳血流酸素代謝に及ぼす影響
低体温療法を脳血管障害重症例 11 例に対して施行した。7 例はくも膜下出血,3 例が脳出血,1 例が脳塞栓であ
った。表 1 に症例のまとめを示す。くも膜下出血 7 例のうち 3 例は中大脳動脈瘤,2 例が内頚動脈瘤,1 例が末梢
前大脳動脈瘤,1 例が脳底上小脳動脈瘤であった。その内 5 例はマスを伴う脳内血腫を合併していた。脳出血のう
ち 2 例は高血圧性で 1 例は右頭頂皮質下の脳動静脈奇形の破裂による血腫であった。脳塞栓例は心原性塞栓によ
る内頚動脈閉塞症例であった。殆どの症例は発症 2 時間以内に入院し,脳出血の 1 例を除き 6 時間以内に低体温
療法を開始した。入院時の意識障害は Glasgow Come Scale で 8 以下の症例であった。くも膜下出血の 3 例と脳出
血の 2 例は Glasgow Outcome Scale で GR または MD,Barthel Index で 55 以上に改善した。
低体温療法が脳循環代謝に及ぼす影響をまとめると,破裂脳動脈瘤と同側の中大脳動脈領域の脳血流量は 35.7
±7.6 ml/100ml/min,酸素代謝量は 1.76±0.39 ml/100ml/min であったのに対して,その対側においては夫々32.3
±5.6 ml/100ml/min と 2.28±0.34 ml/100ml/min であった。これは正常値に比較すると,患側では脳血流量が 35.7%
±14.1%,酸素消費量が 54.3±9.9%(p<0.01 で有意差あり)低下しており,健側では夫々41.8±10.1%,41.2±
8.6%の低下であった。これらの結果は臨床例においても低体温療法により脳血流量と酸素消費量が抑制されるこ
とを示した。表 2 にくも膜下出血および脳出血例における血流酸素代謝動態をまとめたが,患側では主に血腫合
併例では酸素代謝に比べ脳血流が相対的に高い luxury perfusion を示し,健側では血流と代謝が均衡するか酸素
代謝が相対的に高値を示す misery perfusion の状態を示した。脳塞栓例は病巣部で脳血流量と酸素代謝が著明に
低下した症例で広範な梗塞と脳浮腫を来して死亡した。
195
Brain
attackから脳を守るための研究
表 1 : mild hypothermia 施行例のまとめ
Case
Age/Sex
Diagnosis
Onset-Admission
GCS
GOS
Barthel Index
1
37 / F
SAH
30 min.
4
MD
85
(16 mo)
2
49 / M
SAH
30 min.
8
GR
100
(10 mo)
90 min.
3
MD
60
(17 mo)
4 hrs
7
SD
0
(12 mo)
20 min.
6
SD
0
(12 mo)
0 min.
4
SD
5
(12 mo)
54 / M
3
67 / F
4
43 / M
5
65 / F
6
SAH
SAH
SAH
SAH
7
47 / F
SAH
60 min.
7
SD
0
(6 mo)
8
41 /M
ICH
6 hrs.
4
MD
55
(12 mo)
9
59 / F
ICH
11 hrs.
6
SD
5
(12 mo)
10
50 / M
ICH
40 min.
4
MD
90
(14 mo)
11
63 / M
INF
60 min.
8
D
/
GCS: Glasgow Coma Scale, GOS: Glasgow Outcome Scale, F: female, M: male
SAH: subarachnoid hemorrhage, ICH: intracerebral hemorrhage, INF: infarction
GR: good recovery, MD: moderate disability, SD: severe disability, D: dead
表 2 : 低体温療法中の中大脳動脈領域の循環代謝動態
Case
ICH
IpsilateralContralateral
2
-
misery
3
+
luxury
coupling
4
+
luxury
coupling
5
-
luxury
coupling
6
+
mixed*
misery
7
+
luxury
misery
9
11
+
-
luxury
0
misery
coupling
coupling
ICH: intracerebral hematoma,
*: luxury around ICH and misery perfusion at superior temporal area
2. ラット梗塞モデルに対する低体温の効果
梗塞巣は視交叉レベルの断面で最大であった。虚血病変部位では染色性が明らかに低下し,神経細胞の障害と
神経繊維網の海綿化を伴っていた。NT 群では病変は基底核のみならず大脳皮質外側部にも及んでいた(図 1)。HT
群では基底核に小型の海綿状病変が認められたが,その程度は NT 群より軽度であり,殆どは梨状皮質に限局して
いた。再開通後 24 時間での梗塞面積比(梗塞面積/一側大脳半球面積)は NT 群で 22.4±15.1% (n=10),HT 群で
7.7±9.7% (n=10)であり,再開通 10 日でのそれは NT 群で 25.2±22.9% (n=8),HT 群で 1.2±1.0% (n=7)であり,
24 時間群および 10 日群何れでも HT 群の病変が有意に小さかった(24 時間,p<0.05;10 日,p<0.05)
(図 2)。
組織学的には NT 群の虚血中心部では殆どの神経細胞が広範に障害されていた。再開通 24 時間ではこれらの神
経細胞は抗酸性の胞体,核の濃縮化と断片化といった明らかな壊死性変化を示していた。HT 群では病変部の神経
196
Brain
attackから脳を守るための研究
細胞には選択的な細胞死が見られ,致死的変化と形態が保たれた細胞が混在していた。再開通 4 日では NT 群の病
変には多数のマクロファージと増生した血管が出現していたが,HT 群にはこれらの反応性変化は見られなかった。
再開通 10 日では NT 群の病変は明らかな萎縮を示していたのに対し,HT 群では致死的変化を示す細胞がなお残存
し,反応性細胞の侵潤は認められなかった。
図 1 (左):ラット脳のしくサブにおける常温群(NT)と低温群(HT)の病変分布。
黒い部分は虚血中心部,影の部分は境界部を示す。
図 2 (右):梗塞面積比。再開通 24 時間(a)および 10 日(b)。
何れでも HT 群は NT 群より優位に梗塞面積比が減少している。
免役組織学的には両群共に反対側の半球や一次抗体を除いた切片での反応は見られなかった。Bcl-2, Bax, チ
トクロームCおよび Fas に対する免疫反応性は再開通 5 時間から少数の神経細胞に出現した。24 時間では陽性細
胞が明らかに増加していた。陽性細胞の分布は,組織の脆弱性および低体温効果によると考えられるが,虚血の
中心部と境界部では異なっていた。Bcl-2 陽性細胞は NT 群でも HT 群でも境界部に局在するのに対し,Bax, チト
クロームC,Fas およびカスペース-3 は NT 群の中心部と境界部に分布し,HT 群では陽性細胞が減少していた。
TUNEL 陽性細胞は HT 群よりも NT 群に多数出現していた。
再開通 24 時間で抽出された DNA の電気泳動では 1.5%
アガロース・ゲルでは 180 bp とその倍数で認められ,再開通 2 時間の例において 0.5%のゲルを用いると NT 群で
50 kbp, HT 群で 20 kbp のラダーが認められた。AIF は両群で陰性であった。
考
察
脳血管障害に対する治療は,軽症例に対しては種々の治療が行われ機能予後の改善がはかられるようになって
きているが,重症例に対する治療は臨床病型にかかわらずいまだ有効な治療法は開発されていない。脳低体温が
脳保護効果を有することは,
[6]に報告された 40 分間凍った池に溺れていた 5 才の子供が全く後遺症無く回復し
た患者,
[7],
[8]のように 30℃以下の低体温下での心停止下の心臓外科手術や脳動脈瘤手術時に脳の血流の一時
停止を行なっても,一定時間内であれば脳障害を来さないことから証明されている。
このような低体温の保護効果のメカニズムとして[9],
[10],
[11],
[12],
[13],
[14]で示された,酸素やエ
ネルギー需要の低下による脳代謝の抑制,興奮性神経伝達物質(グルタミン酸)の放出を抑制し細胞内カルシウ
197
Brain
attackから脳を守るための研究
ムの増加を防ぐ,脂質過酸化産物やフリーラジカル産生の減少,血液脳関門の機能維持,脳浮腫の抑制,頭蓋内
圧の低下,細胞内アシドーシス是正や炎症反応の減弱等が挙げられている。
このような脳保護効果を重症脳疾患の治療に応用する試みが報告されている。しかし,30℃以下の低体温では
長期間低体温を維持すること自体による全身合併症等の問題点として[15],[16],[17],[18]で示す免役能の
抑制に伴う感染性合併症,体血圧の低下や不整脈による血行動態への影響,電解質アンバランス,凝固能の亢進,
他臓器不全等が報告されており,これが低体温療法を臨床へ応用するうえで限界となっていた。
[19]で Busto が 1987 年に報告したように,脳温を数℃下げるだけの mild hypothermia においても脳保護作
用が存在することが明らかになった。体温を数℃下げるのであれば,患者管理は 30℃以下の deep hypothermia に
比べると低体温の維持自体が容易であり,不整脈の出現などの心臓への影響が少なく,感染症などのその他の全
身合併症対策の可能性等から,重症脳疾患治療への応用の可能性が注目され,
[20],
[21],
[22],
[23]の報告の
ように 1990 年頃から脳疾患の治療に mild hypothermia が応用されるようになった。
今回,われわれは PET による低体温療法中の脳循環代謝を測定では[24]のように,低体温中において酸素代
謝が健側と比較して患側において脳血流量の低下よりも約 1.5 倍低下していることを示した。このような血流の
低下よりも酸素代謝の低下が高度な状態は[25]に報告されている相対的な luxury perfusion といわれる状態で,
常温状態の中等症から重症のくも膜下出血患者においても通常認められる状態である。この事から考えると,低
体温療法は血流と酸素代謝共に低下させるが,基本的な循環代謝動態自体には影響を与えないと考えられた。し
かし,酸素代謝のより高度の抑制は脳のエネルギー需要の低下を引き起こしており,エネルギー供給の低下した
病的脳においては保護効果に繋がるものと期待される。
今回の脳低温療法のプロトコールは低温状態を 4-5 日間維持する形で行なったが,これは脳卒中発作自体によ
る脳損傷を抑制することにより,二次的な脳損傷を最小にして臨床的な効果を挙げるという基本的な考え方で行
なった。急性期の重症脳損傷と二次的な悪化予防に重点をおいたもう一つの理由は,mild hypothermia において
も低体温療法期間が長引いた場合には前記した合併症の頻度が高く患者管理がより困難になる。また,この治療
法が普及するためには,標準的な患者管理で合併症無く治療できなければならず,今回はこの条件下で臨床的な
効果の有無を検討する事とした。幸い,今回の対象例では低体温による合併症は経験しなかった。今回の症例に
おいては,症例数が限られたこともあり,治療成績から低体温療法が臨床的に有用であることを示すことは出来
なかった。今回の研究で最も大きな問題点となったのは,適応基準に合致する対象例が限られたことである。ま
た,患者管理の大変さなどから考えると,これは何処の施設でも可能な治療法ではなく,体制の整った救急セン
ターを中心として行なわれるべきである。そのようなセンターを中心とした臨床試験が望まれるが,その前に,
どの様な対象に対して,どの様な治療プロトコールで行なうのかについて,現在までに多くの施設で行われた症
例のまとめを行なうことや追加のパイロットスタディーも必要と思われた。
ラットでの実験結果は,MCAo の梗塞巣の広がりが HT により防御される根拠を示している。病変の大きさは HT
群で有意に減少しており,[26]で Morikawa らが報告した結果に類似している。更に,HT 群ではなお生存してい
る神経細胞と致死的な神経細胞共に 24 時間,4 日および 10 日で観察された。これらの病変にはマクロファージの
侵潤や増生した小血管のような反応性の変化は極めて少数か或いは認められなかった。この事は[27],[28]の
ように HT 処置したラットでは病巣修復機序が抑制されていることを示している。
アポトーシスによる細胞死の分子機構として,少なくともエネルギー依存性或いは非依存性のミトコンドリア
経路および Fas-カスペース-3 経路の 3 つの経路が知られている。エネルギー依存性のミトコンドリア経路ではチ
トクロームCがミトコンドリアから放出され,胞体内のカスペースを活性化させる。その際,チトクロームCの
放出が Bax の発現によって増強され,Bcl-2 の発現によって抑制される[29]。エネルギー非依存性のミトコンド
リア経路では[30],[31]のように AIF がミトコンドリアから胞体に放出され,更に直接核に移行し,核の濃縮
化とその後の細胞死を誘発する。
[32],
[33],
[34]
,
[35]に示されたように,Fas-カスペース-3 経路では,細胞
表面で Fas が Fas リガンドと結合することによりカスペース-10 を活性化し,それがカスペース-3 を活性化する
198
Brain
attackから脳を守るための研究
と考えられている。今回の検討では,NT 群で Fas-カスペース-3 経路と同様に,チトクロームCはミトコンドリア
から遊離しカスパーゼ経路を活性化している事を確認した。HT 群では Bcl-2 の発現が亢進し,他の細胞死を促進
させる因子が低体温によって抑えられていることを証明した。従って,TUNEL 陽性細胞は NT 群の病変で優位であ
り,HT 群では目立たなかった。
TUNEL 陽性細胞と 180 bp の倍数のラダーおよび 20 kbp のラダーの存在はアポトーシスによる細胞死の経過に起
こる DNA 断片化の指標とされている。最近,[36]で Yao らは低分子のラダーと 20 kbp のラダーが虚血巣の周辺
組織,50 kbp のラダーが虚血中心部に認められることを報告している。今回の研究でもこのラダーの違いが観察
された。さらに,HT 群での高分子のラダーは 20 kbp に位置していた。この結果は HT 群の神経細胞死がアポトー
シスによる事を示している。これに対し NT 群の病変では低分子のラダーの他に 50 kbp のラダーも認められたこ
とは,NT 群には壊死とアポトーシスの両者の細胞死が含まれていることを示唆している。両方の細胞死が含まれ
る可能性として,NT 群に虚血中心と境界部の存在,およびアポトーシスをともなった壊死による細胞死を考慮す
べきと考えられた。胞体の中に Bax,チトクロームCおよびカスペース-3 の免疫反応が陽性であるのに,抗酸性胞
体とその核が凝集している事からアポトーシスと壊死性細胞死が NT 群に共存していることになる。TUNEL 法では
NT 群の壊死性変化を示す細胞にも陽性反応が出現していた。以上の結果から虚血性細胞死における低体温の保護
効果はアポトーシスによる細胞死の経路が抑制されることを強く示唆している。
今回の実験モデルでは低体温中の虚血であるが,虚血後低体温治療モデルにおいても梗塞巣の縮小は報告され
ており,臨床例においてもより短時間で低体温を導入する方法や安全に患者管理が行なえるシステムを構築する
ことが出来れば,低体温療法に新たな展開も期待出来る事を示している。
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成果の発表:
1) 原著論文による発表
ア) 国内誌
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吉田泰二,川村伸悟,上村和夫: 低体温療法の脳虚血に対する効果. BRAIN HYPOXIA 13: 57-67, 1999
イ)国外誌
1.
Prakasa Babu P, Yoshida Y, Su M, Segura M, Kawamura S, Yasui N: Immunohisotochemical expression of
Bcl-2, Bax and cytchrome c following focal cerebral ischemia and effect of hypothermia in rat.
Neuroscience Letters 291: 196-200, 2000
2.
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3.
Phanithi PB, Yoshida Y, Santana A, Su M, Kawamura S, Yasui N: Mild hypothermia mitigates post-ischemic
neuronal death following focal cerebral ischemia in rat brain: immunohistochemical study of Fas,
caspase-3 and TUNEL. Neuropathology 20: 273-282, 2000
4.
Yasui N, Kawamura S, Suzuki A, Hadeishi H, Hatazawa J: Role of hypothermia in the management of severe
cases of subarachnoid hemorrhage. Acta Neurochir (Supple) 82: 93-98, 2002
2) 原著論文以外による発表
ア) 国内誌
1.
師井淳太,安井信之: 脳卒中への初期対応−その急性期医療の最前線 脳卒中に低体温は有効か?. Modern
Physician 21: 989-992, 2001
イ) 国外誌
1.
N Yasui, S Kawamura, A Suzuki, H Hadeishi, and J Hatazawa Cerebrovascular Disease and Hypothermia
Part I: Effects of Mild Hypothermia in the Management of Cerebrovascular Disease
“Strategic medical
science against brain attack” ed. by Kikuch H. Springer, Tokyo pp. 186-194, 2002
201
Brain
2.
attackから脳を守るための研究
Y Yoshida, O J Arroyo, C A Arellanes, and N Yasui Cerebrovascular Disease and Hypothermia Part
II: An Experimental Approach for Ischemic Neuronal Death “Strategic medical science against brain
attack” ed. by Kikuch H. Springer, Tokyo pp. 195-201, 2002
3) 口頭発表
ア) 招待講演
1.
Yasui N: Role of hypothermia in the management of subarachnoid hemorrhage. Swiss-Japanese joint
conference on cerebral aneurysm [2001 年 5 月 5∼7 日 スイス
2.
チューリッヒ市]
波出石弘: 重症くも膜下出血に対する低体温療法. 第 21 回 日本脳神経外科コングレス[2001 年 5 月 18-20
日
山形市]
イ) 応募・主催講演など
1.
川村伸悟,野々山裕,黒崎みのり,鈴木明文,安井信之:くも膜下出血重症例に対する低体温療法. 第 27
回日本脳卒中の外科学会[1998 年 6 月 24-25 日
2.
札幌市]
吉田泰二,川村伸悟:低体温療法の脳虚血に対する効果:病理組織学的検討. 第 13 回 Brain Hypoxia 研究
会[1998 年 9 月 12 日 東京都]
3.
川村伸悟,野々山裕,林
俊哲,久保達彦,鈴木明文,長田
塞症例に対する低体温療法
4.
乾,安井信之,畑澤
順:塞栓性内頚動脈閉
−症例報告. 第 24 回日本脳卒中学会総会[1999 年 4 月 20-22 日
横浜市]
Prakasa Babu P, Yoshida Y, Su M, Santana A, Yasui N: Regional study of neuronal cell death: A trial
of apoptosis induced by focal cerebral ischemia during Hypothermia. International Symposium on
Dementia from Molecular Biology to Therapeutics[1999 年 9 月 11-13 日
5.
川村伸悟,黒崎みのり,鈴木明文,安井信之,畑澤
順:くも膜下出血重症例に対する軽度低体温療法[シ
ンポジウム].第 25 回日本脳卒中学会総会[2000 年 4 月 27-28 日
6.
Kobe]
東京都]
Prakasa Babu P, Yoshida Y, Su M, Kawamura S, Yasui N: Fas and its ligard (FasL) mediated cell death
during focal cerebral ischemia and beneficial effects of mild hypothermia. 第 41 回日本神経病理学
会総会学術研究会[2000 年 6 月 1-3 日 米子市]
7.
Prakasa Babu P, Yoshida Y, Yasui N: Attenuation of ischemic injury using mild hypothermia following
focal cerebral ischemia in Rat brain. XIVth International Congress of Neuro- pathology[2000 年 9
月 3-6 日
8.
Birmingham, UK]
Prakasa Babu P, Yoshida Y, Yasui N: Protective effect of hypothermia following focalcerebral ischemia
in rat model: Immunohistochemical study of Bcl-2, Bax, cytochrome c, caspase-3 and TUNEL, 第 59
回日本脳神経外科学会総会[2000 年 10 月 23-26 日
9.
西野京子,萱場
福岡市]
恵,佐藤美佳:軽度低体温で管理した緊急 CEA 症例. 日本臨床麻酔学会
年 10 月 18-20 日
横浜市]
202
第 21 回 大会[2001
Brain
attackから脳を守るための研究
1.2. 脳神経細胞生存能調節機構の解明に関する研究
1.2.3. 虚血の神経細胞における死および生存へのシグナル伝達機構の解明
1.2.3.1. 神経細胞アポトーシス解析による神経細胞死の分子機構の解明
国立循環器病センター研究所心血管撮影研究室
名村
要
尚武
約
近年の分子生物学、細胞生物学の進歩により神経細胞死の細胞内シグナル伝達機構が明らかとなり、これらの
知見をもとにして脳卒中に対する新しい脳保護治療法の開発が試みられている。本研究では虚血再潅流に起因す
る脳細胞傷害のメカニズムをシグナル伝達に焦点をあてて調べた。マウス培養大脳皮質神経細胞において、無酸
素に引き続く再酸素化により MAP キナーゼ(ERK2)が活性化され、MEK 阻害剤 U0126 が MEK の基質である ERK2 の活
性化を阻害すると同時に細胞生存促進効果をもつことを見いだした。さらに、マウスの局所脳虚血に対しても
U0126 に脳保護効果がみられた。これらの結果は MEK/ERK 経路が虚血脳細胞傷害のシグナル伝達に重要であること
を示唆する。
目
的
MAP キナーゼスーパーファミリーの内、古典的 MAP キナーゼである ERK[1‐3]が、グルタミン酸負荷後の海馬初
代神経培養細胞で活性化を受けること[4]、前脳虚血後のスナネズミ海馬でも活性化を受けること[5]、チロシン
キナーゼの汎阻害剤である genistein や lavendustein A をこれらの系に用いると、細胞保護効果があることがわ
かっていた[6]。しかしながら、ERK の阻害が細胞保護に結びついたのかどうかは未解決であった。一方、ラット
pheocromocytoma (PC12)から神経栄養因子を除去するとアポトーシスが起こることが知られているが、この系で
は JNK-p38 MAP キナーゼが pro-apoptotic で、ERK は anti-apoptotic、cell growth に働くことが示された[7]。
最近、MEK1 の選択的阻害剤である PD98059[8]が登場し、MEK/ERK 経路を薬理学的に選択的に阻害することが可
能となり、海馬培養細胞を用いた in vitro てんかんモデルで神経細胞の過興奮に引き続き起こる細胞死を MEK/ERK
経路の阻害が抑制することが報告された[9]。細胞を用いた研究では、MEK/ERK 経路が細胞死の重要なエフェクタ
ーであることが認知されつつあるが、動物個体レベルでの脳虚血に関して MEK/ERK 経路が重要であるのかどうか
はわかっていない。本研究では、MEK の選択的阻害剤 PD98059 および U0126[10]の効果をマウス局所脳虚血モデル
で調べ、MEK 阻害の可能性を検討することを目的とした。さらに MEK 阻害による虚血に対する保護効果のメカニズ
ムを培養神経細胞を用いて細胞レベルで検討した。
研究方法
一過性中大脳動脈閉塞モデル
マウス(雄, 4 週齢)を用いた.2%ハロセンで麻酔を導入し、1%で維持した. Laser Doppler Flowmeter (LDF)
の Probe (fiber glass)を頭蓋骨に Breguma より外側 6mm、尾側 1mm の点に瞬間接着剤を用いて固定し、脳血流量
203
Brain
attackから脳を守るための研究
(CBF)を測定した.マウスを仰臥位にし、頚部正中皮膚切開を行った.総頚動脈、外頚動脈、内頚動脈を鈍的に露出
し総頚動脈、内頚動脈をミニクリップを用いて閉塞した.5-0 絹糸を用いて外頚動脈を遠位部で結紮、切断した.
歯科印象材料(シリコン)で coating した 8-0 ナイロン糸(11mm)を外頚動脈断端より挿入し内頚動脈へ進め、内
頚動脈のミニクリップを除去し、更にナイロン糸を頭蓋内へ進め中大脳動脈を閉塞した.一定の時間閉塞した後、
ナイロン糸を抜去し再潅流を得た.麻酔中は直腸温、側頭筋温をモニターし、サーモスタット制御 heating pad を
用いて直腸温を 37±0.5˚C に維持した.
スナネズミ前脳虚血モデル
モンゴリアン・ジャービル(雄)を用いた。上述のごとくハロセンで麻酔を行い、頚部正中皮膚切開を行った後、
両側総頚動脈をミニクリップを用いて閉塞した.麻酔中は直腸温、側頭筋温をモニターし、直腸温を 37±0.5˚C に維
持した.
MEK 阻害剤投与
1) PD98059
虚血 30 分前に、左側脳室に脳室内投与を行った.
2) U0126
鼠蹊静脈より 100μl の溶媒にとかして注射した。
組織学的検索
24 時間後の脳損傷評価に関しては、冠状断脳切片(2mm)を作成し TTC 染色を行った。脳梗塞面積をイメージア
ナライザーを用いて計測し、合算することで脳梗塞体積を算出した。免疫組織染色と 3、35 日後の脳損傷評価に
関しては、freezing microtome を用いて脳切片(50 m)を作成した.frontal pole より 10 枚毎にスライドグラスに
張り付け、ニッスル染色(0.1% Cresyl violet)を行う.
MAP キナーゼのリン酸化レベルの評価
組織をホモゲナイズした後、タンパクを SDS ポリアクリルアミドゲル電気泳動し、抗リン酸化 MAP キナーゼ抗
体(NEB 社)を用いてウェスタンブロッティングを行った。MAP キナーゼの総タンパク量を調べるため、抗 MAP キナ
ーゼ抗体(Santa Cruz 社)を用いてウェスタンブロッティングを行った
リン酸化 MAP キナーゼの免疫組織染色
リン酸化 MAP キナーゼの脳内局在および細胞内局在を調べるため、抗リン酸化 MAP キナーゼ抗体を用いて免疫
染色を行った。標識された免疫複合体を、アビジン、HRP、DAB 反応(ABC 反応)により可視化し、光学顕微鏡を用
いて観察した。陽性細胞が神経細胞か否かを判別するために、中枢神経細胞マーカーである NeuN との二重免疫組
織染色を行った。抗 NeuN モノクロナール抗体(Chemicon 社)と蛍光標識抗マウス IgG 抗体を用い、共焦点レーザー
顕微鏡を用いて観察した。
マウス初代大脳皮質組織培養
妊娠 15 日の ICR マウスより胎児を取り出し、胎児大脳皮質組織をトリプシンで分散処理した後、10%ウマ血清
存在下で 24 穴プレートに播種した。実験は培養 15 日に行った。嫌気培養装置にプレートを入れ、あらかじめ無
酸素化処置をした Bicarbonate buffer に培養メディウムを置換すること Anoxia 負荷を行った。
統計学的処理
204
Brain
attackから脳を守るための研究
直腸温、側頭筋温、虚血中および再潅流後の%CBF などの生理的パラメーターに加え、損傷脳体積、細胞死の程
度などは平均値+/-標準誤差で表し、群間の比較には Student’s t-test あるいは分散分析を用いた.
研究成果
マウスの局所脳虚血モデルを用いて、MAP キナーゼが活性化されるかを調べた。
リン酸化された ERK1/2 に特異的な抗体を用いたウエスタンブロッティングにより、再潅流 3 分後をピークに
ERK2 のリン酸化の上昇が虚血側半球で観察された。この抗体を用いた免疫染色により、リン酸化 ERK1/2 免疫染色
性が虚血に陥った脳領域に、特に神経細胞の核に強く存在することが確認された。MAP キナーゼの活性化の機能的
な意義を調べるため、MEK1 の阻害剤である PD98059 の効果を調べた。PD98059 の虚血 30 分前脳室内投与により、
リン酸化 ERK1/2 免疫染色性は減弱し、コントロール群に比べて 22 時間後の脳梗塞体積も有意に減少した。この
脳保護作用は 70 時間後にも確認され、神経症状にも有意差が認められた。MEK/ERK 経路が虚血・再潅流による神
経細胞死に重要であることが示唆された。
海馬の神経細胞は脆弱である。心停止などにより脳全体へ血流が途絶するとわずか 3-5 分間であっても、海馬
の神経細胞がゆっくりと死にいたることがわかっており、遅発性神経細胞死と呼ばれる[11]。このタイプの脳障
害について調べるため、スナネズミの前脳虚血モデル(3 分半頸動脈閉塞)を用いた。。再潅流直前には、ERK1/2
のリン酸化レベルはシャムコントロールより減少したが、再潅流とともに顕著に上昇し、再潅流 5-10 分後にピー
クに達した。一方、 ERK のタンパクレベル自体には明らかな変化はなかった。この結果は、虚血自体ではなく虚
血後の再潅流が ERK を活性化させることを示唆する。他の MAP キナーゼサブファミリーである p38 と JNK に関し
ても調べた。我々が用いた抗体では、紫外線照射した NIH3T3 細胞では強いリン酸化が検出されたが、虚血海馬で
は ERK ほど顕著なリン酸化の上昇を検出できなかった。
次に、海馬内におけるリン酸化 ERK の局在を調べるために免疫染色を行った。ERK2 のタンパク自体は海馬のい
たるところにみられたが、リン酸化 ERK の免疫活性はシャムコントロールではほぼバックグランドレベルであっ
た。3 分半の虚血後再潅流により、再潅流 10 分をピークにアンモン角 CA1、歯状回、mossy fiber に非常に強い染
色を認めた。しかし、アンモン角の中では細胞死に至らない CA3 の錐体細胞には認めなかった。1 時間後には海馬
門の一部を除き、バックグランドレベルにすみやかにもとに戻った。中枢神経特異的マーカーである NeuN との二
重染色により、CA1 錐体細胞層では神経細胞にリン酸化 ERK が存在することがわかった。
新しい MEK 阻害剤 U0126 の効果を調べた。U0126、PD98059 の恒常的活性型 MEK に対する IC50 がそれぞれ 0.072
μM と 10μM と U0126 は PD98059 に比べて約 2 オーダー強力で、 PD98059 は MEK のリン酸化(=活性化)を阻害する
のに対して、 U0126 は MEK のタンパクキナーゼとしての活性を阻害する作用がる。したがって、いったんリン酸
化を受けてしまった MEK には PD98059 に効果がないのに対して U0126 はまだ効果がある。U0126 を虚血開始 10 分
前に単回静脈注射すると、再潅流 10 分後の CA1 におけるリン酸化 ERK の免疫活性を vehicle コントロールと比較
して減弱させた。濃度依存的にリン酸化 ERK 陽性 CA1 細胞の数を減少させ、静脈に投与した U0126 が脳内で MEK
を阻害していることが示唆された。さらに U0126 静脈注射は虚血 7 日後における CA1 細胞生存能増強効果を濃度
依存的に示した。再潅流後 6 時間まで直腸温を比較しましたが、U0126 には体温低下作用はみられなかった。
さらにマウスの局所脳虚血モデルにおける効果を調べた。永久閉塞モデルにおいて、濃度依存的に脳梗塞抑制
効果が確認され、虚血 1 時間後に U0126 を投与しても有意な効果が認められた。3 時間閉塞再潅流モデルにおいて
再潅流 10 分前の静脈内 1 回投与に約 40%の脳梗塞体積縮小効果(再潅流 24 時間後)があった。
この効果は大脳皮質、
205
Brain
attackから脳を守るための研究
皮質下ともにみられた。長期効果を調べたところ、再潅流 10 分前の静脈内 1 回投与で虚血 35 日後の脳委縮体積
が有意に抑制されることがわかった。U0126 静脈注射は脳損傷を遅延させるだけでなく阻止することが示唆された。
MEK 阻害剤による脳保護効果のメカニズムを探るため、マウス培養大脳皮質神経細胞を用いて調べた。脳虚血・
再潅流の in vitro モデルと考えられている無酸素に引き続く再酸素化負荷に対する効果を調べた。9 時間の無酸
素に引き続く再酸素化により MAP キナーゼ(ERK2)が顕著に活性化された。MEK 阻害剤 U0126 は、濃度依存性に MEK
の基質である ERK2 の活性化(=リン酸化)を阻害すると同時に再酸素化 24 時間後の細胞死を抑制することを見いだ
した。最大効果は 10μM の濃度で得られた。他の MAP キナーゼサブファミリーである p38 と JNK に関しては、顕
著なリン酸化レベルの変化も U0126 によるリン酸化阻害効果もみられず、MAP キナーゼのなかでも特に MEK/ERK 経
路が細胞死に重要であることが示唆された。
虚血神経細胞死にグルタミン酸受容体を介したグルタミン酸興奮毒性や活性酸素・一酸化窒素による酸化スト
レスが重要なメカニズムとして考えられている[12‐14]。MEK/ERK 経路はこれらの内のどの毒性に関係するのかを
調べるため、グルタミン酸、NMDA、カイニン酸、sodium nitropruside (SNP)に対する U0126 効果を検討した。
グルタミン酸(300μM, 5 分間暴露)、NMDA(300μM, 5 分間暴露)、カイニン酸(30μM, 24 時間暴露)に対しては効
果がみられなかったが、SNP (300μM, 5 分間暴露)に対しては濃度依存的に抑制し、1-10μM の濃度で完全に細胞
死を抑制した。もう一つの MEK 阻害剤 PD98059 にも SNP に対する細胞死抑制効果がみられたが、p38 と JNK に選択
的に作用する SB203580 には細胞死抑制効果がみられなかった。
考
察
MEK/ERK 経路がマウスの局所脳虚血再潅流後の損傷脳内で活性化されており、MEK 選択的阻害剤 PD98059 により
脳損傷体積が抑制されることを世界に先駆けて報告した[15]。さらに、より強力な MEK 阻害剤 U0126 の静脈内全
身投与がマウスにおける中大脳動脈永久閉塞モデルにおいて脳梗塞体積を 42%減少させることを見いだした[16]。
3 時間の一過性中大脳動脈閉塞に対しても、再潅流前 10 分に静脈内投与を行えば脳梗塞体積を有意に減少させる
ことがわかった[16]。スナネズミの前脳虚血(3.5 分間)による海馬神経細胞傷害に対しても保護効果がみられた
[16]。
また、MEK 阻害剤は培養神経細胞においても虚血に似た条件下で細胞生存能を増強することがわかった。本研究
により U0126 が無酸素・最酸素化、あるいは一酸化窒素毒性に対して強い保護効果を有することが明らかとなっ
た[16]。また、マウス海馬神経芽細胞腫由来の HT22 細胞にグルタミン酸を負荷した場合にも、グルタミン酸負荷
より 7 時間後に本薬剤を投与してもほぼ完全に細胞死を抑制することがわかった[17]。HT22 細胞はイオノトロピ
ック型グルタミン酸受容体を発現しておらず、このグルタミン酸毒性はいわゆる興奮毒性(excito-toxicity)では
なくシスチン・グルタミン酸アンチポーターを介した酸化ストレスによるもの(0xidative injury)と考えられて
いる。
いかなるメカニズムにより MEK 阻害剤が脳虚血・再潅流あるいは酸化ストレスに対して保護効果をもたらすの
かは今後の検討課題である。本研究における実験条件では、(1)U0126 には ERK2 以外のタンパクキナーゼに対する
影響はみられず、(2)MEK/ERK 以外の経路には顕著な活性化が確認できなかったこと、(3)U0126 と同じ傾向の効果
を PD98059 で再現できたことから、MEK 阻害が保護効果の重要な因子と推定されるが、MEK 阻害以外の未知の活性
が寄与した可能性は否定できない。MEK/ERK の活性化が細胞死に寄与するメカニズムと併せて、重要な課題である。
206
Brain
attackから脳を守るための研究
本研究で示したように、MEK/ERK は虚血自体ではなく、それに引き続く再潅流により著明に活性化を受ける。培
養神経細胞でも、無酸素に引き続く再酸素化により ERK2 が活性化され、U0126 による ERK2 のリン酸化阻害と細胞
死抑制効果が相関した。これらの事実は MEK 阻害剤に再潅流障害抑制効果があることを示唆する。最近、米国で
組織型プラスミノーゲン活性化剤(t-PA)の静脈内投与が虚血性脳卒中に対する治療として認可された[18,19]。現
在のところ発症後 3 時間以内の患者に限定されている。血流低下に陥った脳組織には速やかに血流を再開するこ
とが必須であるが、血流再開による再潅流傷害により、血流再開による効果が得られない、あるいはかえって脳
内出血を引き起こすなど脳組織傷害を増強する場合がある。t-PA 療法などの血行再建に MEK 阻害を併用すること
で効果を増強する、あるいは治療タイムウィンドウをのばすことが可能になるかもしれない。本研究におけるネ
ズミを用いた動物実験の結果から、MEK 阻害によるあらたな脳梗塞治療法の可能性が示唆された。脳組織内への移
行性、安全性などの点を考慮したより強力な MEK 阻害剤の開発が待たれる。さらに、サルを用いた脳卒中モデル
での薬効評価は必須であろう。
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成果の発表
1)原著論文による発表
ア)
国内誌
なし
イ)
国外誌
1.
Alessandrini A*, Namura S*, Moskowitz MA, Bonventre JV (* equally contributed).
MEK1 protein
kinase inhibition protects against damage resulting from focal cerebral ischemia. Proc. Natl.
Acad. Sci. USA
2.
96:12866–12869 (1999).
Fink KB, Andrews LJ, Butler WE, Ona VO, Bogdanov M, Namura S, Endres M, Beal MF, Moskowitz
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Reduction of post-traumatic brain injury and free radical
production by inhibition of the ICE cell death cascade. Neuroscience 94:1213–1218 (1999).
3.
Endres M, Meisel A, Biniszkiewicz D, Namura S, Prass K, Ruscher K, Lipski A, Jaenisch R,
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Dual role of caspase-11 in mediating activation
of caspase-1 and caspase-3 under pathological conditions. J. Cell Biol. 149:613–622 (2000).
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Satoh T, Nakatsuka D, Watanabe Y, Nagata I, Kikuchi H, Namura S. Neuroprotection by MAPK/ERK
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Namura S, Nagata I, Kikuchi H, Andreucci M, Alessandrini A. The serine-threonine protein
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attackから脳を守るための研究
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Matrix metalloproteinase inhibitor KB-R7785 attenuates brain
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Sekiguchi M, Yamada K, Jin J, Hachitanda M, Murata Y, Namura S, Kamichi S, Kimura I, Wada
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The AMPA receptor allosteric potentiator PEPA ameliorates post-ischemic memory
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Namura S, Maeno H, Takami S, Kamichi S, Wada K, Nagata I.
Inhibition of glial glutamate
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Takami S, Minami M, Katayama T, Nagata I, Namura S, Satoh M.
TAK-779, a nonpeptide CC
chemokine receptor antagonist, protects the brain against focal cerebral ischemia in mice.
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(in press).
Namura S, Hirt L, McGinnis KM, Wheeler VC, Moskowitz MA, MacDonald ME, Persichetti FP.
The
HD mutation does not alter neuronal death in the striatum of HdhQ92 knock-in mice after mild
focal ischemia.
Neurobiol. Dis. (in submission).
1) 原著論文以外による発表
イ)国外誌
1.
Namura S, Alessandrini A. Chapter. The MEK/ERK pathway as a target for stroke therapy.
“Strategic medical science against brain attack” ed. by Kikuch H. Springer, Tokyo p.31-44
2002
3) 口頭発表
ア)
1
招待講演
名村尚武
マウスを使った局所脳虚血解析
大阪バイオサイエンス研究所神経科学部門セミナー
1999 年 4 月 12 日大阪吹田市。
2
名村尚武
虚血性脳傷害における MAP キナーゼ活性化とその意義
第 14 回 NCVC 脳科学談話会
1999
年 6 月 1 日大阪国立循環器病センター。
3
MAPK (ERK2) activation in brain ischemia: What’s its role? Seminar at Renal Unit, Harvard Medical
School, Massachusetts General Hospital
4
名村尚武
Aug. 4, 1999
Boston. USA.
MEK1/ERK 経路をターゲットとした急性期脳虚血に対する新規脳保護治療法の開発。
内製薬筑波研究センター薬理研究所セミナー
1999 年 11 月 12 日
209
山之
茨城県つくば市山之内製薬研究セ
Brain
attackから脳を守るための研究
ンター。
5
“Brain protection by MEK inhibitors against ischemia and reperfusion” The Cell Biology of
Disease Seminar Series, Harvard Medical School, Massachusetts General Hospital.
Sep. 19, 2000
Boston. USA.
6
“Brain protection by MEK inhibitors against ischemia and reperfusion” Seminar at the Center
for Aging and Developmental Biology, the University of Rochester.
York.
7
Sep. 4, 2001
Rochester, New
USA.
“Brain protection by MEK inhibitors against ischemia and reperfusion”
Seminar at the
Cerevrovascular Research Center, the Lerner Research Institute, The Cleveland Clinic Foundation.
Sep. 7, 2001
8
名村尚武
レンス
9
Cleveland, Ohio. USA.
脳虚血再潅流障害とタンパクキナーゼ MEK。
2001 年 11 月 27 日
第 15 回鹿児島ブレインサイエンスカンファ
鹿児島大学。
“Brain protection by MEK inhibitors against experimental stroke.” 理研脳科学研究所フォーラ
ム
2002 年 2 月 28 日。理化学研究所和光市。
イ)応募・主催講演
1.
Namura S, Zhu J, Fink K, Endres M, Yuan J, Moskowitz MA. Caspase activation after focal
cerebral ischemia.
第 57 回日本脳神経外科学会総会.シンポジウム「脳血管障害の分子生物学
-病態の解明はどこまで進んだか-」1998 年 10 月 14-16 日札幌.
2.
Namura S, Alessandrini A, Bonventre JV, Moskowitz MA. Activation of MEK1/ERK pathway after
focal cerebral ischemia and reperfusion.
第 57 回日本脳神経外科学会総会.1998 年 10 月
14-16 日札幌.
3.
Kadotani H, Namura S, Katsuura G, Terashima T, Kikuchi H.
Attenuation of focal cerebral
infarction in mice lacking N-Methyl-D-Aspartate (NMDA) receptor subunit NR2C.
Meeting of Society for Neuroscience.
4.
28th Annual
Los Angeles, CA, USA. Nov. 7-12, 1998.
Fink K, Zhu J, Endres M, Shimizu-Sasamata M, Namura S, Moskowitz MA.
Long therapeutic
window in mild cerebral ischemia determined by late caspase activation.
28th Annual
Meeting of Society for Neuroscience. Los Angeles, CA, USA. Nov. 7-12, 1998.
5.
名村尚武、Zhu J, Fink K, 笹又理央, Endres M, Yuan J, Moskowitz MA. Caspase-3 activation
in focal cerebral ischemia.
6.
角谷寛、名村尚武、勝浦五郎、寺島豊秋、菊池晴彦。NMDA 受容体サブユニット NR2C 遺伝子欠損
は脳梗塞を減少させる。
7.
第 10 回日本脳循環代謝学会総会。1998 年 11 月 17-18 日大阪。
第 10 回日本脳循環代謝学会総会。1998 年 11 月 17-18 日大阪。
名村尚武、 Alessandrini A, Bonventre JV, Moskowitz MA 永田泉、菊池晴彦。一過性局所脳虚
血に対する MEK1 選択的阻害剤 PD98059 の脳保護効果。
第 24 回日本脳卒中学会総会。 1999 年
4 月 20-22 日横浜。
8.
Namura S, Matsushita K, Alessandrini A, Bonventre JV, Moskowitz MA.
A MEK1-specific
inhibitor PD98059 attenuates hippocampal injury after global ischemia in the gerbil.
Brain ‘99.
9.
Copenhagen, Denmark. Jun. 13-17, 1999.
Fink KB, Ona VO, Endres M, Namura S, Bogdanov M, Beal MF, Moskowitz MA, Friedlander RM.
Reduction of traumatic brain injury and free radical production after caspase-1 inhibition.
Brain ‘99.
10.
Copenhagen, Denmark. Jun. 13-17, 1999.
名村尚武、永田泉、政安裕之、菊池晴彦。エブセレンは軽度局所脳虚血により誘導されるマウス
210
Brain
attackから脳を守るための研究
線条体細胞のアポトーシスを抑制する。
11.
第 22 回日本神経科学大会。1999 年 7 月 6-8 日大阪。
名村尚武、松下幸司、 Alessandrini A, Bonventre JV, Moskowitz MA。
前脳虚血後の海馬に
おける MAP キナーゼ MEK1/ERK 経路の活性化とその意義。第 11 回日本脳循環代謝学会総会。1999
年 10 月 4-5 日秋田。
12.
名村尚武、永田泉、柳本広二、中原一郎、政安裕之、菊池晴彦。エブセレンは軽度局所脳虚血に
より誘導されるマウス線条体細胞のアポトーシスを抑制する。
第 11 回日本脳循環代謝学会総会。
1999 年 10 月 4-5 日秋田。
13.
Namura S, Nagata I, Masayasu H, Kikuchi H.
Ebselen protects striatal cells against
apoptosis induced by mild focal cerebral ischemia.
Neuroscience.
14.
29th Annual Meeting Society for
Miami Beach, USA, October 23-28, 1999.
名村尚武、永田泉、張志文、柳本広二、藤内謙光、中原一郎、菊池晴彦。エブセレンは、軽度局
所脳虚血後のマウス線条体細胞のアポトーシスを軽減する。第 58 回日本脳神経外科学会総会。
1999 年 10 月 27-29 日東京。
15.
Namura S, Nagata I, Zhang Z, Masayasu H, Nakahara I, Kikuchi H.
cells against apoptosis after mild focal ischemia.
Ebselen protects striatal
2000 Joint Meeting of the AANS/CNS
Section of Cerebrovascular Surgery & American Society of Interventional and Therapeutic
Neuroradiology Annual Meeting.
16.
New Orleans, LA
February 6-9, 2000.
Namura S, Nagata I, Nakahara I, Masayasu H, Kikuchi H. Ebselen may have anti-apoptotic
effect against ischemic striatal injury.
25th International Stroke Conference.
New
Orleans, USA, February 10-12, 2000.
17.
名村尚武、Alessandro Alessandrini、永田泉、菊池晴彦。シンポジウム。脳血管障害の分子生
物学。プロテインキナーゼMEK1 の虚血性神経細胞死における役割。第 25 回日本脳卒中学会。
2000 年 4 月 27-28 日東京。
18.
名村尚武、Alessandro Alessandrini。MEK 阻害剤による虚血性神経細胞死の制御。シンポジウム
「低分子化合物による虚血性神経細胞死の制御--個体レベルから分子レベルまで。
」第 23 回日本
神経科学大会。2000 年 9 月 4-6 日横浜。
19.
菊池晴彦、佐藤託実、中塚大策、渡辺恭良、永田泉、名村尚武。酸化ストレスによる神経細胞死
に MEK/ERK の活性化が必要である。 第 23 回日本神経科学大会。2000 年 9 月 4-6 日横浜。
20.
Nishiyori A, Minami M, Takami S, Namura S, Nagata I, Satoh M. Fractalkine-immunoreactivity
increases in the hippocampal CA1 pyramidal cells undergoing apoptosis after a transient
forebrain ischemia. 第 23 回日本神経科学大会。2000 年 9 月 4-6 日横浜。
21.
高見新也、南雅文、名村尚武、永田泉、佐藤公道。ケモカインアナログ vMIP-II による一過性脳
虚血障害に対する保護作用。第 23 回日本神経科学大会。2000 年 9 月 4-6 日横浜。
22.
佐藤託実、古田享史、友清圭一郎、名村尚武、鈴木正昭、渡辺恭良。シクロペンテノン型プロス
タグランジンを基本骨格とした神経栄養因子様低分子化合物の開発。
第 23 回日本神経科学大会。
2000 年 9 月 4-6 日横浜。
23.
Namura S, Nagata I, Kikuchi H, Bonventre JV, Alessandrini A. Intravenous administration
of U0126 protects brain against focal cerebral ischemia and reperfusion. 30th Annual
Meeting Society for Neuroscience. New Orleans, USA, November 4-9, 2000.
24.
Nakatsuka D, Satoh T, Tanaka-Nakadate S, Watanabe Y, Nagata I, Kikuchi H, Namura S.
Neuroprotection by MEK inhibition with U0126 against oxidative stress. 30th Annual Meeting
Society for Neuroscience. New Orleans, USA, November 4-9, 2000.
211
Brain
25.
attackから脳を守るための研究
Nishiyori A, Minami M, Takami S, Namura S, Nagata I, Satoh M. Fractalkine-immunoreactivity
increases in the hippocampal CA1 pyramidal cells undergoing apoptosis after a transient
forebrain ischemia. 30th Annual Meeting Society for Neuroscience. New Orleans, USA,
November 4-9, 2000.
26.
Takami S, Minami M, Namura S, Nagata I, Satoh M. Viral MIP-II protects brain against focal
cerebral ischemia and reperfusion. 30th Annual Meeting Society for Neuroscience. New
Orleans, USA, November 4-9, 2000.
27.
Satoh T, Furuta K, Namura S, Suzuki M, Watanabe Y. Novel neurotrophic compounds for CNS
neurons designed from cyclopentenone prostaglandins. 30th Annual Meeting Society for
Neuroscience. New Orleans, USA, November 4-9, 2000.
28.
名村尚武、永田泉、Alessandrini A、菊池晴彦。マウス局所脳虚血に対する MEK 阻害剤 U0126 の
静脈内投与による脳保護効果。第 59 回日本脳神経外科学会総会。2000 年 10 月 24-26 日、福岡。
29.
名村尚武、永田泉、 菊池晴彦。スナネズミ海馬における虚血耐性現象とタンパクキナーゼ Akt。
第 12 回日本脳循環代謝学会総会。2000 年 12 月 5-6 日、仙台。
30.
名村尚武、永田泉、Alessandrini A、菊池晴彦。 The serine-protein kinase Akt and ischemic
preconditioning in the gerbil. 第 26 回日本脳卒中学会総会。2001 年 4 月 、大阪。
31.
Namura S, Iihara K, Takami S, Nagata I, Kikuchi H, Bonventre JV, Alessandrini A. Intravenous
injection of MEK inhibitor U0126 protects brain against ischemia and reperfusion. Brain
‘01. June 9-13, 2001. Taipei, Taiwan.
32.
Namura S, Nagata I, Takami S, Jiang XF, Masayasu H, Kikuchi H. Ebselen reduces cytochrome
c release from mitochondria and subsequent DNA feagmentation after transient focal cerebral
ischemia in mice. Brain ‘01. June 9-13, 2001. Taipei, Taiwan.
33.
Namura S, Iihara K, Nagata I. Activation of ERK2 by reoxygenation following oxygen
deprivation in mouse primary cultured cortical neurons. 31th Annual Meeting Society for
Neuroscience. San Diego, USA, November 10-15, 2001
34.
Jiang X, Nagata I, Iihara K, Namura S. MMP inhibitor KB-R7785 reduces MMP-9 activity and
brain infarct size after permanent focal cerebral ischemia in mice. 31th Annual Meeting
Society for Neuroscience. San Diego, USA, November 10-15, 2001
35.
Namura S, Jiang XF, Sasamata M, Nagata I. Pretreatment with atorvastatin protects brain
against permanent focal ischemia in mice. 第 60 回日本脳神経外科学会総会. 岡山 10 月 24–26
日, 2001 年.
36.
Jiang XF, Namura S, Nagata I. Matrix metalloproteinase inhibitor KB-R7785 attenuates brain
damage resulting from permanent focal cerebral ischemia in mice. 第 60 回日本脳神経外科
学会総会. 岡山 10 月 24–26 日, 2001 年.
37.
Sasamata M, Arai Y, Funatsu T, Miyata K, Ogawa Y, Akamatsu M, Nishijima S, Jiang XF, Nagata
I, Namura S. The synthetic 3-hydroxy-3-methylglutaryl coenzyme A reductase inhibitor
atrovastatin protects brain against permanent focal ischemia in mice. 第 75 回日本薬理
学会総会
熊本
2002 年 3 月 13-15 日.
212
Brain
attackから脳を守るための研究
1.2. 脳神経細胞生存能調節機構の解明に関する研究
1.2.3. 虚血後の神経細胞における生と死のシグナル伝達機構の解明に関する研究
1.2.3.2. 神経細胞の生存能促進による脳保護効果の検討
東京大学分子細胞生物学研究所情報伝達研究分野
後藤
要
由季子
約
小脳顆粒細胞の初代培養系などにおいて、BDNF(脳由来神経栄養因子)による生存促進が、古典的 MAP キナー
ゼと Akt の両方の経路を介していることを明らかにした。また、Akt と MAP キナーゼ、PKA は独立に生存促進に関
与していることを示した。PI3K-Akt 経路は、アポトーシスシグナル伝達において、Bax のミトコンドリアへの移
行ステップを阻害していること、Akt が Mdm2 のリン酸化を介して p53 の分解を促進し p53 依存的細胞死を抑制す
ること、Akt が cytochrome c によるカスペースカスケードの活性化を抑制すること、Akt がカスペース 9 を in vitro
の基質とすることを見いだした。
目
的
神経細胞において、様々な神経栄養因子や神経伝達による脱分極等が、生存シグナルとして働くことが良く知
られている。脳虚血による神経死も、神経栄養因子の注入により部分的に抑制されることが報告されている。し
かしながら、脳血管障壁のため、神経栄養因子を直接脳に投与することは難しい。我々は、神経栄養因子のよう
な細胞外から働く分子ではなく、細胞内生存促進シグナル伝達について、その生存促進機構を検討している。こ
れらの解析を通して、究極的には神経死を防ぐ機構を明らかにし、脳保護の手段の開発に結びつけたい。
研究方法
小脳顆粒細胞の初代培養系において、種々の生存促進因子によって活性化される細胞内シグナル伝達分子を同
定した。BDNF(脳由来神経栄養因子)、インスリン、IGF-I(インスリン様成長因子-I)、フォルスコリン、脱分
極刺激等の生存促進刺激を加えた場合の、代表的な細胞内シグナル伝達分子の活性、リン酸化状態、分布など挙
動を調べた。また、これらの分子の恒常的活性型あるいは優性阻害型の遺伝子発現ベクターを導入し、細胞の生
存促進活性を検討した。特に、虚血刺激による神経死の基礎的な知見を得るためにまず低血清、低 KCl 状態で起
こる神経死に対する抑制効果を中心に検討した。さらに、以上の系において生存シグナル伝達に重要であること
を明らかにしてきた PI3'K-Akt 経路の生存促進におけるターゲットを明らかにする試みを行った。これらの分子
の恒常的活性型あるいは優性阻害型の遺伝子発現ベクターを導入し、アポトーシスシグナル伝達のいずれのステ
ップを阻害しているかを検討した。
研究成果
213
Brain
attackから脳を守るための研究
小脳顆粒細胞の初代培養系において、まず BDNF(脳由来神経栄養因子)による生存促進が、古典的 MAP キナー
ゼと Akt の両方の経路を介していることを明らかにした。また、細胞内 cAMP 濃度の上昇も様々な神経の生存を促
進するが、これが protein kinase A (PKA)を介在することを明らかにした。さらに、インスリンによる生存促進
には、PI3 キナーゼ - Akt 経路が必要であるが、MAP キナーゼ経路や PKA は必要ないことを示した。神経細胞にお
いて、Akt と PKA は独立に生存促進に関与していることを示した(図 1)。
C SF-1
(Epo) H G F
VEG F
G D NF
B D NF
M idkine
NG F
bFG F
EG F
C N TF
aFG F
PD G F
IG F-I
TG F-β
PA C A P
M A PK K
PI3K
cAM P
M A PK
A kt
PKA
C ELL SUR VIVAL
Ne u ro p ro t e c t io n
図1 N e u ra l p ro g e n it o r e x p a n si o n
図1
次に、Akt がアポトーシスシグナル伝達のいずれのステップを阻害しているかを検討した。PI3K-Akt 経路は、
アポトーシスシグナル伝達において、Bax のミトコンドリアへの移行ステップを阻害していることを明らかにした
(図 2)。このステップは、低酸素・高グルタミン酸刺激を始め様々なアポトーシス刺激で共通に起こる重要な事
象であり、このステップが PI3K-Akt 経路により阻害される機構を更に調べることにより、アポトーシスを有効に
阻止できる可能性が考えられる。
虚血による神経死に p53 の活性化が貢献していることが数多く報告されている。Akt がアポトーシスシグナル伝
達を抑制する機構の一つとして、我々は Akt が p53 の分解を促進し、p53 依存的細胞死を抑制することを見いだし
た。
Akt は、p53 の mRNA 量には影響しなかったが、蛋白質レベルを低下させた。p53 の半減期を調べたところ、
214
Brain
attackから脳を守るための研究
Akt が p53 の分解を促進していることが明らかになった。逆に、PI3 キナーゼの阻害剤を細胞に添加し、Akt の活
性化を阻害すると、内在性 p53 の寿命が延び、タンパク質分解が阻害されたことが示唆された。
Akt が p53 の分解を促進するメカニズムについて、まず p53 が Akt の直接の基質となっている可能性を検討した
が、in vitro で Akt は p53 をリン酸化しなかった。そこで、p53 の分解において中心的な役割を果たす Mdm2(p53
のユビキチンリガーゼ)が、Akt のターゲットとなっている可能性を検討した。まず、精製した活性型 Akt は in vitro
でリコンビナント Mdm2 をリン酸化した。Mdm2 には、Akt の基質コンセンサス配列(RXXRXS/T)が 2 カ所存在する。
そのうち、human Mdm2 の Ser186 に相当する配列は、種間で高度に保存されていた。そこで Akt が Mdm2 の Ser186
をリン酸化するかを検討するために、リン酸化 Ser186 を特異的に認識する抗体を作成した。この抗体は Akt でリ
ン酸化された Mdm2 を認識したが、Ser186 を Ala に置換した Mdm2 はリン酸化しなかった(図 3) 。また、in vivo
においても活性型 Akt の発現は、Mdm2 の Ser186 リン酸化を誘導した。
A ktinhibits G FP-B A X translocation to m itochondria
induced by staurosporine treatm ent
Staurosporine (3 hrs)
図2
図2
215
Brain
attackから脳を守るための研究
C A Akt
M dm 2
図3
-
-
+
+
W T S186A W T S186A
α-ps186
図3
次に Akt による Mdm2 のリン酸化による活性等に対する影響を調べた。活性型 Akt を発現しても Mdm2 の細胞内
局在は変化せず、また Ser186 の変異 Mdm2 の局在は野生型 Mdm2 と同じであったので、このリン酸化は Mdm2 の細
胞内局在には影響を与えないと結論した。一方、活性型 Akt の発現は、Mdm2 と相乗的に p53 のユビキチン化を促
進した(図 4)。Ser186 を Ala に置換した Mdm2 は、p53 ユビキチン化活性が低下しており、さらに Akt により活性
化を受けなかったので、Akt による Ser186 リン酸化が Mdm2 の p53 ユビキチン化活性を促進することが強く示唆さ
れた(図 4)。また、Mdm2 の p53 分解促進活性に関しても同様に、Akt により促進され、Ser186 変異によって阻害
された。
Bax がミトコンドリアに移行すると cytochrome c の放出が誘導され、Apaf-1 によるカスペース 9 の活性化を引
き起こす。今回我々は、Akt が cytochrome c によるカスペースカスケードの活性化を抑制すること、Akt がカス
ペース 9 を in vitro の基質とすることを見いだしている。in vitro の再構成系で、Akt により Apaf-1/カスペー
ス 9 の cytochrome c/dATP による活性化が抑制される結果が得られ、(1) Akt がカスペース 9 の Apaf-1 による活
性化のステップを抑制している、あるいは(2) Akt がカスペース 9 のプロテアーゼ活性そのものを抑制している、
などの可能性が考えられた(図 5)。これらの可能性を区別するために、リコンビナントカスペース 9 をあらかじ
め Akt によりリン酸化させ、リン酸化型と非リン酸化型カスペース 9 で、リコンビナント GST-Apaf-1 (1-530)に
対して結合能に差があるかを検討した。その結果、非リン酸化カスペース 9 が GST-Apaf-1 に良く結合したのに対
し、あらかじめ Akt でリン酸化されたカスペース 9 は GST-Apaf-1 に殆ど結合しなかった。従って、少なくとも Akt
のリン酸化によりカスペース 9 の活性化に重要なステップである Apaf-1 との結合が阻害されることが示唆された。
このことが、結果的に Akt によるカスペース 9 活性化阻害に貢献している可能性が高いと考えられる。一方、in
vitro の Akt によるカスペース 9 リン酸化部位を今回 2 カ所同定した。今後、リン酸化部位の変異によって Akt に
よる阻害効果がなくなるか、また in vivo で神経栄養因子・サイトカインの存在下でこの部位がリン酸化を受け
るかを検討したい。
216
Brain
attackから脳を守るための研究
A ktprom otes M dm 2 induction ofp53 ubiquitination
in a Ser186-dependentm anner
-
active
WT
KN
-
M dm 2
-
-
-
-
WT
H A p53
+
+
+
+
+
A kt
active
-
active
W T S186A S 186A
+
+
+
IP anti-H A
IB anti-Flag
U bn-p53
図4
図4
Akt
HA -bound fraction
-
+
+
Cytochrom e C/dA TP
+
-
+
15' 90 ' 90 ' (pre-incubati
+
+
+
+
+
+
*
*
図5
図5
217
Brain
考
attackから脳を守るための研究
察
細胞内で働く生存シグナルは、細胞の生存を保証するためにアポトーシスおよびネクローシスの複数のステッ
プを阻害し、何重にも細胞を守るメカニズムを有している。このことは、細胞死のひとつのステップをターゲッ
トにした細胞死阻害剤よりも、細胞内に本来存在する生存シグナルを活性化した方がより確実で効率的に細胞死
を抑制できる可能性を示唆している。本研究では PI3'K-Akt 経路が神経生存促進を効率よく促進し、p53 の活性化
および Bax のミトコンドリア移行・caspase-9 活性化という複数のステップを阻害する事を示した(図 6)。現在
活性型 Akt を発現する adenovirus の系を立ち上げており、虚血モデルで Akt が神経死を効率的に抑制できるかを
検討する予定である。
SurvivalSignals
C ellular Stresses/D am ages
M dm 2
p53
B ad
m itochondria
cyto
A paf-1
caspase-9
caspase
cascade
図6
A PO PTO SIS
図6
引用文献
なし
218
Brain
attackから脳を守るための研究
成果の発表
1) 原著論文による発表
イ)国外誌
1.
Kawasaki, H., Fujii, H., Gotoh, Y., Morooka, T., Shimohama, S., Nishida, E. and Hirano, T. Requirement
for mitogen-activated protein kinase in cerebellar long tern depression.
13498-13502.
2.
J. Biol. Chem. 274,
(1999)
Higuchi, M., Masuyama, N., Suzuki, A. and Gotoh, Y. Akt mediates Rac/Cdc42-Regulated Cell Motility
in Growth Factor-Stimulated Cells and in Invasive PTEN-Knockout Cells.
Curr. Biol.
11,1958-1962.
(2001)
3.
Morishima, Y., Gotoh, Y., Barrett, T., Takano, H., Davis, R.J., Shirasaki, Y. and Greenberg, M.E.
β-amyloid induces neuronal apoptosis via a mechanism that involves the c-Jun N-terminal kinase
pathway and the induction of Fas ligand.
4.
J. Neurosci. 21,7551-7560. (2001)
Masuyama, N., Oishi, K., Mori, Y., Ueno, T., Takahama, Y. and Gotoh, Y.
Nuclear Receptor Nur77 and T cell Apoptosis.
5.
6.
J. Biol. Chem. 276, 32799-32805. (2001)
Ura, S., Masuyama, N., Graves, J. and Gotoh, Y.
Translocation and Chromatin Condensation.
Akt Inhibits the Orphan
Caspase Cleavage of MST1 Promotes Nuclear
Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98, 10148-10153. (2001)
Graves, J.D., Draves, K.E., Gotoh, Y., Krebs, E.G. and Clark, E.A. Both phosphorylation and
caspase-mediated cleavage contribute to regulation of the Ste-20-like Protein Kinase Mst1 during
CD95/Fas-induced apoptosis.
7.
J. Biol. Chem. 276, 14909-14915.
(2001)
Fujishiro, M., Gotoh, Y., Katagiri, H., Sakoda, H., Ogihara, T., Anai, M., Onishi, Y., Ono, H., Funaki,
M., Inukai, K., Fukushima, Y., Kikuchi, M., Oka, Y. and Asano, T.
Activation is not Necessary for Insulin-Induced
Expression.
8.
Ura, S., Masuyama, N., Graves, J. and Gotoh, Y. The PI3K-Akt pathway suppresses Bax translocation
Genes to Cells. 6, 519-530.
Tsuruta, F., Masuyama, N., and Gotoh, Y.
mitochondria. J. Biol. Chem. in press.
10.
Glucose Uptake, but Regulates Glucose Transporter
J. Biol. Chem. 276, 19800-19806. (2001)
to mitochondria.
9.
MKK6/3 and p38 MAPK Pathway
(2001)
The PI3K-Akt pathway suppresses Bax translocation to
(2002)
Ogawara, Y., Kishishita, S., Obata, T., Isazawa, Y., Suzuki, T., Tanaka, K., Masuyama, N., and Gotoh,
Y.
Akt enhances Mdm2-mediated ubiquitination and degradation of p53. J. Biol. Chem. in press. (2002)
2) 原著論文以外による発表(レビュー等)
ア)国内誌(国内英文誌を含む)
1.
後藤由季子:細胞の生存シグナル伝達、実験医学、17、pp1919-1924、1999
2.
増山
典久・後藤
3.
後藤
由季子・高橋
由季子:神経細胞のアポトーシス抑制、細胞工学、18、pp1024-1025、1999
良輔:細胞死の分子メカニズム
---多様性への理解---、Molecular Medicine、37、
pp384-390、2000
4.
鶴田
文憲・増山
典久・後藤
由季子:生存シグナルとアポトーシスシグナルのクロストーク、実験医学、
18, pp1384-1390、2000
5.
浦
誠司・後藤
由季子:PI3K-Akt 経路のシグナル伝達、現代科学、増刊 37, pp95-103、2000
6.
森
靖典・後藤
由季子:サバイバルシグナルとアポトーシス
Apoptosis Watch for Cancer Chemotherapy 、3、pp14-15、2000
219
----生のシグナル:Akt を中心に---、
Brain
attackから脳を守るための研究
7.
大石
康二・後藤
由季子:神経生存と死のシグナル伝達、医学のあゆみ、198、pp345-348、2001
8.
後藤
由季子・松本
9.
後藤
由季子・浦
誠司:JNK 経路と細胞死制御、実験医学、19、1839-1844、2001
10.
砂澤
裕子・増山
典久・後藤
邦弘:シグナル伝達のホットスポット、実験医学、19、pp1816-1819、2001
由季子:Akt による生存シグナル伝達の分子機構、実験医学増刊号/アポ
トーシス研究の新たな挑戦、19、pp1708-1712、2001
11.
鎌倉
幸子、後藤
由季子:神経系前駆細胞の生存と死の制御、神経研究の進歩、46、194-201、2002
イ)国外誌
1.
Y Gotoh
Molecular mechanisms of neuronal survival Roles of kinases in ischemic cell death
“Strategic medical science against brain attack” ed. by Kikuch H. Springer, Tokyo pp. 97-114, 2002
3) 口頭発表
ア)招待講演
1.
Yukiko Gotoh: Survival Signalling Pathways, Memphis Forum on Cancer Research, April 28-29, 1999
2.
Yukiko Gotoh: Survival and Apoptotic Signalling Pathways, Special Seminar Department of Pharmacology,
University of Texas, June 4, 1999
3.
Yukiko Gotoh: Lipid-activated signaling and related pathways, 1999 Gordon Research Conference on
Second Messengers and Protein Phosphorylation, June 6-11, 1999
4.
後藤
由季子:Survival signaling pathways in neuronal cells、国立遺伝学研究所バイオロジカルシン
ポジウム、国立遺伝学研究所(三島)、平成 11 年 6 月 16-17 日
5.
後藤
由季子:
「小脳顆粒細胞における生存促進シグナル伝達機構の解析」、日本神経科学大会、アジア太平
洋トレードセンター(大阪市)、平成 11 年 7 月 6 日-8 日
6.
後藤
由季子:
「神経系のサバイバル」、第 13 回箱根 GIBCO-BRL 生物学ファーラム、箱根湯本富士屋ホテル、
平成 11 年 7 月 22-24 日
7.
後藤
由季子:「生存シグナル」、日米先端科学技術シンポジウム、つくば国際会議場、平成 11 年 10 月 1-3
日
8.
後藤
9.
浦
由季子:「生存シグナル伝達の分子機構の解析」
、日本生化学会大会、パシフィコ横浜、平成 11 年 10
月 6-9 日
誠司、後藤
由季子:「MST1 のシグナル伝達と細胞死における役割」、日本分子生物学会年会、福岡ド
ーム、シーホークホテル&リゾート、平成 11 年 12 月 7 日-10 日
10.
増山
典久、後藤
由季子:「PI-3 キナーゼ/Akt 経路による生存シグナル伝達機構」、日本分子生物学会年
会、福岡ドーム、シーホークホテル&リゾート、平成 11 年 12 月 7 日-10 日
11.
後藤
由季子:
「神経細胞の生存シグナル伝達」、千里ライフサイエンス財団、千里ライフサイエンスセンタ
ー(大阪)、平成 12 年 1 月 14 日
12.
後藤
由季子:「ストレス応答の細胞内情報伝達」
、(神経細胞死とその防御の分子制御)夏のワークショッ
プ、軽井沢プリンスホテル(長野)、平成 12 年 6 月 27 日-28 日
13.
後藤
由季子:
「神経生存シグナルの分子機構」、第 4 回ブレインアタックから脳を守る研究セミナー、千里
ライフサイエンスセンター(大阪)、平成 12 年 9 月 11 日
14.
浦
誠司・後藤
会総会
15.
増山
由季子:
「MST1 による細胞死-Caspase 依存的及び非依存的経路の関与」
、第 59 回日本癌学
パシフィコ横浜、10 月 4-6 日
典久・大石
康二・森
靖典・上野
智雄・高浜
220
洋介・後藤
由季子:
「未成熟 T 細胞における生
Brain
attackから脳を守るための研究
存シグナル伝達機構の解析」、第 73 回日本生化学会大会、パシフィコ横浜、平成 10 月 11 日-14 日
16.
大石
康二、鎌倉
幸子、増山
典久、後藤
由季子:
「神経幹細胞の生存機構の解析」、第 53 回日本細胞
生物学会大会、アクロス福岡、平成 12 年 10 月 31 日-11 月 2 日
17.
増山
典久、大石
康二、森靖典、後藤
由季子:
「Akt による Nur77 のリン酸化と T 細胞のアポトーシス
制御」、第 53 回日本細胞生物学会大会、アクロス福岡、平成 12 年 10 月 31 日-11 月 2 日
18.
小川原
陽子、増山
典久、後藤
由季子:「PI3K-Akt 経路による p53 の機能制御機構の解析」
、第 53 回日
本細胞生物学会大会、アクロス福岡、平成 12 年 10 月 31 日-11 月 2 日
19.
後藤
20.
後藤
由季子:
「細胞の生存シグナル伝達」、第 2 回女性科学者によるセミナー、大阪バイオサイエンス研究
所(大阪)
、平成 12 年 11 月 10 日
由季子:第 5 回分生研シンポジウム、
「生存シグナル伝達」、池之端文化センター(東京)
、平成 12 年
11 月 24 日、
21.
後藤
由季子:「生存シグナル伝達の分子メカニズムについて」
、平成 12 年度循環器病研究委託費公募課題
「11 公-2
虚血性脳血管障害における脳保護に関する研究」 分担課題 2「新しい脳細胞保護法の開発に関
する研究」班会議、国立循環器病センター研究所(大阪)
、平成 12 年 12 月 9 日
22.
鎌倉
幸子、大石
康二、増山
典久、川口
綾乃、岡野
栄之、中福
雅人、後藤
由季子:「哺乳類神
経系前駆細胞の生存維持機構の解析」、第 23 回日本分子生物学会年会、神戸国際展示場
他(神戸市)、平
成 12 月 13 日-16 日
23.
後藤
由季子:
「神経幹細胞を用いた神経再生・修復のための基盤技術の開発」
、厚生科学研究費補助金・脳
科学研究事業平成 12 年度班会議、平成 13 年 2 月 9 日
24.
後藤
由季子:
「生存と死の制御に関わるキナーゼ」
、第 19 回高峰カンファレンス、品川ホテルパシフィッ
ク(東京)
、平成 13 年 2 月 24 日-25 日
25.
後藤
由季子:
「神経系細胞の生存を制御するシグナル伝達」
、第 74 回日本薬理学会年会、パシフィコ横浜
(横浜)平成 13 年 3 月 21 日-23 日、
26.
鎌倉
幸子、大石
康二、砂澤
学院医学系研究科)
、後藤
裕子、増山
典久、岡野
栄之(慶大・医学部)
、中福
雅人(東大・大
由季子:
「哺乳類神経系前駆細胞の生存維持機構の解析」
、第 54 回日本細胞生物
学会大会、長良川国際会議場、岐阜、平成 13 年 5 月 29 日-6 月 1 日
27.
後藤
由季子:
「細胞死の分子機構と病態生理」研究会、岡崎国立共同研究機構生理学研究所、平成 13 年 8
月 7 日-8 日
28.
砂澤
裕子、杉森
久、後藤
道也(東大・大学院医学系研究科)
、中福
雅人(東大・大学院医学系研究科)
、増山 典
由季子:
「脳の初期発生における細胞死の役割」、第 24 回日本神経科学・第 44 回日本神経化学合
同大会、国立京都国際会館(京都、宝ヶ池)
、平成 13 年 9 月 26 日-28 日
29.
森島
義行(第一製薬・創薬第 2 研)
、後藤
J. (マサチューセッツ大学)、白崎
由季子、高野
博通(第一製薬・創薬第 2 研)
、Davis, Roger
康文(第一製薬・創薬第 2 研)、Greenberg, Michael E. (ボストン
小児病院)
:
「βアミロイドによる神経細胞死の機序における JNK および Fas リガンドの役割」
、第 24 回日本
神経科学・第 44 回日本神経化学合同大会、国立京都国際会館(京都、宝ヶ池)、平成 13 年 9 月 26 日-28 日
30.
後藤
由季子、大石
康二、鎌倉
幸子、砂澤
裕子、増山
典久:「神経系前駆細胞の生死の制御機構」、
第 24 回日本神経科学・第 44 回日本神経化学合同大会、国立京都国際会館(京都、宝ヶ池)
、平成 13 年 9 月
26 日-28 日
31.
樋口
麻衣子、小川原
陽子、岸下
昇平、増山
典久、後藤
由季子:
「PI3 キナーゼ-Akt 経路による細
胞運動と生死の制御」、第 24 回日本分子生物学会年会、パシフィコ横浜、平成 13 年 12 月 9 日-12 日
32.
大石
康二、鎌倉
科)、後藤
幸子、増山
典久、岡野
栄之(慶應大・医)、中福
雅人(東大・大学院医学系研究
由季子:
「哺乳類神経系前駆細胞の生存維持機構の解析」、第 24 回日本分子生物学会年会、パシ
221
Brain
attackから脳を守るための研究
フィコ横浜、平成 13 年 12 月 9 日-12 日
33.
浦
誠司、増山
典久、後藤
由季子:「MST1 の Caspase による切断に伴う核移行と染色体凝集の誘導」
、
第 24 回日本分子生物学会年会、パシフィコ横浜、平成 13 年 12 月 9 日-12 日
222
Brain
attackから脳を守るための研究
1.2. 脳神経細胞生存能調節機構の解明に関する研究
1.2.4. 神経栄養因子様低分子化合物の開発と創薬への応用
1.2.4.1. 神経栄養因子様化合物の細胞および個体レベルでの評価
岩手大学工学部福祉システム工学科生体工学講座
佐藤
要
託実
約
ある種の抗腫瘍性プロスタグランジン(PG)が神経突起伸展促進作用があることを発見し、このような PG を
NEureite outgrowth-Promoting PG (NEPP)と名付けた。種々の誘導体の中で NEPP は高い神経細胞死抑制作用と神
経突起伸展促進作用を有し、神経栄養因子様低分子化合物としての性格を持つ。さらに NEPP は BiP/GRP78 の誘導
を介して神経突起伸展促進作用を惹起することがわかった。NEPP は神経細胞死を抑制するだけでなく、神経回路
の再生を促進することが可能である。
目
的
日本は世界史上類を見ない高齢化社会に入ろうとしており、脳卒中などの神経疾患に如何に対処すべきかが重
要な社会問題になりつつある。これらは、本人のみならず、家族への負担も大きく、社会的な損害は甚大である
ことから、治療薬の開発は、緊急の課題である。現在、脳神経細胞のアポトーシスを司る分子群が次々に明らか
になり、メカニズムの解明は急速に進みつつあるが、脳神経細胞を保護する薬剤の開発はあまり進んでいない。
さらに高次神経機能を再生させる能力のある薬剤の開発の報告は皆無である。このような社会的な状況を鑑み、
我々は、高次神経機能を再生させる能力のある低分子プローブの創製とその生理作用の解明を目指した。このよ
う な 低 分 子 プ ロ ー ブ 創 製 の た め の た た き 台 と し て ・・7-PGA1 誘 導 体 に 注 目 し た 。 代 表 的 な PG で あ る
PGE2,PGF2・,PGD2 及び PGI2 の全ての受容体遺伝子が明らかにされ、その細胞内情報伝達のメカニズムが明らかに
なったのに対して、PGA 及び PGJ タイプの PG(抗腫瘍性 PG)の細胞内メカニズムに関する研究は遅れた。特に PGA
及び PGJ タイプの PG の神経系での役割の注目した研究は皆無であった。神経科学の分野においては、神経細胞の
細胞内過程を調節する低分子プローブを用いたアプローチは例が少なく、その生理作用を明らかにすることを通
して、新たな知見を加えることができた
研究方法
神経突起伸展促進作用
PC12 細胞を 104 cells/cm2 の密度でデイッシュにまき、5 時間後に NGF(50 ng/ml)を添加し、さらに 24 時間培
養した。10 ミクロン以上の神経突起を持つ細胞の割合をカウントした。化合物はNGFの 30 分前に添加した。
神経細胞死抑制作用
HT22 細胞を 4x104 cells/cm2 の密度でデイッシュにまき、5 時間後のグルタミン酸(5 mM)を添加し、さらに 24
時間培養した。MTT assay を行った。化合物はグルタミン酸の 30 分前に添加した。
223
Brain
attackから脳を守るための研究
局所脳虚血による神経細胞死を抑制する作用
麻酔下のマウスの脳底動脈を閉塞し、24 時間後に脳を取り出し、TTC 染色を行い梗塞体積を測定した。化合物
は、脳底動脈閉鎖 30 分前に脳室内に注入した。
研究成果
我々は、PGJ2 や・・7-PGA1 誘導体が、NGF による PC12 細胞や脊髄後根神経節細胞からの神経突起伸展を顕著に
促進することを発見した[1-4; Fig. 1]。このようなシクロペンテエノン型 PG のもつ神経作用をさらに深く検討
するため、・7-PGA1 誘導体を用いることにした。これは、1)・7-PGA1 誘導体は 3 成分連結法により、誘導体を容
易に化学合成できること、2)・・7-PGA1 誘導体は化学的に安定な誘導体を分子設計できること、3)構造活性相関
に関する研究を通じて、最適化された低分子プローブを創製できることなどの理由による[2,3]。このような神経
突 起 伸 展 促 進作 用 を 有 す る・7-PGA1 誘 導 体を NEurite outgrowth-/regeneration-Promoting Prostaglandin
(NEPP)と名付けた[Fig. 2]。10 種類の誘導体(NEPP1-10)を合成し、構造活性相関を調べたところ、NEPP10 が細胞
毒性が低いにも関わらず神経突起伸展促進作用が高いこと[Fig. 3、 Table 1]、及び BiP/GRP78 の誘導が神経突
起伸展促進活性に必須であることを明らかにした。すなわち 1)NEPP は BiP/GRP78 蛋白質を誘導し、2)BiP/GRP78
に対するアンチセンスヌクレオチドは NEPP による神経突起伸展促進作用を抑制し、さらに 3)アデノウイルスベク
ターによる BiP/GRP78 の強制発現は NGF による神経突起伸展作用を促進した[Table 2]。これらの実験結果は、
BiP/GRP78 の誘導が、NEPP による神経突起伸展/再生促進作用において重要な役割を果たしていることを示唆して
いる[1]。末梢神経細胞においては、神経突起伸展作用と神経細胞死抑制作用に関与するシグナル伝達経路は区別
できるのに対して、中枢脳神経細胞においては両者のシグナル伝達経路が明確に区別できない。従って、低分子
プローブは神経突起伸展作用と神経細胞死抑制作用の両方を持つことが望ましい。NEPP はその基準を満たすこと
がわかった。すなわちマウス海馬由来の神経細胞腫 HT22 細胞の酸化ストレスによる神経細胞死を顕著に抑制する
ことを発見した[Fig. 4]。この神経細胞死抑制作用の発現には共役ジエノン構造が必須であることや、NEPP6 の細
胞死抑制作用が最も高いことを明らかにした。9 種類の NEPP6 誘導体(NEPP11-19)を合成し作用を検討したところ、
NEPP11 が NEPP6 よりも細胞死抑制作用が強いことが判明した。さらに NEPP11 は大脳皮質神経細胞の種々の刺激に
よる細胞死や個体レベルの虚血による神経細胞死を顕著に抑制した。NEPP11 はさらに局所脳虚血によるニューロ
ン死も抑制した[Fig. 5]。すなわち NEPP11 は神経細胞死抑制作用と神経突起伸展促進作用を有する”神経栄養因
子様低分子化合物”としての性格を持つことがわかった[5]。
対照
NGF
NEPP10
NGF+NEPP10
200ミクロン
Fig. 1
224
Brain
attackから脳を守るための研究
COOH
∆12-PGJ 2
A natural product
O
O
OH
9
10
8
7
COOCH
14
15
11 12
13
Cross-conjugated dienone
O
3
OH
A primary NEPP with a natural configuration
COOCH
OH
NEPP1
3
NEPP10
A modified NEPP that has neurite
outgrowth-promoting activities
O
COOCH
3
NEPP6
O
A modified NEPP that has both neurite outgrow
and neuronal survival-promoting activites
COOCH
3
NEPP11
CH 3
A derivative of NEPP6 that has both neurite o
and neuronal survival-promoting activites
Proposed Neurotrophin-like Comp
Fig. 2
225
Brain
attackから脳を守るための研究
+NGF+NEPP4
Control
+NGF+NEPP10
+NGF
Fig. 3
Table 1
226
Brain
attackから脳を守るための研究
A
Neurite-bearing cells (% of total cells)
NGF
5.00 + 1.81
NGF+NEPP10
75.23+ 7.01
NGF+NEPP10+AS78
16.04+ 1.51
NGF+NEPP10+CS78
66.90+ 1.90
**
B
Neurite-bearing cells (% of total cells)
9.37 + 3.61
GFP
GFP+NGF
19.99+ 1.89
BIP/GRP78
9.58 + 6.28
BIP/GRP78+NGF
62.22+ 9.98
**
Table 2. A. Effect of antisense (AS78) and sense (CS78) nucleotides for
BiP/GRP78 gene on the promotion of neurite outgrowth by NEPP10
. PC12h
cells were cultured in serum-free DF medium in the presence of NGF (50 ng/
without or with NEPP10 (1.0
µM). AS78 or CS78 (10µM) was added to the
culture 30 min before NEPP10, and then NGF was added 30 minB.
later.
Effect of
adenoviral gene transfer of BiP/GRP78 on neurite outgrowth induced by
in PC12h cells.PC12 cells infected with Ax1CABiP/grp78 or Ax1CAgfp were
cultured in serum-free DF medium in the presence or absence of NGF (50 ng
for 24 h. The values are means
+ S.D (n=4). Significance of difference was
determined by ANOVA (** p < 0.01).
Table 2
227
Brain
attackから脳を守るための研究
O
COOCH
3
NEPP11
CH 3
グルタミン酸5ミリモル
グルタミン酸5ミリモル
+NEPP11 1マイクロモル
50ミクロン
Fig. 4
Fig. 5
考
察
神経栄養因子は一般に標的細胞から供給され、発生期のニューロンの分化促進と生理的な神経細胞死を抑制す
228
Brain
attackから脳を守るための研究
ることで、生体内の神経ネットワーク構築を制御していると位置づけられている脳の老化過程とは、「シナプス
破綻」とも考えられ、神経形成のちょうど逆の過程としてとらえることができる。とすれば老化したニューロン
に外来性に神経栄養因子を補給するか、ないしはそのはたらきを強めてやれば老化が防げるという単純なアイデ
イアが出てくる[6]。しかし神経栄養因子は分子量が大きく、脳血液関門を通過できないから、脳へのターゲッテ
イングに関して難点がある[7]。低分子化合物で神経栄養因子の生理作用を mimic するか、ないしは enhance する
ことを目指すのが現実的である[7]。いくつかのグループから、神経栄養因子様の作用をもつ低分子化合物である
が報告されている。中枢ニューロンに対して神経栄養因子様の作用を発現させようとすれば、神経突起伸展促進
作用を神経細胞生存維持作用をあわせ持っている必要があるが、これを満足するものは、1)スタウロスポリン様
アルカロイド[8]、2)イムノフィリンリガンド[9]、3)シクロペンテエノン型プロスタグランジン[1,4]の 3 種類
である。シクロペンテエノン型 PG は最初、抗腫瘍活性のある PGE2 や PGD2 の代謝産物として同定された[10]。NEPP
は・12-PGJ2 などの PGJ2 誘導体と同じようにニューロンにおいて神経突起伸展を促進する。しかし NEPP はニュー
ロンの生存を維持するのに対して、PGJ2 誘導体はニューロン死を誘導する。これは NEPP は・12-PGJ2 などの PGJ2
誘導体と同じように、その神経突起伸展促進作用の発現にはには BiP/GRP78 の誘導を介するが、ほかにも作用点
があることを示唆する[Fig. 6]。これは種々の誘導体の神経突起伸展促進作用及びニューロン死抑制作用を比較
した結果からも同じ結論が導かれる。すなわち両方の生物作用を有する化合物やそれぞれ片方の生物作用のみを
有する化合物及びどちらの作用もない誘導体が存在することから、作用点は少なくとも 2 つ以上があり、神経突
起伸展促進作用とニューロン死抑制作用はそれぞれ別の細胞内経路を介して作用を発現すると考えられる[Fig.
6]。
Nuclear receptor I
BiP/GRP78
Neurite outgro
Nuclear receptor II HO-1
Neuronal surv
NEPP11
Fig. 6
引用文献
[1] Satoh T, Furuta K, Tomokiyo K, Nakatsuka D, Miura M, Hatanaka H, Ikuta K, Suzuki M, Watanabe Y:
Facilitatory roles of novel compounds designed from cyclopentenone prostaglandins on the neurite
outgrowth-promoting activities of NGF.
J Neurochem
75, 1092-1102 (2000)
[2] Satoh T, Furuta K, Suzuki M, Watanabe Y: Prostaglandin J2 and its metabolites promote neurite outgrowth
induced by nerve growth factor in PC12 cells.
Biochem Biophys Res Comm 258, 50-53 (1999)
[3]Satoh T, Furuta K, Tomokiyo K, Suzuki M, Watanabe Y: Designed cyclopentenone prostaglandin derivatives
as neurite outgrowth-promoting compounds for CAD cells, a rat catecholaminergic neuronal cell line
of the central nervous system.
Neurosci Lett 291, 167-70 (2000)
[4] Satoh T, Shingai R, Furuta K, Suzuki M, Watanabe Y:
229
Neurite outgrowth-promoting prostaglandins that
Brain
attackから脳を守るための研究
act as neuroprotective agents against brain ischemia and may enhance recovery of higher neuronal
functions. In: Strategenic medical science against brain attack (Kikuchi H ed), Springer-Verlag Tokyo
(in press)
[5] Satoh T, Furuta K, Tomokiyo K, Namra S, Nakatsuka D, Sugie Y, Ishikawa Y, Hatanaka H, Suzuki M, Watanabe
Y: Neurotrophic actions of novel compounds designed from cyclopentenone prostaglandins.
77,
J Neurochem
50-62 (2001)
[6] Barde YA: Biological roles of neurotrophins, in Neurotrophic Factors (Hefti F., ed.), pp1-31, Springer,
Berlin (1998)
[7] Saragovi HU, Gehring K: Development of pharmacological agents for targeting neurotrophins and their
their receptor.
Trends Phamacol Sci 21, 93-98 (2000)
[8] Wilkie N, Wingrove PB, Bilsland JG, Young L, Harper SJ, Hefti F, Ellis S, Pollack SJ: The non-peptidyl
fungal metabolites L-783,281 activates TRK neurotrophin receptors.
J Neurochem 78, 1135-1145 (2001)
[9] Snyder SH, Sabatini DM, Lai MM, Steiner JP, Hamilton GS, Suzdak PD: Neural actions of immnophilin
ligands.
Trends Pharmacol Sci 19, 21-26 (1998)
[10] Fukushima M: Biological activities and mechanism of action of PGJ2 and related compounds: an update.
Prostagl. Leukotri. Essen. Fatty acids 47, 1-12
(1992)
成果の発表
1)原著論文による発表
イ)国外誌
1.
Satoh T, Furuta K, Tomokiyo K, Namura S, Nakatsuka D, Sugie Y, Ishikawa Y, Hatanaka H, Suzuki M,
Watanabe Y (2001) Neurotrophic actions of novel compounds designed from cyclopentenone
prostaglandins.
2.
Furuta K, Tomokiyo K, Satoh T, Watanabe Y, Suzuki M (2000) Designed prostaglandins with neurotrophic
activities.
3.
J Neurochem 77:50-62.
Chem BioChem(4):283-285.
Satoh T, Furuta K,
Tomokiyo K, Nakatsuka D, Tanikawa M, Nakanishi M, Miura M, Tanaka S, Koike T,
Hatanaka H, Ikuta K, Suzuki M, Watanabe Y (2000) Facilitatory roles of novel compounds designed from
cyclopentenone prostaglandins on neurite outgrowth-promoting activities of nerve growth factor.
J
Neurochem 75:1092-1102.
4.
Satoh T, Furuta K, Tomokiyo K, Suzuki M, Watanabe Y (2000) Designed cyclopentenone prostaglandin
derivatives as neurite outgrowth-promoting compounds for CAD cells, a rat catecholaminergic neuronal
cell line of the central nervous system. Neurosci lett 291:167-170.
5.
Satoh T, Nakatsuka D, Watanabe Y, Nagata I, Kikuchi H, Namura S (2000) Neuroprotection by MEK/ERK
kinase inhibition against oxidative stress in a mouse neuronal cell line and rat primary cultured
neurons.
6.
Neurosci Lett 288:163-166.
Satoh T, Furuta K, Suzuki M, Watanabe Y (1999) Prostaglandin J2 and its metabolites promote neurite
outgrowth induced by nerve growth factor in PC12 cells.
Biochem Biophys Res Comm 258:50-53.
2)原著論文以外による発表(レビュー等)
イ)国外誌
1. Satoh, T., Shigai, R., Furuta, K., Suzuki, M., and Watanabe, Y. (2002) Neurite outgrowth-promoting
230
Brain
attackから脳を守るための研究
prostaglandins that act as neuroprotective agents against brain ischemia and may enhance recovery
of higher neuronal functions.
78-93 Tokyo: Springer-Verlag.
In: Strategenic medical science against brain attack (Kikuchi H. ed.),
2002
3)口頭発表
ア)招待講演
1.
佐藤託実
「神経栄養因子様低分子化合物の創製と神経科学への応用」科学技術庁振興調整費目標達成型科
学研究「ブレインアタックから脳を守る研究セミナー」2002 年 1 月 31 日(千里ライフサイエンスセンター)
2.
佐藤託実
「神経栄養因子様低分子化合物による虚血性神経細胞死の制御」2000 年度日本神経科学会シンポ
ジウム「低分子化合物による神経細胞死の制御-分子レベルから個体レベルまで-」2000 年 9 月 5 日(パッシ
ィフィコ横浜)
3.
佐藤託実
「抗腫瘍性プロスタグランジンを基本骨格とした神経突起伸展活性と神経生存維持作用を併せ持
つ神経栄養因子様低分子化合物の創製と創薬への応用」協和発酵医薬研究所セミナー1999 年 10 月 20 日(協
和発酵医薬研究所)
4.
佐藤託実
「神経突起伸展/再生因子としてのジエノン型プロスタグランジン」1999 年 10 月度日本生化学会
シンポジウム「化学が息吹を与えた創造分子」1999 年 10 月 15 日(パッシィフィコ横浜)
5.
佐藤託実
「抗腫瘍性プロスタグランジンを基本骨格とした神経突起伸展活性と神経生存維持作用を併せ持
つ神経栄養因子様低分子化合物の創製と創薬への応用」国立循環器病センター研究所セミナー1999 年 9 月 29
日(国立循環器病センター研究所)
6.
佐藤託実 「神経突起伸展/再生因子としてのジエノン型プロスタグランジン」1999 年 6 月大阪大学蛋白質研
究所セミナー「脳神経細胞工学の新展開」1999 年 6 月 12 日(大阪大学蛋白質研究所)
イ)応募・主催講演等
1.
Satoh T, Furuta K, Namura S, Suzuki M, Watanabe Y (2000) Novel neurotrophic compounds for CNS neurons
designed from cyclopentenone prostagandins. Nov 4-9, Soc Neurosci Abstr 30: 226.15.
2.
Satoh T, Furuta K, Tomokiyo K, Suzuki M, Watanabe Y (1999) Neurite outgrowth-/regeneration-promoting
prostaglandins. Oct 23-28, Soc Neurosci Abstr 29: 609.13.
3.
Nakatsuka D, Satoh T, Tanaka-Nakadate S, Watanabe Y, Nagata I, Kikuchi H, Namura S (2000)
Neuroprotection by MEK inhibition with U0126 against oxidative stress. Nov 4-9, Soc Neurosci Abstr
30: 702.11.
4.
佐藤託実、新貝鉚蔵、古田享史、 鈴木正昭、渡辺恭良:神経栄養因子様低分子化合物の創製と神経科学へ
の応用
5.
第 75 回日本薬理学会大会
抄録集 92 項、2002 年
佐藤託実、中塚大策、石川保幸、畠中寛、油谷浩幸、古田享史、鈴木正昭、渡辺恭良:Heme oxygenase-1
の誘導を介した神経栄養因子様低分子化合物による神経細胞生存維持機構
経化学合同大会
6.
抄録集 223 項、2001 年
佐藤託実、古田享史、友清圭一朗、 鈴木正昭、渡辺恭良:シクロペンテノン型プロスタグランジンを基本
骨格とした神経栄養因子様低分子化合物の開発
7.
第 24 会日本神経科学第 44 回神
第 73 回日本生化学会大会抄録集 930 項、2000 年
菊池晴彦、佐藤託実、中塚大策、渡辺恭良、永田泉、名村尚武:酸化ストレスによる神経細胞死に MEK/ERK
の活性化が必要である
第 23 会日本神経科学大会・第 10 回日本神経回路大会合同大会
抄録集 104 項、
2000
年
8.
中塚大策、佐藤託実、鈴木正昭、渡辺恭良:新規中枢特異的 PGI2 リガンドによる中枢コリン作動性ニュー
ロンの生存維持効果
第 23 会日本神経科学大会・第 10 回日本神経回路大会合同大会
231
抄録集 251 項、2000
Brain
attackから脳を守るための研究
年
9.
鈴木正昭、佐藤託実、古田享史、友清圭一朗、渡辺恭良:神経突起伸展/再生因子としてのプロスタグラン
ジン J2
10.
第 72 回日本生化学会大会抄録集 973 項、1999 年
催翼龍、片岡洋祐、佐藤託実、山県文、白川憲之、渡辺由美子、鈴木正昭、柳瀬尚人、片岡喜由、渡辺恭良:
虚血性神経細胞障害におけるプロスタサイクリン I2 誘導体の神経細胞保護作用
第 22 会日本神経科学大会
抄録集 168 項、1999 年
11.
佐藤託実、古田享史、友清圭一朗、鈴木正昭、渡辺恭良:プロスタグランジンの新規生理作用としての神経
突起再生作用
[特
1.
第 22 会日本神経科学大会
抄録集 299 項、1999 年
許]
佐藤託実、古田享史、渡辺恭良、鈴木正昭、名村尚武、出願日:平成 11 年 10 月 5 日、出願番号:特願平 11
−284110、、発明の名称:神経栄養因子様低分子化合物(ジエノン型プロスタグランジンを有効成分として含
有する、(i)神経突起/伸展作用、及び/又は(ii)神経細胞の生存維持作用を有する医薬品組成物)
2.
佐藤託実、古田享史、渡辺恭良、鈴木正昭、出願日:平成 11 年 4 月 9 日、出願番号:特願平 11−102459、発
明の名称:神経突起伸展/再生因子(ジエノン型プロスタグランジンを有効成分とし、神経細胞等の突起伸展
/再生を促進する新規な因子に関するものである)
232
Brain
attackから脳を守るための研究
1.2. 脳神経細胞生存能調節機構の解明に関する研究
1.2.4. 神経栄養因子様低分子化合物の開発と創薬への応用
1.2.4.2. 神経栄養因子様化合物の細胞内受容体の探索
岩手大学工学部福祉システム工学科生体工学講座
佐藤
要
託実
約
我々は画期的な神経保護作用を持つ低分子プローブ(NEPP)を開発し、これを用いて、ニューロンにおける防御
システムに関与する情報制御や遺伝子発現機構を研究した。NEPP は核内に存在する特異的な標的蛋白質と共有結
合し、神経突起伸展/再生促進作用と神経細胞死抑制作用の両方を示す。本項目は、NEPP による神経ネットワーク
の保護/再生を目指して、(1)NEPP の細胞内受容体の検索、(2)NEPP の神経栄養因子を発現する細胞内メカニ
ズムの解明、を具体的な目標にすえた。その結果、核内の特異的な蛋白質と共有結合し、heme oxygenase-1(HO-1)
の誘導を介してニューロンの生存を維持させることがわかった。
目
的
「神経機能の保護/再生」に向けた、低分子プローブの分子設計のための基本骨格として、シクロペンテノン型
PG の 1 種である・7-PGA1 誘導体に注目した。当初、シクロペンテノン型 PG は抗腫瘍活性が特徴とされ、抗腫瘍
性 PG と呼ばれてきた[1]。その後、シクロペンテノン型 PG は抗腫瘍活性のみではなく、抗ウイルス作用、抗炎症
作用、アポトーシス誘導作用及び破骨細胞分化促進作用など多くの生物活性などの多くの遺伝子の発現を変化さ
せることが報告された[1]。NEPP などのシクロペンテノン型 PG は細胞核に集積するが、有機溶媒では抽出されず、
プロテアーゼ処理により核分画から遊離されること[2]、及び、ビオチン化したシクロペンテノン型 PG を生細胞
に添加し、ウエスタンブロットを行うと何本かの特異的なバンドが検出されること[3]から、細胞の核内にある標
的蛋白質と共有結合すると考えられている[Fig. 1]。生体内にあるシクロペンテノン型 PG は抗がん剤として優れ
た性質を持っているが、化学合成が複雑であることと、生体中で不安定であることから、創薬には向かなかった
[1]。新規抗がん剤の開発を目的として、人工リガンドである・7-PGA1 誘導体(シクロペンテノン型 PG の 1 種で
あり、NEPP のプロトタイプ)が開発された[4,5]。・7-PGA1 誘導体の化学合成が容易であることと、生体中で安
定であることから、その構造活性相関を研究することが可能である。さらに、・7-PGA1 誘導体は、生体内にある
シクロペンテノン型 PG よりも一般に生物活性が強い[6]。また・7-PGA1 誘導体のエノンやジエノンと呼ばれる特
異的な化学構造は求核試薬である SH 基を有するグルタチオンやシステインの攻撃を受けやすい[4,5]。グルタチ
オンと共有結合をした・7-PGA1 誘導体は特異的な輸送体により、細胞外に排出される[7]。一方、システイン残基
と共有結合した・7-PGA1 誘導体は何らかの重要な細胞内の機能を有していると考えられるが、それは未だ明らか
ではない。最近、シクロペンテノン型 PG の IkB kinase の抑制には、IkB kinase 中のシステイン残基が必要であ
ることが明らかになった[8,9]。これはシクロペンテノン型 PG とシステイン残基の共有結合が、生物活性の発現
に重要な役割を演じていることを示唆している。
233
Brain
attackから脳を守るための研究
Fig. 1
研究方法
ドラッグウエスタンブロッテイング
培養下の HT22 細胞にビオチンラベルの NEPP6 を適用し、1 時間後に細胞を溶解させ、蛋白質を抽出し、SDS-PAGE
を行った。蛋白質をゲルからメンブレンにブロッテイングし、メンブレン上で peroxidase-label のストレプトア
ビジンを結合させ、発色反応により発色させた。
ドラッグ染色
培養下の HT22 細胞にビオチンラベルの NEPP6 を適用し、1 時間後に細胞を固定した。Alexa-conjugagted
streptavidin を適用した後、洗浄し、蛍光顕微鏡で観察した。
DNA microarray analysis
1 マイクロモルの NEPP11 を培養下の HT22 細胞に適用し、6 時間後に totalRNA を抽出した。逆転写反応を行い、
cDNA を得たのち後、affimetrix 社の Genechip を用いて遺伝子発現解析を行った。
研究成果
細胞内の SH 基と共有結合する部分と考えられる NEPP の共役ジエノン構造が、神経突起伸展促進作用や神経細
胞死抑制作用に必須であることを明らかにした[10,11;
Fig. 2]。NEPP 受容体蛋白質の本体を明らかにするため、
ビオチン化 NEPP を合成して、細胞内局在を検討した。ビオチン化した NEPP6 の神経細胞死抑制作用の発現には、
234
Brain
attackから脳を守るための研究
10 倍程度の濃度を要したがその作用そのものは保持していた[11;Fig. 3]。その結果、神経細胞死抑制作用と NEPP
の核内への集積が非常に高い相関していることがわかった[Fig. 4]。さらにこの細胞内集積は N-ethylmalimide
の全処置により阻害された[Fig. 5]から、細胞内の SH 基が必須であることがわかる。細胞内受容体をを生化学的
に検索するために、ビオチン化 NEPP を用いてウエスタンブロッテイングを行うと、NEPP と特異的に結合するバン
ドが存在した[Fig. 6]。この結果は NEPP 受容体蛋白質が核に存在する可能性を示唆する。次にこの神経栄養因子
様作用の分子機構を明らかにするため、DNAchip を用いて NEPP11 により誘導される遺伝子群を解析した。その結
果、HO-1 をはじめとした種々の蛋白質などの発現が誘導されることがわかった[Fig. 7]。HO-1 は細胞内のヘムを
分解してビリベルジン、鉄イオン、一酸化炭素を産生し、ビリベルジンはさらにビリベルジン還元酵素によりビ
リルビンにまで代謝される[Fig.8]。またビリベルジン及びビリルビンは神経細胞死抑制作用があることがわかっ
た。これらの実験結果は、ストレス条件下での神経細胞の生存にはミトコンドリアに存在するヘムプールが重要
であることを示唆する[Fig. 9]。さらに HO-1 を誘導する低分子化合物は新たなタイプの神経細胞保護剤である可
能性がある。
Fig. 2
235
Brain
attackから脳を守るための研究
Fig. 3
Fig. 4
236
Brain
attackから脳を守るための研究
Fig. 5
Fig. 6
237
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Fig. 7
Fig. 8
238
Brain
attackから脳を守るための研究
Fig. 9
考
察
以上の結果から次のような細胞内機構が考えられる。NEPP は細胞に能動的に取り込まれ、一部は細胞質内でグ
ルタチオンと共有結合し、ATP の分解依存的に特異的な薬物排出機構(GSX pump, the ATP-dependent glutathione
S-conjugated export pump)により、細胞外に排出される。また一部は核内に集積し、核内の特異的な蛋白質の
システイン残基と共有結合し、神経栄養因子様の作用発現に関与する[Fig.1]。我々は、NEPP11 が HO-1 の誘導を
介してニューロン死を抑制していることを発見した。その酵素活性に伴って生ずる 3 つのファクターはそれぞれ
ニューロン死の抑制に関与していると考えられる。ビリルビン及びビリベルジンは強力な抗酸化剤としての作用
がある。一酸化炭素は細胞内の cGMP の濃度を上昇させる。また鉄イオンはフェリチンを誘導し、それぞれが細胞
死の誘導に関与すると考えれる。・12-PGJ2 が腫瘍細胞において HO-1 を強力に誘導する[12]のとは対照的に、ニ
ューロンでは全くその能力がない[11]。また・12-PGJ2 はニューロン死を抑制する能力もない。HO-1 の誘導が肝
臓の種々の疾患に対する創薬ターゲットになることを提唱していた Immenschuh and Ramadori は・12-PGJ2 に注目
した[13]が、NEPP11 はまさに・12-PGJ2 の HO-1 の誘導作用を、非増殖細胞でも発現できる画期的な低分子プロー
ブであり、彼らの要求を満たすものである。ニューロンでの HO-1 誘導の生理的な意義を探究するための分子プロ
ーブとして有効である。
引用文献
[1] Fukushima M: Biological activities and mechanism of action of PGJ2 and related compounds: an update.
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Fujiwara M: Site and mechanism of growth inhibition by prostaglandins.
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239
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Brain
attackから脳を守るための研究
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K, Noyori R, Nakanishi M: Potent prostaglandin A1 analogs that suppress tumor cell growth through
induction of p21 and reduction of cyclin E.
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[7] Ishikawa T, Akimaru K, Nakanishi M, Tomokiyo K, Furuta K, Suzuki M, Noyori R : Anticancer
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15-deoxy-・・・・・・-prostaglandin J2 inhibits multiple steps in the NF-・B signaling pathway. Proc
Natl Aacd Sci USA 97, 4844‐4849 (2000)
[9] Rossi A, Kapahi P, Natoli G, Takahashi T, Chen Y, Karin M, Santoro MG: Anti-inflammatory cyclopentenone
prostaglandins are direct inhibitors of I-kappa-B kinase.
Nature 403, 103‐108 (2000)
[10] Satoh T, Furuta K, Tomokiyo K, Nakatsuka D, Miura M, Hatanaka H, Ikuta K, Suzuki M, Watanabe Y:
Facilitatory roles of novel compounds designed from cyclopentenone prostaglandins on the neurite
outgrowth-promoting activities of NGF.
J Neurochem
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[11] Satoh T, Furuta K, Tomokiyo K, Namra S, Nakatsuka D, Sugie Y, Ishikawa Y, Hatanaka H, Suzuki M, Watanabe
Y: Neurotrophic actions of novel compounds designed from cyclopentenone prostaglandins.
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J Neurochem
50-62 (2001)
[12] Negishi M, Odani N, Koizumi T, Takahashi S, Ichikawa A: Involvement of protein kinase in
・12-prostaglandin J2-induced expression of rat heme oxygenase-1 gene. FEBS lett 372, 279-282 (1995)
[13] Immenschuh S, Ramador G: Gene regulation of heme oxygenase-1 as a therapeutic target.
Biochem
Pharmacol 60: 1121-1128 (2000)
成果の発表
1) 原著論文による発表
イ) 国外誌
1.
Satoh T, Furuta K, Tomokiyo K, Namura S, Nakatsuka D, Sugie Y, Ishikawa Y, Hatanaka H, Suzuki M,
Watanabe Y (2001) Neurotrophic actions of novel compounds designed from cyclopentenone
prostaglandins.
2.
Furuta K, Tomokiyo K, Satoh T, Watanabe Y, Suzuki M (2000) Designed prostaglandins with neurotrophic
activities.
3.
J Neurochem 77:50-62.
Chem BioChem(4):283-285.
Satoh T, Furuta K,
Tomokiyo K, Nakatsuka D, Tanikawa M, Nakanishi M, Miura M, Tanaka S, Koike T,
Hatanaka H, Ikuta K, Suzuki M, Watanabe Y (2000) Facilitatory roles of novel compounds designed from
cyclopentenone prostaglandins on neurite outgrowth-promoting activities of nerve growth factor. J
240
Brain
attackから脳を守るための研究
Neurochem 75:1092-1102.
4.
Satoh T, Furuta K, Tomokiyo K, Suzuki M, Watanabe Y (2000) Designed cyclopentenone prostaglandin
derivatives as neurite outgrowth-promoting compounds for CAD cells, a rat catecholaminergic neuronal
cell line of the central nervous system. Neurosci lett 291:167-170.
5.
Satoh T, Nakatsuka D, Watanabe Y, Nagata I, Kikuchi H, Namura S (2000) Neuroprotection by MEK/ERK
kinase inhibition against oxidative stress in a mouse neuronal cell line and rat primary cultured
neurons.
6.
Neurosci Lett 288:163-166.
Satoh T, Furuta K, Suzuki M, Watanabe Y (1999) Prostaglandin J2 and its metabolites promote neurite
outgrowth induced by nerve growth factor in PC12 cells.
Biochem Biophys Res Comm 258:50-53.
3) 口頭発表
ア) 招待講演
1.
佐藤託実
「神経栄養因子様低分子化合物の創製と神経科学への応用」科学技術庁振興調整費目標達成型科
学研究「ブレインアタックから脳を守る研究セミナー」2002 年 1 月 31 日(千里ライフサイエンスセンター)
2.
佐藤託実
「神経栄養因子様低分子化合物による虚血性神経細胞死の制御」2000 年度日本神経科学会シンポ
ジウム「低分子化合物による神経細胞死の制御-分子レベルから個体レベルまで-」2000 年 9 月 5 日(パッシ
ィフィコ横浜)
3.
佐藤託実
「抗腫瘍性プロスタグランジンを基本骨格とした神経突起伸展活性と神経生存維持作用を併せ持
つ神経栄養因子様低分子化合物の創製と創薬への応用」協和発酵医薬研究所セミナー1999 年 10 月 20 日(協
和発酵医薬研究所)
4.
佐藤託実
「神経突起伸展/再生因子としてのジエノン型プロスタグランジン」1999 年 10 月度日本生化学会
シンポジウム「化学が息吹を与えた創造分子」1999 年 10 月 15 日(パッシィフィコ横浜)
5.
佐藤託実
「抗腫瘍性プロスタグランジンを基本骨格とした神経突起伸展活性と神経生存維持作用を併せ持
つ神経栄養因子様低分子化合物の創製と創薬への応用」国立循環器病センター研究所セミナー1999 年 9 月 29
日(国立循環器病センター研究所)
6.
佐藤託実 「神経突起伸展/再生因子としてのジエノン型プロスタグランジン」1999 年 6 月大阪大学蛋白質研
究所セミナー「脳神経細胞工学の新展開」1999 年 6 月 12 日(大阪大学蛋白質研究所)
イ) 応募・主催講演等
1.
Satoh T, Furuta K, Namura S, Suzuki M, Watanabe Y (2000) Novel neurotrophic compounds for CNS neurons
designed from cyclopentenone prostagandins. Nov 4-9, Soc Neurosci Abstr 30: 226.15.
2.
Satoh T, Furuta K, Tomokiyo K, Suzuki M, Watanabe Y (1999) Neurite outgrowth-/regeneration-promoting
prostaglandins. Oct 23-28, Soc Neurosci Abstr 29: 609.13.
3.
Nakatsuka D, Satoh T, Tanaka-Nakadate S, Watanabe Y, Nagata I, Kikuchi H, Namura S (2000)
Neuroprotection by MEK inhibition with U0126 against oxidative stress. Nov 4-9, Soc Neurosci Abstr
30: 702.11.
4.
佐藤託実、新貝鉚蔵、古田享史、 鈴木正昭、渡辺恭良:神経栄養因子様低分子化合物の創製と神経科学へ
の応用
5.
第 75 回日本薬理学会大会
抄録集 92 項、2002 年
佐藤託実、中塚大策、石川保幸、畠中寛、油谷浩幸、古田享史、鈴木正昭、渡辺恭良:Heme oxygenase-1
の誘導を介した神経栄養因子様低分子化合物による神経細胞生存維持機構
経化学合同大会
6.
第 24 会日本神経科学第 44 回神
抄録集 223 項、2001 年
佐藤託実、古田享史、友清圭一朗、 鈴木正昭、渡辺恭良:シクロペンテノン型プロスタグランジンを基本
241
Brain
attackから脳を守るための研究
骨格とした神経栄養因子様低分子化合物の開発
7.
第 73 回日本生化学会大会抄録集 930 項、2000 年
菊池晴彦、佐藤託実、中塚大策、渡辺恭良、永田泉、名村尚武:酸化ストレスによる神経細胞死に MEK/ERK
の活性化が必要である
第 23 会日本神経科学大会・第 10 回日本神経回路大会合同大会
抄録集 104 項、
2000
年
8.
中塚大策、佐藤託実、鈴木正昭、渡辺恭良:新規中枢特異的 PGI2 リガンドによる中枢コリン作動性ニュー
ロンの生存維持効果
第 23 会日本神経科学大会・第 10 回日本神経回路大会合同大会
抄録集 251 項、2000
年
9.
鈴木正昭、佐藤託実、古田享史、友清圭一朗、渡辺恭良:神経突起伸展/再生因子としてのプロスタグラン
ジン J2
10.
第 72 回日本生化学会大会抄録集 973 項、1999 年
催翼龍、片岡洋祐、佐藤託実、山県文、白川憲之、渡辺由美子、鈴木正昭、柳瀬尚人、片岡喜由、渡辺恭良:
虚血性神経細胞障害におけるプロスタサイクリン I2 誘導体の神経細胞保護作用
第 22 会日本神経科学大会
抄録集 168 項、1999 年
11.
佐藤託実、古田享史、友清圭一朗、鈴木正昭、渡辺恭良:プロスタグランジンの新規生理作用としての神経
突起再生作用
第 22 会日本神経科学大会
抄録集 299 項、1999 年
4) 特許等出願等
1.
佐藤託実、古田享史、渡辺恭良、鈴木正昭、名村尚武、出願日:平成 11 年 10 月 5 日、出願番号:特願平 11
−284110、、発明の名称:神経栄養因子様低分子化合物(ジエノン型プロスタグランジンを有効成分として含
有する、(i)神経突起/伸展作用、及び/又は(ii)神経細胞の生存維持作用を有する医薬品組成物)
2.
佐藤託実、古田享史、渡辺恭良、鈴木正昭、出願日:平成 11 年 4 月 9 日、出願番号:特願平 11−102459、発
明の名称:神経突起伸展/再生因子(ジエノン型プロスタグランジンを有効成分とし、神経細胞等の突起伸展
/再生を促進する新規な因子に関するものである)
242
Brain
attackから脳を守るための研究
1. 脳機能及び脳の病態生理に関する研究
1.3. 中枢神経再生能解明に関する研究
1.3.1. 機能的神経伝導路の再構築機構解明に関する研究
1.3.1.1. 神経突起マーカーを用いた神経再生至適グリア環境の解析
1.3.1.2. 神経線維の離断後の新たな架橋及び神経シナプス形成の解析
1.3.1.3. 神経移植を用いた神経線維再生誘導実験及び機能的回復の証明
京都大学大学院医学研究科
川口
要
三郎
約
ラット脊髄の個体発生過程における GAP-43 の時空間分布を調べた。GAP-43(growth-associated protein 43)
というのは神経が突起を伸長するときに発現するタンパクで、、それと並行して神経再生至適グリア環境の探索:
交配日を確定した SD 系妊娠ラットから取り出した胎生 10、11 日、12 日、13 日、14 日、15 日、16 日、18 日、20
日齢の胎仔と生後 0 日、4 日、7 日、10 日、14 日、17 日、21 日、28 日、42 日、63 日、84 日、105 日齢の同系ラ
ットを用い、GAP-43(growth-associated protein 43)の免疫活性を脊髄の部位を分けて検索した。すなわち、
白質では前索の内側(W1)と外側(W2)、灰白質では前角の内側(G1)と外側(G2)の 4 点で免疫活性を測定し、
その比をとって調べた。GAP-43 免疫活性は胎生 10 日齢の脊髄には認められなかったが、胎生 10 日齢になると、
神経管の lateral exit zone と後根神経節に出現した。しかし後根には検出されなかった。胎生 12 日齢になると
前角運動神経細胞、前根、lateral exit zone、後根、背側辺縁帯、後根神経節に発現した。胎生 13 日齢には背
側辺縁帯で活性が強くなり、前角では弱くなった。胎生 15 日齢には脊髄上行路、下行路に活性を示す成長円錐樣
の構造が出現した。胎生 16 日齢には背側辺縁帯は白質の形を成すようになり、ここに強い活性が認められた。胎
生 18 日齢には、後索、とりわけ薄束が強度陽性となり、後角に免疫活性を示す細胞体や線維が確認された。胎生
18 日齢には、灰白質における神経突起や神経線維の活性が増加した。生後 0 日齢になると白質における活性が目
立つようになった。生後 1 週齢の間に、腹外側索、背外側索と後角、前角の灰白質で活性が増強し、楔状束や薄
束では減弱した。生後 2∼3 週齢には灰白質での活性がさらに増強した。4 週齢には白質では活性は減弱し、皮質
脊髄路のみで残存する成熟ラットのパターンとなった。このような GAP-43 の個体発生過程における時空間分布の
解明は再生過程をよく理解するために重要なデータとなるものと思われる。
神経再生至適グリア環境の探索:反応性アストロサイトや collagen type 4 が神経再生を促進するか、妨げる
かについて古くから議論があり、決着がついていない。また、古くからグリア瘢痕が再生を妨げると考えられて
きたが、再生の失敗が先かグリア瘢痕の形成が先かについては明らかにされていない。我々は幼若ラットの脊髄
を鋭利に、あるいは鈍的に半側以上(過半側)切断した標本を作成し、皮質脊髄路を蛍光色素で順行性に標識し、
再生成功例と再生失敗例について、損傷部局所の反応性アストロサイトと関連分子の発現をを免疫組織学的に検
索し、上記の問題に対して解答を与え、神経再生至適グリア環境を明らかにしようとした。鋭利に切断すれば再
生が起こり、その際、再生線維は collagen type 4 の発現した脈管樣構造物に侵入した。損傷部には GFAP 陽性、
vimentin 陽性の反応性アストロサイトが出現する。鈍的に切断すれば、再生は失敗に終るが、その際、損傷初期
243
Brain
attackから脳を守るための研究
には損傷部からアストロサイトが消失した。その後 collagen type 4 陽性のシート状細胞外基質が現れ、グリア
瘢痕が形成された。反応性アストロサイトと関連分子の時空間分布から、反応性アストロサイトや collagen type
4 は発現のタイミングと発現の場によって再生促進的にも抑制的にも働き得ること、グリア瘢痕や collagen type
4 陽性のシート状細胞外基質は再生失敗の原因であるより、結果であることが判明した。反応性アストロサイト
が損傷部に損傷の早期に出現するか否かが再生が成功するか失敗に終るかを決める決定的な要因であり、神経再
生至適グリア環境を作るのは反応性アストロサイトであろうと考えられた。
これまでの検討から、哺乳動物の胎仔組織には中枢神経軸索再生促進因子が存在することが予測されたが、そ
れが拡散性因子であるという確証はなかった。そこでブタ胎仔脳細胞質分画を調製し、これを成熟ラット脊髄切
断モデルに対して投与して、軸索再生の有無を検討した。また、この分画の脊髄損傷部に対する効果と培養グリ
ア細胞に対する効果も検討した。成熟ラットの脊髄切断後にブタ胎仔脳細胞質分画を投与すれば、比率は少ない
ものの量的にも十分な軸索再生を誘導することが出来た。また、この分画には、in vivo、in vitro 両系において、
アストロサイトまたはその突起を一直線に配列する活性があることがわかった。以上より、ブタ胎仔脳には中枢
軸索再生を促進する拡散性分子が存在がすることが推測された。
研究目的
幼若な哺乳動物の中枢伝導路は、鋭利な切断後に量的にも距離的にも経路に於いても正常の伝導路とほぼ同様
の再生線維の伸長(非制限的再生)が認められるのに対して、成熟哺乳動物ではいくら鋭利に切断しても再生は
認められない。しかし、成熟動物でも切断部局所に於いて、成長円錐様構造物をその先端にもちながら灰白質の
方向に 90 度方向転換している線維を多数認めたり、中には 180 度方向を変えて U-ターンしている線維も認めるこ
とより、決して成熟哺乳動物の軸索線維は再生能に乏しいわけではなく、線維そのものは成熟動物になっても十
分に再生能を持っているが、本来の経路に沿って伸展しようとしている線維を切断部局所の何かが障害している
ように見受けられる。一方、成熟動物の脊髄を鋭利に切断すると同時に切断部に胎仔組織を移植した場合には、
幼若動物に認められたのと同様の非制限的再生を認めることから、胎仔組織には成熟動物脊髄切断部局所を軸索
再生に阻害的な環境から促進的な環境に変える拡散性因子が存在することが予測される。そこで、我々はこの因
子が哺乳動物胎仔中枢神経組織の細胞質分画に存在する事を証明し、またこの因子の中枢神経組織に対する効果
を知るために以下の実験を行った。
研究方法
1)
ブタ胎仔脳細胞質分画の調製
妊娠ブタを麻酔下に帝王切開して摘出したブタ胎仔(E50∼E80)から脳を採取し、直ちに液体窒素で凍結後、
protease inhibitor を含む buffer で 10%(w/v)に homogenize し、4℃・16000xg・60 分間遠心。上清を凍結乾燥
し、ブタ胎仔脳細胞質分画を得た。(脳凍結湿重量の約 20%重量の細胞質分画を得た。)
2)
ブタ胎仔脳細胞質分画の効果の検討(in vivo)
2a)
成熟ラット脊髄切断モデルへの投与
成熟ラット(Sprague-Dawley rats, P74, female, n=20)を第 11 胸髄レベルで右半側切断(over-hemisection)
し、spongelR (Yamanouchi)に吸収させたブタ胎仔脳細胞質分画(生理食塩水で 25mg/ml 濃度に調製)を切断局所
に被覆した。対照群として生理的食塩水を吸収させた spongelR を被覆した成熟ラット(Sprague-Dawley rats, P74,
female, n=10)と比較した。
244
Brain
2b)
attackから脳を守るための研究
切断局所の免疫組織蛍光法による検討
ブタ胎仔脳細胞質分画投与群(n=8)と生食投与群(n=5)を術後 3 日目に 4%paraformaldehyde で潅流固定した。
20%sucrose 滲漬による cryoprotection 後に 30μm 凍結切片を作成し、切断局所の分子発現を以下の抗体を用い
て免疫組織蛍光法により検討した。一次抗体として抗 glial fibrillary acidic protein (GFAP)抗体(mouse
monoclonal IgG, GA-5, Behringer, 0.5 mg/ml)、抗 neurofillament 抗体(mouse monoclonal IgG, Behringer,
1mg/ml)、抗 collagen typeIV 抗体(gout polyclonal IgG, Chemicon, 1mg/ml)を 4℃・24 時間反応させた後、
二次抗体として抗 mouse IgG-FITC (Southern Biotechnology , 2mg/ml)、抗 gout IgG-TRITC(Chemicon, 2mg/ml)
を 4℃・12 時間反応させ、蛍光顕微鏡下に観察した。
2c)
成熟ラット脊髄切断モデルの順行性 tracer study
ブタ胎仔脳細胞質分画投与群(n=12)と生食投与群(n=5)を脊髄切断 26 日後に左赤核に WGA-HRP(5%)を注入し、注
入後 48 時間後に 4%paraformaldehyde で潅流固定し、diaminobenzidine で発色し、顕微鏡暗視野で観察し、軸索
再生の有無を検討した。
3)
ブタ胎仔脳細胞質分画の効果の検討(in vitro)
3a)
培養グリア細胞に対するブタ胎仔脳細胞質分画の効果の検討
昨年報告したラット大脳皮質由来細胞の二次長期培養系をやや改変して用いた。変更点は strain を Wistar か
ら Sprague-Dawley に変更したことと、二次培養系から三次培養に subculture するときに同時にブタ胎仔脳細胞
質分画を投与したことである。分画の投与後 7 日後に位相差顕微鏡で細胞の形態を観察した。対照として、
subculture と同時に等量の生食を添加したものと比較した。
3b)
培養グリア細胞の免疫細胞学的検討
細胞発現抗原を以下の免疫蛍光法で染色した後、蛍光顕微鏡で観察した。免疫蛍光法:4% paraformaldehyde
(PFA)で室温・5 分間固定後、一次抗体;抗 glial fibrillary acidic protein (GFAP)抗体(mouse monoclonal IgG,
GA-5, Behringer, 0.5 mg/ml)、抗 vimentin 抗体(mouse monoclonal IgG, Sigma, 1mg/ml)で 4℃・12 時間反応
後、二次抗体;抗 mouse IgG-FITC (Southern Biotechnology , 2mg/ml)で室温・2 時間反応させた。
研究成果
1) ブタ胎仔脳細胞質分画の効果(in vivo)
生理的食塩水投与の対照群では、WGA-HRP でラベルされた赤核脊髄路神経軸索はいずれも切断局所で停止してお
り、切断部を越えて伸長した再生線維を全く認めなかった。しかし、切断部には成長円錐様構造物を先端にもち
ながら、灰白質に向かって 90 度方向転換している線維を多く認め、中には U-ターンしている線維も認めたことか
ら、決してこれらの成熟ラットの神経線維も再生能に乏しい訳ではなく、本来再生して伸びて行こうとしながら
も切断部に存在する壁に行く手を阻まれた為に他の目的地を探しているかに見うけられた。一方、ブタ胎児脳細
胞質分画投与群では、比率は少ないが(12 匹中 3 匹)WGA-HRP でラベルされた赤核脊髄路神経軸索が切断局所を
越えてより尾側に伸長し、明らかな軸索再生を認めた。これらのうち条件の良いものでは、再生線維の量におい
ても、伸長距離においても、走行経路の観点からも正常のそれとは同様の再生(非限定的再生)を認めた。また、
ブタ胎仔脳細胞質分画が局所のアストロサイトに対して及ぼす影響を免疫蛍光法で検討した結果は、ブタ胎仔脳
細胞質分画投与群では切断局所の GFAP 陽性アストロサイト突起は軸索の伸長方向に対して対して平行に走行して
いたのに対して、対照群では切断局所の GFAP 陽性アストロサイト突起は方向がランダムであった。さらに、生食
245
Brain
attackから脳を守るための研究
投与の対照群では切断局所に GFAP 染色性に乏しいアストロサイト−フリー領域を認めたのに対して、 ブタ胎仔脳
細胞質分画では切断局所にアストロサイト−フリー領域が生じがたい傾向を認めた。
2) ブタ胎仔脳細胞質分画の効果の検討(in vitro)
対照群培養グリアでは、単層のアストロサイトの上に小型の細胞が散在するが、細胞の配列に一定の規則性は
認められなかったのに対して、ブタ胎仔脳細胞質分画を subculture と同時に添加したウェルでは、アストロサイ
トは単層を形成せず、盛り上がった細胞の集属を中心として紡錘状の形態をして突起を持った細胞が放射状に配
列する傾向を認めた。放射状に整列した細胞は、突起を含めて一直線に配列していた。ブタ胎仔脳細胞質分画の
培養細胞に対する影響を免疫蛍光法によって検討した結果、ブタ胎仔脳細胞質分画を投与したウェルは、対照群
と比較して相対的に全体の細胞数密度が減少し、大型の GFAP 陽性細胞も減少し、vimentin 陽性で小型で紡錘状の
形態の細胞が相対的に増加した。
考
察
成熟ラット脊髄切断部にブタ胎仔脳細胞質分画を添加する事により通常では認められない成熟ラットにおける
神経伝導路の非限定的再生を認めたことは、ブタ胎仔脳細胞質分画には成熟動物脊髄切断部局所を軸索再生に阻
害的な環境から促進的な環境に変える因子が存在することが証明されたと考えられる。この事は、これまでの胎
仔組織全体から細胞質分画へと範囲が狭められたと言う点で一歩前進したと考えられる。しかし今後、細胞質分
画からさらに範囲を絞り込んで行くことが必要であり、その為にはこの再生誘導因子の生物活性を判定できる in
vivo の実験系だけでなく、操作がより簡便で定量的解析や多検体の処理も可能な in vitro の実験系の確立が必須
と考えられる。しかしながら、in vivo において脊髄損傷局所の環境を作っているのは、切断と同時に引き起こさ
れる局所の出血、そこで活性化されるリンパ球・単球・血管内皮細胞やそれらから放出される炎症性サイトカイ
ン、さらにこれらにさらされるアストロサイト・oligodendroglia・マイクログリアの反応など、複雑な多くの一
連の連鎖反応であり、これらの複数の連鎖反応の総合的結果として脊髄損傷局所の環境が作られるものと考えら
れる。ブタ胎仔脳細胞質分画が成熟ラット脊髄損傷に対して有効であったことは、脊髄切断時に引き起こされる
このような複数の連鎖反応の中で、軸索再生に対して重要な働きをするある反応に対して効果があったというこ
とであり、これら一連の複雑な連鎖反応の中からどの反応が軸索再生に対してクリティカルであるかを知ること
が重要である。そして、そのクリティカルな反応系のみを抽出して、これを in vitro の実験系とすればよい。一
方、脊髄損傷時に損傷が強い場合には損傷部付近にアストロサイトの認められない領域を認め、このアストロサ
イトが存在しないことが軸索非再生のクリティカルポイントとも考えられる。そこで今回我々は、この損傷部局
所環境を作っている主役はアストロサイトであろうと仮定し、in vitro 実験系を作成してみた。ブタ胎仔脳細胞
質分画の培養アストロサイトにたいする効果を検討したところ、ブタ胎仔脳細胞質分画はアストロサイトを一直
線に配列させる活性があることが判明した。一方、ブタ胎仔脳細胞質分画の in vivo における活性検査でも GFAP
免疫染色でブタ胎仔脳細胞質分画は損傷部付近のアストロサイトの突起を一直線に並ばせる活性を持ち、in vitro
活性と同様であった。
結
論
成熟ラットの脊髄切断後にブタ胎仔脳細胞質分画を投与すれば、比率は少ないものの量的にも十分な軸索再生
を誘導することが出来たことから、ブタ胎仔脳細胞質分画には中枢軸索再生促進分子が存在するものと推測され
た。
また、この分画には、アストロサイトまたはその突起を一直線に配列する活性があることがわかった。
246
Brain
attackから脳を守るための研究
成果の発表
1) 原著論文による発表
イ)国外誌
1.
Murata M and Kawaguchi S, Path and target finding of afferents in cerebellar anlagen grafted in the
cerebellum of adult rats: a Phaseolus vulgaris leucoaggulutinin study Neurosci Res. 28: 249-259,
1997.
2.
Inoue T, Kawaguchi S and Kurisu K, Spontaneous regeneration of the pyramidal tract after transection
in young rats Neurosci Lett.247: 151-154, 1998.
3.
Asada Y,
Kawaguchi S, Hayashi H and Nakamura T, Neural repair of the injured spinal cord by grafting:
comparison between peripheral nerve segments and embryonic homologous structures as a conduit of
CNS axons Neurosci Res 31: 241-249, 1998.
4.
Kikukawa S, Kawaguchi S, Mizoguchi A, Ide C and Koshinaga M, Regeneration of dorsal column axons
after spinal cord injury in young rats Neurosci Lett 249: 135-138, 1998.
5.
Ito J, Kawaguchi S, Nakajima K and Mori S, Axonal regeneration with functional restoration in the
vestibulospinal tract in young rats
6.
Neurosci Res 32: 149-156, 1998.
Ito J, Murata M and Kawaguchi S, Spontaneous regeneration and recovery of hearing function of the
central auditory pathway in young rats
7.
Ito J, Murata M and Kawaguchi S,
Neurosci Lett 254: 173-176, 1998.
Regeneration of the lateral vestibulospinal tract in adult rats
by transplants of embryonic brain tissue
8.
Ito J, Murata M and Kawaguchi S,
Regeneration of the auditory pathway in adult rats by transplants
of fetal brain tissue NeuroReport
9.
Neurosci Lett. 259: 67-70, 1998.
9: 3815-3817, 1998.
Kawaguchi S, Kojima K, Hasebe T, Kikukawa S, Murata M and Iwashita Y, Spinal cord repair in adult
rats: restoration of corticospinal and rubrospinal tracts to almost normal extent. Eds. Uemura K,
Kawamura K, and Yazaki T, Neural Development, Keio University Symposia for Life Science and Medicine
2, Springer Verlag, p.506, 1999.
10.
Ito J, Murata M and Kawaguchi S, Regeneration of the central auditory pathway in adult rats
Acta
Otolaryngol (Stockh). 119: 132-134, 1999.
11.
Ito J, Murata M, Kawaguchi S.
Regeneration of the lateral vestibulospinal tract in adult rats by
transplants of embryonic brain tissue.
12.
Ito J, Kawaguchi S.
model.
13.
Neurosci Lett. 1999 Jan 8;259(2):67-70.
Regeneration of the mammalian central vestibular pathway using the rat as animal
Eur Arch Otorhinolaryngol. 1999;256(9):442-4.
Kawasaki T, Nishio T, Kawaguchi S, Kurosawa H.
Spatiotemporal distribution of GAP-43 in the
developing rat spinal cord: a histological and quantitative immunofluorescence study.
Neurosci Res.
2001 Mar;39(3):347-58.
14.
Ito J, Murata M, Kawaguchi S.
Regeneration and recovery of the hearing function of the central
auditory pathway by transplants of embryonic brain tissue in adult rats.
Exp Neurol. 2001
May;169(1):30-5.
15.
Ito J, Kojima K, Kawaguchi S.
Survival of neural stem cells in the cochlea. Acta Otolaryngol. 2001
Jan;121(2):140-2.
16.
Hase T, Kawaguchi S, Hayashi H, Nishio T, Asada Y, Nakamura T. Locomotor performance of the rat after
neonatal repairing of spinal cord injuries: quantitative assessment and electromyographic study.
247
Brain
attackから脳を守るための研究
J Neurotrauma. 2002 Feb;19(2):267-77.
17.
Hase T, Kawaguchi S, Hayashi H, Nishio T, Mizoguchi A, Nakamura T.
Spinal cord repair in neonatal
rats: a correlation between axonal regeneration and functional recovery.
Eur J Neurosci. 2002
Mar;15(6):969-74.
2)原著論文以外による発表(レビュー等)
ア) 国内誌
1.
川口三郎: 中枢神経系の再生の困難さとその克服. 脳の科学 20: 1165-1173, 1998.
2.
川口三郎: 損傷脊髄伝導路の再生の困難さとその克服. 脊椎脊髄ジャーナル 12: 395-404, 1999.
イ)国外誌
S Kawaguchi and T Nishio Repair of mammalian central nervous pathways: attempts to reconstruct normal
neural connections with marked functional recovery
“Strategic medical science against brain attack”
ed. by Kikuch H. Springer, Tokyo pp. 21-27, 2002
3)口頭発表
イ)応募・主催講演等
1.
川口三郎:第 20 回日本神経外傷研究会
2 月 21 日
2.
東京
招待講演「中枢神経伝導路の再生と神経回路網の再構築」1997 年
於:安田火災海上本社ビル
川口三郎:第 7 回日本耳科学会総会
シンポジウム「中枢神経系の修復」1997 年 10 月 24 日
高知
於:
高知新阪急ホテル
3.
川口三郎:第 41 回日本形成外科学会学術集会
都
4.
教育講演 「中枢神経系の可塑性」 1998 年 4 月 24 日
於:都ホテル
菊川素規、川口三郎、溝口
明、井出千束、越永守道:幼若ラットにおける脊髄損傷後の後索路の再生 第
21 回日本神経科学・第 41 回日本神経化学合同大会
5.
1998 年 9 月 23 日、東京、抄録集 P.425
伊藤寿一、村田宮彦、川口三郎:成ラット中枢聴覚路切断後の再生と機能回復
41 回日本神経化学合同大会
6.
京
吉田
第 21 回日本神経科学・第
1998 年 9 月 23 日、東京、抄録集 P.425
林、矢崎貴仁、川口三郎、植村慶一:L1cDNA を含む変異ウイルスベクターを用いた遺伝子導入法に
よる中枢神経系の再生促進効果
第 21 回日本神経科学・第 41 回日本神経化学合同大会
1998 年 9 月 23 日、
東京、抄録集 P.427
7.
川口三郎:第 10 回神経損傷の基礎シンポジウム
28 日
8.
東京
特別講演「脊髄損傷の神経修復の可能性」1998 年 11 月
於:ザ・フォーラム
川口三郎:第 25 回日本医学会総会シンポジウム
「脊髄損傷の神経修復の可能性」1999 年 4 月 3 日
東京
於:
東京ビッグサイト
9.
川口三郎:第 6 回 Spine Frontier 講演「脊髄損傷の神経修復」1999 年 7 月 30 日
宮崎
於:宮崎ワール
ドコンベンションセンター
10.
川口三郎:第 18 回日本骨・関節・軟部組織移植研究会
日
11.
東京
於:三井海上本社ビル
Kawaguchi S: Neural repair of soinal cord injury The Fourth International Symposium of Tissue
Engineering for Therapeutic Use.
12.
招待講演「脊髄損傷の神経修復」1999 年 9 月 19
Kyoto 23-24 September 1999
川口三郎:「日本せきずい基金」発会式 基調講演「脊髄損傷の神経修復:車椅子からの解放を目指して」
248
Brain
attackから脳を守るための研究
1999 年 10 月 2 日
13.
東京 於:江戸川区総合区民ホール
川口三郎:第 6 回東海ニューロサイエンス研究会
指して」1999 年 11 月 13 日
14.
名古屋
於:鶴友会館
川口三郎:第 73 回日本整形外科学会学術集会
の解放を目指して」2000 年 4 月 7 日
15.
NHK教育テレビ
16.
西尾健資
川口三郎
学会大会
京都
特別講演「脊髄損傷の神経修復:車椅子からの解放を目
ランチョンレクチャー「脊髄損傷の神経修復:車椅子から
神戸 於:神戸国際会議場
サイエンスアイ 6 月 10 日放送「神経ネットワークは再生できるか」2000 年
成熟ラット脊髄切断モデルに対するブタ胎仔脳細胞質分画の効果
3.29-31.
2001
4) 特許等出願等
特許出願 2001-253586
発明者
川口三郎・西尾健資
特許出願人
藤沢薬品工業株式会社
発明の名称
脊髄損傷治療剤、並びにヒト及び他の哺乳動物における脊髄損傷の治療方法
提出日
平成 13 年 8 月 23 日
249
第 78 回日本生理
Brain
attackから脳を守るための研究
1. 脳機能及び脳の病態生理に関する研究
1.3. 中枢神経再生能解明に関する研究
1.3.1. 機能的神経伝導路の再構築機構解明に関する研究
1.3.1.1. 神経突起マーカーを用いた神経再生至適グリア環境の解析
1.3.1.2. 神経線維の離断後の新たな架橋及び神経シナプス形成の解析
1.3.1.3. 神経移植を用いた神経線維再生誘導実験及び機能的回復の証明
京都大学大学院医学研究科
川口
要
三郎
約
ラット脊髄の個体発生過程における GAP-43 の時空間分布を調べた。GAP-43(growth-associated protein 43)
というのは神経が突起を伸長するときに発現するタンパクで、、それと並行して神経再生至適グリア環境の探索:
交配日を確定した SD 系妊娠ラットから取り出した胎生 10、11 日、12 日、13 日、14 日、15 日、16 日、18 日、20
日齢の胎仔と生後 0 日、4 日、7 日、10 日、14 日、17 日、21 日、28 日、42 日、63 日、84 日、105 日齢の同系ラ
ットを用い、GAP-43(growth-associated protein 43)の免疫活性を脊髄の部位を分けて検索した。すなわち、
白質では前索の内側(W1)と外側(W2)、灰白質では前角の内側(G1)と外側(G2)の 4 点で免疫活性を測定し、
その比をとって調べた。GAP-43 免疫活性は胎生 10 日齢の脊髄には認められなかったが、胎生 10 日齢になると、
神経管の lateral exit zone と後根神経節に出現した。しかし後根には検出されなかった。胎生 12 日齢になると
前角運動神経細胞、前根、lateral exit zone、後根、背側辺縁帯、後根神経節に発現した。胎生 13 日齢には背
側辺縁帯で活性が強くなり、前角では弱くなった。胎生 15 日齢には脊髄上行路、下行路に活性を示す成長円錐樣
の構造が出現した。胎生 16 日齢には背側辺縁帯は白質の形を成すようになり、ここに強い活性が認められた。胎
生 18 日齢には、後索、とりわけ薄束が強度陽性となり、後角に免疫活性を示す細胞体や線維が確認された。胎生
18 日齢には、灰白質における神経突起や神経線維の活性が増加した。生後 0 日齢になると白質における活性が目
立つようになった。生後 1 週齢の間に、腹外側索、背外側索と後角、前角の灰白質で活性が増強し、楔状束や薄
束では減弱した。生後 2~3 週齢には灰白質での活性がさらに増強した。4 週齢には白質では活性は減弱し、皮質
脊髄路のみで残存する成熟ラットのパターンとなった。このような GAP-43 の個体発生過程における時空間分布の
解明は再生過程をよく理解するために重要なデータとなるものと思われる。
神経再生至適グリア環境の探索:反応性アストロサイトや collagen type 4 が神経再生を促進するか、妨げる
かについて古くから議論があり、決着がついていない。また、古くからグリア瘢痕が再生を妨げると考えられて
きたが、再生の失敗が先かグリア瘢痕の形成が先かについては明らかにされていない。我々は幼若ラットの脊髄
を鋭利に、あるいは鈍的に半側以上(過半側)切断した標本を作成し、皮質脊髄路を蛍光色素で順行性に標識し、
再生成功例と再生失敗例について、損傷部局所の反応性アストロサイトと関連分子の発現をを免疫組織学的に検
索し、上記の問題に対して解答を与え、神経再生至適グリア環境を明らかにしようとした。鋭利に切断すれば再
生が起こり、その際、再生線維は collagen type 4 の発現した脈管樣構造物に侵入した。損傷部には GFAP 陽性、
vimentin 陽性の反応性アストロサイトが出現する。鈍的に切断すれば、再生は失敗に終るが、その際、損傷初期
250
Brain
attackから脳を守るための研究
には損傷部からアストロサイトが消失した。その後 collagen type 4 陽性のシート状細胞外基質が現れ、グリア
瘢痕が形成された。反応性アストロサイトと関連分子の時空間分布から、反応性アストロサイトや collagen type
4 は発現のタイミングと発現の場によって再生促進的にも抑制的にも働き得ること、グリア瘢痕や collagen type
4 陽性のシート状細胞外基質は再生失敗の原因であるより、結果であることが判明した。反応性アストロサイト
が損傷部に損傷の早期に出現するか否かが再生が成功するか失敗に終るかを決める決定的な要因であり、神経再
生至適グリア環境を作るのは反応性アストロサイトであろうと考えられた。
これまでの検討から、哺乳動物の胎仔組織には中枢神経軸索再生促進因子が存在することが予測されたが、そ
れが拡散性因子であるという確証はなかった。そこでブタ胎仔脳細胞質分画を調製し、これを成熟ラット脊髄切
断モデルに対して投与して、軸索再生の有無を検討した。また、この分画の脊髄損傷部に対する効果と培養グリ
ア細胞に対する効果も検討した。成熟ラットの脊髄切断後にブタ胎仔脳細胞質分画を投与すれば、比率は少ない
ものの量的にも十分な軸索再生を誘導することが出来た。また、この分画には、in vivo、in vitro 両系において、
アストロサイトまたはその突起を一直線に配列する活性があることがわかった。以上より、ブタ胎仔脳には中枢
軸索再生を促進する拡散性分子が存在がすることが推測された。
研究目的
幼若な哺乳動物の中枢伝導路は、鋭利な切断後に量的にも距離的にも経路に於いても正常の伝導路とほぼ同様
の再生線維の伸長(非制限的再生)が認められるのに対して、成熟哺乳動物ではいくら鋭利に切断しても再生は
認められない。しかし、成熟動物でも切断部局所に於いて、成長円錐様構造物をその先端にもちながら灰白質の
方向に 90 度方向転換している線維を多数認めたり、中には 180 度方向を変えて U-ターンしている線維も認めるこ
とより、決して成熟哺乳動物の軸索線維は再生能に乏しいわけではなく、線維そのものは成熟動物になっても十
分に再生能を持っているが、本来の経路に沿って伸展しようとしている線維を切断部局所の何かが障害している
ように見受けられる。一方、成熟動物の脊髄を鋭利に切断すると同時に切断部に胎仔組織を移植した場合には、
幼若動物に認められたのと同様の非制限的再生を認めることから、胎仔組織には成熟動物脊髄切断部局所を軸索
再生に阻害的な環境から促進的な環境に変える拡散性因子が存在することが予測される。そこで、我々はこの因
子が哺乳動物胎仔中枢神経組織の細胞質分画に存在する事を証明し、またこの因子の中枢神経組織に対する効果
を知るために以下の実験を行った。
研究方法
1)
ブタ胎仔脳細胞質分画の調製
妊娠ブタを麻酔下に帝王切開して摘出したブタ胎仔(E50~E80)から脳を採取し、直ちに液体窒素で凍結後、
protease inhibitor を含む buffer で 10%(w/v)に homogenize し、4℃・16000xg・60 分間遠心。上清を凍結乾燥
し、ブタ胎仔脳細胞質分画を得た。(脳凍結湿重量の約 20%重量の細胞質分画を得た。)
2)
ブタ胎仔脳細胞質分画の効果の検討(in vivo)
2a)
成熟ラット脊髄切断モデルへの投与
成熟ラット(Sprague-Dawley rats, P74, female, n=20)を第 11 胸髄レベルで右半側切断(over-hemisection)
し、spongelR (Yamanouchi)に吸収させたブタ胎仔脳細胞質分画(生理食塩水で 25mg/ml 濃度に調製)を切断局所
に被覆した。対照群として生理的食塩水を吸収させた spongelR を被覆した成熟ラット(Sprague-Dawley rats, P74,
female, n=10)と比較した。
251
Brain
2b)
attackから脳を守るための研究
切断局所の免疫組織蛍光法による検討
ブタ胎仔脳細胞質分画投与群(n=8)と生食投与群(n=5)を術後 3 日目に 4%paraformaldehyde で潅流固定した。
20%sucrose 滲漬による cryoprotection 後に 30μm 凍結切片を作成し、切断局所の分子発現を以下の抗体を用い
て免疫組織蛍光法により検討した。一次抗体として抗 glial fibrillary acidic protein (GFAP)抗体(mouse
monoclonal IgG, GA-5, Behringer, 0.5 mg/ml)、抗 neurofillament 抗体(mouse monoclonal IgG, Behringer,
1mg/ml)、抗 collagen typeIV 抗体(gout polyclonal IgG, Chemicon, 1mg/ml)を 4℃・24 時間反応させた後、
二次抗体として抗 mouse IgG-FITC (Southern Biotechnology , 2mg/ml)、抗 gout IgG-TRITC(Chemicon, 2mg/ml)
を 4℃・12 時間反応させ、蛍光顕微鏡下に観察した。
2c)
成熟ラット脊髄切断モデルの順行性 tracer study
ブタ胎仔脳細胞質分画投与群(n=12)と生食投与群(n=5)を脊髄切断 26 日後に左赤核に WGA-HRP(5%)を注入し、注
入後 48 時間後に 4%paraformaldehyde で潅流固定し、diaminobenzidine で発色し、顕微鏡暗視野で観察し、軸索
再生の有無を検討した。
3)
ブタ胎仔脳細胞質分画の効果の検討(in vitro)
3a)
培養グリア細胞に対するブタ胎仔脳細胞質分画の効果の検討
昨年報告したラット大脳皮質由来細胞の二次長期培養系をやや改変して用いた。変更点は strain を Wistar か
ら Sprague-Dawley に変更したことと、二次培養系から三次培養に subculture するときに同時にブタ胎仔脳細胞
質分画を投与したことである。分画の投与後 7 日後に位相差顕微鏡で細胞の形態を観察した。対照として、
subculture と同時に等量の生食を添加したものと比較した。
3b)
培養グリア細胞の免疫細胞学的検討
細胞発現抗原を以下の免疫蛍光法で染色した後、蛍光顕微鏡で観察した。免疫蛍光法:4% paraformaldehyde
(PFA)で室温・5 分間固定後、一次抗体;抗 glial fibrillary acidic protein (GFAP)抗体(mouse monoclonal IgG,
GA-5, Behringer, 0.5 mg/ml)、抗 vimentin 抗体(mouse monoclonal IgG, Sigma, 1mg/ml)で 4℃・12 時間反応
後、二次抗体;抗 mouse IgG-FITC (Southern Biotechnology , 2mg/ml)で室温・2 時間反応させた。
研究成果
1) ブタ胎仔脳細胞質分画の効果(in vivo)
生理的食塩水投与の対照群では、WGA-HRP でラベルされた赤核脊髄路神経軸索はいずれも切断局所で停止してお
り、切断部を越えて伸長した再生線維を全く認めなかった。しかし、切断部には成長円錐様構造物を先端にもち
ながら、灰白質に向かって 90 度方向転換している線維を多く認め、中には U-ターンしている線維も認めたことか
ら、決してこれらの成熟ラットの神経線維も再生能に乏しい訳ではなく、本来再生して伸びて行こうとしながら
も切断部に存在する壁に行く手を阻まれた為に他の目的地を探しているかに見うけられた。一方、ブタ胎児脳細
胞質分画投与群では、比率は少ないが(12 匹中 3 匹)WGA-HRP でラベルされた赤核脊髄路神経軸索が切断局所を
越えてより尾側に伸長し、明らかな軸索再生を認めた。これらのうち条件の良いものでは、再生線維の量におい
ても、伸長距離においても、走行経路の観点からも正常のそれとは同様の再生(非限定的再生)を認めた。また、
ブタ胎仔脳細胞質分画が局所のアストロサイトに対して及ぼす影響を免疫蛍光法で検討した結果は、ブタ胎仔脳
細胞質分画投与群では切断局所の GFAP 陽性アストロサイト突起は軸索の伸長方向に対して対して平行に走行して
いたのに対して、対照群では切断局所の GFAP 陽性アストロサイト突起は方向がランダムであった。さらに、生食
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Brain
attackから脳を守るための研究
投与の対照群では切断局所に GFAP 染色性に乏しいアストロサイト-フリー領域を認めたのに対して、ブタ胎仔脳
細胞質分画では切断局所にアストロサイト-フリー領域が生じがたい傾向を認めた。
2) ブタ胎仔脳細胞質分画の効果の検討(in vitro)
対照群培養グリアでは、単層のアストロサイトの上に小型の細胞が散在するが、細胞の配列に一定の規則性は
認められなかったのに対して、ブタ胎仔脳細胞質分画を subculture と同時に添加したウェルでは、アストロサイ
トは単層を形成せず、盛り上がった細胞の集属を中心として紡錘状の形態をして突起を持った細胞が放射状に配
列する傾向を認めた。放射状に整列した細胞は、突起を含めて一直線に配列していた。ブタ胎仔脳細胞質分画の
培養細胞に対する影響を免疫蛍光法によって検討した結果、ブタ胎仔脳細胞質分画を投与したウェルは、対照群
と比較して相対的に全体の細胞数密度が減少し、大型の GFAP 陽性細胞も減少し、vimentin 陽性で小型で紡錘状の
形態の細胞が相対的に増加した。
考
察
成熟ラット脊髄切断部にブタ胎仔脳細胞質分画を添加する事により通常では認められない成熟ラットにおける
神経伝導路の非限定的再生を認めたことは、ブタ胎仔脳細胞質分画には成熟動物脊髄切断部局所を軸索再生に阻
害的な環境から促進的な環境に変える因子が存在することが証明されたと考えられる。この事は、これまでの胎
仔組織全体から細胞質分画へと範囲が狭められたと言う点で一歩前進したと考えられる。しかし今後、細胞質分
画からさらに範囲を絞り込んで行くことが必要であり、その為にはこの再生誘導因子の生物活性を判定できる in
vivo の実験系だけでなく、操作がより簡便で定量的解析や多検体の処理も可能な in vitro の実験系の確立が必須
と考えられる。しかしながら、in vivo において脊髄損傷局所の環境を作っているのは、切断と同時に引き起こさ
れる局所の出血、そこで活性化されるリンパ球・単球・血管内皮細胞やそれらから放出される炎症性サイトカイ
ン、さらにこれらにさらされるアストロサイト・oligodendroglia・マイクログリアの反応など、複雑な多くの一
連の連鎖反応であり、これらの複数の連鎖反応の総合的結果として脊髄損傷局所の環境が作られるものと考えら
れる。ブタ胎仔脳細胞質分画が成熟ラット脊髄損傷に対して有効であったことは、脊髄切断時に引き起こされる
このような複数の連鎖反応の中で、軸索再生に対して重要な働きをするある反応に対して効果があったというこ
とであり、これら一連の複雑な連鎖反応の中からどの反応が軸索再生に対してクリティカルであるかを知ること
が重要である。そして、そのクリティカルな反応系のみを抽出して、これを in vitro の実験系とすればよい。一
方、脊髄損傷時に損傷が強い場合には損傷部付近にアストロサイトの認められない領域を認め、このアストロサ
イトが存在しないことが軸索非再生のクリティカルポイントとも考えられる。そこで今回我々は、この損傷部局
所環境を作っている主役はアストロサイトであろうと仮定し、in vitro 実験系を作成してみた。ブタ胎仔脳細胞
質分画の培養アストロサイトにたいする効果を検討したところ、ブタ胎仔脳細胞質分画はアストロサイトを一直
線に配列させる活性があることが判明した。一方、ブタ胎仔脳細胞質分画の in vivo における活性検査でも GFAP
免疫染色でブタ胎仔脳細胞質分画は損傷部付近のアストロサイトの突起を一直線に並ばせる活性を持ち、in vitro
活性と同様であった。
結
論
成熟ラットの脊髄切断後にブタ胎仔脳細胞質分画を投与すれば、比率は少ないものの量的にも十分な軸索再生
を誘導することが出来たことから、ブタ胎仔脳細胞質分画には中枢軸索再生促進分子が存在するものと推測され
た。
また、この分画には、アストロサイトまたはその突起を一直線に配列する活性があることがわかった。
253
Brain
attackから脳を守るための研究
成果の発表
1) 原著論文による発表
イ)国外誌
1.
Murata M and Kawaguchi S, Path and target finding of afferents in cerebellar anlagen grafted in the
cerebellum of adult rats: a Phaseolus vulgaris leucoaggulutinin study Neurosci Res. 28: 249-259,
1997.
2.
Inoue T, Kawaguchi S and Kurisu K, Spontaneous regeneration of the pyramidal tract after transection
in young rats Neurosci Lett.247: 151-154, 1998.
3.
Asada Y,
Kawaguchi S, Hayashi H and Nakamura T, Neural repair of the injured spinal cord by grafting:
comparison between peripheral nerve segments and embryonic homologous structures as a conduit of
CNS axons Neurosci Res 31: 241-249, 1998.
4.
Kikukawa S, Kawaguchi S, Mizoguchi A, Ide C and Koshinaga M, Regeneration of dorsal column axons
after spinal cord injury in young rats Neurosci Lett 249: 135-138, 1998.
5.
Ito J, Kawaguchi S, Nakajima K and Mori S, Axonal regeneration with functional restoration in the
vestibulospinal tract in young rats
6.
Neurosci Res 32: 149-156, 1998.
Ito J, Murata M and Kawaguchi S, Spontaneous regeneration and recovery of hearing function of the
central auditory pathway in young rats
7.
Ito J, Murata M and Kawaguchi S,
Neurosci Lett 254: 173-176, 1998.
Regeneration of the lateral vestibulospinal tract in adult rats
by transplants of embryonic brain tissue
8.
Ito J, Murata M and Kawaguchi S,
Regeneration of the auditory pathway in adult rats by transplants
of fetal brain tissue NeuroReport
9.
Neurosci Lett. 259: 67-70, 1998.
9: 3815-3817, 1998.
Kawaguchi S, Kojima K, Hasebe T, Kikukawa S, Murata M and Iwashita Y, Spinal cord repair in adult
rats: restoration of corticospinal and rubrospinal tracts to almost normal extent. Eds. Uemura K,
Kawamura K, and Yazaki T, Neural Development, Keio University Symposia for Life Science and Medicine
2, Springer Verlag, p.506, 1999.
10.
Ito J, Murata M and Kawaguchi S, Regeneration of the central auditory pathway in adult rats
Acta
Otolaryngol (Stockh). 119: 132-134, 1999.
11.
Ito J, Murata M, Kawaguchi S.
Regeneration of the lateral vestibulospinal tract in adult rats by
transplants of embryonic brain tissue.
12.
Ito J, Kawaguchi S.
model.
13.
Neurosci Lett. 1999 Jan 8;259(2):67-70.
Regeneration of the mammalian central vestibular pathway using the rat as animal
Eur Arch Otorhinolaryngol. 1999;256(9):442-4.
Kawasaki T, Nishio T, Kawaguchi S, Kurosawa H.
Spatiotemporal distribution of GAP-43 in the
developing rat spinal cord: a histological and quantitative immunofluorescence study.
Neurosci Res.
2001 Mar;39(3):347-58.
14.
Ito J, Murata M, Kawaguchi S.
Regeneration and recovery of the hearing function of the central
auditory pathway by transplants of embryonic brain tissue in adult rats.
Exp Neurol. 2001
May;169(1):30-5.
15.
Ito J, Kojima K, Kawaguchi S.
Survival of neural stem cells in the cochlea. Acta Otolaryngol. 2001
Jan;121(2):140-2.
16.
Hase T, Kawaguchi S, Hayashi H, Nishio T, Asada Y, Nakamura T. Locomotor performance of the rat after
neonatal repairing of spinal cord injuries: quantitative assessment and electromyographic study.
254
Brain
attackから脳を守るための研究
J Neurotrauma. 2002 Feb;19(2):267-77.
17.
Hase T, Kawaguchi S, Hayashi H, Nishio T, Mizoguchi A, Nakamura T.
Spinal cord repair in neonatal
rats: a correlation between axonal regeneration and functional recovery.
Eur J Neurosci. 2002
Mar;15(6):969-74.
2)原著論文以外による発表(レビュー等)
ア) 国内誌
1.
川口三郎: 中枢神経系の再生の困難さとその克服. 脳の科学 20: 1165-1173, 1998.
2.
川口三郎: 損傷脊髄伝導路の再生の困難さとその克服. 脊椎脊髄ジャーナル 12: 395-404, 1999.
イ)国外誌
S Kawaguchi and T Nishio
Repair of mammalian central nervous pathways: attempts to reconstruct normal
neural connections with marked functional recovery
“Strategic medical science against brain attack”
ed. by Kikuch H. Springer, Tokyo pp. 21-27, 2002
3)口頭発表
イ)応募・主催講演等
1.
川口三郎:第 20 回日本神経外傷研究会
2 月 21 日
2.
東京
招待講演「中枢神経伝導路の再生と神経回路網の再構築」1997 年
於:安田火災海上本社ビル
川口三郎:第 7 回日本耳科学会総会
シンポジウム「中枢神経系の修復」1997 年 10 月 24 日
高知
於:
高知新阪急ホテル
3.
川口三郎:第 41 回日本形成外科学会学術集会
都
4.
教育講演 「中枢神経系の可塑性」 1998 年 4 月 24 日
於:都ホテル
菊川素規、川口三郎、溝口
明、井出千束、越永守道:幼若ラットにおける脊髄損傷後の後索路の再生 第
21 回日本神経科学・第 41 回日本神経化学合同大会
5.
1998 年 9 月 23 日、東京、抄録集 P.425
伊藤寿一、村田宮彦、川口三郎:成ラット中枢聴覚路切断後の再生と機能回復
41 回日本神経化学合同大会
6.
京
吉田
第 21 回日本神経科学・第
1998 年 9 月 23 日、東京、抄録集 P.425
林、矢崎貴仁、川口三郎、植村慶一:L1cDNA を含む変異ウイルスベクターを用いた遺伝子導入法に
よる中枢神経系の再生促進効果
第 21 回日本神経科学・第 41 回日本神経化学合同大会
1998 年 9 月 23 日、
東京、抄録集 P.427
7.
川口三郎:第 10 回神経損傷の基礎シンポジウム
28 日
8.
東京
特別講演「脊髄損傷の神経修復の可能性」1998 年 11 月
於:ザ・フォーラム
川口三郎:第 25 回日本医学会総会シンポジウム「脊髄損傷の神経修復の可能性」1999 年 4 月 3 日
東京
於:
東京ビッグサイト
9.
川口三郎:第 6 回 Spine Frontier 講演「脊髄損傷の神経修復」1999 年 7 月 30 日
宮崎 於:宮崎ワール
ドコンベンションセンター
10.
川口三郎:第 18 回日本骨・関節・軟部組織移植研究会
日
11.
東京
於:三井海上本社ビル
Kawaguchi S: Neural repair of soinal cord injury The Fourth International Symposium of Tissue
Engineering for Therapeutic Use.
12.
招待講演「脊髄損傷の神経修復」1999 年 9 月 19
Kyoto 23-24 September 1999
川口三郎:
「日本せきずい基金」発会式
基調講演「脊髄損傷の神経修復:車椅子からの解放を目指して」
255
Brain
attackから脳を守るための研究
1999 年 10 月 2 日
13.
東京
於:江戸川区総合区民ホール
川口三郎:第 6 回東海ニューロサイエンス研究会
指して」1999 年 11 月 13 日
14.
名古屋
於:鶴友会館
川口三郎:第 73 回日本整形外科学会学術集会
の解放を目指して」2000 年 4 月 7 日
15.
NHK教育テレビ
16.
西尾健資
川口三郎
学会大会
京都
特別講演「脊髄損傷の神経修復:車椅子からの解放を目
神戸
ランチョンレクチャー「脊髄損傷の神経修復:車椅子から
於:神戸国際会議場
サイエンスアイ 6 月 10 日放送「神経ネットワークは再生できるか」2000 年
成熟ラット脊髄切断モデルに対するブタ胎仔脳細胞質分画の効果
3.29-31.
2001
4) 特許等出願等
特許出願 2001-253586
発明者
川口三郎・西尾健資
特許出願人
藤沢薬品工業株式会社
発明の名称
脊髄損傷治療剤、並びにヒト及び他の哺乳動物における脊髄損傷の治療方法
提出日
平成 13 年 8 月 23 日
256
第 78 回日本生理
Brain
attackから脳を守るための研究
1. 脳機能及び脳の病態生理に関する研究
1.3. 中枢神経再生能解明に関する研究
1.3.1. 機能的神経伝導路の再構築機構解明に関する研究
1.3.1.1. 神経突起マーカーを用いた神経再生至適グリア環境の解析
1.3.1.2. 神経線維の離断後の新たな架橋及び神経シナプス形成の解析
1.3.1.3. 神経移植を用いた神経線維再生誘導実験及び機能的回復の証明
京都大学大学院医学研究科
川口
要
三郎
約
ラット脊髄の個体発生過程における GAP-43 の時空間分布を調べた。GAP-43(growth-associated protein 43)
というのは神経が突起を伸長するときに発現するタンパクで、、それと並行して神経再生至適グリア環境の探索:
交配日を確定した SD 系妊娠ラットから取り出した胎生 10、11 日、12 日、13 日、14 日、15 日、16 日、18 日、20
日齢の胎仔と生後 0 日、4 日、7 日、10 日、14 日、17 日、21 日、28 日、42 日、63 日、84 日、105 日齢の同系ラ
ットを用い、GAP-43(growth-associated protein 43)の免疫活性を脊髄の部位を分けて検索した。すなわち、
白質では前索の内側(W1)と外側(W2)、灰白質では前角の内側(G1)と外側(G2)の 4 点で免疫活性を測定し、
その比をとって調べた。GAP-43 免疫活性は胎生 10 日齢の脊髄には認められなかったが、胎生 10 日齢になると、
神経管の lateral exit zone と後根神経節に出現した。しかし後根には検出されなかった。胎生 12 日齢になると
前角運動神経細胞、前根、lateral exit zone、後根、背側辺縁帯、後根神経節に発現した。胎生 13 日齢には背
側辺縁帯で活性が強くなり、前角では弱くなった。胎生 15 日齢には脊髄上行路、下行路に活性を示す成長円錐樣
の構造が出現した。胎生 16 日齢には背側辺縁帯は白質の形を成すようになり、ここに強い活性が認められた。胎
生 18 日齢には、後索、とりわけ薄束が強度陽性となり、後角に免疫活性を示す細胞体や線維が確認された。胎生
18 日齢には、灰白質における神経突起や神経線維の活性が増加した。生後 0 日齢になると白質における活性が目
立つようになった。生後 1 週齢の間に、腹外側索、背外側索と後角、前角の灰白質で活性が増強し、楔状束や薄
束では減弱した。生後 2~3 週齢には灰白質での活性がさらに増強した。4 週齢には白質では活性は減弱し、皮質
脊髄路のみで残存する成熟ラットのパターンとなった。このような GAP-43 の個体発生過程における時空間分布の
解明は再生過程をよく理解するために重要なデータとなるものと思われる。
神経再生至適グリア環境の探索:反応性アストロサイトや collagen type 4 が神経再生を促進するか、妨げる
かについて古くから議論があり、決着がついていない。また、古くからグリア瘢痕が再生を妨げると考えられて
きたが、再生の失敗が先かグリア瘢痕の形成が先かについては明らかにされていない。我々は幼若ラットの脊髄
を鋭利に、あるいは鈍的に半側以上(過半側)切断した標本を作成し、皮質脊髄路を蛍光色素で順行性に標識し、
再生成功例と再生失敗例について、損傷部局所の反応性アストロサイトと関連分子の発現をを免疫組織学的に検
索し、上記の問題に対して解答を与え、神経再生至適グリア環境を明らかにしようとした。鋭利に切断すれば再
生が起こり、その際、再生線維は collagen type 4 の発現した脈管樣構造物に侵入した。損傷部には GFAP 陽性、
vimentin 陽性の反応性アストロサイトが出現する。鈍的に切断すれば、再生は失敗に終るが、その際、損傷初期
257
Brain
attackから脳を守るための研究
には損傷部からアストロサイトが消失した。その後 collagen type 4 陽性のシート状細胞外基質が現れ、グリア
瘢痕が形成された。反応性アストロサイトと関連分子の時空間分布から、反応性アストロサイトや collagen type
4 は発現のタイミングと発現の場によって再生促進的にも抑制的にも働き得ること、グリア瘢痕や collagen type
4 陽性のシート状細胞外基質は再生失敗の原因であるより、結果であることが判明した。反応性アストロサイト
が損傷部に損傷の早期に出現するか否かが再生が成功するか失敗に終るかを決める決定的な要因であり、神経再
生至適グリア環境を作るのは反応性アストロサイトであろうと考えられた。
これまでの検討から、哺乳動物の胎仔組織には中枢神経軸索再生促進因子が存在することが予測されたが、そ
れが拡散性因子であるという確証はなかった。そこでブタ胎仔脳細胞質分画を調製し、これを成熟ラット脊髄切
断モデルに対して投与して、軸索再生の有無を検討した。また、この分画の脊髄損傷部に対する効果と培養グリ
ア細胞に対する効果も検討した。成熟ラットの脊髄切断後にブタ胎仔脳細胞質分画を投与すれば、比率は少ない
ものの量的にも十分な軸索再生を誘導することが出来た。また、この分画には、in vivo、in vitro 両系において、
アストロサイトまたはその突起を一直線に配列する活性があることがわかった。以上より、ブタ胎仔脳には中枢
軸索再生を促進する拡散性分子が存在がすることが推測された。
研究目的
幼若な哺乳動物の中枢伝導路は、鋭利な切断後に量的にも距離的にも経路に於いても正常の伝導路とほぼ同様
の再生線維の伸長(非制限的再生)が認められるのに対して、成熟哺乳動物ではいくら鋭利に切断しても再生は
認められない。しかし、成熟動物でも切断部局所に於いて、成長円錐様構造物をその先端にもちながら灰白質の
方向に 90 度方向転換している線維を多数認めたり、中には 180 度方向を変えて U-ターンしている線維も認めるこ
とより、決して成熟哺乳動物の軸索線維は再生能に乏しいわけではなく、線維そのものは成熟動物になっても十
分に再生能を持っているが、本来の経路に沿って伸展しようとしている線維を切断部局所の何かが障害している
ように見受けられる。一方、成熟動物の脊髄を鋭利に切断すると同時に切断部に胎仔組織を移植した場合には、
幼若動物に認められたのと同様の非制限的再生を認めることから、胎仔組織には成熟動物脊髄切断部局所を軸索
再生に阻害的な環境から促進的な環境に変える拡散性因子が存在することが予測される。そこで、我々はこの因
子が哺乳動物胎仔中枢神経組織の細胞質分画に存在する事を証明し、またこの因子の中枢神経組織に対する効果
を知るために以下の実験を行った。
研究方法
1)
ブタ胎仔脳細胞質分画の調製
妊娠ブタを麻酔下に帝王切開して摘出したブタ胎仔(E50~E80)から脳を採取し、直ちに液体窒素で凍結後、
protease inhibitor を含む buffer で 10%(w/v)に homogenize し、4℃・16000xg・60 分間遠心。上清を凍結乾燥
し、ブタ胎仔脳細胞質分画を得た。(脳凍結湿重量の約 20%重量の細胞質分画を得た。)
2)
ブタ胎仔脳細胞質分画の効果の検討(in vivo)
2a)
成熟ラット脊髄切断モデルへの投与
成熟ラット(Sprague-Dawley rats, P74, female, n=20)を第 11 胸髄レベルで右半側切断(over-hemisection)
し、spongelR (Yamanouchi)に吸収させたブタ胎仔脳細胞質分画(生理食塩水で 25mg/ml 濃度に調製)を切断局所
に被覆した。対照群として生理的食塩水を吸収させた spongelR を被覆した成熟ラット(Sprague-Dawley rats, P74,
female, n=10)と比較した。
258
Brain
2b)
attackから脳を守るための研究
切断局所の免疫組織蛍光法による検討
ブタ胎仔脳細胞質分画投与群(n=8)と生食投与群(n=5)を術後 3 日目に 4%paraformaldehyde で潅流固定した。
20%sucrose 滲漬による cryoprotection 後に 30μm 凍結切片を作成し、切断局所の分子発現を以下の抗体を用い
て免疫組織蛍光法により検討した。一次抗体として抗 glial fibrillary acidic protein (GFAP)抗体(mouse
monoclonal IgG, GA-5, Behringer, 0.5 mg/ml)、抗 neurofillament 抗体(mouse monoclonal IgG, Behringer,
1mg/ml)、抗 collagen typeIV 抗体(gout polyclonal IgG, Chemicon, 1mg/ml)を 4℃・24 時間反応させた後、
二次抗体として抗 mouse IgG-FITC (Southern Biotechnology , 2mg/ml)、抗 gout IgG-TRITC(Chemicon, 2mg/ml)
を 4℃・12 時間反応させ、蛍光顕微鏡下に観察した。
2c)
成熟ラット脊髄切断モデルの順行性 tracer study
ブタ胎仔脳細胞質分画投与群(n=12)と生食投与群(n=5)を脊髄切断 26 日後に左赤核に WGA-HRP(5%)を注入し、注
入後 48 時間後に 4%paraformaldehyde で潅流固定し、diaminobenzidine で発色し、顕微鏡暗視野で観察し、軸索
再生の有無を検討した。
3)
ブタ胎仔脳細胞質分画の効果の検討(in vitro)
3a)
培養グリア細胞に対するブタ胎仔脳細胞質分画の効果の検討
昨年報告したラット大脳皮質由来細胞の二次長期培養系をやや改変して用いた。変更点は strain を Wistar か
ら Sprague-Dawley に変更したことと、二次培養系から三次培養に subculture するときに同時にブタ胎仔脳細胞
質分画を投与したことである。分画の投与後 7 日後に位相差顕微鏡で細胞の形態を観察した。対照として、
subculture と同時に等量の生食を添加したものと比較した。
3b)
培養グリア細胞の免疫細胞学的検討
細胞発現抗原を以下の免疫蛍光法で染色した後、蛍光顕微鏡で観察した。免疫蛍光法:4% paraformaldehyde
(PFA)で室温・5 分間固定後、一次抗体;抗 glial fibrillary acidic protein (GFAP)抗体(mouse monoclonal IgG,
GA-5, Behringer, 0.5 mg/ml)、抗 vimentin 抗体(mouse monoclonal IgG, Sigma, 1mg/ml)で 4℃・12 時間反応
後、二次抗体;抗 mouse IgG-FITC (Southern Biotechnology , 2mg/ml)で室温・2 時間反応させた。
研究成果
1) ブタ胎仔脳細胞質分画の効果(in vivo)
生理的食塩水投与の対照群では、WGA-HRP でラベルされた赤核脊髄路神経軸索はいずれも切断局所で停止してお
り、切断部を越えて伸長した再生線維を全く認めなかった。しかし、切断部には成長円錐様構造物を先端にもち
ながら、灰白質に向かって 90 度方向転換している線維を多く認め、中には U-ターンしている線維も認めたことか
ら、決してこれらの成熟ラットの神経線維も再生能に乏しい訳ではなく、本来再生して伸びて行こうとしながら
も切断部に存在する壁に行く手を阻まれた為に他の目的地を探しているかに見うけられた。一方、ブタ胎児脳細
胞質分画投与群では、比率は少ないが(12 匹中 3 匹)WGA-HRP でラベルされた赤核脊髄路神経軸索が切断局所を
越えてより尾側に伸長し、明らかな軸索再生を認めた。これらのうち条件の良いものでは、再生線維の量におい
ても、伸長距離においても、走行経路の観点からも正常のそれとは同様の再生(非限定的再生)を認めた。また、
ブタ胎仔脳細胞質分画が局所のアストロサイトに対して及ぼす影響を免疫蛍光法で検討した結果は、ブタ胎仔脳
細胞質分画投与群では切断局所の GFAP 陽性アストロサイト突起は軸索の伸長方向に対して対して平行に走行して
いたのに対して、対照群では切断局所の GFAP 陽性アストロサイト突起は方向がランダムであった。さらに、生食
259
Brain
attackから脳を守るための研究
投与の対照群では切断局所に GFAP 染色性に乏しいアストロサイト-フリー領域を認めたのに対して、ブタ胎仔脳
細胞質分画では切断局所にアストロサイト-フリー領域が生じがたい傾向を認めた。
2) ブタ胎仔脳細胞質分画の効果の検討(in vitro)
対照群培養グリアでは、単層のアストロサイトの上に小型の細胞が散在するが、細胞の配列に一定の規則性は
認められなかったのに対して、ブタ胎仔脳細胞質分画を subculture と同時に添加したウェルでは、アストロサイ
トは単層を形成せず、盛り上がった細胞の集属を中心として紡錘状の形態をして突起を持った細胞が放射状に配
列する傾向を認めた。放射状に整列した細胞は、突起を含めて一直線に配列していた。ブタ胎仔脳細胞質分画の
培養細胞に対する影響を免疫蛍光法によって検討した結果、ブタ胎仔脳細胞質分画を投与したウェルは、対照群
と比較して相対的に全体の細胞数密度が減少し、大型の GFAP 陽性細胞も減少し、vimentin 陽性で小型で紡錘状の
形態の細胞が相対的に増加した。
考
察
成熟ラット脊髄切断部にブタ胎仔脳細胞質分画を添加する事により通常では認められない成熟ラットにおける
神経伝導路の非限定的再生を認めたことは、ブタ胎仔脳細胞質分画には成熟動物脊髄切断部局所を軸索再生に阻
害的な環境から促進的な環境に変える因子が存在することが証明されたと考えられる。この事は、これまでの胎
仔組織全体から細胞質分画へと範囲が狭められたと言う点で一歩前進したと考えられる。しかし今後、細胞質分
画からさらに範囲を絞り込んで行くことが必要であり、その為にはこの再生誘導因子の生物活性を判定できる in
vivo の実験系だけでなく、操作がより簡便で定量的解析や多検体の処理も可能な in vitro の実験系の確立が必須
と考えられる。しかしながら、in vivo において脊髄損傷局所の環境を作っているのは、切断と同時に引き起こさ
れる局所の出血、そこで活性化されるリンパ球・単球・血管内皮細胞やそれらから放出される炎症性サイトカイ
ン、さらにこれらにさらされるアストロサイト・oligodendroglia・マイクログリアの反応など、複雑な多くの一
連の連鎖反応であり、これらの複数の連鎖反応の総合的結果として脊髄損傷局所の環境が作られるものと考えら
れる。ブタ胎仔脳細胞質分画が成熟ラット脊髄損傷に対して有効であったことは、脊髄切断時に引き起こされる
このような複数の連鎖反応の中で、軸索再生に対して重要な働きをするある反応に対して効果があったというこ
とであり、これら一連の複雑な連鎖反応の中からどの反応が軸索再生に対してクリティカルであるかを知ること
が重要である。そして、そのクリティカルな反応系のみを抽出して、これを in vitro の実験系とすればよい。一
方、脊髄損傷時に損傷が強い場合には損傷部付近にアストロサイトの認められない領域を認め、このアストロサ
イトが存在しないことが軸索非再生のクリティカルポイントとも考えられる。そこで今回我々は、この損傷部局
所環境を作っている主役はアストロサイトであろうと仮定し、in vitro 実験系を作成してみた。ブタ胎仔脳細胞
質分画の培養アストロサイトにたいする効果を検討したところ、ブタ胎仔脳細胞質分画はアストロサイトを一直
線に配列させる活性があることが判明した。一方、ブタ胎仔脳細胞質分画の in vivo における活性検査でも GFAP
免疫染色でブタ胎仔脳細胞質分画は損傷部付近のアストロサイトの突起を一直線に並ばせる活性を持ち、in vitro
活性と同様であった。
結
論
成熟ラットの脊髄切断後にブタ胎仔脳細胞質分画を投与すれば、比率は少ないものの量的にも十分な軸索再生
を誘導することが出来たことから、ブタ胎仔脳細胞質分画には中枢軸索再生促進分子が存在するものと推測され
た。
また、この分画には、アストロサイトまたはその突起を一直線に配列する活性があることがわかった。
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Brain
attackから脳を守るための研究
成果の発表
1) 原著論文による発表
イ)国外誌
1.
Murata M and Kawaguchi S, Path and target finding of afferents in cerebellar anlagen grafted in the
cerebellum of adult rats: a Phaseolus vulgaris leucoaggulutinin study Neurosci Res. 28: 249-259,
1997.
2.
Inoue T, Kawaguchi S and Kurisu K, Spontaneous regeneration of the pyramidal tract after transection
in young rats Neurosci Lett.247: 151-154, 1998.
3.
Asada Y,
Kawaguchi S, Hayashi H and Nakamura T, Neural repair of the injured spinal cord by grafting:
comparison between peripheral nerve segments and embryonic homologous structures as a conduit of
CNS axons Neurosci Res 31: 241-249, 1998.
4.
Kikukawa S, Kawaguchi S, Mizoguchi A, Ide C and Koshinaga M, Regeneration of dorsal column axons
after spinal cord injury in young rats Neurosci Lett 249: 135-138, 1998.
5.
Ito J, Kawaguchi S, Nakajima K and Mori S, Axonal regeneration with functional restoration in the
vestibulospinal tract in young rats
6.
Neurosci Res 32: 149-156, 1998.
Ito J, Murata M and Kawaguchi S, Spontaneous regeneration and recovery of hearing function of the
central auditory pathway in young rats
7.
Ito J, Murata M and Kawaguchi S,
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2)原著論文以外による発表(レビュー等)
ア) 国内誌
1.
川口三郎: 中枢神経系の再生の困難さとその克服. 脳の科学 20: 1165-1173, 1998.
2.
川口三郎: 損傷脊髄伝導路の再生の困難さとその克服. 脊椎脊髄ジャーナル 12: 395-404, 1999.
イ)国外誌
S Kawaguchi and T Nishio
Repair of mammalian central nervous pathways: attempts to reconstruct normal
neural connections with marked functional recovery
“Strategic medical science against brain attack”
ed. by Kikuch H. Springer, Tokyo pp. 21-27, 2002
3)口頭発表
イ)応募・主催講演等
1.
川口三郎:第 20 回日本神経外傷研究会
2 月 21 日
2.
東京
招待講演「中枢神経伝導路の再生と神経回路網の再構築」1997 年
於:安田火災海上本社ビル
川口三郎:第 7 回日本耳科学会総会
シンポジウム「中枢神経系の修復」1997 年 10 月 24 日
高知
於:
高知新阪急ホテル
3.
川口三郎:第 41 回日本形成外科学会学術集会
都
4.
教育講演 「中枢神経系の可塑性」 1998 年 4 月 24 日
於:都ホテル
菊川素規、川口三郎、溝口
明、井出千束、越永守道:幼若ラットにおける脊髄損傷後の後索路の再生 第
21 回日本神経科学・第 41 回日本神経化学合同大会
5.
1998 年 9 月 23 日、東京、抄録集 P.425
伊藤寿一、村田宮彦、川口三郎:成ラット中枢聴覚路切断後の再生と機能回復
41 回日本神経化学合同大会
6.
京
吉田
第 21 回日本神経科学・第
1998 年 9 月 23 日、東京、抄録集 P.425
林、矢崎貴仁、川口三郎、植村慶一:L1cDNA を含む変異ウイルスベクターを用いた遺伝子導入法に
よる中枢神経系の再生促進効果
第 21 回日本神経科学・第 41 回日本神経化学合同大会
1998 年 9 月 23 日、
東京、抄録集 P.427
7.
川口三郎:第 10 回神経損傷の基礎シンポジウム
28 日
8.
東京
特別講演「脊髄損傷の神経修復の可能性」1998 年 11 月
於:ザ・フォーラム
川口三郎:第 25 回日本医学会総会シンポジウム「脊髄損傷の神経修復の可能性」1999 年 4 月 3 日
東京
於:
東京ビッグサイト
9.
川口三郎:第 6 回 Spine Frontier 講演「脊髄損傷の神経修復」1999 年 7 月 30 日
宮崎 於:宮崎ワール
ドコンベンションセンター
10.
川口三郎:第 18 回日本骨・関節・軟部組織移植研究会
日
11.
東京
於:三井海上本社ビル
Kawaguchi S: Neural repair of soinal cord injury The Fourth International Symposium of Tissue
Engineering for Therapeutic Use.
12.
招待講演「脊髄損傷の神経修復」1999 年 9 月 19
Kyoto 23-24 September 1999
川口三郎:
「日本せきずい基金」発会式
基調講演「脊髄損傷の神経修復:車椅子からの解放を目指して」
262
Brain
attackから脳を守るための研究
1999 年 10 月 2 日
13.
東京
於:江戸川区総合区民ホール
川口三郎:第 6 回東海ニューロサイエンス研究会
指して」1999 年 11 月 13 日
14.
名古屋
於:鶴友会館
川口三郎:第 73 回日本整形外科学会学術集会
の解放を目指して」2000 年 4 月 7 日
15.
NHK教育テレビ
16.
西尾健資
川口三郎
学会大会
京都
特別講演「脊髄損傷の神経修復:車椅子からの解放を目
神戸
ランチョンレクチャー「脊髄損傷の神経修復:車椅子から
於:神戸国際会議場
サイエンスアイ 6 月 10 日放送「神経ネットワークは再生できるか」2000 年
成熟ラット脊髄切断モデルに対するブタ胎仔脳細胞質分画の効果
3.29-31.
2001
4) 特許等出願等
特許出願 2001-253586
発明者
川口三郎・西尾健資
特許出願人
藤沢薬品工業株式会社
発明の名称
脊髄損傷治療剤、並びにヒト及び他の哺乳動物における脊髄損傷の治療方法
提出日
平成 13 年 8 月 23 日
263
第 78 回日本生理
Brain
attackから脳を守るための研究
1.3. 中枢神経再生能解明に関する研究
1.3.2. 神経幹細胞を用いた中枢神経機能再生に関する研究
1.3.2.1. 神経幹細胞の自己複製と分化に関する分子機構の解析
京都大学大学院医学研究科脳病態生理学講座脳神経外科
高橋
要
淳
約
神経幹細胞関連遺伝子のクローニングについては現在投稿準備中であり特許申請もしているので、ここでは内
容は明らかにできない。それとは別に神経幹細胞の分化に関して in vitro でのシナプス形成を明らかにしたので、
その研究について述べる。
成体ラット海馬から得られた神経幹細胞はニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトへと分化する。
しかし、この神経幹細胞から誘導されたニューロンがシナプスを形成するかどうかは明らかではない。我々は、
ラット胎仔海馬のグリア細胞上で神経幹細胞からの分化誘導を行い、神経幹細胞由来のニューロンがシナプスを
形成することを電気生理学的に明らかにした。
研究目的
成体ラット海馬から得られた神経幹細胞はニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトへと分化する
[1]。さらにこの神経幹細胞由来ニューロンは GABA、アセチルコリンエステラーゼ、チロシン水酸化酵素、カルビ
ンディンを発現し、様々なタイプのニューロンに分化することが報告されている[2]。しかし、この神経幹細胞か
ら誘導されたニューロンがシナプスを形成するかどうかは明らかではない。神経幹細胞移植による中枢神経疾患
の治療を考える際、移植された細胞が宿主のニューロンと新たな神経回路を形成しうるかどうか、すなわちシナ
プスを形成しうるかどうか、という点は非常に重要である。そこで我々は神経幹細胞由来ニューロンのシナプス
形成能を明らかにするために in vitro で分化誘導を行い、解剖学的、生理学的検討を行った。
研究方法
細胞は PZ5 という成体ラット海馬由来神経幹細胞を用いた。この細胞は一つの細胞由来の細胞であり、多分化
能と自己複製能を有することが証明されている[1]。まず生きた状態で生理学的実験ができるようにレトロウイル
スベクターを用いてこの細胞に green fluorescent protein (GFP)遺伝子を導入した。
培養培地は Dulbecco’s Modified Eagles Medium / Ham’s F12 (DMEM/F12, 1:1)を用い、これに N2 supplement
(Gibco) と 20 ng/ml recombinant human bFGF (Genzyme)を加えた無血清培地とした。Fischer ラット胎仔(E18
〜P1)の海馬をトリプシンで分散しグリア細胞層を作成。その上に GFP 遺伝子を導入した PZ5 を捲き分化誘導を
行った。グリア細胞なしの条件としては、ポリオルニチンとラミニンでコーティングを行ったディッシュ上で培
養を行った。PZ5 の培養開始日を 0 day in vitro (DIV)とし、1-6 DIV では bFGF を添加する代わりに 0.5・M のレ
チノイン酸と 0.5%の血清(fetal calf serum: FCS)を加えた。7DIV からはレチノイン酸の代わりに brain-derived
264
Brain
attackから脳を守るための研究
neurotrophic factor (BDNF; 20ng/ml)と neurotrophin-3 (NT-3; 40ng/ml)を加え、最大 35DIV まで培養を継続し
た。7DIV からは胎仔海馬由来の初期培養ニューロンも加えた。
細胞の形態変化や分化の様子はニューロン(MAP2ab, Neurofilament200)やアストロサイト(GFAP)のマーカ
ー、シナプス関連タンパク(synaptophysin, synaptobrevin)に対する免疫染色にて観察した。微小構造は金粒
子を用いた免疫電顕にて検討した。電気生理学的にはパッチクランプ法により GFP 陽性細胞の電気記録を行い、
活動電位や後シナプス電流の有無について検討を行った。
研究成果
神経幹細胞のニューロンへの分化
上述したとおり、今回使用した神経幹細胞には GFP 遺伝子が導入してあり、培養条件下で緑色の蛍光を呈する
細胞として同定できる(図 1、A,B)。グリア細胞層上で神経幹細胞の分化誘導を行うと、細胞がニューロンへと
分化するにつれて細胞体の大きさが増し、神経突起の伸長が認められる(図 1、C,D)。18DIV において、MAP2ab
陽性ニューロンの割合は GFP 陽性細胞のうち 5.6%であり、MAP2ab と synaptobrevin の二重陽性細胞は 3.8%であっ
た。Neurofilament 200 (NF200)陽性細胞は GFP 陽性細胞総数の 2.4%を占め、NF200 と synaptophysin の二重陽性
細胞は 2.1%であった。GFAP 陽性のアストロサイトは GFP 陽性細胞の 5.1%を占めた。グリア細胞で胎仔海馬ニュー
ロンと共培養を行い、GFP、MAP2ab、synaptobrevin での三重免疫染色を行うと、神経幹細胞由来のニューロンと
胎仔脳由来のニューロンとが近接し、それらの神経突起上に synaptobrevin タンパクの発現がみられた(図 2)。
これらの結果は、神経幹細胞由来のニューロンが胎仔脳由来のニューロンとシナプスを形成していることを示唆
する。
抗 GFP 抗体を用い金粒子を標識として行った免疫電顕にて、神経幹細胞由来ニューロンと胎仔脳由来ニューロ
ンとの間あるいは神経幹細胞由来ニューロン同士の間にシナプス顆粒や細胞膜の密着や肥厚などシナプス様微小
構造が認められた(図 3)。グリア細胞層上での培養では 8 カ所調べたうち 3 カ所で上記のような構造が認められ
たが、グリアなしの培養で 10 カ所調べた結果では細胞膜の肥厚が軽度認められるのみであった。
図1
265
Brain
attackから脳を守るための研究
図2
266
Brain
attackから脳を守るための研究
図3
神経幹細胞由来ニューロンの電気生理学的特性
グリア細胞層上での培養において神経突起様形態を有する GFP 陽性細胞を標的としてパッチクランプを行った。
6DIV では 3 分の 1 の細胞でナトリウム電流が観察され、12DIV や 18DIV においては 80%の細胞でそれが観察されし
かも電流の振幅がより大きくなっていった(表 1)。ニューロンへの分化に従い静止膜電位もより深くなり、6DIV
では-32.7mV、18DIV では-46.2mV となった。12DIV になると 3 分の 1 の細胞で低振幅ながら活動電位が認められる
ようになり、18DIV では 8 細胞のうち 3 細胞で振幅 60mV の典型的な活動電位が記録されるようになった(図 4)。
35DIV まで観察を続けたが活動電位のこれ以上の変化は認められなかった。また、グリア細胞なしの条件では活動
電位は記録されなかった。
267
Brain
attackから脳を守るための研究
表1
図4
神経幹細胞由来ニューロンによるシナプス形成
0-35DIV の間に 520 の GFP 陽性細胞を調べたうち 354 の細胞で TTX-sensitive sodium current が記録された。
これらを TTX とバリウムで処理して後シナプス電流の記録をおこなったところ、28-35DIV において 6 つの細胞で
後シナプス電流が確認された(図 5)。このことは神経幹細胞由来ニューロンが少なくとも後シナプスニューロン
になっていることを示唆する。後シナプス電流には比較的時間の短いものと長いものの 2 種類あり、前者は DNQX
処理で消失したが bicuculline 処理では消失しなかった。逆に後者は bicuculline 処理で消失したが DNQX 処理で
268
Brain
attackから脳を守るための研究
は消失しなかった。DNQX は AMPA 型グルタメイト受容体の阻害剤であり、bicuculline は GABA-A 受容体の阻害剤
であることから、前者はグルタメイト受容体を介する興奮性電流、後者は GABA 受容体を介する抑制性電流と考え
られた。後シナプス電流の振幅分布をみると、興奮性電流は狭い範囲に分布がみられ(平均 29.2 pA)抑制性電流
はより広い分布がみられた(平均 54.1 pA)(図 6)。グリア細胞なしの条件では後シナプス電流は記録されなかっ
た。
図5
図6
考
察
この研究において神経幹細胞由来ニューロンはシナプス関連タンパクを発現し、電子顕微鏡による観察ではシ
ナプス様微小構造がみられた。また、電気生理学的観察では活動電位が記録され、後シナプス電流も記録された。
これらの結果は、神経幹細胞由来ニューロンがシナプス形成能を持つことを示唆する。
我々の電気生理学的観察では、6DIV からすでに膜の興奮性がみられ、その後ナトリウム電流の振幅増加、活動
電位の出現と 18DIV まで徐々にニューロンへの分化が進行していることを示す結果がみられている。静止膜電位
も徐々に深くなってきており、ポタシウムチャネルや他のトランスポーターなどの発達も示唆される。
マウス神経幹細胞での報告では静止膜電位や活動電位は我々の報告と同様の結果がみられるが、より大きな後
過分極が観察されている[3]。成体ラットの subventricular zone(SVZ)や脊髄から得られた神経幹細胞の報告でも
静止膜電位や活動電位は我々の報告と同様の結果がみられるが、脊髄由来の幹細胞では静止膜電位はより浅く活
269
Brain
attackから脳を守るための研究
動電位もより小さい傾向がある[4]。ヒト由来の神経幹細胞では、その活動電位において TTX-sensitive な発火が
維持されている[5]。これらの違いは用いる細胞の種の違い、採取場所の違い、採取方法や細胞培養方法の違いな
どに起因すると考えられる。
0-35DIV においてニューロン様形態を呈した細胞 520 個のうち、後シナプス電流が記録されたのは 6 個(1.2%)
のみであり、しかもすべて 28-35DIV のものであった。520 細胞のうち 354 細胞でナトリウム電流が記録されしか
もそれが 6DIV から観察されていることを考えると、シナプスの発達はニューロンの膜興奮性獲得およびその成熟
に引き続いて起こるものと考えられる。上述の如く、早い動態を示すものは AMPA 型のグルタメイト受容体を介す
る興奮性の電流、遅いものは GABA-A 受容体を介する抑制性の電流であると考えられるが、前者は 55%を占めた。
これらの興奮性および抑制性後シナプス電流の分布は、初期培養海馬ニューロンの報告と同様であった[6,7]。こ
れらの結果は、成体ラット海馬由来神経幹細胞から誘導されたニューロンは機能的なシナプスを形成するという
こと、さらに一つのニューロンでも興奮性と抑制性のシナプス電流を受け取ることを示唆する。
今回の実験では BDNF や NT-3 といった神経栄養因子の存在にもかかわらずグリア細胞層なしの条件では活動電
位や後シナプス電流は記録されなかった。このことは、グリア細胞がニューロンの膜興奮性獲得やシナプス形成
に重要な役割を果たしていることを示唆する。過去の論文では、グリア細胞が神経栄養因子を分泌して神経分化
に関与したり[8]、グルコースやグルタメイトの取り込みに関与したり[9]、ナトリウムチャネルの形成を促した
り[10]、シナプス形成を促したり[11]することが報告されている。さらにアストロサイトが SVZ 由来神経幹細胞
からのニューロン新生を促進することも報告されている[12]。我々の結果やこれらの報告から、グリア細胞から
分泌される何らかの因子やグリア細胞との細胞接触が神経幹細胞からのニューロン分化やその成熟に重要な役割
を担っていることが考えられる。
近年、神経幹細胞を用いた細胞移植療法に期待が寄せられている[13,14]。神経幹細胞由来のニューロンがシナ
プスを形成するという今回の我々の実験結果は、この治療法に論理的根拠を与えるものであり非常に重要である。
また、移植された神経幹細胞由来のニューロンが脳内で新たな神経回路を形成する可能性をも示唆すると考えら
れる。
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成果の発表
1) 原著論文による発表
イ) 国外誌
1.
Toda H, Takahashi J, Mizoguchi A, Koyano K, Hashimoto N. Neurons generated from adult rat hippocampal
stem cells form functional glutamatergic and GABAergic synapses in vitro. Exp Neurol. 165:66-76
(2000).
2) 原著論文以外による発表(レビュー等)
ア) 国内誌(国内英文誌を含む)
1.
高橋
淳「神経系幹細胞を用いた神経機能再生」最新医学 54: 88-95 (1999)
2.
高橋
淳「神経再生をめざした神経系幹細胞の解析」脳 21 3(1): 29-36 (2000)
3.
高橋
淳「神経系幹細胞による神経再生」実験医学 18(4): 438-443 (2000)
4.
高橋
淳「細胞移植による中枢神経機能の再生」蛋白質
5.
高橋
淳「神経幹細胞移植による神経再生」最新医学
6.
戸田弘紀、高橋
核酸
酵素
45(13): 274-281 (2000)
12(sup): 175-184 (2000)
淳「神経幹細胞のシナプス形成能」Clinical Neuroscience
20(1):59-62, 2002
3) 口頭発表
ア) 招待講演
1.
Jun Takahashi:「Characterization and utilization of adult hippocampus-derived neural stem cells」
International Workshop: Neuronal Precursor Cell Biology and Application for Treatment of Inborn Error
of Metabolism (Feburuary 1999, Tokyo)
271
Brain
attackから脳を守るための研究
2.
高橋
淳:「神経系幹細胞を用いた中枢神経機能の再生」、第 25 回日本医学会総会(平成 11 年 4 月、東京)
3.
高橋
淳:
「神経系幹細胞を利用した中枢神経機能の再生」、第 2 回日本組織工学会(平成 11 年 6 月、東京)
4.
高橋
淳:
「ラット海馬由来神経系幹細胞の分離・培養と神経分化過程の解析」、千里ライフサイエンスシン
ポジウム「脳の幹細胞—脳の再生医学への道—」(平成 11 年 11 月、大阪)
5.
高橋
淳:「中枢神経機能の再生を目指した神経幹細胞の解析」、日本薬学会第 120 年会(平成 12 年 3 月、
岐阜)
イ) 応募・主催講演等
1.
高橋
淳:
「神経系幹細胞を用いた中枢神経機能の再生」、第 2 回ブレインアタックから脳を守る研究セミナ
ー(平成 10 年 9 月、大阪)
2.
中野伊知郎、高橋
淳ら:「神経系幹細胞における Bone morphogenetic protein receptor および neuritin
の発現」、第 58 回日本脳神経外科学会総会(平成 10 年 10 月、札幌)
3.
Ichiro Nakano, Jun Takahashi, et al.:「Bone Morphogenetic Protein Receptor and Neuritin Are Expressed
in Neural Stem Cells from Adult Rat Hippocampus」28th Annual Meeting of Society for Neuroscience
(November 1998, Los Angeles, U.S.A.)
4.
高橋
淳:「ヒト神経系幹細胞の分離・培養」、第 14 回神経組織の成長・再生・移植研究会学術集会(平成
11 年 6 月、名古屋)
5.
高橋
淳:
「神経系幹細胞を用いた中枢神経機能の再生」、第 3 回ブレインアタックから脳を守る研究セミナ
ー(平成 11 年 9 月、大阪)
6.
Hiroki Toda, Jun Takahashi, et al.:「Development of synapse formation by adult hippocampus-derived
neural stem cells」 29th Annual Meeting of Society for Neuroscience. (October 1999, Miami, U.S.A.)
7.
Ichiro Nakano, Jun Takahashi, et al.:「Molecular biological analysis of the molecules expressed in
adult hippocampus-derived neural stem cells」 29th Annual Meeting of Society for Neuroscience.
(October 1999, Miami, U.S.A.)
8.
高橋
淳:
「神経幹細胞を用いた中枢神経機能の再生」、第 4 回ブレインアタックから脳を守る研究セミナー
(平成 12 年 9 月、大阪)
9.
Hiroki Toda, Jun Takahashi, et al.:「Isolation of a novel molecules by signal sequence trap method」
30th Annual Meeting of Society for Neuroscience (October 2000, New Orleans, U.S.A.)
10.
Ichiro Nakano, Jun Takahashi, et al.:「Characterization of novel molecules expressed in adult
hippocampus-derived neural stem cells」30th Annual Meeting of Society for Neuroscience (October 2000,
New Orleans, U.S.A.)
272
Brain
attackから脳を守るための研究
1.3. 中枢神経再生能解明に関する研究
1.3.2. 神経幹細胞を用いた中枢神経機能再生に関する研究
1.3.2.2. 神経幹細胞を虚血脳へ移植した際の移動・分化の解析
京都大学大学院医学研究科脳病態生理学講座脳神経外科
高橋
要
淳
約
脳・脊髄損傷や神経脱落疾患に対する治療として神経幹細胞移植による機能再生が注目されている。ブレイン
アタックすなわち脳卒中後の神経脱落に対してもこの方法が有効かどうかを明らかにすることは我々に課せられ
た責務である。我々は、脳卒中のモデルとして一過性脳虚血モデルラットを作成し、このラットの海馬に神経幹
細胞を移植した。移植された神経幹細胞は脳内で生着し、海馬においてニューロンへと分化し、海馬ニューロン
脱落による空間認識能の低下を改善させた。この結果は脳梗塞による神経脱落の治療に対して神経幹細胞が有効
であることを示唆する。
研究目的
前項目の実験で我々は神経幹細胞由来のニューロンが in vitro でシナプスを形成することを明らかにした[1]。
米国 NIH のグループも in vitro[2]ならびに新生児ラットの脳内で[3]神経幹細胞由来ニューロンがシナプスを形
成することを報告した。このことは神経幹細胞を用いた移植治療にとって新たな神経回路形成の可能性を示唆し、
神経幹細胞移植を進める上の論理的根拠となる。
ブレインアタックすなわち脳卒中のモデルとして我々は一過性脳虚血モデルを作成した。4-vessel occlusion
による一過性全脳虚血をラットに対して行うと海馬 CA1 領域の錐体ニューロンが選択的に脱落し[4]、空間認識能
や学習能力の低下をきたす[5]。今回の実験では、神経幹細胞が生着しニューロンに分化するかどうか、さらには
脳機能の改善をもたらすかどうかを明らかにすることを目的として、脳虚血モデルラットの海馬に神経幹細胞を
移植した。
研究方法
移植に使用したのは成体ラット海馬由来の神経幹細胞で自己複製能、多分化能を有すること[6]、in vitro でシ
ナプスを形成すること[1]が明らかとなっている。この細胞は Fischer rat 由来なので、宿主動物も Fischer rat
を選んだ。
一過性脳虚血の作成は Pulsinelli の 4-vessel occulusion を用いたが[4]、Fischer rat は比較的弱く原法では
死亡してしまうために若干の改変を加えた。まず両側の椎骨動脈を凝固し、7 日後に総頸動脈を露出して糸をかけ
ておき、さらにその 3 日後に 15 分間動脈を結紮して血流を遮断した。コントロール(14 匹)は同様の手術を行い、
最後の結紮は行わないものとした。
2 週間後、虚血ラットを無作為に細胞移植群とコントロール移植群に分け、コントロール群には細胞の培養液の
273
Brain
attackから脳を守るための研究
みを移植した。虚血なしの sham operation 群にも培養液のみを移植した。細胞移植群では 5x104 個/・l の細胞浮
遊液を 1.5・l ずつ両側の海馬に移植した。細胞の標識のために移植に先立って BrdU で 3 日間処理を行った。移
植のターゲットは Bregma から前へ 3.5mm、側方へは 3.0mm、深さは硬膜から 2.8mm に設定した。
行動実験の最終日にラットを還流固定し、脳切片を作成。細胞の形態はヘマトキシリン・エオジン染色で行い、
生着した細胞数は 6 切片毎に BrdU 染色を行って計測した。また、細胞の分化についてはニューロン(NeuN)やア
ストロサイト(GFAP)のマーカーやシナプス関連タンパク(synaptobrevin)に対する抗体を用いた免疫染色にて
検討をおこなった。
海馬に生着しニューロンへと分化した細胞が実際に行動変化を来すかどうかを検討するために Morris 水迷路テ
スト[7]をおこなった。移植手術 3 週間後からテストを開始した。間に 10 分間の間隔をおき 1 日に 2 回の試行を
おこない、これを 10 日間続けた。
研究成果
移植細胞の生着と分化
一過性脳虚血モデルでは海馬 CA1 領域での錐体ニューロンの選択的脱落が認められた(図 1)。コントロール移
植群 14 匹のうちの 11 匹、細胞移植群 15 匹のうちの 10 匹において 90〜95%の CA1 ニューロンの脱落がみられ、こ
れらのラットのみを解析の対象とした。3 日間の BrdU 後、in vitro で染色してみると 90%の細胞が陽性であった。
移植後 31 日目の脳切片の BrdU 染色では移植された細胞は海馬 CA1 領域、脳梁、移植経路に沿った部分に生着が
みられた。これらのうち、CA1 領域に生着した細胞はそれぞれの側で 500〜2000 個であった。これらの細胞は CA1
領域に並ぶように分布していた。
BrdU、NeuN、GFAP による三重染色では、BrdU 陽性細胞すなわち移植された神経幹細胞のうち 3〜9%が NeuN も陽
性であり、神経幹細胞のニューロンへの分化が確認された(図 2)。今回使用した PZ5 細胞にはレトロウイルスベ
クターを用いて LacZ 遺伝子も導入してある[6]。そこで、・-galactosidase と synaptobrevin に対する抗体を用
いて免疫染色をしたところ、CA1 領域に生着した移植細胞は神経突起様の形態を呈し、この細胞はシナプス関連
タンパクである synaptobrevin も発現していることが観察された(図 3)。数匹のラットでは移植部位の周囲に特
に多くのグリオーシスがみられ、グリオーシスの多いラットでは神経幹細胞からニューロンへと分化する細胞が
少ない傾向がみられた。神経幹細胞による腫瘍形成は認められなかった。
細胞移植による空間認識能の改善
神経幹細胞移植の効果を検討するために水迷路テストをおこなった。このテストにおいては、二重盲検テスト
とするため、細胞培養・移植を行う実験者と水迷路テストを行う実験者とを完全に分け、水迷路テストを行う実
験者はどのラットがどういう処置を施されているか全く分からない状態でテストをおこなった。
HE 染色と免疫染色が終了した段階でラットを以下の 4 グループに分類した。グループ 1:頸動脈を露出したの
みで虚血は行っていない群(n=14)。グループ 2:虚血は行ったが細胞移植は行っていない群(n=11)。グループ
3:虚血を行い細胞移植も行ったラットのうち比較的多くの細胞が生着していた群(n=5)。このグループは CA1
領域において BrdU 陽性細胞は 1500 以上、NeuN 陽性細胞が 120 以上のラットとした。BrdU 陽性細胞の平均は 1656
でそのうちの 8.7%が NeuN 陽性であった。グループ 4:虚血も行い細胞移植も行ったがあまり多くは生着しなかっ
た群(n=5)。このグループは CA1 領域における NeuN 陽性細胞が 60 以下で、BrdU 陽性細胞の平均は 618、そのう
ちの 5.8%が NeuN 陽性であった。
水迷路の結果では、10 日間の試行期間においてプラットフォームにたどりつくまでの時間はどのグループにお
いても徐々に少なくなっていった(図 4)。しかし、days 8-10 においてグループ 2 と 3 の間に有為な差が認めら
れた(p<0.021)。グループ 4 すなわち移植を行ったが少数のニューロンしか認められなかった群は移植を行わな
274
Brain
attackから脳を守るための研究
かった群よりもむしろ空間認識能の低下が認められたが、統計学的には有為差は認められなかった(p<0.2084 at
days 8-10)。プラットフォームにたどりつくまでの距離においても同様の結果が得られた。
考
察
今回の実験で機能改善が生じたメカニズムの可能性として、虚血によって損傷を受けた神経回路が移植された
細胞によって再び構築されたということが挙げられる。我々の以前の実験では、神経幹細胞由来ニューロンから
は分化誘導 12 日後に典型的な活動電位が観察され、約 30 日後に後シナプス電流が記録された[1]。今回我々は移
植 3 週間後に水迷路テストを開始したが、その時点では神経幹細胞はすでに成熟したニューロンに分化している
ものと考えられる。そして、水迷路テストで機能改善がみられ始めた時期は、in vitro において後シナプス電流
が記録され始めた時期に一致する(図 5)。しかも、CA1 領域に生着した神経幹細胞は神経突起様の形態を示し、
シナプス関連タンパクを発現していた。これらの結果から考えると、水迷路テストの days 8-10 までにはまだ初
期のものかもしれないが、移植された細胞による新たな神経回路が形成されていたと考えるのが妥当であろう。
ラットの虚血モデルの空間認識能低下が胎仔海馬ニューロンや不死化した海馬神経上皮細胞の移植によって改
善したという報告がなされている[8,9]。これらの実験では 1 カ所につき 3 万個の細胞をそれぞれ 2 カ所ずつ両側
の海馬に移植している。全体の生着率は約 80%と報告されているが、そのうちどれだけの細胞が CA1 領域に生着
したかは述べられていない。今回の実験では行動改善がみられたラットでの CA1 領域における神経幹細胞由来ニ
ューロン数は最低で約 120 であり、これらの報告と比べるとかなり少ないと思われる。しかし、ラットのパーキ
ンソンモデルでの実験では、線条体に生着したドーパミン作動性ニューロンが少なくとも 100〜200 あればパーキ
ンソン症状の改善がみられるとの報告がなされている[10]。パーキンソン病とは機能改善のメカニズムは違うか
もしれないが、これら少数のニューロンが生着しただけでも虚血脳においても機能改善がみられるということは
あり得ると考えられる。
片側の CA1 領域に生着した神経幹細胞数は 500〜2000 であった。これは移植した細胞総数の 1〜3%に相当する。
もちろん CA1 領域以外にも多数の神経幹細胞が生着しているので実際の生着率はもっと高い。しかし、正常ラッ
トに成体ラット海馬由来神経幹細胞を移植したところ約半数が海馬に生着したという報告[11]と比べると、今回
の生着率はかなり低い。その理由としては虚血による影響が神経幹細胞の生着を妨げているということが考えら
れる。今回の実験においてグリオーシスが多くみられるラットにおいては細胞の生着率もニューロンへの分化率
も低いという傾向がみられた。また、これらのラットは水迷路テストの結果も細胞生着率やニューロン分化率が
よかった群と比べると悪いという結果であった。グリオーシスや死んだ細胞からのサイトカインなどがニューロ
ンへの分化や神経突起の伸長を妨げている可能性があり、これが水迷路テストでの低スコアにも繋がっていると
考えられる。細胞の生着率やニューロンへの分化率を向上させるには、移植方法の改良や移植時期の検討が必要
である。
成体ラットの海馬 CA1 領域は本来ニューロン新生が起こっている場所ではない。正常ラットの海馬に神経幹細
胞を移植した実験でも CA1 領域ではニューロンへの分化は観察されていない[11]。しかし、脳虚血後はサイトカ
インや膜タンパクの発現が上昇してニューロンの移動や分化を促進する可能性がある。脳虚血の後には一過性に
神経栄養因子の発現が海馬で上昇するという報告もみられる[12]。今回の実験においてもこれらの因子が神経幹
細胞からニューロンへの分化に重要な役割を果たした可能性があり、これらの因子の解明が今後の重要な課題と
なろう。
引用文献
[1] Toda, H., Takahashi, J., Mizoguchi, A., Koyano, K. and Hashimoto, N., Neurons generated from
275
Brain
attackから脳を守るための研究
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Neuroscience, 81: 599-608 (1997)
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TINS, 17: 490-496 (1994)
成果の発表
1) 原著論文による発表
イ) 国外誌
1.
Toda H, Takahashi J, Iwakami N, Kimura T, Hoki S, Mozumi-Kitamura K, Ono S, Hashimoto N. Grafting
neural stem cells improved the impaired spatial recognition in ischemic rats. Neurosci Lett 316:9-12
(2001)
2) 原著論文以外による発表(レビュー等)
ア) 国内誌(国内英文誌を含む)
1.
高橋
淳「臨床応用に向けたヒト神経幹細胞の単離と解析」神経研究の進歩 46(2):267-276, 2002
2.
高橋
淳「細胞移植治療における神経幹細胞」医学の歩み
276
2002 発刊予定
Brain
attackから脳を守るための研究
イ) 国外誌
1.
J Takahashi, H Toda, and N Hashimoto
Neural Stem Cells as a Tool for Cell Transplantation “Strategic
medical science against brain attack” ed. by Kikuch H. Springer, Tokyo pp. 3-20, 2002
3) 口頭発表
ア) 招待講演
1.
高橋
淳:「神経幹細胞の培養とその移植による神経回路形成」、第 41 回日本先天異常学会学術集会
(平
成 13 年 7 月、横浜)
2.
高橋
淳:
「神経幹細胞、神経再生におけるサイトカインの役割」、第 47 回千里神経懇話会 (平成 13 年 9
月、大阪)
3.
高橋
淳:「Application of neural stem cells to transient global ischemia」、第 24 回日本神経科学、
第 44 回日本神経化学合同大会(Neuro2001)
(平成 13 年 9 月、京都)
4.
高橋
淳:「神経幹細胞移植」、第 22 回日本脳神経外科コングレス(平成 14 年 3 月、大阪)
5.
高橋
淳:「ヒト胎児由来神経幹細胞の解析」、第 1 回日本再生医療学会総会(平成 14 年 4 月、京都)
6.
高橋
淳:
「神経幹細胞移植による脳卒中治療の可能性」、第 27 回脳卒中外科学会総会(平成 14 年 4 月、仙
台)
イ) 応募・主催講演等
1.
高橋
淳:
「神経幹細胞を用いた中枢神経機能の再生」、第 5 回ブレインアタックから脳を守る研究セミナー
(平成 14 年 1 月 30 日、大阪)
277
Brain
attackから脳を守るための研究
1.3. 中枢神経再生能解明に関する研究
1.3.3. 損傷神経の生存・再生促進因子の同定と遺伝子導入による治療法の開発に関する研究
1.3.3.1. 損傷神経の生存・再生促進因子の遺伝子検索
大阪市立大学大学院医学研究科機能細胞形態学
木山
要
博資
約
確実に損傷神経の再生が見られる末梢運動神経の損傷モデル(ラット舌下神経損傷モデル)を用いて神経再生
関連遺伝子の探索を行った。軸索損傷舌下神経核より作成した cDNA ライブラリーを用いてランダムにクローニン
グし、in situ ハイブリダイゼイションによるスクリーニングを行った。多くの新規・既知の遺伝子が得られ、神
経が再生するときの分子メカニズムの複雑な応答の一端が明らかになった。このような遺伝子応答のうち生存に
必要な遺伝子の一部は、中枢神経系の損傷において見られないか弱いことから、これが中枢神経系の損傷に対す
る脆弱性の原因であると考えられた。
目
的
脳梗塞や脊髄損傷など中枢神経系の損傷は、ほとんどの場合神経細胞の細胞死を引起し、重篤な機能損失が認
められる。一方、末梢神経系は軸索損傷には比較的耐性があり、生存し再生することができる。このような損傷
に対する末梢神経系と中枢神経系の大きな差は何に起因するのであろうか。我々はこの原因を明らかにする目的
で、確実に神経再生が見られる舌下神経の損傷モデルを用いて、まず神経損傷に関連して発現が変動する分子群
を集め、その中で中枢神経系の損傷では作動しない分子を抽出することをめざした。このため、我々は、舌下神
経に損傷を与えたラット約 1000 匹から損傷舌下神経核を回収し cDNA ライブラリーを作成した。本研究では、こ
のライブラリーを用いたランダムクローニングや、ディファレンシャルディスプレイ法を用いることで得られた
神経再生の分子メカニズムの解析や、新たに得られた遺伝子の機能的意義についての解析を行い、さらに中大脳
動脈梗塞モデルや視神経損傷などの中枢神経系の損傷モデルでいかなる分子の関与が考えられるかを明らかにし
ようと試みた。
研究方法
研究は Wistar ラットを用い、片側の舌下神経損傷 5 日後に顕微鏡下で舌下神経核を切りだし、健常側と損傷側
からそれぞれ RNA を取り出し、ディファレンシャルディスプレイ法もしくは損傷側の RNA を集めて cDNA ライブラ
リーの作成を行った。
得られた遺伝子の候補は、それをプローブとして in situ ハイブリダイゼイション法を用いたスクリーニング
に供した(Fig.1)。新規の遺伝子については cDNA ライブラリーを用いて全長のクローニングをするとともに、ア
デノウイルスに組み込んで培養細胞に発現させ、in vitro で生存活性や神経突起伸展活性を検討した。得られた
遺伝子の一部はアデノウイルスに組み込んで、ラット舌下神経損傷モデルを用いて神経生存活性や軸索伸展活性
278
Brain
attackから脳を守るための研究
があるかどうかを検討した。また、ラット中大脳動脈結紮による脳梗塞モデルや視神経切断モデルにおいて、得
られた遺伝子群がいかなる遺伝子応答を行うかも検討した。
Fig.1
研究成果
cDNA ライブラリーを用いた遺伝子の探索にでは、ランダムにクローンを選択し、in situ ハイブリダイゼイシ
ョン法による 2 次スクリーニングを行った結果、約 100 クローンにのぼる神経損傷関連遺伝子を同定した。また、
ディファレンシャルディスプレイ法による遺伝子スクリーニングにおいても、多くの神経再生関連遺伝子が得ら
れた(Fig. 2)。この中には新規なものの他に既知の遺伝子も多く含まれていた。既知の分子で比較的機能が明ら
かな分子を中心に、神経損傷により発現が上昇するものを分類すると、(1)神経栄養因子受容体やその下流に見
られる細胞内情報伝達系の分子群、
(2)グルタミン酸トランスポーターに見られるグルタミン酸毒性の除去機構、
(3)チオレドキシンやグルタチオン系の活性化による酸化蛋白の還元的修復、
(4)スーパーオキシドディスミュ
ーテース(SOD)やグルタチオンペルオキシダーゼ(Gpx)などによる、活性酸素の消去系、などの細胞死防御のため
のメカニズムが作動していることが明らかになった(Fig.3)。損傷後に見られる生存のための桜桃の中でも、神経
栄養因子受容体やその下流で作動する細胞内情報伝達系の発現はきわめて興味深い(Fig. 4)。GDNF や LIF、 BDNF
等の受容体が軒並み発現上昇し、その下流の Ras-ERK 系と PI3K-Akt 系の両者情報伝達路に属する分子群の多くに
発現増加・活性化が見られる(Fig. 4 矢印)。これらのシグナリングは神経損傷後に活性化し、細胞死防御に大き
く貢献していると考えられる。実際、幼若なラットの舌下神経損傷モデルでは軸索損傷後神経細胞死がおこるが、
Akt 遺伝子を導入することで細胞死を防御することができた。また、新規もしくは、今までに機能が全く判ってい
279
Brain
attackから脳を守るための研究
な か っ た 遺 伝 子 と し て は 、 神 経 損 傷 に 特 異 的 に 応 答 す る メ タ ロ プ ロ テ ア ー ゼ Damage induced neuronal
endopeptidase (DINE)(Kiryu-Seo et al 2000)、セリンプロテアーゼインヒビターの SPI-3 (Takamiya et al 2001)、
Rho ファミリーに属する TC10(Tanabe et al 2000)、が得られた。このほか、NOS の活性を抑制すると考えられる
dimethylarginine dimethylaminohydrolase (DDAH)、エンドセリンコンバーティングエンザイムなどがあった
(Nakagomi et al 2000)。以上により損傷神経が再生する過程で作動している分子群の多様性が明らかになるとと
もに、再生の分子メカニズムの一部が浮かび上がってきた。また、新規の DINE や SPI-3、グルタミン酸トランス
ポーターなど一部の遺伝子について、中枢神経系を含む神経損傷後の応答について検討した。新規のプロテアー
ゼとして、クローニングされた DINE は脳梗塞や外傷などさまざまな神経傷害時に発現し、細胞死防御に何らかの
役割を果たしていることが明らかになった(Kiryu-Seo et al 2000)。特に、本遺伝子の発現により SOD をはじめ
活性酸素の消去にかかる遺伝子群の発現を抑制することが明らかとなった。このほかセリンプロテアーゼインヒ
ビター(SPI-3)は炎症に応答して特定の細胞に発現することが明らかになった(Takamiya et al 2001, 2002)。障
害に対して耐性のある運動神経細胞では、SPI-3 はニューロンで発現したが、軸索障害に対して脆弱な網膜神経節
細胞などの中枢神経障害では発現応答が見られなかった。また、細胞内の生存シグナルとして重要な Akt は末梢
神経傷害でも幼若な細胞死を起こす系や一部の中枢神経系の損傷では全く応答しないか、若干の応答が認められ
るのみであった。この他軸索伸展に関与する分子群として Rho ファミリーの TC10 や Rho キナーゼの基質となる CRMP
なども得られた(Tanabe et al 2000)。DINE のプロモーター活性については LIF などのサイトカインが重要である
ことが明らかになりつつある。
Fig.2
280
Brain
attackから脳を守るための研究
Fig.3
Fig.4
考
察
本研究の損傷神経の生存・再生因子の遺伝子検索により、神経が損傷を受けた後、生存するためにいかなる分
子メカニズムが作動しているかが明らかになりつつある。神経の再生にはグルタミン酸毒性やフリーラジカルの
281
Brain
attackから脳を守るための研究
毒性を低下させるためのメカニズムが働くほか、ミトコンドリアや小胞体のストレスによる細胞死へ向けてのシ
グナルカスケードを多段階でブロックする生存のための応答が明らかになった。一方、脳梗塞などの神経損傷に
脆弱である中枢神経系では、この細胞死を引起すシグナルと生存のためのシグナルのバランスが細胞死の方へ傾
くことが細胞死に至る主要な理由と考えられる。損傷の激しさに応じてバランスの傾きが大きくなると考えられ
る。すなわち、生存のための応答が欠損しているか、細胞死へのシグナルがあまりにも強すぎる状況が浮かび上
がってきた。したがって、本研究結果から今後の方向性として、このバランスをいかに戻すかが重要であり、細
胞死の荷重をどうやって減らすか、また生存の荷重をいかに大きくするかをめざせば良いと考えられる。このよ
うな観点から、遺伝子導入のターゲットが絞り込まれると考えられる。また、同時に研究を展開している、
「遺伝
子導入による損傷神経の生存・再生促進の評価」で得られた効率良い遺伝子の導入法をうまく組み合わせること
により、効果的な神経保護・軸索再生が得られることが期待される。また、神経軸索伸展のメカニズムにおいて
も、アクチン線維や微小管のダイナミクスが重要であることが明らかになってきており、軸索伸展の促進におけ
るターゲットもかなり絞られてきたと考えている。
引用文献
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成果の発表
1) 原著論文による発表
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1.
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282
Brain
attackから脳を守るための研究
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Gesase AP, Kiyama H (2000) Morphological changes and expression of protein kinase CK2 beta subunit
in the microglia after hypoglossal nerve transection. J Neurocytol 29: 61-66
12.
Nakagomi S, Kiryu-Seo S, Kiyama H (2000) Endothelin converting enzymes and endothelin receptor B
mRNAs are expressed in different neural cell species and these mRNAs are coordinately induced in
neurons and astrocytes respectively following nerve injury. Neuroscience 101:441-449
13.
Tanabe K, Tachibana T, Yamashita T, Che YH, Yoneda Y, Ochi T, Tohyama M, Yoshikawa T, Kiyama H (2000)
The small GTP-binding protein TC10 promotes growth cone-like formation and nerve elongation in
neuronal cells, and its expression is induced during nerve regeneration in rats. J. Neurosci.
20:4138-4144.
14.
Takeda M, Kato H, Takamiya A, Yoshida A and Kiyama H (2000) Injury specific expression of activating
transcription factor-3 (ATF-3) in nerve injured retinal ganglion cells, and its co-localized
expression with phosphorylated c-Jun. Invest Ophth Vis Sci 41:2412-2421
15.
Kiryu-Seo S, Sasaki M, Yokohama H, Nakagomi S, Hirayama T, Aoki S, Wada K, Kiyama H (2000) Damage
induced neuronal endopeptidase (DINE) is a unique metallopeptidase expressed in response to neuronal
damage and activates superoxide scavengers. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97: 4345-4350.
2) 原著論文以外による発表
ア) 国内誌
1.
木山博資、損傷神経の温存再生を目指してー再生の分子メカニズムの解明からー、脊椎脊髄ジャーナル 13、
283
Brain
attackから脳を守るための研究
(2000)
2.
木山博資、瀬尾寿美子、濤川一彦、損傷神経生存・修復の分子メカニズム、蛋白質核酸酵素 45、(2000)
3.
木山博資、整形外科医のための分子生物学 12ー末梢神経損傷と再生ー、関節外科
4.
木山博資、再生軸索の伸展と神経細胞死防御の分子メカニズム、実験医学(増刊)
21、
(2002)
20
(No.5)、
(2002)
イ) 国際誌
1.
H Kiyama, S Kiryu-Seo, and K Namikawa
Gene expression and manipulation in injured neurons
“Strategic medical science against brain attack” ed. by Kikuch H. Springer, Tokyo pp. 115-124, 2002
3) 口頭発表
ア) 招待講演
1.
木山博資、
「神経再生における現状と展望」、第 7 回日本神経因性膀胱学会、教育講演、旭川グランドホテル、
2000 年 9 月 8 日
2.
木山博資、「末梢神経の損傷に対する生存と再生の分子基盤」、第 42 回歯科基礎医学会、シンポジウム、大
阪大学コンベンションセンター、2000 年 9 月 30 日
3.
木山博資、
「再生軸索伸展の分子基盤」、第 43 回日本神経化学会、シンポジウム、金沢市観光会館、2000 年
10 月 19 日
4.
木山博資、田辺勝久、「神経再生における細胞内情報伝達のダイナミクス」、第 41 回日本組織細胞化学会、
シンポジウム、高知県民文化ホール、2000 年 12 月 7 日
5.
Kiyama H, Developmental alteration of nerve injury induced gene expression is crucial for the
determination of the injured motor neuron fate,
日本神経科学会神経化学会合同学会、シンポジウム、
京都国際会議場、2001 年 9 月 27 日
6.
木山博資、
「軸索再生の分子機構」、第 107 回日本解剖学会総会、発生学懇話会、アクトシティー浜松、2002
年 3 月 28 日
7.
木山博資、「損傷神経の保護と再生」、第 27 回日本脳卒中学会、シンポジウム、2002 年 4 月 25 日、仙台国
際センター
284
Brain
attackから脳を守るための研究
1.3. 中枢神経再生能解明に関する研究
1.3.3. 損傷神経の生存・再生促進因子の同定と遺伝子導入による治療法の開発に関する研究
1.3.3.2. 遺伝子導入による損傷神経の生存・再生促進の評価
大阪市立大学大学院医学研究科機能細胞形態学
木山
要
博資
約
アデノウイルスベクターを用いて神経特異的な遺伝子導入系の構築を試みた。SCG10 のプロモーターに神経特異
的サイレンサーエレメントを複数付加することにより、プロモーターの改良を試みた。得られたプロモーターを
Cre の発現に用い、Cre-loxP を介して神経細胞特異的に発現するアデノウイルス遺伝子導入系が確立した。また、
遺伝子を動物に導入する評価系の構築については、幼若ラットの舌下神経損傷モデルが有用であった。この系で
は損傷を受けた神経細胞が徐々に細胞死を起こすが、ここに遺伝子を導入することで細胞死防御の活性を同定す
ることが可能である。また、神経突起伸展能力の評価には、標的組織に逆行性トレーサーを注入し、トレーサー
が逆行性に取り込まれ標識される神経細胞の数を計測することが有効であることが明らかになった。
目
的
1.3.3.1 の研究で神経再生にかかる遺伝子の同定を行っているが、それら遺伝子の生体への導入にあたって、細
胞死抑制と神経軸索再生の二つの機能を評価する系が必要になる。そこで、まず遺伝子を神経系に導入するに当
たって、神経細胞やグリアが混在する中枢神経系で、遺伝子を導入する細胞種を選別できるシステムが必須にな
る。そこで、神経細胞のみあるいはアストロサイトのみに特異的に遺伝子を導入するシステムの構築をめざした。
このため、アデノウイルスを用い Cre リコンビナーゼと loxP のシステムを利用した。また、損傷に対する細胞死
防御の評価と軸索伸展能の評価には末梢運動神経(舌下神経)損傷モデルを応用し、評価系構築をめざした。
研究方法
神経特異的プロモーターの開発には、神経特異的蛋白として知られる SCG10 の基本プロモーターを用い、それ
に 2〜10 個の神経特異的サイレンサーエレメント(NRSE)を前後に付加し、リポーター蛋白の発現を指標にさまざ
まなコンストラクトのプロモーターアッセイを行った。また、神経系、非神経系の細胞株を用い、神経特異性が
維持できるかを検討した。さらにラットの脳内に注入することにより実際の脳内でも神経細胞特異的発現が実現
できるかどうか試みた。神経細胞死防御の評価系の構築には、幼若ラットの舌下神経損傷モデルを用いた。幼若
ラットの舌下神経は成熟動物と異なり軸索損傷後 1 週間ほどかけて緩やかに神経細胞死にいたる。ここに、目的
遺伝子を損傷ニューロンにのみ導入することで、この細胞死がどの程度抑制できるかを検討する系を構築した。
また、神経突起伸展活性の評価には、成熟動物の舌下神経損傷モデルを用いた。片側神経に傷害を与えた後、舌
下神経は再生するが、この時損傷運動ニューロンに特異的に目的の遺伝子を導入する。この導入法についても検
討した。遺伝子導入により舌への再投射がどの程度促進するか、また遅延するかを逆行性のトレーサーを用いて
285
Brain
attackから脳を守るための研究
同定を試みた。逆行性トレーサーfluorogold; FG)は神経終末より取り込まれて逆行性に輸送され細胞体を標識す
る。神経損傷後一定期間の後、舌に FG を注入する。この時、損傷神経が舌に再投射しておれば、FG が取り込まれ
て起始細胞が標識されることを利用した。また、このシステムの有用性について検討した。
研究成果
神経細胞特異的発現に用いた Cre-loxP のシステムの概略を Fig.5 に示す。本システムでは、Cre を発現するア
デノウイルスと、標的分子を発現するアデノウイルスからなる。アデノウイルスを介して発現した Cre は、もう
一方のウイルス遺伝子中の loxP 配列を認識し 2 つの loxP に挟まれた領域をくりぬく。標的遺伝子をコードした
アデノウイルスが感染するとプロモーター(CA)下で loxP に挟まれたスタッファーを発現する(通常 Neo 耐性遺伝
子などが用いられる)これにはストップコドンが入っており、それより下流の標的遺伝子(Fig. 1 では lacZ)は
発現することができない。しかし、同時に Cre が発現すると、Cre によりスタッファーがストップコドンごとくり
貫かれるため、下流の目的遺伝子が発現することができる。この時、Cre をドライブするプロモーターに神経細胞
特異的なプロモーターを用いることにより、神経特異的な発現が起こる。実際この Cre-loxP システムは遺伝子発
現の ON/OFF をきわめて切れが良く制御できる。神経特異的なプロモーターとして、SCG10 の基本プロモーターの
みでは、培養細胞等ではあまり特異的な発現は見られなかった、また、NRSE を増やせば確かに特異性は増すが、
プロモーターの活性がかなり落ちてしまった。そこで、NRSE をプロモーターの 3‘側に複数追加したところ、あ
る程度のプロモーター活性を有しながら高い神経細胞特異性が得られた。培養細胞を用いた実験ではこの系はう
まく作動しており、また動物の脳内注入においてもかなり選択的に神経細胞に遺伝子導入を行うことができた。
アデノウイルスを用いて特異的に損傷舌下神経に遺伝子導入する方法として、神経の障害断端よりの遺伝子導入
が可能である(Fig. 2)。この場合は、神経特異的な発現をさせる必要がなく直接損傷舌下神経へ遺伝子を逆行性
に導入することができる。また、延髄背側から舌下神経核近くに直接注入する方法もある。この方法も多くの神
経細胞に遺伝子を導入することができるが、神経特的発現システムを用いる必要がある。このような系を用いて
実際に神経細胞死防御活性の高い Akt 遺伝子を幼若ラット舌下神経損傷モデルで試みた。その結果 Fig. 3 に示す
ように、損傷運動ニューロンに Akt を導入することで、明らかに差井星を防御することができた(Namikawa et al
2000)。一方、コントロールとして、ERK を活性化する MEK 遺伝子を導入した場合には細胞死を防御することがで
きなかった。このことから、本評価系を用いることにより、特定の遺伝子の細胞死防御活性が評価可能であると
考えられる。
286
Brain
attackから脳を守るための研究
Fig. 1
Fig. 2
287
Brain
attackから脳を守るための研究
Fig. 3
一方、軸索伸展活性の評価系として、FG による起始細胞の逆行性標識のシステムを検討したが、この系によっ
ても特定の遺伝子により突起伸展の促進効果が確認できた。Akt は神経細胞死防御に関与する遺伝子として知られ
ているが、この評価系で検討したところ、明らかに Akt 遺伝子を導入したほうが、標的筋への再投射が促進して
いることが証明された(Fig. 4)。
288
Brain
attackから脳を守るための研究
Fig. 4
考
察
特定の遺伝子が神経の温存や再生に実際に作用するかどうかを評価する実験動物系として、2 つの系が確立され
た。生存活性を評価するには幼若ラットの舌下神経損傷モデルが、また、軸索伸展活性を評価するには成熟動物
の舌下神経損傷モデルが有用であることが明らかになった(Kiyama et al 2002)。この系はきわめてマニュピレー
ションの容易な運動ニューロンの再生系を用いており、この評価系がすべての神経損傷場合の評価系として用い
ることができるかどうかは、今後の課題である。中枢神経系を用いた評価系もさらに検討する余地があると考え
られる。遺伝子導入のためのアデノウイルスの開発については、神経細胞特異的に導入する系はかなり有用であ
り、培養系やラット脳でいずれも良好な結果を得ている。今後は霊長類などのより高度な動物でも同様の系が作
動するかどうかを検討する必要があると考えられる。
引用文献
Namikawa K, Honma M, Abe K, Takeda M, Mansur K, Obata t, Miwa A, Okado H, Kiyama H (2000) Akt / Protein
kinase B prevents injury-induced motor neuron death and accelerates axonal regeneration. J. Neurosci.
20: 2875-2886.
Kiyama H, Kiryu-Seo S, Namikawa K, Gene expression and manipulation in injured neurons, (Strategic medical
science against brain attack, ed. Kikuchi H) Springer in press
289
Brain
attackから脳を守るための研究
成果の発表
1) 原著論文による発表
イ) 国外誌
1.
Takahashi H, Honnma M, Ishida-Yamamoto A, Namikawa K, Kiyama H, Iizuka H. (2001) Expression of human
cystatin A by keratinocytes is positively regulated via the Ras/MEKK1/MKK7/JNK signal transduction
pathway but negatively regulated via the Ras/Raf-1/MEK1/ERK pathway. J Biol Chem. 276(39):
36632-36638
2.
Matsuzaki H, Tamatani M, Yamaguchi A, Namikawa K, Kiyama H, Vitek MP, Mitsuda N, Tohyama M. (2001)
Vascular endothelial growth factor rescues hippocampal neurons from glutamate-induced toxicity:
signal transduction cascades.
3.
FASEB J. 15: 1218-1220.
Mitsuda N, Ohkubo N, Tamatani M, Lee YD, Taniguchi M, Namikawa K, Kiyama H, Yamaguchi A, Sato N,
Ogihara T, Vitek MP, Tohyama M. (2001) Activated CREB Regulates Neuronal Expression of Presenilin-1.
J Biol Chem. 276(13): 9688-9698.
4.
Yamaguchi A, Tamatani M, Matsuzaki H, Namikawa K, Kiyama H, Vitek MP, Mitsuda N, Tohyama M (2001)
Akt activation protects hippocampal neurons from apoptosis by inhibiting transcriptional activity
of p53. J Biol Chem 276(7): 5256-5264
5.
Namikawa K, Honma M, Abe K, Takeda M, Mansur K, Obata t, Miwa A, Okado H, Kiyama H (2000) Akt / Protein
kinase B prevents injury-induced motor neuron death and accelerates axonal regeneration. J. Neurosci.
20: 2875-2886.
6.
Takano R, Hisahara S, Namikawa K, Kiyama H, Okano H, Miura M (2000) Nerve growth factor protects
oligodendrocytes from TNF-a-induced injury through Akt-mediated signaling mechanisms. J Biol Chem
275:16360-16365
2) 原著論文以外による発表
ア) 国内誌
1.
瀬尾寿美子、木山博資、舌下神経損傷モデルによる神経再生研究、脳の科学 22
(2000)
2.
木山博資、末梢運動神経再生の臨界期決定因子、Clinical Neuroscience 18(11)、(2000)
3.
濤川一彦、木山博資、遺伝子導入による損傷ニューロンの保護と再生促進、
3) 口頭発表
ア) 招待講演
1.
木山博資、「神経再生の分子メカニズムと臨床応用の可能性」、第 16 回日本整形外科学会基礎学術集会、シ
ンポジウム、広島国際会議場、2001 年 10 月 19 日
290
Brain
attackから脳を守るための研究
2.1. 脳血管の病態成立機構に関する研究
2.1.1. 脳血管障害に於ける炎症性内因子の病態成立に果たす役割に関する研究
2.1.1.1. モノサイト系細胞の活性化と血管収縮能の獲得に関する作用機序の解明を行う
大阪成蹊学園
眞崎
要
知生
約
本研究の目的は,脳血管攣縮の発症因子としてのマクロファージと酸化赤血球膜の役割を解明することである。
実験系としては,摘出ウサギ胸部大動脈の張力測定および生体ウサギにおける脳血管撮影による脳底動脈の内径
測定を用いた。本研究により,1) クモ膜下出血では,まず赤血球が酸化的に傷害され,それを処理するために血
管内から単球が動員され,マクロファージに分化する,2) マクロファージはこの酸化赤血球(膜)を認識・貪食
して活性化され,強力な血管収縮物質であるエンドセリンを遊離し,脳血管攣縮が誘発される,3) 脳血管攣縮の
遅発性は単球の動員・活性化に時間がかかるためである,ことが明らかとなった。
研究目的
脳血管攣縮は,クモ膜下出血の発症後 4 日目位から出現し,最長で 4 週間後頃まで続く,脳血管の持続的収縮
のことをさす。この脳血管攣縮は,クモ膜下出血患者の予後を左右する重篤な病態であり,その機序解明をめざ
して多くの研究が行われ,これまでヘモグロビンを含む多数の物質が脳血管攣縮の原因因子候補として考えられ
てきた(1)。しかしながら,いずれの物質も遅発性の発症機構を説明できるだけの十分な証拠を欠いており,現
在のところ脳血管攣縮の発生機序はもちろんのことその治療法についてもいまだに不明である。
これまでの病理組織学的研究によれば,クモ膜下出血後の凝血塊の周囲には多数のマクロファージが集積して
いることが報告されているが,従来,このマクロファージはクモ膜下腔に出た血液を除去するためだけに存在す
るものと考えられてきた(2-4)。しかしながら,我々は以下に述べるような理由により,マクロファージに注目
することにした。すなわち,1) マクロファージは活性化されると,血管作動性物質を遊離するようになることが
知られている。すなわち,血管収縮物質としてはエンドセリン(ET)やプロスタグランジン類などがあり,血管
弛緩物質としては,一酸化窒素(NO)やサブスタンス P などがよく知られている(5, 6)。2) マクロファージは
脾臓において老化した赤血球を貪食することが良く知られているが,クモ膜下出血後の凝血塊においても赤血球
を貪食している組織像が観察されている(2-4)。3) 活性化の機構の一つとして異物の認識(および貪食)が知
られている(7)。我々はこれらの事実に注目し,クモ膜下出血の際には,クモ膜下腔に出た血液中の赤血球が酸
化的に傷害され,これをマクロファージが認識・貪食して活性化される結果,血管収縮物質を放出することによ
り脳血管攣縮が引き起こされるのではないかという仮説をたて,以下の研究を進めることにした。
研究方法
1) マクロファージの調整:マクロファージを得るために,まずチオグリコレート培地(5%,60 mL)をウサギの
291
Brain
attackから脳を守るための研究
腹腔内に投与し,投与後 3 日目に腹膜潅流を行って腹腔内細胞を採取した。これらの細胞を RPMI 1640 培地に再
浮遊し,CO2 インキュベーター中で 20 分間培養した後,洗浄により培養用ディッシュに接着していない細胞を洗
い流し,接着している細胞をマクロファージとして使用した。この細胞は 10%自己血清(56˚C で 30 分間加熱処理)
を含む RPMI 1640 培地中でさらに 4 時間培養した後使用した。
2) 赤血球膜(赤血球ゴースト)の調整:上記のマクロファージを採取したウサギの頸動脈から全血を採取し,赤
血球を分離した。この赤血球を 0.2 mM CuSO4 および 5 mM アスコルビン酸を含む PBS 中で,37˚C で 90 分間インキ
ュベーションを行うことにより,酸化赤血球を得た。低張処理(10 mM Tris-HCl, 1 mM K-EDTA, 1 mM MgCl2; pH
7.4)を行って赤血球ゴーストを作製した。膜が反転しないように 15 mM MgCl2 を含む PBS 中で洗浄し,これを赤
血球膜として実験に用いた。
3) ウサギ摘出血管における張力測定:上記の処理をしたウサギから胸部大動脈を摘出して輪状標本を作製し,こ
れをトランスデューサーに懸架した。静止張力として 1.5 g を負荷して,等尺性張力測定を行った。
4) ウサギ大槽内注入と脳血管撮影:チオペンタール麻酔をしたウサギの大槽を 25 gauge の注射針で皮膚上から
穿刺し,1 ml の脳脊髄液を吸引除去した後,赤血球膜の浮遊液あるいは赤血球膜とマクロファージの浮遊液 1 ml
を注入した。脳血管攣縮を観察するために,チオペンタール麻酔をしたウサギに対して Seldinger 法による脳血
管撮影を行い,脳底動脈の内径を測定した。脳血管撮影は,同一ウサギに対して注入前および注入後に各一回行
った。
5) 病理組織学的解析:チオペンタール麻酔をしたウサギの左心室から PBS をまず灌流し,続いて 4%パラホルムア
ルデヒドを含む PBS を灌流して固定した。クモ膜および脳底動脈が付着した状態で脳幹部を切り出し,4%パラホ
ルムアルデヒドで固定し,HE 染色を行った。
研究成果
A) in vitro 実験系
まず,摘出ウサギ胸部大動脈の輪状標本の張力に対するマクロファージの影響を検討した。摘出血管の栄養液
中にマクロファージを添加すると(2 x 106 cells),持続性の弱い収縮反応が誘発された(図 1)。マクロファ
ージとともに,酸化赤血球膜を添加すると,収縮は増強された。マクロファージとともに,酸化赤血球膜とヘモ
グロビンを添加すると,収縮はさらに増強された。
Mφs alone
Mφs +
non-ox-RBC ghosts
Mφs +
ox-RBC ghosts
1g
10 min
図1
摘出ウサギ胸部大動脈輪状標本の等尺性張力に対するマクロファージ単独(M・)
,マクロファージ + 非酸化赤血球膜(M・
+ non-ox-RBC ghosts),マクロファージ +酸化赤血球膜(M・ + ox-RBC ghosts)の影響。
292
Brain
attackから脳を守るための研究
図 2 は,マクロファージにより誘発される血管収縮に対する赤血球膜の影響をまとめたものである。マクロフ
ァージを単独で投与した場合の収縮を 100%としてデータを表した。酸化あるいは非酸化赤血球膜だけを単独で血
管に投与しても,血管収縮はほとんど認められなかった。しかしながら,マクロファージとともに非酸化赤血球
膜を投与すると,マクロファージ単独投与の場合に比べ,収縮は約 3 倍に増強され,酸化赤血球膜を用いた場合
には収縮は約 5 倍に増強された。オキシヘモグロビン単独投与では,血管収縮はほとんど認められなかったが,
オキシヘモグロビンはマクロファージおよび酸化赤血球膜により誘発される血管収縮をさらに増強した(マクロ
ファージ単独投与の場合に比べ,収縮は約 9 倍に増強された)。
contraction (% of control)
1000
L-NIO (+)
800
600
400
200
0
Mφ
non-oxRBCG
oxRBCG
oxyHb
図2
−
+
−
−
−
−
+
−
+
−
−
−
+
+
−
−
+
−
+
−
+
−
+
+
−
−
−
+
摘出ウサギ胸部大動脈輪状標本の等尺性張力に対するマクロファージ単独(M・),非酸化赤血球膜(non-oxRBCG),酸化
赤血球膜(oxRBCG),オキシヘモグロビン(oxyHb)単独またはそれらの組み合わせの影響。
次に,FastDi O という蛍光色素で標識化した赤血球膜を用いて,実際にマクロファージに赤血球膜が貪食され
るかどうかを検討した(データを示さず)。すなわち,蛍光色素で標識した非酸化および酸化赤血球膜を,マク
ロファージが接着しているシャーレに添加し,20 分間インキュベーションを行った後,洗浄により貪食されてい
ない赤血球膜を洗い流した後,マクロファージ中に赤血球膜が取り込まれているかどうかを蛍光顕微鏡を用いて
解析した。酸化赤血球膜を用いた場合には,蛍光色素で標識した赤血球膜を貪食して強い蛍光を発しているマク
ロファージが多数認められたが,非酸化赤血球膜を用いた場合には,赤血球膜に由来する蛍光を発するマクロフ
ァージは観察されなかった。この結果は,酸化された赤血球膜だけが,マクロファージに認識され貪食されるこ
とを示している。
293
Brain
attackから脳を守るための研究
B) in vivo 実験系
次に,いままで述べてきたような現象が in vivo でも起こっているかどうかを検討するために,酸化赤血球膜
単独または酸化赤血球膜とマクロファージを同時にクモ膜下腔へ注入して,脳血管攣縮の発生の有無を血管撮影
法を用いて観察した。
図 3 は,酸化赤血球膜あるいは非酸化赤血球膜だけをウサギのクモ膜下腔(大槽)へ注入した後,種々の時間
において脳血管撮影を行いウサギ脳底動脈血管径の変化の時間経過を示したものである。PBS を注入した対照群の
場合には,血管径は注入後 7 日に至るまで変化はみられなかった。また,非酸化赤血球膜を注入した場合にも血
管径の変化はみられなかった。一方,酸化赤血球膜を注入した場合には,6 時間後ではほとんど変化がみられなか
ったが,3 日後に約 50%にまで減少した。しかしながら,7 日後にはほぼ対照値のレベルまで回復した。なお,酸
化赤血球膜のクモ膜下腔への注入により得られた血管攣縮の時間経過および強さは,全血液の注入により得られ
る血管攣縮とほぼ同じであった。
これらのウサギを屠殺して,脳底動脈を含む脳幹部の組織切片を作成して,マクロファージの浸潤がみられる
かどうかを検討した(データを示さず)。酸化および非酸化赤血球膜をクモ膜下腔へ注入した 6 時間後では,赤
血球膜の塊へのマクロファージの浸潤はほとんどみられなかった。酸化赤血球膜をクモ膜下腔へ注入した 3 日後
では,脳底動脈周囲に存在する赤血球膜の塊の中に多数のマクロファージの浸潤が観察されたが,非酸化赤血球
膜を注入した場合にはマクロファージの浸潤はほとんどみられなかった。7 日後にはマクロファージの浸潤は減少
Caliber of basilar artery (% of control)
した。
PBS
0
non-oxidized
RBC ghosts
-25
oxidized
RBC ghosts
-50
0
2
4
6
Time after injection (days)
図3
PBS,非酸化赤血球膜 (non-oxidized RBC ghosts) および酸化赤血球膜(oxidized RBC ghosts)をウサギ大槽内に注入
した後の脳底動脈径の変化。脳底動脈径は脳血管撮影により測定した。
前の実験では,赤血球膜だけをクモ膜下腔に注入したが,次に,赤血球膜とマクロファージを同時に投与して,
脳血管攣縮の発生時間に変化があるかどうかを検討した(図 4)。すなわち,酸化赤血球膜とマクロファージの同
時投与後 30 分では脳底動脈の血管径に変化はみられなかったが,90 分では収縮がみられ始め,2.5 時間後に最大
294
Brain
attackから脳を守るための研究
収縮がみられた。その後,収縮は対照値へと回復した。これらの結果から,酸化赤血球膜とマクロファージを同
時に投与した時には,酸化赤血球膜だけを注入した時に比べて非常に早い時期に血管収縮がみられることがわか
った。一方,非酸化赤血球膜とマクロファージを同時に投与した場合および PBS のみを投与した場合には,血管
径には全く変化がみられなかった。
次に,マクロファージによる脳血管攣縮へのエンドセリンの関与の有無を明らかにするために,酸化赤血球膜
とマクロファージのクモ膜下腔への注入により誘発される血管攣縮に対するエンドセリン A および B 受容体遮断
薬の影響を検討した(図 5)。エンドセリン A 受容体の遮断薬である FR139317 およびエンドセリン B 受容体の遮
断薬である BQ788 はいずれも,無処置のウサギの脳底動脈に対しては影響を与えなかった。一方,エンドセリン A
受容体の遮断薬である FR139317 を前投与しておいた場合,酸化赤血球膜とマクロファージの注入後 2.5 時間で観
察される脳血管攣縮は完全に消失するとともに,逆に血管拡張がみられた。また,エンドセリン B 受容体の遮断
Caliber of basilar artery (% of control)
薬である BQ788 を前投与しておいた場合,脳血管攣縮はほぼ完全に抑制され,血管径は対照値に回復した。
non-oxidized + Mφ
RBC ghosts
0
PBS + Mφ
-25
oxidized RBC
ghosts + Mφ
-50
0
2
4
Time after injection (hours)
図4
PBS,非酸化赤血球膜 (non-oxidized RBC ghosts) または酸化赤血球膜(oxidized RBC ghosts)とマクロファージ (M・)
の混合液をウサギ大槽内に注入した後の脳底動脈径の変化。脳底動脈径は脳血管撮影により測定した。
295
Brain
attackから脳を守るための研究
Caliber of basilar artery (% of control)
50
100
150
None
FR139317
BQ788
oxRBC+Mφ
+FR139317
+BQ788
図 5 酸化赤血球膜およびマクロファージ(oxRBC+M・)をウサギ大槽内に注入することにより誘発される脳底動脈の収縮に対
するエンドセリンタイプ A および B 受容体遮断薬(タイプ A, FR139317; タイプ B, BQ788)の影響。脳底動脈径は脳血管撮影に
より測定した。
考
察
A) in vitro 実験
摘出ウサギ胸部大動脈の輪状標本の張力発生を指標として行った機能実験において,マクロファージ単独でも
軽度の血管収縮を誘発した(図 1 および 2)。一方,酸化赤血球膜それ自身は血管張力に対して影響を与えないに
もかかわらず,マクロファージにより誘発される収縮反応を著明に増強した(図 1 および 2)。非酸化赤血球膜に
はこの作用は認められなかった。オキシヘモグロビンは,マクロファージおよび酸化赤血球膜により誘発される
血管収縮をさらに増強した(図 1 および 2)。さらに,蛍光色素で標識化した赤血球膜を用いた実験により,酸化
赤血球膜がマクロファージに特異的に貪食されることがわかった(データを示さず)。
これらの実験結果から,以下のような結論が得られる。すなわち,1) マクロファージは,酸化赤血球膜を認識
して貪食することにより,活性化される。2) その結果,血管収縮物質を放出し,強い血管収縮をきたす能力を獲
得する。3) オキシヘモグロビンは,マクロファージによる血管収縮を増強するが,これはマクロファージから血
管収縮物質と同時に放出される血管弛緩物質である NO を吸着することによると考えられた。
B) in vivo 実験:酸化赤血球膜のクモ膜下腔への注入
酸化赤血球膜だけをクモ膜下腔へ注入した場合,注入 3 日後にウサギ脳底動脈の血管攣縮が誘発されたが,非
酸化赤血球膜を注入した場合には脳血管攣縮は誘発されなかった。酸化赤血球膜のクモ膜下腔への注入により得
られた脳血管攣縮の時間経過および強さは,全血液の注入により得られる血管攣縮とほぼ同じであった。すなわ
ち,従来の報告にあるようなまるごとの赤血球ではなく,酸化した赤血球の膜だけを注入することにより,脳血
管攣縮を誘発することができることが明らかになった。さらに,脳血管攣縮の発生と時間的に一致して,酸化赤
血球膜周囲へのマクロファージの浸潤がみられた。これらの結果は,酸化赤血球膜およびマクロファージが脳血
管攣縮において重要な役割を果たしていることを示している。
酸化赤血球膜とマクロファージを同時に投与した時には,酸化赤血球膜だけを注入した時に比べて非常に早い
時期に血管収縮がみられることがわかった。すなわち,酸化赤血球膜だけを注入した時には脳血管攣縮のピーク
は注入 3 日後にみられたのに対して,酸化赤血球膜とマクロファージを同時に投与した時には注入 2.5 時間後に
296
Brain
attackから脳を守るための研究
みられた。この結果から,脳血管攣縮の発症が遅いのはマクロファージの血管内からの動員・活性化に時間がか
かることが明らかとなった。
C) マクロファージから遊離される血管収縮物質の同定
酸化赤血球膜とマクロファージの注入後 2.5 時間で観察される脳血管攣縮は,エンドセリン A 受容体の遮断薬
(FR139317)およびエンドセリン B 受容体の遮断薬(BQ788)の前投与によりほぼ完全に消失した(図 5)。これ
らの結果は,1) マクロファージにより遊離される主たる血管収縮物質はエンドセリン-1 であり,2) このエンド
セリン-1 は脳血管に存在するエンドセリン A および B 受容体の両方に作用して血管収縮を誘発する(血管の拡張
率から考えると,エンドセリン A 受容体の関与の程度がより大きいと考えられる),ことを示している。
さらに,エンドセリン A 受容体の遮断薬を用いた場合には,逆に血管拡張がみられた(図 5)。一般的に,活性
化されたマクロファージから血管拡張物質である NO が遊離されることが報告されている(6)。一方,クモ膜下
出血の凝血塊近傍では溶血した赤血球から放出されたヘモグロビンが高濃度に存在していると考えられるが,こ
のヘモグロビンは NO を吸着してその作用を阻害することがよく知られている(8)。実際,我々の血管張力実験
でも,マクロファージおよび酸化赤血球膜により誘発される摘出血管の収縮はオキシヘモグロビンにより増強さ
れた(図 2)。本実験では,赤血球ではなく赤血球膜だけをクモ膜下腔に注入したので,ヘモグロビンは存在しな
い。従って,活性化されたマクロファージから遊離された NO の作用が阻害されず,血管拡張が観察されたと考え
られる。
D) 全体のまとめ(図 6)
以上の実験データから,脳血管攣縮の発症機構をまとめたものが図 6 である。すなわち,クモ膜下出血により,
血液がクモ膜下腔に出ると,赤血球が酸化されて傷害されるとともに,溶血がおこり,酸化赤血球膜および細胞
内成分であるヘモグロビンが出現する。それらの老廃物特に酸化赤血球膜を処理するために,血管内から単球が
動員され,マクロファージに分化する。マクロファージはこの酸化赤血球膜を認識し,貪食する結果,活性化さ
れる。その結果,マクロファージは強力な血管収縮物質であるエンドセリン-1 を放出し,脳血管攣縮が誘発され
ると考えられる。マクロファージは同時に血管拡張物質である NO も遊離するが,クモ膜下出血では溶血により産
生されたヘモグロビンがその作用を阻害するために収縮反応のみが起こると考えられる。脳血管攣縮の発症が遅
いのはマクロファージの血管内からの動員・活性化などに時間がかかるためであることもわかった。
Blood Clot
Oxidized
RBCs
Hemoglobin
Phagocytosis
Activation
Monocyte
Mobilization
Vasodilator
(NO)
Macrophage Vasocontrictor
(ET-1)
Capillary
Cerebral artery
図6
脳血管攣縮の発症機構のまとめ。
297
Brain
attackから脳を守るための研究
引用文献
1) Weir B, MacDonald L, Stoodley M.
Etiology of cerebral vasospasm.
Acta Neurochir 72, 27-46
(1999).
2) Hammes Jr EM.
3) Jackson IJ.
Reaction of the meninges to blood.
Aseptic hemogenic meningitis.
4) Huges JT, Schianchi PM.
Arch Neurol Psychiat 52: 505-514 (1944).
Arch Neurol Psychiat 62: 572-589 (1949).
Cerebral artery vasospasm.
J Neurosurg 48: 515-525 (1978).
5) Martin-Nizard F, Houssaini HS, Lestavel-Delattre S, et al.
Modified low density lipoproteins
activate human macrophages to secrete immunoreactive endothelin.
6) Laskin DL, Pendino KJ.
FEBS Lett 293: 127-130 (1991).
Macrophages and inflammatory mediators in tissue injury.
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7) Moonis M, Ahmad I, Bachhawat BK.
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8) Martin W, Villani GM, Jothianandan D, Furchgott RT.
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and glyceryl trinitrate-induced relaxation by hemoglobin and by methylene blue in the rabbit
aorta.
J Pharmacol Exp Ther 232: 708-716 (1985).
成果の発表
1)原著論文による発表
イ)国外誌
1.
Kawanabe Y, Hashimoto N, Masaki T, Miwa S.: “Ca2+ influx through nonselective cation channels plays
an essential role in noradrenaline-induced arachidonic acid release in chinese hamster ovary cells
expressing ・1A-, ・1B-, or ・1D-adrenergic receptors”, J Pharmacol Exp Ther., 299(3): 901-7 (2001)
2.
Lee K., Morita H., Iwamuro Y., Zhang X.-F., Okamoto Y., Miwa S.: “Failure of endothelin-1 to activate
store-operated Ca2+ channels by lack of mobilization from intracellular Ca2+ stores in cultured bovine
adrenal chromaffin cells”, Naunyn-Schmiedeberg’s Arch Pharmacol., 364:42-46 (2001)
3.
Okamoto, Y., Ninomiya, H., Miwa, S.. &
Masaki, T.: “Cholesterol oxidation switches the
internalization pathway of endothelin receptor type A from caveolae to clathrin-coated pits in Chinese
hamster ovary cells.” J Biol Chem, 275: 6439-6446 (2000)
4.
Lee, K., Morita, H., Iwamuro, Y., Zhang, X.-F., Okamoto, Y., Nakagawa, T., Hasegawa, H., Furutani,
H., Miwa, S., & Masaki, T.: “Pharmacological characterization of receptor-mediated Ca2+ entry in
endothelin-1-induced catecholamine release from cultured bovine adrenal chromaffin cells.”
Naunyn-Schmiedeberg’s Arch Pharmacol, 360: 616-622 (1999)
5.
Zhang, X.-F., Iwamuro, Y., Okazawa, M., Lee, K., Minowa, T., Komuro, T., Okamoto, Y., Hasegawa, H.,
Furutani, H., Miwa, S., & Masaki, T.: “Pharmacological characterization of Ca2+ entry channels in
endothelin-1-induced contraction in rat aorta using LOE 908 and SK&F 96365.” Br J Pharmacol, 127:
1388-1398 (1999)
6.
Iwamuro, Y., Miwa, S., Zhang, X.-F., Minowa, T., Enoki, T., Okamoto, Y., Hasegawa, H., Furutani, H.,
Okazawa, M., Ishikawa, M., Hashimoto, N., &
2+
Masaki, T.: “Activation of three types of
voltage-independent Ca channel in A7r5 cells by endothelin-1 as revealed by a novel Ca2+ channel blocker
298
Brain
attackから脳を守るための研究
LOE 908.” Br J Pharmacol, 126: 1107-14 (1999)
7.
Kikuta, K., Sawamura, T., Miwa, S., Hashimoto, N., & Masaki, T.: “High-affinity arginine transport
of bovine aortic endothelial cells is impaired by lysophosphatidylcholine.” Circ Res, 83: 1088-1096
(1998)
8.
Zhang, X.-F., Komuro, T., Miwa, S., Minowa, T., Iwamuro, Y., Okamoto, Y., Ninomiya, H., Sawamura,
T., & Masaki, T.: “Role of nonselective cation channels as Ca2+ entry pathway in endothelin-1-induced
contraction and their suppression by nitric oxide.” Eur J Pharmacol, 352: 237-245 (1998)
9.
Iwamuro, Y., Miwa, S., Minowa, T., Enoki, T., Zhang, X.-F., Ishikawa, M., Hashimoto, N., & Masaki,
T.: “Activation of two types of Ca2+-permeable nonselective cation channel by endothelin-1 in A7r5
cells.” Br J Pharmacol, 124: 1541-1549 (1998)
10.
Hasegawa, H., Hiki, K., Sawamura, T., Aoyama, T., Okamoto, Y., Miwa, S., Shimohama, S., Kimura, J.,
& Masaki, T.: “Purification of a novel endothelin-converting enzyme specific for big endothelin-3.”
FEBS Lett, 428: 304-308 (1998)
11.
Komuro, T., Miwa, S., Minowa, T., & Masaki, T.: “Physiological role of Ca2+-permeable nonselective
cation channel in endothelin-1-induced contraction of rabbit aorta.” J Cardiovasc Pharmacol, 30:
504-509 (1997)
12.
Okamoto, Y., Ninomiya, H., Tanioka, M., Sakamoto, A., Miwa, S., & Masaki, T.: “Palmitoylation of
human EndothelinB.” J Biol Chem, 272: 21589-21596 (1997)
13.
Minowa, T., Miwa, S., Kobayashi, S., Enoki, T., Zhang, X.-F., Komuro, T., Iwamuro, Y., & Masaki,
T.: “Inhibitory effect of nitrovasodilators and cyclic GMP on ET-1-activated Ca2+-permeable
nonselective cation channel in rat aortic smooth muscle cells.” Br J Pharmacol, 120: 1536-1544 (1997)
14.
Komuro, T., Miwa, S., Minowa, T., Okamoto, Y., Enoki, T., Ninomiya, H., Zhang, X.-F., Uemura, Y.,
Kikuchi, H., & Masaki, T.: “The involvement of a novel mechanism distinct from the thrombin receptor
in the vasocontraction induced by trypsin.” Br J Pharmacol, 120: 851-856 (1997)
15.
Hosokawa, H., Sawamura, T., Kobayashi, S., Ninomiya, H., Miwa, S., & Masaki, T.: “Cloning and
characterization of a brain-specific cationic amino acid transporter.” J Biol Chem, 272: 8717-8722
(1997)
16.
Sawamura, T., Kume, N., Aoyama, T., Moriwaki, H., Hoshikawa, H., Aiba, Y., Tanaka, T., Miwa, S.,
Katsura, Y., Kita, T., &
Masaki, T.: “An endothelial receptor for oxidized low density
lipoprotein.” Nature, 386: 73-77 (1997)
2) 原著論文以外による発表
ア)国内誌
1.
Miwa, S., Iwamuro, Y., Zhang, X.-F., Enoki, T., Okamoto, Y., Okazawa, M., & Masaki, T.: “Ca2+ enrty
channels in rat thoracic aortic smooth muscle cells activated by endothelin-1.”
Jpn J Pharmacol :
80, 281-288 (1999)
2.
三輪聡一,岩室康司,眞崎知生:
「エンドセリンの作用とカルシウム拮抗薬」血管と内皮:8(1)Pp. 23-33
(1998)
ア) 国外誌
1.
Taro Komuro, Soichi Miwa, Yoshifumi Kawanabe, Xiao-Feng Zhang, Tatsuya Sawamura, Manabu Fukumoto,
299
Brain
attackから脳を守るための研究
Haruhiko Kikuchi, Tomoh Masaki Cerebral Vasospasm Induced by the Interaction Between Macrophage and
Oxidized Membrane of Erythrocyte “Strategic medical science against brain attack” ed. by Kikuch
H. Springer, Tokyo pp. 254-265, 2002
2.
Miwa, S., Iwamuro, Y., Zhang, X.-F., Kawanabe, Y. & Masaki, T.: “LOE 908, a specific blocker of
nonselective cation channel.”
3.
Cardiovasc Drug Rev: 18, 61-72 (2000)
Masaki, T., Miwa, S., Sawamura, T., Ninomiya, H., & Okamoto, T.: “Subcellular mechanisms of
endothelin action in vascular system.” Eur J Pharmacol: 375,133-138 (1999)
3) 口頭発表
イ)
1.
応募・主催講演等
三輪
聡一、岩室 康司、張
暁峰、眞崎
知生:「血管調節機構におけるエンドセリンの意義」、第 71 回
日本薬理学会年会、平成 10 年 3 月 24 日
2.
三輪
聡一、深尾
充宏、川那辺
吉文:「エンドセリンにより活性化される Ca2+透過性チャネルの薬理学
とその調節機構」、第 43 回日本平滑筋学会総会、平成 13 年 7 月 20 日
300
Brain
attackから脳を守るための研究
2.1. 脳血管の病態成立機構に関する研究
2.1.1. 脳血管障害に於ける炎症性内因子の病態成立に果たす役割に関する研究
2.1.1.2. 脳血管障害の成因において細胞外マトリックスの果たす役割の評価を行う
京都大学大学院医学研究科脳神経外科
森本
将史、近藤 惣一郎、福田 俊一、野崎 和彦、宮本 享、定政
信猛、橋本
信夫
加齢医学科
久米
典昭、北 徹
解剖学
溝口
要
明3
約
本研究は、[1]において我々が報告した人間の脳動脈瘤と相同性の高い自然誘発型脳動脈瘤動物モデルを用い、
脳動脈瘤発症の主要分子機構とそれに関与する特定重要因子の解明し、それを標的とした治療応用への可能性を
検討した。
特に中膜平滑筋細胞の変化と、主要血管結合組織の分解に注目し、アポトーシス、nitric oxide(NO)を誘導す
る inducible NO synthase(iNOS)の関与、MAPK の関与を報告し[2][3][4]、さらにそれに加えて細胞外マトリック
スを分解する Matrix Metalloproteinase(MMP)-2、-9 の活性化が脳動脈瘤形成における血管リモデリングに深く
関与していることを明らかにした(投稿準備中)
。またこれらを抑制することで脳動脈瘤の発達が有意に抑制され
ることも確認し、今後の脳動脈瘤に対する新治療法開発に新たな方向性を示した。
研究目的
脳卒中の中でも最も予後が悪いとされるクモ膜下出血の大部分は脳動脈瘤の破裂が原因であるが、その形成機
序は未だ不明点が多い。この発生機序を分子レベルで明らかにし、脳動脈瘤破裂の発症を効果的に予防、治療す
ることは現代医療にとって急務である。本研究では脳動脈瘤発症の主要分子機構とそれに関与する重要因子の解
明を目的とし、それらを標的にした治療が今後の非侵襲的新治療法への発展につながる可能性について検討した。
研究方法
1. 自然誘発脳動脈瘤動物モデルの作製
5-8 週の Sprague-Dawley rat 又は 7-9 週の C57bl/6 mice を用い、片側頚動脈および両側腎動脈後枝の ligation
を行い、術後 1 週間より塩水負荷を行った(図 1)。3~6 ヵ月後に麻酔下にてパラホルムアルデビドを用いて全身
潅流固 定後、 脳血管 を脳 実 質から剥離 す ると、 術側 と対側の Anterior Cerebral Artery(ACA)- Olfactory
Artery(OA)分岐部に色々な段階の脳動脈瘤の発生を高頻度に認めた(図 2)。
301
Brain
attackから脳を守るための研究
図1
図2
2. 免疫染色(光顕)
摘出した ACA-OA 標本を凍結切片またはパラフィン切片に加工した後、通常の方法で免疫染色を施行した。過酸
化水素および血清にて内因性ペロキシダーゼの不活化およびブロッキングを行い、1 次抗体を使用した。その後、
各種 2 次抗体を用い、蛍光染色、HRP 標識の ABC キットを用いた DAB 染色を行った。TUNEL 法および電顕法につい
ての詳細は[2]、[3]、[5]に示した通りである。
302
Brain
attackから脳を守るための研究
(実験 1)
ラットモデルの動脈瘤切片(ACA-OA 分岐部)を用いて TdT mediated dUTP-X nickend labeling(TUNEL 法)を施行
し、動脈瘤頻発部位である ACA-OA 分岐部近傍においてアポトーシス変化を来たしている平滑筋細胞の数を正常群、
初期群、発達群において ACA 側(動脈瘤頻発部位)と OA 側で其々観察した。また電顕にて動脈瘤壁における平滑
筋細胞の変化も観察した。
(実験 2)
実験 1 と同じく脳動脈瘤ラットモデルを用い、動脈壁リモデリングに重要な関与を示すと報告されている nitric
oxide(NO)誘導因子 inducible NO synthase(iNOS)の脳動脈瘤形成段階における発現を免疫染色にて検討した。更
に NOS 阻害剤 Aminoguanidine(AG)の阻害作用を検討するため生食と AG を腹腔内投与し、両群の動脈瘤形成を観察
する対照実験を行った。また hemodynamic stress が動脈瘤壁における iNOS の発現に及ぼす影響についても検討
するため、血管内腔側のシエアストレス漸減効果をもつ batroxobin(BX)の腹腔内注射を行い、脳動脈瘤壁の iNOS
の発現変化を免疫染色にて調べ、それと同時に脳動脈瘤形成に対する影響についても検討した。
また、アポトーシス実行の上流因子として MAPK カスケードの関与を検討するために、ヒト脳動脈瘤サンプルに
おけるリン酸化 JNK、リン酸化 c-JUN の発現を検討した。
(実験 3)
同じく脳動脈瘤ラットモデルを用い、血管結合組織のエラスチン、コラーゲンを特異的に融解し、血管リモデリ
ングに大きく関与すると報告されている matrix metalloproteinase(MMP)-2、-9 の脳動脈瘤形成過程における発
現の経時的変化および、それらと炎症細胞マクロファージとの関連性について CD68 マーカー抗体を用いて免疫染
色を行い検討した。
また[5]で報告したように新たに脳動脈瘤マウスモデルも作製し、Wild-type、MMP-2-/-、MMP-9-/-マウスにおいて
発生した脳動脈瘤のサイズを測定し、MMP-2、-9 の欠損が脳動脈瘤形成に及ぼす影響についても検討した。さらに
MMPI-81(MMP-2、-9 を含む MMP 経口阻害剤)を術後 4 ヶ月間ラットに投与し、MMP 阻害剤の脳動脈瘤形成抑制効果
についてコントロール群と比較検討した。
研究成果
1. 脳動脈瘤平滑筋細胞のアポトーシス変化
ラット動脈瘤切片を用い TUNEL 法を施行した結果、動脈瘤頻発部位である ACA-OA 分岐部近傍の ACA 側において
アポトーシス変化を来たした平滑筋細胞数は、
無変化群(n=8):0.1±0.4(個)、動脈瘤初期(n=9):2.9±2.0(個)、動脈瘤発達期(n=11):1.5±1.3(個)とな
り OA 側(無変化群:0(個)、初期:1.7±1.1(個)、発達期:1.6±1.0(個))と比較すると初期群で有意に多い
アポトーシス変化を認めた。また電顕所見においても脳動脈瘤の平滑筋細胞にて核、細胞質の凝縮化および核の
断片化といったアポトーシス変化が生じていることを確認した(図 3)。
303
Brain
attackから脳を守るための研究
図3
2. 脳動脈瘤形成における iNOS、MAPK の関与
ラットの ACA-OA 分岐部において iNOS は正常血管では発現を認めず、動脈瘤では遠位端を中心に発現を認めた
(図 4)。また内皮細胞および平滑筋細胞の障害の程度によって 5 段階で動脈瘤の発達を評価したところ、NOS 阻
害剤 Aminoguanidine(AG)の腹腔内投与により動脈瘤の発達は明らかに抑制され、それと同時に発生自体も抑制さ
れた(表 1)。またシエアストレス漸減効果のある Batroxobin (BX)の投与により動脈瘤壁における iNOS の発現は
減少し、また動脈瘤の発達も明らかに抑制された。
ヒト脳動脈壁においては、iNOS の発現亢進に加えて、リン酸化 JNK、c-JUN の発現の亢進を認めた。
304
Brain
attackから脳を守るための研究
図4
表1
Aminoguanidine 投与による脳動脈瘤形成の抑制
No.of animals No.of aneurysms MABP(mmHG) CBF(ratio)
Saline
8
9
141±16
100±28
AG100mg/kg
13
2
184±35
109±16
3. 脳動脈瘤形成における MMP-2、-9 の発現と機能
正常血管にて発現を認めなかった MMP-2、-9 は、動脈瘤初期段階において発現を認め、動脈瘤の発達と共にそ
の発現は活発になった(図 5)。またそれと同時に炎症細胞マクロファージの発現も観察したところ、特に MMP-9
の発現はマクロファージの発現と非常に相同性を持っていた。さらに Wild-type、MMP-2-/-、MMP-9-/-マウスにおい
て発生した脳動脈瘤を解析し stage 分類した結果、 Wild-type マウスと比較して MMP-2-/-、MMP-9-/-マウスに発生
した脳動脈瘤はいずれも発達の抑制傾向を示し、特に MMP-9-/-マウスでは有意に脳動脈瘤発達の抑制を認めた(表
2)。またさらに MMP-2、-9 を含む MMP 経口阻害剤(MMPI-81)をラットに使用したところ、コントロール群と比較
して有意に動脈瘤の発達抑制効果を認めた(投稿準備中)。
305
Brain
attackから脳を守るための研究
図5
表2
MMP-2, 9 ノックアウトマウスにおける脳動脈瘤形
Aneurysmal changes
No change
Early
Advanced
Wild-type (n=12)
1(8%)
5(42%)
6(50%)
MMP-2-/- (n=7)
2(29%)
4(57%)
1(14%)
MMP-9-/- (n=12
3(25%)
6(50%)
3(25%)
考
察
我々は人間の脳動脈瘤と相同性の高い自然誘発型脳動脈瘤ラットモデルを用い、脳血管分岐部近傍におけるシ
エアストレスの変化によって(1)内弾性板の消失、(2)中膜平滑筋層の浅薄化が誘導され、これらが脳動脈瘤
形成過程における主要メカニズムである可能性を[6][7][8]をはじめとしてこれまで報告してきた。本研究におい
ては、この vascular remodeling を引き起こす主要分子メカニズムであるアポトーシス変化、動脈変性主要因子
NO を誘導する iNOS、MAPK、細胞外マトリックス分解を誘導する MMP について検討し、これらが今後の動脈瘤治療
における治療ターゲットになりうる可能性を示した。
動脈瘤形成時における平滑筋細胞のアポトーシス変化を TUNEL 法および電顕所見にて確認した結果によれば、
アポトーシス変化は動脈瘤形成初期段階で特に活発に認め、発達期になると平滑筋細胞が残存する頚部にその変
化を認めた。[9]によると平滑筋細胞は一方でエラスチン等の細胞外マトリックスの分泌にも関与していることか
ら、このアポトーシス変化が平滑筋細胞の減少だけでなく、細胞骨格の破綻にも影響している可能性も考えられ
る。これらの事実よりアポトーシス変化が動脈瘤形成時における平滑筋層浅薄化の主要メカニズムの 1 つである
ことが示唆された。今後はアポトーシス主要経路に関わる因子を標的にしたノックアウトマウス等を用いて p53、
bcl、Caspase 等のアポトーシス主要経路関連因子の機能を解析していくと同時に、それらの阻害剤を用いた動脈
瘤抑制効果についても検討していく方針である。
306
Brain
attackから脳を守るための研究
またアポトーシス変化と同時に、[10][11]によると動脈変性に大きく関わると報告されている nitric oxide(NO)
を誘導する iNOS の発現が動脈瘤形成時の初期段階に平滑筋細胞層に活発に発現することも確認した。この因子は
[12]をはじめとして動脈瘤発生の初期刺激因子と報告されているシエアストレスの変化を人為的に大きくするこ
とで発現の増加を認め、またこの因子を阻害することで動脈瘤の発生および発達が共に有意に抑制された。以上
の結果より iNOS が脳動脈瘤発生の初期主要誘導因子とされるヘモダイナミックストレスの変化によって動脈壁内
に発現し、動脈瘤壁の発生と成長に大きく関与する可能性が示唆された。また、アポトーシス実行の上流にある
と考えられている MAPK カスケードのうち JNK と c-JUN の活性型が亢進している可能性が示唆された。しかし
hemodynamic stress からどのようなシグナリングを受けて iNOS、MAPK が発現するのか、それは内皮細胞を介する
のか否か、また発現した iNOS、MAPK は実際動脈瘤形成においてどのようなメカニズムを誘導しているのか、など
iNOS、MAPK の動脈瘤形成時における発現機構およびその役割については未だ明らかでない。今後は iNOS を標的と
したノックアウトマウスを用いて具体的に iNOS の機能を更に詳細に解析していくと同時に iNOS 発現に関与する
転写因子、MAPK カスケードの上流、下流の解析も同時に進めていく方針である。
脳動脈瘤形成にとって平滑筋細胞層の浅薄化と同時に内弾性板の消失が重要なメカニズムである可能性が高い
ことは前述した。これら 2 つの主要メカニズムの両方に深く関連していると思われるのが、細胞外マトリックス
の分解である。すなわち、エラスチン、コラーゲンといった結合組織によって、平滑筋細胞の細胞外骨格や内弾
性板は形成されていることから、これらの融解は動脈瘤形成にとって不可欠なメカニズムであると[13]、[14]で
報告されている。そしてこの変化を誘導する主役になるのが Matrix Metalloproteinase (MMP)である。今回我々
はエラスチン、コラーゲンといった主要血管構成マトリックスを特異的に融解する MMP-2、-9 に注目し、それら
が初期段階から動脈瘤の発達と共に発現が活発になっていくことを明らかにした。MMP-2 に関しては動脈瘤の発達
と共に発現の増加を認めた一方で、MMP-2-/-マウスを用いた実験では wild-type マウスと比較して動脈瘤の発達に
抑制傾向は見られるものの有意差には至らなかった。しかし MMP-9 は動脈瘤形成に深く関与すると報告されてい
る炎症主要細胞マクロファージの発現と強い相同性を示した。さらにノックアウトマウスを用いた機能解析にお
いても MMP-9-/-マウスにおける動脈瘤の成長は Wild-type マウスと比較して有意に抑制された。以上の結果および
[15]の報告のようにマクロファージは動脈硬化病変においても MMP を誘導することから、MMP-9 は脳動脈瘤形成に
重要な関与がある炎症反応と密接な関連を持ち脳動脈瘤形成に大きく関与していることが示唆された(図 6)。そ
れに加え、抑制実験においても MMP-2、-9 を共に含む MMP 阻害剤を用いると動脈瘤の発達期段階への成長はさら
に有意に抑制されたことから、これらの MMP 因子は動脈瘤形成に主要な役割を担い、治療ターゲットになりうる
可能性があると思われる。またアポトーシスおよび iNOS の発現と異なり、MMP は初期段階よりもむしろ動脈瘤の
発達と共に発現も活発になることから、この蛋白は脳動脈瘤の成長だけでなく、破裂にも大きな役割を担ってい
る可能性も考えられる。今後は他の MMP 因子、そして[16]などで腹部動脈瘤でも大きな関与が報告されている MMP
制御因子である fibrinolysis 関連因子(u-PA、t-PA 等) の解析も継続して行う一方で、MMP 抑制因子 TIMP、PA 阻
害因子 PAI-1 をはじめとする阻害因子の効果も解析していく方針である。
以上、動脈瘤形成における主要メカニズムとその関連因子に関して我々の研究成果の詳細を述べた。何れも現
段階ではすぐに臨床応用できる段階にはないものの、新しい脳動脈瘤治療の標的になる主要分子メカニズムにつ
いては、その概要が本研究によって明らかになりつつあると考える。他分野と比較して歴史が浅い血管生物学分
野であるが、近年[17]で報告されたように下肢血管閉塞性患者に対する VEGF 遺伝子治療の臨床応用など、基礎研
究に裏付けられた分子メカニズムレベルでの治療が積極的に展開されている。今後はこの脳動脈瘤疾患において
も、さらに主要メカニズムおよび標的因子を詳細に解析し、遺伝子治療等の新しい非侵襲的治療の開発につなげ
ていきたいと考えている。
307
Brain
attackから脳を守るための研究
図6
引用文献
[1] Hashimoto N et al: Experimentally induced cerebral aneurysm in rats. (Surg Neurol 10: 3-8, 1978)
[2] Kondo S et al: Apoptosis of medical smooth muscle cells in the development of saccular cerebral
aneurysms in rats. (Stroke 29: 181-89, 1998)
[3] Fukuda S et al: Prevention of rat cerebral aneurysm formation by inhibition of nitric oxide
synthase. (Circulation 101: 2532-38, 2000)
[4] Takagi Y et al: Increased expression of phosphorylated JNK and phosphorylated c-JUN in human
cerebral aneurysms.
The role of JNK/c-JUN pathway in apoptosis of vascular wall. (Neurosurgery
in press)
[5] Morimoto M et al: A mouse model of cerebral aneurysm. (Stroke in press)
[6] Yamazoe N et al: Elastic skelton of intracranial cerebral aneurysms in rats. (Stroke 12: 1722-6,
1990)
[7] Kim C et al: Degenerative changes in the internal elastic lamina relating to the development
of saccular aneurysm in rats. (Acta Neurochir(Wien) 121:76-81, 1993)
[8] Kim C et al: Involvement of induced cerebral aneurysms in rats. (Stroke 19: 507-11, 1988)
[9] Ross R et al: The smooth muscle cell, II: growth of smooth muscle cell in culture and formation
of elastic fiber. (J Biol 50:172-186, 1971)
[10] Beckman JS et al: Apparent hydroxyl radical production by peroxynitrite: implications for
endothelial injury from nitric oxide and superoxide. (Proc Natl Acad Sci USA 87:1620-24, 1990)
[11] Geng Y et al: Interferon-γ and tumor necrosis factor synergize to induce nitric oxide
production and inhibit mitochondrial respiration in vascular smooth muscle cells. (Circ Res
71:1268-1276,1992)
[12] Inci S et al: Intracranial aneurysms and arterial hypertension: A review and hypothesis. (Surg
308
Brain
attackから脳を守るための研究
Neurol 53 : 530-42, 2000)
[13] J.S.P. van den Berg et al: Type III Collagen Deficiency in Saccular Intracranial Aneurysms.
(Stroke 30: 1628-31,1999)
[14] Bruno G et al: Vascular extracellular matrix remodeling in cerebral aneurysms. (J Neurosurg
89: 431-40,1998)
[15] Zorina S et al: Macrophage foam cells from experimental atheroma constitutively produce
matrix-degrading proteinases. (Proc Natl Acad Sci 92:402-6, 1995)
[16] Carmeliet P et al: Urokinase-generated plasmin activates matrix metalloproteinases during
aneurysm formation. (Nat Genet 17(4): 439-44, 1997)
[17] Isner JM et al: Arterial gene transfer for therapeutic angiogenesis in patients with peripheral
artery disease. (Hum Gene Ther 20:959-88,1996)
成果の発表
1)原著論文による発表
イ)国外誌
1.
Fukuda S et al: Prevention of rat cerebral aneurysm formation by inhibition of nitric oxide synthase.
(Circulation 101: 2532-38, 2000)
2.
Kondo S et al: Apoptosis of medical smooth muscle cells in the development of saccular cerebral
aneurysms in rats. (Stroke 29: 181-89, 1998)
3.
Morimoto M et al: A mouse model of cerebral aneurysm (Stroke in press)
4.
Takagi Y et al: Increased expression of phosphorylated JNK and phosphorylated c-JUN in human cerebral
aneurysms.
The role of JNK/c-JUN pathway in apoptosis of vascular wall. (Neurosurgery in press)
2)原著論文以外による発表
ア)国内誌
1.
橋本信夫:脳動脈瘤の成因(臨床と研究 75:10−12、1998)
2.
橋本信夫:実験的脳動脈瘤(Clinical Neuroscience 17: 624-26, 1999)
3.
橋本信夫:脳動脈瘤の発生機序(総合臨床 48:1850−1,1999)
4.
橋本信夫:脳動脈瘤の成因と治療に関する研究(神経進歩 43:832−7,1999)
5.
橋本信夫:嚢状脳動脈瘤の動物誘発モデル(別冊医学の歩み「動脈瘤と動脈解離の最前線」70-72 頁、2001
6.
定政信猛:脳動脈瘤の分子生物学(脳と循環 7:65−69,2002)
7.
定政信猛:脳動脈瘤と遺伝子—ポストゲノム時代を迎えてー(分子脳血管病 1:39−44,2002)
イ)国外誌
1.
Masafumi Morimoto, Noriaki Kume, Akira Mizoguchi, Kazuhiko Nozaki, Nobutake Sadamasa, Susumu
Miyamoto, Toru Kita, and Nobuo Hashimoto
The roles of MMPs for cerebral aneurysm formation
“Strategic medical science against brain attack” ed. by Kikuch H. Springer, Tokyo pp. 223-233,
2002
3)口頭発表
ア) 招待講演
309
Brain
1.
attackから脳を守るための研究
Nobuo Hashimoto: Approaches to cerebral aneurysms/AVMs (Horizons of Neurosurgery, Society of
Philippine Military Neurological Surgeons Inc. Manilla (1998.6))
2.
Nobuo Hashimoto: Keynote address: On the origin of cerebral aneurysms and on the future of aneurysm
treatment (Congress of Neurological Surgeons Post-Meeting Satellite Convention, Washington
(1998.10))
3.
橋本信夫:脳動脈瘤発生の分子生物学(第 34 回脳のシンポジウム、東京(1999.3))
4.
橋本信夫:誘発動脈瘤(第 1 回脳血管障害セミナー、東京(2000.2))
5.
橋本信夫:脳動脈瘤の基礎と臨床(第 3 回徳島脳血管障害カンファレンス、徳島(2000.5))
6.
Nobuo Hashimoto: Development of intracranial aneurysms (World Federation of Interventional and
Therapeutic Neuroradiology 2001, Seoul(2001.9))
7.
橋本信夫:脳動脈瘤の成因と外科的治療(医科学応用研究財団第 40 回学術講演会、名古屋(2001.11))
イ) 応募・主催講演等
1.
近藤惣一郎:脳動脈瘤発生・成長における中膜平滑筋細胞の apoptosis の関与(日本脳神経外科学会総会、
札幌(1998.10))
2.
福田俊一:脳動脈瘤形成における誘導型一酸化窒素合成酵素の役割について(日本脳神経外科学会総会、東
京(1999.10))
3.
森本将史:実験的脳動脈瘤形成における細胞外マトリックス分解のメカニズム(日本脳卒中学会、東京
(2000.3))
4.
Masafumi Morimoto: Expression of MMP-9 localized to macrophage in a rat model of cerebral aneurysm
(Internatinal Vascular Biology Meeting, Geneva (2000.9))
5.
森本将史:脳動脈瘤における原因遺伝子機能解析の可能性-マウスモデルの有用性-(日本脳神経外科学会総
会、福岡 (2000.10))
6.
Masafumi Morimoto: Expressions of MMP-2 and MMP-9 in a rat model of cerebral aneurysm (World Stroke
Congress, Merborne (2000.11))
7.
Masafumi Morimoto: Expressions of MMP-2 and MMP-9 in a rat model of cerebral aneurysm (Joint
American-Japanese Meeting for Surgical and Endovascular Treatment of Cerebrovascular Disorders.
Hawaii (2001.2))
8.
森本将史:脳動脈瘤における原因遺伝子機能解析の可能性-マウスモデルの有用性-(日本脳卒中学会、大阪
(2001.3))
9.
福田俊一:誘導型一酸化窒素合成阻害による脳動脈瘤発生の抑制(第 1 回日本 NO 学会学術集会、福岡
(2001.5))
10.
森本将史:脳動脈瘤形成過程における細胞外マトリックス分解の関与-MMP-2、-9 発現の経時的変化と炎症
反応との関連-(日本動脈硬化学会、東京 (2001.6))
11.
森本将史:脳動脈瘤における原因遺伝子機能解析の可能性-マウスモデルの有用性-(Vascular Medicine 学
会、東京 (2001.6))
森本将史:脳動脈瘤形成過程における細胞外マトリックス分解の役割(日本脳神経外科学会総会、岡山
(2001.10))
310
Brain
attackから脳を守るための研究
2.1. 脳血管の病態成立機構に関する研究
2.1.2. 閉塞性脳血管障害の病態解明と新たな治療技術開発に関する研究
2.1.2.1. 閉塞性血管病変に於ける脳血管保護(傷害)因子の解明と新たな治療法基礎技術の開発
国立循環器病センター
永田
要
泉
約
実験動物クモ膜下腔にアデノウイルスを用いた酸性繊維芽細胞を導入することで、脳内での分泌増加によると
考えられる髄液内での有意な濃度上昇が確認された。また、この遺伝子導入により、脳内での血管新生が誘導さ
れた。一方脳血管攣縮治療実験として、家兎クモ膜下出血モデルに対し、合成広域作用型特異的セリンプロテア
ーゼ阻害剤、あるいは選択特異的合成スロンビン阻害剤の全身投与を行ったところ、脳血管撮影にて観察される
脳血管攣縮の進展が有意に抑制された。こららの成果に基づき、両薬剤に共通し活性阻害されたセリンプロテア
ーゼの一種であるスロンビン活性化に着目し、その下流に存在する成長因子の発現を調べた結果、クモ膜下出血
後の脳血管壁において、血小板由来成長因子(B-chain homodimer, -BB)の発現が増強することが確認された。
さらに、ラット頸動脈肥厚モデルにおいて、同様に合成広域作用型特異的セリンプロテアーゼ阻害剤、あるいは
選択特異的合成スロンビン阻害剤の全身投与を行ったところ、2 週間後の内膜肥厚が有意に抑制されるという結果
を得た(未発表)。ヒト動脈硬化巣を用いた検討でも、セリンプロテアーゼの一種である補体の活性化と同部位に、
前述動物モデルの結果と同様に血小板由来成長因子(-BB)の発現が増強していることが示された。
研究目的
クモ膜下出血後の脳血管攣縮は、脳血管の遅発性の狭小化であり、重篤な虚血性合併症・後遺症を引き起こす
ことで知られる。クモ膜下出血後の脳血管攣縮の病態を解明し、臨床へ通じる新たな治療法の開発を目指す。ま
た、閉塞性脳血管病変、とくに血管壁進展による障害後の内膜肥厚の病態解明と新たな治療法の開発を目指し、
バルン傷害後血管壁内膜肥厚動物モデルを用いた基礎的治療実験に基づき、その病巣病態進展機構の解明を行う。
研究方法
脳血管攣縮の成因に関する研究
クモ膜下出血後の脳血管攣縮発現において、正常血漿中蛋白に含まれ、液性炎症反応惹起因子として機能する
セリンプロテアーゼ活性化の関与を調べる目的に家兎クモ膜下出血モデルを用いて、合成広域作用型特異的セリ
ンプロテアーゼ阻害剤、および選択特異的合成スロンビン阻害剤をクモ膜下出血作成後より、持続的に静脈内投
与行い、その後に行う脳血管撮影による脳底動脈の経時的観察により、脳血管攣縮の進展に与える効果を解析す
る。具体的には、雄性日本白色家兎 54 匹を用い、SAH は自家動脈血を大槽内に注入することで作成する。脳血管
攣縮評価のため、SAH 前および 2 日後に、左椎骨動脈撮影を行い、脳底動脈径を計測した。合成広域作用型特異的
セリンプロテアーゼ阻害剤 FUT-175(2.5, 5.0, 10, または 20mg/day)、あるいは、選択特異的合成スロンビン阻
311
Brain
attackから脳を守るための研究
害剤 Argatroban (1.25, 2.5, または 5.0 mg/day) を SAH 作成 40 分後より、2 日間、持続的に静脈内投与する。
それぞれの対照群としては生食を用いた群を用いる(各群 n=6)。さらに、血小板由来成長因子(PDGF-BB)の脳底
動脈壁内での発現を、免疫組織学的に検討する。
病的血管壁肥厚の細胞内機構の解明に関する研究
脳血管平滑筋肥厚におけるスロンビン活性化の果たす役割を調べる目的にラットバルン傷害後頸動脈肥厚モデ
ルを用いて、広域セリンプロテアーゼ阻害剤の静脈内全身投与の血管壁肥厚に果たす効果を解析する。頸動脈お
よび脳血管平滑筋細胞の分裂刺激あるいは、脳血管攣縮で見られる持続的狭小化の過程において、セリンプロテ
アーゼの一種であるスロンビン活性化およびその下流に存在する細胞内機構の活性化に関する検討として、成長
因子のクモ膜下出血後あるいは、バルン傷害後の血管壁肥厚過程における発現変化を解析する。また、ヒト内頸
動脈剥離術で得られた動脈硬化病巣試料を用いて、免疫組織化学により血管壁肥厚原因となり得る成長因子を同
定する[1]。
研究成果
脳血管攣縮の成因に関する研究
家兎実験モデルでは、クモ膜下出血作成 2 日後におけるクモ膜下出血後の脳血管撮影上の脳底動脈径は FUT-175
の低、中、高用量治療群でそれぞれ 79±6%, 80±3%, 80±4%であり、対照群 52±4%に比し、有意に軽度であっ
た。また、Argatroban 治療群では、それぞれ 69±5%, 81±9%, 85±4%であり、対照群 52±6%に比し、中、高用量
群で有意差が見られた。すなわち、これら両薬剤の静脈内全身投与は、クモ膜下出血後に進展する脳血管攣縮を
用量依存的に抑制した。さらにクモ膜下出血後の脳底動脈平滑筋細胞内には、通常では観察されない血小板由来
成長因子の免疫反応が認められ、これは、攣縮血管の内皮内にも確認された。しかしながら、脳血管攣縮の進展
を抑制した薬物投与群では、その抑制程度に一致して、無治療群に見られる血管壁内 PDGF-BB 発現が抑制されて
いた[2]。
病的血管壁肥厚の細胞内機構の解明に関する研究
ラ ッ ト頸 動脈 バ ル ン傷 害後 内 膜 肥厚 モデルに対し、合成広域作用型特異的セリンプロテアーゼ阻害剤
FUT-175(0.5, 1.0, 2.0mg/day)、を一週間連続腹腔内投与したところ、すべての用量域において、内膜形成に対
する抑制効果が見られ、肥厚内膜厚および内皮厚/中膜平滑筋層厚の値(1.45±0.11 control, 1.08±0.56, 0.71
±0.37, 0.32±0.38) は、用量依存的に有意に抑制された[3]。また、これら肥厚性血管の組織学的検討では、バ
ルン傷害後の平滑筋層および肥厚内膜ない細胞群において、正常頸動脈には見られない血小板由来成長因子
(PDGF-BB)の強い発現が認められた。さらに、薬物投与群においては、無治療群に見られる血管壁内 PDGF-BB 発
現が明らかに抑制されていた[3]。
ヒト頸動脈肥厚内膜に関する研究
ヒト頸動脈内膜剥離術後に得られた動脈硬化性病巣において、特に、内腔側の成長層と思われる領域において、
セリンプロテアーゼであり、補体最終生成物である細胞膜傷害性を有する C5b (membrane attack complex, MAC) の
免疫反応性が認められた。さらに同部位に PDGF-BB の免疫反応も確認された[1]。
考
察
脳血管攣縮の病態進展に serine protease の活性化、および脳血管壁での PDGF-BB 発現が関与することが示さ
312
Brain
attackから脳を守るための研究
れた。さらにその後に行った研究により、リコンビナント血小板由来成長因子を正常家兎髄液腔内に注入するこ
とで、脳血管攣縮に極めて類似する脳底動脈の持続的狭小化を確認した。すなわち、これまでその成因が不明で
あったクモ膜下出血後に出現する脳血管攣縮の本態として、凝固系酵素であるスロンビンの活性化と細胞障害後
の組織(血管)修復を目的として局所で産生される成長因子、とくに血小板由来成長因子が中心的働きをしてい
る可能性が示唆された。これまで、何らかの収縮因子が働きかけて生じる生理的収縮と考えられた脳血管攣縮は、
血管破綻後の内因性血管修復機構の過程で出現する形態変化を伴う治癒機構の一断面(disorder)であると考え
られる。
また、バルン頸動脈傷害後の血管中膜平滑筋細胞層に高発現した血小板由来成長因子(-BB) は、遊走平滑筋細
胞産生とその増殖の原因因子と考えられる。治療実験として用いた 2 つの薬剤の共通作用として、特異的スロン
ビン活性化の阻害があり、これら両薬剤でこの血小板由来成長因子の発現を抑制したことより、血管壁内で生じ
たスロンビンの活性が、血管平滑筋層に働きかけて、血小板由来成長因子の産生を促していることが示唆された。
すなわち、内膜肥厚は、機械的傷害に対する治癒機構の中で産生された血小板由来成長因子が重要な役割を果た
していると考えられる。肥厚性狭窄性血管病巣の進展にこれらの薬剤は、ヒトにおいても有効である可能性があ
り、本研究で用いたこれらの薬剤は、すでにヒトにおける安全性が確認されている。従って、今後、本研究成果
に基づいたそれら薬剤の適応拡大を目指した臨床試験の開始が待たれる。最後に、ヒト頸動脈動脈硬化巣を用い
た研究成果より、動物血管障害モデルで見られたと同様の血小板由来成長因子(-BB)の発現があり、この成長因子
が動脈硬化という脳卒中の最も基本的な病巣の形成進展に重要な働きを行っている可能性がある。
引用文献
1. Nagata I, Zhang Z, Sawada M, et al
(2002) Systemically administered thrombin inhibitors can prevent
neointimal formation and cerebral vasospasm: the possible role of thrombin nad PDGF-BB in vascular
pathogeneses.234-253
2.
Zhang Z, Nagata I, Kikuchi H, et al
(2001) Broad-spectrum and selective serine protease inhibitors
prevent expression of platelet-derived growth factor-BB and cerebral vasospasm after subarachnoid
hemorrhage: vasospasm caused by cisternal injection of recombinant platelet-derived growth
factor-BB.
3.
Stroke 32:1665-1672
Sawada M, Yanamoto H, Nagata I, et al (1999) Prevention of neointimal formation by a serine protease
inhibitor, FUT-175, after carotid balloon injury in rats.
Stroke 30:644-650
成果の発表
1)
原著論文による発表
ア)国内誌
1.
澤田元史,橋本信夫,西
正吾,永田
泉,塚原徹也,岩間
塩酸パパベリン動注療法における合併症.
2.
片岡大治,宮本
査の有用性—.
3.
享,永田
亨,中原一郎,坂井信幸:脳血管攣縮に対する
脳外誌 7:752-758,1998
泉:Duplicated spinal dural
AVF の 1 例.
—術中 micro-vascular Doppler 検
Neurosonology 11:188-192, 1998
坂井信幸,菊池晴彦,滝 和郎,永田
泉,宮本
享,中原一郎,野崎和彦,高橋 潤,青木友和,高橋 淳,
313
Brain
attackから脳を守るための研究
橋本信夫:無症候性脳動脈瘤の治療.
—最近 5 年間の治療結果から—.
The Mt. Fuji Workshop on CVD 16:
153-157,1998
4.
中原一郎,坂井信幸,永田
泉,岩間
亨,秋山義典,戸高健臣,澤田元史,小島昭雄,川上
理,堀口聡士,
橋本信夫,菊池晴彦:頭頸部主幹動脈狭窄症に対する stenting.脳卒中 20:609-614,1998
5.
坂井信幸,滝
和郎,中原一郎,秋山義典,戸高健臣,岩間
亨,永田
泉,大脇久敬,井坂文章,青木友和,
橋本信夫,菊池晴彦:破裂脳動脈瘤に対する塞栓術の治療成績. 脳卒中 20:650-653,1998
6.
秋山義典,岩間
亨,永田
泉,橋本信夫:内頚動脈血栓内膜剥離術による摘出標本(Atheromatous Plaque)
の性状と臨床症状との関連性の検討.
7.
永田
泉,宮本
脳卒中 20:616-619,1998
享,菊池晴彦:脳動脈瘤.
山口武典,橋本信夫(編)
脳卒中の画像診断,中外医学社,
東京,pp247-261,1998
8.
宮本
享,野崎和彦,橋本信夫,滝 和郎,中原一郎,永田
泉,菊池晴彦:脳動静脈奇形に対する minimally
invasive surgery.脳外誌 8:325-331,1999
9.
森実飛鳥,中原一郎,坂井信幸,柳本広二,秋山義典,酒井秀樹,東
也,石澤錠二,間中
浩,林
直樹,永田
登志夫,名村尚武,高橋 淳,西崎順
泉,菊池晴彦:症候性脳血管攣縮を伴う未治療破裂脳動脈瘤の血
管内治療.脳外 27: 941-946,1999
10. 石澤錠二,中原一郎,坂井信幸,下鶴哲郎,酒井秀樹,東
鳥,新堂
登志夫,高橋 淳,大田
元,間中
浩,森実飛
敦,川端康弘,永田 泉,山上宏,菊池晴彦:頸動脈病変のステント留置における超音波診断の意
義.脳神経外科速報 9: 1023-1029,1999
11. 早川
徹,安井信之,永田
泉,内山真一郎:出血性脳血管障害に対する外科的治療の適応:手術すべき症例
と,すべきでない症例.脳と循環 4:203-222, 1999
12. 中原一郎,坂井信幸,永田
泉,西
正吾,秋山義典,澤田元史,橋本信夫,菊池晴彦:内頸動脈硬膜輪近傍
動脈瘤に対する脳血管内手術.脳外誌 8: 106-114, 1999
13. 中原一郎,坂井信幸,永田
泉,菊池晴彦:脳動脈瘤に対する血管内手術:瘤内塞栓術における remodelling
technique の応用.脈管学 39:471-474, 1999
14. 柳本広二,永田
泉,菊池晴彦,橋本信夫: Cortical spreading depression を用いた脳梗塞耐性の誘導.脳
循環代謝 10:374,1999
15. 柳本広二,西崎順也,水田依久子,永田
泉,中原一郎,菊池晴彦:虚血中および虚血後軽度低体温の実験的
脳梗塞に対する抑制効果の比較検討.脳循環代謝 11:304,1999
16. 酒井秀樹,坂井信幸,林
明,今北
直樹,東
登志夫,石澤錠二,高橋 淳,秋山義典,中原一郎,永田
泉,山田直
哲: Crescendo TIA を呈し,緊急ステント留置を施行した頸部内頸動脈狭窄症の 1 例—微小脳塞栓
の評価における MRI 拡散強調画像法の有用性について—.脳外誌 9:25-29,2000
17. 宮本
享,永田
泉,橋本信夫,菊池晴彦: Spinal Perimedullary AVF / AVM の手術.脳外 28:213-217, 2000
18. 高橋
淳,永田
泉:脳梗塞—外科的治療
脳神経外科周術期管理のすべて.松谷雅生,田村晃(編)
メジカル
ビュー社, pp84-96,2000
19. 菊池晴彦,宮本
享,永田
泉:高齢者における頸動脈狭窄症の治療. Geriatric Neurosurgery 12:9-16,
泉,唐澤
淳,菊池晴彦,秋山義典,野崎和彦,橋本信夫:もやもや病に対する直接バイパ
2000
20. 宮本
享,永田
スの長期予後.脳卒中の外科 28:111-114, 2000
21. 酒井秀樹,永田
22. 間中
泉: Stroke care unit (SCU) の意義.脳神経 52:373-378, 2000
浩,酒井秀樹,中原一郎,坂井信幸,下鶴哲郎,柳本広二,東
石澤錠二,森実飛鳥,川端康弘,永田
登志夫,名村尚武,高橋
淳,大田
元,
泉,菊池晴彦:内頸動脈-眼動脈分岐部未破裂脳動脈瘤コイル塞栓術
後に網膜動脈分岐閉塞症をきたした 1 例.脳外誌 9:389-391,2000
314
Brain
attackから脳を守るための研究
23. 坂井信幸,永田
泉,秋山義典,中原一郎,酒井秀樹,東
登志夫,高橋
淳,石澤錠二,間中
浩,林
直
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浩,森実飛鳥,川端康弘,永田
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浩,酒井秀樹,中原一郎,坂井信幸,柳本広二,秋山義典,東
樹,森実飛鳥,永田
登志夫,高橋
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元,石澤錠
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浩,酒井秀樹,永田
大田
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淳,
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35. 柳本広二,永田
泉,名村尚武,藤内謙光,中原一郎,菊池晴彦:低体温療法による永久局所脳虚血後脳梗塞
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36. 東
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泉,柳本広二,下鶴哲郎,酒井秀樹,東
元,石澤錠二,間中浩,森実飛鳥,川端康弘,新堂
登志夫,名村尚武,高橋
淳,大田
敦,安栄良悟,菊池晴彦:頸部頸動脈狭窄に対する stenting.
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泉,酒井秀樹,飯原弘二,東
嶺知明,安栄良悟,副田明男,谷口
歩,新堂
登志夫,木暮修治,高橋
淳,大田
元,長
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泉,中原一郎,下鶴哲郎,酒井秀樹,東
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登志夫,高橋
淳,大田
元,石澤
敦,安栄良悟,菊池晴彦: 80 歳以上の超高齢者クモ膜下出血の治療結
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315
Brain
42. 新堂
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登志夫,永田
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登志夫,高橋
淳,大田
元,菊池
晴彦:両側の血行再建を行った内頸動脈狭窄症—頸動脈ステント留置の活用—.脳卒中の外科 29:339-344,2001
44. 阪井田博司,坂井信幸,永田
泉,酒井秀樹,飯原弘二,東
嶺知明,安栄良悟,副田明男,谷口
歩,新堂
登志夫,木暮修治,高橋
淳,大田
元,長
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登志夫,飯原弘二,高橋
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哲,永田
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49. Kogure S, Sakai N, Iihara K, Sakai H, Sakaida H, Higashi T, Takahashi JC, Ohta H, Nagamine T, Anei
R, Soeda A, Taniguchi A, Nagata I: Restenosis after stent placement for ostial stenosis of vertebral
artery Interventional Neuroradiology 7: 167-169,2002
(2) 原著以外による発表(レビュー等)
ア)国内誌
1.
宮本
3.
2.
享,永田
泉,菊池晴彦:小脳および脳幹(延随・橋)の脳動静脈奇形.
後頭蓋窩病変 II 血管性病変.
宮本
享,永田
宮本
享,永田
泉.
第 3 巻:後頭蓋窩病変Ⅱ
もやもや病.
Headline
晶(編)三輪書店,東京,pp74-81,1998
泉,菊池晴彦:小脳および脳幹(延髄・橋)の脳動静脈奇形.生塩之敬,山浦
Neurosurgery Headline,
3.
生塩之敬,山浦
in Neurosurgery
晶(編)
血管性病変,三輪書店,東京,pp74-81,1998
山浦晶,森竹浩三(編) 小児脳神経の外科
医学書院
東京,pp210-217,
1998
4.
中原一郎,坂井信幸,秋山義典,永田
におけるステント留置.
泉,菊池晴彦:閉塞性脳血管障害の血管内治療:頭頸部主幹動脈狭窄
循環器病研究の進歩 19: 27-36,1998
5.
永田
泉:脳の血流のはなし.BRAIN 56:2-3, 1999
6.
永田
泉:クモ膜下出血の診断と救急治療.日医雑誌 122: 471-474, 1999
7.
永田
泉:前交通動脈瘤.Pterional approach
脳動脈瘤の手術.三宅悦夫(著)金芳堂,京都,pp139-143,
1999
8.
下鶴哲郎,永田
泉:
9.
宮本
泉:もやもや病に対する脳血行再建術
享,永田
塩之敬,山浦
10. 宮本
晶,小川
脳動脈瘤破裂の警告症状,綜合臨牀 8:1891-1894, 1999
彰(編)
Neurosurgery Headline,第 5 巻:脳血管の再建.
生
三輪書店,東京,pp78-87, 1999
享,橋本信夫,野崎和彦,高橋 潤,永田
泉,滝 和郎,菊池晴彦:後頭蓋窩脳動静脈奇形の外科治
療. The Mt. Fuji. Workshop on CVD 17:153-156, 1999
11. 高橋
潤,宮本
享,橋本信夫,永田
泉,菊池晴彦,滝
和郎:脳幹部海綿状血管腫の手術例 11 例の検討.
The Mt. Fuji. Workshop on CVD 17:24-28, 1999
12. 坂井信幸,滝
和郎,中原一郎,秋山義典,酒井秀樹,東
319
登志夫,高橋 淳,永田
泉,大脇久敬,定藤章
Brain
attackから脳を守るための研究
代,青木友和,橋本信夫,菊池晴彦:椎骨脳底動脈系の脳動脈瘤に対する血管内治療—離脱型コイル導入後の
治療成績—.The Mt. Fuji Workshop on CVD 17:95-98,1999
13. 坂井信幸,中原一郎,永田
泉,菊池晴彦:脳血管内治療—脳動脈痩塞栓術の最近の進歩を中心に—.循環器病
研究の進歩 39:38-48,1999
14. 酒井秀樹,永田
泉:クモ膜下出血の診断と救急治療.外科治療 8: 207-208, 1999
15. 酒井秀樹,永田
泉:くも膜下出血—再破裂を防ぐための初期診療のポイント.BRAIN ATTACK 超急性期の脳卒
中診療
藤井清孝,岡田
16. 秋山義典,永田
藤
勇、佐藤
靖(編)
泉:もやもや病の治療.図説脳神経外科 New Approach, 第 8 巻:脳血管障害
潔(編)
性期の血管内手術
彰(編)
高倉公明、斉
メジカルビュー社,東京,pp182-189,1999
17. 中原一郎,坂井信幸,永田
小川
中山書店,東京,pp134-140,1999
泉,菊池晴彦:虚血性脳血管障害に対する脳血管の再建
慢性期の血行再建術
—ステントを中心に. Neurosurgery Headline,第 5 巻:脳血管の再建
生塩之敬,山浦
慢
晶,
三輪書店,東京,pp107-118,1999
18. 中原一郎,坂井信幸,柳本広二,秋山義典,酒井秀樹,東
樹,森実飛鳥,永田
登志夫,高橋 淳,石澤錠二,間中
浩,林
直
泉,菊池晴彦:鎖骨下動脈および椎骨動脈起始部狭窄に対する Stenting. The Mt. Fuji.
Workshop on CVD 17: 53-57,1999
19. 中原一郎,永田 泉:脳血管攣縮—最近の話題:血管内治療.臨床神経科学 17:664-667, 1999
20. 柳本広二,永田
泉,菊池晴彦:脳保護療法開発への新たな道.循環器病研究の進歩 21
武典,北村惣一郎,菅
21. 高橋
田
淳,永田
弘之,高野久輝(編)協和企画,東京,pp35-46,2000
泉:未破裂脳動脈瘤をどうするか? Annual Review
誠,清水輝夫,寺本
22. 坂井信幸,永田
菊池晴彦(監)山口
明(編)
神経 2001
柳澤信夫,篠原幸人,岩
中外医学社,東京,pp170-176,2001
泉:頸動脈狭窄症に対するステント療法の適応と限界. Annual Review 循環器 2001,杉下
靖郎,門間和夫,矢崎義雄,高本眞一(編)中外医学社,東京,pp261-266,2001
23. Zhang Z, Yanamoto H, Nagata I, Sakai N, Xue JH, Kikuchi H: Preventive effect of specific serine protease
inhibitors on cerebral vasospasm in rabbits.
24. 高橋
淳,永田
中外医学社
脳血管攣縮 16:275-278,2001
泉:脳血管障害(脳卒中)の外科的治療.ナースのための脳神経外科,橋本信夫(編) メ
ディカ出版,大阪,PP172-181, 2001
25. 高橋
淳,永田
(監・編)
泉:もやもや病.脳血管障害の臨床,福内靖男,島津邦男,片山泰朗,田村
メジカルビュー社,東京,pp239-245,2001
26. 酒井秀樹,永田
27. 大田
元,東
嶺知明,新堂
晃,千野直一
泉:内頸動脈狭窄症.臨床神経科学 19:46-48, 2001
登志夫,坂井信幸,中原一郎,酒井秀樹,阪井田博司,飯原弘二,木暮修治,高橋
敦,安栄良悟,副田明男,谷口
protection system の有用性
歩,永田
淳,長
泉,菊池晴彦: Carotid stenting 時の Distal
—Protection 時に採取した carotid plaque debris の検討—. The Mt. Fuji
Workshop on CVD 19:178-180,2001
28. 中原一郎,坂井信幸,永田
泉,田中正人,滝
治療. The Mt. Fuji Workshop on CVD
イ)
1
和郎,菊池晴彦:頭蓋底・頭蓋内動脈狭窄に対する血管内
19:128-132,2001
国外誌
H Yanamoto, J-H Xue, M Sakata, I Mizuta, N Tohnai, I Nagata , N Hashimoto, H Kikuchi
Chapter. Infarct
tolerance induced by repetitive cortical spreading depression is reproduced by prolonged intracerebral
infusion of recombinant brain-derived neurotrophic factor. “Strategic medical science against brain
attack” ed. by Kikuch H. Springer, Tokyo pp. 145-167, 2002
2
H Yanamoto, I Nagata , H Sakai, Y Niitsu, Z Zhang, J-H Xue, and H Kikuchi
320
Chapter. Neuroprotection
Brain
attackから脳を守るための研究
by mild hypothermia for temporary or permanent focal ischemia
“Strategic medical science against
brain attack” ed. by Kikuch H. Springer, Tokyo pp. 202-220, 2002
3
Izumi Nagata, , Zhiwen Zhang, , Motoshi Sawada, , Nobuo Hashimoto, Haruhiko Kikuchi, Hiroji Yanamoto,
Chapter. Systemically administered thrombin inhibitors can prevent neointimal formation and cerebral
vasospasm: The possible role of thrombin and PDGF-BB in vascular pathogeneses “Strategic medical
science against brain attack” ed. by Kikuch H. Springer, Tokyo pp. 234-253, 2002
口頭発表
イ) 応募・主催講演
1.
Iwama T, Kojima A, Sawada M, Todaka T, Akiyama S, Nishi S, Sakai N, Nakahara I, Nagata I, Hashimoto
N
Surgical resection of cerebral arteriovenous malformations: Our strategy and clinical results
The Second International Symposium on Cerebral and Spinal Cord AVM(シンポジウム)
6.13-14,1998.
Kyoto
2.
Todaka T, Iwama T, Akiyama Y, Nakahara I, Sakai N, Nishi S, Sawada M, Kojima A, Kawakami O, Horiguchi
S, Nagata I, Hashimoto N
Usefulness of intraoperative digital subtraction angiography in
arteriovenous malformation surgery
AVM(シンポジウム)
3.
The Second International Symposium on Cerebral and
Spinal Cord
6.13-14,1998. Kyoto
秋山義典,岩間亨,戸高健臣,澤田元史,小島昭雄,堀口聡士,川上理,永田泉
る摘出標本 (Atheromatous Plaque)の性状と臨床症状との関連性
頚動脈血栓内剥離術によ
第 23 回日本脳卒中学会総会(シンポ
ジウム)6.25-26,1998.札幌
4.
柳本広二,永田泉,橋本信夫,菊池晴彦
第 23 回日本脳卒中学会総会
5.
高橋淳,永田泉
6.25-26,1998.札幌
遺伝子導入法を用いた閉塞性脳血管障害に対する治療技術に関する研究第 2 回ブレインア
タックから脳を守る研究セミナー
6.
Cortical spreading depression による脳梗塞耐性の発現
9.9,1998.
大阪
湯川弘之,宮武伸一,齋木雅章,高橋淳,永田泉,菊池晴彦,橋本信夫 Truncated form of FGF-receptor の
培養血管平滑筋細胞への遺伝子導入による血管内膜肥厚の遺伝子治療の可能性の検討
子療法懇話会
7.
9.19,1998.
8.
京都
高橋淳,湯川弘之,齋木雅章,宮武伸一,永田泉
た実験的血管新生
第 6 回脳腫瘍遺伝
bFGF 遺伝子発現組換えアデノウイルスベクターを用い
第 6 回脳腫瘍遺伝子療法懇話会
高橋淳,湯川弘之,齋木雅章,宮武伸一,永田泉
する in vivo 遺伝子治療の可能性
9.19,1998.
京都
組換えアデノウイルスベクターを用いた脳血管障害に対
第 57 回日本脳神経外科学会総会(シンポジウム)10.14-16,1998.札
幌
9.
Nagata I
Extracranial vascular reconstruction
Update for Young Neurosurgeons in Asia
10.
11.
拡散強調画像が微小虚血病変の評
価に有用であった内頚動脈狭窄症の 1 例
10.31-11.1,1998.大阪
第 10 回日本脳循環代謝学会
柳本広二,西崎順也,水田依久子,永田泉,中原一郎,菊池晴彦
虚血中および虚血後軽度低体温の実験的
第 10 回日本脳循環代謝学会総会
柳本広二,永田泉,菊池晴彦,橋本信夫
10 回日本脳循環代謝学会総会
13.
10.26-30,1998. Osaka
酒井秀樹,林直樹,石澤錠二,秋山義典,坂井信幸,中原一郎,永田泉
脳梗塞に対する抑制効果の比較検討
12.
the NUYNA OSAKA 98, The 3rd Seminar of Neurosurgery
11.17-18,1998.大阪
Cortical spreading depression を用いた脳梗塞耐性の誘導 第
11.17-18,1998.
大阪
酒井秀樹,中原一郎,坂井信幸,秋山義典,高橋淳,間中浩,石澤錠二,永田泉,山田直明,今北哲
321
Brain
attackから脳を守るための研究
脳血管内治療に合併する虚血性病変に対するスクリーニング
回日本脳神経 CI 学会総会
14.
—拡散強調画像(DWI)を用いた検討—
第 22
1.29-30,1999.佐賀
秋山義典,酒井秀樹,中原一郎,坂井信幸,高橋淳,間中浩,石澤錠二,永田泉,山田直明,今北哲
頚部内頚動脈狭窄症に対する外科的治療の術後評価の手段としての拡散強調画像 (DWI) の有用性
第 22 回日本脳神経 CI 学会総会
15.
1.29-30,1999.佐賀
Yanamoto H, Nagata I, Nakahara I, Mizuta I, Nishizaki J, Kikuchi H
Postischemic hypothermia provides
additional neuroprotection to intraischemic hypothermia in rat focal ischemia model
16.
of the Section on Cerebrovascular Surgery (JSCVS)
1.31-2.3,1999. Nashville, U.S.A.
Yamagami H, Nagatsuka K, Sakai N, Nagata I, Naritomi H
Detection of microemboli during carotid artery
stenting
17.
8th European Stroke Conference
討
第 28 回日本脳卒中の外科学会
PET を用いた,出血型・虚血型モヤモヤ病の脳循環代謝状態の比較検
4.19-20,1999.
療法
クモ膜下出血後の脳血管攣縮に対する塩酸ファスジルと FUT-175 併用
第 28 回日本脳卒中の外科学会
4.19-20,1999.
中学会総会
4.20-22,1999.
80 歳以上のくも膜下出血の治療成績
名村尚武,Alessandrini A,Bonventre JV,Moskowitz MA,永田泉,菊池晴彦
一過性局所脳虚血
第 24 回日本脳卒中学会総会
柳本広二,西崎順也,水田依久子,中原一郎,永田泉,菊池晴彦
体温の実験的脳梗塞に対する抑制効果の比較検討
22.
第 24 回日本脳卒
横浜
に対する MEK1 選択的阻害剤 PD98059 の脳保護効果
21.
横浜
間中浩,坂井信幸,中原一郎,柳本広二,秋山義典,酒井秀樹,東登志夫,名村尚武,高橋淳,西崎順也,
石澤錠二,森実飛鳥,林直樹,永田泉,菊池晴彦
20.
横浜
坂井信幸,永田泉,柳本広二,中原一郎,秋山義典,酒井秀樹,東登志夫,高橋淳,石澤錠二,間中浩,林
直樹,森実飛鳥,菊池晴彦
19.
4.7-10,1999. Venice
高橋淳,岩間亨,中原一郎,坂井信幸,柳本広二,秋山義典,酒井秀樹,東登志夫,石澤錠二,間中浩,森
実飛鳥,林直樹,永田泉,菊池晴彦
18.
Joint Meeting
4.20-22,1999.横浜
虚血中,虚血後短期,虚血後長期軽度低
第 24 回日本脳卒中学会総会
4.20-22,1999.横浜
Nakahara I, Sakai N, Akiyama Y, Yanamoto H, Sakai H, Higashi T, Namura S, Takahashi J, Nishizaki
J, Kokuzawa J, Manaka H, Hayashi N, Morizane A, Nagata I, Kikuchi H
Carotid
stenting
vs.
Carotid endarterectomy: Consideration on stenting from our experience International Stroke Society
Regional Meeting at Yokohama
23.
- CVD '99 in Asia -
4.22-24,1999.
Yokohama
Nagata I, Nakahara I, Sakai N, Yanamoto H, Higashi T, Namura S, Takahashi J, Kokuzawa J, Manaka H,
Hayashi N, Morizane A, Kikuchi HStenting vs. Endarterectomy for the treatment of carotid stenosis
The 5th Japanese and Korean Friendship Conference on Surgery for Cerebral Stroke
5.21-22,1999.
Cheju Island, Seoul
24.
Sakai N, Nakahara I, Nagata I, Sakai H, Higashi T, Takahashi J, Kokusawa J, Manaka H, Hayashi N,
Morizane A, Kikuchi H Endovascular treatment for ruptured cerebral aneurysm with symptomatic
vasospasm
The 5th Japanese and Korean Friendship Conference on Surgery for Cerebral Stroke
5.21-22,1999.
25.
Cheju Island, Korea
Sakai N, Nakahara I, Akiyama Y, Sakai H, Higashi T, Takahashi J, Kokuzawa J, Manaka H, Hayashi N,
Morizane A, Nishizaki J, Namura S, Yanamoto H, Nagata I, Kikuchi H
ruptured cerebral aneurysm with symptomatic vasospasm
1999.
26.
Endovascular treatment for
WFITN'99 World Scientific Conference
6.4-8,
Algarve, Portugal
Nakahara I, Sakai N, Yanamoto H, Sakai H, Higashi T, Namura S, Takahashi J, Nishizaki J, Kokuzawa
J, Manaka H, Hayashi N, Morizane A, Nagata I, Kikuchi H
Carotid
endarterectomy: Consideration on stenting from initial experience
322
stenting
vs.
Carotid
WFITN '99 World Scientific
Brain
attackから脳を守るための研究
Conference
27.
6.4-8,1999.
Algarve, Portugal
Yanamoto H, Nagata I, Mizuta I, Nishizaki J, Nakahara I, Inoue A, Kikuchi H
Expression
of
glial fibrillary acidic protein, heat shock protein and neurotrophic factor during the infarct
tolerance
28.
Brain '99
A new model of
temporary focal ischemia using a three-vessel occlusion technique in rats
Brain
'99
Copenhagen, Den Mark
名村尚武,永田泉,政安裕之,菊池晴彦
のアポトーシスを抑制する
30.
Copenhagen, Den Mark
Yanamoto H, Nagata I, Nishizaki J, Mizuta I, Nakahara I, Inoue A, Kikuchi H
6.13-17,1999.
29.
6.13-17,1999.
エブセレンは軽度局所脳虚血により誘導されるマウス線条体細胞
第 22 回日本神経科学大会 7.6-8,1999.大阪
柳本広二,石澤錠二,中原一郎,下鶴哲郎,坂井信幸,酒井秀樹,高橋淳,間中浩,森実飛鳥,永田泉
虚血中および虚血後長期軽度低体温合併療法の実験的脳梗塞進展に対する強度な抑制効果
第 2 回
日本脳低温療法研究会(シンポジウム)7.22-23,1999.札幌
31.
永田泉,高橋淳,湯川弘之
遺伝子導入法を用いた閉塞性脳血管障害に対する治療技術に関する研究
回ブレインアタックから脳を守る研究セミナー
32.
第3
9.13,1999.大阪
高橋淳,中原一郎,坂井信幸,下鶴哲郎,柳本広二,酒井秀樹,東登志夫,石澤錠二,間中浩,森実飛鳥,
永田泉,菊池晴彦
SPECT で貧困潅流はどこまで detect 出来るか
第 11 回日本脳循環代謝学会総会
10.4-5,1999.秋田
33.
酒井秀樹,坂井信幸,中原一郎,下鶴哲郎,東登志夫,高橋淳,石澤錠二,森実飛鳥,間中浩,永田泉,山
田直明,今北哲
拡散強調画像を用いた脳血管内治療に伴う脳虚血性合併症のスクリーニング
第 11 回日本脳循環代謝学会総会 10.4-5,1999.
34.
名村尚武,永田泉,柳本広二,中原一郎,政安裕之,菊池晴彦
れるマウス線条体細胞のアポトーシスを抑制する
35.
第 11 回日本脳循環代謝学会総会
第 11 回脳循環代謝学会総会
Namura S, Nagata I, Masayasu H, Kikuchi H Ebselen
potects
29th Annual Meeting of Society for Neuroscience
37.
10.4-5,1999.秋田
低体温療法により永久局所脳虚血後脳
10.4-5,1999.
striatal
10.23-28,1999.
秋田
cells
against
Miami Beach, Florida U.S.A.
信夫
増殖因子発現組替えアデノウイルスによるラット脳への血管新生の誘導
第 58 回日本脳神経外科学会
10.27-28,1999.
塩基性線維芽細胞
東京
酒井秀樹,秋山義典,中原一郎,坂井信幸,下鶴哲郎,高橋淳,石澤錠二,森実飛鳥,永田泉,菊池晴彦 拡
散強調画像による内頚動脈血栓内膜剥離術にともなう虚血性合併症のスクリーニング
外科学会総会
39.
第 58 回日本脳神経
10.27-28,1999.東京
名村尚武,永田泉,張志文,藤内謙光,柳本広二,中原一郎,菊池晴彦
のマウス線条体細胞のアポトーシスを軽減する
40.
apoptosis
湯川弘之,高橋淳,永田泉,斎木雅章,鳴海治,宮武伸一,菊池晴彦,橋本
総会
38.
エブセレンは軽度局所脳虚血により誘導さ
柳本広二,永田泉,名村尚武,藤内謙光,中原一郎,菊池晴彦
梗塞進展に対する抑制効果
36.
秋田
エブセレンは,軽度局所脳虚血後
第 58 回日本脳神経外科学会総会
10.27-28,1999.
Nakahara I, Sakai N, Nagata I, Yanamoto H, Higashi T, Namura S, Kikuchi H
percutaneous transluminal angioplasty
東京
Stent-supported
(PTA) for stenosis of distal segments of major cerebral
arteries using coronary stents: Initial experience Joint Meeting of the AANS / CNS Section on
Cerebrovascular Surgery and the American Society of Interventional and Therapeutic Neuroradiology
2.6-9,2000. New Orleans, USA
41.
Namura S, Nagata I, Zhang Z, Masayasu H, Nakahara I, Kikuchi H
against apoptosis after mild focal ischemia
Ebselen protects striatal cells
Joint Meeting of the AANS / CNS Section on
Cerebrovascular Surgery and American Society of Interventional and Therapeutic Neuroradiology
323
Brain
attackから脳を守るための研究
2.6-9,2000.
42.
New Orleans, USA
Yanamoto H, Nagata I, Tohnai N, Zhang Z, Kikuchi H
Prolonged hypothermia therapy suppresses the
extension of cerebral infarction following permanent focal ischemia
Joint Meeting of the AANS /
CNS Section on Cerebrovascular Surgery and American Society of Interventional and Therapeutic
Neuroradiology
43.
2.6-9,2000. New Orleans, USA
Namura S, Nagata I, Nakahara I, Masayasu H, Kikuchi H
ischemic striatal injury
44.
25th International Stroke Conference
2.10-12,2000.
New Orleans, USA
間中浩,坂井信幸,永田泉,中原一郎,下鶴哲郎,酒井秀樹,東登志夫,高橋淳,大田元,菊池晴彦 無性
候性未破裂脳動脈瘤の治療指針と治療成績
45.
Ebselen may have anti-apoptotic effect against
第 29 回日本脳卒中の外科学会
4.25-26,2000.東京
高橋淳,中原一郎,坂井信幸,柳本広二,酒井秀樹,東登志夫,石澤錠二,間中浩,森実飛鳥,永田泉
SAH 急性期における髄液中 marker の経時的変化
第 29 回日本脳卒中の外科学会
4.25-26,2000.
東京
46.
坂井信幸,永田泉,石澤錠二,中原一郎,酒井秀樹,東登志夫,高橋淳,柳本広二,橋本信夫,菊池晴彦 重
症クモ膜下出血治療に対する積極的根治治療の結果
第 29 回日本脳卒中の外科学会(シンポジウム)
4.25-26,2000.東京
47.
石澤錠二,坂井信幸,永田泉,柳本広二,中原一郎,酒井秀樹,東登志夫,高橋淳,橋本信夫,菊池晴彦 重
症クモ膜下出血の治療成績と今後の治療指針 第 29 回日本脳卒中の外科学会
48.
4.25-26,2000.
東京
大田元,東登志夫,坂井信幸,中原一郎,下鶴哲郎,酒井秀樹,高橋淳,石澤錠二,永田泉,菊池晴彦
頸動脈狭窄に対するステント留置術中に採取した debris の病理学的検討第 29 回日本脳卒中の外科学会
4.25-26,2000.
49.
東京
中原一郎,永田泉,坂井信幸,柳本広二,下鶴哲郎,酒井秀樹,東登志夫,名村尚武,高橋淳,菊池晴彦 脳
動静脈奇形の多角的治療戦略
50.
第 29 回日本脳卒中の外科学会
4.25-26,2000.
東京
小村江美,長束一行,山上宏,大槻美佳,坂井信幸,中原一郎,酒井秀樹,永田泉,成冨博章
頸動脈
血行再建術前後における神経心理学的変化〜 stent 留置術と carotid endarterectomy (CEA) の比較〜
第 25 回日本脳卒中学会総会
51.
森本将史,宮本享,永田泉,唐澤淳,橋本信夫,菊池晴彦
の長期予後
52.
53.
第 25 回日本脳卒中学会総会(シンポジウム)4.27-28,2000.
第 25 回日本脳卒中学会総会
張志文,柳本広二,永田泉,名村尚武,菊池晴彦
脳血管攣縮に対する thrombin 阻害剤,MD-805 の抑制
第 25 回日本脳卒中学会総会
57.
4.27-28,2000.東京
ヒト動脈硬化病変におけるコラーゲン特異的分子シャペ
第 25 回日本脳卒中学会総会 4.27-28,2000.東京
藤内謙光,西崎順也,東登志夫,酒井秀樹,坂井信幸,永田泉
第 25 回日本脳卒中学会総会
頸動脈バルーン傷害後の再狭窄における遺
4.27-28,2000.
東京
名村尚武,Alessandro A,永田泉,菊池晴彦 タンパクキナーゼ MEK1 の虚血性神経細胞死における役割
第 25 回日本脳卒中学会総会
58.
中枢神経系ニューロンのアポトーシスにおける遺伝子発現の解析
東登志夫,間中浩,秋山義典,酒井秀樹,永田泉
伝子発現の解析
4.27-28,2000.東京
4.27-28,2000.東京
藤内謙光,東登志夫,酒井秀樹,永田泉
ロン HSP47 の発現
56.
東京
のグルタミン酸負荷時のカルシウムイメージング
第 25 回日本脳卒中学会総会
55.
虚血発症型もやもや病に対する直接バイパス術
石澤錠二,大田元,間中浩,森実飛鳥,川端康弘,安栄良悟,新堂敦,東登志夫,永田泉中枢ニューロンへ
効果
54.
4.27-28,2000.東京
4.27-28,2000.
東京
柳本広二,永田泉,新津陽一,張志文,中原一郎,坂井信幸,酒井秀樹,下鶴哲郎,高橋淳,菊池晴彦
永久局所脳虚血に対する急性期軽度低体温療法の長期予後
2000.
東京
324
第 25 回日本脳卒中学会総会
4.27-28,
Brain
59.
attackから脳を守るための研究
永田泉,中原一郎,坂井信幸,下鶴哲郎,酒井秀樹,東登志夫,高橋淳,菊池晴彦
する血行再建術—ステント時代における血栓内膜剥離術—
頸動脈狭窄症に対
第 28 回日本血管外科学会総会
5.18-19,2000.
東京
60.
坂井信幸,滝和郎,中原一郎,酒井秀樹,東登志夫,大田元,村尾健一,永田泉,菊池晴彦
狭窄症に対するステント留置術
61.
5.18-19,2000.
東京
Nagata I, Sakai H, Nakahara I, Sakai N, Shimozuru T, Higashi T, Takahashi J, Yanamoto H, Namura S,
Kikuchi H
Carotid
endarterectomy:
postoperative MRI (DWI)
2000.
62.
第 28 回日本血管外科学会総会
頸動脈
Distal
embolism
assessed
by
intraoperative
The Sixth International Workshop on Cerebrovascular Surgery
6.4-7,2000.
Seoul
Screening for cerebral embolisms on carotid stenting and CEA using diffusion-weighted
MRI The Sixth International Workshop on Cerebrovascular Surgery
6.4-7,2000.
Seoul
Nakahara I, Sakai N, Yanamoto H, Shimozuru T, Sakai H, Higashi T, Namura S, Takahashi J, Nagata I,
Kikuchi H
Carotid stenting: Current indications
Cerebrovascular Surgery
The Sixth International Workshop on
6.4-7,2000. Seoul
永田泉,坂井信幸,酒井秀樹,東登志夫,高橋淳,名村尚武,柳本広二,菊池晴彦
する血行再建術
66.
Sixth
Sakai H, Sakai N, Nakahara I, Shimozuru T, Takahashi J, Higashi T, Namura S, Yanamoto H, Nagata I,
Kikuchi H
65.
6.4-7,
Seoul
International Workshop on Cerebrovascular Surgery
64.
and
Sakai N, Taki W, Nakahara I, Sakai H, Higashi T, Takahashi J, Shimozuru T, Nagata I, Murano K, Hashimoto
N, Kikuchi H Endovascular treatment for large and giant basilar-tip aneurysms The
63.
TCD
第 1 回日中循環器病シンポジウム(シンポジウム)
閉塞性脳血管障害に対
6.13-14,2000. Osaka
安栄良悟,石澤錠二,坂井信幸,中原一郎,酒井秀樹,高橋淳,東登志夫,大田元,永田泉,菊池晴彦
頸部頸動脈狭窄症に対するステント留置術における血管内超音波検査の意義 第 19 回日本脳神経超音波学
会(シンポジウム)
67.
6.24-25,2000.
東京
伊佐勝憲,矢坂正弘,木村和美,長束一行,峰松一夫,永田泉,山口武典
おける経口腔頸部血管超音波検査法の有用性に関する検討
頸動脈血栓内膜剥離術周術期に
第 19 回日本脳神経超音波学会
6.24-25,2000.
東京
68.
山上宏,長束一行,矢坂正弘,坂井信幸,中原一郎,永田泉,成冨博章
留置術後再狭窄の観察
69.
第 19 回日本脳神経超音波学会
6.24-25,2000.
頸動脈超音波検査によるステント
東京
大田元,酒井秀樹,中原一郎,坂井信幸,下鶴哲郎,東登志夫,高橋淳,石澤錠二,間中浩,新堂敦,森実
飛鳥,安栄良悟,川端康弘,永田泉,菊池晴彦,山上宏
血管内治療直後の経頭蓋超音波ドップラー法によ
る HITS の検出について—術後後療法の効果の確認として—
第 19 回日本脳神経超音波学会
6.24-25,2000.
東京
70.
坂井信幸,永田泉,柳本広二,酒井秀樹,東登志夫,高橋淳,大田元,安栄良悟,菊池晴彦
ムの治療成績は向上したか?—塩酸ファスジルと FUT-175・アルガトロバン併用療法へ
シンポジウム(シンポジウム)
71.
7.21-22,2000.
白分解酵素阻害剤,FUT-175 および Argatroban の抑制効果
72.
第 16 回スパズム・
京都
張志文,柳本広二,永田泉,名村尚武,坂井信幸,薛菁暉,菊池晴彦
2000.
スパズ
実験的脳血管攣縮に対するセリン蛋
第 16 回スパズム・シンポジウム
7.21-22,
京都
永田泉,坂井信幸,酒井秀樹,阪井田博司,東登志夫,木暮修治,高橋淳,大田元,長嶺知明,安栄良悟,
新堂敦,副田明男,谷口歩,名村尚武,柳本広二,菊池晴彦
頸動脈狭窄症に対する CEA および Stenting
—MRI / DWI スタディーに基づいた術式選択— 第 19 回 The Mt. Fuji Workshop on CVD(シンポジウム) 9.2,
2000.高崎
325
Brain
73.
attackから脳を守るための研究
大田元,東登志夫,坂井信幸,中原一郎,酒井秀樹,高橋淳,長嶺知明,新堂敦,安栄良悟,副田明男,谷
口歩,永田泉,菊池晴彦 Carotid stenting 時の distal protection system の有用性— protection
採取した carotid plaque debris の検討—
74.
菊池晴彦、佐藤託実、中塚大策、渡辺恭良、永田泉、名村尚武
の活性化が必要である
75.
第 19 回 The Mt. Fuji Workshop on CVD
時に
9.2,2000.高崎
酸化ストレスによる神経細胞死に MEK/ERK
第 23 回日本神経科学大会 9.4-6,2000.横浜
Nishiyori A, Minami M, Takami S, Namura S, Nagata I, Satoh M
Fractalkine-immunoreactivity increases
in the hippocampal CA1 pyramidal cells undergoing apoptosis after a transient forebrain ischemia.
第 23 回日本神経科学大会
76.
高見新也,南雅文,名村尚武,永田泉,佐藤公道
対する保護作用
77.
9.4-6,2000.横浜
第 23 回日本脳神経科学大会
9.11,2000.
第 4 回
大阪
秀樹,石澤錠二,柳本広二,安栄良悟,高橋淳,東登志夫,新堂敦,坂井信幸,永田泉,菊池晴彦
モ膜下出血に対する低体温療法の再評価
79.
横浜
永田泉,張志文,坂井信幸 クモ膜下出血後の脳血管攣縮に対する蛋白分解阻害剤の抑制効果
ブレインアタックから脳を守る研究セミナー
78.
ケモカインアナログ vMIP-Ⅱによる一過性脳虚血障害に
9.4-6,2000.
第 59 回日本脳神経外科学会総会
10.24-26,2000.
重症ク
福岡
大田元,東登志夫,坂井信幸,中原一郎,酒井秀樹,高橋淳,新堂敦,安栄良悟,永田泉,菊池晴彦
Carotid
stenting 時の distal protection system の有用性— protection 時に採取した plaque debris の検討—
第 59 回日本脳神経外科学会総会
80.
10.24-26,2000.
張志文,柳本広二,永田泉,坂井信幸,薛菁暉,菊池晴彦
害剤,FUT-175 および Argatroban の抑制効果
81.
第 59 回日本脳神経外科学会総会
第 59 回日本脳神経外科学会総会
10.24-26,2000.
第 59 回日本脳神経外科学会総会
Namura S, Nagata I, Kikuchi H, Bonventre JV, Alessandrini A
for Neuroscience
Intravenous administration of U0126
30th Annual Meeting Society
11.4-9,2000. New Orleans, USA
Nakatsuka D, Satoh T, Tanaka-Nakadate S, Watanabe Y, Nagata I, Kikuchi H, Namura S. Neuroprotection
by MEK inhibition with U0126 against oxidative stress
Neuroscience
85.
永久局所脳虚血モデルに対
10.24-26,2000.福岡
protects brain against focal cerebral ischemia and reperfusion
84.
10.24-26,2000.福岡
福岡
柳本広二,永田泉,張志文,薛菁暉,坂井信幸,酒井秀樹,高橋淳,菊池晴彦
する軽度低体温療法の効果
83.
実験的脳血管攣縮に対する serine protease 阻
名村尚武,永田泉,Alessandro A,菊池晴彦 マウス局所脳虚血に対する MEK 阻害剤 U0126 の静脈内投与
による脳保護効果
82.
福岡
30th
Annual
Meeting
Society
for
11.4-9,2000. New Orleans, USA
Nishiyori A, Minami M, Takami S, Namura S, Nagata I, Satoh M
Fractalkine-immunoreactivity increases
in the hippocampal CA1 pyramidal cells undergoing apoptosis after a transient forebrain ischemia
30th Annual Meeting Society for Neuroscience
86.
11.4-9,2000. New Orleans, USA
Takami S, Minami M, Namura S, Nagata I, Satoh M
ischemia and reperfusion
Viral MIP-II protects brain against focal cerebral
30th Annual Meeting Society for Neuroscience
11.4-9,2000. New Orleans,
USA
87.
Yanamoto H, Mizuta I, Nagata I, Zhang Z, Xue J-H, Kikuchi H
in neuronal nuclei in the brain of infarct tolerance
Enhanced BDNF-like immunoreactivity
30th Annual Meeting Society for Neuroscience
11.4-9,2000. New Orleans, USA
88.
東登志夫,間中浩,永田泉
ヒト動脈硬化病変におけるコラーゲン特異的分子シャペロン HSP47 の発現
5 回臨床ストレス蛋白質研究会
89.
11.25,2000.
第
東京
張志文,柳本広二,永田泉,坂井信幸,薛菁暉,菊池晴彦
FUT-175 および Argatroban の抑制効果—実験的検討—
326
脳血管攣縮に対する serine protease 阻害剤,
第 12 回日本脳循環代謝学会総会
12.5-6,2000.
Brain
attackから脳を守るための研究
仙台
90.
91.
名村尚武,永田泉,菊池晴彦
スナネズミ海馬における虚血耐性現像とタンパクキナーゼ Akt
日本脳循環代謝学会総会
12.5-6,2000.仙台
名村尚武,飯原弘二,蒋
暁帆,張志文,新堂敦,谷口歩,副田明男,安栄良悟,長嶺知明,大田元,高橋
淳,木暮修治,東登志夫,阪井田博司,酒井秀樹,柳本広二,坂井信幸,永田泉
をターゲットとした脳保護療法の試み
92.
プロテインキナーゼ MEK
平成 12 年京都大学脳神経外科同門会集談会
副田明男,酒井秀樹,木暮修治,飯原弘二,坂井信幸,永田泉
6 回日本脳神経外科救急研究会
93.
12.10,2000.京都
重症くも膜下出血に対する至適温度管理 第
1.20,2001.大阪
高橋淳,坂井信幸,酒井秀樹,阪井田博司,飯原弘二,東登志夫,木暮修治,副田明男,林田孝平,永田泉
重症静脈灌流異常における reversible metabolic supression : PET による 1 検討例
CI 学会総会
94.
酒井秀樹,坂井信幸,東登志夫,阪井田博司,飯原弘二,高橋淳,大田元,長嶺知明,副田明男,永田泉
ウム)
第 24 回日本脳神経 CI 学会総会(シンポジ
安栄良悟,坂井信幸,永田泉,柳本広二,酒井秀樹,飯原弘二,阪井田博司,東登志夫,高橋淳,大田元,
療法へ
脳血管攣縮に対する治療—塩酸ファスジルと FUT-175・アルガトロバン併用
第 17 回スパズム・シンポジウム(シンポジウム)
3.14,2001.大阪
安栄良悟,酒井秀樹,永田泉,坂井信幸,阪井田博司,飯原弘二,東登志夫,高橋淳,木暮修治,大田元
症くも膜下出血に対する低体温療法の成績と課題
97.
脳
3.2-3,2001.福井
長嶺知明,副田明男,谷口歩
96.
第 24 回日本脳神経
3.2-3,2001.福井
血管内治療の合併症評価における MRI 拡散強調画像の有用性
95.
第 12 回
第 30 回日本脳卒中の外科学会
重
3.14-15,2001.大阪
酒井秀樹,坂井信幸,東登志夫,新堂敦,阪井田博司,高橋淳,大田元,安栄良悟,副田明男,永田泉
artery to artery embolism による脳梗塞の発生病態
第 26 回日本脳卒中学会総会
3.15-16,2001.
大阪
98.
張志文,柳本広二,永田泉,坂井信幸,薛菁暉,菊池晴彦
るプロテアーゼ阻害剤の抑制効果
99.
ラット頸動脈バルン損傷後新生内膜肥厚に対す
第 26 回日本脳卒中学会総会
名村尚武,永田泉,Alessandro A,
preconditioning in the gerbil
菊池晴彦 The
3.15-16,2001.大阪
serine-protein
第 26 回日本脳卒中学会総会
kinase
Akt
3.15-16,2001.
100. 柳本広二,水田依久子,永田泉,薛菁暉,張志文,酒井秀樹,坂井信幸,菊池晴彦
る GFAP, HSP27, HSP70, BDNF の発現および局在変化
極的平温管理の有用性について
ischemic
大阪
梗塞耐性発現脳におけ
第 26 回日本脳卒中学会総会
101. 副田明男,酒井秀樹,谷口歩,飯原弘二,坂井信幸,永田泉
and
3.15-16,2001.大阪
重症くも膜下出血に対する至適温度管理—積
第 15 回日本神経救急研究会
5.12,2001.鹿児島
102. 大田元,酒井秀樹,坂井信幸,阪井田博司,東登志夫,木暮修治,高橋淳,長嶺知明,新堂敦,安栄良悟,
副田明男,谷口歩,永田泉,長束一行
とステント 留置術での比較—
内頸動脈狭窄症に対する周術期の HITS の検出について—CEA
第 20 回日本脳神経超音波学会
103. 副田明男,酒井秀樹,木暮修治,飯原弘二,坂井信幸,永田泉
積極的平温管理の有用性について—
104. Nagata I, Takahashi J
measurements
5.31-6.1,2001.奈良
重症くも膜下出血に対する至適温度管理—
第 4 回日本脳低温療法研究会 7.6-7,2001.山口
Treatment for ICA large/giant aneurysms.
Parent artery occlusion with CBF
Congress of Neurological Surgeons 51st Annual Meeting(シンポジウム)
9.29-10.4,
2001. San Diego, California, USA
105. 永田泉,村尾健一,飯原弘二,東登志夫,木暮修治,高橋淳,林克彦,副田明男,長嶺知明,安栄良悟,石
橋敏寛,谷口歩,福田仁,柳本広二,名村尚武,坂井信幸
の積極的平温管理の有用性について—
重症くも膜下出血に対する低体温療法—復温時
第 60 回日本脳神経外科学会総会(シンポジウム)10.24-26,2001.
岡山
327
Brain
attackから脳を守るための研究
106. 高橋淳,安栄良悟,村尾健一,飯原弘二,酒井秀樹,東登志夫,木暮修治,長嶺知明,石橋敏寛,副田明男,
谷口歩,福田仁,永田泉 CEA 適応例における血行力学的脳虚血
第 60 回 日 本 脳 神 経 外 科 学 会 総 会
10.24-26,2001.岡山
107. 張志文,柳本広二,永田泉,村尾健一,飯原弘二,薛
菁暉,菊池晴彦
の持続的狭小化及び trapidil による脳血管攣縮緩解効果
血小板由来成長因子による脳血管
第 60 回日本脳神経外科学会総会
10.24-26,
2001.岡山
108. 名村尚武,蒋 暁帆,笹又理央,永田泉
する第 60 回日本脳神経外科学会総会
マウスの永久局所脳虚血に対して,アトロバスタチンは脳を保護
10.24-26,2001.
岡山
109. 柳本広二,永田泉,新津陽一,村尾健一,飯原弘二,薛菁暉,張志文,菊池晴彦
脳虚血モデルの開発
110. 蒋
第 60 回日本脳神経外科学会総会 10.24-26,2001.
暁帆,名村尚武,永田泉
回日本脳神経外科学会総会
新たなマウス一過性局所
岡山
MMP 阻害剤 KB-R7785 のマウス永久局所脳虚血に対する脳保護効果
第 60
10.24-26,2001.岡山
111. 永田泉,坂井信幸,酒井秀樹,村尾健一,飯原弘二,東登志夫,木暮修治,高橋淳,林克彦,長嶺知明,石
橋敏寛,安栄良悟,副田明男,谷口歩,福田仁,柳本広二
頸動脈血行再建術の周術後におけるリスクマネ
ージメント
大阪
第 42 回日本脈管学会総会
11.20-22,2001.
112. 副田明男,坂井信幸,酒井秀樹,村尾健一,飯原弘二,東登志夫,木暮修治,高橋淳,林克彦,永田泉
未破裂脳動脈瘤 GDC 塞栓術における embolic complications—MR 拡散強調画像(DWI)による連続 47 例の
検討—
第 17 回日本脳神経血管内治療学会
11.21-23,2001.新潟
113. 永田泉,張志文,柳本広二 脳血管攣縮あるいは肥厚性内膜による血管狭小化における血小板由来成長因子
の役割
第 5 回ブレインアタックから脳を守る研究セミナー(講演)1.30,2002.
328
大阪
Brain
attackから脳を守るための研究
2. 脳神経障害の原因となる脳血管障害発生機構の解明に関する研究
2.1. 脳血管の病態成立機構に関する研究
2.1.2. 閉塞性脳血管障害の病態解明と新たな治療技術開発に関する研究
2.1.2.2. 脳血管壁障害における増殖(修復)機構に関する研究
(研究項目名:血管作動性ペプチドの脳血管修復機能に関する研究)
国立循環器病センター研究所生化学部
寒川
要
賢治、宮田 篤郎
約
Brain attack の予防および attack 後の血管修復,神経細胞の保護法の確立を図る目的で、血管作動性ペプチド
(ナトリウム利尿ペプチド(ANP, BNP, CNP)、アドレノメデュリン及び PACAP)の脳血管の傷害及び修復におけ
る役割及び血管壁における情報伝達機序の解明をめざし、血管系細胞及びアストロサイトにおけるこれら血管作
動性ペプチド(アドレノメデュリン及び PACAP)の作用機序、及びこれらの血管作動性ペプチドの産生調節機序の
解明を行った。そしてアドレノメデュリンについては血管内皮細胞における産生調節機序に、トロンビン、TNF,
IL-1、LPS などの因子が関与すること、その遺伝子の転写調節においては、NF-IL6 及び AP2 が転写因子として関
与することを明らかにした。アドレノメデュリンがアストロサイトで血管平滑筋と同程度産生され、オートクリ
ン、パラクリンとして機能することが示唆された。用量依存的にアドレノメデュリンがアストロサイトの細胞増
殖を抑制した。PACAP については、まず、血管平滑筋細胞に対して細胞周期依存的に正と負のデュアルの細胞内シ
グナルを介してその細胞増殖を制御することが明らかとなった。また、血管平滑筋細胞におけるNO産生に対し
て、誘導型一酸化窒素合成酵素を、インターロイキン1依存的に誘導することにより、その産生調節に関与する
ことを明らかにした。PACAP の産生調節機序を明らかにする目的でマウス PACAP 遺伝子をクローニングし、およそ
6.5kbにわたり 5 つのエクソンからなること、また第 17 染色体の E5 に局在することを明らかにした。PACAP が
培養神経細胞だけでなく astrocyte 及び microglia にても発現しており、TPA,
Forskolin の刺激で誘導されるこ
とを明らかにした。そして脳においては、エクソンⅠとⅡの alternative スプライシングにより少なくとも5種
類の5’非翻訳領域が存在すること。そして脳において PACAP は誘導型発現に関わるプロモーターと構成的発現
に関わるプロモーターの2種類により、その転写が制御されていることが明らかとなった。さらに神経選択的サ
イレンサーが、PACAP の神経特異的発現に関与することを明らかにした。
研究目的
Brain attack による虚血は、脳組織のみならず脳血管系にも大きなダメージを与える。血管傷害とその修復は、
虚血後の脳組織の修復やホメオスタシスの維持に大きく影響する。しかしながら、虚血による脳血管の損傷及び
修復のメカニズムは、ほとんど明らかになっていない。一方、我々が発見したナトリウム利尿ペプチド(ANP, BNP,
CNP)[1]、アドレノメデュリン[2]及び PACAP(pituitary adenylate cyclase activating peptide)[3]
等の血
管作動性ペプチドは、血管拡張作用のみならず、血管細胞の保護、平滑筋細胞の遊走や増殖調節などに大きな役
割を担っていると考えられている。PACAP は中枢神経系に広く局在し、ニューロトランスミッターとしての機能を
329
Brain
attackから脳を守るための研究
有するほか、培養神経細胞及びアストロサイトにおいて VIP の千倍強力な cyclic AMP 産生刺激活性を示し、中
和抗体の添加により培養海馬ニューロン死が引き起こされる。さらに、PACAP が一過性脳虚血後の遅発性海馬ニュ
ーロン死や、HIV・gp120 やグルタミン酸などによる種々の神経細胞死を抑制することから PACAP の神経栄養因子
としての機能が注目されている。PACAP は、その homologue である VIP とともに脳内に広く分布し、そして両者に
共通なレセプター及び PACAP 特異的レセプターが混在する。神経栄養作用については VIP においても従来より報
告されているが、PACAP の方が 100 分の 1 の極微量で作用を発揮する。そして PACAP の神経栄養作用は神経細胞へ
の直接作用とグリア細胞を介した間接作用が考えられており、さらには血管系細胞における作用も関与してくる
と思われるが、その詳細は不明である。本研究では、脳血管の傷害及び修復における血管作動性ペプチド役割と
血管壁における情報伝達機序の解明により、脳を守る血管におけるペプチド性因子の機能を明らかにすると共に
brain attack の予防および attack 後の血管修復, 神経細胞の保護法の確立を図りたい。即ち、内皮細胞、平滑
筋細胞など血管系細胞及びアストロサイトにおけるこれら血管作動性ペプチド(アドレノメデュリン及び PACAP)
の作用機序を明らかにする。次にこれらの血管作動性ペプチドの産生調節機序を明らかにする。そうして明らか
となった血管作動性ペプチドとしての生理機能から、血管系細胞と脳細胞の機能的連関性に着目し、これらの細
胞間クロストークにおける役割を明らかにする
研究方法
1)アドレノメデュリンの生合成に関与する因子の解析:
初代培養ヒト血管内皮細胞をさいたい種々のホルモン、増殖因子、サイトカインを添加し、培養液中に分泌さ
れてくるアドレノメデュリンを特異的ラジオイムノアッセイにて測定、同時に被刺激細胞から RNA を抽出し、ノ
ーザンブロット法によりアドレノメデュリン遺伝子発現を評価する。次に遺伝子発現調節に関しては、すでに単
離したヒトアドレノメデュリン遺伝子[4]の5’上流域の構造解析を行い、プライマー伸長実験を行い、まず転写
開始点を同定する。ヒトアドレノメデュリン遺伝子の 5’上流域を順次欠失した第1エクソンを含む DNA 断片をル
シフェラーゼ遺伝子の上流に挿入したプラスミドを作成する。作成したプラスミドを、ヒト臍帯静脈内皮細胞に
遺伝子導入し、その転写活性をルシフェラーゼの酵素活性として評価する。さらには、アストロサイトの初代培
養細胞系を調製し、その培養上清中に分泌されてくるアドレノメデュリンを特異的ラジオイムノアッセイにて測
定、また、アストロサイトの細胞増殖に及ぼす効果を、DNA 合成としての3H-thymidine の取り込みに及ぼす効
果として評価する。
2) PACAP の血管平滑筋に及ぼす効果についての検討:
まず、PACAP の受容体には、PACAP 特異的サブタイプである PAC1 と、PACAP と VIP 両方に同程度の親和性を示す
VPAC1, VPAC2 が存在することが知られており、これらの特異的プライマーを用いた RT-PCR 法により、培養血管平
滑筋細胞における PACAP レセプターのサブタイプの検討を行う。次に細胞内情報伝達として PACAP の血管平滑筋
細胞の cyclic AMP 産生に及ぼす効果を、cyclic
AMP 特異的 RIA を用いて検討する。血管平滑筋細胞の細胞増殖
に及ぼす効果は、DNA 合成としての3H-thymidine の取り込みに及ぼす効果として評価、さらには細胞周期依存
性についても検討する。
さらに長期的効果として、細胞数に及ぼす効果についても cell counting kit により
検討する。
3) PACAP 遺伝子発現機序の解析:
まず、マウス genomic library より、マウス cDNA をプローブとしてスクリーニングを行い、マウス PACAP 遺伝
子を単離し、その5’上流域の構造解析を行う。次にマウス脳 mRNA を用い 5’RACE、及びプライマー伸長実験を
行い、転写開始点を同定する。さらには人工点突然変異をエレメントに導入したミュータントベクターを構築し、
330
Brain
attackから脳を守るための研究
その機能解析を行う。マウス PACAP 遺伝子の 5’上流域を順次欠失した第1エクソンを含む DNA 断片をルシフェラ
ーゼ遺伝子の上流に挿入したプラスミドを作成する。作成したプラスミドをグリア細胞や神経細胞に導入し、ル
シフェラーゼの発現を調べることによりプロモーター及びエンハンサー領域を明らかにする。
研究成果
アドレノメデュリンについては血管内皮細胞における産生調節機序に、トロンビン、TNF,IL-1、LPS の因子が
関与すること、また、その遺伝子の転写調節においては、ルシフェラーゼアッセイ及びゲルシフトアッセイによ
る 5’プロモーター領域の詳細な解析により、-50〜-100 の領域が転写調節に重要であり、なかでも NF-IL6 及び
AP2 のモチーフ配列が深く関与することが示唆された。アドレノメデュリンがアストロサイトで血管平滑筋と同程
度産生され、オートクリン、パラクリンとして機能することが示唆された。用量依存的にアドレノメデュリンが
アストロサイトの細胞増殖を抑制した。
PACAP については、まず、血管組織全体には3つの受容体サブタイプとも発現を認めたが、血管平滑筋細胞にお
いては VPAC2 のみ発現を認め、血管平滑筋細胞の cyclic AMP 産生を PACAP 及び VIP 共に容量依存性に増加させた。
次に血管平滑筋細胞の細胞増殖に及ぼす効果を検討したところ、血清刺激時における細胞周期の G0 期/G1 期への
移行には促進的に、後期 G1 期/S 期の移行においては、抑制的に作用することを認めた。従って PACAP は血管平滑
筋細胞の細胞増殖を細胞周期依存的に正と負のデュアルの細胞内シグナルを介して制御することが示唆された。
また、血管平滑筋細胞における一酸化窒素産生に対して、誘導型一酸化窒素合成酵素を、インターロイキン1依
存的に誘導することにより、その産生調節に関与することを明らかにした。
PACAP の産生調節機序を明らかにする目的で、マウス PACAP 遺伝子をクローニングし、その構造解析を行い、本
遺伝子が 6.6kb にわたり5つのエクソンからなること、また 17 番目染色体の E5 局在することをを明らかにした。
その 5'上流領域の解析において、転写開始点は3カ所あり、Exon1 と Exon2 の alternative
splicing により脳
においては少なくとも4種の異なった 5'非翻訳領域を持つ mRNA が存在することを明らかにした。さらにこれらの
転写開始点には、様々な転写因子エレメントとともにタンデムに2つの TATA 配列が見られ、誘導型発現に関わる
と思われるものと、TATA がなくそのかわり Inr 様配列がクラスターし構成的発現に関わるものの2種類があり、
PACAP がこれらデュアルモードで発現が制御されていることが明らかとなった。さらに5’上流域の基本転写活性
をC6細胞においてルシフェラーゼアッセイを用いて検討したところ、サプレッサーとして機能する領域があり、
神経選択的サイレンサー結合配列に相同性の高い領域が認められた。
考
察
アドレノメデュリンは血管内皮細胞にて生合成されるが、その調節にはトロンビン、TNF, LPS, IL-1 など、単
にホルモンだけでなく炎症性サイトカインによっても生合成が促進されるということから、アドレノメデュリン
が動脈硬化病巣などの脳血管障害性疾患病態において病態生理的意義を有することが示唆された。また、ルシフ
ェラーゼアッセイ及びゲルシフトアッセイにより、5’プロモーター領域の解析により、血管病変におけるアドレ
ノメデュリン遺伝子の転写制御機構に NFIL-6 が関与すること示唆され、本遺伝子発現の病態生理的意義解明への
糸口となると思われる。また、アドレノメデュリンが、アストロサイトにおいて生合成され、パラクリン・オー
トクリンとして生理機能を有することから、脳細胞と血管系細胞の機能的連関において何らかの生理的役割を担
うことが示唆された。
PACAP の受容体が 3 タイプとも血管系において発現し、血管平滑筋では VPAC2 のみが発現し、内皮細胞では主に
PAC1 受容体が発現するという、受容体サブタイプの組織特異的発現が認められたということは、これらのレセプ
ターの生理的役割が異なることが示唆される。また、血管平滑筋細胞の増殖に対し、細胞周期依存的にその増殖
331
Brain
attackから脳を守るための研究
を制御することから、血管修復の初期にはその増殖を促進することにより、修復にプラスに働き、逆に動脈硬化
など、様々な増殖因子が作用する病的な増殖に対しては抑制的に作用することが示唆され、その生理的意義は興
味深い。また、インターロイキン1依存的に誘導型一酸化窒素合成酵素の発現を増強させることは、血管の炎症
性病変における PACAP の病態生理的意義を示唆する。
PACAP の神経保護作用を検討する上に置いて、内在性の PACAP の分泌動態を解明することは大変重要であると思
われる。明らかとなったマウス PACAP 遺伝子はすでに報告しているヒト遺伝子と同じ構造であった[5]。しかしそ
の染色体における局在は、何ら関連する神経異常を示唆するものではなく、唯一 flasky skin と呼ばれる免疫異
常ミュータントの原因遺伝子がその近傍に報告されているのみであった。本遺伝子の 5’上流域及び、マウス脳内
PACAP mRNA の解析により、神経における PACAP 遺伝子発現には、誘導型と構成型の2通りがあることが示唆され
た。このことは、PACAP が脳内において、視床下部に最も高濃度に存在するものの、ある程度の量が脳全体に分布
すること、また、侵害刺激などにより、その障害の周りに発現の増強が見られるという報告と一致し、
BDNF と
同様に神経保護因子として、何らかの神経細胞障害時には内在性 PACAP が活性化されることが推察される。また、
今回見いだされた5’上流域の神経選択的サイレンサー結合配列に相同性の高い領域は、PACAP の神経特異的発現
の中核をなすエレメントである事が強く示唆された。
引用文献
[1] Matsuo H: Discovery of a natriuretic peptide family and their clinical application. Can J Physiol
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79(8):736-40, (2001)
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novel 38 residue
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[5] Ohkubo S, Kimura C, Ogi K, Okazaki K, Hosoya M, Onda H, Miyata A, Arimura A, Fujino M: Primary
structure AND characterize
of the precursor to human pituitary adenylate cyclase activating
polypeptide, DNA Cell Biol. 11: 21-30, (1992)
成果の発表
1) 原著論文による発表
イ)国外誌
1. Ueno H, Haruno A, Morisaki N, Furuya M, Kangawa K, Takeshita A, Saito Y: Local expression of C-type
natriuretic peptide markedly suppresses neointimal formation in rat injured arteries through an
autocrine/paracrine loop. Circulation, 96(7): 2272-2279 (1997)
2. Miyata
A, Satou K, Hino J, Tamakawa H, Matsuo H, Kangawa K: Rat aortic smooth muscle cells are
bidirectionally regulated in a cell cycle-dependent manner via PACAP/VIP type 2 receptor. Ann. NY
Acad. Sci., 865: 73-81 (1998)
3. Tamakawa H, Miyata A, Satoh K, Miyake T, Arimura A, Matsuo H, Kangawa K: The augmentation of pituitary
adenylate cyclase activating polypeptide (PACAP) in the streptozotocin-induced diabetic rats.
332
Brain
attackから脳を守るための研究
Peptides 19: 1497-1502 (1998)
4. Ishimitsu T, Miyata A, Matsuoka H, Kangawa K: Transcriptional regulation of human
adrenomedullin gene
in vascular endothelial cells, Biochem. Biophys. Res. Commun. 243: 463-470 (1998)
5. Kario K, Nishikimi T, Yoshihara F, Takishita S, Yamaoka R, Matsuo T, Matuso H,Mitsuhashi T, Shimada
K, Kangawa K: Plasma levels of natriuretic peptides and adrenomedullin in elderly hypertensive
patients: relationships to 24 h blood pressure. J Hypertens, 16(9): 1253-1259 (1998)
6. Kikumoto K, Kubo A, Hayashi Y, Minamino N, Inoue S, Dohi K, Kitamura K, Kangawa
K, Matsuo H, Furuya
H: Increased plasma concentration of adrenomedullin in patients with subarachnoid hemorrhage. Anesth
Analg, 87(4): 859-863 (1998)
7. Miyata A, Sano H, Li M, Kaiya H, Satou K, Matsuo H, Arimura A, Kangawa K: Identification and analysis
of the 5’ untranslated region of mouse pituitary adenylate cyclase activating polypeptide (PACAP)
gen. Soc. Neurosci. Abstr., 25(2): 27 (1999)
8. Kato J, Kitamura K, Matsui E, Tanaka M, Ishizaka Y, Kita T, Kangawa K, Eto T: Plasma adrenomedullin
and natriuretic peptides in patients with essential or malignant hypertension. Hypertens Res,
22(1):61-5 (1999)
9. Inoue S, Hayashi Y, Ohnishi Y, Kikumoto K, Minamino N, Kangawa K, Matsuo H, Furuya H, Kuro M: Cerebral
production of adrenomedullin afer hypothermic cardiopulmonary bypass in adult cardiac surgical
patients. Anesth Analg, 88(5):1030-1035 (1999)
10. Nishikimi T, Miyata A, Horio T, Yoshihara F, Nagaya N, Takishita S, Yutani C, Matsuo H, Matsuoka H,
Kangawa K: Urocortin, a member of the corticotropin releasing factor family, in the normal and diseased
heart, Am J. Physiol. 279: H3031-3039 (2000)
11. A. Miyata, H. Sano, H. Inoue, H. Matsuo, A. Arimura, K. Kangawa, Characterization of the mouse pituitary
adenylate cyclaseactivating polypeptide (PACAP) gene promotor. Soc. Neurosci. Abstr., 26(1): 27, 2000.
12. Li M, Mbikay M, Nakayama K, Miyata A, Arimura A: Prohormone convertase PC4 process the precursor of
PACAP in the testis, Ann. NY Acad. Sci., 921: 333-339 (2000)
13. Ueta Y, Serino R, Shibuya I, Kitamura K, Kangawa K, Russell JA, Yamashita H: A physiological role
for adrenomedullin in rats; a potent hypotensive peptide in the hypothalamo-neurohypophysial system.
Exp Physiol, 85:163S-169S (2000)
14. Miyata A, Sano H, Li M, Matsuda Y, Kaiya H, Sato K, Matsuo H, Kangawa K, Arimura A: Genomic organization
and chromosomal localization of the mouse pituitary adenylate cyclase activating polypeptide (PACAP)
gene. Ann N Y Acad Sci, 921:344-348 (2000)
15. Sano H, Miyata A, Sato K, Kaiya H, Matsuo H, Kangawa K: PACAP augments nitric oxide synthesis in rat
vascular smooth muscle cells stimulated with IL-1 alpha. Ann N Y Acad Sci, 921:415-419 (2000)
16. Sata M, Kakoki M, Nagata D, Nishimatsu H, Suzuki E, Aoyagi T, Sugiura S, Kojima H, Nagano T, Kangawa
K, Matsuo H, Omata M, Nagai R, Hirata Y: Adrenomedullin and nitric oxide inhibit human endothelial
cell apoptosis via a cyclic GMP-independent mechanism. Hypertension, 36(1):83-88 (2000)
17. Robertson CL, Minamino N, Ruppel RA, Kangawa K, Adelson PD, Tsuji T, Wisniewski SR, Ohta H, Janesko
KL, Kochanek PM: Increased adrenomedullin in cerebrospinal fluid after traumatic brain injury in
children: a preliminary report. Acta Neurochir Suppl
76:419-421 (2000)
18. Robertson CL, Minamino N, Ruppel RA, Kangawa K, Wisniewski SR, Tsuji T, Janesko KL, Ohta H, Adelson
PD, Marion DW, Kochanek PM: Increased adrenomedullin in cerebrospinal fluid after traumatic brain
injury in infants and children.
J Neurotrauma, 18(9):861-868 (2001)
333
Brain
attackから脳を守るための研究
19. Kawano H, Shimozono M, Tono T, Miyata A, Komune S: Expression of pituitary adenylate cyclase-activating
polypeptide mRNA in the cochlea of rats. Brain Res Mol Brain Res 94: 200-2003 (2001)
20. Kis B, Deli MA, Kobayashi H, Abraham CS, Yanagita T, Kaiya H, Isse T, Nishi R, Gotoh S, Kangawa K,
Wada A, Greenwood J, Niwa M, Yamashita H, Ueta Y: Adrenomedullin regulates blood-brain barrier
functions in vitro. Neuroreport, 12(18):4139-4142 (2001)
21. Ueta Y, Hara Y, Kitamura K, Kangawa K, Eto T, Hattori Y, Yamashita H: Action sites of adrenomedullin
in the rat brain: functional mapping by Fos expression. Peptides
22(11):1817-1824 (2001)
22. Kis B, Kaiya H, Nishi R, Deli MA, Abraham CS, Yanagita T, Isse T, Gotoh S, Kobayashi H, Wada A, Niwa
M, Kangawa K, Greenwood J, Yamashita H, Ueta Y: Cerebral endothelial cells are a major source of
adrenomedullin. J Neuroendocrinol, 14(4):283-293 (2002)
2)
原著論文以外による発表
ア)国内誌
1. 宮田篤郎、佐野洋史、寒川賢治、「血管作動性神経ペプチド PACAP (pituitary adenylate cyclase activating
polypeptide)の生化学」、循環器病研究の進歩
20 (1), 57-66, 1999.
2. 宮田篤郎 「新規脳卒中治療薬としての神経栄養因子 PACAP の可能性を探って」 鹿児島市医報、40 巻 11 号、
9-21、2001
イ)国外誌
Atsuro Miyata and Kenji Kangawa Structure and functions of Pituitary Adenylate Cyclase Activating
Polypeptide (PACAP) as a Neurotrophic Factor “Strategic medical science against brain attack” ed.
by Kikuch H. Springer, Tokyo pp. 57-77, 2002
1)
口頭発表
ア) 招待講演
1. Miyata A:“Discovery and structure of PACAP: from peptide to gene”Brain nose & pituitary international
symposium、Tokyo、2000 年 12 月
2. 宮田篤郎:「循環調節因子としての PACAP」, 第 74 回日本薬理学会総会、横浜、2001 年 3 月
3. 宮田篤郎:
「循環系における神経体液性因子としての PACAP」,第 78 回日本生理学会総会、京都、2001 年 3 月
4. 宮田篤郎:「ペプチド性神経栄養因子 PACAP の脳卒中治療薬としての可能性を探って」鹿児島市医師会学術講
演、鹿児島、2001 年 3 月
イ)応募・主催講演
1. Ishimitsu T, Miyata A, Matuoka H, Kangawa K: Transcriptional regulation of human adrenomedullin
gene in vascular endothelial cells. 1st Int. Symposium on Adrenomedullin and PAMP, Osaka , 1998
Oct
2. Miyata A, Hino J, Satou K, Sasaguri T, Matsuo H, Kangawa K: The proliferation of rat vascular
smooth muscle cells are bidirectionally regulated in a cell-cycle dependent manner. The Endocrine
Society Annual Meeting, New Orleans, 1998 Oct.
3. 宮田篤郎、佐野洋史、海谷宏之、有村章、松尾寿之、寒川賢治:「マウスPituitary Adenylate Cyclase
Activating Polypeptide(PACAP)遺伝子構造の解析」第72回日本内分泌学会総会、横浜、1999年5月
4. 佐 野 洋 史、 宮 田 篤郎 、堀 尾 武 史、 錦 見 俊 雄 、松 尾 寿 之 、 寒 川 賢 治 : 「 Pituitary Adenylate Cyclase
334
Brain
attackから脳を守るための研究
Activating Polypeptide(PACAP)のラット心臓培養細胞に対する作用—心筋細胞・非心筋細胞における比
較」第3回日本心血管内分泌代謝学会総会、東京、1999年11月
5. Miyata A, Sano H, Li M, Kaiya H, Satou K, Matsuo H, Arimura A, Kangawa K: Identification And
Analysis Of The 5’ Untranslated Region Of Mouse Pituitary Adenylate Cyclase Activating
Polypeptide Gene. Annual Meeting of Society for Nueroscience, New Orleans, 2000 Nov.
6.佐 野 洋 史 、 宮 田 篤 郎 、 堀 尾 武 史 、 松 尾 寿 之 、 寒 川 賢 治 : 「 Pituitary Adenylate Cyclase Activating
Polypeptide(PACAP)の心肥大作用」第29回日本心脈管作動物質学会、福岡、2000年2月
7.佐 野 洋 史 、 宮 田 篤 郎 、 堀 尾 武 史 、 松 尾 寿 之 、 寒 川 賢 治 : 「 Pituitary Adenylate Cyclase Activating
Polypeptide(PACAP)の心肥大に対する作用—ラット培養心筋細胞・非心筋細胞における比較」第64回日
本循環器学会、大阪、2000年3月
8. Miyata A, Sano H, Li M, Matsuda Y, Kaiya H, Satou K, Matsuo H, Kangawa K, Arimura A.
Characterization of the mouse PACAP gene promoter. 5 th International Meeting of VIP, PACAP,
Sevretin, Glucagon and Related Peptide, Santa Barbara, 2001 Nov.
5)受賞等
宮田篤郎:日本神経内分泌学会川上賞、1998 年 10 月
335