マクロ経済学 B 第 10 回 マクロ経済学 B http://anaito.at.infoseek.co.jp/ 第 10 回 2009/12/21 I、インフレーションと失業 1、インフレーションと失業(p. 248) (1)フィリップス曲線 実証データによると、高インフレ期にはフィリップス曲線が垂直に近くなり、低インフレ期には水平 に近くなる インフレーションがある程度以上に激しくなると、フィリップス曲線が垂直に近くなり、総需要政策 の有効性が薄れる (2)インフレーションの社会的費用 (i)強制的な所得再分配機能を持つ→固定的な所得や金利が固定された金融資産を保有している人に とっては資産の実質的価値が減少する→債務者に有利で、債権者に不利な結果となる (ii)貨幣の価値が下落して、一国全体の冨が減少する←冨が貨幣表示されている (iii)交換手段としての貨幣も保有されなくなる また、物価変動が激しくなると、不確実性が増大するため、生産や投資に影響を与える (iv)労働者の生活不安が高まり、賃金要求態度が先鋭的、急進的になる→賃金の上昇も激しくなり、 インフレーションがますます昂進する−物価と賃金の悪循環 (3)デフレーションの社会的費用 (i)失業の増大 (ii)インフレーションとは逆の強制的所得再分配機能が存在→債務者が不利に、債権者が有利になる (iii)貨幣の価値が上昇する (iv)デフレーションが進行すると、人々のデフレーション期待が強まり、実質金利が上昇し、投資意 欲に悪影響を及ぼす (4)ケインズのインフレーションおよびデフレーションの評価 『貨幣改革論』 「インフレーションにせよ、デフレーションにせよ、・・・いずれも異なる階級間の富の分配を変更 させたが、この点ではインフレーションの方が一層悪い。おのおの、富の生産を過度に刺激したり、 あるいは停滞させたりしたが、この点ではデフレーションの方が一層悪かった。」(p. 3) (a)貨幣価値の変化が分配に及ぼす影響: (i)投資家階級:インフレーションによって資産の価値が減少する (ii)企業家階級:債務者である場合は負債の価値が減少する、また、生産への刺激となる(実質利子 率が非常に低下するなど)、しかし、インフレーションが激しい場合は巨額の利潤に対して批判を受 け、投資を妨げられる場合も存在する (iii)労働者階級:相対的な立場を改善(賃金の上昇) 「インフレーションは投資家には有害であり、企業家には大変有利であり、・・・全般的にいって労 働者階級に有利な仕方で富の再分配を行う・・・デフレーションは、・・・反対に、金利生活者の方 を有利にし、税金の負担は社会の生産的階級にとって耐え難いものになる。」(pp. 29-30) (b)貨幣価値の変化が生産に及ぼす影響 「企業家たちが物価下落の期待を持てば生産過程は抑制される。また、物価上昇の期待を持てば過度 に刺激される。」(p. 30) 企業家:貨幣で支払うため、物価上昇によって利益を得て、物価下落によって損失を被る -1- マクロ経済学 B 第 10 回 (c)まとめ 「インフレーションは、特に投資家階級にとって不公平であるので、貯蓄にとって好ましからざる影 響を持つ。物価下落の原因となるデフレーションは、・・・労働と企業にとって貧困化を意味する。 ・・・かくて、インフレーションは不当であり、デフレーションは不得策である。・・・二つの内で は、恐らくデフレーションの方が悪い。」(p. 35) ケインズはどちらかといえば、デフレーションの方を悪い状態とみなしている。 (5)インフレーションの原因 (i)需要ショック:稼働率が100%である場合、総需要曲線の右シフトが生じると、超過需要が生 じるため、物価水準は上昇する (ii)供給ショック:総供給曲線の上方シフトにより、超過需要が発生し、物価水準が上昇する (i)需要ショックの原因:貨幣的ショック:貨幣供給の増大によるもの:マネタリストが重視 (ii)供給ショック:オイルショックの場合:1973年、石油価格の上昇 インフレーションの持続:インフレ期待の重要性 (6)インフレーションの分類 (i)ディマンド・プル・インフレーション(需要インフレ):総需要が増大して物価が上昇した場合に、 労働者がそれに見合う賃金上昇を要求し受け入れられるとインフレーションが進行、持続する 貨幣的需要インフレ論:貨幣数量説に基づく、貨幣的ショックによるもの 所得論的需要インフレ論:総需要の増大によるもの (ii)コスト・プッシュ・インフレーション:賃金や原材料価格などの生産費用の上昇によるもの、あ るいは費用の上昇が生産性の上昇率を上回る時 賃金プッシュ・インフレ:名目賃金上昇が生産性の上昇を上回る場合 ワイントローブ式 wN=αpY r w:名目賃金 所得分配の方程式 N:雇用量 pY r:名目国民所得 α:国民所得の内の賃金分配率 物価水準について書き直す p=w/α・(N/Y r) ・ ・ ・ ・ あるいは、p=w−(Y r/N)−α 管理価格インフレ論:大企業の独占的な価格設定によるもの 但し、両者を区別することは困難である インフレ対策:金融引き締め政策により、総需要を減少させ、インフレーションを抑える (iii)構造インフレーション 需要シフトインフレ:生産性低上昇率部門への需要が増大するような場合(サービス経済化など)、 需要が減少する部門において価格の下方硬直性によって価格が低下せず、他方、需要が増大する部門 において価格が上昇すれば、両方の効果から物価が上昇する 生産性格差インフレーション:生産性高上昇率部門において、生産性向上の成果が、価格の下方硬直 性により価格ではなく賃金上昇に反映する場合、その賃金が低生産性部門に波及して、その部門の価 格が上昇して、結果として物価水準が上昇する (7)インフレーション対策 (i)所得政策:コスト・プッシュ・インフレーションの場合に、賃金や所得の上昇を生産性上昇率と 同程度に押さえる政策 (ii)インデクセーション:賃金、金利、契約一般に物価指数スライド制を導入して、インフレの悪影 響を中和させようとするインフレ中立化政策 -2-
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