自動車関連税制が自動車燃料消費量に及ぼす影響分析 中央大学理工学部土木工学科 ○谷下雅義,鹿島茂 Impact Analysis of Car-related Taxation on Fuel Consumption ○Masayoshi Tanishita and Shigeru Kashima (Dept. of Civil Engineering, Faculty of Science and Engineering, CHUO University) 1.はじめに 有効であるのかについて検討する. 2.CHUO モデルの概要 わが国の CO2 排出における一つの特徴は,運輸 部門の顕著な伸びである.このまま新たな対策を行 モデルの概要を図-1 に示す.世帯および自動車メ わない場合,2010 年には運輸部門の CO2 排出量は ーカーの行動をミクロ経済学の考え方を援用してモ 1990 年比で 40%増加すると予測されている.政府 デル化している.政府は税制や規制を設定し,税収 は 2010 年,1990 年比 17%に抑えることを目標に掲 を使途に従って支出する. げているが,1999 年においてすでに 6 ポイントも 自動車関連税として,取得税,保有税,燃料税を 超えており,その達成は容易ではない.中でも自動 取扱い,使途については,現行の道路特定財源制度 車は CO2 排出の 8 割以上を占めることからこの抑 のみならず,鉄道の運行費用や自動車メーカーの新 制が大きな課題となっている. 車燃費改善投資への補助についても検討できるフレ 政府が掲げた地球温暖化対策推進大綱では,自動 ームとなっている.1 期は 3 年であり,軽乗用車と 車部門において①クリーンエネルギー自動車を含む低公害車, 小型・普通乗用車(各ガソリンと軽油車)の 5 車種 低燃費車の開発・普及及び営業用自動車等の走行形 を扱っている.また所得や鉄道のサービス水準の違 態の環境配慮化,②交通流対策,③モー ダルシフト・物流の効率化,④公共交通機 外生変数:可処分所得・可処分時間・時間価値・燃料価格 関の利用促進,という対策を掲げている. 世帯 自動車メーカ しかし,これらの対策は,消費者と生 合成財消費 産者(自動車メーカー)の双方の実際の 新車単体燃 行動の変化を伴って効果が現れるもので 独占的競争 新車 ある.そのため,政府が具体的にどうい 中古車/廃車 乗用車保有 研究開発投 う手段を用いて彼らの行動を変化させよ (5 車種) うとしているのか,またその手段はどの (生産)規模の経済 程度効果的なものなのかについては必ず しも明らかになっていない. 総走行台キロ 移動速度 乗用車使用 移動時間 筆者らは,自動車からの環境負荷の削 (混雑) キロ当り 減手段として 「自動車関連税」に注目し, 一般化価格 課税の方法や税率(額)および税収の使 途の変更,また課税と規制の組み合わせ 交通ストック 規制 道路 ることといった税制によってどの程度の 課税 公共交通利 公共交通 投資 環境負荷削減を期待できるのかについて キロ当り 補助 一般化価格 所得・時間制約下 検討するための CHUO モデルの開発し, での効用最大化 政府 政策シミュレーションを行っている 1). 本稿では,モデルの概要とシミュレーシ ョン結果を示し,CO2 削減および政府の 環境負荷量/厚生指標 削減目標達成のためにどのような税制が 1 期=3 年 図-1 CHUO モデルの構造 割を都市部での公共交通整備に充当する必要がある との結果を得ている.税制のみによる目標達成は困 総走行距離と燃料消費率 -2 メーカー 増税 税収中立 使途変更 燃 -1.5 料 対 消 -1 B費 A率 U 変 -0.5 化 率 0 ( 税目 取得税 ) いといった地域特性を考慮するために,3大都市圏 とその他の地方圏に分割している.期ごとに自動車 資本と自動車サービス市場が均衡し,その結果が次 期に引き継がれるという構造となっている.先行研 究 2)-4)と比較した本モデルの特徴は,①自動車資本 市場のみならず,自動車の平均走行速度を内生化し, 道路整備が走行環境を改善する影響を表現している こと,②課税のみならず,道路整備,鉄道や自動車 メーカーへの補助などその使途についても検討でき ること,③CO2 排出量の推定にあたり,単体燃費や 走行速度の影響を表現していること,である.1976 年以降のデータを用いてパラメータを設定し,1985 年以降の現況再現性を確認したところ,80 年代の保 有台数の誤差が 20%程度あるものの,90 年代にお いては保有・使用・燃料消費量等主要な変数はすべ て 5%以内に収まっており,このモデルを用いて政 策シミュレーションを行うこととした. 車種 燃料税 保有税 道路削減 0.5 1 鉄道 0 -1 -2 総走行距離変化率(対BAU) 図-2 -3 政策間の比較 (注)右上に近づくにつれて CO2 削減量は大きくなる CO2と世帯効用水準 0 取得税 車種 鉄道 世 -0.02 帯 効 対用 B 水 -0.04 A 準 U 変 化 -0.06 率 税目 メーカー ( 3.税制変更シミュレーション 燃料税 増税 税収中立 使途変更 ) 2003 年に税制を変更するとき,2012-14 年におい て燃料消費量を変更しない場合( BAU)と比較してど れだけ削減できるかということについて以下のよう な課題について検討を行う. ①増税:取得税・保有税・燃料税,それぞれ 5000 億増税するとき,どの段階の課税が有効か. ②税収中立:取得・保有税を 50%引下げ,燃料税を 約 49%引上げる税目間の政策と,取得・保有税のグ リーン化(小型車 50%引下げ,普通車 55%引上げる 車種間の政策)のどちらが有効か. ③使途変更:道路投資の削減は有効か.また道路特 定財源の 10%を公共交通の運行費用や自動車メーカ ーの燃費改善投資への補助に充当することは有効か. なお,2000 年以降の世帯数については社会保障人 口問題研究所の予測値を用いた.また世帯所得の伸 びは 1 期当たり 2%,貨物車の保有・走行量・税収等 は 2000 年のまま推移すると仮定した. 結果を図-2,3 に示す.課税では燃料税が有効であ ること,また税収中立の下で燃料税を引上げ,取得・ 保有税を引き下げる政策,また道路特定財源の一部 を自動車メーカーへの燃費改善技術投資に充当する 政策が望ましいとの結果を得ている. 増税額をなるべく抑えて政府目標を達成するため には,保有税を廃止し,燃料税を約 2.3 倍(ガソリ ン税:54.8→126 円/リットル)にする.そして道路 特定財源の 2 割をカットし,そのうち 1 割は自動車 メーカーの燃費改善技術開発投資に充当し,残り1 道路削減 保有税 -0.08 0 -1 -2 -3 -4 CO2変化率(対BAU) 図-3 政策間の比較 (注)右上に近い政策が望ましいと判断できる 難であり,規制の強化や代替エネルギー車への助成 などとの組み合わせ,また効率性や地域間の公平性 等も考慮した制度設計が求められる.なお,所得や 自動車の選好等前提条件に関する感度分析も行って いるが,紙面の都合上割愛する. 4.おわりに 今後,速度や新車価格,燃費等の推定式のパラメ ータの妥当性の検討および貨物車や規制の影響分析 ができる,また中古車の輸出や廃車についても分析 できるモデルへの改善・拡張をめざしている. 参考文献:1)谷下雅義,鹿島茂(2002)「自動車関連税制が 乗用車の保有・使用に及ぼす影響の分析」土木学会論文集, 受理済掲載予定,2)藤原徹,金本良嗣,蓮池勝人(2001)「環 境政策における自動車関連税制の活用の評価」第 15 回応用地 域学会研究発表大会報告論文, 3)吉田,中塚,松橋,石谷(2002) 「車種選好モデルに基づく自動車保有税のグリーン化による CO2 排出削減効果の分析」,電気学会論文誌,122-C 5,4)Self Proost and Kurt Van Dender (2001)”The welfare impacts of alternative policies to address atmospheric pollution in urban road transport”, Regional Science and Urban Economics, 31, 383-411
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