事例27 コンピュータを使用した指導 ペンタイプマウス、ばっちりだよ! −意思の表出や学習手段を確保した指導− Ⅰ 子どもの実態 B男(高頭部1年生)は、車椅子を使用しており、気管切開し人工呼吸器を装着している。そ のため、発声することができない。必要な依頼などは、指でサインをつくって表出する。現在、 ほとんどベッド上の生活である。ベッドは常時フラットであり、学習時でも角度をつけることは できない。 ノートパソコンを、専用のノートパソコン台に乗せて教科学習を行っている。4月当初、トラ ックボールをお腹の上に置いて使用していたが、30 分もすると疲れてしまった。 Ⅱ 指 導 の ね らい B男は、発声も運動も制限されてはいるが、知的障害はなく、学習には前向きに取り組もうと している。しかし、機能的体力的な側面から、学習活動にはかなりの制限がある。学習方法の改 善すること、とりわけB男にとって扱いやすい教具(ペンタイプマウス)を活用することで、授 業への集中度やよりいっそうの理解の定着が図れると考えた。そして、何よりB男の前向きな気 持ちを、教具により具体的に表に出せること、それを相手(教員等)が受け止め、励ましの意を 込めて反応することが生きる力を引き出すことにつながるのではないかと考えた。 Ⅲ 1 使 用 した教材・教 具 教材・教具の構成 ・ペンタイプマウス(写真1) ・ノートパソコン ・ノートパソコン台(写真2) 2 教材・教具の機能 ペンタイプマウスは、中央の青いボタンがト ラックボールのように動き、その中央を押すこ とで左クリックのはたらきをする。また、専用 写真1 ペンタイプマウス のノートパソコン台は不要になった病院のベッ ドサイド用テーブルを加工したもので、寝たままでも見やすい角度を保持できるように工夫して ある。 Ⅳ 指導の実際 1 指導の場面 訪問教育における教科指導。 2 教員のかかわり パソコンの文書作成ソフトを起動させ、右下に文字パレットを出しておく。「今日の調子はど - 1/2 - 事例27 コンピュータを使用した指導 うですか」と教員がたずねると、マウスを操作して「ばっちり」等と入力することで返答する。 教科指導の場面では、あらかじめ答えの選択肢を用意した問題を 作成し、正しい答えの記号を入力する。記号で答える方が、文章 表記より負担が少ないからである。 授業中に吸引等の必要があるときなど、B男の様子の変化に気 づいた時点で声をかけて確認しているが、介助の依頼については VOCA の活用が有効だと考えている。しかし、これまでに、親子 間ではサインによるコミュニケーションが成立しており、親が側 にいるときには十分対応できていること、また近くにいないとき は呼び鈴をならして親を呼び、依頼するというパターンができて いることもあり、B男は積極的に VOCA を使ってみようという気 持ちには至らなかったようだ。 Ⅴ 今後の指導 現在、少しづつ両手の可動域も狭められてきている。軽量のペ ンタイプマウスでさえ、長時間の使用はきびしくなりつつある。 また、呼び鈴を持ってならすという動作も困難になることが予想 される。必要な依頼を出すために、VOCA にタッチスイッチ等を 接続して使用することが有効と考えられる。 身体的な制限には抗えないが、今持っている前向きな気持ちを 持ち続けられるように可能性を探りながら支援していきたい。 - 2/2 - 写真2 ノートパソコン台
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