軍機能のアウトソーシング の研究

軍機能のアウトソーシング
の研究
三須 拓也 [札幌大学経営学部/専任講師]
いて、国家がその監督権限を放棄することはまれであり、業
務委託が行われる先は国家権限が及ぶ範囲になりがちであ
る。
その結果コスト削減効果も不十分なものになってしまうの
である。
②民間軍事会社を通じた技術支援には一定の利点があるが
付随する問題もある。
背景・目的 現代は、公共部門の市場化・民営化を特徴としているが、
こ
民間軍事会社の関与によってハイテク兵器の管理・運営
が容易になったことは確認できる。
しかしその一方でこれら
の流れに沿う形で、近年アメリカでは軍の一部機能を外部委
企業の社員が作戦上の足かせとなるケースも生じている。
託する現象が広まっている。
一般に民間軍事会社の社員は武器を持つことが出来ない。
アメリカ軍からの業務委託を受けた企業には一般に民間軍
事会社と言われるものが含まれる。
どのような政治経済的背景
もし武装すれば非戦闘員としての地位を失う可能性があり、
最悪の場合、捕虜となれば傭兵と判断されて処刑される可
から民間軍事会社は台頭するようになったのか。本研究は主
能性もあるからである。
そのためアメリカ軍の活動と一体にな
にイラクにおける民間軍事会社の活動の実態を分析すること
りながらも、十分な装備を民間軍事会社が有しない彼らは、
でこの課題を解明する。
なお本研究自体は自衛隊の分析を行
反米勢力の格好の「ソフト
・ターゲット」
となる。
うものではないが、
この研究の成果は自衛隊の一部機能の民
③政治的文脈での利用価値を確認しうる。
まずその効果はアメリカの対外関係から確認できる。
そも
間委託についてのインプリケーションを持つと考えられ、
北海道
の自衛隊の将来あり方にも無関係ではない。
内容・方法 本研究は、
アメリカ政府公文書の分析および関係研究図書
の分析に依拠する。本研究では、
その基礎調査としてアメリカ
における資料収集を2005年9月から約2週間行った。
ただし研
究計画書提出段階では、
関係者へのインタビューも行う予定に
なっていたが、現地調査の時期がちょうどハリケーン・カトリーナ
の上陸時期と重なったためインタビューは行えなかった。
そのた
め文献資料による研究を中心に進めざるをえなかったことをお
断りしておく。
結果・成果 本研究を通じて得られた成果は以下の3点であった。
①民間軍事会社の利用によるコスト削減効果については疑問
がある。
そもイラク戦争は、
フランス、
ドイツといった同盟国が反対を表
明したにもかかわらず遂行された戦争であった。同盟国の
支援を期待できないなか、
アメリカは従来であればこういった
同盟国が担ってきた任務を、
民間軍事会社に請け負わせた。
イラクに存在する民間軍事会社の社員は20000人とも言わ
れる。
これはイギリス軍よりも多い数である。
ここからわかるこ
とは、
アメリカが同盟国の力を借りることなく、軍事作戦を遂
行できるようになったということである。
また民間会社を活用することで、
アメリカ政府は「反テロ戦
争」において行いたいことを隠然と行うことができるようになっ
た。
「反テロ戦争」においてアメリカは敵の区別に苦労してい
た。国家を相手とする通常の戦争とは異なり、
「テロリスト」に
は明確な姿を認識することが難しいからである。
それゆえアメ
リカは敵の姿を描き出すため、
「テロリスト」
と繋がりを持つと目
される人物を、
逮捕し尋問せざるをえない状況に追い込まれ
民間軍事会社を利用することで財政上のコストを安くあげ
ていた。
その取調には国内法の基準でいえば、十分な手続
ることができるという主張がある。
しかしこの主張を額面通り
きを経ているとは言い難い行為も含まれていたが、
アメリカは
受け取ることが出来ない。例えばアメリカ会計検査院の報告
民間会社という法的には曖昧な存在を利用することで、
この
は、
国防総省の報告とは異なる結論を提出している。
その背
法的な問題を処理しえたのである。
アブグレイブ刑務所での
景にはイラク復興市場における一部の業務に関してずさん
虐待事件はその一例である。
な水増し請求があった。例えば上記のKBR社はイラクにお
いて10億ドル以上の契約を取り付けているが、
その額につい
て論理的根拠が曖昧であった。
そしてKBR社はチェイニー
副大統領の以前CEOを勤めていたハリバートン社の子会社
であるが、
しばしば指摘されるようにKBRの業務委託にチェ
イニー氏の影響があったものとされる。
そもそも民営化の実態には国家権力の拡大でありまた国
今後の展望 財政赤字処理の観点から自衛隊の機能の一部アウトソーシ
ングの議論が高まると思われるが、
アメリカのケースを見る限り
その効果は乏しい。
アメリカ軍と自衛隊の単純な比較はできな
いものの、
自衛隊のケースでも日本の政治的文脈において検討
するほうが実りあるものになると考えられる。
家の私物化を懸念させることが多い。
民営化のプロセスにお
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