シックハウス症候群-心身医学の見地から

シ ツクハウス症候群
シ ツクハウ ス柾候群 ・イ
ヒ学物質過敏症
心 身医学 の見地か ら
(p.9)
総論
シ ツクハ ウス症候群 と化学物質過敏症
(p.15)
∼オ ーバ ービユー∼
ア レルギーの見地か ら
(p.20)
呼吸器科の見地から
(p.26)
皮膚科学の見地から
シツクハウス症候群と
シツクスクール症候群
(p.43)
(p.53)
∼小児科の見地か ら∼
(p63)
環境工学の見地か ら
シツクビルデ イング症候群と
(p.68)
シツクハウス症候群
∼労働衛生学の見地から∼
(p.74)
診療の実際
Tsul uchi Yuko
辻内
優子
*
Sa忙o Ma‖ko
齊藤麻里子
Tsuliuch Takuya
辻内
・
東京大学大学院 ス トレス防御心身医学 D 助 教授
十
早稲田大学人間科学部助教授
琢也
*
#
の教授
Kumano Hlroak
熊野
宏昭
*D
Kubok Tomifusa
久保木富房 0
シツクハウス症候群は,建 築用材などに含まれる化学物質によ り中毒症状 ・アレルギー
症状 ・化学物質過敏症などの病態を惹き起こす混合疾患群である。そのうち,発 症機序が
解明されていない化学物質過敏症の概念 に注 目し,心 身医学的観点から2つ の研究 を行 つ
たところ,発 症や経過に特徴的な性格傾向などは関与 していないが,発 症後には多様な心
身の機能異常や自覚症状 を呈すること,精 神疾患の合併が多いことが分か つた。一 方,サ ブ
グル ープの存在や異質なケ ースが紛れ込む可能性も示 唆され,今 後診断基準をさらに特異
性の高いものにするための検討課題について者察を加えた。
シツクハウス症候群
化学物質過敏症 (MCS;muluple chemlcal sensiJⅥ
廿es)
心身医学
ス トレス
EMA(ecological momentary assesment)
●36(1578)
アレルギー ・免疫 Vol.10,No 12,2003
ノ
い身医学の見地から
は
じ
め
に
I.MCSと
ス トレス 性 要 因 と の 関 わ
3),4)
りの 解 明
シ ックハ ウス症 候 群 は,1987年 に Cul―
lenが 提 唱 し た multiple chemical sensi―
tivities(MCS;化 学物質過敏症)と して捉
1.研 究の 目的
MCSの
発 症 には化学物質 の 暴露 が必 要
え られ る病態 と,建 築用材 な どによる 中毒
条件 であ るとい う前提 に立 って,精 神 的葛
症状 やア レルギー症状 を含 む病態 の混合疾
藤 や行動様式 が体 の状態 に影響 を与 えて病
患群 と考 え られ る。 MCSと
心の働 きに影響
気 を作 り,逆 に体 の状態 が′
は,Cullenに
よると,極 めて微量 な化学物質 によ り多臓
を及 ぼす とい う心身相 関 が,発 症 の メカニ
器 にわた って 臨床症状 が発現 す ると考 え ら
ズム および発症後 の病態 において成 立 して
れ る機 序 不 明 の 病 態 で あ り,症 状 は 多 彩
い るとい う心身医学的観点か ら,図 1に 示
で,主 に,ア レルギー様症状, 自律神経症
したよ うな ス トレスモデルを仮定 した。 こ
状,精 神症状,消 化 ・呼吸 ・循環症状,免
れ は, 1)発 症 に先立 つ心理 社会的 ス トレ
疫 ・内分泌 ・感覚 ・運動系症状 な どが 出現
2)。その
す る とされて い る 1ゝ
発症機序 は,
スの影響 2)発
症 お よび経過 に関わ る個
人差要 因 3)発
症後 の状態 における心 身
ある物質 に大量 に暴露 されて感作 され, 2
相関 とい う 3つ の観点か ら,「MCSの
度 日以降 は ご く少量 の物質 で も症状 が 出現
には,化 学物質 の暴露 の他 に心理 社会 的 ス
す るとい うア レルギー様 の反応 が想定 され
トレスや,パ ー ソナ リテ ィや ス トレス対処
ているが,定 説 とな る発症 機序 は解 明 され
ス タイル な どの 個 人 差 要 因 が 関与 して お
ていない。原 因物質 と症状 との 明 らかな 因
り,発 症後 の病態 には身体面 と心理 面 の 間
果 関係 が見 出 され る,中 毒 症 状 や ア レル
に密接 な 関連 が認 め られ る」 とい う仮説 を
ギ ー症状 を呈 してい るシ ックハ ウス症候群
検証す る ものである。`
発症
の診断 はそれ程 困難 な ことで はないか もし
2.研 究の対象 と方法
れな い。 しか し,MCSの
疾患概念 で捉 え ら
対象 は,北 里研究 所病院臨床環境医学 セ
れ るシ ックハ ウス症候群 は,そ の症状 が多
彩 で不定愁訴 的な もので あ ることか ら,受
ンター の 化 学 物 質 過 敏 症 外 来 を受 診 し,
MCSと 診 断 された 27名 (男性 9名 0女 性
診す る診療科 によ って多種多様 な診 断名 が
18名 )を患者群 と した。コ ン トロール群 は,
つ け られてい るのが現状 であろ う。本稿 で
20∼ 70歳 の健康男女,過 去 3年 以 内 の 自
は,筆 者 らが 行 った 2種 類 の 研 究 を も と
宅新改築,現 在 医療機関 にて 内服治療 を受
に,MCSの
けて いない, シ ックハ ウス症候群 と診 断 さ
病態 を心身 医学 的観 点 か ら解
明 し,既 存 の精神疾患 や心 身症 との異 同を
れて いな い,と い う条 件 で 募 集 した 36名
問 うとともに,今 後 の検討課題 につ いて述
(男性 7名 ・女性 29名 )と した。方法 は,研
べ たい。
究① として患者群 とコントロール群 との
比較を行い,研究② として,患者群を化学
物質暴露とMCS発 症との因果関係が不明
ア レル ギ ー ・免疫 Vol.10,No.12,2003
37(1579)饉 巖
シ ツ クハ ウ ス症候 群
>特 集
図 1
化 学 物 質 過 敏 症 にあ │ する ス トレス モ デ ル の 仮 説
心身医学的観点から, 化 学物質過敏症 を解明するために, 上 記図のようなス トレスモデルを仮定 し, 1 2 3 の
3 つ の観点か
らそれぞれ検証を行な つた
確 な グル ープ (因果関係 (―)群 )と ,明 確
なか った。過去 1カ 月 間 に喫煙 お よび飲酒
な グル ー プ (因果関係 (+)群 )の 2つ のサ
を しなか った者 は, コ ン トロール群女性 に
ブグル ー プに分 け, コ ン トロー ル群 との比
比 べ て患者群女性 に有意 に多 か ったが, こ
較 を行 った。 尚,解 析方法 は,上 記 の項 目
れ は事後調査 によ り発症以前 か らの特徴 で
の うち数 量 デ ー タ は分 散 分 析 を,カ テ ゴ
はない ことが分 か った。
リー デ ー タ は χ二 乗 検 定 お よ び フ ィ ジ
シ ャー直接確率検定 を行 った。
3.研 究① :患 者群 とコン トロール群 と
うち「心臓脈管系 ・疾病頻度 ・消化器系 (女
1)発 症 に先立つ心理社会的 ス トレス
性 のみ)。総点」が患 者群 で 有意 に高 く,精
神 的 自覚症状 では 「不適応J(p値 =0.089)
生活健康調査 表 (LHQ)5)に おいて,過 去
で低 い傾 向 がみ られた ものの,神 経症 レベ
1年 間 の ライ フイベ ン トの両群 間 の主効果
ルは女性患者群 においてのみ高 か った。感
に有意傾 向 (p=0.079)を 認 め,日 常 の苛 立
情 プロフ ィール検査 (POMS)''で は,患 者
ち事 では有意差 を認 めなか った。
群 は 「活力」が有意 に低 く 「混舌LJが 有意 に
の比較
饉鱗38(1580)
3)発 症後の状態にお ける心身相関
CMI健 康調査表 6)で,身 体 的 自覚症状 の
2)発 症および経過 に関わ る個人差要因
疲労Jが高 い傾 向が認 め られた。
高 いほか,「
パ ー ソナ リテ ィ傾 向を検討す るために 3
LHQで は 「
現在感 じているス トレス度J が
つの質 問紙 を施行 し,ス トレス対処 を検討
す るために 2つ の質 問を使用 したが,い ず
患者群で高か ったが, ス トレス反応 として
の身体 ・行動 0 心 理 いずれの症状 も有意差
れ の項 目につ いて も両群 間 に有意差 を認 め
はなか った。先行研究 では, よ り心理症状
ア レル ギ ー ・免疫 Vol 10,No 12,2003
―
ノ
Ь身医学の見地から
が多 い とす る報告 や,よ り身体症状 が 多 い
とい う報告 8)など様 々であ るが,本 研究 で
係数 (HRV)を 評価 したが,交 感神経機能 お
結果 もMCS発 症後 の身体 的症
意 な差 は認 め られなか った。 これ は,患 者
は POMSの
よび副交感神経機能 の どち らも両群 間で有
状 によ り引 き起 こされた もの と考 え られ,
群 の測定条件 が,化 学物質 をほぼ完全 に除
主 に身体症状 が 中心 だ った と考 えて よい。
去 で きるとい うク リー ンルーム 内 で行 った
精神疾患 の診断 につ いて は,精 神疾患簡
ために有意差 が認 め られなか った可能性 が
易構造化面接 (M.!N.│.)9),および精神疾患
あ り, 日常生活 にお ける自律神経機能 を測
構造化面接 (SCID)。'mか ら抜粋 した身体
定す る必 要 を次 の研究課題 と して残 した。
表現性障害項 目を施行 した。 その結果,何
4.研 究② :サ ブグル ープ別 の検討
らか の 精 神 疾 患 の 診 断率 が 89%と 患者 群
男性 の 因果関係 (―)群 の人数 が少 な く統
で 明 らか に 多 く,特 に 身 体 表 現 性 障害 が
計学 的 な解析 がで きな いため,女 性 のみ を
63%と 明 らか に多 か った。不安 障害 (48%)
対象 と し,女 性 因果関係 (―)群 (11名 )0
と気分 障害 (40%)は 統計学 的 には女性 のみ
女性 因果関係 (+)群
有意 に多 か った。 これ まで の報告 は MCS
ロール群 (29名 )の 3群 に分 けて分散分析
の 42∼ 100%に 精 神 疾 患 の 合併 を認 め た
と してお り ②,そ の 内訳 はほとん どが身体
による解析 を行 った。
表現性障害,不 安 障害,気 分 障害 の 3つ で
レスに お いて,有 意差 は認 め られなか った
ある。 中 で も,身 体表現性 障害 の診 断 につ
ものの,因 果関係 (―)群 において,よ り
いて は さま ざまな 異論 が あ る。 MCSが
既
ス トレス耐 性 が低 い可能性 が示 唆 された。
知 の一 般 身体 疾 患 で は な い とい う前 提 で
発症 および経過 に関わ る個人差 要 因 におけ
は,MCSに
る全 て の 調 査 項 目 に有意 差 は認 め られ な
よ る さま ざまな 身体 症状 が 身
(7名 )・女性 コ ン ト
その結果,発 症 に先立 つ 心理社会的 ス ト
体 表現 性 障害 と して 診 断 され て しまい,
か った。発症後 の状態 にお け る心 身相 関 に
既知 の一 般身体 疾 患 だ とす れ ば,
関 して は,因 果関係 (―)群 はよ り多 くの身
MCSが
ほとん どの患者 に身体表現性 障害 の診断が
体症状 および精神症状 を 自覚 し,精 神疾患
つ かな くな る。 この点 に関 して慢性疲労症
の合併 も身体表現性障害 ・不安 障害 ・気分
候群 の研究 を行 った 」ohnsOnら は,身 体表
障害 ともに多 く有意差 が認 め られたのに対
現性障害 とい う概念 は原 因が確定 して いな
し,因 果 関係 (+)群
い病態 に対 して は限 られた有用性 しか持 た
な い と述 べ て い る Do MCSの 病 態 が 解 明
されて いな い現 時点 で は,MCSを
既知 の
は身体症状 のみで,
精神疾患 の合併 で は身体表現性 障害 0気 分
障害 の み 有意 差 が認 め られ た。以 上 よ り
MCS患
者 には,身 体精神 症状 お よび精神
一 般身体疾患 としない前提 で身体表現性 障
疾 患 の 合 併 が 多 い 因果 関係 が 不 明確 な 群
害 の 診 断 をす る必 要 が あ り,MCSと
身体
と,身 体 症 状 が主 で 因果 関係 が 明確 な 群
表現性 障害 との 関連 は今後 に課題 を残 して
の,大 き く 2つ のサ ブグループが存在す る
い る。
ことが示 唆 された。
最後 に, 自律神経機能 に関 して心 拍変動
アレルギー ・免疫 Vol.10,No.12,2003
39(1581)鑢 巖
>特 集
シ ツ クハ ウ ス症1 柔群
とによ り, 症 状 が 出現 した 際 な どにそ の場
5.結 論
発症 には心理社 会 的 ス トレスが
で質 問 に答 えて もらう手法 である。本研究
関与 している可能性 が示 唆 され,発 症後 に
では, 実 生活場面 における個人 の症状発症
は身体症状 を主 とす る様 々な 自覚症状 が認
に関す る化学物質 と暴露量 を測定す る A c
め られ,精 神 疾 患 の 合 併 も多 い こ とが 分
か った。 しか し,発 症 および経過 に関わ る
とPassive Samplingお去と
tive Sampling 7去
を組 み合 わせ,心 拍変動 0体 動 の 1週 間連
特徴 的 なパ ー ソナ リテ ィや ス トレス対処 ス
続記録,そ して症状 出現 時を含 めて 1日 4
タイ ルな どの個人差要 因 は認 め られず,特
回程度 の生活活動 内容 ・症状 の強 さ ・感情
別 な傾 向を もたな い誰 もが h71CSを発症 し
状 態 ・認 知 機 能 を,腕 時計 型 の 評 価 装 置
うる ことがわか った。
(ラ ピュー タ ;セ イ コー製)に よ り評価 を
MCSの
一 方,MCS患
者 の 中 には化 学物質 の 暴
行 った。
露 と発症 との 因果関係 が 明確 な群 と不 明確
2.研 究の対象 と方法
な群 の 2つ のサ ブグル ープが存在す ること
対 象 は,北 里 研 究 所 病 院 臨床 環 境 セ ン
が示 唆 され,因 果関係 が不 明確 な群 の 中 に
ターの ア レルギー科化学物質過敏症外来 を
は,化 学物質 の暴露 によ り症状 が発現 して
受診 し,MCSと
いない患者 も含 んで いる可能性 が示唆 され
名,女 性 8名 )を 患者群, コ ン トロール群
た。
は,研 究① の コ ン トロール群対象者 の うち
診断 された 16名 (男性 8
12名 (男性 2名 ,女 性 10名 )と した。両群
Ⅱ.EMA(ecological momentary as…
sessment)研
究
行 し, 1週 間連続 で機材 一式 の装着 を行 っ
た。 ラ ピュー タに関 しては,患 者群 は午前
1.研 究の 目的
状 の聴 取 や検 査 は診 察室
午後 1回 アラーム鳴動 時 と症 状 出現 時 に回
や ク リー ンルー ム 内 で行 われ,実 際 の 日常
答, コ ン トロール群 は 1日 4∼ 5回 の 回答
生活 における状態 とは異 な って いる。 よ り
を指示 した。
通 常,MCS症
具体 的 で詳 細 な MCSの
特徴 を得 るために
3.研 究の結果 と考察
は,患 者 の実生活 にお ける状態 を把握す る
精神疾患 の合併 につ いては,身 体表現性
ことが必要 であろ う。 そ こで,実 生活 にお
ける化学物質 の暴露 と症 状 との関係,研 究
障害 の項 目が含 まれてお らず 評価 出来 てい
ないが,患 者群 の 5名 にパニ ック障害 0社
① で残 した課題 で もある 日常生活 での 自律
会不安 障害 ・大 うつ 病 0強 迫性障害 な どの
神経 機能 を評価 す る ことを 目的 に,EMA
現在」の診断 では,
「過去」の診 断 が つ いた。「
とい う手 法 を用 いて 検 討 を行 う こ とに し
9名 にパニ ック発作 の基準 を満 たす症 状 が
1994年 Stoneら によ り,日 常
認 め られたが, これ らは微量 ガスサ ンプ リ
生活場面 における症状 の経 時的変化 を評価
。
で きるよ うに考案 された ものであ り ,質
ングの結果 か ら化 学物質 の関与 による発作
の可能性 が判 明 し,パ ニ ック障害 の診断 は
問紙 または小型 コ ンピュー タを携帯す るこ
つ かない もの と考 え られた。
た。EMAは
颯40(1582)
と もに機 材 の 装 着 に先 立 ち M.I.N.I.を施
アレルギー ・免疫 Vol.10,No 12,2003
ノ
b 身 医学 の見地 か ら
微量 ガスサ ンプ リングの結果で は, 患 者
られた。 一 方 で,パ ニ ック障害 の診断が つ
よ りも
群 の 13名 に Passive Sampling法
いた 1名 の患者 で は化 学物質 の 関与 が示 唆
Active Sampling法
で高 い濃度 を示す物質
されず ,ア ラーム時 と症 状 出現 時 との 間 に
が認 め られ, こ れ らの うち 1 2 名 で は カル
有意 差 が認 め られ た の が 精 神 症 状 の み で
ボ ニ ル 菊罠と VOC(volatile organic com―
あ った こ とか ら,MCSで
pounds;揮 発性有機化合物)類 双方 に反応
え られた。以上 よ り,MCS患
している可能性 が示 された。患者群 におけ
る症 状 0認 知機能 の変化 は,症 状 がない状
時 には,化 学物質 の負荷 のない問診時 と異
況 でアラームが 鳴 った 時 と症 状 が 出 た時 の
らか にな った。 さ らに,化 学物質 へ の反応
各指標 の得点差 につ いて t検 定 を行 った と
が示 唆 された患者 では,症 状 自覚 時 に身体
ころ,10名 の患者 で身体症状 が,8名 の患
症 状 ・抑 うつ 気 分 の の 双 方 が 同時 に 高 く
者 で抑 うつ 症状 が有意 に変化 していた。 ま
な って お り,交 感 神 経 系 が 機 能 不 全 を示
た,化 学 物 質 の 関与 が認 め られ て い た 12
し,体 動 が持続 しない ことが示 された。
名 の 患者 の うち 10名 で 身体症状 と抑 うつ
気分 の得′
点に高 い相 関を認 めた。
心 拍変動 に つ いて,患 者 16名 とノイ ズ
な い可 能性 が 考
者 の症状 自覚
な り,抑 うつ 気分 の 自覚 が著 しい ことが 明
お
わ
り
に
以 上 2種 類 の 心 身 医 学 的研 究 の 結 果,
の 少 な か った 健 常 者 6名 を比 較 した と こ
MCSと
ろ,覚 醒 時 の交感神経系 の指標 LF/HFが
たず ,誰 に も起 こ り得 る病態 で,化 学物質
患 者 群 で 有 意 に 低 か った。 ま た,Active
の暴露 によ って 多様 な心 身 の機能異常 と 自
Sampling法 で化 学物質 の 関与 が 示 された
覚症状 が引 き起 こされ る もので あ り,既 存
患者 13名 と健 常者 を比較 した ところ,さ
の精神疾患 や心身症 な どとは異 な った病態
。
であ ると考 え られた。一 方,A71CSの 診 断 に
らに有意 に患 者群 の覚醒 時 LF/HFの
低下
が認 め られた。単位 時間あ た りの体動 をそ
い う疾 患 は特徴 的 な性格傾 向を持
の前後 の体動 の値 との 自己相 関を計算す る
は以 下 のよ うな問題点があ ることも示 され
た。① 厚生省研究班 の診断基準 Юは 「
他の
こ と に よ って 活 動 の 持 続 性 を見 る De―
慢性疾患 の 除外」 を前提 と して いるが, ど
trended FluctuatiOns Analysis15)に よる1澪
こまでの範囲内 の疾患 を除外す る必 要 があ
析 では, 患 者群 に活動 が持続 していない,
るのかが不明確 であ る。身体表現性 障害 や
つ ま りす ぐ休 ん で しま う傾 向 が認 め られ
慢性疲労症候群 な どの診断基準 は既知 の身
た。
体 疾 患 の 除外 を前 提 と して お り,立 場 に
4.結 論
よ って どち らに も診 断 され る可 能 性 が あ
Active Sampling法
で化学物質 の 関与 が
る。② 発症要 因 が 明 らかでない MCS,遅
示 された者 では, 身 体症状 ・抑 うつ 気分 に
延反応 と して症 状 が 出現 す る MCS,慢
おいてアラー ム時 と症 状 出現 時 との 間 に有
症状 のみが 残存す る MCSで
意差 が認 め られ る傾 向にあ り, さ らに身体
疾患と区別 して診断することが難 しい。③
症状 と抑 うつ気分 との 間に高 い相 関 が認 め
化学物質暴露 との 関連 が特定 で きるグルー
ア レル ギ ー ・免疫
ヽ″
ol.10, No.12, 2003
性
は,特 に他 の
41(1583)瘍
>特 集
群
シ ツ クハ ウ ス症1 柔
プに限定 した と して も,条 件付 けに よる病
態 を除外す る方法 が二重盲検法以外 にはな
い。 すなわち,あ る化 学物質 が存在す る特
にお ける心身 医学 的検 討
心 身医学 4 2 : 3 , 2 0 0 2
4 ) 辻 内優 子 : 化 学 物 質 過 敏 症 とス トレス性 要 因 との 関
わ りの解 明
東京 大学 医学部学位論 文 , 2 0 0 2
5 ) 野 村 忍 : 新 しいス トレス評 価質 問紙 法 ( 生活健 康調査
定 の環境下 で条件付 けが成立 した場合,同
表 ) の 信頼 性 と妥 当性 に関す る研 究
一環境下 で症 状 が誘発 され るよ うにな る可
学位論文 , 1 9 9 6
Jonnar Manual(rev sed 1955)The New Yo「
で は症状 の誘発 を見 ないはずで ある。
したが って,今 後 MCSの
ege
chlatry Corne‖Universty Med cal Co‖
らか に し,診 断基準 を確定 してい く過程 で
7)McNar DM et a l Manualforthe Pro■
8)Fiedler N, Kpen H, Deluca
因果 関係 が 明確 なサ ブグル ープの みを対象
ice,1971
」et al:Neuropsychology
and Psychology of MCS Toxlcollnd Heath 10(4-5):
に し,二 重 盲 検 法 に よ る負 荷 試 験 を行 っ
545-54,1994
て,診 察 0検 査所見 との照合 を通 して よ り
9)David V et al:The Min‖
nternalonal NeuropsychiatHc
lnteⅣew(MINl):The Deveropment and Va‖
特異性 が高 い診 断項 目を絞 り込 んでゆ くこ
dauon of
c lnterview for DSM―
a Structured Diagnosuc Psychiat‖
とが必要で あろ う。 その後,化 学物質 との
Ⅳ andlCD 10」
因果関係 が必ず しも明確 でないグループの
C‖n Psychlatry 59[supp 20]:22-33,
1998
ⅢR
ew for DSM―
10)高 橋 三郎 ほか :Structured CInicallnteⅣ
使用 の手 引 き
医学書 院 , 1 9 9 1
w f o r D S MⅣ
―
1 1 ) 岡 野 禎 冶 ほ か : S t r u c t u r e dn bCJ‖i n t ebⅣ
本稿 で は, シ ックハ ウス症候 群 の 中で も
MCSと
e of mood states
(POMS)EducaJonal and ndustnaltesung seⅣ
は,ま ず発症 や増悪 に関 して化 学物質 との
う。
k Hospta
and the Department of Medic ne(Neurology)and Psy―
疾患概念 を明
検討 を進 めて行 くべ きだ と提言 で きるだろ
Heaにh Ques―
Med cal index―
6)Brodman K et ali Corne‖
能性 が あるが,二 重盲検法 による負荷試験
東京 大学 医学部
考 え られ る病 態 の 心身 医学 的観 点
( 未発 刊 )
12)Black DW:The re aJonship of menta dも
か らの解 明 に焦′
点を当 てて論 じた。今後 の
さ らな る多 角 的 0学 際 的 な 研 究 が望 まれ
orders and
idiopathic environmenta lnto erance」Occup Med 15
(3):557-70,2000
13)Johnson sK et al:Assessing somaJzaJon disorder n
る。
the chron c faJgue syndrome Psychosomauc Med cine
58:50-57,1996
14)Stone AA et al:A companson of coping assessed by
ecologlcalrnomentary assessment and retrospectve re―
文
献
e chemica sensttvト
Cu‖
e n M R : T h e w o r k e r w l h mpul‖
l evv Occup Ved 2:655-661,1987
ties:an oveⅣ
ty&Social Psychology 74(6):
ca‖」ournal of Persona‖
1670-30,1998
15)Peng CK et al:Mosa c organ zajon of DNA nucleo―
p e chemica senslvttles
Cu‖
en MR:Workers wtth mu‖
Jdes Physical Revievv E Stauslcal Physlcs, Plasmas,
Occup Med 2(4):State Of An Review 1989,Han ey&
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F uids&Related interdisc p‖
adelphla
Be fus,Ph‖
1994
辻内優子, 熊 野宏昭, 吉 内一浩ほか : 化学物質過敏症
1 6 ) 石 川 哲 : 不 定 愁 訴 と微 量 化 学 物 質 一化 学 物 質 過 敏 症
診 断基準 につ いて 一
042(1584)
ア レル ギ ー ・免疫 Vol.10,No.12,2003
心身 医学 3 8 ( 2 ) : 9 6 - 1 0 2 , 1 9 9 8