1.原理 衛生対策とは、社会の平等性や社会の持続性を可能にする決定

1.原理
衛生対策とは、社会の平等性や社会の持続性を可能にする決定因子である。衛生対策
への新しい挑戦がなされなければ、私たちは次世代へ問題を残さずに現世代の要求を満
たすことができないであろう。それゆえに衛生対策というものは廃棄物を取り扱う考え
ではなく、資源を取り扱う考えなのである。
従来の排泄物を処分するという考え方から、廃棄物を出さず再利用するという考え方
に変えていかなければならない。また、このことを実行することは大切な水資源を保存
することにもつながるのである。
2.排泄物の衛生対策
人間の排泄物は、微生物やその卵、その他様々な生物を含んでいる。生物の中には病
気を引き起こすものもいて病原体と呼ばれている。また、人間に寄生しているものもい
る(寄生虫)。
これらの生物のほとんどが糞便中に発見されている。尿は一般に無菌である。
新鮮な人間の糞便中にはバクテリア・ウイルス・原生動物・蠕虫(腸内寄生虫)とい
った四つの主な生物のグループがある。これらの生物は排出されたあと、すぐ感染する
もの・感染までにある期間を要するもの・感染するまでに媒介としての宿主を必要とし
たりするものに分けられる。
汚染された環境は人間を感染症や病気を引き起こす病原体という危険にさらす。
3.病原体を死滅させる方法
病原体死滅速度を速める環境条件
環境因子
方
温度
湿度
栄養分量(有機物)
微生物量(他の病原体を含む)
日光量
pH
法
上げる
下げる
下げる
下げる
上げる
上げる
上述した環境条件の一つ一つは、病原体が生存するのに適したいくらかの幅を持つ。
自然変化や人為的によって条件が変化すれば、病原体の死滅速度も変化する。例えば、
温度が上昇すれば病原体の死滅速度も増加する。土壌中で糞便性大腸菌が 99%死滅す
るのに、夏場は約2週間、冬場は約3週間かかる。温度が 60℃以上になると、糞便中の
ほとんどの病原体はすぐに死滅する。温度が 50℃から 60℃の範囲においては、バクテ
リアは成長することができず数分で死滅する。ほとんどの病原体は 30 分以内で死滅する。
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様々な処分、処理法における病原体の生存時間(日)
環
境
土 壌 中
穀 物 中
し尿、汚泥中
バクテリア
ウイルス
原生動物
1)
蠕
虫
400
50
90
175
60
100
10
不明
30
数ヶ月
不明
数ヶ月
60
60
30
数ヶ月
7
7
7
7
20
20
20
20
2)
(20∼30℃)
堆肥化中
(嫌気性状態)
高温堆肥化中
(数日間 50∼60℃)
廃水安定化池
(20 日以上)
1) クリプトスポリジウム(Cryptosporidium parvum)は含まれない。
2)主に回虫、その他の寄生虫の卵は比較的に早く死滅する。
原生動物から排出されたクリプトスポリジウムの接合子は、非常に強い抵抗性を示す。
それらは回虫以上に環境のストレス(寒さ・高温・塩素やオゾンを用いた水処理)に耐
えると考えられている。
しかし、脱水化であればクリプトスポリジウムを死滅させることができる。実験によ
ると2時間乾燥させたら 97%のクリプトスポリジウムの結合子が死滅し、4時間ですべ
てが死滅した。
4.尿
人間の排泄物中の植物栄養素のほとんどは尿中に発見されている。成人一人当たり年
間で約 400L の尿を排出し、それには 4.0kg の窒素、0.4kg のリン、0.9kg のカリウムが
含まれている。面白いことにこれらの栄養素は植物に吸収されやすい理想的な状態で存
在する(窒素は尿素の形で、リンは過リン酸塩の形で、カリウムはイオンの形で)
。尿中
の栄養素のバランスは化学肥料のそれと比べて充分に適している。
1年間各々の人間によって排出される 400∼500Lの尿は、1年間一人を充分養える
250kg の穀物を育成するのに充分な植物性養分を含んでいる。スウェーデンで 1993 年
に排出された人間の尿中の窒素・リン・カリウムといった栄養素は、肥料総使用量の 15
∼20%に匹敵する。化学肥料と比べて重金属の混入が極めて少ないというのも尿を利用
した肥料の利点の一つである。
密閉型のコンテナで保存すれば、アンモニアの減少は最小限に抑えられる。
5.糞便
人間の糞便は主に消化されずに残った有機物、例えば食物繊維などを含む。一人1年
当たりの糞便の量は 25∼50kg で、0.55kg の窒素、0.18kg のリン、0.37kg のカリウム
を含む。栄養素の含有量は尿より少ないが、それらは非常によい土壌改良剤である。脱
水化や分解により病原体が死滅されてできた無害の有機物は、土壌の有機物量・保水能
2
力・栄養濃度などを高めるために利用される。
分解の過程によってできた腐植土は、植物を土壌の病原体から守る有用な土壌生物の
健全な数を維持するのも助ける。
6.環境への利点
大規模な再循環は、温室効果を減少させることになる。人間のし尿の再循環は、土壌
の炭素含有量を増加させるために、広範囲に渡るプログラムの一環として大規模に実行
されれば、温室効果を減少させるのに役立てることができる。
二酸化炭素(CO2)の大気中濃度の増加は、気候の変化を起こすと考えられており、こ
の現象に対する大部分の努力は CO2 を増加させる化石燃料の燃焼や、熱帯雨林の消失か
らの CO2 の放出の減少に集中している。
しかしながら最近、科学者は過剰な大気中の炭素を吸収する役割を持つ土壌の能力に
注意を向け始めた(土壌中では、炭素は腐葉土や腐敗する有機物の形で蓄えられる)。多
くの因子が、土壌中の炭素の蓄積に影響を及ぼす。
衛生処理された人間の排泄物を大地に戻すことは、土壌を肥沃にさせ、植物の成長を
促進させるというプロセスにおいて重要な役割を演じ、その結果、光合成を通して大気
中の CO2 の総量を引き下げる。
森林外の土壌における炭素総量の2倍弱は、100 年にわたる現時の低レベル1%(浸
食の結果として)から2%にあたり、これはその期間にわたる大気中炭素の正味の年度
増加と釣り合っている。
引用文献
『エコロジカル
著
者
発行元
監 訳
発行所
サニテーション』
(非売品)
2001 年1月 19 日発行
Steven A Esrey
Jean Gough
Dave Rapaport
Ron Sawyer
Mayling Simpson-Hebert
Jorge Vargas
Uno Winblad(ed)
Sida(Swedish International Development Cooperation Agency:Stockholm)
松井 三郎(京都大学大学院 地球環境学堂)
日本トイレ協会
〒105-0001
東京都港区虎ノ門 1-11-7 第二文成ビル3F
TEL.03-3580-7487 FAX.03-3580-7176
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