平成 26 年度米国留学報告 - 国立病院機構 仙台医療センター

平成 26 年度米国留学報告
仙台医療センター外科
遠藤悠紀
今回私は NHO 専修医海外留学制度を利
用し、ロサンゼルスの Veterans Affair West
Los Angeles Medical Center(以下 VA)へ
約 2 か月間の留学する機会を頂きました。
この場を借りて留学中の経験をご報告させ
て頂きます。
私の日本での専門は消化器外科であるた
め、VA では General & Vascular Surgery
に属し、毎日の手術と病棟管理について学
びました。9 名の専門医、5 名の外科レジデ
(総合外科カンファランス)
ント、2 名の医学生ともに一般外科手術以
外にも、普段日本では経験しない血管手術
間帯が日本より早いことです。朝回診が 5
についても学ぶことができました。
時~6 時に開始するため、
辺りはまだ暗く、
ほとんどの患者はまだ眠っています。その
さらに数時間前より外科レジデントは仕事
を開始していました。日本では外来患者と
入院患者の検査が被ってしまうと、追加の
検査結果が出るのが午後になってしまうこ
とが多く、どうしても次の一手を出すのが
遅くなってしまいます。しかし VA では回
診に加えバイタルや採血データのチェック
も早朝に行うため、外来患者で病院が混み
(VA 正面玄関)
合う前に入院患者の変化にいち早く気付く
ことが可能であり、追加検査や治療をすみ
外科病棟の朝回診は 6 時開始であり、さ
やかに開始することができるためとても効
らに毎週水曜日は University of California,
率的であると思いました。また驚いたこと
Los Angeles にて朝 7 時より総合外科カン
に医学生までも外科レジデントと同じ時間
ファレンスがあるため、朝回診をさらに早
帯に病院へ来ていました。アメリカの場合、
い 5 時に開始し、病棟での仕事を終わらせ
日本と違い大学を卒業後に Medical school
カンファレンスへ向かいました。VA での研
へ入学するため、医学生といえども医療に
修で驚いたことは、やはり仕事を始める時
対するモチベーションがとても高く、患者
に対する接し方はまるで研修医のようであ
前日も自宅で普段通り生活し、夕食から絶
り、彼らの医学に対する姿勢にはとても感
食となります。しかし手術開始 2 時間前ま
心させられました。
で水分とフルーツの摂取は可能です。私の
病院では最低でも手術 2 日前には入院し、2
日間の絶食と点滴、下剤が投与されて手術
に備えるため、この違いに大変驚きました。
術後の食事開始においても私の病院では
数日の絶食点滴を経て 5 分粥から徐々に開
始するのに対して、VA では術翌日からゼリ
ー食を開始させ、次からは腸術後とは思え
ない巨大なチキン、ジャガイモ等の温野菜
を出していました。これらを摂取できたの
(UCLA の医学生達)
を確認次第、早々に患者は退院となってお
り、日本と比べ明らかに入院期間の短縮が
また VA では消化器外科領域における
見られました。今後、私の職場でも ERAS
ERAS(Enhanced Recovery After Surgery/
の概念を導入させ、術前・術後管理やパス
術後回復強化)の概念をいち早く導入して
の見直し等を行い、手術患者の合併症予防
いました。ERAS とは欧米で広まりつつあ
や入院期間の短縮に努めたいと思います。
る概念で、患者の術後の早期回復につなが
ると医学的に有効性が証明された手法を総
合的に取り入れた計画的で包括的な管理方
法のことを言います。現在日本において、
大腸の手術では術前から長時間の絶食を要
し、手術後も数日間は点滴のみで絶食が続
くことが一般的となっています。一方で、
術前下剤中止、術前炭水化物負荷、早期経
口摂取、術後胃管留置をしない、麻酔前投
(LA で知り合った友人達)
薬の中止、硬膜外麻酔や短時間作用型麻酔
の使用、小さな創部、ドレーンなし等の管
今回の留学を通して医療以外にも、アメ
理を行うことで、術後の合併症を抑えつつ、
リカの文化や生活に触れたくさんのことを
以前よりも入院期間短縮の実現を目指しま
経験することができました。このような機
す。実際 VA では消化管手術であっても当
会を与えていただいた国立病院機構関係者
日朝 5 時入院で 8 時執刀が一般的でした。
の方々、現地で大変お世話になった秋葉先
下剤も左側結腸、直腸手術のみに使用し、
生、カーニッツ先生、ステルツナー先生、
術後麻痺性イレウスにならぬようなるべく
わが子のように面倒をみていただいた奥津
下剤を使用しないとのことでした。患者は
さん、快く送り出してくださった仙台医療
センターの先生、スタッフの方々に心より
感謝申し上げます。
(指導医と)