狭開先溶接時の梨形ビード割れの FEM 解析と溶接条件の最適化

溶接構造シンポジウム 2004 講演論文集(2004 年 11 月)
狭開先溶接時の梨形ビード割れの FEM 解析と溶接条件の最適化
金沢工業大学
○柴原 正和
大阪大学接合科学研究所
Wu Yanming,芹澤 久
村川 英一
日本 LCA
伊藤 真介
物質材料研究機構
中村 照美,平岡 和雄
FE Analysis for Pear-shaped Bead Cracking under Narrow Gap Welding
and Optimization of Welding Condition for Crack Free Weld
by Masakazu SHIBAHARA, Wu YANMING, Hisashi SERIZAWA, Hidekazu MURAKAWA,
Shinsuke ITOH, Terumi NAKAMURA and Kazuo HIRAOKA
1.緒
言
TIG,MIG,MAG など従来の溶接法に加え,レーザ溶接の適用領域の拡大やハイブリッド溶接の登場に伴
い,溶接法が多様化されてきた.また,溶接が対象とする材料も,ステンレス鋼やアルミニウム合金を始め,
Ni 基耐熱合金等の特殊合金に拡大している.しかし一方で,ここに示したような新しい溶接法の導入や特殊
合金の溶接の際に,溶接高温割れが発生する場合 1,2)があり問題となっている.
これら実施工における溶接割れを防止するためには,割れ発生のメカニズムを冶金学および力学の観点か
ら解明する必要がある.著者らは主として力学的な立場から溶接割れ発生メカニズムの解明を目的として,
温度依存型界面要素を用いた有限要素法(FEM)の開発を行い応用例について報告 3-5)を行っている.
本報においては,狭開先溶接を実施した際に発生する梨形ビード割れを対象に提案手法の応用を試みる.
その際,入熱量や溶込み領域のアスペクト比 P/W,開先幅 WG,および界面要素に含まれる諸パラメータが梨
形ビード割れに及ぼす影響についても検討を行う.さらには,最適化手法である Complex Method6)を提案手
法に導入することにより,割れが発生しない最適な溶接条件を得るための解析手法を開発した.
2.解析理論
σcr:Interface strength
1.0
r0:Larger
0.0
r0:Smaller
δcr
Opening displacement δ
Fig.1 Stress-opening displacement curves of interface
element.
σY,σcr
Interface bonding stress σ/σ cr
2.1 溶接高温割れのモデリング
溶接金属部で発生する高温割れは,凝固割れと言われ,溶接により形成された溶融部が凝固・収縮する際
に発生すると言われている.材料学的には結晶粒界に発生する粒界割れの一種であると考えられるので,こ
の現象を FEM においてモデル化する際には,結晶粒界の強度低下を考慮する必要がある.本研究では,この
材料学的現象である結晶粒界の強度低下を力学的にとらえ,表面エネルギーγと界面強度σcr の温度依存性に
より表わすことができると仮定した.なお,高温割れは複雑な物理現象であり,凝固現象をはじめ材料不均
一性や粒界への合金元素のミクロ偏析,さらには相変態等の多様な影響を一般に受けるが,本研究ではこれ
Yield stress (σY)
B T R
Interface
TS strength (σcr ) TL
Temperature
Fig.2 Temperature dependent yield stress σY and critical
stress σcr of interface element.
らを無視し,γ とσcr の温度依存性のみを考慮した解析を実施した.
結晶粒のバルクとしての変形特性は,降伏応力やヤング率によって表され,結晶粒界,すなわち界面の特
性は,割れ界面強度σcr および表面エネルギーγ によって表されると考える.つまり,作用応力が割れ界面強
度σcr より大きい,すなわち(σ :応力)>(σcr:割れ界面強度)の時に割れが発生すると考える.また,割れの進
展は,き裂進展の場合 7)と同様,単位面積当たりγ なる表面エネルギーを消費しながら進展すると考える.
本研究で用いた高温割れ解析法は,以上のような高温割れの基本的特性を温度依存型界面要素の形に理想
化し,これを熱弾塑性有限要素法に導入したものである.
2.2 温度依存型界面ポテンシャルエネルギー関数
高温割れ解析において,割れが発生・進展し,割れにより新しい表面が形成される現象をモデル化するに
は,表面エネルギー 2γ に相当するエネルギーが消費され,なおかつこれが温度の関数であるようなポテン
シャル関数が必要となる.そのようなポテンシャルは無数に考えられるが,本研究においては,Lennard-Jones
型ポテンシャル関数を用いた.この場合,単位面積あたりの界面ポテンシャルφ は次式で表される.
⎧⎪⎛ r ⎞12 ⎛ r ⎞6 ⎫⎪
(1)
φ (δ , T ) = 2γ(T )⎨⎜⎜ 0 ⎟⎟ − 2⎜⎜ 0 ⎟⎟ ⎬
r
δ
r
δ
+
+
⎪⎩⎝ 0
⎠
⎝ 0
⎠ ⎪⎭
ここで,δ は割れの開口変位量であり,φ に含まれる定数γ および r0 はポテンシャルを規定するパラメータ
である.γ は新しい単位面積の割れ表面を生成するのに必要な表面エネルギーであり,r0 は,界面ポテンシ
ャル形状を規定する寸法パラメータである.本研究では,パラメータγ ,つまり表面エネルギーのみが温度
依存性を有すると仮定し,温度上昇に伴う割れ表面の結合強度(界面強度)低下を,FEM 解析において考慮
できるようにした.なお,各パラメータの力学的意味に関する説明は,文献 8)に詳しく示されているので,
ここでは割愛する.
一方,ポテンシャルφ の割れ開口変位量δ に関する微分,すなわち,
7
13
∂φ (T ) 24γ (T ) ⎧⎪⎛ r0 ⎞ ⎛ r0 ⎞ ⎫⎪
(2)
⎜
⎟
⎜
⎟
σ (T ) =
=
−
⎨
⎬
r0 ⎪⎜⎝ r0 + δ ⎟⎠ ⎜⎝ r0 + δ ⎟⎠ ⎪
∂δ
⎩
⎭
は,割れ表面に作用する単位面積あたりの結合力を表わす.この,開口変位量δ と結合応力σ の関係を具体
的に示した図が,Fig.1 である.同図より,寸法パラメータ r0 が大きい時には,界面が破断する際の限界開口
変位量 δ cr が大きくなることが分かる.また,同曲線の最大値はσcr (T)と定義され,式(2)からも分かるよう
に,γ に比例して変化すると仮定した.ここで,温度上昇に伴う粒界の脆化を力学的に捉え,BTR において
σY >σcr と定義した.それを模式的に示した図が Fig.2 である.
以上の力学的非線形特性を示す界面要素を,割れが発生し進展すると予想される経路に配置することで,
高温割れ解析を実現した.
3.狭開先溶接時における梨形ビード割れの発生予測
Fig.3 に示すように,狭開先溶接は,I 形の狭い開先を用いて厚板の突合せ溶接を行う溶接法であり,通常
の開先を用いる溶接と比べ,総入熱量を小さくすることが可能で,なおかつ溶接パス数も少なくすることが
できるため,高効率な溶接方法であると考えられている.また,小入熱ゆえに溶接変形を低減することも可
能であり,今後期待される溶接法の一つである.
しかし,溶接条件によっては Fig.4 (a)に示されるような梨形ビード割れが発生する場合があり,問題とな
っている.従来から,梨形ビード割れの形成は,Fig.4 (b)に示す溶込み形状の幾何学パラメータ P/W や P/WG
に深く関係していることが報告されている 9,10).従来のアーク溶接においては,P/WG が 1.3 以上の場合に梨
形ビード割れが発生しやすいと言われている.
近年のアーク溶接では,溶接条件を,溶込み形状も考慮して精密に制御することが可能となりつつあり 11, 12),
アスペクト比 P/W が大きい領域で,割れが発生しないような狭開先溶接が可能になれば,さらなる溶接効率
および継手品質の向上を実現できる.
そこで本章では,提案手法を狭開先溶接時の梨形ビード割れ問題に応用し,割れに及ぼす溶接条件や溶込
み形状のアスペクト比などの諸因子の影響について検討を行う.解析は,溶接横断面内における梨形ビード
割れを対象としているので,二次元平面ひずみ問題として実施した.また,梨形ビード割れは溶接中心面上
に発生するので,温度依存型界面要素を溶接中心面上に配置した.検討対象材料は,SM490 材であり,その
材料定数および熱伝達係数の温度依存性を Fig.5 に示す.ここで,図中の変数は,以下の通りである.
α : 線膨張係数, E : ヤング率, σY : 降伏応力,
c : 比熱,ρ : 密度,λ : 熱伝導係数,β : 熱伝達係数
Material Properties
14
12
10
c(×10-1 J/g/℃)
8
ρ(×10-3 g/mm3)
6
λ(×10-2 J/mm/sec/℃)
4
σy(×102 MPa)
2
E(×102 GPa)
0
β(×10-6 J/mm2/sec/℃)
200 400 600 800 1000 1200 1400 1600
Temperature(℃)
Fig.5 Temperature dependent material properties.
Fig.3 Schematic illustration of narrow gap welding.
WG
α(×10-5 ℃-1)
0
Penetration
shape
Pear-shaped
bead cracking
(oC)
P
1450
1000
W
(a)
(a)
(b) Schematic illustration of
(b)bead cracking.
pear-shaped
550
Fig.4 Shape of pear-shaped bead cracking.
Q=1500 J/mm,
P/W=1.45, WG=5.0 mm
この場合,凝固収縮ひずみは 1300 ℃から 1450 ℃の
間で発生すると考え,線膨張係数の温度依存性とし Fig.6 Maximum temperature distribution and deformation
て表現した.なお,説明の無い限り,以下の条件を
with pear-shaped bead cracking.
用いて解析を実施した.
開先幅 WG:5.0 mm,BTR:1350~1450 ℃,寸法パラメータ r0:70 µm,
入熱量 Q:750 J/mm,入熱領域形状:矩形,入熱密度:一定,加熱時間∆t:1.0 秒間
3.1 入熱量,P/W および開先幅の影響
梨形ビード割れの発生に関しては様々な要因が考えられる.その中で本節では,入熱量 Q や溶込み形状の
アスペクト比 P/W,開先幅 WG の影響について検討を行った.Fig.6 に,入熱量 Q=1500 J/mm,アスペクト比
P/W=1.45,開先幅 WG=5 mm の場合の解析結果として,最高到達温度と完全冷却後における変形図を示す.
最高到達温度が 1450℃の境界線は,溶込み形状を表わしている.
この場合における溶込みの最大深さ P は 9.15
mm,最大幅 W は 6.29mm である.この値より,溶込み形状のアスペクト比 P/W は 1.45 であることが分かる.
またこの図より,提案手法を用いることで,梨形ビード割れの発生を再現できることが確認された.
次に,入熱量 Q およびアスペクト比 P/W が割れに及ぼす影響について検討した結果を Fig.7 に示す.図中
の実線は溶込み幅 W を表している.実際の溶接では,開先幅 WG より溶込み幅 W が小さい場合は,溶込み不
良を意味するので,図中の溶込み幅 W が開先幅 WG=5 mm より小さい領域は除外して考える必要がある.▲
印は梨形ビード割れが発生した場合を表わしており,○印は割れが発生しなかった場合である.この図から,
入熱量及びアスペクト比 P/W が大きい時に割れが発生しやすいことが分かる.
3.2 BTR 幅および寸法パラメータ r0 の影響
液相線温度を 1450℃に固定し,固相線温度を 1200℃,1250℃,1300℃,1350℃,1400℃の 5 通りに変化さ
せることにより,BTR 幅の影響について検討を行った.その結果を Fig.8 に示す.この結果から,BTR 幅が大
きい程,割れが発生しやすいことが分かる.ただし,その影響度は比較的小さいと考えることができる.
次に,寸法パラメータ r0 を 30 µm から 100 µm まで変化させ,割れに及ぼす影響について調べた結果を Fig.9
に示す.この図より,寸法パラメータ r0 が割れに及ぼす影響は大きく,その値が小さいほど割れが発生しや
すいことが分かる.
1400
No crack
Cracking
W=7mm
W=6mm
1200
1000
W=5mm
800
W=4mm
600
W=3mm
1600
Heat input (J/mm)
Heat input (J/mm)
1600
No crack
Cracking
Surface crack
1400 W=7mm
1200
W=6mm
W=5mm
1000
W=4mm
800
600
W=3mm
400
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
P/W
Fig.7 Influence of heating time and P/W on formation of
pear-shaped bead cracking (WG = 5.0 mm).
400
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
P/W
Fig.10 Influence of heat input and P/W on formation of
pear- shaped bead cracking (WG = 2.5 mm).
Heat input (J/mm)
1600
1400
1200
1000
800
600
400
No crack
Cracking
0
50
100
150
200
250
300
BTR width (oC)
Fig.8 Influence of heat input and BTR width on formation
of pear-shaped bead cracking.
Q=1250 J/mm,
P/W=2.00, WG=2.5 mm
Fig.11
1400
1200
1000
800
600
400
20
No crack
Cracking
40
60
80
Scale parameter r0 (µm)
100
Fig.9 Influence of heat input and r0 on formation of
pear-shaped bead cracking.
Critical aspect ratio (P/W)cr
Heat input (J/mm)
1600
Maximum temperature
deformation.
distribution
with
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
Groove width WG(mm)
6.0
Fig.12 Influence of groove width WG on critical aspect
ratio of penetration (P/W)cr.
3.3 開先幅の影響
開先幅 WG = 2.5 mm の場合について検討を行った.その結果を Fig.10 に示す.この場合にも,WG = 5 mm
の場合と同様,入熱量が大きいほど,また P/W が大きいほど,割れが発生しやすいことが分かる.図中の×
印は,Fig.11 に示すように,割れが表面にまで達している場合であり,入熱量および P/W が梨形ビード割れ
の発生条件よりもさらに大きいときに発生することが分かる.この理由としては,板内部で発生した割れが,
ビード表面が凝固する前に表面まで貫通したためであると考えることができる.なお,ここで示された,内
部に留まる割れと表面まで達する割れの 2 種類の割れは,森,松本による実験でも観察されている 9, 10).
また,Fig.7 に示す開先幅 WG が 5 mm の場合と比較すると,WG=2.5 mm の方が,P/W および入熱量がより
小さい領域においても割れが発生する傾向が見られるが,開先幅 WG より大きな溶込み幅 W が確保されると
いう条件を考慮すると,開先が小さい方がむしろ,割れを防止しながらより大きなアスペクト比 P/W を達成
できることを示唆している.そこで,割れが発生せず,開先幅 WG より大きな溶け込み幅 W が確保されると
いう制約条件の下でとり得る最大のアスペクト比を限界アスペクト比 (P/W)cr と定義し,その影響について調
べた結果を Fig.12 に示す.開先幅は 1.2 mm から 5 mm の間で 6 通りに変化させた.この結果,開先幅 WG が
小さいほど限界アスペクト比(P/W)cr が大きくなることが確認できる.この結果は,開先が狭いほど,大きな
アスペクト比 P/W でも割れが発生しないことを意味しており,超狭開先溶接法 11)の有効性を示していると考
えることができる.
4.溶接条件の最適化
Fig.12 に示したような開先幅に対応した限界アスペクト比を調べるためには,Fig.7 や Fig.10 に示すような
割れ発生条件の分布図が,Fig.12 中のプロット点の数だけ必要であり,そのために多数の計算を実施する必
要があり非効率である.さらに,溶接速度や開先深さの影響も考慮するとなると,この方法では事実上不可
能と考えられる.そこで,界面要素を用いた高温割れ解析法に対し,新たに最適化手法である Complex method
6)
を導入することにより,割れが発生しない最適な溶接条件を得るための解析手法を開発した.この手法を用
いると,ある制約条件の下で,評価関数を最大化する成分変数を求めることができる.本章では,割れが発
生しない制約条件の下で,1 パスで深い溶け込みを得るための最適な溶接条件を得るために,提案手法の応
用を試みた.
4.1 Complex method の概要
まずは,Complex method による最適化手法について簡単に説明する.
この手法は,多変数で構成される条件点の位置 Xi を,ある一定の規則に従い移動させることによりその評
価値 F(Xi)を最大値に漸近させる手法である.今回の解析では,以下の(1)から(7)の規則に従い評価関数を最大
にする条件点の位置 Xi を求めた.
(1) 条件点 Xi が持つ変数成分の初期値は,制限範囲内で乱数を用いて無作為に選択する.(Fig.13(a)参照)
(2) 評価値 F(Xi)を全ての点について計算し,それが最も低い点と 2 番目に低い点をそれぞれ XR および XG
と定義する.
(3) XR を除いた条件点集合の重心位置を XC と定義する.すなわち,Fig.13(b)の例における XC は,条件点集
合{X1, X2, X3}で構成される三角形の重心位置となる.
X1
X1
Complex
XT
X4
XC
X3
X3
XR
X2
X2
Reflecting
(a) Initial condition of complex
(b) Reflecting process of point
Contracting
X1
New Complex
X1’
XT
X4’
XC
X3
XR
X3’
X2
X2’
(c) Contracting process of point
(d) Generating process of new complex
Fig.13 Outline of Complex method
(4) Fig.13(b)に示すように,評価値の最も低い点 XR から XC を通る
WG
直線を伸ばし,その直線上の点を試行点 XT とする.XT は,以
WT
下の式に従うものとする.
DG
(c)
XT = XC +a ( XC – XR )
(3)
Pear-shaped
bead
ここで,a は外挿量を決める係数であり,通常 0.8 から 1.5 の値
PE P
6)
Cracking
を用いる .本研究では a =1.3 を採用した.
(5) XT が制約条件を満足しているかどうかを判断し,満足していな
いなら式(3)中の係数 a の値を 10%小さくする.(Fig.13(c)参照)
z
W
(6) XT に関する評価値 F(XT)を計算し,その値が XG の評価値 F(XG)
よりも小さいならば,a の値をさらに 10%小さくして再計算を Fig.14 Geometrical parameters of
行う.大きいならば(7)へ進む.
pear-shaped bead cracking.
(7) 評価値の最も低い点 XR を XT と置き換え,新たに点集合{X1, X2,
X3, XT}を作る.(Fig.13(d)参照)
(8) (2)から(7)を繰り返し,収束が得られたならば計算を終了する.
4.2 解析条件
狭開先溶接継手の開先および溶け込み形状は,有効溶け込み深さ PE や開先深さ DG,開先幅 WG 等を用いて
Fig.14 の様に定義することができる.また,本研究における入熱はガウス分布と仮定し,以下の式で定義す
る.
y2
z2
1 − 2b 2 − 2 c 2
q( y, z ) = Q
e
e
2πbc
(z≧0)
(4)
ただし, q(y,z):入熱密度分布,Q:入熱量,b, c:幅方向および深さ方向の入熱分布を定める代表長さ
また,高温割れ解析法 8)で用いられる界面要素に含まれる寸法パラメータ r0 は 0.07 mm,BTR は 1350-1450oC
と仮定した.解析対象試験片の板厚は 20 mm,板幅(半幅)は 60 mm とした.
Complex Method において最適化対象とした変数{X}は,入熱分布を定める{Q, b, c}である.すなわち,以下
に示す通りである.
{ X } = {Q, b, c}
(5)
さらに制約条件として,以下の 2 点を考慮した.
Table 1 Maximum effective penetration depth for different groove
width under the same groove depth DG =10.0mm.
WG
(mm)
5.0
4.0
3.2
2.0
1.0
Heat input
parameters
b
c
Q
(kJ/mm) (mm) (mm)
1.35 2.23 3.67
1.04 1.89 3.06
0.83 0.92 3.07
0.46 0.63 2.54
0.37 0.44 2.04
Size of
penetration shape
WT (PE)cr PE/
(mm) (mm) WT
6.81 5.72 0.83
5.94 5.02 0.85
4.42 4.94 1.12
2.67 3.69 1.38
1.04 3.46 3.32
PE/Q
(mm2/kJ)
4.24
4.83
5.95
8.02
9.35
Critical penetration depth
(PE)cr (mm)
10.0
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
Groove width WG(mm)
6.0
Fig.15 Influence of Groove width WG on critical
penetration depth (PE)cr.
DG
(mm)
10.0
5.0
4.0
3.0
2.0
Heat input
parameters
b
c
Q
(kJ/mm) (mm) (mm)
1.35 2.23 3.67
1.39 0.55 3.43
1.29 1.35 4.14
2.13 2.04 4.27
3.00 2.91 5.84
Size of
penetration shape
WT (PE)cr PE/
(mm) (mm) WT
6.81 5.72 0.83
5.83 5.81 1.00
5.74 5.86 1.02
10.7 6.56 0.61
11.4 10.1 0.89
PE/Q
(mm2/kJ)
4.24
4.18
4.54
2.85
3.37
Critical penetration depth
(PE)cr (mm)
10.0
Table 2 Maximum effective penetration depth for different groove
width under the same groove depth WG=5.0mm.
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
0.0
2.0
4.0
6.0
8.0
10.0
Groove Depth DG(mm)
12.0
Fig.16 Influence of Groove depth DG on critical
penetration depth (PE)cr.
Size of
penetration shape
WT
PE
PE /
(mm) (mm) WT
5.40 5.45 1.01
4.03 5.18 1.29
3.28 4.74 1.45
2.10 3.61 1.72
1.03 3.57 3.59
Max.
PE/Q
(mm2/kJ)
4.87
5.80
6.86
8.43
9.89
Table 4 Optimization for different groove depth under
the same groove depth WG =5.0mm.
DG
(mm)
10.0
5.0
4.0
3.0
2.0
Heat input
parameters
b
c
Q
(kJ/mm) (mm) (mm)
1.12 2.22 4.67
1.17 1.90 4.99
1.13 2.14 5.31
1.20 2.14 5.23
1.54 2.00 7.29
Size of
penetration shape
WT
PE
PE /
(mm) (mm) WT
5.40 5.45 1.01
5.27 5.71 1.08
5.01 5.54 1.10
5.36 5.88 1.09
5.30 7.65 1.44
Max.
PE/Q
(mm2/kJ)
4.87
4.88
4.90
4.90
4.97
Max. P E/Q (mm2/kJ)
WG
(mm)
5.0
4.0
3.2
2.0
1.0
Heat input
parameters
b
c
Q
(kJ/mm) (mm) (mm)
1.12 2.22 4.67
0.89 1.12 4.65
0.69 1.09 4.28
0.43 0.42 3.06
0.36 0.63 3.15
10.0
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
Groove width WG(mm)
6.0
Fig.17 Influence of Groove width WG on maximum PE/Q.
10.0
Max. P E/Q (mm2/kJ)
Table 3 Optimization for different groove width
under the same groove depth DG =10.0mm.
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
0.0
2.0
4.0
6.0
8.0
10.0
Groove Depth DG(mm)
12.0
Fig.18 Influence of Groove depth DG on maximum PE/Q.
(1) 割れが発生しない.
(2) 開先底が溶融する. (WT>WG)
なお,{Q, b, c}の初期値に関しては,以下の範囲で乱数により決定した.
Q : 0.1~10.0 (kJ/mm),b : 0.1~10.0 (mm),c : 0.1~10.0 (mm)
4.3 有効溶け込み深さ PE による評価
一般的に梨形ビード割れの発生は,溶け込み形状のアスペクト比や溶け込み深さと関係があり,溶け込み
が深いほど割れが発生しやすいことが報告 10)されている.ここでは,開先幅 WG と開先深さ DG の大きさを変
化させた際に取り得る限界有効溶け込み深さ(PE)cr を求めた.その結果を Table 1 および Table 2 に示す.
Table 1 では,開先深さ DG を 10.0 mm で固定し,WG を 1.0 mm から 5.0 mm まで 5 通りに変化させた.それ
ぞれの場合における限界有効溶け込み深さ(PE)cr について整理した図を Fig.15 に示す.この結果から,開先幅
を最大 5 倍(=5.0/1.0)に変化させたにもかかわらず,限界溶け込み深さ(PE)cr の変化量は約 1.6 倍(=5.72/3.46)程
度であり,あまり変化しないと考えることができる.
Table 2 は,開先幅 WG を 5.0 mm で固定し,開先深さ DG を 2.0 mm から 10.0 mm まで 5 通りに変化させた
結果を示している.また,Fig.16 は,最大溶け込み深さと開先深さの関係を示している.この結果より,開
先深さ DG が小さいほど大きな溶け込み深さ(PE)cr が得られることが分かる.
4.4 PE/Q による評価
狭開先溶接の特徴の一つに,低入熱で溶接可能な点が挙げられる.そこで,低入熱でなおかつ深溶け込み
を得るための条件として PE/Q の最大化を考え,提案手法を用いてその最大化条件を求めた.
WG を 5 通りに変化させた場合の結果を Table 3 および Fig.17 に示す.この結果より,開先幅 WG が小さい
程,PE/Q の値が大きくなることが分かり,このことから,開先が狭いほど効率的に深い溶け込みを得ること
ができると言える.さらに,開先深さ DG を 5 通りに変化させた場合の最適化結果を Table 4 および Fig.18 に
示す.これらの結果より,開先深さ DG が PE/Q の値に及ぼす影響は小さいことが確認された.
以上の結果から,提案手法により,割れが発生しないという制約条件の下で,目的に応じた最適な溶接条
件を求めることが可能となった.この手法は,例えばレーザ溶接時の溶け込み形状最適化問題等に対しても
有効であると考えられ,今後の応用範囲の拡大が期待される.
5.結
言
著者らが開発した温度依存型界面要素を用いた高温割れ解析法を狭開先溶接時における梨形ビード割れの
解析に応用し,割れの発生に及ぼす諸因子の影響について検討した結果,次の結論を得た.
1. 提案手法を用いることにより,表面まで達する割れと内部に留まる割れの,二種類の割れを再現する
ことができた.
2. 入熱量および溶込み形状のアスペクト比 P/W が大きい時に,割れが発生しやすいことが分かった.
3. BTR 幅が大きく,寸法パラメータ r0 が小さい時に,割れが発生しやすいことが分かった.特に寸法
パラメータ r0 の影響が大きい.
さらに,提案手法に Complex Method を導入した新しい最適化高温割れ解析手法を開発し,狭開先溶接時に
おける梨形ビード割れの解析に応用した結果,次の結論を得た.
4. 提案手法により,割れが発生しないという制約条件の下で,目的に応じた最適な溶接条件を求めるこ
とが可能となった.
5. 開先が狭いほど効率的に深い溶け込みを得ることができる.
謝
辞
本研究の一部は,金沢工業大学(K.I.T.),大阪大学接合科学研究所(J.W.R.I.),物質材料研究機構(NIMS)によ
る共同研究成果であると共に,財団法人日本科学協会平成 16 年度笹川科学研究助成金の補助を受けたことを
付記し,関係各位に感謝の意を表します.
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