オランダ Bergen のシュタイナースクールから ❖ Marleen 先生が教える冬のテーブルコーディネート ❖ ~暗い冬の季節に向けて、自分の中の光と結び付ける~ オランダ Bergen(ベルゲン)のシュタイナースクール Adriaan Roland Holstschool で、 就学前の幼児クラス(おもに 4、5 歳の混合クラス)を担当する Marleen de Reede 先生(以 下、マーリーン先生)を訪ね、シュタイナー教育に基づく冬のテーブルコーディネートを 拝見。子どもたちの様子も見学させていただきました。 (取材:田中千桃子) 教室内の季節のテーブルには、オランダ伝統のシンタクラース 取材に伺ったのは、2015 年 11 月 26 日。オランダでは、すっかり日が短くなり、子ど もたちはシンタクラースの日を楽しみに過ごしている時期です。 マーリーン先生によると、季節のテーブルのテーマカラーは青と黄色。日が短く、寒く 暗い冬の自然を象徴する青。そして、ランプの灯や希望、楽しいことの象徴が黄色。この 黄色は、本来、いかに自然界が寒く厳しい時期にあっても、自らの中心に光を見いだすこ とによって、いつも明るく希望を持って過ごせることを表しています。 家は、人間にとって魂が宿る場所。つまり体であり、ストーブにはそれを燃やすハート の意味があるそうです。 ただ、季節も文化的背景も違う日本では、日本の自然の変化や伝統行事の中から子ども たちが結びつけるべき要素をピックアップして、季節のテーブルを作ることもできるので はないかと話されていました。 この日、午前 10 時に部屋を訪れると、14、5 人の子どもたちが、木のブロックや人形が 寝かせてあるコーナーなど、それぞれが自由に遊んでいました。しばらくすると、教室の 真ん中のイスを円形に並べた場所で、その日の担当の子どもが鈴を静かに鳴らします。教 室のいろいろな場所で遊んでいた子どもたちがイスのところに集まり、歌とお話の時間の 始まりです。 みんながイスに腰かけ、先生が静かな声で、手遊びを交えた歌を歌い始めると、子ども たちも一緒に歌います。楽器による伴奏も楽譜もないのですが、このクラスでは、何かを 始めるときも終えるときも歌を歌い、歌によって、一日の生活のリズムが保たれています。 このクラスに時計はありません。その代わりに、マーリーン先生の歌が導く落ち着いた リズムの中で、子どもたちは自然とその日のカリキュラムに沿って、楽しい時間を過ごし ているという印象を受けました。 この日のお話は、絵本を使わないストーリーテリング。動物たちの親子の話をテーマに、 よく眠って、よく生活するという基本の生活について、大切なことが伝えられました。 以前からこのクラスを訪れていて驚くのは、たくさんの子どもがいるのに、騒々しさが ないこと。子どもたちは元気に遊んでいるのですが、落ち着いていて、キーキーキャーキ ャー奇声を上げて興奮しすぎている子どもや、それを叱る大人の声はありません。 自由遊びの時間に子どもが作っている毛糸の織物。ポシェットになる予定 マーリーン先生によるお話の時間が終わると、先生がその日の片付けプランをどうする か話し始めました。 「木のブロックコーナーの片付けは誰がやりたいですか」とみんなに聞 くと、一人の男の子が手を挙げました。そして、その子が一緒に片付けをしたい友達を指 名します。ブロック片付け係の決定です。「(子どもたちが遊ぶ小さな家を作っていた)大 きな布を片付ける係」 「人形の家を整頓する係」など、教室にいるすべての子どもたちが何 らかの片付けの係に決まりました。 子どもたちがその日にした遊びや、意欲を見ながら、 「片付け」というプロセスを見事に 一日のプログラムに組み込んでいます。子どもたちは遊び終わったものを片付けて、きれ いに片付いた部屋が気持よいことを学んでいきます。 このクラスで私が気づかされたのは、決して子どもを急かさないこと。子どもがその子 なりの速さで、楽しみながら取り組める時間配分が考えられています。ともすると片付け は嫌な仕事だったり、親や教師から言われてする義務になったりしてしまいがちですが、 工夫次第で、子どもたちが主体的に行う一つのカリキュラムにもなりえるのだと、改めて 目からうろこが落ちる思いでした。 わが家での子どもとの関わりを思い出してみると、いかにいつも自分が子どもを急がせ、 自分自身も急いで追い立てていたことかと、反省しました。片付け作業を、子どもと一緒 に楽しみながらやったことがあっただろうかと。 マーリーン先生が、 「この時期の子どもたちに教えるべき大切なことは、 『よく眠り』 『ち ゃんと座り』 『ちゃんと呼吸すること』という毎日の生活での基本的なこと。こういうこと は、頭を使った知的な方法で教えることではなく、実際にその在り方を教師が見せること。 そして、子どもがそれを学んでいくということでしか伝わりません。 そのためには、 『教師自身がいかに自分自身の中心・コアにしっかりと結び付いているか、 子どもたちに教えることに対して明確なイメージを持っているか』ということがとても大 切になってきます。4、5 歳の子どもたちの学びの方法は、理屈ではなく、模倣することか ら始まります。このため、教師自身が自分自身としっかり結び付いて、地に足を着けた自 分を保っていないと、いかに口で言っても、子どもは混乱し、混乱したイメージをコピー してしまうのです」とおっしゃったのが印象的でした。 またマーリーン先生に、日本の学校での教育がどちらかというと、読み書きや算数の計 算などの知的な教育に偏っていると思うとお伝えしたところ、とても興味深いことを話さ れました。 「私たちが、古い時代を生きていたときは、模倣し、それに沿って生きていく規範とパ ターンがしっかりと強固にあったので、ある意味、それはそれで簡単でした。しかし、今 の時代を生きるということは、個人が自分の中心と結び付き、自分の中に確固たるコアな ものを持っていることがとても大切です。そうでなければ、外から影響を与えるくだらな いものに簡単に支配され、操作されてしまいますよね。シュタイナーの教育では、自立し た個人を育てることが大きな目標です。 子どもが自分自身のコアを発見して、何が正しいか、選び取っていけるようになるのは、 18 歳~21 歳ごろ。それまでは、子どもの鏡となって教室に立つ教師がしっかりと自分のコ アと結び付いていて、落ち着いた自分自身でいることがとても大切です。落ち込んだとき や忙しいときなど、それが難しいときもありますが、そんなときは自然の中に身を置いて、 自分自身の気持ちとエネルギーをリフレッシュするようにしています」 マーリーン先生のクラスを半日ほど見学させていただいた後は、なぜか私自身の気持ち もすっきりと落ち着いていました。まるで、セラピーか何かを受けた後のようでした。子 どもの中に、親や教師が作っていくべきものは何か、マーリーン先生のお話は大変興味深 く、日ごろの慌ただしい生活や目先のことに右往左往する自分を省みる良い機会になりま した。
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