ベネズエラのカカオとチョコレート

2.寄稿:ベネズエラのカカオとチョコレート
ベネズエラのカカオとチョコレート
鈴木啓太
ベネズエラにお住みになっておられた、或いは訪問された方々でベネズエラのチョコレートがとても美味しい事をご存
知の方は少なくないでしょう。ベネズエラから日本に帰る時、マイケティーア空港の免税品店でお買い上げになった方も
多いと思います。少しの時間を頂戴しチョコレートとその原料であるベネズエラのカカオに就いて考えてみたいと思い
ます。
では先ず原料のカカオですが、ご存知の方もいらっしゃると思いますが、カカオは熱帯の植物(木)で赤道の南北 20 度以内
にのみ生育します。従って現在ではアフリカのガーナや象牙海岸、マダガスカル島、アジアではインドネシア、そしてベネ
ズエラ、メキシコ、エクアドル、トリニダット・トバゴ等の中南米が主な産地となっています。然しこれ等のカカオを総て
一纏めにして評価する事はできません。それらの違いを知る為には少しカカオの歴史と変遷を見る必要があります。
チョコレートには 4,000 年の歴史があるといわれますが私達が食べるような固形物の歴史は僅か 120 年余、それ以前は
飲料の歴史でした。例えばカカオはアステカ文明の頃には「神々の食べる物」として崇められ、王侯の飲み物でしたし、同
時に通貨としても使われており貴重な産物でありました。又当時は香辛料を混ぜスパイシーな飲み物でした。そしてメ
キシコを平定したスペイン人コルテスはカカオを自国に持ち帰り、宮廷に献上し、それは飲み物としてスペイン、イタリ
アそしてフランスの宮廷で持て囃されました。味は砂糖を加える事により甘くなりましたがザラついてどろっとした飲
料で、現代人の嗜好とは少々異なっていました。その頃最初にヨーロッパにカカオを商業輸出した国がベネズエラでした。
その素晴らしい品質からベネズエラのカカオは高い評価を受け 17 世紀から 18 世紀にかけてベネズエラはヨーロッパ向
けカカオの主要輸出国となりました。
そのカカオ豆は「クリオロ(Criollo 即ち自分の国のもの:発音から言えばクリオージョですが日本ではクリオロと呼ばれ
ています)」と名付けられ、世界を代表するフレーバービーンズとしての地位を確立しました。クリオロ系はカカオの起
源と言われ、発祥の地がベネズエラであることが近年認められました。然し病害虫に弱くその殆どが他系統と交配してい
った結果、純正系は今や幻のカカオとも呼ばれるほど希少価値の高い系統となっています。ベネズエラはその貴重なクリ
オロ純正系を今でも栽培している国です。
一方、上に挙げた他の生産国、特にアフリカや東南アジアで生産されているカカオは一般に病害虫に対し抵抗力が強まる
ように交配され改良されて作られたカカオ(フォラステロ系と呼ばれます)で、大量生産が可能な系統である一方、風味に
欠けている事は否めません。クリオヨ系のカカオは丹精こめて育てられ、そのマイルドで、然しインパクトの強い風味か
ら、フランスやベルギー、スイスのチョコレートの製造者はフォレステロ系をベースとして其処に僅かなクリオロ系を混
ぜる事によりヨーロッパのチョコレートの味を確立して来たと言えます。 しかもベネズエラにおけるカカオの生産量は
年間僅か 1 万 5 千トン余であり、世界の総生産量の僅か 0.3-0.4%に過ぎません。ですから、この素晴らしいカカオ 100%
で作られたチョコレートは召し上がった方を充分に満足させると思いますし、勿論世界中の多くのパティシエをも惹き
つけています。
さて、ここからは私達が食するチョコレートに就いて考えて見ます。上に書きましたようにチョコレートはまず飲み物と
して存在し、その後固形の食べ物(勿論チョコレート・ドリンクもありますが)として愛用されています。ではそのチョコ
レートはどのように作られるのでしょうか。ラグビーボールを小型にしたようなカカオの果実を割ると 15-20 粒位の種
子がねっとりとした果肉に包まれています。チョコレートに向う最初のポイントは果肉と種子を一緒に発酵させる所か
ら始まります。種類によって異なりますが 5 日から 10 日間位、沢山の果肉と種子を暗いところで発酵させていくと果肉
は溶けて無くなり、その香りと味が種子に浸み込みます。こうして出来たカカオ豆は天日で乾燥させられ、袋詰めとなっ
てチョコレート工場に運ばれます。
チョコレート工場では選別後、カカオ豆を軽く焙煎し表皮と中身(ニブと言います)を分離し、香りと風味を引出すという
大切な作業の為に更に焙煎を行います。ニブはその後磨り潰され半製品であるカカオマスになります。其処に砂糖やカ
カオの油脂分、粉乳等が混ぜられ更に磨り潰し、次いでチョコレート製造上一番大切な精錬と調温という行程を経て成型
され包装されて製品となります。皆様がマイケティーア空港で御覧になる板状或いは一口サイズのチョコレートはベネ
ズエラ産カカオを 100%使用し、ベネズエラの国内で上記の行程を経て作られたものです。勿論そのまま召し上げるのも
よし、或いはパティシエ達の様にこのチョコレートをもう一度溶かし、ボンボン、トリュフ、生チョコやチョコレートケー
キに変身させる事も出来ます。皆様もお試しになっては如何でしょうか。
(了)