心(魂)ある

新ヒラリ ズム
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心 ( 魂 ) ある
陽羅
義光
〈心〉を ウィ キペデ ィアで 調べて みる と こうある 。
【心は非 常に 多義的 ・抽象 的な 概念で あ り文脈に 応じ て多様 な意味 をも
つ言葉で あり 、人間 や生き 物の 精神的 な 作用や、 それ のもと になる もの
などを指 し、 感情、 意志、 知識 、思い や り、情な どを 含みつ つ指し てい
る】
いやは や曖 昧模糊 として 、よく 解ら な い。
本来〈 心〉 とは、 よく解 らない 語で は ある。
だいた い〈心〉と いう ものが、人間の ど の部分に ある のかが 解らな い。
頭(脳 )なの か、胸( 心臓)なの か、血 管( 血)なのか 、性器 なのか 、
あるいは DN Aなの か。
田宮虎 彦は 〈心〉 を連発 する 作家だ が 、本人は どう 考えて いたの か、
一応引用 して みるが 、よく 解らな い。
【心のど こか にきざ みこま れてい た『 足 摺岬』】
【心に淋 しさ をかみ しめな がら『 落城 』】
【心の中 にほ のかな 灯をも やしつ づけ た 『絵本 』】
【心の中 にひ としく 並べて 『菊坂 』】
【心の中 の淋 しさ『 童話 』】
こんな 具合 だ。
〈心〉は 〈愛 〉など と同様 に、 曖昧模 糊 としてい るか ら、そ ういう 語は
本当は使 わな い方が 賢明な のだ。
「心に淋 しさ をかみ しめな がら」 より も 、
「淋しさ をか みしめ ながら 」のほ うが 、 文章的に もす っきり してい る。
田宮虎 彦は 、それ でもた しかに 、〈 心 〉に思い 入れ がある のだ。
〈心〉で なく てはな らぬも のがあ るの だ 。
それは なん だろう 。
やはり よく 解らな い。
仮定だ が、〈心 〉を信 じてい たのか も しれない 。
あるい は、〈心 〉の存 在を信 じたい の かもしれ ない 。
となる と、〈心 〉は〈 魂〉と いうも の かもしれ ない 。
〈魂〉を 、こ んどは 、
『広辞苑 』で 引いて みる。
【動物の 肉体 に宿っ て心の はた らきを つ かさどる と考 えられ るもの 。古
来多く肉 体を 離れて も存在 すると した 】
こ こ で いう 「動物 」とは 、「 人間」 で あっても よい 。
つまり 、
〈心〉と〈魂〉は同 義語 ではな くとも、切 っても 切れな い関 係
というこ とで ある。
よって〈心 〉を 連発 する作 家は 、
〈 魂〉の 存在を信 じて いる作 家であ り、
かなり古 いタ イプの 作家と いうこ とに な る。
けれど も、 それで は新し いタ イプが 上 等で正解 かと いうと 、いず れは
古いタイ プに なるわ けで、 百年 (千年 で もよい) サイ クルで 考えれ ば、
古いとか 新し いとか は、大 きな問 題で は なくなる はず だ。
現代科 学の 専門家 は、
〈魂〉な んて いう と、空々 しく感 じるも のな のだ
ろうが、 現代 科学で も〈魂 〉の存 在を 完 全に否定 はで きてい ない。
一般人 はな おさら で。秋 川雅史 が〈 魂 〉の不滅 を朗 々と歌 う、
『千の風 にな って』
が大ヒ ット したの も肯け る。
【わたし のお 墓の前 で泣か ないで くだ さ い
そこに わた しはい ません 死んで なん か いません
千の風 に千 の風に なって 】
云々と いう あの歌 だ。
人間を「個 」とか んがえ れば 、肉体 の 死滅によ って 、
〈 心〉も〈魂 〉も
死滅する が、人間 を「DN A」と考 えれ ば、
〈心〉も〈魂〉も、人 類が 死
滅するま では 、生き ている ことに なる 。
この発 想が 当たっ ている かどう かは 解 らない。
だが作 家 た るもの 、折角 〈心 〉を使 う なら、少 なく とも「 そこま で」
考えて、 使う べきで あろう 。
【おれは 人間 の魂の 側につ くだけ で、 あ とは右に も左 にもつ かない 】
このブ コウ スキー の言葉 は、
「そこ まで 」考えて( もし 考えて ないな ら
体感的に )使 われた もので ある。
やはり 「そ こまで 」考え て使 われた 、 畠山拓の 『魂 につい て』と いう
作品から 引用 。
【臨終の 時、 義姉は 言った 。
「開けて くれ 」
家の者 は、 いよい よ時が きたな と、 悟 った。
私が幼 い頃 、育っ た家は 藁葺き 屋根 だ った。
天井は 高か ったし 、一 階建て だっ たが 、屋根裏に 通じ る階段 があっ た。
屋根裏 は暗 かった が、面 白かっ た。
煙の煤 で、 黒く光 ってい た。
人の魂 は体 から抜 けると 、煙の よう に 、上に昇 るの だ。
義姉が 「開 けてく れ」と 言っ たのは 、 魂の通り 道が 欲しい という 事だ
った。
幼いこ ども が何も 知らず に、階 段を 登 って、屋 根裏 の窓を 開ける 。
義姉は 事切 れた】
〈人間滅 亡教 〉の天 才深沢 七郎み たい に 、
【人間は 死ん で霊魂 が残る なんて でた ら めだ。
天国と か地 獄なん てもの はある わけ が ない】
という ふう に断言 してし まえ ばそれ で すむが、 そう いう人 でもそ れこ
そ〈心〉 の隅 に、死 後の〈 魂〉 を( 信 じ ないまで も) 夢想し たりし てい
るものだ 。
もうひ とつ、最 後に 、
〈魂〉を 歌った、作者不詳 の一 篇の詩 の(現存 す
る一部分 のみ )を紹 介する 。
タイト ルは たしか 、
『魂の方 程式 』
だった とお もうが 、正確 には憶 えて い ない。
「魂」という 語が はいっ ていて 、珍し い と感じて いた 。
詩のほ うも 、うろ 覚えだ が、そ う大 き くはちが って いない はずだ 。
【きのう も太 陽がの ぼり
太陽が きえ て
きょう も空 気が透 明にな り
空気が 白濁 して
あした も森 がさわ ぎはじ め
森がお とな しくな って
おそら く人 間の魂 の芯の 芯には
どうし よう もない 哀しみ があっ て
それは 神仏 でも本 当は救 えぬ
どうし よう もない 哀しみ であっ て
本能的 に人 間は宇 宙の
その真 実を 解って いて
だから どう しても 魂の問 題
には触 れた がらな いので あって
かわり に太 陽や空 気や森 が
厳しい ほど 美しく 発言し てくれ て
人間は それ でも気 づかぬ
ふりで 神仏 に祈っ て
あるい は魂 の芯の 芯をや わらか く
包みこ む何 ものか に祈っ て
その何 もの かの正 体はわ からぬ が
わから ない なりに わかっ ていて
照れの ため か手を 合わさ ないの に
どこか 見え ない次 元で手 を合わ せて い て】