第8小委員会 (小委員会テーマ:環境) 小項目テーマ:8-3 地下水地盤環境 作成者 幹事委員 委員 委員 委員 委員 高畑 川端 中島 保高 深田 陽 (大成建設株式会社) 淳一 (鹿島建設株式会社) 誠 (国際環境ソリューションズ株式会社) 徹生 (独立行政法人産業技術総合研究所) 園子 (地盤環境エンジニアリング株式会社) 8-3 地下水地盤環境 西暦 1950 1970 1990 都市部の地盤沈下 (地下水過剰揚水) 2010 工場・鉱山由来の重金属汚染 (イタイイタイ病・土呂久鉱山) 世界的な水危機 東日本大震災 (塩害・放射性物質) ダイオキシン問題 (能勢町ゴミ焼却施設) ハイテク(VOC)汚染 (シリコンバレー・太子町) 米軍基地返還に伴う土壌汚染対応 広域な地下水利用障害 (硝酸性窒素汚染等) 廃棄物の不法投棄 ラブカナル汚染(米国) 豊洲新市場予定地土壌汚染 (豊島、岩手・青森県境等) レッカーケルク事件(オランダ) ブラウンフィールドの顕在化(米国) 神栖町地下水有機砒素汚染 法律 1956年 工業用水法 1962年 建築物用地下水の採取の規制に関する法律(ビル用水法) 調査・ 対策 2014年 水循環基本法 水循環を考慮した地下水資源マネジメント 地盤沈下監視(地盤沈下計) 水収支シミュレーション 地下水資源マネジメント 人工涵養工法 雨水浸透貯留施設(涵養量の増加対策) 地下水盆管理 1967年 公害対策基本法(1993年廃止) 1970年 水質汚濁防止法 法律 地下水 調査・ 測定 地下水質 (地下水汚染) 放射性同位元素の利用 統合的水資源管理 水源地の土地売買の制限 2009年 1993年 1997年 環境基本法 地下水環境基準 地下水環境基準追加(計29項目) 1994年 特定水道利水障害の防止のための水道水源 地域の水質の保全に関する特別措置法 水道原水水質保全事業の実施の促進に関する法律 土壌ガス調査法 遺伝子診断技術 都市部の地下水の適正利用 (地下水位の適正化) 新たな環境基準の追加 非掘削調査技術の高度化 地下水汚染機構解明調査 シミュレーション技術 化合物別同位体分析(CSIA) 対策技術 揚水処理法 脱塩素化細菌の発見 バイオオーグメンテーション 低コスト・低環境負荷型の浄化技術の普及 土壌ガス吸引法 透過性浄化壁 バイオスティミュレーション 物理・化学的浄化手法からバイオレメディエーションへ 酸化分解法 リスク評価 Monitored Natural Attenuation(米国) Risk based corrective actionの普及(米国) 法律 1971年 農用地の土壌の汚染防止等に関する法律 Green & Sustainable remediation の概念の登場(米国・欧州) リスク評価の普及・ブラウンフィールドの有効利用 2013年 2003年 1991年 土壌環境基準 土壌汚染対策法 放射性物質の環境法への追加 1980年スーパーファンド法(米国) 2000年 ダイオキシン類の基準 土壌ガス調査法 調査・ 測定 土壌 地盤環境 (土壌汚染) 汚染された土地の有効活用 2012年 森林法一部改正 地盤沈下防止等対策要綱 地下水量 (地下水位・涵養) 2050 気候変動による環境変化 都市部の水位上昇 (地下構造物の漏水・浮上り) 都市部の涵養量減少 社会情勢 2030 新たな環境基準の追加 TPH測定(油汚染対策ガイドライン) 現地分析技術の精度向上 土壌・地下水汚染指針 自走式ボーリングマシンの日本導入 現地分析法の開発 放射性物質の測定(除染発生土壌等) ダイレクトセンシング リスク評価を含めた自然由来重金属の適切管理 地歴調査・Phase-1調査普及 対策技術 汚染土壌の掘削搬出 土壌洗浄 熱処理 汚染土壌の不溶化処理 バイオパイル バイオオーグメンテーション 地盤施工技術の活用・融合(自在ボーリング技術など) 化学分解 震災廃棄物の有効利用 放射性核種の除去技術 8-3 地下水地盤環境 1)社会情勢・社会問題 戦後、地下水需要の増加による地盤沈下の問題が都市部を中心に生じた。1950年代以降に法や条例による地下水の揚水規制が講じられたため、地下水位は回復傾向でとなってきたが、 都心部では地下構造物の浮き上がりが生じて対策が求められる状況も生じている。また、都市化に伴う雨水の地下浸透量の減少は、水循環の障害(地下水位の低下、湧水の枯渇、河川流 量の減少)を引き起こし、2000年代に頻発するようになったゲリラ豪雨の影響による都市部の浸水被害が新たな社会問題となっている。 一方、国内の工場や廃棄物処分場における土壌・地下水汚染は1990年代に顕在化し、2000年以降は法規制(土壌汚染対策法)よりむしろ土地の不動産取引や企業の自主的な取り組み (CSRの一環)により浄化対策が盛んに行われるようになった。東日本大震災では放射性物質による広域な土壌汚染が生じ、浄化方法やリスク評価について検討が行われている。 2)地下水利用(地下水位・地下水涵養) 地下水需要の増大により、1910年代~1920年代にかけて深井戸が利用されるようになり、地盤沈下が都市部の低地で発生するようになった。1930年代になり、和達清夫と広野卓蔵は地盤 沈下が地下水位低下による沖積軟弱粘土層の収縮により起きることを理論的に明らかにした。戦後の高度経済成長期における著しい地下水需要の増加により、地下水位の低下だけでなく、 それに伴う酸欠空気の発生や臨海部における地下水の塩水化などが顕在化した。そのため、1956年に工業用水法、1962年に建築物用地下水の採取の規制に関する法律(ビル用水法)が 施行され、地下水の揚水が規制された。1970年代に入ると、柴崎達雄らは数値解析を用いて地下水の挙動や水収支をシミュレーションする地下水の広域的な定量管理方法を提案した。近 年では、法や条例等による地下水の採取規制が進み、代替水源が確保されたことから、全国的にみて地盤沈下は沈静化したが、東京都心部では地下水位が急激に回復して高度成長期に 建設された地下施設の浮き上がりを防止する対策が行われるようになった。 地盤沈下が近年沈静化する一方で、水循環の障害が顕在化している。特に、都市部では降水が地下に浸透せず、短時間で河川に流出するために内水氾濫が生じやすくなっているだけで なく、河川へ流入する地下水量の減少による河川水質の悪化が生じている。都市化に伴う雨水流出の抑制対策として、1981年に東京都昭島市の昭島つつじが丘ハイツにおいて我が国で初 めて雨水浸透施設が設置された後に、多くの雨水貯留浸透施設が作られ、地下水の流動阻害がもたらす地下水位の低下や湧水の減少・枯渇に対する対策が行われている。1998年には、 「健全な水循環系構築に関する関係省庁連絡会議」が設置され、翌1999年に「健全な水循環系構築に向けて(中間とりまとめ)」が公表されている。 2014年4月には水循環基本法が公布された。水循環基本法は、地表水や地下水としての河川流域を中心とした水循環に関する施策を国が総合的かつ一体的に推進し、人の活動および 環境保全に果たす水の機能が適切に保たれた「健全な水循環」を維持・回復させることにより、我が国の経済社会の健全な発展や国民生活の安定向上に寄与することを目的とした概念法で ある。本法は、地下水が国民共有の貴重な財産であり公共性の高いものであると定義し、その利用には健全な水循環が維持されるように配慮されなければならないことを規定した。今後、内 閣に水循環政策本部が設置され、政府が定める水循環基本計画の下で、健全な水循環を維持・回復するための個別の法律の制定や具体的な施策が推進されていく予定である。 3)地下水質(地下水汚染) 地下水汚染に関しては、1997年に環境基本法により23項目について「地下水の水質汚濁に係る環境基準」(以下、「地下水環境基準」)が制定され、1999年には3項目追加(ふっ素、ほう素、 硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素)、2009年には2項目追加(1,4-ジオキサン、塩化ビニルモノマー)、項目変更(シス-1,2-ジクロロエチレンから1,2-ジクロロエチレン)および基準値変更(1,1-ジク ロロエチレン)が行われた。1990年代は揮発性有機化合物を対象とした地下水汚染対策が始められたが、当初は土壌ガス吸引法と地下水揚水処理の組合せがほとんどであった。バイオレメ ディエーションが一般的に行われるようになったのは2000年代からであり、帯水層中に生息しているDehalococcoides族細菌を活性化させるバイオスティミュレーション技術を適用する事例が 増えている。これらの積極的な浄化技術と共に、1990年頃からは、地下水汚染拡散防止対策として、自然の地下水の流れを妨げることなく地下水中の汚染物質を浄化・安定化する透過性地 下水浄化壁も用いられている。このほか、米国では1990年代半ばよりMonitored Natural Attenuation(MNA、科学的自然減衰)が地下水汚染対策に取り入れられており、我が国でもリスク評価 に基づく対策が今後取り入れられる可能性がある。硝酸性窒素は、環境省が行っている地下水質の調査において地下水環境基準の超過率が最も高くなっており、地下水汚染への対応が大 きな課題となっている。代表的な取り組み事例として、岐阜県各務原台地において1984年よりニンジン栽培における減肥対策が行われており、減肥対策開始直後は地下水中の詳細性窒素 濃度が顕著に低下した。しかしながら、長期的に硝酸性窒素を低減するためには、土壌浸透水や地下水の脱窒処理を含めた浄化技術が必要と考えられ、2000年代に入り透過性浄化壁など の技術開発が行われている。硝酸性窒素による地下水汚染では、窒素安定同位体組成(δ15N)を指標として窒素の起源が化学肥料由来か動植物由来であるかの推定が行われている。 4)地盤環境(土壌汚染) わが国の土壌汚染の歴史は,1870年代後半の渡良瀬川流域の銅汚染をはじめとする,鉱山廃水を原因とする農用地の土壌汚染に始まっている。このような農用地の重金属等による土壌 汚染問題に対処するために1971年に「農用地の土壌の汚染防止に関する法律」が施行された。一方, 1970年代からは東京都江東区の鉱さい埋立跡地の六価クロム汚染など都市部の土壌 汚染がクローズアップされ,1986年に国有地を対象とする「市街地土壌汚染に係る暫定指針」が環境庁より通知され,1991年には重金属等10項目について「土壌の汚染に係る環境基準」(以 下,「土壌環境基準」という。)が設定された。市街地土壌汚染に係る暫定指針は,1992年に「国有地に係る土壌汚染対策指針」に改訂され,1994年には国有地以外も対象とした「重金属等 に係る土壌汚染調査・対策指針」及び「有機塩素系化合物に係る土壌・地下水汚染調査・対策暫定指針」が都道府県,関係省庁などに通知された。1997年に23項目を対象とした「地下水の 水質汚濁に係る環境基準」(以下,地下水環境基準)の設定に伴って,1999年には「土壌・地下水汚染調査・対策指針および運用基準」が策定され,ふっ素およびほう素が2001年に土壌環 境基準項目に追加された。本指針は行政指導の際に用いられ,民有地についても事業者などによる自主的な取組みの推進を図るために用いられた。 その後,地盤汚染による人の健康への影響の懸念及び対策の確立に対する社会的要請が強まり,それに応えるものとして土壌汚染対策法が2002年に成立,2003年に施行された。2010年 には同法の改正がなされ,自然由来の重金属含有土が土壌汚染対策法の対象とされるなどの大きな変更があった。最近では,建設工事時に発生する大量の自然由来の重金属含有土とそ の合理的な対処方法の開発が求められている。また,2011年の東日本大震災で発生した福島第一原子力発電所事故に伴う放射性セシウムによる地盤汚染など,現法の枠組みでは捉えら れない新たな地盤環境問題が発生し,解決が求められている。
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