IDW`10 ショート速報 [OLED 関連]

財団法人
光産業技術振興協会
国際会議速報
国際会議速報 H22-No.38 - 第 4 分野 ディスプレイ
IDW’10 ショート速報 [OLED 関連]
江面知彦(九州大学)
会議名:The 17th International Display Workshops
開催期間:2010 年 12 月 1 日-3 日
開催場所:福岡国際会議場 (福岡市、日本)
******要 約***************************************
今回の IDW’10 では OLED1~AMD5/OLED6 の OLED(Organic Light Emitting Diode;有機 EL)関連のセッシ
ョンに参加した。発表者に限らず会場内では活発な議論が行われていたのが特に印象的だった。ディスプレ
イメーカーからの興味深い報告も多数あり、実用化に向けて材料からプロセス、信頼性評価まで多くの点で
進展がみられた。IGZO などの透明酸化物半導体を OLED 駆動用 TFT に用いた報告も数多く見られるようにな
り、
方向性が決まってきたと感じた。
また、
フレキシブル OLED の発表もポスターを含め多く見受けられたが、
信頼性の点でまだ課題が残る。
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1.はじめに
今回の IDW’10 における OLED 関連の発表件数は全 55 件あり、口頭発表 25 件(そのうち招待講演は 6
件)
、ポスター発表 30 件だった。内訳を見ると、国内 16 件、海外 39 件という構成で、韓国メーカーからの
発表が 20 件と最も多かった(次いで台湾からの発表が 14 件)
。日本・韓国・台湾で 50 件にのぼり、9 割を
アジア勢が占めている。メーカーからの発表は Samsung Electronics・Samsung Mobile Display から 5 件、
Sony から 2 件、AUO から 2 件、LG Display から 1 件と続く。OLED 市場をほぼ独占している Samsung
Electronics の勢いを物語っている。
最近のトレンドとして、OLED 駆動用トランジスタとして透明酸化物半導体、特に IGZO-TFT を用いた
発表が多くなっており、高電子移動度が得られ、Vth シフトが小さく、特性の揃ったトランジスタが得られ
やすいことから、シリコン系から移行していることが特徴的である。初日の Invited Adress で細野先生から
“TAOS-TFTs:History and Perspective”と題されたご講演には多くの参加者が足を運び、熱いご講演も
あり最も盛況だった。
以下、OLED 関連の注目発表について報告する。
2.注目発表
2.1
材料関連
OLED セッションの Keynote として筒井先生(九州大学)からご講演があり、過去の材料開発から現在
に至るまでの歴史的背景などをお話された。最近の進展として安達先生(九州大学)が取り組まれている熱
活性型遅延蛍光(TADF)材料による発光効率向上などの紹介があった。材料関連ではキャリア移動度とキ
ャリアバランスに着目した材料評価について保土ヶ谷化学より、また、燐光ポリマー材料におけるキャリア
バランスについて NHK より発表があり、いずれも電流効率を向上させるにはキャリアバランスの良い材料
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組合せが重要であることを改めて示した。
2.2
ウェットプロセス関連
湿式と乾式の各プロセスを組合せたハイブリッドデバイスの発表が日産化学とソニーからあった。日産化
学からは ELsource と呼ぶ ITO 膜表面を被覆する ND ink(HIL)についての発表で、複数の溶媒を用いて
粘性を制御、ITO 膜表面に付着したパーティクルへのステップカバレッジ性を高めることでピンホール等の
製造不良を低減する手法を提案した。また、ソニーからは発光層までを塗布、その上の ETL 層等を蒸着で
成膜したデバイス構造について発表。スーパーハイブリッド OLED と名づけられた構造は、塗布によるポリ
マー薄膜上に Hybrid Connecting Layer と呼ぶ蒸着層を挿入、Blue 共通層(蒸着膜)との界面におけるキ
ャリア移動を最適化することでデバイス特性を改善したと内容だった。
2.3
ディスプレイ応用
LG Display から 15 インチ OLED TV に関する発表があった。RGBW(白+CF)方式で WOLED(白色
OLED)は 2 スタック型のもので Blue 発光層と Red+Green 発光層を分けた構造を採用、寿命も WOLED
の 2 スタック型に比べて延びる結果となっている。マスク蒸着塗分け(Fine Metal Mask 技術)による既存
のものに比べ、製造上大型化に優位であることを主張したものだった。Samsung Mobile Display からは
LTPS TFT プロセスに最適化した絶縁膜として DBR ( Distributed Bragg Reflector )構造を採用
(SiO2/SiNx/SiO2 構造と SiO2/Nb2O5/SiO2 構造を比較)
、ボトムエミッション型 OLED での性能改善に
も寄与していることを示した発表。ガラス基板上にバッファ層として Nb2O5 膜を用いることで更に特性が
改善することを見出したものだった。Samsung Mobile Display からもう 1 件報告があり、LTPS 製造プロ
セスにおいてマスク数を低減(従来 8 枚→今回 5 枚)
、600℃以上加熱する RTA 工程を省くことにより製造
コストの削減に成功したとのこと。AMOLED 製造におけるノウハウとも言えるもので技術的に世界をリー
ドしている Samsung Mobile Display の余裕が伺える。
2.4
フレキシブル OLED
台湾 ITRI からガラス基板の製造工程をベースにしたフレキシブル OLED 製造に関して発表があった。ロ
ール方式(R2R)ではなく従来のシート方式(S2S)での製造を試みたもので、ガラス支持基板上に透明 PI
基板を貼りつけ、その上にバッファ層を介して TFT 構造を従来のガラス基板と同様に形成、OLED 構造は
一般的な真空蒸着により作製、薄膜封止で完成となる。完成後にガラス支持基板から剥がし取ることでフレ
キシブル OLED を実現したもので、量産をかなり意識した発表だった。Sungkyunkwan University からは
ノーベル物理学賞で話題となったグラフェンを透明電極とした発表があった。完全なグラフェンとはならず
カーボンナノチューブを含むものでシート抵抗も高めだが、有機系材料を電極に用いる技術はオール有機デ
ィスプレイの実現には必要であり、今後の展開を見守りたい。
2.5
AMOLED
AUO から第 6 世代の製造ラインにて開発中の IGZO-TFT 技術に関する発表があった。TFT の構造はバッ
ク・チャネル・エッチ型を採用、LCD 用(1T1C)なら 5 枚,OLED 用(2T1C)なら 6 枚で製造できると
のこと。ソース・ドレイン電極形成製造工程における Ti ドライエッチング(Cl2/BCl3 プラズマ)時のチャ
ネルへのプラズマ・ダメージを避けるために感光性有機層をパッシベーションに採用しているのが特徴。Vth
ばらつきが基板(1800×1550mm サイズ)内で 0.2V とのこと。また、ドライクリーニング工程における
VUV(真空紫外線、波長 172nm)によるダメージを回避の目的で塗布型 TiOx 膜を採用、TFT の劣化を防
いでいるのも特徴。ソニーからは ITZO (In-Sn-Zn-O)‐TFT に関する発表があった。IGZO-TFT の電子
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移動度が 11.5cm2/Vs に対して、ITZO では 30.9cm2/Vs まで向上したとのこと。プロセスを見るとゲート電
極層 Mo(DC スパッタ)
、ゲート絶縁層 SiO2 膜(PECVD)
、チャネル層 ITZO 膜(DC スパッタ)
、エッチ
ングストッパ層(PECVD)
、ソース・ドレイン電極 Ti/Al/Mo(DC スパッタ)
、パッシベーション層 Al2O3
(DC スパッタ)にてそれぞれ形成。Mo 層の表面酸化に N2O プラズマを用いるなどしているが、ITZO 膜
O2 流量により特性が大きく変化することも報告された。
3.おわりに
2007 年 12 月にソニーから OLED-TV を製品として発売されてから3年が過ぎ、現在 OLED ディスプレ
イ業界を引っ張るディスプレイメーカーが韓国、台湾に移っているのは非常に残念。日本がリードしてきた
分野であり、国内メーカーの発奮を期待したい。会場内では積極的に情報交換が繰り返されている様子も見
受けられ、大きく市場が伸びる期待感が感じられる。OLED の特徴を最大限活かしたフレキシブルディスプ
レイの試作も近年活発であり、新たなアプリケーション開発に向けて大きく発展することを望む。
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