1 Trias 企業メモ 2010-02-25 基調講演メモ 2010 年 2 月 13 日 第 26 回トリアス IR フォーラムサマリ 2010 年 2 月 13 日(土)、第 26 回トリアス IR フォーラムを開催いたしました。基調講演にシティグループ証券株 式会社 株式調査部 ディレクターの金澤洋平氏をお迎えし、「日本テクノロジー産業の中期展望~パラダイム シフトへの投資~」と題し、ご講演いただきました。以下、ご講演骨子と質疑応答サマリーをご案内いたします。 【自己紹介と調査スタイル】 1991 年に日立製作所半導体事業部に入社、その後大和総研での産業エレクトロニクスアナリスト、テクノロ ジーチームヘッドを経て、現在シティグループ証券でテクノロジーストラテジストをしている。「自分で足を運んで、 自分の目で見て」をモットーに、金融よりも産業サイドに寄った調査スタイルで産業や企業の分析を行ってい る。 【本日の結論】 タブレット PC の出現で本格的にメディアのペーパーレス化、デジタル化の時代になる。タブレット PC の主要 デバイスである有機 EL パネル、タッチパネル、フラッシュメモリ関連銘柄に注目する。逆に、紙・パルプセクター、 出版・印刷セクター、メディアセクターは戦略を誤ると長期的に厳しくなると考える。 【テクノロジー産業展望の前提: 世界経済の見方】 今回の金融危機は、資源バブル、新興国マネーの増大、ドル 流通の増加、円キャリートレードの膨張などにより、大量のマネー が投機的に、かつ複雑な金融商品へ向かって形成されたバブル が崩壊して起こった。第一次、第二次世界大戦前後にも同じよう な状況があり、その後戦争やブロック経済へと向かったが、今回 は世界的利下げ、公的資金注入等により時間をかけて調整され ようとしている。大恐慌後の 1930 年代、F. ルーズベルトはグラ ス・スティーガル法(銀行業務と証券業務の分離を主眼とする米 基調講演をされる金澤洋平氏 国の銀行法)やテネシー川流域開発公社による公共事業の推進 などのニューディール政策を行い、一時的に景気は回復した。しかし、これにより財政赤字が拡大、増税と公共 事業費減を余儀なくされ、第二次世界大戦へと突入していく。ドイツでも同時期、ヒトラーが公共投資を推進して 一時的に景気が回復していたが、やはり貿易赤字に陥りインフレとなったことが戦争への一因となったのでは ないかと考えている。今回のアメリカも、オバマ政権による総額 100 兆円とも言われる公共投資や金融機関へ の公的資金注入等により最悪期は脱したように見えるが、膨張する財政赤字にいつまで耐えられるのかという 問題がある。過去のケースでは財政出動による景気浮揚は 2 年が限度であり、今回も浮揚効果はあと 1 年位 ではないかと考える。今後の世界経済に関しては、あと 1 年は今の延長線上で考えれば良いが、その先の大き このメモは投資判断の参考となる情報の提供を目的としたもので、投資勧誘を目的として作成したものではありません。このメモに記載されてい る内容は、信頼できると考えられる情報に基づいて作成されていますが、当社はその正確性・完全性を保証するものではありません。また、ここ に記載された内容・意見は当該説明会時、ならびに/あるいは取材時における判断であり、今後、事前の連絡なしに変更されることもあります。 投資に際しての最終決定は投資家の皆さまご自身の判断と責任においてなされるようお願いいたします。 Copyright © 2010 Trias Corporation All rights reserved. 2 な転換点に注意が必要である。一方で、過剰在庫や政情不安などの懸念はあっても、中国経済の急成長は続 くであろう。 【日本のテクノロジー産業を取り巻く外部環境: ポスト京都議定書と日本の取るべき戦略】 財政赤字に関していえば、日本の対 GDP 比債務残高は主要国で最大となるまで膨らんでいる。資源のない 日本は外貨を稼ぐべく、まずは成長戦略を打ち出すべきだと考えている。しかし民主党の政策は、中小企業に 特化した優遇政策、派遣切り防止法、ポスト京都議定書に向けた厳しい排出ガスの数値目標など、製造業の 海外への工場移転を後押しかねない内容であり、長期的には国内の雇用や税収への影響が懸念される。特に、 日本の二酸化炭素排出量の内 35%は産業部門によるものであり、「2020 年までに効果ガス排出量を 1990 年 比 25%削減、2050 年までに 60%超を削減」という数値目標の、日本の製造業への負担は大きい。 そもそも京都議定書は EU に有利な条約である。まず、合議制を取っているため国の数が多いことから、EU の発言力が強くなる。また基準年となっている 1990 年は未だ EU に含まれる東欧諸国のエネルギー効率が悪く、 その後東欧での効率改善により EU 全体として大幅な削減が可能となったと言う意味で、1990 年という基準年 は EU にとって有利である。ちなみに、2000 年を基準にすると EU の排出量も実はそれほど減っていない。 一方、中国の環境汚染や黄砂の問題は温暖化以上に深刻だという見方もある。いずれにせよ、環境問題は 政治問題化しており、日本はポスト京都にしたたかな戦略を持って臨むことが必要だと考える。まず、基準年で ある 1990 年の変更、アメリカ、中国、インドの参加を促す、多数決の世界で発言力を得られるよう「仲間作り」を する、そして東シナ海のゼロエミッション化や中国の環境汚染問題の解決等、二酸化炭素以外に関する問題提 起をしていくことなどが求められる。 【日本のテクノロジー産業の現状: 日本に製造業は残るのか?】 かつて世界をリードしていた日本の半導体、液晶産業は、1990 年台を境に韓国、台湾に敗北しつつある。大 きな要因として、国の制度や問題があると考える。例えば台湾では工場設備の加速償却が認められているた め、設備投資の回収が早いというメリットがある。加えて、税制の差も大きい。台湾の法人税率は 25%、韓国は 27%である。さらに台湾の場合は投資減税や半導体工場に対する優遇制度もあり、一定規模の投資を続けて いれば事実上税金を払わなくてもよい。資金調達も容易で、大規模な設備投資をしやすい環境が整っている。 日本は確かに人件費やインフラコストが高いが、それ以上に制度設計の差に基づくコスト競争力、企業体力の 差が大きいのである。 日本は資源が乏しく、虎の子の金融資産も減少していることを認識し、「加工貿易産業が外貨を稼ぐ」という ビジネスモデルを再構築することが重要だと考える。そのためには、会計制度や税制を始めとした、国家として の制度設計のやり直しが必要である。製造業をすべて残せというわけではないが、次世代技術やオンリーワン 商品の開発拠点として存在価値を上げるべく、体制を整備することが重要ではないだろうか。もちろん、企業側 からのイノベーションが必要なことは言うまでもない。 【テクノロジー産業における大きなパラダイムシフト】 産業の方に視点を移したい。かつてテクノロジー産業においては、銀塩カメラ→デジカメ、ブラウン管→液晶 パネル、CD/MD→MP3 プレーヤーへ、といったパラダイムシフトがあり、今後は、ガソリン→HEV(ハイブリッド このメモは投資判断の参考となる情報の提供を目的としたもので、投資勧誘を目的として作成したものではありません。このメモに記載されてい る内容は、信頼できると考えられる情報に基づいて作成されていますが、当社はその正確性・完全性を保証するものではありません。また、ここ に記載された内容・意見は当該説明会時、ならびに/あるいは取材時における判断であり、今後、事前の連絡なしに変更されることもあります。 投資に際しての最終決定は投資家の皆さまご自身の判断と責任においてなされるようお願いいたします。 Copyright © 2010 Trias Corporation All rights reserved. 3 自動車)→燃料電池、CCFL(冷陰極管)→LED(発光ダイオード)、OLED(有機 EL ディスプレイ)、新聞→電子 NP(ニュースペーパー)→タブレット PC といったパラダイムシフトが考えられる。株式市場は「次世代に何が起 きるか」を先読みするので、関連セクターの株価は既に東証 1 部指数をアウトパフォームし始めている。 パラダイムシフトによって主役は交代する。かつてソニーは一世を風靡したウォークマンで 50%以上のシェア を誇り、CD・MD ウォークマンでもトップシェアを維持していたが、MP3 プレーヤーでアップルに完敗した。ソニー も MP3 の技術は持っていたにもかかわらず、既存媒体によるビジネスが大きかっただけに新市場への展開が 遅れたのだ。パラダイムシフトと共に企業がイノベーションする難しさを象徴している。 【テクノロジー関連投資戦略: イノベーションの勝ち組企業に投資を!】 メディアのペーパーレス化、電子化は大きなパラダイムシフトだと考えている。ここ数年、伸び続けるインター ネット広告費に対して、新聞、雑誌、ラジオ、テレビのマスコミ 4 媒体広告費は減少の一途を辿っている。新聞購 読者、テレビ視聴率は激減しており、新聞に至っては押し紙問題(新聞社が販売店に対して余分に押しつける 新聞。配達されず廃棄され、環境問題にもなっている)が取り沙汰される始末である。海外ニュースも多くはロ イター、ブルームバーグなどの通信社に頼っており、独自の取材による記事は少ない。通信社から直接、分単 位で情報が入手できるタブレット PC、デジタルニュースペーパーへのシフトは最早止められないだろう。 教科書、雑誌、書籍も電子媒体化するだろう。一般書籍と比べてデジタル書籍は在庫コストがないため、価 格を大幅に安くすることが可能である。 情報端末としてのキンドルやタブレット PC といった、タブレットデバイスの市場は今後大きく拡大することが予 想され、特殊タッチパネル、電子ペーパー/ディスプレイ、フラッシュメモリ、リチウムイオン電池などの需要の拡 大が期待される。特に、発色が良く消費電力が少ないディスプレイである OLED(有機 EL ディスプレイ)に注目し ている。OLED 自体は元々日本で開発された技術にもかかわらず、大手メーカーが本腰を入れて投資してこな かったため、残念ながら現在の主要メーカーは海外勢である。しかし、OLED の材料や製造装置に関しては日 本にまだ一日の長があり、関連銘柄には注目している。 ハイテクは情報戦であり、この業界への投資に関しても同様である。自己否定をするようだが、投資家はア ナリストや調査会社の言うことを鵜呑みにせず、直接企業の説明を聞くなど自分で情報収集することが重要で あると考えている。 質疑応答 Q1. 有機 EL は寿命が 1 万時間程度と短いと言われていますが、製品化に問題とはならないのでしょうか。 確かに有機 EL は寿命が短く、現在のところ 3 年位しか持ちません。携帯電話やノート PC のような商品サイク ルが短い製品にまず使用されていくと考えます。そして将来技術のイノベーションがあって寿命の問題がクリア されれば、テレビや照明にも市場は広がっていくと考えます。日本は材料や製造装置でトップレベルの技術が ありますから、事業機会は大きいと思っています。 このメモは投資判断の参考となる情報の提供を目的としたもので、投資勧誘を目的として作成したものではありません。このメモに記載されてい る内容は、信頼できると考えられる情報に基づいて作成されていますが、当社はその正確性・完全性を保証するものではありません。また、ここ に記載された内容・意見は当該説明会時、ならびに/あるいは取材時における判断であり、今後、事前の連絡なしに変更されることもあります。 投資に際しての最終決定は投資家の皆さまご自身の判断と責任においてなされるようお願いいたします。 Copyright © 2010 Trias Corporation All rights reserved. 4 Q2. 日本の半導体は負けているとのお話でしたが、450mm ウェハーや ASIC 等で高い技術を持っているので はないですか。 確かに日本の半導体メーカーは先端技術には強いですが、果たしてそれが全て必要なのかという疑問があり ます。最近は CPU でも DRAM でも機能はフルスペックではなくても低コストや低消費電力のニーズが高くなって います。より必要なのはコストを下げる技術であり、またそれを支える会計や税制優遇制度だと考えます。 Q3. そういった会計や税制優遇制度を、国レベルで変える動きはあるのでしょうか? 今はまだありません。経済産業省の中には、半年前位に少し動きはあったのですが、政権交代で振り出しに戻 ってしまいました。法人税だけでなく地方分権の制度もからんでくると、多くの省にまたがった調整が必要となる のですが、日本は経済界が政治と距離を置いてきたこともあって、こういう時に動いてくれる政治家がいないの が残念です。 Q4. 日本のモノ作りの会社は特に、新市場開拓が必要と思いますが、例えばスマートグリッドのような市場で 日本企業に芽はありますか? 日本は省電力に関する技術のレベルは高く、チャンスはあると思います。スマートメーターに関しても、海外で 販売している日本の会社もありますが、この分野はすぐ追いつかれてしまうので、スピードが大切です。 Q5. アメリカは知的資産のストックが大きく、それがテクノロジー産業における強さにもつながっているように思 います。日本が太刀打ちするにはどうしたらいいのでしょうか。 確かにアメリカの大学には世界中から優れた頭脳が集まりますし、それがそのまま米企業に残ることで知的資 産のストックにつながっています。しかし日本も生産技術では決して負けていません。対抗するには、この分野 にアジアやアメリカの技術者を呼んで知的財産を蓄積すべく、お金を使う必要があります。大学のレベルを洗 い直し、優秀な大学にはもっと補助金を出すなど「格差」をつけることも必要ではないでしょうか。 以上 このメモは投資判断の参考となる情報の提供を目的としたもので、投資勧誘を目的として作成したものではありません。このメモに記載されてい る内容は、信頼できると考えられる情報に基づいて作成されていますが、当社はその正確性・完全性を保証するものではありません。また、ここ に記載された内容・意見は当該説明会時、ならびに/あるいは取材時における判断であり、今後、事前の連絡なしに変更されることもあります。 投資に際しての最終決定は投資家の皆さまご自身の判断と責任においてなされるようお願いいたします。 Copyright © 2010 Trias Corporation All rights reserved.
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