カザフスタンのイノベーション政策

■ Research Report
特
集
カザフスタンのイノベーション政策
ロシア・NIS経済イノベーション化の課題
■ Research Report ■
カザフスタンのイノベーション政策
ロシアNIS経済研究所 研究員
中馬 瑞貴
はじめに
ある。そこで、第4回協議会で行われた報告の
カザフスタンでは、1997年10月に発表され
内容を一部交えて紹介するが、協議会全体の概
た「カザフスタン2030年戦略(以下、「2030年
要については別途報告する予定なので、そちら
戦略」)
」の第2次10か年計画である「2020年ま
をご参照いただきたい。
でのカザフスタン共和国発展戦略計画(以下、
「2020年戦略計画」)
」に基づいて様々な国家政
国家政策としてのイノベーション発展
策が行われている。経済分野については、
「2010
石油、ガス、ウラン、レアメタル・レアアー
~2014年のカザフスタン共和国産業イノベー
ス等、あらゆる資源が豊富なカザフスタンの経
ション発展促進プログラム(以下、「2014年プ
済はその大部分を資源に依存している。一方、
ログラム」)
」が進められている。その名称の通
カザフスタン政府は1990年代後半から「経済多
り、カザフスタンでは国家の経済成長の主軸に
角化=diversification/диверсификация」をスロ
イノベーション発展が位置づけられている。
ーガンとする経済政策を策定、実行してきてい
そこで本稿では、これらの政策を中心にカザ
フスタンのイノベーションの現状について紹
る。以下ではその主要な政策を紹介する。
戦略計画2020
2009年12月に行われた第22
介する。まず初めに、現在カザフスタンで進め
回外国投資家会議の演説でナザルバエフ大統
られている上記のイノベーション政策につい
領は、「今後10年の我が国の発展戦略の方針を
て概説する。続いて、イノベーション政策の調
決定する2020年までのカザフスタン発展戦略
整や実施を担う諸機関・組織を紹介する。さら
の策定作業を完了し、また来年から実施がスタ
にカザフスタンで実現されているイノベーシ
ートする産業イノベーション発展促進5か年
ョン政策の一例としてイノベーションテクノ
プログラム案の策定作業も完了する。これらの
パークについて紹介する。
発展計画で我々が重点をおくのは科学技術お
なお、2013年2月、東京にて第4回日本カザフ
よびイノベーション発展である」と発言し、産
スタン経済官民合同協議会(以下、協議会)が
業・イノベーションの発展を推進する必要性を
開催された。協議会の中で実施された4つの分
語った1。
科会のうち、第2分科会は「イノベーション技
上記の演説を受けて、2010年2月1日、
「2020
術、産業協力発展の可能性」というテーマで報
年までのカザフスタン共和国発展戦略計画(以
告が行われた。まさに本稿に合致したテーマで
「2020
下、2020年戦略計画)」2が承認された。
ロシアNIS調査月報2013年4月号
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特集◆ロシア・NIS経済イノベーション化の課題
年戦略計画」は、「2030年戦略」の第2次計画
発展政策が完全には実現されず、結果として国
として策定された。2008年に起きた世界的な経
家の経済構造は原料依存性を残しているとい
済危機の影響を考慮し、2020年戦略計画では、
う反省を受けて策定された。そして、「2020年
「危機後のわが国の発展のための条件を整え
戦略計画」の第一段階と位置づけられる新しい
る最優先策は、ビジネス・投資環境の改善、国
方針として「2014年プログラム」が誕生した。
の金融制度の強化、公共管理の効率向上に焦点
「2014年プログラム」の目的は、「多様化お
を合わせたものとなるであろう。経済の質的成
よび競争力の向上を通じた持続的でバランス
長は、インフラの近代化、人的資本の発展およ
のとれた経済成長の保障」である。具体的な目
び我が国の産業イノベーションの発展を促進
標として、2015年に対2008年比でGDP50%増、
する制度基盤の強化に基づく」と謳われている。
GDPにおける製造業のシェアを12.5%、輸出全
経済成長の条件の1つとして、産業イノベーシ
体の非資源採掘産業の割合を40%、イノベーシ
ョンの発展を促進することが必要であるとし
ョン企業数を全体の10%、GDP単位当たりのエ
ている。さらに、「良好な経済環境は、合理的
ネルギー消費量10%減とすること等が挙げら
なマクロ経済政策、非効果的なプロジェクトに
れた。また、経済多角化のための優先的発展分
対するシステムの創出、国家イノベーションシ
野として、石油ガスのインフラ・精製、金属、
ステムの創設(研究システムの改善も含む)に
化学・製薬、機械製造、建設、農業、通信、原
よって維持される」とし、その国家イノベーシ
子力や代替エネルギーを含むエネルギー部門、
ョンシステムの創設について、「世界の優れた
観光、宇宙産業の10分野が掲げられた。これら
イノベーションシステムは多くの場合、かなり
の分野をいかに発展させるかという点につい
の国家支援を受けている。(1)世界レベルの
て具体的な8つの政策が挙げられているが、そ
大学の創設、(2)国家にとって優先的な研究
の1つが、各経済分野におけるイノベーション
に対する補助金システムに基づいた融資、
(3)
発展と技術的近代化とされた。
専門家の招へい、(4)海外の技術の効果的利
イノベーション発展と技術的近代化の主要
用、の原則に基づいて国家イノベーションシス
な課題は、1)効果的なイノベーションシステ
テムの形成を保障する」として、イノベーショ
ムの形成とイノベーションインフラの発展、2)
ンの発展には国家支援が欠かせないこと、それ
新製品や新しいサービスのイノベーション開
を保障することが約束されている。
発を刺激する条件の整備、3)国内企業の技
2014年プログラム 「2020年戦略計画」実現
術・管理レベルの近代化である。最大の重点は
のために、より具体的な経済分野のプログラム
技術移転、技術的近代化、ビジネスプロセスの
として、2010年2月23日、「2010~2014年のカ
改善、管理技術の導入を通じた企業の経済効率
ザフスタン共和国産業イノベーション発展促
の情報に置かれており、さらには、生産される
進国家プログラム」が政府決定によって採択さ
製品の質的向上、競争力のある新製品およびそ
3
れ、3月19日に大統領令で承認された 。カザ
の製造工程の開発に向けた支援も求められて
フスタンではすでに2003年5月に策定された
いる。
「2003~2015年の産業イノベーション発展国
「2014年プログラム」の実施を管轄している
家プログラム」が進められていたが、「2014年
産業・新技術省のトレウシン次官は雑誌のイン
プログラム」は、同プログラムによって一定の
タビューで、同プログラム開始後、「これまで
成果はあったものの、多様化・イノベーション
に400以上のイノベーションプログラムに対す
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ロシアNIS調査月報2013年4月号
カザフスタンのイノベーション政策
■ Research Report
る国家支援が採択され、実施されている」こと
5. 出資
を明らかにした。この数は2003~2009年に実施
6. 発注保障
4
されたプログラムの数の2倍以上である 。
2010年11月には、2014年プログラムのサブプ
7. イノベーション・グラント
8. 優秀な人材の確保
ログラムとして「2010~2014年のカザフスタン
9. 事業用インフラの確保
共和国イノベーション発展・技術近代化支援プ
10. 土地および地下資源利用権の提供
ログラム(以下、イノベーション発展サブプロ
11. 国内市場における支援
グラム)」が承認され、効率的なイノベーショ
12. 外国投資誘致
ン・技術発展の管理、ハイテク分野の中小企業
13. 国産加工製品およびサービスの輸
発展のための条件創出、国家の科学・エンジニ
アリングポテンシャルの向上によって、経済競
出振興
2050年戦略
2014年プログラムが残り2年
争力の向上が保障される分野や地域の国家イ
となり、現在、新しい産業イノベーション発展
ノベーションシステムを開発するための具体
プログラムが策定されるようだ。ナザルバエフ
的な施策が規定された。
大統領は2012年12月に行われた年次教書演説
イノベーション国家支援法 2012年1月、
「産業
で、新たな国家の政策方針として「カザフスタ
イノベーション活動国家支援に関するカザフ
ン2050年戦略」を発表した6。戦略の主要な方
スタン共和国法(以下、「イノベーション活動
向性は以下の通り。
5
国家支援法」)
」が採択された 。イノベーショ
1. 新経済政策方針-収益性、投資の回収、
ン活動を国家が支援することの必要性につい
競争力の原則に基づく包括的な経済プ
ては前述の「2020年戦略計画」や「2014年プロ
ラグマティズム
グラム」でも言及されていたが、これを拡大し、
法的裏付けが強化されることになった。
本法律の中では、第2章「産業イノベーショ
ン活動国家支援に関する国家の調整策」におい
て、国家支援に携わる政府および関係機関の役
割や権限について定めている。第3章「産業イ
ノベーション制度」ではイノベーションに関わ
2. 国家経済を主導する企業活動に対する
全面的な支援
3. 新社会政策の原則
4. 知識と専門的な経験を目的とした教育、
人材育成、再教育システム
5. 国家体制の強化とカザフ型民主主義の
発展
る組織の活動や産業インフラの定義について
6. 首尾一貫した予測可能な外交政策
のべられている。そして第4章「産業イノベー
7. カザフスタンの新たな愛国心
ション活動主体への国家支援」では具体的な国
ナザルバエフ大統領は教書演説の中で、
家支援策について列挙されている。本法律が定
「2030年戦略」の成果を高く評価し、その一方
める産業イノベーション活動に対する国家支
で国内外に新しい課題があることに懸念を示
援策は以下の通り。
した。そして、「急速に変化するカザフスタン
1. プロジェクトファイナンス
のための新しい政策方針」として「2050年戦略」
2. 債務保証
を提唱した。「新しい経済方政策方針の本質」
3. 金融機関経由の貸付
とは、収益性、投資の回収、競争力の原則に基
4. 金融機関貸付金の支払利息に対する
づいた包括的な経済プラグマティズムである。
補助金の支給
ロシアNIS調査月報2013年4月号
「2050年戦略」の中で、「2年後に産業イノ
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特集◆ロシア・NIS経済イノベーション化の課題
ベーション発展促進プログラム(=2014年プロ
設置された省である。なお、この時行われた省
グラム-筆者)実施の最初の5年が完了する。
庁改編全体が産業イノベーションプログラム」
次のフェーズにおける詳細な計画を策定しな
の実現に向けて行われたものであるが、政策実
ければならない」と書かれている。そして、新
施の中核を占めている産業・新技術省だけを取
たなプログラムの目標数値として、「輸出総額
り上げる。他の省庁については、改編当時の経
における非原料製品輸出の割合が2025年まで
済速報をご参照いただきたい7。
に2倍、2040年までに3倍に拡大すること」が
同省はイノベーション発展にかかわる様々
掲げられており、そのためにすべきこととして、
な施策、制度、法案を策定したり、イノベーシ
競争力の高い輸出志向製品の生産分野を発展
ョン・グラントの割当や執行の監督を行ったり
させること、生産力の高い技術を国内に誘致す
する。産業・貿易省の時代から大臣を務めるア
るために外国との合弁企業を創設すること、イ
セット・イセケシェフ8が産業・新技術大臣に
ノベーションクラスターであるナザルバエフ
就任し、副首相も兼任している。
大学とイノベーションテクノパークを発展さ
なお、産業・新技術省に対して産業・イノベ
せることなどが掲げられている。また、イノベ
ーション活動の国家支援に対する優先順位や
ーション発展のための戦略の策定が必要であ
主な方向性についてアドバイスを与える「技術
り、特に、EXPO-2017を通じてカザフスタンに
政策審議会」が2011年11月に設立された。同審
必要な技術の移転や専門家の教育に刺激を与
議会の議長は共和国首相であり、実務機関とし
え、最新技術を導入することが目指されている。
て産業・新技術省が位置づけられている。
国家技術開発庁
2003年に設立され、イノベ
このように、カザフスタンの産業イノベーシ
ーションプログラムへの直接融資やベンチャ
ョン政策は、今まで実施されてきた政策に一定
ー企業への融資の他、情報分析やイノベーショ
の成果と欠点が指摘され、新たな段階に進もう
ンテクノパークの管理を担っていた「国家イノ
としているようだ。2050年戦略に基づく新しい
ベーション基金」の後継機関として、株式会社
産業イノベーション政策がどのような内容に
「国家技術開発庁」(NATD)が設置された。
なるのかは、今後の注目である。
同庁は産業・新技術省の下部組織であり、その
管轄事項や権限については、「産業イノベーシ
イノベーション政策に携わる関連機関
ョン活動国家支援法」で規定されている。アイ
次に、イノベーション政策の調整・実施を行
ディン・クリセイトフ9同社社長が第4回協議
う機関として、カザフスタンにはさまざまな機
会に参加し、同庁の役割等についてプレゼンテ
関が存在している。
ーションを行ったので、それらを基に国家技術
産業・新技術省
「2014年プログラム」を含
開発庁について紹介する。
め産業イノベーション分野を管轄する中心的
NATDの役割は、カザフスタンにおけるイノ
な国家機関は、2010年3月に設立されたカザフ
ベーション活動の支援及びハイテク企業発展
スタン共和国産業・新技術省である。産業・新
の支援である。主な活動としては、イノベーシ
技術省は、産業・貿易省(廃止)の産業分野の
ョン企業やベンチャーファンドに対する投資、
管轄・権限とエネルギー・鉱物資源省(廃止)
イノベーション活動に対する国家支援の管理、
の原子力産業、電力、鉱物等石油・ガス分野を
イノベーションインフラの管理や運営、イノベ
除くすべての分野の管轄・権限を引き継ぐ形で
ーション活動についての分析、イノベーション
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ロシアNIS調査月報2013年4月号
■ Research Report
活動の促進、国際協力である。
カザフスタンのイノベーション政策
支援している。
NATDは100%国家資本で設立されており、
クリセイトフ社長はNATDの支援方法を
資本金は1億3,100万ユーロ、実施されている
さらに2種類紹介した。1つは民間の投資家と
国家支援プログラムに対するNATDの予算総
共同出資でプロジェクト会社を設立する、もう
額は2011年と2012年を合わせて7,650万ユーロ
1つは民間の投資家とベンチャーファンドに
である。NATD本社や、同庁が管轄するテクノ
共同出資し、プロジェクトを実現していくとい
パーク、エンジニアリング設計事務所、経済特
う方法である。どちらのケースもNATDが出資
区を合わせてわずか約260人の人員で運営され
できるのは49%まで、600万ユーロ未満である。
ている。カザフスタン全域に7つのオフィスを
また、NATDは産業・新技術省が定めた、企
持ち、その他、韓国にすでにオフィスが存在し、
業に対する以下の9つのイノベーション・グラ
フランスにも間もなく開設予定である。クリセ
ントプログラムの提供先を決定する。①エンジ
イトフ社長は「このようなオフィスを日本に開
ニアの専門性の育成、②外国専門家のアウトソ
設できればうれしい」と語った。
ーシング、③コンサルティング、エンジニアリ
NATDが管理・運営しているのは、7つのテク
ング、設計機関のアウトソーシング、④経営技
ノパーク、4つのエンジニアリング設計事務所、 術の導入、⑤産業調査、⑥ハイテク生産工程支
経済特区「イノベーションテクノパーク」、2
援、⑦パテント、⑧技術調達、⑨技術の商業化。
つの技術移転国際センター(韓国とフランス)
グラントの期間、限度額は種類によって異なる
である。NATDはこれらの組織を通じてイノベ
が、どれも無償で供与される。
ーションに関係する企業にサービスを提供し、
ロシアNIS調査月報2013年4月号
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特集◆ロシア・NIS経済イノベーション化の課題
他にも、たとえば、2003年にカザフスタンに
ナザルバエフ大学はその名の通り、ナザルバ
最先端技術導入のために設立された「カザフス
エフ大統領のイニシアチヴによって2006年に
10
タン・エンジニアリング・技術移転センター 」
提唱され、2007年に建設が開始、2010年から開
は2009年にイノベーション発展のための機関
講した新しい国立大学である。国際的な教育水
と位置づけられ、産業イノベーション発展プロ
準に基づいて授業が行われ、国際的にハイレベ
グラム実現のための支援を行っている。また、
ルな学位を授与し、国際的に通用する卒業生を
2010年6月に創設された「カザフスタン産業発
輩出することを目指している。世界各国から教
11
展研究所 」は当初、財務省の下部組織であっ
授を集め、英語で授業を行っている大学である。
たが、産業・新技術省の傘下に委譲され、学術、
以下では、後者であるイノベーションテクノ
情報・分析を提供する形で、産業・イノベーシ
パークについて詳細な説明を加えたい。第4回
ョン発展プログラムの実現を支援している。さ
協議会においてイノベーションテクノパーク
らに、2006年11月に国家イノベーション基金
関するプレゼンテーションが行われたので、そ
(当時)の支援によって設立された「カザフス
ちらの資料を基に紹介する。
タンイノベーション基金『ジャナル・カザフス
イノベーションテクノパーク
12
カザフスタンで
タン 』は、イノベーションプロジェクトの評
は経済特区の1つとして、2003年8月にアルマ
価、導入を行う特別な機関であり、国家機関や
トィ郊外にあるアラタウ村で「情報テクノパー
イノベーション企業と協力して、イノベーショ
ク」の設置が決定された。総面積163ha、イン
ン分野における環境整備や中小企業、地方を支
フラへの投資額は1億350万ユーロである。
援している。同基金が参加して「2012~2015
2006年にインフラ設備の導入がスタートし、
年の市・州イノベーション政策コンセプト」や
第一段階として、管理事務所、生産モジュール、
「2012~2015年アルマトィ市およびアルマチ
食堂、変圧変電所、ボイラー室、ポンプ室など
ンスク州イノベーション発展プログラム」が策
が作られた。同経済特区は2010年から積極的に
定された。
活動が行われ、2011年に「イノベーションテク
このように、政策や制度を作成、管理・監督
ノパーク」に改名された。優先分野としてはIT
する産業・新技術省と実際に企業や投資家とイ
産業、グリーンテクノロジー、新素材、電気工
ノベーション政策を実現していく国家技術開
学、石油ガス関連技術となっている。イノベー
発庁が中心となって、多くの関連機関によって
ションテクノパークは、研究投資、生産資源を
カザフスタンのイノベーション政策が進めら
集中させることでハイテク産業を成長させて
れている。
いく役割を担うと同時に、いずれはスマートシ
ティとして世界と競合可能なイノベーション
イノベーションテクノパーク
の発信地となることが目指されている。
イノベーション発展のために様々な政策が
この経済特区の主な優遇税制として、法人税
実施されているが、欠かせないのは教育・研究
0%(通常は20%)、賃貸税0%(20%)
、土地
機関、開発拠点への投資および支援である。
税0%(20%)
、VAT0%(12%)となっている。
「2050年戦略」に示されているとおり、カザフ
カザフテレコムやカザフスタン石油ガス研
スタンにおけるイノベーション発展の拠点と
究所、国際IT大学といったカザフスタン企業・
して注目されているのが、ナザルバエフ大学と
組織はもちろんのこと、韓国やロシアもすでに
イノベーションテクノパークである。
登録している。
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ロシアNIS調査月報2013年4月号
■ Research Report
カザフスタンのイノベーション政策
カザフテレコムはカザフスタン最大の通信
とを強く希望する。日本の技術が我が国の国家
オペレーターであり、通信市場の34.4%を占め
プロジェクト実現に積極的に参加することを
ている。固定電話については全市場の約92%に
願っている」とイノベーション分野における日
あたる390万以上の加入者を有し、ブロードバ
本との協力について強く語りかけた。
ンドは68.5%のシェア、有料テレビ、携帯電話
などでもシェアを拡大している。
そのカザフテレコムのイノベーションテク
ノパークにおける計画を運営しているのが
100%子会社のKT Cloud Labである。KT Cloud
Lab社は情報通信技術やコンテンツ・アプリケ
ーション提供サービスの発展を使命としてい
る。長期発展戦略として5つの分野に特に力を
入れており、固定電話、携帯電話、中小企業の
ためのコンテンツ・アプリケーション、データ
センターや通信センターのアウトソーシング
を含む企業ICTである。
KT Cloud Lab社はイノベーションテクノパ
ークにおいてICTセンターを建設中であり、
2013年5月に完成する予定である。ICTセンタ
ーとは、ITおよび通信サービスを提供するイン
第4回協議会で演説するイセケシェフ副首相
ターネットデータセンターであり、顧客に対し
て新しいサービスを提供することができる。安
全なデータ保管、高いアクセシビリティ、サー
また、ジャクサリエフ産業・新技術省次官も
ビス管理、高い安全性を保障する。テクノパー
「日本が持つ技術、ノウハウ、投資のすべてを
クでは810㎡の建物の中に、96のラックが設置
受け入れていきたいとし、日本企業のイノベー
され、テクノパークのレジデントとなる企業に
ション技術を移転してほしい、そして、それを
サービスが提供される。
カザフスタンの産業イノベーション発展プロ
グラムに反映していきたい」と述べた。
おわりに:カザフのイノベーションと日本
資源の乏しい日本が持つ高度技術と、技術発
資源依存型経済を脱却し、経済の多角化、さ
展を経済発展のための重要な政策としている
らにイノベーションの発展を目指すカザフス
カザフスタンが持つ資源とは相互補完関係に
タンは日本の高度技術に期待をかけている。
あると、長年言われていることである。カザフ
第4回協議会に出席したイセケシェフ副首
スタンの魅力は資源だけではなく、市場の規模、
相兼産業・新技術大臣は、「新素材、再生可能
地理的条件、親日感情や日本への期待などいろ
エネルギー、生産の自動化技術といった分野で
いろ見出すことができる。また、日本側が提供
日本との協力を期待したい。(カザフスタン)
できるのは技術だけはなく、生産プロセスその
政府は支援をする用意があるので、投資、共同
ものや、マネージメントの手法、専門的な知識
案件という形で日本との協力が進んでいくこ
を持った人材など、こちらも多岐に渡る。これ
ロシアNIS調査月報2013年4月号
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特集◆ロシア・NIS経済イノベーション化の課題
らをうまく利用することで、着実に深化してき
臣顧問(2002年11月~2003年6月)や経済問題
た日本とカザフスタンとの経済関係が今後さ
担当大統領補佐官(2008年3月~2009年6月)
などアドバイザーとしての役割を経て、2009
らに発展していくことに期待したい。
年5月に産業・貿易大臣に就任した。2008年
10月からは「国家福祉基金『サムルク・カズ
ィナ』
」の取締役も務めている。第4回日本カ
ザフスタン経済官民合同協議会開催に際して
訪日した。
9.
1976年ウスチ・カメノゴルスク生まれ。
ウスチ・カメノゴルスク産業・貿易・中小企
業局局長産業・貿易省戦略立案、分析局長、
産業政策局長、エネルギー・鉱物資源省戦略
計画策定・分野別調整局長、大統領府社会・
経済モニタリング部副部長などを歴任。2009
年9月から国家イノベーション基金総裁を務
め、2012年3月に国家技術開発庁長官に就任。
10.
http://www.cett.kz/rus/(ロシア語のみ)
。
11.
http://kiri.kz/(ロシア語のみ)
。
12. http://kazinnovation.kz/index.html ( ロ シ ア 語 の
第4回協議会で演説するジャクサリエフ次官
み)
。
【注】
1.
カズインフォルム、2009年12月4日
(http://www.inform.kz/kaz/article/221779)
。
2.
「カザフスタン政治・経済情勢の現状」2010
年3月、
(社)ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済
研究所、付属資料。
3.
大統領HP
(http://www.akorda.kz/ru/category/gos_program
mi_razvitiya)。
4.
情報分析雑誌「産業・貿易通報」
、2012年8月、
第10号。
5.
「カザフスタンスカヤ・プラヴダ」紙、2012
年1月26日。
6.
「カザフスタン共和国大統領の国民教書演説
『カザフスタン2050年戦略:国家の新しい政
策方針』
」2012年12月14日、大統領HP
(http://goo.gl/YWYCF)。
7.
経済速報2010年4月5日号、No.1492。
8.
1971年カラガンダ生まれ。経済・予算計画大
42
ロシアNIS調査月報2013年4月号