39章 マルヤム館(記載:2013年10月6日) - So-net

SF小説 「不思議な枕」第4部:ナザレのイーサー
著者:角茂谷
繁
39章
(かくもだに・しげる)
マルヤム館
読者諸君のために、本小説のこれまでの荒筋を復習してみよう。私(著者の角茂
谷繁)は23章で記載したように、平成15年5月3日の午後に鳴門市の路上で友
人の妹(片岡熊子)に腹を包丁で刺されて気絶した。幽界に漂う私の魂に、神Bが
乗り移った。神Bは私を紀元301年5月3日の対月世界における日本国・粟の国
(21世紀の徳島県)にある亀島に連れて行った。私が亀島で気付いた時には、私
は青年時代の姿をしていた。
27章で記載したように、紀元301年5月4日の早朝に粟の国における中央構
造線上で巨大地震が発生した。29章で記載したように、私の指導により、粟の国
に住んでいた三族(天孫族、大友族、海部族)は大震災からの復興に成功した。3
0章で記載したように、私の指導により粟の国の三族は、紀元302年の5月5日
に蘆原の国(21世紀の大阪府)に攻め込んで、蘆原の国を支配していた大ムカデ
族を戦わずして従えた。31章で記載したように、紀元310年5月4日に三族は
日本国を建国し、天孫族の族長・伊波礼彦が初代天皇に就任した。勿論、私がこれ
らの事業のシナリオを書いたのである。32章と33章で記載したように、私は日
本国の天皇が万世一系の象徴であり続けるために、日本史を捏造する作業を行った。
33章で記載したように、大友族の族長・猿麻呂から、彼の長男・猿若が個人的
な悩みを持っていることを聞いた。猿若君は上記の事業に若手として大活躍し、日
本国の将来を担う人材として大いに期待されていた。最近(4世紀の日本)、猿若
君は粟の国・猿田彦神社の奥院で不思議な枕を発見した。猿若君がこの枕で眠ると、
夢の世界で彼は古代エジプトのラムセス2世の時代に移動し、そこで奴隷として使
役されているイスラエール民族の神官・モースになっているそうである。
イスラエール民族の人口は千人余りで、奴隷から解放されて故郷のカナンに帰る
ことが悲願であった。しかし、民族神・エホバは全く沈黙していて、神官・モース
としては手の打ち様がなかった。
35章で記載したように、猿若君が眠りから覚めてこちらの世界(4世紀の日
本)に帰ってきた時に、私(著者の角茂谷繁)は彼に次のような助言を与えた。①
神が沈黙していても、神官・モースとしては神からの啓示があったとイスラエール
民族を欺いて、強力に指導すること。②神に祈願するだけでは、民族の悲願は達成
できない。自助努力が必要だ。③ラムセス2世はヒッタイトとの戦争を計画してい
1
る。ラムセス2世はヒッタイト王に騙されて窮地に陥るので、神官・モースは傭兵
部隊を率いてラムセス2世を救出する。④そうすれば、ラムセス2世はイスラエー
ル民族を奴隷から解放して、カナンに帰ることを許可するだろう。その際には、ラ
ムセス2世と契約を結び、王の在位中にはイスラエール民族に密かに食料を供給す
ることを約束させる。⑤私に憑依していた神Bは神官・モースに大変興味を持った。
そこで、神Bは幻覚になって猿若君と一緒に古代エジプトに行って、神官・モース
に助言を与える。
37章で記載したように、夢の世界で神官・モース(4世紀の日本では猿若君)
は私(著者の角茂谷繁)のシナリオ通りに行動した。その結果、紀元前 1270 年頃、
ラムセス2世はイスラエール民族を奴隷から解放してカナンに帰ることを許可し、
食料支援も約束した。神官・モースはこの成果を、絶対神・エホバの恩恵であると
スラエール民族に高々と宣言した。
38章で記載したように、夢の世界で神官・モース(猿若君)は、「出エジプ
ト」の放浪期間も私のシナリオ通りに行動した。私(著者の角茂谷)は猿若君に、
「本当はエホバ神は存在しないのだが、モースである君はイスラエール民族を統治
する方便として、エホバ神から啓示を受けたように振る舞いなさい」と指示した。
神官・モースは、イスラエール民族に「私はシナイ山頂でエボバ神の臨在を得た。
神は十戒を石版に彫って、私にお与えになられた。これが、その石版である。お前
たちが神の十戒を守れば、カナンの地を得るであろう。守らなければ、お前たちは
滅び去るであろう。」と嘘をついて、彼らを騙した。
紀元前 1230 年頃に、カナン地方でやや大きい地震が発生した。都市国家エリコは
地震で大被害を被った。モース(猿若君)はイスラエール民族を率いてエリコを人
道的に救援したので、エリコ王は感激してエボバ神に帰依した。エリコの見事な復
興ぶりを見て、カナンにあった他の多くの都市国家も先を争ってエホバ神に改宗し
た。このようにしてイスラエール民族はカナン地方に定住することが出来た。モー
スはイスラエール民族の全員を集めて、皆に次のように高らかに宣言した。
神官・モース「神は我らイスラエール民族の信仰を善しとされ、乳と蜜の流れる
地・カナンを我らにお与えになられた。私は使命を果たすことが出来たので大変嬉
しい。じゃが、私は老齢になったので引退する。後は、ベンダサンの子イザヤに託
する。ベンダサンとイザヤは、私の書記を長年に渡り務め、我が一神教と私の律法
を真髄から理解しておる。ベンダサンが先に亡くなったのは残念だが、皆はイザヤ
の指導に従い、神との契約をしっかりと守って行くように。我らイスラエール民族
に、神の祝福と平安あれ。」
以上が、前回(38章)までの荒筋である。私(著者の角茂谷繁)が猿若君から、
神官・モースに率いられたイスラエール民族がカナンに定住した経緯を聞いた夜、
神Bが私の夢枕に現れた。神Bと私は次のような会話をした。
神B「おはっよーん。」
私「あなたと神Aさんのお遊びはいいかげんにして下さい。早く、妻の静香の所に
返して下さい。」
2
神B「まあ、まあ。そんな事言わんで、もうちょっとわてらのテンゴに付き合って
や。ほんまは、君は片岡熊子に刺されて死んでしまう運命やったんや。そこを、わ
てが助けてやったんやさかい、感謝してもらわなあかん。君も、おもろい経験を仰
山して、楽しかったんとちゃうか?」
私「まあ、多少は面白かったけれど、いつになったら、妻の所に返してくれます
か?」
神B「そのために、わてがいま来たんや。猿若君にモースの役をやってもらったん
やが、彼にはそろそろ重荷のようや。ほんで、彼には日本国建国の事業に復帰して
もらいまひょ。夢の世界での今度の仕事は、ちょっとばかり大変や。そやさかい、
君に代わってもらいたいんや。」
私「私にどうしろと、言うのですか?」
神B「それは簡単や。今日の夜は、猿若君の代わりに君が不思議な枕で寝てくれへ
んか。夢の世界では、わてらが君をうまく誘導するさかい、君は思うがままに行動
すればええんや。そうすれば、君をじきに奥さんの所に帰してあげるさかい。」
私「本当ですか?また、あなた方は私をまたオチョクル魂胆でしょう。」
神B「わてらは君をオチョクッタことはなかったやろ。わてらは神様やさかい、い
つも誠心誠意に行動しとるで。ともかく、わてらを信じなはれ。」
私「私には、それしか出来ないのですから。あなたの指示に従いますから、早く妻
の所に帰して下さい。」
神B「分かったさかい、君もよろしく頼みまっせ。それでは、夢で会いましょ
う。」
私は以上のような夢を見て眼が覚めた。隣で寝ていた猿若君も変な夢を見たそう
だ。私は彼が見た夢の内容を聞いてみた。
猿若「昨夜は、更に変な夢を見ました。夢の世界で今度は、私はマルヤム館という
家に住むイーサーという少年になっていました。」
私「これまでは、君は夢の世界でイスラエール民族の神官・モースになっていたの
に、急に違う人物に変わったので、事情が分からんなあ。先ず、イーサー少年が住
んでいる国と時代を教えてちょうだい。」
猿若「イーサーはユダという国に住んでいます。ユダ国は、モース時代にはカナン
と呼ばれていましたが、どうしてユダ国になったのでしょうか?ユダ国は、ロマ帝
国に占領されています。ロマから派遣されたユダ提督の監視の下で、ユダ人売国奴
のヘロデ王がユダ国を支配しています。私が夢の世界でイーサーになっていた時に
は、ロマ帝国の皇帝はアウグストーストです。」
私「なるほど。事情は分かったよ。アウグストーストはロマ帝国の初代皇帝で陰険
な男だよ。彼の在位は、紀元前 27 年から紀元後 14 年だよ。モースに率いられたイ
スラエール民族がカナン地方に定住したのは紀元前 1230 年頃だから、モースの時代
からイーサーの時代までの歴史を説明してあげよう。イスラエール民族のダビデ王
がカナン地方を統一してイスラエール王国を建国したのが、紀元前 1000 年頃だ。ダ
ビデ王の息子のソロモン王は贅沢三昧の生活をしたので、彼が亡くなった紀元前
922 年には、イスラエールの十二支族は二つに分裂したのだ。北の十支族は北イス
ラエール王国を建国した。南の二支族のユダ族とベニヤ族はユダ王国を建国したの
だ。北イスラエール王国はエホバ神の十戒を守らず、国は混乱していた。そのため、
北イスラエール王国は紀元前 722 年にアッシリア帝国に滅ばされた。」
3
図 39.1
イスラエール王国
の南北分裂(紀元
前 922 年)。
北は北イスラエー
ル王国、南はユダ
王国。
ガレリア湖
ヨルダン川
死海
猿若「それで、26章に記載されているように、十支族の一部はダビデ王族に率い
られて、紀元前 300 年ころ、契約の箱(アークと呼ばれ、神が十戒を書いた石板を
納めていると言われている。)を持ってシナの山東半島に到着したのですね。」
私「その通りだ。ダビデ王族の一行がカナンからシナまで来る間に、名前の無い神
(エホバ神とも呼ばれた)を天の神、自分達の民族をヤマト族と呼ぶようになって
いた。ヤマトとはイスラエール語で、神の民と云う意味だ。27章に記載されてい
るように、紀元 301 年5月4日早朝に巨大地震が粟の国と淡路の国の中央構造線上
に発生した。その当時、粟の国に居たヤマト族は大被害を被った。28章に記載さ
れているように、私の提案に従ってヤマト族は禍を転じて福とするために、天孫族
と改名し、基本国策要綱を定めて、日本国を建国することを目指したのだ。」
猿若「その後の事は、私も参加させていただきましたので、よく憶えています。2
9章に記載されているように、角茂谷先生のご指導で大震災からの復興に成功しま
した。それから、30章に記載されているように、先生のご指導の下、紀元 302 年
の5月5日、粟の国の三族(天孫族、大友族、および海部族)の軍隊は、豊葦原の
中つ国を支配していた叛徒の大ムカデ族と長脛彦を鎮圧し、千早山に立て篭もるカ
エ猿13世の一族を救出しました。更に、31章に記載されているように、紀元
310 年5月4日早朝から上之宮の板葺宮殿において、先生が書かれたシナリオに従
って、日本国の建国式と初代天皇の即位式が華々しく行われました。」
4
私「それで、日本国建国の事業が順調に進んでいる最中に、君が変な夢を見るので、
私が君に助言をしているわけだ。」
猿若「はい。先生には大変お世話になっています。35章に記載されているように、
私は大麻山の猿田彦神社・奥院で不思議な枕を見つけたので、それで寝てみると不
思議な夢の世界に行くのです。最初、私は夢の世界では、イスラエール民族の神官
でモースという人物になっていました。イスラエール人は家族を含めて千人くらい
の集団でした。エジプトのベル・ラメセスでラムセス2世に奴隷として、軍馬の生
産や家畜の飼育に使役されていました。モース(私)は先生のお教えに従って、ヒ
ッタイトとの戦争でラムセス2世の命を救いました。その結果、ラムセス2世は紀
元前 1270 年頃に、イスラエール民族が故郷のカナンに帰ることを許してくれまし
た。」
私「それで、神官・モースに率いられたイスラエール民族は、さんざん苦労した後
に、紀元前 1230 年頃にカナン地方に定住できたのだね。」
猿若「北イスラエール王国がアッシリア帝国に滅ぼされて、逃亡した十支族の一部
が天孫族となって、日本国を建国した経緯はよく分かりました。それでは、南のユ
ダ王国はどうなったのでしょうか?」
私「ユダ王国はアッシリア帝国の属国となって滅亡を免れたが、親分のアッシリア
帝国が紀元前 612 年に新バビロニア王国に滅ばされてしまったのだ。そのため、ユ
ダ王国も紀元前 586 年に新バビロニア王国に滅ばされ、ユダ民族の主な人たちはバ
ビロンに連れて行かれたのだ。これが、有名なバビロン捕囚だよ。」
猿若「バビロンに連れて行かれたユダ人たちは、奴隷として酷使されたのでしょう
か?」
私「王族は残酷に殺害されたが、一般のユダ人たちは割合自由に生活させて貰って
いたらしいよ。ユダ人たちはバビロンで世界最先端の文明に接し、自分達の祖国が
滅亡した原因を考えたのだ。」
猿若「それで、どういう結論になりましたか?」
私「自分達の祖国が滅亡したのは、エホバ神の神罰だと考えたのだ。北イスラエー
ル王国やユダ王国では、人々はエホバ神の十戒を守らなかった。ユダ民族がどのよ
うに生活をすれば、神が祖国を再興して下さるかと、考えたのだ。そこで、バビロ
ンの宗教を勉強して、ユダ人たちは聖典を編纂して律法を定めたのだ。このように
して成立した宗教を、バビロニア人はユダヤ教と呼んだのだ。」
猿若「そういう訳だったのですか。どうりで、イーサーの時代のユダヤ教には、膨
大な聖典と煩雑な律法だらけでした。ユダヤ教にも不審な問題がありますが、先ず
は、バビロン捕囚の後に、ユダ民族はどうなりましたか?」
私「そこで、救世主が現れたのよ。ペルシア帝国のキュロス2世が、紀元前 538 年
に新バビロニア王国を滅ぼして、バビロンに捕囚されているユダ人たちを祖国に帰
してくれたのだ。」
猿若「ユダ人たちはユダヤ教を整備して、エホバ神を敬ったから、祖国が復活した
と考えたでしょう?」
私「そうだね。復活したユダ王国はペルシア帝国の属国であったが、自治は大幅に
認められていたようだ。ところが、ギリシャの山奥にマケドニアという野蛮国があ
って、そこの酋長のアレキサンドロス(BC356-BC323)が紀元前 330 年にペルシア帝
国を滅ぼしてしまった。」
猿若「一難去って、また一難ですね。」
5
私「そうなんだ。獰猛なアレキサンドロスは、西はギリシャから東はインダスまで、
北は黒海から南はナイル川まで征服して、大帝国を作ってしまった。これらの地域
には野蛮で卑猥なギリシャ文明が流入して来て、多くの先住民族が迷惑をした。そ
こで、アレキサンドロスがバビロンに凱旋した紀元前 323 年に、ある愛国者が彼を
暗殺したのだ。」
猿若「それはよかったですね。ユダ王国はどうなりました。」
私「酋長のアレキサンドロスが 33 才で暗殺された後は、彼が征服した領土は彼の部
下たちが支配した。しかし、部下たちは互いに仲が悪かったので、ユダ王国は彼ら
の間をうまく泳いで、なんとか国体を護持することができた。」
図 39.2
ヘレニズム時代(BC323-BC30)のオリエント諸国。
猿若「しかし、イーサーの時代にはユダ国はロマ帝国に征服されていました。ロマ
帝国とはどんな国ですか?」
私「ロマが紀元前 753 年に建国された時には、イタリアの小さな都市国家に過ぎな
かった。そのロマ国はだんだんと勢力を拡張して、紀元前1世紀には地中海沿岸を
征服してしまったのだ。ユダ国にはヘロデという売国奴がいて、紀元前 37 年にロマ
帝国の援助でユダ国王になったのだ。」
猿若「ヘロデ王は、虎の威を借りるキツネのような卑怯者ですね。これも神罰の結
果ですか?」
私「神罰までは行かないが、神の警告だね。これからのユダ民族の努力しだいで、
ロマ帝国の支配を打ち破って独立を勝ち取るか、それとも逆にロマ帝国に滅ぼされ
てしまうかの分岐点だね。」
猿若「それじゃ、イーサーの時代はユダ民族にとっては、まさに生きるか死ぬかの
危急存亡の秋(トキ)ですね。」
私「まさに、その通りだよ。そこで、君の代わり私がイーサーの時代に行くように、
神Bが言っているのだ。」
猿若「先生が私の代わりにユダ国に行って下さるのは、大変有難いです。私はユダ
民族の問題はどうでもよいのです。日本国建国の事業に早く復帰したいのです。」
6
以上のような経緯で、私が猿若君に代わってイーサー時代のユダ国に行くことに
なった。日本国の初代天皇と高位高官の人々が私の送別会を開いてくれた。
武内宿禰(旧名:ヨセフ、徐福)「本日は、角茂谷繁君が急に猿若君に代わってイ
ーサー時代のユダ国に行くことになりました。本日は、シゲルにご縁のある方々に
お集まりいただき、ささやかでは御座いますが、送別会を開催したいと思います。
先ず、陛下からお言葉を賜ります。」
初代天皇(旧名:ソロモン38世、伊波礼彦)「本日、シゲル君が急に日本国を去
ることを聞いて、朕はさびしい。いつまでも、居て欲しかった。思えば、過日の大
震災の折、我らヤマト族は粟の国で大被害を被り、進退窮まり神に見棄てられたか
と観念しておった。その時に、シゲル君がどこからともなく現れ、大震災からの復
興に骨を折ってくれたのみならず、禍を転じて福となせと励ましてくれた。その結
果、天孫族と改名した我が民族は、日本国を建国することに成功した。朕も初代天
皇に即位することができた。朕思うに、神がシゲル君に化身して降臨され、我らに
約束の地を与え賜もうたのではなかろうか。」
息長帯比売(旧名:マリア、日巫女)「ワチキも陛下のご意見に賛成でござんす。
シゲルさんには、お眼にかかったときより、気高い神性がござんした。ワチキは、
エホバ神と天照大神とシゲルさんは、三位一体の神であらしゃると、思うざん
す。」
武内宿禰「陛下。臣は伊勢にエホバ神と天照大神と角茂谷繁の命の三位一体の御神
体を祭る神社を建立し、以て皇室と日本国の弥栄を祈願いたしたく存じます。」
初代天皇「それは良い。宿禰よ、よきにはからえ」
武内宿禰「はい、陛下。畏まり仕りました。」
海部米吉(旧名:亀島の米吉)「大地震の前日に、繁殿が亀島に来られた時には、
わしは、繁殿は得体の知れぬ若者だと思った。しかし、なんとなく神秘性を感じた。
その時は、三位一体の神様がご降臨されたとは、夢にも思わなんだ。」
シンドバット船長「おれも大地震の前日に繁君に会って、ヤマト族の歴史を説明し
た。繁君の知性の深さには驚いた。三位一体の神様だったのなら、納得が行く。」
大友猿麻呂(旧名:板東猿麻呂)「繁殿。息子の猿若の件では大変お世話になり申
した。お陰で、息子はノイローゼが治り、格段に成長しました。又、繁殿は我々に
猿又彦の教義は間違っている、と即座にご指摘いただきました。三位一体の神様に
ご教示をいただき、誠に有難く存じました。」
忌部健(旧名:空の大酋長タケル)「陛下と繁殿が空の郷に来られた時の感激は、
今でも思い出深いぞなもし。あの時にお二人からいただいた雛入りゆで卵の味は格
別だったぞなもし。」
山之下の清目(旧名:大ムカデ族の族長・長脛彦)「わては天子様に反抗して、殺
されても文句をいえへん立場やった。そこを、繁殿がとりなしてくれはって、この
世の穢れを浄化するという重要な任務を与えてくれはった。」
初代天皇「清目。ガタロのテツは居ないじゃないか。」
山之下の清目「へい、陛下。テツは今、関東で植民村の建設場所を探しております
ねん。」
初代天皇「あっそう。よきにはからえ。出雲族の須佐之男はどうした?」
武内宿禰「はい、陛下。須佐之男殿はヤマタノオロチと戦闘中でござります。」
初代天皇「あっそう。どちらが勝っても、朕には関係ない。元蟹族の蟹麻呂はどう
した?」
7
海部米吉「はい、陛下。蟹麻呂は佐渡で蟹漁に励んでおります。奴はわしらとの約
束を馬鹿正直に守って、わしらが奴に与えたガラス玉と同じ重さの金塊を、奴は毎
年献上いたしております。」
初代天皇「あっそう。それはよかった。角茂谷繁の命とは長年の朋友であった。今
日で別れになるのは寂しいのう。」
私「私も伊波礼彦や徐福をはじめとして、日本国の者たちとは名残惜しく思う。皆
が、私の言葉を忘れないようにして、日本国をますます発展させることを希望しま
す。最後に言っておくが、人民は国の宝ですから、為政者は人民に奉仕して決して
を人民を搾取してはいけません。では、ガンバロウを三唱しましょう。徐福、音頭
を取って下さい。」
武内宿禰(旧名:徐福)「角茂谷繁の命様のご指名により、ガンバロウを三唱しま
す。日本国と日本人民のために、ガンバロウ! ガンバロウ! ガンバロウ!」
全員「日本国と日本人民のために、ガンバロウ! ガンバロウ! ガンバロウ!」
ガンバロウ三唱の動画は、次のサイトをご覧下さい。
http://www.youtube.com/watch?v=WnGrrmxwsv0
このようにして、私の送別会は終わった。私がイーサー時代のユダ国に行く前に、
猿若君から向こうの情報を聴取した。
私「そもそも、イーサーとは何者ですか?」
猿若「イーサーは 12 才の少年です。」
私「イーサーはどこに住んでいますか?」
猿若「イーサーはガレリア湖畔のナザレ村にあるマルヤム館という城のような大邸
宅に住んでいます。」
私「マルヤムとかイーサーとかの名前はユダ風ではないね。」
猿若「ユダ風の名前は田舎臭いので、マルヤム館の人たちは外国風の名前を使って
います。ユダ風の名前では、マルヤムはマリアで、イーサーはイエスです。」
私「成程。マルヤム館にはどんな人たちが居るの?」
猿若「マルヤム館には百人余りの人たちが住んでいます。半分は成人男女で、半分
は老人と子供です。老人は子供に教育をしています。成人男女は仕事をしています。
又、マルヤム館に住む半分は自由身分のユダ人たちで、残り半分は奴隷です。」
私「ほう。成人男女はどんな仕事をしているの?」
猿若「男性は大工の仕事をしています。ユダ国には木が少ないので、大工と言って
も仕事は石工です。城や邸宅の建築や、橋や道路の建設をしています。女性は家事
をしていますが、飲食業や宿屋もしています。主な客は、ロマ帝国の将兵、ヘロデ
王の将兵、ユダの商人、ユダヤ教の聖職者、それに旅の商人です。」
私「それじゃ、マルヤム館では自由人と奴隷とはどう違うの?」
猿若「自由人と奴隷は同じ仕事をしています。しかし、自由人はユダ人主人の一族
と彼らの子供たちです。奴隷は金で買われた男女と彼らの子供たちです」
私「マルヤム館は、随分と大規模な事業をしているね。ところで、イーサー少年の
親はどんな人なの。」
猿若「イーサーの母親はマルヤム館の女主人のマルヤムです。彼女は大変な美人で
すよ。父親はマルヤム館の婿養子のユースフということになっています。ユダ風で
8
は、ユースフはヨセフです。彼はダビデ王の末裔で、ユダヤ教の高名な学者です。
しかし、イーサーの実父はパンテラというロマ軍の百人隊長です。パンテラ隊長は
時々マルヤム館に来て、ロマ軍の土木工事をマルヤム館に持って来ているようです。
その都度、パンテラはユースフから賄賂をたらふく貰っているようです。」
私「それじゃ、イーサーはロマ人とユダ人の混血児ということになるが、どちらに
似ているの?」
猿若「イーサーの容貌はロマ人そっくりで、周りのユダ人の顔とは似ていません。
イーサーはマルヤム館での愛称で、彼はロマ帝国の市民権をマルクス・エンゲル
ス・パンテラという名前で持っています。」
図 39.3 左:イーサーの肖像画によく使われている顔。このような顔は、中東人で
はなく、欧州人の風貌である。右:紀元前後のユダ人の頭骨から復元された顔。当
時のユダ人はこのような風貌であったと思われる。
私「それで、イーサーはロマの多神教徒なの、それともユダヤ教徒なの?」
猿若「イーサーは養父ユースフからユダヤ教を勉強しています。しかし、彼はユダ
ヤ教には色々と疑問を持っているようです。」
私「具体的にはどんな疑問?」
猿若「モース時代には、神との契約として十戒しかなかったのです。ところが、イ
ーサー時代の聖典には、神の天地創造、ノアの洪水、バベルの塔、アブラハム契約
などモース以前の事件が沢山含まれています。」
私「それらは、ユダ人のバビロン捕囚の時代に、ユダ人がバビロニアの宗教を模倣
して、ユダヤ教に箔を付けようとし付加したからだよ。」
9
猿若「なるほど。しかし、その証拠がありません。イーサー時代の聖典にもモーゼ
の出エジプトがありますが、私が神官・モースとして行動した内容とは随分違って
います。」
私「具体的には?」
猿若「聖典のモーゼの出エジプト記では、モーゼは 200 万人ものイスラエール民族
を率いて、エジプトを脱出したそうです。エジプト王の気が変わって、王は戦車部
隊でモーゼたちを追撃したそうです。モーゼたち 200 万人は海に追い詰められまし
た。そこで、神は奇跡を起こして海を裂き退路を作って、イスラエール民族を救っ
たそうです。しかし、200 万人もの人たちの全員が、海中の退路を通過して逃げる
のには、何日もかかるはずです。その間に、イスラエール民族の大部分はエジプト
軍に虐殺されちゃうのではないでしょうか。」
私「実際の千人余りの人数が、200 万人にも増えたのもバビロン捕囚時代に誇張さ
れた数字だよ。他に問題はあるの?」
猿若「沢山あって、きりがありません。でも、私が一番納得出来ないのはヨシュア
の残忍行為です。聖典では、神はヨシュアをモーゼの後継者に指名しました。ヨシ
ュアに率いられたイスラエール民族は残虐非道な手段でカナン諸国を征服したこと
になっています。例えば、イスラエール軍はエリコの堅固な城壁を囲んで、大声で
叫びました。すると、神は奇跡を起こして城壁を崩しました。イスラエール軍はエ
リコの街に雪崩込んで、内応者の一家を除いて、総ての人々を聖絶したそうです。
エホバはこのように情け容赦のない残忍な神なのでしょうか。実際のモースは、極
めて人道的な方法で、カナンの諸都市をエホバ神に改宗させたのですが。」
私「イスラエール民族の出エジプトは、実は2回あったのだ。エジプトの第 17 王朝
のイアフメス王(在位:紀元前 1570 頃-紀元前 1546 頃)が下エジプトからヒクソス
を追い出してエジプトを再統一した時に、数千のヒクソス軍勢は、ヨシュアに率い
られてカナンに逃亡した。これが第1次の出エジプトだ。紀元前 1270 年頃、ラムセ
ス2世はモースに率いられた千人余りのイスラエール民族を奴隷から解放して、カ
ナンに帰ることを許可した。これが第2次の出エジプトだ。バビロン捕囚時代のユ
ダ人たちは、エホバ神が本気になれば、奇跡の力でイスラエール民族を助けてくれ
る、との願望を抱くようになったのだ。その実例として、二回の出エジプト事件を
一回に統合して、神の凄絶な聖絶物語に作り変えたのだ。」
猿若「なるほど、そうでしょうね。しかし、その証拠がありません。先生がイーサ
ー時代に乗り込んで、真実を究明して下さい。」
私「イーサー時代のユダヤ教が、どうしようもなく悪い状況にあることがよく分か
った。改革の必要が、大いに有りそうだ。」
猿若「私もそう思いますが、私には出来ません。是非、先生のご出馬をお願いしま
す。」
以上のような経緯で、私はその夜、猿若君の代わりに不思議な枕で眠り、夢の世
界でイーサー時代のマルヤム館に赴いた。次の40章からは、私がイーサー時代の
マルヤム館に乗り込んだ時の出来事を紹介する予定である。
(39章は、2013年10月6日に執筆完了。)
10