No.127 インドネシアの銅産業 主任研究員 宮川 昌樹 (要約) 1. インドネシアは、大航海時代のオランダの支配地域がほぼ現在の国土と一致する。現在 のインドネシア共和国が成立したのは、第二次世界大戦後の独立戦争による。 古くは仏教、ヒンドゥー教が伝来したが、インド・パキスタン方面のイスラム商人を中心とし た海洋都市国家による香料貿易の影響により、インドネシアの大部分がイスラム化した。 インドネシア共和国の成立後、スハルトが経済破綻・共産主義拡大等の混乱を収束して 独裁政権を確立し、開発独裁型の経済政策によって ASEAN の盟主と呼ばれるまでに 経済が成長した。 アジア通貨危機によって最大の影響を受けて国家財政が危機的状況に陥り、腐敗と硬 直化への国民の不満から、スハルトは退陣に追い込まれた。過渡期的な政権を経てユド ヨノ政権が誕生し、本格的な経済政策を取りうる体制となった。 2. インドネシアの銅資源は、小規模な鉱床は多数存在するが中・大規模なものは現状、 2,3 箇所のみである。今後、更なる大規模鉱床が発見される可能性もあるが、鉱山開発 による自然破壊や地域住民の健康被害と利益確保に対する意識の高まりから、大規模 鉱山開発には大きな障害を伴うことも予想される。 インドネシアの銅鉱山企業は、米国フリーポート・マックモランの現地法人であるフリーポ ート・インドネシア社グラスベルグ鉱山と、米国ニューモントと日本の住友商事が中心とな って出資しているニューモント・ヌサ・テンガラ社バツ・ヒジャウ鉱山の 2 箇所であり、いず れも外資系である。インドネシアに膨大な外貨収入をもたらす一方で、環境問題や地域 住民とのトラブルも発生している。 3. インドネシアの銅製錬業は、三菱マテリアルとフリーポート・インドネシアを主体に設立さ れたピーティー・スメルティング社グレシック製錬所のみである。この会社はグラスベルグ の鉱石を主体に操業を行っている。インドネシアで生産される銅鉱石から国内の電線産 業に銅を供給することで、国内における銅の流れを繋ぐという重要な役割を持っている。 国内消費分以外の電気銅は、アジア地域に輸出されている。 4. インドネシアの電線産業は、外資系及び外資導入企業による寡占化が進んでおり、地 元の中小電線企業は技術力・コスト競争力で対抗できない。外資系は銅価格高騰・ルピ ア下落に対して輸出比率を増加させることで対応しているが、地元企業は輸出するため の品質・組織・ノウハウに乏しく収益と規模の格差が広がっている。 1 5. インドネシアの伸銅産業は、他の東南アジア諸国に比べて発展していない。その理由は、 工業団地が集中するジャカルタ地域が地理的に東南アジア諸国と近く、伸銅中間品の 発達した地域から容易に母材・部品を入手することが可能なためと考えられる。さらに、 アジア通貨危機後の政治的混乱、投資に関する法体系の整備の遅れ、契約の履行遵 守についての考え方の違い、勤労意欲に対する国民性の違いなど、複数の要因が考え られる。 6. インドネシアの銅スクラップ産業は、規模が小さく実態がつかみにくい。人件費が安いに もかかわらず、中国のように大規模に銅スクラップ・雑品スクラップを海外から購入して分 別、回収を専門的に行うリサイクル拠点は見当たらない。伸銅産業が発展していないた めに新スクラップ(工程屑)の発生量も少ないと考えられる。 銅スクラップの大半はバルブ、建具等の一般鋳造品に使用されていると考えられる。地 元系の電線会社においては、銅スクラップを国内向け電線の原料に使用することもある と言われており、品質差による外資系電線会社との経営格差拡大の原因にもなってい る。 7. インドネシアのワイヤーハーネス企業は、日系自動車企業の進出に伴ってインドネシア に進出し、あるいは東南アジアの生産拠点として位置付けられている企業が多数存在す る。 8. インドネシアの銅の主要需要先は、電線・情報通信・自動車関連企業である。銅価格高 騰・ルピア下落・石油価格高騰により国営電力会社である PLN の財務状況が悪化して おり、国内需要が低迷している。反対に海外向輸出については、アジアの好景気によっ て好調な状況となっている。 9. インドネシアの銅産業全体についての概観は、上流から下流までの鉱山、製錬、電線、 伸銅が国内で垂直方向に完結した形にはなっておらず、東南アジアの銅産業との水平 な物流がかなりの役割を占めている。この理由は、①ジャカルタが地理的に東南アジア 諸国に近い、②インドネシアの国内銅需要の成長が遅れている、③各産業に外資系企 業が多く、それらの企業がインドネシアの製造拠点を世界戦略の中で位置付けている、 ④AFTA による生産分業が進んでいる可能性、等が考えられる。 2
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