2部 黒毛和種にみられた不明微生物によると思われる急性気管支間質性肺炎 中央家畜保健衛生所 ○早稲田 万大・橋本 哲二・濱口 芳浩ほか 県南家畜保健衛生所 元村 泰彦・鈴田 史子 本年9月、県内の家畜市場より中央家保管内に導入され、翌日に急死した2頭の肥育素牛 (症例1、2)および昨年12月、発病翌日に急死した県南家保管内の2頭の肥育牛(症例3、 4)において同一の臨床症状および解剖所見がみられ、病理組織学的検査の結果、不明微 生物によると思われる急性気管支間質性肺炎と診断されたので、その概要を報告する。 1 材料および方法 10%中性緩衝ホルマリン固定臓器を用いパラフィン包埋切片を作製後、ヘマトキシリン ・エオジン(HE)染色、過ヨウ素酸シッフ(PAS)反応、グラム染色、グロコット染色、 抗酸菌染色、真菌用蛍光染色、免疫組織化学的染色(IHC)および電子顕微鏡検査による 検索を実施した。また、症例3、4の同居牛血清由来および本例と同様の病原体が未確認の 牛血清由来ビオチン化牛IgGを用い、肺炎組織に対する反応性の検討を実施した。 2 結果 解剖では全例に共通して気管、咽喉頭部の出血および小葉間肺気腫が認められた。HE染 色では気管支、細気管支および肺胞腔内において、好酸性酵母様物の集簇と高度な好中球 浸潤が認められた。肺胞中隔はうっ血を伴い軽度に肥厚し、硝子膜の形成が認められた。 酵母様物はPAS反応およびグロコット染色陽性、グラム染色不染性、抗酸菌染色および真 菌用蛍光染色陰性を示し、抗 Pneumocystis carinii家兎血清(動衛研)を用いたIHCでは、 抗原は認められなかった。酵母様物は透過型電子顕微鏡検査において不定形で大きさ4μm 前後の構造物として観察され、細胞壁を有し、核膜および芽胞は認められなかった。走査 型電子顕微鏡検査では角張った多面体として観察され、個々が密に接する城壁様を呈して いた。ビオチン化牛IgGの反応性の検討では、全例において好酸性酵母様物は陽性を示し た。 3 まとめ 好酸性酵母様物は特殊染色、IHCの結果から真菌および P.cariniiiは否定的であり、電 子顕微鏡検査結果より原核生物と推察され、ビオチン化牛IgGの反応性の検討では、好酸 性酵母様物が体内に常在している可能性が考えられた。今回、好酸性酵母様物はグラム染 色不染性で細胞壁を有することから、原核生物の一つである古細菌の可能性が示唆された。 しかしながら、大腸菌等の真正細菌とメタン生成菌等の古細菌を形態のみで区別するのは 困難であり、両者の大きな違いである細胞膜脂質を調べるには、分子生物学的な検査が必 要であることから、今回特定には至らなかった。古細菌の一つであるメタン生成菌は動物 やヒトの消化管にも常在しているが、現在のところ古細菌に病原性はないとされており、 今回肺にみられた好酸性酵母様物が古細菌と同定されれば非常に稀な症例である。今後は 呼吸器症状を呈した後、急死の転帰をとる肥育牛事例に遭遇した場合、出来る限り病理組 織学的検査を実施し、同様の病原体が確認されないか調査していきたい。
© Copyright 2024 Paperzz