出典:「月刊 ビジネスアイエネコ」 2011年8月号 17 シンクタンク・ソフィアバンク 副代表 ふじさわ く み 藤沢 久美 国 内 外 の 投 資 運 用 会 社 勤 務 を 経 て、 1996 年日本初の投資信託評価会社を 起業。2000 年シンクタンク・ソフィア バンクの設立に参画。現在、副代表。 法政大学大学院客員教授。金融審議会 委 員など公 職も多 数 兼 務。国内外の 1000 社を超える企業経営者のインタ ビューと現場の取材を行い、経営と経 済をテーマに、テレビや講演など各種 メディアを通じて発信中。 不毛な「脱原発」 「原発推進」の二項対立 二項対立を煽るメディア を明言している。では、この 4 本柱 対話を行うと同時に、そのすべてを 東日本大震災を経て、日本のエネ をどのような割合を目標として、ど インターネットの動画中継で生放送 ルギー政策に注目が集まっている。 のようなスケジュールで進めていく し、さらに、視聴者からリアルタイ メディアの中には、エネルギー政策 のかを議論し、定めていくことが、 ムで短文投稿サイト「ツイッター」 の選択を「脱原発」と「原発推進」と いま求められることである。 を活用して意見や質問を受け付ける というものだ。 いう二項対立にし、面白おかしく政 参加した有識者は、環境ジャーナ る。国民一人ひとりの生活に直結す 国民が考えるための材料提供 の場 る重要なエネルギー政策を、原発と 前述の通り、メディアを通じて提 本代表監督の岡田武史氏、音楽プロ 自然エネルギーという対立軸を立て 示される情報は、脱原発か原発推進 デューサーの小林武史氏、ソフトバ て単純化し、政局劇にしてしまうこ かという観点からのマクロな議論が ン ク 社 長 の 孫 正 義 氏 で あ り、 米 とは、大変に残念なことである。 多く、国民一人ひとりが自分のこと ニューヨークから音楽家の坂本龍一 政府もいまだその方針が明確とは として考えられるような情報提供が 氏がビデオメッセージを寄せた。 言い難いが、菅直人首相は 5 月下旬 なされているとは言い難い。 当日のインターネットでの生中継 に開かれた主要国(G8 )首脳会議に そこで、一人ひとりの国民が、自 を視聴した人は 10 万人に上り、ツ おいて、エネルギー政策を原子力・ 分たちの生活に不可欠なエネルギー イッターを介した質問やコメントの 化石燃料・省エネルギー・自然エネ についてもっと真摯に、“ 自分事 ” 数は 15 万件を超えた。ネットにあ ルギーの「4 本柱」で進めていくこと として考えるきっかけを提供するこ りがちな誹謗中傷ではなく、建設的 とを目的に、首相官邸において新た な質問や要望が数多く寄せられ、真 な取り組みが実施された。その第 1 摯にこれからのエネルギー政策につ 回は、6 月 12 日の「自然エネルギー いて興味を持ち、考えたいという人 に関する『総理・有識者オープン懇 が多いことを実感させられる結果と 談会』」だ。 なった。 自然エネルギーに関して、広く国 さ ら に、 翌 週 の 6 月 19 日 に は、 民とともに運動や活動を行っている 12 日に回答しきれなかった質問に 有識者らが首相に直接、考えを述べ、 答えるための「自然エネルギーに関 局話として報道しているところもあ 自然エネルギーに関する有識者懇談会に臨 む菅首相(左から 4 番目)と有識者ら = 6 月 12 日午後、首相官邸 42 ENEC0 2011-08 リストの枝広淳子氏、サッカー元日 出典:「月刊 ビジネスアイエネコ」 2011年8月号 .XPL)XMLVDZD する『総理・国民オープン対話』」が けてみた。 つまでに、どの程度の割合に、どの 開催された。原子力政策に対するダ 問いかけは、 「政府が提示してい ような方法で持っていくかを明確に イレクトな質問も数多く寄せられ、 るエネルギー政策の 4 本柱(化石燃 するか、それを決めるための材料で 首相がそれに正面から回答すること 料・原子力・省エネ・自然エネ)に ある。また同時に、2020 年代の早 が実現した。 関して、どう思いますか?」というも い時期に総発電量に占める自然エネ メディアを介して言葉尻だけが引 のだ。最初の選択肢として、 「4 本柱 ルギーの比率を 20%にするという 用され、報道されるのとは異なり、 の割合を変えていくべき」 「原子力を 目標に対しても、それを実現するた 言葉を最初から最後まで聞くことが 除いた 3 本柱でいくべき」 「その他」 めの方法を明確にしていくべきとい でき、視聴者一人ひとりがそれぞれ という3 つの選択肢を提示しておい える。 の価値観と理解力を持って、その言 たが、351 人の方が投票に参加して そしてそれについては、政府だけ 葉の価値判断をする機会となったこ くださり、表のような結果となった。 ではなく、経済を支える企業からも、 とは、 画期的なことであったと思う。 いくつかの選択肢を回答者らが新 国民に対して、判断材料となる意見 設してくれたため、筆者の責任でそ や情報が積極に出されるべきであ の選択肢を表の通り分類し直した。 る。自然エネルギーが実用化される 国民は現実的に考えている さて、官邸でのオープン懇談会や 「原子力を除いた 3 本柱で進める」へ までに長い年月が必要なのは、誰も オープン対話では、国民からの意見 の投票が最も多いが、内容をよく見 が分かっていることだ。そのために、 や質問を集め、多くの成熟した国民 ていただきたい。そのうちの 7 割以 いま何ができるのか、そして、将来 と触れるきっかけとなったわけだ 上が原子力発電を段階的に減らして に向けて、どのようなエネルギー社 が、 メディアの世界では相変わらず、 いくことを前提にしており、メディ 会を描いていくべきなのか、その社 「自然エネルギー解散」 「原発解散」 アで議論されるような、即刻、原発 会を実現するために、企業ができる という二項対立的な話題が花盛りで をやめるべきと考える人は多くな こと、国民ができること、そして政 ある。そこで、ソーシャル・ネット く、極めて現実的に考えている人が 府が取り組むべきことは一体何か。 ワーキング・サービス(SNS ) 「フェ 多いのではないかと推察される。 政局や二項対立といった幼稚な議 イスブック」の筆者のページで、エ つまり、いま政府が提示すべき情 論をやめて、こうしたことこそ議論 ネルギー政策に関する投票を呼びか 報は、原子力と化石燃料の割合をい していくべきだと思う。 筆者がフェイスブック上で行ったエネルギー政策に関する投票の回答 問い 政府が提示しているエネルギー政策の 4 本柱(化石燃料・原子力・省エネ・自然エネ)に関して、どう思いますか? 原子力を除いた 3 本柱で進める 194 まず原子力をいつまでに廃止するか定めることこそが重要!そしてその目標に向かい情勢に応じてバランス 106 よく適切に原子力を減らしつつ他の 3 本を急いで推進するべき 4 本柱ではなく、原子力を除いた 3 本で進めるべき 49 原子力発電は古い施設から順次廃炉にする。自然エネルギーを主要エネルギーに位置づけ、以下バイオマス 39 など省エネ化、化石燃料はゆくゆく非常時専用の設備に位置づける 4 本柱で進める 85 4 本の割合を変えていくべき 64 各エネルギーの利点を最大限に生かし、できうる限り安全に運用する 15 原子力発電の国有化、化石燃料・自然エネルギーによる発電を電力会社が売電し、配電する。徐々に原子力 4 の比率を下げる 排出物の大幅削減が可能な新型原子炉の開発・採用、海外を含めた第三者監査の強化を行うことを前提に 4 本 その他 2 72 調査期間:2011 年 6 月 23 日~ 7 月 6 日 調査場所:http://www.facebook.com/kumi.fujisawa ENEC0 2011-08 43
© Copyright 2024 Paperzz