2013 年 6 月 7 日 音楽堂シリーズ 2013「武満徹と古典派の名曲」【第 2

2013 年 6 月 7 日
音楽堂シリーズ 2013「武満徹と古典派の名曲」【第 2 回】
解説 音楽学者 白石美雪
■武満徹/雨ぞふる
6月というと、関東は梅雨入りである。雨は自然における水の循環をになう重要な要素。雨がふり、川となり、やがて海へ注ぎ、
そこから雲ができて、再び雨がふる。武満にとって絶えることのないこの循環は、絶えることのない生命の象徴だった。
《雨ぞふる》は《雨の樹》、《ガーデン・レイン》など、雨をテーマとしたシリーズの一曲。このシリーズは海や波などをテーマにした他の
作品群と合わせて「水の風景」と題されている。1982 年、ロンドン・シンフォニエッタの委嘱で作曲。オリヴァー・ナッセンの指揮で初
演された。タイトルは E・E・カミングスの詩からの引用だが、詩と音楽に「深い関係はない」(武満自身の解説から)。
アルト・フルートの独奏で始まり、この旋律が室内オーケストラによって繊細な色彩を帯びながら反芻される。さらに「水の風景」で
用いられてきた SEA(海と takemitsu の音名象徴)のモチーフが織り込まれ、まるで庭を気ままに散策しているようにシーンをつ
ないで、全体を構成している。特徴的なのは全曲を貫く大らかな調性感。多くの協和音が犇めき、「調性の海を目指して進む」
(武満)と表現されたハーモニーが透明感のある音調をもたらしている。
■ソッリマ/チェロよ歌え!~2 つのチェロと弦楽のためのバラード~
ジョヴァンニ・ソッリマ(1962-)の名はチェリストとしてご存じの方も多いだろう。イタリアのパレルモで生まれ、ザルツブルクやシュツ
ットガルトで研鑽を積んだ名手。アバドやシノーポリ、アルゲリッチらと共演し、国際的に活躍してきた。作曲家としてはクラシックを基
盤にジャズやロック、ミニマル音楽や電子音楽といった複数のジャンルを横断する作品で個性をアピールしている。
師の口癖からタイトルをつけた《チェロよ歌え!》は彼の出世作で、1993 年に初演以来、ヨーヨー・マやマイスキーら名手によって
再演されてきた。弦楽合奏をバックに 2 台のチェロが対話しながら融合していく。ここでも複数の様式が混在する。全体は6部分
からなり、アンダンテによる弦合奏の序奏、独奏チェロ2台がロックに似たノリでカノン風に動く第1部、テンポを落として独奏チェロ
がロマンティックな楽想を掛け合う第2部、再度、同じ楽想の掛け合いが少し変化しつつ繰り返される第3部、独奏チェロのみで
目まぐるしい楽想を奏でたのち、全合奏の連打へと流れ込み、ときおりミニマル風の音型がきこえるアレグロの第4部、そしてロマン
ティックな掛け合いが回想されるコーダとなっている。
■ベートーヴェン/交響曲第6番ヘ長調「田園」
ベートーヴェンの交響曲の中でも第6番「田園」はとりわけ明るく無邪気な雰囲気をたたえている。同時期に作曲された「運命」
交響曲とは対照的に、安らぎへの憧れを表現している。自筆譜には「田園交響曲、あるいは田舎の生活の思い出」というタイトル
が書かれ、この作品に自然の中ですごした子どもの時代の回想が重ねられていることがわかる。各楽章の標題はボンに住んでいた
1784年ごろ、音楽雑誌に掲載されたJ・H・クネヒトの交響曲「自然の音楽的描写」の広告からヒントを得たといわれる。
全体は5楽章からなる大きな作品で、第1楽章「田園についたときに人々のなかに起こる楽しく明るい感情」、第2楽章「小川
の情景」はソナタ形式。第2楽章では終わり近くで、小川のほとりにいる鶯、うずら、かっこうのさえずる声が模倣される。第3楽章
「農夫たちの楽しい集まり」は朗らかで野性味のあるスケルツォ。第4楽章「雷雨、嵐」は全体の中でもとくに緊張感の高い楽章。
稲妻がはしる嵐の様子を描いている。第5楽章「羊飼いの歌。嵐のあとで、神への感謝と結びついた喜ばしい感情」はロンド・ソナ
タ形式で、オーケストラの豊穣な響きに癒される思いがする。
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