商業登記の苦手意識の脱却にむけて~平成26年改正

Vol. 94
特 集
商業登記の苦手意識の脱却にむけて
∼平成26年改正会社法のエッセンスの理解から始めよう∼
会社法研究会座長
【はじめに】
日 高 啓太郎
計画されていますので、通じて参加することや、
商業登記に対して、なぜ苦手意識があるのでしょ
小職が座長を務める会社法研究会をご活用いただ
うか。登記業務として、不動産登記・商業登記が
くことをお勧めします。
両輪となっているにもかかわらず、圧倒的に商業
④については、まず、その法改正のエッセンス
登記に苦手意識を有している方が多い印象をもっ
を掴むことで、苦手意識を薄める手助けになると
ています。
考えています。改正に触れる、改正のエッセンス
一般の方より、会社法の手続について質問があっ
をフォローしているという自負が、商業登記アレ
た際に、不慣れであることを告白した場合(又は
ルギーに対する有効な備えになると思います。で
不慣れであると判断された場合)
、その方にとれば、
は、平成26年改正会社法のエッセンスはどのよう
司法書士はおしなべて会社法の手続について不慣
なものだったのでしょうか。平成26年改正会社法
れではないかと一般化される強い危惧が私にはあ
は、会社法が施行されてから初めての大きな改正
ります。
でした。
司法書士業界をあげて会社法・商業登記の理解
を深めることが、市民一般に司法書士は会社法・
【改正会社法のエッセンス】
商業登記の専門家であると理解いただく大前提で
今回の平成26年改正会社法(法律第90号)につ
あると思っています。一部の司法書士だけが会社
いていえば、監査役の監査の範囲を会計に関する
法・商業登記の専門家を自認するようでは、司法
ものに限定する旨の定款の定めが登記事項とされ
書士に会社法・商業登記について質問しようとい
たことが司法書士業界では注目の的となりました。
う確固たる基盤を築くことはできません。
しかし、立法のうえで、改正会社法の主眼として
なぜ、商業登記に苦手意識があるのでしょうか。
位置づけられていたのは、
「コーポレート・ガバナ
私は、この疑問への答えとその対応について考え
ンス」の強化でありました。
「コーポレート・ガバ
る日々が続きます。
ナンス」の定義自体は会社法にはなく、その定義
をめぐってもいろいろな見解がありますが、一般
【苦手な理由】
には、「企業統治」と訳され、簡単にいえば経営上
その主な理由は、①不動産登記業務よりも受任
の意思決定を管理・統制する仕組みのことです。
する件数が少ないため(特に株式会社の役員の任
司法書士会の意思決定の効率的な仕組みや、その
期が10年に伸長されたことの影響)
、②司法書士業
他団体の意思決定を考えるうえでも十分参考にな
務の広がりで商業登記業務の比重が減り受任する
る議論です。
ことが少ないため、③会社法の莫大な知識のまえ
従来、コーポレート・ガバナンス強化の歴史は、
に理解に自信がないため、④度重なる改正に対応
監査役の権限強化の歴史といわれてきました。例
しきれていない負い目がある、ということが推察
えば、監査役の任期を3年から4年に伸長し、任
できます。
期を長期間安定させることで監査役の権限の行使
③については、研修部より基礎研修シリーズが
を期待することや、監査役の報酬を取締役の報酬
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と別に決定することによって、監査役の独立性を
は、その結果に基づいて、社外取締役を置くこと
確保することを通じて、取締役の監視を促すこと
の義務付け等所要の措置を講ずるものとする。
」と
を考慮してきた歴史がありました。
規定されています。すなわち、新たな会社法の改
しかし、今般の改正は、すこし色が違います。
正がすぐ目の前に来ていることを意味します。
そもそも、取締役会は、取締役の職務の執行の監
督をする権限を有しています(362条2項2号)。
【おわりに】
この権限にフォーカスし、会社と利害関係の少な
日本は、アメリカの経済システムに数十年遅れ
い「社外者」を迎え入れて、代表取締役に迎合す
をとっているといわれることがあります。法改正
ることなく適切な監督機能を期待しようとする視
で注目を集めているコーポレート・ガバナンスは、
点に注目が集まりました。日本の伝統的な会社で
かつてのアメリカ(現在も議論は当然あります)
は、従業員から役員に昇進することが名誉なこと
で議論されていたことであり、その後のアメリカ
と思われているので、役員に引き上げてくれた社
では、会社法制度の観点からは、合併や種類株式
長に対してなかなか社長以外の役員が意見をする
などが隆盛を極めております。この流れが数十年
こと(会社法的にいえば、職務執行の監督)は難
後どころか数年後に、日本にもたらされることも
しいと考えられおり、取締役の監督機能という点
これまでの状況からは考えられ、合併・種類株式
は、絵に描いた餅に陥りがちでした。今般、この
のスキルが当然のものとなることも十分考えられ
社外取締役による監督機能を適切に行使しようと
ます。そこで、会社法・商業登記に詳しいという
着目した点が大きな特色でした。ただし、社外取
ステータスをもつことで、依頼者から引っ張りだ
締役を義務づけようとする動きに対しては、経済
こになる日もくるかもしれません。
界からの激しい反対にあり、結論として、上場企
業に社外取締役の選任の義務化は直接盛り込まれ
ず、社外取締役の効用に着目するその他の改正が
施行されました。
【上場企業向け改正のフォローの必要性】
主眼とされたコーポレート・ガバナンスの改正
は、監査等委員会設置会社という新しい機関設計
が認められたり、社外取締役の要件の改正、社外
取締役を置くことが相当でない理由を開示すると
いう形で決着しました。
これらは、上場企業を想定した内容であり、中
小企業には関係がない印象をもたれているかもし
れません。しかし、中小企業の取引先として上場
会社が登場することはまれでもなく、取引先上場
企業の法律的な問題意識を中小企業の方と共有す
ることも有益です。
今般の会社法改正では、その改正法附則に、
「政
府は、この法律の施行後二年を経過した場合にお
いて、社外取締役の選任状況その他の社会経済情
勢の変化等を勘案し、企業統治に係る制度の在り
方について検討を加え、必要があると認めるとき
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