成人成長ホルモン 医療費の助成制度 (特定疾患治療研究事業) について 分 泌 不全症について 知っておきたいこと 下垂体機能低下症や先端巨大症など間脳下垂体機能障害の治 療のため成長ホルモンや性ホルモンの治療を行っている場合、 医療費の助成制度を利用できます。安心して治療を続けるための [監修] 東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科 高野 幸路 先生 助成制度です。 所得や生計中心者であるかどうかに応じて、病院や診療所の外 来で支払う医療費に「自己負担の月額限度額(0∼11,000円)」 が設定され、 それを超えた医療費は公費負担となります。 制度の概要や手続きについて、詳しくは保険所または都道府県 庁にお問い合わせください。 ※本助成制度にあてはまらない場合、高額療養費制度を利用できることがあります。 治療に使う 「バイオシミラー」 をご紹介します。 [バイオシミラー] OMN1208G-KY 2012年8月作成 遺伝子組み換え技術を利用して製造されたバイオ医薬品のなかで、 既に発売されている医薬品とは異なる方法で製造されたものです。 ヒト成長ホルモン製剤にもバイオシミラーがあり、 有効性も安全性も確認され国の承認を受けて発売されています。 成人成長ホルモン分泌不全症について 成人成長ホルモン分泌不全症の主な症状 体脂肪の増加、筋肉量や骨量の低下 成長ホルモンは、 子どもの身長を伸ばすホルモンとしてよく知ら れています。 しかし成長ホルモンは子どもの時だけ分泌される ホルモンではなく、 一生涯にわたって分泌されるホルモンです。 成長ホルモンには子どもの体を大きくする作用に加えて、 成人 にとっては代謝を調節して体を維持するために不可欠な作用も あることがわかっています。 病気や怪我などで成長ホルモンの分泌が低下したり、 分泌され なくなったりした状態を成人成長ホルモン分泌不全症といい、 治療基準を満たした場合に成長ホルモン治療が行われます。 成人成長ホルモン分泌不全症の主な原因 ■視床下部・下垂体の腫瘍があると診 断をうけた経験がある(下垂体腺 腫、頭蓋咽頭腫、 ラトケ嚢胞など) ■視床下部・下垂体の手術、または頭 部への放射線治療を受けたことが ある ■重症の頭部外傷の経験がある ■出産時のトラブルによるシーハン症 候群 ■出生時の周産期異常(分娩時のトラ ブル)による下垂体の障害 ※原因不明の場合もあります。 1 成長ホルモンは、脂質やタンパク質などの 代謝を維持する働きを持っています。成長 ホルモンが不足すると、脂質の代謝が悪く なるため、体脂肪が増えます。 同時に、タンパク質の合成がへり、タンパク 質からなる筋肉や骨が減ります。骨はカル シウムでできていると思われがちですが、 実はタンパク質も大 切な成分で、代 謝に よって古い骨が少しずつ新しい骨に生まれ かわっているのです。 このように体をつくる体組成のバランスが 悪くなってしまいます。 代謝異常がおこる 成長ホルモンの不足によって脂質やタンパク質などの代謝が変化すると、 その影響で高脂血症や骨粗鬆症、耐糖能異常(糖尿病になりやすい状 態)、動脈硬化症などが起こりやすくなります。 このような病気の状態が長く続くと、心筋梗塞や狭心症などの心臓の重 大な病気になる可能性が高まります。 疲れやすい、気力が出ない 成長ホルモンが不足すると、体力や運動能力の低下を自覚するようにな り、精神面にも影響が現れることが知られています。疲れやすい、気力が 続かない、意欲が出ない、落ち込む、気分が不安定、性欲が低下、冷え性 など、人によってさまざまな症状が出てきます。外出がおっくう、人に会い たくない、働けないなどと日常生活にも支障が出てくることがあります。 2 成人成長ホルモン分泌不全症の診断と治療について 診断の流れ 治療 成人成長ホルモン分泌不全症の治療では、 成長ホルモン治療が行われます。 問診 □ 検査 血液検査や尿検査など 成長ホルモン治療 検査 □ 成長ホルモン分泌刺激試験 成長ホルモンを分泌する力がどのくらいあるかを調べる検査です。 成長ホルモンの分泌を促す物質を注射し、 その後、 血液中に出てくる 成長ホルモンの量を測定するため、 1時間から2時間で数回の採血を します。その間、ベッドで 横になって安静にする必 要がありますが、診断に 不可欠な検査です。 成長ホル モンの分 泌を 促す 別の 物 質を 注 射し て、同様の検 査を2回行 うこともあります。 診断 成長ホルモン分泌刺激試験の検査の結果を踏まえて、 重症の成人 成長ホルモン分泌不全症と診断されると、 成長ホルモン治療の対象 となります。 3 成長ホルモン治療は、 体に不足している成長ホルモンを注射で補 う治療です。 治療に使う 「ヒト成長ホルモン製剤」 にはペン型の専 用注入器があり、 それを使って主治医の指導のもと自分で注射をし ます。 主治医の指示した注射する量や回数 (1週間に6∼7回) に従って、 患者さんは自宅で皮下注射をします。 注射の時間帯としては、 本来 成長ホルモンの分泌が増える夜間が望ましく、 寝る前に注射する ことが勧められています。 注射する部位は、 ふとももの 前 面、お 腹、上 腕 部 など で す。最近は注 射 針が改良さ れ細いため、 注射時にほとん ど痛みがありません。 治療薬 ヒト成長ホルモン製剤(遺伝子組み換えによるヒト成長ホルモン) 投 与 自己注射による皮下注射 投与量・ 回 数 1週間で、体重1kgあたり0.021mgを6∼7回に分け、皮下注 射する。なお、IGF-I(成長因子)濃度によって、投与量を適宜 増減することになっているため、主治医の指示に従う。 4 バイオシミラーについて 成人成長ホルモン分泌不全症の診断と治療について バイオシミラーとは? 安全なの? 遺伝子組み換え技術*1を利用して製造した薬(バイオ医薬品)で、 新薬やジェネリック医薬品と同じように、薬の効きめや安全性を 既に発売されているバイオ医薬品とは製造方法が異なります。 国が厳しく審査*3していますので、安心してお使いいただけます。 *1 遺伝子組み換え技術:生物の持つ機能を上手に利用し、医薬品などを製造す *3 国の厳しい審査:国の審査のために提出する資料は、新薬よりやや少ない量です。 る技術です。糖尿病の治療に使うインスリンなど、 すでに多くの薬がこの技術を利用 して製造されています。 なぜバイオシミラーが必要なの? 薬価 が安いので、厳しい状況にある保険組合や国の支出を削減 *2 することに役立ちます。患者さんが支払うお薬代が安くなる場合 もあります。 *2 薬価:国が決める薬の値段です。 ジェネリック医薬品との違いは? 「あとで」開発された医薬品という点は共通ですが、普通の医薬品 の場合は「ジェネリック医薬品(後発医薬品)」と呼び、バイオ医薬 品の場合は「バイオシミラー(バイオ後続品)」と呼びます。新薬よ り約3割安い薬価です。 *ジェネリック医薬品について http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryou/dl/jene-poster.pdf http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryou/kouhatu-iyaku/dl/22.pdf 3 5 バイオシミラーが発売されているのは日本だけ? 欧米では既に、いくつかのバイオシミラーが発売されています。日本では、 まずヒト成長ホルモン製剤が平成21年9月に発売されました。 4 6
© Copyright 2024 Paperzz