中小企業における資金調達について

平 成 27 年 度 証 券 ゼ ミ ナ ー ル 大 会
第 3 テーマ
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中小企業における資金調達について
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ファクタリング
―中小企業の黒字倒産を回避する資金調達方法―
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福山市立大学
D ブロック
(福山市立大学・原田ゼミナール C
西畑班)
目次
1.
はじめに
2.
中小企業を取り巻く金融状況
3.
企業の倒産メカニズム
4.
運転資金の調達手段
5.
ファクタリングの機能とは
6.
日本におけるファクタリングの現状
7.
ファクタリングの今後の課題
8.
おわりに
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参 考 文 献 ・ 参 考 URL
1. は じ め に
日 本 に お け る 中 小 企 業 の 数 は 、全 企 業 数 の 99.7% を 占 め て い る 。ま た 雇 用 者
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数 で 見 る と 、 中 小 企 業 の そ れ が 占 め る 割 合 は 全 体 の 70% で あ る ( 中 小 企 業 庁
2014)。 中 小 企 業 は こ の よ う に 日 本 経 済 に お い て 大 き な 割 合 を 占 め る だ け で な
く、新産業の創出、市場競争の活発化、多様な就業の機会の提供、地域経済の
活性化といった役割を果たしている。そのため、中小企業の動向は、日本経済
の動向に大きな影響を与えると考えられる。
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このように、日本経済で重要な役割を担っている中小企業であるが、個々の
企業で見ると解決すべき問題があることがわかる。その問題とは、資金を円滑
に調達することの難しさである。
資 金 調 達 を 行 う 場 合 、金 融 機 関 か ら 借 り 入 れ を 行 う 等 の 方 法 が 一 般 的 で あ る 。
しかし、企業には、借入金の返済等によって急な資金需要が発生する。この場
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合に、資金調達をし、返済することができなければ黒字の場合でも倒産してし
まうことがある。よって、短期的かつすばやく現金を確保できる資金調達手段
が必要である。
短期的な資金不足によって倒産してしまう企業を救うためにはどのような方
法が必要であるのかをこの論文で考察していく。
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この論文の構成は以下の通りである。まず第2節では、日本企業を取り巻く
金融状況を確認することによって、中小企業の資金調達構造を確認する。次に
第3節では、中小企業の資金繰りの厳しさを確認し、資金繰りが悪化すること
により、黒字でありながら倒産する企業があるということについて説明する。
第4節では、現在行われている資金調達の手段を確認する。第5節では、ファ
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クタリングの機能について説明する。第6節ではファクタリングの現状を把握
する。第7節では、ファクタリングの今後の課題について検証していく。第8
節では、中小企業にファクタリングが有効である理由について、各節を踏まえ
て確認していき、今回の論文を書くにあたって発見した新たな研究課題を述べ
ていく。
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1
2. 中 小 企 業 を 取 り 巻 く 金 融 状 況
中小企業は大企業や中堅企業に比べて、資金繰りや資金調達が難しい。第2
節において、中小企業の資金繰りが困難であることを、図表を用いて説明して
いく。
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2- 1
中小企業の資金調達
中 小 企 業 の 資 金 調 達 状 況( 図 表 2-1)を 見 る と 、「 金 融 機 関 か ら の 借 入 」の 割
合 が 減 少 し て い る 一 方 で 、「 内 部 留 保 」 の 割 合 が 上 昇 し て い る 。 こ の 間 、「 企 業
間信用その他」
( こ の 中 に は 企 業 間 信 用 だ け で な く 、グ ル ー プ 会 社 間 の 資 金 融 通
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も 含 む ) の 割 合 は 、 引 き 続 き 高 い 水 準 を 維 持 し て お り 、「 金 融 機 関 か ら の 借 入 」
を上回っている。
こ の う ち 企 業 間 信 用 に つ い て 、企 業 の 売 掛 債 権 、仕 入 債 務 の 動 向( 図 表 2-2)
を比較してみると、与信超過の状態が続いていることがわかる。また、その中
身( 図 表 2-3)を 見 る と 、本 来 、流 動 化 が 容 易 な 受 取 手 形 が 減 少 し て い る こ と に
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対して売掛金が増加傾向にあることから、売掛債権の中でも、売掛金を企業の
資 金 繰 り 改 善 に 活 用 し て い く 重 要 性 が 、以 前 よ り 増 し て い る と 考 え ら れ る 。
(日
本銀行金融機構局
中 小 企 業 の 資 金 調 達 2012 年 )
下 記 の 図 表 2-1 は 中 小 企 業 の 資 金 調 達 の 内 容 を 示 し た も の で あ り 、 内 部 留 保
約 25% 、 社 債 約 3% 、 企 業 間 信 用 そ の 他 約 44% 、 金 融 機 関 借 入 約 28% と な っ
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ており、企業間信用その他が大きな割合を占めていることがわかる。
図 表 2-1
中小企業の資金調達
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(出所)日本銀行金融機構局
中小企業金融の多様化に向けて
下 記 の 図 表 2-2 で は 、与 信( 売 上 債 権 )・ 受 信( 仕 入 債 務 )を グ ラ フ で 表 し て
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お り 1999 年 か ら 2011 年 ま で 与 信 超 過 が 継 続 的 に 続 い て お り 、与 信 の 回 収 が う
まく行われていないことを示している。
図 表 2-2
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中小企業における売掛債権・仕入債務の動向
(出所)日本銀行金融機構局
中小企業金融の多様化に向けて
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下 記 の 図 表 2-3 で は 、 受 取 ・ 支 払 手 形 と 売 掛 ・ 買 掛 金 の 残 高 を 比 べ 、 本 来 流
動化が容易である受取手形が減少していることから売掛債権の中でも、売掛金
を企業の資金繰り改善に活用していく重要性を示している。
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図 表 2-3
受取・支払手形と売掛・買掛金の残高
(出所)
日本銀行金融機構局
中小企業金融の多様化に向けて
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3. 企 業 の 倒 産 メ カ ニ ズ ム
第 2 節では資金繰りの動きについて見てきたが、
第 3 節ではその資金繰り
の動きが企業にどのような影響を与えるかについてみていく。
3- 1
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企業が倒産する主な原因
企業が倒産する主な理由を挙げる。
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第 1 に 放 漫 経 営 で あ る 。こ れ は 経 営 上 の ミ ス を い う 。放 漫 経 営 は 本 業 の 失 敗 、
本業外での失敗を、主として融通手形の操作を行えばこれに分類される。
第2に過小資本である。運転資金が不足し、金利負担に耐えられない状況に
至った企業がこれに分類される。過小資本は、1つが運転資金の欠乏であり、
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設立、創業当初より自己資本過少、手張り過ぎによる運転資金の欠乏など資本
構成不安定などに起因するものである。もう1つが金利負担の増加であり、高
利依存、債務過多から金利負担の増加を招き、現状の売上、収益からこれを吸
収できず、また拡販による経費高に起因したものである。
第3に放漫経営は、事業上の失敗、事業外の失敗、融手操作などがある。
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第4に連鎖倒産である。取引企業の倒産の影響を受けて、倒産に至る企業が
これに算入される。取引先の倒産や親会社の倒産などによって売掛金などが回
収できなくなり、そのために経営が行き詰まり連鎖的に倒産する場合がある。
第5に累積赤字である。赤字の累積により、経営不能に陥った企業がこの分
類に入る。
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第6に偶発的な原因である。経営者の突然の死亡、火災、盗難など突発的な
出来事により、経営が断絶せざるをえない企業がこれに分類される。
第7に信用性低下である。金融機関の融資に対する引き締めや拒絶で、取引
先企業がその企業に警戒し、取引が円滑に進めなくなった企業が入る。
第8に販売不振である。売上が著しく減少し、経営が立ち至らなくなった企
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業がこれに含まれる。市況悪化による売行不振、業界不況によるジリ貧、季節
的影響による売行減少、市況低迷による利幅低下、採算割れ、輸出不振、受注
減少、その他商い高減少に起因するものである。同業乱立に伴い業者間の過度
の競争から原価を割った価格での注文、サービス過剰による採算割れとなるこ
とに起因する。技術革新、生活様式、嗜好の変化等需要動向、消費動向の変化
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に対応し得ないことに起因し倒産する。円高、円安など為替相場によるもので
ある。大資本の進出、直売、デパート、スーパーマーケットの進出から被害を
受けたことに起因するものなどがある。既往のシワ寄せは、赤字の累積が主な
原因である。長期にわたる業績不振によるジリ貧経営、救済返済の重圧、販売
地盤未確立による経営困難など過去の業績不振、失敗のシワ寄せ、経営方策の
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失敗に起因するものである
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第9に売掛金回収難である。不良債権の累積が極度になった企業はこれに分
類される。
第10に在庫状態の悪化である。製品・商品の返品が相次ぎ、在庫が極端に
増加し、倒産に至った企業がこれに類する。
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第11に設備投資の過大である。設備投資の過剰で資金繰りが極度に圧迫さ
れ、倒産に至った企業がこれに入る。
これらの要因が企業に起きることで倒産してしまうのである。
下の図は企業の倒産のなかで中小企業に限定した原因をしめしたものである。
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図 表 3- 1
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中小企業の倒産原因
中小企業庁
「倒産の状況
平 成 27 年 10 月 」 よ り 筆 者 作 成
上 記 の 中 か ら 中 小 企 業 の 倒 産 の 中 で 一 番 多 い の が 販 売 不 振 で あ り 72% を 占
め て い る 。次 に 多 い の が 既 往 の し わ よ せ で 10%を 占 め て い る 。3 番 目 が 連 鎖 倒
産 で 6 %を 占 め て い る 。4 番 目 が 過 小 資 本 で 5 %を 占 め て い る 。次 が 放 漫 経 営 で
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4%を 占 め て い る 。
これらの原因を見ると販売不振、既往のシワ寄せは、企業の利益を出すこと
ができず赤字で倒産してしまうことが多いことがわかる。しかし、放漫経営、
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連鎖倒産、売掛金回収難は、すべての企業が利益を出せず赤字で倒産してしま
っ た と は い い 難 い 。理 由 と し て 、放 漫 経 営 は 、融 手 1 操 作 と い う 、倒 産 の ケ ー ス
があり、自己の資金繰り困難から、あるいは融資枠引締から、さらに取引先な
どから要請により融手操作を行い破綻したものである。これは、経営者の経験
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不足から資金繰りがうまくいかなかったためである。連鎖倒産は、上記の原因
で述べたように、取引先、親会社の倒産などによって売掛金などが回収できな
くなり倒産する場合、赤字とは言い切れない。売掛債権の回収難は売掛金回収
遅延による不良債権の累積、受取債権の回収困難などにより、資金繰りが悪化
し倒産につながるためである。これらの場合は、運転資金が足りないことによ
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る 倒 産 原 因 で あ る た め 、資 金 繰 り を う ま く 行 う こ と で 回 避 で き る ケ ー ス が あ る 。
図 表 3- 2
倒産企業の赤字の割合
( 出 所 )中 小 企 業 コ ン サ ル テ ィ ン グ「 Initiatives
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2015 年 7 月 」か ら
著者製
作
図 表 3- 2 は 、 生 存 企 業 と 倒 産 し た 企 業 の 赤 字 企 業 の 割 合 を 示 し た も の で あ
る。生存企業と倒産企業では、約2倍の開きがあることから、生存企業は赤字
をあまり出していないことがわかる。しかし、倒産企業において赤字倒産が一
1融 手 と は 融 通 手 形 の 略 称 で あ り 、
「融通手形」とは、商取引の裏付けの無い手
形のことで、主に資金繰りに困った時などに融通のためふりだされるなど、信
用 を 得 る 目 的 で 第 三 者 に 振 り 出 し て も ら う 手 形 で あ る
帝国データバンク参照
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般 的 に イ メ ー ジ さ れ る が 、 図 3- 2 の 倒 産 し た 企 業 の 赤 字 の 割 合 は 48.8%で あ
る。つまり、倒産した企業の半分は赤字による倒産ではなかったということが
いえるのである。
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3- 2
黒字倒産
黒字倒産とは、帳簿上では利益が出ているにも関わらず、手元の資金が不足
して会社の存続ができなくなってしまったために倒産することである。商品売
上後、代金(売掛金など)が支払われるのは何カ月か先という取引がほとんど
である。その月には「売上」として計上されるため、帳簿上では利益が出てい
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る状態となっている。しかし、売上分の現金がすぐに手に入るわけではない。
このとき、支払分の現金が手元になく、支払ができなくなってしまったがため
に 倒 産 と な っ て し ま う 。2012 年 の 東 京 商 工 リ サ ー チ の 調 べ に よ る と 倒 産 企 業 の
47.7 パ ー セ ン ト が 黒 字 倒 産 で あ る 。
黒字倒産となってしまう主な原因は3つである。
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まず1つ目は在庫管理が原因である。商品を仕入れると、その商品は貸借対
照表上では在庫として資産に計上され、損益計算書上では資産が増えたことに
より利益が出ているように見える。しかし実際には、商品は売れずに在庫とし
て残っているため、キャッシュが増えたことによる利益の増加というわけでは
ない。むしろ現状は、商品を仕入れた分キャッシュは減少している。日ごろの
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在庫管理は、過大な在庫を抱えることによる偽りの利益に騙されるか騙されな
いかを左右することとなるのである。しかし、実際は、利益を出せていないこ
とによる倒産であるため、赤字をだしている。
2つ目は資金繰りの悪化が原因とされている。資金繰りは、仕入れや支払の
た め の 現 金 、取 引 先 の 売 掛 金 の 回 収 な ど 、資 金 の 出 入 金 の タ イ ミ ン グ を は か り 、
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スムーズな支払業務を行わなければならない。この作業のような短期的な支払
いが可能であるかの指標を流動比率と呼ぶ。この流動比率を一定以上保つこと
ができなければ、利益は出ているはずなのに手元に資金がないために不渡りを
出してしまったり、倒産に陥ってしまったりする。
3つ目は過大な設備投資が原因となっている。土地や建物などを購入する際
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には莫大な費用がかかる。もし、購入の際に借入金が発生した場合は、この借
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入金の返済に売上金と利益が追いついてこなくなるというケースが生じてくる。
上記で挙げたなかで、中小企業の黒字倒産を見分ける指標として流動比率の
重要性が挙げられる。
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3- 3
流動比率の重要性
先ほど述べた通り流動比率とは、企業の短期的な支払能力を示す経営指標と
して利用されている。短期間のうちに支払いが発生する負債が、短期間のうち
に現金化される資産でどれだけカバーされているかを示す指標である。1 年以
内に現金化できる資産を流動資産といい、1年以内に返さなければならない資
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金を流動負債という。
も し 100% 未 満 で あ る と し た ら 短 期 の 支 払 い 能 力 が 弱 い と い う こ と で あ る か
ら、資金繰りが苦しくなることが見込まれるため、早めに銀行等からの資金調
達が必要といえる。流動資産の中の資産科目であっても、短期間で現金として
回収できないものが含まれていることがあるからである。正常営業循環のなか
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で発生する資産や、その他1年以内に換金可能な資産を流動資産というのであ
る。しかし、販売のために1年を超える期間を要する商品であっても、商品の
特性として長期間経過したとしても商品価値が変わらないものに関しては流動
資産となる。
流 動 資 産 に は 、正 常 営 業 循 環 の な か で 発 生 す る も の と し て「 現 金 預 金 」
「売上
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債 権 」「 棚 卸 資 産 」 が あ る 。「 現 金 預 金 」 と は 、 金 庫 の な か に あ る 現 金 や 銀 行 預
金 で あ る 。「 売 上 債 権 」
とは、売上代金のうち、まだ、現金預金として回収されていない分であり、現
金預金を受取る権利を意味している。
「 棚 卸 資 産 」と は 、売 買 す る た め の 商 品 の
ことである。
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また、その他の流動資産として、余剰資金の運用のために保有する他社の株
などを意味する「有価証券」が代表的なものとして挙げられるが、他にもさま
ざまなものがある。
基本的に流動比率が高いほど資金繰りが楽になる。当然、流動負債が多くな
れ ば 資 金 繰 り は 苦 し く な る 。 流 動 比 率 は 150% 以 上 あ れ ば 良 い が 、 200% く ら
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いあれば十分である。
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流動比率を高い状態に保つためには、資金繰りをうまく行うことで流動資産を
常に確保しておく必要がある。
企業の安全性の指標として流動比率よりも厳密に出したものを当座比率とい
う 。当 座 比 率 は ,流 動 資 産 の 中 で 換 金 性 の 低 い 棚 卸 資 産( 商 品 ,製 品 ,仕 掛 品 )
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を除いた当座資産のみを支払手段として,短期的(1年以内)に支払わねばな
ら な い 流 動 負 債 を 返 済 で き る か ど う か を 表 す 指 標 で あ る 。実 際 、2014 年 の 東 京
商 工 リ サ ー チ の デ ー タ に よ れ ば 、倒 産 企 業 の 平 均 当 座 比 率 は 3 期 の デ ー タ で は 、
59.6% と な っ た 。 生 存 企 業 の 当 座 比 率 が 平 均 で 76.1%で あ っ た の と 比 べ て 倒 産
企業は資金繰りに余裕を欠いていることがわかる。
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つまり、資金繰りをきちんと行うことができなければ流動資産が小さくなり
流動比率の減少につながる。そして、企業は利益を出しているにもかかわらず
倒産する。つまり、黒字倒産するのである。
3- 4
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資金繰りの重要性
会社は損益が赤字でも、資金繰りに問題がなければ倒産しないが、黒字であ
っても資金繰りがうまくいっていなければ倒産してしまうのである。
そのため企業は、資金の全てを事業活動に投下してしまうのではなく、もし
もの場合に備えて、一定の資金を運転資金として現金や普通預金等として保有
しておく必要があるのである。これが資金繰りと呼ばれるものである。
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資金繰りとは、経費などの支払いに対応できるよう会社に入ってくる資金
と、出ていく資金の管理を行い資金の流れをコントロールしていくことであ
る。ここでいう資金とは、現金や預金、有価証券など、すぐに支払いに使える
もののことをいい、同じ預金でも、すぐに解約する事ができない定期預金や現
金化は時間のかかる不動産は資金には含まれない。
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経営者は、仕入れ・支払いのための現金、社員の給与、 売掛金の回収など、
社内の資金の出入りを把握し、支払いがスムーズにできるよう資金繰りを行っ
ていかなければならないのである。上記で挙げた資金のことを流動資産とい
い、これをうまく操作できないと、資金繰りの悪化を招き短期的な支払い能力
の指標になる流動比率が低下するのである。
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資金繰りが苦しくなる要因を挙げると、
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1つ目に赤字経営(放漫経営による原因も含む)が挙げられる。これは資金
繰りを悪化させる本質的なもので、赤字経営から脱出しないかぎり、資金繰り
の改善は困難である。
2つ目に収入と支出のタイミングが合わずにタイムラグが生じた場合である。
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売上回収のサイトが延びたり、仕入れ支払いのサイトが短くなったりすると両
者のバランスが崩れ、資金不足が起こる。しかし、このような運転資金の不足
は、会社の仕入・売上の条件などによってはどうしても生じてしまうものであ
る。
3つ目に在庫の増大である。これは在庫を商品の売れ残りが増えていること
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を意味し、
「 資 金 が 商 品 の 形 で 溜 ま っ て い る 」と も 言 え る 。そ の た め 、仕 入 れ に
対する支払いは迫ってくるのに対して、売上がないことによる収入不足から、
支払いに充てる資金が用意できずに、資金繰りが悪くなる。
4つ目に売上債権の過大および貸倒れによる場合である。1つ目の原因とも
関係するが、赤字経営からの脱出を焦るあまり、売上の増大を企図して無理な
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押 込 販 売 を し て 、売 掛 債 権 が 増 大 し 債 権 の 回 収 が 延 び た り 、焦 げ 付 い た り し て 、
予 定 の 現 金 収 入 を 得 ら れ な い こ と が あ る 。自 社 の 支 払 債 務 の 決 済 が で き ず 、
「黒
字倒産」に陥る。
5つ目に設備投資による資金の不足である。返済予定に対して毎月あるいは
毎年の売上や利益が十分でないというケースや、手元の流動資金を設備投資に
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使 い す ぎ た た め に 、手 元 流 動 性 が 悪 く な り 資 金 不 足 が 生 じ る ケ ー ス な ど が あ る 。
わが国の企業の資金繰りは、全規模・全産業で悪化したリーマン・ショック
時と異なり、東日本大震災の発生以降も、総じてみれば大幅な悪化を免れ、改
善した状態にある。もっとも、仔細にみると、資金繰りの状況は企業規模によ
っ て 様 々 で あ る( 図 表 3-3)。景 気 拡 大 局 面 に お け る 中 小 企 業 の 資 金 繰 り は 、大
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企業に比べ、改善ペースが緩慢であり、悪化前の水準まで改善しないケースも
散見される。
震 災 後 、大 企 業 が 資 金 繰 り の 大 幅 な 悪 化 を 回 避 す る 一 方 、中 小 企 業 の 中 に は 、
資金繰りの逼迫が常態化していることに加え、直接的な被災の有無にかかわら
ず、資金繰りが厳しさを増した先もある。これは、①企業収益の低迷②不動産
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担保の不足③企業間信用の動向といった、中小企業の資金繰りをめぐる根本的
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な問題が影響していると考えられる。
大 企 業 と 中 堅 企 業 に は 資 金 繰 り DI に 大 き な 差 は な い が 、 中 小 企 業 は 大 き な
差があることがわかる。このことから、中小企業の資金繰りは、大企業・中堅
企業に比べて厳しいと考えられる。
5
日 本 金 融 機 構 局「 日 銀 レ ビ ュ ー
2011 年
6月」から
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図 表 3-3
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企 業 の 資 金 繰 り DI の 推 移
(出所)日本銀行
主要時系列統計データ表
4. 運 転 資 金 の 調 達 手 段
第三節で挙げた中小企業で起こりうる黒字倒産の対策として資金繰りの改善
があるが、企業の運転資金の調達手段はどのようなものがあるのか。中小企業
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の主な資金調達の方法として使用されるものは3つある。第1に手形取引、第
2にノンバンクによる融資、第三に売掛債権流動化である。
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第 1 の 手 形 取 引 は 第 2 節 の 2- 2 の グ ラ フ で い う 企 業 間 信 用 に 当 た る 。手 形 取 引
は 2 種 類 あ り 、1 つ は 為 替 手 形 、も う 1 つ は 約 束 手 形 で あ る 。ま ず 為 替 手 形 と は 振
出 人( 手 形 を 発 行 し た 人 )が 支 払 人( 第 三 者 )に 受 取 人 へ の 金 銭 支 払 い を 委 託 す る
こ と を 記 載 し た「 金 銭 支 払 委 託 証 券 」で 、手 形 法 の 要 件 を 備 え て い る も の の こ と で
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あ る 。も う 1 つ の 約 束 手 形 と は 振 出 人 が 、指 定 し た 金 額 を 一 定 の 期 日 に 支 払 う こ と
を受取人に約束した有価証券のことである。振出人は当座口座がなければ約束手
形 を 発 行 す る こ と が で き な い 。手 形 取 引 は 2 信 用 取 引 に 用 い ら れ 、2,3 ヶ 月 後 に 支 払
うことを約束する中期信用手段として日本で多く流通している。支払期日に振出
人 が 支 払 う こ と が で き な か っ た 場 合 、銀 行 取 引 が 停 止 さ れ( 不 渡 り )、事 実 上 の 倒
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産 と な る 。手 形 取 引 の メ リ ッ ト 2 つ あ り 、1 つ は 事 実 上 支 払 い を 延 期 で き る こ と で
あ る 。次 に 利 息 が つ か な い 点 で あ る 。代 金 支 払 い で 現 金 を 用 意 で き な い ケ ー ス を 想
定 す る と 、企 業 は 手 元 資 金 が な い の で 代 わ り に 金 融 機 関 か ら 借 り る だ ろ う 。そ う す
ると返済まで利息を払い続けなくてはいけない。借り入れの代わりに手形を振り
出すと無利息で支払い延期ができる。
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先 ほ ど 述 べ た よ う に 、手 形 取 引 は 中 期 信 用 手 段 と し て 用 い ら れ て い る が 、短 期 の
資 金 調 達 を 行 え る サ ー ビ ス も 存 在 す る 。そ れ ら が 手 形 借 入 れ 、当 座 借 越 し 、手 形 割
引 で あ る 。手 形 借 入 れ と は 、銀 行 に 対 し て 借 入 金 額 や 返 済 期 日 を 記 載 し た 約 束 手 形
を 差 し 入 れ て 借 り 入 れ を 行 う 方 法 で あ る 。最 初 に「 銀 行 取 引 約 定 書 」を 作 成 し て お
け ば 、そ の 後 は 借 入 の た び に 印 鑑 証 明 書 を 提 出 す る 必 要 が な い な ど の 、借 り 手 に と
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っ て 負 担 が 軽 い と い う メ リ ッ ト が あ る 。当 座 借 越 し と は 、通 常 、企 業 が 振 り 出 し た
支 払 手 形 や 小 切 手 は 、当 座 預 金 に よ っ て 決 済 さ れ る 。そ の 際 、銀 行 と の 間 で 一 定 金
額 ま で は 立 て 替 え て も ら え る と い う 契 約( 当 座 借 越 し 契 約 )を 結 ん で お き 、預 金 残
高が不足していても限度額の範囲内で自由に借り入れができる仕組みのことを言
う。売上代金の回収が予定よりも遅れたといった緊急的な資金需要に対しても迅
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速 に 対 応 で き る う え 、返 済 は 任 意 の 時 期 に 当 座 預 金 に 入 金 し て お け ば よ く 、利 息 も
後 払 い と な る 。一 般 的 に 限 度 額 は あ ま り 大 き く な い が 、利 便 性 が 高 く 企 業 に と っ て
2
委託保証金を担保に証券会社から資金や株を借りて行う株式投資の一種であ
る。適切な株価を保つには多くの投資家の参加が必要であり、信用取引はその
一助を担っている。
参 考 信 用 取 引 と は - 意 味 /解 説 /説 明 /定 義 : マ ネ ー 用 語 辞 典 :
http://mwords.jp/w/%E4%BF%A 1 %E7%94%A8%E5%8F%96%E5%BC%95.html
13
使 い 勝 手 が 良 い 。最 後 の 手 形 割 引 は 売 上 代 金 を 手 形 で 回 収 し た 際 に 、満 期 日 ま で の
利 息 を 支 払 っ て そ の 手 形 を 銀 行 に 買 い 取 っ て も ら う こ と を 指 す 。し た が っ て 、正 確
に は 借 入 れ で は な い が 、手 形 が 不 渡 り に な る と 、企 業 に は 買 い 戻 す 義 務 が あ る の で 、
実 質 的 に は 手 形 を 担 保 に し た 借 入 れ と い え る 。手 形 割 引 は 、期 日 に 銀 行 が 手 形 を 取
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り 立 て る こ と で 代 金 が 回 収 さ れ る た め 、企 業 に と っ て 返 済 の 必 要 が な く 、手 形 回 収
割合の高い業種では短期の運転資金を調達する手段として広く利用されている。
(中小企業金融入門
藪下
武士俣
2006 年 )
第 2 節 の 図 表 2-3 受 取 ・ 支 払 手 形 と 売 掛 ・ 買 掛 金 の 残 高 の 受 取 手 形 、 支 払 手
形の残高を見るとわかるように手形取引はバブル経済の真只中であった平成 2
10
年をピークに大きく日本で広がってきた資金調達手段である。 手形取引も現在は
減 少 傾 向 に あ る 。 バ ブ ル 崩 壊 後 に は 手 形 取 引 は 最 盛 期 の 10 分 の 1 に ま で 減 少
している。その減少した手形取引の代替案として下記で説明する電子記録債権
がある。以下の図表のとおり、電子記録債権は手形取引の代替案として普及が
進んでいる。
15
図 表 4-1
電子記録債権の推移
(出所)米谷達哉
日本銀行金融機構局金融高度化センター庁
中小企業金融
の多様化に向けて
20
電 子 記 録 債 権 と は 、 株 式 会 社 日 本 格 付 研 究 所 に よ る と 2008年 12月 施 行 の 電 子
14
記録債権法により、事業者の資金調達の円滑化等を図るために創設された新し
い 類 型 の 金 銭 債 権 で あ る 3 。電 子 債 権 記 録 機 関 の 記 録 原 簿 へ の 電 子 記 録 を そ の 発
生・譲渡等の要件とする、既存の指名債権や手形債権などとは異なる新たな金
銭債権のことである。現行の手形は、流通性が高く、中堅・中小企業の便利な
5
資金調達手段であるが、紛失・盗難のリスクと作成・保管のコスト、それに印
紙税の負担がある。電子記録債権では、電子債権という性格上、紛失・盗難の
リ ス ク が 存 在 せ ず 、印 紙 税 な ど の 振 り 出 し・保 管 の コ ス ト を 縮 減 が 可 能 と な る 。
一方、現行の売掛債権(指名債権)は、フロードリスク(詐欺リスク:債権自
体が存在しないリスクまたは債権が存在したとしても第三者にすでに譲渡され
10
ている二重譲渡のリスク)などが障害となり流通性が低く、資金化が困難であ
るが、電子記録債権制度はこの欠点をカバーすることができる設計となってい
る。
第 2 に ノ ン バ ン ク と は 、「 預 金 業 務 や 為 替 業 務 を 行 わ ず に 融 資 業 務 を 行 っ て
いる会社のことである。
「 賃 金 業 白 書 」で は 、こ れ ら の 賃 金 業 者 を 業 務 の 形 態 か
15
ら「 消 費 者 向 け 無 担 保 賃 金 業 者 」
「事業者向け賃金業者」
「手形割引業者」
「クレ
ジ ッ ト カ ー ド 会 社 」「 質 屋 」「 リ ー ス 会 社 」 な ど 大 き く 12 種 類 に 分 類 し て い る
4」
。ノンバンクを利用することのメリットは、銀行からの借り入れが難しい場
合に、担保をあまり必要とせずに融資してもらえるという点である。さらに、
銀行の融資に比べて一般にスピーディーで手続きが簡便であるというノンバン
20
ク融資の持つ特性が評価されている。しかし、金利が高いことや、ノンバンク
を利用することによって、他の金融機関からの信用力が落ちるなどのデメリッ
トが発生してしまうため、積極的に利用している企業は少ない。将来もう少し
利用しやすい水準まで金利が下がり、イメージを改善できれば、ノンバンク融
資が普及する可能性が高まると考えられる。
25
第 三 の 売 掛 債 権 流 動 化 と は 、5 決 済 期 日 が 到 来 す る 前 に 企 業 が 保 有 す る 売 掛 債
3
http://www.jcr.co.jp/qa/qa_desc.php?report_no=qa081201d&PHPSESSID=5b
783f21dfaa7f6a265f3 95f1fca551d
4藪 下 史 郎 、 武 士 俣 友 生
『中小企業金融入門 第2版』東洋経済新報社より
引用
5- 経 済 産 業 省 - 売 掛 債 権 流 動 化 よ り
15
権を金融機関など第三者に譲渡するなり担保として融資を受けるなりして資金
調 達 を 行 う こ と で あ る 。 そ の 手 段 と し て 以 下 の 3 つ が あ る 。( 図 表 4-2)
(1)売掛債権証券化
企 業 は 保 有 し て い る 売 掛 債 権 を S P V( 特 定 目 的 法 人 )に 譲 渡 す る こ と で 、そ の
5
対 価 と し て 資 金 を 受 け 取 る 。S P V と い う の は 資 産( こ の 場 合 、売 掛 債 権 )を 買 取
り 、資 産 が 生 み 出 す キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー( こ の 場 合 、決 済 期 日 に 入 金 さ れ る 代 金 )を
裏付けに証券を投資家に発行する事業体であり、証券化に当って企業と投資家の
媒介役を果たす。
(2)ファクタリング
10
企業が売掛債権を譲渡して対価として資金を受け取ることは同様だが、譲渡先
がファクターと呼ばれる企業となる。証券化とは異なりファクタリングは相対取
引が基本である。売りか債権証券化のようにファクターは売掛債権を多数の投資
家に転売する訳ではなく、ファクタリングは売掛先から債権を回収する。
( 3 ) 売 掛 債 権 担 保 融 資 ( ABL)
15
売掛債権の信用力を担保にし、融資を受けることで資金調達を行う手法である。
この方法は融資であることから、何らかのタイミングで調達した資金を返済する
必 要 が あ る 。 ま た 、 売 掛 債 権 が 果 た す 役 割 が 他 の 2つ の ソ リ ュ ー シ ョ ン と 異 な る 。
売 掛 債 権 は 売 却 さ れ る の で は な く 、 債 務 不 履 行 時 の 弁 済 手 段 と し て 売 掛 債 権 が 6譲
渡担保される。
20
図 表 4-2
売掛債権証券化の手法
6
担保の目的である財産権を一度債権者に譲渡し、債務者が債務を弁済した
ときに返還するという形式の債権の物的担保制度。民法上規定はないが、判例
によって認められ、実務上用いられている。
16
出所
売 掛 債 権 流 動 化 - 経 済 産 業 省 の WEBサ イ ト
http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/ji04_07_13.pdf
5
ここまでさまざまな資金調達手段を見てきたが、企業の運転資金難時の資金
調達手段において我々はファクタリングが最も有効な手段であると考える。次
節でその論拠とともにファクタリングの機能について論を進めていく。
10
5. フ ァ ク タ リ ン グ の 機 能
第4節では運転資金が不足し、黒字倒産の危険のある中小企業はどのような
資金調達手段があるかを見てきた。そこでこの第5節ではその調達手段である
ファクタリングがなぜ黒字倒産の危険性のある中小企業に有効か、またファク
タリングとはどのような機能を持つものかを述べていく。
15
ファクタリングとは、売主(クライアント)が、顧客(カスタマー)へ商品
の販売やサービスの提供、工事の施工等によって得た売掛債権をファクターへ
譲渡し、ファクターはこれに対し、前払いによる金融を行い、売掛金の支払い
保証や回収代行、さらに記帳事務の代行を行うなどといった新しい形の金融サ
ービスのことである。
20
図 表 5-1
3者間ファクタリング
17
(売主)
(顧客)
参 考 : MEDS JAPAN フ ァ ク タ リ ン グ 5
ファクタリングのシステムがどういったものであるかについてみていく。
(図
表 5-1) ま ず 売 主 で あ る ク ラ イ ア ン ト は 顧 客 で あ る カ ス タ マ ー に 対 し て 、 商 品
やサービスを提供することによって納品・請求書を発行し売掛債権を得る。売
掛債権を得たクライアントは、カスタマーからの支払い期日がくるまでにファ
10
クタリング会社であるファクターに債権を譲渡するのと同時に、ファクターは
カスタマーに対してクライアントから債権を譲渡されたことを通知する。ここ
でカスタマーが取引停止を宣告しなければ、ファクターはクライアントに対し
て買取り代金を支払う。
( た だ し 、手 数 料 が 差 し 引 か れ る た め 、債 権 に 記 載 さ れ
て い る 金 額 が 満 額 支 払 わ れ る こ と は な い 。) そ し て カ ス タ マ ー は 支 払 期 日 を 迎
15
えるとクライアントではなく、ファクターに対して債権に記載された金額を支
払う。
ファクタリングの対象になる売掛債権と対象にならない売掛債権は以下のも
の で あ る 。( 図 表 5-2)
20
図 表 5-2
ファクタリングの対象となる売掛債権一覧
18
対象になる
対象にならない
・売買代金
・売掛債権との契約で譲渡禁止となってい
・役務提供代金
る債権
・運送料、輸送料
・下請代金支払遅延防止法に規定される債
・請負代金
権
・診療報酬
・個人に対する売掛金
・介護報酬
・個人が保有する売掛金
・売掛先に対する買掛金が売掛金より大き
い
参考: 筆者作成
ファクターは合理化する商権をもたない特殊な総合金融機関であり、複雑な
流通機構を単純化する役割を担っている。ファクターの機能を整理すると金融
5
サービス、信用調査サービス、事務処理サービス、コンサルティングサービス
の4つに分けられる。具体的なサービス内容として金融サービスは企業の売掛
債権の買取り(期日前資金化)や、回収サービス、信用リスクの引き受け(保
障)がある。次に信用調査サービスは、情報データベースの構築による情報提
供や売掛債権の保全がある。3番目の事務処理サービスは売掛帳簿の作成や貴
10
重事務、売掛債権の期日管理などの事務処理の代行がある。最後のコンサルテ
ィングサービスは電子商取引を含む経営上の諸問題についての相談や経営管理
資料の提供などがある。
ファクターの機能の中で「回収が不能になった場合、ファクターが回収リス
ク を 負 担 す る( 償 還 請 求 権 な し フ ァ ク タ リ ン グ )」が 基 本 で あ り 、そ の た め の フ
15
ァ ク タ ー の 信 用 調 査 機 能 と 情 報 提 供 機 能 が 重 視 さ れ る 。フ ァ ク タ ー が 、
「この顧
客(カスタマー)に販売してよいか」という信用調査を企業の与信管理部門に
代わって行うことで、クライアントは営業活動を完結させるための与信管理を
省くことができるのである。
企業側にとってはその重要な機能である信用調査・与信業務をファクターに
20
委ねることによって、本業の開発や生産に徹し、経営資源を集中することがで
19
きる。ただし、企業の与信管理政策は当該企業自身が決定するものであり、フ
ァクターは企業によって決定された与信管理政策の中でファクタリングの機能
を果たすことになる。しかし、ファクターの信用リスクの負担こそがファクタ
リングの特徴であるといえるわけで、この機能の発揮度によりファクターの優
5
劣が決まる。
ファクタリングのメリットとしては3つある。1つ目はキャッシュフローの
改善である。ファクタリングにおいて、企業は自社の必要資金に応じて債権を
売却し、売却代金を受け取ることが可能である。この際、通常の銀行借り入れ
のように担保を請求されることはない。すなわち、通常であれば債権の回収期
10
日まで資金化できない売掛金や受取手形を期日前に資金化できるというメリッ
トがある。2つ目はバランスシートのスリム化である。ファクタリングは、償
還請求権が無い形で債権譲渡を行うため、貸借対照表上、負債にはならないと
いうメリットがある。3つ目は支払い義務が発生しないことである。売掛金の
回収が不能になった場合、ファクターが回収リスクを負担するため、支払い義
15
務が発生しない。安定的な企業経営に欠かせないリスクマネジメントと、資金
調達を同時に行うことができるのがファクタリングのメリットである。
クライアントがファクターに売掛金を買い取ってもらう(債権譲渡)とき、
売掛先(カスタマー)に譲渡したことを通知して承諾してもらう必要があり、
こ れ を「 3 社 間 フ ァ ク タ リ ン グ 」と 呼 ぶ 。最 初 に 示 し た 図( 図 表 5-1)は 典 型 的
20
な3社間取引であり最も一般的な形態である。しかし、カスタマーが承諾しな
い、譲渡が知れると取引に影響が出るということを懸念するクライアントも存
在 す る 。 そ こ で 新 た な 形 態 と し て 以 下 の 図 表 5-3 に 示 す 「 2 社 間 フ ァ ク タ リ ン
グ」と呼ばれる形態も利用されるようになった。
25
図 表 5-3
「2社間ファクタリング」
20
(顧客)
(売主)
参 考 : MEDS JAPAN
5
ファクタリング
この2社間取引ではファクターがカスタマーに対して譲渡通知を行わない。
そのため、カスタマーは取引を仲介するファクターの存在に気付くことなくあ
たかも自分とクライアントとの通常の取引であると認識するために、クライア
ント側は取引先の信頼関係を損なうことなく債権譲渡を行うことができる。2
社間取引では手数料が高いというデメリットがあるが、そのことよりも取引先
10
にファクタリングの利用を知られると信用の低下につながるため、現にファク
タリングを考えている企業の9割が2社間取引を希望している。
ここまで挙げてきたようにファクタリングは、中小企業金融を円滑にするの
に大きなメリットがあるが、そのメリットとは対称にファクタリング利用時に
もデメリットが存在しており、大きく分けると以下の2点である。手数料・賭
15
け目が必要でコストがかかること、債権譲渡登記が必要となることがある。
(1)手数料・賭け目が必要でコストがかかること
フ ァ ク タ リ ン グ を 行 う 上 で か か る 一 般 的 な 条 件 別 手 数 料 を 以 下 の 図 表 5-4 に
まとめている。
20
図 表 5-4
ファクタリング会社の条件別手数料(資金調達プロ調べ)
21
1~ 5%
3 社 間 取 引 。入 金 口 座 の 変 更 や 管 理 権 限 の 譲 渡 、売 掛 先 へ
の通知が必須。
6~ 15%
2 社 間 取 引 。売 掛 先 や 利 用 企 業 の 信 用 力 が 高 い 。2 回 目 以
降は安くなる傾向にある。
15~ 20%
2 社 間 取 引 。1 回 目 の 利 用 は 基 本 的 に こ の 手 数 料 か ら 始 ま
る場合が多い。
20~ 40%
2社間取引。信用力が低い。売掛金額が非常に小さい場
合。
(出所)
資金調達プロ
経営者なら必ず知っておくべきファクタリングでの
資金調達とは?手数料や契約内容、融資との違いを徹底解説!
|:
http://shikin-pro.com/guide/3943
5
上 の 図 表 を 見 る と 2 社 間 取 引 は 非 常 に 手 数 料 が か か る 。特 に 20% の ケ ー ス を
想定する。
「 30 日 後 の 100 万 円 の 売 掛 金 を 80 万 円 で 売 る( 2 割 引 で 買 い 取 っ て
も ら う )」 と い う の は 言 い 換 え る と 「 80 万 円 を 借 り 、 30 日 後 に 100 万 円 に し て
返 す 」の と 変 わ ら な い 。こ れ を 金 利 に 換 算 す る と 1 月 当 た り の 金 利 が 25% と な
り 、 年 間 に 換 算 す る と 300% と な っ て し ま う の で あ る 。 も ち ろ ん 一 般 的 な 銀 行
10
融 資 や ビ ジ ネ ス ロ ー ン の 実 質 年 率 が 2 % ~ 15% で あ る と い う こ と を 考 え る と 、
年 率 換 算 で 300% と な っ て し ま う フ ァ ク タ リ ン グ は 手 数 料 が 高 い と い う の が 大
きなデメリットといえよう。
しかしあくまでファクタリングは運転資金や仕入れ資金など早急な事業資金
ニーズに合わせた仕組みであることにより、その審査機関のスピードが他の資
15
金調達手段と比べた際に優位性がある。ファクタリングは現金化が最短で1日
で行えるところから、長くても1週間で終わる調達手段であり、年率換算は現
実に即した話ではない。資金確保までの期間の短さというメリットは中小企業
にとって有効な資金調達手段であるといえるのだ。
で は な ぜ 2 社 間 取 引 は 手 数 料 が 高 い の か 。フ ァ ク タ リ ン グ 会 社 か ら 見 た 場 合 、
20
2社間での契約は非常にリスクが高い内容であるからだ。上記の2社間取引の
図 ( 図 表 5-3) を 用 い て 説 明 す る と 、 ク ラ イ ア ン ト が 資 金 繰 り に 困 っ て い る 場
合、カスタマーから送金されてきた資金を自社の資金繰りに流用してしまうリ
22
スクが存在する。ファクタリング会社にとっては、カスタマーからの資金をク
ライアントに流用されるという高リスクになる可能性があるために、売掛債権
買取り手数料は高く設定されているのである。譲渡を受けた売掛債権の回収リ
スクが存在するため、そのリスク回避のために、通常の3社間取引の「ファク
5
タ リ ン グ 」よ り 買 取 り 手 数 料 が 高 く な り 、売 掛 債 権 買 取 り 額 の 20% の 手 数 料 を
取るファクタリング会社も存在している。
しかし、すべての2社間取引の手数料が高額になるというわけではない。ク
ライアントが持つカスタマーからの入金口座を、ファクターが指定する口座に
変更可能であるならば、クライアントがカスタマーから送金された資金を直ち
10
にファクターに送金しないリスクは低くなるので、買取り手数料を低く設定す
ることが可能になる。
また、2社間取引の買取り手数料を下げる方法としてクライアントがカスタ
マーから送金された資金を直ちにファクタリング会社に送金してくれるよう、
クライアントが送金しないことに対する抑止力として、クライアントの株式を
15
譲渡担保するやり方もある。口座変更も売掛先が大手であればあるほどすぐに
応じてくれない可能性も高く、そもそも口座変更自体手間のかかる手続きが必
要な場合もあり、理論上は可能であっても、日本の中小企業の多くは口座変更
も認められないというのが、現時点では問題となっている。
20
(2)債権譲渡登記が必要となること
売掛債権の譲渡の場合、受取手形であれば裏書して譲渡すればよいが、受取
手形が存在しない場合は、債務者やそれ以外の第三者に権利を主張するために
は法的な条件を具備する必要がある。そのことを「対抗要件を具備する」とい
う。「対抗要件の具備」は、譲渡の際に売掛債権のリスクを譲受先に移転する
25
ために不可欠となる手続きである。こうした要件が満たされないと、売掛債権
譲渡に伴う一連の取引は譲受先から借入を受けたとみなされ、資産のオフバラ
ンス化ができないこともある。
「 対 抗 要 件 」は 、「 第 三 者 対 抗 要 件 」と「 債 務 者 対 抗 要 件 」の 2 種 類 が あ る 。
「第三者対抗要件」とは債権の権利を第三者に主張できる機能で、「債務者対
30
抗要件」とは債務者に対し誰に債務を弁済すべきかを通知する機能をさす。具
23
体的な対抗要件具備の方法として「承諾」、「通知」、「登記」の3種類の方
法がある。
こ れ ま で 売 掛 金 の 場 合 は 民 法 第 467 条 に よ り 、債 務 者 へ の 通 知 ま た は 債 務 者
への承諾が必要で、債務者以外の第三者に対抗するには、さらに通知または承
5
諾書に確定日付が必要となる。そのため、ファクターへ売掛金を譲渡する場合
にも、何らかの理由で債務者への承諾が得られない場合や、債務者が複数で時
間と手間がかかる場合には、これまでファクタリングが利用できなかったが、
債権譲渡特例法による債権譲渡登記制度を活用することにより、簡易に第三者
対 抗 要 件 お よ び 債 務 者 対 抗 要 件 を 具 備 で き る 可 能 性 が あ る 。( 図 表 5-5)
10
図 表 5-5
債権譲渡登記による第三者対抗要件の具備とは
(資料)法務省:第 1
債権譲渡登記制度とは?
http://www.moj.go.jp/MINJI/saikenjouto -01.html
15
この制度を利用することによりファクタリングによる資金調達が可能となり、
手形決済を廃止しても対応できるようになった。そう考えると、債権譲渡特例
法による債権譲渡登記については、現状はまだまだ問題点がある。もっとも大
24
きな問題は、債権譲渡登記の申請や、登記内容の確認に手間がかかるというこ
とである。具体的には、現在申請や登記内容の確認ができる場所が東京の1ヵ
所(東京法務局中野分室)だけしかなく、その利用に大きな制約があり、コス
トも無視できないことや、郵送による申請も認められてはいるが、実態は法務
5
局に出向くことが多いのである。
こ こ で 売 掛 債 権 流 動 化 の 手 法 で あ る 売 掛 債 権 証 券 化 と 売 掛 債 権 担 保 融 資 ( ABL)
と フ ァ ク タ リ ン グ の 違 い を 明 確 に す る 。 売 掛 債 権 証 券 化 は SPVが 売 掛 債 権 を 買 い 取
り 、 複 数 の 投 資 家 に 証 券 と し て 販 売 す る 方 法 で あ り 、 ABLは 売 掛 金 を 担 保 に し て
お金を借りる方法である。ファクタリングは売掛金を回収期日前に買い取り、
10
現 金 化 す る 手 法 で あ る 。 ABLは 融 資 で あ る た め 、 利 用 期 間 に 応 じ た 利 息 と 借 り
た元金を分割で支払う必要があるのに加え、売掛先が貸し倒れした場合、償還
請求権があるため売掛債権を買い戻す必要がある。売掛債権証券化はすでに
SPVに 譲 渡 し て い る た め 債 権 が 回 収 不 可 能 と な っ て も 買 い 戻 す 必 要 が な い 。 同
様にファクタリングもファクターに売掛債権を譲渡しているために、回収不可
15
能 の 債 権 を 買 い 戻 す 必 要 は な い 。 ま た 売 掛 債 権 証 券 化 は SPVが 受 け 取 っ た 売 掛
債権を証券化し、複数の投資家に発行する取引であるが、ファクタリングはフ
ァクターが買い取った売掛債権をほかに売り渡すことはない相対取引であると
いう違いがある。
ここまで見ると売掛債権の現金化の手段がいずれも類似しているように見え
20
るのだが、ここで電子記録債権とファクタリングの共通点と違いを明確にす
る。
まず電子債権とファクタリングを簡単に説明する。電子債権は企業間の債権
(例:売掛金)を電子的に記録して管理する仕組みで、その債権の譲渡や割引
も、パソコンやファクシミリを使って行うことができる。一方ファクタリング
25
は債権の支払い企業と受け取り企業がファクタリング業者と契約し、受け取り
企業はファクタリング業者にその債権を譲渡することができる。
この2つの手法の共通点は以下のとおりである。①受け取り企業(商品等を
納入する側の企業)は売掛債権を譲渡することが可能である。②債権を譲渡す
ることで受け取り企業は支払期日前に現金化が可能となる。③支払期日が来る
30
と、支払い企業の銀行口座から資金が引き落とされて決済できる。④システム
25
を使って自動的に手続きを行うことが可能である。以上の4つが電子債権とフ
ァクタリングの共通点である。債権を譲渡して支払期日前に現金化できる点と
それがシステム化されている点である。では次に両者の違いを明らかにする。
5
1.ネットワークの違い
電子記録債権は株式会社全銀電子債権ネットワーク(通称「でんさいネッ
ト 」) が 記 録 機 関 と な り 運 営 さ れ て い る 。 債 権 の 支 払 い 企 業 ・ 受 け 取 り 企 業 は
銀行などのシステムを通じて「でんさいネット」にアクセスする仕組みであ
る 。「 で ん さ い ネ ッ ト 」 に は 全 国 銀 行 協 会 が 100% 出 資 し て 設 立 し た も の で
10
1.300を 超 え る 金 融 機 関 が 参 加 し て い る 。 こ れ は 金 融 業 界 を 挙 げ て の 取 り 組 み
であり、従来からある銀行間の決済システムを利用していることが大きな特徴
といえる。よって支払い企業・受け取り企業は、自社がそれぞれに口座を保有
している銀行がこの「でんさいネット」に参加していれば、新たな口座を作る
必要もなく、また取引先が増えたとしても新たに契約を結び直すこともなく、
15
電子記録債権を利用可能である。一方、ファクタリングはあくまで個別のファ
クターを通じての取引であることから、取引先が増えるたび、ファクターを交
えて契約を締結する必要がある。
2.保証の有無
20
電子記録債権を譲渡する場合、譲渡する企業は保証人になる。よって支払い
企業がその債権を履行できないケースでは、譲渡した企業に保証人として支払
い義務が生じる。一方ファクタリングは、その債権をファクターが買い取るこ
とから、カスタマーが支払いを行わなかった場合でも、譲渡した企業が代わり
に支払う義務は生じない。つまりファクタリングでは、貸し倒れリスクを負わ
25
ずに支払期日前に現金を入手することができるという財務諸表の健全化という
メリットがある
民法や商法が規定する、債権に関する特約が、債権譲渡の際に障壁となる場
合があるが、ファクタリングを行う上ではそうした問題を考える必要はない。
なぜならファクタリングは一般的な債権譲渡とは異なる特徴を有するからであ
30
る。民法での債権譲渡は個々の取引の個別の譲渡であるが、ファクタリングは
26
取引先(クライアント)が顧客(カスタマー)に有する複数、多数の債権の一
括譲渡である。個別ではなく、すべて一括譲渡である理由としては、個別では
リスクの分散にならないのと、ファクタリングはこれから継続する、将来債権
を 対 象 に し て い る こ と で あ る 。こ こ で い う 7 将 来 債 権 の 譲 渡 は 債 権 の 事 前 譲 渡 を
5
意味し、債権成立時点で債権が移転したと解する。将来債権の譲渡は、現有の
売掛債権だけでなく、将来獲得すべきキャッシュフローをも前払金融の引き当
てとするという意味で、資金調達の可能性を広げることになる。
ファクターの機能で述べたようにファクタリングは金融サービスと信用リス
ク負担サービスが主要機能であり、その組み合わせで次の3つに種別される。
10
① 償還請求権留保・前払方式ファクタリング(金融サービス)
売掛債権・手形の支払期日に全部または一部の支払いが拒絶された場合、も
しくは支払期日到来前であっても拒絶される懸念があると認められた場合には、
ファクターの請求によって、クライアントはただちに当該売掛債権・手形を受
け戻す義務を負っている。クライアントが前払方式ファクタリング・サービス
15
を受けているときは、クライアントは売掛債権・手形の返還を受けると同時に
当該融資金をファクターに弁済することになる。
② 償 還 請 求 権 放 棄・前 払 方 式 フ ァ ク タ リ ン グ( 金 融 + 信 用 リ ス ク 負 担 サ ー
ビス)
ファクターは譲渡を受ける売掛債権・手形について、それぞれの支払義務者
20
(カスタマー)の信用を調査したうえで、適正と認められるものについて信用
リスクを負担することになる。しかし、特約として商取引の原因関係および手
形用件の欠陥、その他偽造、変造、盗難、詐欺などの事故、天災、公権力によ
る債務の免除などを理由として、カスタマーが支払いを拒絶した場合には、フ
ァクターはクライアントに対して信用リスクの責任を負わないとしている。
25
③ 信用保証ファクタリング(信用リスク負担サービス)
11 年 1 月 29 日 判
決)は、保険診療をする医師の社会保険診療報酬支払基金に対する債権の譲渡
が問題とされた事案で「債権の発生可能性の多募でこの種の契約の有効性が左
右されるものではない」と明言して、複数年の長期にわたる将来債権譲渡契約
の有効性を承認した。
7将 来 債 権 の 譲 渡 契 約 の 有 効 性 に つ い て は 、 最 高 裁 ( 平 成
27
信 用 保 証 フ ァ ク タ リ ン グ は 企 業 に 対 し て「 リ ス ク ヘ ッ ジ( 一 種 の 保 険 )機 能 」
を提供するものである。契約により、全取引の包括支払保証という場合と、取
引ごとの個別支払保証がある。売掛債権の支払保証は売掛債権が回収不能に陥
った場合に、あらかじめ決めた額まで損失を補填するサービスであり、債務者
5
ご と に 信 用 力 を 審 査 し 、「 保 証 限 度 額 」 を 設 定 す る た め 、 利 用 企 業 に と っ て は 、
取引先の与信調査をアウトソーシングするという利点がある。
6. 日 本 に お け る フ ァ ク タ リ ン グ の 現 状
わ が 国 に 本 格 的 な フ ァ ク タ リ ン グ 業 務 が 導 入 さ れ た の は 、1972 年 に オ リ エ ン
10
ト フ ァ ク タ ー( 株 )
( 現 在 の 三 菱 UFJ フ ァ ク タ ー( 株 ))が 設 立 さ れ た こ と に よ
る 。そ れ 以 降 、都 市 銀 行 系 の フ ァ ク タ ー 会 社 が 次 々 と 設 立 さ れ る よ う に な っ た 。
こ の よ う な 状 況 は 、1970 年 代 に 入 っ て 、わ が 国 の 経 済 、金 融 環 境 が 大 き く 変 化
し、都市銀行が大企業取引中心の経営体制から中小企業との取引拡充に転換す
る必要性が生じたことによる。これに対して、中小企業の中でも、技術開発や
15
財務体制の体質の向上を図り、独自で市場開発を行い、成長・発展する企業が
多く見られるようになってきた。こうした企業には、単なる金融供与だけでな
く、リスクヘッジや信用情報などきめ細かい金融サービスを必要とするものが
多く、また銀行自体では行い得ない種類のサービスに対するニーズも多い。そ
こで銀行は、融資業務を中心的な業務としつつも、売掛債権の総合管理、信用
20
調査、経営コンサルティングなどのサービスを提供できる金融会社としてファ
クターを設立し、中小企業のニーズに対応してきたのである。
平 成 11 年 2 月 に 政 府 の 経 済 戦 略 会 議 が「 日 本 経 済 再 生 へ の 戦 略 」と 題 す る 答
申を出した。その中で「伝統的間接金融ルートに過度にかたよった企業金融構
造を適正化すべく、多様な資金調達ルートの早期定着を図ることが喫緊の課題
25
で あ る 」 と 指 摘 し た う え で 、 そ の 一 つ と し て 、「 売 掛 債 権 の 買 取 り 、 支 払 保 証 、
回収代行サービスなどのいわゆるファクタリングを中堅・中小企業向けの新た
な金融手法の一形態として拡大させることが必要である」と提案した。さらに
平 成 13 年 3 月 に 中 小 企 業 庁 が 主 宰 す る 中 小 企 業 債 権 流 動 化 研 究 会 が 、
「債権の
流 動 化 等 に よ る 中 小 企 業 の 資 金 調 達 の 円 滑 化 に つ い て 」と 題 す る 最 終 報 告 で「 中
30
小企業は、物的資産の余裕に乏しく、又は、すでに物的資産を金融機関の担保
28
に供しているとの現状に鑑みれば、債権やその他の資産を引当とする金融は今
後 有 効 な 手 だ て と な り 得 る 」と 前 置 き し た う え で 、
「中小企業を巡る売掛債権を
引 き 当 て と す る 金 融 サ ー ビ ス の 諸 類 型 」の 中 で 、売 掛 債 権 担 保 融 資 な ど と 共 に 、
ファクタリングがもつ売掛債権の買取りと売掛債権の支払保証サービスを取り
5
上げている。
こ の よ う に 、2000 年 代 に 入 っ て よ う や く 政 府 が フ ァ ク タ リ ン グ に 関 心 を 持 つ
よ う に な る の で あ る が 、 1970 年 代 に 持 ち 込 ま れ た フ ァ ク タ リ ン グ が な ぜ 30 年
ものあいだ注目されてこなかったのか。次に、ファクタリングの普及を妨げて
いた諸要因がどのようなものであったかを整理し、その後どのように解決され
10
てきたかについて述べていく。
ファクタリングを妨げていた原因として、
( 1 )手 形 取 引 の 発 展
の遅延
( 2 )法 整 備
(3)総合商社の存在の3つが挙げられる。そしてこれら諸要因の背
景とその後どう改善してきたかについて1つずつみていく。
(1)手形取引について
15
ファクタリングの概念が日本に持ち込まれた当時は手形での決済が通常化し
ていた。また、売掛債権の譲渡が、信用の低下につながるイメージがぬぐえな
かったために、ファクタリングの一般的な普及はしなかった。また手形での取
引が日本の商習慣として根付いていたために、ファクタリングの成長が阻害さ
れ て き た の で あ る 。し か し 、そ の 常 態 化 し た 手 形 取 引 も 現 在 は 減 少 傾 向 に あ る 。
20
その理由は支払人サイドと金融機関サイドの両方の観点から述べることができ
る。
支払人は手形用紙を銀行から買い、さらに手形には印紙を貼付し、なおかつ
その手形の受け渡しの危険性、郵送コストや紛失リスクもあるために手形を利
用する上でのリスクが伴う。金融機関側は手形の処理に膨大な労力と時間を要
25
する。銀行は様々な手形を支払期日別・支払銀行別へ振り分け、手形交換所に
て銀行と直接交換する。そして各々受けとった手形を支払期日が来るまで保管
し、期日が到来すると当座で資金決済をし、不渡りがあれば所定の手続きを取
らねばならない。また、支払期日前に依頼返却もあり得る。このように両者と
29
も 不 利 益 を 被 る た め に 手 形 取 引 は 減 少 す る こ と と な っ た 8 。さ ら に 決 定 的 な 要 因
としてインターネットの普及がある。電子商取引の伸長やインターネットをイ
ン フ ラ と し た 9 SCM な ど 、 流 通 シ ス テ ム の 革 新 で 、 い ま ま で カ バ ー で き な い 分
野での新たな金融手法としてのファクタリングが注目されている。手形で行っ
5
ていた代金回収システムも情報化することによってデータとして管理すること
が で き 、 大 幅 な 効 率 化 を 実 現 し た 。 第 2 節 の 図 表 2-3 受 取 ・ 支 払 手 形 と 売 掛 ・
買掛金の残高に示すように、手形を用いた取引は全産業において減少傾向にあ
る こ と が わ か る だ ろ う 。ま た 、図 6-1 に 示 す よ う に 売 掛 債 権 の 流 通 量 が 増 加 し 、
総資産の中でも高い比率を占め資金調達のうえで重要な役割を持っていること
10
がわかる。
15
20
25
8手 形 取 引 に つ い て は 、 第 4 節 で 述 べ た よ う に 、 近 年 、 従 来 の 紙 の 手 形 に と っ
てかわって電子手形の普及が広まっている。電子手形は紛失・盗難のリスクが
なく事務処理が円滑に進むため、採用する企業が増加傾向にある。
9 SCM( サ プ ラ イ チ ェ ー ン マ ネ ジ メ ン ト )
:自社内あるいは取引先との間で受
発注や在庫、販売、物流などの情報を共有し、原材料や部材、製品の流通の全
体最適を図る管理手法。また、そのための情報システム。
30
図 表 6-1
(出所)
業種別,規模別資産・負債・純資産及び損益表
財 政 金 融 統 計 月 報 第 750 号 、 第 738 号
財務総合政策研究所
元に
筆者作成
5
(2)法整備の遅延について
次 に 法 整 備 の 遅 延 に つ い て 論 を 進 め る 。ア メ リ カ で は フ ァ ク タ リ ン グ が 一 般
的な資金調達手法であるのに対して、わが国でファクタリングが遅れた理由と
してはアメリカの「統一商法典」と日本の「民法」との間に債権に対する法制
10
上の違いがあることが挙げられる。
日 本 で は 、債 権 者 が 第 三 者 に 対 抗 要 件 を 持 つ た め に は 、債 務 者 の 承 認 10 を 得
なければならず、それに加えて債権譲渡手続きが極めて複雑であった。すなわ
ち、クライアントがファクターに債権譲渡するためには、カスタマーの確定日
付のある承諾書を添付するのが一般的であった。さらに民法は、債権に原則的
467 条 の 1 項 : 指 名 債 権 の 譲 渡 は 、 譲 渡 人 が 承 諾 を し な け れ ば 、 債 務
者その他の第三者に対抗することができない
10 民 法 第
31
な自由譲渡性を認めているが、当事者は特約によって債権を譲渡できないもの
と し て い る た め 11 、 債 権 譲 渡 が こ の 債 権 譲 渡 禁 止 特 約 に よ り 凍 結 さ れ 、 資 金 化
しにくい制度になっている。
「 統 一 商 法 典 」が 売 掛 債 権 ま た は 契 約 上 の 権 利 の 譲
渡を禁ずる条件を無効としているようにわが国の法制度を改革する必要がある。
5
そ れ に 対 し て ア メ リ カ の 統 一 商 法 典 で は 、個 々 の 担 保 目 的 物 の 変 動 に も か か
わらず、あらたに加わるものも含めて全体として担保権が及ぶようにするため
の手当て(担保目的物の範囲の問題)と、将来に生ずる債権も被担保債権に加
えるための手当て(被担保債権の範囲の問題)がある。ファクタリングを行う
にあたっての法制度上の障害について統一商法典はそれを円滑に行うための手
10
当てを確実に行っている。しかし日本においても法整備の見直しが行われ始め
ている。国、地方公共団体が物品、役務調達に係る債権譲渡禁止特約の部分解
除に向け行動が始まっているのである。ここでいう部分解除とは、契約上は一
般的に債権譲渡を禁止し、中小企業が個別に債権譲渡の申し立てを行い、売掛
先(第三債務者)がこれに合意する方式である。この場合であれば、必ずしも
15
第三債務者の事前の承諾を得なくても、ファクタリングや売掛債権担保融資に
よる資金調達手段として利用できる一方、第三債務者の事務作業も小さいため
効率的であることがわかる。
(3)総合商社の存在について
ファクタリングの浸透が遅れた理由として総合商社の存在がある。ここで総
20
合商社の機能を整理すると、取引媒介機能・金融機能・危機回避、情報提供機
能がある。取引媒介にあたっては多種多様な商品を総合的に取り扱うことによ
り、複雑な取引によって発生するリスクを相殺・軽減し、流通過程を効率化す
る。商社金融は多くの場合、商品取引を円滑化する目的で取引先企業に信用を
供与するものである。さらに情報機能は国内外のあらゆる種類の情報を収集・
25
分 析 し 、取 引 密 度 を 高 め 、リ ス ク 負 担 を 最 小 限 に と ど め る 役 割 を 果 た し て い る 。
このような総合商社の存在がファクターの発展を阻害してきたといわれ、取引
媒介機能を除けば両者の機能は競合する。
466 条 の 2 項 : 債 権 は 譲 り 渡 す こ と が で き る が 、 当 事 者 が 反 対 の 意 思
を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に
対抗することができない。
11 民 法 第
32
商社金融は、高度経済成長においても、中小企業にとって大きな役割を果た
していた。銀行からの融資は可能であっても提供担保が少なく、借入金利は担
保額、リスクに応じて高く、資金量にも限界があったが、商社金融であれば商
品の販売権を引き換えにして低利の融資を行うことができたため、中小企業は
5
販売と金融とを商社に任せて商品の製造に専念することができた。
商社としても、都市銀行から低利で融資が受けられるので、わずかなリスク
を負担してでも低利で中小企業に融資し、中小企業との結びつきを強化し、商
圏の拡大による利益を享受できた。銀行融資と商社金融を比較する場合、商社
のほうが企業情報について銀行より優位にあったことは事実であり、これは1
10
件あたりの融資額が小さくて件数が多い中小企業向けの融資において有利であ
った(志村和次郎、ニュービジネスブレイン機構
2004)。
最近における金融事情の変化に応じて、従来の商社金融の意義は低下しつつ
あ る 。し か し 、商 社 の 総 合 力 は 潜 在 的 に 見 て い ま だ に 無 視 で き な い も の が あ る 。
特に、商社はその取引媒介機能を通じて取引先企業の経営状態を詳細に把握で
15
き る と と も に 、多 種 多 様 な 取 扱 商 品 を 総 合 的 に 扱 い う る と い う 利 点 を 活 か し て 、
収集した情報を基礎とし、危機負担機能を中心にして今後の対応を考えること
ができる。ファクターと商社とは取引媒介機能を除けば類似点が多いが、ファ
クターの金融サービスの総合化、記帳代行や電子商取引のファクタリングにお
いて、ファクターの独自性と持ち味が期待されるであろう。
20
こ こ で フ ァ ク タ リ ン グ の 現 在 の 市 場 規 模 を 見 て み る 。 以 下 の 図 表 6- 2 を 見
る と 、 平 成 11 年 度 の フ ァ ク タ リ ン グ の 市 場 規 模 は 4552 億 円 で あ る 。 財 政 金 融
統 計 月 報 第 568 号 の 法 人 企 業 統 計 年 報 特 集 ( 平 成 11 年 度 ) に よ る と 平 成 11 年
度 の 売 掛 金 の 規 模 は 17 兆 7212 億 6080 万 円 で あ る 。 平 成 11 年 度 に お け る 、 売
掛 金 全 体 の 約 2.56% を フ ァ ク タ リ ン グ 業 務 が 占 め る 。決 し て 多 く 利 用 さ れ て い
25
る と は 言 え な い 。 た だ 、 以 下 の 図 表 6-3 の ( 株 ) ワ ダ ツ ミ の フ ァ ク タ リ ン グ の
利 用 問 い 合 わ せ 件 数 を み る と 、2010 年 か ら 始 ま り 問 い 合 わ せ 件 数 は 右 肩 上 が り
に伸びている。これは現在こそファクタリングの件数は少ないが、企業自体も
興味関心を示しており、今後の利用拡大が期待できる。
30
33
図 表 6-2
ファクタリングの市場規模の推移
(出所)中小企業庁
事業環境部
債権の流動化等による中小企業の資金調達
の円滑化について《最終報告のポイント》平成13年 3 月
5
図 表 6-3
出所
ファクタリング利用問い合わせ件数
ワダツミ
ニュース
お問い合わせ件数のお知らせより
34
筆者作成
7. フ ァ ク タ リ ン グ の 今 後 の 課 題
ファクタリングが中小企業金融において更なる広まりを見せるために解決す
る必要のある課題が3つある。1つ目が売買や請負などの一般の契約において
債権譲渡禁止特約が存在すること。2つ目が売掛債権を担保に資金調達を行う
5
ことが風評被害を招きかねないこと、最後に債権譲渡登記の申請や、登記内容
の確認に手間がかかるということである。
7- 1
売買や請負などの一般の契約において債権譲渡禁止特約が存在すること
中 小 企 業 庁 金 融 課 (( 社 ) 全 国 信 用 保 証 協 会 連 合 会 平 成 14 年 4 月 ) に よ る
10
と 、 物 品 や サ ー ビ ス の 取 引 に か か わ る 契 約 書 に お い て 、「 債 権 譲 渡 の 禁 止 」、
「個別契約に基づく権利の全部または一部を第三者に譲渡してはならない」と
いう条項が入っている場合があり、これらは「債権譲渡禁止特約」と呼ばれて
いる。このような債権譲渡禁止特約がある場合、中小企業が債権譲渡を行うに
は 特 約 の 解 除 が 必 要 で あ る 。 以 下 の 図 表 8-1 が そ の 流 れ を 図 表 化 し た も の で あ
15
る。
図 表 7-1
債権譲渡禁止特約とは
35
(出所)
年 2月
経済産業省中小企業庁
(株)全国信用保証協会連合会
平 成 16
売掛債権担保融資保証制度ユーザーマニュアル(改訂版)
民 法 第 466 条 、 467 条 で 通 説 の 解 釈 で は 特 約 違 反 の 効 果 を 、 契 約 当 事 者 以 外
5
の第三者に対しても解している。つまり、譲渡禁止特約に違反した譲渡行為そ
のものが無効となり譲渡の効力が生じないということになる。譲渡禁止特約違
反の譲渡は無効だが、のちに債務者が承諾した場合はどうなるか。判例では債
権譲渡はさかのぼって有効となる。なお、対抗力は承諾時に遡及するに留まる
としている。そもそも譲渡禁止特約は債務者の便益のためのものであり、その
10
債務者が承諾したのだからこれを有効としてもかまわないという論理である。
譲渡禁止特約が存在するのは、不特定の債務者から取り立てを受けるなどのト
ラブルを回避するというのがその理由だが、現状においては様々な不都合が生
じている。ファクタリングや売掛債権担保融資制度そのものが運用できないた
めである。
15
ただ、現状でファクタリングが行われているように債権譲渡禁止特約を結ん
でいない場合、もしくは売掛先に解除してもらえれば債権譲渡は可能である。
債権譲渡禁止特約がないことを確認もしくは同特約を解除した後では、第5節
で述べたファクタリングのデメリットである債権譲渡登記が必要なことで、述
べているとおり対抗要件の具備を民法上の規定化債権上特例法に沿って行えば
20
債権譲渡が可能となる。
ここまで見るとファクタリングなどの売掛債権流動化を妨げている債権譲渡
禁止特約であるが、改正の動きが出ている。法務省民事局参事官室発表の法制
審 議 会 民 法 ( 債 権 関 係 ) 部 会 が 平 成 25 年 2 月 26 日 に 決 定 し た 「 民 法 ( 債 権 関
係)の改正に関する中間試案」では債権譲渡禁止特約があっても、一定の制限
25
(譲渡人が悪意、重過失である場合は債務者が譲渡人に対し、履行を拒絶し、
譲 渡 人 に 対 し て 尾 行 を し 、そ の 尾 行 を も っ て 債 権 の 消 滅 を 譲 渡 人 に 対 抗 で き る )
があるが債権譲渡は有効であるということである。これらの改正は現行法の譲
渡禁止特約が付されていれば、債権譲渡はできないという立場から「譲渡禁止
特約が付されていても、債権譲渡は有効」という立場を基本にすることに変わ
30
るということである。このような債権譲渡禁止特約が解除の方向に動くという
36
のは、第6節で述べたファクタリングによる資金調達が普及しているアメリカ
の「統一商法典」と同一であり、債権譲渡禁止特約が原因で資金調達に苦労す
る事業者が、ファクタリングなどの売掛債権流動化が進むので中小企業金融の
資金調達難が解消できる。
5
ただ債権譲渡禁止特約が解除になるとすぐさま売掛債権の流動化が進むとは
いえない。カスタマーが大企業の場合を考えると、債権の譲渡の承諾を直接ク
ライアントと取引している部門が、自己の利益につながらない相手先の要望に
応じるために法務部など別の部門に承諾の手続きを取る必要がある。このよう
な事務的な負担の大きさから大企業がなかなか債権譲渡禁止特約の解除を承諾
10
しないのではという懸念もある。ただこの民法改正をきっかけに大企業の意識
改革へとつなげることができれば、十分に売掛債権流動化は進むといえよう。
7-2
売掛債権を担保に資金調達することが風評被害を招きかねないというこ
と
15
ファクタリングが日本でさほど広まらない要因の1つとして風評被害がある。
上記の債権譲渡禁止特約もいまだに大手企業の契約には記載されていることが
多い。理由として支払い先が変わることの煩雑さを嫌うことも1つの要因では
あるが、もう1つの要因に、売掛債権を利用した資金調達は、他の金融機関か
らの資金調達ができないほど経営に困った末の手段であるという風評被害が根
20
強い。最悪の場合、売掛債権を利用した資金調達のために債権譲渡禁止特約の
解除を相手企業に打診するだけで、取引停止もありえるのである。そのことか
ら第5節で述べたとおり、3者間取引に比べ手数料が高いが、相手先の企業に
通知されない2者間取引が重要視されている。より中小企業金融を円滑にする
にはこのイメージの払拭が必要となる。
25
実は、この売掛金を利用した資金調達については、「売掛債権担保融資は、
企業が取引先に対して保有している売掛債権を担保として金融機関が当該企業
に融資するものであるが、活用されていない原因として次の点が指摘できる。
1つは、売買や請負などの一般の契約において債権譲渡禁止特約が存在してい
ることである。売掛債権担保融資は売掛債権を譲渡担保として行われるため、
30
契約において債権譲渡禁止特約が存在する場合には売掛債権を担保に資金調達
37
することができない。債権譲渡禁止特約は当事者間の契約による商慣行上の問
題であるとともに、これには誤払い防止など一定の合理性を有する面もあり、
その全てを一律に否定することは難しいが、売掛債権担保の活用を拡大する観
点から、契約における債権譲渡禁止特約の解除を産業界に働き掛け続けること
5
が必要である。もう1つは、売掛債権を担保に資金調達することが風評被害を
招 き か ね な い と い う 点 で あ る 。つ ま り 、
『売掛債権にまで手を出さなければ資金
の調達ができず、資金繰りが苦しい企業である』とみなされる懸念があるとい
うことある。この問題については、売掛債権を活用した資金調達が正当な資金
調達手段であることの周知徹底が必要である。」(経済産業委員会調査室
10
上
原 啓 一 2007 年 3 月 か ら 引 用 ) と し て い る 。
このように国の認めた施策というイメージを広げていくことが必要である。
7-3
債権譲渡登記の申請や、登記内容の確認に手間がかかるということ
上記のファクタリングのデメリットで述べている債権譲渡登記の申請や、登
15
記内容の確認に手間がかかるということの対応策としては、債権譲渡登記の申
請手続きや、その内容確認手段の電子化を進めることが現実的であると考えら
れ る 。 こ の 動 き は 現 に 進 ん で お り , 平 成 23 年 2 月 14 日 か ら , 登 記 ・ 供 託 オ ン
ライン申請システムの運用が開始された。登記・供託オンライン申請システム
は,申請・請求をインターネット又は政府共通ネットワークを利用して行うシ
20
ス テ ム だ 。こ れ ら の お か げ で 自 宅 や オ フ ィ ス な ど か ら 、オ ン ラ イ ン に よ る 申 請・
請求を行うことができるようになる。公文書についても、オンラインにより自
宅やオフィスなどから取得することが可能となる。このように、書面で申請・
請求を行うよりも、手数料が低額になるなどのメリットがあるのだ。
オ ン ラ イ ン で 手 続 き 可 能 な も の は 以 下 の 図 表 8-4 の 通 り で あ る 。
25
30
38
図 表 7-4
5
(出所)
登記・供託オンライン申請システムで利用可能な手続き一覧
登記・供託オンライン申請システム 登記ねっと 供託ねっと:
登
記・供託オンライン申請システムとは |
以上のように、ファクタリングが今後中小企業金融の資金調達手段として広
がりを見せるために解決するべき課題とその解決案について述べてきた。次の
10
第8節では、なぜファクタリングが急な資金需要に対応できずに黒字倒産を起
こす中小企業に有効といえるのかを述べていく。
8. お わ り に
第8節では、その課題の多いファクタリングがなぜ短期的な資金需要に対応
15
できずに黒字倒産してしまう中小企業を助けるといえるのかをこれまでの節を
踏まえつつ、確認する。
第2節では、中小企業の資金調達構造の内訳をみることによって、企業間信
用が増加傾向にあることが分かった。企業間信用の割合が高まる一方で、売掛
債権が効率的に利用されていないことから、売掛金の債権化による資金調達の
20
幅が広がる余地があることが分かった。また、日本の従来の商習慣であった手
形取引が減少傾向にあることから、別の資金調達手段の可能性を見出すことが
できた。
39
第3節では、その資金繰りの悪化によっておこる倒産には、企業としては利
益が出ているにもかかわらず、過剰在庫や資金繰りの悪化によっておこる黒字
倒産というものがあることが分かった。一般的に倒産は、利益が出ないことに
よ る 赤 字 倒 産 が ほ と ん ど で あ る と イ メ ー ジ し が ち で あ る が 、 第 3 節 の 図 表 3-2
5
を 見 る と 倒 産 企 業 に お け る 赤 字 企 業 率 は 48.44% で あ る 。 こ の こ と か ら 黒 字 倒
産も赤字倒産と同様に発生しているといえる。黒字倒産を防ぐには、すぐに現
金化可能な流動資産を増やし、流動比率を高めて資金繰りを改善する必要があ
ることが分かった。
第4節では資金繰り改善に有効な運転資金の調達手段として銀行融資、手形
10
取引、ノンバンクによる融資、売掛債権流動化がある。その売掛債権流動化の
手 法 に は 、売 掛 債 権 証 券 化 、売 掛 債 権 担 保 融 資( ABL)、フ ァ ク タ リ ン グ が あ る 。
一般的に運転資金の調達手段は銀行融資や銀行融資のサービスに含まれる手形
取引が主に用いられている。特に手形取引は平成2年をピークにして減少傾向
で は あ る が 、 第 2 節 の 図 表 2-3 受 取 ・ 支 払 手 形 と 売 掛 ・ 買 掛 金 の 残 高 の 受 取 手
15
形 、支 払 手 形 の 残 高 を 見 る と わ か る よ う に 、日 本 で 広 が っ て き た 資 金 調 達 手 段 で
あ る 。 た だ 、 減 少 傾 向 に あ る 手 形 取 引 は 現 在 世 界 的 な IT 化 の 波 に 乗 り 、 従 来 使
用されてきた紙の手形から電子記録債権への移行が進んでいる。
第5節では運転資金などの短期資金の新たな資金調達手段として注目されて
きている売掛債権流動化の手法の1つであるファクタリングについて詳しく見
20
てきた。
ここまで振り返ると信用力の劣る中小企業の資金繰りは厳しく、資金繰りの
悪化から、財務諸表上では利が出ているにもかかわらず、黒字倒産を起こす危
険性がある。その対策として運転資金調達の円滑化が重要で、現在、中小企業
の資金繰りには手形取引やその代替案である電子記録債権が用いられている。
25
それでもなぜファクタリングが資金繰りの悪化による、緊急な資金需要に有効
といえるのか。それは、ファクタリングは電子記録債権にはないメリットを持
ち合わせているからである。
まず、ファクタリングのメリットは第5節の記載のとおり3つある。そのな
かでも2つ目のバランスシートのスリム化と3つ目の支払い義務が生じないこ
30
とが重要である。バランスシートのスリム化は、ファクタリングが償還請求権
40
の無い形で債権譲渡を行うため、貸借対照表上、負債にはならないというメリ
ットがある。ここで短期の資金需要への対応として、ファクタリングではなく
ほ か の 電 子 債 権 や ノ ン バ ン ク な ど の 融 資 を 利 用 す る ケ ー ス を 想 定 す る 。す る と 、
ファクタリング以外の資金調達手段はいずれもバランスシート上負債になるの
5
で、結果バランスシートの負債が大きくなり、バランスシートの肥大化が起こ
る。バランスシートの肥大化は借り入れ審査が厳格な銀行などの他の金融機関
の信用力の低下を引き起こす。その結果として短期の資金需要には対応できて
も 、そ の 場 を 乗 り 切 っ た 後 の 長 期 的 な 経 営 を 考 え る と マ イ ナ ス と な っ て し ま う 。
あくまでその場しのぎの融資になってしまうのだ。
10
次に支払い義務が発生しないことだ。売掛金の回収が不能になった場合、フ
ァクターが回収リスクを負担するため、支払い義務が発生しない。電子記録債
権や売掛債権担保融資などの他の資金調達手段は、償還請求権があるので売掛
債権が回収不能となった場合、債権を買い戻す必要がある。安定的な企業経営
に欠かせないリスクマネジメントと、バランスシートのスリム化、資金調達を
15
同時に行うことができるのが電子記録債権やその他運転資金調達手段にはない
ファクタリングのメリットである。
以上で見てきたようにファクタリングは短期的な資金需要において有効な手
立てであり、十分な運転資金を賄えずに黒字倒産する恐れのある中小企業を救
うことができる。しかし、現状ではファクタリングの実態を知らない経営者が
20
多い。今後は政府による周知徹底を推進すべきであるのに加え、経営者がファ
クタリングを利用しやすい法整備を進めていくべきである。我々としては、黒
字倒産の救済手段に関して、ファクタリングに焦点を当てて論じてきたが、今
後は他の売掛債権流動化の活用方法について引き続き研究をしていきたい。
25
参 考 文 献 ・ 参 考 URL
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