要確認!24 年度期末の人事労務

レジュメ
要確認!24 年度期末の人事労務
~法改正と年度末の労務問題を徹底解説
今年度は、「労働者派遣法」、「労働契約法」、「高年齢者雇用安定法」など企業
の人事労務管理に大きな影響を及ぼす労働関係法が改正されました。
一部は既に施行されていますが、多くは平成 25 年4月1日から施行されます。
新年度を直前に控えて、法改正のポイントと実務対応の留意点などを確認します。
また、期末に問題となりがちな採用・退職・労働条件変更といった人事労務の諸
問題についても、相談事例などを交えながら解説します。
平成 25 年3月6日(水)
講師
みずほ総合研究所
増
山
隆
司
相談部主任コンサルタント
(特定社会保険労務士)
Ⅰ、労働関係法の改正ポイント
1、労働者派遣法(以下、派遣法)の改正
[5つのポイント]
(1)日雇い派遣の原則禁止
(2)グループ企業内派遣の8割規制
(3)離職後1年以内における派遣の禁止
(4)派遣契約の解除に際して講ずべき措置の義務化
※上記(1)~(4)の施行日:平成 24 年 10 月1日(施行済)
(5)違法派遣における「労働契約申込のみなし制度」の創設
⇒施行日:上記施行日から3年経過後
(1)日雇い派遣の原則禁止
「日々または 30 日以内の期間を定めて雇用する労働者」を派遣することが、原則と
して禁止されました。ただし、以下の場合は例外として認められています。
[例外]
①専門的な知識、技術または経験を必要とする業務で、適正な雇用管理に支障を及ぼす
恐れがないと認められる業務
②雇用機会の確保が特に困難であると認められる労働者の雇用の継続などを図るため
に、必要と認められる場合
など
(2)グループ企業内派遣の8割規制
グループ企業内に派遣する場合は、グループ企業内に派遣する労働者の総労働時間が、
派遣元企業の派遣労働者の総労働時間の8割以下となるように規制されることになり
ました。ただし、定年退職後に派遣する労働者の労働時間は、グループ企業内に派遣す
る労働者の総労働時間には算入しない扱いになっています。
(3)離職後1年以内における派遣の禁止
派遣先企業と労働契約関係にあった者が離職した場合、離職の日から1年を経過する
までの間は、派遣先企業が離職者を派遣労働者として受け入れることが禁止されました。
派遣元企業も、そうした派遣を行ってはならないことになりました。ただし、定年退職
者など雇用機会の確保が特に困難であると認められる労働者の雇用の継続などを図る
ために必要と認められる場合などは、例外とされています。
1
(4)派遣契約の解除に際して講ずべき措置の義務化
派遣契約の解除に際して、派遣元企業と派遣先企業は、派遣労働者の雇用の安定を図る
ための措置を定めなければならなくなりました。具体的には、以下の措置を講じること
が義務化されました。
[講ずべき措置]
①派遣労働者の新たな就業機会の確保に関する措置
②派遣労働者に対する休業手当などの支払いに要する費用を確保するための費用負担
に関する措置
③派遣契約の解除に当たって、関係先など他の職場を紹介するなど派遣労働者の雇用の
安定を図るための措置
(5)違法派遣における「労働契約申込のみなし制度」の創設
派遣先企業が、違法派遣と知りながら派遣労働者を受け入れている場合は、
「派遣先
企業が派遣労働者に対して労働契約を申し込んだものとみなす」制度が創設されました。
したがって、その派遣労働者が派遣先企業の申込みを承諾すれば、派遣先企業との間に
労働契約が成立することになります。
[違法派遣の例]
①派遣が禁止されている業務
②無許可または無届の派遣元企業からの派遣
③派遣制限期間の違反
④専門 26 業務の適正化に係る違反(派遣制限期間の超過)
⑤偽装請負
2、労働契約法(以下、労契法)の改正
[3つのポイント]
(1)雇止め法理(判例法理)の条文化⇒施行日:平成 24 年 8 月 10 日(施行済)
(2)有期契約の無期契約への転換制度の創設
(3)期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止
※上記(2)
、(3)⇒施行日:平成 25 年4月1日
(1)雇止め法理(判例法理)の条文化
労働者が下記に該当する「期間の定めがある労働契約」
(以下、有期契約)の更新を申
し込んだとき、使用者が拒絶することが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相
当であると認められない場合」は、同一条件の有期契約が更新されたものとみなす判例
法理が条文化されました。
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[雇止め法理が適用される有期契約]
その1:反復更新された有期契約が、
「期間の定めがない労働契約」
(以下、無期契約)
と同視できると認められる場合
その2:雇用継続への期待について合理的な理由があると認められる場合
なお、有期契約が、無期契約と同視できると認められる場合に該当するか否かについ
ては、反復更新された期間の長短などにより形式的に判断されるものではありません。
従来の判例によると、①業務の恒常性または臨時性、②更新管理や手続の実態、③雇用
継続に関する労使間での言動や認識などの諸事情から総合的に判断されるものであり、
後記(2)の解説にある「有期契約が更新されて通算5年を超えるとき」に、無期契約
と同視できると認められるというような趣旨ではありません。
また、今回の改正を受けて、労働基準法施行規則第 5 条(労働条件の明示)が改正さ
れました。従来、契約更新の可否を判断する基準は、口頭での明示で構いませんでした
が、改正後は、当該基準を書面で明示しなければなりません(平成 25 年4月1日施行)
。
(2)有期契約の無期契約への転換制度の創設
「同じ使用者」との有期契約が更新されて通算5年を超えるときは、労働者に「無期
契約への転換を申込むことができる権利」
(無期転換申込権)を認めることになりました。
労働者が、
「無期契約への転換の申込をしたとき(無期転換申込権を行使したとき)
」は、
使用者が有期契約と同じ労働条件で申込を承諾したものとみなされ、有期契約が満了す
る日の翌日から開始される無期契約が成立することになります。
この通算5年の起算日は、施行日(平成 25 年4月1日)以後に新たに締結された有期
契約については、その締結日からとなります。また、施行日前に締結された(または更
新された)有期契約については、施行日以後に到来する契約更新日からとなります。
今回の改正により、労働者に「無期転換申込権」を認めたことは、有期雇用の管理に
大きな影響を与えることが予想されます。なお、2以上の有期契約の間に、
(原則)6ヶ
月以上の空白期間(クーリング期間)があるときは、前の有期契約は通算されません。
(3)期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止
有期契約の労働条件が無期契約の労働条件と相違している場合、その相違は、下記の
諸点から判断して「不合理と認められるものであってはならない」とされました。
3
[不合理と認められるか否かを判断する要素]
①業務の内容および責任の程度(職務の内容)
②職務の内容および配置の変更の範囲(今後の見込みを含む)
③その他の事情(労使慣行など)
3、高年齢者雇用安定法(以下、高年法)の改正
[4つのポイント]
(1)継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止~但し、経過措置あり
(2)「高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針」
(以下、
「指針」
)の策定
~就業規則に定める退職事由 or 解雇事由に該当する場合は継続雇用を拒否できる
(3)継続雇用する企業の範囲を拡大
~継続雇用する先は自社のグループ企業(特殊関係事業主)まで拡大できる
(4)雇用確保措置に係る義務違反に対する勧告に従わない企業名の公表規定を導入
※上記いずれも⇒施行日:平成 25 年4月1日
(1)継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止~但し、経過措置あり
老齢厚生年金(報酬比例部分)
(以下、年金)の支給開始年齢が 65 歳まで引上げられ
ることに備えて、原則、希望者全員の継続雇用を確保するために、労使協定に定める対
象者基準により継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みが廃止されました。ただし、
平成 25 年3月 31 日時点で有効な対象者基準については、年金の支給開始年齢(基準適
用可能年齢)に達した後は適用できる経過措置が設けられました。
生年月日の区分に応じた基準適用可能年齢と経過措置の関係は別表のようになります。
(2)「高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針」
(以下、
「指針」
)の策定
~就業規則に定める退職事由 or 解雇事由に該当する場合は継続雇用を拒否できる
希望者全員の継続雇用を原則としますが、心身の故障により業務に堪えられない場合
など就業規則に定める退職事由、または解雇事由に該当する場合の扱いなどが「指針」
に示されました。
「指針」では、上記の事由に該当する場合は継続雇用しないことができ
るとしています。
(3)継続雇用する企業の範囲を拡大
~継続雇用する先は自社のグループ企業(特殊関係事業主)まで拡大できる
希望者全員の 65 歳までの雇用を確保するために、関係子会社など一定の条件に該当す
るグループ企業での継続雇用を特例として認めることになりました。この特例を利用す
るためには、「定年前の企業」と「定年後継続雇用する企業」(特殊関係事業主)との間
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で、
「継続雇用制度の対象者を定年後に特殊関係事業主が引き続いて雇用する」旨の契約
を締結することが不可欠となります。
(4)雇用確保措置に係る義務違反に対する勧告に従わない企業名の公表規定を導入
雇用確保措置を講じない企業に対する行政措置として、改正後は、勧告に従わない場
合について、企業名を公表する規定が新たに導入されました(現行は勧告が最終措置)。
この規定を導入することにより、今回改正の実効性を確保する狙いがあります。
[別表]年金の支給開始年齢(基準適用可能年齢)と経過措置の関係
※(
生年月日
)内は年金の支給開始年齢(基準適用可能年齢)
60 歳に達する時期
支給開始年齢に達する時期
昭和 28 年 4 月 2 日
平成 25 年 4 月 1 日(施行日) ※(61 歳)
~昭和 30 年 4 月 1 日
~平成 27 年 3 月 31 日
平成 26 年 4 月 1 日
[施行日より経過措置開始] ~平成 28 年 3 月 31 日
昭和 30 年 4 月 2 日
平成 27 年 4 月 1 日
※(62 歳)
~昭和 32 年 4 月 1 日
~平成 29 年 3 月 31 日
平成 29 年 4 月 1 日
~平成 31 年 3 月 31 日
昭和 32 年 4 月 2 日
平成 29 年 4 月 1 日
※(63 歳)
~昭和 34 年 4 月 1 日
~平成 31 年 3 月 31 日
平成 32 年 4 月 1 日
~平成 34 年 3 月 31 日
昭和 34 年 4 月 2 日
平成 31 年 4 月 1 日
※(64 歳)
~昭和 36 年 4 月 1 日
~平成 33 年 3 月 31 日
平成 35 年 4 月 1 日
~平成 37 年 3 月 31 日
[経過措置期間が終了]
昭和 36 年 4 月 2 日~
平成 33 年 4 月 1 日~
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(65 歳)原則適用
Ⅱ、法改正に関する実務対応の留意点
1、 派遣法改正の実務対応
[3つの留意点]
(1) 派遣の基本契約(派遣元と派遣先の契約)を総点検する
(2) 違法派遣と知りながら派遣社員を受け入れていた場合の問題点を確認する
(3) 定年退職者は、離職後ただちに派遣社員として受入れることは可能
(1)派遣の基本契約(派遣元と派遣先の契約)を総点検する
今回の改正趣旨を踏まえて、改正内容に対応するように基本契約を総合的に点検する
必要があります。⇒(主に)派遣元企業の留意点
(2)違法派遣と知りながら派遣労働者を受け入れていた場合の問題点を確認する
派遣先企業が「労働契約を申し込んだものとみなす」制度においては、その派遣労働
者が派遣元企業と締結している労働条件と同じ内容の申込みをしたことになります。
また、派遣労働者が承諾した場合は、その承諾の意思表示をした日、または派遣労働
者が意思表示後の指定した日に、派遣先企業との労働契約が成立することになります。
したがって、成立した労働契約に定める労働条件が、派遣先企業の就業規則に定める労
働条件より有利な場合は構いませんが、不利な場合は労働条件の有効性が問題になる可
能性があります。
(3)定年退職者は、離職後ただちに派遣労働者として受入れることは可能
定年退職者は、離職後1年以内の派遣禁止の例外とされています。また、グループ企
業派遣の8割規制の対象外にもなっていますので、高年齢者の雇用確保や人材活用策の
一環として派遣利用を検討しても良いでしょう。
2、 労契法改正の実務対応
[6つの留意点]
(1) 有期契約の更新規定や契約の更新 or 雇止めの手続について確認・点検する
(2) 契約更新の可否を判断する基準(更新基準)を書面により明示する
(3) 自社における無期転換の影響(リスク)や問題点を整理する
(4) 無期契約に転換した後の労働条件をどうするか検討しておく
(5)有期契約と無期契約との労働条件の相違が、有期雇用の実態から見て合理的な
範囲にあることについて確認・点検しておく
(6)有期契約の雇用管理と活用を見直す
6
(1)有期契約の更新規定や契約の更新 or 雇止めの手続について確認・点検する
就業規則や労働契約書などに有期契約の更新に関する条項を定めている場合は、契約
の更新について労使間で誤解や錯覚が生じないように、特に下記の諸点について確認し
ておくべきです。
[確認しておくポイント]
① 契約を更新する基準、または更新しない基準が明確になっているか。
② 更新の回数や更新期間の上限を設定する場合は、労働者の合意が取れているか。
更新または雇止めの手続は、従来以上に慎重に丁寧に行なうことが求められます。
たとえば、下記の手続を、できる限り余裕をもって確実に行なうことにより、労働者の
納得や合意を確保しながら手続を進めていくことが大切になります。
[更新または雇止めの手続]
① 労働者本人から契約更新に係る意向や希望を聴取する。
② (更新を希望する場合)契約更新後の労働契約条件の提示と説明を行なう。
③ (更新を希望する場合)労働者との合意を確認する。
④ (更新しない場合)雇止め理由を事前に説明する。
(2)契約更新の可否を判断する基準(更新基準)を書面により明示する
労働契約法の改正を受けて、労働基準法施行規則第 5 条(労働条件の明示)が改正さ
れました。改正後は、契約の更新基準を書面で明示しなければなりません。たとえば、
労働条件通知書に明記する方法があります。
(3)自社における無期転換の影響(リスク)や問題点を整理する
有期契約の利用目的や就労形態は多種多様ですが、自社の有期契約が、今後どのよう
に扱われるのか、実務に則して具体的に理解し、雇用管理への影響(リスク)や問題点
などを確認しておくことが大切です。たとえば、以下の事例が想定されます。
[事例1]契約期間1年、更新を重ねて通算5年を超える場合
①1年
②1年
③1年
④1年
⑤1年
↑
↑
↑
↑
↑
締結
更新
更新
更新
更新
⑥1年
↑
↓
更新 申込
⑦無期契約
↑
転換
この事例では、契約更新を重ねて上記⑥(6年目)の期間中に、労働者から無期転換
の申込みを受けたきは、上記⑦(7年目)から無期契約に転換することになります。
したがって、無期契約に転換させるに相応しくない労働者への対応が必要になります。
7
[事例2]契約期間3年、1回更新して通算5年を超える場合
①3年
②3年
↑
締結
↑
↓
更新
申込
③無期契約
↑
転換
この事例は、当初、期間3年で終了する予定で有期契約を締結したものが、更に3年
間の有期契約を更新する場合です。この場合は、契約更新により通算5年を超える契約
期間(上記②)に入るため、上記②の期間中に労働者から無期転換の申込みを受けたき
は、上記③(7年目)から無期契約に転換することになってしまいます。したがって、
当該契約を更新する場合は、今後の業務量や人員の増減などを見極めたうえで、業務の
必要性に応じた契約期間を検討する必要があります。
[事例3]季節的な有期契約を繰返しているが、クーリング期間がある場合
※斜字は、契約が無い期間
3月
①6 月
②4 月
2月
③4 月
2月
この事例は、短期の有期契約を繰り返しているが、途中にクーリング期間(注)があ
る場合です。この場合は契約期間を通算しないため、有期契約を繰返して5年を超えたとし
ても無期転換申込権は生じません。リゾート施設の季節的なアルバイトを繰り返すような雇
用形態が該当しますが、クーリング期間を確保することで対応は可能です。
(注)クーリング期間は原則として6ヶ月以上ですが、直前の契約期間が1年未満の場合は、
その契約期間の2分の1以上とされています。
[事例4]更新により3年目を終了した時点で、6 ヶ月間業務委託契約に変更し、その
後、再度有期雇用する場合
※斜字は、業務委託契約の期間
①1 年
②1 年
③1 年
↑
↑
↑
締結
更新
更新
6月
↑
①1 年 ②1 年
↑
↑
契約変更 締結
更新
③1 年
↑
更新
この事例は、6ヶ月の業務委託契約の期間がクーリング期間に該当するか問題になる
ケースです。真に、双方の合意によるものであれば別ですが、5年の通算を免れるため
の行為とみなされる恐れがあります。
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参考[クーリング期間の計算方法]
1、前の有期契約が1年以上の場合⇒6ヶ月以上
2、前の有期契約が1年未満の場合
⇒「その契約期間×2分の1以上」。ただし、左記で計算した期間に1月に満たない
端数が生じたときは、端数を1月として計算する。
3、複数の有期契約の間にクーリング期間が無いため連続して通算される場合
⇒「契約期間を全て通算した期間×2分の1以上」
。
① 上記で計算した期間が6ヶ月を超えるときは「6ヶ月」
② 上記で計算した期間が6ヶ月未満のときは「その月数」。ただし、計算した期
間に1月に満たない端数が生じたときは、端数を1月として計算する。
(4)無期契約に転換した後の労働条件をどうするか検討しておく
改正法の規定では、無期契約に転換するときは「期間の定め」だけを変更するものと
していますが、
「別段の定め」をするときは、期間の定め以外の労働条件を変更すること
が可能であるとしています。
「別段の定め」とは、就業規則や労働契約書によることにな
りますが、無期契約に転換した後に適用する就業規則は、正社員の就業規則とするのか、
別の専用の就業規則を作成するのかといった問題を整理しておくと良いでしょう。
今回の無期契約への転換規定は、有期労働者を全て正社員に転換することを求めるも
のではないため、期間の定め以外の労働条件をどうするかは、労働契約の問題として検
討しておく必要があります。
(5)有期契約と無期契約との労働条件の相違が、有期雇用の実態から見て合理的な範
囲にあることについて確認・点検しておく
上記の不合理な労働条件の禁止は、有期契約の労働条件が、期間の定めがあることを
理由に不当に冷遇されることを防止するための規定とも読めます。下記要素に基づく有
期契約の雇用管理の実態から見て、無期契約との労働条件の相違が、著しく不利益な待
遇格差になっていないか、念のため確認・点検しておくべきです。
[著しく不利益な待遇格差になっていないかを判断する要素]
① 業務の内容および当該業務に伴う責任
(例)○トラブル対応など異例業務にも、無期契約の労働者と同様に従事するか。
○時間外労働や休日労働の扱いは、無期契約の労働者と同様であるか。
② 当該職務の内容および配置の変更の範囲
(例)○職種の変更や転勤の有無・範囲などが、無期契約の労働者と同様であるか。
③その他の事情(合理的な労使慣行など)
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(6)有期契約の雇用管理と活用を見直す
有期契約を漫然と更新し続けて5年を超えてしまってからでは、使用者の意思に係り
なく無期契約に転換せざるを得なくなる恐れがあるため、新たに雇用する当初から、有
期雇用のルールを明確に定めて、労働者に周知しておくことが重要になります。
たとえば、有期雇用に更新期間の上限(たとえば3年間)を設けるルール作りなども
1案です。その更新期間の中で、労働者の働きぶりや勤務実績、組織への貢献などを適
正に評価して、一定評価以上の労働者については無期契約に転換する仕組みを導入する
など、今回の改正を機に有期雇用の管理と活用を見直す方向もあります。
3、 高年法改正の実務対応
[6つの留意点]
(1) 希望者全員を継続雇用する場合(対象者基準を廃止する場合)
(2) 経過措置を十分に利用する場合(現行の対象者基準を、そのまま活かす場合)
(3) 新たに対象者基準を設ける場合 or 別の基準を追加する場合
(4) 特殊関係事業主の具体的な範囲を確認する
(5) 有期契約を更新して 60 歳に達した場合でも継続雇用の対象になるか
(6)人件費の負担増加が予想される中で高齢者の雇用管理と活用を見直す
(1)希望者全員を継続雇用する場合(対象者基準を廃止する場合)
「指針」では、
「勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこ
と」など就業規則に定める退職事由、または解雇事由に該当する場合は、継続雇用しな
いことができるとしています。したがって、実務では、自社の退職事由、または解雇事
由に関する規定を確認・点検する必要があります。
(2) 経過措置を十分に利用する場合(現行の対象者基準を、そのまま活かす場合)
主な制度事例を参考に解説しますが、60 歳の定年退職後は契約期間1年で更新がある
ことを前提にしています。
[事例1]60 歳定年の時期を 60 歳の誕生日、または誕生月としている場合
定年に達する時期が生年月日により定まることで、契約更新の時期が年金の支給開
始年齢とリンクしていくため、更新時に合わせて経過措置の利用が可能となります。
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[事例2]60 歳定年の時期を、年1回(3月末)に統一している場合
定年に達する時期(3 月末)が同じでも、生年月日により年金の支給開始年齢が異
なる場合が生じます。
たとえば、平成 25 年度(4月1日~翌年3月 31 日)に 60 歳に達する事例で見ると、
継続雇用を開始する平成 26 年4月1日の時点では、既に 61 歳に達している従業員と
達していない従業員が混在する可能性があります。61 歳に達している従業員は、年金
の支給開始年齢(基準適用可能年齢)に達しているため経過措置を適用できますが、
61 歳に達していない業員は、経過措置を適用することはできません。したがって、61
歳に達していない従業員について経過措置を利用できるのは、次回更新時(平成 27 年
4月1日)からとなります。
(3) 新たに対象者基準を設ける場合 or 別の基準を追加する場合
[事例1]現在は希望者全員を 65 歳まで継続雇用しているが、今回、対象者基準を新た
に設ける場合
労使間で十分に協議のうえ、①労使協定により対象者基準を定めると共に、②就業
規則の変更が必要になります。この手続は、改正法が施行される前(平成 25 年3月
31 日)までに終了していなければなりません(4月1日以降は不可)
。
なお、継続雇用に一定基準を設けることは、希望者全員を継続雇用する現行制度と
比較すると、不利益な労働条件の変更に該当すると考えられるため、労使間での十分
な協議が必要となります。
[事例2]別の基準を追加する場合
労使協定により「継続雇用を拒否する基準」を対象者基準の一つとして追加すること
も可能です。たとえば、「職場での強調性が乏しい者は継続雇用しないこと」を対象者
基準の一つに追加する案も検討に値します。相談事例においても、継続雇用者が、後輩
の上司や同僚との関係を保つことができないことから生じる様々な問題を解消する必
要性を痛感することがあります。
ただし、当該基準を追加するためには、改正法が施行される前(平成 25 年3月 31 日)
までに労使協定の内容を変更する手続が必要です。施行日(平成 25 年4月1日)以後
は、対象者基準の変更はできなくなります。
(4) 特殊関係事業主の具体的な範囲を確認する
① 支配力基準を満たす親子法人等と、②財務及び営業、または事業方針の決定に重要
な影響力を持つ関連法人等が、特殊関係事業主に該当しますが、その具体的な定義や範
囲は以下のとおりです(関連する厚生労働省令を参照)
。
11
1、定義
①[支配力基準]当該法人の経営を実質的に支配できる関係にある親子会社等
②[影響力基準]当該法人の財務及び営業または事業に係る方針決定に対して重要な
影響力を与えることができる関係にある関連会社等
2、範囲
上記①については、当該法人の親会社または子会社
など
上記②については、当該法人の親会社の子会社、当該法人の関連会社、当該法人の親会
社の関連会社
など
3、具体的な定義と範囲
⇒後記 14 頁の[別表]を参照してください。
(5)有期契約を更新して 60 歳に達した場合でも継続雇用の対象になるか
高年法は、主に「期間の定めがない社員」
(通常「正社員」と呼ばれている雇用形態)
が 60 歳で定年退職に至った後の継続雇用制度の導入を求めています。有期契約は、本
来、年齢とは関係なく一定期間の経過により契約が終了することを前提にしていますの
で、原則として定年制の適用は馴染みません。ただし、長期に亘って契約の反復更新を
重ねる結果、あたかも「期間の定めがない社員」と同視される場合があります。この場
合は、高年法による継続雇用の対象になる可能性があります。
(6)人件費の負担増加が予想される中で高齢者の雇用管理と活用を見直す
厚生労働省の調査によると、定年退職者の4人に1人は「継続雇用を希望しなかった」
と報告されていますが、平成 25 年4月1日以後、年金の支給開始年齢が3年毎に1歳ず
つ引上げられていくため、少なくとも、年金の支給開始年齢に達するまでは、多くの人
が「継続雇用を希望するようになる」ことが予想されています。したがって、人件費の
負担増加は避けられないでしょう。
今までは、60 歳で雇用が終了することを前提にした人事・賃金制度の修正で間に合っ
てきましたが、今後は、65 歳まで希望者全員の雇用を確保することを前提にした制度に
変更していく必要性が高まっていきます。したがって、企業としては、65 歳までの雇用
全体をにらんだ「生涯賃金の総額と世代毎の分配」を基本的に設計しなおすことが課題
になります。
12
1、
「高年齢者に何を期待し、どう報いるのか」
(役割期待と報酬)を見直す
法律が改正されたので最低の基準や仕組みだけは整えておこうという考え方は根強く
あります。しかし、高年齢者は、長期の就労経験により蓄積してきた業務上のノウハウ
などが豊富である一方、生き方や価値観などにより多様な働き方を望む傾向もあります。
企業としても、更に長く雇用を確保する以上は、高年齢者なりの働きと貢献を期待する
ところです。定年後は、①仕事の役割期待と労働条件(賃金など)をいかに調整してい
くか、②組織貢献をいかに評価していくかといった問題を見直す必要があります。
2、雇用目的と役割期待に応じた多様で柔軟な雇用制度を構築する
高年齢者の個人差と雇用目的などを考慮すると、概ね以下の従業員層に区分すること
ができます。
①引き続きフルタイムで働き相応の報酬を確保したい層
②家庭生活とのバランスを確保しながらパートタイムでも良い層
③忙しいときには応援してもらいたいアルバイト的な層
上記の雇用目的に適合した役割期待と労働条件(注)を適度に組み合わせて、従業員
に説明し、納得や合意を得ながら定年後の雇用を確保していくべきです。そのためには、
従業員を多様で柔軟に管理できるような雇用制度を構築していく必要があります。
(注)継続雇用する企業(自社 or 関係子会社)
、職務内容、労働時間、労働日数、賃金など
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[別表]特殊関係事業主の具体的な定義と範囲
[支配力基準による親子法人等]
(施行規則第4条の3第2項)
議決権所有割合が、
(1)過半数(50%超)である場合(同項1号)
(2)40%以上 50%以下である場合(同項2号)
下記①、②いずれかの要件に該当する者
(1) 同一議決権行使者(下記)の議決権割合が合算して過半数
・緊密な関係により同一内容の議決権行使が認められる者
・同一内容の議決権行使に同意している者
② 思決定の支配が推測される事実の存在(下記いずれかの要件に該当)
・取締役会の過半数を占めている
・事業方針等の決定を支配する契約の存在
・資金調達総額の過半数を融資している
・その他意思決定の支配力が推測される事実
(3)40%未満である場合(同項3号)
上記①と②(両方)の要件に該当する者
[影響力基準による関連法人等]
(施行規則第4条の3、第4項)
議決権所有割合が、
(1)20%以上である場合(同項1号)
(2)15%以上 20%未満である場合(同項2号)
下記いずれかの要件に該当する者
・親会社等の役員等が代表取締役等に就任
・重要な融資
・重要な技術の提供
・重要な営業上または事業上の取引
・その他事業等の方針決定に重要な影響を与えられることが推測される事実
(3)15%未満である場合(同項3号)
下記①と②(両方)の要件に該当する者
①同一議決権行使者(下記)の議決権割合が合算して 20%以上
・緊密な関係により同一内容の議決権行使が認められる者
・同一内容の議決権行使に同意している者?
②上記(2)に設定された要件に該当する者
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Ⅲ、期末に問題となりがちな人事労務の諸問題
1、 採用内定の通知をした学生が、単位不足のため卒業できないことになった場合は、
どうするか
企業が採用内定の通知をしたときには、「就労始期付・解約権留保付の労働契約」が
成立するものとされています。そのため、採用内定を取消す(解約する)には「客観的
に合理的な理由と社会的相当性」が求められます。
本事例のように、「卒業できなかったこと」は、通常、合理的な解約理由であると解
釈されています。したがって、実務では、採用内定の通知をするときに、解約権の行使
を留保する条件を具体的に提示し、その条件に該当したときは採用内定を取消すことが
あることについて、本人の個別同意を得ておくことが重要です。
2、60 歳定年を迎えて継続雇用を希望する従業員の中に、会社が提示した勤務日数では
承知できないと最後まで主張している者がいる。さて、いかに対応すれば良いか
高年法は、会社に「継続雇用を確保する措置」を講じることを義務付けていますが、
定年退職者の希望に合った労働条件による雇用まで求めてはいません。したがって、提
示した労働条件が会社の人事労務管理において合理的な裁量の範囲にあれば、従業員が
最終的に合意できない場合は、継続雇用の契約は締結に至ることなく雇用が終了するこ
とになります。なお、本事例は、高年法に違反するものではありません。
3、来年度の年俸額を減額する条件を提示しているが、本人の同意が得られないまま新
年度を迎えてしまった場合は、年俸額をいくらにするか
年俸の減額に関する同意を得られないまま、年度初の賃金支給日を迎えたときは、そ
の支給日では会社が提示した金額により支給せざるを得ません。合意してから支給すべ
きではないかという考え方もありますが、それでは「賃金は、毎月1回以上、一定の期
日に支給しなければならない」という賃金の支払原則に違反してしまいます。
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ただし、従業員の同意が得られなくても年俸額を減額できるためには、
①勤務成果や業績評価などを反映した年俸額の決定ルール
②減額する限度の有無・程度
③異議申立ルールの有無・程度
などについて
就業規則による規定や労働契約書による個別同意などにより明確かつ具体的に定めて、
事前に周知徹底しておくことが肝要です。したがって、年俸額の決定に係る規定と運用
については十分に整備しておくことが大切です。
4、 有期契約社員の契約期間を、従来の1年から6ヶ月に短縮して契約更新しようとし
ている。契約期日が迫っているのに契約社員の同意が得られない場合は、どうするか
契約期日を経過しても契約期間の同意がないま勤務させていると、今後、期間満了や
雇止め時においてトラブルに発展するリスクが高まります。
本事例では、契約期間が従前どおり1年なのか6ヶ月なのか曖昧な状況になっている
ため、次の契約期日がいつなのか不明瞭になっています。これでは、契約を終了させる
場合や更新する際、契約期日に関する意識の相違から思わぬトラブルに発展する恐れが
あります。
したがって、早急に交渉を重ねて契約期間を確定させる必要があります。また、今後
は、労働条件を変更する事情・理由を早目に説明し、事前に同意が得られない場合は、
担当者の入替などを図る必要もありますので、遅くとも期日の 30 日前までには更新の有
無を通知できるように対処すべきです。
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