大腸がん肝臓転移手術の説明書(ver.1)

肝臓手術の説明書
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大腸がん肝臓転移手術の説明書(ver.1)
1. 診断と症状
診断: 肝臓以外の臓器のがん(結腸癌、直腸癌、その他) からの肝臓転移
症状: 肝臓に画像上、腫瘍が存在する。
肝臓は、腹部の右上に位置して、ほぼ肋骨の下に収まり、頭側(上方)には横隔膜が存在します。成
人で 800~1,200g と体内最大で、解毒、合成、代謝に関する重要な臓器です。
①解毒: 体の中で作られる有害物質や,体外から投与された薬,毒物などを処理します.
②合成:
生体内で必要な種々の蛋白質を作ります。免疫や止血のために重要な凝固因子などを作っ
ています。
③代謝: 体のエネルギー源として,最も大切な糖の分解,合成に関与します.
④その他: 免疫、胆汁の合成など。
2. 治療法
肝転移の治療としては、局所治療として、①肝切除、②穿刺療法(ラジオ波焼灼療法など、体外から
針を刺して行う治療)
、③肝動注療法(肝臓の血管にカテーテルを使用しての抗がん剤投与)
、④放射線
療法などがあります。また、全身治療として全身化学療法(抗がん剤投与)などがあります。これらの
うち、どの治療法を選択するかは、もともとの大腸癌の進行度、肝転移の進行度、肝機能の状況などの
条件を十分考慮したうえで決定します。
大腸癌の肝転移は完全切除可能であれば、完全切除することで、生存期間を延ばすことができ、時に
は治癒することがあります。一方、他の治療方法に関しては、生存期間を延ばすというデータは十分に
はありません。近年の新規抗がん剤の出現により全身化学療法に関しては、生存期間を延ばすことが証
明されていますが、残念ながら治癒することはありません。
よって、肝転移で完全切除可能な場合は、治癒する可能性も鑑み、手術が第一選択となります。
肝切除
肝切除は、がんを含めて肝臓の一部を切除する治療法で、最も確実な治療法のひとつです。肝切除を
行うにあたっては 病変をしっかり切除することと、切除したあとの残りの肝機能を十分維持させること
が大切です。実際にはさまざまな肝機能の検査を行って、安全に肝切除が行われる基準を参考にしなが
ら、肝切除の適応や術式を決定します。術後の入院期間はおおよそ2~3週間で、合併症としては出血、
胆汁漏、肝不全などが挙げられます(後述)。手術に起因する死亡率は切除量により 0.8~2.9%(消化器
外科学会調査)とされています。
3. 手術による治療効果
がんの根治的切除(除去)を目的としています。
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4. 治療(手術)に伴う合併症
以下に記載したような合併症が起こる可能性があります.
① 全身合併症
呼吸器合併症:肺炎,無気肺,肺梗塞,呼吸不全などが相当します.
手術後,麻酔ガスの影響で痰の分泌が多くなり,さらに,腹部の傷の痛みのため,十分に痰を出す
ことができなくなると,
痰の詰まった領域の肺がつぶれてしまいます.
この状態を無気肺といいます.
肺がつぶれた状態では,細菌による感染を受けやすくなり,容易に肺炎を起こします.肺炎などが
悪化し呼吸不全の状態に陥った場合,人工呼吸器により,呼吸の補助を行わなければならないことが
あります.肺梗塞は,手術中,手術後を通じて長時間寝たままの状態となるため起こります.歩行を
しない間に足の静脈に血のかたまりができてしまい,これが肺に流れ込んで肺の血流を阻害してしま
うことで起こります.呼吸不全,肺梗塞は生命に直接関わってくる重篤な合併症のひとつです.
薬物アレルギー:手術中,手術後を通じて様々な薬,注射の投与が必要となります.薬物アレルギーは
これらの薬,注射をからだが受け付けずに拒絶するために起こります.アレルギーを起こす薬,注射
の種類は人によってまちまちですが,頻度が多いものは,抗生剤,解熱鎮痛剤,麻酔薬,輸血などで
す.具体的な症状は,蕁麻疹,下痢などの消化器症状など軽度のものから,喉頭浮腫(気道の入り口
がむくんでしまう状態)
,呼吸不全,ショックなど生命に直接関わってくるものまで様々です.
肝炎:薬物アレルギーと同様に,麻酔,薬,注射によりおこる薬剤性の肝炎と,輸血による肝炎が代表
的なものです.
腎機能障害:手術中,手術後に使う薬,注射のほとんどは,腎臓あるいは肝臓で代謝,処理されて体外
に出ていきます.このため腎臓は薬,注射による直接的な障害をうけやすい臓器のひとつです.麻酔
中の血圧の変化にも影響されることがあります。腎障害はおこります.最も,重篤な場合には人工透
析をしなくてはならないことがあります.
虚血性心疾患,難治性不整脈などの循環器障害:虚血性心疾患とは,狭心症,心筋梗塞などが相当しま
す.麻酔によるストレス,麻酔中の血圧の変動などをきっかけとしておこることがあります.
②
開腹手術に伴うもの
創部感染,腹腔内膿瘍:
手術は無菌的な状態で行いますが,ヒトのからだには常在菌と呼ばれる細菌が皮膚の表面や消化管の
中に必ず存在しており、細菌が増殖してしまうことがあります。皮膚を切った場所に細菌が増殖するも
のを創部感染,おなかのなかに細菌が増殖するものを腹腔内膿瘍と呼びます.創部感染は生命に危険を
及ぼすことはほとんどありませんが,治るまでに時間がかかること,後ほど述べる腹壁瘢痕ヘルニアの
原因となることが問題となります.腹腔内膿瘍は腹痛,高熱の原因となり生命に危険を及ぼすことがあ
り、再手術や太い針をおなかの表面から刺すなどして溜まった膿を除去する処置を行わなくてはならな
いことがあります.
術後出血:
手術中,おなかの中のたくさんの血管を切って肝臓・病変を摘出します.切った血管は丹念に糸で縛
ったりして,止血を確認して手術を終了します.しかし,肝臓は血流の豊富な臓器であり,とくに抗が
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ん剤を使用していた場合は、出血がなかなか止まりにくい状態にあります.そのため、完全に血が止ま
った状態で手術を終了しても,手術後に血圧の変動などを契機に一度止まった血が再び出血してくるこ
とがあります.このような状態を術後出血と呼びます.術後出血が起こった場合,再度手術室において
止血のための再手術を行わなければならない場合があります。
腸閉塞:
肝臓の手術に限らず,おなかの手術を行うと,必ずおなかのなかで癒着が起こります.これは傷が治
すために必要なことなのですが,傷を治す機転が働きすぎておなかのなかで,腸と腸,腸とおなかの
壁などが不都合な形で癒着し、食事や便が腸管を通らなくなってしまうことがあります。腸閉塞が起
こった場合、詰まった腸の中に溜まった腸液を抜くために鼻から長いチューブを入れて1~2週間絶
食になります。ごく稀ですが、最悪の場合,再手術をして癒着を解除せざるを得ない場合があります。
腹壁瘢痕ヘルニア:
前述した創部感染などを契機として起こることが多いのですが,おなかを開けた傷の部分に一致して
非常に弱いところができてしまう状態を指します.手術の傷に沿ってお腹が膨らむようになり、食べ物
や腸内のガスの移動によって大きくなったり小さくなったりします。手術直後に起こることはあまりな
く,
生命に危険を及ぼすことはほとんどありませんが,
長期的には再手術が必要となることがあります.
②
肝臓手術に伴うもの
術中出血•肝切離面出血:
肝臓は血流の非常に豊富な臓器であり、さらには抗がん剤を使用している場合には肝臓の機能障害
により出血を止める機能が低下しています。手術中には、出血量を極力少なくするよう細心の注意を
払いますが、時に急に大量出血を来たす可能性は皆無とは言えません。また、術中に止血の確認をお
こないますが、肝臓を切離した部位より再度出血してくる場合があります。このような合併症は術後
2日以内に発生しますが、その場合、再度手術室において、止血のための再手術を施行せざる得ない
場合があります。
術後胆汁漏:
胆汁は肝臓で作られる消化酵素のひとつです。通常は作られた胆汁は肝臓の中の胆管という管を通
って最終的には十二指腸に流れ込みます.しかし肝臓を切ることで,胆管が切った面に露出した状態
となり、ここからおなかの中に胆汁が漏れ出てしまう状態を胆汁漏といいます.出血などと異なり,
ただちに生命に危険をおよぼすことはありませんが,治るまでに長時間かかること,漏れ出た胆汁に
細菌感染が合併すると腹腔内膿瘍をつくること,などが問題となります.
肝機能不全:
肝臓の手術に特異的な,最も危険な合併症で、残った肝臓が生体を維持するためには十分機能しない
状態を指します.重篤化した場合,現在の医療では救命することは困難で高率に死に至ります。このた
め手術前に十分な肝機能の検査を行い、安全に切除できる肝臓の量を慎重に評価して手術に望んでいま
す。しかしながら、術前に術後の残肝機能をすべて予測することは難しく、肝障害や炎症の程度が予想
以上である場合や、感染、術後出血,呼吸、循環器障害など他の合併症が引き金となって肝不全に陥る
とことがあります。
胸水貯留:とくに肝臓のある側の右側に胸水が貯留することがあります.肝臓のすぐ上は右の胸であり,
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これらは横隔膜という膜で仕切られているだけであるため,手術の影響が右胸に出やすいためです.
自然に軽快することがほとんどですが,呼吸苦が出るようなときには,針を刺して胸の水を抜くとい
った処置を行うことがあります.
以上,主な合併症を列記しましたが,これ以外にもまれに起こる合併症があります.
5. 治療を行わない場合に予測されること
腫瘍の増殖・増大による圧迫症状(癌性疼痛)
、黄疸など早期に生命を脅かす危険性が増大
6.
今回予定される治療法(=肝切除)以外の治療方法
外科切除以外の治療法として、穿刺療法(ラジオ波焼灼療法など)
、肝動注療法(抗がん剤を選択的に
肝動脈から投与)
、放射線療法や全身化学療法(抗がん剤投与)などがあります。
7. 予測される治療期間
肝切除量、肝機能にもよりますが、一般に術後2~3週間で退院可能です。合併症が起こった場合,
1ヶ月以上の長期入院加療が必要となることもあります.
8. その他
肝転移はもともとの大腸癌から血液を介して癌細胞が肝臓に生着する状態です。今回の治療は、目に
見えた、もしくは画像で確認された肝臓内の転移の切除を行うだけであるため、術中にも確認困難な微
小な転移がある場合は確認できずに、手術後に新たに肝転移(残肝再発といいます)が出現することが
あります。その場合には、大腸癌の進行度、肝転移の進行度、肝機能の状態、などを総合的に評価して、
再度手術を行う場合と抗がん剤治療を行う場合があります。
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手術の具体的な説明
肝臓を模式的に書くと下図のようになります
便宜上,肝臓を8つに分けて,それぞれに番地が決められています.
______________さんの場合,図のように病変があります.
胆嚢を残した状態では手術操作が難しい場合,胆嚢も同時に切除することがあります。
この手術では,図のように皮膚切開を置く予定です。
また、手術後には図のようにシリコン性のチューブがおなかにつながった状態になります.これは,手
術後のおなかの中の状態を正確,迅速に判断するための見張りの役割をします.このチューブはドレー
ンと呼びますが,術後経過が順調であれば1週間程度で抜いてしまいます.
抜いた穴は通常1~2日で自然に閉じてしまいます.
これらのチューブのほかに、手術中から尿道カテーテルや胃の減圧チューブ(胃管)などを挿入します。
すべてのチューブ類は術後の経過に応じて、医療者が抜去します。
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肝臓手術の説明書 (まとめ)
以下の事項について別紙
「肝臓手術の説明書」
「手術の具体的な説明」
を用いて説明します。
□ 1. 診断と症状
診断: 転移性肝癌(肝臓以外の臓器のがん(結腸癌、直腸癌、その他) からの肝臓転移)
□ 2. 治療法
□ 3. 手術による治療効果
□ 4. 治療(手術)に伴う合併症
・全身合併症;呼吸器合併症、薬物アレルギー、肝炎、腎機能障害、循環器障害など
・開腹手術に伴うもの;創部感染,腹腔内膿瘍、腸閉塞、腹壁瘢痕ヘルニアなど
・肝臓手術に伴うもの;術中出血•肝切離面出血、術後出血、術後胆汁漏、胸腹水貯留(難治
性)
、肝機能不全、など
□ 5. 治療を行わない場合に予測されること
□ 6. 今回予定される治療法(=肝切除)以外の治療方法
□ 7. 予測される治療期間
□ 8. その他
上記項目について説明いたしました。
説明者:
日付:平成
年
月
日
病状・治療について上記項目の説明を受けました。
説明を受けた方:
日付:平成
年
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