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生化学 Appendix
アミノ酸 (amino acid)
生物は DNA に遺伝情報、つまりアミノ酸に変換される情報をもっています。そこにコード
されているのが 20 種類のアミノ酸です。各々、略号として 3 文字表記と 1 文字表記が決めら
れています。バイオを専攻する人は、ぜひとも覚えましょう。
◆ 凡例
3 文字表記
英名
日本語名
チロシン
1 文字表記
Tyr
Y
Tyrosine
英名 Tyrosine の頭 3 文字
3 文字表記の覚え方
英名 Tyrosine の頭文字 T は、スレオニン (Threonine) が使ってい
1 文字表記の覚え方
るので、 アルファベット順で遅い Tyrosine
は、2 文字目をとって Y
MW = 181
pI = 5.66
-1.3
後述するフェニルアラニン (Phenylalanine) のフェニル基 (ベンゼン環:
構造式
構造の特徴や
覚え方など
−C6H5)が、フェノールになったもので、ようするにフェノール性水酸基を
もつアミノ酸。
日本語ではチロシンと表記していますが、タイロシンと言う人もいます。
チロシンも、神経伝達物質 (ニューロトランスミッター:neurotransmitter)
の材料になり、最終的にはアドレナリン (adrenaline) になります。
分子量
等電点:
pH = pI の時、分子全体として電
気的に中性になります。値が小さ
いほど酸性、大きいほどアルカリ
性です。
ハイドロパシー指標
(hydropathy index):
疎水性度を表すハイドロパシープロット
に使う数字です。疎水性だと 3 ~ 5、親水
性だと –3 ~ –5 ほどになります。
アミノ酸 名称対照表
※ 1 文字表記のアルファベット順に並んでいます。
1 文字表記
3 文字表記
A
Ala
Alanine
アラニン
C
Cys
Cysteine
システイン
D
Asp
Aspartic Acid
アスパラギン酸
E
Glu
Glutamic Acid
グルタミン酸
F
Phe
Phenylalanine
フェニルアラニン
G
Gly
Glycine
グリシン
H
His
Histidine
ヒスチジン
I
Ile
Isoleucine
イソロイシン
K
Lys
Lysine
リジン
L
Leu
Leucine
ロイシン
M
Met
Methionine
メチオニン
N
Asn
Asparagine
アスパラギン
P
Pro
Proline
プロリン
Q
Gln
Glutamine
グルタミン
R
Arg
Arginine
アルギニン
S
Ser
Serine
セリン
T
Thr
Threonine
スレオニン
V
Val
Valine
バリン
W
Trp
Tryptophan
トリプトファン
Y
Tyr
Tyrosine
チロシン
英語名
日本語名
※ 基本的に英語名の頭文字ですが、試験などではそうでないものがよく問われます。
アミノ酸 カテゴリ対照表
単純な構造
Gly, Ala
−OH を含む *
Ser, Thr, Tyr
塩基性アミノ酸 *
Lys, Arg, His
S 原子を含む
Cys, Met
酸性アミノ酸 *
Asp, Glu
環構造をもつ
Phe, Tyr, His, Trp
アミドをもつ
Asn, Gln
脂肪族
Val, Leu, Ile
その他
Pro
※ 同じアミノ酸が、複数に出ているものもあります。
※ * のついた、塩基性・酸性・−OH を含む の 3 つは、特に重要です。
0. アミノ酸の一般式
アミノ酸
amino acid
−
−
−
−
MW = 110
−
−
アミノ酸は、陽イオンとなるアミノ基 (−NH2) と 陰イオンとなるカルボキ
シル基 (−COOH) を両方持っています。そのため、双性イオンや両性イオ
ンと呼ばれる性質を示します。アミノ基とカルボキシル基の結合する炭素は、
一般的に不斉炭素で、特に α 炭素と呼ばれます。それは、カルボキシル基の
隣の炭素を α 炭素と呼ぶ、という有機化学の約束に由来します。(というこ
とは、側鎖の部分に向かって、β , γ となるということです)。
1. 単純な構造のアミノ酸
グリシン
Glycine
Gly
英名 Glycine の頭 3 文字
G
英名 Glycine の 頭文字
MW = 75
pI = 5.97
−0.4
最も単純な構造のアミノ酸。α 炭素が不斉炭素でないので、 唯一、立体異性
体のないアミノ酸である。
アラニン
Alanine
Ala
英名 Alanine の頭 3 文字
A
英名 Alanine の 頭文字
MW = 89
pI = 6.00
1.8
Glycine の次に単純なものがこれ。どちらかというと、疎水的なアミノ酸。
Gly における側鎖の H が、−CH3 に置き換わったものと考えられるでしょう。
2. 塩基性アミノ酸
塩基性アミノ酸といえば、リジンとアルギニン(重要です)。L と R にひっかけて覚えます。
ただ、リジンの 1 文字表記は L でなくて K ですから、そこのところご用心。ヒスチジン
(Histidine : His : H) も塩基性アミノ酸に含めることがあります。いずれにしても、側鎖の
+
+
−NH2( あるいは =NH )が、−NH3 (あるいは =NH2 )になることで塩基性を示します。
リジン
Lys
K
Lysine
英名 Lysine の頭 3 文字
英名 Lysine の頭文字 L は、ロイシン (Leusine) が使っているの
で、 アルファベット順で遅い Lys は、その隣の K。
MW = 146
pI = 9.74
−3.9
ε 位炭素にアミノ基がついているのにひっかけて、 ε Lys (イプシロン・リジン)と覚えます。 (ちっと
も覚え方になってない…)
リシンという人もいます。
アルギニン
Arg
R
Arginine
英名 Arginine の頭 3 文字
英名 Arginine の "Ar" の部分が R の発音に似ているから。
1 文字目の A を Ala が使っているので、2 文字目をとった。
MW = 174
pI = 10.76
−4.5
Y を書き、¥ を書くように線を 3 本ひいて、
Y の各線に N を書いてできあがり。
ヒスチジン
Histidine
His
英名 Histidine の頭 3 文字
H
英名 Histidine の 頭文字
MW = 155
pI = 7.59
−3.2
側鎖の環構造は、イミダゾール (imidazole) と呼ばれる。
Ni-NTA にキレート(配位)するので、目的のタンパク質に 6 つ His が 並ぶ
タグをつけて、Ni-NTA カラムに通すことで、タンパク質を精製するのに使
われる(溶出にイミダゾールを使うのも納得)。
主鎖のカルボキシル基がなくなったのがヒスタミン (Histamine) で、 花粉
症のシーズンなどに抗ヒスタミン剤なんて名前をよく聞く。
3. 酸性アミノ酸
塩基性アミノ酸とくれば、次は酸性アミノ酸。側鎖にもカルボキシル基 (−COOH) をもつ、
アスパラギン酸とグルタミン酸です(重要です)。−COOH が、−COO− になって H+ を出すこ
とで、酸性を示します。この −COOH がアミド (−CONH) になると(後述)、各々、名前から
"酸" がとれ、アスパラギン、グルタミンになるので、名前は要注意です。
アスパラギン酸
Asp
D
Asparatic acid
(塩は Aspartate)
英名 Aspartic Acid の頭 3 文字
Aspartic Acid の D をとった(と聞きました)。本当かなぁ。
MW = 133
pI = 2.77
−3.5
側鎖がアミド (-CONH) の アスパラギン は 3 文字表記が Asn、1 文字表記
が N です。構造の覚え方はグルタミン酸の項を、名前の由来はアスパラギ
ンの項を参照。
グルタミン酸
Glu
E
Glutamic acid
(塩は Glutamate)
英名 Glutamic Acid の頭 3 文字
アスパラギン酸 (D) より側鎖が 1 個長いので、D の次の E。
E-Glu (eagle:わし) と覚える。
MW = 147
pI = 3.22
−3.5
側鎖がアミド (−CONH) になった、グルタミンは、3 文字表記が Gln、 1
文字表記が Q です。グルタミン酸とグルタミンは 3 文字表記が Glu と Gln
で 雑に書くとわからなくなるので要注意。
グ ル タ ミ ン 酸 の ナ ト リ ウ ム 塩 で あ る グ ル タ ミ ン 酸 ナ ト リ ウ ム (Sodium
Glutamate) は、化学調味料の代表である味の素の成分です。
小麦粉をこねるような料理をするときに、グルテン (gluten) というのを 聞
きますが、グルタミン酸は、このグルテンからとられたアミノ酸だそう です。
(H. Ritthausen [独] 1866 )
その他にも、いろいろなところに登場するアミノ酸で、神経伝達物質 (ニュ
ーロトランスミッター : neurotransmitter)として、抑制的に 働いたり、や
はり神経伝達物質である GABA (γ−aminobutyric acid:γ−アミノ酪酸) の材
料になっています。 逆に、GABA の正式名称を覚えれば、
(有機化学の基礎
知識は必要ですが)グルタミン酸の構造も書けます。カルボキシル基の隣の
炭素を α 炭素と呼ぶという約束のため、α, β, γ が グルタミン酸と GABA で
は逆ではありますが。 そこから、側鎖の炭素鎖を 1 つ短くしたのがアスパラ
ギン酸で、各々の側鎖が アミド (−CONH) になったものがグルタミンとア
スパラギンと芋づる式に 構造が覚えられます。
(でも、覚えるべきは、3 文
字表記と 1 文字表記ね)
4. 側鎖にアミド (-CONH) をもつアミノ酸
酸性アミノ酸は、側鎖にカルボキシル基 (−COOH) をもつアミノ酸でした。その −COOH
がアミド (−CONH) になったアミノ酸もあります。酸性アミノ酸は、アスパラギン酸とグルタ
ミン酸でしたが、側鎖がアミドのものは、名前から酸がとれて、アスパラギンとグルタミンと
なっています。
アスパラギン
Asn
N
Asparagine
英名 Asparagine の頭 2 文字と、末尾の方の n 。
アミドで N が入っているよ、と表しているんでしょうかね。
Asparagine の末尾の N に注目してでしょう
(ただの残り物という考えもある)
MW = 132
pI = 5.41
−3.5
側鎖がカルボキシル基 (-COOH) の酸性アミノ酸である アスパラギン酸は
3 文字表記が Asp、1 文字表記が D です。
名前がアスパラガス (asparagus) に似ているなぁ、と思うのも無理はなく
て、 アスパラガスの芽の抽出液から単離されたアミノ酸です。 初めて天然
物 か ら 結 晶 と し て 取 り 出 さ れ た ア ミ ノ 酸 だ そ う な 。 (L. N. Vauguelin,
P.J.Robiguet. [仏] 1806 )
グルタミン
Gln
Q
Glutamine
英名 Glutamine の頭 2 文字と、末尾の方の n。
アミドで N が入っているよ、と表しているんでしょうかね。
英名 Glutamine の頭の方が Q の字に似ているからです(嘘だぁ
∼っ)。どう考えても残り物にこじつけた気がするのは、気のせいで
しょうか。
MW = 146
pI = 5.65
−3.5
側鎖がカルボキシル基 (-COOH) である、酸性アミノ酸のグルタミン酸は、 3
文字表記が Glu、1 文字表記が E です。 グルタミン酸とグルタミンは 3 文
字表記が Glu と Gln で 雑に書くとわからなくなるので要注意。
5. 側鎖にヒドロキシル基(水酸基:-OH)をもっているアミノ酸
3
側鎖にヒドロキシル基 (−OH) をもつアミノ酸は 3 つあります。アルコール性(sp )の−OH
2
をもつものがセリンとスレオニン。フェノール性(sp )の−OH をもつものがチロシンです。こ
れらは非常に重要なアミノ酸です。というのも、細胞内シグナル伝達の際にヒドロキシル基が
リン酸化 (kination) されるからです。この反応は酵素がやりますが、アルコール性とフェノー
ル性では反応性などが違うため、 Ser/Thr 型と Tyr 型の 2 種類の酵素が存在しています。
セリン
Serine
Ser
英名 Serine の頭 3 文字
S
英名 Serine の 頭文字
MW = 105
pI = 5.68
−0.8
構造としては、アラニンの 1 つの H を−OH にかえたもの。システインの側
鎖の O 原子が、同族の S にかわったものとも言えます。システインの構造の
覚え方から、セリンも覚えてもいいかもしれません。
スレオニン
Threonine
Thr
英名 Threonine の頭 3 文字
T
英名 Threonine の 頭文字
MW = 119
pI = 5.60
−0.7
日本語ではスレオニンと表記していますが、Threonine という英名からわか
る とおり、トレオニンと言う人もいます。まぁ、[θ]レオニンと言えば、間違
いはないかもしれませんが。
チロシン
Tyr
Y
Tyrosine
英名 Tyrosine の頭 3 文字
英名 Tyrosine の頭文字 T は、スレオニン (Threonine) が使ってい
るので、 アルファベット順で遅い Tyr は、2 文字目をとって Y
MW = 181
pI = 5.66
−1.3
後述するフェニルアラニン (Phenylalanine) のフェニル基 (ベンゼン環 :
-C6H5)が、フェノールになったもので、ようするにフェノール性水酸基を
もつアミノ酸。
日本語ではチロシンと表記していますが、タイロシンと言う人もいます。
チロシンも、神経伝達物質 (ニューロトランスミッター : neurotransmitter)
の 材料になり、L-DOPA (L-2,3-dihydroxyphenylalanine :えるどーぱ) →
ドーパミン (dopamine) → ノルアドレナリン (noradrenaline) を経て ア
ドレナリン (adrenaline) になります。
6. 側鎖に S 原子を含むアミノ酸
システイン
Cysteine
Cys
英名 Cysteine の頭 3 文字
C
英名 Cysteine の 頭文字
MW = 121
pI = 5.07
2.5
構造としては、セリンの側鎖の O 原子が、同族の S にかわったもの。
また、有機化学では、立体配置を表すのに、R と S を用いるが、他のアミノ
酸が S 体(−COOH → R → −NH2 → H)であるのに対して、唯一の 例外
でシステインだけが R 体(側鎖 [−CH2SH] → −COOH → −NH2 → H)で
ある。S 原子を含んでおきながら S 体でなく R 体と いうのは覚えづらいがし
かたない。
側鎖の−SH は、他のシステインの−SH と結合して、−S−S−というジスルフィ
ド結合を つくる。この結合は、タンパク質の形をつくるのに大きな寄与をし
ている。
メチオニン
Methionine
Met
英名 Methionine の頭 3 文字
M
英名 Methionine の 頭文字
MW = 149
pI = 5.74
1.9
側鎖の末端が、メチル基 (−CH3 : Me) → S 原子 (thio) なので Methionine
というネーミングは妙に納得。Cys と違って、S が入っていても S 体なのは、
側鎖に 2 つ −CH2− が入っているからです。
DNA から RNA、そしてペプチドになるわけですが、RNA からペプチドにな
る 最初を表しているのはこのメチオニンです(ペプチド鎖の途中でもでてき
ます。 念のため)
7. 側鎖に環構造を持つアミノ酸
フェニルアラニン
Phe
F
Phenylalanine
英名 Phenylalanine の頭 3 文字
英名 Phenylalanine の頭である Phe は Fe と同じ発音であるこ
とから
MW = 165
pI = 5.48
2.8
アラニンの側鎖である−CH3 の 1 つの H をフェニル基(早い話が ベンゼン
環 : −C6H5)に置換したもの。というか、フェニルアラニンというのはそう
いうネーミングなのです。
p 位に−OH がついたものは、(ベンゼン環でなくフェノールがついたもの
が)前出のチロシンですね。
トリプトファン
Trp
英名 Tryptophan の最初の方の 3 文字
W
環が 2 つなので W
MW = 204
pI = 5.89
Tryptophan
−0.9
一番構造の難しい(であろう)アミノ酸ですね。3 letters と 1 letter は、 Trp
と W 。2 つ合わせて、World Trip と覚えます。環構造の部分は、 インド
ール環と言います。
アミノ酸の名前の中で、唯一、"e" で終わらないアミノ酸です。ただ、スペ
ルチェックの中には"e"をつけるよう要求するものもあるし、 英和辞典には
"e"つきと両方が載っていたりします。
他にチロシンとヒスチジンが環構造をもつアミノ酸ですね。
環構造はかさだかいので、きつくないように、主鎖との間にはスペーサーとして −CH2−が
入っています。
8. 脂肪族の疎水性アミノ酸
バリン
Val
V
Valine
英名 Valine の頭 3 文字
英名 Valine の頭文字
MW = 117
pI = 5.96
4.2
側鎖の形が V なので、覚えやすい(とのことですが、Y 字にも見えるのが難)
ロイシン
Leu
L
Leucine
英名 Leucine の頭 3 文字
英名 Leucine の頭文字
MW = 131
pI = 6.02
3.8
バリンで、側鎖にさらに−CH2−が増えたもの。
leu と綴ってロイと読むのは少々 違和感があるが、interleukine (インター
ロイキン)なんてのもあるし、つまりは慣れ。
イソロイシン
Ile
I
Isoleucine
iso の i + ロイシン Leu から
英名 Isoleucine の頭文字
MW = 131
pI = 6.02
4.5
Val → Leu の −CH2− が増えるのを、別の形で実現したもの。 構造異性体
なので、iso がついている。
9. その他
プロリン
Pro
P
Proline
英名 Proline の頭 3 文字
英名 Proline の頭文字
MW = 115
pI = 6.30
−1.6
他のアミノ酸と違い、第 1 級アミン (RNH2) でなくて 第 2 級 ア ミ ン
(R2NH)。ペプチド鎖が形をとる際に、 鎖をヘアピンカーブさせるのに使わ
れる。