今月の書評 「Cyber War: The Next Threat to National Security and

会報2010年12月号
Japan Commerce Association of Washington, D.C., Inc.
今月の書評
「Cyber War: The Next Threat to National Security and
What to Do About It」
Richard Clarke
ポトマック・アソシエーツ 池原 麻里子
リチャード・クラークは「政府は失敗した。保護を委任されて
いた者たちは失敗した。私は失敗した」「失敗に対して、理解
と赦しを乞いたい」と同時多発テロ事件に関する国家調査委
員会で証言し、ブッシュ、クリントン政権関係者として唯一、
被害者に謝罪し、政府の過ちを認めた証人として有名になっ
た。ホワイトハウス国家安全保障会議でテロ対策担当だった
クラークは、ブッシュ政権スタート時からビンラディンとアルカ
イダに関する警告を発していたのだが、大統領や政権の高
官たちに無視されてしまった。
本書でクラークは、サイバー戦争の脅威に対するアメリカ
の防衛力不足である点を指摘している。サイバー戦争とは
何か、サイバー兵器がどう機能するのか、国家そして個人が
いかにサイバー攻撃の危険に晒されているかを詳細に描い
ている。
近年に起きた有名なサイバー攻撃の例としては、2003年
イラク戦争、2007年9月イスラエルのシリア核工場爆破、ロ
シアによる2007年4月のエストニア攻撃、2008年のグルジア
『サイバー戦争』
攻撃、2009年7月北朝鮮の米韓攻撃などが挙げられる。イラ
リチャード・クラーク(ハーパー・コリン
ク攻撃前に米軍はハッキングしたイラク軍の通信網を通じ、
ズ社)
サダム・フセインを追放するためにまもなく侵攻するが、軍攻
撃は目的ではないので、戦車など放棄して帰宅するようイラ
ク軍士官たちにメールしたため、イラク軍はこれに従った。一方、イスラエル軍はシリア軍のレーダ
ーシステムを乗っ取り、攻撃されることなく核工場を爆破した。ロシアはエストニア、グルジアのイン
ターネットを分散型サービス拒否攻撃することで、使用不可能にした。北朝鮮の場合は米韓の政府
と国際企業のサイトをゾンビPC攻撃した。
サイバー攻撃は瞬時、そして常時行われ、その規模はグローバルで、平時と戦時の区別は曖昧
になっている。米国防総省は毎時間25万回、1日で600万回、サイバー攻撃されていると明らかに
している。アメリカはもちろん、最も優秀なサイバー攻撃部隊を抱えているが、ロシア、イスラエルと
フランスも先端にある。中国、台湾、イラン、オーストラリア、韓国、インド、パキスタン、NATO加盟
国数カ国などの20から30カ国も進んだサイバー攻撃能力を有している。一方、アメリカはサイバー
依存度が最も進んでいるだけ、脆弱性も一番である。米ロ等のサイバー状況は次のような一覧表
になる(注:サイバー依存度が高いほど、数字は小さい)。
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会報2010年12月号
Japan Commerce Association of Washington, D.C., Inc.
国
アメリカ
ロシア
中国
イラン
北朝鮮
サイバー攻撃力
サイバー依存度
サイバー防衛力
総合点
8
7
5
4
2
2
5
4
5
9
1
4
6
3
7
11
16
15
12
18
中国は金盾によって、ネットを海外から切断できるので防衛力が高い。これに対してアメリカは電
力、鉄道、石油パイプ、流通網などネット依存度が高いので、防衛力は1と低い数字になっている。
これらの民間インフラは全く、サイバー攻撃対策ができていない。2009年には2.2秒毎に新破壊工
作ソフトがサイバースペースに侵入した。ウィルス対策ソフト社3、4社が対策ソフトを作るのは、ウィ
ルスの10分の1ほど。しかも、数日後のことで、ダメージはすでに起きてしまう。そもそも国防総省で
さえ、マイクロソフト・ウィンドウズを使っており、このOSは全く、サイバー攻撃対策ができていない
のだ。
クラークは国際条約交渉を開始し、以下に合意すべきだと提唱している。例えばサイバー・リス
ク削減センターを設置し、情報交換や援助を行う。支援義務などの国際法概念を形成する。二国間
で実際に開戦した場合や、一方がサイバー攻撃された場合以外は、民間インフラのサイバー攻撃
は禁止する。また平時に電力網や鉄道など民間インフラにロジック爆弾等の設置することは禁止。
金融機関のデータやネットワーク攻撃は禁止する。
いずれにせよ、大統領自らのリーダーシップがないとサイバー戦争対応は不可能だ。
(NEW LEADER 2010年8月号より転載)
12月号編集後記
2010年も、遂に最後の月となりました。今年もいろいろな事がありましたが、朝鮮
半島の砲撃事件、それに続く米韓合同演習の強行と急にきな臭い雰囲気になって
きました。心配は経済の先行きだけにしておきたいものです。
これからクリスマス、そして年末と、例年、あっという間に時間が経つ事でしょう。
来年が良い年になりますように…。まだ一か月もあるのに、早すぎますね。
樋口 和雄
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