対馬勝年先生最終講義のお知らせ

最 終 講 義
地球科学科 対馬勝年
3月 7日 (金 )15時 30~17時 多 目 的 ホール
(1)氷 はなぜ滑 りやすいのか
(2)雪 発 電
最初の話題はスケートやスキーはなぜ良く滑るのかという足掛け3世紀に渡り学者の間で論争の続
いてきた難問についてである。これは氷上の物体は何故滑りやすいのかという問題であり、氷の特異
性に着目した各種の学説が発表されてきた。なかでも、歴史上最初に発表された圧力融解説(通常の
物質は圧力を加えると融点が高くなり、溶けにくくなるのに、氷は逆に融点が下がり、溶けやすくな
る)と今日まで支持者の多い摩擦融解説(摩擦熱で氷が溶け、溶け水が潤滑作用)は有名である。他
にも融点に近い温度の固体表面は分子の配列がランダム化することに着目した疑似液体膜潤滑説や氷
の高い蒸気圧に着目した水蒸気潤滑説等が提案された。
私は氷が固体潤滑剤のような性質を持つために摩擦が小さいという学説(凝着説)を提案した。(凝
着説そのものは 1930 年代に確立した一般の物質間の摩擦機構であり、新しいものではない。)摩擦融
解の生じないような低速度と単結晶氷を用いた実験を通して、私は凝着説が氷に当てはまることを確
信した。氷の結晶面による摩擦の異方性、同一氷結晶面上で滑り方位を変えたときの摩擦の異方性、
摩擦痕の観察(再結晶、クラック、塑性変形)結果は従来の学説では説明できなかった。唯一、凝着
説で説明できた。
スケートの滑りを凝着説で説明するために、スピードスケートリンクの氷の結晶面を揃えた氷筍リ
ンクという壮大な試みを行った。清水宏保選手がリンクレコードを作り、国体では 31 種目中 26 種目
に大会新記録という成果を挙げた。その後、次世代氷筍リンクが構想され、カーリングリンクの高速
化、スキーで滑走する雪面の雪粒の結晶方位制御という氷筍リンク作成段階では予想しなかった展望
につながっていった。
オリンピックや冬季スポーツの世界で日本が名誉ある国でありたい、そのために気づくべきこと、
なすべきことにも触れたい。
最初の話題は伝統的な研究への挑戦であり、世界中の百科事典が書き換えられる可能性がある。次
の雪発電の話題は独創への挑戦である。
雪発電の構想はアラスカ最北端バローで海氷の摩擦を調べた帰路、アラスカ大学に立ち寄り、近く
のアラスカパイプラインを見たことに始まる。パイプラインは橋脚の上に乗って、空中に配管されて
いた。橋脚は有名なヒートパイプであった。冬季は地中の永久凍土が熱源、外気が冷熱源となってパ
イプの周りの凍土が補強される。パイプの内部では上昇するガス流と流下する液体流がある。この液
体流で水車タービンを回せば発電できるという着想を得た。東北、北海道の雪国は雪が様々な面で障
害としてたちはだかり、発展を遅らせていたから、雪の活用法を探求したかった。外気の代わりに雪
の冷熱(融解熱)を活用すれば、雪発電が可能になると考えた。それにしてもパイプ内の媒体を加熱
し蒸気を発生させる加熱の熱源が必要である。私は日本が火山列島で北海道から九州まで地熱資源に
恵まれているから、何とかなるだろうと楽観していた。
研究の主体はパイプの上端に設置されるダムに如何に多量の液体を移動させるかが課題である。ま
ず気化熱の小さい媒体ほど多量のダムが出来ると考え、アルコールやエーテル、フロンなどをテスト
し、最終的に気化熱 80J/g のフロリナートにたどりついた。
流量を増やすことは容易でなかったが、気液混相流輸送を導入することで、蒸気流の 40 倍、雪の
168 倍まで流量を増大できた。これは札幌市がダンプで排出する 2000 万㌧の雪で 32 億㌧のダムが実
現され、発電に利用できることを意味する。
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