フラット予約取引(為替デリバティブ取引) フラット予約取引(為替デリバティブ取引) 平成24年4月21 平成24年4月21日 21日 弁護士 岡田晃知 取引概要:銀行にオプション料を支払い続けるとともに、外国為替を一定レー トのまま買い続ける取引(その後、買った外国為替で、外国商品を 輸入するか、日本円を現在レートで買う) 詳細 : ①銀行から、「銀行が顧客に対して一定レートで(円を買い、)ドル を売る権利」を買う=銀行に、顧客に対して一定レートで(円を買 い、 )ドルを売る義務が発生 ②銀行に、 「一定レートで円を売る(ドルを買う)権利」を売る=顧 客に、銀行に対して一定レートで(円を売り、 )ドルを買う義務が 発生 ⇒顧客は、フラット予約取引契約により、①の権利購入の対価として、 ②の権利を売って双方向に拘束力を発生させ、付款として銀行に為 替取引手数料を支払う契約とすることで、上記取引概要のような取 引となる。 (銀行には一定レートでドルを売る義務、顧客には一定レートで ドルを買う義務があるため、円高の場合、円を相場より低い額 のドルと交換するという、顧客にとって損な取引が強制される ことになる。 ) メリット:円安の場合に若干のリスクヘッジとなりうる ∵円安 → (ⅰ)輸入貿易(円ドル)会社なら、同一額の円で輸入 できる商品量が減少して、損失発生 (ⅱ)フラット予約取引により、同一額の円で現在レー トより多額のドルを買えるため、これで再度円を 買う or このドルで商品を輸入することで、利益発 生 ⇒差し引きで損失を減らせる デメリット:円高となったとき利益が減少し、場合によっては逆に損失が発生 1 問題点 : (1)適合性原則違反 ①為替レート変動が収益に影響を与えないため、為替変動によるリスク のヘッジが必要ないような中小企業にまで売りつけている (例:全て円建てで取引を行っている輸入業者) =単なる投機的金融商品になっている(購入の必要性欠如) ②為替リスクへの理解が不十分な中小企業へも大量に同金融商品を売 りつけてきた(例:全て円建てで取引を行っている輸入業者) ⇒不適切な相手方への金融商品販売 (2)長期為替商品(3~5年、中には10年ものも)であるため、極めてハ イリスクハイリターンな金融商品(FXをやった経験がある者なら、ま ず手を出さないというレベル) (∵ブラックショールズモデル(ボラリティ10%)で確率計算する と、2007年の時点で、同年以降1ドル=80円となる確率は、 1年後なら0.1%だが、2年後なら3.0%、3年後なら10. 8%、4年後なら20.6%、5年後なら30.5%というよう に確率は跳ね上がっていく =長期にわたるほど、為替がどうなるかはわからない、すなわち リスクが高い) →∴ ・金融商品販売相手が適格か(適合性原則違反とならないか) のチェックは特に厳重になされるべき ・リスクの説明は特に綿密に行われるべき ⇒にもかかわらず、適合性チェック、リスクは不十分 (3)中途解約が事実上不可能 ∵ 中途解約金が、なぜか「銀行が中途解約時に本取引と同期日の 反対サイドの取引を締結した場合のレート(キャンセルレート) と締結レートの差額」とされ、実質契約継続時の損失とほぼ同額 =中途解約がほぼ無意味 ⇒中途解約によるリスク回避ができない (4)リスクについての説明義務が十分に果たされていない場合がほとんど 例:・為替取引が長期にわたった場合、リスクが倍々ゲームで増加 していくことまでの説明がない (為替レートが変動した時に生 じる損失のみで、変動確率の説明がない) ・口頭でリスク説明なしの勧誘を行い、合意が成立した後、重 要事項説明書を渡し、一週間後には契約(社長は忙しくて、 内容を精査し、リスクを理解する暇がない) 2 現状 :多くの中小企業が、リスク理解が不十分なまま銀行が勧めるものだ からというだけで安全だと誤信し、商品を購入 →近似の円高で、フラット予約取引の損失が膨れ上がり、それだ けで倒産が頻出しかねない事態に 現在の対応:一般社団法人全国銀行協会の金融ADR (注:・特定非営利活動法人証券・金融商品あっせん相談センター (FINMAC)の金融ADRは、為替デリバティブを取 り扱っていないので注意 ・為替デリバティブ用申立書の書式は、HP上にはないので 注意(協会から送付してもらう) ) その他:メインバンクによる売りつけなら、適合性の原則が使える 補足: 1.適合性の原則 知恵蔵 2011 の解説:. 適合性原則とは顧客の知識、経験、財産の状況、金融商品取引契約 を締結する目的に照らして、不適当な勧誘を行ってはならないという 規制のことである。こうした勧誘は投資家保護の意識に欠けるし、現 実に投資家に損害を及ぼす可能性もあるからである。これは金融商品 取引法の第 40 条が根拠条文になっており、そこでは顧客属性に照ら して、不適切な商品・取引については、(いかに説明を尽くしたとし ても)そもそも販売・勧誘を行ってはならない、という行為規制だと 説明されている(いわゆる狭義の適合性原則)。安全な投資を望んでい る人に、リスクの大きな商品の勧誘をすることが、この規制の対象と なる行為の典型的な例である。 また金融商品取引法の下では、販売・ 勧誘してもいい商品であっても、顧客属性に照らしてその顧客に理解 してもらえるだけの説明をせずに販売してはならない、と定められて おり(金融商品取引法第38条7号、金商業等府令117条1号) 、 これも適合性原則(いわゆる広義の適合性原則)と呼ばれている。 金 融商品取引業者等に行き過ぎがあった場合などに、すぐに適切な対応 をとれるようにするためにも、適合性原則をよく理解しておくことが 必要といえる。 ( 吉川満 (株)大和総研常務理事 ) 3 2.デリバティブ取引の仕組み ・オプション:権利 ・オプション売り取引:権利を売り、オプション料を金銭か権利購入で 受け取ること ・権利=行使すると相手方が一定の義務を負うこと ・権利を有する者 →自分に利益があると思えば権利を行使して確実に利益を得られ るし(∵相手方は義務を負うので断れない)、逆に不利益にな るとなれば、権利を行使せず不利益を回避できる(拘束されず、 リスクヘッジできるよう自由に権利行使できる) →∴対価(オプション料)を払ってでも権利を買うことには 価値がある (なお、自分の権利行使により利益が発生するということは、相 手方には義務履行により不利益が発生しているということ →そのリスクを負担させる対価として、オプション料を支払 う 3.関連判例:最高裁平成17年7月14日 才口千晴裁判長裁判官補足意見 ① オプション取引は抽象的取引 →仕組みを理解するのは容易でない ② オプション売り取引 →(利益はオプション価格の範囲に限定されるが)損失は莫大または無 限大 ⇒証券取引の中で最もリスクが高い,経験を積んだ投資家でも的確なリスク コントロールは困難 ⇒∴ ・勧誘,継続には格別の配慮が必要 ・適合性の原則の要求水準が高い。 ⇒∴極端にオプション売り取引に偏り,リスクコントロールができ なくなる恐れがある場合、改善,是正のための積極的な指導, 助言を行うなどの信義則上の義務あり 4.入門用文献: ・PHP 研究所「為替デリバティブ取引のトリック」佐藤哲寛著 ・PHP 研究所「 『為替デリバティブ』リスクを回避する方法」本杉明義 4
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