IEC 61131-3 の改訂(オブジェクト指向の導入)について

2013/11/12
IEC 61131-3 の改訂(オブジェクト指向の導入)について
PLCopen Japan
Ed.3.0 研究会 水矢 亨
PLC のプログラミング言語の国際規格である IEC 61131-3 が改訂され,2013 年 2 月に IEC 61131-3 Edition
3.0 として発行されました.今回の改訂では,オブジェクト指向の導入が注目を集めています.
1 最大の変更点=オブジェクト指向の導入
IEC 61131-3 Edition 3.0(以下 Ed.3.0)における最大の変更点は,オブジェクト指向の導入でしょう.オブジェク
ト指向は,ソフトウェア開発の生産性や保守性を向上させるものとして,ICT 分野では,もはや常識といえる程
に普及が進んでいます.今回の IEC 61131-3 の改訂を機に,PLC の分野でもオブジェクト指向プログラミング
によってソフトウェアの開発効率が向上することが期待されます.
ただし,ここで注意しておきたいのは,今回のオブジェクト指向の導入は,従来の IEC 61131-3 でのプログラミ
ング手法(構造化プログラミングなど)を否定するものではないことです.オブジェクト指向プログラミングが強制
される訳ではなく,あくまで,オブジェクト指向プログラミングもできるようになる,ということです.そのため,必
要に応じて段階的あるいは部分的に,オブジェクト指向プログラミングを採用していくという現実的なアプローチ
が可能です.また,ほとんどの場合,これまでに開発したファンクションやファンクションブロック(FB)を変更す
ることなく引き続き利用することができます.
2 オブジェクト指向とは?
オブジェクト指向(object oriented)という言葉は,「もの中心」といった意味をもちます.そして,オブジェクトは
「もの中心」の「もの」に対応します.オブジェクト指向では,「もの中心」の視点でソフトウェアのモジュール化・
部品化を進めていきます.今回の IEC 61131-3 の改訂により,PLC プログラミングでは,「機能中心」の構造化
と「もの中心」のオブジェクト指向の両者が利用可能となり,選択肢が増えたことになります.そして,これらは
共存可能であり,必要に応じて使い分けることができます.
なお,オブジェクト指向では,「もの」に対応するオブジェクトは,データ(属性)と(複数の)機能をまとめて有す
る(一種のカプセル)と解されます.このデータと機能のカプセル化は,オブジェクト指向の主要機能の一つであ
り,一般的にクラスの導入により実現されます.その他の主要機能には,既存クラスを拡張するための継承,
及び「インターフェースと実装の分離」を実現する多態性(ポリモーフィズム)があります.
3 IEC 61131-3 Ed. 3.0 でのオブジェクト指向
IEC 61131-3 Ed. 3.0 では,クラスとインターフェースが新たに導入され,上記のオブジェクト指向の主要3機能
(カプセル化,継承,多態性)がサポートされました.ここでのインターフェースは,クラスや FB の(外部との境
界のみ規定する)ひな型として INTERFACE ... END_INTERFACE 構文で宣言され,その名のとおり,多態
性 により実現される「インターフェースと実装の分離」において重要な役割を果たします.
ところで,従来の IEC 61131-3 での FB(従来型 FB)は,データ(属性)をもち,ボディで機能を定めている点で,
既にカプセル化を実現していました.しかし,従来型 FB は基本的に一つの機能のみを提供するという点で,そ
のカプセル化は限定的なものでした.
これに対し,IEC 61131-3 Ed. 3.0 では, FB をオブジェクト指向に対応させるため,FB の仕様を拡張していま
す.これにより,オブジェクト指向 FB は,ボディ(0~1 個)に加え複数のメソッドをもつことができ,複数の機能
を提供できるようになりました.下の表に,従来型 FB,オブジェクト指向 FB およびクラスの違いを示します.な
お,クラスは,ボディを持たないオブジェクト指向 FB とイメージすれば理解しやすいかもしれません.
従来型 FB(Ed.2)
オブジェクト指向 FB(Ed. 3.0~)
クラス(Ed. 3.0~)
カプセル化
△(単一機能)
○
○
継承
×
○(クラスと FB からの継承可)
○(FB からの継承不可)
インターフェースの実装
×
○
○
ボディ
必須(一つのみ)
0~1 個(無くてもよい)
不可
メソッド定義
不可
複数定義可能
複数定義可能