パネルディスカッション パネルディスカッション パ

「すみだ地域
すみだ地域ブランド
地域ブランド戦略
ブランド戦略シンポジウム
戦略シンポジウム」
シンポジウム」パネルディスカッション発言要旨
パネルディスカッション発言要旨
テーマ:
テーマ:「『物語
『物語』
物語』を生むモノづくりが
モノづくりが、
づくりが、生き残る。」
日時:平成 23 年 1 月 15 日(土)13 時 30 分~
場所:すみだリバーサイドホール イベントホール
登壇者:(敬称略)
<コーディネーター>
水野 誠一
(すみだ地域ブランド推進協議会理事長、株式会社 IMA 代表取締役)
<パネリスト>(五十音順)
出口 由美
(すみだブランド認証審査会審査委員、
「婦人画報」編集長)
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藤巻 幸夫
(すみだ地域ブランド推進協議会理事、
株式会社シカタ代表取締役プロデューサー)
松山 剛己
(元すみだ地域ブランド戦略推進検討委員会委員、
松山油脂株式会社代表取締役社長)
山田 遊
(ものづくりコラボレーション事業コラボレーター、
株式会社 method 代表取締役)
<オープニング・プレゼンテーション>
* 水野氏
すみだモダンとは何か、どんな方向に向かっていくのかについてディスカッションしてい
きたい。その前にプレゼンテーションをするようにということなので、すみだモダンとい
う新しいプロジェクトに託した想いをご紹介させていただく。ディスカッションの一つの
材料に出来ればと思っている。
「『物語』を生むモノづくりが、生き残る。」が今日のテーマ。すみだモダンというチカラ
とは何か?
最近はチカラブームで、いろいろなチカラが言われるが、世の中を動かすた
めにはチカラが必要だ。すみだモダンのチカラは「文化力」ではないか?
今の時代、モノが売れない、高いモノが売れないと言われる。円高、モノあまり、デフレ
経済である。売れるモノは格安航空チケットであったり、安い海外生産品であったりする。
モノが売れる経済が縮小してしまっているのではないか、私たちはそういう危機感を持っ
ているし、会場の皆さんもそうではないか?
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文明力の経営、つまり効率経営だけを考えていてはデフレスパイラルは止まらない。だか
らこそ文化力を考えたい。新年の「日経ビジネス」の特集テーマは非効率経営の薦めだっ
た。あえて非効率的な経営をやったらどうかと提起していた。
それでは、文明と文化はどう違うのか?
歴史で勉強したように、文明とは地域を替えな
がら進化をしてきた技術や科学や文化の総称であり、4大文明に始まり、結局最後は西洋
文明に集約されてしまった。
それに対して文化とは文明の一部であり、文明の DNA として受け継がれてきた芸術・宗教・
風習・知識である。
文明とは世界共通で普遍的な価値観だが、文化とはそれぞれの地域により差異を形成する
価値観だ。
文化力とは何か、文明力とは何かを整理してみる。企業の文明力とは製造技術であり、文
化力とは人的技能である。機械でオートメーション化され、一定の品質を保っている製品
を次々に作って行く力は文明力だ。しかし、企業はそれだけで済むものではない。オート
メーションで大量生産する力があっても、原型を作る技能、職人の技がないと優れた製品
は作れない。それがすみだの中小企業の中で大きな力を持っていたものだ。しかし、そう
した技能力が消えつつある。大田区でも同様だ。文化として守らなければならないものだ。
資本調達力や経営技術は文明力だが、地縁・人徳や企業文化は文化力だ。文化力がないと、
本当の差異化はできない。
商品の文明力は、品質・機能・価格といった客観的・合理的に判断できるものだ。それに
対して、文化力は数値に置き換えられないデザインや、今日のテーマである物語、例えば
どんな歴史を持っているのか、そしてイメージ。これらが商品の文化力だ。文明力は「必
須条件」だが、それだけでモノは売れる時代ではない。文化力という「十分条件」がない
とモノは売れない。これがすみだモダンの出発点ではないかと思う。
織物には縦糸と横糸がある。縦糸はすみだに脈々と続く職人伝統の文化であり、横糸は新
しい技術であり文明だ。横糸だけでも縦糸だけでも織り物にならないのであって、いかに
織り合わせていくかが、すみだモダンのプロジェクトそのものだと思う。
「あたらしくある。
なつかしくある。」、この縦糸と横糸の関係が上手くバランスした時に魅力的な商品が生ま
れるということだ。
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モノがたりに必要な9つのキーワードを紹介したい。三性、三感、三間というコンセプト
だ。
モノがたりを生み出すためには「三性」が必要だ。理性は機能的に品質的にいい商品であ
り、理性的な納得性のあること。それに加え、色デザインがいいといった感性。更に知性、
どんな歴史によって裏付けられているのか、どんなこだわりがあるのか、どんな環境への
配慮がされているのかなど。3つの性がモノ作りには必要である。
モノがたりを育てる「三感」、実感、共感、交感。自分が素晴らしいという実感を持ってい
ないモノは売れない。共感を持ってくれる人が見つからなければモノは売れない。売って
終わりならそれだけでいいが、使ってもらって本当に素晴らしいモノである、あるいはも
っとこうしたらいいのではないかという感想のフィードバックを頂く、これが3つめの交
感。すなわちコミュニケーションがないと本当の物語は育たない。
モノがたりを熟成させる「三間」、仲間、時間、空間。間は日本の文化だったが、今は間が
ない時代、間抜けな時代になってしまった。仲間はここに集まられている地元の皆さん、
あるいはコラボレーターの方とのいい関係。次にモノを熟成させていくための時間。例え
ば、ワインは寝かす時間がないとあれだけ芳醇な香りは生まれない。それから、すみだと
いう素晴らしい空間。スカイツリーができ、そこに多くの観光客が集まると同時に、皆さ
んがいい空間を作っていかなければならない。それがいい仲間を増やしていき、3つの関
係が好循環によって高まっていく。そんな想いの中で、すみだモダンというプロジェクト
がスタートしたということをご紹介させていただいた。
とざいとおざい、すみだモダンがモノがたりを生み続けるためのディスカッションのはじ
まりはじまりでございます。
<自己紹介とすみだモダンへの想い>
* 出口氏
月刊誌で百年超えているのは5冊あるが、その中の唯一の女性ライフスタイル誌だ。19
05年、日露戦争の翌年に創刊された。
「坂の上の雲」のドラマの時代である。初代編集長
は国木田独歩で、バックナンバーはアーカイブというより歴史遺産という感じがする。
ロシアに勝って日本が戦勝国として世界に出て行くぞという時に、女性はどうなの?とい
う時代だった。日本の女性は家にいて、老いては子に従うという生活だったが、西洋の一
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等国の女性はどこへでも男女ペアで出て行くという。それを知った当時の政府高官が、日
本の女性も趣味を広げてライフスタイルを変えていかなければいけないと考えた。創刊の
言に大隈重信が文章を寄せているが、「日本中の良き人良きもの良きことを画報せよ」と。
それが当時の政策だった。
戦時中は「戦時画報」と名前を変えて、いっさいの贅沢品が姿を消した。戦後は10月に
カラーで復刊して、マッカーサーのライフスタイルというのをいきなりやっている。アメ
リカのライフスタイルとかヨーロッパのモードとかを紹介し始めた。
1980年代になって、キャリアウーマンと言われるようになり、女性が世の中へますま
す進出するようになる。そういう中で、どんなメークがいいのか、どんなファッションが
いいのか、どこに旅行に行くのかなど、どんどんライフスタイルが広がっていく。「婦人画
報」は時代時代で日本女性のために一番いいものを選んで、それを画報せよという創刊の
理念に基づいて、105年経った今でもやっている。表紙を観ただけでも時代のカラーが
出ていると思うが、ファッション・モード・美容だけでなく、日本の文化伝統や身の回り
にあるモノをセンスアップして素晴らしい生活を送りましょうと105年間メッセージし
てきた雑誌だ。私は3人目の女性編集長と聞いている。
私はすみだブランド認証審査会の審査委員をやらせていただいている。認証品を選ぶ仕事
はすごく楽しかった。その前に各誌の編集長にすみだをもっと知ってもらおうという企画
があって、バスに乗って半日いろんなところを見せてもらった。銀座から10分くらい、
オフィスのある青山から20分くらいなのに、旅行に来たような気分がした。一番何に感
動したかというと、すみだの名産品が何とか焼き、何とか塗りのような高級なものではな
くて、消しゴムや石鹸とかみんなが等しく買えるようなものを作り続けてきた、そのまち
の風土や空気。それに深く感動した。
朝お茶会があって、たまたま着物を着ているが、マンションのインテリアに合う着物チェ
ストが欲しかった。婦人画報ではオリジナル商品の E コマースもやっていて、桐たんすメ
ーカーとのコラボレーションで着物チェストを作ったのだが、それを購入した。後で知っ
たのだが、墨田区のメーカーさんだった。
注文してうちに届いたのだが、届けてくれたのが職人さんだった。すごく丁寧に扱ってタ
ンスを置いて、そのままじっと見ている。ちょっと歪んでいる、ボール紙ありますかと言
われた。紙を1枚2枚足にはさんで、これで OK ですとおっしゃった。
傍で見ていてもわからなかったのだが、職人さん曰く、長く使っているとこの1ミリの歪
みが基でがたがたするんだよと。それから、桐は呼吸するから上にあまりモノは乗せない
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ようにとか、布1枚かけておくと日焼けがなくなるとか、いろいろ教えてくれた。
自分の衣装を収めるようになって、引き出しを開けるたびに隣の引き出しが吸いついて、
閉めるたびにふわっと浮く。すごい気密性。この話はいろんな人にしたし、ツイッターで
も書いたが、いいものを購入して素晴らしい体験をしたし、コミュニケーションができた。
物語のあるものは、絶対誰かに話したくなるし
話しているうちにどんどん好きになる。
日本人はコミュニケーション下手と言うけれど、その職人さんと話が出来て素晴らしい物
語を届けてもらえた。
* 藤巻氏
私はプロデューサーという仕事をやっていて、元々バイヤー。エイ出版の「ディスカバー
ジャパン」は日本を発掘しようという雑誌だが、今月末にはビートたけしさんと対談する
特集をやるので、すみだのことも話そうと思っている。
映画プロデューサーには鈴木敏夫さんがいて、音楽プロデューサーには小室
哲哉さんや
布袋寅泰さんがいて、ファッションプロデューサーには四方義朗さんがいるけれど、日本
にはライフスタイルプロデューサーがいない。外国にはメディアを持って発信力のあるそ
ういう人がいる。
「モノクル」という雑誌があって、世界的に有名な「ウォールペーパー」を作ったタイラ
ー・ブリュレ氏がやっているのだが、日本びいきで日本のことをよく書いている。彼が怒
っているのは、日本はこんなにすごいのに何で発信しないのかと。
プロデューサーの役割は何かというと、マーケティングができないといけない。
マーケ
ティングには時代を見る目と顧客視点が必要。私はバイヤーだが、めちゃくちゃ街を歩い
ている。最近「街歩き学」という本も出した。
次にブランディング。これは4つある。1番目はマーチャンダイジング。モノを作るには、
色柄デザイン素材機能用途サイズ価格、これが完璧に出来てマーチャンダイジングになる。
2番目はVМD(ビジュアル・マーチャンダイジング)
、見せ方。辛口で言うが、さっきの
ビデオの雰囲気がこの展示では全然出ていない。モノを売るのなら、わくわくする見せ方
をしないといけない。3番目はPR。私自身ツイッターをやっているんだけれど、発信す
る能力。4番目はキャスティング。どういう人を巻き込んだら形になって世の中にデビュ
ーできるか。僕はモノ作りの名人ではなくて、コーディネイトが得意だから、いいモノを
送り込む出口戦略をやっていこうと。マーケティング、ブランディング、キャスティング
が大事だ。
すみだにこの場があるというのはすごいことだ。この点を線、面にし、日本全国に広げて
いきたい。ようこそジャパンのおみやげ選考委員になったので、この中からも商品を選び
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たい。
デパートは暮らしぶりを売らないとダメなのに、今はブランドを売っているだけだ。例え
ば、冬にストーブを置いた、湯気が出た、お茶でも飲もうか、一保堂のお茶を買おうかし
ら、江戸にもいいお茶がある、カップは何にしよう、汗かいた、顔を洗おう、松山油脂の
石けんいいわねとか。そういうためにモノを並べるのだ。すみだはとても暮らしを感じる
街なので、街を本当に1つのマーケットにして、墨田区自身がすみだ百貨店になるといい。
スカイツリーが何メートルになったということより、その周りにあるもの、隅田川がどん
な川でどんな魚がいて、周りにどんな人が住んでいてとかが面白い。人がブランドなんだ。
* 水野氏
西武百貨店の社長をやっている時に伊勢丹にすごいヤツがいるということで、藤巻さんに
は注目していたが、お互い良きライバルだった。モノが好きでとにかくモノを探して、相
手に飛び込んで行って、いい商品を一緒に作る。買うのではダメで、一緒に作らない限り
いいモノはできないというのは百貨店時代身にしみた。
* 藤巻氏
ドリームズカムトゥルーの衣装を20年やってきた丸山敬太というデザイナーがいて、紅
白の司会を務めた松下奈緒さんの衣装を手掛けた。花柄が彼の特徴的な柄。化粧品メーカ
ーのクリニークからパッケージデザインを頼まれて、今年はアジア、来年は欧米に展開し
て行く予定だ。いろいろライセンスビジネスもやっていて、伊勢丹のユニフォームもやっ
た。特化することが大事。何でもありはダメ。自分にはこんな武器がある。その1つが世
界を制するということを言いたい。
* 水野氏
すみだのモノ作りを代表してパネラーになっていただいたということで、松山さんよろし
くお願いします。
* 松山氏
区内事業者、すみだブランド認証事業者を代表して、私たちの考えるモノづくり、すみだ
モダンの物語について話したい。
創業103年になる。もともと石炭商社をやっていて、戦後石けんを作るようになり、私
で5代目になる。自分たちで考えたものを作りお客様に届ける、それをすべて自分たちで
やっていこうと取り組んでいる。関連会社のマークス&ウェブでは全国58店舗の直営店
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をやっているが、最終的には自分たちでお店をやりたいということで、2000年に始め
た。店舗を通じてお客様の声をくみ上げる活動をしている。
今では50億の売上を持っているグループ会社になっているが、15年前まで下請け企業
だった。花王さん等のメーカーからファックスで注文をいただいて、その指示通り商品を
作ってお届けする。支払いは翌月すべて現金でいただけて、状況によっては機械も委託メ
ーカーさんから支給していただいていた。
それがなぜ自社ブランドの自立した会社になったのか。石けんを作るのは大変で工場の中
は夏場45度近くになる。
、職人の方は塩をなめながら仕事をしていた。私は家業を継ぐた
めに戻ってきて、どうせこんなに苦労するのであれば自分たちの名前を付けて商品を届け
たい、自分たちの商品を家族に自慢したい、誇りを持ちたいという思いを持った。そうい
った思いを社員と共有しながら自社ブランドを作る。それを15年間続けてきた。そこで
私たちが実現できたことは、単なる作り手から、使い手であるお客様とつながることが出
来たということ。お客様とつながると、いいこと悪いこと、いろいろ言ってくれるので、
次の商品にも生かすことができるし、やりがいにもつなげられる。
現在6つのブランド、330の商品を作っている。
物語について話すようにとのことだったので、3点ほど私たちが大事にしていることをお
話ししたい。ブランドとはぶれない軸をもって、一貫性を持って続けることと藤巻さんが
書かれているが、この15年間ぶれたりへこんだりもしてきた。そういう時にはこれだけ
は維持しようというものを決めなければならない。それが「安全性と環境性、そして有用
性のバランス」を考えてモノを作る、この1点だ。無添加石けんが始まりになって330
の商品に広がってきているが、無添加石けんを作るのは非常に難しい。増泡剤も合成洗剤
も着色料も香料も合成酸化防止剤も入れない。半年で匂いが変わって油っぽくなる、そう
いう欠点を承知であえて低刺激なものを作るということをやってきた。無添加せっけんを
作った1995年当時の想いを社員一人一人と共有して、今もモノづくりにこだわってい
る。これが1つの物語だ。
もう1点はすみだの伝統でもあるが、「手間を惜しまず、手仕事で作ろう」ということに取
り組んでいる。標準書があって機械で作るのなら、大手の方がいいものが作れるはずだ。
標準書があって手で作る、これは中国の方が人件費が安いので競争力がある。私たちは、
標準書は1回作るが現場でどんどん直していって、しかも手仕事で作る、そういうことだ
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からこそ人件費が高い成熟した日本、すみだでも何とか競争していける。これを続けてい
く。
最後に、よい製品を作るためには作り手である人が正しくならないといけない、よくなら
ないといけないと思っている。私たちが社会貢献活動やボランティアをやっているのは、
正直言って社会のためではなく、自分たち一人一人が昨日よりいい人間になりたい、ちょ
っと自分が好きになりたいという思いで取り組んでいる。こういった地道な事を続けてい
くと、おのずといい製品ができ、お客様からがんばってるねと投票のように1票、購買を
いただけて、また仕事ができる。こういったつながりを大事にしていきたい。
* 水野氏
松山さんのお話で共感したのは、作り手から使い手へのつなぎ手になりたいということ。
今までの作り手は相手を買い手としか考えていない。先ほど藤巻さんから、この展示では
作っただけで買い手のためにも考えていないという辛口の意見があったが、本来は買い手
の先にある使い手が大事であって、そのつなぎ手にならなければいけない。買うのは一瞬
だ。しかし、商品を使っていく内に気に入ってもらえないと1回限りのお客で終わってし
まう。そうではなくて、使い手の感想をフィードバックしていくことが大事だ。買い手の
先にある使い手を見ていることが、松山油脂の成功の秘密ではないか。
もう1つは経営効率くそくらえ、非効率でも魅力のあるものを作ったところが勝ちだとい
うこと。松山さんは手間を惜しまず技能の力を活用してモノづくりをしている。中国がい
かに安い商品を作り続けても負けない、技能のあるところが勝つということを実践してい
ると思う。
* 山田氏
メソッドという会社をやっている。仕事は基本的にバイヤー。イデーでバイヤーをやった
後で、フリーランスとしていろいろなお店と契約をして外部の立場でバイイングをしてい
る。
その1:店を作る
これが我々の一番大きな仕事。ディスカッションのテーマは物語を生
むモノづくりだが、物が置かれる場である店にも物語がなければ、売れるお店にはならな
い。どうしたら魅力のあるお店ができるかを日々やっている。
国立の美術館に店をつくる、スーベニアフロムトーキョーを手掛けた。これはミュージア
ムショップの概念を壊そうとした。店名そのままだが、東京土産を売るお店。
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空港に店をつくる、空港というとありきたりのレストランやドラッグストアしかない。シ
ョッピングを目的にしないが人が集まる場所でどんなお店を作るか。トーキョーズトーキ
ョーというお店を第2ターミナル3階に作った。
新しいコンセプトの店を作る、パスザバトン。バトンを渡すというニューリサイクルショ
ップ。通常のリサイクルショップのように使われたものモノを二束三文で売るのではなく、
自分が持っていて思い入れがあるけれど使わないモノを、実名を挙げてストーリーをつけ
て売るという提案。
海外でも店をつくる、トーキョーポップアップストア。日本のモノを海外進出させる。パ
ルコさんがシンガポールに進出した時に日本のお店はラーメン屋やトンカツ屋しかなくて、
日本のモノが何も売られていない。そこで作ったお店。ファッションやインテリアなど、
日本的だったり東京的だったりのモノを持って行った。
その2:モノを作る
東京のシンボルのお土産を作る、東京タワーさんのオリジナルグッ
ズ。ミネラルウォーター、キーホルダー、洗濯バサミ。東京タワーのお土産はありきたり
で自分で買いたいモノがなかった。物語を作りたいということで、東京タワーのオレンジ
と白だけで作った。
その3:イベントをする ギフトショーの企画をする。
その4:モノを選ぶ
エイペック2010の首脳への贈り物を選ぶ、各エコノミー首脳へ
の贈呈品を選んだ。
「日本の技術でおもてなし」というテーマがあり、先進技術と伝統技術
の融合した贈呈品を選んでほしいという依頼だった。燕三条のチタンのカップを選定した。
チタンは扱いが難しい金属だが、真空の二重構造になっていて朝氷水を入れておくと夕方
まで溶けない。各エコノミー首脳の昼食会でこのワインカップで乾杯が行われた。その後
メーカーさんへの問い合わせも殺到して売れた。
その5:モノを見せる
すみだで生まれたものをちょっと工夫して見せる、すみだもの処
で「美技礼賛」という企画展を今開催している。一般の人にすみだのモノ作りを知っても
らうために、見せ方を考えた。ご都合がよければ、見に行ってください。
* 水野氏
この会場に来る前にもの処で美技礼賛を観てきた。なかなか面白い展示だった。これもす
みだなんだと思ったのは、立つしゃもじ。グッドデザインで家で愛用している。
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<フリーディスカッション>
* 水野氏
それでは、フリーディスカッションに入りたい。
* 藤巻氏
山田さんはセンスいいからお店全体のプロデュースをやってもらったらいい。
青森ではトップ以外のリンゴは捨てていたが、それを活用するためにシードル工房という
のを作った。片山正道という有名なインテリアデザイナーも協力している。
昨年は新潟の地域活性の手伝いを、エキュートを作った JR 副社長の新井さんとしたが、新
潟商工会議所にはアグレッシブな人が多い。これからは知事や市長、区長は PR マンであり
ブランドディレクターでないといけないと思う。
松山さんもすごい。会場の皆さんは素直に真似るといいと思う。私は韓国の新世界百貨店
のコンサルタントをやっているのだけれど、米国の高級百貨店バーグドルフ、同じく米国
のファッション専門店のバーニーズや伊勢丹をまずは真似しろと言っている。そこから国
民性とか感情とか嗜好とかがわかってきて、オリジナルが生まれる。
それから出口さんに売り込むべき。これがいいんだ、すみだはスゴいんだと。
水野さんはすごい人なんですよ。この後、皆さんはどれだけ名刺を配れるかが大事。これ
を言いたかった。
今日の私はほとんどメイドインジャパン。靴もジーンズもシャツもニットも。でもジャケ
ットだけはイタリア製。トラベルジャケットと言って、パスポートケースや携帯電話がバ
チッと入るとか、機能が抜群。日本のデザイナーには余計な線を引く人がいるけど、それ
ではお客さんは喜ばない。使い手の気持ち、心理がわからない人はデザイナーをやっては
いけない。
* 水野氏
出口さん、ジャーナリストとして今日面白いと思ったことは?
* 出口氏
20年以上編集者をやっているが、どんな人間国宝もどんな政治家もどんなデザイナーも
世界中言うことは同じ。伝統は革新の繰り返しだとか、先ほど水野先生が縦糸に職人伝統
文化、横糸に技術機能文明とおっしゃったが、その融合がないと何も生まれないと皆さん
おっしゃる。それは真理なのだと思う。例えば老舗がモダンにチェンジする時、その2つ
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のバランスが大事。伝統にこだわりすぎて前進するのを恐れたり、前進しようとするあま
り無理したりとか。モノを作るのも売るのも、ブランドビジネスもそれが真理なんだろう。
「婦人画報」も老舗なので、リニューアルしたり読者を飽きさせないようにしたりするた
めに、常にそのことを胸においてやっている。
* 水野氏
出口さんが松山油脂の石けんを使っていて、最初は丸いけれど最後は俵型になると言って
いた。そういうことは次なる製品開発のヒントになると思うが、松山さんどうですか?
* 松山氏
一度その形状を見せてください。取りに伺います。
* 水野氏
実際作り手と使い手のコミュニケーションはありそうで意外とないものだ。百貨店時代に
私は、君たち売り手と思うなよ、そうでなくて助け手になれと盛んに言っていた。助け手
というのは、お客様に商品を売って本当に満足してもらえるかを真剣に悩めということ。
もしその商品がお客様に合わないのなら、たとえそれより安い商品でもおススメし直せ。
売り手は一瞬だが、助け手はそこから始まる人間関係がすごい。
当時西武渋谷店のオンワードの紳士服売り場に日本で一番売るカリスマ店員
がいた。既
製服でも、ズボンの丈だけは必ず直す。商品がお客様に届いたころに、彼女は「お直しは
うまく行っていますか。不都合があったら何でもおっしゃってください」と必ず電話をし
ていた。電話をするだけで、指名で買いにくる客がものすごくいた。その人は売り手では
なくて助け手だった。これからは作り手も助け手にならないと駄目だと思う。モノづくり
にこだわった、その分を伝えないといけない。それを伝えてくれるのは出口さんとかのお
仕事。読者も有名ブランドだけで感心してくれる人は少なくなっているのではないか。
* 出口氏
ブランドの裏にあることをもっと読みたいと言われる読者が多い。世界の人たちが日本の
モノ作りに信頼・注目してくれている。問題はそれをどう売るか、どう見せるかに尽きる
と思う。
おとといまでパリのエルメスのアトリエに取材に行っていて、彼らがやろうとしているこ
とがすごく面白いと思った。それは山田さんのパスザバトンのコンセプトであるリサイク
ル。エルメスは革があると一部分しか使わない、完璧なモノを作るためには後は捨てる。
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あるいは手作りでクリスタルや銀食器を作っているが、わずかな歪みや気泡があれば、他
の部分のクオリティが良くても、どんなに手がかかっていても捨てる。彼らはそれでいい
のか?という疑問を持ち始めた。
それで何をやるかというと、エルメスの名を傷つけるのはもちろん駄目だが、それを更に
高めるようなリサイクルがしたい。そこで、エルメスのマークは大文字のHだが、小文字
のプティアッシュというブランドを立ち上げる。モデル販売を去年パリの本店でやったの
だが、次の本格的な展開は今年の6月に銀座でやるという。エルメスの一族は日本人なら
わかるだろうと。月が欠けるのが美しい、器にひびがある、それを継いである、それが美
しいという国だから。傷を職人技で更に素晴らしいものにすると言っていた。日本人は世
界一うるさい完璧主義のカスタマーだが、同時に不完全なものに物語や味わいを見つけ出
すお客様でもある。日本人同士がその感性で対話しあって盛り上げていけたらいいなと思
った。
* 水野氏
プティアッシュ、小さなhというのが洒落ている。遊び心があって面白いコンセプトだ。
* 山田氏
私はモノを買う方で作る方はあまりしていないのだが、昨年1年すみだの各社さんとコラ
ボをやらせていただいて、モノ作りの難しさを感じた。近くに資産や物語がころがってい
るはずなのに、身の回りに気がつかないことが多い。
バイヤーとしてよく言っているのは、値段決めた後で持ってこないでということ。値段決
まってます、作っちゃいました、何とかしてくださいというのはバイヤーの役目ではない。
実際にお店に並んでお客様に見ていただき手に取っていただくためには、作り手の一方的
な答えの出し方ではいい結果が得られないと思っているので、値段も何もかも決める前に
持ってきてくれと。
今 JR のエキュートさんの東京で、岩手県の漆や鉄器の展示販売をやっていて、六原張子の
産地に行ってきた。ブルータスの土産特集の表紙にもなったすごくかわいらしい張子だが、
1日5、6個しか作れない。それで値段は3500円。
東京の百貨店で安いから買っちゃおうという今までの感覚が、現場に行って完全に壊れた。
もっと高くしても売れるし、高くしないと駄目だという話になったのだけれど。
「3500
円でこのクオリティなら売れるじゃん」ではなくて、モノづくりの場所に行って当事者意
識を持てたので、バイヤーとしては自分も成長したかなと思っている。
ものづくりコラボレーションも上手く行くと思ったら上手く行かなかったり、これはどう
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しようと思っていたら上手く行ったりとかがあった。バイヤーと作り手のコミュニケーシ
ョン、あるいはお客様も含めたコミュニケーションの中で商品開発がどうやって出来て行
くのかを考えていきたい。
産地は昔の歴史も大事にされていて、守らなきゃ、残さなきゃといった後ろ向きの感覚が
あるように思える。絶え間ない更新があって初めてその産地の伝統や技術が残っていくと
思うので、作り手さんとはそこの認識がずれているように感じた。
* 水野氏
日本全国に産地があり、そこがみんな悩んでいて、いろんなクリエイターを呼んでモノづ
くりをやっている。だけど、すみだはすみだにしかできないものを作らないと駄目だ。昔
一村一品運動をやった時に、どこの村もこんにゃくばかりだった。その村でしか出来ない
ものを苦労してひねり出さない限り、本当の価値にはならない。
値段の問題だけど、あそこに革の風呂敷が置いてある。ユナイテッドアローズと共同開発
した商品で、これいくらと聞いたら3万2千円(税別)。微妙ないい値段をつけてるなと。
5万円以上したら鞄の方がいいとなるし、90cm の傷のない革を揃えるというのは相当原
料費がかかる。原料費から値段付けるでは駄目で、阿吽の呼吸でこれなら買うヤツがいる
ぞという気合いが大事。愛があればそんな安くは売れない、高くして売れ残ったら可哀そ
うだとか、愛情の中で値段も決まると思う。
それでは、最後に一人一言ずつお願いします。
* 出口氏
すみだとは今まで縁もゆかりもなかったが、非常に好きになって、スカイツリーが何メー
トルになったのかも気になるし、そこにどんな人がいて、どんな美しいものやおいしいも
のが生まれているのかも気になっている。スカイツリーが完成して注目が集まる期日が迫
っている中で、今考えなくてはいけないのは
すみだという街やすみだのモノをどのように評価してもらいたいかということ。少し関わ
った者からすると、どのように受け入れられてもらえるのか気がかりだ。すみだ地域ブラ
ンド戦略というのはすばらしいことだし、すごく努力しているのも見えるし、人の輪が広
がっているのも見える。
来年再来年、新たなステージに上がるときに心がまとまって、近隣の区や東京都以外から
訪れる人や世界中の観光客によりよい印象やイメージを与えることができたらいいと思う。
何かお手伝いできることがあればぜひ。
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* 藤巻氏
私は社員を全員日替わりヒーローにしたいと思っている。すみだはすみだ百貨店であるべ
きで、人がすべてだと思う。イケてないと駄目で、大事なのはセンス。人が集まっている
ところはセンスがいい。看板のデザインを考えるとか、街中が楽しくなるといい。すみだ
にしかできないことを、すみだ中を巻き込んでやる。伊勢丹の時も新宿三丁目の街中を巻
き込んだ。この前もたけしさんや布袋さんや奥山ケンさんともつ鍋食いながら、いろいろ
なアイデアが生まれた。それはお互い感性が合うから。そういうことを大事にしてほしい。
* 松山氏
すみだでものづくりをする小さな事業所にとっての位置と役割をもう1回しっかり考えて
みたい。人にもそれぞれ輝ける位置と役割があるように、すみだの小さな町工場にも輝け
る位置や役割があると思う。大きな技術革新を求めたら、大企業には勝てない。小さな差
異を積み上げながら工夫しながら、どうやってお客様のニーズに応えていくかが大事。
ただ一方で使い手にあまりにすり寄るのもよくない。使い手はわがままなもので、安いも
のを求めてきたり、機能をたくさん求めてきたりする。そこにすり寄って媚びて迎合する
と自分たちの立ち位置が見えなくなってしまう。歴史を踏まえながら、自分たちの強みを
愚直にやりぬいて世界に商品を届けていただきたい。
* 山田氏
今治ならタオルとか、輪島なら漆とかが思い浮かぶけれど、すみだには食品から日用品か
ら金属から本当にいろんなものがある。今回企画展をやらせていただいていても、いちじ
く浣腸もそうか、三ツ矢サイダーもそうかと驚いた。ブランドと聞いたときに色付けしに
くいなあと思った。今治のタオル、輪島の漆のようなわかりやすさはない。
すみだのブランドの答えは多様化だと思う。東京という都市が持っている多様性、それを
支えているものづくりの街がすみだ。すみだの一番の強みはその多様性。藤巻さんがおっ
しゃった百貨店というのはいい言葉だし、作ればいいと思う。だからこそモノのジャンル
を超えたコラボレーションも面白いことができると思うし、認証事業やブランドをきっか
けに横のつながりが生まれるといい。
* 水野氏
最後に一言。イワシの大群をいけすに入れてトラックで運ぶとたいてい死んでしまう。と
ころが、いけすにナマズを入れると死なない。ナマズという異物がいるので、イワシは一
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所懸命泳いで、元気に目的地まで着くそうだ。
たとえが悪いかもしれないが、すみだという地区もいけすのようなもので、そこには同質
のイワシがいっぱい住んでいる。そこに藤巻さんのような異物が入ってきて、こうしては
いられないなあ、うかうかしていられないぞ、みんなで一緒に泳いでみようという気分に
なることが、すみだを元気にする方法ではないかと思った。
今年は逆ばりの時代だと思う。発想の転換をする。急がば回れ、損して得とれ、負けるが
勝ち。私が考えたのは、分けるが勝ち。一人勝ちということはない。勝ちとか幸福とか冒
険心を分かち合うことがすみだを元気にすると思う。
スカイツリーという大変なシンボルができるわけだが、スカイツリーという城だけが栄え
て、城下町である皆さんの商売が廃ってしまっては話にならない。逆転の発想、逆ばりの
発想を持って、再チャレンジすることが大事だと思う。ブランド認証、ものづくりコラボ
とチャレンジの場がいっぱい用意されているわけだから、自分達だったら何が出来るか、
大いにチャレンジしていただきたい。そんな期待を込めて本日のシンポジウムを終わりに
したい。この続編は来年またやっていただくということで。
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