第4回周術期セミナー

第4回周術期セミナー
術後痛管理
(postoperative pain service : POPS)
岐阜大学大学院医学系研究科
麻酔・疼痛制御学
竹中 元康
Key Point
• 急性術後痛は侵害受容性疼痛が主体
• 急性術後痛の管理目標は無痛の獲得ではない
• 非ステロイド性抗炎症薬は、小手術の術後疼痛対策
として有用
• オピオイドの静脈内投与は優れた術後疼痛対策手段
• オピオイドを使用したPCAは優れた術後鎮痛手段
• 硬膜外ブロックは非常に優れた術後鎮痛方法である
• 近年、急性術後痛に対する末梢神経ブロックの有用
性が認められている
急性術後痛
侵害受容性疼痛(体性痛と内臓痛)が主体
避けることのできないもの
我慢すべきもの
疼痛対策不十分
・疼痛が精神的ストレスや呼吸・循環・代謝に悪影響
・適切な鎮痛は患者の早期離床を促し合併症を抑制
近年、新たな術後痛対策の方法などが発達し質も向上
鎮痛薬の全身投与(オピオイドや非オピオイド)、局所鎮
痛法(神経幹や末梢)などを使用した患者に応じたハン
ドメイドな鎮痛療法
術後痛
• 手術部位、年齢、性別などにより個人差が大きい
• 通常は術後8∼10時間で最も強,い
• その後次第に減弱、3∼4日目以降は強い痛み消失
術後痛のコントロール目標
≠ 完全な無痛を得ること
副作用の少ない状態で、安静時痛が自制内、体動
時痛が軽い状態が得られること
術後の疼痛対策
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経口薬
筋肉注射
静脈注射
PCA(Patient‐Controled Analgesia)
• 神経ブロック
• 新しい鎮痛法:自己調節硬膜外鎮痛
経口薬
• 抜歯や軽微な縫合など局所麻酔下での小手術後に使用
• 薬剤としては非ステロイド性抗炎症薬nonsteroidal anti‐
inflammatory drugs(NSAIDs)やアセトアミノフェンが使用
• 作用機序としては、末梢感作や痛覚過敏にとって重要なシ
クロオキゲナーゼ(COX)の抑制とプロスタグランジンの合
成抑制
• NSAIDsは、オピオイドに比べ呼吸抑制が少ないが、体温低
下・血圧低下・消化管出血・腎不全の危険性
• NSAIDsやアセトアミノフェンにより気管支痙攣が発症したり、
アスピリン感受性患者・喘息患者においてアセトアミノフェ
ンと交差感受性の可能性
• オピオイドに関しては日本ではまだ一般的ではない
筋肉注射
• 筋肉注射は筋肉内注射とも呼ばれ、お尻や腕、太
腿などの筋肉に薬液を投与する注射
• お尻に打つことが多いが、お尻が都合の悪い時(女
性に多い)は、肩や大腿に注射施行(お尻に比べて
非常に痛いので注意が必要)
静脈注射
• 薬液を直接静脈内(一般的には末梢の静脈)に投与
する方法(略して静注)
• 効果の発現が早いため、血圧ンコントロールなど緊
急薬剤の投与時には絶対に必要
• 疼痛時に短時間で薬液を投与し、より速い効果を期
待する時などに使用
• 単回投与では必要量に患者間・内で差が存在
• 中等度以上の手術時には、オピオイドが使用される
ことが多く優れた効果を示すが、副作用として呼吸抑
制・嘔気・鎮静の出現
PCA (Patient‐Controled Analgesia)
• 患者が必要に応じて鎮痛薬(主にオピオイド)を投与できる
方法
• ポンプ機能を有した器材を用いてあらかじめプログラムさ
れた一定量の鎮痛薬が持続的に基本投与されている上に
患者が強い疼痛を感じた時にボタンを押す毎にあらかじめ
医師によって決められている量を追加投与できるシステム
• 薬液投与方法による静脈内PCAと硬膜外PCA
• 欠点として投与速度などのプログラミングミスや機械操作
ミスがあり、時には重篤になる危険性
神経ブロック‐硬膜外鎮痛‐1‐
• 手術時に挿入された硬膜外カテーテルを通して鎮痛
薬(主にオピオイド)を投与することにより末梢性の疼
痛を除去・軽減する方法(持続硬膜外注入鎮痛法)
• 頚部∼下肢の広範囲にわたって適用可能で、使用す
る薬液によって鎮痛時間・遮断する神経線維の種類・
分節の広がりが調節可能
• 術後のみならず術中の鎮痛も図ることができる可能な
優れた手段であり、術後患者の回復を促進し、予後や
合併症発生率・死亡率軽減にも好影響
硬膜外鎮痛‐2‐
• 術後鎮痛に関しては、薬液の持続投与が可能なバ
ルーンタイプの小型軽量ディスポーザブル器材が普
及しており、局所麻酔薬やオピオイドを単独あるいは
組み合わせて使用
• 欠点として局所麻酔中毒、尿閉、掻痒などの他に、重
大な合併症として硬膜外血腫の危険があり抗凝固薬
使用患者では相対的禁忌
• 感染による硬膜外膿瘍の発生(稀)の報告もあり注意
新しい鎮痛法
• 自己調節型硬膜外鎮痛(Epidural PCA):硬膜外カテーテ
ルを通して鎮痛薬の持続的投与に加え疼痛時にあらかじ
め設定された投与量を自分でスイッチを押すことによって
注入する方法の普及
• 鎮痛力や薬物投与量の減量など単なる持続硬膜外注入
を上回る有効性があり、静脈内PCAに比べても優れた鎮
痛や高い患者満足度の獲得
• 低濃度局所麻酔薬とオピオイドの併用が多い
鎮痛効果の改善と運動神経遮断や呼吸抑制など副
作用を最小限に抑え、一般病棟でも十分安全に施行
できる効果的な鎮痛方法
注入器
バルーンタイプの小型軽量の
ディスポーザブル器材
プログラミングされた電動ポンプ
• 局所麻酔薬やオピオイドを単独あるいは組み合わせて使用
• 欠点としては、電動ポンプはプログラミングミスや機械操作
ミスにより時には重篤になる場合がある
末梢神経ブロック
• 創部浸潤ブロックや末梢神経(区域)ブロックは、オピ
オイドなど鎮痛薬の全身投与を減量でき、副作用も軽
減でき患者の満足度を改善する優れた方法
• 神経ブロックの持続時間も局所麻酔薬によって違うが、
注入後24時間まで効果が持続することあり
• 末梢神経カテーテルを留置し、局所麻酔薬を持続注
入することにより長時間の優れた鎮痛効果
• 超音波エコーガイド下に神経ブロックを施行すること
によりその確実性・安全性の飛躍的向上
末梢神経ブロック‐種類‐
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腕神経叢ブロック
腰神経叢ブロック
大腿・膝窩神経ブロック
腹横筋膜面ブロック
肋間神経ブロック
胸部傍脊椎神経ブロック
創部浸潤ブロック
肋間神経ブロック
傍脊椎神経ブロック
Transversus abdominis plane(TAP) block
腹横筋膜面ブロック
腕神経叢ブロック(斜間筋間法)
大腿神経ブロック
腕神経叢ブロック(腋窩法)
坐骨神経ブロック(膝窩法)
TENS
(transcutaneous electrical nerve
stimulation)
• 電気刺激治療器で電流を流す事による疼痛コントロール
• 疼痛痛感部位やその部位を挟んだり、末梢神経の走行に
沿った中枢側に刺激電極を装着し比較的高頻度で電気刺激
• 侵襲が少なく重篤な副作用がない安全・簡便な方法
• 効果持続時間は比較的短時間
• 手術瘢痕疼痛症候群などの慢性的疼痛に対しての有効
• 急性痛でも胸腔鏡や胸骨正中切開などの比較的侵襲の小さ
い開胸・開腹手術後痛に鎮痛効果
• 筋肉の収縮や弛緩による血液やリンパ液の循環促進、自律
神経の調整作用効果