住友電工、携帯電話のケーブル 設計課題の解決策を SIMULIA に求める

ケーススタディ
住友電工、携帯電話のケーブル
設計課題の解決策を SIMULIA
に求める
素線にまで至るソリューションを提供する Abaqus
FEA によるリアリスティックシミュレーション
現在、非常に多くの人々が携帯電話なしでは
生活できないと思っていますが、携帯電話は
どのようにして人々による酷使を乗り切って
いるのでしょうか。最近では、ますます小型
化する本体にかつてないほど多くの機能を収
める必要があります。解決策の 1 つは、表面
積を増やすために開く、折りたたみ/回転式
またはスライド式のパネルを追加することで
した。しかし、物理法則は不変です。断絶し
た回路では電気が流れません。これは、携帯
電話の内部のあらゆることが円滑に実行され
るように維持している素線は、たとえ何が起
こったとしても損傷を受けてはならないこと
を意味します。
その解決策は、同軸ケーブルです。数百本の
束状の細い素線で構成された直径が 0.3 mm
未満の同軸ケーブルは、非常にコンパクトで
あり、各信号線の周囲にある保護層によって
電磁ノイズから遮へいされているため、携帯
電話内部での使用に特に適しています。同軸
ケーブル内の個々の素線は、それぞれの直径
がわずか数十ミクロンですが、少なくともし
ばらくの間は、標準的な携帯電話パネルにお
けるすべての曲げやねじりに十分耐えられま
す。
にわたってケーブルに物理的な応力を加える
疲労試験装置を用いてケーブルの寿命を評価
していました。しかし、競争の激しいエレク
トロニクス産業では設計サイクルの一層の短
縮が求められる一方、携帯電話の耐久性の向
上によって、より長持ちする、より複雑な携
帯電話が作られています。携帯電話本体の寿
命が長くなった分、ケーブルも正常に機能し
続けることが必要です。
Dassault Systèmes のリアリスティクシミュ
レーションのブランドである SIMULIA のコ
ンピュータ支援エンジニアリングソリュー
ションによって、上記のような課題に対する
強力な解決方法が住友電気工業に提供されま
した。Abaqus 統合有限要素解析(Unified
FEA)ソフトウェアを使用して、同社の研究
チームはコンピュータモデルを作成し、素線
1 本から同軸ケーブルの束全体に至るすべて
の挙動をシミュレートしました。これらのモ
デルによって、携帯電話本体の動的環境で発
生する多くの応力およびひずみを内部から見
ることができるようになりました。研究チー
ムの解析結果によって、性能の向上につなが
る設計および材料変更を検討するための因果
関係のデータがエンジニアに提供されまし
た。
研究チームでは、電線に似た 1 本の円筒形の
線材の FEA モデルから始めました(図
2)。引張り、曲げおよびねじりに起因する
変形に対するモデルの応答をシミュレート
し(準静的解析に Abaqus/Explicit を使
用)、仮想的な断線の数を測定しました。こ
の結果は、ひずみの大きさと寿命の関係を定
量化するのに役立ちました。
詳細な内部構造を持つ同軸ケーブルのより複
雑な FEA モデルにステップアップして(図
3)、住友電気工業のエンジニアはさまざま
なレベルのひずみおよび変形における導体と
絶縁層の関係を研究しました。導体とシール
図 1 標準的な携帯電話(左上)には、ヒンジで
結合されたトップパネル(右上)があり、開閉お
よび回転させることができる。そのため、電力と
情報を携帯電話の全体に運ぶ同軸ケーブル(左下
と右の枠内)に繰り返しひずみが生じる。
同軸ケーブルは数万回の開閉サイクルに耐え
うるように作られていますが、より一層の薄
型化へ向かう最近の傾向によって、ケーブル
経路の選択肢が制限され、ケーブル自体に加
わる負荷が増大しています。そこで、電子配
線製品の専門家として、住友電気工業のエン
ジニアたちは、携帯電話用ケーブルの耐久性
を向上し、疲労による断線の発生を低減する
ことの一層の必要性を認識しました。
住友電気工業の解析技術研究センタの研究
チームのメンバーである島田茂樹氏は次のよ
うに述べています。「携帯電話の製品設計に
は、携帯電話の各種ケーブルの寿命の評価を
含めなければなりません。ケーブルの最適な
レイアウトによって、ケーブルの寿命が製品
の寿命より長くなることが保証されるため、
この情報は設計の最初の段階で必要になりま
す」
従来、住友電気工業の研究チームは、長期間
16 INSIGHTS
2010 年 9 月 /10 月
図 2 Abaqus FEA による線材に生じる変形モードおよび主な応力状態
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ドを構成する銅合金の素線、および絶縁層の
テフロン樹脂には弾性金属モデルが使用され
ました。ケーブルに必要とされる 100,000 サ
イクルを超える寿命では、小ひずみ(1% 未
満)であることが要求されたため、塑性を無
視できることを意味します。これらの結果を
最初のモデルデータと組み合わせることで、
左右の曲げおよびその他の変形を含む仮想疲
労試験下におけるケーブル全体の寿命につい
てのより深い知見が得られました。実世界の
疲労試験と実際のケーブル挙動の測定によっ
て、FEA による予測が検証されました。
最後に、携帯電話の内部における実際のレイ
アウトに即した同軸ケーブルの挙動を観察す
るために、研究チームは同軸ケーブルとその
絶縁層を特定の引張り、曲げおよびねじり剛
性を持つ巨視的なはりとしてモデル化し、シ
ミュレートされたケーブルの動きの中で、各
領域における特定の時点での変形を計算しま
した。次に、携帯電話の実際のケーブルレイ
アウトで大半の問題が発生するヒンジの付近
の壁とケーブルの束をモデル化しました。
180 度の回転を含む開閉サイクル中のケーブ
ルの挙動をシミュレートすることで、
Abaqus FEA の結果が疲労試験における実
際のケーブルサイクルの X 線画像と比較さ
れました(図 4)。研究チームの別のメン
バーである真鍋賢氏は次のように述べていま
す。「現在、私たちは電気ケーブルの実際の
レイアウトにおける寿命の性質を評価するこ
とができます。将来的には、よじれによって
生じる破断、さらに摩耗に起因するケーブル
の破損のモデル化にも取り組む計画です」
Abaqus Unified FEA を使用して開発した寿
命評価方法を用いて、住友電気工業のエンジ
ニアは次に、最新の薄型スライド式携帯電話
においてケーブルレイアウトが寿命に及ぼす
影響など、より一層複雑な設計課題に取り組
むことができました。これにより、携帯電話
のスライド操作によってケーブルが横方向と
軸方向の両方に屈曲し、寿命が大幅に短くな
ることが分かりました。設計上の解決策は、
自由に動くケーブルをひとまとめにした状態
に保持しつつ(図 5)、携帯電話のスライド
を動かした際にケーブルの柔軟性を妨げるこ
とがない保護テープによる鞘状の覆いでし
た。
島田氏は次のように述べています。「私たち
の CAE の専門知識は、ロボットで使用され
ているケーブルなど、同じような種類のケー
ブルに対する応用への展開に現在役立ってい
ます。ケーブルへの要求がさらに多様で厳し
いものになるにつれて、リアリスティックシ
ミュレーションは今後発生するさまざまな設
計課題の解決方法を開発するのに役立つこと
でしょう」
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図 3 ねじりを受けているケーブル全体モデル内の軸方向およびせん断方向の応力分布
図 4 開閉サイクルの寿命評価および X 線画像の結果
図 5 携帯電話のスライド機構用ハーネスの設計進化: 保護テープを重なり合うように巻きつけたためひずみが増加し寿命が
短くなった(図示せず)、最初の改良は(左上/下)、テープの巻き方の変更で、ケーブルを解放するための隙間が設けら
れた。しかし、ケーブルが隙間からはみ出したため、寿命はそれほど延びなかった。次に、編組による保護が試験された
(右上/下)。摩擦は十分に低いためケーブルは重なり合わず、また隙間はケーブルに対して十分に小さいためケーブルはみ
出すことはない。CAE および実際の試験によって、この設計でケーブルの寿命が延びることが確認された。
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INSIGHTS
2010 年 9 月 /10 月 17