第5章市場の失敗

この章で学ぶこと
1. 消費者・企業の利己的な行動
社会全体にとって効率的な結果とならない場合が
ある:市場の失敗
第5章 市場の失敗
2. 独占・外部効果・公共財・情報の非対称性
3. 市場の失敗は、政府介入の根拠の一つ
市場経済の利点
• 各消費者・企業の利己的な行動が、社会
全体から見て効率的な結果をもたらす。
⇒現実の経済では、実現が難しい。
• ここでの効率性とは?
⇒資源配分の効率性、ムダのなさ。
• 資源配分とは?
⇒ 「誰が、何を、どれだけ、どのように、
生産し消費するか」の割り当て。
市場の『失敗』とは?
• 各消費者・生産者が利己心にもとづく行動を
とった結果、効率的でない資源配分が実現す
ること。
⇒政府の介入の余地。
• 資源配分が効率的でなければ、
生産や消費の割り当てを、次の1.と2.を
満たすように変更できる
1. 前よりわるくなる人は一人もいない。
2. 前よりよくなる人が少なくとも一人いる。
市場経済の利点 (2)
資源配分が効率的であれば、生産や消費の
割り当てをどのように変更しても、次の1.と2.
のどちらかになる
1. 前よりよくなる人が一人もいない。
2. 前よりわるくなる人が少なくとも一人いる。
政府の介入が全員に支持される
可能性はない。
市場の失敗の原因
1. 独占
2. 外部効果
3. 公共財
4. 情報の非対称性(次章)
1
独占
市場占有率の高い例
売り手または買い手が価格への影響力を
持つ場合、市場の失敗が生じる
電力会社は、ほぼ地域独占
市場で占めるシェアが大きい企業が存在
する場合。極端な例が独占。
ハンバーガーチェーンは独占に近い
マクドナルドのシェアは、75%以上
製品が差別化されている場合
コーヒーチェーンは複占に近い
不完全競争市場
前章まで想定していたのは完全競争市場
市場占有率の数値例
(%)
インクジェット
プリンター
(%)
日本マクドナルド
75.4 ドトールコーヒー
43.4
セイコー
エプソン
41.9
モス
フードサービス
14.2
42.6 キヤノン
41.7
8.5 日本HP
6.9
スターバックス
コーヒー
5 UCCコーヒー
上位三社
94.6 上位三社
ドトールとスターバックスがそれぞれ43%
独占の弊害
ハンバーガーチェーン (%) コーヒーチェーン
ロッテリア
東京電力、関西電力、九州電力など
94.5 上位三社
独占の弊害の数値例
90.5
• 企業が価格への影響力を持つ場合、
生産量を減らして価格をつり上げることに
より、利潤を増やそうとする
• その結果、企業の利潤は増加するが、
消費者の利益は減少する
• 一般に、利潤の増加分より消費者の損失が
大きくなり、社会全体にとって望ましくない
独占の弊害の数値例 (2)
消費者
支払ってもよいと考えている最大の金額
価格
購入者
A
20,000
20,000
A
15,000
15,000
B
15,000
15,000
A、B
20,000
25,000
C
10,000
10,000
A、B、C
15,000
30,000
D
5,000
0
30,000
E
3,000
-10,000
28,000
5,000
A、B、C、D
3,000
A、B、C、D、E
Fの利潤
社会的余剰
2
独占の弊害の数値例 (3)
公正取引委員会
社会全体として効率的な生産活動
• 4台生産し1台5,000円で A、B、C、Dに売る
• 3台生産し1台10,000円で A、B、Cに売る
独占企業Fの利潤が最大となる生産活動
• 2台生産し1台15000円で、A、Bに売る
外部効果とは?
外部効果の例
• ある経済主体の生産・消費が、
市場での取引をとおすことなく、別の経済主
体の生活満足度や生産の効率性に影響を
与えることを、外部効果という
• ある家の庭のキンモクセイの香りが、
近隣住民や通行人を心地よくさせる
• 影響を受ける側にとって望ましい影響を
外部経済、望ましくない影響を外部不経済と
いう
• 大型スーパーの開店により、周辺の賃貸マン
ションの入居率が上昇する
社会的純便益
社会的純便益 (2)
外部効果がある場合、社会的純便益は、
消費者余剰と生産者余剰の和と一致しない。
(例) 外部不経済がある場合
社会的純便益=消費者の便益
• 生産者の私的費用
• 外部不経済による社会的損失
• 電車内での携帯電話の使用が、
同一車内の他の乗客を不快にさせる
• 工場の排水が、周辺水域の漁獲量を
減少させる
• 軽油利用による大気汚染物質の発生を考慮
する
• 輸送サービスの生産のために社会全体が
負担しなければならない費用は、
生産者の私的費用
+
外部不経済による社会的損失
3
外部不経済と過剰生産
グラフの見方のポイント
限界便益>限界費用である場合
社会的限界費用
A
生産量を増加させると純便益が増加する。
C
限界便益<限界費用である場合
E
私的限界費用 (供給曲線)
生産量を減少させると純便益が増加する。
M
限界便益=限界費用である場合
B
限界便益 (需要曲線)
80
100
どのように生産量を変化させても、
純便益は増加しない。
グラフの見方のポイント (2)
公共財とは?
市場均衡で実現されるMにおいては、
小麦粉(私的財)と外交(公共財)の違い
限界便益<社会的限界費用
であるため、生産量を減少させることにより、
社会的純便益がさらに増加する。
ゆえに社会的に効率的な生産量ではない。
社会的に効率的な生産量は、
限界便益=社会的限界費用
となるEである。
他の公共財の例
ある人が外交の恩恵を受けたとしても、他の人
が外交から受ける恩恵が減るわけではない
共同消費が可能
税金を支払わない人が外交の恩恵を受けるこ
とを阻止することは困難
排除費用が大
公共財の過小供給
個々の消費者・企業の利己的な行動に任せ
ておくと、公共財の生産・消費について、
お互いに他人任せにしようとする。
すなわち、フリーライドが生じる。
その結果、社会にとって必要な公共財が
供給されなかったり、されたとしても過小
となる
4
総合公園の例
公共財の過小供給 (2)
競合性が無い
誰かが公共財を供給してくれると、
自分は同じ条件で利用可能である
排除不能である
他者が費用負担している公共財を、
自分は無償で利用可能である
その結果 「自らは公共財供給の費用を負担しな
いで、他人が供給してくれるものを利用する方が
得」 と誰もが考える
公園整備の数値例
公園整備の数値例 (2)
払ってもよいと思う金額
世帯数
払ってもよいと思う金額の合計
30万円
100
3000万円
50万円
100
5000万円
100万円
100
1億円
合計
300
1億8000万円
公園整備の数値例 (3)
ところが、各世帯が自らの公園の評価額を正直に申告
する保証はない。
自分の評価額を低く申告し、他の人に多めに負担して
もらうと、自分は得。
このことはすべての世帯に当てはまる。
⇒多数の世帯が過少申告
• 整備費用が6000万の場合
社会的評価>整備費用
であるため、整備計画を実行することが
妥当
• 各世帯から20万円ずつ徴収すると、
公園の評価が低い世帯でも10万円の得。
よって、すべての世帯が納得するはず。
おわりに
• 第5章では、個々の消費者および生産者の
利己的な動機にもとづく選択が社会全体とし
て効率的な生産・消費をもたらさない、市場
の失敗と呼ばれる現象について学んだ
• 市場の失敗の例として独占・外部効果・公共
財について検討し、それら私たちにとって身
近なところで生じていることを確認した
社会的に妥当であるはずの公園整備が実施
されない可能性がある
5
考えてみよう 1
考えてみよう 2
• マクドナルドは、ハンバーガーショップの市場で
は独占に近い。
市場の範囲を、ファーストフードの市場、外食
の市場というように広げても、独占的な企業
か、考えてみよう。
• パソコンの性能が上がると、より高度なコン
ピュータソフトが開発される。
逆に、高度なソフトの開発はより良いパソコン
への需要を増やす。
コンピュータ産業とソフト産業の間にはお互い
に正の外部効果があると考えられる。
このような例が他にないか考えてみよう。
• また、同じような例がないか、考えてみよう。
考えてみよう 3
• 外交や公園の他の公共財の例を考えてみよ
う。
• その中でフリーライドの問題が起きているかど
うかについても考えてみよう。
参考文献
「ミクロ経済学」
奥野正寛(編著)
東京大学出版会、2008年
「公共経済学(新版)」
岸本哲也
有斐閣、1998年
「日経 市場占有率 2010年版」
日経産業新聞(編)
日本経済新聞出版社、2009年
次に読んで欲しい本
「入門経済学(第3版) 」
伊藤元重
日本評論社、2009年
「公共経済学(第2版) 上・下」
スティグリッツ
東洋経済新報社、2003・2004年
「ミクロ経済学Ⅰ・Ⅱ」
八田達夫
東洋経済新報社、2008・2009年
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