を利用したディジタル信号処理教育 ― 東北大学工学部情報知能システム総合学科の事例 ― 川又 政征, 阿部 正英 東北大学 大学院工学研究科 電子工学専攻 まえがき 表 情報知能システム総合学科のコースと『ディ ジタルタル信号処理』の必修・選択の別 主コース エネルギーインテリジェント(選択必修) コミュニケーションネットワーク(必修 情報ナノエレクトロニクス(選択必修) コンピューターサイエンス(選択必修) ナノサイエンス(講義科目なし) 副コース: 知能コンピューティング(必修) メディカルバイオエレクトロニクス(必修) 工学系学部におけるディジタル信号処理の教育 では,たたみこみ,フィルタリング,Þ 変換,離 散フーリエ変換などに関して数学的な基礎理論を 学ぶことが必要である.それに加えて,数学的に 記述された信号処理の演算がアルゴリズムやプロ グラムとして実際にどのように実現されるのか, 信号処理の演算によって信号がどのように分析・ 合成され,加工・変形されるのかを実感として知 ることが極めて重要である. 本報告では東北大学工学部情報知能システム総 合学科における を用いたディジタル信 号処理の教育について紹介する.この講義では学 生は教室では従来形の講義によりディジタル信号 処理の基礎理論を学ぶとともに, を利 用してレポートを作成し,実際に信号処理を行う ことで,信号処理のアルゴリズ・プログラミング を体験し,たたみこみ,差分方程式,フーリエ変 換などの信号処理の演算の意味を実感として理解 することを目的としている. なお,以下の報告では『ディジタル信号処理』 として情報知能システム総合学科の講義科目を表 し,ディジタル信号処理に括弧がない場合には一 般の意味を表すものとする. 情報知能システム総合学科に入学した学生は第 セメスターから第 セメスターまで の の主コースの学生 主コースに所属する. は電気・通信・電子・情報に共通する基礎科目を 学んだ後に,各コースの専門分野の講義科目を学 ぶ. と のコースはそれぞれ と の主 コースから第 セメスタにおいて枝分かれする副 コースである. 本報告では情報知能システム総合学科の中の のコースにおけるディジタル信 号処理教育について紹介する. ディジタル信号処理教育の歴史 東北大学工学部情報知能システム総合学科での 学部講義科目としての『ディジタル信号処理』は 年から開講された½ . 年∼ 年まで は樋口著「ディジタル信号処理」(昭晃堂) を 用いてディジタルフィルタと離散フーリエ変換を 中心とするディジタル信号処理の基礎理論が第 東北大学工学部では最近,大学科制に移行し, 電気情報関係の学科は「情報知能システム総合学 科」として一つの学科に統合された.この学科は 表 の様に コースから構成される. の コースは旧電気工学科,通信工学科,電子工学科, 情報工学科に対応するコースである. のコー スは旧応用物理学科に対応する. 情報知能システム総合学科の構成 ½ 年まではディジタル信号処理は大学院前期課程の 講義科目として講義されていた. セメスター( 年次前期)に講義されていた.ま を用いたディジタル た,第 セメスターでは 信号処理の学生実験も行われていた.この期間で は講義とレポートで を積極的に利用す ることはなかった. 情報知能システム総合学科の計算機室での の利用環境が充実したことをきっかけ 年にこの教科書 を改訂し,樋口・ として 川又著「 対応 ディジタル信号処理」 を出版し,これに基づいて講義が行われるように 年以降,講義とレポート課題のため なった に を積極的に利用することとなった. 現在, の コースで 第 セメスター( 年次前期, 月∼ 月)に『ディジタル信号処理』 の講義が行われている.講義は 人の教員によっ て クラスで行われている.この コースのディ 名で ジタル信号処理の毎年の受講生総数は約 ある.各コースでの選択・必修の区別は表1のと おりである.この科目の単位数は 単位である. また,第 セメスターにおいて と を用いた学生実験も行っている. を利用したディジタ ル信号処理教育 講義と教科書 『ディジタル信号処理』の講義は教科書として 樋口・川又著「 対応 ディジタル信号処 理」を用いて,この章立てにそって行われる.こ の教科書は電気情報系分野の学部学生向けのディ ジタル信号処理の基礎理論を講義することを目的 としたものであり,以下のような章からなる. 序論 離散時間信号 離散フーリエ変換 高速フーリエ変換 ディジタルフィルタの基礎 Þ 変換 ディジタルフィルタの解析 周波数選択性ディジタルフィルタ フィルタの設計 フィルタの間接設計 フィルタの直接設計 次元信号とフーリエ変換 次元ディジタルフィルタ 各章には多くの例題があり,各例題の解答は数 式を用いて与えられている.一方,この解答に対 応する のスクリプト が記述されて いる. 上記の 章のうち 章と 章を除く 章分 について 回の講義が行われている. の講習 第 セメスター( 年次前期)の開始時期の情 報知能システム総合学科のほとんどすべての学生 にとって を用いることは初めての経験 である.このため, 『ディジタル信号処理』の講義 の一部として の利用法について講習会 を開催している . についての講習会 分で行われている. 言語などにくら は 回 べて は学習がきわめて容易な言語であ るため,次に述べるレポート作成のための講習と しては講義 回分の講習時間 分 で十分であ ると考えられる. 講習会の資料として自作の マニュア を配布している.このマニュアルは『ディジタ ル信号処理』のための の入門書である と同時に上記の教科書中で利用される のすべての関数について説明している文法書でも ある. は情報知能システム総合学科の計算 機室において利用できるが,学生には などの を購入することもすす めている.しかし,学生が購入することは実際上 ほとんどないであろう.そこで講習会では学生に を利用することもすすめている. は とほぼ互換であり,フリーソフ トウエアであるため,学生が自宅でレポート作成 するために有用である考えられる. 教科書中の スクリプトに対応する スクリプトと, 『ディジタル信号処理』の の入門のマニュアルも作成してい ための る . は とほぼ互換であると %#&'()$ *+ ,-# ,-# *+ ,-# *+ ,-# *+ ,-# !"#$ *+ はいうものの,インストールや との 異同について注意をする必要がある.このため, を利用する学生には計算機に関してある 程度の予備知識が必要とされる.年に数名が学生 が を利用してレポートを作成している. *+ ,-# *+ ,-# レポート課題 『ディジタル信号処理』の講義では試験の他に 回のレポートを課している.各回のレポート課 題の半分は講義で学習した内容に関して筆算で解 く問題である.残りの半分は のプログ ラミングにより数値計算として解く問題である. によるレポート課題の内容は以下の とおりである. 第1回のレポート課題 教科書の第 章∼第 章 の内容に対応するレポート課題である.与え られた信号の描画,離散時間フーリエ変換の 計算,離散フーリエ変換の計算,離散フーリ エ変換の直接計算と高速アルゴリズムの計算 時間の比較などが課題となっている. 第 回のレポート課題 教科書の第 章∼第 章 の内容に対応するレポート課題である.たた たみこみの計算,差分方程式の計算,与えら れた伝達関数をもつフィルタの周波数応答の 計算,単位インパルス応答・ステップ応答の 計算などが課題となっている. 第 回のレポート課題 教科書の第 章 の内容に対応するレポート課題である.窓関 数法による フィルタの設計, 次元 フィルタ(空間フィルタ)による簡単な画像 処理などが課題となっている. の利用における利点 と留意点 利点 『ディジタル信号処理』のレポートの作成にお を利用することは学生にとって二 いて つの大きな利点があると考えられる.一つは,信 号処理の計算を容易に実行して,その結果を視 覚化できるので,信号処理の手法の意味(たたみ こみと差分方程式によるフィルタリングの効果, フーリエ変換によるスペクトル分析など)を直截 的に理解し,体験できることである.もう一つは, 従来とりあつかうことのできなかった複雑な問題 も容易に扱うことができることである.例えば, 高速フーリエ変換,フィルタの設計,画像処理な どを学生自身で容易に実行でき,実際的な応用に 近い問題を解くことができる. このような利点は が学習しやすく, データの視覚化にすぐれた言語であることにくわ えて,ディジタル信号処理において必要とされる 多数の計算手法が関数として提供されていること から生じる.たとえば,たたみこみ フィル タ 高速フーリエ変換 などがそのよ うな関数の例である. 留意点 しかし,これらの関数をブラックボックスとし て単に利用することはディジタル信号処理の基礎 を深く理解するためのさまたげにもなりかねない. そこで, 『ディジタル信号処理』とその教科書 で は,たたみこみ,再帰的フィルタ,非再帰的フィル タ,離散フーリエ変換,高速フーリエ変換などの 主要な信号処理手法については,そのアルゴリズ ムとプログラミングを理解することがきわめて重 要であると考え,計算法を明示的に記述した関数 を掲載して いる.また,学生にはこれらのアルゴリズムとプ ログラミングを理解した上で などの の関数を利用することを強く推 奨している. を用いた学生実験 情報知能システム総合学科では学生は第 セメ スターにおいて講義科目としての『ディジタル信 号処理』を履修した後に第 セメスターの学生実 験(講義科目名 電気・通信・電子・情報工学実験 )においてディジタルシグナルプロセッサを 用いたデイジタル信号処理の実験を行う. 実験内容は, による フィルタの フィルタの 上での実装, に 設計, よる音声信号処理システムの実現などである.実 験時間は 分である. 人 グループでで実験 にとりくむ.この実験のために助教 名と 名が配置されている. この学生実験システムでは ボードとして を用い,ソフトウエア開発 )"# )./)'#& !"() を 環境として 用いている. あとがき 本報告では東北大学工学部情報知能システム総 合学科における を利用したディジタル 信号処理の教育について紹介した.本学科ではディ ジタル信号処理の基礎を講義する科目は『ディジ タル信号処理』 科目であり,その単位数は 単 位である.したがって,科目数と単位数という点 でディジタル信号処理の教育はまだまだ不足して いる.また を積極的に利用している科 目もこの科目だけである. ディジタル信号処理の教育のために を利用することには大きな利点があるものの,現 状のような 科目の講義のために を利 用するだけでは学生に対しての「教育効果」は限 定的であるとは言わざるをえない.なぜならば, 現状では多くの学生にとって はディジ タル信号処理』の 科目のために一時的に利用す る言語となっているからである¾ . 現在,東北大学情報知能システム総合学科では 『ディジタル信号処理』を除いて を積 極的に利用している講義科目はないものの,以下 のような科目において の利用の可能性 があるであろう. 第 セメスター 電気回路学基礎論 第 セメスター 電気回路学 ,コミュニケーショ ン工学 ,システム制御工学 第 セメスター コミュニケーション工学 ,数 第 セメスター 電気回路学 理計画法,数値コンピューティング,画像情 報処理工学,コンピュータグラフィックス, 第 セメスター システム制御工学 上記のような多数の科目において学部専門教育 の初期の段階から継続的に を利用する の利用による教育効果が大いに ことで 高まるものと期待される. なお,東北大学工学部情報知能システム総合学 科の によるディジタル信号処理教育に ¾ もちろん,第 セメスター以降の卒業研修や大学院で の修士・博士研修のために多くの研究室において は日々利用されている. ついてはサイバネットシステム(株)により筆者 も掲載 らにインタビューしていただいた記事 されているので,ご参考にしていただければ幸い である. 参考文献 樋口龍雄,ディジタル信号処理, 年. 樋口龍雄,川又政征, 対応 ディジ タル信号処理,昭晃堂 年. プログラムダウンロード 0 /11222.3#+#( )0)3!,+4/1"'/ #5 1 講習会資料, 0 /11222.3#+#( )0)3!,+4/1"'/ #5 1 マニュアル( 大内版) 0 /11222.3#+#( )0)3!,+4/1"'/ #5 1 *+ ,-# 公式ウェブページ, 0 /112226$!)&61')7 2,)+ ,-#1 *+ ,-# のページ 0 /11222.3#+#( )0)3!,+4/1 "'/ #5 1)+ ,-#1 東北大学工学部情報知能システム総合学科 電気・通信・電子・情報工学学生実験 実 験指針, ディジタル信号処理, 年. 川又政征,阿部正英,ディジタル信号処理の 基礎教育における の利用8「実 感の沸く信号処理」で現象の意味を経験的 に学ぶ 8 0 /11222+9:#&$# +)4/1., ;,:1;(:&,&91 +,'#1($ #&-(#21 )0)3! 3,2,., , ,:#'0 .; サイバネットシステム(株)によるインタ ビュー記事, 年.
© Copyright 2024 Paperzz