知的障害者へのより良い意思決定支援に関する調査研究~サービス提供

知的障害者へのより良い
意思決定支援に関する調査研究
~サービス提供場面を中心に~
【研究メンバー】
代表 松崎 貴之 (本部事務局)
奥村 安徳 (きく工芸舎)
中田 純子 (八幡東工芸舎)
正野 佳代 (若松工芸舎)
三好 大介 (洞海工芸舎)
落合 章江 (八幡西障害者地域活動センター)
原
明世 (グループホーム・ケアホーム支援センター東部/ぱすてる東部)
郷良 文
(グループホーム・ケアホーム支援センター中部)
池田 辰美 (北九州ひまわりの里)
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目
次
はじめに
序論
1.研究の背景
2.研究の目的
3.研究内容
第一章 意思決定支援の枠組み(フレームワーク)
1.意思決定に関する知的障害の特性
2.どんな人にも「意思」があるという前提
3.自己決定は自立の根本である
4.自己決定は何より優先されるものではない
5.自己決定が制限される場合がある
6.意思決定支援には様々な場面がある
7.意思決定支援の枠組み(まとめ)
第二章 意思決定支援に関する実態調査
1.調査方法、内容
2.調査結果と分析
3.抽出された課題
第三章 結論と今後の課題(2年目に向けて)
1.研究目的の達成度
2.今後の課題
おわりに
参考文献
巻末資料
2
はじめに
平成 25 年 4 月に施行された「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための
法律(以下、障害者総合支援法)」において、「すべての事業者は利用者の意思決定支援に
努めなければならない」旨が記されている。その具体的な在り方については、今後 3 年を
目途に検討していくとして「附則」の中に明記されている。
サービス提供の現場において、私たちは様々な場面で利用者の「意思決定」に関わって
いる。今日は何を着ていくかを決める、選択食のメニューを決める、一日の過ごし方を決
める、外出活動や宿泊旅行の行き先を決める、当事者会の会長を決める、どのサービスを
利用するかを決める、就職先を決める、選挙で誰に投票するかを決める、どこで誰と暮ら
すかを決める…、「意思決定」には、日常的な場面から、非日常的な場面まで、実に様々な
状況がある。
これらのうち、非日常的な場面における意思決定支援については、成年後見制度や相談
支援といった形で制度化されているが、日常的な場面における意思決定支援については、
これまで家族や施設職員等、本人に身近な者たちに委ねられ、十分には検討されてこなか
ったのではないだろうか。しかし知的障害者にとっては、この日常生活における意思決定
支援こそが、主体的な人生を生きるために、最も重要である。
例えば、重度の知的障害があり、言葉での意思表示が難しい利用者に、選択食で A メニ
ューと B メニューから一つを選んでもらうとき、A と B の写真を 2 つ並べて説明し、利用
者が指差した方を「意思決定」として採用している事業所は多いだろう。しかし、それは
本当に利用者の意思を反映しているのかということに、確かな自信を持てる支援者はどれ
ほどいるだろうか。毎回毎回、同じ方を選択する利用者に、
「本当にこちらのメニューを食
べてもらい続けて良いのだろうか?」
「反対側も経験してもらった方が良いのではないか?」
などと、迷いながら支援している支援者が多いのではないだろうか。
また、軽度の知的障害者への支援において、言葉の上では意思の表明が可能であっても、
私たちから見て「望ましくない結果が予想される」選択であるとき、私たちは、利用者を
どのように支援すべきだろうか。
このように、様々な場面で、様々な利用者に対して日常的に行わなければならない「意
思決定支援」であるが、私たちが現場で行う意思決定支援とは、どのようなもので、どう
あるべきなのか。様々な障害のある利用者に、どのように支援していけばよいのか。また、
これが法律に盛り込まれることで、私たちの支援に与える影響とはいかなるものなのか。
このような課題に対して、明確な答えを出すことはすぐには難しいかもしれない。しか
し、これらはまさに私たちの支援の根幹であり、まずは自分たち自身が現場に軸足を置い
た研究をしていく必要があるのではないかと考え、この研究グループを立ち上げることと
なった。
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序論
1.研究の背景
①障害者権利条約がもたらしたパラダイムシフト
近代市民社会では、個人の自由が保障されることがその成立の要件となる。そこにはまず、
「“普通”の市民は理性的に物事を判断できる」という前提があり、その自由な契約に委
ねておけば世の中は安定するという「自由契約社会」の考え方がある。一方、社会には“例
外的”に判断能力に支障のある人(知的障害者等)が存在するが、この人たちは他の人か
ら騙されやすいし、彼らの行う契約によって世の中が混乱するので、その人の自由を制限
する(後見人を付ける)ことで彼らを社会から守る、または社会秩序を彼らから守るため
に、これまでの成年後見制度は形成されてきた。つまり、知的障害者のような判断能力に
支障のある人たちは、これまでは常に「保護の客体」であった。
この考え方に大きな変革をもたらしたのが、2006年に国連で採択された「障害者権利条約」
である。この条約は、障害のあるすべての人の権利を守り、その人らしさを大切にするこ
とを目指しており、「障害があってもなくても同じ大切な人間」と社会のすべての人がわ
かるようにすることが、その目的である。2013年4月18日現在、加盟国193ヶ国中155ヶ国が
署名し、76ヶ国が批准している。
障害者権利条約によって提言された考え方は「障害の社会モデル」と呼ばれるもので、障
害とは「機能障害のある人と態度及び環境に関する障壁との相互作用であって、機能障害
のある人が他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げるも
のから生ずる(川島=長瀬仮訳、2008年5月30日付)」として、障害を環境要因によって大
きく左右されるものとしている。これは身体的な障害だけに適用されるものではなく、人
の判断能力においても同様であり、その人の受けてきた教育や得られる情報、それまでの
社会経験等によって判断能力は大きな影響を受けるのである。
障害は社会環境によって大きく影響されるが、その社会環境は上記のような機能障害のな
い“普通”の市民を前提にして設計されている。判断能力に支障のある人がより良い判断
をするためにはより良い社会環境が必要だが、それは得られない社会となっているのであ
る。例えば知的障害のある人は、そもそも同じ教育を受ける機会も保障されていないし、
同じ職場で働く権利も保障されているとは言えない。到底、“普通”の人と同じように意
思決定をする土壌がないのに、「社会から守るため」という名目でその権利が制限されて
きたのである。
障害者権利条約では、この構造に明確に異を唱えている。判断能力に支障のある人の権
利を制限するのではなく、社会的支援を充実させることで判断能力を最大化するための支
援を重要視している。ここに、「成年後見制度」から「意思決定支援制度」へのパラダイ
ムシフトがある。この条約の中で、このことを保証しているのが第十二条「法律の前にひ
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としく認められる権利」である(川島=長瀬仮訳、同上)。
【障害者権利条約 第十二条 法律の前にひとしく認められる権利】
1.締約国は、障害者がすべての場所において法律の前に人として認められる権利を有す
ることを再確認する。
2.締約国は、障害者が生活のあらゆる側面において他の者と平等に法的能力を享有する
ことを認める。
3.締約国は、障害者がその法的能力の行使に当たって必要とする支援を利用することが
できるようにするための適当な措置をとる。
4.締約国は、法的能力の行使に関連するすべての措置において、濫用を防止するための
適当かつ効果的な保護を国際人権法に従って定めることを確保する。当該保護は、法的
能力の行使に関連する措置が、障害者の権利、意思及び選好を尊重すること、利益相反
を生じさせず、及び不当な影響を及ぼさないこと、障害者の状況に応じ、かつ、適合す
ること、可能な限り短い期間に適用すること並びに権限のある、独立の、かつ、公平な
当局又は司法機関による定期的な審査の対象とすることを確保するものとする。当該保
護は、当該措置が障害者の権利及び利益に及ぼす影響の程度に応じたものとする。
5.締約国は、この条の規定に従うことを条件として、障害者が財産を所有し、又は相続
し、自己の会計を管理し、及び銀行貸付け、抵当その他の形態の金融上の信用について
均等な機会を有することについての平等の権利を確保するためのすべての適当かつ効果
的な措置をとるものとし、障害者がその財産を恣意的に奪われないことを確保する。
つまり、この条約の締結国は、判断能力に支障がある人についても一律にその権利を制
限する(成年後見アプローチ)のではなく、彼らに平等な法的権利があることを認め、そ
の行使に必要な支援を最大限行い(意思決定支援アプローチ)、それでも法的行使を制限
する必要がある場合には、上記の
部のような限定的な措置(必要性の原則及び補充
制の原則)とすることが規定されているのである。これにより、障害のある人は保護の客
体から権利の主体へと大きくその権利性が高められることになった。
②障がい者制度改革によりクローズアップされた意思決定支援
日本では、平成 21 年から「障がい者制度改革」が進められてきたが、そのねらいは障害
者権利条約に批准するための国内法の整備にあった。障がい者制度改革推進会議は 24 年 7
月 23 日付で廃止されているが、この改革により、すでに 23 年に「障害者基本法」の改正、
24 年に「障害者総合支援法」の施行(障害者自立支援法の改正)を終え、25 年には「障害
者差別禁止法」を国会に提出すべく、大詰めの時期を迎えている。
今回の改革による一連の流れの中で、様々な関係法律が改正されたが、その中で、今回
の研究テーマである「意思決定支援」が次々と盛り込まれている(下記参照)。意思決定
支援が権利擁護という視点だけでなく、本人主体の支援を実現する前提であることが、国
レベルで認められてきている証拠である。したがって、我々支援者は、これら法律に明記
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された意思決定支援の具体的な内容や支援方法等を明らかにし、日々の支援の中に意思決
定支援のシステムを組み込むことが求められていることを強く自覚しなければならない。
【関係法律等における意思決定支援に関する規定等】
ⅰ)障害者基本法の一部を改正する法律(平成 23 年 8 月 5 日施行)
(相談等)
第二十三条 国及び地方公共団体は、障害者の意思決定の支援に配慮しつつ、障害者及び
その家族その他の関係者に対する相談業務、成年後見制度その他の障害者の権利利益の保
護等のための施策又は制度が、適切に行われ又は広く利用されるようにしなければならな
い。
ⅱ)障害者総合支援法の骨格に関する総合福祉部会の提言、P120(平成 23 年 8 月 30 日)
民事法との関連
【成年後見制度】
○ 現行の成年後見制度は、権利擁護という視点から本人の身上監護に重点を置いた運用が
望まれるが、その際重要なことは、改正された障害者基本法にも示された意思決定の支援
として機能することであり、本人の意思を無視した代理権行使は避けなければならない。
また、本人との利害相反の立場にない人の選任が望まれる。
○ 同制度については、その在り方を検討する一方、広く意思決定支援の仕組みを検討する
ことが必要である。
ⅲ)障害者総合支援法(平成 25 年 4 月 1 日施行)
(指定障害福祉サービス事業者及び指定障害者支援施設等の設置者の責務)
第 42 条
指定障害福祉サービス事業者及び指定障害者支援施設の設置者(以下「指定事業者等」と
いう。)は、障害者等が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、障害者等
の意思決定の支援に配慮するとともに、市町村、公共職業安定所その他の職業リハビリテ
ーションの措置を実施する機関、教育機関その他の関係機関との緊密な連携を図りつつ、
障害福祉サービスを当該障害者等の意向、適性、障害の特性その他の事情に応じ、常に障
害者等の立場に立って効果的に行うように努めなければならない。
ⅳ)障害者総合支援法 附則
(検討)
第三条
政府は、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人
格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向けて、障害者等の支援に係る施策を
段階的に講ずるため、この法律の施行後三年を目途として、第一条の規定による改正後の
障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第一条の二に規定する基本
理念を勘案し、常時介護を要する障害者等に対する支援、障害者等の移動の支援、障害者
の就労の支援その他の障害福祉サービスの在り方、障害支援区分の認定を含めた支給決定
の在り方、障害者の意思決定支援の在り方、障害福祉サービスの利用の観点からの成年後
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見制度の利用促進の在り方、手話通訳等を行う者の派遣その他の聴覚、言語機能、音声機
能その他の障害のため意思疎通を図ることに支障がある障害者等に対する支援の在り方、
精神障害者及び高齢の障害者に対する支援の在り方等について検討を加え、その結果に基
づいて、所要の措置を講ずるものとする。
ⅴ)児童福祉法
(第二十一条の五の十七)
指定障害児通所支援事業者及び指定医療機関の設置者(以下「指定障害児事業者等」とい
う。)は、障害児が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、障害児及びそ
の保護者の意思をできる限り尊重するとともに、行政機関、教育機関その他の関係機関と
の緊密な連携を図りつつ、障害児通所支援を当該障害児の意向、適性、障害の特性その他
の事情に応じ、常に障害児及びその保護者の立場に立つて効果的に行うように努めなけれ
ばならない。
ⅵ)知的障害者福祉法
(支援体制の整備等)
第十五条の三
市町村は、知的障害者の意思決定の支援に配慮しつつ、この章に規定する更生援護、障害
者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律の規定による自立支援給付及び
地域生活支援事業その他地域の実情に応じたきめ細かな福祉サービスが積極的に提供さ
れ、知的障害者が、心身の状況、その置かれている環境等に応じて、自立した日常生活及
び社会生活を営むために最も適切な支援が総合的に受けられるように、福祉サービスを提
供する者又はこれらに参画する者の活動の連携及び調整を図る等地域の実情に応じた体制
の整備に努めなければならない。
2.研究の目的
現場で行われている意思決定支援の実態を調査し、私たちの現場でより良い意思決定支
援を行うために必要な視点や工夫、課題等についてまとめ、ガイドラインとして開発する
ことを目指す。
3.研究内容(2 年間)
(1)1 年目
・意思決定支援の枠組み(フレームワーク)
・現場における意思決定支援の実態調査、課題抽出
(2)2 年目
・障害特性に応じた意思決定支援の情報収集
・現場の意思決定支援の「グッド・プラクティス」を収集、検証
・より良い意思決定支援のガイドラインを作成
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第一章
意思決定支援の枠組み(フレームワーク)
ここでは、意思決定支援を巡る文献や先行事例、研修会等を通して得た情報をもとに、
「意
思決定支援」とはどのようなものなのか、その枠組みを明確化していく。
1.意思決定に関する知的障害の特性
(社福)北九州市手をつなぐ育成会(以下、法人)が主たる支援対象としてきた知的障
害者は、意思決定が困難であると考えられてきた。それは、以下のような特性による。
①理解力が低い…情報を得ること、得た情報を理解することに困難性がある。
②認知・適応能力が弱い…「抽象的な概念が理解しにくいこと」、
「臨機応変な対応がで
きないこと」、「集中が持続しないこと」、
「学習に時間がかかること」等
③外見からはわかりにくい…困難さのポイント・程度が一人ひとり違う…周囲の理解が得
られにくく、誤解や支援の難しさにつながる。
④幼少期から意思決定の経験が少なく、自己信頼や意思表明の力が弱い人が多い。
⑤結果として自己主張しない、控えめな人が多く、他者から騙されやすい。
2.どんな人にも「意思」があるという前提
意思とは、
「心の中に思い浮かべる、何かをしようという考え。思い。
(大辞林)」という
意味がある。また、同じ読みだが「意志」には、
「物事をなすにあたっての積極的なこころ
ざし」という意味がある。両方とも「思い、考え」という意味を持っているので混同しが
ちだが、「意思」が思いをあらわす中立的な言葉であるのに対し、「意志」は、はっきりと
決定された考えを表す言葉である。すなわち、「意思」は、漠然とした思いをも含む概念で
ある。よって、まず確認しておくべきことは、どんなに障害の重い人でも「意思はある」
という前提である。
一方、
「意思決定」とは「ある目標を達成するために、複数の選択可能な代替的手段の中
から最適なものを選ぶこと。
(大辞林)
」であり、
「選択」という要素が加わる。よって、
「意
思決定支援」とは、誰でも心に浮かべる漠然とした「思い」や「考え」を形にし(表出化)、
本人が主体的に何かを選択していくことを支援するプロセスである。どんなに障害の重い
人でも意思決定はできる。それは程度の問題であり、周囲の配慮で花開くものである。ま
た、意思決定をする意識は、使えば使うほど強まり、成長していくもの(エンパワメント)
であることも、押さえておくべき前提である。
3.自己決定は自立の根本である
障害学において、
「自立」とは、①「自らの人生や生活の在り方を自らの責任において決
定し、選択して生きる行為」であり、②「自分の周りの環境を自分でコントロールできる
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こと」と定義している(立岩、『障害学への招待』、参考文献は巻末にまとめて掲載。以下
同じ)。ここで大切なことは、自立とは自分ですべてできることではなく、「自分で決定・
選択して生きる(=自己決定)こととしている点であり、この考えに立つならば、自己決
定こそが、その人の「自立」の根本を成す要素であるとされているのである。
なお、この研究では「自己決定」を「自分の生き方や生活について自由に決定すること」
と定義し、
「意思決定」はそのための選択的側面を強調した用語として使用していく。研究
員による議論の中でも、
「意思決定は支援できるが、自己決定は支援するという性質のもの
ではないのではないか」という結論に至った。しかしこの点については、今回の研究では
これ以上の検証を試みていないことを申し添える。
4.自己決定は何より優先されるものではない
前述の立岩は、自己決定は「何より優先すべきことではない」とも言っている。その理
由として、いちいち決定しないことの方が多くの場合「楽」であり、すべてが自分で決定
できるものばかりであれば、世界は「退屈」なものだとしている。また、経済学者の川越
(『経済学は障害学と対話できるか』)は、人が生活の多くの部分を自分自身で決定するこ
との不可能性に言及している。人は類似した経験などを通じて典型的な状況を把握してお
り、それを未知の状況に適用する能力があり、そうした典型的な状況の中だけでルーティ
ン的に考えればよいように認知が働くようになっている。もし人が、毎回おこりうる変則
事態にその都度自己決定しなければならないとすると、決定することが多すぎて何も意思
決定できなるくなるという。
このようにすべての人が曖昧で部分的な自己決定をして生きている中で、川越は、障害
者だけが、自己決定ができることが一人前の市民として認められる要件であるかのように
自己決定を要求されているとして注意を促している。このように考えていくと、自己決定
は何より優先されるべきものではないし、本人の言うことを何でも聞くということが正し
いわけでもないということを確認しておく必要がある。
5.自己決定が制限される場合もある
本人の利益のために、本人の決定ではないことを行う「パターナリズム(父親的温情主
義)」が行使されるときがある。それは、本人によって決定されたものが、必ずしも本人に
とって有益なことではないと言いうる場合に行使される。パターナリズムは、必ずしも悪
いこととは言い切れない場面があることは、現場で支援に当たっている者の実感であろう。
取り返しのつかない大きな失敗につながる選択をさせないことも、また意思決定支援では
重要な要素と言える。しかし、本人の意思決定を尊重する立場からは、できる限りパター
ナリズムを行使しないで支援できる方法を模索していくことが重要である。
一方、パターナリズムとは異なるが、支援者が本人の意思決定を支援していく際に用い
るコミュニケーション方法として、
「説得的コミュニケーション」と「リスクコミュニケー
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ション」という 2 つのアプローチがある。
「説得的コミュニケーション」は、あらかじめ用
意された結論に本人を導いていくように展開されるコミュニケーションであり、我々の支
援現場等でも頻繁にみられるものである。その動機がパターナリズムに基づくものもあれ
ば、時間がない、面倒くさいといった支援者側の都合によることもある。また、
「リスクコ
ミュニケーション」はその選択の結果予測されるリスクを説明した上で、本人の選択を引
き出していくアプローチであり、医者の患者へのインフォームド・コンセント等がこれに
あたる。リスクコミュニケーションもどちらか一方が専門的知識を独占している場合には
その選択性には疑問が残るし、専門家側の結果に対する認識が説明に影響を及ぼすであろ
うことは容易に想像できる。この 2 つのアプローチはどちらが良いということではなく、
意思決定支援の場面において、意識的・無意識的に使い分けられているものとして確認し
ておく必要がある。
6.意思決定支援には様々な場面がある
意思決定を考えるとき、
「どのサービスを利用するか決める」、
「車の売買契約を交わす」、
「家を売ってマンションを購入する」といった非日常的な場面での意思決定から、「昼食は
何を食べるか」、「どこに出かけようか」、「どんな服を着ようか」といった日常的な場面ま
で、様々なレベルの意思決定がある。意思決定支援を巡る議論では、権利擁護という視点
から成年後見制度に代表されるような非日常場面での支援が取り上げられることも多いが、
障害のある人が主体的な人生を送っていく上では、日常生活場面での意思決定の重要性が
十分に認識される必要がある。毎日の繰り返しの中で、自分のことを自分で決める経験を
積み上げることが自己信頼につながり、さらに意思決定するモチベーションを高めていく。
その循環の中でこそ、本人のエンパワメントが実現していくのである。
日常生活場面での意思決定支援に主に関わるのは、家庭生活においては親であり、施設
や事業所での生活場面では支援者である。今回の研究は、施設・事業所での意思決定支援
に焦点を置いている。
7.意思決定支援の枠組み(まとめ)
これまで述べた意思決定支援を巡る様々な考え方を踏まえ、サービス提供現場での意思
決定支援を考えるための枠組みを整理していく。
意思決定支援を構成する要素は大きく分けて、①意思決定の前提となる環境要因へのア
プローチと、②実際に意思決定を行う際の支援方法とに分けられる。
①は、これまでに述べてきた「障害の社会モデル」に基づく環境要因へのアプローチで
あり、本人の判断能力が最大限引き出されるように配慮する必要がある。また、特に知的
障害者の場合には、幼少からの意思決定経験の乏しさにも目を向ける必要がある。環境要
因へのアプローチとしては、ⅰ)本人の生育環境や障害認知、ⅱ)親や支援者等関係者の
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障害に対する意識・対応等、ⅲ)社会の障害に対する意識・対応等について、現状の整理
と改善への提案が必要と思われる。
また、②の実際に意思決定支援を行う際の支援方法については、ⅰ)わかりやすい情報
提供、ⅱ)意思表出支援、ⅲ)チームアプローチといった直接対応に関するスキル面に加
え、ⅳ)何でも言える信頼関係、ⅴ)失敗できる環境設定といった配慮面、そして、ⅵ)
結果のフィードバックによって、成功体験(表出した意思がわかってもらえた≠その通り
になった)や失敗体験(思い通りにはならなかったけど、自分で決めた)の積み重ねが必
要である。
これらの環境へのアプローチと本人への支援の 2 つの側面が相まって、総合的に提供さ
れることが重要だが、それでもなお意思決定が困難な場合には、他者による「代行決定」
がなされることとなる。これには英国の意思決定能力法等も参考にして、できる限り本人
の意向や感情に配慮した決定がなされる必要がある。そのポイントとしては、①本人のベ
スト・インタレストに沿った“本人らしい”決定(菅、
『障害者法学の視点からみた成年後
見制度』)②本人の希望に沿った決定(こっちの方がうれしそう等の読み取り)、③自由の
最大化(もっと自由な選択肢はないかの検討)、④統合の最大化(もっと社会に統合化され
た選択肢はないかの検討)
、⑤利益相反の禁止(本人と利益が相反する人は決定してはいけ
ない)
、⑥人間的扱い(全く意志が読み取れないように見える人でも、問いかけ等の人間的
な扱いをすることで、相手の発達を促す効果がある)といった基準に照らして代行決定を
することが求められる。
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意思決定支援のフレームワーク】
【図① 意思決定支援のフレーム
【意思決定支援の前提となる環境要因へのアプローチ】
意思決定支援の前提となる環境要因へのアプローチ】
社会の意識
本人の生育環
対応等
境・障害認知
本人の
エンパワメント
支援者の
親・家族への
支援
意識変革
【スキル面】
【配慮面】
面】
わかりやすい情報提供
何でも言える信頼関係
意思表出支援
失敗できる環境設定 等
チームアプローチ 等
意思はある
寄り添い
という前提
結果のフィードバック
成功体験
失敗体験 等
【実際に意思決定するときの支援方法】
【やむを得ず代行決定する場合に配慮すべき事項】
①本人のベスト・インタレストに沿った“本人らしい”決定
①本人のベスト・インタレストに沿った“本人らしい”決定、②本人の希望に沿った決定
②本人の希望に沿った決定
③自由の最大化
③自由の最大化、④統合の最大化、⑤利益相反の禁止、⑥人間的取扱い
⑥人間的取扱い
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第二章
意思決定支援に関する実態調査
ここまで、意思決定支援に関する枠組みを整理した。第二章では、法人のサービス提供
現場で行っている利用者への意思決定支援の現状と課題を明らかにするために、現場での
実態調査を実施した。
1.調査方法、内容
○実施時期:平成 24 年 11 月 20 日から平成 25 年 1 月 9 日
※一定期間、集中的に観察して記録する。
○方式:研究員による現場の支援状況の観察・書き取り記録
①利用者と支援員のやりとりの場面を、状況が分かるように観察・記録する。
②通常業務を行いながらの観察であるため、観察する場面の選定は研究員に一任した。
③観察した場面について、配慮事項等の補足説明を加える。
④集めた記録を総括し、考察する。
○実施施設・事業所:8 ヶ所
区分
施設・事業所
事例数
通所(5)
きく工芸舎
13 件
八幡東工芸舎
11 件
若松工芸舎
26 件
洞海工芸舎
14 件
八幡西障害者地域活動センター
7件
GHCH支援センター東部
10 件
GHCH支援センター中部
13 件
北九州ひまわりの里
12 件
地域(2)
入所(1)
集約した事例の合計
106 件
2.調査結果と考察
実態調査によって集まった事例に対し、各研究員が考察を行った。その視点は、①説得
的コミュニケーションやパターナリズムがどれほど見られたか、②適切な支援ができてい
るときと、できていないときはどのような違いがあり、特にどんなときにできていないの
か、③それらには何が原因にあると考えられるか、といった点を特に留意した。
※考察結果は、「巻末資料」としてまとめて掲載している。
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3.抽出された課題
次ページの【表①】は、今回の実態調査の結果に対する研究員の考察結果をまとめたも
のである。これらを受けて、抽出される課題を示す。
①説得的コミュニケーションやパターナリズムによる対応が非常に多い…46 件/106 件中
利用者の選択が必ずしも本人にとって良いものではないことが予測されるとき、あらか
じめ(職員にとって)望ましい結果が得られるような説明の仕方、結論への誘導的な対応
が多く見られた。特に、金銭や健康に関する事例では、時に本人の決定とは違う対応を、
職員が実施している実態も見られた。
②職員の意識不足
利用者の意思を尊重しなければならないという意識が低い。知識やスキルの問題の前に、
この意識がなければ意思決定支援のアプローチは行われないのではないか。また、その場
の雰囲気に流されるような主体性のない対応も、意識不足が背景にあると思われる。
③職員の知識・スキル不足
意思決定支援とはどのようなもので、何に配慮して行えばよいのか、どのような方法で
進めればよいのか、といった知識やスキルが不足しているという問題がある。
④障害特性に応じた対応の難しさ
職員がより良い意思決定に配慮しようと努力しても、障害特性によっては対応が難しい
場合がある。個別的な障害特性への配慮についても、意思決定支援の視点から改めて整理
する必要がある。
⑤職員の対応の不統一
複数の職員で関わるときに、それぞれの方向性がバラバラで利用者が混乱しているケー
スが見られる。また、職員の個人的価値観の押し付けを防止する意味でも、チームとして
の統一的な関わりが必要である。
⑥職員の時間・余裕のなさ
職員がいつも時間に追われて対応しているとき、意思決定支援を行う余裕がなくなり、
説得的コミュニケーションで結論を急ぐ傾向がある。利用者の意思を尊重しようとすれば、
その結論を待つ時間的余裕が必要であり、施設・事業所全体でそれを作り出す工夫や配慮
が必要である。
⑦選択肢等の準備不足
事前に何の準備もなく、ただ選択を迫られても、利用者は選ぶことは難しい。利用者の
理解度や障害特性に応じた選択肢の提示が重要であり、そのための準備、情報提示のため
の知識・スキルの習得が必要であろう。
⑧失敗できる環境設定が用意されていない
利用者の選択を尊重するためには、取り返しのつく範囲で失敗を許容する環境設定が必
要であるが、そのための時間的・精神的余裕を作り出すことが必要である。
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【表① 実態調査結果まとめ】
区分
施設・事業所
事例数
パターナリズム/
事例からの課題抽出
説得的対応
通
所
きく工芸舎
13 件
10 件
(5)
時間や余裕のなさ
職員の意識不足
知識・スキル不足
八幡東工芸舎
11 件
2件
障害に対する理解不足
支援実践するスキル不足
表面的な対応、
雰囲気に流される
準備不足
若松工芸舎
26 件
6件
障害特性の理解
知識・スキル不足
職員の対応の不統一
洞海工芸舎
14 件
7件
職員の個人的価値観の押し付け
職員の意識不足
職員のスキル不足
八幡西障害者
7件
1件
職員の意識不足
地域活動セン
意思を引き出す時間の不足
ター
個別の配慮不足
職員の支援方針の不統一
地
域
(2)
GHCH支援
10 件
6件
センター東部
選択肢や環境設定の不足
職員の意識不足
準備不足
当事者を交えて決める体制不足
金銭管理支援の難しさ
GHCH支援
13 件
8件
センター中部
失敗できる環境設定不足
職員の余裕のなさ
時間のなさ
判断基準の不明確さによる不安
職員の経験不足
入
(1)
所
北九州ひまわ
12 件
7件
りの里
選択肢の準備不足
職員の意識不足
時間のなさ
15
第三章
結論と今後の課題(2年目に向けて)
1.研究目的の達成度
この研究の目的は、
「現場で行われている意思決定支援の実態を調査し、私たちの現場で
より良い意思決定支援を行うために必要な視点や工夫、課題等についてまとめ、ガイドラ
インとして開発することを目指す」ことである。
1年目の研究成果としては、以下の 2 点にまとめられる。
①法人のサービス提供現場における意思決定支援の枠組み(フレームワーク)を整理する
ことができた。
②実態調査の結果から、現場では十分な意思決定支援が提供できていない実態とその要因
を明確にすることができた。
2.今後の展開
上記の成果を踏まえて、今後、2年目の研究では、障害特性に応じた意思決定支援の情
報収集をした上で、現場での意思決定支援に関する「グッド・プラクティス」事例を収集
し、良い実践に共通する要因は何なのかを検証していきたい。また、これらの成果を統合
させ、より良い意思決定支援を行うために必要な研修や、現場で実施すべきプログラム等
について「ガイドライン」にまとめていく。
16
おわりに
知的障害のある人はこれまで、意思決定ができない、または不十分だと思われ、親や支
援者等の周囲の人からの代行決定を繰り返されてきた。その結果、自己信頼が低くなり、
依存的な傾向を示す“知的障害者らしい人”が多くなる。これは、欧米の知的障害者の当
事者組織である「ピープルファースト」が“遅れを招く環境”として指摘してきたもので
あり、私たちが支援している本人たちも、一人ひとりがこのような環境に置かれてきたこ
とによる影響を受けているということを、私たちは改めて認識しなければならない。
本文の中では、意思決定支援を巡る様々な論点を整理し、フレームワークとしてまとめ
た。これまで、
「意思決定支援」といっても何をしたらよいのかわからなかった支援者にと
って、まず全体像として、このような枠組みを理解することが、支援のスタート地点とな
るのではないかと思う。これらの枠組みに沿った具体的な支援方法等については、2 年目の
研究課題として残されることとなるが、恐らく、その方法は数限りなく存在するのだと思
う。「~療法」や「~プログラム」としてすでに体系化されているものもあれば、感性のあ
る支援者が「コツ」のようなものとして感覚的に行っているやりとりの中にも、意思決定
支援のポイントは存在する。大事なのは、それらの手法を実施することで、何を得ようと
しているのか、その「目的」にある。それは、日々の支援の中で障害のある人により主体
的な選択をしてもらうことももちろんだが、その結果として、彼らが主体的な人生を歩む
ことができることに尽きるのではないか。この研究が、そのきっかけの一つにでもなれば、
幸甚である。
最後になりましたが、この研究は私たちだけでは、ここまで進めることはできませんで
した。実態調査にご協力いただいた施設・事業所の方々と利用者の皆様には、心から感謝
します。また、調査結果はできるだけ現場でのやりとりをそのままの形で残して記録して
います。中には支援者の真意を汲み取れていないような分析になっているものもあるので
はないかと思います。この場を借りてお詫びします。そして、研究に時間を割かれ、間接
的にご負担をおかけした施設・事業所の所長や同僚たちにもお礼申し上げます。最後に、
国の最新の情報を踏まえて、このようなレベルの高いテーマを提案してくださり、勉強の
機会を与えてくれた北原理事長に、深く感謝いたします。ありがとうございました。
17
【参考文献、論文等】
・『障害学への招待』
(石川准・長瀬修編著、明石書店、1999 年)
・『見て!聞いて!分かって!知的障害のある人の理解と支援とは スウェーデン発 人間
理解の全体的視点』
(グンネル・ヴィンルンド、スザンヌ・ローセンストレーム=ベンハ
ーゲン、明石書店、2009 年)
・
「障害(者)法学の視点からみた成年後見制度―公的サービスとしての「意思決定支援」
」
菅富美枝(法政大学)
・「経済学は障害学と対話できるか?」川越敏司(公立はこだて未来大学)
・「知的障害を持つ人の自己決定」古屋健・三谷嘉明(2004 名古屋女子大学研究紀要)
・「意思決定支援ってなに?」『手をつなぐ』2012 年 8 月号特集記事
・
「障害者総合支援法と障害者の意思決定支援のあり方」
『月刊福祉』2012 年 12 月号、北原
守(社会福祉法人全日本手をつなぐ育成会)
【参考にした研修会、資料等】
・第 14 回全国障碍者生活支援研究セミナー 意思決定と支援Ⅲ~実践からみた「意思決定
支援」~、2013 年 2 月 16 日~17 日、主催:特定非営利活動法人 全国障害者生活支援
研究会
・障がいのある人と一緒にくらす社会をつくる育成会フォーラム、2012 年 7 月 23 日、主催:
社会福祉法人全日本手をつなぐ育成会
18
<巻末資料 意思決定支援に関する実態調査結果>
【きく工芸舎】
意思決定支援の場面等
肉か魚かの選択食を選んでいただく際に、過去のご家族からの「肉の方が好んでいる」
という情報を基に、返答を受け取りにくい方に対して、本人に尋ねずに支援員が決め
①
ていた。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
時間に追われ、どのような形で提示したら本人の意思が引き出せるのかまで考えられ
ていない。
生活介護事業の作業活動開始時、本人が「この役割を担いたい」と支援員に話された。
しかし、支援員は、それを叶えることで、本人が固執したり、他者とトラブルに発展
したりする恐れがあると感じた。そこで、支援員は、「あなたはこの役割でお願いし
②
ます。」と伝えた。利用者は納得できていない様子であったが、しぶしぶ活動を開始
した。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
本人が納得して活動に取り組めるような配慮が必要だったのではないかと考えられ
る。
外出時、本人は事前アンケートでは行くと答えていたが、当日、「足が痛いので行か
ない」と言われた。しかし、支援員は、「せっかくの外出なので行きましょうよ」と
③
誘い外出に出かけた。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
職員配置等の問題により、その利用者を残留させるという選択肢をその支援員が持っ
ていなかったのではないかと思われる。
就労継続B型事業の外出の行き先を支援員が事前に考えた計画で実施することにな
り、利用者の意見を伝える場面がなかった。
④
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
利用者同士が話し合うことでもめたり、決まるまでに時間を要してしまったりするこ
とを避けるために行ったのであろうか?
運動を行う選択活動メニューのアンケートで、本人はしたくないと言われたが、ご家
族は運動不足解消のために絶対参加させてほしいという希望があった。そのため、参
⑤
加していただくこととなったが、本人は座り込んだりと積極的に参加していない。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
本人の意見とご家族の意見が必ずしも一致しない場合、どのように対応したら良いか
難しい場面がある。
⑥
選択食を選択する際、今までは本人に尋ねても返答できないと支援員側の思いこみ
19
で、ご家族に選択をお願いしていたが、本人が判断しやすいように設定を行い、実際
にアンケートを行ってみると答えることができた。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
支援員側の思いこみで本人の意思決定支援場面を減らしていたことに気付いた。本人
へのアプローチの仕方を考慮すれば意思を表現できることを学んだ。
生活介護事業で、生きがい活動グループで活動を行っている利用者の方に対して、活
動内容を固定してしまっていたが、環境設定を行い、サポートを行えば、実際は、作
⑦
業活動グループでも活動を行うことができた。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
支援員側の思いこみで本人の活動の幅を制限してしまっていたように思える。
もちつき会の際、糖尿病を持たれた方が出店の食べ物を予定より多く食べようとして
おり、食べすぎはよくないと支援員が制止した。しかし、本人は納得できず、「死ん
⑧
でもいい!」と言われた。その後何度も説明をし、しぶしぶ納得していただいた。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
本人に理解していただくことが難しい。支援員間の対応の統一が求められる。
生活介護事業で創作活動を行う。折り紙で作成した植物や動物を画用紙に張り付ける
役割を担っていただいた利用者の方が裏表や上下関係なく、自由に張り付けていた。
⑨
その様子をみた支援員が、
「裏だから表に向けてください」
「花はここにはりつけなき
ゃ」等と訂正していた。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
支援員が考える一般的な概念を押しつけているのではないかと感じた。
大掃除の際、何名かの利用者が「この役割を担いたい」と支援員に話された。しかし、
支援員は、全員の希望を聞くと、ある役割に人気が集中してしまうことや、他者との
関係性の配慮が必要な方がいるため、役割分担の話し合いを行わず、支援員が役割を
⑩
決めていた。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
利用者の方々が納得して活動に取り組めるような声かけや配慮、または、役割分担の
話し合いをどのような形で行えば可能なのか考慮することが必要だったのではない
かと感じる。
近隣の小学校との風船バレーボールの交流試合を行う際、支援員が、運動が得意な方
に声をかけ、メンバーを選出していた。
⑪
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
支援員が、上手かどうかで判断しているところがあり、利用者全員に選択の機会があ
るべきだと感じた。
⑫
外出に出かける際、失禁の恐れのある方に対して、オムツを履いていただくと安心だ
ということでオムツを履いていただいていた。
20
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
本人に選択の機会はなく、オムツを履くことで本人の力を奪ってしまう行為に繋がら
ないかと感じた。
ご家庭で選挙に行かれた際、係の方に、本人は意思確認が難しいのでご遠慮ください
と言われたとのことであった。
⑬
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
本人は、選挙権を持っているのにその権利を行使できないということに多大な違和感
を感じた。
【研究員による考察】
①~⑤、⑧~⑫に関しては、本人の意思よりも支援員の意思や判断が優先され、本人の
選択場面を決定しているので、パターナリズムであると言える。
⑥,⑦に関しては、支援員の意識を変えることで、本人の意思を引き出すことができた
と思われる。反対に、③、⑨、⑪、⑫に関しては、支援員が固定観念にとらわれていて、
意識に課題があるのではないかと考えられる。また、⑬に関しても、選挙管理の係の方の
意識の低さが原因だと考えられる。
①、②、④、⑤、⑧、⑩に関しては、選択肢の提示の仕方、環境設定の工夫等の知識・
スキルがあれば対応できたのではないかと考えられる。
総じて、支援員は、支援に対して余裕を持った対応ができておらず、時間のなさから本
人の意思決定の場面を奪ってしまっている事が多いように感じる。
【八幡東工芸舎】
意思決定支援の場面等
当事者会の中で、レクレーションの会の進行について話をする。Aさんから手が上が
り、「会に家族を呼んだらどうか」と提案がある。その場で回答はしていないが、後
日事業所長より皆さんに向けて回答をした。
①
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
今後、別の企画を予定していることと、日程的に時間がないことがあり、今回は家族
を呼ぶことは難しかった。しかし、当事者会で皆さんの意見を反映していくために、
いつ・どのように会を持てばよいか、を考えた計画立てになっていなかったことは否
めず、準備不足、意識不足と考えられる。
作業の休み時間に、BさんとCさんが、今度のレクレーションの中で(Bさんら 4 人
で作ったグループの)歌の発表をしたいと言う。職員は「いいですよ、しっかり練習
②
しておいてくださいね」と答えた。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
こういった意見は予測できており、事前に職員の間で対応について話し合うことが出
来ていたのですぐに回答することが出来た。
21
Dさんが、「ちょっと帰ります」と言いながら、走って帰ろうとする(以前から時間
を守ることが苦手なので個別プランでも取り組み中である)。職員が4時に終礼をし
て帰りましょう、と声をかけると諦めて「はい」と言って走って戻る。後で何か用事
③
があるかを尋ねるが、「ない」と答えた。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
人との接触が苦手な面がある方。終礼で皆が集まるのを避けたいのか、もしくはこの
時間に帰りたい理由が他にあるのか不明である。Dさんの行動の理由を探る取り組み
が不足していたと思われる。
Eさんに、昼からドライブに行くか作業をするかを選んでもらう。すぐにドライブを
指でさしたため、ドライブに参加する。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
④
週に一度ドライブに参加しているが、作業に大きなこだわりがあり、自分が納得でき
ないままドライブに行くと車内でも声を出しイライラしている様子がある為、毎回、
ご本人に選択をして頂き、好きな方を選べるようになれば良いと職員は考えている。
しかし E さんは、作業量に関わらず、ドライブには行かなければならないと思ってい
る様子で、現時点では「選ぶ」ことが出来ていないと感じる。
送迎車の車内で、助手席に座ったFさんが声を出しながら運転席の職員の腕を掴む
(本人が不快を表す行動)。その場では「運転中は危ないから駄目です」と伝え、信
⑤
号で止まったときに「嫌な気持ちになったんですね、どうしたの?」と声をかけた。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
Fさんがどうしたかったのか職員間で考えたが、はっきりとは分からなかった。ご家
庭との連絡・情報の共有も必要であった。
作業中から他者の文句をぶつぶつ言うなど調子の悪かったGさんが、「絶対に給食は
食べない」と話して更衣室にこもった。男性職員に一緒に食べようと声を掛けられる
と、泣きながら出てきて一緒に昼食をとった。その後はいつも通りの様子に戻った。
⑥
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
注意獲得的な面もあり、男性職員が声をかければ一緒に移動できると予測はできた
が、
「いつものこと」
「時間にゆとりがない」こともあり、ご本人の行動の理由を考え
る視点が欠けていた。
活動(コンサート鑑賞)の短信をHさんに配ったが、「いいのいいの」と言って受け
取らない。活動に拒否感を持っている表れであるが、職員は「前によく行っていた活
動だから、大丈夫だよ」と言って短信を渡す。しかし本人退舎後、短信は机に置かれ
⑦
たままで持って帰っていなかった。短信は翌日違う職員が再度渡すと持って帰る。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
H さんは、日頃から外出活動には乗り気ではないが、外に出てしまえば渋々ではある
が皆と参加できるため、(また代わりになるプログラムもないため)いつも参加して
22
もらっていた。
外食の際、疾病のために食事面で気をつけなければならないIさんが、飲み物にジュ
ースを選びたいだろうとは思ったが、職員が、「豪華な食事が出ますから、体のこと
を考えて、今回はお茶にしませんか?」と問い、結果、ウーロン茶を選んでもらった。
⑧
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
疾病のためにどういった面で配慮が必要かを、職員が判断していた。Iさんには「職
員からウーロン茶にさせられた」としか伝わっていないのではないか。
Eさんに本日の予定を説明する。作業が非常に忙しく通常の作業進行が出来ないた
め、本人のこだわっている X 作業からではなくY作業を最初に行い、10:40 からX
作業をするという流れを説明すると、(不快を表す)声を出しながらY作業をする。
しかし作業をしてしばらく経っても声が止まず、X作業がしたい様子。職員がもう少
し様子をみることにすると、次第に声がやみ、時間までY作業を行った。
⑨
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
本当はX作業がしたかったので、辛かった様子。X作業をする時間や流れをEさんに
分かりやすく説明したいと、朝、その日の予定を伝えたり、すぐ使わない部材は見え
ないようにしたり職員で工夫しているが、上手くいく時といかない時があり、今回は
「ご本人に我慢させただけ」という結果に終わった。まだEさんへの情報提供の仕方
が確立できていないと感じる。
X作業をしたい、という思いのあるKさんだが、以前その作業で怪我をしたことがあ
り、安全面で不安がある。そこで職員が作業の幅を広げることも必要ではないかと提
⑩
案し、別の作業をしてもらった。Kさんは時々、つぶやくように「X作業…」と言う
ことがある。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
職員の考えが先行しており、ご本人が納得できていない部分が見られる。
Jさんが、作業をしたくないと言って机の上に寝ている。理由を尋ねると体操がした
いとのこと。体操は金曜日午後(作業を頑張って、金曜に体操をすること)だと確認
した上で、「今日は作業を頑張ろう、作業室で待っていますよ」と職員が声をかけて
⑪
去る。10 分後に本人が作業室にやってきたため賞賛する。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
肉体的な疲れやストレスがたまっていることも手伝って、最近このような行動が頻発
している。注意獲得行動でもあるため、その場では行動自体に触れず1人にした。
【研究員による考察】
11 の事例の背景には、複数の理由が考えられる。ご本人の意思を知る為の手掛かりをつ
かめておらず、障害に対する理解・支援実践する力(スキル)に課題があると考えられる
もの(事例 3、4、9)や、ご本人の意思を中心としないパターナリズムが見られるもの(事
例 8、10)もある。また、それぞれの個別プランの視点を活かせず、その場の言葉や行動
23
に左右されている場面もみられる(事例 6)。その他、活動等の実施について、熟慮が必
要な事例(1、7)もあり、これは職員の意識による側面が大きいと思われる。
【若松工芸舎】
意思決定支援の場面等
選択メニューを 2 つの選択肢より選ぶ。
とんかつもしくはビビンバ丼がそれぞれどのような味なのか、辛いもの、お肉が入っ
ているなど説明する。
①
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
食べた経験があるものであったため、だいたい味覚の予想ができたのではないかと推
測される。しかし、それぞれの食材、調味料など具体的に挙げ、写真と合わせてより
想像できやすいように配慮する。
ドライブに行くことが好きな利用者から、ジェスチャーで本日の活動の確認がある。
本日はドライブはなく、明日あることを言葉とジェスチャーを交え説明する。
②
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
その利用者特有のジャスチャーで活動、食事、入浴などの確認を行う。声掛けでの確
認も可能であるが、本人の動きと合わせて、同様のジェスチャーを行うことで奏功し
ている。
踊りの活動で近隣の市民センターへ行く。活動の合間の休憩時、水に拘りのある利用
者が飲み物(コーヒー)を薄めたいとジャスチャーで訴える。しかし、決まり事でコ
ーヒーを飲む際は一杯だけであること、市民センターには何のために来ているのかを
再三説明する。なかなか応じようとはせず、何度も職員に訴えるが、渋々納得する。
③
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
この利用者さんは水の拘りが強く、午前休憩(10:30~10:40)・午後(14:00~14:
10)ではお茶湯呑1杯、コーヒー(火・木午後休憩のみ)コーヒーカップ 1 杯、昼食
(12:00~13:00)はお茶湯呑 4 杯を決めている。以前に比べて拘りは軽減したもの
の、どこでまた拘りが強くなるかわからないため、様子見が必要。特に連休明けや、
職員によって訴えの頻度が変わってくる。
終礼時に本日と明日の活動確認を実施している。その際、今日何があったのか、活動
に参加した人に簡単に説明してもらう。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
④
年度当初は発言できる人に偏った傾向にあったが、発語の有無に関わらず職員が先導
して確認を実施。障害特性として思い返す、思い起こすことが苦手なため、よい効果
になっている様子で、返事やジェスチャー、簡単な説明まで各自できるようになりつ
つある。今後もこの支援を継続して行い、主体性を少しずつ持って活動に参加できる
ようにしていく。
24
エアロビの活動で近隣のスタジオに出向く。講師の方が様々な活動を考え提供してく
ださる。しかし、すべての活動に参加できず、スタジオの片隅に座り込んだり、周回
したり、立ちすくんだりしている。そのため、本人が参加しやすいものには声掛けを
実施し、表情や発言を確認する。「いや」と発言する利用者は声の強弱によって、参
加の有無の確認ができるため、何度か声掛けを実施。最初は自分のリズムで参加でき
ていたが、疲れたのか、参加したくない活動であったのか、立ちすくんでしまう。そ
のため、それ以上声掛けはせず、静観する。
⑤
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
エアロビの活動は月に 2 つのコースに分かれて実施。今日のコースは行動が比較的ゆ
っくりなペースの方が参加している。活動内容によって参加できるのかどうか確認。
また、座り込んでいる利用者は活動中に流れている音楽を楽しんだり、周回している
利用者は自分の好きな活動のときだけ声掛けし、参加するなど本人の意思に任せてい
る。立ちすくむ利用者に関しても、朝のバイタル状況次第で活動に参加できるのかど
うか確認。その他、発語がない利用者も参加したくない場合、工芸舎から出ることを
嫌がるが、この活動に関しては皆参加したい活動である様子。
ショッピングセンターで余暇活動を行う。昼食の際、ハンバーグが食べたいとの訴え
があったため、洋食店へ入店。メニュー表を見ながら、どのハンバーグにするか選択。
食べ終わった後、他者がケーキを食べていたこと、テーブル上にあったケーキセット
メニューがあったこと等があり、本人より「チョコレートケーキ、チョコレートケー
⑥
キ」と訴え、一緒に店員へ頼む。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
発語は二語文であるが、自分の意思をはっきり言葉にできる。メニュー表の写真を見
比べて、指さしのジェスチャーと文字を読むことができる。今後も余暇活動時には声
掛け、写真など視覚的ツールを使用し、支援に繋げる。
ショッピングセンターでの買い物中、100 円均一のお店に立ち寄る。お小遣いが 200
円ほどしか残っていなかったため、本人に「お金が少ししかないから、あまり買い物
はできないよ」と声掛けを実施。散策中に気になるものがあった様子であったが、
「お
⑦
金がない、お金がない」と言い少し悲しそうであった。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
「買い物=品物+お金」という流れの概念が理解できていると思われた。しかし、一
品買えることまではわからず。お金の概念を知るまでの理解力は難しいように思われ
た。
ショッピングセンターでの買い物中、自動販売機でジュースを購入。自分の好きなジ
⑧
ュースを各自押す。中には、購入したアイスは半分程食べていたが、他の利用者がコ
ーヒーなどを買っているのを見て、もういらないと職員へ渡し、自分もコーヒーが飲
みたいと訴えがあった。
25
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
アイスを食べていたにも関わらず、他の利用者の様子を見て、違う訴えをしていた利
用者が2名ほどいた。お小遣いの状況次第で購入が可能かどうか本人に確認する場合
もあるが、食べたいと訴えたものはどれも買ってもらえると理解している様子。
選択メニューを 2 つの選択肢より選ぶ。
鶏肉の治部煮もしくは豚肉と白葱の炒め物がそれぞれどのような味なのかなど説明
する。二つのメニューを左右交互から読み、どのように選択するか確認する。
⑨
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
日頃鶏肉、豚肉ともに食べるものの、メニューが味覚の予想ができないのではないか
と推測された。そのため、それぞれの食材、調味料など具体的に挙げ、写真と合わせ
てより想像できやすいように配慮する。
明日の外出確認を実施。参加者、行き先などの確認を行う。参加者には名前を呼び、
返事をしてもらい、自分が明日外出に行くことを認識してもらう。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
⑩
毎回活動前に予め活動室内に、外出先、昼食メニューなどを文字、写真、イラストな
どを使って提示し、利用者がわかりやすいよう配慮している。そうすることによって、
自分が参加する日、行き先、メニューなどだいたい把握できているのではないかと推
測される。
忘年会のメニュー決め(ケーキ 4 種類、ジュース 5 種類)をする。表にはそれぞれ品
名、イラストを明示。その表を見てもらいながら、読み上げる。そうすると時間は要
したものの、自分で選び、名前を記入。
⑪
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
理解しやすいように、品名とイラスト(ほぼ実物と同じようなものを選択)を等間隔
にあけ、まず上から読み上げる。一旦顔色を伺ったが、特に反応が見られなかったた
め、今度は下から読み上げる。そうしてもなかなかどれにしようか選択できず。5~
10 分程時間をかけたことでやっと選択でき、苗字のみ記載。
写真活動でショッピングセンターへ行く。クリスマスツリーを中心に自分の好きなタ
イミング、アングルを撮る。1 時間半ほどの活動時に 3 枚ほどの写真しか撮れないも
のの、光の入り具合などを勘案してか、シャッターを押すタイミングを見計らってい
た。
⑫
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
更衣、トイレにはかなりの時間を要する方で時間の拘りがある。しかし、自分の好き
な活動である写真の時は、更衣、トイレも早く済ませ、活動室内の所定の場所に座っ
ている。カメラを押すタイミング、アングルなどは最初から支援員は介入せず。デジ
タルカメラの画面に映っているもの(自分の顔が反射していることも楽しんでいる様
子)を自分の好きな時に写している。毎回表情もよく活動に参加している。
26
自主製品を実施。他の利用者がぬり絵をしていたため、どちらをしたいか確認したと
ころ、ぬり絵をしたいと言う。そのため、自主製品の用意したものを片づける。
⑬
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
自主製品の進捗状況では作成してほしかったが、他利用者の状況を確認し、本人の意
向に沿う。
選択メニューを 2 つの選択肢より選ぶ。
魚の野菜あんかけもしくは麻婆豆腐がそれぞれどのような味なのか説明。魚を選択
⑭
し、自分の名前を記入する。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
自分が何を食べたいのか、写真を見て選択。他の利用者は自分の名前が記載されてい
る右隣に「○」を記入するが、本人は毎回平仮名で自分の名前を記入。
活動でぬり絵を実施。4 冊のぬり絵の中から自分がしたいものを選択。
⑮
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
自分のぬりたい絵を選んでもらい、コピーする。
陶芸の活動に参加。小物入れを作るが、自分の好きなように成形してよいと言われた
ため、ハートマークを作る。どのような大きさにするのか、支援員が声掛けをしなが
らまた他の利用者と見比べながら行う。
⑯
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
今年度より陶芸の活動に参加。最初は自分の好きなようにしてよいということがわか
らず、涙ぐむこともあった。しかし、自分の好きなもの、色がどのようなものなのか、
具体例を挙げながらわかりやすく説明すると、少しずつ自分の好きなように取り組む
ことができるようになってきた。
ドライブに行くことが好きな利用者から、ジェスチャーで本日の活動の確認がある。
本日はドライブはなく、明日あることを言葉とジェスチャーを交え説明する。
⑰
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
その利用者特有のジャスチャーで活動、食事、入浴などの確認を行う。声掛けでの確
認も可能であるが、本人の動きと合わせて、同様のジェスチャーを行うことで奏功し
ている。
19 日の午後にある買い物体験に向けて、チラシを用いてどれを購入したいか確認。
子供用の黄色のダウンジャケットがほしいと訴えがあり、明日はそれを着てみて、よ
ければ購入しましょうと話をする。
⑱
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
チラシを見て、子供用のダウンジャケットを選択したが、本人の体型ではサイズがな
いように思われた。しかし、本人には否定的な発言はせず、本人の意向に沿い、明日
試着してみてどのように感じるのか確認したい。
⑲
19 日の午後にある買い物体験に向けて、チラシを用いてどれを購入したいか確認。
27
ヒートテックが欲しいという。また自分のサイズは M、欲しい色はピンクとのこと。
明日実物を確認してみて購入しましょうと話をする。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
チラシを見て、ヒートテックを選択。自分のサイズが M サイズであるとのことである
が、本人の体型を考えると S サイズではないかと思われる。しかし否定的な発言はせ
ず、本人の意向に沿い、明日 S サイズ、M サイズをそれぞれ確認してみて本人がどの
ように感じるのか確認したい。
19 日の午後にある買い物体験に向けて、チラシを用いてどれを購入したいか確認。
ハンカチが欲しいという。明日ハンカチがあればそれを買い、もしなければ小物を買
ってみましょうと話をする。
⑳
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
チラシにはないハンカチを購入したいという。本人は衣類はすべて母、義理姉が購入
してくれるため、どのようなものを買ったらよいのかわからないのではないかと思わ
れる。明日ハンカチを主に考え、もしそれがなければ、小物中心に購入したいと思う。
12 月 28 日にある忘年会に向けて行事委員会(4 名)が集合。会の進行や購入担当者、
㉑
購入品目などホワイトボードを使い、確認。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
職員はできるだけ後方支援に回り、何かわからない時だけ声掛け(提案程度)実施。
活動で絵を書く利用者がいるが、本人は裏紙に絵を書くことに拘っている。活動室に
㉒
保管している裏紙が切れてしまったため、コピー紙を手渡したが嫌がる。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
自閉症の特性である感覚性過敏が顕著な利用者であり、衣類や寝具など拘りがある。
買い物体験のため、衣料品店へ行く。昨日決めた子供用の黄色のダウンジャケットを
試着する。しかし二の腕が入らず、断念。大人用の同型があったが、お金が足りず。
ダウンジャケットのように上着になるようなものを探し、色を選択。紫を中心にした
デザインを自ら選ぶ。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
㉓
子供用の黄色のダウンジャケットを購入したいという目標で来ていたため、まず自分
で入りそうなサイズを選択。二の腕が入らず断念。次に子供用の一番大きなサイズを
試着。鏡を使ってどうであるのか確認してもらうが、二の腕がきついという。そのた
め、本人にはこのダウンジャケットは着ることができないことを体得してもらう。時
間は要するものの、自分で経験、体験することで理解したほうが主体性が育まれるた
め、このような支援は継続して行いたい。
買い物体験のため、衣料品店へ行く。昨日決めたヒートテックを確認。どのデザイン
㉔
であったのか、サイズはどれが合うかどうか確認。様々な色があったが、昨日決めた
ピンクの他にワインレッドの色を選択し、購入する。
28
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
ヒートテックを選択して、サイズ、デザインなどもすべて確認していたが、自分の想
像していたサイズ(M サイズ)を支援員が肩にあて、鏡で確認してもらうとやはり自
分には大きいと感じた様子。そのため、S サイズを買ったほうがよいのではと助言す
る。その後、色に関してはピンクの他に様々な色があると、本人に指さし確認する。
本人の視線に留意し、目線が一時止まっているものを手に取り本人に渡すと、これが
欲しかったと笑顔がこぼれた。日ごろから口数の少ない利用者であるため、発言以外
にも十分配慮する必要がある。
買い物体験のため、ユニクロへ行く。昨日決めたヒートテックを確認。どのデザイン
であったのか、サイズはどれが合うかどうか確認。様々な色があったが、昨日決めた
ピンクの他にワインレッドの色を選択し、購入する。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
ヒートテックを選択して、サイズ、デザインなどもすべて確認していたが、自分の想
㉕
像していたサイズ(M サイズ)を支援員が肩にあて、鏡で確認してもらうとやはり自
分には大きいと感じた様子。そのため、S サイズを買ったほうがよいのではと助言す
る。その後、色に関してはピンクの他に様々な色があると、本人に指さし確認する。
本人の視線に留意し、目線が一時止まっているものを手に取り本人に渡すと、これが
欲しかったと笑顔がこぼれた。日ごろから口数の少ない利用者であるため、発言以外
にも十分配慮する必要がある。
買い物体験のため、衣料品店へ行く。昨日決めたハンカチが結局なく、小物を買って
みないかどうか確認すると、「お母さんに怒られるから」と言い、何も購入せず。本
人には、次回買い物に行くときにはハンカチを買いましょうと話をする。
㉖
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
ハンカチがなかったため、何も購入せず。しかし今回は体験であったため、次回に繋
げようと声掛けを行ったことで、本人の意欲は低下せずに済んだのではないかと思わ
れる。今後も継続して様々な経験、体験を積んでいき、より主体性も持ってもらいた
い。
【研究員による考察】
事例を通して感じたことは、まず利用者に対して常日頃から、説得的コミュニケーショ
ンを多用していることであった。特に事例⑦については、所持金の金額を本人に声掛けし
たことによって、実際購入できる品物であったにも関わらず、お金の概念がないことによ
って購入できなかったことに繋がってしまった。支援者側の意図していたものではなかっ
たが、言葉の選択や声掛けのタイミングに注意する必要があったことを痛感した。
その他に利用者が言わんとしていること、行動を起こそうとしていることを支援者側が
「待つ」ということが重要であることを再確認した。事例②、④~⑥、⑧、⑩~⑬、⑮~
⑰において、支援者は時間の許す限り待ち、様々な経験を通して成功体験、失敗体験を積
29
み重ねていく支援を実施した。特に⑱~⑳、㉔~㉖に関しては、利用者が事前準備から主
体的に取り組めるよう支援を行った。利用者が衣料品店で選択したものが着られるサイズ
でない場合、自分が買いたいと思うものがない場合にどのように考えるのか、言動を静観
し、もし失敗しても否定することなく、次に繋がるような声掛けを実施したことによって、
意欲向上、自信に繋がった。それらの経験によって、事業所内での他の活動などにも良い
影響を与え、自発的な発言、行動に繋がっていることから、今後も継続していきたいと思
っている。
以上、調査期間中に日頃の支援のあり方を普段より注意深く観察したことによって、職
員のスキルや知識の向上を図るとともに、事業所内での統一した支援方法の取り組みがよ
り一層必要であると思われた。
【洞海工芸舎】
意思決定支援の場面等
施設外就労のお茶持参について、何本、現場に持って行けばよいか。利用者からの質
問。
①
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
施設外就労先の冷蔵庫にお茶を保管させてもらっているため、残り何本になったら施
設から持ち出すなどの利用者との確認が必要か。
全プロ行事準備 ①大掃除窓ふき依頼 ②パイプイス借用同行依頼
②
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
① は、やり方についてもわかりやすい説明を要した。
全プロ行事本番 ①当事者会挨拶の依頼 ②招待客以外の参加者への対応について ③
配膳、下膳の依頼
③
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
①では、対象者の理解力に応じ、ふりがなをふったメモを渡した。③では、自主的に
動くことが難しいと思ったため、事前に対象者をピックアップし、伝えた。
広報紙写真掲載の確認
④
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
予め了解のうえで執筆しているが、念のため対象者に確認している。
旅行写真の購入について、利用者より、どの写真を購入すべきかの相談。
⑤
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
まずは自分の映っている写真を探してみるよう促した。その後、職員によって確認、
必要に応じ助言を行った。
個別中間面談実施。内容の振り返りを利用者と実施(この内容で間違いないか?)
⑥
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
ある程度、理解力のある利用者のため、書面をもとに説明した。
30
⑦
選択食の記入
普段と異なる作業の提示
⑧
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
利用者の欠席により、作業を別のメンバーで埋めてもらうつもりでいたが、本人が固
辞したため、それ以上はプッシュしなかった。
⑨
施設外就労での作業終了の報告
掃除時間トイレットペーパーの補充について利用者より報告
⑩
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
備品(トイレットペーパー)の補充は職員に声をかけてから行っている。必要個数を
併せて報告した後、職員より倉庫から補充するよう伝えた。
朝礼の進行についての依頼
⑪
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
事業によっては、利用者自身で朝・終礼を進行している。この日は進行役(日替わり)
の利用者が欠席であったため、他の利用者に依頼した。
当日の出欠に関する利用者本人からの電話対応
⑫
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
欠席(当欠)するとの利用者本人からの電話。母に取り次ぐよう伝えるも、固辞した
ため、時間を置いて職員から家庭へ電話した。
作業中の利用者からの体調不良の訴え「どうしたらいいですか?」
⑬
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
まず自分は、どうしたいと思っているかを確認した。可能な限り作業を促すも、本人
の意思が固く、早退となった。
⑭
施設外就労における作業朝礼の進行依頼
【研究員による考察】
2012 年 12/5~12/21 まで実施した、意思決定支援に関する状況観察については、支援者
の説得的コミュニケーションが利用者に与える影響の大きさが垣間見えた。具体的に(以
下、事例番号に対応)、②、③、④、⑥、⑧、⑪、⑭に関しては、説得的コミュニケーショ
ンが強いと感じた。その他の事例との違いは、支援員から働きかけたか否かである。体験
を通して感じたことであるが、支援員からの働きかけによる意思決定支援には支援員個人
の価値基準や“思い”が大なり小なり加わるため、独善的に陥りやすいと思った。すなわ
ち、“どんなときにできていないか”という問いに対しても同様(上記番号)と考える。
では、その原因は何か。理由は複合的であるが、私は支援員の意識とスキルが最大の理
由と考える。私が今回収集した 14 の事例について改めて目を通してみたが、どの事例も支
援員が適切に対応すれば、最善(意思決定支援に正解はないと考えるため、最善という語
句を用いる)の意思決定へと繋げることができたのではないかと思う。では、上記を踏ま
え、今後どのようにすればよいか。
31
利用者支援を行う中で、日常は意思決定支援の連続である。そのことを認識し、支援員
として、常に高い意識を持ちつつ、日々の業務に臨まなければならない。障害者総合支援
法を受け、そのような機運が高まることを望む。一方、スキルに関しては、経験によると
ころも大きい。組織として、若手職員に対する OJT を十二分に活用し、利用者に保障され
るべき意思決定とは何か、身をもって知ることが重要であると考える。
【八幡西障害者地域活動センター】
意思決定支援の場面等
施設行事の会議中、役割決めをする時。全体への説明後、個別に詳しく役割の説明を
①
する。それにより、利用者本人が挙手をし役割を選ぶ事が出来る。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
個別に分かりやすく情報を伝える。
施設行事に向けたミーティング中。ゲーム内容を考える時、発言をしやすい利用者だ
けが話し合いに参加し、その他の人は聞いているだけや寝ている状況。
②
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
スタッフは全体に話しが伝わるように考慮してミーティングを進めているのか疑問
がある。
施設行事に向けたミーティング中。出し物(ゲーム)の司会決め。以前、立候補して
いた利用者が少し遠慮気味にしているのに対し、「もう決まり!」と言い、スタッフ
③
が押し切る。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
利用者の話をもう少し聞く時間をとることはできなかったのか。
次回活動日に見るDVDを借りにレンタルショップに行く。利用者に好きなのを選ぶ
よう伝え、利用者の後をついて歩く。何回も棚を行き来した結果、アニメ類で立ち止
まることが多い。利用者が好きなゲームのDVDがある為、「あ、これ好きなのです
よね」など声をかけると、少し笑顔が出る。その後もそこから動かないが、自ら手を
出して選ぼうとはしない。10 巻ほどまでのシリーズと映画版があった為「映画版も
あるんですね」と声をかけると手を伸ばす。2 本あった為、「これにしますか?」と
④
言うと、1 つを選び手に取る。以上の行動に 30 分ほど時間がかかる。
その後、粉末の飲み物を買う為、どのお店に行きたいか尋ねるも返事が無い。家庭で
行く店はと尋ねると、声を出すが職員が聞き取れず、再度聞き直すも答えない。道案
内を頼めるか尋ねると、「うん」と頷いたため本人の道案内でミスターマックスに向
かう。飲み物コーナーを探し、本人の好きなものを買える事を伝えると、5 分ほどし
てコーヒーを手に取る。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
マンツーマンの対応の為、時間に余裕を持って過ごすことが出来た。本人の考える時
32
間も充分に取ることが出来たが、本人が声に出して選択したものを言うことはできな
かった。
茶話会がある事を知った利用者が「行きたい(参加したい)」と言うからとスタッフ
Aが参加をさせようとしているところを、スタッフBが体重が増加しているため行か
せたくないこと、本日散歩をしていないことから、再度本人に「参加したい?」と尋
ねると、本人は「行きたい」と答える。ウォーキングに行くのに通りかかったスタッ
フCがウォーキングに行く事を提案し、本人も「行く」と答えた為ウォーキングに取
⑤
り組む。その途中に何度も茶話会についての質問が本人からあった為、ウォーキング
終了後、スタッフBに相談し、本人に再度、茶話会の参加について質問。
「行きたい」
とのことだった為参加する。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
本人の参加したい・したくないと言う意思がはっきりしていても、スタッフや家族が
体重増加を気にしている利用者には、物を食べる活動にあまり参加してほしくないと
思い、その方向で支援している。
⑥
13:00 からの活動で「何をしますか?」と尋ねる。「作業をしましょうか」と返事が
あった為、作業活動に取り組む。
面談で来月の予定を立てる時に、お菓子作りをしたいと希望が挙がった為、レシピ本
を見ながら本人がしたいと言う 2 つを候補に挙げる。そのうち、簡単にできるほうを
⑦
スタッフが勧めてレシピを決める。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
選ぶところまでは本人だが、当日の作る手間などを考え最終的にスタッフがやりやす
い方を勧めている。
【研究員による考察】
①についてはスタッフが意識して個々の利用者に配慮をし、個別に説明する時間をとっ
ている。④、⑥も同様に意識があると思われる。また、本人が意思決定をするまでにかか
る時間を担保することができた。
反対に②、③については、スタッフが利用者の意思決定を支援する意識があるのか疑問
がある。ミーティングの内容についていけない利用者に対しては、個別の配慮をする必要
があったのではないかと思われる。
⑤については、スタッフ間で利用者に対する支援の方向性が一致しておらず、利用者へ
の対応が混乱している事がうかがえる。利用者の「茶話会に参加したい」という意思とは
裏腹に、家族やスタッフの思いから活動が制約されそうになっている。
⑥については、途中までは利用者の意思を尊重しているが、最後の選択ではスタッフが
活動しやすい方を勧める説得的コミュニケーションを行っている。
利用者の意思決定とは、スタッフが利用者らが意思決定をするという意識があるかどう
か、と言うことが大きく影響していると思われる。併せて、利用者が意思決定するだけの
33
時間を作る必要がある。また、これらの支援はスタッフ同士の支援の方向性が一致してい
ることが前提であるのではないか。
【GHCH支援センター東部】
意思決定支援の場面等
日曜日、ホーム利用者が外出すると電話で知らせてきた。帰宅予定時間を尋ねると、
午後 10:00 になるという。世話人が帰る午後 8:00 までに帰宅するように話すが、
「できません」と答えるため、10:00 は他の利用者も寝ている時間で、迷惑になる
ため帰宅時間を早めるように説明する。本人が午後 9:00 に帰宅するというため、気
①
をつけて帰宅するように話をした。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
3年生活した通勤寮からグループホームへ移行した時期の場面。職員とのコミュニケ
ーションや関係性が不十分で、本人もホームでの過ごした方に戸惑っている時期であ
った。
受給中のサービスの有効期限が近付き更新を行う際、通所系の事業所と面談を通して
今後の利用を選択する場面があった
②
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
面談という空間で本人が緊張していた。説明を正しく理解されておらず、選択するた
めの判断材料が少なかった。結果的に現状維持となり、本人が選択できなかった。
血糖値が高く、投薬治療を受けている女性利用者。毎日の生活に運動を取り入れて、
病気の悪化を防ぐことにした。職員側から利用者に送迎利用をやめ、徒歩で工芸舎に
通うことを提案すると、本人もがんばると納得して決めた。
その 2 週間後、本人が徒歩で通うのはきつい。送迎を利用したい。と泣きながら職員
に訴えてきた。徒歩をやめると病気の悪化にもつながることを説明したが、本人は入
③
院になってもよいと頑なに徒歩を拒否したため、すぐに送迎を再開した。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
健康維持のために、運動を取り入れることは必要だが、利用者の障害特性やこれまで
の生活状況を考えると送迎を徒歩にして運動量を確保するには、もう少し時間をかけ
て検討するべきだった。結果 2 週間しか継続せず、リタイアしたことに利用者自身は
不安定になった。
新規サービス利用の際、本人のことを考えて親がサービスを選んだ。
④
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
今までの本人の進路は親が決めてきた。本人の意思は言葉では伝わりづらく、親が代
弁しているため本人の行動を見ながら意思決定の場面を確認する必要があった。
⑤
外出準備を整えていたが、外出拒否があり出発までに時間を要した。外出中は不穏な
表情もなく、たのしんでいる様子だった。
34
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
体調把握、外出する時の環境設定など必要な支援ができていたか。障害特性上気持ち
の切り替えが難しく、拘りが本人の意思であるかの判断が難しい。
権利擁護の金銭管理サービスを利用中の利用者より、通常の生活費に加えお金をおろ
してほしいと要望があった。全体収入と残金を見ながら支援者の判断で金銭を決め
⑥
た。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
管理、判断能力が難しく金銭管理サービスを利用しているが、本人から要望のあった
ことは、支援者側で整理してしまった。
ヘルパーとファミレスを訪れた利用者。メニュー表から食べたいものを選ぶ際、自分
で選ぶことができない利用者は、職員が利用者の健康状態、食べやすいメニューを選
んで注文した。
⑦
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
メニュー表は料理の写真が載っていて、それを目の前に利用者は食べたいものがあっ
たが、職員が健康状態を優先して決定した。その時の利用者の心境はどうだっただろ
うか。
同じ作業所で仲良くなり、交際を始めた。相手男性の両親とも仲良くなり、両親は将
来的には結婚させたいと言う。今後の交際について相手男性の両親と本人の従兄が参
⑧
加して話合った。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
当事者は参加していない。事前に当事者の意見はきいていたが、本人たちは、結婚に
対する意識は低く、親族の意見は結婚させてもよいという話合いの結果になった。
毎月 1 回の金銭計画時、利用者は自分が購入した品物のリストと金額を調べてメモを
持ってきた。品物と金額を確認すると、本人の収入からみて、その金額は高めであっ
た。収入と支出のバランスを考えて、安いものに変更するように話すが、本人は変更
⑨
せず高いものを購入する計画を立てた。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
支援者は、利用者の収入と支出の金額を説明し、適当な金額を提示したが、利用者は
事前に店に行き、金額も調べており買う意思を固めていた。計画以前に本人と支出で
きる金額を確認する時間が必要だった。
利用者より実弟が、カーナビを購入する費用 8 万円を出してほしと相談があったが、
どうしようかと職員に相談してきた。本人の預貯金は年金とこれまで働いて貯めたお
⑩
金であり、使い方は自由であると話した。ただし、年齢も 60 歳を過ぎて現在は生活
介護事業所を利用しているため収入はなく、今後の生活を考えると、無駄使いはでき
ないことは説明した。利用者は、今後自分が弟に世話になることもあるので、今回ま
で、お金を出したと言う。翌日職員が、代行で銀行より 8 万円引き出し利用者に届け
35
た。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
利用者の預貯金の管理や金銭支援は大変難しい。支援者がどの程度、利用者の権利を
守ることができるのだろうか。
【研究員による分析】
①・③ 説得的コミュニケーションで支援している。帰宅時間が遅くなると本人にとっ
ても良くないことであるが、それはこのやり取り以前に利用者と十分に話をできていれば、
利用者は最初から帰宅時間を 9:00 に出来ていた。
②・④・⑤ 利用者が意思決定できる、選択肢や環境が整っていない。利用者はこの場
面において自分の意思で選ぶことができるということさえ、理解できていないのかも知れ
ない。職員の意識や提示するための準備も必要だった。
⑦
選択できるメニューが写真で示されているにも関わらず、パターナリズムが行使さ
れた。利用者は自分の意思とは違うメニューが目の前に来た時、どのような気持ちになっ
ただろうか。
⑧
当事者同士が交際したいという意思を持っているが、その交際を認めるのは周囲の
家族や支援者という構造である。当事者の意思を尊重し、実現するために当事者を支える
体制づくりが現在はない。
⑥・⑨・⑩ 金銭に関する支援が多い中で、利用者の財産をどのように管理し、使い道
についてまでどの程度権限を持つのか。
金銭の使い方については、個人の価値観が大きく影響するため、支援員の立場としてその
判断が難しい場面が多い。説得的コミュニケーションで金銭の使用方法を決めていること
が大半である。
【GHCH支援センター中部】
意思決定支援の場面等
コーディネートした洋服の写真をセンターに置き、翌日の服装を来所時に決める。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
①
一人で洋服を選ぶとちぐはぐな服装や季節に合ってない服装になる。ホームに必要以
上の服があり、どんどん出して部屋が散乱してしまうことがないように写真を活用し
ているが本人が選んだものと違う服を着ている時もある。本人は選ぶだけでコーディ
ネートは職員。
正月の旅行に行きたいとのことで利用者がバスツアーのチラシを持ってくる。内容は
②
1/2~3 の宮崎だったため(2日目の戻る時間が早いツアーを選んでいる。)4 日から
の仕事に備えて日程は 1/1~2 でもう少し近くの地域で 3 日はゆっくり休めるような
日程のツアーを探すように伝える。
③
皮膚科通院を行う際、通院先の選択肢として2ヵ所あり、慣れている場所と近いとこ
36
ろを選んでもらうように伝える。悩んだ末、慣れているところを選ぶ。職員が通院同
行をする。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
自分で決めるということが苦手な利用者。選択ではあるが利用者本人に決定してもら
う機会をもうけている。
土、日曜日に行事があり、本人は両日とも参加するようにしているが職場より参加し
て大丈夫かと聞かれたとのこと。自分の体調などよく考えて決めるように本人に伝え
④
ると、参加を一日だけにすることを決めた。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
疾病の関係で疲れると体調に影響を受けやすいことは本人も理解している。
世話人がいない時に利用者Aさんがホームの他の利用者にしつこく話しかけている
と世話人より報告があり、巡回時にAさんと話をする。話しかける理由はみんなが話
してくれないからとのことだった。仕事で疲れて帰ってきて話したくないこともある
と思うので自分のことだけではなくみんなのことも考えるように話し、話したいこと
⑤
があればセンターに来るように伝える。Aさんはセンター職員も忙しいから行きにく
いという気持ちがあったので、本当に困った時は来てもらっても構わないことを伝え
るが納得できていない表情であった。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
職員が一方的に話をしている。もう少し利用者の気持ちを汲みとる必要もあったので
はないかと感じた。
利用者Bさんが一人で病院に通院してお金がかかるから検査をしなくていいと医師
に伝えている。Bさんは「もう咳も出てないから検査は必要ない。」と話すが、検査
を受けない事のリスクを話し、通院のお金はあるので検査は行うように話をする。ま
た、咳が出てうるさくて寝られないと他の利用者から話があり、休日に体調を整える
⑥
ため外出は控えるように話をするが、本人は咳が出ていないと思っており、返事はす
るが、納得できない表情であった。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
体調が悪くても休日に外出をしていることから体を休めることがない為、症状が長引
いているという経緯がある。
帰省時に、姉の子が専門学校に合格したから 2 万円お祝いに渡したいと相談があった
が、本人の状況をふまえ 1 万円くらいが妥当なのではないかと話す。本人は1万円で
は少なくて恥ずかしいと思っている様子だったが1万円で十分であることを伝える
⑦
とそのようにすると言っていた。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
毎月の給与が趣味のものを購入することで赤字になっており、計画を立てる時に支出
を抑えるように取り組んでいる。
37
金銭計画表で帰省代の金額が以前より増えていることに対し、収入が安定してない事
⑧
や将来のことを考えて正月などの特別な月以外は以前の金額に減らせないか打診し
てみるが表情が暗くなり黙り込んでしまう。マイナスが続いている計画表を見てもら
いしぶしぶ納得する。
帰省について、29 日を 30 日に変更している為、理由を確認する。30 日も仕事がある
⑨
からホームから行こうと思っているとのことであったが、家から通勤した方が近いこ
と、他の利用者との関係性を考慮して帰省を変更しないように話をする。
金銭計画表の使途が不明確であった3万円について確認する。ゲーム機を購入すると
⑩
のこと。以前ゲーム機を購入したものの売却した経緯があり、同じようなことが繰り
返されるようであれば買えなくなることを念押しする。
利用者Cさんから職場の人が自分にだけ態度が冷たく仕事を辞めたいとの電話があ
る。自分でも心当たりはなく相談できる人もいないとのことだった。仕事を辞めたあ
との生活について自分自身はどうなると思うか問いかけるとホームを出ないといけ
⑪
ないと思い考え込む。まずは職場との調整を職員が行うよう話をする。
再度Cさんから連絡があり、直接職場の人に確認したら誤解だったということが分か
ったとのこと。誰でも疲れていたら態度がきつくなることや、勘違いすることがある
のでCさん自身にも仕事のことや、本人のホームでの態度等について気をつけるよう
に話をする。
年末年始の長期休暇中にホームでの食事は食べないとのことだったので、以前食べな
かった時に体調を崩したことがあることやホームでの食事であれば(自分で購入しな
いとがなく)お金がかからないことを話すが食べないと断られる。再度食べない日を
⑫
確認して仕事が休みの日は食べなくてもいいが仕事の日は食べてみないかと提案し
納得する。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
自分で購入すると使いすぎてお金が足らなくなる、反対に食べずに体調不良になった
ことがあり、長期欠食している場合、確認を行っている。
利 用 者 よ り 生 活 費 が 足 り な く な っ た の で 1/1 ~ 1/7 分 で 計 画 し て い た も の を
12/29~12/31 で使ってもいいかとの質問がある。利用者と一緒に日付を書きながら
状況を確認する。正月の小遣いを生活費にまわすなど提案をしてみるが、お金が足り
ないことで不安を感じている様子であった為、職員が決めた金額を渡すことで落ち着
⑬
く。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
生活費を主に昼食代、世話人公休日の食事代として使用しているが、最近本人の中で
次の生活費の入金があるまでの日数と残金をシュミレーションしている。状況を確認
した時に足りなくなる状況であることは利用者、職員にも理解できた。最終的には職
員が金額を決めた。
38
【研究員による考察】
調査を行ってみると支援の現場では意思決定支援に関わる場面で支援者が助言するかた
ちで支援者側の考えている方向性に持って行かせることが多かった。
(事例:②、⑤、⑥、
⑦、⑧、⑨、⑫、⑬)それは利用者が選ぶことによって支援者側はのちに起こりうる影響
が予測できるために利用者の思いに反した言葉かけをしてしまうというのが原因としてあ
るが、説明が十分になされていないことも多く、本人が納得できないままであった事例も
ある。
このような現状が存在する背景には利用者が失敗しても思いを尊重できる環境をつくる
余裕がない為、支援者側が失敗しないように誘導してしまうことや、時間や気持ちにゆと
りのないことで結論を早く出そうとあせる等、本人の意思を尊重する意識が薄れてしまっ
ているのではないかと考える。
本人の意思を尊重することで本人や他の利用者等の不利益になる場合、何を優先するべき
か支援者の判断に委ねられるところが大きく、何を根拠にしたらいいのか難しさを感じ、
意思決定を行うための情報提供一つをとっても情報提供する側の経験や利用者本人の認識
不足などによって方法や結果に変化があるという危うさを孕んでいるということが理解で
きた。
【北九州ひまわりの里】
意思決定支援の場面等
利用者Aさんと職員が買い物に出かける。カレンダーを購入するとのことで、なかな
か自ら手に取ることをせずじっと見つめるだけであった。そこで職員が本人の好みと
思われる「山の風景」のカレンダーを手に取ってみせたところ、笑顔になり受け取っ
た。このカレンダーを購入する。
①
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
一見、本人の希望を叶えたように思われるが、本人の意思で決定したと言い切れるか
は難しいのではないか。例えば「本人の好み」とされるのはどの程度の裏付けがある
のか、試行をする事も必要ではなかったか。他のカレンダーも見せたうえで、反応を
確認するという検証があった方が良かったのではないか。
利用者Bさんが、入浴日(隔日)に咳き込み、声がれ、鼻水などの風邪症状と検温
37.2 度という身体状態のため、本人には、
「今日はお風呂に入らないように」という
職員からの指示があり入浴は中止された。
②
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
風邪症状、発熱という状況での入浴は中止したほうが良いという一般常識ではある
が、本人への問いかけはなされていない。説明を理解される方でもあるので、入浴を
する上での留意事項を説明したうえで本人の意思確認を行い決定することが可能で
あったのではないか。
39
利用者Cさんと職員が午前中買い物に出かける。構音障害の方であるため、殆ど発語
はないが職員が購入するものの近くまで誘導し、待っていると、自ら靴下を手に取っ
て選び、カレンダーも自分で数ある中から選択した。その後立ち寄ったマクドナルド
③
ではメニューの写真から野菜ジュースを指さして選んだ。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
聴覚障害および構音障害の方でもあり、本人とのコミュニケーションが課題となって
いるが、選択肢が目の前に準備されると次々と自らの意思を表示することが出来るこ
とがわかる。
生活介事業利用者のDさんが「たばこをくれ」と要求。支援員が、「体調がまた悪く
なってしまいますよ」と伝えると不満顔で「体調は良いのに」と反論。結局、喫煙の
時間を決めているので守るようにと職員が本人に話し、たばこは渡さなかった。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
(背景)生活介護事業利用者で、高血圧のため降圧剤の処方が出された 67 歳の利用
者Dさんが長期の短期入所中頻回に喫煙を要求している。家族からはできるだけ喫煙
④
回数を減らしてほしい旨の要望がでている。たばこおよびライターは支援員が預かっ
ている。
本人の疾病へのリスク理解ができているとは言い難い状況で、たばこの本数を減らし
ていくのは本人の不満が募るだけである。本人の意思を尊重すれば、喫煙頻度が多く
なり結果疾病リスクが高くなる。この様なパターンは支援者が一番対応に迷うか、何
の疑問も持たずに「健康優先」とばかりに徹底して規制に入るかのどちらかに支援者
が分かれてしまうな、と感じている。
生活介護事業利用者のEさんがこの気候の中、「寒くない」と言って頑として上着を
着ない。館内は全館暖房が効いているが、外出時は感冒などリスクが心配であるため
「上着を着ましょう」と促すと大声をあげるなどして「外出行かない」と興奮してし
まった。結局外出は断念した。
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【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
上着を着衣するようにと家庭で父母に言われると、かなり興奮してしまう状況があ
り、この日もその状態を引きずったまま利用となっていた。上着を着なければ外出は
可能であったかもしれないが、本人の意思決定をどのように支援すべきであったか課
題が残った。
3種の選択食のメニュー写真をみて、利用者が「これがいい」と好むメニューを選ん
で希望を書く用紙に記名した。または、利用者が写真をみて職員を呼び、指さしを行
⑥
って職員が利用者名を記名した。
名前の無い方を確認して、職員がメニュー写真を掲示してある前にその利用者を誘導
し、どちらが良いか指さしをしてもらい記名した。その他の方についてはおそらく好
むであろうと予測されるメニューを職員が選択して記名した。
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衆議院選挙への不在者投票
事前に意思表示が可能な利用者に対して、衆議院選挙の概要を職員が伝え、選挙に行
くかどうかの意思確認を行った。行くと答えた利用者を少人数づつ職員が投票場所へ
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送迎した。投票の場では、支援員が関わることが出来ないため、係員が誘導し、状況
に応じて本人が選んだ候補者を代筆してもらった。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
投票する権利は社会参加の権利…という意識でいるかどうかは分からないが、投票を
終えた利用者全員の誇らしげな表情はとても良いと思った。
生活介護事業の活動時、テーブルの座席配置は職員が決めて、そこに座ってもらう。
状況に応じて(利用者間トラブルの回避など)職員が別な場所へ利用者の座席を移動
させた。利用者は何も言わずに黙っていた。
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【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
トラブルの回避による利用者間の非接触の対応は、絶対に必要なのか。職員の配慮と
はいえないかもしれないと感じることが多い。利用者は何の説明も受けず、後ろめた
そうに別な席に替わっていく。説明と選択、挽回の機会は与えられていないと感じる。
利用者Fさんは、本日の生活介護事業の活動中、ずっと塗り絵をして過ごした。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
⑨
利用者Fさんは、塗り絵を好んでいると支援者に認識されている。この日の日誌には
「集中して行った」とある。しかし、最初から選択肢があって説明がなされたうえで
の本人の「塗り絵」を「ずっとする」という意思表示はなかった。
利用者Gさんは、人工骨とうの手術後に車いすとなり、移動などは全て職員介助とな
った。トイレや更衣などはコールで職員を呼ぶようになっている。危険性について十
分に本人に話していたが、「待つ」ということが苦手で、つい職員が来る前に自ら動
いてしまう。今回も自分で起床後更衣して、車いすに座っていたので再度危険性につ
⑩
いて話を行ったが納得は得られなかった。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
利用者Gさんは、
「自分でちゃんと出来るのに」
「職員に自由にさせてもらえない」と
いう不満を日々抱えている。しかし転倒などのリスクを考えると以前のように本人に
任せられない職員側との攻防が今後も続くと思われる…。
利用者Hさんは、グループホームに入居されているが、ことあるごとに自らひまわり
の里に電話をされてきて、「この施設で暮らしたい」と話される。今回も「さびしい
ので、そっちにいたい」と電話で言ってきたので、対応した職員が「グループホーム
⑪
で暮らすしか今はできない」
「そちらで頑張って欲しい」と話をしている。本人は「分
かった」と電話を切る。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
利用者Hさんは「この施設で暮らしたい」という強い意思表示をされていた方で、そ
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れが適わないと本人に説明し、グループホームへの入居へ周囲が動いたという経緯が
ある。
利用者当事者会での話し合いの場
毎回、生活上何か困っていることやそのことについての利用者からの意見を聴く場を
つくっている。その中で「歯磨きの時間に洗面台が混雑していやだ」という意見が出
⑫
た。そこで、東西の棟の洗面台に分かれて歯磨きを行い、職員も 2 箇所の介助に分か
れればよいという意見があがった。
【気付いたこと(配慮事項、考察等)】
この意見は当事者会の全大会で再度話し合われ、決定すれば職員会議に議題としてあ
がり、改善に向けての具体案が話し合われることとなっている。
【研究員による考察】
適切な意思決定支援をしていないと思われる事例は、12 事例中(③、⑥、⑦、⑫)を除
く 8 事例であった。8 事例の内容を分類すると支援者側による「利用者の為」と判断した
場合の決定が多く(②、④、⑤、⑧、⑩)特に、健康面や対人トラブルの回避といった場
面に、パターナリズム的要素を含んだ形をとって現れている。支援者側の、利用者を守ろ
うとする意識があってこその判断といえるが、本人不在の“判決”要素が大きい点に課題
を感じる。①、⑪に関しては本人への説明や選択の機会を持ちながらも、予め支援者の狙
った結果を引き出そうとする、説得的コミュニケーションの要素が見てとれる。以上の事
例の内容から、総じて利用者の意思決定に不可欠な「選択肢」を用意することが出来ない
支援者側の意識の低さ、選択肢を許さない時間の無さなどが、これら不適切な意思決定支
援の背景にあると思われた。
適切と思われる意思決定支援としてあがっている事例は、組織として一連の流れを計画
する中に意思決定支援を組み込んでいる場合が多く、そのために十分な時間や検証を行え
ている。この事から実施計画段階で意思決定支援の機会を意図的に組み込むこと、日常の
支援に意思決定支援の視点を取り入れた検証を常に行うこと等で、より良い意思決定支援
に向けた動きへ改善していくものは、多くあるのではないかと思われる。
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