「切り替えが苦手な A さんへの個別指導」

第 2 回定例研 LD HD/AD 等分科会
〈提案〉
「切り替えが苦手な A さんへの個別指導」
浜松市立神久呂小学校
通級指導教室「若竹」
1
浅井
功平
はじめに
神久呂小学校通級指導教室「若竹」の紹介
○ 今年度4月 25 名でスタートした。10 月現在は入級児童は 26 名だが、体験・継続相談な
どを含むと 30 名程度である。
○
発達支援指導員と 2 名で指導している。
○
昨年度、教室でイチゴ栽培をしたところ、不登校傾向の児童も成長を楽しみにしている
様子がうかがえた。栽培活動の良さを感じた。
○ 指導方針:認知力、体性感覚力、記憶力、構成・思考力等の底上げをしながら読み・書き・
計算、感覚統合、ソーシャルスキル、コミュニケーションスキル等の指導を通
して、自己モニタリング力を付け、自己肯定感の向上を目指している。
○ 指導内容:4つの課題を組み合わせて取り組んでいる。
・話す・聞く課題(自己紹介・スピーチ・アンゲームなど)
・気持ちや行動の課題(SST 絵カード・なかよしチャレンジ・サーキット運動・
コーディネーショントレーニングなど)
・教科補充の課題(日本地図パズル・言葉探し・風船バレーなど)
・友達づくりの課題(2人でパズル・ドミノ・トランプ・ジェンガなど)
2 A 子の指導
(1) 児童(A 子・小 2 女子・自校通級)の実態(H21 年度)
① 家族構成:父・母・本人・妹(2 歳) 同じ敷地内に祖父母
② 主
訴:感情をコントロールできず些細な事で友達と言い合いになる。集団行動がで
きない。
粗大運動が苦手で体育に参加しない。場の状況が判断できない。注意される
と泣き叫ぶ。やりたくない事は授業でもやらないが好きな事にはのめり込む。
家庭で「いきにくい」とメモ書きをしていた。
③ 検査結果:WISC-Ⅲ VIQ133 PIQ125 FIQ132(VC138 PO126 FD109 PS120)
全体的には高いが、でこぼこがある。
*2 年生にもかかわらず「源氏物語」の作者名を正答した。
④ 保護者の願い:・気持ちをコントロールできるようになってほしい。
・自分に自信を持てるようになってほしい。
・場の状況に合った行動ができるようになってほしい。
長期目標の設定
・自分の考えや気持ちを伝える事ができる。
・気持ちをコントロールし、その場に合った言動をとる事ができる。
〈質問〉 幼稚園時代のエピソードや引き継ぎ事項はなかったか?
〈応答〉 幼稚園時代はとても慎重で、
「こうすればできる」と教えてもらっても一歩を踏み出
すのに時間がかかったらしい。1 年の時はもっとすごかったと聞いている。参観会に
母親が遅れた時は教室から飛び出して泣いていた。
(2) 1 年目(H21 年度)の指導内容と表れ
① 学級での様子
ア 気持ちの浮き沈みが激しい。
イ 運動全般の動きがぎこちない。
ウ 周りの状況に合わせた適切な言動がとれない。
エ 聴覚過敏の様子が見られる。
* 学習面では全般的に良好で、年齢以上の知識を持っ
ている。読解力に優れ、的確な発言をする。
③ 指導
対象項目
指導内容(配慮事項)
フリートーク
(関心の高い話題から学級の話題に移行し
不満を吐き出させた)
ア
イ
リラックスタイム
(ヒーリング音楽を 3 分間聴かせた)
サーキット運動
(カーテンを閉めて安心して取り組めるよ
うにした)
エアホッケー
(ルール表を作った)
ウ
ソーシャルストーリー
(問題行動に関連したページを選択した)
②
家庭での様子
● 我慢ができない。
● 妹と対等に喧嘩をする。
● 思い通りにいかないとふてくさ
れる。
● 偏食が激しい。
○ 理解力があり、落ち着いている
時に話せばわかる。
指導中の表れ
ゲーム(ポケモン)の話を話し始め
ると、いつまでも話し続けていた。学
級の事を話すと、その後の授業には落
ち着いて取り組めるようだった。
激しく怒って入室した時も、音楽を
聴く事で落ち着いた。
平均台が苦手で指導員の手を握らな
いと歩けなかった。リズム良くジャン
プができなかった。徐々にできる事が
増え、通級では嫌がらずに運動をする
ようになった。
ルールを勝手に変えたりずるをした
りしていたが、ルール表によって守れ
るようになった。始めは負けるともの
すごく怒ったが、繰り返す内に、「し
ょうがないか」と言えるようになって
きた。
書かれている事を理解できるが、担
任と違うやり方を受け入れられない。
成果と課題
フリートークで話を聞く事によって気持ちが発散できた。落ち着いた時に相手の気持ちを考え
させると良い事を言っていた。負ける事への耐性がついてきた。通級では体を動かす事を嫌がら
なくなった。大きな音を嫌がる事が減った。
〈質問〉
〈応答〉
他にもソーシャルストーリーを行ったか?
いくつか読んだ。本をそのまま使ったが、A 子が自分で読む時もあった。
〈質問〉
〈応答〉
発達指導員はどのように関わっているか?
ゲームの相手をしてもらう事が多い。それ以外は学級で校内支援をしてもらう。
〈教材ゲームについての意見〉
○ 黙って行う、感情をコントロールする等のスキルのために行った「どうぶつしょうぎ」は、
その後の趣味にもつながり、良い教材だと思う。
○ ゲームは、保護者を交えて行う事がある。保護者が子どもに合わせて勝敗をコントロールで
し、うまくかかわれるようになった。
(3) 2年目(H22 年度)の指導内容と表れ
① 学校での様子
ア
イ
ウ
エ
オ
*1 学年上の男子とグループ指導
② 家庭での様子
気持ちの浮き沈みが激しい。
運動全般の動きがぎこちない。
周りの状況に合わせた適切な言動がとれない。
思い通りにいかないと物を投げる。
板書を写そうとしない。
③ 指導
対象項目
指導内容(配慮事項)
アンゲーム
(言語性が高い特性を生かした)
ア
エ
イ
ウ
オ
深呼吸
(息を吐くときに嫌な思いを吐き出すよう
にアドバイスした)
● 切り替えが遅すぎる。
* 医療のアドバイスでトークン
エコノミーを取り入れる。
○ 外に出る機会を増やした。
指導中の表れ
よく話し、自分で質問カードを作る
ほど意欲的だった。本音を話すように
なった。相手の話に対し、うなずくな
どの様子が見られた。
「嫌な事を吐き出せた」と言い、笑顔
で教室に向かう事が多かった。
転がしドッジボール
(ドッジボールの基本となる動きを理解さ
せた)
よけ方がぎこちなかったが、大きな
動 き を しな く て もよ けら れ る 事に 気
づけた。後ろを素早く振り向く事がで
きるようになった。
コーディネーショントレーニング
(毎時間では飽きるので、時々取り入れた)
反応スピードが遅かった。飛んでく
るボールをキャッチできなかったが、
柔らかいボールなら、自分で上に投げ
てキャッチできるようになった。
言葉見つけ
(挙手のルールを取り入れた)
自分の順番でないのに、思い付くと
話してしまった。挙手ルールを取り入
れ、できた時に褒めると意識しようと
し て い た。 相 手 の意 見を 受 け 入れ た
り、相手に分かるように説明したりす
る事ができるようになった。
こんな時どうする(SST カード)
(問題行動について振り返らせるカードを
準備した)
テストの点数が悪いと破ってしまっ
ていた。SST カードでは適切な事が言
えるが、生活を振り返り、自分の事と
して受け入れられなかった。
ヒントの言葉が長く分かりにくかっ
たが、相手に分かるように説明する事
ができるようになった。相手に分かっ
てもらえなくても怒らなくなった。
スリーヒントクイズ
(読解力が得意な点を生かす)
成果と課題
泣いて突っ伏す事がなくなった。体を動かす事を嫌がらなくなり、学級の体育にも参加できた。
言葉で気持ちを言うようになった。場にそぐわない言動が減ってきた。書く量を調節する事で、
多尐、板書を写すようになった。
〈質問〉
〈応答〉
学級ではどのような配慮をしてもらったのか?
優しく活発な担任で、うまく A 子をコントロールしてくれた。自校なので、情報交
換をしやすく、「こういう風にしてみたら」「こんな風に声を掛けたら」とアドバイス
すると、すぐにやってみてくれた。
〈質問〉どこで言葉を吸収しているのだろうか?
〈応答〉おそらく本ではないかと思う。昼休みは図書室で過ごしている事が多い。
* 妹が生まれるまでは一人っ子で母親とのかかわりが多かった事を考えると、母親からも影
響を受けているかもしれない。
〈SST カードの使い方についての意見〉
○ A 子は頭がいいので、正しい答え(こうすべき)は百も承知で、よく分かっていると思われ
る。A 子のレベルならば、「あなただったらどうするの?何て言うの?」と投げかけ、本音
を出させる必要があるのではないか。正解を知っているが出来なくて困っているので、もっ
と踏み込んでいっていいと思う。コミック漫画を活用して、次はどうなるか、相手はどう反
応するかを検証し、自分の言動を修正させていく。
(4)現在の様子と指導
① 学校での様子
ア
イ
ウ
エ
オ
*
*
切り替えが遅すぎる。
運動全般の動きがぎこちない。
周りの状況に合わせた適切な言動がとれない。
算数に苦手意識が出てきた。
面倒くさがる事が増えてきた。
やるべき事をやるようになってきた。
給食では偏食が減った。
③ 指導(本人の希望により個別指導)
対象項目
指導内容(配慮事項)
フリートーク
(タイマーを使用し、時間を自分で決めるよ
うにした。)
ア
家庭での様子
○
以前より切り替えが早くでき
るようになった。
○ 偏食がなくなってきた。
● 気持ちのコントロールができ
ない時がまだある。
指導中の表れ
話が盛り上がると、延長する回数が
増え切り替えが困難だった。しかし、
自分で課題や時間を決める事で、納得
し て 終 了す る 事 がで きる よ う にな っ
た。
すごろく
(時間を決めてコース作りをさせた。)
時間内にコース作りができた。負け
て も 最 後ま で や り遂 げる 事 が でき る
ようになった。
ツイスター
2年の時は手・足の筋力がなく、で
きなかった。バランスを保つ事が困難
だが、指示に従い、最後まで取り組む
事ができた。
こんな時どうする(SST カード)
絵の状況と実際の状況は違うと言
うが、聞く耳を持つようになった。
相 手 の 気持 ち を 考え る事 が で きる よ
うになった。
イ
ウ
②
成果と課題(9 月現在)
通級では切り替えが早くなってきた。学級でも4月と比べると比較的スムーズに行動できてい
る。学級でもボール運動に積極的に参加できている。学級で目立つ行動が減った。気分にむらが
あり、算数は単元によって取り組みが異なる。
3 連携
(1) 保護者との連携
① 若竹学習カード
○ 若竹での学習内容・様子を保護者や先生方に知ってもらう事ができた。
○ 家庭や学校での表れについて共通理解を持ち、良い点や改善したい点を同じ歩調で指
導に当たる事ができた。
② 個別面談(年 2 回)
③ 参観(自校通級の場合も年数回参観してもらう)
④ 懇談会
(2) 在籍学級との連携
○ 本校の児童なので、情報を共有しやすかった。
○ 学習カードに書ききれない事については、放課後などの時間に話す機会を作っている。
○ 月に 1 回校内委員会があり、普段の様子を全職員で共通理解している。
○ トラブルなどが起こった時、すぐに駆けつけたり本人を若竹教室に来させたりするな
どの対応ができている。
(3) 他機関との連携
○ 医療機関にかかっているため、必要に応じて電話や手紙などで情報を共有化している。
また、保護者から通院の様子を聞いている。
○ 医療機関にかかるようになり、保護者も接し方が変わったと言っている。特に父親の理
解が進んだ様子である。
4 成果と課題
○ 2 年生の時に比べると、学級の中で目立つ事がほとんどなくなった。
○ 気持ちが安定し、やるべき事はやるようになってきた。
○ 友達とのかかわりが増えてきた(金管バンド部に入部した。昼休みも外で遊んだり教室
で友達とおしゃべりをしたりしている)。
○ 苦手な体育に参加するようになった。
● 切り替えるまでにまだ時間がかかる。
● 場の状況は判断できるが、行動が伴わない時がある。
● 算数に対する苦手意識が大きくなってきた。
〈質問〉 幼児の場合集団の枠がないので、あまり本人の困り感がない。児童の場合は、良く
なりたいという意識やみんなと仲良くなっているという実感はあるのだろうか?
〈応答〉 実感はあると思う。個によって異なるが、A 子は冷静な時は自己分析できている。
〈質問〉終了の目安をどのように考えているか?
〈応答〉浜松市の場合、指導年数の制限がないので、長く見守っていく。気持ちの切り替えス
キルを獲得し、学級でそのスキルが使えるようになったら退級を考えたい。本人が「こ
こに来なくても大丈夫だよ」と言ったら終了にしたい。
〈感想〉
○ 浅井先生が A 子を受け入れ、思いに沿って接しているので、A 子は安心して指導に取り組
めている。そして、相手を受け入れられるようになっているのだろう。
○ 浅井先生は遊戯療法の8原則の一つである「自由と責任」にのっとって指導をされている。
自分で時間を決めて終了・片づけをするのは、この原則である。
○ 個別指導は現実とはかけ離れた指導である。そのため、「次の時間は何?」「がんばってね」
と声を掛けて終了するなどして、現実に引き戻してあげる事が大切である。