情報提供資料「トランプ氏の勝利が意味すること」

ご参考資料
(投資環境レポート)
2016年11月10日
マニュライフ・アセット・マネジメント株式会社
トランプ氏の勝利が意味すること
米国の次期大統領ドナルド・トランプ氏の圧勝-その結果は、無防備だった世界中の投資家を驚かせました。
本レポートでは、大統領選挙の結果が、今後の米国の政策金利、財政政策、経済成長に潜在的にどのような
影響を与えるかについて、マニュライフ・アセット・マネジメントのチーフ・エコノミストであるミーガン・グリーンの
見解をお伝えします。
「驚きの結果!」というニュースは、既にご存知のことと思います。ドナルド・トランプ氏が大統領選挙に勝利し、
共和党は下院・上院ともに過半数を確保しました。この結果は、世論調査がどこまで有権者が不満と怒りを積極
的に表明するかについて過小評価されていた点で、英国のEU離脱に係る国民投票に類似していると思います。
著名経済学者のポール・クルーグマン氏は、大統領選挙結果に対する見解として、「トランプ氏の勝利による
経済的影響は、懸念するほどのものではなくなってきている」1とコメントしています。私は、この点についてクルー
グマン氏とは異なる意見を持っています。トランプ氏勝利による経済的影響はすべての人にとって重要なものに
なると考えます。
共和党が下院・上院の両方で過半数を占めることになったため、トランプ氏が掲げる経済施策や政策を議会で通
すための障害は少なくなりました。過去の大統領選挙における候補者たちと同じように、選挙戦中に掲げていた
公約のうち実際に実行される政策が何かを判別することは困難であり、それは今回の選挙においても同様です。
政策実行の不確実性は非常に高い状況にあります。一方でトランプ氏の勝利に対するアジアや欧州市場の反応
が示すように2、市場は不確実性を好みません。選挙戦中のトランプ氏の発言を額面どおりにとれば、彼が支持し
ている政策は、米国を不況へと導きかねず、またそれを世界中に広げる可能性があると考えます。
困難な仕事
トランプ氏が2017年1月20日に第45代大統領に就任したら、彼は新政府を設立する必要があります。これには、
数千人の労働者の雇用、何人かは上院の承認、多くの人には長期間におよぶセキュリティチェックと身辺整理が
必要になります。トランプ氏がこれまで発言してきたことはすべて、彼の政府内での役割が満たされるまで実行に
移すことはできません。
多くの時間とエネルギーが政府を設立するために費やされますが、トランプ氏が行政命令の形ですぐに実行する
ことができる政策がいくつかあります。
まず貿易政策です。トランプ氏は、NAFTA(北米自由貿易協定)からの米国の脱退と3、米国の貿易相手国の
一部に関税を課すことを提案しています4。
もしトランプ氏が中国とメキシコへの関税を主張した場合、これは貿易戦争を引き起こす可能性があります。私た
ちの見解では、米国の潜在GDP成長率は1.5%から2%の間であると考えます。トランプ氏の選挙戦中に示唆され
ていたように、保護主義的な貿易政策を実行することになれば、米国経済は不況に陥ることになると考えます5。
出所:
1:New York Times: Paul Krugman – The Economic Fallout, 2016年11月9日
2:Manulife Asset Management, Bloomberg, 2016年11月9日
3:The Goble and Mail: Trump Renews Threat To Leave NAFTA In Speech on Economy, 2016年8月8日
4:Reuters: Trump’s Tariff Plan Could Boomerang, Spark Trade Wars With China, Mexico, 2016年3月24日
5: Manulife Asset Management estimates
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(投資環境レポート)
成長支援戦略
大統領選挙の開票が進むにつれアジアや欧州の株式市場は急速に下落しましたが、トランプ氏の勝利宣
言後は緩やかに反発しました。反発した要因は、勝利宣言で述べたインフラ投資に関する内容によるもので
した6。
トランプ氏は一貫して景気刺激策を実施すると述べてきており、その内容はインフラ投資への支出と企業向
けの減税に関するものです。こられの政策は理論上は物価を押し上げ、資産価値を支えると考えられます。
しかしながら、問題はどのようにしてこの財源を確保するかです。“借金王7”と称しているトランプ氏は、政府
に景気刺激策のための財源を更なる借金でまかなわせ、借金の上限枠を繰り返し無視する可能性もありま
す。選挙期間中の計画では5%-6%8の経済成長による収入から景気刺激策の財源を確保するとしていました。
このような大きな成長は期待しづらいことから、トランプ氏の計画している景気刺激策は当初約束した規模
にならないと考えています。
トランプ氏は規制に関しては一貫した姿勢を貫いてきました。彼はドッド・フランク法9を撤廃する意向を示し
ています10。もしこれが実現すれば、特に金融機関は経営の自由度が増すことになります。しかし、ドッド・
フランク法によって銀行のリスク資産の削減やレバレッジの解消がうまくいったことから、、この法案の徹廃
によって、高リスクの貸出の増加につながり、再び世界的な金融危機を引き起こす可能性が高まることにな
ります。
FRB(米連邦準備制度理事会)への影響
FRBは独立した機関であり、政策金利の決定にあたり政治イベントを考慮することはありませんが、政治イ
ベントが経済へ与える影響については考慮します。政治の不確実性が高まり、トランプ大統領下での景気
後退の可能性が高まってきたことを勘案すると、私たちは、FRBが年内に利上げを実施することはないだろ
うと予想します。
この先、より重要になってくるポイントは、FRBが次回金利を見直す際に、引き上げを行うのか、引き下げを
行うのかということです。米国が、私たちが考えるような景気後退に陥る場合、FRBには景気を刺激する策
があまり残っていません。景気後退の中で利上げを行うことは困難なものとなるでしょう。
同時に、トランプ氏の政策はインフレを誘発するものになると考えられますが、FRBは2%のインフレ誘導目
標を維持したいと考えるでしょう。これは、英国中央銀行がEU離脱に関する国民投票後に陥ったジレンマと
同じものになります。成長とインフレのどちらを優先させるかというと、FRBはおそらく成長をとることになるで
しょう。
もちろん、もしトランプ氏がFRB11の独立性を弱め、ジャネット・イエレン議長12を更迭するという選挙公約を実
現することになれば、FRBの金融政策を予想することは、より困難なものになるでしょう。私たちは、イエレン
議長は2018年2月の任期が満了するまでは、自身の役職を全うするだろうと考えています。
出所:
6:Bloomberg: Trump Says He’ll Spend More than $500 Billion On Infrastructure, 2016年8月2日
7:CNN Money: Donald Trump: ‘I’m the King of Debt’, 2016年5月7日
8:Yahoo Finance: Why Trump’s Talk of 6% US Economic Growth Is Unrealistic, 2016年10月20日
9:The Dodd–Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act signed into law by President Barack Obama
10:Reuters: Trump Preparing Plan To Dismantle Obama’s Wall Street Reform Law, 2016年5月18日
11:Politico: Donald Trump Isn’t Crazy To Attack the Fed, 2016年11月2日
12:Wall Street Journal: Donald Trump Says He Would Replace Janet Yellen, Supports Low Interest Rates, 2016年5月5日
当資料に関する留意事項については、最終ページを必ずご覧ください。
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(投資環境レポート)
悪影響?
開票結果を受けたアジアや欧州の金融市場の動きや、翌朝の米国市場の動きを見ると、米国大統領選挙
が単に米国だけのイベントではなくグローバルなものであったことは明らかです。今後数日の金融市場は
英国のEU離脱に関する国民投票直後の市場動向と同様な動きを示すと考えます。つまり、米国の資産が
大きく売られ、その後、緩やかに反発していくものと考えます。また、新興国市場は大きく影響を受ける
可能性があります。
しかし、悪影響を受けるのは金融市場だけではありません。米国が景気後退入りすれば、既に多くの中央
銀行が需要喚起のためにアクセルを思い切り踏み込んでいる中で世界経済も同様に景気後退する可能性
があります。その結果は、二者択一となる可能性があります。つまり、世界経済が再度危機に陥る可能性か、
或いは政策立案者が伝統的な政策では世界全体の需要を刺激するには不十分であったことから、新たな
諸政策が不可欠であることを認識することになるという二者択一の選択肢です。
さらに重要なのは政治的な波及効果です。トランプ氏が掲げてきたと言われる「反エリート」、「反グローバル
化」、「我々対彼ら」などの主張は米国特有のものではありません。英国のEU離脱に係る国民投票の時に
見られただけでなく、欧州の大衆主義の主張にも組み込まれています。
トランプ氏の勝利は、大西洋をまたいで、選挙が目白押しになっている欧州での大衆主義の動きを助長させ
る可能性があります。最初のケースは12月4日に実施されるイタリアの憲法改正国民投票です。もし国民投
票で否決された場合にはレンツィ首相は辞任する意向を示しており、反EUの大衆主義政党「五つ星運動」
が政権をとる可能性があります13。2017年にはオランダ、フランス、ドイツでも国政選挙が行われ、主流派の
政治家達が審判を受ける予定です。これらの選挙で大衆主義政党が勝利を収めなくとも、既に一大勢力と
なり、主流派の政治演説になりつつあります。
出所:
13:Reuters: Italy PM Renzi Tells Party To Step Up Referendum Campaign, 2016年10月29日
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