情報提供資料「カナダ中銀の金利政策について」

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(投資環境レポート)
2016年11月1日
マニュライフ・アセット・マネジメント株式会社
カナダ中銀の金利政策について
10月19(水)、カナダ中銀のステファン・ポロズ総裁は、政策金利の引き下げを検討したことを明らかにし、市場
に驚きを与えました1。彼のコメントによって、市場参加者の間では2017年中に利下げの可能性もあるという憶
測が出ました。ただし、弊社のシニア・エコノミストであるフランシス・ドナルドはそのようには考えていません。
本レポートでは、彼女が、来年利下げが行われると断ずることができないと考える理由について示しています。
今月初め、私は、カナダ中銀が利下げを行った場合のリスクは、市場参加者に過小評価されており、また年末
にかけて大きくなるという見解2を出しました。弱いインフレデータ、冴えない輸出量、厳格化された住宅ローン
規制、カナダ中銀メンバーの弱気な発言はすべて、大きな転換点として捉えられます。
思うに、市場はこうした弱い指標を十分に考慮に入れていなかったようですが、10月19日(水)、カナダ中銀の
ステファン・ポロズ総裁は政策決定会合1において、カナダ中銀が利下げを「積極的に検討した」と述べることに
より、自身の見解が変わったことを明らかにしました。10月21日(金)に発表された、予想よりはるかに弱い
小売売上高も、利下げの可能性の憶測に拍車をかけました3。
19日(水)のポロズ総裁の悲観的な発言を受けて、9月中旬以降の楽観的な状況に対して市場は調整しました。
しかし、一部に見られるような、予想を変更して2017年中に25bpsの利下げがあることを前提とするような動き
は時期尚早であると思います。
10月24日(月)ポロズ総裁のe-mailによる「現時点での私たちの最善策は、向こう1年半程度の間、静観するこ
とである。4」というコメントは、金融政策に関してのものであるか、マクロデータのギャップ分析に関するもので
あるかは別として、おそらく現在のカナダ中銀の意図を正確に読み取ることのできる材料であるといえます。
私たちは、ポロズ総裁の最近の一連のコメントによって、カナダ中銀が注意喚起の局面に入ったものの、
基本的には様子を見るスタンスであると考えます。
私たちの見解では、利下げのための材料が出てきているものの、利下げを実行するハードルはまだかなり
高いということを再認識するべきだと考えます。
1.財政出動が予定されています。7月に導入された雇用保険の延長や子供手当て等の施策、経済刺激策
のためのインフラ投資が成長を押し上げるでしょう。
つまり、カナダ銀行が時間を調整する必要があるということです。財政出動によって経済を押し上げようと
している時に、利下げを行うのは、限られた策しかないということを考えると、時期尚早ということになります。
重要なのは、財政支出がうまくいくかどうかについて評価するためには、1年程度は要するということです。
加えて、追加的な景気刺激策が用意されるでしょう。まずは、11月1日に予定されている政府の秋の財政
レビューであり、さらには、2017年予算編成についても再び注目が集まるでしょう。
出所:
1: Bloomberg: Poloz’s Deepest Thoughts on Rates Now Saved For Press Conference, 2016年10月19日
2 :BNN: Rising Chance of a Bank of Canada Rate Cut, 2016年10月4日
3 :Manulife Asset Management, Bloomberg, 2016年10月24日
4 :Bloomberg: Loonie Erases Loss as Poloz Says Best Plan to Wait and See, 2016年10月24日
当資料に関する留意事項については、最終ページを必ずご覧ください。
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2.カナダ中銀は、少なくとも以前考えられていたよりも、貿易量を底上げすることはできなくなっています。
最近、ポロズ総裁と金融政策報告書によれば、以前に考えられていたよりも、カナダの輸出の弱さは、より
構造的であることが強調されました5。
私の見解では、これは、ポロズ総裁からの重要かつ、これまでの状況を一変させるような発言でした。決して、
大げさなものではなく、カナダ中銀の発信内容を根本的に変えるものであったと考えます。生産性と競争力は、
これまで考えられていたよりも、輸出にとって低い水準で推移しているということを明確に表明することによって、
ポロズ総裁は、カナダドル安が、非エネルギー関連の輸出やカナダの成長にとっての特効薬ではないという
ことも示唆しました。
カナダドル安につながる利下げは、貿易の弱さが景気サイクルによる環境下よりも効果が低いと思われます。
貿易の弱さが「構造的な」問題である場合、ビジネス投資や住宅同様に、責任はやはり財政政策と構造改革
にあるといえます。
3.住宅投資市場をとりまくデリケートな政治的事情があります。住宅市場を落ち着かせることを目的とした
規制によって、カナダ中銀には必要に応じて利下げを行う余地ができました。しかしながら、誤解のないように
言うと、これは今後半年というよりは、中長期的な観点で当てはまるものです。
新しい住宅投資規制との関連において、カナダ中銀が即時利下げを行うには2つの障害があります。
第一に、成長の観点から、カナダ中銀は新規制対する反応の評価をしなければならないだけでなく、根本的な
需要と供給が広範な経済活動を冷え込ませることになったのかどうかについて評価しなければなりません。
この評価にかかる期間は、少なくとも半年、おそらくは1年ちかくかかるでしょう。
第二に、即時の利下げを行うことは、金融政策と財政政策がうまくかみ合わないことになる点です。長期的に
みれば利下げは必要なことかもしれませんが、引締め的な政策と拡張的な政策を同時に行うことは、複雑な
ポリシーミックスになると考えます。
4.金利に敏感な業種がカナダの問題ではありません。減退した石油投資と競争力の低下、そしてカナダの
輸出に対する米国の弱い需要、これらのカナダ最大の問題点は、利下げと直接関係のある問題ではありま
せん。
経済の最も強い部分は個人消費支出で、伝統的に金利動向に敏感ですが、今の個人債務の水準の高さ
では、以前の利下げサイクル時にくらべて、個人が追加の負債を抱えることが難しくなっています。
25bpsあるいは50bpsの利下げでは、原油価格の回復、世界的なカナダの輸出に対する需要の喚起、カナダ
製造業の競争力の回復にはつながらないでしょう。
要するに、利下げに関するカナダ中銀の費用対効果分析において、プラス効果の部分は、どんどん小さく
なってきているといえます。
5.米国の経済成長が、引き続きカナダを救済する可能性があります。ポロズ総裁がよく使う例え話の1つは、
「弱いカナダドルは、強い米国景気の飾りのようだ」というものです。
カナダ中銀は、2016年後半の米国経済は回復を続け、設備投資を増やしていくものとみています。私たちは、
米国の緩やかな成長は続くとみていますが、もしカナダ中銀の見解どおりに米国の経済成長が加速して
いった場合、カナダ中銀は利下げをするには及ばないはずです。
同様に、米国FRBが今後半年において明らかに強気の姿勢を示すことになれば、カナダドル安が経済に追加
の恩恵をもたらすことになり、繰り返しになりますが、カナダ銀行は何の対応も必要なくなるでしょう。
上記のポイントから、ポロズ総裁が意図したものかどうかは別として、今後1年半程度は様子見とする金融
政策について妥当かつ賢明でさえあると言うことができると考えます。
出所:
5: Bank of Canada: Monetary Policy Report, 2016年10月19日
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