C 無月経

1 症候から鑑別する
表 1 原発性無月経の分類
C 無月経
分類
Amenorrhea
1
症
候
か
ら
鑑
別
す
る
蘆無月経とは,性成熟女性に月経がみられない状態であり,原
発性無月経と続発性無月経に大別される。
蘆原因部位に応じて,視床下部性無月経,下垂体性無月経,卵
巣性無月経,子宮性無月経に分類される。
1
原発性無月経
Primary Amenorrhea
診 断
原発性無月経の大半は先天異常に起因する
蘆染色体異常,特に Turner 症候群と精巣性女性化症候群が多
く,これに中枢性(視床下部性,下垂体性)などが続く。
蘆診断には,家族歴を含めて十分な問診を行うとともに,患者
ならびに家族への説明と同意のもとに,外性器の診察や超音
波検査による内性器の評価,直腸診を行う。
病歴聴取
身体所見
蘆母親に子供の外性器異常があるかを確認する。
蘆低身長,翼状頸,外反肘,小児様外性器ではないか(Turner
蘆規則的な下腹部痛の出現がないか(月経モリミナの有無:腟
閉鎖)。
蘆先天性副腎皮質過形成,特に 21-水酸化酵素(P450c21)欠
損症の家系ではないか(常染色体劣性遺伝)。
蘆陰毛と腋毛の有無(精巣性女性化症候群)。
蘆過度のダイエットによる体重減少の既往(神経性食欲不振症
の履歴)。
蘆食行動の異常(神経性食欲不振症の有無)
。
16
疾患
処女膜閉鎖症
性管閉鎖による無月経
腟閉鎖・腟欠損
頸管閉鎖症
先天性子宮欠損症
子宮性無月経
結核性子宮内膜炎
幼児期 Asherman 症候群
純型性腺形成異常(46 XY)
性腺形成異常
・ Turner 症候群
卵巣性原発性無月経
卵巣形成異常(46 XX)
・ ovarian aplasia
・ ovarian hypoplasia
原発性 FSH 不応症候群
真性半陰陽(卵巣+精巣)
女性(仮性)半陰陽(卵巣)
半陰陽・アンドロゲンによ
・副腎性器症候群
る原発性無月経
男性(仮性)半陰陽(精巣)
・精巣性女性化症候群
視床下部性原発性無月経
視床下部,下垂体前葉系の Kallman 症候群
異常による原発性無月経
Fröhlich 症候群
Laurence-Moon-Biedel 症候群
症候群)。
蘆高身長,乳房発育有,陰毛・腋毛なし,小児様外性器ではな
いか(精巣性女性化症候群)。
蘆陰核肥大(生下時より)と皮膚色素沈着はないか(先天性副
腎皮質過形成)。
蘆乳汁漏出はないか(乳汁漏出症候群)。
検 査
蘆乳汁分泌の有無。
蘆視診:腟管の有無。
蘆臭覚の存在(Kallmann 症候群)。
蘆超音波検査:腟閉鎖による腟・子宮内月経血貯留の有無。
蠡
症候編
蠡
症候編 17
C
無
月
経
蘆骨盤部 MRI :子宮・卵巣の有無。
頭部MRI・CT
蘆染色体検査
蘆血液ホルモン検査:黄体形成ホルモン,卵胞刺激ホルモン,
プロラクチン,甲状腺刺激ホルモン,17-OH プロゲステロン,
1
異常 +
異常 −
脳腫瘍
ゲスターゲン試験
C
テストステロン。
症
候
か
ら
鑑
別
す
る
蘆頭部 MRI・CT :下垂体腺腫,頭蓋咽頭腫に起因する Fröhlich
症候群。
無
月
経
消退出血
蘆薬剤投与試験
−
+
①ゲスターゲン試験(第 1 度無月経の診断)
視床下部性第1度無月経
②エストロゲン・ゲスターゲン試験
エストロゲン・ゲスターゲン試験
消退出血
鑑別フロー:原発性無月経
−
+
外性器
視床下部・下垂体性第2度無月経
Kallmann症候群なども含む
男性型
子宮性無月経
女性型
腟
アンドロゲン高値
副腎性器症候群
−
+
子宮
処女膜閉鎖
腟欠損症
MRI
性染色体検査
蘆性腺形成異常などのゴナドトロピン不応性卵巣では,
Kaufmann 療法を中心としたホルモン補充療法を 15 ∼ 18 歳
で開始する。
−
+
治 療
蘆 Y 染色体を含む性腺が体内にある場合,高率に悪性腫瘍を起
性染色体検査
こすため,性腺摘除を行う。
蘆下垂体性あるいは視床下部性無月経で挙児を希望する場合
X0
XY
XX
XY
XX
は,hMG-hCG 療法による排卵誘発を行う。
蘆性管閉鎖では閉鎖部位の開口を行う。
Turner症候群
真性半陰陽
頭部MRI・CT
蘆腟欠損症では性交可能となるように造腟術を行う。
精巣性女性化症候群
子宮欠損症
次頁へ
18
蠡
症候編
蠡
症候編 19
3 産科疾患
C 切迫早産
診 断
Threatened Premature Delivery
病歴聴取と腟分泌物細菌検査
病 態
蘆問診により早産の危険因子(既往妊娠や分娩歴,喫煙など)
を確認する。
切迫早産の主因は頸管無力症と絨毛膜羊膜炎
3
蘆クスコ診により出血の有無,帯下の性状・量および腟内の
pH を測定する。
産
科
疾
患
蘆妊娠 22 週以降 37 週未満に,下腹部痛,性器出血,破水など
蘆腟内の pH が上昇している場合,腟分泌物細菌検査で乳酸桿菌
の症状に加えて,規則的な子宮収縮があり,内診上,子宮口
消失と,Gardnerella vaginalis,Bacteroides 属,Mobiluncus
開大や頸管展退など Bishop スコア(☞ p.62)の進行が認め
属などが検出されれば細菌性腟症と診断する。
られ,早産に至る可能性が高い状態を切迫早産という。
蘆頸管無力症:胎胞による子宮頸管に対する圧迫・伸展刺激が
炎症性サイトカイン産生を促進し,卵膜でのプロスタグラン
ジン産生を増加させ子宮収縮を誘発する。頸管無力症の初期
経腟超音波検査
蘆経腟超音波検査による子宮頸管長の測定と funneling(羊膜
腔の頸管内への突出:写真 1)の観察を行う。
は子宮収縮がない。
蘆絨毛膜羊膜炎:感染を起因として卵膜でのプロスタグランジ
ン産生が増加し,好中球からの蛋白分解酵素放出促進を来し,
子宮収縮の誘発と卵膜の脆弱化(破水)が生じる。
蘆絨毛膜下血腫など非感染性炎症も原因となる。
蘆感染に起因する場合には,帯下の増加を伴う(細菌性腟症)。
蘆早産の危険因子には,多胎,早産歴,円錐切除術の既往,細
菌性腟症,喫煙のほか,表 1 に示すものがある。
表 1 早産の危険因子
・脱落膜出血(早餝,多胎,羊水過多など)
・頸管無力症
・子宮の歪曲(子宮奇形,子宮筋腫など)
・頸管の炎症
・母体の炎症・感染(尿路感染など)
・子宮胎盤循環不全(高血圧,インスリン依存性 DM,喫煙など)
写真1 funnelingの経腟超音波像
蘆妊娠 24 週での子宮頸管長が 25mm 以下になると,35 週未満
に早産に至る確率が増加する。
腟分泌物中癌胎児性フィブロネクチン測定(PTD チェック ®)
蘆無症状の妊婦で陰性を呈する場合は,妊娠 34 週以前に早産
に至る可能性は低い。
蘆切迫早産の症状を呈する妊婦で陽性の場合は 7 ∼ 10 日以内
に早産に至る可能性が高い。
蘆妊娠 20 ∼ 24 週で陽性を呈するより,28 週で陽性と判定され
74
蠱
産科・周産期編
蠱
産科・周産期編 75
C
切
迫
早
産
た方が妊娠 32 週あるいは 37 週以前の早産率が高くなる。
蘆 PTD チェック ® は,細菌感染や物理的要因で卵膜に炎症や
脆弱化が起きている患者に陽性となるため,絨毛膜羊膜炎の
マーカーとして用いられる。
子宮頸管粘液中顆粒球エラスターゼ測定
産
科
疾
患
蘆ウテメリン® やマグセント® が使用される。
処方例
ウテメリン(50mg/5ml)2A + 5 %ブドウ糖液 500ml を持
続輸液ポンプで 15ml/時(50µg/分)より開始,子宮収
縮や母体心拍数などを観察しながら 5ml/時ずつ増量。
C
エラスターゼ ® と定量法)は子宮頸管内の炎症により増加した
有効量は 50 ∼ 150µg/分,極量は 200µg/分。輸液量が多
顆粒球より分泌されるので,子宮頸管炎のマーカーとして用い
くなるようなら,溶解するウテメリンの量を増やす。
切
迫
早
産
子宮頸管粘液中顆粒球エラスターゼ(定性法:ファグノス・
3
子宮収縮抑制薬
【ウテメリン® の副作用】
られている。
子宮頸管粘液中の IL-6 濃度測定
早産の予知は,腟分泌物中癌胎児性フィブロネクチン測定に
よるものと同程度の診断効率である。
以下のような副作用があるので,定期的な血液生化学検査
が必要である。
・動悸,手指の振戦
・肝機能障害
・顆粒球減少症
その他の検査
・横紋筋融解症
蘆常位胎盤早期餝離の初期症状は切迫早産の症状と類似するた
処方例
め,超音波検査や CTG(胎児心拍数モニター)で鑑別する。
マグセント(10g/100ml)40ml(4g)を 1 時間かけて静脈内
蘆破水の診断は,α-フェトプロテイン(アムテック®)やイン
投与後,持続輸液ポンプで 10ml/時(1g/時)で投与。子
スリン様成長因子結合蛋白 1(チェック PROM®)を用いる。
宮収縮抑制が不十分なら 5ml/時(0.5g)ずつ増量。極量
は 20ml/時(2g/時)。ウテメリンとの併用も可である。
入院の適応
【マグセント® 使用時の注意】
®
蘆ウテメリン の内服で抑制できず,頻回の子宮収縮を認める。
蘆子宮口の開大。
蘆頸管長の短縮(妊娠 24 週以下で 25mm 未満)。
治 療
・マグネシウム中毒として,眼瞼下垂,膝蓋腱反射の消失,筋
緊張低下,心電図異常,呼吸数低下,呼吸困難などがある。
・予防には定期的なマグネシウム濃度の測定(治療域 4 ∼
7.5mg/dl),膝蓋腱反射の確認,呼吸数・呼吸困難感の観
察,尿量の確保(50ml/時以上)を行う。
・マグネシウム中毒の症状を認めた場合は,カルチコー
安静と子宮収縮抑制薬の投与が治療の基本である
長期のベッド上安静が必要な際は,血栓症の予防
に努める
ル® 1A(5ml)を 3 分以上かけて静注する。
蘆インドメタシンの早産予防効果は確認されているが,胎児の
腎血流を減少させ,羊水過少の原因となる。また,胎児動脈
管の早期閉鎖を引き起こす可能性があり,特に妊娠 28 週以
降は使用しない。
蘆アダラート ® は他の治療薬に比して子宮収縮抑制作用は強
76
蠱
産科・周産期編
蠱
産科・周産期編 77
3 腫 瘍
D 子宮頸癌
Cancer of the Cervical Canal
病 態
蘆臨床的には,接触出血を主訴とすることが多い。
診 断
細胞診
蘆診断には子宮頸部細胞診が必須である。
子宮頸癌の原因は HPV 感染とされている
3
蘆細胞診の評価として,2009 年度からベセスダシステム 2001
準拠子宮頸部細胞診報告様式(通称ベセスダシステム*ある
腫
瘍
蘆子宮の頸部を原発巣とする癌である。頸部と体部に癌がある
場合には,J平上皮癌であれば子宮頸癌とする。
蘆わが国では,年間約 15,000 人の女性が発症している。
蘆わが国における 20 歳代および 30 歳代の癌発症率の第 1 位で
ある。
蘆組織型はJ平上皮癌が 2/3 以上を占める。腺癌は 15 ∼ 25 %
であるが,粘液性腺癌,類内膜腺癌,明細胞腺癌,漿液性腺
癌,中腎性腺癌などがある。
蘆子宮頸癌は,子宮頸管内または子宮腟部のJ平上皮と円柱上
いは医会分類)が採用され,これに基づいた精密検査が行わ
れる。ベセスダシステムと従来のクラス分類(旧日母分類:
表 1)との関係を表 2,表 3 に示す。
蘆性交開始 3 年以内からの定期的な細胞診によるスクリーニン
グで子宮頸癌の死亡率は低下させることができる。
蘆中等度異形成以上の病変を検出する感度は細胞診より HPV
検査の方が高いが,特異度は HPV 検査の方が低い。
蘆 HPV 検査(hybrid capture II HPV test)は現時点で保険適
用がない。
皮の間の移行帯より発生するもので,異形成 dysplasia と呼
表 1 細胞診の旧日母分類
ばれる前癌病変から上皮内癌を経て浸潤癌になる。
蘆異形成から浸潤癌になるスピードは遅く,数年から数十年単
位での経過となる。
蘆前癌病変および癌の病因はヒトパピローマウイルス(HPV)
クラスⅠ
クラスⅡ
クラスⅢ
Ⅲa
の感染である。
蘆発癌性 HPV は,現在 15 種類の型が同定されている。
蘆わが国では,HPV16 および 18 型の感染が約 60 %を占めている。
蘆感染した HPV は大部分が 2 年以内に自然消滅するが,約
10 %が持続感染し,その一部が前癌病変を引き起こす。
Ⅲb
クラスⅣ
クラスⅤ
正常
異常細胞を認めるが良性
悪性を疑うが断定できない
悪性を少し疑う。軽度∼中等度異形成を想定。このクラスから
5 %程度に癌が検出される
悪性をかなり疑う。高度異形成を想定。このクラスからは
50 %程度に癌が検出される
極めて強く悪性を疑う。上皮内癌を想定する
悪性,浸潤癌を想定する
蘆その他の罹患危険因子として,HIV 感染,長期の経口避妊薬
の内服,経産回数,パートナーが包茎,喫煙などがある。
蘆発癌性 HPV に感染した女性の 0.15 %が子宮頸癌となる。
症 状
蘆初期癌は無症状(検診を受けることが重要)で経過するが,
浸潤癌では帯下や性器出血を呈することが多い。
256
蠶
婦人科編
*ベセスダシステム(BS)
細胞診の誤陰性が問題点となり,細胞診の解釈を臨床医に明確かつ適切な
方法で伝えることのできる細胞診報告書システムの作成が 1988 年にアメリ
カで行われた。その後,2001 年に改訂されている。細胞診の Papanicolaou
分類によるクラス分けを廃止し,記述的判読を取り入れることと,標本の適
否の評価を記載することが重要視されている。わが国でも 2009 年から採用
された。
蠶
婦人科編 257
D
子
宮
頸
癌
表 2 ベセスダシステム準拠の細胞診報告様式:J平上皮系
結果
3
腫
瘍
略語
推定される 従来のク
病理診断 ラス分類
英語表記
運用
(CIN2)となる。ほぼ全層の極性が消失し,核異型細胞に置換
されたものを高度異形上皮∼上皮内癌(CIN3)と診断する。
Negative for
非腫瘍性所
1) 陰性
Ⅰ,Ⅱ intraepithelial lesion or 異常なし:定期検査
NILM
見,炎症
malignancy
要精密検査:
①HPV 検査による判定
が望ましい。
2) 意義不明な
Atypical squamous cells
軽度J平上
陰性: 1 年後に細胞
異型J平上 ASC-US 皮内病変疑 Ⅱ-Ⅲ a of undetermined
診,HPV 併用検査
皮細胞
significance(ASC-US)
い
陽性:コルポ,生検
② HPV 検査非施行
6 か月以内細胞診検査
3) HSIL を除
高度J平上
外できない
ASC-H 皮内病変疑
異型J平上
い
皮細胞
HPV 感染
4) 軽度J平上
LSIL
軽度異形成
皮内病変
中等度異形成
5) 高度J平上
HSIL 高度異形成
皮内病変
上皮内癌
6) J平上皮癌
SCC
J平上皮癌
D
軽度異形成
中等度異形成
高度異形成
上皮内癌
J平上皮癌:微小浸潤癌
J平上皮癌:浸潤癌
Atypical squamous cells
Ⅲ a-b cannot exclude HSIL
(ASC-H)
Ⅲa
Ⅲa
Ⅲb
Ⅳ
Ⅴ
Low grade squamous
intraepithelial lesion
要精密検査:コルポ,
生検
High grade squamous
intraepithelial lesion
Squamous cell carcinoma
表 3 ベセスダシステム準拠の細胞診報告様式:腺細胞系
推定される 従来のク
英語表記
運用
病理診断 ラス分類
腺異型また
7) 異型腺細胞 AGC
Ⅲ
Atypical glandular cells
は腺癌疑い
要精密検査:コルポ,生
8) 上皮内腺癌
Ⅳ
AIS 上皮内腺癌
Adenocarcinoma in situ
検,頸管および内膜細
Adenoc
胞診または組織診
9) 腺癌
Ⅴ
arcino- 腺癌
Adenocarcinoma
ma
10) その他の
other その他の悪
Other malignant
Ⅴ
要精密検査:病変検索
悪性腫瘍
malig. 性腫瘍
neoplasms
結果
略語
組織診 (写真 1,図 1)
J平上皮化生の段階で HPV が感染すると,異形上皮から上皮
内癌へと変化する。重層J平上皮の下 1/3 の極性が消失し,予
備細胞由来の核異型細胞(基底細胞に類似するが,より NC 比は
258
大)に置換された状態が軽度異形上皮(CIN1)である。中 1/3
子宮頸部腺癌
まで極性が消失し,核異型細胞に置換されると中等度異形上皮
写真1 組織診
蠶
婦人科編
蠶
婦人科編 259
子
宮
頸
癌
表層の異形細胞
中層の異形細胞
上1/3
中1/3
3
腫
瘍
旁基底型
N/C大
細
胞
質
の
分
化
下1/3
正常
軽度異形成
mild dysplasia
中等度異形成
moderate
CIN*1
CIN 2
low grade SIL**(LSIL)
高度異形成
severe
上皮内癌
CIS
CIN 3
high grade SIL(HSIL)
(*CIN:cervical intraepithelial neoplasia,**SIL:squamous intraepithelial lesion)
図1 J平上皮内病変
(日産婦誌51(12): N-487, 1999より)
蘆 BS により ASC-US 以上の場合(表 2)にコルポスコープ下
に狙い組織診が施行される。
蘆高度異形上皮以上で治療の対象となる。
蘆浸潤癌と診断されれば,治療方針の決定のために臨床進行期
を決定する。
臨床進行期分類
蘆治療法の決定,予後の推定,治療成績の評価の基本となるも
ので,FIGO の臨床進行期分類(表 4)と UICC の TNM 分類
を使用する。
蘆臨床進行期分類は治療開始前に決定し,以後変更しない。
蘆進行期決定に迷った場合は,軽い方の進行期にする。膀胱,
直腸への浸潤が疑われる場合は,生検で組織学的に確かめ
る。
表 4 子宮頸癌の臨床進行期分類
旁基底の異形細胞
0期
Ⅰ期
Ⅰa期
上皮内癌
癌が子宮頸部に限局
組織学的にのみ診断できる浸潤癌。肉眼的に明らかなもの
はⅠ b 期以上
Ⅰ a 1 期 間質浸潤の深さが 3mm 以内で広がりが 7mm を超えないもの
Ⅰ a 2 期 間質の浸潤の深さが 3mm を超えるが 5mm 以内で,広がり
が 7mm を超えないもの
臨床的に明らかな病巣が子宮頸部に限局するか臨床的に明
Ⅰb期
らかでないがⅠ a 期を超えるもの
Ⅰ b 1 期 病巣が 4cm 以内のもの
Ⅰ b 2 期 病巣が 4cm を超えるもの
癌が頸部を越えて広がっているが,骨盤壁または腟壁下
Ⅱ期
1/3 には達していないもの
膣壁浸潤が認められるが,子宮傍組織浸潤は認められない
Ⅱa期
もの
Ⅱb期
子宮傍組織浸潤の認められるもの
癌浸潤が骨盤壁にまで達するもので,腫瘍塊と骨盤壁との
Ⅲ期
あいだに free space を残さない,または腟壁浸潤が下 1/3
に達するもの
腟壁浸潤は下 1/3 に達するが,子宮傍組織浸潤は骨盤壁に
Ⅲa期
までは達していないもの
子宮傍組織浸潤が骨盤壁にまで達しているもの。明らかな
Ⅲb期
水腎症や無機能腎を認めるもの(癌の浸潤が原因と考えら
れる場合)
癌が小骨盤腔を越えて広がるか,膀胱または直腸の粘膜を
Ⅳ期
侵すもの
Ⅳa期
膀胱,直腸の粘膜への浸潤があるもの
Ⅳb期
小骨盤腔を越えて広がるもの
注)腺癌についてはⅠ a 期の細分類は行わない。
MRI
蘆子宮頸癌は,T2 強調像で高信号を呈し,造影により淡く造
影される。
蘆子宮傍組織への浸潤は,T2 強調画像の横断像で評価できる
(低信号の stromal ring が確認できるかがポイント)。また,
腟壁への浸潤も T2 強調画像(腫瘍に連続した高進号な部分
の進展)で行える。
260
蠶
婦人科編
蠶
婦人科編 261
D
子
宮
頸
癌
蘆上皮内癌や微小浸潤癌の診断は不可能である。
0期
蘆子宮頸部円錐切除術を行う。摘出標本に浸潤性病変がなく,
温存子宮にも遺残がない場合はこれで治療終了。
蘆子宮温存希望のない場合は子宮の摘出も考慮する。
蘆腺癌では単純子宮全摘出術を行う(妊孕性温存の希望がない
場合)。
3
D
蘆頸部細胞診で異型腺細胞が検出され,上皮内癌以上の病変が
腫
瘍
疑われる場合には,診断のために円錐切除術を施行する。高
Ⅰb期矢状断
Ⅱb期水平断
度異形成も上皮内癌(0 期)と同様に扱う。
蘆わが国では,フォトフィリン ® を用いた光線力学療法も保険
適用となっているが,施行施設には限りがある。
広汎性子宮全摘出術は,Ⅰ b 期,Ⅱ a 期,Ⅱ b 期
に適応となる
Ⅰa期
Ⅲb期水平断
写真2 子宮頸癌のMRI像
入院の適応
する(腺癌の場合は分類しない)。
蘆診断は円錐切除術によって行う。
蘆蠢 a1 期は,脈管侵襲や癒合浸潤が認められない場合は単純
蘆性器出血が多く,貧血が進行している。
子宮全摘出術を,認められる場合は準広汎性子宮全摘出術と
蘆進行癌のため水腎症となり,腎機能が悪化している。
骨盤リンパ節郭清を行う(妊孕性温存時の治療も参照)。
臨床進行期に応じた治療
蘆J平上皮癌と腺癌では,子宮温存と卵巣温存の適応が異なる。
蘆子宮頸癌予防ワクチンは,HPV16 および 18 型が関与する前
癌病変(CIN2 および CIN3)の発症を 92 ∼ 100 %予防する。
蘆 10 歳以上の女性への子宮頸癌予防ワクチン(サーバリック
ス®)の接種が承認された。
円錐切除は,上皮内癌には治療目的で,それ以外
では検査目的で行われる
262
蘆癌の広がりによってⅠ a1 とⅠ a2 に分類して治療方針を決定
蠶
婦人科編
蘆蠢 a2 期には,骨盤リンパ節郭清を含む準広汎性子宮全摘出
術を行う。
蘆腺癌の場合は,浸潤が深ければ骨盤リンパ節郭清を含めた準
広汎性子宮全摘出術または広汎性子宮全摘出術を行う。また,
浸潤が浅ければ骨盤リンパ節郭清を伴わない準広汎性子宮全
摘出術を行う。
Ⅰ b 期∼Ⅱ期
蘆広汎性子宮全摘出術を行う。
蘆Ⅰ b とⅡ a 期においては,広汎性子宮全摘出術と同時化学放
蠶
婦人科編 263
子
宮
頸
癌