.ベセスダシステム 2001 準拠子宮頸部細胞診報告様式の実際 Ⅳ (通称:ベセスダシステムあるいは医会分類) 1.標本の種類、2.検体の適否、3.細胞診判定、の順に報告される。 1.標本の種類 まず、標本の作成法を明示する。従来の直接塗抹法と液状検体法がある。ベセスダシステム 2001では直接塗抹法と液状検体法のどちらに対しても適応しているので、選択したものを示す。 また、細胞採取器具(サイトピック、ヘラ、ブラシなど)を明示する。 2.検体の適否 適正もしくは不適正を明示する。不適正の場合にはその理由が記入される。不適正には検体が不 合格(例:検体にラベルがない、スライドの破損など)のため、鏡検による評価そのものが除外さ れる場合と、鏡検はされるが、評価するには不適正な場合がある。 適正検体の条件は、保存状態がよく、鮮明に見える扁平上皮細胞が直接塗抹法では8,000 12,000個、液状検体法の場合は5,000個以上である。図3-5に不適正な検体の例を示す。 図3 図4 図5 図3 スライドガラス上に塗布された上皮細胞数が基準値を大きく下回り、不適正検体と判定。 図4 多数の炎症細胞によって覆われているため、上皮細胞の評価が困難であり不適正検体と判定。 図5 スライドガラス上の細胞の大部分が、過度な乾燥によるアーティファクトが強く不適正検体と判定。 (以上 癌研究会有明病院細胞診断部提供) (付記)不適正検体の取り扱い ・検体が評価に適さないと判断された場合は、検体採取が行われた医療機関で、再度、細胞を採取す べきである。 ・医療機関が再検査に要する費用を自治体または受診者に請求することになった場合は、細胞の採取 費用のみを請求すべきであり、検診に要するすべての費用を請求すべきではない。 ・車検診の場合には再度の細胞採取のための受診機会を自治体が設定することが望ましい。 ・行政検診は自治体との契約によって臨床医が行っているので、細胞の再度の採取に要する費用は、 本来、自治体が負担するのが適切と思われる。自治体との話し合いが必要である。 ・地域の実情において細胞検査機関が再度採取された細胞診費用を負担することもあるかもしれない。 3.細胞診判定(表2、3) 細胞診結果はベセスダシステム2001に準拠した報告様式で報告される。表2、3に判定結果と 略語、推定される病変(病理診断)、また旧日母分類との関係を示した。右端に検診や実地臨床に おける運用方針(対応)を記載した。上皮異常は、扁平上皮系の異常と腺系の異常が区別して示さ れる。報告書には臨床的取扱いの参考にするために、推定される病理組織分類を付記することが推 奨されている。 -4- 表2 細胞診結果 その1:扁平上皮系 結果 1)陰性 2)意義不明な 異型扁平 上皮細胞 3)HSIL を除外 できない異型 扁平上皮細胞 4)軽度扁平 上皮内病変 略語 推定される 病理診断 従来の クラス分類 NILM 非腫瘍性所見、 炎症 、Ⅱ Ⅰ ASC-US ASC-H LSIL 英語表記 Negativefor intraepithelial lesion or 異常なし:定期検査 malignancy Atypicalsquamouscells 軽度扁平上皮 内病変疑い -Ⅲ Ⅱ a ofundetermined 高度扁平上皮 内病変疑い a-b Ⅲ significance(ASC-US) HPV 感染 軽度異形成 a Ⅲ Ⅲa b Ⅲ Ⅳ 5)高度扁平 上皮内病変 HSIL 中等度異形成 高度異形成 上皮内癌 6)扁平上皮癌 SCC 扁平上皮癌 Ⅴ 運用 要精密検査: HPV 検査 による判 定が ① 望ましい。 陰性: 1 年後に細胞診、 HPV 併用検査 陽性:コルポ、生検 HPV 検査非施行 ② 6 ヵ月以内細胞診検査 Atypicalsquamouscells cannotexcludeHSIL (ASC-H) Lowgradesquamous intraepitheliallesion 要精密検査: コルポ、生検 Highgradesquamous intraepitheliallesion Squamouscell carcinoma 表3 細胞診結果 その2:腺細胞系 略語 推定される 病理診断 7)異型腺細胞 AGC 腺異型または 腺癌疑い Ⅲ Atypicalglandularcells 8)上皮内腺癌 AIS 上皮内腺癌 Ⅳ Adenocarcinomainsitu 腺癌 Ⅴ Adenocarcinoma その他の悪性 腫瘍 Ⅴ Other malignant neoplasms 結果 9)腺癌 10)その他の 悪性腫瘍 Adenocar cinoma othermalig. 従来の クラス分類 英語表記 取扱い 要精密検査:コルポ、生検、 頸管 お よび内 膜細 胞 診または組織診 要精密検査:病変検索 1)陰性は腫瘍性細胞所見を認めない場合であり、HPV感染以外による炎症所見や修復細胞所 見もここに含まれる。 2)意義不明な異型扁平上皮細胞、ASC-US(図6)は軽度な異型がみられ、軽度扁平上皮内 病変(LSIL)が疑われるが、LSILの診断基準をみたさないものをさす。概ね従来の要再検査(表 層細胞の一部に核肥大がみられる等)に相当する。「判定が難しい」「鑑別が困難である」な どと説明される。全報告の5%以下であることが期待される。ハイリスクHPVが約50%に検出 される。約10 20%は中等度-高度異形成、上皮内癌と最終診断される。 -5- 図6 意義不明な異型扁平上皮細胞(ASC-US)*と判定された例。 表層細胞の一部に核肥大がみられるが、軽度扁平上皮内 病変(LSIL)の要件を満たさない。 *(注)ASC-US の判断基準 ・核は 、正常 の中層扁平上皮細胞(約 35µm 2 )の核の約 2.5 3 倍 である。 ・N/C 比はやや上昇する。 ・わずかな核の濃染と、クロマチン分布や核の形状の不規則性。 ・厚いオレンジ好性細胞質をもつ細胞の核異常(「異型錯角化」)。 (癌研究会有明病院細胞診断部提供) 3)HSIL(高度扁平上皮内病変)を除外できない異型扁平上皮、ASC-Hは中等度異形成以上の高 度な病変が疑われるが、断定できない場合である。「高度病変疑い」と説明され、精密検査の 対象となる。全ASCの10%以下であることが期待される。 (注)ASCは、「陰性」か「SIL(扁平上皮内病変)」にふり分けできない症例に対応するためのカテゴ リーであり、SILと明確に判断するには質的・量的に不十分な症例に対して設定された。意義不明な異 型扁平上皮細胞ASC-US(Atypical squamouscellsofundeterminedsignificance)とHSILを除外 できない異型扁平上皮細胞ASC-H(AtypicalsquamouscellscannotexcludeH-SIL)に分けられる。 4)軽度扁平上皮内病変、LSILはHPV感染(コイロサイトーシス)ならびに軽度異形成に相当 する。 5)高度扁平上皮内病変、HSILは中等度異形成、高度異形成、上皮内癌(浸潤を疑う場合を含 む)までを包括した概念である。 (注)浸潤が疑われる場合には「浸潤を疑う所見のあるHSIL」と表記する。 6)扁平上皮癌、SCCは浸潤扁平上皮癌である。 7)異型腺細胞、AGCは腺に異型があるが上皮内腺癌(AIS)とするには異型が弱いもの、ある いは腺癌が疑われるが断定できないもの、の2つの概念が含まれる。 (注)ベセスダシステム2001では、AGC-NOSおよびAGC-favor neoplasticの二つが設定されている。 AGC-NOS(特定不能 な 異型腺 細胞)は 腫瘍性 かどうかを 特定 で きない 場合を示し、 AGC-favor neoplastic(腫瘍性を示唆する異型腺細胞)は細胞形態は異常であるが、量的質的に内頸部AISや浸潤性 腺癌の判断に至らないものを指す。また、AGC-NOSでは内頸部由来か内膜由来か特定できるときは区 別すること、AGC-favorneoplasticでは内頸部由来が特定できるときは、記すこととされている。 8)上皮内腺癌、AISは間質浸潤を欠く内頸部腺癌である。 9)腺癌、Adenocarcinomaは浸潤腺癌を示す。 .ベセスダシステム 2001 準拠子宮頸部細胞診報告様式の実際例 Ⅴ (通称:ベセスダシステムあるいは医会分類) 報告様式の実際例を表4に示す。また、自治体における集計表の実際例を表5に示す。これらを 参考にして各施設および自治体との話し合いによって使い勝手の良い報告様式を作成することを推 奨する。 -6- 表4 ベセスダシステム2001準拠子宮頸部細胞診結果報告書式例 1.標本の種類 標本作成法 細胞採取器具 □ 直接塗抹法、□ 液状検体法 次の対応 □ サイトピック、□ ヘラ、□ ブラシ、□ 綿棒、□ その他 ベセスダシステム 推定病変 用語説明 日母分類 2.標本の適否 □ 適性 □ 不適正 □ 判定可能 □ 判定不可 再検査 理由: 3.細胞診判定 □ 陰性 (NILM) □ 微生物 □ その 他 の非腫瘍性所見 Ⅰ Ⅱ 、 定期検診 以下は要精密検査 HPV検査が望ましい、ま ① たは、② 6ヶ月以内に細胞診 □ 扁平上皮系異常 ASC-US □ 軽度扁平上皮内病変疑い 意義不明な異型扁平上皮細胞 -Ⅲ Ⅱ a ASC-H □ 高度扁平上皮内病変疑い HSIL を除外できない異型扁平上皮細胞 a-b Ⅲ コルポ、生検 LSIL □ HPV 感染 軽度扁平上皮内病変 a Ⅲ 軽度異形成 コルポ、生検 □ □ 中等度異形成 高度扁平上皮内病変 a Ⅲ □ 高度異形成 □ 上皮内癌 □ 扁平上皮癌 HSIL SCC コルポ、生検 b Ⅲ Ⅳ 扁平上皮癌 Ⅴ コルポ、生検 □ 腺系異常およびその他の悪性腫瘍 AGC □ 腺異型または腺癌疑い 異型腺細胞 Ⅲ AIS □ 上皮内腺癌 上皮内腺癌 Ⅳ Adenocarcinoma □ 腺癌 腺癌 Ⅴ コルポ 、 生検、頸管およ び内膜細胞診または 組織診 Othermalig □ その他の悪性腫瘍 その他の悪性腫瘍 Ⅴ 病変検索 4.細胞所見 5.注 表5 子宮頸がん検診受診状況(一次検診)集計表 (子宮がん小委員会案) 細胞診断(扁平上皮系) 区分 1 検 21 22 32 33 34 35 L S I L ︵ 軽 度 異 形 成 ︶ H S I L ︵ 中 等 度 異 形 成 ︶ H S I L ︵ 高 度 異 形 成 ︶ H S I L ︵ 上 皮 内 癌 ︶ S C C ︵ 扁 平 上 皮 癌 ︶ Ⅳ Ⅴ 初 診 受 回 対 診 受 象 者 診 者 数 者 数 N I L M ︵ 陰 性 ︶ 数 年齢 Ⅰ Ⅱ 、 一 A S C A S C U S H − Ⅱ a− Ⅲ a (*) Ⅲ Ⅲ b (**) (腺系) (その他) 31 a Ⅲ Ⅲ a Ⅲ b 41 A G C ︵ 腺 異 型 腺 癌 疑 い ︶ Ⅲ 42 43 51 A I S ︵ 上 皮 内 腺 癌 ︶ A d e n o c a ︵ 腺 癌 ︶ O t h e r ︵ そ の 他 の 癌 ︶ Ⅳ Ⅴ Ⅴ 指示区分 61 71 72 73 74 判 定 不 能 検 体 不 適 正 ︵ 再 採 取 ︶ 異 常 な し 要 精 密 検 査 そ の 他 19 次 検 査 20 24 25 29 30 34 35 39 40 44 45 49 50 54 55 59 60 64 65 69 70 74 75 79 80 合計 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 ASC-US、ASC-Hを従来のクラス分類へ該当させる場合は、各々クラス a Ⅲ (*)、 b Ⅲ (**)とする。 -7-
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