7-15.中東呼吸器症候群(MERS)(暫定版)

北大病院感染対策マニュアル
第6版
7-15.中東呼吸器症候群(MERS)(暫定版)
2012 年 9 月 22 日、中東へ渡航歴のある重症肺炎患者から後に Middle East Respiratory
Syndrome Coronavirus(MERS コロナウイルス)と命名される新種のコロナウイルス(以
下、MERS-CoV)が分離されたと英国より WHO に報告がなされた。その後、中東地域に居
住または渡航歴のある者、あるいは中東呼吸器症候群(MERS)患者との接触歴のある者に
おいて、このウイルスによる MERS の症例が継続的に報告されてきた。
2015 年 6 月 3 日までに、計 25 か国からヒトの確定感染例が報告されている。中東地
域(ヨルダン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、
イエメン、イラン、レバノン)、アフリカ(エジプト、チュニジア、アルジェリア)、ヨ
ーロッパ(フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、英国、オランダ、オーストリア、
トルコ)、アジア(マレーシア、フィリピン、韓国、中国)、北アメリカ(米国)。
中東地域以外の国からの報告例は、すべて中東地域への渡航歴のあるもの、もしくは
その接触者であった。中東以外の国で、輸入例を発端とした国内感染事例が報告されて
いるのは、イギリス、フランス、チュニジア、韓国の 4 か国である。
感染経路として、動物からの感染、医療機関や家族内におけるヒト-ヒト感染が報告さ
れているが、曝露歴が不明なものも認められる。
平成 27 年 1 月 21 日から、MERS は感染症法における二類感染症に指定された。(それ
以前は二類感染症相当の指定感染症に指定されていた。)平成 27 年 6 月 4 日の厚生労働
省からの通知(健感発 0604 第 1 号)を受けて、本院では本マニュアルを作成した。
Ⅰ.定義
コロナウイルス科ベータコロナウイルス属の MERS (Middle East Respiratory Syndrome)コロナウイルスによる急性呼吸器症候群である。
Ⅱ.臨床的特徴
ヒトコブラクダが MERS コロナウイルスを保有しており、ヒトコブラクダとの濃厚接触
が感染リスクであると考えられている。一方、家族間、感染対策が不十分な医療機関な
どにおける限定的なヒト-ヒト感染も報告されている。中東諸国を中心として発生がみ
られている。
Ⅲ.届出基準
1.患者(確定例)
医師は、
【Ⅱ.臨床的特徴】の臨床的特徴を有する者について、【Ⅳ.感染が疑わ
中東呼吸器症候群(MERS)(H28.5 内容確認)-1
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れる患者の要件】に該当すること等から中東呼吸器症候群が疑われ、かつ、下表の
左欄に掲げる検査方法により、病原体の少なくとも 2 つの遺伝子領域が確認された
ことから、当該者を中東呼吸器症候群と診断した場合には、法第 12 条第 1 項の規定
による届出を直ちに行わなければならない。
この場合において,検査材料は下表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。
2.無症状病原体保有者
医師は、診察した者が【Ⅱ.臨床的特徴】の臨床的特徴を呈していないが、下表
の左欄に掲げる検査方法により、病原体の少なくとも 2 つの遺伝子領域が確認され
たことから、当該者を中東呼吸器症候群の無症状病原体保有者と診断した場合には、
法第 12 条第 1 項の規定による届出を直ちに行わなければならない。
この場合において、検査材料は下表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。
3.疑似症患者
医師は、【Ⅱ.臨床的特徴】の臨床的特徴を有する者について、【Ⅳ.感染が疑わ
れる患者の要件】に該当すること等から中東呼吸器症候群が疑われ、かつ、下表の
左欄に掲げる検査方法により、病原体の少なくとも 1 つの遺伝子領域が確認された
ことから、当該者を中東呼吸器症候群の疑似症と診断した場合には、法第 12 条第 1
項の規定による届出を直ちに行わなければならない。
この場合において、検査材料は下表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。
4.感染症死亡者の死体
医師は、【Ⅱ.臨床的特徴】の臨床的特徴を有する死体について、【Ⅳ.感染が疑
われる患者の要件】に該当すること等から中東呼吸器症候群が疑われ、かつ、下表
の左欄に掲げる検査方法により、病原体の少なくとも 2 つの遺伝子領域が確認され
たことから、当該者を中東呼吸器症候群により死亡したと判断した場合には、法第
12 条第 1 項の規定による届出を直ちに行わなければならない。
この場合において、検査材料は下表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。
5.感染症死亡疑い者の死体
医師は、【Ⅱ.臨床的特徴】の臨床的特徴を有する死体について、【Ⅳ.感染が疑
われる患者の要件】に該当すること等から中東呼吸器症候群により死亡したと疑わ
れる場合には、法第 12 条第 1 項の規定による届出を直ちに行わなければならない。
検査方法
検査材料
分離・同定による病原体の検出
鼻腔吸引液、鼻腔拭い液、咽
検体から直接のPCR法による病原体の遺伝子の検出
頭拭い液、喀痰、気道吸引液、
肺胞洗浄液、剖検材料
中東呼吸器症候群(MERS)(H28.5 内容確認)-2
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Ⅳ.感染が疑われる患者の要件
患者が次の 1, 2, 3 のいずれかに該当する場合には、MERS が疑われる。
1.38℃以上の発熱及び咳を伴う急性呼吸器症状を呈し、臨床的又は放射線学的に実
質的肺病変(例:肺炎又は ARDS)が疑われる者であって、発症 14 日以内にアラビ
ア半島又はその周辺諸国※に渡航又は居住していたもの。
2.発熱を伴う急性呼吸器症状(軽症の場合を含む)を呈し、発症前 14 日以内にアラ
ビア半島又はその周辺諸国※において、医療機関を訪れたもの、MERS であること
が確定した者との接触歴があるもの又はラクダとの濃厚接触歴(例:未殺菌乳の
喫食)があるもの
3.発熱又は急性呼吸器症状(軽症の場合を含む)を呈する者であって、発症前 14 日
以内に、アラビア半島又はその周辺諸国は否かを問わず、MERS が疑われる患者を
診察、看護若しくは介護していたもの、MERS が疑われる患者と同居(当該患者が
入院する病室又は病棟に滞在した場合を含む)していたもの又は MERS が疑われる
患者の気道分泌液、体液等に直接触れたもの
※ アラブ首長国連邦、イエメン、イラン、オマーン、カタール、クウェート、サ
ウジアラビア、ヨルダン及びレバノン
※ 平成 27 年 5 月に発生した韓国における症例は、現時点では、院内感染等による
限定的なものです。従って、韓国への渡航歴があるということのみをもって MERS を
疑う患者とはならない点に御留意ください。
Ⅴ.MERS に関する電話相談
1.日中(8 時 30 分~17 時)の対応
1)MERSに関する電話相談は総合外来(内科)(内線:5750, 5751)が対応。一般的な
質問や相談については,札幌市保健所感染症総合対策課(電話 622- 5199)を紹
介する。
2)MERS 疑いの成人患者で当院初診の判断が必要な場合には,「MERS 疑い患者対応フ
ローチャート」に従って,8 時 30 分から 12 時までは総合案内(内線:6000)あ
るいは内科総合外来(内線:5750),12 時から 17 時までは内科Ⅰ(内線:5752,
6031)が対応する。紹介状がない場合には基本的に受診をお断りする。
3)MERS 疑いの小児患者で当院初診の判断が必要な場合には,「MERS 疑い患者対応フ
ローチャート」に従って,小児科(内線:5766,5767)が行う。紹介状がない場
合には基本的に受診をお断りする。
4)MERS 疑いの再来患者で当院受診の判断が必要な場合には,「MERS 疑い患者対応フ
ローチャート」に従って,かかっている再来の診療科が行う。
中東呼吸器症候群(MERS)(H28.5 内容確認)-3
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2.夜間(17 時~翌日 8 時 30 分)
・休日の対応
1)MERS に関する電話相談は事務当直室:(DI)011-706-5610 が対応。一般的な質問や
相談の窓口は,札幌市保健所感染症総合対策課(電話 622- 5199)を紹介する。
2)MERS 疑いの初診患者で当院受診の判断が必要な場合には,「MERS 疑い患者対応フ
ローチャート」に従って,救急科医師が対応する。
3)MERS 疑いの再来患者で当院受診の判断が必要な場合には,「MERS 疑い患者対応フ
ローチャート」に従って,かかっている再来の診療科当直医が対応する。
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Ⅵ.平日の対応(8 時 30 分~17 時まで)
1.MERS 疑い患者(初診・再来)が当院に直接来院した場合
1)MERS 疑い患者の早期確認と隔離
総合案内などに MERS に関するポスターを掲示する。
総合案内・内科総合外来・外来看護相談窓口・医事課窓口・各外来窓口・入退
院センターなどで,「MERS 疑い患者対応フローチャート」に従って,MERS 疑い患
者に該当するかどうかを確認する。
MERS が疑われる場合は,患者にサージカルマスクを着用してもらう。対応者は
N95 マスクを着用し,外来玄関風除室に隣接している陰圧個室である「外来トリ
アージ室」に案内して待機してもらうと同時下記に連絡する。
初診患者:成人は内科Ⅰ,小児は小児科。
再来患者:再来担当科。
(患者の診療をどこで行うかは,初診,再来診療を担当する科の,医師,看護師と
感染制御部で話し合い決定する。「外来トリアージ室」で行うことが望ましい。)
2)胸部単純エックス線撮影や胸部 CT 撮影が必要な場合
原則,
「外来トリアージ室」でのポータブル撮影とする。ポータブル撮影は即時
対応が可能。ポータブル撮影で診断が困難な場合のみ,一般撮影室での胸部単純
撮影または胸部 CT 撮影を行う。
ポータブル撮影:担当診療科外来がポータブル撮影担当技師(PHS:82-831)に
連絡する。
一般撮影室での胸部単純エックス線撮影および胸部 CT 撮影:担当診療科外来が
放射線部(一般撮影室:5693,CT 受付:6990)に連絡し,時間調整を行い,患者
を棟外から放射線部1階非常口に誘導する(できる限り午後 4 時 30 分~午後 5 時
30 分の実施が望ましい)。
3)患者診察時の注意点
診療する医師,看護師,その他医療従事者はN95 マスクを着用する。患者に接
触する場合は,原則として手袋・ガウン・ゴーグル・キャップを着用する。診療
終了後は,「手洗い」と「うがい」を行う。
原則として本院への入院は行なわない。但し,緊急を要する場合は救急部で一
時的対応を行うこともありうる。その際は,事前に救急部と連絡調整を行う。
Ⅶ.夜間・休日の対応
1.MERS 疑い初診患者(本学職員・学生のみ),再来患者が直接来院した場合
1)患者のサージカルマスク着用
事務当直は N95 マスクを着用すると同時に,患者にサージカルマスクを着用し
てもらい,担当診療科または救急科の当番医に「MERS 疑い患者が直接来院した」
中東呼吸器症候群(MERS)(H28.5 内容確認)-5
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旨を連絡する。
2)患者を外来トリアージ室に案内
担当診療科または救急科の当番医は,防災センター(内線 6999)に連絡して,
外来トリアージ室の開錠を依頼すると共に,患者を外来トリアージ室に案内する。
3)MERS 疑い患者に該当するかどうかの確認
診療する医師はN95 マスクを着用する。患者に接触する場合は,原則として手
袋・ガウン・ゴーグル・キャップを着用する。診療終了後は,
「手洗い」と「うが
い」を行う。
担当診療科または救急科の当番医は「MERS 疑い患者対応フローチャート」に従
って,MERS 疑い患者に該当するかどうかを確認する。
4)MERS 疑い患者に該当しない場合
通常通りの診療を行う。
5)MERS が疑われる場合
感染制御部医師に連絡すると同時に,札幌市保健所感染症総合対策課(電話
622- 5199)に相談する。
感染制御部
石黒
信久
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