海外感染症流行等に関する情報提供(27-39)

海外感染症流行等に関する情報提供(27-39)
平成 27 年 5 月 26 日
要約
1)西アフリカにおけるエボラ出血熱の流行状況の更新(WHO)
2)パキスタンにおけるクリミア・コンゴ出血熱の患者報告(Dawn)
3)韓国、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタールにおける中東呼吸器症候群の
新規患者報告(Korea Joongang Daily, Arirang, Saudi MOH, WHO, The Peninsular 他)
4)エジプトにおける鳥インフルエンザ A(H9 亜型)の患者報告(FAO EMPRES)
5)米国とフランスにおける狂犬病曝露事例の報告(Palm Beach Post, fitfortravel)
6)世界初のマラリアワクチン開発進捗状況(Medical Tribune)
本文
1)世界保健機関(WHO)は 22 日、西アフリカにおけるエボラ出血熱(EVD)の流行状況を更新
しました(既報:27-38)。既報から 2 日間で、ギニアで 12 人、シエラレオネで 34 人、計
46 人の新規確定患者が報告されています。ギニアでは現在も EVD 患者は増加傾向にあり、
複数の地域で検知されていない感染連鎖が存在し続けていることが示唆されています。ま
た、最近の集団感染が確認されているボケ県は、ギニアビサウに近いため、同国から対策
チームが入国地点での体制を評価するために国境方面に派遣されています。シエラレオネ
でも EVD 患者の報告は続いていますが、既報患者との接触者が多く、検知されている感染
連鎖の範囲内での発生となっています。リベリアは 9 日に終息が宣言されて以後、新規確
定患者は報告されていません。疑い例と可能性例を含めた西アフリカ 3 か国の累計患者数
は 26,979 人、累計死亡者は 11,125 人となっています。
2)17 日の現地報道によりますと、パキスタンのシンド州において、クリミア・コンゴ出
血熱(CCHF)による死亡者が報告されたとのことです。同国における 2015 年の最初の CCHF
患者です。患者は 37 歳の男性で、重度の発熱と息切れ、出血を発症して 15 日に民間病院
に入院しましたが、17 日に死亡しました。患者は牛のオーナーであり、動物からマダニを
介して感染したと推測されています。同国では、2014 年に 16 人の CCHF 患者が報告されて
おり、うち 6 人が死亡しています。
3)韓国、中東諸国における中東呼吸器症候群(MERS)の新規患者報告です。
① 韓国:同国保健当局は 21 日、同国における 3 人目の MERS 診断確定患者を報告しまし
た。患者は 76 歳の男性で、同国における 1 人目の患者(既報:27-38)とソウル市内の病院
で 16 日に 5 時間ほど同室にいました。発症時に発熱はありましたが、呼吸困難はありま
せんでした。なお、2 人目の患者(既報:27-38)も呼吸困難は確認されていません。現在、
患者の家族と患者を治療した医療従事者の合計 64 人が予防措置として隔離(数人は隔離
施設で残りは自宅隔離)されているとのことです。同局はこの予防措置により、これ以上
の感染拡大はないと述べています。なお、同国における感染症の予防及び管理に関する
法律では、
「感染症に感染したり伝播させたりする恐れがある者を、保健福祉部長官、市・
道知事又は市長・郡守・区庁長が、自家もしくは感染症管理施設で治療するようにでき
る。
」と規定されており、隔離を拒否した場合は 300 万ウォン(日本円で約 33 万円)以下
の罰金刑に処されます。
また、
26 日の Arirang の報道によりますと、
韓国で 4 人目の MERS 患者が報告されました。
この患者は上記 3 例目の娘で、1 人目の患者(既報:27-38)と同じ病院に滞在して感染した
と考えられています。
② サウジアラビア:同国保健省は 20 日から 24 日までの間に、MERS の新規患者 3 人を公
表しました。いずれの患者もハフーフ市在住です。21 日に報告された患者は 46 歳の男性
で危篤状態です。23 日に報告された患者は 77 歳の女性で危篤状態です。24 日に報告さ
れた患者は 68 歳の女性で危篤状態です。いずれの患者も医療従事者ではありませんが、
既報患者との接触歴が確認されています。また、同期間中に既報患者 3 人の死亡が報告
されています。同国では 24 日現在、1,004 人の診断確定患者が報告されており、うち 438
人が死亡、559 人が回復、6 人が治療中、1 人が自宅隔離中です。
③ アラブ首長国連邦:WHO は 24 日、アラブ首長国連邦(UAE)の国際保健規約(IHR)担当者
から、18 日に同国で MERS の新規患者 1 人の報告を受けたと発表しました。患者はアル・
アインの外国籍の 33 歳の男性で、
オマーンから輸入した MERS コロナウイルス(MERS-CoV)
に感染したラクダ(既報 27-38 に記載有り)と接触歴があります。この男性は、症状がな
く、17 日、患者の喀痰検査で MERS-CoV 陽性が確定しました。現在、男性は無症状のまま
病院の陰圧室で経過観察されています。また家族や医療関係者の接触者検診も実施され
ています。
④ カタール:同国健康最高評議会(SCH)は 22 日、MERS の新規患者 2 人を報告しました。1
人目は、ラクダ農場で働く 29 歳の外国籍男性で、5 日間の発熱と咳症状を認め、19 日に
一次医療センターを受診して 20 日に確定診断されました。
合併症、
潜伏期間中の渡航歴、
既報患者との接触歴はありません。現在、感染予防管理のもとに入院治療中で、状態は
安定しています。専門チームは他の労働者とラクダとの関連を調査しているとのことで
す。2 人目は、急性呼吸器感染症に罹患している 73 歳のカタール人男性で、ハマド医療
研究所で確定診断されました。専門チームはいずれも接触者リストを作成して 14 日間の
監視を行い、呼吸器症状が出現したら当局に報告する体制をとっています。同国におい
て、2015 年に報告された 4 人目の患者となります。
4)エジプト保健省は 7 日、発熱、咳症状の 7 歳の男児が、4 月 29 日の検査でインフルエン
ザ A の H9 亜型陽性であったことを報告しました。同時に検査された RNP 遺伝子、インフル
エンザ A、鳥インフルエンザ AH9 亜型、インフルエンザ B の検査が陽性であり、他の全て
の呼吸器感染ウイルスの検査結果は陰性であったとのことです。疫学調査では、患者は生
きた鳥の市場での曝露があったとのことです。患者は軽快退院しています。今回の症例は
同国で今年に入って低病原性鳥インフルエンザ A(H9N2)の 3 例目になります。過去の 2 例
はアスワン県とカイロ県からの報告です。今回の症例は H9 と B が同時に陽性となった症
例です。同国では、過去 2014 年 1 月~5 月にかけて、H9N2 が家禽の間で流行しています。
5)米国とフランスにおける狂犬病曝露事例の報告です。
① 米国:20 日の地元誌によりますと、15 日午後に 2 匹の狂犬病のネコがフロリダ州パー
ムビーチ郡レイクワースロードのすぐ北のウッズウォーク大通りで車から投げ捨てられ、
住民に拾われた後、1 匹は逃亡したとの情報を得て捜索しています。ネコは動物管理局に
引き渡される前、6 人に噛みついたり引っ掻いたりし、その後治療を受けているとのこと
です。パームビーチ郡保健局は投げ捨てた飼い主が狂犬病に曝露されている可能性のあ
るため、手遅れになる前に治療開始するために飼い主を探しています。同保健局は、治
療が有効なのは暴露後 10 日以内とすると、すでに現在暴露後 7 日目であると、飼い主の
健康を憂慮し、近隣住民に動物にエサを与えたり不用意に触れたりしないように助言し
ています。狂犬病の潜伏期間は 3~8 週で、動物との接触後すぐに徴候は呈しませんが、
症状が出現すると手遅れになります。最善の予防策は動物に触れずに動物管理員を呼ぶ
ことです。病気のネコや他の動物を見た人は全て動物ケアセンターへ連絡するように呼
びかけています。
② フランス:22 日のイギリスの渡航医学情報のホームページによりますと、フランスの
ロワール県サン=テティエンヌの隣町のル・シャンボン=フジュロルで 7 日、イヌが狂
犬病を発症し 18 日に死亡したと報告がありました。狂犬病は 21 日、パスツール研究所
で同定されました。飼い主と隣人は発症後の犬に咬まれています。イヌと接触した人は 3
人と同定されています。イヌは狂犬病が流行している国から不法輸入されたものと考え
られています。狂犬病発症の発表後、追加調査が行われ、同地域で飼われているワクチ
ン未接種の動物(イヌやネコやフェレット)の行動制限を行っています。制限区域は、狂
犬病を発症したイヌがいた場所の周囲で行われています。
6)Lancet のオンライン版(2015 年 4 月 23 日)において、マラリアワクチン候補の 1 つで
ある RTS,S/AS01 に一定の発症予防効果があることを示す第Ⅲ相試験の結果が報告されま
した。アフリカのマラリア流行地域で出生した生後 6~12 週の乳児 6,537 人および 5~7
ヶ月の幼児 8,922 人を対象に実施した臨床試験で、初回接種から 18 ヶ月後に追加接種し
た群で 3~4 年間に 26~36%でマラリア発症(定義:血液中のマラリア原虫量 5,000/mm3
超および 37.5℃以上の発熱を伴う症状の発現)を予防できたとしています。また、重症
マラリアに対しては、
追加接種群の 5~17 ヶ月の乳幼児でのみ有効性が確認されました。
深刻な有害事象の発生率は全体的に有意差を認めませんでした。欧州医薬品庁(EMA)によ
る評価の結果、肯定的な見解が示されれば WHO が今年の 10 月に RTS,S/AS01 の使用を推
奨する可能性があるとしています。
神戸検疫所、関西空港検疫所、大阪検疫所