腎不全患者さんの栄養指導 第1回 栄養素別の注意点 「たんぱく質・エネルギー・塩分・カリウム」 奈良女子大学生活環境学部食物栄養学科 管理栄養士・未病専門指導師 特任准教授 熊代千鶴恵先生 熊代先生は管理栄養士として長く患者さんの栄養指導をしてこられました。食 事制限をしつつも出来るだけ楽しく食事を楽しめるようにと、分かりやすく、 実践的な食事の仕方についてお話して頂きました。 長い間私も食事の事に携わってきました。腎不全、今は慢性腎臓病と言われていますが、 その食事療法としては、腎不全の保存期と同じようにやられたらいいと思います。生涯に わたってやっていかないといけないことですし、その為には食べていけないものはなく、 食べる量あるいは食べ方を考える。そしてやっぱり楽しく、おいしく食べないと食事とし ての意味がないという風にいつも考えております。 その中で一番問題になるのが、みなさんご存知の通りたんぱく質とエネルギーの関係と いう事になろうかと思います。一応、低たんぱく食という事で外国の文献とか日本でもこ れまでやってきました。私も長いこと栄養相談をしておりまして、低たんぱく食がきっち りできた人の方が予後が良かった、という手ごたえも症例的に何例か持っておりますので、 現在も低たんぱく食という話でやらせて頂いています。 ■たんぱく質 「たんぱく質はどうしたらいいの?」 「低たんぱくにするにはどうするの?」というよう な事が問題になろうかと思います。たんぱく質というのを5つ覚えていただくんです。 「肉」 「魚」「卵」 「大豆製品」 「牛乳」。この5つをやりくりして、あとは普通に召し上がって頂 くということでお話しています。 この5つを考えたらこれは全部“おかず”になる所ですよね。卵も肉も魚も全部“おか ず”になる所。という事はここを抑える、制限する、つまりおかずの量を少なくするとい うことです。そこでストレスをかけないように、たんぱく質が少なくなった分を少なくな ったように見せない。そのために、今度は調理の工夫によって目の錯覚に訴えなさいとい うことをいつもお話しています。 1 つ目のポイントは、主食、主菜、副菜が一緒になったようなものを選ぶ。 例えば、カレーライス・お好み焼き・焼き飯とか色々考えられると思います。 2 つ目のポイントは、材料の切り方を変えて、かさを増やすこと。 材料は細かく切れば切るほど嵩が増えるので、それで目をごまかします。 3 つ目は数合わせをする。 みんなの一人前が自分の一人前と数が合うようにする。副食はたんぱく質ですからそ こを減らすとおかずの量が少なくなる。少なく見せないように数で合わせる。卵・肉・魚・ 大豆・牛乳以外の他のもので数を増やす。 例えばカレーライスのようなものであれば、中に肉がいくら入ってようがわからない。 カレーはカレーです。そうすると、家族同じ物を食べながら肉だけ自分がちょっとマイナ スすればいい。角切りの肉じゃなくて材料は細かくという事で、すき肉とかミンチ肉でカ レーライスをしてもこれはカレーですよね。 この自然界にある物で、たんぱく質が一番多いのがお肉かな。100g食べて大体20g 前 後、お魚がちょっと下がって 17~18gというところで、卵が 12~13gです。大豆製品、牛 乳と言う風にだんだん下がってきます。先生から何 g のたんぱく質の指示が出ているかで す。例えば 30gの指示の場合、それを全部肉で摂るとすれば 20g(100g 中)ですから 30g というたんぱく質の指示であれば、150g食べられるということですね。肉だけで言えばね、 色んな肉を合わせてですよ。 食品構成というのは全部入っています。お魚もそうですが。それを3回(朝・昼・晩)に分 けていく。メインになる副食のたんぱくを、今日はお肉にする、明日はお魚にする、前の 日は卵だった、その前はお豆腐だった、という風に(日ごとに)変えていくのも一つの方法で す。あるいは肉を 50g召し上がって、あと5gはお魚でちりめんを食べるとか、花かつお の様な軽いものにする。肉を食べたらいけないとか、魚を食べたらいけないとか聞いたり している人があるかもしれませんが、それはナンセンスです。食べてはいけないものは何 もありませんから。選ぶとすれば魚のたんぱく質の方が少しアミノ酸スコアとかが良くて いいと思いますけどね。 ■エネルギー たんぱく質を下げるとその分エネルギーが下がってきます。エネルギーが下がると少し しか摂らないたんぱく質が体の中で充分に燃えないというたんぱくの「異化作用」が起こ り、体からアンモニア臭がしてきます。それを抑える為には、たんぱく質を減らした分で 減ったエネルギーを最低限補ってやらないといけません。だから高エネルギー食という事 になります。炭水化物と脂質とたんぱく質を合わせてエネルギーですからね。 自然界にはたんぱく質がゼロでエネルギーだけあるというのは、砂糖と油しかないんで す。砂糖と油を無茶苦茶摂っていると血糖値や脂質異常に関係してきます。それに代わる ものとして、お米もでんぷん米というのがあります。でんぷんというのは片栗粉とかコー ンスターチとかそういうのを想像して頂いたらいいんですけども、粘りがあって悪く言え ば糊のような物になるんです。そういう物から作った「粉飴」というのが出回っています。 これを必ず足して頂く。調理する時にお砂糖に代わる調味料として、お水に溶いておいて、 あるいは振りかけるようにして使って頂くのがポイントです。 外食の時にたんぱく質だけを減らすことはできても、エネルギーを増やすことはなかな かできないですよね。それで一番いい方法としてはお茶、それからレモンティーなどに溶 かして飲むことです。でもレモンもカリウムが入ってくるじゃないか…、お茶もカリウム 多いじゃないか…とか言われますが、それは濃いお茶とか浸出液の場合で、薄いものであ ればカリウムを問題にするほどでもないし、レモンをちょっと絞ってもどうってことあり ません。 500mlあるいは 200mlのペットボトルに、50g~80g、100g近くまで溶けますから 粉飴をお砂糖代わりに溶いて、いつも持ち歩いて飲んでいただく。これを 500cc 飲めば、 50gの粉飴を溶かしていた場合、190kcal おおかた 200kcal のエネルギーを追加できるこ とになるわけですね。しょっちゅうこういう物を飲んでいただく。水分の事が問題になろ うかと思いますが、普通、慢性腎不全の保存期の時は水分の制限はよっぽど他のアクシデ ントがない限りかかっていませんから、沢山飲んで補充していただく。 二つ目は脂質食品です。これは油そのものももちろんですが、油の種類を選んでいただ くことが大切になります。バターとかラードとかヘッドとか動物性の油じゃなく植物性の 不飽和脂肪酸、要するに流れる油の方を使っていただいてエネルギーを上げる。あとは種 実類といってナッツ類とかゴマとかそういう物、これはたんぱく質やカリウムもちょっと 入ってきますが、そうたいして気になさるようなことではありません。低たんぱく療法が 守られていればカリウムは自ずと下がってきます。カルシウムやリンとかは、たんぱく質 にくっついていますからそうたいして気にするような事はないです。揚げるとか炒めると か、あるいはマヨネーズとかドレッシングにしてエネルギーを補給する。 もう一つは人工的なもので、「MCT」(ミディアムチェーントリグリセルド)というのが あるんです。これはエネルギーを上げるコツとして、デザートを作る時などにも使えます が、焼き飯の上にこういう物をパラパラとふると、油ですからあったかいうちに溶けて余 計カロリーアップになる。あるいはこういう物でマヨネーズやドレッシングを作る事もで きるというので今「MCT」というのがよく使われています。たんぱく質を減らした分は絶 対にエネルギーは足していただかないといけない。 ■塩分 1日に何g塩分を摂りなさいという指示が先生から出ますよね。それを朝昼晩に分ける と皆薄い味になってしまう。昼とか夜とか朝、1品じゃないですから3品お料理があって 3つに分けるともっと薄くなって何を食べているかわからなくなる。そうではなく、1点 豪華主義と言いますか、味に強弱をつけるという事をいつもお話しています。減塩の仕方 としてやり易いのは強弱をつけるということ。どれかに普通の味つけをして、あとの物は 控える。香辛料とか、あるいは何もつけなくても食べられる物を組み合わせることです。 それから材料は旬の物を選ぶ。これからさんまの時期です。そのまま海で泳いでる物は 海水に触れてますよね。食品成分では初めから入っている塩分は一応考えません。もちろ ん考えて言われる先生もありますけど、それは微々たる物なんですね。普通、私達がたん ぱく質 70gの食事をしても、その食品の中に詰まっている塩分は 1.5g~2gぐらいなんで すよ。さんまをそのまま買ってきて何もしないで焼いて、香辛料としてレモンとかすだち とか大根おろしでちょっと味をつける。そういう風に召し上がっていくとこの焼き魚は塩 分 0 で食べた事になる訳ですね。そうするとそれに組み合わせる煮物とかに充分味をつけ られる。おつゆなんかする場合であれば、よく汁を飲まないとか、汁物は避けた方がいい とか言われますけども、具とか中身はそのまま召し上がって、おすましの量あるいは味噌 の量を6分目か7分目に抑えるんです。 外食の時は自分で止めたらいいんです。そうすると量が少ないからお白湯で割ろうとし ますが、お白湯で割ったんでは薄くなってしまって満足度が全然ダメになりますね。だか ら濃い味で量を控えて食べていただく。大体汁物といったら 1.2%、1.2gの塩分が入ってい るのね。それを 60%、70%にすると 0.7 ぐらいまで下がりますよね。そういう食べ方で食 べていただく。おひたしなどと組み合わせた場合はそこにしっかり味をつけていただいて 味に強弱をつける。ただ外食の場合も全部召し上がるという時も気をつけて、ダーッと調 味料をかけてしまわない。ああいうものは美味しくする為にしっかり味がついてますから なるべくかけない。あるいは調味料をつけて食べる、そうするとつける量がわかりますし。 だから、材料を選ぶ。 二つ目は調理の方法を選ぶ。何もしないで焦げ目だけ少しつけて美味しそうにするのも 調理の方法になろうかと思います。 三つ目は食べ方ですよね。今言ったおつゆの食べ方とか、あるいはちょっとつけて食べ るとか、という事でいつも三つの方法をお話しています。それからお家で減塩するのには 「割だし醤油」と私は呼んでいるんですけど、お醤油と出汁、味醂又はお酒そういう風な 物を 1:1:1 に合わせる。これだけを合わせたものでお出汁をつけて食べたり、調理した りしますと塩分は3つ合わせて3分の1しか入ってこない。こういう物を作っておかれる。 もちろん売ってもいますから、そういう物も使っていただいてもいいんじゃないかと。現 に皆さん、そういう風にやっていただいています。 ■カリウム 皆さん方、低たんぱくよりもカリウムとすぐに言われる人が多いんですけど、低たんぱ く食にするとそれにつれてある程度カリウムも減ってきます。みんなが一番よく知ってる のはやっぱりゆがく、茹でる、その茹でたお汁を捨てる、ですね。 あるいは細かく切って表面積を多くする。お肉、テキ肉を1枚 100g茹でるのと、この 100gをちっちゃく切って茹でるのとでは、ちっちゃく切る方が表面積が多くなってカリウ ムの出る量が違ってきますね。だから、細かく切ってお水にさらすとかでやっていただく のが一番だと思います。 案外カリウムで気を付けないといけないのは、みなさん「果物は食べへん。 」とか言われ ます。たんぱく質 30~40gの腎不全であれば、少々お野菜を生で食べていただいても量に よりますが、そんなにカリウムが上がるものではないんです。が、干した果物は 10 倍ぐら いカリウムがあるんですよ。だから干し柿とかあるいはチップになって干したものとか、 そういうものは少し気をつけていただいた方がいいんじゃないかと思います。 カリウムを沢山含んでいる食品はどんな物か、ということも勉強していただきたいんで すが、野菜・果物・海藻・きのこ・こんにゃくっていうのが他の食品に比べるとカリウム を沢山含みます。カリウムの多いものは量を少なく食べればいいんですよ。だから食べて はいけない食品はないというのはそういうことです。カリウムの成分が多いものは減らす。 カリウムのない普通の物を沢山食べる。あるいは高いものはカリウムが減るような調理方 法にするという風に考えていただきたいと思います。 お茶・コーヒー・その他飲み物も色々ありますが、これは濃くすればするほどカリウム を摂っている事になります。お茶の葉を食べるとか言うんじゃないでしょ。お茶の浸出液 を飲むんですから、濃いほどカリウムが溶け出ているという事を念頭において下さい。 これから鍋物が多くなりますけども鍋物は全部カリウムが溶け出ますね。最後に雑炊に 絶対になります。雑炊とかお蕎麦入れたりとか何とか。それでは折角落としたカリウムを 摂っているという事で元の木阿弥になりますから重々気をつけて下さい。したらダメとい うわけではありませんが、そのお出汁を薄めるとか、お野菜を既にボイルしとくとか。た だボイルする時に電子レンジとか、焼くとか炒めるというのではあまりカリウムは落ちま せん。先に茹でておくと、落ちてくるカリウムも少ないという事になろうかと思います。 もう一つの注意は浸出液という事でコーヒーです。ドリップやら何やらで出す場合は浸 出液ですから薄くアメリカンにすればいいんですけども、インスタントを使われる場合は 豆その物を砕いてるという事を考えて、濃くすればするほど豆も全部食べていることにな りカリウムが多くなります。コーヒーの場合は出した物、要するにお水に溶け出た物がカ リウムという風に考えていただきたいと思います。
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