自 動 車 車載用高周波コネクタの開発 小 島 伸 昭・辻 良 次・澤 田 和 夫 小 出 隆 史・齋 藤 正 司・青 山 雅 彦 岡 田 肇 Development of a High-Frequency Connector for Vehicles ─ by Nobuaki Kojima, Yoshitsugu Tsuji, Kazuo Sawada, Takashi Koide, Masashi Saito, Masahiko Aoyama and Hajime Okada ─ In recent years, mobile communications centering on cellular telephones has grown rapidly. In the automotive field, the use of the global positioning system ( GPS ) , vehicle information communication system ( VICS ) and other similar systems is expanding. Collectively referred to as the intelligent transport system (ITS) and mainly using frequencies above 1 GHz, these systems have the primary purpose of facilitating the efficient utilization of automobiles and the infrastructure by the exchange of information between automobiles and the outside world. Antennas are an indispensable part of mobile communications. In the case of automobiles, the antenna and receiver must often be sited in separate locations. This restriction in turn makes the high-frequency connector that links the two devices a very important component. Sumitomo Electric has developed a high-frequency connector suitable for use in automobiles to meet this need, and the results are described in this report. なことは言うまでもないが,自動車特有としては図 1 に示 1. 緒 言 すようにアンテナと受信機が別の場所に置かれるケースが 多くそれを結ぶための高周波コネクタがもう1つのキーパ 近年,携帯電話を中心とした移動体通信が急速に普及し ーツである。 てきている。自動車分野においても GPS,VICS 等が普及 筆者らが所属する 1 オートネットワーク技術研究所で してきている。これらは ITS と総称され主に1 GHz 以上の は,住友電気工業 1 の無線通信技術グループより得た高周 電波を利用して自動車と自動車外との情報のやり取りを行 波コネクタの開発ポイントを把握して住友電装 1 の車載用 うことにより自動車およびインフラを効率よく活用するこ コネクタ技術をベースに,車載に適した高周波コネクタを とを主目的としている。移動体通信ではアンテナが不可欠 開発した。本論文では,この車載用高周波コネクタに関し 電波 電波 アンテナ FM, AM TV GPS 電話 1GHz未満 光ビーコン用アンテナ μ波用アンテナ 1GHz以上 FM, AMラジオ VICS用 ECU 携帯電話 TV ラジオ用アンプ TV用アンプ ナビ表示部 GPS 1.5GHz TEL 1.5GHz VICS 2.5GHz GPS用アンプ ナビECU CD-ROM 今後普及が予想されるシステム ETC デジタルTV 図 1 5.8GHz 2.5GHz付近 自動車の高周波システム 2 0 0 1 年 3 月 ・ SEI テクニカルレビュー ・ 第 158 号 −( 103 )− て報告する。 2. った。一方今回開発した高周波コネクタでは図 3(b)のよ うにコネクタを取り付ける筐体部分をフラットに設計する 課 題 ことができ,その分筐体内部の空間を多く取ることができ 高周波コネクタは高い周波数領域(DC:Direct Current ∼ 10 GHz)まで良好な高周波特性が得られるように加工精 る。 3— 2 基本構造 写真 1 に今回開発した車載用高周 度と形状自由度が両立可能となる切削加工により製造され 波コネクタの外観写真を示す。写真左側に金属ブラケット たコネクタが一般的である。しかし,これは一つ一つ部品 付オスコネクタを右側にメスコネクタを示す。内部には同 を切削して製造しなければならず非常に高価なコネクタで 軸線と接続された端子が入っており,図 4 にオス端子の構 ある 1)。 成部品を示す。メス端子もこれと同様の構造であるため省 一方,ハウジングを樹脂で製造し金属の板材を金型で折 略する。端子は内導体端子と外導体端子アセンブリーとし り曲げてつくるコネクタでは,大量生産に向いており比較 て各々リール材として加工メーカに供給する。外導体アセ 的安価であるが下記のような課題があった。 ンブリーは外導体端子の中に絶縁体がセットされており, q 同軸線とコネクタを接続する端末加工の工数大。 (自動化が難しい) w に外導体端子アセンブリーに同軸線を圧着した内導体端子 通常の車載用コネクタより長くなる。(スペースが 余分に要る) e 端末加工は先に同軸線の内導体に内導体端子を圧着し,次 を絶縁体に圧入し最後に外導体端子を圧着して端末加工が 終了する。表 1 に端末加工の工程を示す。ここでは,従来 使用周波数範囲は GHz 以下。 の端末加工メーカが既に所有している設備は流用し本コネ 端末加工性と高周波特性はトレードオフの関係にある。 従って,高い周波数まで高周波特性を良好に保つならば, 通常車載コネクタ 端末加工が難しくなる。本コネクタでは端末加工性と高周 波特性を両立させることを念頭において開発した。 3. 構 造 と 特 徴 3— 1 端末加工方法 端末加工方法の課題 q は同軸 線の構造自身に起因するため,課題 w が主で課題 q が従 として,課題 w のクリアを第1優先とした。図 2 に同軸 線と高周波コネクタを接続する概略図を示す。ここでは同 軸線の外導体と電気的に接続するワイヤーバレル,同軸線 従来高周波コネクタ 本開発高周波コネクタ ユニット ユニット空間増 ユニット (a)通常車載用コネクタより長い場合 図 3 (b)通常車載用コネクタと同じ長さの場合 高周波コネクタと筐体設計 の外被を固定するインシュレーションバレルの2つのバレ ルを順々に配置させる必要があるが,本車載用高周波コネ クタでは同軸線の外導体編組を外被の上に反転させて,こ れを一つのバレルで圧着することにより電気的接続と機械 的接続を同時に実現できるようにした。 これによりバレル一つ分の長さを短縮することができ, コネクタ全長を短くすることができた。今までの高周波コ ネクタでは図 3(a)に示すように通常の車載用コネクタよ りメス突出量が長いことによりユニット側では電線の出代 を同じに調整するように段差を付けた筐体設計が必要であ 写真 1 外被 外導体 絶縁体 インシュレーション-バレル 車載用高周波コネクタの外観 オス外導体端子 ワイヤーバレル 内導体 内導体端子 オス内導体端子 オス絶縁体 同軸線 絶縁体 オス外導体アセンブリー 外導体端子 図 2 同軸線と高周波コネクタの接続概略 −( 104 )− 車載用高周波コネクタの開発 図 4 オス端子の構成部品 クタ端末加工に必要な特殊設備のみを新規開発した。写真 2 妙に異なる同軸線の構成に対応可能としながら圧着金型の に開発した設備の外観写真を示す。 種類削減を実現した。 3— 3 特徴 以下に車載用高周波コネクタ関して端 ハウジング 図 5 に1極中継用コネクタのハウジングを示す。ハウジ 子,ハウジング他の個々の特徴を述べる。 a s ングにおける特徴は以下の3点である。 端子 表 1 の工程5に端末加工が完了したオス端子の形状を示 q リテーナの仮係止化 す。外導体端子は反転させた同軸線外導体編組が圧着した w ハウジングのインターロック構造 バレルからはみ出さないようにオープンバレルの先端が上 e 標準ブラケット取り付け可能 下に重なるようにオーバーラップする圧着構造とした。ま ハウジングにはリテーナが仮係止した状態で供給し端子 た,使用される同軸線種が多数ありこれに対応すべく内導 をハウジングに挿入しリテーナを本係止することによりハ 体端子,外導体端子のバレル部のみ形状が異なるサイズを ウジング内の端子を2重に係止出来る構造にした。また, 設定した。現在,内導体,外導体端子は各 S,M,L の3 コネクタの離脱が容易となるようにロックボタンを大きく 種類をラインナップしており表 2 に適用電線サイズと適用 しインターロック構造として操作性を向上させた。また, 端子サイズの相関を示す。 グランドが必要な場合は金属ブラケットをセットし不要な 特徴としてはオス,メス端子各々のバレル形状を統一し 場合は樹脂製の標準クランプが取りつけ可能な構造にし 同一圧着金型で端末加工可能とし表 2 の各サイズの範囲内 た。 では圧着金型の最下点を調整することによりメーカ毎に微 d PCB コネクタ 図 6 に PCB 用コネクタの構成を示す。タブ状の PCB 用 表 1 工程 1 内導体端子を絶縁体に圧入し,これを外導体シェルにセッ 端末加工工程 製品の形態 使用設備 調尺,切断 既存設備流用 2 シース剥ぎ&編組切断 既存設備流用 トし最後に PCB 用ハウジングに圧入することによりコネク タ組み立てが完了する構造とした。 f コネクタのバリエーション 今回開発した車載用高周波コネクタは今後普及すると思 われる車載アプリケーションに対応できるように各種ハウ 3 編組反転& 誘電体ストリップ 新規開発設備 ジングバリエーションを製品化した。表 3 にそのラインナ 4 内導体端子圧着 既存設備流用 ションの活用例を示す。ケース2,3の1+4極,2+1 5 内導体端子圧入& 外導体端子圧着 ップおよびその主な用途を示す。図 7 にこれらのバリエー オーバラップ圧着 w インターロック メスハウジング 新規開発設備 q オスリテーナ (仮係止状態) オスハウジング q メスリテーナ (仮係止状態) e ブラケット 図 5 (a)編組反転& 誘電体ストリップ 写真 2 表 2 (b)内導体端子圧入& 外導体端子圧着 1極中継用コネクタハウジング アセンブリー状態 部品の斜視図 端末加工装置 適用電線サイズと端子サイズ ハウジング (単位: mm) 端子サイズ 内導体端子適用外径 外導体端子適用外径 S φ 0‡16 ∼φ 0‡45 φ 0‡60 ∼φ 0‡90 M φ 0‡36 ∼φ 0‡60 φ 2‡90 ∼φ 3‡40 L φ 0‡60 ∼φ 0‡80 φ 4‡00 ∼φ 5‡00 外導体シェル 絶縁体 内導体端子 図 6 PCB コネクタの構成 2 0 0 1 年 3 月 ・ SEI テクニカルレビュー ・ 第 158 号 −( 105 )− 表 3 タイプ べる。 ハウジングバリエーション メス オス 主な用途 注a 中継用 中継用 PCB 用 1極 ○ ○ ○ GPS 1+4極 ○ ○ ○ TV 2+1極 ○ ○ ○ FM 3+6極 ○ ○ ○ 防水1極 ○ ○ × 極数 注a 図 8 にアンテナと高周波コネクタおよび信号の関係を示 すが高周波コネクタの役割としては高周波信号をロス無く 伝えることであり理想的には, 入力信号=通過信号…………………………………… a であるが実際には, 入力信号=反射信号+放射信号+通過信号………… s であり反射と放射が存在することにより 入力信号>通過信号となる。 1+4極=同軸1極+ AV 線4極 ○:製品有 ×:製品無 従って高周波特性を良好にしようとした場合この反射と 放射を極力低減する必要がある。図 9 に高周波コネクタの ナビ ECU GPSアンテナ ケース1 高周波特性改善におけるポイントを示す。VSWR(反射) は内外導体端子および絶縁体構造に起因し,放射,グラン 1極 ドは外導体端子構造に起因する。これらのポイントを踏ま GPSアンテナ えコネクタ各部位の高周波的な影響度を実験と理論計算に 1極 ケース2 TV ナビ ECU 一体機 TVセレクターアンプ ケース3 アンテナコード 2+1極 (メイン&サブ) より傾向を把握し,最終的には3 D 電磁界シミュレータを 利用して開発期間の短期化を図った。図 10 に本車載用高 周波コネクタの高周波特性の実測結果とそのシミュレーシ 1+4極 ラジオ ョン結果を示す。実測とシミュレーション結果がよく一致 しており,開発目標は VSWR(1‡5 GHz)< 1‡5 とし,量産 図 7 品で実力値 1‡3 を実現している。 アプリケーション例 表 4 ,表 5 に機械的性能と電気的性能を示す。各表に 記載の仕様はカーメーカが必要とする性能を表している 極はダイバーシティ 2)アンテナに対応しており複数のアン テナからの受信信号をセレクターやチューナに接続するた めにこれらのコネクタが必要とされる。また,1極は今後 反射 (VSWR) GPS 以外の広い用途に使われる可能性があり最大4タイプ コネクタ長を短く インピーダンス 整合 設定可能となる誤結防止構造を採用した。 コネクタの断面形状 絶縁体材質 4. εr:比誘電率 性 能 高周波コネクタの最も重要な性能として良好な高周波性 能を有することであるが,板材を折り曲げて製造するコネ クタでは板材に急峻に段差を付けることが難しくそのため 切り欠き形状を 小さく 放射 インダクタンス 低減 グランド インピーダンス整合が取りにくい。1 GHz 以上の高周波で グランドラインを太く グランドの接続を 確実にする はコネクタ長さが波長に近づくため,インピーダンス不整 合が大きくなり良好な高周波特性を得ることが難しくな 図 9 接続面積 高周波特性改善ポイント る。以下に高周波コネクタの高周波設計に関する概略を述 電 波 2.5 アンテナ 実測値 放射信号 =ノイズ 2.0 VSWR 入力信号 シミュレーション 1.5 受信機 1.0 高周波コネクタ 反射信号 図 8 1 2 Frequency(GHz) 通過信号 アンテナと高周波コネクタ −( 106 )− 車載用高周波コネクタの開発 0 3 VSWR : Voltage Standing Wave Ratio 図 10 高周波特性 表 4 機械的特性 項 目 5. 結 言 仕 様 実力値 1極 Max‡23 N 11‡5 N クタを開発した。このコネクタは高周波特性に重点を置き 1+4極 Max‡35 N 19‡4 N ながら生産技術的には半自動機対応可能を前提に 99 年から 2+1極 Max‡42 N 30‡5 N 量産開始した。端末加工設備はコネクタより先に端末加工 1‡5 C—2 V Min‡60 N 82‡4 N コネクタはトヨタ自動車 1 殿で採用され現在 10 万個∼ 20 1‡5 D—2 V Min‡60 N 96‡1 N 万個/月で推移しているが今後北米で販売される車にも採 外導体端子2次係止保持力 Min‡100 N 200 N 以上 ハウジング保持力 Min‡100 N 104‡3 N 今後は,本車載用高周波コネクタ開発により得られた技 ブラケット保持力 Min‡ 70 N 77‡9 N 術をより高周波に対応したコネクタや新規アプリケーショ コネクタ挿入力 車載に適した GPS 他の用途に満足する車載用高周波コネ 電線固着力 メーカに納入しスムーズな量産立ち上がりを実現した。本 ハウジング関連保持力 用される予定であり,その需要は順調に増加すると予想さ れる。 ンに応用し高周波関連部品を開発していく予定である。 表 5 電気的特性 項 目 仕 様 実力値 Max‡1‡5 1‡3 通過損失 Max‡0‡8 dB 0‡2 dB 遮蔽性能 Max‡− 23 dB − 29 dB 絶縁抵抗 Min‡100 MΩ 1000 MΩ以上 Max‡30 mΩ 3‡8 mΩ VSWR 参 考 文 献 a 高周波特性(1‡5 GHz) コネクタ最新技術 99 編集委員会,コネクタ最新技術 99,p. 251, 1 日本アドバンストテクノロジー,1999. s 荒井宏,自動車の電子システム,p. 142,理工学社,1995. 一般電気特性 接触抵抗(内導体端子) 執 筆 者 ────────────────────────── 小島 伸昭:1 オートネットワーク技術研究所 回路接続研究部 主任研究員 辻 良次:1 オートネットワーク技術研究所 回路接続研究部 室長 が,高周波性能に関しては今までカーメーカに適当な仕様が 澤田 和夫:1 オートネットワーク技術研究所 回路接続研究部 部長 無いため GPS の実力を考慮して決定した。今回開発した車 小出 隆史:住友電装 1 部品第1事業部 載用高周波コネクタはその仕様を十分満足する結果が得ら 齋藤 正司:住友電装 1 部品第1事業部 れている。 青山 雅彦:住友電装 1 部品第1事業部 課長職 岡田 肇:住友電装 1 部品第1事業部 グループ長 2 0 0 1 年 3 月 ・ SEI テクニカルレビュー ・ 第 158 号 −( 107 )−
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